(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005793
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】スロットルバルブの温度推定装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F02D45/00 360A
F02D45/00 372
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106165
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松井 良輔
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384BA04
3G384BA06
3G384DA20
3G384DA38
3G384EA26
3G384EA27
3G384FA01Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】スロットルバルブの温度を精度よく推定できる温度推定装置を提供する。
【解決手段】記憶装置46には、機械学習により学習されたパラメータに基づく写像を規定する写像データが記憶されている。写像は、入力変数として、スロットルバルブ21を通過する吸気とスロットルバルブ21との間で移動する熱量に関与する吸気変数と、入力変数の時系列データとを含んで且つ、出力変数としてスロットルバルブ21の温度を含む。CPU42は、入力変数の値を取得する取得処理と、取得処理によって取得した入力変数の値を写像に入力することによって出力変数の値を算出する算出処理とを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの温度を推定する装置であって、
実行装置と、記憶装置とを備えており、
前記記憶装置には、機械学習により学習されたパラメータに基づく写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、入力変数として、前記スロットルバルブを通過する吸気と前記スロットルバルブとの間で移動する熱量に関与する吸気変数と、同入力変数の時系列データとを含んで且つ、出力変数として前記温度を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得する取得処理と、
前記取得処理によって取得した前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行する
スロットルバルブの温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットルバルブの温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気通路に設けられるスロットルバルブの温度を推定する技術が種々提案されている。例えば特許文献1に記載の内燃機関は、スロットルバルブの温度と関連のある冷却水の温度に基づいてスロットルバルブが凍結しているか否かの判定を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スロットルバルブの温度を推定する場合には、その温度を精度よく推定することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するスロットルバルブの温度推定装置は、内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの温度を推定する装置である。この温度推定装置は、実行装置と、記憶装置とを備えている。そして、前記記憶装置には、機械学習により学習されたパラメータに基づく写像を規定する写像データが記憶されており、前記写像は、入力変数として、前記スロットルバルブを通過する吸気と前記スロットルバルブとの間で移動する熱量に関与する吸気変数と、同入力変数の時系列データとを含んで且つ、出力変数として前記温度を含んでいる。そして、前記実行装置は、前記入力変数の値を取得する取得処理と、前記取得処理によって取得した前記入力変数の値を前記写像に入力することによって前記出力変数の値を算出する算出処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0006】
このスロットルバルブの温度推定装置は、スロットルバルブの温度を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態にかかるスロットルバルブの温度推定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、スロットルバルブの温度推定装置にかかる実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
<内燃機関の構成について>
図1に示すように、車両に搭載される内燃機関10は、燃焼室に導入する吸気が流れる吸気通路12を備えている。
【0009】
吸気通路12には、スロットルボディ20が設けられている。スロットルボディ20は、吸気通路12を流れる吸気の量を調整するスロットルバルブ21を備えている。スロットルバルブ21は、図示しないスプリングによって閉じ側に付勢されている。スロットルボディ20は、スロットルバルブ21を駆動する電動モータ16を備えている。スロットルボディ20には、当該スロットルボディ20内に内燃機関10の冷却水を循環させるための冷却水通路30が接続されている。冷却水通路30を流れる冷却水の流量は、内燃機関10の冷却系に設けられた電動ウォータポンプによって調整される。
【0010】
制御装置40は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量であるトルクや排気成分比率等を制御すべく、内燃機関10の燃料噴射弁や上記スロットルバルブ21等の駆動を制御する。
【0011】
制御装置40は、各種制御を実行する際に、外気温センサ51が検出する外気温THoutや、吸気温センサ52が検出する吸気温THAや、エアフロメータ53が検出する吸入空気量GAを参照する。また、制御装置40は、内燃機関10のクランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ54の出力信号Scrや、水温センサ55によって検出される上記冷却水の温度である冷却水温THWを参照する。また、制御装置40は、油温センサ56によって検出される内燃機関10の潤滑油の温度である油温THOや、車速センサ57によって検出される車速SPを参照する。また、制御装置40は、上記電動ウォータポンプの回転速度を検出する回転速度センサ58の出力信号Swpを参照する。なお、制御装置40は、クランク角センサ54の出力信号Scrに基づいて機関回転速度NEを演算する。また、制御装置40は、機関回転速度NE及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを演算する。機関負荷率KLは、全負荷状態で内燃機関10を定常運転したときのシリンダ流入空気量に対する、現在のシリンダ流入空気量の比率を表している。なお、シリンダ流入空気量は、吸気行程において気筒に流入する空気の量である。また、制御装置40は、回転速度センサ58の出力信号Swpに基づいてスロットルボディ20内を流れる冷却水の流量である冷却水流量Qを演算する。
【0012】
制御装置40は、CPU42、ROM44、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置46備えており、それらが互いに通信可能とされている。制御装置40は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することにより各種の制御を実行する。CPU42及びROM44は実行装置を構成している。
【0013】
<スロットルバルブの温度推定処理について>
制御装置40は、スロットルバルブ21の温度THvを推定する温度推定処理を実行する。なお、この温度推定処理を実行する制御装置40は、スロットルバルブ21の温度推定装置を構成している。
【0014】
図2に、制御装置40が実行する温度推定処理の手順を示す。
図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0015】
図2に示す一連の処理において、CPU42は、まず、各種の値を取得する取得処理を実行する(S10)。具体的には、CPU42は、外気温THout、吸気温THA、吸入空気量GA、機関回転速度NE、機関負荷率KL、冷却水温THW、冷却水流量Q、油温THO、車速SPを取得する。また、CPU42は、前回外気温THoutp、前回吸気温THAp、前回吸入空気量GAp、前回機関回転速度NEp、前回機関負荷率KLp、前回冷却水温THWp、前回冷却水流量Qp、前回油温THOp、前回車速SPpを取得する。
【0016】
前回外気温THoutpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した外気温THoutの値である。前回吸気温THApは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した吸気温THAの値である。前回吸入空気量GApは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した吸入空気量GAの値である。前回機関回転速度NEpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した機関回転速度NEの値である。前回機関負荷率KLpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した機関負荷率KLの値である。前回冷却水温THWpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した冷却水温THWの値である。前回冷却水流量Qpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した冷却水流量Qの値である。前回油温THOpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した油温THOの値である。前回車速SPpは、既定時間Tpよりも前のタイミングで実行された本処理においてCPU42が取得した車速SPの値である。なお、上記既定時間Tpとしては、温度THvの推定精度を高めるために必要な時間が予め設定されている。
【0017】
次に、CPU42は、記憶装置46に記憶された写像データDMによって規定される写像への入力変数に、S10の処理にて取得した各値を代入する(S20)。
すなわち、CPU42は、入力変数x(1)に外気温THoutを代入し、入力変数x(2)に吸気温THAを代入し、入力変数x(3)に吸入空気量GAを代入し、入力変数x(4)に機関回転速度NEを代入し、入力変数x(5)に機関負荷率KLを代入する。また、CPU42は、入力変数x(6)に冷却水温THWを代入し、x(7)に冷却水流量Qを代入し、x(8)に油温THOを代入し、x(9)に車速SPを代入する。
【0018】
また、CPU42は、入力変数x(10)に前回外気温THoutpを代入し、入力変数x(11)に前回吸気温THApを代入し、入力変数x(12)に前回吸入空気量GApを代入する。また、CPU42は、入力変数x(13)に前回機関回転速度NEpを代入し、入力変数x(14)に前回機関負荷率KLpを代入する。また、CPU42は、入力変数x(15)に前回冷却水温THWpを代入し、x(16)に前回冷却水流量Qpを代入し、x(17)に前回油温THOpを代入し、x(18)に前回車速SPpを代入する。
【0019】
本実施形態において、外気温THout、機関回転速度NE、吸入空気量GA、及び機関負荷率KLが代入される上記入力変数は、スロットルバルブ21を通過する吸気とスロットルバルブ21との間で移動する熱量に関与する吸気変数である。
【0020】
また、冷却水温THW及び冷却水流量Qが代入される上記入力変数は、スロットルボディ20を流れる冷却水とスロットルバルブ21との間で移動する熱量に関与する冷却水変数である。
【0021】
また、油温THO及び車速SPが代入される上記入力変数は、内燃機関10が収められているエンジンコンパートメント内の空気からスロットルボディ20を経由してスロットルバルブ21に伝わる熱量に関与する雰囲気変数である。
【0022】
また、機関負荷率KLが大きい場合には、スロットルバルブ21の開度が大きくされる。そのため、スプリングによって閉じ側に付勢されているスロットルバルブ21を開き側に駆動するために必要な電動モータ16のトルクは大きくなり、同電動モータ16の発熱量が多くなる。従って、機関負荷率KLが代入される上記入力変数は、電動モータ16からスロットルボディ20を経由してスロットルバルブ21に伝わる熱量に関与するモータ変数である。
【0023】
そして、入力変数x(10)から入力変数x(18)までの各変数は、入力変数の過去の値を示す時系列データである。
次に、CPU42は、上記写像データDMによって規定される写像に入力変数x(1)から入力変数x(18)までの各値を代入することにより、出力変数である温度THvを算出する算出処理を実行する(S30)。そして、CPU42は、本処理を一旦終了する。
【0024】
本実施形態では、上記写像として関数近似器を例示し、詳しくは、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示する。具体的には、S30の処理により値が代入された入力変数x(1)~x(18)とバイアスパラメータであるx(0)とが、係数wFjk(j=1~m,k=0~18)によって規定される線形写像にて「m」個の値に変換される。そして、変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入されることによって中間層のノードの値が定まる。また、係数wS1jによって規定される線形写像によって中間層のノードの値のそれぞれが変換された値が活性化関数gに代入されることによって、出力変数である温度THvの値が定まる。なお、本実施形態では、活性化関数fとしてハイパボリックタンジェントを例示し、活性化関数gとしてReLU関数を例示する。
【0025】
上記写像データDMは、例えば車両に搭載された内燃機関10を用いて学習された学習済みモデルである。すなわち、種々の上記入力変数を取得するとともに、そのときの温度THvを計測する。このようにして訓練データを生成して、訓練データに基づき写像データDMを学習する。そして、出力変数である温度THvに関して、写像データDMが出力する値と訓練データの値との差を縮めるように、上記係数wFjkや上記係数wS1jの値などを学習する。具体的には、例えば誤差関数のひとつである公差エントロピーを最小化するように、係数wFjkや係数wS1jの値を学習すればよい。このように機械学習を用いることにより、写像データDMを学習可能である。そして、こうした学習が完了すると、その学習済みモデルである写像データDMを記憶装置46に記憶させる。
【0026】
<作用及び効果について>
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)スロットルバルブ21を通過する吸気と当該スロットルバルブ21との間で移動する熱量を上記入力変数として、その入力変数を、写像データDMによって規定される写像に入力することによりスロットルバルブ21の温度THvを算出するようにしている。ここで、そうした入力変数に基づいて算出されるスロットルバルブ21の温度THvと実際のスロットルバルブ21の温度との間には時間的な遅れが存在する。そこで、本実施形態では、上述した入力変数に当該入力変数の時系列データを含むようにしている。従って、そうした時間的な遅れを考慮したうえで上記出力変数である温度THvが算出されるため、スロットルバルブ21の温度THvの推定精度が向上するようになる。
【0027】
(2)上記入力変数として、スロットルボディ20を流れる冷却水とスロットルバルブ21との間で移動する熱量に関与する上記冷却水変数を含むようにしている。従って、上記冷却水変数を上記入力変数に含まない場合と比較して、スロットルバルブ21の温度THvに関する推定精度が向上するようになる。
【0028】
(3)上記入力変数として、内燃機関10が収められているエンジンコンパートメント内の空気からスロットルボディ20を経由してスロットルバルブ21に伝わる熱量に関与する上記雰囲気変数を含むようにしている。従って、上記雰囲気変数を上記入力変数に含まない場合と比較して、スロットルバルブ21の温度THvに関する推定精度が向上するようになる。
【0029】
(4)上記入力変数として、電動モータ16からスロットルボディ20を経由してスロットルバルブ21に伝わる熱量に関与する上記モータ変数を含むようにしている。従って、上記モータ変数を上記入力変数に含まない場合と比較して、スロットルバルブ21の温度THvに関する推定精度が向上するようになる。
【0030】
<変更例について>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0031】
・吸気変数として上記入力変数に代入される値は、適宜変更してもよい。また、冷却水変数として上記入力変数に代入される値は、適宜変更してもよい。また、雰囲気変数として上記入力変数に代入される値は、適宜変更してもよい。また、モータ変数として上記入力変数に代入される値は、適宜変更してもよい。
【0032】
・上記冷却水変数、上記雰囲気変数、及び上記モータ変数のうちの少なくとも1つの変数を上記入力変数から省略してもよい。
・入力変数x(10)から入力変数x(18)までの各変数のうちの少なくとも1つを、入力変数の過去の値を示す時系列データとして写像に入力してもよい。
【0033】
・過去1回分のデータを入力変数の時系列データとしたが、過去2回分以上のデータを入力変数の時系列データとしてもよい。このようにして時系列データの数を増やすことにより、温度THvの推定精度をさらに高めることができる。
【0034】
・上記写像の活性化関数は例示であり、他の関数を採用してもよい。
・ニューラルネットワークとして、中間層の数が1層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数が2層以上であってもよい。
【0035】
・ニューラルネットワークとして、全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示したが、これに限らない。例えば、ニューラルネットワークとしては、回帰結合型ニューラルネットワークを採用してもよい。
【0036】
・上記写像としての関数近似器は、回帰式であってもよい。これは上記ニューラルネットワークにおいて中間層を備えないものに相当する。
【符号の説明】
【0037】
10…内燃機関、12…吸気通路、16…電動モータ、20…スロットルボディ、21…スロットルバルブ、30…冷却水通路、40…制御装置、42…CPU、44…ROM、46…記憶装置、51…外気温センサ、52…吸気温センサ、54…クランク角センサ、55…水温センサ、56…油温センサ、57…車速センサ、58…回転速度センサ