(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005673
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】応力ひずみ線図の算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105942
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 崇介
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA11
2G061DA12
2G061EA03
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】 降伏点が観察されない材料に対して応力ひずみ線図を算出する。
【解決手段】 試料に対する引張試験の結果から応力ひずみ線図を算出する方法であって、前記引張試験によって得られた荷重と変位のデータから前記引張試験において前記荷重の前記変位に対する変化率が減少を開始する減少開始点を特定するステップと、前記減少開始点よりも後の前記データから前記減少開始点よりも前記変位が大きいときの応力ひずみ線図を算出するステップと、前記試料のヤング率から前記減少開始点よりも前記変位が小さいときの応力ひずみ線図を算出するステップ、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する引張試験の結果から応力ひずみ線図を算出する方法であって、
前記引張試験によって得られた荷重と変位のデータから前記引張試験において前記荷重の前記変位に対する変化率が減少を開始する減少開始点を特定するステップと、
前記減少開始点よりも後の前記データから、前記減少開始点よりも前記変位が大きいときの応力ひずみ線図を算出するステップと、
前記試料のヤング率から、前記減少開始点よりも前記変位が小さいときの応力ひずみ線図を算出するステップ、
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、応力ひずみ線図の算出方法に関する。
【0002】
特許文献1には、引張試験の結果から応力ひずみ線図を算出する方法が開示されている。この算出方法では、除荷過程における降伏点を算出し、その降伏点に基づいて応力ひずみ線図を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、明確な降伏点が観察されない材料について応力ひずみ線図を算出することができなかった。本明細書では、降伏点が観察されない材料に対して応力ひずみ線図を算出可能な技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、試料に対する引張試験の結果から応力ひずみ線図を算出する方法を提案する。この算出方法は、前記引張試験によって得られた荷重と変位のデータから前記引張試験において前記荷重の前記変位に対する変化率が減少を開始する減少開始点を特定するステップと、前記減少開始点よりも後の前記データから前記減少開始点よりも前記変位が大きいときの応力ひずみ線図を算出するステップと、前記試料のヤング率から前記減少開始点よりも前記変位が小さいときの応力ひずみ線図を算出するステップ、を有する。
【0006】
この技術では、引張試験のデータから荷重の変位に対する変化率が減少を開始する減少開始点を特定する。減少開始点は、原子構造が転移する点であり、材料が塑性変形を開始する点とみなすことができる。次に、減少開始点よりも後のデータから減少開始点よりも変位が大きいとき(すなわち、塑性域)の応力ひずみ線図を算出する。また、この算出方法では、試料のヤング率から減少開始点よりも変位が小さいとき(すなわち、弾性域)の応力ひずみ線図を算出する。したがって、この算出方法によれば、弾性域から塑性域までの応力ひずみ線図を算出することができる。この算出方法によれば、降伏点が観察されない場合でも、応力ひずみ線図を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】引張試験における荷重と変位の経時変化を示すグラフ。
【
図2】引張試験における荷重の変位に対する変化率の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、試料に対して引張試験を実施して荷重P(すなわち、試料に対して引張方向に加えた力)と変位L(すなわち、引張方向におけるストローク)を測定した結果を示している。
図1の上図は荷重Pのグラフであり、
図1の下図は変位Lの変化量を示している。なお、
図1における破線のグラフが、引張試験で計測されたデータを示している。
図1に示すように、引張試験の開始直後では、試験機器本体や試料を保持するクランプで微小な伸びが生じるので、荷重Pの立ち上がりが遅れる。また、引張試験で得られるデータには、試験機器やコイルの誤差により微小なノイズが含まれる。実施例の応力ひずみ線図の算出方法では、まず、引張試験により得られたデータを移動平均等によって平滑化することによってノイズを除去したグラフを算出する。
図1において実線で示される各グラフが、荷重Pと変位Lの変化量とを平滑化したグラフを示している。
図1に示すように、引張試験においては、変位Lの変化量が略一定に維持される。すなわち、引張試験では、略一定の速度で変位が生じる。
【0009】
次に、平滑化後の荷重Pと変位Lのデータに基づいて、
図2に示すように、荷重Pの変位Lに対する変化率dP/dLの経時変化を示すグラフを算出する。なお、本実施例では
図1に示すように変位Lの変化量が略一定であるので、変化率dP/dLは時間に対する荷重Pの変化率(すなわち、
図1の荷重Pのグラフの傾き)とほぼ等しい。また、
図2では、平滑化していないデータを用いて作成したグラフ(破線)と、平滑化したデータを用いて作成したグラフ(実線)を示している。
図2に示すように、平滑化したデータを用いることで、ノイズを除去した状態で変化率dP/dLの経時変化のグラフを作成することができる。次に、平滑化したデータを用いて算出した変化率dP/dLのグラフに基づいて、引張試験において変化率dP/dLが減少を開始した点(以下、減少開始点Xという)を特定する。減少開始点Xは、変化率dP/dLが最大値または極大値となる点である。減少開始点Xは、引張試験において試料が塑性変形を開始した点とみなすことができる。減少開始点Xを特定したら、減少開始点Xのときの時刻t1を特定する。なお、平滑化の方法によっては、元のグラフ(ノイズを含むグラフ)の特徴が消えてしまい、減少開始点Xが不適切な位置に特定される場合がある。したがって、
図2に示すように、平滑化前後のグラフを比較して減少開始点Xが適切であることを確認することが好ましい。
【0010】
次に、時刻t1以降の荷重Pと変位Lのデータ(
図1参照)に基づいて、
図3に示すように、減少開始点Xよりも変位L(すなわち、ひずみ)が大きいときの応力ひずみ線
図G1を算出する。この方法によれば、塑性域の応力ひずみ線図を正確に算出することができる。
【0011】
次に、試料のヤング率に基づいて、減少開始点Xよりも変位Lが小さいときの応力ひずみ線
図G2を算出する。なお、ヤング率は、既知の値を使用してもよいし、別途測定した値を使用してもよい。応力ひずみ線
図G2は、ヤング率に基づいて直線として算出される。また、応力ひずみ線
図G2は、減少開始点Xにおいて応力ひずみ線
図G1と連続するように作成される。この方法によれば、弾性域の応力ひずみ線図を正確に算出することができる。また、このように応力ひずみ線
図G2を応力ひずみ線
図G1に接続することで、弾性域から塑性域に亘る範囲の応力ひずみ線図を算出することができる。
【0012】
以上に説明したように、実施例の算出方法によれば、引張試験において降伏点が観察されるか否かにかかわらず、弾性域から塑性域に亘る範囲の応力ひずみ線図を算出することができる。
【0013】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。