(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005813
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250109BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106192
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸大
(72)【発明者】
【氏名】永原 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】中井 秀樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H029HJ12
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA09
5H050EA12
5H050EA15
5H050FA18
5H050HA02
5H050HA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた安全性を得ることが可能である二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池の正極活物質層に含まれる正極活物質粒子は、リチウム複合酸化物を含む中心部と、その表面に設けられた被覆部とを含む。リチウム複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有すると共に、リチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含む。被覆部は、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含む。電解質塩は、フッ素含有リチウム塩を含む。リチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量は80モル部以上100モル部以下である。飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた正極活物質層の深さ方向分析で、LiF
2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO
2
-に由来する第2負二次イオンが検出され、深さ方向における第2負二次イオンの第2ピークは、深さ方向における第1負二次イオンの第1ピークよりも深い側に位置する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を含む正極と、
負極と、
電解質塩を含む電解液と
を備え、
前記正極活物質層は、複数の正極活物質粒子を含み、
前記正極活物質粒子は、
リチウム複合酸化物を含む中心部と、
前記中心部の表面に設けられた被覆部と
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有すると共に、リチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含み、
前記被覆部は、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含み、
前記電解質塩は、フッ素含有リチウム塩を含み、
前記リチウム複合酸化物における前記ニッケルの含有量と前記リチウム複合酸化物における前記他元素の含有量との和を100モル部とすると、前記リチウム複合酸化物における前記ニッケルの含有量は、80モル部以上100モル部以下であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた前記正極活物質層の深さ方向の分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出され、
前記深さ方向における前記第1負二次イオンのイオン強度の変化は、第1ピークを有すると共に、前記深さ方向における前記第2負二次イオンのイオン強度の変化は、第2ピークを有し、
前記第2ピークは、前記深さ方向において前記第1ピークよりも深い側に位置する、
二次電池。
【請求項2】
前記被覆部は、前記中心部よりも遠い側から順に、
リチウムおよびフッ素を構成元素として含む第1被覆部と、
リチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含む第2被覆部と
を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1被覆部は、フッ化リチウム(LiF)を含み、
前記第2被覆部は、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )を含む、
請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記他元素は、コバルト、アルミニウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タンタル、クロム、ニオブ、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、マグネシウム、タングステン、硫黄、ストロンチウム、ホウ素、ナトリウムおよびフッ素のうちの少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記フッ素含有リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )およびビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )のうちの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記電解液は、さらに、ホウ素フッ素含有材料を含む、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記ホウ素フッ素含有材料は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )およびジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2 (C2 O4 ))のうちの少なくとも一方を含む、
請求項6に記載の二次電池。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度が得られる電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、ニッケルを含有するリチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面にコーティング部が形成されており、そのコーティング部がフッ素を含んでいる(例えば、特許文献1参照。)。ニッケルを含有する複合酸化物粒子の表面に高濃度のフッ素が存在している(例えば、特許文献2参照。)。正極活物質がリチウム遷移金属酸化物を含んでおり、飛行時間型二次イオン質量分析を正極活物質の深さ析においてホウ素に由来するピークが検出されている(例えば、特許文献3参照。)。組み立て後の電池を加温下において充放電させることにより、飛行時間型二次イオン質量分析を用いた初期充放電後の負極活物質の表面分析においてホウ酸リチウムイオンなどのイオンが検出されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-525463号公報
【特許文献2】特開2006-351487号公報
【特許文献3】特開2015-099659号公報
【特許文献4】特開2013-062026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池の構成に関する様々な検討がなされているが、その二次電池の安全性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
優れた安全性を得ることが可能である二次電池が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極活物質層を含む正極と、負極と、電解質塩を含む電解液とを備えたものである。正極活物質層は、複数の正極活物質粒子を含み、その正極活物質粒子は、リチウム複合酸化物を含む中心部と、その中心部の表面に設けられた被覆部とを含む。リチウム複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有すると共に、リチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含む。被覆部は、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含む。電解質塩は、フッ素含有リチウム塩を含む。リチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量とリチウム複合酸化物における他元素の含有量との和を100モル部とすると、そのリチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量は、80モル部以上100モル部以下である。飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた正極活物質層の深さ方向の分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出される。深さ方向における第1負二次イオンのイオン強度の変化は、第1ピークを有すると共に、深さ方向における第2負二次イオンのイオン強度の変化は、第2ピークを有する。第2ピークは、深さ方向において第1ピークよりも深い側に位置する。
【0008】
ここで、リチウム複合酸化物は、上記したように、層状岩塩型の結晶構造を有すると共にリチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含む酸化物の総称であり、その他元素は、リチウムおよびニッケル以外の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上である。また、フッ素含有リチウム塩は、フッ素を構成元素として含むリチウム塩の総称である。なお、リチウム複合酸化物およびフッ素含有リチウム塩のそれぞれの構成の詳細に関しては、後述する。
【発明の効果】
【0009】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、正極の正極活物質層が複数の正極活物質粒子を含み、その正極活物質粒子が中心部および被覆部を含み、その中心部がリチウム複合酸化物を含み、そのリチウム複合酸化物が層状岩塩型の結晶構造を有すると共にリチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含み、その被覆部がリチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含み、電解液の電解質塩がフッ素含有リチウム塩を含み、そのリチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量が80モル部以上100モル部以下であり、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた正極活物質層の深さ方向の分析においてLiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出され、その第2負二次イオンのイオン強度の変化における第2ピークが第1負二次イオンのイオン強度の変化における第1ピークよりも深さ方向において深い側に位置するので、優れた安全性を得ることができる。
【0010】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した電池素子の構成を表す断面図である。
【
図3】
図3は、正極活物質粒子の構成を表す断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した正極活物質粒子の構成を模式的に表す断面図である。
【
図5】
図5は、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた正極活物質層の深さ方向の分析結果に関する一例である。
【
図6】
図6は、飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた正極活物質層の深さ方向の分析結果に関する他の一例である。
【
図7】
図7は、二次電池の製造方法を説明するための断面図である。
【
図8】
図8は、試験用の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1-1.全体構成
1-2.正極活物質粒子の詳細な構成
1-3.正極の物性
1-4.動作
1-5.製造方法
1-6.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0013】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0014】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に電解液を備えている。
【0015】
負極の充電容量は、正極の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きいことが好ましい。充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを抑制するためである。
【0016】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属の具体例は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属の具体例は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0017】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0018】
<1-1.全体構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表している。
図2は、
図1に示した電池素子20の断面構成を表している。
図3は、正極活物質粒子210の断面構成を表している。
【0019】
ただし、
図1では、外装フィルム10と電池素子20とが互いに分離された状態を示していると共に、XZ面に沿った電池素子20の断面を破線で示している。
図2では、電池素子20の一部だけを示している。
【0020】
この二次電池は、
図1および
図2に示したように、外装フィルム10と、電池素子20と、正極リード31と、負極リード32と、封止フィルム41,42とを備えている。
【0021】
ここで説明する二次電池は、上記したように、電池素子20を収納するための外装部材として、可撓性または柔軟性を有する外装フィルム10を用いている。よって、
図1に示した二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型の二次電池である。
【0022】
[外装フィルム]
外装フィルム10は、
図1に示したように、電池素子20が収納された状態において封止された袋状の構造を有している。これにより、外装フィルム10は、後述する正極21、負極22およびセパレータ23を収納している。
【0023】
ここでは、外装フィルム10は、1枚のフィルム状の部材であり、折り畳み方向Fに折り畳まれている。この外装フィルム10には、電池素子20を収容するための窪み部10Uが設けられており、その窪み部10Uは、いわゆる深絞り部である。
【0024】
具体的には、外装フィルム10は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムであり、その外装フィルム10が折り畳まれた状態において、互いに対向する融着層のうちの外周縁部同士が互いに融着されている。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0025】
ただし、外装フィルム10の構成(層数)は、特に、限定されないため、1層または2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0026】
[電池素子]
電池素子20は、袋状の外装フィルム10に収納されている。この電池素子20は、いわゆる発電素子であり、
図1および
図2に示したように、正極21、負極22およびセパレータ23を含んでいる。
【0027】
ここでは、電池素子20は、いわゆる巻回電極体であるため、正極21および負極22は、セパレータ23を介して互いに対向しながら巻回軸Pを中心として巻回されている。この巻回軸Pは、Y軸方向に延在する仮想軸である。
【0028】
電池素子20の立体的形状は、特に限定されない。ここでは、電池素子20は、扁平状の立体的形状を有しているため、巻回軸Pと交差する電池素子20の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸J1および短軸J2により規定される扁平形状である。
【0029】
長軸J1は、X軸方向に延在する仮想軸であり、短軸J2の長さよりも大きい長さを有している。短軸J2は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在する仮想軸であり、長軸J1の長さよりも小さい長さを有している。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平な円筒状であるため、その電池素子20の断面の形状は、扁平な略楕円形である。
【0030】
(正極)
正極21は、
図2に示したように、正極活物質層21Bを含んでいる。
【0031】
ここでは、正極21は、さらに、正極活物質層21Bを支持する正極集電体21Aを含んでいる。ただし、正極集電体21Aは、省略されてもよい。
【0032】
正極集電体21Aは、導電性を有する部材であり、正極活物質層21Bが設けられる一対の面を有している。この正極集電体21Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。
【0033】
正極活物質層21Bは、リチウムを吸蔵放出する正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、さらに、正極結着剤、正極導電剤および分散剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。正極活物質層21Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などである。
【0034】
ここでは、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの両面に設けられている。ただし、正極活物質層21Bは、正極21が負極22に対向する側において正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0035】
具体的には、正極活物質層21Bは、
図3に示したように、複数の粒子状である正極活物質(以下、「複数の正極活物質粒子210」と呼称する。)を含んでおり、その正極活物質粒子210は、中心部211および被覆部212を含んでいる。なお、正極活物質粒子210の構成の詳細に関しては、後述する(
図4参照)。
【0036】
正極結着剤は、正極活物質粒子210などの粒子を互いに結着させる材料であり、合成ゴムおよび高分子化合物などの材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムの具体例は、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物の具体例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0037】
正極導電剤は、正極活物質層21Bの導電性を向上させる材料であり、炭素材料、金属材料および導電性高分子化合物などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。炭素材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。
【0038】
分散剤は、後述する二次電池の製造工程(正極合剤スラリーの調製工程)において、正極活物質などの粒子の分散性を向上させる材料であり、ポリビニルピロリドンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0039】
この二次電池では、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされており、その3種類の物性条件の詳細に関しては、後述する。
【0040】
(負極)
負極22は、
図2に示したように、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bを含んでいる。
【0041】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bを支持する導電性の部材であり、その負極活物質層22Bが設けられる一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。
【0042】
負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵放出する負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0043】
ここでは、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの両面に設けられている。ただし、負極活物質層22Bは、負極22が正極21に対向する側において負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0044】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料などである。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0045】
炭素材料の具体例は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。この黒鉛は、天然黒鉛でもよいし、人造黒鉛でもよい。
【0046】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料であり、その金属元素および半金属元素の具体例は、ケイ素およびスズなどである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。ただし、ここで説明した単体は、任意量の不純物を含んでいてもよいため、その単体の純度は、必ずしも100%に限られない。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2または0.2<x<1.4)などである。
【0047】
負極結着剤に関する詳細は、正極結着剤に関する詳細と同様であると共に、負極導電剤に関する詳細は、正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0048】
(セパレータ)
セパレータ23は、
図2に示したように、正極21と負極22との間に介在する絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触に起因する短絡の発生を防止しながらリチウムをイオン状態で通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0049】
(電解液)
液状の電解質である電解液は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されており、電解質塩を含んでいる。ここでは、電解液は、さらに、電解質塩を溶解または分散させる溶媒を含んでいる。
【0050】
電解質塩は、フッ素含有リチウム塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、そのフッ素含有リチウム塩は、上記したように、フッ素を構成元素として含むリチウム塩の総称である。このフッ素含有リチウム塩は、カチオンであるリチウムイオンと共にアニオンを含んでいるため、フッ素は、アニオンに構成元素として含まれている。
【0051】
電解質塩がフッ素含有リチウム塩を含んでいる理由は、以下で説明する通りである。第1に、フッ素含有リチウム塩のうちのカチオン(リチウムイオン)が電極反応物質として機能するため、高い電池容量が得られる。第2に、後述するように、組み立て後の二次電池の安定化処理において、そのフッ素含有リチウム塩に構成元素として含まれているフッ素を利用してフッ化水素の形成反応が進行するため、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される。
【0052】
フッ素含有リチウム塩の種類は、アニオンがフッ素を構成元素として含んでいれば、特に限定されない。フッ素含有リチウム塩の具体例は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2 (C2 O4 ))、モノフルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )およびジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 O2 )などである。
【0053】
中でも、フッ素含有リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウムおよびビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムのうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。フッ素含有リチウム塩を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されやすくなるからである。
【0054】
電解液における電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0055】
なお、電解質塩は、さらに、他のリチウム塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この他のリチウム塩は、フッ素を構成元素として含んでいないリチウム塩であり、その他のリチウム塩の具体例は、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 O4 )2 )などである。
【0056】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0057】
この非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などであり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などである。電解質塩の解離性が向上すると共に、イオンの移動度も向上するからである。
【0058】
炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルである。環状炭酸エステルの具体例は、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどであると共に、鎖状炭酸エステルの具体例は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。
【0059】
カルボン酸エステル系化合物は、鎖状カルボン酸エステルなどであり、その鎖状カルボン酸エステルの具体例は、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。ラクトン系化合物は、ラクトンなどであり、そのラクトンの具体例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。
【0060】
エーテル類は、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンなどでもよい。
【0061】
なお、電解液は、さらに、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0062】
具体的には、添加剤は、ホウ素フッ素含有材料であることが好ましい。このホウ素フッ素含有材料は、ホウ素およびフッ素を構成元素として含む化合物の総称である。
【0063】
電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合には、後述するように、組み立て後の二次電池の安定化処理において、ホウ素フッ素含有材料に構成元素として含まれているフッ素を利用してフッ化水素の形成反応が進行しやすくなるため、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されやすくなる。
【0064】
ホウ素フッ素含有材料がホウ素およびフッ素を構成元素として含んでいれば、そのホウ素フッ素含有材料の種類は特に限定されない。ホウ素フッ素含有材料の具体例は、四フッ化ホウ酸リチウムおよびジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムなどである。ホウ素フッ素含有材料を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに十分に変換されるからである。
【0065】
また、添加剤は、不飽和環状炭酸エステル、フッ素化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物である。電解液の電気化学的な安定性が向上するからである。
【0066】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。フッ素化環状炭酸エステルの具体例は、モノフルオロ炭酸エチレンおよびジフルオロ炭酸エチレンなどである。スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。リン酸エステルの具体例は、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物および2-スルホ安息香酸無水物などである。ニトリル化合物の具体例は、スクシノニトリルなどである。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0067】
[正極リード]
正極リード31は、
図1および
図2に示したように、正極21のうちの正極集電体21Aに接続されている正極配線であり、外装フィルム10の外部に導出されている。この正極リード31は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。なお、正極リード31の形状は、薄板状および網目状などのうちのいずれかである。
【0068】
[負極リード]
負極リード32は、
図1および
図2に示したように、負極22のうちの負極集電体22Aに接続されている負極配線であり、外装フィルム10の外部に導出されている。ここでは、負極リード32の導出方向は、正極リード31の導出方向と同様である。この負極リード32は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。なお、負極リード32の形状に関する詳細は、正極リード31の形状に関する詳細と同様である。
【0069】
[封止フィルム]
封止フィルム41は、外装フィルム10と正極リード31との間に挿入されていると共に、封止フィルム42は、外装フィルム10と負極リード32との間に挿入されている。ただし、封止フィルム41,42のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0070】
封止フィルム41は、外装フィルム10の内部に外気および異物が侵入することを防止する封止部材である。この封止フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでおり、その高分子化合物の具体例は、ポリプロピレンなどである。
【0071】
封止フィルム42の構成は、負極リード32に対して密着性を有する封止部材であることを除いて、封止フィルム41の構成と同様である。すなわち、封止フィルム42は、負極リード32に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0072】
<1-2.正極活物質粒子の詳細な構成>
図4は、
図3に示した正極活物質粒子210の断面構成を模式的に表している。
図4では、正極活物質粒子210のうちの表面近傍の一部だけを示している。
【0073】
正極活物質粒子210は、上記したように、中心部211および被覆部212を含んでいる。
【0074】
[中心部]
中心部211は、
図3に示したように、リチウム複合酸化物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0075】
(リチウム複合酸化物)
リチウム複合酸化物は、リチウムを吸蔵放出する物質である。このリチウム複合酸化物は、上記したように、層状岩塩型の結晶構造を有すると共にリチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含む酸化物の総称である。なお、他元素は、リチウムおよびニッケル以外の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0076】
他元素の種類は、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素であれば、特に限定されない。他元素の具体例は、コバルト、アルミニウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タンタル、クロム、ニオブ、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、マグネシウム、タングステン、硫黄、ストロンチウム、ホウ素、ナトリウムおよびフッ素などである。十分な電池容量が得られるからである。
【0077】
リチウム複合酸化物の具体例は、LiNi0.86Co0.10Mn0.04O2 、LiNi0.88Co0.10Al0.02O2 およびLiNi0.90Co0.08Mn0.01Al0.01O2 などである。
【0078】
(含有割合)
このリチウム複合酸化物では、ニッケルの含有量が十分に大きくなるように設定されている。具体的には、リチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量とリチウム複合酸化物における他元素の含有量との和を100モル部とすると、そのニッケルの含有量は、80モル部~100モル部である。
【0079】
なお、ニッケルの含有量の上限値が100モル部であることから明らかなように、リチウム複合酸化物は、他元素を構成元素として含んでいてもよいし、他元素を構成元素として含んでいなくもよい。
【0080】
リチウム複合酸化物が2種類以上の他元素を構成元素として含んでいる場合には、上記したリチウム複合酸化物における他元素の含有量は、そのリチウム複合酸化物に構成元素として含まれている2種類以上の他元素のそれぞれの含有量の和である。
【0081】
すなわち、リチウム複合酸化物におけるニッケルの含有量をC1(mol)、リチウム複合酸化物における他元素の含有量をC2(mol)とすると、C=[C1/(C1+C2)]×100という計算式に基づいて算出されるニッケルの含有割合Cは、80mol%~100mol%である。
【0082】
含有割合が80mol%~100mol%であるのは、その含有割合が80mol%未満である場合と比較して、リチウムを吸蔵放出する電位が低下するため、高い電池容量が得られるからである。
【0083】
(含有割合の特定手順)
含有割合を特定する手順は、以下で説明する通りである。以下では、正極活物質層21Bが正極活物質(複数の正極活物質粒子210)および正極結着剤を含んでいる場合に関して説明する。
【0084】
最初に、二次電池を解体することにより、正極21を回収したのち、洗浄用の溶媒を用いて正極21を洗浄する。洗浄用の溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭酸ジメチルなどの有機溶剤である。これにより、正極21に付着していた電解液が除去される。
【0085】
続いて、溶解除去用の溶媒中に正極21を浸漬させる。溶解除去用の溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、正極結着剤を溶解可能であるN-メチル-2-ピロリドンなどである。これにより、正極活物質層21Bに含まれている正極結着剤が溶解されるため、その正極活物質層21Bから正極集電体21Aが剥離される。
【0086】
続いて、溶媒除去用の溶媒中から正極集電体21Aを取り出したのち、その溶解除去用の溶媒を濾過することにより、固形物である濾過物を回収する。これにより、正極結着剤が溶解されている溶解除去用の溶媒が除去されるため、濾過物である複数の正極活物質粒子210が得られる。
【0087】
続いて、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などの分析方法のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて正極活物質粒子210を分析する。この場合には、中心部211に含まれているリチウム複合酸化物の組成が分析されるため、そのリチウム複合酸化物に含まれている一連の構成元素の含有量(mol)が測定される。これにより、含有量C1,C2のそれぞれが特定される。
【0088】
最後に、含有量C1,C2に基づいて、上記した計算式を用いて含有割合Cを算出する。
【0089】
(化学式)
より具体的には、リチウム複合酸化物は、式(1)により表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その式(1)に示した化合物は、他元素Eを構成元素として含んでいる。
【0090】
Lia Nib E1-b O2 ・・・(1)
(Eは、Co、Al、Mn、Zr、Ti、Mo、Ta、Cr、Nb、Fe、Cu、Zn、V、Mg、W、S、Sr、B、NaおよびFのうちのいずれか1種類または2種類以上である。aおよびbは、0.8≦a≦1.05および0.8≦b≦1.0を満たす。)
【0091】
(リチウム含有化合物)
なお、中心部211は、さらに、リチウムを吸蔵放出するリチウム含有化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。このリチウム含有化合物は、リチウムを構成元素として含んでいる化合物の総称であり、上記したリチウム複合酸化物は、ここで説明するリチウム含有化合物から除かれる。
【0092】
リチウム含有化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の追加元素を構成元素として含んでいてもよい。追加元素の種類は、リチウムおよび遷移金属以外の元素であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素である。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。
【0093】
酸化物の具体例は、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 およびLiMn2 O4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 およびLiFe0.5 Mn0.5 PO4 などである。
【0094】
[被覆部]
被覆部212は、
図3に示したように、中心部211の表面に設けられているため、その中心部211の表面を被覆している。
【0095】
ここでは、被覆部212は、中心部211の表面のうちの全体を被覆している。ただし、被覆部212は、中心部211の表面のうちの一部だけを被覆していてもよい。この場合には、互いに分離された複数の被覆部212が中心部211の表面を被覆していてもよい。
【0096】
(組成)
この被覆部212は、後述するように、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いた正極活物質層21Bの深さ方向Dの分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出される材料を含んでいる。ここで説明したTOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ方向Dの分析は、いわゆる深さ分析である。
【0097】
これにより、被覆部212は、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいる。被覆部212の形成材料の組成は、上記したTOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において第1負二次イオンおよび第2負二次イオンが検出可能であれば、特に限定されない。
【0098】
中心部211の表面に被覆部212が設けられており、その被覆部212がリチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいるのは、充電時において正極21の発熱が抑制されるため、その正極21の過度な温度上昇が抑制されるからである。この場合には、後述するように、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされていることにより、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上でも、正極21の過度な温度上昇が効果的に抑制される。
【0099】
詳細には、上記したように、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上であることにより、高い電池容量が得られる。
【0100】
しかしながら、リチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上であると、充電時においてリチウム複合酸化物の結晶構造が不安定になる。この場合には、二次電池の内部において微小な内部短絡などが発生した際に、リチウム複合酸化物の温度が過度に上昇しやすくなる。
【0101】
リチウム複合酸化物の温度が過度に上昇した際に、そのリチウム複合酸化物の結晶構造が崩壊すると、そのリチウム複合酸化物から酸素および熱が放出される。この結晶構造の崩壊は、特に、電解液と接触するリチウム複合酸化物の表面近傍において発生しやすくなる。
【0102】
これらのことから、リチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上であると、高い電池容量が得られる反面、中心部211において発熱反応が加速度的に進行するため、正極21の温度が過度に上昇しやすくなる。これにより、二次電池の発火などの不具合を誘発する可能性がある。
【0103】
これに対して、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含む被覆部212が中心部211の表面に設けられており、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされていると、その中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護される。
【0104】
この場合には、リチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上でも、充電時においてリチウム複合酸化物の結晶構造が崩壊しにくくなるため、そのリチウム複合酸化物から酸素および熱が放出されにくくなる。これにより、リチウム複合酸化物の温度が過度に上昇しにくくなる。
【0105】
これらのことから、リチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上であるため、高い電池容量が得られるだけでなく、中心部211において発熱反応が進行しにくくなるため、正極21の温度が過度に上昇しにくくなる。よって、電池容量が担保されながら、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいて正極21の過度な温度上昇が抑制される。これにより、二次電池の発火などの不具合が発生しにくくなる。
【0106】
(具体的な構成)
ここで、上記したように、TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において第1負二次イオンおよび第2負二次イオンを検出可能とするために被覆部212がリチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいると共に、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされていれば、その被覆部212の構成は、特に限定されない。
【0107】
具体的には、被覆部212は、
図4に示したように、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを含んでいることが好ましい。すなわち、被覆部212は、中心部211よりも遠い側から順に上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bが積層された2層構造を有していることが好ましい。正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされやすくなるため、その正極21の温度上昇が十分に抑制されるからである。
【0108】
なお、
図4では、中心部211、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bのそれぞれの構成を見やすくするために、それらの構成を簡略化している。すなわち、図示内容を簡略化するために、単純な3層構造となるように中心部211、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを示している。
【0109】
ただし、上側被覆部212Aと下側被覆部212Bとの境界は、明確でなくてもよい。この場合には、上側被覆部212Aの構成材料の一部が下側被覆部212Bに拡散していてもよいし、下側被覆部212Bの構成材料一部が上側被覆部212Aに拡散していてもよいため、その上側被覆部212Aと下側被覆部212Bとの境界は不明確でもよい。
【0110】
もちろん、上側被覆部212Aの構成材料の一部が下側被覆部212Bに拡散していると共に、下側被覆部212Bの構成材料の一部が上側被覆部212Aに拡散しているため、上側被覆部212Aの構成材料と下側被覆部212Bの構成材料とが互いに拡散し合っていてもよい。
【0111】
この場合には、上記した拡散に起因して、上側被覆部212Aと下側被覆部212Bとの間に1層または2層以上の中間層が介在していてもよい。この中間層の構成は、特に限定されないが、一例を挙げると、その中間層は、上側被覆部212Aの構成材料および下側被覆部212Bの構成材料の双方を含んでいる。
【0112】
(上側被覆部)
上側被覆部212Aは、下側被覆部212Bよりも中心部211から遠い側に配置されている第1被覆部である。
【0113】
この上側被覆部212Aは、上記したTOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において第1負二次イオンを検出可能とするために、リチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいることが好ましい。中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護されやすくなるからである。
【0114】
中でも、上側被覆部212Aは、フッ化リチウム(LiF)を含んでいることがより好ましい。上側被覆部212Aが形成されやすくなると共に、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に十分に保護されるからである。
【0115】
ここで、上側被覆部212Aは、後述するように、二次電池の製造工程において、組み立て後の二次電池の安定化処理(最初の充放電処理)を用いて下側被覆部212Bの表面に形成されている。なお、上側被覆部212Aの形成方法の詳細に関しては、後述する。
【0116】
上側被覆部212Aがリチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいることを確認するためには、上記した含有割合の特定手順と同様の手順を用いて二次電池(正極21)から複数の正極活物質粒子210を回収したのち、その正極活物質粒子210(上側被覆部212A)を分析すればよい。
【0117】
上側被覆部212Aの分析方法は、特に限定されない。このため、上側被覆部212Aの分析方法としては、任意の分析方法のうちのいずれか1種類または2種類以上を使用可能である。
【0118】
具体的には、オージェ電子分光法(AES)を用いて正極活物質粒子210の深さ方向分析を行うことにより、上側被覆部212Aの組成を分析してもよい。また、集束イオンビーム加工(FIB)などを用いて正極21を加工することにより、上側被覆部212Aを含む薄片を得たのち、透過電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)を用いた薄片の分析を行うことにより、上側被覆部212Aの組成を分析してもよい。
【0119】
(下側被覆部)
下側被覆部212Bは、上側被覆部212Aよりも中心部211に近い側に配置されている第2被覆部である。
【0120】
この下側被覆部212Bは、上記したTOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において第2負二次イオンを検出可能とするために、リチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいることが好ましい。中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護されやすくなるからである。
【0121】
中でも、下側被覆部212Bは、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )を含んでいることがより好ましい。下側被覆部212Bが形成されやすくなると共に、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に十分に保護されるからである。
【0122】
下側被覆部212Bがリチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいることを確認する手順は、上側被覆部212Aの代わりに下側被覆部212Bを分析することを除いて、上記した上側被覆部212Aがリチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいることを確認する手順と同様である。
【0123】
<1-3.正極の物性>
この二次電池では、上記したように、正極21の物性、より具体的には正極活物質層21Bの物性に関して、3種類の物性条件(第1物性条件、第2物性条件および第3物性条件)が満たされている。
【0124】
以下では、被覆部212が上側被覆部212A(フッ化リチウム)および下側被覆部212B(メタホウ酸リチウム)を含んでいる場合に関して説明する。
【0125】
[TOF-SIMSを用いた正極活物質層の深さ分析]
図5および
図6のそれぞれは、TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ方向Dの分析結果の一例である。横軸は、スパッタ時間(秒)を示していると共に、縦軸は、イオン強度(カウント)を示している。
【0126】
TOF-SIMSを用いて、深さ方向Dにおいて正極活物質層21Bを深さ分析する。この深さ方向Dは、
図2および
図4に示したように、正極活物質層21Bの厚さ方向に対応する方向である。より具体的には、深さ方向Dは、正極活物質層21Bの表面から正極活物質層21Bの内部に向かう方向であり、すなわち被覆部212から中心部211に向かう方向である。
【0127】
この深さ分析では、深さ方向Dにおいて、一次イオンを用いた通常のイオン分析と、スパッタイオンを用いて正極活物質層21Bを掘り下げるスパッタエッチングとが交互に繰り返される。これにより、深さ方向Dにおいて正極活物質層21Bから検出される各種イオンの量が測定されるため、
図5および
図6のそれぞれに示したように、その正極活物質層21Bの深さ分析の分析結果が取得される。
【0128】
横軸は、上記したように、スパッタエッチング時のスパッタ時間を示しているため、正極活物質層21Bの内部における深さ方向Dの位置(いわゆる深さ)に対応している。また、縦軸は、上記したように、イオン強度を示しているため、深さ方向Dにおける各種イオンの検出量に対応している。
【0129】
ここでは、
図3および
図4に示したように、正極活物質粒子210が中心部211および被覆部212を含んでおり、その被覆部212が上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを含んでいる。また、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上である。さらに、上記したように、上側被覆部212Aがフッ化リチウムを含んでいると共に、下側被覆部212Bがメタホウ酸リチウムを含んでいる。
【0130】
[物性条件]
以下では、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいない場合と、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合とに場合分けすることにより、3種類の物性条件に関して説明する。
【0131】
(電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいない場合)
電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいない場合において、第1物性条件、第2物性条件および第3物性条件のそれぞれに関する詳細は、以下で説明する通りである。
【0132】
(第1物性条件)
TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンが検出される。
【0133】
これにより、
図5に示したように、深さ方向Dにおける第1負二次イオンのイオン強度の変化を表す第1深さプロファイル5Aが取得される。第1深さプロファイル5Aでは、スパッタ時間が増加すると、第1負二次イオンの検出量が増加したのちに減少するため、その第1負二次イオンのイオン強度が増加したのちに減少する。これにより、第1深さプロファイル5Aは、第1ピークP1を有している。
【0134】
図5において、第1ピークP1を通過する縦方向の線分(一点鎖線)は、その第1ピークP1の位置を表している。この第1ピークP1の位置は、その第1ピークP1に対応するスパッタ時間であるため、深さ方向Dの位置を表す深さである。
【0135】
第1深さプロファイル5Aにおいて、第1負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少する理由は、以下で説明する通りである。
【0136】
正極活物質層21B中には、上記したように、複数の正極活物質粒子210が存在しているだけでなく、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料も存在している。また、正極活物質粒子210では、中心部211の外側に下側被覆部212Bが配置されており、その下側被覆部212Bの外側に上側被覆部212Aが配置されている。
【0137】
上側被覆部212Aは、フッ化リチウムを含んでいるため、リチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいる。これに対して、他の材料は、リチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいない。また、下側被覆部212Bは、メタホウ酸リチウムを含んでいるため、リチウムを構成元素として含んでいるがフッ素を構成元素として含んでいない。さらに、中心部211は、リチウム複合酸化物を含んでいるため、リチウムを構成元素として含んでいるがフッ素を構成元素として含んでいない。
【0138】
この場合には、TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析すると、分析範囲は、他の材料が存在する領域、上側被覆部212Aが存在する領域、下側被覆部212Bが存在する領域および中心部211が存在する領域に向かってこの順に移動する。これにより、リチウムおよびフッ素が十分に存在している領域では、第1負二次イオンが十分に検出されるのに対して、リチウムおよびフッ素がほとんど存在していない領域では、第1負二次イオンがほとんど検出されない。
【0139】
これらのことから、他の材料が存在する領域では第1負二次イオンのイオン強度が減少し、上側被覆部212Aが存在する領域では第1負二次イオンのイオン強度が急激に増加し、下側被覆部212Bが存在する領域では第1負二次イオンのイオン強度が急激に減少し、中心部211が存在する領域では第1負二次イオンの強度が減少する。
【0140】
これにより、第1負二次イオンの検出量が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少するため、第1負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少する。
【0141】
(第2物性条件)
TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において、BO2
-に由来する第2負二次イオンが検出される。
【0142】
これにより、
図5に示したように、深さ方向Dにおける第2負二次イオンのイオン強度の変化を表す第2深さプロファイル5Bが取得される。第2深さプロファイル5Bでは、スパッタ時間が増加すると、第2負二次イオンの検出量が増加したのちに減少するため、その第2負二次イオンのイオン強度が増加したのちに減少する。これにより、第2深さプロファイル5Bは、第2ピークP2を有している。
【0143】
図5において、第2ピークP2を通過する縦方向の線分(一点鎖線)は、その第2ピークP2の位置を表している。この第2ピークP2の位置は、その第2ピークP2に対応するスパッタ時間であるため、深さ方向Dの位置を表す深さである。
【0144】
第2深さプロファイル5Bにおいて、第2負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて直ちに増加したのちに減少する理由は、以下で説明する通りである。
【0145】
下側被覆部212Bは、メタホウ酸リチウムを含んでいるため、ホウ素を構成元素として含んでいる。これに対して、他の材料は、ホウ素を構成元素として含んでいない。また、上側被覆部212Aは、フッ化リチウムを含んでいるため、ホウ素を構成元素として含んでいない。さらに、中心部211は、リチウム複合酸化物を含んでいるため、ホウ素を構成元素として含んでいない。
【0146】
この場合には、TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析すると、ホウ素が十分に存在している領域では、第2負二次イオンが十分に検出されるのに対して、ホウ素がほとんど存在していない領域では、第2負二次イオンがほとんど検出されない。
【0147】
これらのことから、他の材料および上側被覆部212Aのそれぞれが存在する領域では第2負二次イオンのイオン強度が減少し、下側被覆部212Bが存在する領域では第2負二次イオンのイオン強度が急激に増加し、中心部211が存在する領域では第2負二次イオンのイオン強度が急激に減少する。
【0148】
これにより、第2負二次イオンの検出量が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少するため、第2負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少する。
【0149】
(第3物性条件)
上記したように、第1深さプロファイル5Aは、第1ピークP1を有していると共に、第2深さプロファイル5Bは、第2ピークP2を有している。
【0150】
この場合において、第2ピークP2は、深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置している。すなわち、
図5に示したように、右側に向かって深さが大きくなる場合において、第2ピークP2は、第1ピークP1よりも右側に位置している。
【0151】
第2ピークP2が深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置しているのは、正極活物質粒子210の表面近傍(被覆部212)において、上側被覆部212Aが下側被覆部212Bよりも中心部211から遠い側に位置していると共に、下側被覆部212Bが上側被覆部212Aよりも中心部211に近い側に位置しているからである。言い換えれば、中心部211の表面に被覆部212が設けられている場合において、その中心部211の外側に下側被覆部212Bが配置されていると共に、その下側被覆部212Bの外側に上側被覆部212Aが配置されているからである。
【0152】
上側被覆部212Aは、上記したように、リチウムおよびフッ素を構成元素として含んでいると共に、下側被覆部212Bは、上記したように、リチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいる。
【0153】
これにより、上記したように、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護される。よって、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上でも、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいて正極21の発熱が抑制されるため、その正極21の温度上昇が抑制される。
【0154】
(他の物性条件)
なお、TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析では、
図5に示したように、さらに、NiO
2
-に由来する第3負二次イオンが検出されるため、深さ方向Dにおける第3負二次イオンのイオン強度の変化を表す第3深さプロファイル5Cが取得される。第3深さプロファイル5Cでは、スパッタ時間が増加すると、第3負二次イオンのイオン強度が連続的に増加する。これにより、第3深さプロファイル5Cは、ピークを有していない。
【0155】
第3深さプロファイル5Cにおいて、第3負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて連続的に増加する理由は、以下で説明する通りである。
【0156】
中心部211は、リチウム複合酸化物を含んでいるため、ニッケルを構成元素として含んでいる。これに対して、他の材料、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bのそれぞれは、ニッケルを構成元素として含んでいない。
【0157】
この場合には、TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析すると、ニッケルが十分に存在している領域では、第3負二次イオンが十分に検出されるのに対して、ニッケルがほとんど存在していない領域では、第3負二次イオンがほとんど検出されない。
【0158】
これらのことから、他の材料、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bのそれぞれが存在する領域では第3負二次イオンのイオン強度が減少し、中心部211が存在する領域では第3負二次イオンのイオン強度が増加する。
【0159】
これにより、第3負二次イオンの検出量が深さ方向Dにおいて連続的に増加するため、第3負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて連続的に増加する。
【0160】
(比較用の正極活物質粒子の構成およびその物性)
比較のために、被覆部212が下側被覆部212Bを含んでいないことを除いて正極活物質粒子210の構成と同様の構成を有する正極活物質粒子を考える。この正極活物質粒子は、中心部211および被覆部212(上側被覆部212A)を含んでいるため、その被覆部212が下側被覆部212Bを含んでいない。
【0161】
この場合には、TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析すると、第2負二次イオンがほとんど検出されないため、深さ方向Dにおける第2負二次イオンのイオン強度の変化を表す深さプロファイルでは、スパッタ時間が増加しても第2負二次イオンのイオン強度がほとんど変化しない。これにより、深さプロファイルは、第2深さプロファイル5Bとは異なり、ピークを有していない。
【0162】
(電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合)
電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合において、第1物性条件、第2物性条件および第3物性条件のそれぞれに関する詳細は、以下で説明する通りである。
【0163】
(第1物性条件)
TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンが検出される。
【0164】
これにより、
図6に示したように、深さ方向Dにおける第1負二次イオンのイオン強度の変化を表す第1深さプロファイル6Aが取得される。この第1深さプロファイル6Aは、
図5に示した第1深さプロファイル5Aに対応しているため、その第1深さプロファイル6Aに関する詳細は、その第1深さプロファイル5Aに関する詳細と同様である。よって、第1深さプロファイル6Aでは、上記した理由により、スパッタ時間が増加すると第1負二次イオンのイオン強度が増加したのちに減少するため、その第1深さプロファイル6Aは、第1ピークP1を有している。
【0165】
(第2物性条件)
TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において、BO2
-に由来する第2負二次イオンが検出される。
【0166】
これにより、
図6に示したように、深さ方向Dにおける第2負二次イオンのイオン強度の変化を表す第2深さプロファイル6Bが取得される。この第2深さプロファイル6Bは、
図5に示した第2深さプロファイル5Bに対応しているため、その第2深さプロファイル6Bに関する詳細は、その第2深さプロファイル5Bに関する詳細と同様である。よって、第2深さプロファイル6Bでは、上記した理由により、スパッタ時間が増加すると第2負二次イオンのイオン強度が増加したのちに減少するため、その第2深さプロファイル6Bは、第2ピークP2を有している。
【0167】
ただし、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合には、その電解液が正極21に含浸することにより、そのホウ素フッ素含有材料に構成元素として含まれているホウ素が正極活物質粒子210の表面に付着する。
【0168】
この場合には、正極活物質粒子210の表面近傍において、第2負二次イオンのイオン強度が局所的に増加する。これにより、第2深さプロファイル6Bにおいて、第2負二次イオンのイオン強度は、深さ方向Dにおいて直ちに減少してから、その深さ方向Dにおいて増加したのちに減少する。第2深さプロファイル6Bにおいて、第2負二次イオンのイオン強度が深さ方向Dにおいて増加したのちに減少する理由は、上記した通りである。
【0169】
(第3物性条件)
上記したように、第1深さプロファイル6Aは、第1ピークP1を有していると共に、第2深さプロファイル6Bは、第2ピークP2を有している。この場合において、第2ピークP2は、上記したように、深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置している。第2ピークP2が深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置している理由は、上記した通りである。
【0170】
これにより、上記したように、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護される。よって、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上でも、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいて正極21の発熱が抑制されるため、その正極21の温度上昇が抑制される。
【0171】
(他の物性条件)
なお、TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析では、
図6に示したように、さらに、NiO
2
-に由来する第3負二次イオンが検出されるため、深さ方向Dにおける第3負二次イオンのイオン強度の変化を表す第3深さプロファイル6Cが取得される。この第3深さプロファイル6Cは、
図5に示した第3深さプロファイル5Cに対応しているため、その第3深さプロファイル6Cに関する詳細は、その第3深さプロファイル5Cに関する詳細とほぼ同様である。よって、第3深さプロファイル6Cでは、上記した理由により、スパッタ時間が増加すると第3負二次イオンのイオン強度が連続的に増加するため、その第3深さプロファイル6Cは、ピークを有していない。
【0172】
[分析手順]
TOF-SIMSの分析装置としては、ION-TOF社製のTOF-SIMS分析装置 TOF-SIMS Vを使用可能である。分析条件は、一次イオン=Bi3+、イオン銃の加速電圧=25keV、分析モード=High Current Bunchedによる深さ方向分析、照射イオンの電流(パルスビームでの計測)=0.2pA、パルス周波数=10kHz、質量範囲=1amu~800amu、走査範囲=200μm×200μm、スパッタイオン=Ar+ 、スパッタイオン銃の加速電圧=1kV、エミッション電流=200mA、スパッタ面積=500μm×500μmとする。
【0173】
TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析することにより、3種類の物性条件が満たされているか否かを確認する手順は、以下で説明する通りである。
【0174】
最初に、大気中において、電圧が2.0Vに到達するまで二次電池を放電させる。放電時の電流は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0175】
続いて、グローブボックスの内部において二次電池を解体することにより、正極21を回収したのち、洗浄用の溶媒を用いて正極21を洗浄する。これにより、正極21に含浸されている電解液が除去される。洗浄用の溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭酸ジメチルなどの有機溶剤のうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0176】
続いて、接着テープを用いて、洗浄済みの正極21をサンプルホルダに貼り付ける。接着テープの種類は、特に限定されないが、具体的には、カーボンテープなどである。続いて、TOF-SIMSを用いて正極活物質層21Bを深さ分析することにより、
図5または
図6に示した分析結果を取得する。
【0177】
最後に、
図5または
図6に示した分析結果に基づいて、3種類の物性条件が満たされているか否かを確認する。
【0178】
具体的には、第1負二次イオンが検出されたため、第1ピークP1を有する第1深さプロファイル5Aが取得された場合には、第1物性条件が満たされている。これに対して、第1負二次イオンが検出されなかった場合、または第1負二次イオンは検出されたが第1ピークP1を有する第1深さプロファイル5Aが取得されなかった場合には、第1物性条件が満たされていない。
【0179】
また、第2負二次イオンが検出されたため、第2ピークP2を有する第2深さプロファイル5Bが取得された場合には、第2物性条件が満たされている。これに対して、第2負二次イオンが検出されなかった場合、または第2負二次イオンは検出されたが第2ピークP2を有する第2深さプロファイル5Bが取得されなかった場合には、第2物性条件が満たされていない。
【0180】
さらに、第2ピークP2が深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置している場合には、第3物性条件が満たされている。これに対して、第2ピークP2が深さ方向Dにおいて第1ピークP1よりも深い側に位置していない場合には、第3物性条件が満たされていない。
【0181】
[分析方法としてTOF-SIMSを用いる理由]
正極21の物性を調べるための分析方法としてTOF-SIMS(深さ分析)を用いる理由は、以下で説明する通りである。
【0182】
第1に、被覆部212(上側被覆部212Aおよび下側被覆部212B)の厚さは、数nm程度であるため、著しく薄いと想定される。この場合には、深さ方向Dにおいて正極活物質層21Bを分析するために、深さ分解能が著しく高いTOF-SIMS(深さ分析)を採用することが有効である。
【0183】
第2に、正極活物質層21Bの内部に複数種類の化合物が存在している場合には、その正極活物質層21Bの平均組成を調べることが可能である分析方法を用いるよりも、その複数種類の化合物の組成を個別に調べることが可能であるTOF-SIMSを用いることが有効である。
【0184】
詳細には、一般的に、被膜の組成などを調べる場合には、X線光電子分光法(XPS)および電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)などの分析方法が用いられる。
【0185】
しかしながら、XPSでは、ホウ素に由来するスペクトルとリンに由来するスペクトルとが互いに重なるため、そのホウ素の化学結合状態を調べることが困難であると共に、それどころかホウ素の有無すら調べることも困難である。
【0186】
また、TEM-EELS(粒子断面分析)では、深さ方向Dにおいて被膜をライン分析する場合、メタホウ酸リチウムだけでなく他の化合物も含まれた状態においてリチウム、ホウ素および酸素を含む平均組成が分析されるため、そのメタホウ酸リチウムだけを分析することが困難である。
【0187】
これに対して、TOF-SIMSでは、メタホウ酸リチウムだけに関してリチウム、ホウ素および酸素を含む平均組成が分析されるため、そのメタホウ酸リチウムだけを分析することが可能である。
【0188】
第3に、TOF-SIMSを用いた表面分析では、被膜の表面に存在している多様なイオンを分析することは可能であるが、その被膜の内部に存在している多様なイオンを分析することは困難である。
【0189】
これに対して、TOF-SIMSを用いた深さ分析では、被膜の表面に存在している多様なイオンを分析することが可能であるだけでなく、その被膜の内部に存在している多様なイオンを分析することも可能である。これにより、正極活物質層21Bの内部に存在する多様なイオンを分析することが可能であり、より具体的には、中心部211の表面に設けられた被覆部212(上側被覆部212Aおよび下側被覆部212B)の内部に存在している多様なイオンまで分析することが可能である。
【0190】
<1-4.動作>
この二次電池は、電池素子20において、以下のように動作する。
【0191】
充電時には、正極21からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時には、負極22からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極21に吸蔵される。放電時および充電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0192】
<1-5.製造方法>
図7は、二次電池の製造方法を説明するために、
図4に対応する断面構成を表している。
【0193】
二次電池を製造する場合には、以下で説明する一例の手順を用いて、正極21および負極22を作製すると共に、電解液を調製したのち、その正極21、負極22および電解液を用いて二次電池を組み立てると共に、その組み立て後の二次電池の安定化処理を行う。
【0194】
以下では、上側被覆部212Aがフッ化リチウムを含んでいると共に、下側被覆部212Bがメタホウ酸リチウムを含んでいる場合に関して説明する。
【0195】
[正極の作製]
最初に、リチウム複合酸化物を含む複数の中心部211を準備する。このリチウム複合酸化物の含有割合は、上記したように、80mol%以上である。
【0196】
続いて、複数の中心部211のそれぞれの表面に粉末状のホウ素酸素含有材料を供給する。このホウ素酸素含有材料は、ホウ素および酸素を構成元素として含む材料であり、下側被覆部212Bの形成材料である。ここでは、上記したように、メタホウ酸リチウムを含む下側被覆部212Bを形成するために、ホウ素含有材料としてホウ素および酸素と共にリチウムを構成元素として含む粉末状のメタホウ酸リチウムを用いる。
【0197】
これにより、複数の中心部211のそれぞれの表面に粉末状のホウ素酸素含有材料が定着するため、その複数の中心部211のそれぞれの表面が粉末状のホウ素酸素含有材料により乾式被覆される。よって、
図7に示したように、ホウ素酸素含有材料を含む下側被覆部212Bが複数の中心部211のそれぞれの表面に形成される。
【0198】
この場合には、ホウ素酸素含有材料を用いて複数の中心部211のそれぞれの表面を乾式被覆したのち、その複数の中心部211を焼成してもよい。中心部211の表面においてホウ素酸素含有材料が均一に拡散しやすくなると共に、その中心部211の表面に対するホウ素酸素含有材料の定着性が向上するからである。焼成温度は、特に限定されないが、具体的には、300℃~500℃である。
【0199】
続いて、下側被覆部212Bが形成された複数の中心部211のそれぞれの表面に粉末状の炭素酸素含有材料を供給する。この炭素酸素含有材料は、炭素および酸素を構成元素として含む材料であり、上側被覆部212Aを形成する前に形成される後述する前駆被覆部212Zの形成材料である。ここでは、上記したように、フッ化リチウムを含む上側被覆部212Aを形成するために、炭素酸素含有材料として炭素および酸素と共にリチウムを構成元素として含む粉末状の炭酸リチウム(Li2 CO3 )を用いる。
【0200】
これにより、下側被覆部212Bの表面に粉末状の炭素酸素含有材料が定着するため、その下側被覆部212Bの表面が粉末状の炭素酸素含有材料により乾式被覆される。よって、
図7に示したように、下側被覆部212Bの表面に炭素酸素含有材料を含む前駆被覆部212Zが形成される。この前駆被覆部212Zは、後述する組み立て後の二次電池の安定化処理を利用して上側被覆部212Aを形成するために用いられる準備層である。
【0201】
この場合には、炭素酸素含有材料を用いて下側被覆部212Bの表面を乾式被覆したのち、その下側被覆部212Bを焼成してもよい。下側被覆部212Bの表面において炭素酸素含有材料が均一に拡散しやすくなると共に、その下側被覆部212Bの表面に対する炭素酸素含有材料の定着性が向上するからである。焼成温度は、特に限定されないが、具体的には、300℃程度である。
【0202】
下側被覆部212Bの焼成温度は、上記したように、複数の中心部211の焼成温度よりも低いことが好ましい。後述する工程において下側被覆部212Bの上に上側被覆部212Aを形成した際に、その下側被覆部212Bの構成材料と上側被覆部212Aの構成材料とが意図せずに互いに過剰に拡散し合うことを抑制するためである。
【0203】
これらのことから、
図7に示したように、中心部211、下側被覆部212Bおよび前駆被覆部212Zを含む複数の前駆粒子210Zが形成される。
【0204】
続いて、複数の前駆粒子210Zと、正極結着剤と、正極導電剤とを互いに混合させることにより、正極合剤とする。続いて、溶媒に正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。
【0205】
続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、前駆層(図示せず)を形成する。この前駆層は、上側被覆部212Aの代わりに前駆被覆部212Zを含んでいるため、複数の中心部211の表面に未だ被覆部212が設けられていないことを除いて、正極活物質層21Bの構成と同様の構成を有している。こののち、ロールプレス機などの圧縮装置を用いて前駆層を圧縮成形してもよい。この場合には、前駆層を加熱してもよいし、圧縮成形を複数回繰り返してもよい。
【0206】
続いて、加湿環境中において、前駆層が形成された正極集電体21Aを保管する。加湿環境としては、湿度を調整可能である環境試験機などを用いる。湿度および保管時間などの保管条件は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0207】
これにより、前駆層の表面に水分(H2 О)が付着する。この水分の付着量は、上記した保管条件に応じて、任意に設定可能である。
【0208】
前駆層の表面に水分を付着させるのは、後述するように、その水分と前駆被覆部212Z(炭素酸素含有材料)との反応を利用して、その前駆被覆部212Zを上側被覆部212Aに変換するためである。
【0209】
最後に、後述するように、二次電池を組み立てたのち、その組み立て後の二次電池を用いて安定化処理を行う。
【0210】
この安定化処理では、前駆層の表面に付着した水分と炭素酸素含有材料とが互いに反応するため、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される。これにより、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを含む被覆部212が複数の中心部211のそれぞれの表面に形成されるため、複数の前駆粒子210Zが複数の正極活物質粒子210に変換される。よって、複数の正極活物質粒子210を含む正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0211】
なお、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される反応の詳細に関しては、後述する。
【0212】
この正極21を作製する場合には、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bのそれぞれの形成量を調整可能である。
【0213】
具体的には、炭素酸素含有材料の乾式被覆量に応じて、上側被覆部212Aの形成量が変化する。これにより、上側被覆部212Aの厚さを調整可能であると共に、正極活物質粒子210における上側被覆部212Aの含有量を調整可能である。
【0214】
また、加湿環境中の保管条件に応じて、前駆層の表面に付着する水分の量が変化するため、上側被覆部212Aの形成量が変化する。これにより、上側被覆部212Aの厚さを調整可能であると共に、正極活物質粒子210における上側被覆部212Aの含有量を調整可能である。
【0215】
さらに、ホウ素酸素含有量の乾式被覆量に応じて、下側被覆部212Bの形成量が変化する。これにより、下側被覆部212Bの厚さを調整可能であると共に、正極活物質粒子210における下側被覆部212Bの含有量を調整可能である。
【0216】
[負極の作製]
最初に、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤を互いに混合させることにより、負極合剤とする。続いて、溶媒に負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。溶媒に関する詳細は、上記した通りである。最後に、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。こののち、ロールプレス機などの圧縮装置を用いて負極活物質層22Bを圧縮成形してもよい。この場合には、負極活物質層22Bを加熱してもよいし、圧縮成形を複数回繰り返してもよい。これにより、負極22が作製される。
【0217】
[電解液の調製]
溶媒に電解質塩を投入する。これにより、溶媒中において電解質塩が分散または溶解されるため、電解液が調製される。この場合には、必要に応じて、電解液にホウ素フッ素含有材料を添加してもよい。
【0218】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などの接合方法を用いて、正極21のうちの正極集電体21Aに正極リード31を接続させると共に、溶接法などの接合方法を用いて、負極22のうちの負極集電体22Aに負極リード32を接続させる。
【0219】
続いて、セパレータ23を介して、前駆層が形成された正極集電体21Aと、負極22とを互いに積層させることにより、積層体(図示せず)を形成する。続いて、積層体を巻回させることにより、巻回体(図示せず)を作製したのち、プレス機などの圧縮装置を用いて巻回体を押圧することにより、扁平形状となるように巻回体を成形する。この成形後の巻回体は、正極活物質層21Bの代わりに前駆層を含んでいると共に、電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子20の構成と同様の構成を有している。
【0220】
続いて、窪み部10Uに巻回体を収容したのち、外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させる。続いて、熱融着法などの接着方法を用いて、互いに対向する融着層のうちの2辺の外周縁部同士を互いに接着させることにより、袋状の外装フィルム10に巻回体を収納する。
【0221】
最後に、袋状の外装フィルム10に電解液を注入したのち、熱融着法などの接着方法を用いて、互いに対向する融着層のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに接着させる。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42を挿入する。
【0222】
これにより、巻回体に電解液が含浸されると共に、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0223】
[組み立て後の二次電池の安定化処理]
ここでは、安定化処理の手順に関して説明したのち、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される反応に関して説明する。
【0224】
(安定化処理の手順)
最初に、常温常湿環境中において、組み立て後の二次電池を充電させる。充電条件は、任意に設定可能である。環境の温度は、特に限定されないが、具体的には、10℃~35℃であると共に、環境の湿度は、特に限定されないが、具体的には、10%~60%である。
【0225】
続いて、高温環境中において、充電状態である組み立て後の二次電池を保存する。環境温度は、特に限定されないが、具体的には、50℃~90℃であると共に、保存時間は、特に限定されないが、具体的には、3時間~48時間である。
【0226】
最後に、常温常湿環境中において、充電状態である組み立て後の二次電池を放電させる。放電条件は、任意に設定可能である。環境の温度および湿度に関する詳細は、上記した通りである。
【0227】
これにより、上記したように、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されるため、複数の前駆粒子210Zが複数の正極活物質粒子210に変換される。この場合には、上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを含む被覆部212が複数の中心部211のそれぞれの表面に形成されるため、複数の正極活物質粒子210が形成される。よって、複数の正極活物質粒子210を含む正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0228】
また、正極21の表面に被膜が形成されるため、その正極21が電気化学的に安定化すると共に、負極22の表面に被膜が形成されるため、その負極22が電気化学的に安定化する。
【0229】
これらのことから、正極21、負極22および電解液を含む電池素子20が作製されると共に、袋状の外装フィルム10に電池素子20が封入されるため、二次電池が完成する。
【0230】
(前駆被覆部が上側被覆部に変換される反応)
安定化処理では、以下で説明する反応を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される。
【0231】
以下では、電解液に含まれているフッ素含有リチウム塩が六フッ化リン酸リチウムである場合に関して説明する。また、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでおり、そのホウ素フッ素含有材料が四フッ化ホウ酸リチウムである場合に関して説明する。
【0232】
上記したように、安定化処理を行う前には、炭素酸素含有材料(炭酸リチウム)を含む前駆被覆部212Zが下側被覆部212Bの表面に形成されている。
【0233】
安定化処理では、高温環境中において組み立て後の二次電池が保存されると、前駆被覆部212Zの表面近傍に存在している水分と、電解液に含まれているフッ素含有リチウム塩とが互いに反応するため、式(11)により表される反応が進行する。この反応は、多くの水分が存在している前駆被覆部212Zの表面近傍において進行しやすくなる。
【0234】
H2 O+LiPF6 →LiF+2HF+POF3 ・・・(11)
【0235】
これにより、水分とフッ素含有リチウム塩との反応を利用してフッ化水素(HF)が形成されるため、電解液中においてフッ化水素の濃度が増加する。すなわち、フッ素含有リチウム塩は、フッ化水素の発生源となる。
【0236】
電解液中においてフッ化水素の濃度が増加すると、前駆被覆部212Zに含まれている炭素酸素含有材料(Li2 CO3 )とフッ化水素とが互いに反応するため、式(12)により表される反応が進行する。
【0237】
Li2 CO3 +2HF→2LiF+CO2 +H2 O ・・・(12)
【0238】
これにより、炭素酸素含有材料とフッ化水素との反応を利用してフッ化リチウム(LiF)が形成されるため、その炭素酸素含有材料がフッ化リチウムに変化される。よって、フッ化リチウムを含む上側被覆部212Aが形成されるため、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換される。
【0239】
この場合には、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいると、式(13)により表される反応が進行する。すなわち、ホウ素フッ素含有材料は、フッ素含有リチウム塩と同様に、フッ化水素の発生源となる。
【0240】
2LiBF4 +3H2 O→2LiF+B2 O3 +6HF ・・・(13)
【0241】
これにより、ホウ素フッ素含有材料と水分との反応を利用してフッ化水素が形成されるため、式(12)に示した反応が進行しやすくなる。よって、前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されやすくなる。
【0242】
<1-6.作用および効果>
この二次電池によれば、正極21の正極活物質層21Bが複数の正極活物質粒子210を含んでおり、その正極活物質粒子210が中心部211および被覆部212を含んでおり、その中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物が層状岩塩型の結晶構造を有していると共にリチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上であり、その被覆部212がリチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含んでおり、電解液の電解質塩がフッ素含有リチウム塩を含んでいる。
【0243】
また、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされている。具体的には、TOF-SIMSを用いた正極活物質層21Bの深さ分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出されると共に、その第2負二次イオンのイオン強度の変化における第2ピークP2が第1負二次イオンのイオン強度の変化における第1ピークP1よりも深さ方向Dにおいて深い側に位置している。
【0244】
この場合には、中心部211がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol以上であるため、上記したように、リチウムを吸蔵放出する電位が低下する。これにより、高い電池容量が得られる。
【0245】
しかも、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされているため、上記したように、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に適正に保護される。これにより、リチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上でも、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいて正極21の発熱が抑制される。これにより、二次電池の状態が不安全な状態になっても、正極21の温度上昇が抑制されるため、その二次電池の発火などの不具合が発生しにくくなる。
【0246】
これらのことから、中心部211に基づいて電池容量が担保されながら、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいても被覆部212に基づいて正極21の過度な温度上昇が抑制される。よって、電池特性が担保されながら、優れた安全性を得ることができる。
【0247】
特に、被覆部212が中心部211よりも遠い側から順に上側被覆部212Aおよび下側被覆部212Bを含んでおり、その上側被覆部212Aがリチウムおよびフッ素を構成元素として含んでおり、その下側被覆部212Bがリチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含んでいれば、正極21の物性に関して3種類の物性条件が満たされやすくなる。よって、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に保護されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0248】
この場合には、上側被覆部212Aがフッ化リチウムを含んでおり、下側被覆部212Bがメタホウ酸リチウムを含んでいれば、中心部211の表面が被覆部212により電気化学的に十分に保護されるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0249】
また、リチウム複合酸化物が他元素としてコバルト、アルミニウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タンタル、クロム、ニオブ、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、マグネシウム、タングステン、硫黄、ストロンチウム、ホウ素、ナトリウムおよびフッ素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいれば、十分な電池容量が得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0250】
また、フッ素含有リチウム塩が六フッ化リン酸リチウムおよびビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムのうちの一方または双方を含んでいれば、そのフッ素含有リチウム塩を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0251】
また、電解液がさらにホウ素フッ素含有材料を含んでいれば、そのホウ素フッ素含有材料を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに変換されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0252】
この場合には、ホウ素フッ素含有材料が四フッ化ホウ酸リチウムおよびジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムのうちの一方または双方を含んでいれば、そのホウ素フッ素含有材料を利用して前駆被覆部212Zが上側被覆部212Aに十分に変換されるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0253】
また、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0254】
<2.変形例>
次に、上記した二次電池の変形例に関して説明する。二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例は、互いに組み合わされてもよい。
【0255】
[変形例1]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、多孔質膜であるセパレータ23の代わりに積層型のセパレータを用いてもよい。
【0256】
具体的には、積層型のセパレータは、多孔質膜および高分子化合物層を含んでいる。多孔質膜は、一対の面を有していると共に、高分子化合物層は、多孔質膜の片面または両面に設けられている。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子20の位置ずれが抑制されるからである。これにより、正極21、負極22およびセパレータのそれぞれの巻きずれが抑制されるため、電解液の分解反応が発生しても二次電池の膨れが抑制される。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンは、優れた物理的強度を有していると共に、電気化学的に安定である。
【0257】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱するため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。複数の絶縁性粒子は、無機材料および樹脂材料などの絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどである。樹脂材料の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などである。
【0258】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および有機溶剤を含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、前駆溶液中に複数の絶縁性粒子を含有させてもよい。
【0259】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムがイオン状態で移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、二次電池の膨れが抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0260】
[変形例2]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0261】
電解質層を用いた電池素子20では、正極21および負極22がセパレータ23および電解質層を介して互いに対向しながら巻回されている。この電解質層は、正極21とセパレータ23との間に介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に介在している。
【0262】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。電解液の漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および溶媒を含む前駆溶液を調製したのち、正極21の片面または両面に前駆溶液を塗布すると共に、負極22の片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0263】
この電解質層を用いた場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムがイオン状態で移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、電解液の漏液が防止されるため、より高い効果を得ることができる。
【実施例0264】
本技術の実施例に関して説明する。
【0265】
<実施例1,2および比較例1~4>
以下で説明するように、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。ここでは、電池特性を簡易評価するために、後述する試験用の二次電池を作製したのち、その試験用の二次電池を用いて電池特性を評価した。
【0266】
[二次電池の作製]
以下では、試験用の二次電池の構成に関して簡単に説明したのち、その試験用の二次電池の作製手順に関して説明する。
【0267】
(二次電池の構成)
図8は、試験用の二次電池の断面構成を表しており、その試験用の二次電池は、いわゆるコイン型のリチウムイオン二次電池である。
【0268】
この二次電池は、
図8に示したように、試験極61と、対極62と、セパレータ63と、外装カップ64と、外装缶65と、ガスケット66と、電解液(図示せず)とを備えている。
【0269】
試験極61は、外装カップ64に収容されていると共に、対極62は、外装缶65に収容されている。試験極61および対極62は、セパレータ63を介して互いに積層されていると共に、電解液は、試験極61、対極62およびセパレータ63のそれぞれに含浸されている。外装カップ64および外装缶65は、ガスケット66を介して互いに加締められているため、試験極61、対極62およびセパレータ63は、外装カップ64および外装缶65の内部に封入されている。
【0270】
(二次電池の作製手順)
以下で説明する手順により、
図8に示した二次電池を作製した。
【0271】
(試験極の作製)
最初に、複数の中心部(リチウム複合酸化物)を準備した。リチウム複合酸化物としては、LiNi0.86Co0.10Mn0.04O2 (LNCM)と、LiNi0.88Co0.10Al0.02O2 (LNCA)とを用いた。なお、リチウム複合酸化物の含有割合(mol%)は、表1に示した通りである。
【0272】
続いて、複数の中心部のそれぞれの表面に粉末状のホウ素酸素含有材料(粉末状のメタホウ酸リチウム)を供給した。これにより、複数の中心部のそれぞれの表面が粉末状のホウ素酸素含有材料により乾式被覆されたため、そのホウ素酸素含有材料を含む下側被覆部が形成された。この場合には、表1に示したように、正極活物質粒子における下側被覆部の含有量(重量%)が設定された。
【0273】
続いて、下側被覆部が形成された複数の中心部のそれぞれの表面に粉末状の炭素酸素含有材料(粉末状の炭酸リチウム)を供給した。これにより、下側被覆部の表面が粉末状の炭素酸素含有材料により乾式被覆されたため、その炭素酸素含有材料を含む前駆被覆部が形成された。よって、中心部、下側被覆部および前駆被覆部を含む複数の前駆粒子が形成された。
【0274】
続いて、複数の前駆粒子95.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)2.5質量部と、正極導電剤(カーボンブラック)1.9質量部と、分散剤(ポリビニルピロリドン)0.1質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その溶媒を攪拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。
【0275】
続いて、正極集電体(アルミニウム箔,厚さ=15μm)の片面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥(乾燥温度=100℃,乾燥時間=15分間)させることにより、前駆層(厚さ=50μm)を形成した。
【0276】
続いて、環境試験機を用いた加湿環境中(温度=30℃,湿度=50%)において、前駆層が形成された正極集電体を保管(保管時間=30分間)した。これにより、前駆層の表面に水分が付着した。
【0277】
続いて、前駆層が形成された正極集電体を円盤状(直径=16.5mm)となるように打ち抜いた。
【0278】
最後に、後述するように、前駆層が形成された正極集電体を用いて二次電池を組み立てたのち、その組み立て後の二次電池を用いて安定化処理を行った。これにより、式(11)および式(12)に示した反応を利用して炭酸リチウムがフッ化リチウムに変換されたため、前駆被覆部が上側被覆部に変換された。この場合には、表1に示したように、正極活物質粒子における上側被覆部の含有量(重量%)が設定された。
【0279】
よって、下側被覆部および上側被覆部を含む被覆部が複数の中心部のそれぞれの表面に形成されたため、複数の前駆粒子が複数の正極活物質粒子に変換された。これにより、中心部および被覆部を含む複数の正極活物質粒子が形成されたため、その複数の正極活物質粒子を含む正極活物質層が形成された。よって、試験極61が作製された。
【0280】
この試験極61を作製する場合には、以下で説明する手順を用いて正極活物質粒子の構成を変化させた。
【0281】
第1に、中心部の表面に供給するホウ素酸素含有材料の供給量を変更することにより、正極活物質粒子における下側被覆部の含有量(重量%)を調整した。これにより、中心部の表面に対するホウ素酸素含有材料の付着量が変化したため、下側被覆部の厚さが変化した。
【0282】
第2に、下側被覆部の表面に供給する炭素酸素含有材料の供給量を変更することにより、正極活物質粒子における上側被覆部の含有量(重量%)を調整した。これにより、中心部の表面に対する炭素酸素含有材料の付着量が変化したため、上側被覆部の厚さが変化した。
【0283】
第3に、前駆層が形成された正極集電体を加湿環境中において保管する際の保管条件(湿度および保管時間)を変更することにより、正極活物質粒子における上側被覆部の含有量(重量%)を調整した。これにより、前駆層の表面に対する水分の付着量が変化したことに応じて、式(11)および式(12)に示した反応の進行度が変化したため、上側被覆部の厚さが変化した。
【0284】
(対極の作製)
リチウム金属板を円盤状(直径=17mm)となるように打ち抜いた。これにより、対極62が作製された。
【0285】
(電解液の調製)
溶媒(環状炭酸エステルである炭酸エチレンおよび鎖状炭酸エステルである炭酸ジメチル)に電解質塩(フッ素含有リチウム塩である六フッ化リン酸リチウム)を投入したのち、その溶媒を攪拌した。溶媒の混合比(重量比)は、炭酸エチレン:炭酸ジメチル=30:70とした。電解質塩の含有量は、溶媒に対して1.4mol/l(=1mol/dm3 )とした。これにより、電解液が調製された。
【0286】
(組み立て後の二次電池の組み立て)
最初に、前駆層が形成された正極集電体を外装カップ64に収容したと共に、対極62を外装缶65に収容した。続いて、電解液が含浸されたセパレータ63(直径=17.5μmである円盤状のポリエチレンフィルム)を介して、前駆層が形成された正極集電体と対極62とを互いに積層させた。この場合には、セパレータ63を介して前駆層と対極62とを互いに対向させた。
【0287】
続いて、前駆層が形成された正極集電体と対極62とがセパレータ63を介して互いに積層されている状態において、ガスケット66を介して外装カップ64および外装缶65を互いに加締めた。これにより、前駆層が形成された正極集電体および対極62が試験極61および対極62の内部に封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0288】
最後に、組み立て後の二次電池を静置(静置時間=10時間)した。これにより、セパレータ63に含浸されている電解液の一部が試験極61に浸透した。
【0289】
(組み立て後の二次電池の安定化処理)
最初に、常温常湿環境である大気中(温度=23℃,湿度=30%)において、組み立て後の二次電池を充電させた。この場合には、0.1Cの電流で電圧が4.45Vに到達する定電流充電したのち、その4.45Vの電圧で電流が0.01Cに到達するまで定電圧充電した。なお、0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.01Cとは、電池容量を100時間で放電しきる電流値である。
【0290】
続いて、高温環境であるオーブン中(温度=60℃)において、充電状態である組み立て後の二次電池を保存(保存時間=24時間)した。
【0291】
これにより、上記したように、下側被覆部および上側被覆部を含む被覆部が複数の中心部のそれぞれの表面に形成されたため、複数の正極活物質粒子が形成された。よって、複数の正極活物質粒子を含む正極活物質層が形成されたため、試験極61が作製された。
【0292】
最後に、常温常湿環境である大気中において、充電状態である組み立て後の二次電池を放電させた。この場合には、0.1Cの電流で電圧が2.50Vに到達するまで定電流放電した。
【0293】
これにより、二次電池が完成した(実施例1,2)。
【0294】
[比較用の二次電池の作製]
なお、比較のために、以下で説明する手順を用いて他の二次電池も作製した。
【0295】
第1に、下側被覆部を形成しなかったため、上側被覆部だけを含む被覆部を形成したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製した(比較例1,2)。
【0296】
第2に、以下で説明するように、上記した特許文献1(特表2022-525463号公報)に開示されている手順を用いて複数の正極活物質粒子を形成したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製した(比較例3)。
【0297】
複数の正極活物質粒子を形成する場合には、最初に、複数の中心部(LNCM)120質量部と、蒸留水(温度=25℃)100質量部とを互いに混合させることにより、その蒸留水を用いて複数の中心部を水洗(水洗時間=15分間)したのち、その複数の中心部を乾燥(乾燥時間=130℃)させた。
【0298】
続いて、複数の中心部100質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)0.1質量部と、水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )0.9質量部とを互いに混合させることにより、混合物を得た。
【0299】
最後に、混合物を加熱(加熱温度=600℃)することにより、ポリフッ化ビニリデンおよび水酸化アルミニウムを含む被覆部を複数の中心部のそれぞれの表面に形成した。これにより、中心部および被覆部を含む複数の正極活物質粒子が形成された。
【0300】
第3に、以下で説明するように、上記した特許文献4(特開2013-062026号公報)に開示されている手順を用いて複数の正極活物質粒子を形成したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製した(比較例4)。
【0301】
複数の正極活物質粒子を形成する場合には、ホウ素酸素含有材料および炭素酸素含有材料を用いずに複数の中心部(LNCM)だけを用いて前駆層を形成したのち、組み立て後の二次電池の安定化処理を用いて複数の中心部のそれぞれの表面に被覆部を形成したことを除いて、実施例1の手順と同様の手順を用いた。この場合には、上側被覆部および下側被覆部が形成されなかった代わりに、電解液に含まれている電解質塩(六フッ化リン酸リチウム)の分解物を含む被覆部が形成されたため、中心部および被覆部を含む複数の正極活物質粒子が形成された。この被覆部は、安定化処理において複数の中心部のそれぞれの表面に形成される被膜である。
【0302】
ここで、二次電池の完成後、含有割合(mol%)を調べた結果は、表1に示した通りである。
【0303】
また、二次電池の完成後、TOF-SIMSを用いた試験極61の深さ分析において、その試験極61の物性に関して3種類の物性条件のそれぞれが成立しているか否かを調べた結果は、表1に示した通りである。
【0304】
[電池特性の評価]
以下で説明する手順により、電池特性として耐熱特性を評価したところ、表1に示した結果が得られた。
【0305】
耐熱特性を評価する場合には、以下で説明するように、二次電池を用いて熱安定性評価試験を行うことにより、耐熱特性を評価するための指標である環境温度(℃)を調べた。
【0306】
最初に、常温常湿環境である大気中(温度=23℃,湿度=30%)において、二次電池を充電させた。この場合には、0.1Cの電流で電圧が4.25Vに到達する定電流充電したのち、その4.25Vの電圧で電流が0.01Cに到達するまで定電圧充電した。
【0307】
続いて、充電状態である二次電池を解体することにより、試験極61および電解液を回収した。続いて、正極活物質層から正極集電体を剥離させたのち、熱分析用であるアルミニウム製のサンプルパンに試料(正極活物質層および電解液)を封入した。
【0308】
最後に、示差走査熱量計(DSC)にサンプルパンを装着したのち、その示差走査熱量計を用いて試料を熱分析することにより、最大発熱ピークが検出された際の環境温度(℃)を特定した。この場合には、示差走査熱量計として株式会社日立ハイテク製の示差走査熱量計 DSC6300を使用したと共に、昇温速度=10℃/分とした。
【0309】
正極活物質であるリチウム複合酸化物は、示差走査熱量計の内部において加熱されると、結晶構造の崩壊に起因して熱を放出する。これにより、最大発熱ピークは、リチウム複合酸化物から放出された熱に起因して検出されるピークである。このため、最大発熱ピークが検出される際の環境温度は、リチウム複合酸化物の熱的安定性を表しており、すなわちリチウム複合酸化物を加熱した際に結晶構造が何度まで耐えられるかを表している。
【0310】
よって、環境温度が高いほど、リチウム複合酸化物の熱的安定性が高くなるため、過充電時、二次電池の加熱および内部短絡の発生時などにおいて試験極61の温度が過度に上昇しにくくなる。一方、環境温度が低いほど、リチウム複合酸化物の熱的安定性が低くなるため、過充電時、二次電池の加熱時および内部短絡の発生時などにおいて試験極61の温度が過度に上昇しやすくなる。
【0311】
【0312】
[考察]
表1に示したように、試験極61がリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合が80mol%以上である場合には、環境温度が試験極61の物性に応じて変動した。
【0313】
具体的には、試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが成立していない場合(比較例1~4)には、環境温度が低下した。これに対して、試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが成立している場合(実施例1,2)には、環境温度が上昇した。
【0314】
特に、試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが成立している場合(実施例1,2)には、以下で説明する傾向が得られた。
【0315】
第1に、被覆部が上側被覆部および下側被覆部を含んでいると、環境温度が上昇した。この場合には、上側被覆部がフッ化リチウムを含んでいると共に、下側被覆部がメタホウ酸リチウムを含んでいると、環境温度が十分に上昇した。
【0316】
第2に、リチウム複合酸化物の組成に依存せずに、環境温度が上昇した。この場合には、リチウム複合酸化物が他元素を構成元素として含んでいても。環境温度が十分に上昇した。
【0317】
<実施例3~5および比較例5,6>
表2に示したように、電解液にホウ素フッ素含有材料(四フッ化ホウ酸リチウム)を添加したことを除いてほぼ同様の手順により、二次電池を作製したのち、電池特性を評価した。
【0318】
この場合には、電解液にホウ素フッ素含有材料を添加したのち、その電解液を攪拌した。電解液におけるホウ素フッ素含有材料の含有量(重量%)は、表2に示した通りである。
【0319】
【0320】
電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合(表2)においても、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいない場合(表1)と同様の結果が得られた。すなわち、試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが成立している場合(実施例3~5)には、試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが成立していない場合(比較例5,6)と比較して、環境温度が上昇した。
【0321】
特に、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいる場合(実施例3)には、電解液がホウ素フッ素含有材料を含んでいない場合(実施例1)と比較して、環境温度がより上昇した。
【0322】
[まとめ]
表1および表2に示した結果から、試験極61の正極活物質層21Bが複数の正極活物質粒子210を含んでおり、その正極活物質粒子210が中心部211および被覆部212を含んでおり、その中心部211が層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含んでおり、そのリチウム複合酸化物の含有割合Cが80mol%以上であり、電解液の電解質塩がフッ素含有リチウム塩を含んでおり、その試験極61の物性に関して3種類の物性条件の全てが満たされていると、環境温度が上昇した。よって、含有割合Cが80mol%以上であるリチウム複合酸化物を用いた場合において耐熱特性が改善されため、優れた安全性が得られた。
【0323】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0324】
具体的には、二次電池の電池構造がラミネートフィルム型およびコイン型である場合に関して説明した。しかしながら、二次電池の電池構造は、特に限定されないため、円筒型、角型およびボタン型などでもよい。
【0325】
また、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明した。しかしながら、電池素子の素子構造は、特に限定されないため、積層型および九十九折り型などでもよい。積層型では、正極および負極がセパレータを介して交互に積層されていると共に、九十九折り型では、正極および負極がセパレータを介して互いに対向しながらジグザグに折り畳まれている。
【0326】
また、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0327】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
【0328】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
<1>
正極活物質層を含む正極と、
負極と、
電解質塩を含む電解液と
を備え、
前記正極活物質層は、複数の正極活物質粒子を含み、
前記正極活物質粒子は、
リチウム複合酸化物を含む中心部と、
前記中心部の表面に設けられた被覆部と
を含み、
前記リチウム複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有すると共に、リチウム、ニッケルおよび他元素を構成元素として含み、
前記被覆部は、リチウム、フッ素、ホウ素および酸素を構成元素として含み、
前記電解質塩は、フッ素含有リチウム塩を含み、
前記リチウム複合酸化物における前記ニッケルの含有量と前記リチウム複合酸化物における前記他元素の含有量との和を100モル部とすると、前記リチウム複合酸化物における前記ニッケルの含有量は、80モル部以上100モル部以下であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた前記正極活物質層の深さ方向の分析において、LiF2
-に由来する第1負二次イオンおよびBO2
-に由来する第2負二次イオンが検出され、
前記深さ方向における前記第1負二次イオンのイオン強度の変化は、第1ピークを有すると共に、前記深さ方向における前記第2負二次イオンのイオン強度の変化は、第2ピークを有し、
前記第2ピークは、前記深さ方向において前記第1ピークよりも深い側に位置する、
二次電池。
<2>
前記被覆部は、前記中心部よりも遠い側から順に、
リチウムおよびフッ素を構成元素として含む第1被覆部と、
リチウム、ホウ素および酸素を構成元素として含む第2被覆部と
を含む、<1>に記載の二次電池。
<3>
前記第1被覆部は、フッ化リチウム(LiF)を含み、
前記第2被覆部は、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )を含む、
<2>に記載の二次電池。
<4>
前記他元素は、コバルト、アルミニウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タンタル、クロム、ニオブ、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、マグネシウム、タングステン、硫黄、ストロンチウム、ホウ素、ナトリウムおよびフッ素のうちの少なくとも1種を含む、
<1>ないし<3>のいずれか1つに記載の二次電池。
<5>
前記フッ素含有リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )およびビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 )2 )のうちの少なくとも一方を含む、
<1>ないし<4>のいずれか1つに記載の二次電池。
<6>
前記電解液は、さらに、ホウ素フッ素含有材料を含む、
<1>ないし<5>のいずれか1つに記載の二次電池。
<7>
前記ホウ素フッ素含有材料は、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )およびジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF2 (C2 O4 ))のうちの少なくとも一方を含む、
<6>に記載の二次電池。
<8>
リチウムイオン二次電池である、
<1>ないし<7>のいずれか1つに記載の二次電池。