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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005733
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】4WD切替制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106043
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】下西 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】後田 祐一
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA17
3D043EA18
3D043EB03
3D043EB12
3D043EB13
3D043EE07
3D043EF09
3D043EF12
(57)【要約】
【課題】駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2輪駆動から4輪駆動に切り替えることのできる4WD切替制御装置の提供。
【解決手段】4WD切替制御装置は、駆動輪と非駆動輪とに対する駆動力の分配を制御することの可能なトランスファ(4)と、トランスファから分配される非駆動輪に対する駆動力の伝達を制御することの可能なカップリング(70)と、を有する2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な車両(1)に備えられた4WD切替制御装置(90)であって、トランスファおよびカップリングを制御する制御部(90)を有し、制御部は、4輪駆動への切り替えの際に駆動輪にスリップが生じていると判断した場合には、トランスファを制御して非駆動輪に対する駆動力の分配を開始した後に、カップリングを制御して非駆動輪に対する駆動力の伝達を開始する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と非駆動輪とに対する駆動力の分配を制御することの可能なトランスファと、
前記トランスファから分配される前記非駆動輪に対する前記駆動力の伝達を制御することの可能なカップリングと、
を有する2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な車両に備えられた4WD切替制御装置であって、
前記トランスファおよび前記カップリングを制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記4輪駆動への切り替えの際に前記駆動輪にスリップが生じていると判断した場合には、前記トランスファを制御して前記非駆動輪に対する前記駆動力の分配を開始した後に、前記カップリングを制御して前記非駆動輪に対する前記駆動力の伝達を開始する、
ことを特徴とする4WD切替制御装置。
【請求項2】
前記駆動輪及び前記非駆動輪の回転数をそれぞれ検出する車輪速センサを有し、
前記制御部は、前記車輪速センサからの情報に基づき前記駆動輪の回転数が前記非駆動輪の回転数よりも高い場合に、前記駆動輪にスリップが生じていると判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載の4WD切替制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記スリップの判断を、前記非駆動輪の回転数に不感帯の幅を加味して行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の4WD切替制御装置。
【請求項4】
前記車両はFRタイプの車両であって、前記駆動輪は後輪である、ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の4WD切替制御装置。
【請求項5】
前記車両はFFタイプの車両であって、前記駆動輪は前輪である、ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の4WD切替制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4WD切替制御装置に関し、特に、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2輪駆動から4輪駆動への切り替えを行うことのできる4WD切替制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両では、例えば特許文献1に開示されるように、走行中の路面のコンディションに応じて、駆動輪の駆動モードを2輪駆動(2WD)から4輪駆動(4WD)に切り替えて走行することのできる車両が知られている。この従来の車両では、通常のグリップの良好な道路を走行する場合は2WDで走行することで燃費性能を確保する。そして、この車両では、雪道などの滑りやすい道路を走行することになった場合に、駆動モードを2WDから4WDに切り替えて走行することで走破性を確保するようにしている。
ここで、2WDから4WDへの切り替えは、例えば車両がFR(フロントエンジンリヤドライブ)タイプの場合は、先ず、前輪側の摩擦クラッチを締結させ、トランスファからフロントプロペラシャフトを介して分配される駆動力を前輪に伝達可能な状態とする。そして、その状態で、トランスファにおいて、主駆動輪である後輪を駆動しているリヤプロペラシャフトの回転にフロントプロペラシャフトの回転がシンクロしたところで、噛み合いクラッチを締結させて、動力伝達経路にフロントプロペラシャフトを接続する。これにより、車両では、駆動力が、トランスファからリヤプロペラシャフトとフロントプロペラシャフトとにそれぞれ分配されるようになる。FRタイプの車両では、このような手順により、駆動輪の駆動モードを2WDから4WDに切り替えて走行する。
【0003】
ところで、従来の車両では上記のとおり雪道を走行する場合に駆動モードを4WDに切り替えるが、その際、駆動輪が凍結路面に接するなどして過度にスリップし、非駆動輪との車輪の回転差が大きくなってしまうと4WDに切り替えることができない場合がある。詳しくは、例えばFRタイプの車両の場合、2WD走行時に主駆動輪である後輪に過度なスリップが生じると、そのスリップする後輪に駆動力を伝達しているリヤプロペラシャフトは回転数が高くなる。この状態で、4WDに切り替えるため、前輪側の摩擦クラッチを締結させると、その締結により非駆動輪の状態の前輪と接続されたフロントプロペラシャフトは、リヤプロペラシャフトよりも回転数が低くなり、大きな回転差がプロペラシャフト間に生じてしまう。この回転差により、トランスファにおいては、それらプロペラシャフト間の回転がシンクロしないため、噛み合いクラッチを締結させることができなくなってしまう。その結果、従来の車両では、上記のようなケースにおいては駆動モードを2WDから4WDに切り替えて走行することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO2015/129695号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2輪駆動から4輪駆動への切り替えを行うことのできる4WD切替制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る4WD切替制御装置は、駆動輪と非駆動輪とに対する駆動力の分配を制御することの可能なトランスファと、前記トランスファから分配される前記非駆動輪に対する前記駆動力の伝達を制御することの可能なカップリングと、を有する2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な車両に備えられた4WD切替制御装置であって、前記トランスファおよび前記カップリングを制御する制御部を有し、前記制御部は、前記4輪駆動への切り替えの際に前記駆動輪にスリップが生じていると判断した場合には、前記トランスファを制御して前記非駆動輪に対する前記駆動力の分配を開始した後に、前記カップリングを制御して前記非駆動輪に対する前記駆動力の伝達を開始する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る4WD切替制御装置によれば、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2輪駆動から4輪駆動への切り替えを行うことのできる4WD切替制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る4WD切替制御装置が適用されたFR車両の概略構成図である。
図2】駆動モードの切り替え(従来制御)を説明する図である。
図3】駆動輪スリップ時の駆動モードの切り替え(従来制御)を説明する図である。
図4】駆動輪スリップ時の駆動モードの切り替え(駆動輪スリップ対応制御)を説明する図である。
図5】駆動輪スリップ対応制御の実行を判断する処理(FR車両)のフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る4WD切替制御装置が適用されたFF車両の概略構成図である。
図7】駆動輪スリップ対応制御の実行を判断する処理(FF車両)のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る4WD切替制御装置が適用されたFR(フロントエンジンリヤドライブ)車両の概略構成図である。図1に示すように、車両1は、後輪82,83による2輪駆動(2WD)を基本としたFRタイプの4輪駆動(4WD)車両である。この車両1は、走行する路面の状況に応じて自動的に2WDから4WDに駆動モードを切り替えることのできるスタンバイ式4WDを採用している。2WD走行時には、車両1では、エンジン2の駆動力をトランスファ装置4から主駆動輪である後輪82,83へ伝達して2輪駆動を行なう。また、4WD走行時には、車両1では、エンジン2の駆動力の一部をさらにトランスファ装置4から前輪80,81にも伝達するようにして4輪駆動を行なう。つまり、車両1では、エンジン2から出力された駆動力は、トランスミッション3を介してトランスファ装置4の入力シャフト11に入力され、トランスファ装置4の内部において、駆動モードに応じて後輪82,83側と前輪80,81側とにそれぞれ分配される。
【0010】
後輪82,83側に分配された駆動力は、トランスファ装置4のリヤアウトプットシャフト(不図示)から出力されるとともに、このリヤアウトプットシャフトに連結されたリヤプロペラシャフト12を介してリヤデフ5に入力される。そして、その駆動力は、リヤデフ5内で左右に等配分され、リヤアクスルシャフト15,16を介して左右の後輪82,83に伝達される。一方、前輪80,81側に分配された駆動力は、トランスファ装置4のドライブスプロケット4Aからトランスファチェーン4Bを介してドリブンスプロケット13に伝達される。ドリブンスプロケット13からはフロントプロペラシャフト14が前輪側に延設されており、その先端はフロントデフ6に接続されている。従って、ドリブンスプロケット13に伝達された駆動力は、フロントプロペラシャフト14を介してフロントデフ6に入力され、このフロントデフ6内において左右に等配分され、フロントアクスルシャフト17,18を介して左右の前輪80,81に伝達される。
【0011】
フロントアクスルシャフト17,18のうち、右の前輪81に接続されたフロントアクスルシャフト18側には、フロントデフ6と前輪81との間にカップリング70が備えられている。このカップリング70により、車両1では、前輪に配分される駆動力を電子制御できると共に、2WD時の動力損失を低減することができる。
フロントデフ6は、リングギヤ、デフケース、サイドギヤ、デフピニオンなどによって構成されている(何れも不図示)。デフケースには、フロントプロペラシャフト14先端のピニオンギヤ(不図示)と噛み合うリングギヤが一体回転可能に固定されている。また、デフケースの中空部には、デフケースの回転軸と直交する方向にデフピニオン軸(不図示)が保持されており、このデフピニオン軸の両軸端部分に、一対のデフピニオンが互いに対向する向きで回転可能に軸支されている。これらのデフピニオンには、デフピニオン軸を境にしてデフケースの中空部の左右に配設された一対のサイドギヤが噛み合っている。そして、これらのサイドギヤには、デフケースに挿通されたフロントアクスルシャフト17,18の一端、即ち、前輪80,81が接続されていない方の端部がそれぞれ一体回転可能に連結されている。上記のリヤデフ5も、このフロントデフ6と同様の構成とされている。なお、リヤデフ5およびフロントデフ6の動作については周知であるため説明を省略する。
【0012】
カップリング70は、フロントアクスルシャフト18を途中で2つに切り離し、それらの端部にそれぞれクラッチ72,73を備えて、アクチュエータ71によりクラッチ72,73を断続するように構成されている。このクラッチ72,73の断続は、車両1の統括制御を行う電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)90の指示によりアクチュエータ71の位置を任意に調整することで行われる。例えば、4WD時には、ECU90が、その指示によりクラッチ72,73を締結した状態となるようにアクチュエータ71の位置を調整することで、右の前輪81とフロントデフ6とがフロントアクスルシャフト18を介して連結される。したがって、4WD時には、フロントプロペラシャフト14からフロントデフ6に入力された駆動力は、フロントデフ6において左右に等しく分配され、フロントアクスルシャフト17,18を介して前輪80,81に伝達されるようになる。一方、2WD時には、ECU90が、その指示によりクラッチを解放するようにアクチュエータ71の位置を調整することで、アクチュエータ71によるクラッチ72,73の締結が解放された状態となり、右の前輪81とフロントデフ6とが切り離される。これにより、フロントデフ6の左の前輪80と接続されたサイドギヤが空転するようになり、2WD時には、フロントデフ6からトランスファ装置4のドライブスプロケット4Aにかけてのフロント駆動系が回転しなくなるので、動力損失が軽減されるようになる。
なお、ECU90は、マイクロコンピュータを主体として構成されており、不図示の記憶装置から読み出したプログラムを実行するとともに、車両1に配された各種センサの出力信号に基づき車両の状態を検知することで、車両1の統括制御を行う。このECU90は、本発明の「制御部」に相当する。また、センサとしては、特に、各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ、トランスファ装置4におけるリヤプロペラシャフト12およびフロントプロペラシャフト14の回転数を検出するための回転数センサなどが車両1に配されている(いずれも不図示)。
【0013】
ここで、駆動モードの切り替えについて、図2を参照して説明する。車両1では、2WDから4WDへの駆動モードの切り替えは、次のような手順で行う。ECU90は、駆動輪の駆動モードを2WDから4WDに切り替える場合、先ず、カップリング70に備えられたアクチュエータ71の位置を調整し、2WD時に解放されているカップリング70のクラッチ72,73を締結した状態にする。このクラッチ72,73の締結により、前輪80,81の回転がフロントデフ6を介してフロントプロペラシャフト14に伝達されるようになり、同プロペラシャフト14が回転を始める(図2(1)→(2))。次に、ECU90は、そのフロントプロペラシャフト14の回転数と、後輪82,83を駆動しているトランスファ装置4のリヤプロペラシャフト12の回転数とをセンサにより検出する(図2(2))。そして、ECU90は、リヤプロペラシャフト12の回転にフロントプロペラシャフト14の回転がシンクロしたところで、トランスファ装置4に備えられた不図示の噛み合いクラッチを締結させる。この噛み合いクラッチの締結により、フロントプロペラシャフト14が、それまで切り離されていたトランスファ装置4の動力伝達経路に接続されて、前輪80,81側への駆動力の分配が開始され、車両1は4WDで走行するようになる(図2(2)→(3))。なお、本明細書では、この従来の手順による切り替えを「従来制御」と呼ぶこととする。
【0014】
ところで、既述のとおり、2WD走行時に、駆動輪である後輪が過度にスリップし、非駆動輪である前輪との車輪の回転差が大きくなってしまうと、4WDへの切り替えが行えない場合がある。図3を参照して説明すると、車両1では、2WD走行時に駆動輪である後輪がスリップすると、その後輪の回転数が非駆動輪である前輪の回転数よりも高い状態で駆動モードを4WDに切り替えることになる(図3(1))。この状態でカップリングのクラッチを締結すると、車両1では、同クラッチの締結により前輪の回転がフロントデフを介してフロントプロペラシャフトに伝達されて同プロペラシャフトが回転を開始するが、その回転数はリヤプロペラシャフトよりも低くなる。つまり、この場合は、トランスファ装置の噛み合いクラッチが解放された状態であるため、前輪(非駆動輪)により回転されるフロントプロペラシャフトの回転数は、スリップする後輪(駆動輪)を回転させているリヤプロペラシャフトよりも低くなる(図3(1)→(2))。そのため、車両1では、リヤプロペラシャフトの回転にフロントプロペラシャフトの回転がシンクロするタイミングを待つものの、両プロペラシャフトはシンクロしない。その結果、車両1では、トランスファ装置の噛み合いクラッチが解放された状態のままとなり締結されないので、駆動モードを2WDから4WDに切り替えることができなくなってしまう(図3(3))。
【0015】
そこで、この不具合に対応するため、本実施形態の車両1では、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2WDから4WDへの切り替えが行えるように以下の工夫を行っている。なお、本明細書では、この工夫を「駆動輪スリップ対応制御」と呼ぶこととする。以下、駆動輪スリップ対応制御について、図4を参照して説明する。
車両1では、2WD走行時に駆動輪である後輪82,83がスリップすると、その後輪の回転数が非駆動輪である前輪80,81の回転数よりも高い状態で駆動モードを4WDに切り替えることになる(図4(1))。ECU90は、その状態で駆動モードを2WDから4WDに切り替えるため、先ず、トランスファ装置4に備えられた噛み合いクラッチを締結させて、リヤプロペラシャフト12を駆動している動力伝達経路にフロントプロペラシャフト14を接続する。この場合、フロントプロペラシャフト14は回転しておらず、後輪82,83を駆動しているリヤプロペラシャフト12との間には回転差があるが、カップリング70のクラッチ72,73は解放された状態にある。そのため、この場合にはフロントプロペラシャフト14は前輪側から切り離された状態であるので、トランスファ装置4においてフロントプロペラシャフト14を動力伝達経路に接続することができる(図4(1)→(2))。この接続により、フロントプロペラシャフト14の回転数が、リヤプロペラシャフト12の回転数まで上昇させられる(図4(2))。そして、ECU90は、カップリング70に備えられたアクチュエータ71の位置を調整し、解放された状態のクラッチ72,73を締結した状態にする。このクラッチ72,73の締結により、フロントプロペラシャフト14と、従回転している非駆動輪の前輪80,81とがフロントデフ6を介して接続されることで、前輪側の動力伝達経路が確立される(図4(3))。これにより、フロントプロペラシャフト14を通して、トランスファ装置4から前輪80,81側に駆動力が分配されて伝達されるようになり、車両1は4WDで走行するようになる。
【0016】
上で述べた駆動輪スリップ対応制御は、駆動輪(本実施形態の車両1では後輪82,83)が過度にスリップした場合に実行されるものであるため、同制御の実行は、図5に示すフローチャートの処理の判断によって行うようにしている。以下、ECU90が行う、図5のフローチャートの処理について説明する。
ステップS1において、ECU90は、車両1の駆動モードを2WDから4WDに切り替えるための条件が成立したか否かを判定する。なお、この条件は、例えば、ECU90がセンサ(車輪速センサなど)の出力信号に基づき雪道などの滑りやすい道路を車両1が走行するようになったことを検知した場合などに成立する。また、この条件は、運転者が車両室内のインストルメントパネルに配置されたロータリータイプの駆動モード切換スイッチ(いずれも不図示)を操作することにより駆動輪の駆動モードを4WDに切り替えた場合などにも成立する。そして、ECU90は、条件が成立していない場合はステップS1に戻って上記の処理を繰り返す(NO側)。一方、ECU90は、条件が成立した場合にはステップS2へ移行する(YES側)。
ステップS2において、ECU90は、車輪速センサの出力信号に基づき後輪の回転数が前輪の回転数よりも高いか、を判定する。この判定では、後輪82,83と前輪80,81との回転数の平均をそれぞれとって比較することが好ましい。そして、ECU90は、後輪の回転数が前輪の回転数よりも高い場合には後輪にスリップが生じていると判断できるのでS3へ移行して駆動輪スリップ対応制御を実行し(YES側)、そうでない場合はステップS4へ移行して従来制御を実行する(NO側)。
【0017】
なお、上記のステップS2の処理に変えて、図5の右側に破線で囲んだステップS2′の処理を実行するようにしてもよい。そうする場合には、ステップS2′において、ECU90は、車輪速センサの出力信号に基づき後輪の回転数が、前輪の回転数+「α」よりも高いか、を判定するようにする。これは、後輪のスリップ量(回転数)には車両の駆動系によって許容できる幅(許容範囲)があるため、その許容範囲を不感帯「α」として設定する。なお、不感帯「α」は0~nの数値であり、不感帯「α」を0(ゼロ)とする場合には上記のステップS2と同じ判定処理となる。
【0018】
次に、本発明の別の実施形態を添付の図面を参照して説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る4WD切替制御装置が適用されたFF(フロントエンジンフロントドライブ)車両の概略構成図である。図6に示すように、この別実施形態の車両101は、前輪180,181による2輪駆動(2WD)を基本としたFFタイプの4輪駆動(4WD)車両である。車両101は、走行する路面の状況に応じて自動的に2WDから4WDに駆動モードを切り替えることのできるスタンバイ式4WDを採用している。2WD走行時には、車両101では、トランスファ装置104に備えられた不図示の噛み合いクラッチが解放された状態とされることで、エンジン102の駆動力を主駆動輪である前輪180,181のみに伝達して2輪駆動を行なう。一方、4WD走行時には、車両101では、その噛み合いクラッチが締結された状態とされることで、エンジン102の駆動力の一部をトランスファ装置104からリヤプロペラシャフト112を介して後輪182,183にも伝達するようにして4輪駆動を行なう。つまり、車両101では、エンジン102から出力された駆動力は、トランスミッション103を介してトランスファ装置104に入力される。そして、その入力された駆動力が、トランスファ装置104の内部において、駆動モードに応じて前輪180,181側と後輪182,183側とにそれぞれ分配される。
【0019】
なお、別実施形態の車両101と、先述の実施形態の車両1との構成上の相違点は主に駆動系にある。つまり、車両101では、車両1でのトランスミッション3およびフロントデフ6が一体化されて、トランスアクスルタイプのトランスミッション103とされている点。また、車両101のトランスファ装置104では、車両1でのトランスファ装置4におけるフロントプロペラシャフト14及びそれへの駆動力を伝達する部材や機構が省略されて、4WD時にはリヤプロペラシャフト112を介して後輪側へ駆動力が伝達される点。そして、車両101では、カップリング(170)が、リヤアクスルシャフト116を途中で2つに切り離し、それらの端部にそれぞれクラッチ172,173を備えて、アクチュエータ171によりクラッチ172,173を断続するように構成されている点。これらの点を除けば、別実施形態の車両101と先述の実施形態の車両1とは同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0020】
車両101では、2WDから4WDへの駆動モードの切り替えは、次のような手順で行う。ECU190は、駆動輪の駆動モードを2WDから4WDに切り替える場合、先ず、カップリング170に備えられたアクチュエータ171の位置を調整し、2WD時に解放されているカップリング170のクラッチ172,173を締結した状態にする。なお、ECU190は、本発明の「制御部」に相当する。このクラッチ172,173の締結により、非駆動輪である後輪182,183の回転がリヤデフ105を介してリヤプロペラシャフト112に伝達されるようになり、このリヤプロペラシャフト112が回転を始める。次に、ECU190は、駆動輪である前輪180,181に駆動力を伝達しているトランスファ装置104に備えられた解放状態とされている噛み合いクラッチの原動軸側部材の回転数と、リヤプロペラシャフト112の回転数とをセンサ(不図示)により検出する。なお、センサは、トランスファ装置104に設けられている。そして、ECU190は、その原動軸側部材(駆動力の入力側)の回転にリヤプロペラシャフト112の回転がシンクロしたところで、トランスファ装置104の噛み合いクラッチを締結させる。この噛み合いクラッチの締結により、リヤプロペラシャフト112が、それまで切り離されていたトランスファ装置104の動力伝達経路に接続されて、後輪182,183側への駆動力の分配が開始され、車両101は4WDで走行するようになる。なお、本明細書では、この従来の手順による切り替えを「従来制御」と呼ぶこととする。
【0021】
ところで、既述のとおり、2WD走行時に、駆動輪である前輪が過度にスリップし、非駆動輪である後輪との車輪の回転差が大きくなってしまうと、4WDへの切り替えが行えない場合がある。
そこで、この不具合に対応するため、本実施形態の車両101では、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2WDから4WDへの切り替えが行えるように以下の工夫を行っている。なお、本明細書では、この工夫を「駆動輪スリップ対応制御」と呼ぶこととする。以下、この駆動輪スリップ対応制御について説明する。
車両101では、2WD走行時に駆動輪である前輪180,181がスリップすると、その前輪の回転数が非駆動輪である後輪182,183の回転数よりも高い状態で駆動モードを4WDに切り替えることになる。ECU190は、その状態で駆動モードを2WDから4WDに切り替えるため、先ず、トランスファ装置104に備えられた噛み合いクラッチを締結させて、前輪180,181を駆動している動力伝達経路にリヤプロペラシャフト112を接続する。この場合、リヤプロペラシャフト112は回転しておらず、前輪180,181の駆動とともに回転するトランスファ装置104の解放状態とされている噛み合いクラッチの原動軸側部材との間には回転差がある。しかし、カップリング170のクラッチ172,173が解放された状態にあり、リヤプロペラシャフト112は後輪側から切り離された状態であるので、トランスファ装置104においてリヤプロペラシャフト112を動力伝達経路に接続することができる。このようにトランスファ装置104の噛み合いクラッチを締結させてリヤプロペラシャフト112を動力伝達経路に接続することにより、そのリヤプロペラシャフト112の回転数が、前輪180,181を駆動している駆動系の回転数まで上昇させられる。そして、ECU190は、カップリング170に備えられたアクチュエータ171の位置を調整し、解放された状態のクラッチ172,173を締結した状態にする。このクラッチ172,173の締結により、リヤプロペラシャフト112と、従回転している非駆動輪の後輪182,183とがリヤデフ105を介して接続されることで、後輪側の動力伝達経路が確立される。これにより、リヤプロペラシャフト112を通して、トランスファ装置104から後輪182,183側に駆動力が分配されて伝達されるようになり、車両101は4WDで走行するようになる。
【0022】
上で述べた駆動輪スリップ対応制御は、駆動輪(本実施形態の車両101では前輪180,181)が過度にスリップした場合に実行されるものであるため、同制御の実行は、図7に示すフローチャートの処理の判断によって行うようにしている。以下、ECU190が行う、図7のフローチャートの処理について説明する。
ステップS101において、ECU190は、車両101の駆動モードを2WDから4WDに切り替えるための条件が成立したか否かを判定する。なお、この条件は、例えば、ECU190がセンサ(車輪速センサなど)の出力信号に基づき雪道などの滑りやすい道路を車両101が走行するようになったことを検知した場合などに成立する。また、この条件は、運転者が車両室内のインストルメントパネルに配置されたロータリータイプの駆動モード切換スイッチ(いずれも不図示)を操作することにより駆動輪の駆動モードを4WDに切り替えた場合などにも成立する。そして、ECU190は、条件が成立していない場合はステップS101に戻って上記の処理を繰り返す(NO側)。一方、ECU190は、条件が成立した場合にはステップS102へ移行する(YES側)。
ステップS102において、ECU190は、車輪速センサの出力信号に基づき前輪の回転数が後輪の回転数よりも高いか、を判定する。この判定では、前輪180,181と後輪182,183との回転数の平均をそれぞれとって比較することが好ましい。そして、ECU190は、前輪の回転数が後輪の回転数よりも高い場合には前輪にスリップが生じていると判断できるのでS103へ移行して駆動輪スリップ対応制御を実行する(YES側)。一方、そうでない場合は、ECU190はステップS104へ移行して従来制御を実行する(NO側)。
【0023】
なお、上記のステップS102の処理に変えて、図7の右側に破線で囲んだステップS102′の処理を実行するようにしてもよい。そうする場合には、ステップS102′において、ECU190は、車輪速センサの出力信号に基づき前輪の回転数が、後輪の回転数+「α」よりも高いか、を判定するようにする。これは、前輪のスリップ量(回転数)には車両の駆動系によって許容できる幅(許容範囲)があるため、その許容範囲を不感帯「α」として設定する。なお、不感帯「α」は0~nの数値であり、不感帯「α」を0(ゼロ)とする場合には上記のステップS102と同じ判定処理となる。
【0024】
以上、本発明に係る4WD切替制御装置によれば、駆動輪に過度なスリップが生じた場合にも2輪駆動から4輪駆動への切り替えを行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0025】
1,101 車両
4,104 トランスファ装置
70,170 カップリング
80,81 前輪 (FR車両)
82,83 後輪 (FR車両)
180,181 前輪 (FF車両)
182,183 後輪 (FF車両)
90,190 ECU (制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7