(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025057970
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】眼科装置の制御方法及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/13 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
A61B3/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167837
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110003937
【氏名又は名称】弁理士法人前川知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 和広
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316FA06
4C316FA07
4C316FA16
4C316FB01
4C316FB07
4C316FC07
4C316FC12
4C316FY05
(57)【要約】
【課題】前置レンズの挿抜に伴う操作を簡素化した眼科装置の制御方法及び眼科装置を提供すること。
【解決手段】眼科装置の制御方法は、前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出するとヘッド部を被検眼から離間方向に移動させる第一移動工程と、前置レンズの使用位置への移動が完了するとヘッド部を被検眼の接近方向に移動させる第二移動工程と、前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出するとヘッド部を離間方向に移動させる第三移動工程と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持機構により支持された顕微鏡と、前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズとを備える眼科装置の制御方法であって、
前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させる第一移動工程と、
前記前置レンズの使用位置への移動が完了すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させる第二移動工程と、
前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる第三移動工程と、
を含む制御方法。
【請求項2】
前記第一移動工程において、検者による前記前置レンズの操作部への接触を検出した場合、又は、前記前置レンズの退避位置からの移動を検出した場合に、前記ヘッド部は前記離間方向に移動する請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記移動の完了を検出してから予め定められた時間を経過したら移動する請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記前置レンズの種類に応じて前記前置レンズと前記被検眼との距離が予め定められた距離となるように、前記接近方向に移動する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項5】
前記前置レンズの種類は、検者による入力、前記前置レンズの金枠の形状、前記前置レンズに形成されたマークの認識、静電容量の検出、又は、前記顕微鏡が照射して反射した光の検出に基づいて検出される請求項1に記載の制御方法。
【請求項6】
前記第三移動工程において、使用位置から退避位置への移動の予兆の検出は、フットスイッチ若しくは集音センサによる入力の検出、又は、部屋の照明の点灯の検出である請求項1に記載の制御方法。
【請求項7】
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記移動の完了を検出してから予め定められた時間を経過したら、前記前置レンズの種類に応じて前記前置レンズと前記被検眼との距離が予め定められた距離となるように、前記接近方向に移動し、
前記前置レンズの種類は、検者による入力、前記前置レンズの金枠の形状、前記前置レンズに形成されたマークの認識、静電容量の検出、又は、前記顕微鏡が照射して反射した光の検出に基づいて検出され、
前記第三移動工程において、使用位置から退避位置への移動の予兆は、フットスイッチ若しくは集音センサによる入力の検出、又は、部屋の照明の点灯の検出である、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項8】
支持機構により支持された顕微鏡と、
前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させ、
前記前置レンズの使用位置への移動が完了したと判定すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させ、
前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる、
眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置の制御方法及び眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科手術では、ロボットアーム等の支持機構により支持された顕微鏡を備えた眼科装置(眼科用顕微鏡)が利用される。このような眼科装置では、手術を行う部位(例えば、前眼部又は眼底部)に応じて、前置レンズを対物レンズと被検眼との間に挿抜させる操作が検者により行われる。前置レンズを対物レンズと被検眼との間に挿抜させると、焦点距離の変動に伴い、顕微鏡(対物レンズ)と被検眼との距離を調整する必要が生じる。上記の調整を省略する技術として、例えば、対物レンズ(観察光学系)の光路上に挿抜可能な対物補助レンズを備えた眼科装置が開示されている(特許文献1)。この眼科装置は、前眼部の観察に際し、対物補助レンズがセットされかつ前置レンズがリリースされ、後眼部の観察に際し前置レンズがセットされかつ対物補助レンズがリリースされることで、対物レンズと被検眼との位置関係の変動を不要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際の被検眼の観察では、前置レンズを挿抜する際に、検者は被検者の顔の一部との衝突を避けるために顕微鏡を事前に被検眼から離間方向へ移動させる退避操作をすることがある。この場合、検者は、前置レンズの挿抜が完了した後は、顕微鏡を被検眼の近接方向に再度移動させて観察に適した位置に調整する。従って、特許文献1の眼科装置のように、前置レンズの挿抜に伴うピント調整のための顕微鏡の位置調整が不要となった場合でも、顕微鏡の位置を移動させる検者の操作は、依然として行われることが想定される。また前述の対物補助レンズはある特定の前置レンズに対応した構成となっている為、対物補助レンズを用いる場合であっても複数の前置レンズを使用する場合等では、検者の操作が必要なる。
【0005】
本開示は、前置レンズの挿抜に伴う操作を簡素化した眼科装置の制御方法及び眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る眼科装置の制御方法は、支持機構により支持された顕微鏡と、前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズとを備える眼科装置の制御方法であって、前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させる第一移動工程と、前記前置レンズの使用位置への移動が完了すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させる第二移動工程と、前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる第三移動工程と、を含む。
【0007】
本開示に係る眼科装置は、支持機構により支持された顕微鏡と、前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させ、前記前置レンズの使用位置への移動が完了したと判定すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させ、前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる。
【発明の効果】
【0008】
上記手段を用いる本開示に係る眼科装置の制御方法及び眼科装置は、前置レンズの挿抜に伴う操作を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、眼科装置1の全体図である。本実施形態の眼科装置1は、眼科用の顕微鏡装置である。眼科装置1は、脚部3、支柱4、支持機構であるロボットアーム5(第一アーム51、第二アーム52、第三アーム53、接続部54、第四アーム55)、及びロボットアーム5により支持された顕微鏡6を備える。
【0011】
脚部3は、キャスターを有し、任意の位置に移動可能である。支柱4は、脚部3に対して略鉛直方向に支持される。第一アーム51は、支柱4に対して軸線回りに回動可能に接続される。また、第二アーム52は第一アーム51と、第三アーム53は第二アーム52と、接続部54は第三アーム53と、第四アーム55は接続部54と、それぞれ回動可能に接続される。なお、
図1では模式的に示しているが、第二アーム52及び第三アーム53の両端の二箇所に設けられる回動軸は、それぞれアームの軸線方向に対して略直交方向に配置される。また支柱4と第一アーム51との回動軸は、第一アーム51の軸線上に配置され、接続部54と第四アーム55との回動軸は第四アーム55の軸線上に配置される。眼科装置1は、ロボットアーム5を駆動させることにより、顕微鏡6の水平位置及び高さ位置を制御することができる。眼科装置1は、脚部3、支柱4、及びロボットアーム5(第一アーム51、第二アーム52、第三アーム53、接続部54、第四アーム55)によって、顕微鏡6の全体位置を制御することができる。
【0012】
顕微鏡6は、支持ユニット61、支持アーム62、ヘッド部63、及び表示部64を有する。支持ユニット61は、第四アーム55とヘッド部63との間に設けられており、支持アーム62を介してヘッド部63を支持する。支持アーム62は、支持ユニット61と相対移動可能に接続されており、支持ユニット61とは反対側においてヘッド部63を支持する。
【0013】
ヘッド部63は、観察用カメラ631、鏡筒部632、内部光学系100、及び位置調整機構633を有する。観察用カメラ631は、顕微鏡6に、被検眼Eを撮像する機能を有する。
【0014】
鏡筒部632の底部には、内部光学系100の対物レンズ2が組み込まれる。なお、内部光学系100の説明は後述する。
【0015】
表示部64は、
図2で後述する観察光学系400により得られた画像を表示するモニタである。本実施形態の表示部64は、ヘッド部63とは独立した、据え置き型の装置である。表示部64は、観察像と重畳して被検眼E又は観察条件等の情報を表示してもよい。本実施形態では、表示部64としてモニタを用いているため、被検眼Eの観察像は、制御部110が画像処理(反転処理)を行うことにより、表示部64の表示に適したデータに調整される。なお、眼科装置1は、ヘッド部63に表示部(モニタ)を備え、検者がこの表示部を介して被検眼Eを観察可能な構成としてもよい。
【0016】
鏡筒部632には、前置レンズ18の位置調整機構633が取り付けられている。位置調整機構633は、被検眼Eに向かって延伸する保持アーム17と、保持アーム17の先端部に取り付けられた前置レンズ18とを有する。保持アーム17は、棒状の複数のアームを互いに異なる角度で接続した形態を有する。前置レンズ18は、顕微鏡6の対物レンズ2側に取り付けられる。前置レンズ18は、例えば、である操作部171(
図1参照)を検者が回動させることで、保持アーム17が動作して、退避位置及び使用位置への移動が操作される(
図5及び
図6の退避位置P1及び使用位置P2も参照)。本実施形態の保持アーム17は、前置レンズ18の光軸と、保持アーム17の基端側の軸とが、互いに平行となるように形成される。位置調整機構633は、鏡筒部632に対して保持アーム17を上下方向に移動させることができる。位置調整機構633は、保持アーム17を上下方向に移動させることによって、前置レンズ18と被検眼Eとの距離を適宜変更することができる。また、検者は、位置調整機構633の一部である操作部171を操作して、前置レンズ18を対物レンズ2の光軸に対して挿抜する機能を有する。位置調整機構633は、保持アーム17の一部に設けられたヒンジにより、保持アーム17を折り畳むことにより、前置レンズ18を移動させることができる。顕微鏡6の位置制御は、検者の足元に設置されているフットスイッチ19(入力部)を操作することによって行うことができる。
【0017】
フットスイッチ19は、主に、照明スイッチと位置調整スイッチの複数のスイッチを有する。照明スイッチは、例えば、照明光量調整スイッチ、可動照明絞りスイッチ、照明点滅スイッチ、照明角度切替スイッチ等を含む。位置調整スイッチは、例えば、上下粗動スイッチ、前置レンズ微動スイッチ、XY微動レバースイッチ、フォーカスアップダウンスイッチ、倍率調整スイッチ、位置初期化スイッチ等を含む。本実施形態のフットスイッチ19は、主に、プッシュボタンスイッチ又はレバースイッチにより構成される。従って、検者が両手で作業を行いながら被検眼Eを観察する場合であっても、ロボットアーム5の操作を容易に行うことができる。
【0018】
図2は、眼科装置1の内部光学系100を模式的に表した内部構成図である。眼科装置1の光学系は、対物レンズ2と、観察光学系400とを有する。対物レンズ2と、観察光学系400は、顕微鏡6に収納される。なお、
図2には図示しないが、内部光学系100は、観察光学系400の光軸O-400に対して同軸又は非同軸(軸外)に光を照射する照明光学系を有してもよい。又は、内部光学系100は、光軸O-400に対して同軸及び非同軸(軸外)に同時に又は切替可能に光を照射する照明光学系を有してもよい。内部光学系100が照明光学系を有する場合において、内部光学系100は一つ又は複数の照明光源を有することができる。対物レンズ2は、円形の両凸レンズである。
【0019】
被検眼Eに照射された照明光(又は照明光の一部)は、角膜や網膜等の被検眼Eの組織で反射及び散乱される。その反射及び散乱した戻り光(「観察光」とも呼ばれる)は、対物レンズ2を透過して、観察光学系400に入射する。
【0020】
観察光学系400は、変倍レンズ系401、リレーレンズユニット402、及び観察用カメラ631を備える。
図2において、観察光学系400の光軸O-400は、二点鎖線で示される。観察光学系400は、被検眼Eを、対物レンズ2を介して観察するために用いられる。変倍レンズ系401及びリレーレンズユニット402により導光された観察光は、観察用カメラ631の撮像素子631aにより撮像される。
【0021】
なお、被検眼Eの眼底の網膜を観察するとき、前置レンズ18は、検者が位置調整機構633(具体的には、操作部171)することにより、被検眼Eの眼前の光軸O-400上に挿入される。この場合、対物レンズ2の前側焦点位置U0は、眼底の網膜と共役となる。一方、角膜、虹彩等の前眼部を観察するとき、前置レンズ18を被検眼Eの眼前から脱離させて観察が行われる。
【0022】
図3は、本実施形態に係る眼科装置1の構成を示すブロック図である。眼科装置1は、制御部110、フットスイッチ19、表示部64、及び記憶部120を備える。眼科装置1は、入力部として、フットスイッチ19以外の他の入力装置を備えてもよい。眼科装置1は、例えば入力部として、タッチパネル又は検者(術者又は助手等)が手で操作可能な物理スイッチ等であってもよい。
【0023】
制御部110の各構成はソフトウェアとハードウェアの協働によって実現される機能的構成である。制御部110は、眼科装置1とは独立した情報処理装置であってもよく、眼科装置1のCCU(camera control unit)に搭載されてもよい。また、制御部110はネットワークを介して眼科装置1と通信可能に接続されていてもよい。
【0024】
また、制御部110は、記憶部120に記憶されるプログラム122に含まれるコード又は命令によって実現する機能、及び/又は方法を実行する。制御部110は、例として、中央処理装置(CPU,Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU、MCU(Microcontroller Unit)、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC、FPGA等を適用することができ、集積回路等に形成された論理回路や専用回路によって各実施形態に開示される各処理を実現してもよい。また、これらの回路は、1又は複数の集積回路により実現されてよく、各実施形態に示す複数の処理を1つの集積回路により実現されることとしてもよい。
【0025】
記憶部120は、眼科装置1の制御プログラム等の必要とされる各種のプログラムや各種データを記憶する機能を有する。また、測定した信号等の取得した情報を記憶可能である。記憶部120は、HDD、SSD、フラッシュメモリなど各種の記憶媒体により実現される。
【0026】
記憶部120は、位置情報121及び各種のプログラム122を記憶する。本実施形態の位置情報121は、眼科装置1が眼底部を観察する際の被検眼Eに対する顕微鏡6の高さ位置である。位置情報121は、例えば、直交座標系、極座標系、又はその他の表現形式で表された空間位置を表す情報である。
【0027】
次に、眼科装置1の制御方法の各工程について説明する。
図4は、眼科装置1の制御のフローチャートである。なお、
図4の各工程の動作は、制御部110により制御される。本実施形態では、白内障手術及び硝子体手術の中で、検者(術者)が眼科装置1を使用する場面を想定して説明する。まず、検者は、眼科装置1により被検眼Eを観察しながら、被検眼Eの前眼部の手術を実施する。このとき、前置レンズ18は、
図5の状態Q1に示すように退避位置P1に退避されている。検者は、前眼部の手術を終えると、眼底部の手術を実施するために、前置レンズ18を退避位置から使用位置へ移動させる。ここで、眼科装置1は、ステップS01からステップS03に従って動作する。
【0028】
ステップS01で、制御部110は、前置レンズ18の退避位置P1から使用位置P2への移動の予兆を検出すると、ヘッド部63を被検眼Eから離間方向D1(本実施形態では上方向)に移動させる第一移動工程を実行する。顕微鏡6の移動後の位置は
図5の状態Q2に示される。予兆の検出は、例えば、制御部110が、眼科装置1に設けられた光センサ、物理スイッチ(マイクロスイッチ等)、静電センサ、集音センサ(マイク)又は観察用カメラ631若しくは録画用カメラ等に例示されるセンサからの入力の有無を検出することにより行われる。制御部110は、集音センサから集音された音声入力を検出する場合、操作の指示内容を音声認識により判定してもよい。
【0029】
構成の例として、眼科装置1は、前置レンズ18の操作部171に、検者による接触を検出する近接センサを備える。この場合、制御部110は、検者による前置レンズ18の操作部171への接触を操作部171に設けられた近接センサにより検出した場合に、退避位置P1から使用位置P2への移動が予兆されると判定して、ヘッド部63を離間方向D1に移動させることができる。離間方向D1への移動量は、例えば10mmに設定される。又は、眼科装置1は、前置レンズ18の位置又は移動を検出するセンサを備えてもよい。センサは、前置レンズ18の位置又は移動を直接検出可能な位置に設けられてもよいし、保持アーム17の位置又は移動を検出可能な位置に設けられてもよい。この場合、制御部110は、前置レンズ18の退避位置P1からの移動を検出した場合に、ヘッド部63を離間方向D1に移動させることができる。
【0030】
ステップS02で、制御部110は、前置レンズ18の使用位置P2への移動が完了したと判定すると(
図6の状態Q3参照)、ヘッド部63を被検眼Eの接近方向D2に移動させる第二移動工程を実行する。顕微鏡6の移動後の位置は
図6の状態Q4に示される。接近方向D2への移動量は、例えば10mmに設定される。また、眼科装置1は、保持アーム17又は前置レンズ18が使用位置P2を検出するセンサ(例えば、光センサ、物理スイッチ、静電センサ、観察用カメラ631等)を備える。この場合、制御部110は、保持アーム17又は前置レンズ18が使用位置P2に移動したことをセンサへの入力を検出することで、前置レンズ18が使用位置P2への移動が完了したと判定し、ヘッド部63を被検眼Eの接近方向D2に移動させる。
【0031】
また、制御部110は、ステップS02において、前置レンズ18の使用位置P2への移動の完了を検出してから予め定められた時間(例えば、2秒、3秒)を経過したら、ヘッド部63を移動させる構成としてもよい。
【0032】
なお、制御部110は、ステップS02において、ヘッド部63を、前置レンズ18の種類に応じて前置レンズ18と被検眼Eとの距離が予め定められた距離となるように、接近方向D2に移動する構成としてもよい。予め定められた距離は、位置情報121として記憶部120に記憶され、所望の観察部位(前置レンズ18の挿入後であれば、例えば眼底部)に対して顕微鏡6が合焦する距離である。顕微鏡6の合焦距離(ワーキングディスタンスともいう。)は、前置レンズ18の有無の他、前置レンズ18の種類によっても異なる。従って、制御部110は、前置レンズを接近方向D2に移動させる際、前置レンズ18の種類に関わらず顕微鏡6が眼底部に対して合焦するように、前置レンズ18と被検眼Eとの距離を設定することができる。
【0033】
また、前置レンズ18の種類は、検者による入力により、制御部110が前置レンズ18の金枠の形状を検出(例えば、カメラで検出)することにより、又は、前置レンズ18に形成されたマーク(印刷、貼付、刻印、等)の制御部110による認識に基づいて検出される。また、前置レンズ18は、使用者の操作により前置レンズ18を90度回して固定(ロック)される。制御部110は、前置レンズ18は、金枠に前置レンズ18毎に異なる特有(固有)な形状を設け、使用者が前置レンズ18を固定する際に、制御部110が前置レンズ18の種類を検出できるようにしてもよい。さらに、前置レンズ18の種類の検出方法として、制御部110は、前置レンズ18に固有な静電容量を静電センサにより検出し、又は、顕微鏡6が照射して反射した光(例えば、光強度又は波長等)を検出して、前置レンズ18の種類を判定してもよい。眼科装置1に現在取り付けられている前置レンズ18の種類は、制御部110が予め記憶部120に記憶しておき、ステップS02で記憶部120から取得する構成としてもよい。
【0034】
検者が眼底部の手術及び観察を終えると、眼科装置1はステップS03の処理を実行する。ステップS03で、制御部110は、前置レンズ18の使用位置P2から退避位置P1への移動の予兆を検出すると、ヘッド部63を離間方向D1に移動させる第三移動工程を実行する。顕微鏡6の移動後の位置は
図6の状態Q3に示される。予兆の検出は、例えば、制御部110が、眼科装置1に設けられた光センサ、物理スイッチ、静電センサ、集音センサ、又は観察用カメラ631等に例示されるセンサからの入力の有無を検出することにより行われる。制御部110は、集音センサから集音された音声入力を検出する場合、操作の指示内容を音声認識により判定してもよい。
【0035】
例えば、前置レンズ18の使用位置P2から退避位置P1への移動の予兆の検出は、制御部110が、フットスイッチ19若しくは集音部(不図示)による入力を検出することにより行われる。
【0036】
又は、前置レンズ18の使用位置P2から退避位置P1への移動の予兆の検出は、制御部110が、部屋(すなわち、手術室)の照明の点灯を検出することにより行ってもよい。前置レンズ18の使用位置P2から退避位置P1への移動の予兆には、前置レンズ18の移動が想定される前兆となる任意の入力であってもよいし、検者が操作部171に触れて前置レンズ18の移動を開始する直接的な入力であってもよい。ステップS03の離間方向D1への移動量は、ステップS01と同様とすることができ、例えば10mmに設定される。
【0037】
顕微鏡6を被検者から離間させた状態で(状態Q3)、検者の操作等により前置レンズ18が使用位置P2から退避位置P1に移動される(
図5の状態Q2)。これにより、顕微鏡6の被検者からの退避が行われる。
【0038】
なお、ステップS03の後、制御部110は、前置レンズ18が使用位置P2から退避位置P1に移動したことを検出すると、ヘッド部63を接近方向D2に移動(例えば、10mm下げる等)させてもよい(状態Q1)。
【0039】
以上、本実施形態では、支持機構により支持された顕微鏡6と、顕微鏡6のヘッド部63に設けられた前置レンズ18とを備える眼科装置1及び眼科装置1の制御方法について説明した。眼科装置1の制御方法は、前置レンズ18の退避位置P1から使用位置P2への移動の予兆を検出するとヘッド部63を被検眼Eから離間方向D1に移動させる第一移動工程(S01)と、前置レンズ18の使用位置P2への移動が完了するとヘッド部63を被検眼Eの接近方向D2に移動させる第二移動工程(S02)と、前置レンズ18の使用位置P2から退避位置P1への移動の予兆を検出するとヘッド部63を離間方向D1に移動させる第三移動工程(S03)と、を含む。
【0040】
これにより、検者は、前置レンズ18を顕微鏡6の観察光学系に対して挿抜する際に、顕微鏡6を被検者から遠ざける又は近づける操作を自動で行われるため、眼科装置1への操作回数を低減することができる。従って、前置レンズ18の挿抜に伴う操作を簡素化することができる。
【0041】
また、従来の対物補助レンズ(例えば、凹レンズ)を用いた場合であっても、レンズパワーの異なる前置レンズが挿入されると焦点距離を一定にできないため、検者による顕微鏡6のピント調整操作を省略することが難しかったが、本実施形態の眼科装置1は、前置レンズ18の種類を検出して対物レンズ2から被検眼Eまでの適切な位置関係を予め設定しておくことができるため、検者による顕微鏡6のピント調整操作を省略又は概ね省略することができる。換言すれば、本実施形態の眼科装置1は、上述の対物補助レンズを設けなくてもよく、光学系の構成を簡素化することができる。
【0042】
以上で本開示の実施形態の説明を終えるが、本開示の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、ステップS01~S03の処理において、顕微鏡6(ヘッド部63)の全体を上下に移動させる構成について説明したが、顕微鏡6の一部である前置レンズ18又は前置レンズ18を含む一部の光学系を上下に移動させる構成であってもよい。
【0043】
また、眼科装置1は、オートフォーカス機能(合焦判定機能)を有しており、制御部110が顕微鏡6の高さを自動で設定して移動する構成を有してもよい。
【0044】
また、本実施形態では、検者が表示部64を介して被検眼Eを観察する構成について説明したが、顕微鏡6が接眼部を備え、観察光学系400の観察光を視認可能な構成としてもよい。この場合、眼科装置1は、被検眼Eの観察像を反転させるインバータを備えてもよい。また、接眼部を有する眼科装置1は、支持アーム62の先にZ軸方向の電動駆動機構を設けて、前置レンズ18の移動に合わせてヘッド部63を上下に駆動させる構成としてもよい。このような構成としても、検者(術者)は、通常、前置レンズ18の挿抜に伴うヘッド部63の移動の際に術部の観察を行わないため、既存の観察の使用感を阻害することなく、前置レンズ18の挿抜に伴う操作を簡素化することができる。
【0045】
また、眼科装置1は、ヘッド部63に表示部(モニタ)を備え、検者がこの表示部を介して被検眼Eを観察可能な構成としてもよい。
【0046】
以上、本開示の構成を例示すると以下のとおりである。
[1]
支持機構により支持された顕微鏡と、前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズとを備える眼科装置の制御方法であって、
前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させる第一移動工程と、
前記前置レンズの使用位置への移動が完了すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させる第二移動工程と、
前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる第三移動工程と、
を含む制御方法。
[2]
前記第一移動工程において、検者による前記前置レンズの操作部への接触を検出した場合、又は、前記前置レンズの退避位置からの移動を検出した場合に、前記ヘッド部は前記離間方向に移動する[1]に記載の制御方法。
[3]
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記移動の完了を検出してから予め定められた時間を経過したら移動する[1]に記載の制御方法。
[4]
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記前置レンズの種類に応じて前記前置レンズと前記被検眼との距離が予め定められた距離となるように、前記接近方向に移動する、[1]に記載の制御方法。
[5]
前記前置レンズの種類は、検者による入力、前記前置レンズの金枠の形状、前記前置レンズに形成されたマークの認識、静電容量の検出、又は、前記顕微鏡が照射して反射した光の検出に基づいて検出される[1]に記載の制御方法。
[6]
前記第三移動工程において、使用位置から退避位置への移動の予兆の検出は、フットスイッチ若しくは集音センサによる入力の検出、又は、部屋の照明の点灯の検出である[1]に記載の制御方法。
[7]
前記第二移動工程において、前記ヘッド部は、前記移動の完了を検出してから予め定められた時間を経過したら、前記前置レンズの種類に応じて前記前置レンズと前記被検眼との距離が予め定められた距離となるように、前記接近方向に移動し、
前記前置レンズの種類は、検者による入力、前記前置レンズの金枠の形状、前記前置レンズに形成されたマークの認識、静電容量の検出、又は、前記顕微鏡が照射して反射した光の検出に基づいて検出され、
前記第三移動工程において、使用位置から退避位置への移動の予兆は、フットスイッチ若しくは集音センサによる入力の検出、又は、部屋の照明の点灯の検出である、
[2]に記載の制御方法。
[8]
支持機構により支持された顕微鏡と、
前記顕微鏡のヘッド部に設けられた前置レンズと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記前置レンズの退避位置から使用位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を被検眼から離間方向に移動させ、
前記前置レンズの使用位置への移動が完了したと判定すると前記ヘッド部を前記被検眼の接近方向に移動させ、
前記前置レンズの使用位置から退避位置への移動の予兆を検出すると前記ヘッド部を前記離間方向に移動させる、
眼科装置。
【符号の説明】
【0047】
1 眼科装置
2 対物レンズ
3 脚部
4 支柱
5 ロボットアーム
6 顕微鏡
17 保持アーム
18 前置レンズ
19 フットスイッチ
51 第一アーム
52 第二アーム
53 第三アーム
54 接続部
55 第四アーム
61 X-Y微動装置
62 支持アーム
63 ヘッド部
64 表示部
100 内部光学系
110 制御部
120 記憶部
121 位置情報
122 プログラム
171 操作部
400 観察光学系
401 変倍レンズ系
402 リレーレンズユニット
631 観察用カメラ
631a 撮像素子
632 鏡筒部
633 位置調整機構
D1 離間方向
D2 接近方向
E 被検眼
O-400 光軸
P1 退避位置
P2 使用位置
Q1~Q4 状態
U0 前側焦点位置