(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056584
(43)【公開日】2025-04-08
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20250401BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250401BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20250401BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20250401BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20250401BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/30 A
C08F290/06
C08J7/00 302
C08J7/046 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166155
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 一裕
(72)【発明者】
【氏名】赤木 和人
【テーマコード(参考)】
4F006
4F073
4F100
4J127
【Fターム(参考)】
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4J127FA48
(57)【要約】
【課題】艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【解決手段】化粧シート1は、基材2と、基材2の表面2a上に設けられ、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを含有するエキシマ光照射物である表面層3とを備える。表面層3における2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの質量比が、2~10官能ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=20:80~80:20であり、多官能(メタ)アクリレートが6官能アクリレートを含有し、表面層3における2~10官能ウレタンアクリレートの含有量と単官能アクリレートの含有量との合計100質量部に対する6官能アクリレートの含有量が30質量部以上120質量部以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面上に設けられ、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを含有するエキシマ光照射物である表面層と
を備え、
前記表面層における前記2~10官能ウレタンアクリレートと前記単官能アクリレートとの質量比が、2~10官能ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=20:80~80:20であり、
前記多官能(メタ)アクリレートが6官能アクリレートを含有し、
前記表面層における前記2~10官能ウレタンアクリレートの含有量と前記単官能アクリレートの含有量との合計100質量部に対する前記6官能アクリレートの含有量が30質量部以上120質量部以下であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記多官能(メタ)アクリレートが、アクリル当量が160以下である前記6官能アクリレートを含有することを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記多官能(メタ)アクリレートにおける前記6官能アクリレートの含有量が65質量%以上100質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等の様々な用途において、表面装飾を施して意匠性を高めるために化粧シートが用いられている。この化粧シートとしては、例えば、基材上に低艶化(艶消し)効果を有する層が設けられたものが知られている。
【0003】
例えば、基材上に設けられた塗膜構成体の表面にエキシマランプから照射されたエキシマ光を照射することにより、塗膜構成体の表面における電磁波の照射部分の光沢を、電磁波の照射前よりも低減させた化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、艶消感の異なる領域を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の化粧シートにおいては、単に、エキシマ光を照射するに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、低光沢性が発現しにくいという問題があった。
【0006】
また、化粧シートにおいては、上述の低光沢性に加えて、耐擦傷性が要望されているが、耐擦傷性を改善するために硬度を上げる従来の配合では、硬化過程において表面が変形しにくく、低光沢性をもたらす皴形成が不十分であるため、低光沢性と耐擦傷性とを両立させることが困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の化粧シートは、基材と、基材の表面上に設けられ、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを含有するエキシマ光照射物である表面層とを備え、表面層における2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの質量比が、2~10官能ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=20:80~80:20であり、多官能(メタ)アクリレートが6官能アクリレートを含有し、表面層における2~10官能ウレタンアクリレートの含有量と単官能アクリレートの含有量との合計100質量部に対する6官能アクリレートの含有量が30質量部以上120質量部以下であることを特徴とする。
【0009】
なお、ここでいう「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれは、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートを示す断面図である。
【
図2】実施例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【
図3】比較例2の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の化粧シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0013】
<化粧シート>
図1に示すように、本発明の化粧シート1は、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた表面層3とを備えている。
【0014】
<基材>
基材2は、例えば、熱可塑性樹脂シートからなり、この熱可塑性樹脂シートとしては、化粧シート1における基材に通常用いられるものを使用できる。具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)シート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)シート、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シート、ポリオレフィンシート(ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)シート、ポリカーボネートシート等が挙げられる。樹脂は非再生樹脂、再生樹脂、バイオマス由来樹脂でも良く、それぞれ適宜混合して用いてもよい。なお、バイオマス由来樹脂素材とは、植物由来の化合物を原料として含む樹脂素材である。また、基材2に用いられる非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シートとしては、PETボトルなどを原料としたリサイクルポリエチレンテレフタレート(RPET)シート等が挙げられる。
【0015】
なお、熱可塑性樹脂シートとしては、二次曲面加工が容易であり、三次元成形性に優れるとの観点から、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。このグリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートは、ポリエチレンテレフタレートの一種であり、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分がエチレングリコールであるのに対し、グリコール成分として、エチレングリコールの他、エチレングリコール以外のジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール)が含まれている非結晶性ポリエステルである。
【0016】
また、熱可塑性樹脂シートは、延伸シートであってもよく、未延伸シートであってもよい。また、熱可塑性樹脂シートには、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、滑剤、充填剤等の添加剤が含有されていてもよい。また、熱可塑性樹脂シートは、意匠性の点から、着色されていることが好ましい。
【0017】
基材2の厚みは、特に限定されないが、50~800μmが好ましく、250~500μmがより好ましい。基材2の厚みが50μm以上であれば、機械強度と隠蔽性を十分に向上させることができる。また、基材2の厚みが800μm以下であれば、三次元成形性がより優れ、また、可撓性と印刷適性を確保し易くなる。
【0018】
<表面層>
表面層3は、活性エネルギー線(紫外線または電子線)の照射によって重合する活性エネルギー線硬化性樹脂により形成された層であり、ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと多官能(メタ)アクリレートを主成分とする活性エネルギー線硬化性樹脂(塗料)の塗膜である。
【0019】
この表面層3は、塗料を基材2の表面2a上に塗工し、硬化させることにより形成することができ、表面層3は、塗料硬化物により形成されている。また、
図1に示すように、表面層3の表面(すなわち、基材2側と反対側の表面)3aにはシワが形成されている。
【0020】
ウレタンアクリレートとしては、2~10官能のものが使用され、例えば、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、EBECRYL8402、KRM8452、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL4500、EBECRYL230、EBECRLY270、EBECRYL4858、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9270、EBECRYL4100、EBECRYL4666、EBECRYL4513、EBECRYL8311、EBECRYL8465、EBECRYL9260、EBECRYL8606、EBECRYL8701、KRM8452、KRM8667、EBECRYL4265、EBECRYL4587、EBECRYL4200、EBECRYL8210、EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL8254、EBECRYL8301R、KRM8191、KRM8200、KRM8904、U-6LPA、UV-3300B、UV-6640B、UV-6630B、UV-7510B、UA-1100H、U-200PA、及びUA-160TM(いずれも商品名)等の市販品を使用することができる。なお、これらのウレタンアクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、2~10官能ウレタンアクリレートの重量平均分子量(Mw)は、10000以下であることが好ましい。重量平均分子量が10000以下であれば、表面層3の柔軟性が高くなり過ぎず、平面や曲面に対する貼り合わせが容易になる。
【0022】
また、ここで言う「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定において得られたポリスチレン換算の重量平均分子量のことを言う。
【0023】
また、単官能アクリレートとしては、例えば、エチルカルビトールアクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、3-アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらの単官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、本発明の化粧シート1においては、表面層3における2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの配合比は、質量比で、2~10官能ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=20:80~80:20の範囲である。これは、ウレタンアクリレートは流動性が低いため、ウレタンアクリレートの質量比が大きくなると、表面層3の表面3aにシワが発生しにくくなり、艶消し効果による低光沢性が発現しにくくなるためである。また、単官能アクリレートは反応性が低いため、単官能アクリレートの質量比が大きくなると、塗料の硬化が生じにくくなるためである。
【0025】
また、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシカビスフェノールAジアクリレート、及びグリセリントリアクリレート等が挙げられる。また、EBECRYL140、EBECRYL145、EBECRYL150、IRR214K,EBECRYL130、EBECRYL160S、OTA480、PETIA、PETRA、EBECRYL40、PETA、EBECRYL140、EBECRL1140、EBECRYL1142、EBECRYL895、EBECRYL896、DPHA、KAYARAD DPCA-30、ADPH-12E、KAYARAD DPCA-120、TMPTA(いずれも商品名)等が挙げられる。なお、これらの多官能(メタ)アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、ここで言う「多官能(メタ)アクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基を2つ以上含有する(メタ)アクリル酸エステルの単量体のことを言う。
【0027】
ここで、本発明者らは、化粧シート1において、低光沢性と耐擦傷性を両立できる条件を検討したところ、上述の多官能(メタ)アクリレートとして、6管能アクリレートを含有するものを使用することにより、表面層3における低光沢性と耐擦傷性を両立できることを見出した。
【0028】
すなわち、多官能(メタ)アクリレートとして、6管能アクリレートを含有するものを使用することにより、樹脂の架橋密度が向上して、塗膜の硬度が向上することにより、塗膜が強靭となるため、結果として、表面層3における耐擦傷性を向上させることが可能になる。
【0029】
また、表面層における2~10官能ウレタンアクリレートの含有量と単官能アクリレートの含有量との合計100質量部に対する6官能アクリレートの含有量を30質量部以上120質量部以下とすることにより、表面層3において、低光沢性を維持した状態で、耐擦傷性を向上させることが可能になるため、表面層3における低光沢性と耐擦傷性を両立することが可能になる。
【0030】
なお、上述の6官能アクリレートの含有量が30質量部未満になると、耐擦傷性が低下する場合があり、6官能アクリレートの含有量が120質量部よりも多くなると、耐擦傷性は向上するものの、硬化過程おいて塗膜の表面が変形しにくく、低光沢性をもたらす皴形成が不十分になるため、艶消し効果による低光沢性に乏しくなる場合がある。また、6官能アクリレートの含有量が150質量部以上になると、艶消し効果による低光沢性が大幅に低下する。
【0031】
また、本発明の化粧シート1においては、多官能(メタ)アクリレートが、アクリル当量が160以下である6官能アクリレートを含有することが好ましい。アクリル当量が160以下である6官能アクリレートを含有することにより、樹脂の架橋密度がより一層向上し、塗膜の硬度をより一層向上させることができるため、表面層3における耐擦傷性をより一層向上させることができる。
【0032】
なお、ここで言う「アクリル当量」とは、6官能アクリレートの分子量をアクリル基の官能基数(すなわち、6)で除した値のことを言い、アクリル基1つあたりの分子量で示される。
【0033】
また、本発明の化粧シート1においては、多官能(メタ)アクリレートにおける(すなわち、多官能(メタ)アクリレート100質量%に対する)6官能アクリレートの含有量が65質量%以上100質量%以下であることが好ましい。6官能アクリレートの含有量が65質量%以上100質量%以下であれば、6官能アクリレートの含有量が十分になるため、表面層3における耐擦傷性を確実に向上させることができる。
【0034】
また、表面層3の厚みは、特に限定されないが、1~10μmが好ましい。表面層3の厚みが10μm以上の場合は、表面層3の表面3aにおける表面粗さが大きくなるため、耐指紋性が向上する反面、触感性が低下する場合があるためである。また、耐擦傷性を向上させるとの観点から、表面層3の厚みは3~8μmがより好ましい。
【0035】
また、塗料は、発明の効果を損なわない範囲で、上述のウレタンアクリレート、単官能アクリレート、及び多官能(メタ)アクリレート以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、光重合開始剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤等が挙げられる。
【0036】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、及びカチオン系等の開始剤を使用することができる。
【0037】
<製造方法>
本発明の化粧シート1を製造する際には、まず、例えば、上述の熱可塑性樹脂シートからなる基材2を準備する。この熱可塑性樹脂シートは、市販のものを用いてもよく、カレンダー法、押出成形法等の公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
【0038】
次に、基材2の表面2a上に、メチルエチルケトン等の溶剤に、例えば、ウレタンアクリレート、単官能アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤が添加された塗料を塗布し、基材2の表面2a上に表面層3となる塗膜を形成する。
【0039】
なお、単官能アクリレートが含有されたウレタンアクリレートを使用する場合は、別途、単官能アクリレートの使用を省略することができる。
【0040】
また、塗料の塗工方法としては、特に限定されず、例えば、キャスト塗工法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールナイフコート法、リバースロールコート法、ロールコート法、及びコンマコート法等が挙げられる。
【0041】
次に、基材2の表面2a上に形成された塗膜にエキシマ光を照射する。より具体的には、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射する。
【0042】
なお、エキシマランプを用いてエキシマ光を照射する場合、エキシマランプに充填されている放電ガスを変更することにより、電磁波のピーク波長を変化させることができる。上記ピーク波長のエキシマ光を照射する放電ガスとしては、例えば、Ar2、Kr2、Xe2等を用いることができる。
【0043】
そして、紫外線(350~450nm)を照射して塗膜を硬化させることにより、
図1に示す、基材2の表面上に表面層3が形成され、表面層3の表面3aにシワが形成された化粧シート1が製造される。
【0044】
なお、上記紫外線(350~450nm)の代わりに、再度、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射しても、塗膜は完全に硬化しない。
【0045】
そして、塗膜に上述のエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における光沢度を制御することが可能になる。
【0046】
また、本発明の化粧シート1は、上述のシワによる艶消し効果により、表面層3の表面3aの光沢度が5以下となるため、低光沢性を図ることが可能になる。
【0047】
なお、低光沢性を向上させるとの観点から、表面層3の表面3aの光沢度は、2以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。
【0048】
また、ここで言う「光沢度」とは、低艶性の指標であり、JIS Z 8741:1997に準拠した方法で測定される60°光沢度のことを言い、化粧シート1の測定面(表面層3の表面3a)に対して、60°の入射角で光を入射させ、その反射角の方向に設置した光検出器による測定の結果に基づいて算出される光沢度のことを言う。
【0049】
また、本発明の化粧シート1においては、多官能(メタ)アクリレートが6管能アクリレートを含有するため、表面層3における耐擦傷性を向上させることができる。
【0050】
以上に説明したように、本発明においては、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【0051】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
【0052】
上記実施形態においては、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた表面層3とを備える構成としたが、本発明の効果を損なわない範囲において、各種機能を付与するための機能層を備える構成としてもよい。機能層としては、例えば、艶消し効果を向上させるための艶消し塗膜層や意匠性を付与するための印刷層などが挙げられる。
【0053】
例えば、基材2と表面層3との間に艶消し塗膜層を設け、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた艶消し塗膜層と、艶消し塗膜層の表面上に設けられた表面層3とを備え、基材/艶消し塗膜層/表面層の順に積層された3層構造を有する化粧シートとしてもよい。このような構成により、化粧シート1の艶消し効果を向上させることができる。
【0054】
なお、艶消し塗膜層を形成する材料としては、例えば、シリカ粒子を有するアクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を使用することができる。
【0055】
また、基材2と表面層3との間に印刷層を設け、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた印刷層と、印刷層の表面上に設けられた表面層3とを備え、基材/印刷層/表面層の順に積層された3層構造を有する化粧シートとしてもよい。このような構成により、化粧シート1の艶消し効果を有するとともに、意匠性を付与することが可能になる。
【0056】
また、基材2と表面層3との間に印刷層と透明樹脂層を設け、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた印刷層と、印刷層の表面上に設けられた透明樹脂層と、透明樹脂層の表面上に設けられた表面層3とを備え、基材/印刷層/透明樹脂層/表面層の順に積層された4層構造を有する化粧シートとしてもよい。このような構成により、化粧シート1の艶消し効果を有するとともに、意匠性を付与することが可能になる。
【0057】
また、基材2と表面層3との間に印刷層と艶消し塗膜層を設け、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた印刷層と、印刷層の表面上に設けられた艶消し塗膜層と、艶消し塗膜層の表面上に設けられた表面層3とを備え、基材/印刷層/艶消し塗膜層/表面層の順に積層された4層構造を有する化粧シートとしてもよい。このような構成により、化粧シート1の艶消し効果を向上させることができるとともに、意匠性を付与することが可能になる。
【0058】
なお、印刷層を形成する材料としては、例えば、バインダ樹脂と着色剤等を使用することができる。
【0059】
バインダ樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0060】
着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、クロムバーミリオン、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダンスレンブルー、イソインドリノンイエロー、ベンジルジンイエロー、キナクリドンレッド、ポリアゾレッド、ベリレンレッド、アニリンブラック等の有機顔料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔粉等の真珠光沢(パール)顔料が挙げられる。なお、これらの着色剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
また印刷層には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤等を使用することができる。
【0062】
また、上述の4層構造において、印刷層と艶消し塗膜層との間に透明樹脂層を設け、基材/印刷層/透明樹脂層/艶消し塗膜層/表面層の順に積層された5層構造を有する化粧シートとしてもよい。
【0063】
透明樹脂層を形成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を使用することができる。
【0064】
また、上述の基材、機能層、透明樹脂層、及び表面層の各層間には、層間の密着性を向上させるとの観点から、適宜、プライマー層を設けてもよい。プライマー層を形成するプライマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂等を使用することができる。
【実施例0065】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0066】
化粧シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ウレタンアクリレート-1:2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:13000、三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-3300B)
(2)ウレタンアクリレート-2:2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:5000、三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-6640B)
(3)ウレタンアクリレート-3:2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:3000、三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-6630B)
(4)ウレタンアクリレート-4:2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量:1100、ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:KRM8191)
(5)単官能アクリレート-1:テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:Tetrahydrofurfuryl Acrylate)
(6)多官能(メタ)アクリレート-1:6官能アクリレート(アクリル当量:87、分子量:520、ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA))
(7)多官能(メタ)アクリレート-2:6官能アクリレート(アクリル当量:153、分子量:920、日本化薬(株)製、商品名:カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPCA-30))
(8)多官能(メタ)アクリレート-3:6官能アクリレート(アクリル当量:184、分子量:1106、新中村化学工業(株)製、商品名:エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ADPH-12E))
(9)多官能(メタ)アクリレート-4:6官能アクリレート(アクリル当量:292、分子量:1754、日本化薬(株)製、商品名:カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPCA-120))
(10)多官能(メタ)アクリレート-5:4官能アクリレート(アクリル当量:117、分子量:466、ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(EBECRYL140))
(11)多官能(メタ)アクリレート-6:3官能アクリレート(アクリル当量:95、分子量:286、ダイセル・オルネクス製、商品名:トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA))
(12)開始剤:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins B.V.製、商品名:Omnirad1173)
【0067】
(実施例1)
<化粧シートの作製>
まず、基材として、厚みが200μmであるポリエステル系樹脂フィルムを準備した。次に、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の塗料を準備し、この塗料を、バーコーターを用いて基材の表面上に塗布して、基材の表面上に表面層となる塗膜を形成した。
【0068】
次に、上述の塗膜を、熱風乾燥機を用いて、50℃の温度で、20秒間、乾燥させた。
【0069】
次に、エキシマ照射装置(ウシオ電機(株)製、商品名:172nm Ligth Emission Unit、型式:SUS1000)を用いて、窒素雰囲気下において、Xe2を放電ガスとして用いたエキシマ光(ピーク波長:172nm)を塗膜に照射した。なお、積算光量が11mJ/cm2、照射光度が25mW/cm2となるように照射した。
【0070】
そして、紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、紫外硬化用高圧水銀ランプ4kW(ECS-401GX))を用いて、塗膜に紫外線(主波長:365nm)を照射して、塗膜を光硬化させることにより、基材の表面上に表面層を形成し、化粧シートを作製した。なお、紫外線の照射距離が15cm、ランプ移動速度が7.8m/分の条件下で紫外線照射(照度:170mW/cm2)を行い、照射量(積算光量)を200mJ/cm2とした。
【0071】
また、本実施例における多官能(メタ)アクリレートのアクリル当量と、各配合における多官能(メタ)アクリレートのアクリル当量の平均値を表1に示す。
【0072】
なお、本実施例においては、多官能(メタ)アクリレートのアクリル等量は、アクリル等量=分子量/官能基数で求められ、例えば、多官能(メタ)アクリレート―1のアクリル等量は、520/6=87となり、多官能(メタ)アクリル等量の平均は、多官能(メタ)アクリレート-1(アクリル当量:87)を34質量部含有し、多官能(メタ)アクリレート-3(アクリル当量:184)を17質量部含有するため、多官能(メタ)アクリレートのアクリル当量は、[(87×34)+(184×17)]/(34+17)=119となる。
【0073】
また、表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を
図2に示す。
図2に示すように、本実施例の化粧シートにおいては、表面層の表面に多数のシワが形成されていることが分かる。
【0074】
<厚みの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層(塗膜)の厚みを、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、商品名:VHX-5000)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-4800)を用いて測定した。
【0075】
より具体的には、シートを割断することにより断面を露出させ、デジタルマイクロスコープ(測定倍率:500倍)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(測定倍率:1000倍)で断面を観察した際の、塗膜高さの高い部分と低い部分を5か所選択して、厚みを測定し、平均値を算出した。なお、上記測定を3回行い、3回分の塗膜高さの平均値を算出し、表面層の厚みとした。以上の結果を表1に示す。
【0076】
<光沢度の測定>
次に、作製した化粧シートの表面層の表面における60°光沢度を、JIS Z 8741:1997に準拠して、光沢計((株)堀場製作所製、商品名:グロスチェッカーIG-320)を用いて測定した。なお、上記測定を3回行い、3回分の光沢度の平均値を算出し、表面層における表面の光沢度とした。以上の結果を表1に示す。
【0077】
<耐擦傷性(耐スクラッチ性)の評価>
次に、作製した化粧シートをアルミ板に貼り付けて、サンプルを用意し、スクラッチテスター(TABER INDUSTRIES社製、商品名:Model502)を用いて、化粧シートの表面層に対してスクラッチテスターのダイヤモンド針(針端半径:3mil)を90°の角度にして、所定の荷重をかけ、スクラッチ速度が1mm/sec、スクラッチ距離が5mmの条件にてスクラッチ試験を行った。なお、荷重は1.5g~36.5gまで3.5g刻みとした。そして、スクラッチ試験後の化粧シートの表面層の状態をマイクロスコープ(キーエンス社製、商品名:VHX-8000、測定倍率:100倍)により観察し、化粧シートの表面層に傷が確認された荷重値(傷が生じる最小荷重値)を記録し、以下の評価基準に基づいて、耐擦傷性の評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0078】
化粧シートの表面層において、傷が見え始める荷重が8.5g以上である:〇
化粧シートの表面層において、傷が見え始める荷重が8.5g未満である:×
【0079】
(実施例2~16、比較例1~3)
塗料成分の組成を表1~3に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0080】
そして、上述の実施例1と同様にして、多官能(メタ)アクリレートのアクリル当量の算出、厚みの測定、光沢度の測定、及び耐擦傷性(耐スクラッチ性)の評価を行った。以上の結果を表1~表3に示す。
【0081】
また、比較例2の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を
図3に示す。
図3に示すように、比較例2の化粧シートは、十分な艶消し効果が得られておらず、また、不均一な凹凸が形成されており、美観(意匠性)が低下していることが分かる。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
表1に示すように、表面層における2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの質量比が、2~10官能ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=20:80~80:20であり、多官能(メタ)アクリレートが6官能アクリレートを含有し、表面層における2~10官能ウレタンアクリレートの含有量と単官能アクリレートの含有量との合計100質量部に対する6官能アクリレートの含有量が30質量部以上120質量部以下である実施例1~16の化粧シートにおいては、表面層において、低光沢性を維持した状態で耐擦傷性を向上させることができ、低光沢性と耐擦傷性に優れた化粧シートを得ることができることが分かる。