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特開2025-56905水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025056905
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20250401BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166431
(22)【出願日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004107
【氏名又は名称】弁理士法人Kighs
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100188086
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 五郎
(72)【発明者】
【氏名】寺本 靖丈
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK04C
4F100AT00
4F100BA03
4F100BA04
4F100CA22A
4F100CA22C
4F100CA22H
4F100EH202
4F100EJ382
4F100EJ38B
4F100GB15
4F100JG03
4F100YY00
(57)【要約】
【課題】包装用資材のラミネートフィルムの基材として、リサイクル適性に優位であるとともに、水性インキ印刷に好適な水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムを提供する。
【解決手段】ラミネートフィルムの基材として用いられるポリエチレン樹脂を主体とした複数の層が積層された積層フィルムであり、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる水性インキ印刷用の二軸延伸フィルムであって、前記二軸延伸フィルムは、少なくとも両表層と基材層とを備え、前記両表層以外の少なくとも一層に一又は複数種類の帯電防止剤が添加され、前記二軸延伸フィルムにおける前記帯電防止剤の含有量が0.05~1.00重量%であり、前記帯電防止剤が添加された層における融点40℃以上の帯電防止剤の含有量が0.60重量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネートフィルムの基材として用いられるポリエチレン樹脂を主体とした複数の層が積層された積層フィルムであり、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる水性インキ印刷用の二軸延伸フィルムであって、
前記二軸延伸フィルムは、少なくとも両表層と基材層とを備え、
前記両表層以外の少なくとも一層に一又は複数種類の帯電防止剤が添加され、
前記二軸延伸フィルムにおける前記帯電防止剤の含有量が0.05~1.00重量%であり、
前記帯電防止剤が添加された層における融点40℃以上の帯電防止剤の含有量が0.60重量%以下である
ことを特徴とする水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項2】
前記二軸延伸フィルムの少なくとも一面が表面処理され、
該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、
JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□である請求項1に記載の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項3】
請求項2に記載の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムの一側にポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなることを特徴とするラミネートフィルム。
【請求項4】
前記水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムと前記シーラントフィルムとの間にポリエチレン樹脂フィルムが介在されている請求項3に記載のラミネートフィルム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のラミネートフィルムよりなることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートフィルムの基材フィルムとして用いられるポリエチレン樹脂を主体とした積層フィルムに関し、特に二軸方向に延伸されてなる水性インキ印刷用の二軸延伸ポリエチレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品や日用品等の製品を包装する包装用資材では、印刷加工等が施された基材フィルムに、シーラントフィルムが接着剤等により貼り合わされて積層(ラミネート加工)されたラミネートフィルムが使用される。
【0003】
ラミネートフィルムの基材フィルムでは、耐熱性、剛性、寸法安定性、耐ピンホール性等の性能が要求され、安価でもあることから、主にポリプロピレンを成分とした二軸延伸フィルムが好ましく使用される。この二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、印刷やラミネート等の加工工程における適性を備えさせるために、帯電防止剤等の添加剤が配合されて製造される。また、ラミネートフィルムのシーラントフィルムには、ポリプロピレン、ポリエチレンを成分とした無延伸フィルムが使用され、特に優れたヒートシール適性からポリエチレン系無延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0004】
この種のラミネートフィルムでは、印刷工程において有機溶剤系のインキを用いることが一般的である。有機溶剤系のインキの使用に際しては、印刷の乾燥工程で発生する有機溶剤類の排出・悪臭等の大気汚染問題、作業環境等の労働安全衛生問題、危険物取扱いや設備に関する消防法への対応等が挙げられ、作業者が防毒マスクを着用する等の安全対策を行なうことが不可欠である。
【0005】
近年、環境問題への関心の高まりにより、印刷工程において使用される有機溶剤系インキの使用による環境への影響を考慮して、有機溶剤系インキの代替として水やアルコール等を溶媒として用いた水性インキを積極的に使用することが検討されている。しかし、従来の印刷用の基材フィルムでは、有機溶剤系インキの印刷適性が良好であるものの、水性インキの密着性が低くなる傾向がある等、必ずしも良好な水性インキ印刷適性を有しているとは言い難く、改善が求められる場合があった。
【0006】
また、包装用資材に使用されるラミネートフィルムでは、要求される性能の高度化により複数種類の樹脂が積層され複合化される傾向があるが、環境負荷低減の観点から、樹脂フィルムの分野において廃プラスチックのリサイクルが望まれている。しかし、ポリプロピレンフィルムからなる基材フィルムにポリエチレンフィルムからなるシーラントフィルムを積層させたラミネートフィルム等の複数種類の樹脂が積層されたフィルムは、樹脂ごとに分けてのリサイクルが困難であり、リサイクルに際してフィルムを構成する樹脂を再溶融しても相溶化しない樹脂の混合物となるため、リサイクル資源の品質が大きく低下してリサイクル材料として不向きである。
【0007】
そこで、この種のラミネートフィルムでは、基材フィルムとシーラントフィルムとを単一素材(モノマテリアル)で構成することの要求が高まっている。基材フィルムとシーラントフィルムとが単一素材からなるモノマテリアルのラミネートフィルムでは、例えば、シーラントフィルムとして好ましく採用されるポリエチレン系素材を基材フィルムに使用したポリエチレン系積層体が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
このように、包装用資材の分野においては、従来フィルムに要求されていた任意の物性に加え、リサイクルへの適性も要求されるように市場が変化しつつある。このことから、発明者らはリサイクル適性を考慮してシーラントフィルムを構成するポリエチレン系樹脂との単一素材(モノマテリアル)で基材フィルムを構成するとともに、水性インキ印刷での使用に適したフィルムについて鋭意検討を重ねた。その結果、単一素材(モノマテリアル)のラミネートフィルムの基材フィルムとして好適に使用可能な水性インキ印刷用の二軸延伸ポリエチレンフィルムを発明するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-189333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の点に鑑み提案されたものであって、包装用資材のラミネートフィルムの基材として、リサイクル適性に優位であるとともに、水性インキ印刷に好適な水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の発明は、ラミネートフィルムの基材として用いられるポリエチレン樹脂を主体とした複数の層が積層された積層フィルムであり、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる水性インキ印刷用の二軸延伸フィルムであって、前記二軸延伸フィルムは、少なくとも両表層と基材層とを備え、前記両表層以外の少なくとも一層に一又は複数種類の帯電防止剤が添加され、前記二軸延伸フィルムにおける前記帯電防止剤の含有量が0.05~1.00重量%であり、前記帯電防止剤が添加された層における融点40℃以上の帯電防止剤の含有量が0.60重量%以下であることを特徴とする水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記二軸延伸フィルムの少なくとも一面が表面処理され、該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□である水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0013】
第3の発明は、請求項2に記載の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムの一側にポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなることを特徴とするラミネートフィルムに係る。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、前記水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムと前記シーラントフィルムとの間にポリエチレン樹脂フィルムが介在されているラミネートフィルムに係る。
【0015】
第5の発明は、第3又は4の発明に記載のラミネートフィルムよりなることを特徴とする包装体に係る。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、ラミネートフィルムの基材として用いられるポリエチレン樹脂を主体とした複数の層が積層された積層フィルムであり、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる水性インキ印刷用の二軸延伸フィルムであって、前記二軸延伸フィルムは、少なくとも両表層と基材層とを備え、前記両表層以外の少なくとも一層に一又は複数種類の帯電防止剤が添加され、前記二軸延伸フィルムにおける前記帯電防止剤の含有量が0.05~1.00重量%であり、前記帯電防止剤が添加された層における融点40℃以上の帯電防止剤の含有量が0.60重量%以下であるため、リサイクルに優位なモノマテリアルを達成しつつ、帯電防止性能とともに水性インキの印刷適性が良好となって水性インキ印刷用のフィルムとして好適に用いることができる。
【0017】
第2の発明の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムによると、第1の発明において、前記二軸延伸フィルムの少なくとも一面が表面処理され、該表面処理された一面のJIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上であって、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□であるため、印刷適性やラミネート適性が向上するとともに、フィルムの帯電を適切に防ぐことができる。
【0018】
第3の発明のラミネートフィルムによると、第2の発明に記載の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムの一側にポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムが積層されてなるため、既存のラミネートフィルムの代替として有望である。
【0019】
第4の発明のラミネートフィルムによると、第3の発明において、前記水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムと前記シーラントフィルムとの間にポリエチレン樹脂フィルムが介在されているため、単一素材(モノマテリアル)化を達成してリサイクル適性の向上を図るとともに、適宜の機能性を付与することができる。
【0020】
第5の発明の包装体によると、第3又は4の発明に記載のラミネートフィルムよりなるため、既存の包装体の代替として有望である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ポリエチレン樹脂を主体とした複数の層が積層された積層フィルムからなり、縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸されてなる二軸延伸フィルムであって、特に水性インキ印刷に好適な水性インキ印刷用の二軸延伸ポリエチレンフィルムである。本発明の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムは、主としてラミネートフィルムの基材として好ましく用いられる。
【0022】
本発明の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムに使用される樹脂原料としてのポリエチレン樹脂は、石油由来、バイオマス由来、マテリアルリサイクル由来、ケミカルリサイクル由来等の原料からなるポリエチレン樹脂から適宜選択される。好ましいポリエチレン樹脂としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィンとのランダム共重合体等が挙げられ、上記の1種ないし2種以上の混合物を用いることもできる。さらに、樹脂原料として、バイオマス由来の原料からなるポリエチレン樹脂や、リサイクルポリエチレン樹脂等を使用すれば、環境負荷低減に寄与することができる。
【0023】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、複数の層を積層してフィルムを構成する場合、各層を構成する樹脂原料の種類は、本発明の効果を阻害しない限りポリエチレン樹脂主体であれば特に制限されない。例えば、各層間の接着強度の観点から、各層に使用する原料を同じ種類とすることが好ましい。
【0024】
複数の層が積層された本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、少なくとも両側の表面に配される両表層と、両表層間に配される基材層とを備える。一側の表層は、当該二軸延伸ポリエチレンフィルムをラミネートフィルムの基材として使用する場合に、印刷加工等の表面加工が施される層である。また、他側の表層は、ラミネートフィルムとして使用した際に最表層の一端となる層である。
【0025】
基材層は、当該二軸延伸ポリエチレンフィルムの主体となる層であり、他層より層厚が比較的厚く形成される。また、必要に応じて基材層と表層との間に中間層を配してもよい。本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、3ないし5層の積層フィルムとされることが好ましい。
【0026】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、発明の目的を損なわない範囲で、各層のいずれか一つの層、又は複数の層に酸化防止剤、光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤等の公知の添加剤を適宜配合してもよい。例えば、食品包装用途の場合には、添加剤としてアンチブロッキング剤を添加することが好ましい。アンチブロッキング剤としては、一般的に使用される無機系のシリカや有機系の架橋アクリルビーズ等が挙げられる。アンチブロッキング剤は、1種のみでもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
当該二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、所望の帯電防止性能をフィルムに付与する観点から、両表層以外の少なくとも一層に一又は複数種類の帯電防止剤が添加される。両表層以外の層に帯電防止剤が添加された場合、両表層以外の層に添加された帯電防止剤が表層を通過してフィルム表面に移行(ブリードアウト)されるため、フィルムに所望の帯電防止性能を付与することができる。なお、表層以外の層が基材層や中間層等の複数層である場合、帯電防止剤が基材層のみに添加されたり、基材層と中間層の双方に添加されたりする等、適宜に添加することができる。
【0028】
一方、帯電防止剤がフィルム表層に添加された場合、例えば、製造工程において、ガイドロール等の金属ロールに帯電防止剤が付着ないし堆積しやすくなり、該金属ロールを通過する後続のフィルムに転写されて外観を損なう等の品質を低下させるおそれがある。また、金属ロール等に帯電防止剤が付着ないし堆積することは、フィルムに添加された帯電防止剤が製造工程において減少してしまうこととなり、所望の帯電防止性能が得られなくなるおそれがある。これらの問題を回避するために、帯電防止剤は両表層以外の層に添加される。
【0029】
帯電防止剤は、油脂成分が含まれていることから、一般的に耐熱性が高いとはいえない。そのため、従来では、例えばラミネートフィルムの基材フィルムとして多く用いられるポリプロピレンフィルムに帯電防止剤が添加された場合、その製造時の延伸工程において200℃程度の高温にさらされることにより、油脂成分の一部が蒸気化することがあった。蒸気化した油脂成分は煙となり、作業環境を悪化させる。また、排ガス処理前の排気ダクト内において湾曲部等で油脂成分と埃が堆積し、蓄熱されて発火するといった事例も報告されており、火災の原因となり得る危険性がある。
【0030】
そこで、本発明では、ラミネートフィルムの基材フィルムとしてポリエチレン樹脂を主体とした二軸延伸フィルムを使用した。ポリエチレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂と比較してフィルム製造時の成形温度を160℃以下と低くすることができて、添加された帯電防止剤の油脂成分の蒸気化を抑制することが可能となる。このため、ポリプロピレンフィルムと比較して帯電防止剤の添加量を少なくしながら所望する帯電防止性能を得ることができる。
【0031】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムにおける帯電防止剤の好ましい含有量は0.05~1.00重量%である。帯電防止剤の含有量が少なすぎると所望する帯電防止性能を得ることが困難となる。帯電防止剤の含有量が過剰であると、フィルムの接着強度を低下させる等のフィルム性能への悪影響が発生しやすくなるため、所望の帯電防止性能が発揮される限度において少量の添加が好ましい。
【0032】
また、当該二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、水性インキ印刷による印刷加工が施されることから、フィルム表面における水性インキの転移(印刷)性や密着性等の印刷適性が要求される。そこで発明者らは、後述の実施例から、帯電防止剤が添加された層において、融点が高い帯電防止剤が多く含まれることによって、水性インキのフィルム表面への転移(印刷)や密着が阻害される傾向があることを見出した。すなわち、二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、帯電防止剤が添加された層における融点40℃以上の帯電防止剤の含有量が0.60重量%以下、好ましくは0.50重量%以下であることにより、水性インキの印刷適性を向上させることが可能となる。
【0033】
高融点(40℃以上)の帯電防止剤は、常温で固体状の形態であることから、フィルム表面に移行(ブリードアウト)された際に、帯電防止剤の成分が固体状で現れると考えられる。高融点の帯電防止剤が多く含まれると、このような固体成分がフィルム表面に多く存在する状態となるため、フィルム表面が水性インキの付着が困難な性状となって、水性インキの転移等が阻害されると考えられる。従って、所望する帯電防止性能が得られる含有量の帯電防止剤が添加された層において、高融点の帯電防止剤の含有量を少なくすることによって、帯電防止性能とともに水性インキの印刷適性が良好な二軸延伸ポリエチレンフィルムを得ることができる。
【0034】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムに使用される帯電防止剤としては、例えば、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミンエステル化合物、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪族アミド化合物及びこれらのエステル化合物である脂肪族アミドエステル化合物、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート等の多価アルコール、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンオレート、ソルビタンステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸類、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル類、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル類等が挙げられる。これらの帯電防止剤は、前記の添加条件を満たす範囲内において、一又は複数種類から組み合わせて選択される。
【0035】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、印刷適性やラミネート適性等を付与するために、少なくともフィルムの一面に表面処理を施すことが好ましい。表面処理としては、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理等の公知の表面処理方法が挙げられる。表面処理されたフィルムの一面では、JIS K 6768(1999)に準拠して測定したぬれ張力が36mN/m以上とされ、さらにJIS K 6911(2006)に準拠して測定した表面固有抵抗率が1×1010~1×1014Ω/□とされる。
【0036】
ぬれ張力は、フィルムの印刷適性やラミネート適性の指標として使用される。ぬれ張力の値が低すぎると、印刷適性やラミネート適性が不十分なフィルムとなる。また、表面固有抵抗率は、フィルムの帯電防止性能の指標として使用される。表面固有抵抗率の値が大きくなるほどフィルム表面から電流が流れにくく(帯電しやすく)なって、帯電防止性能が不十分なフィルムとなる。上記のぬれ張力を満たすように表面処理されることにより、添加された帯電防止剤のフィルム表面への移行(ブリードアウト)が促進されるため、帯電防止機能を十分に発現させることができるとともに、印刷適性やラミネート適性等も十分に確保することができる。
【0037】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、Tダイ法やインフレーション法等の公知のフィルム成形方法により得られる。特には、Tダイ法により賦形されたシートが延伸されて成形されることが好ましい。Tダイ法によるフィルムの成形では、ラミネートフィルムの基材フィルムとして求められる高い厚薄精度が得られる点で優位である。
【0038】
また、当該ポリエチレンフィルムは、フィルムの縦(MD)方向及び横(TD)方向の二軸方向に延伸された二軸延伸フィルムとされる。二軸延伸は逐次二軸延伸又は同時二軸延伸のどちらも良好に用いられる。二軸延伸の製膜は、縦(MD)と横(TD)の両方向に樹脂の配向性が生じ結晶性が向上されるため、薄膜化等の厚薄精度や強度等の機械的物性等の向上を図ることができ、量産性にも優れる。フィルムの延伸倍率としては、例えば縦(MD)方向が2~8倍、横(TD)方向が4~12倍程度である。
【0039】
本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、厚さについては特に制限されず、需要や用途等に応じて適宜決定され、例えば5~100μm、好ましくは10~70μmとされるのがよい。このうち、二軸延伸ポリエチレンフィルムの両表層の厚みはそれぞれ0.3~5μm、好ましくは0.4~4μm、さらに好ましくは0.5~2μmとされるのがよい。例えば表層にアンチブロッキング剤を配合している場合、表層が薄すぎると加工時にフィルムがロールを通過する際にアンチブロッキング剤の脱落のきらいがあり、厚すぎるとアンチブロッキング剤の配合量が多くなりすぎてフィルムの透視感に劣るきらいがある。
【0040】
以上説明したように、本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムは、帯電防止性能とともに水性インキの転移性が良好であるから、水性インキ印刷用のフィルムとして好適に用いることができる。また、当該水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムを基材フィルムとして使用し、その一側にポリエチレン樹脂からなるシーラントフィルムを積層させたラミネートフィルムを提供することができる。このラミネートフィルムでは、基材として本発明の二軸延伸ポリエチレンフィルムが使用されることにより、単一素材(モノマテリアル)化が可能となって、リサイクル適性の向上を図ることができる。
【0041】
本発明のラミネートフィルムにおいて、基材フィルムである水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムは、水性インキによる印刷加工が施されて使用される。この基材フィルムにシーラントフィルムを積層させる場合、水性インキ印刷が施された側と水性インキ印刷が施されていない側のいずれに積層させても構わない。
【0042】
このラミネートフィルムでは、基材フィルムとシーラントフィルムとの間に、適宜のポリエチレン樹脂フィルムが介在されていてもよい。ポリエチレン樹脂フィルムは、当該ラミネートフィルムの剛性向上や裂け性向上等の適宜の機能性付与等を目的として使用される。例えば、当該ラミネートフィルムの剛性向上の観点で使用する場合、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムを選択することが好ましい。また、ポリエチレン樹脂フィルムは、基材フィルムやシーラントフィルムと同種のポリエチレン樹脂で構成されることから、単一素材(モノマテリアル)化を達成してリサイクル適性の向上を図ることができる。さらに、ラミネートフィルムでは、用途等に応じて基材フィルムとシーラントフィルムの間に蒸着層や接着層、その他の機能性を有する層等を適宜積層させてもよい。なお、各層の積層順は適宜である。
【0043】
本発明のラミネートフィルムは、例えば食品、日用品、部品等の種々の物品の包装用資材として好適であり、包装体等に成形されて使用される。このラミネートフィルムから成形された包装体は、単一素材(モノマテリアル)で構成されるため、リサイクルが容易となる。このため、これらのラミネートフィルムやその包装体は、既存品の代替として有望である。
【実施例0044】
[二軸延伸フィルムの作製]
試作例1~18の二軸延伸フィルムの作製に際し、後述の各材料を基材層、両表層に対応する所定の配合割合(重量%)に基づいて混練、溶融してTダイ法により複数層(基材層と基材層の両表層の3層)に押出し、縦(MD)方向に5倍で延伸させた後、横(TD)方向に8倍で延伸させ製膜した。その後、片側の表層にコロナ放電処理により表面処理を施した。各試作例のフィルムは、全体の厚みを20μm、両表層の厚みを1μm、基材層の厚みを18μmとした。なお、各試作例において、材料の配合割合は、基材層又は表層の各層ごとに100重量%となるように配合した。
【0045】
[樹脂材料]
・PE1:直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル製、「TF80」)
・PE2:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、「HY430」)
・PP1:ホモポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、「FL203D」)
【0046】
[帯電防止剤]
・AS1:グリセリンモノステアレート(融点70℃)
・AS2:グリセリンオレート(融点13℃)
・AS3:ステアリルジエタノールアミン(融点51℃)
・AS4:オレイルジエタノールアミン(融点28℃)
・AS5:ステアリルジエタノールアミン(融点46℃)
・AS6:オレイルジエタノールアミンモノラウレート(融点25℃)
・AS7:ステアリルジエタノールアミンモノステアレート(融点29℃)
【0047】
各帯電防止剤(AS1~AS7)の融点(℃)は、示差走査熱量計(NETZSCH製、「DSC214 Polyma」)を用いて求められた融解ピーク温度(℃)である。融解ピーク温度(℃)は、窒素気流下で10℃/minの速度で-20℃から100℃まで昇温して100℃で3分間保持し、次いで、10℃/minの速度で100℃から-20℃まで降温して-20℃で10分間保持し(1st Run)、その後10℃/minの速度で-20℃から100℃まで昇温する過程からなる測定(2nd Run)を行い、得られた2nd RunのDSC曲線から求めた。なお、融解ピークが複数存在する場合は、最も高温の融解ピーク温度を用いた。
【0048】
[アンチブロッキング剤]
・AB1:アンチブロッキング剤(富士シリシア化学株式会社製、「SYLYSIA430」)
【0049】
[試作例1]
試作例1は、基材層としてポリエチレン樹脂(PE1が99.9重量%)と、帯電防止剤(AS1が0.03重量%と、AS4が0.02重量%と、AS6が0.05重量%)とが配合され、両表層としてそれぞれポリエチレン樹脂(PE1が99.7重量%)と、アンチブロッキング剤(AB1が0.3重量%)が配合されて得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0050】
[試作例2]
試作例2は、試作例1から基材層の帯電防止剤の含有量を増加させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.30重量%、AS4が0.20重量%、AS6が0.50重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.0重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0051】
[試作例3]
試作例3は、試作例1から基材層の帯電防止剤の種類及び含有量を変更させた態様であり、帯電防止剤は、AS1が0.034重量%とAS5が0.013重量%とAS7が0.053重量%に変更され、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0052】
[試作例4]
試作例4は、試作例1の基材層及び両表層のポリエチレン樹脂の種類を変更させた態様であり、基材層のポリエチレン樹脂は、PE1が79.9重量%とPE2が20.0重量%とされ、両表層のポリエチレン樹脂は、PE1が79.7重量%とPE2が20.0重量%とAB1が0.3重量%とされて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0053】
[試作例5]
試作例5は、試作例1から基材層の帯電防止剤の種類を変更させた態様であり、帯電防止剤は、AS1が0.067重量%とAS3が0.033重量%に変更され、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0054】
[試作例6]
試作例6は、試作例1から基材層の帯電防止剤の種類及び含有量を変更させた態様であり、帯電防止剤は、AS1が0.10重量%とAS2が0.10重量%とAS3が0.10重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.7重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0055】
[試作例7]
試作例7は、試作例1から基材層の帯電防止剤の種類を変更させた態様であり、帯電防止剤は、AS6が0.1重量%に変更され、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0056】
[試作例8]
試作例8は、試作例7の基材層の帯電防止剤をAS6からAS7に変更させて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0057】
[試作例9]
試作例9は、試作例7の基材層の帯電防止剤をAS6からAS4に変更させて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0058】
[試作例10]
試作例10は、試作例7の基材層の帯電防止剤をAS6からAS5に変更させて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0059】
[試作例11]
試作例11は、試作例5から基材層の帯電防止剤の含有量を増加させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.333重量%とAS3が0.167重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.5重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0060】
[試作例12]
試作例12は、基材層に帯電防止剤が添加されず、基材層及び両表層がそれぞれポリエチレン樹脂(PE1が100.0重量%)で構成された二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0061】
[試作例13]
試作例13は、試作例1から基材層の帯電防止剤の含有量を減少させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.015重量%、AS4が0.010重量%、AS6が0.025重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.95重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0062】
[試作例14]
試作例14は、試作例3から基材層の帯電防止剤の含有量を減少させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.017重量%、AS5が0.007重量%、AS7が0.026重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.95重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0063】
[試作例15]
試作例15は、試作例1の基材層及び両表層の樹脂材料をポリエチレン樹脂(PE1)からポリプロピレン樹脂(PP1)に変更させて、両表層としてそれぞれポリプロピレン樹脂(PP1が99.9重量%)と、アンチブロッキング剤(AB1が0.1重量%)が配合されて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0064】
[試作例16]
試作例16は、試作例2の基材層及び両表層の樹脂材料をポリエチレン樹脂(PE1)からポリプロピレン樹脂(PP1)に変更させて、両表層としてそれぞれポリプロピレン樹脂(PP1が99.9重量%)と、アンチブロッキング剤(AB1が0.1重量%)が配合されて、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0065】
[試作例17]
試作例17は、試作例5から基材層の帯電防止剤の含有量を増加させて、試作例11よりさらに含有量を増加させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.467重量%とAS3が0.233重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.3重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0066】
[試作例18]
試作例18は、試作例5から基材層の帯電防止剤の含有量を増加させて、試作例17よりさらに含有量を増加させた態様であり、帯電防止剤の含有量は、AS1が0.67重量%とAS3が0.33重量%とされ(基材層のポリエチレン樹脂としてPE1が99.0重量%)、それ以外は同一として得られた二軸延伸ポリエチレンフィルムである。
【0067】
試作例1~18の二軸延伸フィルムの評価に関し、フィルム表面のぬれ張力(mN/m)と、表面固有抵抗率(Ω/□)とを測定した。また、水性インキ印刷適性として水性インキの転移性と密着性の評価を行った。各測定の結果及び評価について、各試作例1~18の各層に使用された材料と、基材層の帯電防止剤の含有量(重量%)、フィルム中の帯電防止剤の含有量(重量%)、基材層における高融点(40℃以上)帯電防止剤の含有量(重量%)とともに後述の表1~3に示した。
【0068】
[ぬれ張力の測定]
ぬれ張力(mN/m)は、JIS K 6768(1999)に準拠して測定した。ぬれ張力は、フィルムの印刷適性やラミネート適性の指標であり、36mN/m以上の場合を良好として評価した。
【0069】
[表面固有抵抗率の測定]
表面固有抵抗率(Ω/□)は、JIS K 6911(2006)に準拠して測定した。表面固有抵抗率は、フィルムの帯電防止性能の指標であり、1×1010~1×1014Ω/□の場合を良好として評価した。なお、表面固有抵抗率が1×1014Ω/□を超えるフィルムについてはオーバーレンジとして「O.R.」と表記した。
【0070】
[水性インキ印刷適性の評価]
水性インキ印刷適性は、フィルムの水性インキに対する印刷適性であり、水性インキの転移性(印刷性)と密着性の2つの観点から評価した。水性インキ印刷適性の評価に際し、試作例1~18の二軸延伸フィルムのコロナ放電処理を施したフィルム表面に対し、CM型グラビア校正機(株式会社日商グラビア製、「GRAVO-PROOF MINI」)を使用し、印刷速度を40m/min、印刷版を「He,175L,S130°∠0」として、水性インキによる印刷加工を行った。水性インキは、水性グラビアインキ(東洋インキ株式会社製、「JW303 アクワエコール 92 墨」)と希釈溶媒(東洋インキ株式会社製、「AQ 682 溶剤 N」)とを3:2の比率により調整して使用した。
【0071】
[水性インキの転移性の試験]
水性インキの転移性は、水性インキ印刷されたフィルム表面の水性インキの付着量からインキの乗り具合を評価した水性インキ印刷適性の指標の1つである。当該転移性の試験では、水性インキ印刷が施されたフィルム表面を顕微鏡(オリンパス株式会社社製、「BX51」)、対物レンズ(オリンパス株式会社社製、「MPlanFL N 5×BDP」)、カメラ(オリンパス株式会社社製、「DP74」)を使用して観察し、得られた画像について、解析ソフト(株式会社エビデント製、「PRECiV Core」)により印刷版「He,175L,S130°∠0」の印刷トーン50%部のインキ転移面積を算出して、水性インキの付着量の多寡を判定した。
【0072】
水性インキの付着量は、市販の水性インキ印刷用二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、「FOR-AQ 20μm」)を基準のフィルムとして使用し、当該基準フィルムに対する水性インキ印刷のインキ転移面積を上記転移性試験に基づいて算出して、下記式(i)から算出されるインキ転移面積割合(%)に基づいて水性インキの転移性を評価した。水性インキの転移性の評価は、インキ転移面積割合が90%以上を「◎(良)」、60%以上かつ90%未満を「○(可)」、60%未満を「×(不可)」とした。
【0073】
【数1】
【0074】
[水性インキの密着性の試験]
水性インキの密着性は、水性インキ印刷されたフィルム表面に対して貼着された粘着テープの剥離後のインキの残存面積からインキの剥がれにくさを評価した水性インキ印刷適性の指標の1つである。当該密着性の試験では、印刷版「He,175L,S130°∠0」の印刷トーン100%の部位に粘着テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標)「CT405AP-15」)を長さ150mmで貼着させ、この粘着テープの上に荷重2kgのローラーを押し当てて2往復させた後、粘着テープをフィルムの印刷面との角度が90°となるように剥離させて、粘着テープが貼着された部分についてインキの残存面積割合(%)に基づいて水性インキの密着性を評価した。水性インキの密着性の評価は、インキ残存面積割合が90%以上を「◎(良)」、50%以上かつ90%未満を「○(可)」、50%未満を「×(不可)」とした。
【0075】
[帯電防止剤の含有量]
当該実施例において、基材層の帯電防止剤の含有量(重量%)は、基材層に添加された1又は複数の帯電防止剤の含有量(重量%)の合計値である。フィルム中の帯電防止剤の含有量(重量%)は、厚さ20μmの二軸延伸フィルムにおける厚さ18μmの基材層に添加された帯電防止剤の含有量(重量%)であり、基材層の帯電防止剤の含有量の0.9倍に相当する。基材層における高融点帯電防止剤の含有量(重量%)は、基材層に添加された1又は複数の融点40℃以上の帯電防止剤の含有量(重量%)の合計値である。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
[結果と考察]
表1~3から理解されるように、試作例1~11の二軸延伸フィルムでは、帯電防止性能(表面固有抵抗率)と水性インキ印刷適性(水性インキの転移性、水性インキの密着性)のいずれも良好な結果が得られた。これに対し、試作例12~18の二軸延伸フィルムでは、帯電防止性能と水性インキ印刷適性のいずれか又は双方で良好な結果が得られなかった。
【0080】
まず、試作例1と試作例15の二軸延伸フィルムについて比較する。試作例1がポリエチレン樹脂を主体とした二軸延伸ポリエチレンフィルムであるのに対し、試作例15はポリプロピレン樹脂を主体とした二軸延伸ポリプロピレンフィルムである点で相違し、各層の配合割合や帯電防止剤の種類等は同一である。ポリプロピレン樹脂を主体とした試作例15では、水性インキ印刷適性として水性インキの転移性は良好であったものの、密着性が不十分であった。一方、ポリエチレン樹脂を主体とした試作例1では、水性インキ印刷適性として水性インキの転移性と密着性の双方とも良好であった。これは、試作例2の二軸延伸ポリエチレンフィルムと試作例16の二軸延伸ポリプロピレンフィルムとの関係においても同様の傾向がみられた。このことから、ポリプロピレン樹脂を主体とした二軸延伸フィルムは水性インキの密着性が不十分で水性インキ印刷での使用に好適でなく、ポリエチレン樹脂を主体とした二軸延伸フィルムは水性インキ印刷適性に優れ水性インキ印刷での使用に好適であることが確認された。
【0081】
また、試作例1と試作例15では、基材層に同等の帯電防止剤が含有されているが、試作例15の帯電防止性能が不足していた。このことから、二軸延伸ポリエチレンフィルム(試作例1)では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムより少量の帯電防止剤であっても十分な帯電防止性能が得られることがわかった。
【0082】
次に、試作例1と、試作例2,12,13とを比較する。試作例2は、試作例1から基材層の帯電防止剤の含有量を増加させた態様である。試作例2では、試作例1より帯電防止性能が向上していたことから、帯電防止剤が多く含まれることによって帯電防止性能が向上されることがわかった。
【0083】
一方、試作例12は基材層に帯電防止剤が含まれない態様であり、試作例13は試作例1から基材層の帯電防止剤の含有量を減少させた態様である。試作例12,13は、双方とも試作例1と比較して帯電防止性能が不十分であった。これは、試作例3と試作例14との関係においても同様の傾向がみられた。そうすると、二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、比較的少量の帯電防止剤によって良好な帯電防止効果を得ることが可能であるが、帯電防止剤の含有量が少なすぎる(帯電防止剤が添加されない場合も含む)と十分な帯電防止性能が得られなくなることがわかった。
【0084】
試作例4は、試作例1が基材層及び両表層の樹脂材料として一種類のポリエチレン樹脂(PE1)を使用しているのに対して、単一素材からなる複数種類のポリエチレン樹脂(PE1、PE2)を使用した配合に変更した態様である。試作例4では、試作例1と同様に水性インキ印刷適性が良好であった。このことから、基材層及び両表層に使用されるポリエチレン樹脂の種類が異なる場合でも、水性インキ印刷適性が良好となることが確認された。
【0085】
試作例5,7~10は、試作例1の帯電防止剤と異なる種類の帯電防止剤を使用して、フィルム中の含有量を試作例1と同等(0.09重量%)とした態様である。試作例5,7~10では、試作例1と同様に十分な帯電防止性能が得られた。このことから、二軸延伸ポリプロピレンフィルムでは、帯電防止剤の種類が異なる場合でも、少量で十分な帯電防止性能が得られることがわかった。
【0086】
試作例6,11,17,18は、試作例1の帯電防止剤と異なる種類の帯電防止剤を使用して、フィルム中の含有量を試作例1より増加させた態様である。試作例6では、試作例1と比較して帯電防止性能が向上した。一方、試作例11,17,18では、試作例1と比較していずれも帯電防止性能が向上していたものの、水性インキ印刷適性について変化がみられた。
【0087】
試作例11,17,18は、試作例5と同種の帯電防止剤(AS1とAS3)を使用して、帯電防止剤の含有量を試作例5より増加させた態様である。帯電防止剤の含有量が最も少ない試作例5では、水性インキの転移性及び密着性が双方とも「◎(良)」であった。帯電防止剤の含有量が試作例5の次に少ない試作例11では、水性インキの転移性が「○(可)」、密着性が「◎(良)」であった。そして、帯電防止剤の含有量が試作例5,11より多い試作例17,18では、水性インキの転移性及び密着性が双方とも「×(不可)」であった。
【0088】
各試作例5,11,17,18における基材層の帯電防止剤の含有量としては、試作例5が0.10重量%、試作例11が0.50重量%、試作例17が0.70重量%、試作例18が1.00重量%である。ここで、基材層の帯電防止剤の含有量が多い(1.00重量%)他の試作例として、水性インキ印刷適性が良好な試作例2が挙げられる。試作例2で使用された帯電防止剤はAS1(0.30重量%)とAS4(0.20重量%)とAS6(0.50重量%)であり、各試作例5,11,17,18に使用された帯電防止剤と相違する。
【0089】
試作例2の帯電防止剤の性質としては、AS1が融点70℃で比較的高融点の成分からなるのに対し、AS4が融点28℃、AS6が融点25℃で比較的低融点の成分からなるものであった。一方、試作例5,11,17,18の帯電防止剤の性質は、AS1が融点70℃、AS3が融点51℃でいずれも比較的高融点の成分からなるものであった。そうすると、基材層中の帯電防止剤の種類と含有量から、二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、基材層における高融点の帯電防止剤の含有量が多くなることによって、水性インキ印刷適性が低下する傾向があることがわかった。
【0090】
上記高融点の帯電防止剤は、AS1の融点が70℃、AS3の融点が51℃であることから、成分が常温で固体状の形態となっている。通常、帯電防止剤はフィルム表面に移行(ブリードアウト)されることによって帯電防止性能が発揮されるから、高融点の帯電防止剤の含有量が多い場合、フィルム表面に移行された帯電防止剤では、固体状の成分が多くなると考えられる。そこで、各試作例5,11,17,18の帯電防止剤の含有量と水性インキ印刷適性の試験結果から、上記のようなフィルム表面に移行した高融点帯電防止剤の固体状成分が水性インキの付着を妨げて水性インキ印刷適性を低下させる要因となったと推測される。このような高融点帯電防止剤としては、成分が常温で固体状となることを踏まえて、融点が40℃以上のものが該当すると考えられる。
【0091】
また、二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、試作例5のように上記高融点帯電防止剤の含有量が少量であれば、水性インキ印刷適性に対する影響が抑制される。そこで、水性インキ印刷適性が不十分であった試作例17,18と、水性インキ印刷適性の試験結果に「○(可)」が含まれていた試作例11から、基材層に添加される高融点帯電防止剤の好ましい含有量は、0.60重量%以下程度であると考えられる。
【0092】
以上の通り、二軸延伸フィルムでは、ポリエチレン樹脂を主体とした複数層の積層フィルムとすることにより、単一素材(モノマテリアル)化が可能であるとともに、二軸延伸ポリプロピレンフィルムと比較して少量の帯電防止剤で良好な帯電防止性能を得ることができる。また、各試作例の結果から、二軸延伸ポリエチレンフィルムでは、帯電防止剤の含有量が0.05重量%以上あれば良好な帯電防止効果が得られると考えられる。そして、帯電防止剤の含有量が多すぎるとフィルム性能への悪影響が発生しやすくなることから、良品である試作例1~11の結果を踏まえて、帯電防止剤の含有量は0.05~1.00重量%程度が好ましいと考えられる。
【0093】
さらに、二軸延伸ポリエチレンフィルムに含有される帯電防止剤のうち、基材層(帯電防止剤が添加された層)の融点40℃以上の帯電防止剤(高融点帯電防止剤)の含有量を0.60重量%以下とすることにより、水性インキ印刷適性の低下を抑制して水性インキ印刷に好適なフィルムとすることができる。
【0094】
[油性インキ印刷適性の評価]
なお、水性インキ印刷適性が良好であったフィルム(試作例5,6)について、油性インキ印刷適性の確認を行った。油性インキ印刷適性は、フィルムの有機溶剤系インキに対する印刷適性である。有機溶剤系インキとして油性グラビアインキ(東洋インキ株式会社製、「リオアルファ R92墨 S」)と希釈溶媒(東洋インキ株式会社製、「NFKS 103 溶剤 N」)とを2:1の比率により調整して使用し、油性インキ印刷適性として水性インキ印刷適性の転移性の試験及び密着性の試験と同様の手順で有機溶剤系インキの転移性と密着性を評価した。その結果、水性インキ印刷適性が良好な二軸延伸ポリエチレンフィルム(試作例5,6)では、油性インキ印刷適性についても良好(「◎(良)」)であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の水性インキ印刷用二軸延伸ポリエチレンフィルムは、単一素材(モノマテリアル)化が達成され、良好な帯電防止性能及び水性インキ印刷適性を備える。そのため、リサイクル適性に優位であり、印刷に際して有機溶剤系のインキを使用する必要がなく好適に水性インキ印刷することができ、環境及び人的負荷の低減に大いに貢献可能となる。