(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005816
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】振動応答低減装置及び振動応答低減方法
(51)【国際特許分類】
B65D 90/22 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B65D90/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106198
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】屋嘉 広行
(72)【発明者】
【氏名】薄田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐介
【テーマコード(参考)】
3E170
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AB01
3E170AB02
3E170AB03
3E170BA10
3E170DA01
3E170RA02
3E170VA17
(57)【要約】
【課題】構造物からの加振入力に起因してタンクに励起されるバルジングにより構造物の振動応答を低減することができる振動応答低減装置及び振動応答低減方法を提供する。
【解決手段】固有振動モードの励起による構造物の振動振幅を低減する振動応答低減装置であって、液体を内部に貯留するタンクを備え、前記タンクが、前記構造物の固有振動数においてタンク胴板と内部に貯留する前記液体の連成振動モードであるバルジングモードを励起するように構成されている振動応答低減装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有振動モードの励起による構造物の振動振幅を低減する振動応答低減装置であって、
液体を内部に貯留するタンクを備え、
前記タンクが、前記構造物の固有振動数においてタンク胴板と内部に貯留する前記液体の連成振動モードであるバルジングモードを励起するように構成されている
振動応答低減装置。
【請求項2】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクは、前記構造物に対し、前記構造物の固有振動数に係る振動方向に剛に支持されている振動応答低減装置。
【請求項3】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクは、前記構造物で使用する液体を内部に貯留する振動応答低減装置。
【請求項4】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクは円筒状であり、
前記タンクのタンク胴の直径が前記タンク胴板の板厚の300倍以上、
前記タンクに貯留される前記液体の比重が0.5以上である
振動応答低減装置。
【請求項5】
請求項4の振動応答低減装置において、
前記タンク胴の長さが前記タンク胴の直径の0.7倍以上である振動応答低減装置。
【請求項6】
請求項4の振動応答低減装置において、
流体構造連成解析によって前記構造物の固有振動数においてバルジングモードが励起されるように寸法が設定されている振動応答低減装置。
【請求項7】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクの内部を加圧する加圧装置を備えている振動応答低減装置。
【請求項8】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクを複数備え、
各タンクは、互いに独立しており、タンク胴の直径と前記タンク胴板の板厚の比、及び前記タンク胴の長さと直径の比の少なくとも一方が互いに異なる
振動応答低減装置。
【請求項9】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクを複数備え、
各タンクは、配管で互いに接続されており、タンク胴の直径と前記タンク胴板の板厚の比、及び前記タンク胴の長さと直径の比の少なくとも一方が互いに異なり、
少なくとも1つのタンクの高さを調整する高さ調整機構を有する
振動応答低減装置。
【請求項10】
請求項1の振動応答低減装置において、
前記タンクを複数備え、
各タンクは、環状に連結されている
振動応答低減装置。
【請求項11】
固有振動モードの励起による構造物の振動振幅を低減する振動応答低減方法であって、
液体を内部に貯留するタンクを用い、
前記タンクを、前記構造物の固有振動数においてタンク胴板と内部に貯留する前記液体の連成振動モードであるバルジングモードを励起するように構成する
振動応答低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置等の対象物の振動応答を低減する振動応答低減装置及び振動応答低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や車両、機械装置等においては、風や路面状況、負荷変動等の外乱荷重に起因して固有振動モードが励起されることがある。こうした固有振動モードの励起による振動応答を低減する目的で、動吸振器やダンパー装置等の振動応答低減装置が建物や車両、機械装置等の対象物に設置される場合がある。動吸振器やダンパー装置は対象物の固有振動モードの応答倍率を低減するが、対象物に追加して設置されるため対象物の重量が増加する。この重量増加は対象物の固有振動数の低下を招き、振動数低下により振幅が増大し応答加速度の減衰効果を低下させる可能性がある。そのため、振動応答低減装置は、対象物に元々備わっている重量物を利用して構成することが望ましい。
【0003】
それに対し、特開平7-133681号公報(特許文献1)には、高層建物の最上部に設置された受水槽の貯留水のスロッシングを用いて動吸振器を構成する振動応答低減装置が記載されている。スロッシングはタンク等に貯留された液体の液面が上下に動揺する比較的長周期の振動挙動であり、液面の寸法や液体の深さによって固有振動数が定まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、高層建物の風荷重による振動応答を低減するために、屋上に設置された受水槽のスロッシング周波数と建物の固有振動数を一致させ、受水槽を動吸振器として機能させている。
【0006】
しかし、同文献では受水槽の壁面を剛体と仮定し、貯留水の挙動のみを利用して建物の振動を抑制しており、タンク構造の変形について何ら考慮されていない。貯留水のスロッシングに影響を受けて受水槽が変形することが想定されるとしても、少なくとも、受水槽の振動変形を利用した振動応答低減機構、或いは振動応答低減機構の振動変形を抑制する構造について何ら示唆していない。
【0007】
本発明の目的は、構造物からの加振入力に起因してタンクに励起されるバルジングにより構造物の振動応答を低減することができる振動応答低減装置及び振動応答低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、固有振動モードの励起による構造物の振動振幅を低減する振動応答低減装置であって、液体を内部に貯留するタンクを備え、前記タンクが、前記構造物の固有振動数においてタンク胴板と内部に貯留する前記液体の連成振動モードであるバルジングモードを励起するように構成されている振動応答低減装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造物からの加振入力に起因してタンクに励起されるバルジングにより構造物の振動応答を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図
【
図2】第1実施形態に係る振動応答低減装置の製作手順を表すフローチャート
【
図3】本発明の第2実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図
【
図4】本発明の第3実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図
【
図5】本発明の第4実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
-振動応答低減装置-
図1は本発明の第1実施形態に係る振動応答低減装置1を表す模式図である。振動応答低減装置1は、構造物の固有振動モードの励起による当該構造物の振動振幅を低減する装置である。構造物は振動応答を低減させる対象となる構造物であり、
図1では機械装置2を構造物の例として示しているが、例えば建屋やフレーム等の各種構造物の振動振幅を抑制する目的で、振動応答抑制装置1は適用可能である。
【0013】
振動応答低減装置1は、液体Lを内部に貯留するタンク10と、機械装置2に対してタンク10を支持する支持部材20とを備えている。
【0014】
-タンク-
タンク10は、薄肉の容器であり、好ましくは機械装置2で使用する液体Lを内部に貯留する容器である。構造物の種類によりタンク10として利用できる容器は異なるが、例えばサージタンク、バッファタンク、廃液タンク、燃料タンク、作動油タンク、オイルタンク等といった容器をタンク10として用いることができる。液体Lには、燃料、廃液、冷却水、潤滑油、その他の水等であり、構造物の作動又は運用のために必要な液体を用いることができる。タンク10には、構造物に元々備わっていた備え付けの容器を利用(改造)して構成することもできるし、備え付けの容器とは別に製作したものを備え付けの容器に置き換えることもできる。
【0015】
タンク10は典型的には円筒状であり、本実施形態の場合、円筒のそのタンク胴11の中心線Cを水平方向(
図1中の左右方向)に延ばした姿勢で配置されている。タンク10は、抑制目的である機械装置2の主要な振動モードの固有振動数の振動方向V(
図1の紙面に直交する方向)に中心線Cが交差(例えば直交)するように配置してあり、機械装置2の振動方向Vはタンク胴11のラジアル方向に当たる。
【0016】
タンク10は、機械装置2の固有振動数においてタンク胴板(タンク胴11を構成する板材)と内部に貯留する液体Lの連成振動モードであるバルジングモードを励起するように構成されている。例えば、タンク10のタンク胴11の直径はタンク胴板の板厚の300倍以上(例えば600倍)、タンク10に貯留される液体Lの比重は0.5以上(水であれば1.0)である。タンク胴11の長さ(中心線C方向の長さ)はタンク胴の直径の0.7倍以上(例えば1.0倍)である。タンク10の材質の好適例は、例えば鋼(スチール)又はアルミニウム合金等である。タンク胴11の直径/板厚比、液体Lの比重、タンク胴11の長さ/直径比の上限値は、タンク10の必要強度や設置スペースの制約で決まる。タンク10は、これらを条件として、流体構造連成解析によって機械装置2の固有振動数においてバルジングモードが励起され易いように寸法が設定されている。例えば機械装置2の主要な振動モードの固有振動数が100Hz程度である場合、タンク胴11の直径を約300mm、中心線C方向の長さを約400mm、タンク胴板の板厚を0.3~0.5mmに設定し、鋼(スチール)又はアルミニウム合金でタンク10を製作することができる。
【0017】
なお、振動応答低減装置1においては、液体Lがスロッシングする必要はないので、遠心力等の静的な加速度条件下でも液体Lの送液を続ける必要がある場合や、液体Lの動揺によって機械装置2の運動挙動を乱すことが問題となる場合には、タンク10の内部に海綿状構造物19を設置しても良い。さらに、液体Lはタンク胴11の内周面に直接触れている必要はなく、袋状の柔軟容器18に入った状態でタンク胴11の中に収められていてもバルジングモードは励起され得る。例えば、液体Lがタンク胴板を構成する金属に対して腐食性であっても、例えばシリコン樹脂製等の柔軟容器18に液体Lを入れることで、タンク10に液体Lを貯留しバルジングモードを励起させることができる。
【0018】
-支持部材-
支持部材20は、例えばフランジ状の構造をしており、タンク胴11と、タンク胴11の両端に取り付けられた鏡板12との継ぎ目部分付近で、タンク10を支持している。各支持部材20は、機械装置2に対しては2本の線状の取り合い部を溶接等の工法によって強固に接続してある。この支持部材20は、バルジングに起因する減衰効果をタンク10から機械装置2に伝達するため、タンク10に対して上記振動方向Vには剛に取り付けられる。つまり、支持部材20とタンク10の取り合い構造には、振動方向Vへの遊びはない。一方で、支持部材20とタンク10の取り合い構造は、タンク10の中心線C方向には遊びを持つ、又は弾性的であることが好ましい。タンク10が中心線方向に弾性的に支持される構成とすることで、機械装置2の振動に中心線C方向に振動するモードがある場合、その中心線C方向の振動モードに対してタンク10を動吸振器として作用させることができる。
【0019】
なお、支持部材20はフランジ状であると説明したが、支持部材20はタンク10を機械装置2に強固に設置することができればよく、特に形状や数量は限定されない。例えば、
図1のように両側の鏡板12機械装置2に固定する構成でなくても、例えば支持部材20を介して一方のみの鏡板12を機械装置2に固定し、他方の鏡板12を機械装置2に直接締結するような構造としても良い。
【0020】
-加圧装置-
本実施形態においては、振動応答低減装置1には加圧装置30が備わっており、加圧装置30を操作してタンク10の内部を加圧することができるようになっている。加圧装置30は、例えばコンプレッサであり、吐出口が配管31を介してタンク10の内部空間に接続している。配管31の途中には、先端が大気中に開口した排気管32が接続している。配管31には加圧弁33、排気管32には排気弁34が設けられている。加圧弁33及び排気弁34は圧力制御弁を構成する。加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34は、手動操作が可能である他、制御装置40により制御可能である。制御装置40は、例えばコンピュータであり、タンク10に設けた加速度計41や機械装置2に設けた加速度計42の出力に応じ、加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34を制御可能である。
【0021】
タンク10は、薄肉である一方でバルジングモードに耐える必要がある。例えば機械装置2の起動停止等の過渡運転状態の間に特に機械装置2の固有振動モードが励起され易い場合には、過渡運転状態の間の機械装置2の振動状況が振動応答低減装置1の作用により改善され得る。しかし、機械装置2が定常運転状態になって機械装置2の振動応答が問題にならない状況に移行した後も、タンク10において高周波のバルジングモードが励起され続けると、高サイクル疲労によりタンク胴板に必要以上に負荷がかかる可能性がある。
【0022】
そこで、本実施形態においては、加圧装置30を駆動して排気弁34を閉じた状態で加圧弁33を開放し、タンク10の内圧を高めタンク胴板に張力を作用させることで、機械装置2からの加振入力によるタンク10のバルジングモードの励起を抑制できる。例えば、機械装置2の起動停止時等の非定常運転時にのみタンク10のバルジングモードが励起されるようにする場合には、機械装置2の定常運転時に加圧装置30によりタンク10の内圧を上げる。反対に、機械装置2の定常運転時にのみタンク10のバルジングモードが励起されるようにする場合には、機械装置2の非定常運転時に加圧装置30によりタンク10の内圧を上げる。加圧装置30を停止させ、加圧弁33を閉じて排気弁34を開放することにより、タンク10の内部が大気圧に戻り、タンク10はバルジングの励起が可能な状態に復帰する。
【0023】
なお、例えばサージタンクをタンク10に用い、冷却液を液体Lとする場合には、冷却液Lの昇温時にタンク10を気密するバルブを圧力制御弁として設けることで、機械装置2の定常運転時における液体Lの蒸気の圧力上昇を利用してタンク10の内部を加圧することができる。この場合、加圧装置30としてのコンプレッサが省略可能である。
【0024】
また、単に、機械装置2の非定常運転時又は定常運転時に、自動的に、バルジングモードが励起されるように又は励起されないようにするだけなら、機械装置2の運転に係る信号を制御装置40に入力し、加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34が制御されるように構成すれば良い。機械装置2の運転に係る信号を基に、機械装置2の非定常運転/定常運転を検知したら、加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34が制御される構成である。
【0025】
更には、加速度計41,42の出力を基に制御装置40により加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34を制御することで、タンク10による応答振動の抑制効果を適正化することができる。この場合、制御装置40が、加速度計41の出力を基にタンク10のバルジングの振幅を演算し、加速度計42の出力を基に機械装置2の周波数を演算し、いずれかの値が予め設定した適正範囲を外れる場合に当該値が適正範囲に戻るように加圧装置30、加圧弁33及び排気弁34をフィードバック制御する構成を例示することができる。例えば、バルジング励起中にバルジングの振幅が過度に大きい場合に、タンク10の内圧を上げてバルジングの振幅を抑えるような制御である。
【0026】
-効果-
(1)本願発明者等の鋭意研究により、機械装置2からの加振入力によりタンク10に励起されるバルジング、つまりタンク10の振動変形が機械装置2の振動応答の抑制に有効であることが知見された。
【0027】
上記の通り、本実施形態によれば、機械装置2に設置したタンク10に、機械装置2からの加振入力により、機械装置2が固有振動モードを励起されることでタンク10にタンク胴板と液体Lの連成振動モードであるバルジングモードが励起される。機械装置2の固有振動数においてバルジングモードが励起されることで、このバルジングモードにより機械装置2の振動応答(応答倍率)を抑制し、機械装置2の振動の振幅を効果的に抑制することができ、機械装置2の性能や耐久性の劣化を抑制することができる。
【0028】
(2)タンク10が機械装置2に対し振動方向Vに剛に支持されているので、機械装置2の固有振動モードとタンク10のバルジングモードの励起を合理的に重畳させることができる。
【0029】
(3)タンク10が機械装置2で使用する液体Lを内部に貯留するので、機械装置2に作動に必要で元々機械装置2に備わっていた設備をタンク10で兼ねることができ、機械装置2の重量増加を抑制できる。
【0030】
(4)本実施形態においては、タンク10を円筒状としたことで、タンク10の円筒状のタンク胴11が周方向に波打つようなバルジングモード(オーバル変形とも呼ばれる)を励起することができ、抑制すべき固有振動数に柔軟に対応できる。また、タンク胴11の直径/板厚比≧300、液体Lの比重≧0.5、タンク胴11の長さ/直径比≧0.7とすることで、適正にバルジングの効果を得ることができる。
【0031】
(5)また、機械装置2の応答低減効果が不要な状況においては、加圧装置30を用いてタンク10の内圧を上げることによりバルジングモードの励起を抑制することができる。これにより、不要なバルジングモードの励起によりタンク10に必要以上の負荷がかかることを抑制することができる。
【0032】
(6)タンク10が横型であるため、底部近傍で静水圧によってフープ応力が高まることを抑制でき、バルジングモードが励起され易くなる。
【0033】
(7)振動応答低減装置1は、機械装置2に元々備わっていたタンクを利用して容易に構成することができる。
【0034】
(8)また、仮に機械装置2が遠心力等の静的な加速度が作用しない等の理由で液体Lが動揺しても問題ない装置であり、なおかつ機械振動を設置面に伝達しない構成、又は地震荷重低減のために設置面との間に免震装置が介在する構成であるとする。このような機械装置2では、低振動数においては剛体振動モードとなり、変位が過大になると、外部設備と接続されるケーブル類や配管類に負荷がかかる。この場合、タンク10の内部の液体Lのスロッシング周波数を剛体振動モードに合わせることにより、タンク10のバルジングモードによって機械装置2の振動応答低減の効果に加え、剛体振動モードによる振動変位を低減することができる。タンク10の内部の液体Lのスロッシング周波数は、液体Lの液面の面積(タンク形状)や水深で調整することができる。また、液体Lのスロッシング周波数は、バルジング周波数の約1/100と大幅に低いことが想定される。機械装置2が柔なマウントによって免震支持されている等して、振動応答低減装置1を含めた機械装置2全体の剛体変位モードの固有振動数が1Hz程度となる場合、剛体モードの応答低減のためにスロッシングモードを利用することもできる。
【0035】
(9)また、振動応答の低減対象である構造物が例えば土地に設置された貯水タンクであるような場合、振動応答の低減対象である構造物そのものがタンク10を兼ね得る。この場合、建築物を振動応答の低減対象である構造物とする場合と同じく、貯水タンクは例えば地震によって加振されることが想定される。従って、貯水タンクを自己の固有振動数でバルジングモードが励起されるように前述したように製作する。貯水タンクのスウェイモードやロッキングモード、曲げモード等の応答倍率を、バルジングの作用によって低減することが可能である。
【0036】
-製作手順-
次に、タンク10の寸法を流体構造連成解析に基づいて設計する際のフローについて説明する。
【0037】
図2は本実施形態に係る振動応答低減装置1の製作手順、特にタンク胴11の設計のための流体構造連成解析による評価手順を表すフローチャートである。
図2に示した手順は、コンピュータ等を適宜用いつつ、設計者等が実施する工程を表している。
【0038】
まず、機械装置2のモーダル解析を実施し(ステップS11)、問題の振動の原因となっている固有振動モードを推定し(ステップS12)、その固有振動モードで応答加速度が大きい機械装置2における位置と振動方向を推定する(ステップS13)。その後、応答加速度が大きい位置の近傍に、機械装置2の振動方向が円筒のラジアル方向になる状態で取り付けることができる円筒の外径と長さの限界を把握する(ステップS14)。これと並行して、機械装置2の稼働時の振動を実測し(ステップS15)、発生する問題の振動の加速度振幅を記録する(ステップS16)。
【0039】
次に、ステップS14で把握した設置可能な範囲でタンク10の形状を定め、支持部材20の形状も定める(ステップS21)。そして、タンク10に貯留する液体Lの種類を選定し(ステップS22)、機械装置2で利用される液体を優先的に選択しつつ、配管の都合等を勘案して液体Lの種類を決定する(ステップS23)。配管はタンク10の鏡板12に設置することを基本として設計する。そして、仮のタンク10を作成して内部に液体Lを入れ、その状態において機械装置2の問題の振動の原因となる振動モードの固有振動数を実測し確認する(ステップS24)。その後、タンク10を仮設してモーダル解析を実施し、問題の振動の原因となっている振動モードの固有振動数を確認する(ステップS25)。この工程については、代替の方法として、支持部材20の質量とタンク10に貯留する液体Lの質量の1/3を合わせた質量の錘を用意し、この錘を振動応答低減装置1の設置予定位置に取り付けてモーダル解析を実施する方法を採用することもできる。
【0040】
続いて、タンク胴板の板厚をステップS21で定めた外径に対して直径/板厚比が300以上となる条件で設計し(ステップS31)、構造連成解析モデルを作成する(ステップS32)。この構造解析モデルは、両端部を固定した単純な円管のみで構成する。また、流体解析モデルを別途制作する(ステップS33)。そして、ステップS16で得られた加振振幅、ステップS24で得られた周波数に基づき、単振動加速度加振解析を流体構造連成解析で実施し(ステップS34)、応答低減効果を発揮するバルジングの有無を判定する(ステップS35)。ステップS31-S35までは、タンク胴板の板厚を同時に複数設定して効率的に実施することができる。
【0041】
ステップS35の判定において、タンク10のラジアル方向の加速度波形が入力加速度周波数の3倍以上の高周波数であり、入力加速度振幅に対する応答倍率が40倍以上となっていることを、有効なバルジングが発生していることの判断基準とする。ステップS35の判定において、入力振動とバルジング振動の周波数の差が小さい場合はタンク10の剛性が不足していると考えられるので、タンク胴板の弾性係数を大きくするか板厚を厚くして構造解析モデルを変更する。バルジングが発生しない場合はタンク胴11の剛性が高すぎると考えられるので、タンク胴板の弾性係数を小さくするか板厚を薄くして構造解析モデルを変更する。また、液体Lに選択肢がある場合、バルジング周波数を高くするためには密度の低い種類に、逆の場合には密度を高い種類に液体Lの設定を変更し、流体解析モデルを変更する。そして、応答低減効果が期待できるバルジング変形の応答加速度が最も大きいタンク10の直径、長さ、胴板の材料、板厚、液体Lの種類を記録する。
【0042】
ステップS31-S34を構造解析モデル及び液体Lの物性を適宜変更して繰り返し実施し、タンク10の寸法と液体Lの物性の候補が少なくとも1つ定まれば、
図2のフローを終了する。
図2のフローの工程を経ることにより、タンク10の設計と液体Lが定まる。
【0043】
なお、流体構造連成解析には誤差があり、実機(実際に制作されるタンク10)には製造誤差がある。そのため、解析結果の通りの応答が得られるとは限らない。ただし、バルジングモードは、応答低減の対象とする周波数に近い周波数帯にあれば十分に応答低減効果を発揮することに加え、タンク10における液体Lの液面高さやタンク10の内圧によって調整が可能である。さらに、タンク10の構造は単純であるため、まずはモックアップを作成して機械装置2に設置してバルジングの励起と振動応答の低減効果を確認しタンク10の寸法を調整することも容易である。
【0044】
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図である。
図3において、説明済みの実施形態と同一の又は対応する要素には既出図面と同符号を付して説明を省略する。
【0045】
本実施形態の振動応答低減装置1が第1実施形態の振動応答低減装置1と相違する点は、複数のタンク10A,10Bを備え、各タンク10A,10Bが、互いに独立しており、タンク胴11の直径とタンク胴板の板厚の比、及びタンク胴11の長さとタンク胴11の直径の比の少なくとも一方が互いに異なる点である。“タンク10A,10Bが互いに独立している”とは、タンク10A,10B同士が配管で直接接続されておらず、互いの液体Lの液面が連動せず液面を個別に調整できることをいう。タンク10A,10Bは、タンク胴11の直径とタンク胴板の板厚の比、及びタンク胴11の長さとタンク胴11の直径の比の少なくとも一方を相違させ、機械装置2の異なる固有振動数でそれぞれバルジングモードが励起されるように構成されている。また、タンク10A,10Bは、上記のように互いに独立しているため、液体Lの液面高さ(水深)を各々調整することで、互いのバルジングモードに係る固有振動数を別々に調整できる。
【0046】
なお、
図3の例において、タンク10A,10Bは、中心線Cを上下に延ばした縦型の円筒状の容器であり、上下に並んだ状態で支持部材20を介して機械装置2に固定されている。但し、タンク10A,10Bは、第1実施形態のように横型の円筒状の容器であっても良い。また、タンク10A,10Bは縦に並んでいるが、横に並べても良い。但し、縦に並べた構成の方が、タンク10A,10Bの設置面積を抑えることができる。また、2つのタンク10A,10Bを有する構成を例示しているが、タンクは3つ以上であっても良い。更に、複数のタンクは、1つのタンクの室内を複数に分割して構成したものであっても良い。タンク10A,10Bは第1実施形態と同様の方法で設計、製作される。
【0047】
その他の点について、本実施形態は第1実施形態と同様である。制御装置40や加圧装置30、海綿状構造物19、柔軟容器18、加速度計41,42等については特に図示していないが、これらの要素は必要であれば本実施形態においても適用可能である。
【0048】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、バルジングモードに係る固有振動数が異なる互いに独立した複数のタンク10A,10Bを有することで、機械装置2の複数の固有振動数について振動応答を低減できるメリットが得られる。本実施形態の振動応答低減装置1は、大容量で単一構造のタンクを必要としない機械装置2に適用する場合に有効である。
【0049】
また、大型の縦型円筒タンクの場合、底部近傍では静水圧によってフープ応力が高まり、バルジングモードが励起されに難くなる可能性がある。それに対し、本実施形態の場合、タンク10A,10Bは、いずれも縦型の円筒容器であるものの、複数存在することから個々の容量や液位が抑えられ、それぞれの静水圧を低減することができ、バルジング変形を励起し易くすることができる。
【0050】
(第3実施形態)
図4は本発明の第3実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図である。
図4において、説明済みの実施形態と同一の又は対応する要素には既出図面と同符号を付して説明を省略する。
【0051】
本実施形態の振動応答低減装置1が説明済みの実施形態の振動応答低減装置1と相違する点は、複数のタンク10C,10Dを備え、各タンク10C,10Dが、配管13で互いに接続されており、タンク胴11の直径とタンク胴板の板厚の比、及びタンク胴11の長さとタンク胴11の直径の比の少なくとも一方が互いに異なり、タンク10C,10Dのうち少なくとも1つの高さを調整する高さ調整機構21を有する点である。
【0052】
タンク10C,10Dは、第2実施形態と同様、タンク胴11の直径とタンク胴板の板厚の比、及びタンク胴11の長さとタンク胴11の直径の比の少なくとも一方が異なるため、機械装置2の異なる固有振動数でそれぞれバルジングモードが励起される。タンク10C,10Dは、第1実施形態と同じく水平に長い円筒容器であるが、第2実施形態のように縦型の円筒容器であっても良い。なお、
図1と異なり、
図4では振動方向Vと直交する方向から見た振動応答低減装置1を表している。また、
図4ではタンク10C,10Dを振動方向Vに平行に並べた構成を例示しているが、レイアウトはタンク設置スペースの都合に応じて適宜変更可能であり、例えば振動方向Vに直交する方向にタンデムにタンク10C,10Dを並べて配置しても良い。タンク10C,10Dが振幅抑制目的とする振動の振動方向Vが異なる場合、タンク10C,10Dの向きを相違させても良い(タンク10C,10Dの互いの中心線Cが平面視で交差するレイアウトとしても良い)。タンク10C,10Dも、第1実施形態と同様の方法で設計、製作される。
【0053】
タンク10C,10Dの内部空間同士は配管13を介して連絡しており、タンク10C,10Dのそれぞれの液体Lの液面高さ(標高)が一致する。本実施形態では、タンク10Cの支持部材20に高さ調整機構21が設けられており、高さ調整機構21によりタンク10Cの高さが変更されると、液体Lの液面に対してタンク10Cの高さが変化し、その結果タンク10C,10Dの液位(水深)が変化する。これによりタンク10C,10Dのバルジングモードに係る固有振動数が調整可能である。高さ調整機構21は、典型的には油圧ジャッキやボールねじである。配管13は、タンク10Cの変位に対応するように可撓性であることが望ましい。
【0054】
高さ調整機構は手動操作可能であるが、制御装置40による自動制御も可能である。例えば、タンク10C,10Dのバルジングが励起されている間、加速度計41,42の出力を基にタンク10C,10Dのバルジングの振幅や機械装置2の振動の周波数及び振動方向を演算し、タンク10C,10Dのいずれにバルジングを励起させるかを選択し、選択したタンクにバルジングモードを励起させるべく当該タンクの水深が調整されるように、制御装置40により高さ調整機構21が制御されるようにすることができる。また、加速度計41,42の出力を基にタンク10C,10Dのバルジングの振幅や機械装置2の振動の周波数が適正範囲に維持されるように、制御装置40により高さ調整機構21がフィードバック制御されるようにすることができる。
【0055】
その他の点について、本実施形態は第1実施形態と同様である。加圧装置30や海綿状構造物19、柔軟容器18等については特に図示していないが、これらの要素は必要であれば本実施形態においても適用可能である。
【0056】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、バルジングモードに係る固有振動数が異なる互いに独立した複数のタンク10C,10Dを有することで、機械装置2の複数の固有振動数について振動応答を低減できるメリットが得られる。また、例えば機械装置2の運転状況に応じて高さ調整機構21によりタンク10C,10Dの水深を調整することで、機械装置2の振動数や振動方向に応じた特定のタンクでバルジングを励起させることができる。本実施形態は、動作状況に応じて固有振動数及び固有振動モードが変化するような機械装置2に特に有効に適用することができる。
【0057】
(第4実施形態)
図5は本発明の第4実施形態に係る振動応答低減装置を表す模式図である。
図5において、説明済みの実施形態と同一の又は対応する要素には既出図面と同符号を付して説明を省略する。
【0058】
本実施形態の振動応答低減装置1が説明済みの実施形態の振動応答低減装置1と相違する点は、複数のタンク10E,10F,10G,10H…を備え、各タンク10E…が環状に連結されており、少なくとも1つのタンクの高さを調整する高さ調整機構21を有する点である。
【0059】
タンク10E,10F…は、直管を平面視で台形に切断した円筒殻であり、これらタンク10E,10F…が継ぎ合わせられてトーラス殻形状を構成している。トーラス殻形状を構成するタンク10E,10F…がそれぞれバルジングモードを有する。
図5ではトーラス殻形状の半分を示しており、8つのタンクを環状に接合した構成を想定し、4つのタンク10E-10Hを図示している。トーラス殻形状を構成するタンクの数は適宜変更可能であり、例えば16個のタンクを接合してトーラス殻形状を構成しても良い。タンク10E,10F…も、第1実施形態と同様の方法で設計、製作される。タンク10E,10F…は、同一設計とすることもできるし、必要に応じて直径/板厚比等を相違させることもできる。
【0060】
また、高さ調整機構21は、1つでも良いが、トーラス殻形状の周方向に複数備わっていることが好ましい。より好ましくは周方向に3つ以上の高さ調整機構21が備わっていることが望ましく、この場合にはトーラス殻形状の三次元的に自在に傾斜させることができる。第3実施形態と同様、高さ調整機構は手動操作又は自動制御が可能である。
【0061】
その他の点について、本実施形態は第1実施形態と同様である。加圧装置30や海綿状構造物19、柔軟容器18等については特に図示していないが、これらの要素は必要であれば本実施形態においても適用可能である。
【0062】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、トーラス殻形状を構成するタンク10E,10F…がそれぞれバルジングモードを有するので、水平方向の全方位的に振動応答低減効果を発揮することができる。また、高さ調整機構21を用いて支持部材20の長さを調整してトーラス殻を傾斜させることにより、タンク10E,10F…毎に水深を変更しバルジング周波数を自在に変更できる。例えば、原子炉に用いられるサプレッションチェンバがトーラス殻形状をしており、本実施形態に係る振動応答低減装置1の適用例の1つとして例示できる。
【0063】
(変形例)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0064】
また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することもできる。また、各実施形態の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【符号の説明】
【0065】
1…振動応答低減装置、2…機械装置(構造物)、10,10A-10H…タンク、11…タンク胴、13…配管、21…高さ調整機構、30…加圧装置、L…液体、V…振動方向