(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005672
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電気自動車
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20250109BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20250109BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20250109BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250109BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L50/60
H02M3/155 H
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105941
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】社本 佳大
【テーマコード(参考)】
5H125
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB01
5H125BB02
5H125BB05
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE12
5H125EE13
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730AS13
5H730BB13
5H730BB14
5H730DD03
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD41
5H730FG12
5H770AA07
5H770BA02
5H770DA03
5H770EA01
5H770EA11
5H770EA27
(57)【要約】
【課題】双方向コンバータとインバータを備える電気自動車において、リアクトルに流れる電流が小さいときに生じ得る制御系の振動を抑える。
【解決手段】本明細書が開示する電気自動車は、車輪を駆動するモータ、インバータ、双方向コンバータ、コントローラを備える。双方向コンバータの低電圧端がバッテリに接続され、高電圧端がインバータの直流端に接続される。コントローラは、モータの出力の変化に対して高電圧端の電圧が正の相関を有するように双方向コンバータを制御する。また、コントローラは、インバータの電圧利用率が利用率閾値よりも低ければインバータをPWM制御し、利用率閾値よりも高ければ矩形制御する。コントローラは、リアクトルに流れる電流の絶対値が所定の電流閾値よりも小さい場合、モータ出力および回転数にかかわらずに電圧利用率が利用率閾値を下回るまで高電圧端の電圧を高めるように双方向コンバータを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータと、
交流端が前記モータに接続されているインバータと、
バッテリと、
低電圧端が前記バッテリに接続されており、高電圧端が前記インバータの直流端に接続されている双方向DC-DCコンバータと、
前記モータの出力または前記モータの回転数の変化に対して前記高電圧端の電圧が正の相関を有するように前記双方向DC-DCコンバータを制御するとともに、前記インバータの電圧利用率が所定の利用率閾値よりも低ければ前記インバータをPWM制御し、前記電圧利用率が前記利用率閾値よりも高ければ前記インバータを矩形制御するコントローラと、
を備えており、
前記双方向DC-DCコンバータは、
前記高電圧端とグランド線との間に直列に接続されている2個のスイッチング素子と、
一端が前記低電圧端に接続されており、他端が2個の前記スイッチング素子の直列接続の中点に接続されているリアクトルと、
を備えており、
前記高電圧端の電圧と前記電圧利用率の間には負の相関が存在し、
前記コントローラは、前記リアクトルに流れる電流の絶対値が所定の電流閾値よりも小さい場合、前記出力および前記回転数にかかわらずに、前記電圧利用率が前記利用率閾値を下回るまで前記高電圧端の電圧を高めるように前記双方向DC-DCコンバータを制御する、
電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、車輪を駆動するモータと、モータに電力を供給するバッテリを備える電気自動車に関する。本明細書における「電気自動車」には、モータとエンジンの双方を備えるハイブリッド車や、電源としてバッテリと燃料電池を搭載する燃料電池車が含まれる。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、バッテリとモータの間にインバータが接続される。インバータは、バッテリの直流電力をモータの駆動に適した交流電力に変換する。また、インバータは、減速時にモータの逆駆動により発生する交流電力(交流の回生電力)を直流電力に変換してバッテリへ供給する。バッテリとインバータの間に双方向DC-DCコンバータが接続されることがある(例えば特許文献1)。双方向DC-DCコンバータの低電圧端がバッテリに接続され、高電圧端がインバータの直流端に接続される。
【0003】
双方向DC-DCコンバータは、2個のスイッチング素子と、リアクトルを備える。2個のスイッチング素子は、高電圧端とグランドの間に直列に接続される。リアクトルの一端は低電圧端に接続され、他端は2個のスイッチング素子の直列接続の中点に接続される。
【0004】
インバータの制御則として、矩形制御(矩形波制御)とPWM制御(パルス幅変調制御)が知られている。なお、本明細書における「PWM制御」には、正弦波PWM制御や過変調PWM制御など、パルス幅変調を基本とするが詳細が異なる種々の制御を含む。状況に応じてPWM制御と矩形制御を切り替える制御が知られている(例えば特許文献2)。矩形制御はPWM制御と比較すると電力の利用効率が高い。効率を優先する場合には矩形制御が選択される傾向がある。PWM制御は矩形制御と比較すると制御精度が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-191435号公報
【特許文献2】特開2009-225633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車用の双方DC-DCコンバータは、一般に、モータの出力または回転数が高いほど、高電圧端の電圧を高くするように制御される。別言すれば、コントローラは、モータの出力または回転数に対して高電圧端(双方向DC-DCコンバータの高電圧端)の電圧が正の相関関係を有するようにDC-DC双方向コンバータを制御する。また、双方向DC-DCコンバータは、リアクトルに流れる電流の絶対値が小さいときに、制御精度(応答性)が低下する傾向がある。別言すれば、リアクトルに流れる電流の絶対値が小さいほど、共振周波数が下がる傾向がある。制御精度を低下させる要因は、例えば、フィードバック制御の遅れであったり、上スイッチング素子と下スイッチング素子が共にオフとなるデッドタイムの存在などである。双方向DC-DCコンバータとインバータは直列に接続され、それぞれがフィードバック制御される。インバータのPWM制御と矩形制御ではいずれも出力に変動成分が含まれる。双方向DC-DCコンバータの共振周波数が下がると、共振周波数がインバータの変動成分の周波数に近づくおそれがある。双方向DC-DCコンバータの共振周波数とインバータの変動成分の周波数が近づくと、双方向DC-DCコンバータの制御とインバータの制御が相互に悪影響をおよぼし、双方向DC-DCコンバータとインバータの全体の制御系の応答が振動的になるおそれがある。本明細書は、双方向DC-DCコンバータとインバータの全体の制御系の応答が振動的になる可能性を低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する電気自動車は、車輪を駆動するモータ、インバータ、バッテリ、双方向DC-DCコンバータ、コントローラを備える。インバータの交流端がモータに接続される。双方向DC-DCコンバータの低電圧端がバッテリに接続され、高電圧端がインバータの直流端に接続される。双方向DC-DCコンバータは、2個のスイッチング素子とリアクトルを備える。2個のスイッチング素子は高電圧端とグランドの間に直列に接続される。リアクトルの一端は低電圧端に接続され、他端は2個のスイッチング素子の直列接続の中点に接続される。コントローラは、モータの出力または回転数の変化に対して高電圧端の電圧が正の相関を有するように双方向DC-DCコンバータを制御する。また、コントローラは、モータの実際の出力が目標出力に一致するようにインバータをフィードバック制御する。
【0008】
コントローラは、モータの目標出力またはモータの回転数の変化に対して正の相関を有するように双方向DC-DCコンバータの高電圧端の目標電圧を決定する。コントローラは、決定した目標電圧に高電圧端の電圧が一致するように双方向DC-DCコンバータをフィードバック制御する。また、コントローラは、インバータの電圧利用率が所定の利用率閾値よりも低ければインバータをPWM制御し、電圧利用率が利用率閾値よりも高ければインバータを矩形制御する。
【0009】
インバータの直流端の電圧(すなわち、双方向DC-DCコンバータの高電圧端の電圧)と電圧利用率との間には負の相関が存在する。直流端の電圧を上げれば電圧利用率が下がる。コントローラは、リアクトルに流れる電流の絶対値が所定の電流閾値よりも小さい場合、モータの出力および回転数にかかわらずに、電圧利用率が利用率閾値を下回るまで、高電圧端の電圧を高めるように双方向DC-DCコンバータを制御する。電圧利用率が利用率閾値を下回れば、インバータの制御則としてPWM制御が選択される。
【0010】
一般に、PWM制御と矩形制御ではいずれもインバータの出力に変動成分を含むが、PWM制御は矩形制御よりも変動成分の振幅が小さいことが知られている。本明細書が開示する電気自動車では、リアクトルに流れる電流の絶対値が所定の電流閾値よりも小さい場合、モータの出力および回転数にかかわらずに、PWM制御が選択される。インバータの出力の変動成分の振幅が矩形制御のときと比べて小さくなる。それゆえ、双方向DC-DCコンバータとインバータの制御系全体の応答が振動的となる可能性が小さくなる。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例の電気自動車の駆動系のブロック図である。
【
図2】コントローラが実行する振動抑制制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して実施例の電気自動車2を説明する。
図1に、電気自動車2の駆動系のブロック図を示す。実施例の電気自動車2は、車輪44を駆動する走行用のモータ31を有する。モータ31の出力軸41は、デファレンシャルギア42と車軸43を介して車輪44に連結されている。モータ31の出力トルクが車輪44に伝達され、駆動トルクとなる。
【0014】
電気自動車2は、バッテリ3、双方向DC-DCコンバータ10、インバータ20、コントローラ30を備える。以下では説明を簡単にするため、「双方向DC-DCコンバータ10」を単純に「コンバータ10」と略称する。
【0015】
インバータ20の交流端20cがモータに接続され、直流端20a、20bがコンバータ10の高電圧端10bとグランド線10cに接続される。インバータ20は、直流端20a、20bに印加された直流電力をモータ31の駆動に適した交流電力に変換する。変換された交流電力はモータ31に供給される。モータ31は、車両の慣性力を利用して発電する場合がある、モータ31が発電した電力は回生電力と呼ばれる。インバータ20は、モータ31が生成した交流の回生電力を直流電力に変換して直流端20a、20bから出力する機能も有している。直流電力に変換された回生電力はバッテリ3にチャージされる。インバータ20はよく知られているので回路の詳しい説明は省略する。
【0016】
コンバータ10について説明する。コンバータ10の低電圧端10aがバッテリ3の正極3aに接続されており、双方向コンバータの高電圧端10bがインバータ20の直流端正極20aに接続されている。コンバータ10のグランド線10cは、バッテリ3の負極3bとインバータ20の直流端負極20bを接続する。
【0017】
コンバータ10は、2個のスイッチング素子(上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11b)、2個のダイオード12a、12b、リアクトル13、2個のコンデンサ14a、14b、電流センサ15、電圧センサ16a、16bを備える。
【0018】
2個のスイッチング素子(上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11b)は、高電圧端10bとグランド線10cの間に直列に接続されている。上スイッチング素子11aが高電圧端10bの側に接続されており、下スイッチング素子11bがグランド線10cの側に接続されている。上スイッチング素子11aにはダイオード12aが逆並列に接続されており、下スイッチング素子11bにはダイオード12bが逆並列に接続されている。ダイオード12a、12bは、グランド線10cから高電圧端10bへ電流を通す向きに接続されている。
【0019】
リアクトル13の一端は低電圧端10aに接続されており、他端は2個のスイッチング素子11a、11bの直列接続の中点に接続されている。
【0020】
コンデンサ14aは低電圧端10aとグランド線10cの間に接続されており、コンデンサ14bは高電圧端10bとグランド線10cの間に接続されている。コンデンサ14aは、低電圧端10aの電圧変動を抑える。コンデンサ14bは、高電圧端10bの電圧変動を抑える。
【0021】
電流センサ15はリアクトル13に流れる電流を計測する。電圧センサ16aは低電圧端10aとグランド線10cの間の電圧を計測し、電圧センサ16bは高電圧端10bとグランド線10cの間の電圧を計測する。電流センサ15、電圧センサ16a、16bの計測値はコントローラ30へ送られる。
【0022】
上スイッチング素子11aを適宜にオンオフすると、高電圧端10bの電圧が降圧されて低電圧端10aから出力される。下スイッチング素子11bを適宜にオンオフすると、低電圧端10aの電圧が昇圧されて高電圧端10bから出力される。上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11bを互いに相補的なPWM信号(または矩形信号)でオンオフすると、低電圧端10aと高電圧端10bの電圧比が一定となるように、低電圧端10aと高電圧端10bの間(すなわちリアクトル13)に電流が流れる。
【0023】
コントローラ30は、高電圧端10bの電圧が所定の目標電圧に一致するように、上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11bを交互にオンオフする。そうすると、高電圧端10bの実際の電圧が目標電圧よりも低ければ低電圧端10aから高電圧端10bへ電流が流れる。高電圧端10bの実際の電圧が目標電圧よりも高ければ高電圧端10bから低電圧端10aへ電流が流れる。この場合、モータ31が発生した電力がバッテリ3へ流れ、バッテリ3が充電される。
【0024】
コンバータ10は、力行と回生が頻繁に切り替わる電気自動車2に好適な電圧コンバータである。なお、力行とは、バッテリ3の電力でモータ31が正トルクを出力し、電気自動車2が加速することを意味する。回生とは、モータ31が車両の慣性力により逆駆動されて電力が生成されることを意味する。
【0025】
コントローラ30がインバータ20とコンバータ10を制御する。コントローラ30には車速センサ37、アクセルペダルセンサ38、ブレーキペダルセンサ39が接続されている。コントローラ30は、車速センサ37から得られる車速、アクセルペダルセンサ38から得られるアクセル開度、ブレーキペダルセンサ39から得られるブレーキペダル踏込量に基づいて、モータ31の目標出力を決定し、モータ31の実際の出力が目標出力に一致するようにコンバータ10とインバータ20を制御する。
【0026】
インバータ20は、2個のスイッチング素子の直列接続体を3組有している。3組の直列接続体は、インバータ20の直流端に並列に接続されている。スイッチング素子を適宜にオンオフすると、3組の直列接続体のそれぞれの中点から交流が出力される。インバータ20の回路構造と動作もよく知られているので詳しい説明は割愛する。
【0027】
コントローラ30は、モータ31の出力および/またはモータ31の回転数から、コンバータ10の高電圧端10bの目標電圧を決定する。コントローラ30は、電圧センサ16bから高電圧端10bの実際の電圧値を取得する。コントローラ30は、電圧センサ16bの計測値に基づき、コンバータ10の高電圧端10bの電圧が目標電圧に一致するようにコンバータ10(上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11b)をフィードバック制御する。
【0028】
目標電圧は、モータ31の出力またはモータ31の回転数が大きいほど、大きい値に設定される。逆に、目標電圧は、モータ31の出力またはモータ31の回転数が小さいほど、小さい値に設定される。すなわち、コントローラ30は、モータ31の出力またはモータ31の回転数の変化に対して正の相関を有するように、高電圧端10bの電圧(目標電圧)を決定する。そしてコントローラ30は、高電圧端10bの電圧が目標電圧に一致するようにコンバータ10をフィードバック制御する。
【0029】
先に述べたように、コントローラ30は、インバータ20を制御する。インバータ20の交流端20cには電流センサ21が備えられており、コントローラ30は、電流センサ21の計測値から、インバータ20の実際の出力(すなわちモータ31の実際の出力)を取得する。なお、インバータ20が出力する交流電力の実効電圧は、インバータ20に入力される直流電力の電圧から推定される。インバータ20に入力される直流電力の電圧は、電圧センサ16bから出力される。コントローラ30は、上記したセンサの計測値に基づいて、インバータ20の出力(すなわちモータ31の出力)が目標出力に一致するようにインバータ20をフィードバック制御する。インバータ20の出力は交流電力であり、コントローラ30は、インバータ20の交流出力の位相と周波数が目標と一致するように、インバータ20をフィードバック制御する。
【0030】
よく知られているように、インバータ20の制御則には、PWM制御と矩形制御がある。なお、本明細書における「PWM制御」には、正弦波PWM制御や過変調PWM制御など、パルス幅変調を基本とするが詳細が異なる種々の制御を含む。PWM制御と矩形制御の制御則はよく知られているので、詳しい説明は省略する。
【0031】
コントローラ30は、インバータ20の電圧利用率を算出し、電圧利用率に応じてPWM制御と矩形制御のいずれかを選定する。コントローラ30は、選定した制御則を用いてインバータ20を制御する。インバータ20の電圧利用率は、例えば、数式:[電圧利用率]=[係数]×[インバータの交流端の実効電圧]/[インバータの直流端の電圧]で求めることができる。この式に現れているように、インバータの電圧利用率は、インバータの直流端の電圧と負の相関を有する。
【0032】
コントローラ30は、算出した電圧利用率が所定の利用率閾値よりも低ければPWM制御を選択し、電圧利用率が利用率閾値よりも高ければ矩形制御を選択する。そして、選択した制御則を用いてインバータ20を制御する。
【0033】
よく知られているように、PWM制御は、制御精度(モータの回転数変化の滑らかさ)は矩形制御よりも優れるが、効率は矩形制御に劣る、という特徴がある。逆にいえば、矩形制御は、効率はPWM制御よりも優れるが制御精度はPWM精度に劣る、という特徴がある。細やかな制御が要求される場合には、PWM制御が選択され、制御精度よりも効率が重視される状況では矩形制御が選択される。コントローラ30は、状況に応じてPWM制御と矩形制御を切り替える。また、PWM制御と矩形制御はいずれもインバータの出力に変動成分が含まれる。変動成分の周波数は同じであるが、矩形制御の場合、変動成分の振幅がPWM制御のときよりも大きくなる。
【0034】
コンバータ10は、リアクトル13に流れる電流の絶対値が小さいときに、制御精度(応答性)が低下する傾向がある。制御精度を低下させる要因は、例えば、フィードバック制御の遅れであったり、上スイッチング素子11aと下スイッチング素子11bが共にオフとなるデッドタイムの存在などである。制御精度が低下することは、共振周波数が低下することと等価である。
【0035】
一方、先に述べたように、インバータ20の制御において、矩形制御はPWM制御と比較して出力の変動成分の振幅が大きい。コンバータ10とインバータ20は直列に接続され、それぞれがフィードバック制御される。コンバータ10の共振周波数が下がり、インバータ20の出力の変動成分の周波数に近づくと、コンバータ10とインバータ20の制御が相互に悪影響をおよぼし、コンバータ10とインバータ20で構成される全体の制御系の応答が振動的になるおそれがある。後述するように、実施例の電気自動車2では、リアクトル13に流れる電流が所定の電流閾値を下回るときには必ずPWM制御が選択されるようにする。そうすることで、インバータ20の出力の変動成分の振幅が矩形制御の場合と比較して小さくなり、全体の制御系の応答が振動的になってしまう可能性を小さくすることができる。
【0036】
図2に、コントローラ30が実行する振動抑制制御のフローチャートを示す。
図2を参照しつつコントローラ30の処理を説明する。コントローラ30は、一定の制御周期で
図2の処理を繰り返す。
図2において、「リアクトル電流」とは、リアクトル13を流れる電流を意味する。リアクトル電流は、電流センサ15により計測され、コントローラ30に送られる。
【0037】
図2に示されているように、リアクトル電流の絶対値が「電流閾値」よりも小さければコントローラ30はフラグに「ON」をセットする(ステップS2:YES、S3:YES、S4)。また、リアクトル電流の絶対値が「電流閾値+オフセット」よりも大きければ、コントローラ30はフラグに「OFF」をセットする(ステップS2:NO、S5)。ここで、「フラグ」とは、コントローラ30のプログラム内で定義されたパラメータであり、「ON」と「OFF」は、プログラム内で定義された定数である。「オフセット」は、ハンチング防止のために設けられた定数であり、プログラム内で予め定義されている。ここでいうハンチングとは、「フラグ」の値が「ON」と「OFF」で頻繁に入れ替わることを意味する。
【0038】
リアクトル電流の絶対値が「電流閾値+オフセット」よりも小さく(ステップS2:YES)、かつ、「電流閾値」よりも大きければ(ステップS3:NO)、フラグの値は前回の値に維持される。
【0039】
続いてコントローラ30は、フラグの値を確認する(ステップS6)。フラグが「ON」の場合(ステップS6:YES)、コントローラ30は、インバータ20の電圧利用率が利用率閾値を下回るまで、高電圧端10bの電圧を高めるようにコンバータ10を制御する(ステップS7、S8:NO、S7)。高電圧端10bの電圧は、インバータ20の直流端に印加される電圧に等しい。先に述べたように、インバータ20の直流端の電圧と電圧利用率との間には負の相関がある。インバータ20の電圧利用率が利用率閾値を下回るとPWM制御則が選択されることになる。PWM制御則が選択されることで、リアクトル電流が小さく、かつ、矩形制御則が実行されるという、振動現象が生じやすい状況が回避される。
【0040】
一方、フラグが「OFF」の場合(ステップS6:NO)、コントローラ30は、車速とアクセル開度とブレーキペダル踏込量に基づいて、コンバータ10の高電圧端10bの目標電圧を決定し、高電圧端10bの実際の電圧が目標電圧に一致するようにコンバータ10を制御する(ステップS9)。ステップS9において、目標電圧は、モータ31の出力または回転数に対して正の相関を有するように決定される。
【0041】
ステップS2と、ステップS3の判断が「NO」のときの処理は、リアクトル電流が電流閾値付近でゆらいだときにフラグの値のハンチングを防ぐための処理である。すなわち、
図2の処理の本質は次の通りである。コントローラ30は、リアクトルに流れる電流の絶対値が電流閾値よりも大きい場合には車速とアクセル開度とブレーキペダル踏込量に基づいてコンバータ10の高電圧端10bの目標電圧を決定し、目標電圧が実現するようにコンバータ10をフィードバック制御する。一方、コントローラ30は、リアクトルに流れる電流の絶対値が電流閾値よりも小さい場合には車速/アクセル開度/ブレーキペダル踏込量のいずれにも関わらずにインバータ20の電圧利用率が利用率閾値を下回るまで高電圧端10bの電圧を高めるようにコンバータ10を制御する。そのような処理により、リアクトル電流が小さい場合にコンバータ10とインバータ20の制御系が振動的になる可能性を小さくすることができる。
【0042】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。インバータの出力の変動成分の周波数は、モータの回転数に依存する。しかし、モータの回転数に依存することなく、コンバータの共振周波数が下がるとインバータの出力変動成分の周波数に近づく可能性がある。
【0043】
リアクトルの電流の絶対値が小さい状況は、モータの回転数によらず起こりうる。例えば、高速走行中であってもアクセルペダルを踏込量が小さければ、モータに要求されるトルクは小さくなり、その結果、リアクトルに流れる電流は小さくなる。
【0044】
図2のステップS9において、コントローラ30は、車速、アクセル開度、ブレーキペダル踏込量のほかに、インバータ20やモータ31の温度(あるいはバッテリ3の温度など)も加味して目標電圧を決定してもよい。
【0045】
コントローラ30は、モータ31の出力の変化に対して正の相関を有するよう高電圧端10bの電圧を決めてもよいし、モータ31の回転数の変化に対して正の相関を有するよう高電圧端10bの電圧を決めてもよい。
【0046】
コンバータ10の高電圧端の電圧(出力電圧)には上限が定められている。
図2のステップS7、S8において、コンバータ10の出力電圧が上限に達しても電圧利用率が利用率閾値を超えない状況も起こりうる。そのような場合、コントローラ30は、
図2の処理を中止して不図示の例外処理へ処理を移すようにしてもよい。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2:電気自動車 3:バッテリ 10:双方向DC-DCコンバータ(コンバータ) 11a、11b:スイッチング素子 12a、12b:ダイオード 13:リアクトル 14a、14b:コンデンサ 15:電流センサ 16a、16b:電圧センサ 20:インバータ 21:電流センサ 30:コントローラ 31:モータ 37:車速センサ 38:アクセルペダルセンサ 39:ブレーキペダルセンサ 41:出力軸 42:デファレンシャルギア 43:車軸 44:車輪