(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005814
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20250109BHJP
H01Q 1/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q1/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106193
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】鳥阪 綾子
【テーマコード(参考)】
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J045AB01
5J045AB03
5J045AB04
5J045DA10
5J045EA07
5J045LA01
5J045LA04
5J046AA04
5J046AB13
5J046DA04
5J046DA05
(57)【要約】
【課題】形状変形・回復機能を持つ平面アンテナを提供する。
【解決手段】平面アンテナは、第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、を有する誘電体層と、前記第1面に配置されたアンテナ導体層と、前記第2面に配置されたグランド導体層と、を備え、前記誘電体層は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、を有する誘電体層と、
前記第1面に配置されたアンテナ導体層と、
前記第2面に配置されたグランド導体層と、を備え、
前記誘電体層は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される、
平面アンテナ。
【請求項2】
前記誘電体層の少なくとも一部は、中空構造を有する、
請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項3】
平面視で、前記誘電体層は、少なくとも前記アンテナ導体層と重なる部位に、中実構造を有する、
請求項1又は2に記載の平面アンテナ。
【請求項4】
前記誘電体層は、
前記第1面を有する第1層と、
前記第2面を有する第2層と、
前記第1層と前記第2層との間に配置される中間層と、を含む、
請求項1又は2に記載の平面アンテナ。
【請求項5】
平面視で、前記中間層は、前記アンテナ導体層と重なる部位に中実構造を有し、かつ、前記アンテナ導体層と重ならない部位に中空構造を有する、
請求項4に記載の平面アンテナ。
【請求項6】
前記平面視で、前記第1層及び前記第2層は、互いに同じ大きさの矩形状であり、
前記平面視で、前記アンテナ導体層は、前記第1面の中央に配置され、かつ、前記第1層よりも小さい大きさの矩形状であり、
前記平面視で、前記グランド導体層は、前記第2層と同じ大きさの矩形状である、
請求項5に記載の平面アンテナ。
【請求項7】
前記平面視で、前記誘電体層は、正方形であり、
前記中空構造の少なくとも一部は、前記誘電体層の中心を対称軸として4回対称の位置に配置される、
請求項6に記載の平面アンテナ。
【請求項8】
前記アンテナ導体層及び前記グランド導体層の各々の厚さは、10μm以上30μm以下である、
請求項1又は2に記載の平面アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナ設計においてトポロジー最適化手法は、広い周波数帯や複数の離れた周波数で効率よく送受信できる放射体の形状設計に適用されている(例えば、非特許文献1参照)。
例えば、非特許文献2には、放射体に伸縮可能で構造安全点が3箇所あるラティス構造を採用して全長を変える適応構造の概念を取り入れ、2つの周波数に対応できるヘリカルアンテナが開示されている。
平面アンテナとしては、基板材が単一材で埋め尽くされたものが一般的である。例えば、位相最適化を用いて基板材の粗密を最適化し、広い周波数帯域でのアンテナ特性向上と軽量化とを実現した研究がある(例えば、非特許文献3参照)。
例えば、非特許文献4では、構造強度特性の向上(コンプライアンス最小化)を目的とした位相最適化を平面アンテナの基板材に適用し、アンテナに向かないとされる誘電正接の高い材料について、アンテナの利得値の大幅な向上が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics 50 (2015) 1-4 IOS Press, Topology Optimization of Wideband ArrayAntenna for Microwave Energy Harvester, Takuya Mori and Hajime Igarashi, The final publication is available at IOS Press through http://dx.doi.org/10.3233/JAE-162057
【非特許文献2】AIAA SciTech Forum January 3-7, 2022, San Diego, CA & Virtual AIAA SCITECH 2022 Forum, 10.2514/6.2022-0923, Enhancing multi-stability in helical lattices for adaptive structures, Maria Sakovsky, Rosette Maria Bichara, Youssef Tawk and Joseph Costantine
【非特許文献3】IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION, VOL. 51, NO. 10, OCTOBER 2003, Topology Design Optimization of Dielectric Substrates for Bandwidth Improvement of a Patch Antenna, Gullu Kiziltas, Dimitris Psychoudakis, John L. Volakis and Noboru Kikuchi
【非特許文献4】AIAA SciTech Forum, 11-15 & 19-21 January 2021, VIRTUAL EVENT, AIAA Scitech 2021 Forum, 10.2514/6.2021-0429, Reduction of Patch Antenna Dielectrics by Topology Optimization and Influence on Radio Wave Characteristics, Ayako Torisaka
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、平面アンテナに形状変形・回復機能を持たせる技術が要求されている。しかし、非特許文献1から4のいずれにも、上記の技術は開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、形状変形・回復機能を持つ平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る平面アンテナは、第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、を有する誘電体層と、前記第1面に配置されたアンテナ導体層と、前記第2面に配置されたグランド導体層と、を備え、前記誘電体層は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、形状変形・回復機能を持つ平面アンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】実施形態に係る平面アンテナの放射パターンの一例を示す図。
【
図6】実施例1-2の設計及び解析結果等の説明図。
【
図14】実施例1-2の平面アンテナの放射パターンの一部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態においては、平面アンテナの一例として、形状記憶ポリマー(SMP: Shape Memory Polymer)を用いた適応型高剛性超軽量平面アンテナの例を挙げて説明する。例えば、本実施形態の平面アンテナは、宇宙太陽光発電システム(SSPS: Space Solar Power Systems)の実現に向けて、マイクロ波やレーザー光による無線エネルギー伝送技術、宇宙空間における大型構造物の構造技術等に供される。
【0010】
以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置や状態を意味するのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している配置や状態をも含むものとする。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更して示す場合がある。
【0011】
<平面アンテナ>
図1は、実施形態に係る平面アンテナ1の斜視図である。
図2は、実施形態に係る平面アンテナ1の平面図である。
図3は、実施形態に係る平面アンテナ1の放射パターンの一例を示す図である。
図1から
図3を併せて参照し、平面アンテナ1は、誘電体層2、アンテナ導体層3及びグランド導体層4を備える。例えば、平面アンテナ1は、熱又は外力が作用していないときには平面形状を有し、熱又は外力が作用した場合には変形し得るように構成されている。
【0012】
図示はしないが、平面アンテナ1は、アンテナ導体層3に給電するための給電線を更に備えてもよい。例えば、給電線は、アンテナ導体層3に接続される一方の端部(給電点に相当)と、不図示の外部装置に接続される給電端である他方の端部と、を有する。
【0013】
図の例では、平面アンテナ1は、平面視矩形状を有する。例えば、平面アンテナ1は、平面視正方形の板状に形成される。なお、平面アンテナ1の平面視形状は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0014】
例えば、平面アンテナ1の厚さは、10mm以上90mm以下である。図の例では、平面アンテナ1の厚さは、30mm程度である。平面アンテナ1の厚さは、誘電体層2の厚さと、アンテナ導体層3の厚さと、グランド導体層4の厚さと、を足し合わせた厚さに相当する。なお、平面アンテナ1の厚さは、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0015】
例えば、平面アンテナ1は、全体としてフレキシブル性を有してもよい。例えば、平面アンテナ1は、全体として円筒の側面のように湾曲できるように構成されてもよい。例えば、平面アンテナ1は、折り畳むことが可能に柔軟な弾性特性を有して構成されてもよい。
【0016】
<誘電体層>
誘電体層2は、誘電体を主成分とする層状の基材である。誘電体層2は、アンテナ導体層3とグランド導体層4との間隔を一定に保つ役割を持つ。誘電体層2は、第1面11と、第1面11とは反対側の第2面12と、を有する。第1面11は、誘電体層2の厚さ方向の一方側の面に相当する。第2面12は、誘電体層2の厚さ方向の他方側の面に相当する。第1面11及び第2面12は、互いに平行である。
【0017】
誘電体層2は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される。主成分とは、材料全質量を基準として、50wt%以上である成分をいう。例えば、誘電体層2は、80wt%以上の形状記憶ポリマーを含んで形成されることが好ましく、90wt%以上の形状記憶ポリマーを含んで形成されることがより好ましい。なお、誘電体層2に含まれる形状記憶ポリマーの割合は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0018】
形状記憶ポリマーは、以下(1)から(5)の特徴を持つ。
(1)融点以上で成形された形状を記憶する。
(2)造形後、ガラス転移温度Tg以上に温まるとやわらかくなる。
(3)やわらかくなった造形物は、形状の変形・調整が可能である。
(4)変形させた状態で冷ますと、形状固定する。
(5)再び温めることで、やわらかくなると共に、記憶した元形状に戻る。
【0019】
例えば、形状記憶ポリマーとしては、ポリウレタン系形状記憶ポリマーが挙げられる。例えば、誘電体層2は、ポリウレタン系形状記憶ポリマーで形成される。なお、誘電体層2の形成材料は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0020】
誘電体層2の少なくとも一部は、中空構造15を有する。中空構造15は、誘電体層2の内部に空気を含んだ状態で形成された構造であり、誘電体層2の肉抜き部分に相当する。平面視で、誘電体層2は、少なくともアンテナ導体層3と重なる部位に、中実構造16を有する。中実構造16は、誘電体層2自体が存在する構造であり、誘電体層2において肉抜き部分以外の部分に相当する。
【0021】
誘電体層2は、第1面11を有する第1層21と、第2面12を有する第2層22と、第1層21と第2層22との間に配置される中間層23と、を含む。平面視で、第1層21及び第2層22は、互いに同じ大きさの矩形状である。平面視で、中間層23は、少なくともアンテナ導体層3と重なる部位に中実構造16を有する。平面視で、中間層23は、アンテナ導体層3と重ならない部位に中空構造15を有する。
【0022】
図の例では、平面視で、誘電体層2は、正方形である。例えば、誘電体層2を構成する第1層21及び第2層22の各々は、平面視正方形のシート状に形成される。例えば、中空構造15の少なくとも一部は、誘電体層2の中心を対称軸として4回対称の位置に配置される。
【0023】
誘電体層2の厚さは、10mm以上30mm以下である。誘電体層2の厚さは、第1層21の第1面11と第2層22の第2面12との間隔に相当する。例えば、誘電体層2の厚さは、15mm以上25mm以下であることがより好ましい。なお、誘電体層2の厚さは、上記に限らず、平面アンテナ1がアンテナとして機能し得る範囲で、設計仕様に応じて変更することができる。
【0024】
例えば、誘電体層2は、形状記憶ポリマーのフィラメントを用いて、3Dプリンタで形成される。例えば、誘電体層2は、形状記憶ポリマーの粉末を用いて、レーザー焼結で形成されてもよい。なお、誘電体層2の形成方法は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0025】
<アンテナ導体層>
アンテナ導体層3は、外部から照射された電波を電流に変換し、又は、給電された電流を外部に放射する電波に変換する役割を持つ。アンテナ導体層3は、誘電体層2の第1面11に配置される。平面視で、アンテナ導体層3は、第1面11の中央に配置される。平面視で、アンテナ導体層3は、第1層21よりも小さい大きさの矩形状である。
【0026】
例えば、アンテナ導体層3は、銅等の金属(導体の一例)で形成される。なお、アンテナ導体層3は、上記に限らず、金、銀、アルミニウム、白金、クロム等で形成されてもよい。例えば、アンテナ導体層3の形成材料は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0027】
アンテナ導体層3の厚さは、10μm以上30μm以下である。例えば、アンテナ導体層3の厚さは、15μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、アンテナ導体層3の厚さは、上記に限らず、平面アンテナ1がアンテナとして機能し得る範囲で、設計仕様に応じて変更することができる。
【0028】
例えば、アンテナ導体層3は、誘電体層2の第1面11に、メッキ又は印刷等の方法で形成される。なお、アンテナ導体層3の形成方法は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0029】
<グランド導体層>
グランド導体層4は、誘電体層2の第2面12に配置される。グランド導体層4は、誘電体層2を介して、アンテナ導体層3に対向して配置される。グランド導体層4は、アンテナ導体層3が動作する際にグランド(GND)として機能する。平面視で、グランド導体層4は、第2層22と同じ大きさの矩形状である。
【0030】
例えば、グランド導体層4は、銅等の金属(導体の一例)で形成される。なお、グランド導体層4は、上記に限らず、金、銀、アルミニウム、白金、クロム等で形成されてもよい。例えば、グランド導体層4の形成材料は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0031】
グランド導体層4の厚さは、10μm以上30μm以下である。例えば、グランド導体層4の厚さは、15μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、グランド導体層4の厚さは、上記に限らず、平面アンテナ1がアンテナとして機能し得る範囲で、設計仕様に応じて変更することができる。
【0032】
例えば、グランド導体層4は、誘電体層2の第2面12に、銅箔フィルムを貼り付けて形成される。例えば、グランド導体層4は、誘電体層2の第2面12に、メッキ又は印刷等の方法で形成されてもよい。なお、グランド導体層4の形成方法は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0033】
<形状変形・回復機能>
本実施形態の平面アンテナ1は、形状変形・回復機能を持つ。上述の通り、誘電体層2は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される。そのため、形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱及び外力によって、平面アンテナ1を任意の形状に変形させることができる。加えて、形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱によって、平面アンテナ1を元の形状に回復させることができる。
【0034】
形状記憶ポリマーの温度遷移点は、形状記憶ポリマーのガラス転移温度Tgに相当する。形状記憶ポリマーの弾性率は、ガラス転移温度Tgの前後の温度において大きく異なる。形状記憶ポリマーの弾性率は、Tg以下の温度では相対的に高くなり、Tg以下の温度では相対的に低くなる。形状記憶ポリマーの弾性率は、温度に依存する。
【0035】
形状記憶ポリマーは、Tgに対し所定温度超過の高温では小さな応力で容易に変形する。この場合、最大ひずみを一定に拘束し、Tgに対し所定温度未満の低温まで冷却すると、熱収縮に対する抵抗として応力が増加する(回復応力)。この状態から低温のままで除荷すると、高弾性率のために最大ひずみと実質的に等しい残留ひずみが得られる(形状固定性)。一方、低温除荷の状態から無負荷の下で、Tgに対し所定温度超過の高温まで加熱すると、ひずみは消滅し、元の形状に戻る(形状回復性)。
【0036】
このように、形状記憶ポリマーは、形状固定性及び形状回復性を持つ。すなわち、形状記憶ポリマーは、Tg超過の温度で変形させた形状を保持したままTg未満に冷却すると、その形状で固化する。再びTg超過の温度に加熱すると、記憶された形状に戻る。
【0037】
<トポロジーの最適化>
以下、トポロジーの最適化の概要について説明する。トポロジー最適化の基本的な考え方は、構造設計問題を固定設計領域内の材料分布問題として定式化することである。つまり、寸法の問題や形状の問題とは異なり、設計空間に穴を開けることが可能である。
【0038】
図4は、実施形態に係るトポロジー最適化の説明図である。図の例では、目的関数が平均コンプライアンス、設計変数が体積密度、制約条件が体積である例を示す。図においては、Dは設計領域、Ωdは設計領域、Χ
Ωは設計変数、Γは境界をそれぞれ示す。
【0039】
このとき、最適構造として求められた元の設計領域Ωdを含む拡張固定設計領域Dと、以下の式(1)に示す0と1の離散化値を持つ特性関数ΧΩ(Χ)を導入する。
【0040】
【0041】
この特性関数を決定する目的関数を定義し、任意の制約を与えて最小化(または最大化)する問題は、以下の式(2)で表される。式(2)において、uは変位ベクトル、Kは剛性マトリックス、ρは誘電体の材料密度、Fは負荷、MCは拘束された質量をそれぞれ示す。
【0042】
【0043】
これにより、最適な形状・形状を表現することが可能となる。
なお、場合によっては、特性関数で表される最適構造が0と1が交互に並ぶ、製造が困難な市松模様が得られることがある。
【0044】
このため、設計空間を緩和する必要があり、例えば下記の非特許文献5では均質化法、下記の非特許文献6では密度法 といった手法がそれぞれ提案されている。
【0045】
[非特許文献5]Bendsoee, M. P. and Kikuchi, N., Generating optimal topologies in structural design using a homogenization method, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, Vol.71, No.2 (1988), pp.197-224.
【0046】
[非特許文献6]Bendsoee, M. P., Optimal shape design as a material distribution problem, Structural and Multidisciplinary Optimization, Vol.1, No.4 (1989), pp.193-202.
【0047】
密度法では、特性関数を、連続値をとる設計変数に緩和する。例えば、密度法の一つであるSIMP法では、緩和前の弾性率E、設計変数ρ、ペナルティ係数pを用いて明確な材料分布構造を求め、弾性を仮定して材料分布を表現する。緩和後の弾性率EHは、以下の式(3)で表される。
【0048】
【0049】
ここでの設計変数は、0から1までの連続値をとる正規化された一時的な材料密度である。値が0に近づくほど、材料の密度は低くなる。値が1に近づくほど、材料の密度が高くなる。ここでは、目的関数として物体の変形しやすさである平均コンプライアンスを採用する。そして、平均コンプライアンスを最小限に抑えることで、静剛性を最大化する構造分布が得られる。目的関数の設計変数に関する感度は、以下の式(4)で表される。式(4)において、K(d)の「d」は、Kが微分可能であることを示す。
【0050】
【0051】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の平面アンテナ1は、第1面11と、第1面11とは反対側の第2面12と、を有する誘電体層2と、第1面11に配置されたアンテナ導体層3と、第2面12に配置されたグランド導体層4と、を備える。誘電体層2は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される。
この構成によれば、誘電体層2が形状記憶ポリマーを主成分として構成されることで、形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱及び外力によって、平面アンテナ1を任意の形状に変形させることができる。加えて、形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱によって、平面アンテナ1を元の形状に回復させることができる。したがって、形状変形・回復機能を持つ平面アンテナ1を提供することができる。
【0052】
本実施形態では、誘電体層2の少なくとも一部は、中空構造15を有する。
この構成によれば、誘電体層2の全部が中実である場合と比較して、軽量化することができる。
【0053】
本実施形態では、平面視で、誘電体層2は、少なくともアンテナ導体層3と重なる部位に、中実構造16を有する。
一般に、位相最適化は基本的に剛性が下がる手法である。この構成によれば、平面視で誘電体層2がアンテナ導体層3と重なる部位に中実構造16を有するため、多少の剛性低下という犠牲は受け入れつつ、質量を大幅に削減することができる。
【0054】
本実施形態では、誘電体層2は、第1面11を有する第1層21と、第2面12を有する第2層22と、第1層21と第2層22との間に配置される中間層23を含む。
この構成によれば、誘電体層2が第1層21、第2層22及び中間層23を含む積層構造となる。
【0055】
本実施形態では、平面視で、中間層23は、アンテナ導体層3と重なる部位に中実構造16を有し、かつ、アンテナ導体層3と重ならない部位に中空構造15を有する。
この構成によれば、アンテナ導体層3の変形を抑えつつ軽量化を実現することができる。
【0056】
本実施形態では、平面視で、第1層21及び第2層22は、互いに同じ大きさの矩形状である。平面視で、アンテナ導体層3は、第1面11の中央に配置され、かつ、第1層21よりも小さい大きさの矩形状である。平面視で、グランド導体層4は、第2層22と同じ大きさの矩形状である。
この構成によれば、平面アンテナ1として高剛性及び軽量化を図る上で、好適な形状を実現することができる。
【0057】
本実施形態では、平面視で、誘電体層2は、正方形である。中空構造15の少なくとも一部は、誘電体層2の中心を対称軸として4回対称の位置に配置される。
この構成によれば、平面アンテナ1として高剛性及び軽量化を図る上で、より好適な形状を実現することができる。
【0058】
本実施形態では、アンテナ導体層3及びグランド導体層4の各々の厚さは、10μm以上30μm以下である。
この構成によれば、平面アンテナ1として高剛性及び軽量化を図る上で、更に好適な形状を実現することができる。
【0059】
本実施形態の平面アンテナ1は、誘電体層2が形状記憶ポリマーを主成分として構成されることで、形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱及び外力によって任意の形状に変形することができ、さらに形状記憶ポリマーの温度遷移点以上の加熱によって元の形状に回復することが可能となる。そのため、例えば、ロケット内の空間が限られる狭空間に合うように平面アンテナ1を加熱変形させ、畳んで収納しておくことができる。例えば、軌道投入後に必要な場所での加熱によって、畳まれた平面アンテナ1を展開するという使い方が可能となる。さらには、平面アンテナ1自身の形状回復作用がアクチュエータの役割を果たすことによって、これまでの展開支持部に搭載するためのサイズ制限や搭載位置の制限といった制約を外すことが可能になる。
【0060】
例えば、発電システムや無線伝送システム等の宇宙システムを搭載する大型宇宙構造物は、主に構造物の表面全体に広げられたマイクロ波アレイアンテナで構成される。そのため、上記の表面全体を本実施形態の平面アンテナ1で構成することで、大型宇宙構造物の総重量の軽量化が可能となる。
【0061】
一般に、平面アンテナを構成する誘電体は、平面アンテナ全体の構造質量の大部分を占める。これに対し本実施形態によれば、誘電体層2が中空構造15を持つため、平面アンテナ1の総重量の軽量化を図る上で実益が大きい。
【0062】
一方、システムには平面精度が要求されるため、構造の剛性は可能な限り損なわれないようにする必要がある。本実施形態によれば、誘電体のトポロジーの最適化を実行した平面アンテナ1を適用することで、軽量化を図りつつ、構造の剛性を維持することが可能となる。
【0063】
例えば、平面アンテナを衛星構造物に搭載した場合、周囲の構造物からの反射によりアンテナ利得が低下する可能性が高い。そのため、アンテナ利得の最大化を図る必要があり、アンテナ単体の利得をできるだけ上げることが要求される。本実施形態によれば、上記のトポロジーの最適化を実行した平面アンテナ1を適用することで、軽量化を図りつつ構造の剛性を維持した上で、さらにアンテナ利得の最大化を図ることが可能となる。
【0064】
<変形例>
上述した実施形態では、誘電体層の少なくとも一部は、中空構造を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、誘電体層の全部は、中実構造を有してもよい。例えば、誘電体層の構成態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0065】
上述した実施形態では、平面視で、誘電体層は、少なくともアンテナ導体層と重なる部位に、中実構造を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、誘電体層は、アンテナ導体層と重なる部位全体に中空構造を有してもよい。例えば、平面視で誘電体層がアンテナ導体層と重なる部位の構成態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0066】
上述した実施形態では、誘電体層は、第1面を有する第1層と、第2面を有する第2層と、第1層と第2層との間に配置される中間層と、を含む例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、誘電体層は、第1層、第2層及び中間層のうちの何れかを含まなくてもよい。例えば、誘電体層は、単層構造であってもよい。例えば、誘電体層の層構造は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0067】
上述した実施形態では、平面視で、中間層は、アンテナ導体層と重なる部位に中実構造を有し、かつ、アンテナ導体層と重ならない部位に中空構造を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、中間層は、アンテナ導体層と重なる部位に中空構造を有してもよい。例えば、平面視で中間層がアンテナ導体層と重なる部位の構成態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0068】
上述した実施形態では、平面視で、第1層及び第2層は、互いに同じ大きさの矩形状である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、第1層及び第2層は、互いに異なる大きさの矩形状でもよいし、互いに異なる形状(例えば、円形等の矩形以外の形状)でもよい。例えば、第1層及び第2層の平面視サイズ及び形状は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0069】
上述した実施形態では、平面視で、アンテナ導体層は、第1面の中央に配置され、かつ、第1層よりも小さい大きさの矩形状である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、アンテナ導体層は、第1面の中央からずれた位置に配置されてもよい。例えば、平面視で、アンテナ導体層は、第1層と同じ大きさの矩形状でもよいし、第1層とは異なる形状(例えば、円形等の矩形以外の形状)でもよい。例えば、アンテナ導体層の平面視配置及び形状は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0070】
上述した実施形態では、平面視で、グランド導体層は、第2層と同じ大きさの矩形状である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、グランド導体層は、第2層と異なる大きさの矩形状でもよいし、第2層とは異なる形状(例えば、円形等の矩形以外の形状)でもよい。例えば、グランド導体層の平面視サイズ及び形状は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0071】
上述した実施形態では、平面視で、誘電体層は、正方形であり、中空構造の少なくとも一部は、誘電体層の中心を対称軸として4回対称の位置に配置される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、平面視で、誘電体層は、長方形でもよいし、矩形以外の多角形でもよいし、円形でもよい。例えば、平面視で、中空構造の少なくとも一部は、誘電体層の中心を対称軸として4回対称以外のn回対称(nは2以上の整数)の位置に配置されてもよい。例えば、誘電体層の平面視形状、及び、中空構造の平面視配置は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0072】
上述した実施形態では、アンテナ導体層及びグランド導体層の各々の厚さは、10μm以上30μm以下である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、アンテナ導体層及びグランド導体層の少なくとも1つの厚さは、10μm未満でもよいし、30μm超過でもよい。例えば、アンテナ導体層及びグランド導体層の各々の厚さは、設計仕様に応じて変更することができる。例えば、導体層を銅箔などで形成した場合は、この部分はμmオーダーでなくてもよい。例えば、導体層を蒸着で形成した場合は、この部分はnmオーダー、又は、Åオーダーとなる場合もあり得る。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であり、上述した実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0074】
(付記1)
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面と、を有する誘電体層と、
前記第1面に配置されたアンテナ導体層と、
前記第2面に配置されたグランド導体層と、を備え、
前記誘電体層は、形状記憶ポリマーを主成分として構成される、
平面アンテナ。
【0075】
(付記2)
前記誘電体層の少なくとも一部は、中空構造を有する、
付記1に記載の平面アンテナ。
【0076】
(付記3)
平面視で、前記誘電体層は、少なくとも前記アンテナ導体層と重なる部位に、中実構造を有する、
付記1又は2に記載の平面アンテナ。
【0077】
(付記4)
前記誘電体層は、
前記第1面を有する第1層と、
前記第2面を有する第2層と、
前記第1層と前記第2層との間に配置される中間層と、を含む、
付記1から3の何れかに記載の平面アンテナ。
【0078】
(付記5)
平面視で、前記中間層は、前記アンテナ導体層と重なる部位に中実構造を有し、かつ、前記アンテナ導体層と重ならない部位に中空構造を有する、
付記4に記載の平面アンテナ。
【0079】
(付記6)
前記平面視で、前記第1層及び前記第2層は、互いに同じ大きさの矩形状であり、
前記平面視で、前記アンテナ導体層は、前記第1面の中央に配置され、かつ、前記第1層よりも小さい大きさの矩形状であり、
前記平面視で、前記グランド導体層は、前記第2層と同じ大きさの矩形状である、
付記5に記載の平面アンテナ。
【0080】
(付記7)
前記平面視で、前記誘電体層は、正方形であり、
前記中空構造の少なくとも一部は、前記誘電体層の中心を対称軸として4回対称の位置に配置される、
付記6に記載の平面アンテナ。
【0081】
(付記8)
前記アンテナ導体層及び前記グランド導体層の各々の厚さは、10μm以上30μm以下である、
付記1から7の何れかに記載の平面アンテナ。
【実施例0082】
以下、本発明の上記実施形態に係る平面アンテナについて、実施例を示して具体的に説明する。なお、下記の実施例は、本発明が適用された具体的な一例であり、本発明を限定するものではない。
【0083】
図5は、比較例の設計及び解析結果等の説明図である。
図6は、実施例1-2の設計及び解析結果等の説明図である。
図7は、実施例2の設計及び解析結果等の説明図である。
図8は、実施例3の設計及び解析結果等の説明図である。
図9は、実施例4の設計及び解析結果等の説明図である。
図10は、実施例5の設計及び解析結果等の説明図である。
【0084】
(実施例)
実施例の平面アンテナは、第1面と、第1面とは反対側の第2面と、を有する誘電体層と、第1面に配置されたアンテナ導体層と、第2面に配置されたグランド導体層と、を備え、誘電体層は、形状記憶ポリマーを主成分として構成され、誘電体層の少なくとも一部は、中空構造を有するもの(
図1に示す構成に相当)を準備した。
実施例としては、
図6から
図10に示すように、平面アンテナの設計(構成要素の形状やサイズ、パターン等)を各々変えた、実施例1-2から実施例5を準備した。
【0085】
(比較例)
比較例の平面アンテナは、誘電体層が中空構造を有しない、通常の平面アンテナを準備した。比較例としては、
図5に示すものを準備した。
【0086】
(実験機器)
図11は、実験機器の正面図である。
図12は、実験機器の側面図である。
実施例及び比較例で使用した実験機器は、
図11及び
図12に示すものを用いた。この実験機器に各平面アンテナを設置し、放射パターンを求めた。
【0087】
(実施例1-2)
一例として、実施例1-2の平面アンテナの放射パターンを説明する。
図13は、実施例1-2の平面アンテナの平面図である。
図14は、実施例1-2の平面アンテナの放射パターンの一部を示す斜視図である。
図13から
図14を併せて参照し、実施例1-2の平面アンテナの放射パターンは、正面視では紙面左右に長い円形状となり、側面視では紙面左側に向かって膨出する形状となることが確認された。なお、
図14は、放射パターンの上半部の斜視図に相当する。
【0088】
(評価結果)
各平面アンテナのゲイン(アンテナ利得)を解析実験により測定した。評価結果等を
図5から
図10に示す。
【0089】
図5から
図10を併せて参照し、実施例の平面アンテナによれば、実施例2を除き、比較例の平面アンテナに対して、アンテナ利得が大きくなることが確認された。これにより、実施例の平面アンテナによれば、軽量化を図りつつ、構造の剛性を維持し、アンテナ利得の最大化を図ることができることが分かった。
1…平面アンテナ、2…誘電体層、3…アンテナ導体層、4…グランド導体層、11…第1面、12…第2面、15…中空構造、16…中実構造、21…第1層、22…第2層、23…中間層