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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025057897
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】アルミニウム素線及びアルミニウム電線
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20250402BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250402BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20250402BHJP
   C22C 1/02 20060101ALN20250402BHJP
【FI】
C22C21/00 A
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
C22F1/04 D
C22C1/02 503J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167728
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】平田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 青樹
(57)【要約】
【課題】細い線径で高い伸線性を有するアルミニウム素線を提供する。
【解決手段】アルミニウム素線は、Fe、Mg、Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム素線であって、前記アルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有する。
【選択図】図8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Mg、Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム素線であって、
前記アルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有することを特徴とする
アルミニウム素線。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム素線において、
前記アルミニウム素線の断面方向となす角35~45°の平面上に、前記(111)結晶面中での金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、
前記アルミニウム素線の断面方向となす角40~50°の平面上に、前記(200)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、及び
前記アルミニウム素線の断面方向となす角60~70°の平面上に、前記(220)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること
の少なくともいずれかであることを特徴とする
アルミニウム素線。
【請求項3】
請求項1に記載のアルミニウム素線において、
Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、及び/又は、Siが0~0.03質量%であることを特徴とする
アルミニウム素線。
【請求項4】
請求項1に記載のアルミニウム素線において、
導電率が50%IACS以上であることを特徴とする
アルミニウム素線。
【請求項5】
請求項1に記載のアルミニウム素線において、
引張強度が300MPa以上であることを特徴とする
アルミニウム素線。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム素線と、
前記アルミニウム素線を絶縁体により被覆する被覆層と、
を備えることを特徴とする
アルミニウム電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電用として用いられるアルミニウム素線に関し、特に、伸線性を向上させたアルミニウム素線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブルに使用される導体としては主に高導電率である銅が用いられてきたが、近年、軽量化や環境負荷の軽減が可能となるアルミニウムが銅に替わる導体材料として期待されている。
【0003】
例えば、架空送電線においては、古くから、アルミニウム素線から構成される電線が用いられており、銅の電線を使用した場合に比べて大きな軽量化を果たしている。配電線においても、アルミニウム素線を用いた600V低圧CVケーブルなどが実用化されており、銅線よりも軽さや柔軟性の利点を有したケーブルとして活用されている。
【0004】
近年では、自動車の車内配線にもアルミニウム素線が用いられるようになってきており、今後銅線からアルミニウム素線への代替はますます加速していくと予想される。
【0005】
しかし、アルミニウム素線は、主に純度99%以上の純アルミニウムのワイヤーロッドから伸線工程を経て指定の線径に加工されるが、純アルミニウムは細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下への伸線が困難とされており、細径の長尺素線の安定的な生産が困難である。
【0006】
引張強度についても、例えば、純アルミニウム(A1070、O材)では、引張強度が70MPa程度と非常に弱い。そのため、純アルミニウムに他元素を添加し合金化することで強度を上げることが試みられている。
【0007】
例えば、従来のアルミニウム素線としては、導体に利用されるアルミニウム合金線であって、Feを0.005質量%以上2.2質量%以下含有し、残部がAl及び不純物から成り、導電率が58%IACS以上であり、伸びが10%以上であることを特徴とするアルミニウム合金線が知られている(特許文献1参照)。
例えば、従来のアルミニウム素線を用いたアルミ導電線としては、Feを1.10~1.50mass%、Mgを0.03~0.25mass%、Siを0.02~0.06mass%含み、残部Al及び不可避不純物からなる線径0.07~1.50mmのアルミ合金素線を撚り合せて形成した撚線と、該撚線を被覆する樹脂層とからなる引張強度が140MPa以上のアルミ導電線が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
また、例えば、従来のアルミニウム素線を用いたアルミ導電線としては、Feを0.10~0.3mass%、Mgを0.03~0.25mass%、Siを0.02~0.06mass%含み、残部Al及び不可避不純物からなる線径0.07~1.50mmのアルミ合金素線を撚り合せて形成した撚線と、該撚線を被覆する樹脂層とからなる引張強度が140MPa以上のアルミ導電線が知られている(特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2017‐53035号公報
【特許文献2】特開2006-19163号公報
【特許文献3】特開2006-19164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来のアルミニウム素線は、例えば、特許文献1のように、Ti(チタン)やBi(ビスマス)のようなコストのかかる金属元素を必須元素とする一方で、線径φ0.3mmのアルミニウム素線の引張強さは120Mpa程度に止まっている。
【0011】
また、従来のアルミニウム素線は、特許文献1~3のように、純アルミニウムに他元素を添加し合金化することで強度の向上を図っているが、一般的にアルミニウム合金は強度の向上に伴って導電率が低下し、導電材料に適さなくなる。
【0012】
そのため、現状では、従来のアルミニウム素線は、加工中の断線の心配がない比較的太い線径の素線で構成されている。すなわち、従来のアルミニウム素線は、依然として、細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下への伸線が十分ではなく、細径の長尺素線の安定的な生産が依然として困難である。
【0013】
このように、汎用的なアルミニウム電線・ケーブルを構成する十分な伸線性を有するアルミニウム素線は、現在のところ見当たらない。
【0014】
本発明は、前記課題を解消するためになされたものであり、高い伸線性を有するアルミニウム素線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、伸線性を向上させるアルミニウム素線の構成を新たに見出し、本発明に係るアルミニウム素線を完成させるに至った。
【0016】
かくして、本願に開示するアルミニウム素線は、Fe、Mg、Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム素線であって、前記アルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有するものである。このように、Fe、Mg、Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム素線であって、前記アルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有することから、細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下の伸線も十分に可能となり、細径にも対応可能な長尺状のアルミニウム素線の安定的な生産が可能となる。
【0017】
また、本願に開示するアルミニウム素線は、必要に応じて、前記アルミニウム素線の断面方向となす角35~45°の平面上に、前記(111)結晶面中での金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、前記アルミニウム素線の断面方向となす角40~50°の平面上に、前記(200)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、及び、前記アルミニウム素線の断面方向となす角60~70°の平面上に、前記(220)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在することの少なくともいずれかである。
【0018】
このように、前記アルミニウム素線の断面方向となす角35~45°の平面上に、前記(111)結晶面中での金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、前記アルミニウム素線の断面方向となす角40~50°の平面上に、前記(200)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、及び、前記アルミニウム素線の断面方向となす角60~70°の平面上に、前記(220)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在することの少なくともいずれかであることから、当該特徴のある金属元素の構造により、細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下への十分な伸線が可能となり、細径の長尺素線の安定的な生産が可能となる。
【0019】
また、本願に開示するアルミニウム素線は、必要に応じて、Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、及び/又は、Siが0~0.03質量%であるものである。このように、Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、及び/又は、Siが0~0.03質量%であることから、当該元素配合により、導電率を維持したうえで強度が大きく向上し、かつ優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺素線の安定的な生産が容易に可能となる。
【0020】
また、本願に開示するアルミニウム素線は、必要に応じて、導電率が50%IACS以上であるものである。このように、導電率が50%IACS以上であることから、高い導電率を維持したうえで優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺素線の安定的な生産が容易に可能となる。
【0021】
また、本願に開示するアルミニウム素線は、必要に応じて、引張強度が300MPa以上であるものである。このように、引張強度が300MPa以上であることから、高い強度を維持したうえで優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺素線の安定的な生産が容易に可能となる。
【0022】
また、本願に開示するアルミニウム電線は、前記アルミニウム素線と、前記アルミニウム素線を絶縁体により被覆する被覆層と、を備えるものである。このように、前記アルミニウム素線と、前記アルミニウム素線を絶縁体により被覆する被覆層と、を備えることから、導電率を維持したうえで強度が大きく向上し、かつ優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺のアルミニウム電線が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願発明の実施例1に係るアルミニウム素線の断面組織写真(b)(c)およびその切断面の説明図(a)を示す。
図2】本願発明の比較例1に係るアルミニウム素線の断面組織写真の説明図を示す。
図3】本願発明の比較例2に係るアルミニウム素線の断面組織写真の説明図を示す。
図4】本願発明の実施例2に係るアルミニウム素線のX線回折装置を用いた(111)結晶面と(200)結晶面の結晶方位の観測結果を示す。
図5】本願発明の実施例2に係るアルミニウム素線のX線回折装置を用いた(220)結晶面の結晶方位の観測結果を示す。
図6】本願発明の比較例5に係るアルミニウム素線のX線回折装置を用いた(111)結晶面と(200)結晶面の結晶方位の観測結果を示す。
図7】本願発明の比較例5に係るアルミニウム素線のX線回折装置を用いた(220)結晶面の結晶方位の観測結果を示す。
図8】本願発明の比較例5に係るアルミニウム素線のX線回折装置を用いた結晶方位の観測結果の概略的な一覧図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
本願の第1の実施形態に係るアルミニウム素線について以下説明する。
【0025】
第1の実施形態に係るアルミニウム素線は、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム素線であって、このアルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有するものである。
【0026】
ここで、不可避不純物とは、原料に既に存在している不純物や、製造プロセスにおいて不可避的に混入する不純物が該当し、例えば、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Bi(ビスマス)、V(バナジウム)、In(インジウム),Sr(ストロンチウム),Sc(スカンジウム),Be(ベリリウム)等が挙げられる。不可避不純物の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、各金属元素を0.03質量%以下として含有することができる。
【0027】
伸線性とは、アルミニウム素線が断線せずに伸線できる重量(総伸線重量)[kg]を、(断線数+1)の回数[回]で除して得た値[kg/回]として定義される。
【0028】
すなわち、本実施形態における伸線性3kg/回以上とは、本実施形態に係るアルミニウム素線が断線せずに伸線できる重量(総伸線重量)を、(断線数+1)の回数[回]で除して得た値が、3kg/回以上であることを意味する。
【0029】
この伸線対象となるアルミニウム素線の線径(直径)については、特に限定されず、あらゆる線径のものを対象とできるが、より好適には、線径φ0.1mm以下であり、例えば、線径φ0.09mm、φ0.08mm、φ0.07mm、φ0.06mm、φ0.05mm等とすることができる。これにより、従来では困難であった細い線径で高い伸線性を有するアルミニウム素線が得られる。
【0030】
従来のアルミニウム素線の伸線性においては、例えば、線径φ0.08mmの細線とした従来のAl-1.8%Fe合金(DA1-B-11)では、0.5~1kg/回程度であることからも、細線で従来よりも高い伸線性が発揮される。
【0031】
このように、本実施形態に係るアルミニウム素線は、Fe、Mg、Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金から構成されて、このアルミニウム合金が、伸線性3kg/回以上の結晶構造を有することから、細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下の伸線も十分に可能となり、細径にも対応可能な長尺状のアルミニウム素線の安定的な生産が可能となる。
【0032】
この伸線性の上限は、特に限定されないが、使い勝手の良さから、20kg/回以下とすることができる。
【0033】
本実施形態に係るアルミニウム素線の伸線性3kg/回以上の結晶構造とは、特に限定されないが、結晶方位を用いて特定することが可能である。結晶方位の分布は、例えば、X線源にKα線を用いたX線極点図を用いて測定可能である。結晶方位とは、ミラー指数を用いて(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面等の結晶面について示される特性である。
【0034】
すなわち、本実施形態に係るアルミニウム素線の伸線性3kg/回以上の結晶構造は、このアルミニウム素線の断面方向となす角35~45°の平面上に、(111)結晶面中での金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、このアルミニウム素線の断面方向となす角40~50°の平面上に、(200)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在すること、及び、このアルミニウム素線の断面方向となす角60~70°の平面上に、(220)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在することの少なくともいずれかにより構成することができる。
【0035】
上記の結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在することとは、特に限定されないが、上記(111)結晶面中の金属元素については、好適には、40~50%の存在率で存在することであり、より好適には、42~48%の存在率で存在することであり、さらに好適には、44~46%の存在率で存在することであり、例えば、45%の存在率で存在することである。
【0036】
また、上記(200)結晶面中の金属元素については、好適には、41~51%の存在率で存在することであり、より好適には、43~49%の存在率で存在することであり、さらに好適には、45~47%の存在率で存在することであり、例えば、46%の存在率で存在することである。
【0037】
また、上記(220)結晶面中の金属元素については、好適には、12~22%の存在率で存在することであり、より好適には、14~20%の存在率で存在することであり、さらに好適には、16~18%の存在率で存在することであり、例えば、17%の存在率で存在することである。
【0038】
このように(111)結晶面、(200)結晶面、および(220)結晶面で特定された結晶方位により、細径への伸線、特に線径φ0.1mm以下への十分な伸線が可能となり、細径にも対応可能な長尺状のアルミニウム素線の安定的な生産が可能となる(後述の実施例参照)。
【0039】
この優れた効果を奏するメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、上記で特定された結晶方位により、原子レベルでAl、Fe、Mgの各金属原子が相互作用して導電性を維持しつつ伸展性が高められ、アルミニウム合金全体の伸線性を効率よく高めていることが推察される。
【0040】
また、本実施形態に係るアルミニウム素線を構成する金属元素の配合率は、特に限定されないが、Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、及び/又は、Siが0~0.03質量%とすることができる。
【0041】
例えば、Feが1.2~2質量%の条件のみを満たしてもよいし、Mgが0.03~0.2質量%の条件のみを満たしてもよいし、Siが0~0.03質量%の条件のみを満たしてもよいし、これらFe、Mg、Siのうちの2つの条件を満たしてもよいし、Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、及び、Siが0~0.03質量%のすべての条件を満たしてもよい。
【0042】
すなわち、Feが1.2~2質量%、Mgが0.03~0.2質量%、およびSiが0~0.03質量%のうちの少なくともいずれかを満たすことが好適である。
【0043】
Feについては、純AlにFeを添加すると、一般的に、強度が増加し導電率が低下する。ただし、強度増加量に対し導電率低下量が小さいため、高強度かつ高導電率を両立したい場合に有効である。Al-Fe合金線においては、非熱処理状態でも引張伸びが大きく曲げにも引き抜きにも強いため、中間熱処理を行わずとも細径での伸線加工性に優れる。Fe添加量を増やすほど前述の効果は高まるが、一方でFe濃度の増加に伴い合金中に粗大晶出物が発生しやすくなり、2質量%を超えると、粗大晶出物を起点とした断線が頻発するようになる。
その一方で、Fe濃度が1.2質量%より少ないと、Feによる強度増加の効果が十分に得られ難くなる。このような点から、Fe濃度については、1.2~2質量%であることが好適であり、例えば、1.8質量%とすることができる。
【0044】
Mgについては、純AlにMgを添加すると、Feと同様に強度が増加し導電率が低下するが、0.1%以下の微量な添加でも大きな効果を発揮する。Mg濃度が0.2質量%を超えると、著しい強度増加に伴い靭性が損なわれるため、Al-Mg合金線は非熱処理状態では伸線が困難となり、中間熱処理による軟化が必要になる。その一方で、Mg濃度が0.03質量%より少ないと、Mgによる強度増加の効果が十分に得られ難くなる。このような点から、Mg濃度については、0.03~0.2質量%であることが好適であり、例えば、0.1質量%とすることができる。
【0045】
Siについては、連続鋳造にて製造したAl-Fe系合金の鋳造組織は、鋳造方向に沿って細長いデントライト組織が一様に分布するが、Si濃度が0.03質量%を超えて合金中に存在すると、鋳造方向を無視して花弁状に成長する組織が発生し、花弁状組織が多数発生した合金は伸線加工時に断線しやすくなる。Si濃度を適正値以下に抑制することで、伸線加工性の悪化を防ぐことができる。このような点から、Si濃度については、0~0.03質量%であることが好適であり、より好適には、0~0.02質量%であり、さらに好適には、0~0.01質量%であり、さらに好適には、ほぼ0質量%に近いことである。
【0046】
上記のFe、Mg、Siの少なくとも1つの濃度条件を満たすAl-Fe-Mg合金から構成されるアルミニウム素線は、導電率低下を低く抑えつつ強度が大きく向上し、かつ優れた伸線性を有することとなり好適である。
【0047】
また、本実施形態に係るアルミニウム素線は、特に限定されないが、導電率が50%IACS以上であることが好適である。このように、導電率が50%IACS以上であることから、高い導電率を維持したうえで上述した優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺素線の安定的な生産が容易に可能となる。
【0048】
また、本実施形態に係るアルミニウム素線は、特に限定されないが、引張強度が300MPa以上であることが好適である。このように、引張強度が300MPa以上であることから、高い強度を維持したうえで上述した優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺素線の安定的な生産が容易に可能となる。
【0049】
本実施形態に係るアルミニウム素線の用途は、特に限定されないが、線材、撚線、電線、ケーブルなど多岐にわたる。ケーブルの用途としては、特に限定されないが、例えば、産業ロボット用ケーブル、航空機内用ケーブル、マグネットワイヤ(コイル巻線用の絶縁電線)等が挙げられる。
【0050】
例えば、本実施形態に係るアルミニウム素線と、このアルミニウム素線を絶縁体により被覆する被覆層と、を備えたアルミニウム電線を構成できる。
【0051】
このアルミニウム電線を構成するアルミニウム素線は、ストレート線でもよいし、撚線でもよい。また、裸線でもよいし、金属めっき処理されていてもよい。
【0052】
この被覆層を構成する絶縁体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリエチレン、四フッ化エチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の樹脂材料を用いることができる。
【0053】
このように、このアルミニウム電線が、上述したアルミニウム素線と、このアルミニウム素線を絶縁体により被覆する被覆層と、を備えることから、導電率を維持したうえで強度が大きく向上し、かつ優れた伸線性を発揮できることとなり、細径の長尺のアルミニウム電線が容易に得られる。
【0054】
本発明の特徴を更に明らかにするため、以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
なお、以下の実施例では、以下の機器を使用した。
・X線回折装置:D8 DISCOVER(BRUKER社製)
・引張試験機:オートグラフAG-X plus(島津製作所製)・・・引張強度の測定に使用
・抵抗計:RM3544(HIOKI社製)・・・導電率の測定に使用
【0055】
(実施例1)
(Al-1.5%Fe-0.1%Mg合金)
純度99.99%のAlにFeが1.5%、Mgが0.1%となる分量の母合金を加え、700℃以上に加熱した炉にて溶解後、ワイヤーロッド状に連続鋳造し、Al-1.5%Fe-0.1%Mg合金からなる鋳造ワイヤーロッドを得た。この鋳造ワイヤーロッドを冷間にて線径φ0.08mmの細線にまで圧延・伸線加工し、Al-1.5%Fe-0.1%Mg合金からなるアルミニウム素線を得た。
【0056】
図1にこの鋳造ワイヤーロッドの断面組織写真を示す。この図1(b)および(c)に示す断面組織写真は、図1(a)に示すように、この鋳造ワイヤーロッドAを長手方向に沿って中心線を含んで切断した切断面Bのうちの中心に近い部分の断面組織写真である。鋳造方向は、すべての断面組織写真において右端から左端へ向かう左向き方向である。図1(b)および(c)に示す断面組織写真は、各々、倍率50倍および倍率200倍である。
【0057】
このアルミニウム素線を引張試験したときの破断に至るまでの最大引張強度、および長さ1mのアルミニウム素線の導電率を評価した。得られた結果から、引張強度314MPa、導電率52.6%IACSであった。また、線径φ0.08mmへの伸線の際、6.16kg伸線するのに断線が1回発生したことから、伸線性は3.08kg/回であった。
【0058】
(比較例1)
(Al-1.8%Fe合金)
純度99.99%のAlにFeが1.8%となる分量の母合金を加え、700℃以上に加熱した炉にて溶解後、ワイヤーロッド状に連続鋳造後、冷間にて線径φ0.08mmまで圧延・伸線加工した。図2に上記と同様の断面組織写真を示す。図2(a)および(b)に示す断面組織写真は、各々、倍率50倍および倍率200倍である。
【0059】
上記実施例1と同様の評価を行ったところ、引張強度273MPa、導電率52.9%IACSであった。また、線径φ0.08mmへの伸線の際、2.2kg伸線するのに断線が4回発生したことから、伸線性は0.44kg/回であった。
【0060】
(比較例2)
(Al-1.8%Fe-0.037%Si合金)
純度99.9%のAlにFeを1.8%添加し、不純物としてSiが0.037%含まれている合金を上記と同様の条件にて製造した。上記同様に図3に断面組織写真を示す。図3(a)および(b)に示す断面組織写真は、各々、倍率50倍および倍率200倍である。得られた断面組織写真から、花弁状の組織が多数観測された。これはSiの配合率が高過ぎることが原因と推察される。また、線径φ0.9mmへの伸線加工中に断線が多発し、それ以上細く伸線することができなかった。
【0061】
(比較例3)
(Al-0.1%Mg合金)
純度99.99%のAlにMgを0.1%添加した合金を上記と同様の条件にて製造したところ、線径φ2.1mmへの伸線加工中に断線が多発し、それ以上細く伸線することができなかった。
【0062】
(比較例4)
(純Al)
純Alの比較例として、線径φ5mm以上の電気用アルミニウム (Al純度99.7%)のワイヤーロッドを、冷間にて線径φ0.08mmまで圧延・伸線加工した。
【0063】
このアルミニウム素線について引張試験を実施し、破断に至るまでの最大引張強度、および長さ1mの合金線の導電率を評価した。得られた結果から、引張強度239MPa、導電率60.4%IACSであった。また、線径φ0.08mmへの伸線の際に、1.26kg伸線するのに断線が4回発生したことから、伸線性は0.252kg/回であった。
【0064】
上記の結果から、実施例1に係るAl-Fe-Mg系合金は、従来品である比較例1~4と比較して、高い導電率を維持しつつ、強度および伸線性が大きく向上したことが確認された。
【0065】
(実施例2)
(Al-1.5%Fe-0.1%Mg合金)
上記実施例1と同様の手順でAl-1.5%Fe-0.1%Mg合金からなる線径φ14の鋳造物としてのアルミニウム素線を製造した。X線源にKα線を用いたX線回折装置を用いてこのアルミニウム素線の断面方向を0°として、この合金の結晶方位を観測した。
【0066】
図4(a)に(111)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角38.5°の平面上に、金属元素が44.8%の高い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0067】
図4(b)に(200)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角45.2°の平面上に、金属元素が46.0%の高い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0068】
図5に(220)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角65.4°の平面上に、金属元素が16.9%の高い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0069】
(比較例5)
(Al-1.5%Fe合金)
純度99.9%のAlにFeを1.5%添加したAl-1.5%Fe合金を上記実施例1と同様の条件にて製造した。上記実施例2と同様に、この合金からなるアルミニウム素線に対して、X線回折装置を用いて結晶方位を観測した。
【0070】
図6(a)に(111)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角40.1°の平面上に、金属元素が9.5%の存在率(図中の赤系の割合)で存在していた。この存在率は、上記実施例2の(111)結晶面の場合の約20%程度にとどまり、上記実施例2よりも低い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0071】
図6(b)に(200)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角44.7°の平面上に、金属元素が12.7%の存在率(図中の赤系の割合)で存在していた。この存在率は、上記実施例2の(200)結晶面の場合の約30%程度にとどまり、上記実施例2よりも低い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0072】
図7に(220)結晶面の結晶方位のX線極点図を用いた観測結果を示す。得られた結果から、アルミニウム素線の断面方向となす角65.7°の平面上に、金属元素が7.3%の存在率(図中の赤系の割合)で存在していた。この存在率は、上記実施例2の(220)結晶面の場合の約44%程度にとどまり、上記実施例2よりも低い存在率(図中の赤系の割合)で存在したことが確認された。
【0073】
上記の実施例2と比較例5で得られた結晶方位のX線極点図を用いた観測結果の概略的な一覧図を図8に示す。得られた結果から、実施例2に係るアルミニウム素線では、アルミニウム素線の断面方向となす角35~45°の平面上に、この(111)結晶面中での金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在していたことが確認された。
【0074】
また、このアルミニウム素線の断面方向となす角40~50°の平面上に、この(200)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在していたことが確認された。
【0075】
また、このアルミニウム素線の断面方向となす角60~70°の平面上に、この(220)結晶面中で金属元素が他の平面よりも高い存在率で存在していたことが確認された。
【0076】
このような結晶方位の特徴を有するアルミニウム合金から構成されたアルミニウム素線は、上記の実施例1で確認されたように、引張強度314MPa、導電率52.6%IACS、伸線性3.08kg/回の優れた特性を示すことが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8