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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005669
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105937
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 貴明
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA31
2H033BA32
2H033BA57
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB19
2H033BB22
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB39
2H033BE03
2H033BE06
(57)【要約】
【課題】 導電層の電気抵抗の上昇を抑えられる定着装置を提供する。
【解決手段】 フィルムの幅をF、導電層の幅をC、二つの規制面の間の距離をR、加圧部材の幅をDとすると、D>R+C-Fの関係を満す。
【選択図】 図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、前記基層よりも低抵抗である導電層を有する筒状のフィルムと、
前記フィルムの内部空間に配置されており、回転する前記フィルムが摺接する被摺接部材と、
前記フィルムの外周面に接触する加圧部材であって、前記被摺接部材と共に前記フィルムを挟んで前記フィルムと前記加圧部材の間に定着ニップ部を形成する加圧部材と、
前記フィルムが前記フィルムの長手方向へ移動した時に前記長手方向への前記フィルムの移動を規制する規制面を有する規制部材と、
を有し、
前記導電層に周回方向の電流を流して前記導電層をジュール発熱させ、この熱によって前記定着ニップ部で挟持搬送される記録材を加熱することにより、記録材に形成されたトナー像を記録材に定着する定着装置において、
前記規制部材は、前記長手方向における前記フィルムの両端面と対向する位置に夫々配置されており、
前記長手方向に関して、前記周回方向の電流が流れる前記導電層は前記フィルムの両端部領域には設けられておらず、前記両端部領域の間の領域に設けられており、
前記長手方向に関して、前記フィルムの幅をF、前記導電層の幅をC、二つの前記規制面の間の距離をR、前記加圧部材の幅をDとすると、
D>R+C-F
の関係を満すことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記長手方向に関して、記録材に形成されるトナー像の最大幅をTとすると、
T<C+F-R
の関係を満すことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
D<F×2-R
の関係を満すことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着装置は更に、前記フィルムの内部空間に配置されており、螺旋軸が前記長手方向に略平行となる螺旋形状部を有する励磁コイルと、前記螺旋形状部の内部に配置されている有端形状の磁性コアと、を有し、前記励磁コイルに交番電圧を印加することによって前記導電層に誘導電流を発生させることを特徴とする請求項1~3いずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記誘導電流は、前記フィルムの回転方向に流れることを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機や電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載する定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタ等に搭載される定着装置の一形態として、導電層を有する筒状のフィルム(ベルトとも言う)を用い、導電層に電流を流すことでフィルム自体がジュール発熱する定着装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
フィルムを用いた定着装置は、フィルムの長手方向におけるフィルムの移動(寄り移動)を規制する規制部材を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-26267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
規制部材によって寄り移動を規制する構成を採用した場合、規制部材がフィルムの端面を受け止めている状態でフィルム寄り力が更に強くなると、フィルムがダメージを受けることもある。フィルムに電流が流れてフィルム自体が発熱する定着装置において、電流が流れる位置でダメージを受けると電気抵抗が上昇して発熱不良や異常発熱を招く可能性も考えられる。
【0006】
本発明は、導電層の電気抵抗の上昇を抑えられる定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための本発明は、基層と、前記基層よりも低抵抗である導電層を有する筒状のフィルムと、前記フィルムの内部空間に配置されており、回転する前記フィルムが摺接する被摺接部材と、前記フィルムの外周面に接触する加圧部材であって、前記被摺接部材と共に前記フィルムを挟んで前記フィルムと前記加圧部材の間に定着ニップ部を形成する加圧部材と、前記フィルムが前記フィルムの長手方向へ移動した時に前記長手方向への前記フィルムの移動を規制する規制面を有する規制部材と、を有し、前記導電層に周回方向の電流を流して前記導電層をジュール発熱させ、この熱によって前記定着ニップ部で挟持搬送される記録材を加熱することにより、記録材に形成されたトナー像を記録材に定着する定着装置において、前記規制部材は、前記長手方向における前記フィルムの両端面と対向する位置に夫々配置されており、前記長手方向に関して、前記周回方向の電流が流れる前記導電層は前記フィルムの両端部領域には設けられておらず、前記両端部領域の間の領域に設けられており、前記長手方向に関して、前記フィルムの幅をF、前記導電層の幅をC、二つの前記規制面の間の距離をR、前記加圧部材の幅をDとすると、D>R+C-Fの関係を満すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電層の電気抵抗の上昇を抑えられる定着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の概略構成を示す断面図
図2】定着装置の断面図
図3】定着装置の正面図
図4】フィルムユニットの分解斜視図
図5】フィルムの断面構成図
図6】磁性コア及び励磁コイルの斜視図
図7】交番磁界、及び誘導電流の一部を示した図
図8】フランジの構造説明図
図9】フィルム寄りが発生した状態の模式図
図10】導電層の一部分が抵抗上昇した場合の誘導電流の模式図
図11】実施例1におけるフィルム寄り状態を説明する模式図
図12】比較例1におけるフィルム寄り状態を説明する模式図
図13】比較例2におけるフィルム寄り状態を説明する模式図
図14】比較例3におけるフィルム寄り状態を説明する模式図
図15】比較例4におけるフィルム寄り状態を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施例1)
図1は、電子写真技術を用いて記録材Pにトナー像を形成する画像形成装置としてのレーザービームプリンタ1(以下、プリンタ1と記す)の概略構成を示す断面図である。レターサイズ(幅215.9mm)の記録材Pにも対応したA4プリンタである。
【0011】
プリンタ1は、像担持体である感光ドラム2、感光ドラム2の表面を略均一に帯電する帯電手段3、画像情報に応じたレーザビームで感光ドラム2を走査し感光ドラム2に静電潜像を形成するスキャナユニット4を有する。更に、静電潜像をトナーで現像する現像手段5、感光ドラム2上のトナー像を記録材Pに転写する転写部材6、記録材Pに転写されずに感光ドラム2上に残留したトナーをクリーニングするクリーニング手段7が設けられている。更に、記録材Pに転写されたトナー像を記録材Pに定着する定着装置Aを有する。定着装置Aに関しては後で詳細に説明する。
【0012】
プリンタ1の下部には、紙等の記録材Pを収容するカセット8が装着されている。カセット8に収容された記録材Pは、ローラ9で1枚ずつ給紙される。給紙された記録材Pは、搬送ローラ10、11、30、転写部材6、定着装置A等によって搬送され、図1に示す点線の経路を辿って、最終的には排紙トレイ31へと排出される。
【0013】
次に定着装置A(定着部)について詳細に説明する。図2は定着装置Aの断面図、図3は定着装置Aの正面図、図4はフィルムユニット50の分解斜視図である。ここで、定着装置Aの正面は、定着装置Aの記録材Pの入口側であり、背面は定着装置Aの記録材Pの出口側である。そして、左とは定着装置Aを正面から見て(即ち図3において)左、右とは正面から見て右である。定着装置Aは電磁誘導加熱方式の定着装置である。定着装置Aは、大別してフィルムユニット50と、加圧部材としての加圧ローラ15と、これらを収容しているシャーシ60を有する。
【0014】
フィルムユニット50は、筒状のフィルム13と、フィルム13の内部空間に配置されており、回転するフィルム13が摺接する被摺接部材14と、被摺接部材14を保持するホルダ17と、定着装置Aの剛性を確保するための金属製のステイ16を有する。更に、フィルム13の内部空間に配置されており、螺旋軸がフィルム13の長手方向に略平行となる螺旋形状部を有する励磁コイル19と、螺旋形状部の内部に配置されている有端形状の磁性コア18を有する。更に、フィルム13の内面に接触し、フィルム13の温度を検知する温度センサ20と、フィルム13の長手方向におけるステイ16の両端に配置されるフランジ40(規制部材)を有する。フランジ40は、フィルム13がフィルム13の長手方向へ移動した時にフィルム13の長手方向へのフィルム13の移動を規制する規制面を有する。
【0015】
被摺接部材14、ステイ16、ホルダ17は何れもフィルム13の幅(左右方向長さ)よりも長い部材であり、左側と右側がそれぞれフィルム13の両端部からフィルム13の外に突出している。そして、ステイ16の左側の突出部16aLに対してフランジ40Lが、右側の突出部16aRに対してフランジ40Rが嵌合している。即ち、フランジ40L、40Rは、フィルム13の長手方向におけるフィルム13の両端面と対向する位置に夫々配置されている。
【0016】
次にフィルム13について説明する。図5はフィルム13の長手方向におけるフィルム13の中央部の断面構成図であり、基層13a、導電層13b、保護層13c、離型層13dを有する。フィルム13は誘導起電力によって、電気抵抗が低い導電層13bに誘導電流が流れて導電層13bがジュール発熱する。基層13aは、誘導電流が流れる導電層13bとフィルム13の内部空間に配置された部材との絶縁性を確保する為、導電層13bよりも抵抗値が高い材質が望ましい。また、基層13aには耐熱性も要求される。このため、基層13aの材質は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES等の絶縁性耐熱樹脂が好ましい。本実施例の基層13aのサイズは、内径が30mm、幅Fが240mm、厚み約40μmであり、材質はポリイミドである。
【0017】
導電層13bは基層13a及び保護層13cよりも電気抵抗が低い抵抗発熱体である。材質としては、鉄、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、クロム、タングステン、これらを含むSUS304(ステンレス)やニクロム等の体積抵抗率が低い金属が好ましい。体積抵抗率が低いならば、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やカーボンナノチューブ等の導電体でも良い。導電層13bを形成する方法としては、コート、メッキ、スパッタリング、蒸着等の手段がある。本実施例の導電層13bは、電気メッキ法で銅を約2μmの厚みで形成した。導電層13bの幅(左右方向長さ)は、プリンタ1で使用可能な最大サイズの記録材Pよりも長く、基層13aの幅より短い。本実施例では導電層13bの幅Cが224mmとなるよう、基層13aの両端部を夫々8mmマスキングして電気メッキする事で基層13aの上に導電層13bを形成した。なお、フィルム13の両端部の領域には導電層13bがないので、この両端部の領域におけるフィルム13の断面は、図5から導電層13bを除いた断面になる。
【0018】
保護層13cは、銅で形成された導電層13bが酸化等による劣化を防止する目的で設けられている。保護層13cも基層13a同様な理由で導電層13bよりも抵抗が高い方が望ましく、絶縁性耐熱樹脂が好ましい。本実施例の保護層13cは、厚み約20μmのポリイミドである。
【0019】
離型層13dの材質は、PFA、PTFE、FEP等の離型性かつ耐熱性のよい材料が好ましい。本実施例の離型層13dは、厚み約15μmのPFAチューブである。離型層13dと保護層13cとの間には、スポンジやゴム等の弾性層を設けてもよい。弾性層を設けると記録材Pの表面の凹凸にフィルム13の表面が追従しやすくなってトナー像への密着性が向上する。その結果、トナー像への加熱ムラが減少して光沢ムラの少ない良好な画像が得られる。また、各層間の接着性を強化する目的で、各層間にプライマー層を設けてもよい。
【0020】
次に被摺接部材14について説明する。被摺接部材14はフィルム13の内面との摺動性に優れ、耐熱性を有する事が要求される。本実施例の被摺接部材14は、フィルム13が摺接する面に表層を設けた基材で構成される。基材には耐熱性に優れたポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES等の耐熱樹脂や、アルミニウムや鉄等の金属が好ましい。本実施例では基材として厚さ0.8mmの純アルミニウムを用いた。表層は、フィルム13の内面との摺動抵抗が低く、耐熱性及び耐磨耗性に優れた厚み約30μmのPTFEコーティングである。また、被摺接部材14とフィルム13との摺動抵抗を更に下げる為、両者の間には耐熱性の潤滑剤も介在させている。潤滑剤とてしてはフッ素系、シリコーン系のグリースやオイルが好ましい。本実施例の潤滑剤は、フッ素オイルをベースに増稠剤としてPTFEを用いたフッ素グリースである。
【0021】
次にガイド部材17について説明する。ガイド部材17は耐熱樹脂によって形成された部材であり、被摺接部材14を支持すると共に、フィルム13の回転をガイドする機能を有する。ガイド部材17の下面にはフィルム13の長手方向に沿って溝部が形成されており、被摺接部材14は、その溝部に、フィルム13との摺接面側を外側にして嵌め込まれて支持されている。ガイド部材17の材料として、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂が好ましく、本実施例では液晶ポリマーで形成してある。
【0022】
次に磁束発生手段について説明する。断面がコの字形状であるステイ16の内部空間には、磁束発生手段である磁性コア18及び励磁コイル19が設けられている。図6は磁性コア18及び励磁コイル19の斜視図であり、励磁コイル19は磁性コア18の外周に螺旋状に巻かれている。磁性コア18は円柱形状で且つ有端形状であり、フィルム13のラジアル方向においてフィルム13のほぼ中央に配置されている。磁性コア18は、励磁コイル19にて生成された交番磁界の磁力線(磁束)を誘導し、磁力線の通路(磁路)を形成する役割がある。この磁性コア18の材質は、鉄損(ヒステリシス損及び渦電流損)が小さく比透磁率の高い材料、例えば、焼成フェライト、フェライト樹脂等の高透磁率の強磁性体が好ましい。磁性コア18の断面形状は、フィルム13の内部空間に収納可能な形状であれば良く、断面積ができるだけ大きくできる形状が好ましい。断面が円形状である必要はないものの、磁性コア18に励磁コイル19を巻く際、線材の流さは短い方が銅損(コイル電流ジュール損)を小さくできるので、なるべく円形に近い方が好ましい。本実施例の磁性コア18の直径は10mmとし、長さ245mmのフェライトとした。励磁コイル19は、耐熱性のポリアミドイミドで被覆した直径1~2mmの銅線材(単一導線)を磁性コア18に螺旋状に巻いて形成した。巻き数は18である。励磁コイル19は、その螺旋軸が磁性コア18の軸方向と平行な方向である。この励磁コイル19に高周波電流を流すと、後述する原理で導電層13bに誘導電流が流れて導電層13bが発熱する。このように、定着装置Aは、フィルム13の内部空間に配置されており、螺旋軸が長手方向に略平行となる螺旋形状部を有する励磁コイル19と、螺旋形状部の内部に配置されている有端形状の磁性コア18を有する。そして、励磁コイル19に交番電圧を印加することによって導電層13bに誘導電流を発生させる。
【0023】
ここで本実施例の定着装置Aにおける誘導発熱の原理について説明する。図7は、励磁コイル19に対して、矢印I1の向きに流れる電流が増加している瞬間を示す概念図である。定着装置Aは、励磁コイル19に高周波電流を流すと、磁性コア18の一端から出た磁束の殆ど(90%以上)がフィルム13の外を通過し、磁性コア18の他端に戻るという磁界を形成する。図7中のSは導電層13bに流れる誘導電流(周回電流)の一部を示したもので、このような磁界が形成されると、矢印I2の向きに誘導電流が流れる。
【0024】
次に温度検知手段について説明する。先に説明した原理でフィルム13の導電層13bが発熱するので、温度検知手段としてフィルム13自体の温度を直接検知する構成が望ましい。そこで、図2に示すように、温度検知手段である温度センサ20は、フィルム13の内面に当接している。温度センサ20は、一端がステイ16に固定されている板バネ20aと、この板バネ20aの他端に設置されたサーミスタ(温度検知素子)20bと、板バネ20aとサーミスタ20bの間に介在するスポンジ20cから構成される。サーミスタ20bの表面は、フィルム13の内面との摺動性及び電気絶縁性を確保する為に厚み50μmのポリイミドテープ(不図示)で覆われている。スポンジ20cはサーミスタ20bに対して断熱材として機能するとともに、サーミスタ20bを測定対象であるフィルム13に対して柔軟にフィットさせる機能も有する。
【0025】
次にフランジ40について説明する。フランジ40L、40Rは、フィルム13の長手方向におけるフィルム13の両端面と対向する位置に夫々配置されている。フランジ40Lとフランジ40Rは、左右対称形状であり、耐熱樹脂製のモールド成形品である。
【0026】
図8(a)、(b)、(c)は、フランジ40を内面側、側面側、天面側から見た図であり、(d)は縦断面図である。これらの図に示すように、フランジ40L、40Rは、規制面40a、ガイド面40b、力受け部40c、嵌合部40d、縦溝部40e、を有する。規制面40aはフィルム13の端面に対向しており、フィルム13が長手方向に動いた場合にフィルム13の端面が当接する面である。これによりフィルム13の移動(寄り)を規制する役割を果たし、フィルム13が長手方向の所定の位置にとどまるようにしている。ガイド面40bはフィルム13の長手方向の端部領域において、回転するフィルム13の内面をガイドする。即ち、ガイド面40bはフィルム13の長手端部の内周面を内側から支持することにより、フィルム13に所望の回転軌跡を描かせる役割を果たしている。嵌合部40dはステイ16の突出部16aに対して嵌合される部分である。また、嵌合部40dには励磁コイル19と電源回路(不図示)とを接続するために空孔も設けられている。力受け部40cは、定着ニップ部Nを形成するための加圧バネ48L、40Rの付勢力を受ける面であり、この力受け部40cの裏面はステイ16の突出部16aと直接触れている。力受け部40cは加圧バネ48L、40Rの付勢力を受けてステイ16を押し下げる役割を果たしている。フランジ40は耐熱性に優れ、比較的熱伝導率が低く、滑り性にも優れる材料として、PPS、液晶ポリマー、PET、PA、等のガラス繊維含有の樹脂で成形されている。本実施例ではPPSを用いている。
【0027】
加圧ローラ15はフィルム13の外周面に接触しており、フィルム13を介して被摺接部材14と共に定着ニップ部Nを形成している。加圧ローラ15はフィルム13を回転ささせる駆動ローラの役割も有する。加圧ローラ15は、芯金15aと、芯金周りに同心一体にローラ状に成形被覆させた弾性層15bを有し、表層として離型層15cを設けた外径30mm、幅D(弾性層15bの長さ)が232mmのローラである。弾性層15bは耐熱性が優れた材質が望ましく、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等が好ましい。本実施例の弾性層15bは厚み約4mmのシリコーンゴムである。離型層15cは離型性かつ耐熱性のよい材質が望ましく、PFA、PTFE、FEP等のフッ素系樹脂が好ましい。本実施例の離型層15cは、厚み約50μmのPFAである。
【0028】
加圧ローラ15は芯軸部15dの左側と右側をそれぞれ装置枠体60の左側と右側の側板61L、61R間に軸受部材62を介して回転可能に配設されている。また、芯軸部15dの右側には同心一体に駆動ギア47が配設されている。このギア47に制御部(不図示)で制御されるモータ(不図示)の駆動力が駆動伝達部(不図示)を介して伝達されることで、加圧ローラ15が駆動回転体として所定の周速度で回転駆動される。
【0029】
次に加圧機構について説明する。フランジ40L、40Rの力受け部40cにはそれぞれ加圧バネ48L、48Rが当接している。加圧バネ48Lは装置枠体60の天板66の左側のバネ受け部67Lとフランジ40Lの力受け部40cとの間に圧縮して配置されている。加圧バネ48Rは装置枠体60の天板66の右側のバネ受け部67Rとフランジ40Rの力受け部40cとの間に圧縮して配置されている。これら加圧バネ48L、48Rの反力によりフィルムユニット50のステイ16の左右突出部16aL、16aRに、フランジ40L、40Rを介して、それぞれ付勢力が作用している。これにより、被摺接部材14を有するガイド部材17と加圧ローラ15とが、加圧ローラ15の弾性層15bの弾性に抗してフィルム13を挟み込む。そして、フィルム13と加圧ローラ15との間に定着ニップ部Nが形成されている。
【0030】
加圧ローラ13とフィルムユニット50は、実質的に互いに平行に配列して装置枠体60の側板61L、61R間に配設されている。フィルムユニット50のフランジ40L、40Rはそれぞれ縦溝部40eが側板61L、61Rに設けられたガイドスリット(不図示)の縦縁部に係合している。これによりフランジ40L、40Rは、それぞれ、側板61L、61Rに対して加圧ローラ13に向かってスライド移動可能に保持されている。
【0031】
左右に配置されているフランジ40の規制面40a間の距離Rは、フィルム13の幅より広く設定される。本実施例におけるフランジ40の規制面40a間の距離Rは246mmとした。
【0032】
図9は、フィルム13に対して左方向への寄り力が発生し、フィルム13が左側のフランジ40Lに接触した状態を示した図である。フィルム13はフランジ40Lによって規制される為、それ以上左方向へ移動する事ができない。この状態で更に左方向への寄り力が発生しつづけると、図中の点線矢印で示す加圧ローラ15の端部位置Eに対応するフィルム13の部分に大きな変形ストレスを加わってしまう。その結果、導電層13bの抵抗値が上昇する可能性がある。
【0033】
図10は、導電層13bの一部分が抵抗上昇した場合における誘導電流の流れの変化を説明する模式図である。図10(a)は抵抗上昇が発生していない場合に、励磁コイル19によって発生させた磁束で誘導電流が導電層13bに流れている瞬間を示す概念図である。この場合、導電層13b全域で略均一に所定量の電流が流れて均一発熱する。一方、図10(b)は、図中の●箇所が抵抗上昇した場合である。誘導電流は●箇所を迂回するように流れる為、●箇所の発熱量は低下してしまう。それに加えて、●箇所の両脇部分では電流密度が高い状態となって発熱量が上昇してしまう。このように、電流を流してフィルム13自体をジュール発熱させる方式では、電流が流れる箇所へのダメージは極力低減する必要がある。
【0034】
一方、フィルム13に寄りが発生して加圧ローラ15の端部位置Eで変形ストレスが発生していても、その箇所が通電していない領域であれば問題はない。そこで、フィルム13の幅とは独立して導電層13bの幅を設定できる事を利用し、以下の式1の関係を満すような装置構成を採用する。
【0035】
加圧ローラ幅D、フランジ間距離R、導電層幅C、フィルム幅Fとすると、
D>R+C-F・・・(式1)
以下に、上述した課題に対して式1の関係を満たす構成の有効性を、比較例と比較しつつ説明する。フランジ40Lとフランジ40Rとの距離であるフランジ間距離Rは246mm、フィルム13の幅Fは240mmで共通とし、導電層13bの幅C、加圧ローラ15の幅Dが異なる場合で比較した。表1は、実施例1、比較例1、2における構成と、フランジ間距離R+導電層幅C-フィルム幅Fを計算した値と、式1の成立/不成立をまとめた表である。
【0036】
【表1】
【0037】
図11は実施例1においてフィルム寄りが発生した状態を説明する模式図である。図11(a)はフィルム寄りが発生していない状態、図11(b)は左方向にフィルム寄りが発生してフィルム13の左側端部が左側フランジ40Lに接触した状態を示している。実施例1における導電層13bの幅Cは224mm、加圧ローラ15の幅Dは232mmであり、変形ストレスが発生する加圧ローラ15の端部位置Eに導電層13bは存在しない。つまり、変形ストレスによる導電層13bの抵抗上昇を抑制可能となっている。
【0038】
(比較例1)
図12は比較例1においてフィルム寄りが発生した状態を説明する模式図であり、図12(a)、(b)の違いは実施例1と同様である。比較例1は実施例1に対して加圧ローラ13が短い場合であり、導電層13bの幅は224mm、加圧ローラ15の長さは228mmである。フィルム13が左側フランジ40Lに接触した状態になると、変形ストレスが発生する加圧ローラ15の端部位置Eに導電層13bが存在している。その結果、変形ストレスによる導電層13bの抵抗上昇が発生した(図12中のNG1)。
【0039】
(比較例2)
図13は比較例2においてフィルム寄りが発生した状態を説明する模式図であり、図13(a)、(b)の違いは実施例1と同様である。比較例2は実施例1に対して導電層13bの幅が広い場合であり、導電層13bの幅は228mm、加圧ローラ15の長さは232mmである。フィルム13が左側フランジ40Lに接触した状態になると、変形ストレスが発生する加圧ローラ15の端部位置Eに導電層13bが存在している。その結果、変形ストレスによる導電層13bの抵抗上昇が発生した(図13中のNG1)。
【0040】
(比較例3)
図14は比較例3においてフィルム寄りが発生した状態を説明する模式図であり、図14(a)、(b)の違いは実施例1と同様である。表2に示すように、比較例3は実施例1に対して導電層幅が狭い場合であり、導電層13bの幅は220mm、加圧ローラ15の幅は232mmである。フィルム13が左側フランジ40Lに接触した状態でも、変形ストレスが発生する加圧ローラ15の端部位置Eに導電層13bは存在しない。つまり、変形ストレスによる導電層13bの抵抗上昇が抑制可能となっている。
【0041】
【表2】
【0042】
しかしながら、フィルム13が寄った状態では、導電層13bが通紙可能な最大サイズ記録材で定着性を保証すべき幅(記録材に形成されるトナー像の最大幅T)、ここではレターサイズ幅におけるトナー像の最大幅T(幅214.9mm)をカバーしきれていない(図14中のNG2)。つまり、記録材Pに対して所定の熱量を略均一に与える事が不可能となっている。そこで、表3に示すように、式1に加えて式2も成立するように制約条件を付加したほうが好ましい。
【0043】
定着保証幅をTとすると、
T<C+F-R・・・(式2)
【0044】
【表3】
【0045】
式2が成立する実施例1では、フィルムが寄った状態でも導電層13bは最大幅T(214.9mm)をカバーしているので、記録材Pに対して所定の熱量を略均一に与える事が可能となっている。
【0046】
(比較例4)
図15は比較例4においてフィルム寄りが発生した状態を説明する模式図であり、図15(a)、(b)の違いは実施例1と同様である。比較例4は実施例1に対して加圧ローラ15が長い場合であり、導電層13bの幅は220mm、加圧ローラ15の幅は236mmである。フィルム寄りが発生してフィルム13が左側フランジ40Lに接触した状態でも、変形ストレスが発生する加圧ローラ15の端部位置Eに導電層13bは存在しない。つまり、変形ストレスによる導電層13bの抵抗上昇が抑制可能となっている。
【0047】
【表4】
【0048】
しかしながら、加圧ローラ15の右側端部において加圧ローラ15の表面が被摺接部材14に摺接する事となり、加圧ローラがダメージを受けてしまう(図15中のNG3)。そこで、更に式3も成立するように制約条件を付加したほうが好ましい。
【0049】
D<F×2-R・・・(式3)
【0050】
【表5】
【0051】
式3が成立する実施例1では、加圧ローラ15の右側端部はフィルム13を介して被摺接部材14を加圧する状態となっており、加圧ローラ15が被摺接部材14に直接触れる事はない。
【0052】
以上説明したように、式1を満すような定着装置Aの構成にすることで、導電層13bの抵抗上昇を抑制する事が可能となる。更に、式2も満すようにする事で、記録材Pに対して所定の熱量を略均一に与えつつ、導電層13bの抵抗上昇を抑制する事が可能となる。更に、式3も満すようにする事で、加圧ローラ15が被摺接部材14に直接触れる事を防止しつつ、導電層13bの抵抗上昇を抑制する事が可能となる。
【0053】
(付記)
上述の実施形態は、以下の定着装置を少なくとも開示する。
【0054】
(項目1)
基層と、前記基層よりも低抵抗である導電層を有する筒状のフィルムと、
前記フィルムの内部空間に配置されており、回転する前記フィルムが摺接する被摺接部材と、
前記フィルムの外周面に接触する加圧部材であって、前記被摺接部材と共に前記フィルムを挟んで前記フィルムと前記加圧部材の間に定着ニップ部を形成する加圧部材と、
前記フィルムが前記フィルムの長手方向へ移動した時に前記長手方向への前記フィルムの移動を規制する規制面を有する規制部材と、
を有し、
前記導電層に周回方向電流を流して前記導電層をジュール発熱させ、この熱によって前記定着ニップ部で挟持搬送される記録材を加熱することにより、記録材に形成されたトナー像を記録材に定着する定着装置において、
前記規制部材は、前記長手方向における前記フィルムの両端面と対向する位置に夫々配置されており、
前記長手方向に関して、前記周回方向の電流が流れる前記導電層は前記フィルムの両端部領域には設けられておらず、前記両端部領域の間の領域に設けられており、
前記長手方向に関して、前記フィルムの幅をF、前記導電層の幅をC、二つの前記規制面の間の距離をR、前記加圧部材の幅をDとすると、
D>R+C-F
の関係を満すことを特徴とする定着装置。
【0055】
(項目2)
前記長手方向に関して、記録材に形成されるトナー像の最大幅をTとすると、
T<C+F-R
の関係を満すことを特徴とする項目1に記載の定着装置。
【0056】
(項目3)
D<F×2-R
の関係を満すことを特徴とする項目1又は2に記載の定着装置。
【0057】
(項目4)
前記定着装置は更に、前記フィルムの内部空間に配置されており、螺旋軸が前記長手方向に略平行となる螺旋形状部を有する励磁コイルと、前記螺旋形状部の内部に配置されている有端形状の磁性コアと、を有し、前記励磁コイルに交番電圧を印加することによって前記導電層に誘導電流を発生させることを特徴とする項目1~3いずれか一項に記載の定着装置。
【0058】
(項目5)
前記誘導電流は、前記フィルムの回転方向に流れることを特徴とする項目4に記載の定着装置。
【符号の説明】
【0059】
A 定着装置
13 フィルム
14 被摺接部材
15 加圧ローラ
18 磁性コア
19 励磁コイル
40 フランジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15