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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005734
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20250109BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106044
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】後田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌弘
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB02
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD03
3J027GD09
3J027GD12
3J027HA01
3J027HB07
3J027HH20
3J027HJ03
(57)【要約】
【課題】各駆動輪に対応した複数の動力源を用いることなく、左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させて車両を走行させることが可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置20Aは、エンジン(動力源)からの動力を左右の後輪(第1駆動輪および第2駆動輪)が同方向に回転するように伝達する第1伝達経路と、エンジンからの動力を左右の後輪が逆方向に回転するように伝達する第2伝達経路とを形成する歯車装置22と、左右の後輪と第1伝達経路との接続と、左右の後輪と第2伝達経路との接続とを切り替える接続装置24とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、動力源からの動力を左右の第1駆動輪および第2駆動輪に伝達する動力伝達装置であって、
前記動力源からの動力を前記第1駆動輪および前記第2駆動輪が同方向に回転するように伝達する第1伝達経路と、前記動力源からの動力を前記第1駆動輪および前記第2駆動輪が逆方向に回転するように伝達する第2伝達経路とを形成する歯車装置と、
前記第1駆動輪および前記第2駆動輪と前記第1伝達経路との接続と、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪と前記第2伝達経路との接続とを切り替える接続装置と
を備えた動力伝達装置。
【請求項2】
前記歯車装置は、
前記動力源からの動力が入力され、入力した動力を前記第1駆動輪に接続された第1出力部材と、第2出力部材とに出力する差動装置と、
固定要素と、前記第2出力部材に接続された第1回転要素と、前記第2出力部材から前記第1回転要素に動力が伝達されると前記第1回転要素と逆方向に回転する第2回転要素とを含む遊星歯車機構とを備え、
前記接続装置は、
前記第2駆動輪と前記第1回転要素との接続および接続の解除を行う第1接続装置と、
前記第2駆動輪と前記第2回転要素との接続および接続の解除を行う第2接続装置と
を備えた請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記遊星歯車機構は、
前記固定要素としてのリングギヤと、
前記第2回転要素としてのサンギヤと、
前記サンギヤと噛み合う複数の第1ピニオンギヤと、
前記リングギヤと前記複数の第1ピニオンギヤと噛み合う複数の第2ピニオンギヤと、
前記複数の第1ピニオンギヤおよび前記複数の第2ピニオンギヤを自転自在に保持し、前記複数の第1ピニオンギヤおよび前記複数の第2ピニオンギヤと共に公転する前記第1回転要素としてのキャリアと
を含む請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記差動装置は、前記第1出力部材としての第1サイドギヤと、前記第2出力部材としての第2サイドギヤとを含むベベルギヤ式差動装置である請求項2または請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記差動装置は、
前記動力源からの動力が入力される差動側リングギヤと、
前記第1出力部材としての差動側サンギヤと、
前記差動側サンギヤと噛み合う複数の差動側第1ピニオンギヤと、
前記差動側リングギヤと前記複数の差動側第1ピニオンギヤと噛み合う複数の差動側第2ピニオンギヤと、
前記複数の差動側第1ピニオンギヤおよび前記複数の差動側第2ピニオンギヤを自転自在に保持し、前記複数の差動側第1ピニオンギヤおよび前記複数の差動側第2ピニオンギヤと共に公転する前記第2出力部材としての差動側キャリアと
を含む請求項2または請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記差動装置、前記遊星歯車機構、前記第1接続装置および前記第2接続装置は、駆動軸上に並んで配置される請求項2または請求項3に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の各駆動輪に動力を伝達する技術が知られている。例えば、特許文献1には、前輪左右二輪のそれぞれに対応させて電動機が搭載され、後輪左右二輪のそれぞれに対応させて電動機が搭載された左右独立駆動車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-67076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のような各駆動輪に対応して動力源としての電動機を設けた車両では、左右の駆動輪を逆方向に回転させることで、車両の最小旋回半径よりもさらに小さい旋回半径で旋回することができる。例えば、駆動輪としての左右の後輪を逆方向に回転させれば、前輪側を旋回中心として車両を旋回させながら方向転換を行うことができる。しかしながら、各駆動輪に対応した複数の動力源が必要であり、部品点数の増加や構造の複雑化を招いてしまう。特に、内燃機関を動力源とする車両では、駆動輪ごとに異なる方向の動力を伝達することは難しい。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、各駆動輪に対応した複数の動力源を用いることなく、左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させて車両を走行させることが可能な動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の動力伝達装置は、車両に搭載され、動力源からの動力を左右の第1駆動輪および第2駆動輪に伝達する動力伝達装置であって、前記動力源からの動力を前記第1駆動輪および前記第2駆動輪が同方向に回転するように伝達する第1伝達経路と、前記動力源からの動力を前記第1駆動輪および前記第2駆動輪が逆方向に回転するように伝達する第2伝達経路とを形成する歯車装置と、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪と前記第1伝達経路との接続と、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪と前記第2伝達経路との接続とを切り替える接続装置とを備える。
【0007】
この構成により、接続装置によって、歯車装置で形成される第1伝達経路を選択した場合には、第1駆動輪および第2駆動輪を同方向に回転させて、車両の直進や旋回といった通常の走行を行うことができる。一方、接続装置によって、歯車装置で形成される第2伝達経路を選択した場合には、第1駆動輪および第2駆動輪を逆方向に回転させながら車両の方向転換を行うことができる。したがって、本発明の動力伝達装置によれば、各駆動輪に対応した複数の動力源を用いることなく、左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させて車両を走行させることが可能となる。
【0008】
また、前記歯車装置は、前記動力源からの動力が入力され、入力した動力を前記第1駆動輪に接続された第1出力部材と、第2出力部材とに出力する差動装置と、固定要素と、前記第2出力部材に接続された第1回転要素と、前記第2出力部材から前記第1回転要素に動力が伝達されると前記第1回転要素と逆方向に回転する第2回転要素とを含む遊星歯車機構とを備え、前記接続装置は、前記第2駆動輪と前記第1回転要素との接続および接続の解除を行う第1接続装置と、前記第2駆動輪と前記第2回転要素との接続および接続の解除を行う第2接続装置とを備えることが好ましい。
【0009】
この構成により、第1駆動輪は差動装置の第1出力部材と同方向に回転する。そして、第1接続装置によって、第2駆動輪と上記第1出力部材および第2出力部材と同方向に回転する遊星歯車機構の第1回転要素とを接続した場合、上記第1伝達経路が形成され、第1駆動輪と第2駆動輪とが同方向に回転する。一方、第2接続装置によって、第2駆動輪と遊星歯車機構の第2回転要素とを接続した場合、上記第2伝達経路が形成され、第1駆動輪と第2駆動輪とが逆方向に回転する。したがって、動力源から動力が入力される差動装置に、遊星歯車機構、第1接続装置および第2接続装置を加えるだけで左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させる構成が実現することができ、動力伝達装置の構造の複雑化を抑制することができる。
【0010】
また、前記遊星歯車機構は、前記固定要素としてのリングギヤと、前記第2回転要素としてのサンギヤと、前記サンギヤと噛み合う複数の第1ピニオンギヤと、前記リングギヤと前記複数の第1ピニオンギヤと噛み合う複数の第2ピニオンギヤと、前記複数の第1ピニオンギヤおよび前記複数の第2ピニオンギヤを自転自在に保持し、前記複数の第1ピニオンギヤおよび前記複数の第2ピニオンギヤと共に公転する前記第1回転要素としてのキャリアとを含むことが好ましい。この構成により、ダブルピニオン型の遊星歯車機構を用いて左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させる構成を実現することができ、動力伝達装置の構造の複雑化を抑制することができる。
【0011】
また、前記差動装置は、前記第1出力部材としての第1サイドギヤと、前記第2出力部材としての第2サイドギヤとを含むベベルギヤ式差動装置であることが好ましい。この構成により、ベベルギヤ式差動装置を用いて左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させる構成が実現することでき、動力伝達装置の構造の複雑化を抑制することができる。
【0012】
また、前記差動装置は、前記動力源からの動力が入力される差動側リングギヤと、前記第1出力部材としての差動側サンギヤと、前記差動側サンギヤと噛み合う複数の差動側第1ピニオンギヤと、前記差動側リングギヤと前記複数の差動側第1ピニオンギヤと噛み合う複数の差動側第2ピニオンギヤと、前記複数の差動側第1ピニオンギヤおよび前記複数の差動側第2ピニオンギヤを自転自在に保持し、前記複数の差動側第1ピニオンギヤおよび前記複数の差動側第2ピニオンギヤと共に公転する前記第2出力部材としての差動側キャリアとを含むことが好ましい。この構成により、遊星歯車機構式の差動装置を用いて左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させる構成を実現することができ、動力伝達装置の構造の複雑化を抑制することができる。
【0013】
また、前記差動装置、前記遊星歯車機構、前記第1接続装置および前記第2接続装置は、駆動軸上に配置されることが好ましい。この構成により、動力伝達装置の大径化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
発明の動力伝達装置によれば、各駆動輪に対応した複数の動力源を用いることなく、左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させて車両を走行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の動力伝達装置を備えた車両を示す概略構成図である。
図2】第1実施形態の動力伝達装置を示す概略構成図である。
図3】走行モードと各クラッチの状態との関係を示す説明図である。
図4】通常走行モードにおける動力伝達装置、後輪の回転数の関係とトルクの釣り合い関係とを模式的に示す共線図である。
図5】左右逆転モードにおける動力伝達装置、後輪の回転数の関係とトルクの釣り合い関係とを模式的に示す共線図である。
図6】左右逆転モードでの車両の挙動の一例を示した説明図である。
図7】第2実施形態の動力伝達装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の動力伝達装置を備えた車両を示す概略構成図である。車両1は、従動輪としての前輪2R、2Lと、駆動輪としての後輪3R(第1駆動輪)および後輪3L(第2駆動輪)とを備え、エンジン10(動力源)の出力によって後輪3R、3Lを駆動して走行可能な車両である。車両1では、エンジン10からの動力が変速装置12およびプロペラシャフト14を介して動力伝達装置20Aへと伝達され、さらに、駆動軸16Rを介して後輪3Rに伝達されると共に、駆動軸16Lを介して後輪3Lに伝達される。駆動軸16R、16Lは、同軸上に配置されている。
【0018】
エンジン10は、例えばガソリンエンジンといった内燃機関である。変速装置12は、エンジン10から出力された回転を入力し、所定の変速比で変速してプロペラシャフト14に出力する。また、変速装置12は、運転者が図示しないシフトレバーを操作したことによるシフトポジションに応じて、ニュートラルレンジ、パーキングレンジ、前進レンジ(Dレンジ)および後退レンジ(Rレンジ)といった走行レンジを切り替える。なお、変速装置12は、有段変速機であってもよいし、無段変速機であってもよい。エンジン10および変速装置12は、車両1に搭載された制御装置18により制御される。
【0019】
制御装置18は、車両1の総合的な制御を行う制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成される。制御装置18は、アクセル開度や車速といった図示しない各種センサにより検出される検出量や各種動作情報を入力し、車両1の制御に必要な情報を演算する。制御装置18は、演算した情報に基づいて、エンジン10、変速装置12、動力伝達装置20Aの後述するクラッチC1(第1接続装置)、クラッチC2(第2接続装置)などの動作を制御する。
【0020】
次に、図2を参照しながら動力伝達装置20Aについて説明する。図2は、第1実施形態の動力伝達装置20Aを示す概略構成図である。動力伝達装置20Aは、図示するように、差動装置30および遊星歯車機構40を含む歯車装置22と、クラッチC1およびクラッチC2を含む接続装置24とを備えている。
【0021】
差動装置30は、デフリングギヤ31と、デフケース32と、一対のピニオンギヤ33と、第1サイドギヤ34と、第2サイドギヤ35とを含むベベルギヤ(傘歯車)式の差動装置である。
【0022】
デフリングギヤ31は、ピニオンギヤ17を介してプロペラシャフト14に接続されている。デフケース32は、デフリングギヤ31と共に駆動軸16R、16L周りに回転する。一対のピニオンギヤ33は、駆動軸16R、16Lと直交する軸周りに回転自在にデフケース32により支持されたベベルギヤであり、デフケース32と共に駆動軸16R、16L周りに回転する。第1サイドギヤ34および第2サイドギヤ35は、デフケース32内に収容されて一対のピニオンギヤ33と噛み合い、駆動軸16R、16L周りに回転自在に支持される。第1サイドギヤ34は、駆動軸16Rに接続され、駆動軸16Rを介して後輪3Rにエンジン10からの動力を出力する第1出力部材である。また、第2サイドギヤ35は、遊星歯車機構40のキャリア45および接続装置24のクラッチC2を介して駆動軸16Lに接続され、後輪3Lにエンジン10からの動力を出力する第2出力部材である。
【0023】
これにより、車両1の直進時において、差動装置30は、一対のピニオンギヤ33と第1サイドギヤ34および第2サイドギヤ35とが相対回転することなく駆動軸16R、16L周りに回転する。一方、差動装置30は、車両1の旋回時において、一対のピニオンギヤ33と第1サイドギヤ34および第2サイドギヤ35とが相対回転することで、後輪3R、3Lの回転数差を吸収する。
【0024】
遊星歯車機構40は、リングギヤ41(固定要素)と、サンギヤ42(第2回転要素)と、複数の第1ピニオンギヤ43および複数の第2ピニオンギヤ44と、キャリア45(第1回転要素)とを含むダブルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0025】
リングギヤ41は、動力伝達装置20Aの各構成要素を収容するケーシング25に回転不能に固定された内歯歯車であり、駆動軸16R、16Lと同軸上に配置される。サンギヤ42は、リングギヤ41と同軸に配置された外歯歯車であり、クラッチC1を介して駆動軸16Lに接続される。複数の第1ピニオンギヤ43は、サンギヤ42と噛み合いする外歯歯車であり、サンギヤ42の周方向に沿って互いに間隔を空けて配置される。複数の第2ピニオンギヤ44は、リングギヤ41および隣り合う第1ピニオンギヤ43に噛み合う外歯歯車であり、サンギヤ42の周方向に沿って互いに間隔を空けて配置される。キャリア45は、複数の第1ピニオンギヤ43および複数の第2ピニオンギヤ44を回転自在(自転自在)に保持しながら、複数の第1ピニオンギヤ43および複数の第2ピニオンギヤ44と共に駆動軸16R、16L周りに回転(公転)する。キャリア45は、差動装置30の第2サイドギヤ35に接続されていると共に、クラッチC2を介して駆動軸16Lに接続されている。
【0026】
クラッチC1は、係合状態と解放状態とを切り替えることで、遊星歯車機構40のキャリア45と、駆動軸16Lすなわち後輪3Lとの接続および接続の解除が可能な摩擦係合装置である。また、クラッチC2は、係合状態と解放状態とを切り替えることで、遊星歯車機構40のサンギヤ42と、駆動軸16Lすなわち後輪3Lとの接続および接続の解除が可能な摩擦係合装置である。クラッチC1、C2は、多板式、単板式のいずれであってもよく、油圧式、電動式のいずれであってもよい。また、クラッチC1、C2は、噛み合い式の接続装置であってもよい。クラッチC1、C2は、駆動軸16R、16Lと同軸上に配置される。したがって、差動装置30、遊星歯車機構40およびクラッチC1、C2は、すべて駆動軸16R、16L上に配置されている。
【0027】
以上のように構成された動力伝達装置20Aにおいて、クラッチC1、C2は、制御装置18により動作が制御され、それにより、車両1の走行モードが切り替えられる。図3は、走行モードと各クラッチの状態との関係を示す説明図である。図示するように、車両1の走行モードは、通常走行モードと左右逆転モードとを含む。走行モードは、例えば、車両1の車室内に設けられた図示しないモード切り替えスイッチを運転者が操作することで切り替え可能に構成されればよい。なお、走行モードは、運転者がシフトポジションを変更することで切り替え可能に構成されてもよい。
【0028】
通常走行モードは、動力伝達装置20Aの歯車装置22がエンジン10からの動力を、後輪3Rと後輪3Lとが同方向に回転するように伝達する第1伝達経路を形成するモードである。一方、左右逆転モードは、歯車装置22がエンジン10からの動力を、後輪3Rと後輪3Lとが逆方向に回転するように伝達する第2伝達経路を形成するモードである。制御装置18は、走行モードを通常走行モードに設定するとき、クラッチC1を係合状態とし、クラッチC2を解放状態とする。また、制御装置18は、走行モードを左右逆転モードに設定するとき、クラッチC1を解放状態とし、クラッチC2を係合状態とする。
【0029】
通常走行モードおよび左右逆転モードについて、図4および図5を参照しながら説明する。図4は、通常走行モードにおける動力伝達装置20Aの各構成要素と、後輪3R、3Lの回転数の関係とトルクの釣り合い関係とを模式的に示す共線図である。また、図5は、左右逆転モードにおける動力伝達装置20Aの各構成要素と、後輪3R、3Lの回転数の関係とトルクの釣り合い関係とを模式的に示す共線図である。なお、図4および図5において、黒丸は、回転数が値0となる回転要素を示している。また、説明の簡略化のため、差動装置30をエンジン10からのトルクが入力される回転要素として記載し、差動装置30による左右の後輪3R、3Lの回転数差の吸収に関する記載は省略している。
【0030】
図4に示すように、通常走行モードでは、クラッチC1により遊星歯車機構40のキャリア45と後輪3Lとが接続され、クラッチC2による遊星歯車機構40のサンギヤ42と後輪3Lとの接続が解除される。それにより、図中の白抜き矢印に示すように、差動装置30に例えば前進方向のトルク(動力)が入力されると、当該トルクが差動装置30の第1サイドギヤ34(図2参照)から後輪3Rに伝達されると共に、差動装置30の第2サイドギヤ35(図2参照)、キャリア45から後輪3Lに伝達される第1伝達経路が形成される。そして、差動装置30から伝達されるトルクと、駆動輪としての後輪3R、3Lに生じる反力トルク(黒色を付した矢印)とが釣り合う。このとき、キャリア45は、差動装置30の第1サイドギヤ34、第2サイドギヤ35と同方向に回転するため、後輪3R、3Lが同方向(ここでは前進方向)に回転する。これにより、前進レンジや後進レンジでの走行が可能となる。
【0031】
一方、図5に示すように、左右逆転モードでは、クラッチC1による遊星歯車機構40のキャリア45と後輪3Lとの接続が解除され、クラッチC2により遊星歯車機構40のサンギヤ42と後輪3Lとが接続される。それにより、図中の白抜き矢印に示すように、差動装置30に例えば前進方向のトルクが入力されると、当該トルクが差動装置30の第1サイドギヤ34から後輪3Rに伝達されると共に、差動装置30の第2サイドギヤ35、キャリア45からサンギヤ42を介して後輪3Lへと伝達される第2伝達経路が形成される。キャリア45に伝達されたトルクは、サンギヤ42に逆方向のトルクとして作用し、差動装置30から伝達されるトルクと後輪3R、3Lに生じる反力トルク(黒色を付した矢印参照)とが釣り合う。このとき、サンギヤ42は、キャリア45、差動装置30の第1サイドギヤ34および後輪3Rと逆方向に回転するため、後輪3Lも後輪3Rと逆方向に回転する。
【0032】
図6は、左右逆転モードでの車両1の挙動の一例を示した説明図である。いま、シフトポジションが前進レンジに設定されると共に走行モードが左右逆転モードに設定されている状態で、運転者が図示しないステアリングを操作して前輪2R、2Lを左旋回側に傾かせながらアクセルを踏み込んだことを想定する。このとき、図中の白抜き矢印に示すように、後輪3Rが前進方向に回転すると共に後輪3Lが後進方向に回転する。そのため、車両1は、円弧状の白抜き矢印および破線で示すように、後輪3R、3Lを滑らせながら前輪2R、2L近傍の前端部を旋回中心として旋回する。すなわち、通常走行モードで車両1が旋回する際の最小旋回半径よりも、さらに小さい旋回半径での旋回が可能となり、方向転換を容易に行うことが可能となる。なお、図6では、左右逆転モードでの車両1の旋回を模式的に示しており、旋回中に前輪2R、2Lの位置が不動であるとは限らない。
【0033】
以上説明したように、第1実施形態の動力伝達装置20Aは、エンジン10(動力源)からの動力を後輪3R(第1駆動輪)および後輪3L(第2駆動輪)が同方向に回転するように伝達する第1伝達経路と、エンジン10からの動力を後輪3Rおよび後輪3Lが逆方向に回転するように伝達する第2伝達経路とを形成する歯車装置22と、後輪3Rおよび後輪3Lと第1伝達経路との接続と、後輪3Rおよび後輪3Lと第2伝達経路との接続とを切り替える接続装置24とを備える。
【0034】
この構成により、接続装置24によって、歯車装置22で形成される第1伝達経路を選択した場合には、後輪3R、3Lを同方向に回転させて、車両の直進や旋回といった通常の走行を行うことができる。一方、接続装置24によって、歯車装置22で形成される第2伝達経路を選択した場合には、後輪3R、3Lを逆方向に回転させながら車両の方向転換を行うことができる。したがって、動力伝達装置20Aによれば、各駆動輪(後輪3R、3L)に対応した複数の動力源を用いることなく、左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させて車両を走行させることが可能となる。
【0035】
また、歯車装置22は、エンジン10からの動力が入力され、入力した動力を後輪3Rに接続された第1サイドギヤ34(第1出力部材)と、第2サイドギヤ35(第2出力部材)とに出力する差動装置30と、リングギヤ41(固定要素)と、第2サイドギヤ35に接続されたキャリア45(第1回転要素)と、第2サイドギヤ35からキャリア45に動力が伝達されるとキャリア45と逆方向に回転するサンギヤ42(第2回転要素)とを含む遊星歯車機構40とを備え、接続装置24は、後輪3Lとキャリア45との接続および接続の解除を行うクラッチC1(第1接続装置)と、後輪3Lとサンギヤ42との接続および接続の解除を行うクラッチC2(第2接続装置)とを備える。
【0036】
この構成により、後輪3Rは差動装置30の第1サイドギヤ34と同方向に回転する。そして、クラッチC1によって、後輪3Lとキャリア45とを接続した場合、上記第1伝達経路が形成され、後輪3R、3Lが同方向に回転する。一方、クラッチC2によって、後輪3Lとサンギヤ42とを接続した場合、上記第2伝達経路が形成され、後輪3R、3Lとが逆方向に回転する。したがって、エンジン10から動力が入力される差動装置30に、遊星歯車機構40、クラッチC1、C2を加えるだけで左右の後輪3R、3Lを同方向および逆方向の双方に回転させる構成が実現することができ、動力伝達装置20Aの構造の複雑化を抑制することができる。
【0037】
また、遊星歯車機構40は、固定要素としてのリングギヤ41と、第2回転要素としてのサンギヤ42と、サンギヤ42と噛み合う複数の第1ピニオンギヤ43と、リングギヤ41と複数の第1ピニオンギヤ43と噛み合う複数の第2ピニオンギヤ44と、複数の第1ピニオンギヤ43および複数の第2ピニオンギヤ44を自転自在に保持し、複数の第1ピニオンギヤ43および複数の第2ピニオンギヤ44と共に公転する第1回転要素としてのキャリア45とを含む。この構成により、ダブルピニオン型の遊星歯車機構40を用いて左右の後輪3R、3Lを同方向および逆方向の双方に回転させる構成を実現することができ、動力伝達装置20Aの構造の複雑化を抑制することができる。
【0038】
また、差動装置30は、第1出力部材としての第1サイドギヤ34と、第2出力部材としての第2サイドギヤ35とを含むベベルギヤ式差動装置である。この構成により、ベベルギヤ式差動装置30を用いて左右の後輪3R、3Lを同方向および逆方向の双方に回転させる構成が実現することでき、動力伝達装置20Aの構造の複雑化を抑制することができる。
【0039】
また、差動装置30、遊星歯車機構40、クラッチC1、C2は、駆動軸16R、16L上に配置される。この構成により、動力伝達装置20Aの大径化を抑制することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の動力伝達装置について説明する。図7は、第2実施形態の動力伝達装置20Bを示す概略構成図である。動力伝達装置20Bは、差動装置30に代えて差動装置50を備えている。動力伝達装置20Bの他の構成要素は、動力伝達装置20Aと同様であるため、詳細な説明を省略し、同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0041】
差動装置50は、図7に示すように、差動側リングギヤ51と、差動側サンギヤ52と、複数の差動側第1ピニオンギヤ53および複数の差動側第2ピニオンギヤ54と、差動側キャリア55とを含む。すなわち、差動装置50は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構式の差動装置として構成される。
【0042】
差動側リングギヤ51は、ピニオンギヤ17を介してプロペラシャフト14に接続され、エンジン10からの動力が入力される内歯歯車であり、駆動軸16R、16Lと同軸上に配置される。差動側サンギヤ52は、差動側リングギヤ51と同軸に配置された外歯歯車であり、駆動軸16Rに接続されている。差動側サンギヤ52は、駆動軸16Rを介して後輪3Rにエンジン10から動力を出力する第1出力部材である。
【0043】
複数の差動側第1ピニオンギヤ53は、差動側サンギヤ52と噛み合いする外歯歯車であり、差動側サンギヤ52の周方向に沿って互いに間隔を空けて配置される。複数の差動側第2ピニオンギヤ54は、隣り合う差動側第1ピニオンギヤ53および差動側リングギヤ51に噛み合う外歯歯車であり、差動側サンギヤ52の周方向に沿って互いに間隔を空けて配置される。
【0044】
差動側キャリア55は、複数の差動側第1ピニオンギヤ53および複数の差動側第2ピニオンギヤ54を回転自在(自転自在)に保持しながら、複数の差動側第1ピニオンギヤ53および複数の差動側第2ピニオンギヤ54と共に駆動軸16R、16L周りに回転(公転)する。差動側キャリア55は、遊星歯車機構40のキャリア45と接続されて当該キャリア45と共に駆動軸16R、16L周りに回転する。すなわち、差動側キャリア55は、遊星歯車機構40のキャリア45および接続装置24のクラッチC2を介して駆動軸16Lに接続され、後輪3Lにエンジン10からの動力を出力する第2出力部材である。キャリア45と差動側キャリア55とは、一体の部材として構成されてもよい。
【0045】
これにより、車両1の直進時において、差動装置50は、差動側キャリア55と差動側サンギヤ52とが相対回転することなく駆動軸16R、16L周りに回転する。一方、車両1の旋回時において、差動装置50は、差動側キャリア55と差動側サンギヤ52とが相対回転することで、後輪3R、3Lの回転数差を吸収する。
【0046】
そして、遊星歯車機構式の差動装置50を用いた場合にも、クラッチC1、C2の動作を図3に示したように切り替えることで、第1実施形態の動力伝達装置20Aと同様に、通常走行モードと左右逆転モードとを切り替えることができる。すなわち、図4および図5で示した差動装置30の要素が差動装置50に置き換わる。このように、遊星歯車機構式の差動装置50を用いて左右の駆動輪を同方向および逆方向の双方に回転させる構成を実現することができ、動力伝達装置20Bの構造の複雑化を抑制することができる。
【0047】
また、動力伝達装置20Bにおいても、差動装置50、遊星歯車機構40、クラッチC1、C2は、駆動軸16R、16L上に配置される。この構成により、動力伝達装置20Bの大径化を抑制することができる。
【0048】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、第1実施形態および第2実施形態では、遊星歯車機構40としてダブルピニオン型の遊星歯車機構を用いるものとしたが、遊星歯車機構40は、固定要素と、差動装置30、50の第2出力部材に接続された第1回転要素と、第1回転要素と逆方向に回転する第2回転要素とを含むものであればよい。
【0049】
また、差動装置30または差動装置50、遊星歯車機構40、クラッチC1、C2の少なくともいずれかは、駆動軸16R、16Lと同軸上に配置されるものでなくてもよい。
【0050】
また、動力伝達装置20A、20Bは、前輪2R、2Lおよび後輪3R、3Lの双方を駆動輪とする四輪駆動の車両において、エンジン10からの動力を前輪2R、2Lに伝達する動力伝達装置と、後輪3R、3Lに伝達する動力伝達装置の双方に適用されてもよい。また、動力源は、電動モータといった他の動力源であってもよい。
【0051】
また、動力伝達装置20A、20Bは、上記第1伝達経路と上記第2伝達経路とを形成する歯車装置と、後輪3R、3Lと第1伝達経路との接続と、後輪3R、3Lと第2伝達経路との接続とを切り替える接続装置とを備えるものであれば、第1実施形態および第2実施形態に示したものに限らず、他の歯車装置や遊星歯車機構、ギヤ、クラッチなどの構成要素を含むものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2R、2L 前輪
3L 後輪(第2駆動輪)
3R 後輪(第1駆動輪)
10 エンジン(動力源)
16R、16L 駆動軸
20A、20B 動力伝達装置
22 歯車装置
24 接続装置
25 ケーシング
30、50 差動装置
34 第1サイドギヤ(第1出力部材)
35 第2サイドギヤ(第2出力部材)
40 遊星歯車機構
41 リングギヤ(固定要素)
42 サンギヤ(第2回転要素)
43 第1ピニオンギヤ
44 第2ピニオンギヤ
45 キャリア(第1回転要素)
51 差動側リングギヤ
52 差動側サンギヤ(第1出力部材)
53 差動側第1ピニオンギヤ
54 差動側第2ピニオンギヤ
55 差動側キャリア(第2出力部材)
C1 クラッチ(第1接続装置)
C2 クラッチ(第2接続装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7