(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005820
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106207
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】森 靖
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050FA04
5H050HA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温サイクル実施後においても熱安定性を確保可能な二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、正極、負極、および電解質を含み、二次電池状態で低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルの実施がされ、前記負極の表面において、前記低温サイクルの実施後と比べて、X線光電子分光法に基づく、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が酸素原子の濃度よりも高い、二次電池が供される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、および電解質を含み、
二次電池状態で低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルの実施がされ、
前記負極の表面において、前記低温サイクルの実施後と比べて、X線光電子分光法に基づく、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が酸素原子の濃度よりも高い、二次電池。
【請求項2】
前記負極の少なくとも最外表面において、前記低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度よりも、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が高い、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記負極の最外表面において、前記低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度に対する前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度の比率が1.5以上である、請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極が前記表面にフッ素含有物を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極がリチウムイオンを吸蔵放出可能であり、前記フッ素含有物が、LiF、POF3、およびCH3Fからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記フッ素含有物が耐熱性を有する、請求項4に記載の二次電池。
【請求項7】
前記電解質がカーボネート類およびLiPF6を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項8】
前記酸素原子が、少なくとも、前記低温サイクル後に生じるLi2CO3由来である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項9】
前記フッ素原子が、少なくともLiPF6由来である、請求項7に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より充放電が繰り返し可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等の電子機器の電源として用いられている。
【0003】
二次電池は、正極、負極、および正極と負極との電極間に配置されたセパレータを含む電極組立体と、電解質とが外装体に収容された構造となっている。電極は、集電体および集電体の少なくとも一方の主面に設けられた電極材層を有して成る。具体的には、正極は、正極集電体および正極集電体の少なくとも一方の主面に設けられた正極材層を有して成る。負極は、負極集電体および負極集電体の少なくとも一方の主面に設けられた負極材層を有して成る。二次電池としては、例えばリチウム二次電池がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、リチウム二次電池では、相対的に低温(例えば-20℃~10℃)で充放電を繰り返し行う場合、即ち低温サイクルを実施する場合、負極の負極材層へのリチウムイオンの受け入れの程度が低くなり得ることが知られている。
【0006】
この点につき、電解質の溶媒としてカーボネート類が用いられ、電解質の溶質としてLiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が用いられる場合、充電時に負極材層へと受け入れられなかったリチウムイオンとカーボネート基とが結合して、Li2CO3(炭酸リチウム)が形成され得る。
【0007】
その上で、電池内でLi2CO3とLiPF6が共存する状態では、高温(約100℃~約180℃)で発熱反応が生じ得ることから、電池の熱安定性低下の懸念がある。特に、低温サイクルを実施後にて、電池の過負荷試験等で上記の発熱反応を生じさせる温度帯に到達した場合、電池の破裂等のリスクが生じ得、電池の熱安定性低下が顕在化し得る。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みて案出されたものである。具体的には、本発明は、低温サイクル実施後においても熱安定性を確保可能な二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
正極、負極、および電解質を含み、
二次電池状態で低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルの実施がされ、
前記負極の表面において、前記低温サイクルの実施後と比べて、X線光電子分光法に基づく、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が酸素原子の濃度よりも高い、二次電池が供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る二次電池によれば、低温サイクル実施後においても熱安定性を確保可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】低温サイクルに続き80℃保存した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示すグラフである。
【
図1B】低温サイクルに続き室温サイクルを実施した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示すグラフである。
【
図1C】低温サイクルを実施した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示すグラフである。
【
図2A】二次電池の加熱試験時における加熱時間に対する電池温度の挙動を示すグラフである。
【
図2B】二次電池の加熱試験時における加熱温度に対する発熱速度(dT/dt)の挙動を示すグラフである。
【
図3】LiPF
6およびLi
2CO
3の粉末混合物とLiPF
6およびLiFの粉末混合物の加熱温度に対する発熱量の挙動を示すグラフである。
【
図4】正極およぶ負極の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照して本発明の一実施形態に係る二次電池用の電極について具体的に説明する。図面における各種要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比等は実物とは異なり得る。
【0013】
本発明の一実施形態に係る二次電池用の電極について具体的に説明する前に、二次電池の基本的構成について説明しておく。なお、本明細書でいう「二次電池」という用語は充電・放電の繰り返しが可能な電池のことを指す。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」なども包含し得る。本明細書でいう「平面視」とは、二次電池を構成する電極材の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側からみたときの状態のことである。又、本明細書でいう「断面視」とは、二次電池を構成する電極材の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向からみたときの状態のことである。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0014】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0015】
[二次電池の基本的構成]
二次電池は、外装体の内部に電極組立体と電解質とが収容および封入された構造を有して成る。電極組立体は、正極、負極、および正極と負極との間に配置されたセパレータを含み得る。電極組立体は、積層型電極組立体であってもよく巻回型(ジェリーロール型)電極組立体であってもよい。積層型電極組立体は、正極、負極およびセパレータを含む電極構成層が複数積層されたものである。巻回型電極組立体は、正極、負極およびセパレータを含む電極構成層が巻き回しされたものである。又、例えば、電極組立体は、正極、セパレータ、負極を長いフィルム上に積層してから折りたたんだいわゆるスタックアンドフォールディング構造を有していてもよい。
【0016】
正極10Aは、少なくとも正極集電体11Aおよび正極材層12Aから構成されており(
図4参照)、正極集電体11Aの少なくとも片面に正極材層12Aが設けられている。当該正極集電体11Aのうち正極材層12Aが設けられていない箇所、すなわち正極集電体11Aの端部には正極側引出しタブが位置付けられている。正極材層12Aには電極活物質として正極活物質が含まれている。負極10Bは少なくとも負極集電体11Bおよび負極材層12Bから構成されており(
図4参照)、負極集電体11Bの少なくとも片面に負極材層12Bが設けられている。当該負極集電体11Bのうち負極材層12Bが設けられていない箇所、すなわち負極集電体11Bの端部には負極側引出しタブが位置付けられている。負極材層12Bには電極活物質として負極活物質が含まれている。
【0017】
正極材層12Aに含まれる正極活物質および負極材層12Bに含まれる負極活物質は、二次電池において電子の受け渡しに直接関与する物質であり、充放電、すなわち電池反応を担う正負極の主物質である。より具体的には、「正極材層12Aに含まれる正極活物質」および「負極材層12Bに含まれる負極活物質」に起因して電解質にイオンがもたらされ、かかるイオンが正極10Aと負極10Bとの間で移動して電子の受け渡しが行われて充放電がなされる。正極材層12Aおよび負極材層12Bは特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、電解質を介してリチウムイオンが正極10Aと負極10Bとの間で移動して電池の充放電が行われる二次電池が好ましい。充放電にリチウムイオンが関与する場合、二次電池は、いわゆる“リチウムイオン電池”に相当する。
【0018】
正極材層12Aの正極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士のより十分な接触と形状保持のためにバインダーが正極材層12Aに含まれていることが好ましい。更には、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が正極材層12Aに含まれていてよい。同様に、負極材層12Bの負極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士のより十分な接触と形状保持のためにバインダーが含まれることが好ましく、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が負極材層12Bに含まれていてよい。このように、複数の成分が含有されて成る形態ゆえ、正極材層12Aおよび負極材層12Bはそれぞれ“正極合材層”および“負極合材層”などと称すこともできる。
【0019】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、正極活物質は例えばリチウム含有複合酸化物であることが好ましい。より具体的には、正極活物質は、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。つまり、二次電池の正極材層12Aにおいては、そのようなリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として好ましくは含まれている。例えば、正極活物質はコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、または、それらの遷移金属の一部を別の金属で置き換えたものであってよい。このような正極活物質は、単独種として含まれてよいものの、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。より好適な態様では正極材層12Aに含まれる正極活物質がコバルト酸リチウムとなっている。
【0020】
正極材層12Aに含まれる得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロチレン共重合体およびポリテトラフルオロチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。正極材層12Aに含まれ得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。例えば、正極材層12Aのバインダーはポリフッ化ビニリデンであってよい。あくまでも例示にすぎないが、正極材層12Aの導電助剤はカーボンブラックである。さらに、正極材層12Aのバインダーおよび導電助剤が、ポリフッ化ビニリデンとカーボンブラックとの組合せとなっていてよい。
【0021】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、負極活物質は例えば各種の炭素材料、酸化物、または、リチウム合金などであることが好ましい。
【0022】
負極活物質の各種の炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン、ダイヤモンド状炭素などを挙げることができる。特に、黒鉛は電子伝導性が高く、負極集電体11Bとの接着性が優れる点などで好ましい。負極活物質の酸化物としては、酸化シリコン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化リチウムなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。負極活物質のリチウム合金は、リチウムと合金形成され得る金属であればよく、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどの金属とリチウムとの2元、3元またはそれ以上の合金であってよい。このような酸化物は、その構造形態としてアモルファスとなっていることが好ましい。結晶粒界または欠陥といった不均一性に起因する劣化が引き起こされにくくなるからである。あくまでも例示にすぎないが、負極材層12Bの負極活物質が人造黒鉛となっていてよい。
【0023】
負極材層12Bに含まれ得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。例えば負極材層12Bに含まれるバインダーはスチレンブタジエンゴムとなっていてよい。負極材層12Bに含まれる得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。なお、負極材層12Bには、電池製造時に使用された増粘剤成分(例えばカルボキシルメチルセルロース)に起因する成分が含まれていてもよい。
【0024】
あくまでも例示にすぎないが、負極材層12Bにおける負極活物質およびバインダーが人造黒鉛とスチレンブタジエンゴムとの組合せとなっていてよい。
【0025】
正極10Aおよび負極10Bに用いられる正極集電体11Aおよび負極集電体11Bは電池反応に起因して活物質で発生した電子を集めたり供給したりするのに資する部材である。このような集電体は、シート状の金属部材であってよく、多孔または穿孔の形態を有していてよい。例えば、集電体は金属箔、パンチングメタル、網またはエキスパンドメタル等であってよい。正極10Aに用いられる正極集電体11Aは、アルミニウム、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えばアルミニウム箔であってよい。一方、負極10Bに用いられる負極集電体11Bは、銅、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えば銅箔であってよい。
【0026】
セパレータ50は、正負極の接触による短絡防止および電解質保持などの観点から設けられる部材である。換言すれば、セパレータ50は、正極10Aと負極10Bとの間の電子的接触を防止しつつイオンを通過させる部材であるといえる。好ましくは、セパレータ50は多孔性または微多孔性の絶縁性部材であり、その小さい厚みに起因して膜形態を有している。あくまでも例示にすぎないが、ポリオレフィン製の微多孔膜がセパレータとして用いられてよい。この点、セパレータ50として用いられる微多孔膜は、例えば、ポリオレフィンとしてポリエチレン(PE)のみ又はポリプロピレン(PP)のみを含んだものであってよい。更にいえば、セパレータ50は、“PE製の微多孔膜”と“PP製の微多孔膜”とから構成される積層体であってもよい。セパレータ50の表面は無機粒子コート層および/または接着層等により覆われていてもよい。セパレータの表面は接着性を有していてもよい。
【0027】
なお、セパレータ50は、その名称によって特に拘泥されるべきでなく、同様の機能を有する固体電解質、ゲル状電解質、絶縁性の無機粒子などであってもよい。なお、電極の取扱いの更なる向上の観点から、セパレータ50と電極(正極10A/負極10B)は接着されていることが好ましい。セパレータ50と電極との接着は、セパレータ50として接着性セパレータを用いること、電極材層(正極材層12A/負極材層12B)の上に接着性バインダーを塗布および/または熱圧着すること等によって為され得る。セパレータ50または電極材層に接着性を供する接着性バインダーの材料としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン重合体、アクリル系樹脂等が挙げられる。接着性バインダー塗布等による接着層の厚みは0.5μm以上5μm以下であってよい。
【0028】
正極10Aおよび負極10Bがリチウムイオンを吸蔵放出可能な層を有する場合、電解質は有機電解質および/または有機溶媒などの“非水系”の電解質であることが好ましい(すなわち、電解質が非水電解質となっていることが好ましい)。電解質では電極(正極10A・負極10B)から放出された金属イオンが存在することになり、それゆえ、電解質は電池反応における金属イオンの移動を助力することになる。
【0029】
非水電解質は、溶媒と溶質とを含む電解質である。具体的な非水電解質の溶媒としては、少なくともカーボネートを含んで成るものが好ましい。かかるカーボネートは、環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類であってもよい。特に制限されるわけではないが、環状カーボネート類としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)から成る群から選択される少なくも1種を挙げることができる。あくまでも例示にすぎないが、非水電解質として環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組合せが用いられ、例えばエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物が用いられてよい。また、具体的な非水電解質の溶質としては、好ましくは例えばLiPF6、LiBF4等のLi塩が用いられる。また、具体的な非水電解質の溶質としては、好ましくは例えばLiPF6および/またはLiBF4等のLi塩が用いられる。
【0030】
正極用集電リードおよび負極用集電リードとしては、二次電池の分野で使用されているあらゆる集電リードが使用可能である。そのような集電リードは、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、例えばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。正極用集電リードはアルミニウムから構成されることが好ましく、負極用集電リードはニッケルから構成されることが好ましい。正極用集電リードおよび負極用集電リードの形態は特に限定されず、例えば、線又はプレート状であってよい。
【0031】
外部端子としては、二次電池の分野で使用されているあらゆる外部端子が使用可能である。そのような外部端子は、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、通常はアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。外部端子は、基板と電気的かつ直接的に接続されてもよいし、または他のデバイスを介して基板と電気的かつ間接的に接続されてもよい。なお、これに限定されず、複数の正極の各々と接続される正極用集電リードが正極用外部端子の機能を備えていてよく、また、複数の負極の各々と接続される負極用集電リードは負極用外部端子の機能を備えていてよい。
【0032】
外装体は、導電性ハードケース又はフレキシブルケース(パウチ等)の形態を採ってよい。外装体の形態がフレキシブルケース(パウチ等)である場合、複数の正極の各々は、正極用集電リードを介して、正極用外部端子に連結されている。正極用外部端子はシール部により外装体に固定され、当該シール部は電解質の液漏れを防止する。同様に、複数の負極の各々は、負極用集電リードを介して負極用外部端子に連結されている。負極用外部端子はシール部により外装体に固定され、シール部が電解質の液漏れを防止する。なお、これに限定されず、複数の正極の各々と接続される正極用集電リードは正極用外部端子の機能を備えていてよく、また、複数の負極の各々と接続される負極用集電リードは負極用外部端子の機能を備えていてよい。外装体の形態が導電性ハードケースの場合、複数の正極の各々は、正極用集電リードを介して、正極用外部端子に連結されている。正極用外部端子はシール部により外装体に固定され、当該シール部は電解質の液漏れを防止する。
【0033】
導電性ハードケースは、本体部および蓋部からなっている。本体部は当該外装体の底面を構成する底部および側面部から成る。本体部と蓋部とは、電極組立体、電解質、集電リードおよび外部端子の収容後に密封される。密封方法としては、特に限定されるものではなく、例えばレーザー照射法等が挙げられる。本体部および蓋部を構成する材料としては、二次電池の分野でハードケース型外装体を構成し得るあらゆる材料が使用可能である。そのような材料は電子の移動が達成され得る材料であればよく、例えばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料が挙げられる。本体部および蓋部の寸法は、主として電極組立体の寸法に応じて決定され、例えば電極組立体を収容したとき、外装体内での電極組立体の移動(ズレ)が防止される程度の寸法を有することが好ましい。電極組立体の移動を防止することにより、電極組立体の破壊が防止され、二次電池の安全性が向上する。
【0034】
フレキシブルケースは、軟質シートから構成される。軟質シートは、シール部の折り曲げを達成できる程度の軟質性を有していればよく、好ましくは可塑性シートである。可塑性シートは、外力を付与した後、除去したとき、外力による変形が維持される特性を有するシートのことであり、例えば、いわゆるラミネートフィルムが使用できる。ラミネートフィルムからなるフレキシブルパウチは例えば、2枚のラミネートフィルムを重ね合わせ、その周縁部をヒートシールすることにより製造できる。ラミネートフィルムとしては、金属箔とポリマーフィルムを積層したフィルムが一般的であり、具体的には、外層ポリマーフィルム/金属箔/内層ポリマーフィルムから成る3層構成のものが例示される。外層ポリマーフィルムは水分等の透過および接触等による金属箔の損傷を防止するためのものであり、ポリアミドおよびポリエステル等のポリマーが好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防止するためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内層ポリマーフィルムは、内部に収納する電解質から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィンまたは酸変性ポリオレフィンが好適に使用できる。
【0035】
[本発明の特徴部分]
以下、本発明の特徴部分について説明する。本願発明者は、二次電池において、電池の熱安定性を保持可能とするための解決策について鋭意検討し、その結果として、以下の特徴を有する本発明を案出するに至った。
【0036】
具体的には、本発明の一実施形態にかかる二次電池は、低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルの実施がされたものである。
【0037】
本明細書でいう「低温サイクル」とは、低温(-20℃以上10℃以下)で充放電を100サイクル行うものを指す。本明細書でいう「室温サイクル」とは、室温(約25℃)で充放電を100サイクル行うものを指す。本明細書でいう「高温保存」とは、高温(約50℃以上90℃以下)で所定期間、電池を保存することを指す。
【0038】
その上で、
図1Cと比べて、
図1Aおよび
図1Bに示すように、本発明では、その構成要素の負極の表面にて、低温サイクルの実施後と比べて、X線光電子分光法に基づく、高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が酸素原子の濃度よりも高いという点に技術的特徴がある。
【0039】
これに対して、
図1Cに示すように、負極の表面にて、低温サイクルの実施後時点における、X線光電子分光法に基づくフッ素原子濃度は酸素原子濃度よりも低くなっている。
【0040】
本発明では、電解質として、カーボネート類(溶媒)およびLiPF6(溶質)を含むものが用いられ得る。この場合において、低温サイクル時においては、充電時に負極材層へと受け入れられなかったリチウムイオンとカーボネート基とが結合して、Li2CO3が形成され得る。
【0041】
本発明では、上記の負極の表面に存在し得る酸素原子は、少なくとも、低温サイクル後に生じる上記のLi2CO3由来であり得る。また、上記の負極の表面に存在し得るフッ素原子は、少なくとも、上記のLiPF6由来であり得る。
【0042】
ここで、フッ素原子を含有する化合物は概して熱安定性を有するところ、本発明では、負極の表面にて、低温サイクルに続く高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子濃度が酸素原子濃度よりも高くなる。
【0043】
このような高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子濃度の増大については、電解質における溶質のLiPF6が低温と比べて相対的に室温または高温で分解し得るという性質を利用している。
【0044】
以上により、本発明では、高温保存または室温サイクルの実施後に、Li2CO3由来の酸素原子よりも相対的に高濃度であり、熱安定性を有するフッ素含有物が負極の表面に存在することとなる。即ち、フッ素が酸素よりも高濃度であるため、負極の表面にて、フッ素含有物由来の耐熱被膜が存在することが可能となり得る。特に限定されるものではないが、例えば、フッ素含有物は、LiF、POF3、およびCH3Fからなる群から選択される少なくとも1種を含み得る。
【0045】
また、本発明では、負極の少なくとも最外表面において、
図1Cに示す低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度よりも、
図1Aに示す高温保存または
図1Bに示す室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が高い点にも技術的特徴がある。
【0046】
具体的には、負極の最外表面において、低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度に対する高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度の比率が1.5以上であり得る。
【0047】
高温保存または室温サイクルの実施後に、このような熱安定性を有する高濃度のフッ素含有物が負極の表面に多く存在し得ることで、以下の利点がある。
【0048】
具体的には、
図2Aおよび
図2Bに示すように、低温サイクル実施後(高温保存なし)と比べて、低温サイクル後に高温保存を実施した後における発熱開始時間および発熱開始温度を後ろ側にシフトさせることができる。
【0049】
更に、発熱したセル温度を充放電未の状態にまで低減させることができると共に、過負荷試験を行う場合の温度帯(約100℃以上150℃以下)での発熱速度を低減させることができる。
【0050】
以上のことからも、本発明では、低温サイクル実施後に低下し得る電池の熱安定性を、熱安定性低下前の状態またはその状態の近傍にまで戻すまたは回復させることが可能となる。その結果、一旦低温サイクルに付した二次電池の熱安定性を所定レベルに保持可能となる。即ち、低温サイクル実施後においても二次電池の熱安定性を好適に確保可能となる。
【0051】
なお、
図3に示すように、電池内でLi
2CO
3とLiPF
6が共存する状態では、約100℃~約180℃で発熱反応が生じ得ることから、本発明では、この温度帯未満の範囲でLiPF
6が分解し得る温度帯の選択を要する点に留意すべきである。
【実施例0052】
以下、実施例1~3について説明する。
【0053】
実施例1
本実施例では、以下の構成要素を有する二次電池を用意し、その二次電池に対して低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルを実施した。
【0054】
■二次電池の構成
電解質:
溶媒:エチルメチルカーボネート(EMC)および溶質:LiPF6を含むもの
負極:カーボン主成分
正極:コバルト酸リチウム主成分
セパレータ:PE
■サイクル条件
条件1:低温サイクルの実施のみ
-5℃で充放電(1C充電/2.5C放電/2.5Vcut)を100サイクル実施
条件2:低温サイクルの実施し、その後に、高温保存の実施(80℃、12h)
低温サイクル後の電池を用いて高温保存を実施した。
条件3:低温サイクルの実施し、その後に、室温サイクルの実施
低温サイクル後に、室温で充放電(2C充電/2.5C放電/2.5Vcut)を100サイクル実施した。
【0055】
■X線光電子分光法に基づく測定
各サイクル条件で実施した後に、アルゴンガスで満たしたグローブボックス内で、セル内から負極を取り出し、ジメチルカーボネートで負極を洗浄し、その後、X線光電子分光法に基づき、負極表面の解析と、表面スパッタの実施とその後の露出面の解析とを下記条件で解析した。その結果を、
図1A~
図1Cに示す。
使用したX線等の諸条件については以下のとおりとした。
・X線源・・・・・単色化Al-Kα(1486.6eV)
・X線スポット径・・・・・100μmφ
・Ar
+スパッタ条件・・・・・1 KV、1mm×1mm、約7.7nm/min
・X線光電子分光法で用いた分析装置(アルバック・ファイ社製 走査型X線光電子分光装置 Quantera SXM)
【0056】
(測定結果)
図1Aに、低温サイクルに続き80℃保存した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示す。
図1Bに、低温サイクルに続き室温サイクルを実施した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示す。
図1Cに、低温サイクルを実施した後における、X線光電子分光法に基づく負極表面での酸素原子濃度とフッ素原子濃度の挙動を示す。
【0057】
図1Cに示す低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度よりも、
図1Aに示す高温保存、
図1Bに示す室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が高くなることが分かった。フッ素原子を含有する化合物は熱安定性を有するため、高温保存/室温サイクルの実施後に、フッ素含有物が負極の表面に存在し得ることで、負極の表面にて、フッ素含有物由来の耐熱被膜が存在することが可能となることが分かった。
【0058】
実施例2
■二次電池の加熱試験の実施
サイクル条件1および2の実施後に、二次電池をオーブンに入れて、熱電対で温度を測定した。室温から開始し、約2.5℃/分の昇温率で加熱させた。加熱時間に対する電池温度の挙動を
図2Aに示す。また、この加熱試験時における加熱温度に対する発熱速度(dT/dt)の挙動を
図2Bに示す。
【0059】
図2Aおよび
図2Bから分かるように、低温サイクル実施後(高温保存なし)と比べて、低温サイクル後に高温保存を実施した後における発熱開始時間および発熱開始温度を後ろ側にシフトさせることができると分かった。更に、発熱したセル温度を充放電未の状態にまで低減させることができると共に、過負荷試験を行う場合の温度帯(約100℃以上150℃以下)での発熱速度を低減させることができると分かった。
【0060】
従って、低温サイクル実施後に低下した電池の熱安定性を、熱安定性低下前の状態またはその状態の近傍にまで戻すことが可能となることが分かった。
【0061】
実施例3
低温サイクル実施時に電池にて発生し得るLi2CO3と、電解質の溶質としてのLiPF6とが共存する場合の発熱量の挙動を、Li2CO3が存在せず、電解質の溶質としてのLiPF6と、フッ素含有物としてのLiFとが共存する場合の発熱量の挙動と比べた。
【0062】
発熱量の挙動については、示差走査型熱量分析装置(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、以下の条件で測定した。その結果を
図3に示す。
・温度範囲:20~380℃
・昇温速度:10℃/分
・雰囲気:SUS密閉容器を用いてドライエアー環境で封止
【0063】
図3に示すように、Li
2CO
3とLiPF
6が共存する状態では、約100℃~約180℃で発熱反応が生じることが分かった。従って、
図3の結果からも、充放電時にLi
2CO
3とLiPF
6が共存する状態になる電池を用いる場合には、電池の熱安定性低下の懸念が生じることを示す裏付けとなった。
【0064】
本発明は下記態様を採り得る。
【0065】
<1>
正極、負極、および電解質を含み、
二次電池状態で低温サイクルに続き高温保存または室温サイクルの実施がされ、
前記負極の表面において、前記低温サイクルの実施後と比べて、X線光電子分光法に基づく、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が酸素原子の濃度よりも高い、二次電池。
<2>
前記負極の少なくとも最外表面において、前記低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度よりも、前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度が高い、<1>に記載の二次電池。
<3>
前記負極の最外表面において、前記低温サイクルの実施後のフッ素原子の濃度に対する前記高温保存または室温サイクルの実施後におけるフッ素原子の濃度の比率が1.5以上である、<2>に記載の二次電池。
<4>
前記負極が前記表面にフッ素含有物を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の二次電池。
<5>
前記負極がリチウムイオンを吸蔵放出可能であり、前記フッ素含有物が、LiF、POF3、およびCH3Fからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<4>に記載の二次電池。
<6>
前記フッ素含有物が耐熱性を有する、<4>又は<5>に記載の二次電池。
<7>
前記電解質がカーボネート類およびLiPF6を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の二次電池。
<8>
前記酸素原子が、少なくとも、前記低温サイクル後に生じるLi2CO3由来である、<1>~<7>のいずれかに記載の二次電池。
<9>
前記フッ素原子が、少なくともLiPF6由来である、<7>に記載の二次電池。
本発明の一実施形態に係る二次電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る二次電池、特に非水電解質二次電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医療用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船、などの分野)などに利用することができる。