2025-56856 眼科装置及び顎受け高さ制御方法

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2025056856

(43)【公開日】2025-04-09

(54)【発明の名称】眼科装置及び顎受け高さ制御方法

(51)【国際特許分類】

   A61B 3/00 20060101AFI20250401BHJP

【ＦＩ】

A61B3/00

【審査請求】未請求

【請求項の数】12

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023166362

(22)【出願日】2023-09-27

(71)【出願人】

【識別番号】000220343

【氏名又は名称】株式会社トプコン

(74)【代理人】

【識別番号】240000327

【弁護士】

【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】大宮 健

(72)【発明者】

【氏名】林 亮夫

【テーマコード（参考）】

4C316

【Ｆターム（参考）】

4C316AA09

4C316AB02

4C316AB16

4C316FC02

4C316FZ01

(57)【要約】

【課題】顎受け高さ制御の際、被検者に与える違和感や不快感を抑えながら、目標高さ位置情報を取得する検者の入力操作が短時間で完了する眼科装置及び顎受け高さ制御方法を提供すること。
【解決手段】眼科装置Ａは、本体部２０と、顔支持部３３と、顎受け部３０と、制御部６０と、を備える。制御部６０は、入力部から所定の情報を受け付けると、顎受け部３０の駆動制御を行う顎受け高さ制御部６３１を有する。入力部は、顎受け高さ制御部６３１が受け付ける所定の情報として、顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得するスライドレバー装置８０である。スライドレバー装置８０は、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。
【選択図】図４

【特許請求の範囲】

【請求項1】

被検眼の特性測定や撮影をする光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、目高ラインを有する顔支持部と、前記顔支持部に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部と、装置各部を制御する制御部と、を備える眼科装置であって、
前記制御部は、入力部から所定の情報を受け付けると、前記顎受け部の駆動制御を行う顎受け高さ制御部を有し、
前記入力部は、前記顎受け高さ制御部が受け付ける所定の情報として、前記顎受け部の目標高さ位置情報を取得する目標高さ位置入力部であり、
前記目標高さ位置入力部は、被検者の顔の位置が、前記被検眼と前記目高ラインとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、前記被検者の顎が前記顎受け部から離れているとき、前記被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により前記目標高さ位置情報を取得する
ことを特徴する眼科装置。

【請求項2】

請求項１に記載された眼科装置において、
前記目標高さ位置入力部は、前記顎受け部のデフォルト位置から前記顎受け部の上昇限度である最大ストローク位置までのストローク量に対応してスライドするレバー部と、前記レバー部の位置を検出するストローク位置センサ部と、を有するスライドレバー装置である
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項3】

請求項２に記載された眼科装置において、
前記顔支持部は、一対の縦支柱部と、前記一対の縦支柱部の上端部を繋ぐ横支柱部と、を有し、
前記スライドレバー装置は、前記一対の縦支柱部のうち少なくとも片側の縦支柱部に取り付けられ、前記顎受け部の隣接位置であって、前記レバー部のスライド方向が前記顎受け部の昇降移動軌跡の方向と平行となる配置にする
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項4】

請求項３に記載された眼科装置において、
前記スライドレバー装置のストローク位置センサ部は、前記検者が前記レバー部をスライドさせて所定の位置で止めるレバー操作を行うと、スライド移動や停止に応じた位置信号を出力するスライドポテンショメータによるセンサ部である
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項5】

請求項２から４までの何れか一項に記載された眼科装置において、
前記スライドレバー装置は、前記ストローク量に対応してスライドさせる前記レバー部の隣接位置に、前記レバー部の各位置が表す情報を提示する位置表示部を有する
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項6】

請求項５に記載された眼科装置において、
前記位置表示部は、前記レバー部の各位置が表す情報として、前記顎受け部のデフォルト位置から最大ストローク位置までの可動範囲を長さ単位により表示する目盛を刻む
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項7】

請求項１に記載された眼科装置において、
前記顔支持部と前記顎受け部と前記被検者の顔を含む画像を取得するカメラと、前記カメラからの画像を表示する画面を有する操作制御部と、を備え、
前記目標高さ位置入力部は、前記顎受け部のデフォルト位置から前記顎受け部が上昇する最大ストローク位置までのストローク量に対応し、前記操作制御部の画面に表示される画面表示入力部であり、
前記画面表示入力部は、前記検者が前記被検者の顎の高さ位置を特定する前記画面へのタッチ操作により前記顎受け部の目標高さ位置情報を取得する
ことを特徴とする眼科装置。

【請求項8】

眼科装置は、被検眼の特性測定や撮影をする光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、目高ラインを有する顔支持部と、前記顔支持部に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部と、装置各部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、目標高さ位置入力部から目標高さ位置情報を受け付けると、前記顎受け部の駆動制御を行う顎受け高さ制御部を有する顎受け高さ制御方法であって、
被検者の顔の位置が、前記被検眼と前記目高ラインとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、前記被検者の顎が前記顎受け部から離れているとき、前記目標高さ位置入力部に対して前記被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する目標高さ位置入力ステップと、
前記顎受け高さ制御部が、前記目標高さ位置入力部から前記目標高さ位置情報を受け付けると、前記顎受け部を目標高さ位置まで上昇させる駆動制御を行う顎受け高さ制御ステップと、を有する
ことを特徴とする顎受け高さ制御方法。

【請求項9】

請求項８に記載された顎受け高さ制御方法において、
前記眼科装置は、上下方向の高さ調整が可能な光学テーブルに載置され、
前記目標高さ位置入力ステップは、前記被検者が前記眼科装置に対峙している検査姿勢のとき、検者が、前記被検眼の高さ位置に、前記顔支持部に設けられた目高ラインの位置が合うように前記光学テーブルを上下方向に移動させ、前記調整状態を処方する
ことを特徴とする顎受け高さ制御方法。

【請求項10】

請求項９に記載された顎受け高さ制御方法において、
前記顔支持部は、前記被検者の額を当てる額当て部を有し、
前記目標高さ位置入力ステップは、前記調整状態の位置であり、かつ、前記被検者が前記額当て部に額を当てた状態であるとき、前記検者が、前記目標高さ位置入力部に対して前記被検者の顎の高さ位置を指定する入力操作を行う
ことを特徴とする顎受け高さ制御方法。

【請求項11】

請求項１０に記載された顎受け高さ制御方法において、
前記顎受け高さ制御ステップは、前記顎受け部が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップを含む
ことを特徴する顎受け高さ制御方法。

【請求項12】

請求項８から１１までの何れか一項に記載された顎受け高さ制御方法において、
前記顎受け高さ制御ステップは、前記顎受け部から前記目標高さ位置までの移動距離が設定距離以上であるとき、高速モードの顎受け速度制御処理ステップを含み、
前記高速モードの顎受け速度は、目標高さ位置より低い位置の第１設定距離までの上昇速度を、移動距離が設定距離未満であるときの低速モードの上昇速度よりも速くする
ことを特徴する顎受け高さ制御方法。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、眼科装置及び顎受け高さ制御方法に関する。

【背景技術】

【0002】

オートアライメント開始前に顎受け部の高さを制御する顎受け高さ制御技術としては、例えば、特許文献１～特許文献４に記載されている技術が提案されている。特許文献１には、被検者の顎を乗せた顎受け部の位置を目高ラインの位置に合わせるように調整することで安定性の高いアライメントを実現する技術が記載されている。特許文献２には、被検眼の瞳孔位置がオートアライメントの可能範囲内に入るように、顎受け部又は測定部を駆動することでスムーズに検査を行うことができる眼科装置を提供する技術が記載されている。特許文献３には、被検眼の前眼部を見ながら容易に被検眼と検眼部との位置調整を行う眼科装置を提供する技術が記載されている。特許文献４には、被検眼の位置合わせに用いる顎受け部の高さ調整の手間を軽減できるとともに、検者の意思に基づいて顎受け部を上下させることができる眼科装置を提供する技術が記載されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特許第６１８８３３８号公報

【特許文献2】特許第３９３５８３４号公報

【特許文献3】特許第４９８７３９１号公報

【特許文献4】特許第４６４９２１８号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

ところで、顎受け高さ制御とは、被検眼と眼科装置の位置関係を、オートアライメントを開始できる位置関係に整える制御をいう。この顎受け高さ制御は、被検眼の高さ位置が顔支持部に設けられた目高ラインの位置に合うように、被検者の顔を載せる顎受け部の高さ位置を調整することで行われる。なお、目高ラインは、顔支持部の両側位置に、被検眼を適正な高さ位置に調整する目安として設けられている。目高ラインは、その高さ位置を眼科装置の本体部の対物レンズなどによる測定部開口の高さ中心位置に符合させている。

【0005】

これに対し、先行技術の顎受け高さ制御は、特許文献１～４の何れの文献をみても、デフォルト位置の顎受け部に被検者の顎（下顎底）を載せ、被検者の顎が接した状態のままで、顎受け部を上下方向に駆動して顎受け高さ制御を行う構成になっている。よって、被検者は、顎受け高さ制御中、意図しないタイミングで顔が顎受け部により押し上げられたり、顎受け部の低下に伴って不意に顔が下げられたりする。このため、被検者は、顎受け高さ制御の際、顎受け部の駆動により違和感や不快感を受ける。また、顎受け部の高さをスイッチ操作により調整する場合、検者は、被検眼と目高ラインの位置関係を監視しながら、高さ調整が完了するまで上昇スイッチ又は下降スイッチを押し続ける必要がある。このため、検者は、顎受け高さ制御の際、顎受け部の高さを調整するスイッチ操作に長時間を要するし、高さ調整操作中に他の作業ができない。

【0006】

本発明は、上記課題に着目してなされたもので、顎受け高さ制御の際、被検者に与える違和感や不快感を抑えながら、目標高さ位置情報を取得する検者の入力操作が短時間で完了する眼科装置及び顎受け高さ制御方法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明の眼科装置は、被検眼の特性測定や撮影をする光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、目高ラインを有する顔支持部と、前記顔支持部に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部と、装置各部を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、入力部から所定の情報を受け付けると、前記顎受け部の駆動制御を行う顎受け高さ制御部を有する。前記入力部は、前記顎受け高さ制御部が受け付ける所定の情報として、前記顎受け部の目標高さ位置情報を取得する目標高さ位置入力部である。前記目標高さ位置入力部は、被検者の顔の位置が、前記被検眼と前記目高ラインとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、前記被検者の顎が前記顎受け部から離れているとき、前記被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により前記目標高さ位置情報を取得する。

【0008】

眼科装置は、被検眼の特性測定や撮影をする光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、目高ラインを有する顔支持部と、前記顔支持部に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部と、装置各部を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、目標高さ位置入力部から目標高さ位置情報を受け付けると、前記顎受け部の駆動制御を行う顎受け高さ制御部を有する。本発明の顎受け高さ制御方法は、目標高さ位置入力ステップと、顎受け高さ制御ステップと、を有する。前記目標高さ位置入力ステップは、被検者の顔の位置が、前記被検眼と前記目高ラインとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、前記被検者の顎が前記顎受け部から離れているとき、前記目標高さ位置入力部に対して前記被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。前記顎受け高さ制御ステップは、前記顎受け高さ制御部が、前記目標高さ位置入力部から前記目標高さ位置情報を受け付けると、前記顎受け部を目標高さ位置まで上昇させる駆動制御を行う。

【発明の効果】

【0009】

本発明に係る眼科装置及び顎受け高さ制御方法は、顎受け高さ制御の際、被検者に与える違和感や不快感を抑えながら、目標高さ位置情報を取得する検者の入力操作が短時間で完了する。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】実施例１の眼科装置が光学テーブルに載置された状態を示す斜視図である。

【図2】実施例１の眼科装置を被検者側から視た状態を示す正面図である。

【図3】実施例１の眼科装置での被検眼の測定／撮影状態を示す側面図である。

【図4】実施例１の眼科装置でのスライドレバー装置を示す詳細図である。

【図5】実施例１の眼科装置の制御系をあらわすブロック図を示す。

【図6】被検眼撮影時における基本操作の流れを示すフローチャートである。

【図7】検者操作及び顎受け高さ制御処理の流れを示すフローチャートである。

【図8】高速モードによる顎受け部駆動制御作用を示すタイムチャートである。

【図9】実施例２の眼科装置での画面表示入力部を示す画面図である。

【図10】スライドレバー装置の他例を示す側面図である。

【発明を実施するための形態】

【0011】

本発明の眼科装置及び顎受け高さ制御方法を実施するための形態は、図面に示す実施例１及び実施例２に基づいて以下のように説明される。

【0012】

実施例１及び実施例２に適用される眼科装置は、被検眼の前眼部像、被検眼の眼底像、被検眼の眼底断層像を観察、撮影及び記録し、電子画像として診断のために提供する装置である。なお、図１～図４のＸ，Ｙ，Ｚは、被検眼を基準として眼科装置の本体部に対峙したときの左右方向（水平方向）の左右軸をＸ軸で示し、上下方向（鉛直方向）の上下軸をＹ軸で示し、Ｘ軸及びＹ軸と直交する前後方向（奥行き方向）の前後軸をＺ軸で示す。

【実施例0013】

［装置全体構成（図１～図３）］
眼科装置Ａは、図１に示すように、架台部１０と、本体部２０と、顎受け部３０と、コントロールパネル部４０と、光学系５０と、制御部６０と、光学テーブル７０と、スライドレバー装置８０（目標高さ位置入力部）と、を備えている。

【0014】

眼科装置Ａは、被検眼Ｅの眼底像を取得する眼底カメラと、被検眼Ｅの眼底断層像を取得するＯＣＴ（「Optical Coherence Tomography」の略称）と、を含む構成であり、“３次元眼底像撮影装置”と呼ばれる。ここで、「眼底カメラ」は、被検眼Ｅの奥にある網膜や視神経、毛細血管などの眼底状態を画像化し、眼底像を撮影するカメラである。「ＯＣＴ」は、光の干渉を利用して被検眼Ｅの眼底に存在する網膜の断層を画像化し、眼底断層像を撮影する光干渉断層計である。

【0015】

架台部１０は、Ｙ軸方向の高さ調整が可能な光学テーブル７０に載置される。架台部１０は、その上面位置に本体部２０がＸ軸、Ｙ軸、Ｚ軸の三軸方向に移動可能に支持される。架台部１０は、その前面位置に顎受け部３０が設けられる。架台部１０は、その両側面位置に電源スイッチ１１と、電源インレット１２と、ＵＳＢ端子１３と、ＬＡＮ端子１４と、が設けられる。「ＵＳＢ」は、「Universal Serial Bus」の略称であり、「ＬＡＮ」は、「Local Area Network」の略称である。ＵＳＢ端子１３は、外部メモリ接続用端子であり、図３に示すように、ＨＤＤ（「Hard Disk Drive」の略）やＵＳＢメモリなどが接続される。ＬＡＮ端子１４は、ＬＡＮケーブル１５を介して専用ソフトウェアなどがインストールされているパーソナルコンピュータ１６が接続される。

【0016】

架台部１０は、図３に示すように、電源部１７とＸＹＺ駆動部１８が内蔵される。電源部１７は、電源スイッチ１１と電源インレット１２とＵＳＢ端子１３とＬＡＮ端子１４などを含む。ＸＹＺ駆動部１８は、アライメント制御において架台部１０に対して本体部２０を移動させるとき、本体部２０をＸＹＺ軸の三軸方向（三次元方向）に駆動するモータ及びモータ駆動回路を有するモータアクチュエータである。

【0017】

本体部２０は、顎受け部３０が固定される架台部１０に対してＸＹＺ駆動部１８によりＸ軸方向とＹ軸方向とＺ軸方向に移動可能に設けられる。本体部２０は、顎受け部３０に対して被検者が適正な位置関係にて顎を支持した状態で、被検眼Ｅの眼特性を測定する光学系５０が、全体を覆う本体カバー２１に内蔵される。本体カバー２１の背面上部位置には、図１，３に示すようにコントロールパネル部４０が配置される。本体カバー２１の内部空間には、図３に示すように、光学系５０以外に制御部６０が内蔵される。

【0018】

本体カバー２１は、図２に示すように、前面位置の中央部に、被検眼Ｅと対峙する光学系５０の対物レンズ５１を有する。対物レンズ５１は、その周辺部に、前眼部ステレオカメラ２２と、周辺固視灯２３と、前眼部観察フィルター２４と、を有する。

【0019】

前眼部ステレオカメラ２２は、被検者の前眼部撮影により前眼部画像を取得するカメラである。この前眼部ステレオカメラ２２は、対物レンズ５１の両側位置に、測定対象である被検眼Ｅの前眼部に向かってレンズ光軸を傾斜配置した２個の右カメラ２２ａと左カメラ２２ｂによって構成される。右カメラ２２ａと左カメラ２２ｂは、被検眼Ｅの選択とそのときの画角に応じて顎受け部３０に支持された被検者の顔の一部を切り取った右側前眼部画像及び左側前眼部画像を取得する。また、前眼部ステレオカメラ２２は、Ｘ軸方向の幅寸法と見込み角度を決めて配置した２個の右カメラ２２ａと左カメラ２２ｂにより構成している。このため、前眼部ステレオカメラ２２は、右カメラ２２ａと左カメラ２２ｂからの２つの前眼部画像に基づく計算処理により被検眼Ｅの三次元座標位置を特定することが可能である。

【0020】

周辺固視灯２３は、点灯することによって被検眼Ｅの視線を固定させるために用いられる固視灯であり、対物レンズ５１の外周位置に等間隔で８個配置される。前眼部観察フィルター２４は、前眼部観察や前眼部ＯＣＴの際、に光量調整するために用いられるフィルターであり、右カメラ２２ａの外側位置と左カメラ２２ｂの外側位置の縦方向にそれぞれ２個（合計４個）配置される。

【0021】

顎受け部３０は、被検者の顎を受ける部材であり、図２及び図３に示すように、架台部１０に固定された顎受け支持部３１（＝顔支持部３３）に対し上下方向に駆動可能に設けられる。顎受け部３０は、内蔵された顎受け駆動部３２により昇降する昇降ロッド３０ａと、該昇降ロッド３０ａの上端位置に固定された顎受け台３０ｂと、該顎受け台３０ｂの両側位置に設けられた顎受け紙止めピン３０ｃと、を有している。顎受け駆動部３２は、アライメント制御において顎受け支持部３１（＝架台部１０）に対して顎受け部３０をＹ軸方向に移動させるとき、昇降ロッド３０ａをＹ軸方向に駆動するモータ及びモータ駆動回路を有するモータアクチュエータである。

【0022】

顎受け支持部３１は、図２に示すように、Ｔ字形状の両端部位置に、顎受け部３０に顎を支持した被検者の顔を３方向から囲む形状の顔支持部３３が固定される。顔支持部３３は、架台部１０に固定されている部材であり、Ｙ軸方向に延びる一対の縦支柱部３３１，３３２と、一対の縦支柱部３３１，３３２の上端部を繋ぐ横支柱部３３３と、を有する。一対の縦支柱部３３１，３３２は、対物レンズ５１による測定部開口の高さ中心位置に符合するそれぞれの位置に、被検眼Ｅを適正な高さ位置に調整する目安となる目高ライン３３ａが設けられる。横支柱部３３３は、被検者の額が接する面の中央部位置に、着脱可能であり、シリコーンゴムなどで形成された額当て部３３ｂが設けられる。さらに、横支柱部３３３は、被検者の額が接する面とは反対面の中央位置に、多段階に折り曲げ可能なアーム３４が設けられ、アーム３４の先端部には図示していない外部固視標が設けられる。

【0023】

コントロールパネル部４０は、図１及び図３に示すように、本体カバー２１の背面上部位置に配置される。コントロールパネル部４０は、前眼部ステレオカメラ２２からの被検眼Ｅの前眼部画像や光学系５０からの被検眼Ｅの前眼部観察像などをカラー表示する画面４１を有している。画面４１は、表示されたボタン像や画像などを検者が指によってタッチ操作することが制御部６０への入力操作になるタッチパネルになっている。コントロールパネル部４０は、本体部２０に対して連結支持部４２により連結支持される。連結支持部４２は、画面４１を本体部２０に対して全周方向の何れの位置にも設定可能であるとともに、画面４１の傾斜角度も自由に設定可能な折れ曲げ支持と回転支持の組み合わせ支持構造にしている。

【0024】

コントロールパネル部４０は、検者が被検者の傍に寄り添って眼特性の検査を行うときに用いられる。連結支持部４２は、検者が眼科装置Ａの周囲のどこの位置にいても画面４１を検者にとって操作しやすい位置に配置できる機能を確保している。なお、図１に示す遠隔操作用タブレット４０’は、検者が遠隔操作により眼特性の検査を行うときに用いられる。遠隔操作用タブレット４０’は、タッチパネルによる画面４１’を有し、コントロールパネル部４０と同等の入力操作機能を備えるのに加え、本体部２０との通信機能を備えている。

【0025】

光学系５０は、顎受け部３０に被検者が顎を支持した状態で被検眼Ｅの眼特性を測定するもので、図３に示すように、対物レンズ５１を有する眼底カメラユニット５２と、ＯＣＴユニット５３と、を有している。眼底カメラユニット５２は、照明光学系と撮影光学系とを含み、レンズや撮像素子などにより被検眼Ｅの眼底像を取得する眼底カメラを構成するユニットである。ＯＣＴユニット５３は、波長可変光源やファイバカプラなどにより被検眼Ｅの眼底断層像を取得するＯＣＴを構成するユニットである。なお、光学系５０は、被検眼Ｅの眼底像と眼底断層像を取得する機能以外に、被検眼Ｅの前眼部観察像を取得する機能も併せて有する。

【0026】

制御部６０は、コントロールパネル部４０の画面４１へのタッチ操作などを含む各種の入力操作に基づいて、装置各部（眼底カメラユニット５２、ＯＣＴユニット５３、顎受け部３０、本体部２０など）を制御する。制御部６０は、ハードウェア構成として、図３に示すように、制御基板６０ａと、ＣＰＵ基板６０ｂと、画像ボード６０ｃと、を有している。

【0027】

光学テーブル７０は、図１に示すように、眼科装置Ａが載置される天板７１と、天板支柱７２と、キャスター支柱７３と、テーブル昇降機構７４と、昇降レバー７５と、キャスターベース７６と、キャスター７７と、を備えている。テーブル昇降機構７４は、天板支柱７２とキャスター支柱７３の内部に配置され、キャスター支柱７３に対して天板支柱７２を昇降する。昇降レバー７５は、眼科装置Ａが載置される天板７１及び天板支柱７２を手動操作で昇降させる手動操作部である。なお、天板ストローク量は、例えば、２００ｍｍ程度に設定されている。ここで、実施例１の光学テーブル７０は、座面の高さが調整可能な椅子７８に被検者が座った状態（座位）で測定を行う眼科装置Ａであるため、座位測定に対応する高さを有している。なお、光学テーブルは、被検者が立った状態（立位）で測定を行う眼科装置とすることもでき、この場合、椅子７８を備える必要がなく、立位測定に対応する高さを有するテーブルを使用する。

【0028】

スライドレバー装置８０は、制御部６０に有する後述の顎受け高さ制御部６３１が受け付ける情報を、顎受け部３０の目標高さ位置情報としているのに伴い、目標高さ位置情報を、検者の入力操作により取得する目標高さ位置入力部である。このスライドレバー装置８０は、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎が顎受け部３０から離れているとき、被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。

【0029】

［スライドレバー装置の詳細構成（図４）］
スライドレバー装置８０は、一対の縦支柱部３３１，３３２のそれぞれに対し、目高ライン３３ａより下方の位置に取り付けられる。なお、顔支持部３３は、顎受け支持部３１に固定され、目高ライン３３ａが設けられた一対の縦支柱部３３１，３３２と、一対の縦支柱部３３１，３３２の上端部を繋ぎ、被検者の額Ｆを当てる額当て部３３ｂが設けられた横支柱部３３３と、を有する。

【0030】

スライドレバー装置８０は、顎受け部３０の隣接位置であって、レバー部８１のスライド方向が顎受け部３０の昇降移動軌跡の方向（Ｙ軸方向）と平行となる配置にしている。なお、顎受け部３０は、顎受け支持部３１（＝顔支持部３３）に対して上下方向（Ｙ軸方向）に駆動可能に設けられる。

【0031】

スライドレバー装置８０は、レバー部８１と、ストローク位置センサ部８２と、を有する。レバー部８１は、顎受け部３０の被検者の顎Ｊを受ける顎受け台３０ｂの上面をインデックスとする。レバー部８１は、顎受け部３０のデフォルト位置（最下部の位置）から顎受け部３０の上昇限度である最大ストローク位置までのストローク量（例えば、６７ｍｍ程度）に対応してスライドする。ストローク位置センサ部８２は、検者がレバー部８１をスライドさせて所定の位置で止めるレバー操作を行うと、スライド移動や停止に応じた位置信号を出力するスライドポテンショメータによるセンサ部である。

【0032】

スライドレバー装置８０は、図４に示すように、所定の条件が成立する状況の際、被検者の顎Ｊの高さ位置にレバー部８１の位置を合わせる検者のレバー操作により、顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得できる。ここで、「所定の条件が成立する状況」とは、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れている状況をいう。なお、スライドレバー装置８０は、例えば、眼科装置Ａの片側が壁に接しているような場合、検者によるレバー操作が可能な壁の反対側のみに１個取り付けてもよい。また、スライドレバー装置８０は、２個取り付けている場合、何れか１個に対する検者のレバー操作を行っても目標高さ位置情報の取得を有効とする。さらに、レバー部８１は、顔支持部３３のうち眼科装置Ａ（測定部）に対向する端面からＺ軸方向に突出させて設けてもよい（図１０を参照）。

【0033】

スライドレバー装置８０は、図４に示すように、ストローク量に対応してスライドさせるレバー部８１の隣接位置に、レバー部８１の各位置が表す情報を提示する位置表示部８３を有する。位置表示部８３は、レバー部８１の各位置が表す情報として、顎受け部３０のデフォルト位置から最大ストローク位置までの可動範囲（例えば、０ｍｍ～６７ｍｍ）を長さ単位により表示する目盛８３ａを刻んでいる。また、位置表示部８３は、目盛８３ａに隣接する位置に、顎受け部３０の上昇駆動速度として２倍速が設定されるとき、点灯数により２倍速領域を表すＬＥＤアレイ表示部８３ｂを設けている。

【0034】

なお、位置表示部８３により提示する情報は、レバー部８１の各位置が表す情報であれば、目盛８３ａによるレバー部８１の位置情報（＝顎受け部３０の目標高さ位置情報）、及び、ＬＥＤアレイ表示部８３ｂの点灯数による２倍速領域情報に限られない。位置表示部８３は、例えば、年齢帯別の平均による顎の高さ位置を刻んでもよいし、年齢帯別に男女別の違いを加えたときの平均の顎の高さ位置を刻んでもよい。位置表示部８３は、被検者のＩＤから取得される年齢情報や性別情報に基づいて、平均の顎の高さ位置を目標高さ位置として点灯させ、検者によるレバー部８１のスライド位置を決める検者入力の指針情報としてもよいし、仮の目標高さ位置情報としてもよい。また、ＬＥＤアレイ表示部８３ｂは、２倍速領域を表す以外の用途に使用することもできる。例えば、インデックスとする顎受け台３０ｂが目立たない場合は、顎受け台３０ｂの現在位置をＬＥＤアレイ表示部８３ｂにより点灯表示しても良い。また、スライドレバー装置８０が顔支持部３３の両側に有する場合は、顎受け台３０ｂの現在位置を両側のＬＥＤアレイ表示部８３ｂにより点灯表示して現在位置表示を強調してもよい。

【0035】

［制御系構成（図５）］
制御系は、図５に示すように、コントロールパネル部４０（画面４１）と、光学系５０（眼底カメラユニット５２、ＯＣＴユニット５３）と、制御部６０と、を有している。

【0036】

制御部６０は、眼底カメラユニット５２及びＯＣＴユニット５３を制御する主制御部６１と、必要データを記憶しておく記憶部６２と、アライメント制御部６３と、を備えている。アライメント制御部６３は、前眼部ステレオカメラ２２（右カメラ２２ａ、左カメラ２２ｂ）により被検者の顔の左前眼部と右前眼部のそれぞれを異なる２方向から撮影することで前眼部画像を取得する。また、アライメント制御部６３は、光学系５０により被検眼Ｅの右眼と左眼のそれぞれの前眼部と眼底を撮影することで前眼部正面画像及び眼底正面画像を取得する。

【0037】

アライメント制御部６３は、ＸＹＺ駆動部１８と顎受け駆動部３２の少なくとも一方へ出力する駆動指令により、被検眼Ｅと本体部２０に設けられた対物レンズ５１との相対位置関係の調整を行う。ここで、ＸＹＺ駆動部１８と顎受け駆動部３２の使い分けは、調整移動量がＸＺ軸方向移動量のみであればＸＹＺ駆動部１８を用いる。一方、調整移動量にＹ軸方向移動量を含む場合は、ＸＹＺ駆動部１８の移動許容範囲より顎受け駆動部３２のＹ軸移動許容範囲が広いため、ＸＹＺ駆動部１８と顎受け駆動部３２を使い分ける。例えば、顎受け高さ制御でのＹ軸移動は、顎受け駆動部３２を用い、オートアライメントやマニュアルアライメントでのＹ軸移動は、ＸＹＺ駆動部１８を用いる。

【0038】

アライメント制御部６３は、図５に示すように、顎受け高さ制御部６３１と、オートアライメント部６３２と、マニュアルアライメント部６３３と、を有している。

【0039】

顎受け高さ制御部６３１は、スライドレバー装置８０から目標高さ位置情報を受け付けると、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態で、顎受け部３０を被検者の顎Ｊの位置まで上昇させる駆動制御を行う。まず、検者は、レバー操作により光学テーブル７０を上下移動させ、眼科装置Ａの高さ位置を、被検眼Ｅに目高ライン３３ａの高さ位置を合わせた調整状態の位置とする処方をする。次に、検者は、被検者の額Ｆを額当て部３３ｂへ押し当てることを要求する。そして、検者は、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態の処方が維持され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、スライドレバー装置８０のレバー部８１に対するレバー操作を行う。スライドレバー装置８０は、被検者の顎Ｊの高さ位置をレバー部８１のスライド位置により指定する検者入力によって目標高さ位置情報を取得する。次に、顎受け高さ制御部６３１は、スライドレバー装置８０から目標高さ位置情報を受け付けると、顎受け部３０を、目標高さ位置まで上昇させる駆動指令を顎受け駆動部３２に出力する制御を行う。

【0040】

オートアライメント部６３２は、前眼部ステレオカメラ２２により取得される前眼部画像に基づいて、瞳孔に対するオートアライメントを実行する。瞳孔に対するオートアライメントは、画面４１の動画エリアに表示されている２つの前眼部画像の瞳孔マークが合うように撮影眼の自動調整により行われる。撮影眼の自動調整は、ＸＹＺ駆動部１８の駆動により、前眼部画像の中央位置に２つの瞳孔マークが重なって配置されるように、自動的にＸＹＺ軸アライメント調整する制御である。

【0041】

マニュアルアライメント部６３３は、オートアライメント開始からの経過時間が予め設定した制限時間を経過したとき、又は、検者が積極的にマニュアル操作を選択したとき、瞳孔に対するマニュアルアライメントを実行する。瞳孔に対するマニュアルアライメントは、オートアライメント画面に表示されているマニュアルモードボタンをタップすると、撮影眼の自動調整を中止し、手動で撮影眼の調整を行う「マニュアル調整モード」へ移行する。「マニュアル調整モード」は、画面４１に表示されている２つの前眼部画像の瞳孔マークをタップ操作する撮影眼のマニュアル調整により行われる。このマニュアル調整は、ＸＹＺ駆動部１８の駆動により、前眼部画像の中央位置に２つの瞳孔マークが重なって配置されるように、ＸＹＺ軸アライメント調整が行われる。

【0042】

［被検眼画像の撮影処理動作（図６）］
制御部６０において実行される被検眼画像（例えば、前眼部像、眼底像、眼底断層像の何れかの画像）を撮影するときの撮影処理動作は、図６を参照して以下のように説明される。なお、撮影処理動作は、電源スイッチをオンにした眼科装置Ａによる被検者が確定したらスタートする。

【0043】

ステップＳ１は、検者が、患者（＝被検者）を特定する氏名や患者ＩＤによる患者登録をするステップである。ここで、「患者ＩＤ」は、被検者の眼科検査に係る個人情報を管理するための識別番号であり、年齢や性別やフォローアップのための過去の検査情報などを含めることができる。

【0044】

ステップＳ２は、アライメント制御部６３の顎受け高さ制御部６３１が、顎受け高さ制御を行うステップである。なお、顎受け高さ制御は、その詳しい内容を後述する。

【0045】

ステップＳ３は、検者が、撮影種別の選択をするステップである。この撮影種別の選択は、コントロールパネル部４０の画面４１に表示される撮影アイコン選択画面から撮影モード（前眼部像撮影モード、眼底像撮影モード、眼底断層像撮影モードなど）の何れかをタッチ操作により選択することで行われる。なお、撮影種別の選択と併せて、表示ボタンのタッチ操作により撮影眼が選択される。

【0046】

ステップＳ４は、アライメント制御部６３のオートアライメント部６３２が、撮影眼の瞳孔に対するオートアライメント（自動調整）を実行するステップである。なお、オートアライメント時間が長引いたときや検者が積極的に希望したときは、瞳孔に対するオートアライメント（自動調整）に代え、瞳孔に対するマニュアルアライメント（手動調整）がマニュアルアライメント部６３３により実行される。

【0047】

ステップＳ５は、主制御部６１が、自動的に焦点調整するオートフォーカスを行うステップである。このオートフォーカスは、前眼部像撮影モードの際、被検眼Ｅの前眼部に対して焦点の調整をし、眼底像撮影モード及び眼底断層像撮影モードの際、被検眼Ｅの眼底に対して焦点の調整をする。

【0048】

ステップＳ６は、検者が、被検眼画像（例えば、前眼部像、眼底像、眼底断層像の何れかの画像）を撮影するステップである。この撮影は、画面４１に表示される撮影画面にて「ＯＫボタン」をタップ操作したら今回の撮影をし、次の撮影に移行する。そして、１回の撮影毎に撮影画像のプレビューが表示される。

【0049】

ステップＳ７は、検者が、撮影画像のプレビューを確認し、プレビュー確認ＯＫかプレビュー確認ＮＧかを判断するステップである。ステップＳ７は、プレビュー確認ＯＫと判断したらステップＳ８へ進む。ステップＳ７は、プレビュー確認ＮＧと判断したらステップＳ５へ戻り、再びオートフォーカスを行い、ステップＳ７にてプレビュー確認ＯＫと判断されるまでステップＳ６にて撮影を試みる。

【0050】

ステップＳ８は、検者が、撮影画像を記憶部６２に保存するステップである。この画像保存は、画面４１に表示される撮影画面にて「保存ボタン」をタップ操作したらそのときの撮影画像が記憶部６２に保存され、保存を完了したらエンドへ進む。

【0051】

［顎受け高さ制御処理動作（図７）］
患者登録が完了したらスタートし、図６のステップＳ２（顎受け高さ制御）にて実行される顎受け高さ制御処理動作は、図７を参照して以下のように説明される。なお、図７のステップＳ２０１～Ｓ２０４は、目標高さ位置入力ステップに相当し、図７のステップＳ２０５～Ｓ２１７は、顎受け高さ制御ステップに相当する。

【0052】

ステップＳ２０１は、検者が、被検者に対して椅子７８に座るように促すことで、被検者が椅子７８に座るステップである。検者は、被検者を椅子７８に座らせるとき、同じ姿勢を維持できる楽な姿勢で座るようにアドバイスする。

【0053】

ステップＳ２０２は、検者が、目高ライン３３ａに被検眼Ｅが合うように光学テーブル７０を上下移動するステップである。検者は、被検眼Ｅよりも目高ライン３３ａが低いとき、光学テーブル７０の昇降レバー７５を上向きにするレバー操作を行い、眼科装置Ａの位置を高くすることで、目高ライン３３ａを被検眼Ｅの高さ位置に合わせる。検者は、被検眼Ｅよりも目高ライン３３ａが高いとき、光学テーブル７０の昇降レバー７５を下向きにするレバー操作を行い、眼科装置Ａの位置を低くすることで、目高ライン３３ａを被検眼Ｅの高さ位置に合わせる。ここで、天板ストローク量は、例えば、２００ｍｍ程度に設定され、しかも、椅子７８は、座面の高さが調整可能である。よって、目高ライン３３ａと被検眼Ｅの高さ位置を合わせは、椅子７８に被検者が座った状態（座位）で測定を行うとき、子供から大人までの被検者に対応できる。

【0054】

ステップＳ２０３は、検者が、被検者に対して額当て部３３ｂに額Ｆを当てるように要求することで、被検者が額Ｆを額当て部３３ｂに当てるステップである。検者は、被検者が額当て部３３ｂに額Ｆを当てるように要求するとき、目高ライン３３ａと被検眼Ｅの高さ位置を合わせた状態の被検者の顔の位置をずらすことなく維持できる程度に額Ｆを額当て部３３ｂに押し当てるようにアドバイスする。

【0055】

ステップＳ２０４は、検者が、被検者の顎Ｊの位置から目標顎受け位置情報を取得するステップである。検者は、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、スライドレバー装置８０のレバー部８１に対するレバー操作を行う。スライドレバー装置８０は、被検者の顎Ｊの高さ位置をレバー部８１のスライド位置により指定する検者入力によって目標高さ位置情報を取得する。

【0056】

ステップＳ２０５は、顎受け高さ制御部６３１が、スライドレバー装置８０から受け付けた目標高さ位置情報に基づいて、顎受け部３０の現在位置から目標高さ位置までの移動距離を算出し、移動距離が設定距離以上であるか否かを判定するステップである。設定距離は、例えば、顎受け部３０を停止から２倍速になるまで加速上昇させた後、顎受け部３０を２倍速から１倍速になるまで減速上昇させることが可能なトータル距離（＝加速距離＋減速距離）に設定される。そして、ステップＳ２０５は、移動距離が設定距離以上であると判定した場合、ステップＳ２０６へ進み、移動距離が設定距離未満であると判定した場合、ステップＳ２１３へ進む。

【0057】

ステップＳ２０６は、顎受け高さ制御部６３１が、ステップＳ２０５での移動距離が設定距離以上であるとの判定に基づいて、顎受け部３０を停止から２倍速になるまで加速上昇させ、顎受け部３０が素早く位置を変更するステップである。

【0058】

ステップＳ２０７は、顎受け高さ制御部６３１が、顎受け部３０の移動距離が第１設定距離以上になったか否かを判定するステップである。第１設定距離は、移動距離が設定距離以上であると判定した場合、その際、算出された移動距離から減速距離を差し引いた距離である。第１設定距離は、言い換えると、目標高さ位置に到達するまでに２倍速から１倍速まで減速できる減速距離を残した位置までの距離といえる。ステップＳ２０７は、移動距離が第１設定距離未満であると判定されている間、ステップＳ２０６へ戻り、移動距離が設定距離以上と判定されると、ステップＳ２０８へ進む。ここで、顎受け部３０の移動距離情報は、顎受け駆動部３２を構成するモータアクチュエータにおいて取得される。なお、ステップＳ２０５からステップＳ２０６→ステップＳ２０７へ進む流れを繰り返す処理は、顎受け速度制御処理ステップに相当する。

【0059】

ステップＳ２０８は、顎受け高さ制御部６３１が、顎受け部３０の移動距離が第１設定距離以上であるとの判定に基づいて、顎受け部３０を２倍速から１倍速になるまで減速上昇させ、顎受け部３０がゆっくりと位置を変更するステップである。

【0060】

ステップＳ２０９は、顎受け高さ制御部６３１が、被検眼Ｅの瞳孔の上昇速度を測定するステップである。瞳孔の上昇速度測定は、画面４１の動画エリアに表示されている前眼部画像の瞳孔マークの単位時間当たりの位置変化量によって測定する。

【0061】

ステップＳ２１０は、顎受け高さ制御部６３１が、測定により取得した瞳孔の上昇速度が、そのときの顎受け部３０の上昇速度と同じか否かを判定するステップである。すなわち、ステップＳ２１０は、被検者の顎Ｊに顎受け部３０が接触して被検者の顎Ｊを押し上げると、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度とが同じ速度になることを利用し、顎受け部３０が被検者の顎Ｊに到達していることを判定するステップである。

【0062】

ステップＳ２１１は、顎受け高さ制御部６３１が、顎受け部３０の移動距離が目標高さ位置に到達したか否かを判定するステップである。ステップＳ２１１は、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が異なり、かつ、顎受け部３０が目標高さ位置に到達していないと判定されている間、ステップＳ２０８へ戻り、顎受け部３０が目標高さ位置に到達した判定されると、顎受け部３０の上昇駆動を停止してエンドへ進む。ここで、顎受け部３０の移動距離情報は、顎受け駆動部３２を構成するモータアクチュエータにおいて取得される。

【0063】

ステップＳ２１２は、顎受け高さ制御部６３１が、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が同じであるとの判定に基づき、顎受け部３０の上昇駆動を途中で停止し、エンドへ進むステップである。なお、ステップＳ２１０からステップＳ２１２へ進む流れは、顎受け部３０が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップに相当する。

【0064】

ステップＳ２１３は、顎受け高さ制御部６３１が、ステップＳ２０５での顎受け部３０の移動距離が設定距離未満であるとの判定に基づいて、顎受け部３０を１倍速にて上昇させ、顎受け部３０がゆっくりと位置を変更するステップである。

【0065】

ステップＳ２１４は、顎受け高さ制御部６３１が、被検眼Ｅの瞳孔の上昇速度を測定するステップである。瞳孔の上昇速度測定は、ステップＳ２０９と同様に、画面４１の動画エリアに表示されている前眼部画像の瞳孔マークの単位時間当たりの位置変化量によって測定する。

【0066】

ステップＳ２１５は、顎受け高さ制御部６３１が、ステップＳ２１０と同様に、測定により取得した瞳孔の上昇速度が、そのときの顎受け部３０の上昇速度と同じか否かを判定するステップである。

【0067】

ステップＳ２１６は、顎受け高さ制御部６３１が、ステップＳ２１１と同様に、顎受け部３０の移動距離が目標高さ位置に到達したか否かを判定するステップである。ステップＳ２１６は、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が異なり、かつ、顎受け部３０が目標高さ位置に到達していないと判定されている間、ステップＳ２１３へ戻り、顎受け部３０が目標高さ位置に到達した判定されると、顎受け部３０の上昇駆動を停止してエンドへ進む。ここで、顎受け部３０の移動距離情報は、顎受け駆動部３２を構成するモータアクチュエータにおいて取得される。

【0068】

ステップＳ２１７は、顎受け高さ制御部６３１が、ステップＳ２１２と同様に、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が同じであるとの判定に基づき、顎受け部３０の上昇駆動を途中で停止し、エンドへ進むステップである。なお、ステップＳ２１５からステップＳ２１７へ進む流れは、顎受け部３０が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップに相当する。

【0069】

［目標高さ位置情報の取得作用（図４、図７）］
検者の操作により実行される目標高さ位置情報の取得作用は、図７の目標高さ位置入力ステップ（ステップＳ２０１～ステップＳ２０４）での処理動作により行われるもので、図４、図７を参照して以下のように説明される。

【0070】

図７の処理は、顎受け高さ制御で用いる目標高さ位置情報の取得を開始する条件が成立すると、ステップＳ２０１→ステップＳ２０２→ステップＳ２０３→ステップＳ２０４へと進む。検者は、ステップＳ２０１において、被検者に対して椅子７８に座るように促すことで、被検者を椅子７８に座らせる。検者は、ステップＳ２０２において、目高ライン３３ａに被検眼Ｅが合うように光学テーブル７０を上下移動させる。検者は、ステップＳ２０３において、被検者に対して額当て部３３ｂに額Ｆを当てるように要求することで、被検者の額Ｆが額当て部３３ｂに当てられる。検者は、ステップＳ２０４において、スライドレバー装置８０に対して入力操作することで、被検者の顎Ｊの位置から目標顎受け位置情報が取得される。

【0071】

スライドレバー装置８０に対する検者の入力操作は、図４に示すように、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方する条件１と、及び、額当て部３３ｂに被検者の額Ｆを押し当てた状態にする条件２と、の成立を開始条件とする。条件１は、光学テーブル７０を上下移動させ、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置が合うテーブル高さ調整を行うことで成立する。条件２は、被検者が、検者からの要求に応えて額Ｆを額当て部３３ｂに当てることで成立する。

【0072】

開始条件が成立したときの被検者の顔は、図４に示すように、被検者の額Ｆが額当て部３３ｂに押し当てられていることで、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態が維持される。このときの被検者の顎Ｊと顎受け部３０の位置関係は、図４に示すように、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れている位置関係になる。よって、検者は、スライドレバー装置８０のレバー部８１を、図４の仮想線によるデフォルト位置から図４の矢印Ｓ方向にスライド移動させ、図４の実線による被検者の顎Ｊの高さ位置に止めるレバー操作を行う。このレバー操作は、被検者の顎Ｊの高さ位置をレバー部８１のスライド位置により指定する操作になり、スライドレバー装置８０のストローク位置センサ部８２からの電気信号（電圧値又は電流値）により目標高さ位置情報が取得される。

【0073】

ところで、現状の顎受け高さ調整は、顎受け部に被検者の顎を載せ、被検者の顎が接した状態のままで、顎受け部を、上昇スイッチ又は下降スイッチへのスイッチ操作により駆動し、被検眼の高さ位置を目高ラインの高さ位置に合わせている。よって、被検者は、顎受け高さ制御中、意図しないタイミングで顔が顎受け部により押し上げられたり、顎受け部の低下に伴って不意に顔が下げられたりする。このため、被検者は、顎受け高さ制御の際、顎受け部の駆動により違和感や不快感を受ける。また、検者は、被検眼と目高ラインの位置関係を監視しながら、高さ調整が完了するまで上昇スイッチ又は下降スイッチを押し続ける必要がある。このため、検者は、顎受け高さ調整の際、顎受け部の高さを調整するスイッチ操作に長時間を要するし、高さ調整操作中に他の作業ができない。

【0074】

このように、現状の顎受け高さ調整は、顎受け高さ調整の最後に被検眼の高さ位置を目高ラインの高さ位置に合わせようとするため、最初から顎受け部に被検者の顎を載せた状態を保っておく必要がある。これに対し、本発明者は、順序を逆にして最初に被検眼の高さ位置を目高ラインの高さ位置に合わせておくと、最後に顎受け部が被検者の顎に接触するまで、顎受け部と顎の非接触状態を保つことができる点に着目した。

【0075】

上記着目点によるスライドレバー装置８０は、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、目標高さ位置情報を取得する。したがって、顎受け部３０は、目標高さ位置情報を取得する開始タイミングから顎受け高さ制御の終了直前タイミングまでは被検者の顎Ｊから離れている。このため、目標高さ位置情報を取得するとき、顎受け部３０から被検者が受ける違和感や不快感が抑えられる。また、スライドレバー装置８０は、被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。したがって、目標高さ位置情報を取得するとき、被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する入力操作を検者が行うだけで目標高さ位置情報を取得できる。このため、目標高さ位置情報を取得するとき、入力操作が短時間で完了し、余裕時間で他の作業をすることもできる。

【0076】

実施例１の目標高さ位置入力部は、デフォルト位置から最大ストローク位置までのストローク量に対応してスライドするレバー部８１と、レバー部８１の位置を検出するストローク位置センサ部８２と、を有するスライドレバー装置８０である。したがって、目標高さ位置情報は、被検者の顎Jの高さ位置にスライドレバー装置８０のレバー部８１の位置を合わせて指定する検者のレバー操作により取得される。

【0077】

スライドレバー装置８０は、一対の縦支柱部３３１，３３２のうち少なくとも片側の縦支柱部に取り付けられ、顎受け部３０の隣接位置であって、レバー部８１のスライド方向が顎受け部３０の昇降移動軌跡の方向と平行となる配置にしている。したがって、検者によるレバー部８１のスライド操作は、スライド量が顎受け部３０の移動量と合致する顎受け部３０の昇降移動軌跡の方向に沿った操作になる。

【0078】

ストローク位置センサ部８２は、検者がレバー部８１をスライドさせて所定の位置で止めるレバー操作を行うと、スライド移動や停止に応じた位置信号を出力するスライドポテンショメータによるセンサ部としている。したがって、スライドレバー装置８０は、レバー部８１のスライド移動や停止に応じた位置信号を、目標高さ位置情報として出力する。

【0079】

スライドレバー装置８０は、ストローク量に対応してスライドさせるレバー部８１の隣接位置に、レバー部８１の各位置が表す情報を提示する位置表示部８３を有する。したがって、検者は、レバー操作前に位置表示部８３を見ると、レバー部８１をスライド移動させるときの移動量の目安となる情報を認識できる。さらに、検者は、レバー操作後に位置表示部８３を見ると、レバー停止位置が表す情報を認識できる。

【0080】

位置表示部８３は、レバー部８１の各位置が表す情報として、顎受け部３０のデフォルト位置から最大ストローク位置までの可動範囲を長さ単位により表示する目盛８３ａを刻む。したがって、検者は、レバー操作前に位置表示部８３の目盛８３ａを見ると、レバー部８１をスライド移動させるときの移動量の目安となる長さ情報を認識できる。さらに、検者は、レバー操作後に位置表示部８３の目盛８３ａを見ると、可動範囲に対してレバー部８１の停止位置が表す長さ情報を認識できる。

【0081】

［顎受け高さ制御作用（図７、図８）］
顎受け高さ制御部６３１により実行される顎受け高さ制御作用は、図７の顎受け高さ制御ステップ（ステップＳ２０５～ステップＳ２１７）での処理動作により行われるもので、図７、図８を参照して以下のように説明される。

【0082】

図７の処理は、顎受け高さ制御部６３１がスライドレバー装置８０から目標高さ位置情報を受け付けると、ステップＳ２０４からステップＳ２０５へと進む。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２０５において、スライドレバー装置８０から受け付けた目標高さ位置情報に基づいて、顎受け部３０の現在位置から目標高さ位置までの移動距離を算出し、移動距離が設定距離以上であるか否かが判定される。そして、図７の処理は、ステップＳ２０５において、移動距離が設定距離以上であると判定された場合、ステップＳ２０６以降へ進み、高速モードによる顎受け部３０の顎受け高さ制御が実行される。

【0083】

図７の処理は、ステップＳ２０５→ステップＳ２０６→ステップＳ２０７へと進むと、ステップＳ２０７にて移動距離が第１設定距離未満であると判定されている間、ステップＳ２０６→ステップＳ２０７へと進む流れが繰り返される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２０５での移動距離が設定距離以上であるとの判定に基づいて、ステップＳ２０６において、顎受け部３０を停止から２倍速になるまで加速上昇させ、顎受け部３０の位置を素早く変更させる。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２０７において、顎受け部３０の移動距離が第１設定距離以上になったか否かが判定される。

【0084】

図７の処理は、ステップＳ２０７において、顎受け部３０の移動距離が第１設定距離以上であると判定されると、ステップＳ２０７からステップＳ２０８→ステップＳ２０９→ステップＳ２１０→ステップＳ２１１へ進む。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２０８において、顎受け部３０を２倍速から１倍速になるまで減速上昇させ、顎受け部３０の位置をゆっくりと変更させる。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２０９において、被検眼Ｅの瞳孔の上昇速度が測定される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１０において、測定により取得した瞳孔の上昇速度が、その際、の顎受け部３０の上昇速度と同じか否かが判定される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１１において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達したか否かが判定される。

【0085】

図７の処理は、ステップＳ２１０において、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が異なると判定され、かつ、ステップＳ２１１において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達していないと判定されている間、ステップＳ２０８へ戻る。そして、図７の処理は、ステップＳ２０８→ステップＳ２０９→ステップＳ２１０→ステップＳ２１１へ進む流れが繰り返される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１１において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達した判定されると、エンドへ進む。また、顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１０において、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が同じであると判定されると、ステップＳ２１２へ進み、顎受け部３０が停止され、エンドへ進む。

【0086】

一方、図７の処理は、ステップＳ２０５において、移動距離が設定距離未満であると判定された場合、ステップＳ２１３以降へ進み、低速モードによる顎受け部３０の顎受け高さ制御が実行される。

【0087】

図７の処理は、ステップＳ２０５からステップＳ２１３→ステップＳ２１４→ステップＳ２１５→Ｓ２１６へと進む。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１３において、顎受け部３０を１倍速にて上昇させ、顎受け部３０の位置をゆっくりと変更させる。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１４において、被検眼Ｅの瞳孔の上昇速度が測定される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１５において、測定により取得した瞳孔の上昇速度が、そのときの顎受け部３０の上昇速度と同じか否かが判定される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１６において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達したか否かが判定される。

【0088】

図７の処理は、ステップＳ２１５において、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が異なると判定され、かつ、ステップＳ２１６において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達していないと判定されている間、ステップＳ２１３へ戻る。そして、図７の処理は、ステップＳ２１３→ステップＳ２１４→ステップＳ２１５→ステップＳ２１６へ進む流れが繰り返される。顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１６において、顎受け部３０が目標高さ位置に到達したと判定されると、エンドへ進む。また、顎受け高さ制御部６３１は、ステップＳ２１５において、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が同じであると判定されると、ステップＳ２１７へ進み、顎受け部３０が停止され、エンドへ進む。

【0089】

顎受け高さ制御ステップ（Ｓ２０５～Ｓ２１７）は、顎受け部３０が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップ（Ｓ２１０→Ｓ２１２、Ｓ２１５→Ｓ２１７）を含んでいる。すなわち、顎受け高さ駆動制御中の顎受け部３０は、原則として被検者の顎Jから離れた位置を上昇しているため、被検眼Ｅの瞳孔が動かないで停止している。しかし、被検眼Ｅの瞳孔は、上昇している顎受け部３０が被検者の顎Jに接触して被検者の顔を押し上げると、顎受け部３０の上昇速度と同じ速度により上昇する。したがって、顎受け高さ駆動制御中の顎受け部３０は、瞳孔の上昇速度と顎受け部３０の上昇速度が同じであると判定されると、直ちに停止するようにしている。よって、被検者は、その顎Ｊを目標高さ位置に向かって上昇している顎受け部３０により必要以上に押し上げられるのが防止される。

【0090】

顎受け高さ制御ステップ（Ｓ２０５～Ｓ２１７）は、顎受け部３０から目標高さ位置までの移動距離が設定距離以上であるとき、高速モードの顎受け速度制御処理ステップ（ステップＳ２０５～ステップＳ２０７）を含んでいる。高速モードの顎受け速度は、目標高さ位置より低い位置の第１設定距離までの上昇速度を、移動距離が設定距離未満であるときの低速モードの上昇速度よりも速くしている。

【0091】

すなわち、高速モードの顎受け速度特性は、図８の実線特性に示すように、時刻t0から時刻t2までの区間にて２倍速に到達し、時刻t2から第１設定距離に到達する時刻t3までの区間にて２倍速を維持する。そして、高速モードの顎受け速度特性は、時刻t3から時刻t4までの区間にて２倍速から１倍速まで減速し、１倍速になった時刻t4のタイミングで顎受け部３０が目標高さ位置に到達する。これに対し、顎受け部３０から目標高さ位置までの移動距離が設定距離以上であるとき、高速モードではなく、低速モードの顎受け速度制御を行ったとする。この低速モードの顎受け速度特性は、図８の破線特性に示すように、時刻t0から時刻t1までの区間にて１倍速に到達し、時刻t1から時刻t5までの区間にて１倍速を維持し、時刻t5のタイミングで顎受け部３０が目標高さ位置に到達する。このため、目標高さ位置への到達時間は、高速モードの場合に時刻t4になり、低速モードの場合に時刻t5になり、高速モードを選択することで低速モードを選択する場合に比べて時間が短縮される。この時間短縮代Δtは、時刻t5から時刻t4を差し引いた時間になり、高速モードを選択すると、顎受け高さ制御が短時間で完了する。また、高速モードの顎受け速度特性は、図８の実線特性に示すように、顎受け部３０が目標高さ位置に到達する時刻t4での顎受け部３０の上昇速度が１倍速であり、低速モードと同様の上昇速度まで減速される。したがって、顎受け部３０の移動距離が設定距離以上の際、被検者の顎Ｊへの顎受け部３０の接触違和感を軽減させる。なお、「１倍速」は、被検者に違和感を与えるのを抑える極低速度域の上昇速度であり、例えば、現行の顎受け高さ調整において採用されている上昇速度程度である。

【0092】

［眼科装置Ａ及び顎受け高さ制御方法の効果］
（１）眼科装置Ａは、被検眼Ｅの特性測定や撮影をする光学系５０を内蔵する本体部２０と、本体部２０に設けられ、目高ライン３３ａを有する顔支持部３３と、顔支持部３３に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部３０と、装置各部を制御する制御部６０と、を備える。制御部６０は、入力部から所定の情報を受け付けると、顎受け部３０の駆動制御を行う顎受け高さ制御部６３１を有する。入力部は、顎受け高さ制御部６３１が受け付ける所定の情報として、顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得する目標高さ位置入力部（スライドレバー装置８０）である。目標高さ位置入力部は、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。
この発明は、顎受け高さ制御の際、被検者に与える違和感や不快感を抑えながら、目標高さ位置情報を取得する検者の入力操作が短時間で完了する眼科装置Ａを提供できる。

【0093】

（２）目標高さ位置入力部は、顎受け部３０のデフォルト位置から顎受け部３０の上昇限度である最大ストローク位置までのストローク量に対応してスライドするレバー部８１と、レバー部８１の位置を検出するストローク位置センサ部８２と、を有するスライドレバー装置８０である。
この発明は、レバー操作をするとき、被検者の顎Jの高さ位置にレバー部８１の位置を合わせて指定する検者の簡単なレバー操作によって、顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得できる。

【0094】

（３）顔支持部３３は、一対の縦支柱部３３１，３３２と、一対の縦支柱部３３１，３３２の上端部を繋ぐ横支柱部３３３と、を有する。スライドレバー装置８０は、一対の縦支柱部３３１，３３２のうち少なくとも片側の縦支柱部に取り付けられ、顎受け部３０の隣接位置であって、レバー部８１のスライド方向が顎受け部３０の昇降移動軌跡の方向と平行となる配置にする。
この発明は、レバー操作をするとき、検者は、顎受け部３０の移動量と合致するスライド量によるレバー操作を、顎受け部３０の昇降移動軌跡の方向に沿って行える。

【0095】

（４）スライドレバー装置８０のストローク位置センサ部８２は、検者がレバー部８１をスライドさせて所定の位置で止めるレバー操作を行うと、スライド移動や停止に応じた位置信号を出力するスライドポテンショメータによるセンサ部である。
この発明は、レバー操作をするとき、検者がスライドレバー装置８０のレバー部８１に対しスライド移動や停止の操作を行うと、レバー操作に応じた位置信号を出力できる。

【0096】

（５）スライドレバー装置８０は、ストローク量に対応してスライドさせるレバー部８１の隣接位置に、レバー部８１の各位置が表す情報を提示する位置表示部８３を有する。
この発明は、レバー操作を開始するとき、検者が位置表示部８３を見ると、レバー部８１をスライド移動させる移動量の目安となる情報を認識できる。さらに、この発明は、レバー操作を終了するとき、検者が位置表示部８３を見ると、レバー停止位置が表す情報を認識できる。

【0097】

（６）位置表示部８３は、レバー部８１の各位置が表す情報として、顎受け部３０のデフォルト位置から最大ストローク位置までの可動範囲を長さ単位により表示する目盛８３ａを刻む。
この発明は、レバー操作を開始するとき、検者が位置表示部８３の目盛８３ａを見ると、レバー部８１をスライド移動させるときに移動量の目安となる長さ情報を認識できる。さらに、この発明は、レバー操作を終了するとき、検者がレバー操作後に位置表示部８３の目盛８３ａを見ると、可動範囲に対してレバー部８１の停止位置が表す長さ情報を認識できる。

【0098】

（７）眼科装置Ａは、被検眼Ｅの特性測定や撮影をする光学系５０を内蔵する本体部２０と、本体部２０に設けられ、目高ライン３３ａを有する顔支持部３３と、顔支持部３３に対し上下方向に駆動可能に設けられる顎受け部３０と、装置各部を制御する制御部６０と、を備える。制御部６０は、目標高さ位置入力部（スライドレバー装置８０）から目標高さ位置情報を受け付けると、顎受け部３０の駆動制御を行う顎受け高さ制御部６３１を有する。顎受け高さ制御方法は、目標高さ位置入力ステップ（ステップＳ２０１～ステップＳ２０４）と、顎受け高さ制御ステップ（ステップＳ２０５～ステップＳ２１７）と、を有する。目標高さ位置入力ステップは、被検者の顔の位置が、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎Ｊが顎受け部３０から離れているとき、目標高さ位置入力部に対して被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得する。顎受け高さ制御ステップは、顎受け高さ制御部６３１が、目標高さ位置入力部から目標高さ位置情報を受け付けると、顎受け部３０を目標高さ位置まで上昇させる駆動制御を行う。
この発明は、顎受け高さ制御の際、被検者に与える違和感や不快感を抑えながら、目標高さ位置情報を取得する検者の入力操作が短時間で完了する顎受け高さ制御方法を提供できる。

【0099】

（８）眼科装置Ａは、上下方向の高さ調整が可能な光学テーブル７０に載置される。目標高さ位置入力ステップ（ステップＳ２０１～ステップＳ２０４）は、被検者が眼科装置Ａに対峙している検査姿勢のとき、検者が、被検眼Ｅの高さ位置に、顔支持部３３に設けられた目高ライン３３ａの位置が合うように光学テーブル７０を上下方向に移動させ、調整状態を処方する。
この発明は、検者による光学テーブル７０の上下移動操作により、被検眼Ｅと目高ライン３３ａとの高さ位置を合わせることができる。

【0100】

（９）顔支持部３３は、被検者の額Ｆを当てる額当て部３３ｂを有する。目標高さ位置入力ステップ（ステップＳ２０１～ステップＳ２０４）は、調整状態の位置であり、かつ、被検者が額当て部３３ｂに額Ｆを当てた状態であるとき、検者が、目標高さ位置入力部（スライドレバー装置８０）に対して被検者の顎Ｊの高さ位置を指定する入力操作を行う。
この発明は、目標高さ位置を入力するとき、検者による目標高さ位置の入力操作を、被検者の顔が固定された安定状態で行うことができる。ちなみに、被検者は、その額Ｆを額当て部３３ｂに当てることで、被検眼Ｅと目高ライン３３ａの高さ位置を合わせた調整状態で顔が安定して固定される。

【0101】

（１０）顎受け高さ制御ステップ（Ｓ２０５～Ｓ２１７）は、顎受け部３０が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップ（Ｓ２１０→Ｓ２１２、Ｓ２１５→Ｓ２１７）を含む。
この発明は、顎受け高さ制御の際、目標高さ位置に向かって上昇している顎受け部３０により、被検者の顎Ｊを必要以上に押し上げるのを防止できる。

【0102】

（１１）顎受け高さ制御ステップ（Ｓ２０５～Ｓ２１７）は、顎受け部３０から目標高さ位置までの移動距離が設定距離以上であるとき、高速モードの顎受け速度制御処理ステップ（ステップＳ２０５～ステップＳ２０７）を含む。高速モードの顎受け速度は、目標高さ位置より低い位置の第１設定距離までの上昇速度を、移動距離が設定距離未満であるときの低速モードの上昇速度よりも速くする。
この発明は、顎受け部３０の移動距離が設定距離以上である顎受け高さ制御の際、被検者の顎Ｊへの顎受け部３０の接触違和感を軽減しながら、顎受け部３０の上昇駆動を短時間で完了できる。

【実施例0103】

実施例２は、目標高さ位置入力部を、コントロールパネル部４０の画面４１に表示される画面表示入力部８４とした例である。なお、実施例２の装置全体構成（図１～図３）、制御系構成（図５）、被検眼画像の撮影処理動作（図６）、顎受け高さ制御処理動作（図７）は、実施例１と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。

【0104】

［画面表示入力部の詳細構成（図９）］
画面表示入力部８４の詳細構成は、図９を参照して下記のように説明される。

【0105】

実施例２は、顔支持部３３と顎受け部３０と被検者の顔を含む画像を取得するカメラと、カメラからの画像を表示する画面４１を有するコントロールパネル部４０（操作制御部）と、を備える。ここで、カメラは、実施例１の前眼部ステレオカメラ２２を兼用してもよいし、前眼部ステレオカメラ２２以外に、顔支持部３３と顎受け部３０と被検者の顔を捉える位置に新たに設けたカメラとしてもよい。なお、前眼部ステレオカメラ２２は、兼用する場合、広角画像から狭角画像まで対応するズームレンズ付きカメラとする。

【0106】

画面表示入力部８４は、図９に示すように、画面４１に映し出された顔支持部３３に固定した被検者の顔を映し出すカメラ画像を表示する動画エリア４１ａに設けられる。画面表示入力部８４は、動画エリア４１ａのうち、画面４１に映し出された顎受け部３０のデフォルト位置から顎受け部３０が上昇する最大ストローク位置までのストローク量に対応する動画エリア４１ａの位置に表示される。画面表示入力部８４は、縦方向に複数個並べて配列し、タッチ操作により点灯する表示要素により構成される。

【0107】

コントロールパネル部４０の画面４１は、動画エリア４１ａ以外に、入力開始ボタン４１ｂと、セットボタン４１ｃと、上昇スイッチ４１ｄと、下降スイッチ４１ｅと、キャンセルボタン４１ｆと、を表示する。これらのボタン４１ｂ，４１ｃ，４１ｆや上昇スイッチ４１ｄ及び下降スイッチ４１ｅは、タッチ操作により作動する。上昇スイッチ４１ｄと下降スイッチ４１ｅは、必要に応じてマニュアル操作による現行の顎受け部３０の高さ調整ができるように設定している。キャンセルボタン４１ｆは、目標高さ位置の入力操作や顎受け部３０の上昇させる駆動制御が思い通りに行えなかったとき、操作キャンセルや制御キャンセルを行うスイッチである。

【0108】

画面表示入力部８４は、検者が被検者の顎Ｊの高さ位置を特定する画面４１へのタッチ操作により顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得する。目標高さ位置情報の取得は、入力開始ボタン４１ｂをタッチした後、画面表示入力部８４の複数の表示要素から被検者の顎Ｊの高さ位置に対応する表示要素にタッチして点灯させる。このタッチ操作により点灯している表示要素の高さ位置が、被検者の顎Ｊの高さ位置に対応していることを確認したら、セットボタン４１ｃをタッチすることで、目標高さ位置情報が取得される。なお、目標高さ位置情報を受け付けた顎受け高さ制御部６３１により実行される顎受け高さ制御作用は、実施例１と同様である。

【0109】

実施例２の眼科装置Ａ及び顎受け高さ制御方法は、実施例１の（１）、（７）～（１１）の効果に加え、下記の効果が得られる。
（１２）顔支持部３３と顎受け部３０と被検者の顔を含む画像を取得するカメラ（前眼部ステレオカメラ２２）と、カメラからの画像を表示する画面４１を有する操作制御部（コントロールパネル部４０）と、を備える。目標高さ位置入力部は、顎受け部３０のデフォルト位置から顎受け部３０が上昇する最大ストローク位置までのストローク量に対応し、操作制御部の画面４１に表示される画面表示入力部８４である。画面表示入力部８４は、検者が被検者の顎Ｊの高さ位置を特定する画面４１へのタッチ操作により顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得する。
この発明は、画面表示入力部８４に対しタッチ操作を行うとき、被検者の顎Jの高さ位置に合わせてタッチ位置を指定する検者の簡単なタッチ操作によって、顎受け部３０の目標高さ位置情報を取得できる。また、この発明は、目標高さ位置入力部を、画面４１へのタッチ操作により行える画面表示入力部８４とした場合、タブレットなどからの遠隔操作によるリモート検査に対応できる。

【0110】

実施例１及び実施例２の眼科装置Ａ及び顎受け高さ制御方法は、図面を参照して以上のように説明された。しかし、本発明の眼科装置及び顎受け高さ制御方法の具体的な構成は、実施例１及び実施例２に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。

【0111】

実施例１は、目標高さ位置入力部として、スライドレバー装置８０を用いる例を示し、実施例２は、目標高さ位置入力部として、画面表示入力部８４を用いる例を示した。しかし、目標高さ位置入力部は、スライドレバー装置８０や画面表示入力部８４の例に限られない。例えば、指を接触移動させることで位置を指定するスライドタッチ装置、又は、図９に示す画面表示入力部８４以外の表示形態（例えば、図４に示すように被検者の顔を横からみた画像など）による入力部としてもよい。目標高さ位置入力部は、被検者の顔の位置が、被検眼と目高ラインとの高さ位置を合わせた調整状態に処方され、被検者の顎が顎受け部から離れているとき、被検者の顎の高さ位置を指定する検者の入力操作により目標高さ位置情報を取得するものであればよい。

【0112】

実施例１は、スライドレバー装置８０として、スライドポテンショメータによるストローク位置センサ部８２を有する例を示した。しかし、スライドレバー装置は、スライドポテンショメータを有する例に限られない。例えば、スライドタッチセンサ、ＬＩＤＡＲ指位置入力装置、ラインタクトスイッチなどであってもよい。

【0113】

実施例１は、スライドレバー装置８０として、図４に示すように、レバー部８１をＸ軸方向に突出させて設ける例を示した。しかし、スライドレバー装置８０は、実施例１の構成に限られることはない。スライドレバー装置８０は、例えば、図１０に示すように、レバー部８１を、眼科装置Ａに対向する端面からＺ軸方向（奥行方向）に突出させて設ける例としてもよい。このように、レバー部８１を眼科装置Ａに対向する端面からＺ軸方向に突出させて設けた場合、被検者の顎Ｊの高さ位置を指定したときのレバー部８１と、デフォルト位置の顎受け部３０と、が側面視で平行な上下位置関係により配置される。このため、図１０に示すスライドレバー装置８０は、検者による高さ位置を指定するレバー操作が容易であると共に、レバー部８１による指定位置が、上昇駆動させた後の顎受け部３０の目標停止位置になるという相互の位置関係を容易に認識できる。

【0114】

実施例１及び実施例２は、顎受け部３０が必要以上の高さまで上がることがなくて適正な位置を保つ安全項目処理ステップ（Ｓ２１０→Ｓ２１２、Ｓ２１５→Ｓ２１７）として、瞳孔と顎受け部３０の上昇速度と同じになると顎受け部３０を停止する例を示した。しかし、安全項目処理ステップは、これに限られることなく、下記の(a)～(e)に記載する例としてもよい。
(a)顎受けカメラを設け、顎受け部と顎との状態を示す画像により監視・判断する。
(b)本体カメラと外部カメラを設け、全身カメラアライメントにより監視・判断する。
(c)顎受け部と光学テーブルとを連動させて顎受け部の必要以上の上昇を回避する。
(d)現行の下降スイッチと連動させて顎受け部の必要以上の上昇を回避する。
(e)顎受け部と顎との接触センサを設け、接触検知により顎受け部の上昇を停止する。

【0115】

実施例１及び実施例２は、眼科装置として、被検眼の前眼部像、被検眼の眼底像、被検眼の眼底断層像を観察、撮影及び記録し、電子画像として診断のために提供する眼科装置Ａへの適用例を示した。しかし、眼科装置は、眼科装置Ａへの適用に限られるものではない。すなわち、本発明のアライメント制御技術は、被検眼と装置本体部との相対位置関係を調整する制御を行うアライメント制御を必要とする眼科装置であれば、自覚眼科装置であるか他覚眼科装置であるかを問わず様々な眼科装置に適用することができる。