(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056830
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン樹脂分散体
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20250401BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20250401BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20250401BHJP
C08G 18/50 20060101ALI20250401BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/48 004
C08G18/50 021
C08G18/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166319
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】針▲崎▼ 昌代
(72)【発明者】
【氏名】森上 敦史
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA06
4J034BA08
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA14
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4J034CB08
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4J034CC05
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4J034RA07
4J034RA10
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】基材上に製膜した場合に、強度及び柔軟性の両方に優れる、水性ポリウレタン樹脂分散体を提供する。
【解決手段】本発明は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含むポリウレタン樹脂が水系媒体中に分散されてなる水性ポリウレタン樹脂分散体であって、前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計は、固形分基準で75.0~85.0質量%である、水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。また、水性ポリウレタン樹脂分散体は、製膜時に使用する有機溶剤の使用量を低減することができるため、SDGs(Sustainable Development Goals。持続可能な開発目標)のGoal7等の達成に貢献し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含むポリウレタン樹脂が水系媒体中に分散されてなる水性ポリウレタン樹脂分散体であって、
前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、
前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、
前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計は、固形分基準で75.0~85.0質量%である、水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項2】
ポリエーテルポリオールの数平均分子量が、800~3,500である、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項3】
ポリエーテルポリアミンが、下記式(1)で示される、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【化3】
〔式中、nは、2~100であり、m及びpは、それぞれ独立して、0又は1~100であり、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なっており、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基である〕
【請求項4】
ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリアミンの含有割合が、0.5~10質量%である、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項5】
ポリウレタン樹脂の酸価が、10.0~40.0mgKOH/gである、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項6】
ポリイソシアネート(b)が、脂環式ジイソシアネートである、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含む、コーティング材料組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させて得られる、ポリウレタン樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られる、ポリウレタン樹脂フィルム。
【請求項10】
ポリウレタン樹脂を含むポリウレタン樹脂フィルムであって、前記ポリウレタン樹脂は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含み、
前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、
前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、
前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、7.6~15.0質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合及びポリエーテルポリアミンの含有割合の合計は、75.0~85.0質量%である、ポリウレタン樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系媒体中にポリウレタン樹脂を分散させた水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。また、本発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体を含むコーティング材料組成物、及び前記ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られるポリウレタン樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン樹脂分散体は、ゴム的性質等を有する塗膜をもたらすことができ、従来の有機溶剤系ポリウレタンと比較して揮発性有機物を減少できる環境対応材料であることから、有機溶剤系ポリウレタンからの置き換えが進んでいる材料である。ポリエーテルポリオールはポリウレタン樹脂の原料となる有用な化合物であり、イソシアネート化合物との反応により、硬質フォーム、軟質フォーム、熱可塑性エラストマー、マイクロセルラー等に用いられるポリウレタン樹脂を製造することができる。ポリエーテルポリオールを用いたポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタン樹脂より低温柔軟特性に優れることが述べられている(非特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らにより、水性ポリウレタン樹脂分散体において、分子内に3つ以上のアミノ基及び/又はイミノ基を有するポリアミンを鎖延長剤に使用することで、低温での引張における弾性率が低く、電着塗膜への密着性が向上することを見出されている(特許文献1参照)。また、ポリオキシエチレン基含有ポリアミンを鎖延長剤とした水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜においても、柔軟性を有することが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/194672号
【特許文献2】国際公開第2006/062165号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「最新ポリウレタン材料と応用技術」 シーエムシー出版社発行 第1編第2章 第23~32ページ、第2編第2章 第145~155ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載された水性ポリウレタン樹脂分散体を用いて得られる塗膜について、強度及び柔軟性の両立という点で、改善の余地があることが見いだされた。
【0007】
本発明の課題は、基材上に製膜した場合に、強度及び柔軟性の両方に優れる、水性ポリウレタン樹脂分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含むポリウレタン樹脂が水系媒体中に分散されてなる水性ポリウレタン樹脂分散体であって、
前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、
前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、
前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計は、固形分基準で75.0~85.0質量%である、水性ポリウレタン樹脂分散体。
[2]ポリエーテルポリオールの数平均分子量が、800~3,500である、[1]に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
[3]ポリエーテルポリアミンが、下記式(1)で示される、[1]又は[2]に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【化1】
〔式中、nは、2~100であり、m及びpは、それぞれ独立して、0又は1~100であり、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なっており、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基である〕
[4]ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリアミンの含有割合が、0.5~10質量%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
[5]ポリウレタン樹脂の酸価が、10.0~40.0mgKOH/gである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
[6]ポリイソシアネート(b)が、脂環式ジイソシアネートである、[1]~[5]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含む、コーティング材料組成物。
[8][1]~[6]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させて得られる、ポリウレタン樹脂フィルム。
[9][1]~[6]のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られる、ポリウレタン樹脂フィルム。
[10]ポリウレタン樹脂を含むポリウレタン樹脂フィルムであって、前記ポリウレタン樹脂は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含み、
前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、
前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、
前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、7.6~15.0質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合及びポリエーテルポリアミンの含有割合の合計は、75.0~85.0質量%である、ポリウレタン樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、基材上に製膜した場合に、強度と柔軟性の両方に優れる、水性ポリウレタン樹脂分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
〔水性ポリウレタン樹脂分散体〕
水性ポリウレタン樹脂分散体は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含むポリウレタン樹脂が水系媒体中に分散されてなる水性ポリウレタン樹脂分散体であって、
前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、
前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、
前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計は、固形分基準で75.0~85.0質量%である。
【0012】
水性ポリウレタン樹脂分散体は、ポリウレタン樹脂と水系媒体とを組み合わせているため、製膜時に使用する有機溶剤の使用量を低減することができるため、SDGsのGoal7等の達成にも貢献することができる。
【0013】
〔ポリウレタン樹脂〕
ポリウレタン樹脂は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含む。
【0014】
〔(a)酸性基非含有ポリオール〕
(a)酸性基非含有ポリオール(a)は、(a-1)ポリエーテルポリオールを含む。酸性基非含有ポリオール(a)は、(a-1)ポリエーテルポリオールの他に、酸性基を含まないその他のポリオール化合物を含んでいてもよい。
【0015】
〔(a-1)ポリエーテルポリオール〕
(a-1)ポリエーテルポリオールは、酸性基を含まないポリエーテルポリオールであれば、特に限定されない。
【0016】
(a-1)成分の具体的な構造は、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-プロピレングリコール)、ポリ(1,3-プロピレングリコール)、ポリ(1,3-テトラメチレングリコール)、ポリ(1,4-テトラメチレングリコール)、ポリ(1,6-ヘキサメチレングリコール)、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体、プロピレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合やブロック共重合等が挙げられる。得られる塗膜の柔軟性を向上させる点で、ポリ(1,4-テトラメチレングリコール)が好ましい。
【0017】
(a-1)成分の数平均分子量は、得られる塗膜の柔軟性の向上及び製膜性の観点から、800~3,500が好ましく、1,500~3,200がより好ましく、1,800~3,000が特に好ましい。分子量の異なる2種以上のポリエーテルポリオールを併用する場合、併用されるポリエーテルポリオールを混合した際の数平均分子量がこの範囲にあることが好ましい。
【0018】
本明細書において、ポリエーテルポリオールの数平均分子量(Mn)は、水酸基価から次式により求められる。
Mn=(56,100×価数)/水酸基価
式中、価数は1分子中の水酸基の数であり、水酸基価はJIS K 1557のB法に準拠して測定した値である。ポリエーテルポリオールがポリエーテルジオールである場合は、価数が2となる。
【0019】
(a-1)ポリエーテルポリオールは、単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0020】
〔(a-2)その他のポリオール〕
(a-2)その他のポリオールは、酸性基を含まないポリオール化合物であれば、特に限定されない。(a-2)その他のポリオールは、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール、多官能ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリエステルポリオール、ポリエーテルポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ジオールは、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖状の脂肪族ジオール;1,3-ブタンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、2-エチルヘキサン-1,6-ジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等分岐鎖状の脂肪族ジオールが挙げられる。脂環式ジオールは、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2,2’-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。芳香族ジオールは、1,4-ベンゼンジメタノール等が挙げられる。多官能ポリオールは、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0022】
ポリカーボネートポリオールは、分子中にカーボネート結合を有するポリオールであれば特に限定されない。ポリカーボネートポリオールは、例えば、ジオール等のポリオールモノマーがカーボネート結合したものであることが好ましい。ポリカーボネートポリオールは、例えば、ポリオールモノマーと、炭酸エステル化合物及び/又はホスゲンとを反応させて得られる。ポリオールモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、前述の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオール、多官能ポリオールが挙げられる。炭酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル等が挙げられる。
【0023】
(a-2)その他のポリオールは、脂肪族ジオール、又は脂環式ジオールが好ましい。ここで、(a-2)その他のポリオールは、後述の(c)酸性基含有ポリオール化合物を含まない。
【0024】
≪(a)酸性基非含有ポリオールの好ましい態様≫
(a)酸性基非含有ポリオールは、ポリカーボネートポリオールを含んでいてもよい。また、(a)酸性基非含有ポリオールは、(a-1)ポリエーテルポリオールのみからなるのが好ましい。
(a)酸性基非含有ポリオールは、単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0025】
〔(b)ポリイソシアネート〕
(b)ポリイソシアネートは、2以上のイソシアナト基を有する化合物であれば特に制限されず、芳香族ポリイソシアネート、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートのいずれであってもよい。
【0026】
芳香族ポリイソシアネートは、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’-ジフェニレンメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、m-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ポリイソシアネートは、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0028】
脂環式ポリイソシアネートは、脂環構造を有するポリイソシアネート化合物であれば、特に限定されず、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、1,3-イソシアネトメチルシクロヘキサン(水素添加XDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-ジクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネーネート等の脂環式ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
≪(b)ポリイソシアネートの好ましい態様≫
(b)ポリイソシアネートは、脂環式ポリイソシアネートが好ましく、脂環式ジイソシアネートがより好ましく、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)が特に好ましい。(b)ポリイソシアネート化合物が、脂環式ポリイソシアネート、好ましくは脂環式ジイソシアネートであると、塗膜の引張強度が向上する傾向がある。(b)ポリイソシアネートが、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)及び/又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)であると、反応性が制御しやすく、塗膜の引張強度が向上する傾向がある。
(b)ポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0030】
〔(c)酸性基含有ポリオール〕
(c)酸性基含有ポリオールは、少なくとも1つの酸性基と2以上のヒドロキシ基とを有する化合物であれば特に制限されない。酸性基は、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。酸性基含有ポリオールは、酸性基含有ジオールが好ましく、炭素数5~8の酸性基含有ジオールがより好ましい。(c)酸性基含有ポリオールは、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
≪(c)酸性基含有ポリオールの好ましい態様≫
(c)酸性基含有ポリオールは、入手の容易さ及び反応性の観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4~12のジメチルロールアルカン酸が好ましく、2,2-ジメチロールプロピオン酸及び/又は2,2-ジメチロールブタン酸が特に好ましい。
(c)酸性基含有ポリオールは、単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0032】
〔(d)鎖延長剤〕
(d)鎖延長剤は、(d-1)ポリエーテルポリアミンを含む。(d)鎖延長剤は、(d-1)ポリエーテルポリアミンの他に、(d-2)その他の鎖延長剤を含んでもよい。
【0033】
〔(d-1)ポリエーテルポリアミン〕
(d-1)ポリエーテルポリアミンは、ベース骨格にポリオキシアルキレン基(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシテトラメチレン等)を有し、アミノ基を2以上有する化合物であれば、特に限定されない。
【0034】
アミノ基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基のいずれであってもよいが、第1級アミノ基が好ましい。ポリエーテルポリアミンが有するアミノ基は、第1級アミノ基であることが好ましい。(d-1)ポリエーテルポリアミンが有するアミノ基の数は、2~4であることが好ましく、2~3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。
【0035】
ポリオキシアルキレン基中のアルキレン基は、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基が好ましい。直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基(プロパン-1,2-ジイル基)、テトラメチレン基等が挙げられる。前記アルキレン基は、非置換であるか、又はヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基及びハロゲンからなる群より選択される基で置換されていることができる。
【0036】
(d-1)ポリエーテルポリアミンが有するポリオキシアルキレン基中のアルキレン基は、炭素原子数が3~6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基のみからなるか、炭素原子数が3~6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基とエチレン基との組み合わせであるのが好ましい。
【0037】
アミノ基を2つ有する(d-1)ポリエーテルポリアミンとしては、下記式(1):
【化2】
〔式中、nは、2~100であり、m及びpは、それぞれ独立して、0又は1~100であり、R
1、R
2、R
3及びR
4は、同一又は異なっており、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基である〕で示される化合物が挙げられる。
【0038】
nは、2~70が好ましく、2~10が特に好ましい。
mは、0~40が好ましく、0~15が特に好ましい。
pは、0~10が好ましく、0~7が特に好ましい。
直鎖状又は分岐状の炭素原子数2~6のアルキレン基は、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基(プロパン-1,2-ジイル基)、テトラメチレン基等が挙げられる。
m及びpが0である場合、R1及びR2は、同一であり、プロピレン基であることが好ましい。
【0039】
アミノ基を3つ以上有する(d-1)ポリエーテルポリアミンとしては、グリセリルポリ(オキシアルキレン)トリアミン(例えば、グリセリルポリ(オキシプロピレン)トリアミン)、トリメチロールプロパンポリ(オキシアルキレン)トリアミン(例えば、トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン)、ペンタエリスロールポリ(オキシアルキレン)テトラアミン等が挙げられる。
【0040】
(d-1)ポリエーテルポリアミンの数平均分子量は、柔軟性を付与する観点から、100~20,000であることが好ましく、140~10,000であることが特に好ましい。
(d-1)ポリエーテルポリアミンの市販品としては、ハンツマン社のジェファーミンDシリーズ、EDシリーズ、EDRシリーズ、RTシリーズ、Tシリーズ;日本油脂社のPEG#1000ジアミン等が挙げられる。
【0041】
(d-1)ポリエーテルポリアミンは、1種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0042】
(d-2)その他の鎖延長剤は、(d-1)ポリエーテルポリアミン以外の鎖延長剤である。(d-2)その他の鎖延長剤は、ジアミン化合物、ポリオール化合物、水、並びに、1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を合計で3つ以上有するポリアミン等が挙げられる。
【0043】
ジアミン化合物は、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン等の第1級アミノ基のみを有するジアミン化合物;ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン等の第2級アミノ基のみを有するジアミン化合物等が挙げられる。ポリオール化合物は、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。水は、水系媒体において後述する成分等が挙げられる。
【0044】
1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を合計で3つ以上有するポリアミンは、ジエチレントリアミン、ビス(2-アミノプロピル)アミン、ビス(3-アミノプロピル)アミン等のトリアミン化合物;トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、N-(ベンジル)トリエチレンテトラミン、N,N’’’-(ジベンジル)トリエチレンテトラミン、N-(ベンジル)-N’’’-(2-エチルヘキシル)トリエチレンテトラミン等のテトラミン化合物;テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン等のペンタミン化合物;ペンタエチレンヘキサミン、ペンタプロピレンヘキサミン等のヘキサミン化合物;ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアミン化合物が挙げられる。
(d-2)その他の鎖延長剤は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0045】
≪(d)鎖延長剤の好ましい態様≫
(d)鎖延長剤は、(d-1)ポリエーテルポリアミンのみからなるか、(d-1)ポリエーテルポリアミンとジアミン化合物との組み合わせが好ましい。ここで、ジアミン化合物は、第1級アミノ基のみを有するジアミン化合物が好ましい。
(d)鎖延長剤は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0046】
〔その他の構造〕
ポリウレタン樹脂は、(a)~(d)由来の構造の他に、更なる構造を含むことができる。更なる構造としては、(e)ヒドロキシアルカン酸由来の構造、(f)ブロックイソシアネート構造、(g)中和剤由来の構造、(h)更なる任意成分由来の構造が挙げられる。
【0047】
〔(e)ヒドロキシアルカン酸〕
(e)ヒドロキシアルカン酸は、1分子中に1つのカルボキシル基と1つの水酸基を有する化合物であれば、特に制限されない。(e)ヒドロキシアルカン酸の炭素数は、2~30であることが好ましく、6~30であることがさらに好ましく、10~26であることが特に好ましい。(e)ヒドロキシアルカン酸の炭素数が2~30であると、運動性の高い末端基が増えることで、塗膜の柔軟性が向上する傾向がある。(e)ヒドロキシアルカン酸は、グリコール酸(2-ヒドロキシ酢酸)、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、10-ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシピバル酸(2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオン酸)、12-ヒドロキシドデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、乳酸、トリクロロ乳酸、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシオクタン酸、3―ヒドロキシウンデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシオレイン酸等が挙げられ、グリコール酸、4-ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバル酸、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。塗膜の柔軟性を向上させる点から、(e)ヒドロキシアルカン酸は12-ヒドロキシステアリン酸が特に好ましい。(e)ヒドロキシアルカン酸は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0048】
〔(f)ブロックイソシアネート構造〕
(f)ブロックイソシアネート構造とは、イソシアネート基にブロック化剤を付加した構造をいう。ポリウレタン樹脂におけるブロックイソシアネート構造は、一部のポリイソシアネート(b)由来の構造のイソシアネート基にブロック化剤が付加したものであり、通常は、ポリウレタン樹脂の末端に存在する。ブロック化剤は、イソシアナト基と反応してイソシアナト基を別の基に変換可能な化合物であって、熱処理により別の基からイソシアナト基に可逆的に変換可能な化合物を意味する。熱処理温度としては、特に制限されないが、80~180℃が好ましい。
【0049】
ブロック化剤は、マロン酸エステル系化合物、好ましくはマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジエステル系化合物;1,2-ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等のピラゾール系化合物;1,2,4-トリアゾール、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系化合物;ジイソプロピルアミン、カプロラクタム等が挙げられる。ブロック化剤は、解離温度の観点から、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物及びマロン酸エステル系化合物からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。ブロック化剤は、保存安定性及び低温熱架橋性が高い観点から、ピラゾール系化合物がより好ましく、3,5-ジメチルピラゾールが特に好ましい。(f)ブロックイソシアネート構造は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0050】
〔(g)中和剤〕
ポリウレタン樹脂は、(c)酸性基含有ポリオールが有する酸性基を中和させるために中和剤(g)由来の構造を有していてもよい。ポリウレタン樹脂が、中和剤(g)由来の構造を有する場合、ポリウレタン樹脂をより容易に水系媒体中に分散させることができる。中和剤は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、アミノエチルプロパンジオール、トリハイドロキシメチルアミノメタン、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の有機アミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機アルカリ塩;アンモニア等が挙げられる。(g)中和剤は、作業性の観点から、有機アミン類が好ましく、トリエチルアミンがより好ましい。(g)中和剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
〔(h)更なる任意成分〕
(h)更なる任意成分としては、アミノアルコール、モノアルコール及びモノアミン等が挙げられる。(h)更なる任意成分がアミノアルコールである場合、例えば、分子末端に水酸基を含むポリウレタン樹脂が得られる。アミノアルコールは、エタノールアミン、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン等が挙げられ、水分散性の観点でエタノールアミンが好ましい。
【0052】
また、(h)更なる任意成分がモノアルコール又はモノアミンである場合、分子末端が非反応性であるポリウレタン樹脂が得られる。これにより、架橋度を調整でき、塗膜の弾性率を制御してもよい。モノアルコールは、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等が挙げられ、製造の容易性の観点でn-ブタノールが好ましい。モノアミンは、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等が挙げられる。
(h)更なる任意成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
《ポリウレタン樹脂の組成》
ポリウレタン樹脂中の各構造の含有量は、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計が、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、かつ、ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計が、固形分基準で75.0~85.0質量%である限り特に限定されない。ポリウレタン樹脂中の各構造の含有量は、以下の通りが好ましい。本明細書において、ポリウレタン樹脂中の各構造の含有量は、配合量(仕込み量)により計算した値である。また、配合量とは、ポリウレタン樹脂を製造する際に使用する、各構造の原料となる成分の使用量を示す。ポリウレタン樹脂の製造において、各成分は概ね全部反応するため、各成分の配合量をポリウレタン樹脂中の各構造の含有量とする。
【0054】
酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造は、ポリウレタン樹脂中に、30~85質量%含まれることが好ましく、40~80質量%含まれることが特に好ましい。
【0055】
(a)酸性基非含有ポリオールの総質量中における(a-1)ポリエーテルポリオールの割合は、塗膜の柔軟性の観点から、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、85~100質量%であることが特に好ましい。
【0056】
ポリイソシアネート(b)由来の構造は、ポリウレタン樹脂中に、10~50質量%含まれることが好ましく、15~40質量%含まれることが特に好ましい。なお、ポリウレタン樹脂が、ブロックイソシアネート構造を有している場合、ポリイソシアネート由来の構造の含有量は、ブロックイソシアネート構造の含有量を含むものとする。
【0057】
酸性基含有ポリオール(c)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、0.5~20質量%含まれることが好ましく、1.0~15質量%含まれることが特に好ましい。
【0058】
鎖延長剤(d)由来の構造は、(d)鎖延長剤の量が、(A)ポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるブロック化されていないイソシアナト基の当量以下となるような量であることが好ましく、ブロック化されていないイソシアナト基の0.7~0.99当量となるような量が特に好ましい。(d)鎖延長剤の量がブロック化されていないイソシアナト基の当量以下、好ましくは0.99当量以下であると、鎖延長されたポリウレタン樹脂の分子量が低下することが抑制される傾向があり、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の強度がより向上する傾向がある。
【0059】
(d)鎖延長剤中の(d-1)ポリエーテルポリアミンの割合は、10~100モル%であることが好ましく、20~100モル%であることがより好ましく、40~100モル%であることが特に好ましい。
【0060】
ヒドロキシアルカン酸(e)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に、2~10質量%含まれることが好ましく、4~8質量%含まれることが特に好ましい。
【0061】
中和剤(g)由来の構造は、(g)中和剤の量が、ポリウレタン樹脂が有する酸性基1当量あたり、0.4~1.2当量となるような量が好ましく、0.6~1.0当量となるような量が特に好ましい。
【0062】
更なる任意成分(h)由来の構造は、以下であることが好ましい。(h)更なる任意成分がアミノアルコールである場合、アミノアルコールの含有量は、ポリウレタン樹脂の固形分を基準として2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。(h)更なる任意成分がモノアルコール又はモノアミンある場合、モノアルコール及びモノアミンの含有量は、ポリウレタン樹脂の固形分を基準として2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
【0063】
・ウレタン結合とウレア結合
水性ポリウレタン樹脂分散体において、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計が、固形分基準で7.6~15.0質量%であり、8.0~13.0質量%であることが好ましく、8.5~12.0質量%であることがより好ましく、9.0~11.0質量%であることが特に好ましい。ここで、ウレタン結合の含有割合とはポリウレタン樹脂の固形分中におけるウレタン結合単位(-NHCOO-)の含有割合を意味し、ウレア結合の含有割合とはポリウレタン樹脂の固形分中におけるウレア結合単位(-NHCONH-)の含有割合を意味する。即ち、本発明において、ウレア結合単位の含有割合には、イソシアナト基と第2級アミノ基との反応によって形成される結合単位(-NHCONR-)は含まれない。ウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合の合計が7.6質量%未満であると、塗膜を充分に形成できず、乾燥後にも塗膜表面がべたつく等の問題がある。また、ウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合の合計が15.0質量%を超えると、塗膜が硬くなる傾向がある。
【0064】
ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合は、ウレア結合の含有割合との合計が、固形分基準で7.6~15.0質量%であれば特に制限されない。ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合は、固形分基準で4.0質量%以上15.0質量%未満であることが好ましく、4.0~14.0質量%であることが好ましく、5.0~12.0質量%であることがより好ましく、6.0~11.0質量%であることが特に好ましい。
【0065】
ポリウレタン樹脂中のウレア結合の含有割合は、ウレタン結合の含有割合との合計が、固形分基準で7.6~15.0質量%であれば特に制限されない。ポリウレタン樹脂中のウレア結合の含有割合は、固形分基準で1.0~6.0質量%であることが好ましく、1.5~5.0質量%であることがより好ましく、2.0~4.0質量%であることが更に好ましい。ここで、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合及びウレア結合の含有割合は、水性ポリウレタン樹脂分散体を調製する際の各成分の仕込み量から算出できる。また、塗膜の赤外線吸収スペクトルからも算出できる。
【0066】
・ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計
ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計は、固形分基準で75.0~85.0質量%であり、76.0~84質量%であることが好ましく、77.0~82.0質量%であることがより好ましく、77.5~81.0質量%であることが特に好ましい。
【0067】
ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合は、ポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計が、固形分基準で75.0~85.0質量%であれば特に制限されない。ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合は、固形分基準で65.0~84.5質量%であることが好ましく、68.0~82.0質量%であることがより好ましく、70.0~80.0質量%であることが更に好ましい。
【0068】
ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリアミンの含有割合は、ポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合との合計が、固形分基準で75.0~85.0質量%であれば特に制限されない。ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリアミンの含有割合は、固形分基準で0.5~10.0質量%であることが好ましく、1.0~10.0質量%であることがより好ましく、2.0~9.0質量%であることが更に好ましい。
ここで、ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合は、水性ポリウレタン樹脂分散体を調製する際の各成分の仕込み量から算出できる。
【0069】
・分子量
ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、70,000以上であることがより好ましく、90,000以上であることがさらに好ましく、120,000以上であることがさらにより好ましく、150,000以上であることが特に好ましい。前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が50,000以上である場合、得られる塗膜の破断点伸度が大きくなり、衝撃に強い塗膜が得られる傾向がある。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が150,000以下である場合、水への膨潤率がより低く、耐水性に優れる塗膜が得られる傾向がある。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値である。
【0070】
・酸価
ポリウレタン樹脂の酸価は、特に限定されないが、10.0~40.0mgKOH/gであることが好ましく、10.0~35.0mgKOH/gであることがより好ましく、10.0~25.0mgKOH/gであることが特に好ましい。ポリウレタン樹脂の酸価が10.0~40.0mgKOH/gの範囲であると、水系媒体中への分散性がより向上する傾向がある。 ポリウレタン樹脂の酸価は、(c)酸性基含有ポリオール由来の酸価と(e)ヒドロキシアルカン酸由来の酸価の合計である。ポリウレタン樹脂の酸価は、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して測定した値である。
【0071】
〔水系媒体〕
水系媒体としては、水、水と親水性有機溶媒との混合媒体等が挙げられる。水は、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられるが、入手の容易さや塩の影響でポリウレタン樹脂粒子が不安定になることを考慮して、イオン交換水が好ましい。
【0072】
親水性有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級1価アルコール;エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;N-メチルモルホリン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)、β-アルコキシプロピオン酸アミド等の非プロトン性の親水性有機溶媒等が挙げられる。
【0073】
〔水性ポリウレタン樹脂分散体の組成〕
水性ポリウレタン樹脂分散体中におけるポリウレタン樹脂の割合(固形分)は、5~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが特に好ましい。また、水系媒体中の親水性有機溶媒の量は、0~20質量%が好ましく、0~10質量%であることがより好ましい。
【0074】
〔水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法〕
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、特に制限されず、以下の方法が挙げられる。制限されない水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、以下の工程を含む。ここで、前記(a)酸性基非含有ポリオールは、ポリエーテルポリオールを含む。また、前記(d)鎖延長剤は、ポリエーテルポリアミンを含む。
工程1:(a)酸性基非含有ポリオール、(b)ポリイソシアネート、(c)酸性基含有ポリオール化合物、場合により(e)ヒドロキシアルカン酸及び/又はブロック化剤を反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
工程2:ポリウレタンプレポリマー中の酸性基を中和する工程、
工程3:ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程、及び
工程4:ポリウレタンプレポリマーに(d)鎖延長剤を反応させて水性ポリウレタン樹脂分散体を得る工程。
【0075】
〔工程1〕
工程1は、ポリウレタンプレポリマーを得る工程である。ポリウレタンプレポリマーは、(a)酸性基非含有ポリオール、(b)ポリイソシアネート、(c)酸性基含有ポリオール化合物、及び場合により(e)ヒドロキシアルカン酸及び/又はブロック化剤を反応させて得られる。ポリウレタンプレポリマーの製造方法としては、特に制限されない。
【0076】
工程1は、ウレタン化触媒存在下又は不存在下で、(a)酸性基非含有ポリオール、(b)ポリイソシアネートと、(c)酸性基含有ポリオールとを反応させてウレタン化反応を行い、その後、場合により(e)ヒドロキシアルカン酸及び/又はブロック化剤を反応させて、ポリウレタンプレポリマーを合成する方法が好ましい。
【0077】
ウレタン化触媒は、特に制限されず、錫系触媒(トリメチル錫ラウレート、ジブチル錫ジラウレート等)、鉛系触媒(オクチル酸鉛等)等の金属と有機及び無機酸の塩、及び有機金属誘導体、アミン系触媒(トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等)、ジアザビシクロウンデセン系触媒等が挙げられる。ウレタン化触媒は、反応性の観点から、ジブチル錫ジラウレートが好ましい。ブロック化触媒は、特に制限されず、ジブチル錫ジラウレート、ナトリウムメトキシド等のアルカリ触媒が挙げられる。ウレンタン化反応の条件及びブロック化反応の条件は、特に制限されず、用いる成分の反応性等に応じて適宜選択できる。例えば、ウレタン化反応の条件は、50~100℃の温度で、3~15時間とすることができる。ブロック化反応の条件は、50~100℃の温度で、1~5時間とすることができる。ウレンタン化反応及びブロック化反応は、それぞれ独立に行ってもよく、連続して行ってもよい。
【0078】
〔工程2~工程4〕
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法において、酸性基を中和する工程とポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程は、別々に行ってもよいし、一緒に行ってもよい。水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法において、ポリウレタンプレポリマーに(d)鎖延長剤を反応させる工程は、ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程の後でもよく、ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程と一緒に行ってもよい。水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法における各工程は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、大気中で行ってもよい。
【0079】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法において、各成分の使用量は、ポリウレタン樹脂で前記した各成分の含有量となる量が挙げられる。
【0080】
ポリウレタン樹脂に含まれる(h)更なる任意成分の添加段階は任意である。反応性の観点で、モノアルコールはポリウレタンプレポリマーの製造の際に使用することが好ましい。モノアミンはポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させた後に使用することが好ましく、鎖延長剤を添加する前に使用することが好ましい。ポリウレタンプレポリマーの製造の際にモノアルコールを添加する場合は、反応率を向上させる点から60℃以上に加温した状態で反応させることが好ましい。モノアミンを添加する場合は、副反応を抑制する点から60℃以下の状態で反応させることが好ましい。
【0081】
〔コーティング材料組成物〕
コーティング材料組成物は、水性ポリウレタン樹脂分散体、及び任意成分として添加剤を含む。コーティング材料組成物が添加剤を含まない場合、コーティング材料組成物は水性ポリウレタン樹脂分散体のみからなる。添加剤は、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、防かび剤、防錆剤、つや消し剤、難燃剤、粘着性付与剤、揺変剤、滑剤、帯電防止剤、減粘剤、増粘剤、希釈剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、充填剤等が挙げられる。コーティング材料組成物は、金属、セラミック、合成樹脂、不織布、織布、編布、紙等の種々の基材のコーティング(塗膜形成)に適用することができる。
【0082】
〔第1のポリウレタン樹脂フィルム〕
第1のポリウレタン樹脂フィルムは、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られる。水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物は、水性ポリウレタン樹脂分散体及び場合により添加剤を含む。水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物が添加剤を含まない場合、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物は水性ポリウレタン樹脂分散体のみからなる。この場合、第1のポリウレタン樹脂フィルムは、水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させて得られる。添加剤は、コーティング材料組成物で前記した成分が挙げられる。
【0083】
第1のポリウレタン樹脂フィルムの製造方法は、特に制限されず、基材上に、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を塗布する工程、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させてポリウレタン樹脂フィルムを形成する工程を含む方法が挙げられる。前記製造方法で得られる第1のポリウレタン樹脂フィルムは、基材に付着したポリウレタン樹脂フィルムであり、ポリウレタン樹脂の塗膜、ポリウレタン樹脂の樹脂膜、ポリウレタン樹脂の乾燥膜、ポリウレタン樹脂のコーティング層等とも呼ばれる場合がある。
【0084】
水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を塗布するための塗布装置は、特に制限されず、バーコーター、ロールコーター、グラビアロールコーター、エアスプレー等が挙げられる。
【0085】
基材は、特に限定されず、コーティング材料組成物で前記した基材が挙げられる。
【0086】
水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥する方法としては、特に制限されないが、加熱による方法が挙げられる。前記加熱による方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物が塗布された基材を積極加熱する加熱方法等が挙げられる。積極加熱は水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物が塗布された基材を熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。加熱温度としては、40~200℃が挙げられる。
【0087】
また、基材に付着していない独立したポリウレタン樹脂フィルムを得る場合は、前記基材として、剥離性基材を用いることが好ましい。この場合のポリウレタン樹脂フィルムの製造方法は、離型性基材上に、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を塗布する工程、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させてポリウレタン樹脂フィルムを形成する工程、離型性基材とポリウレタン樹脂フィルムとを剥離する工程を含む方法が挙げられる。
【0088】
剥離性基材は、特に制限されず、ガラス基材;ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック基材、;金属基材等が挙げられる。剥離性基材は、各基材の表面を剥離剤処理して得られる。
【0089】
ポリウレタン樹脂フィルムの厚さは、特に制限されないが、0.01mm~0.5mmが好ましい。
【0090】
〔第2のポリウレタン樹脂フィルム〕
第2のポリウレタン樹脂フィルムは、ポリウレタン樹脂を含むポリウレタン樹脂フィルムであって、前記ポリウレタン樹脂は、酸性基非含有ポリオール(a)由来の構造、ポリイソシアネート(b)由来の構造、酸性基含有ポリオール(c)由来の構造及び鎖延長剤(d)由来の構造を含み、前記酸性基非含有ポリオール(a)は、ポリエーテルポリオールを含み、前記鎖延長剤(d)は、ポリエーテルポリアミンを含み、前記ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計は、7.6~15.0質量%であり、前記ポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの含有割合及びポリエーテルポリアミンの含有割合の合計は、75.0~85.0質量%である。
【0091】
第2のポリウレタン樹脂フィルムは、更なる構造を有していてもよい。第2のポリウレタン樹脂フィルムは、添加剤を含んでいてもよい。第2のポリウレタン樹脂フィルムは、水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥することによって製造されてもよい。ここで、更なる構造、添加剤、ポリウレタン樹脂フィルムの製造方法については、水性ポリウレタン樹脂分散体、コーティング材料組成物、及び第1のポリウレタン樹脂フィルムにおいて前記したとおりである。また、更なる構造、添加剤、ポリウレタン樹脂フィルムの製造方法以外についても、水性ポリウレタン樹脂分散体、コーティング材料組成物、及び第1のポリウレタン樹脂フィルムにおける記載を適用することができる。
【実施例0092】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
なお、物性の測定は、以下のとおり行った。
(1)水酸基価:JIS K 1557のB法に準拠して測定した。
(2)酸価:水性ポリウレタン樹脂分散体100gを純水で10倍に希釈し、酢酸10gを室温(23℃)で混合・撹拌した。120メッシュのステンレス金網で析出した固体を濾過した。得られた固体に水600gを注ぎ、室温で30分間撹拌して静置後、120メッシュのステンレス金網で固体を濾過した。同様の操作を5回繰り返した。残った固体を60℃で24時間乾燥させた後、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して酸価を測定した。
(3)ウレタン結合の固形分基準の含有割合(ウレタン結合濃度)、ウレア結合の固形分基準の含有割合(ウレア結合濃度)、イソシアナト基と第2級アミノ基との反応によって形成される結合の固形分基準の含有割合(R-NH-CO-NR’R”濃度)には、水性ポリウレタン樹脂分散体の各原料の仕込み割合からウレタン結合及びウレア結合のモル濃度(モル/g)を算出し、質量分率に換算したものを表記した。質量分率は水性ポリウレタン樹脂分散体の固形分を基準とした。水性ポリウレタン樹脂分散体0.3gを厚さ0.2mmでガラス基板上に塗布し、140℃で4時間加熱乾燥した後に残った質量を測定し、これを乾燥前の質量で割ったものを固形分濃度とした。水性ポリウレタン樹脂分散体の全質量と固形分濃度の積を固形分質量として、前記質量分率を算出した。
(4)ポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合には、水性ポリウレタン樹脂分散体の各原料の仕込み割合から質量分率を算出したものを表記した。
【0093】
(5)ポリウレタン樹脂フィルムの弾性率(100%及び300%モジュラス)、引張強度、破断伸度は、JIS K 7311に準拠する方法で測定した。なお、測定条件は、測定温度23℃、湿度50%、引張速度100mm/分で行った。
【0094】
[実施例1]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(1)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)148.6gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)97.3g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.1gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.4gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1067.8の中に加えた。ついでジェファーミンD400 10.0gとエチレンジアミン(EDA)5.4gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(1)を得た。
【0095】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(A)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(1)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(A)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(A)の膜厚は0.05mmであった。
【0096】
[実施例2]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(2)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)148.6gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)97.1g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.0gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.3gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1148.7の中に加えた。ついでジェファーミンD400(ハンツマン社製) 50.1gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(2)を得た。
【0097】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(B)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(2)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(B)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(B)の膜厚は0.05mmであった。
【0098】
[実施例3]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(3)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)153.7gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)99.8g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.6gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.7gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1083.7の中に加えた。ついでジェファーミンD230(ハンツマン社製) 27.0gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(3)を得た。
【0099】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(C)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(3)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(C)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(C)の膜厚は0.05mmであった。
【0100】
[比較例1]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(4)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)149.5gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)97.1g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.0gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.3gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1067.1の中に加えた。ついでジェファーミンD400(ハンツマン社製) 8.0gとピペラジン(PPZ)8.1gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(4)を得た。
【0101】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(D)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(4)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(D)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(D)の膜厚は0.05mmであった。
【0102】
[比較例2]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(5)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)149.5gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)97.1g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.0gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.3gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1071.2の中に加えた。ついでジェファーミンED600(ハンツマン社製) 9.6gとピペラジン(PPZ)8.3gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(5)を得た。
【0103】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(E)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(5)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(E)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(E)の膜厚は0.05mmであった。
【0104】
[比較例3]
〔水性ポリウレタン樹脂分散体(6)の製造〕
撹拌機、還流冷却管及び温度計を挿入した反応容器に、PTMG2000(登録商標;三菱化学製ポリ(1,4-テトラメチレングリコール);数平均分子量1,955;水酸基価57.4mgKOH/g)400.0g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM)148.6gを窒素気流下で仕込んだ。イソホロンジイソシアネート(IPDI)104.4g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)15.2gを加えて90℃まで加熱し、7時間かけてウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーを得た。反応混合物にトリエチルアミン11.4gを添加・混合したものの中から670gを抜き出して、強撹拌下のもと水1065.2の中に加えた。ついでエチレンジアミン(EDA)8.4gを加えて鎖延長反応を行い、水性ポリウレタン樹脂分散体(6)を得た。
【0105】
〔ポリウレタン樹脂フィルム(F)の製造〕
水性ポリウレタン樹脂分散体(6)をコーティング材料組成物としてガラス板上に塗布し、60℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることにより、良好なコーティング層が得られた。コーティング層を剥離して、ポリウレタン樹脂フィルム(F)を作製した。ポリウレタン樹脂フィルム(F)の膜厚は0.05mmであった。
【0106】
水性ポリウレタン樹脂分散体(1)~(6)の組成を表1に記す。水性ポリウレタン樹脂分散体(1)~(6)における、ポリウレタン樹脂のウレタン結合の含有割合、ウレア結合の含有割合、ポリエーテルポリオールの含有割合とポリエーテルポリアミンの含有割合及び酸価を表2に記す。また、実施例1~3及び比較例1~3で得られた、ポリウレタン樹脂フィルム(A)~(F)の引張特性を表2に記す。
【0107】
【0108】
【0109】
実施例1~3の水性ポリウレタン樹脂分散体から得られるポリウレタン樹脂フィルムは、弾性率が低く、引張強度及び破断伸度のいずれも高かった。よって、実施例1~3の水性ポリウレタン樹脂分散体は、製膜した場合に、強度及び柔軟性の両方に優れていた。
【0110】
比較例1及び比較例2は、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合の含有割合とウレア結合の含有割合との合計が、固形分基準で7.6質量%未満であることから、特に引張強度が低かった。比較例3は、鎖延長剤(d)がポリエーテルポリアミンを含まないため、特に柔軟性が劣っていた。
水性ポリウレタン樹脂分散体は、塗料やコーティング材料、フィルムの原料等として広く利用できる。本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、特に、建材、電気機器、車両、産業機器、柔軟な基材や事務機等の鋼板の電着塗膜の保護被膜を設けるための塗料やコーティング剤、フィルムの原料等として有用である。