IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図1
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図2
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図3
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図4
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図5
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図6
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図7
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図8
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図9
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図10
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図11
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図12
  • 特開-燃焼排ガスの臭気指数の推定方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058465
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】燃焼排ガスの臭気指数の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20250402BHJP
【FI】
G01N33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168414
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
(57)【要約】
【課題】簡易な方法でありながらも、排ガスの臭気指数を比較的高精度に推定する方法を提供する。
【解決手段】この方法は、燃焼排ガスに含まれるNOx濃度を計測して濃度計測値を得る工程(a)と、燃焼排ガスに基づく対象ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測してにおい計測値を得る工程(b)と、第一相関情報に基づいてにおい計測値を補正して第一補正値を得る工程(c)と、燃焼排ガスよりもNOx濃度が低い模擬ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測して得られた模擬におい計測値と模擬ガスの臭気指数である模擬臭気指数との関係を示す第二相関情報に基づいて、第一補正値に基づく値に対応する模擬臭気指数である推定臭気指数を導出する工程(d)と、推定臭気指数に基づいて燃焼排ガスの臭気指数の推定値を決定する工程(e)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽気された燃焼排ガスに含まれるNOx濃度を計測して、濃度計測値を得る工程(a)と、
前記燃焼排ガスに基づく対象ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測して、におい計測値を得る工程(b)と、
前記におい計測値を前記濃度計測値に基づいて補正するための第一相関情報に基づいて、前記におい計測値を補正して、第一補正値を得る工程(c)と、
前記燃焼排ガスよりもNOx濃度が低い模擬ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測して得られた模擬におい計測値と、前記模擬ガスの臭気指数である模擬臭気指数との関係を示す第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に基づく値に対応する前記模擬臭気指数である、推定臭気指数を導出する工程(d)と、
前記推定臭気指数に基づいて、前記燃焼排ガスの臭気指数の推定値を決定する工程(e)とを有することを特徴とする、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【請求項2】
前記対象ガスは、前記燃焼排ガスそのものであり、
前記工程(d)は、前記第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に対応する前記模擬臭気指数によって、前記推定臭気指数を導出する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【請求項3】
前記工程(b)よりも前に、前記燃焼排ガスを所定の希釈倍率で希釈することで前記対象ガスを得る工程(f)と、
前記工程(d)よりも前に、前記第一補正値を前記希釈倍率に基づいて補正するための第三相関情報に基づいて、前記第一補正値を補正して第二補正値を得る工程(g)とを有し、
前記工程(d)は、前記第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に基づく値である前記第二補正値に対応する前記模擬臭気指数によって、前記推定臭気指数を導出する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【請求項4】
前記工程(f)は、無臭空気を用いて、2倍~100倍の範囲内の前記希釈倍率で前記燃焼排ガスを希釈する工程であることを特徴とする、請求項3に記載の、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【請求項5】
前記工程(a)は、前記燃焼排ガスに含まれるNO濃度を計測して前記濃度計測値を得る工程であり、
前記模擬ガスは、前記燃焼排ガスよりもNO濃度が低いガスであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【請求項6】
前記燃焼排ガスは、セメントキルンから排気された排ガスであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスの臭気指数を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、持続可能な社会の実現に向けて、廃棄物をセメント原料の一部に利用する取り組みが行われている。具体的な例としては、石灰石や粘土を含み、セメント工場において原料ミルによって粉砕等が施されて得られる原料(以下、「セメント主原料」と呼ぶ。)に、廃棄物からなる原料(以下、「リサイクル原料」と呼ぶ。)を混合させて、セメントキルン内に投入し、焼成されている。
【0003】
しかしながら、廃棄物の多様化や、廃棄物の燃焼によって生じる副生成物の多様化に起因して、セメントキルン排ガスに含まれる臭気が高まることが懸念される。このため、リサイクル原料の利用を促進する観点からは、排ガスの臭気を管理・監視することが重要である。
【0004】
ガスの臭気の強さを指標化する方法として、「臭気指数」を利用した表記方法が知られている。この「臭気指数」は、人間の嗅覚に基づいて、においの強さを数値化した値である。臭気指数の測定方法の代表例として、「臭気指数算定の方法」として平成7年環境庁告示第63号別表に記載されている、「三点比較式臭袋法」が知られている。この方法は、要約すると、以下の通りである。測定対象となるガスを無臭空気で希釈していきながら人間の嗅覚で感じられるかどうかを確認し、人間の嗅覚で感じなくなり始めたときの希釈倍数を臭気濃度Nとして確定する。確定した臭気濃度Nを用いて、臭気指数IをI=10×Log N で算出して決定する。
【0005】
しかし、この方法で臭気指数を計測するには、極めて労力と時間が必要となるため、セメントキルン排ガスに含まれる臭気を、短時間で検知することが難しい。
【0006】
これに対し、ガス中の臭気を簡易的に計測する方法として、半導体センサを含む「においセンサ」を利用する方法が知られている。においセンサは、半導体表面における臭気分子の吸着によって半導体の抵抗値が変化することを利用して、臭気を計測する技術である。
【0007】
しかしながら、セメントキルン排ガス等の燃焼排ガス中には窒素酸化物(NOx)や窒素酸化物(SOx)等の酸化性ガスが含まれる。においセンサは、半導体センサを形成する酸化物半導体が還元性ガスを吸着することにより反応する現象を利用したものであるため、臭気を測定する対象ガスに酸化性ガスが含まれている場合には、検出結果に負の誤差が生じる。
【0008】
上記の課題に鑑み、下記特許文献1には、セメントキルン排ガスの全炭化水素量を連続的に測定し、その量から排ガスの臭気指数を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4513872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1の方法によれば、排ガスを連続的にモニタリングする必要があるため、臭気指数を推定する方法としては煩雑である。
【0011】
本発明は、簡易な方法でありながらも、排ガスの臭気指数を比較的高精度に推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る燃焼排ガスの臭気指数の推定方法は、
抽気された燃焼排ガスに含まれるNOx濃度を計測して、濃度計測値を得る工程(a)と、
前記燃焼排ガスに基づく対象ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測して、におい計測値を得る工程(b)と、
前記におい計測値を前記濃度計測値に基づいて補正するための第一相関情報に基づいて、前記におい計測値を補正して、第一補正値を得る工程(c)と、
前記燃焼排ガスよりもNOx濃度が低い模擬ガスの臭気をにおいセンサを用いて計測して得られた模擬におい計測値と、前記模擬ガスの臭気指数である模擬臭気指数との関係を示す第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に基づく値に対応する前記模擬臭気指数である、推定臭気指数を導出する工程(d)と、
前記推定臭気指数に基づいて、前記燃焼排ガスの臭気指数の推定値を決定する工程(e)とを有することを特徴とする。
【0013】
「発明を実施するための形態」の項で後述されるように、測定対象ガス中のNOx濃度が低濃度(具体的には数ppm程度)である場合には、当該測定対象ガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値と、測定対象ガスの臭気指数との間には高い相関関係が示されることが確認された。この相関関係が、第二相関情報に対応する。
【0014】
また、「発明を実施するための形態」の項で後述されるように、においの原因となる物質が同等濃度だけ含まれている場合において、NOx濃度が高濃度(具体的には100ppm以上)である測定対象ガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値と、NOx濃度が低濃度である測定対象ガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値とを含む演算式で導出された値と、両測定対象ガスのNOx濃度を含む演算式で導出された値との間には、高い相関性が示されることが確認された。この相関関係が、第一相関情報に対応する。
【0015】
燃焼排ガスに含まれるNOx濃度が比較的高濃度である場合、工程(c)において、第一相関情報に基づき、燃焼排ガスに含まれるNOx濃度の値(濃度計測値)を利用して、におい計測値が補正される。この補正によって得られた値(第一補正値)は、におい計測値に反映されていた、燃焼排ガスに含まれるNOxに起因した誤差相当分を、実質的に解消した値に対応する。
【0016】
この補正処理によって得られた値(第一補正値)は、低NOx濃度のガスに対するにおいセンサ計測値に対応する。よって、工程(d)によって、第二相関情報に基づいて、このにおいセンサ計測値に対応する臭気指数を導くことができる。
【0017】
対象となる燃焼排ガスの臭気指数の推定値としては、工程(d)で得られた推定臭気指数そのものの値を採用することもできるし、推定臭気指数に対して何らかの演算を施した値を採用することもできる。ただし、後者の場合であっても、採用された推定値は、実質的に推定臭気指数に近い値、より詳細には、推定臭気指数に対して±2程度の乖離範囲内の値であることが好ましい。
【0018】
上記方法によれば、第一相関情報及び第二相関情報を予め登録しておけば、燃焼排ガスのNOx濃度を計測する工程と、燃焼排ガスに基づく対象ガスの臭気をにおいセンサで計測する工程とを実行すれば、他は、演算処理によって燃焼排ガスの臭気指数の推定値を導出できる。よって、従来の方法よりも簡易な方法で臭気指数の推定が可能である。
【0019】
そして、燃焼排ガス中にNOxが含まれている場合であっても、このNOxの濃度に基づいてにおいセンサの計測値が補正されている。よって、においセンサを用いながらも、比較的精度よく、臭気指数の推定が可能である。
【0020】
前記燃焼排ガスとしては、セメントキルンから排気された排ガスを利用することができる。
【0021】
「発明を実施するための形態」の項で後述されるように、測定対象ガスに、酸化性ガスとしてのNOx、SOxや、還元性ガスとしてのCOが含まれている場合において、測定対象ガスをにおいセンサで計測したときの計測値と、NOx、SOx、及びCOの濃度との関係を検証したところ、NOxに比べると、SOx及びCOの存在によるにおいセンサの計測値への誤差の程度は軽微であることが確認された。よって、燃焼排ガス中に、NOxのみならず、SOx及びCOが含まれている場合であっても、NOxの濃度に基づいてにおいセンサの計測値を補正することで、においセンサを用いながらも、比較的精度よく、臭気指数の推定が可能である。
【0022】
更に、測定対象ガスをにおいセンサで計測したときの計測値と、NOxとしてのNO及びNO2の濃度との関係を検証したところ、NO2と比較してNOの存在によるにおいセンサの計測値への誤差が支配的であることが確認された。よって、前記工程(a)は、前記燃焼排ガスに含まれるNO濃度を計測して前記濃度計測値を得る工程であり、前記模擬ガスは、前記燃焼排ガスよりもNO濃度が低いガスであるものとしても構わない。
【0023】
前記対象ガスは、前記燃焼排ガスそのものであり、
前記工程(d)は、前記第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に対応する前記模擬臭気指数によって、前記推定臭気指数を導出する工程であるものとしても構わない。
【0024】
また、上記推定方法は、前記工程(b)よりも前に、前記燃焼排ガスを所定の希釈倍率で希釈することで前記対象ガスを得る工程(f)と、
前記工程(d)よりも前に、前記第一補正値を前記希釈倍率に基づいて補正するための第三相関情報に基づいて、前記第一補正値を補正して第二補正値を得る工程(g)とを有し、
前記工程(d)は、前記第二相関情報に基づいて、前記第一補正値に基づく値である前記第二補正値に対応する前記模擬臭気指数によって、前記推定臭気指数を導出する工程であるものとしても構わない。
【0025】
「発明を実施するための形態」の項で後述されるように、NOx濃度が高濃度である測定対象ガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値を第一相関情報に基づいて補正した値(測定対象ガスに対応する第一補正値)と、測定対象ガスを希釈してなる希釈ガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値を第一相関情報に基づいて補正した値(希釈ガスに対応する第一補正値)との間には、希釈倍率に応じた高い相関性が示されることが確認された。この相関関係が、第三相関情報に対応する。
【0026】
上記方法によれば、工程(b)では、燃焼排ガスを希釈した後に得られる対象ガスの臭気が、においセンサによって計測される。この場合、対象ガスに含まれるNOx濃度は極めて低くなるため、においセンサにNOxが接触することによる、においセンサへの被毒が抑制され、においセンサの耐久性が向上する。詳細には、工程(f)は、無臭空気を用いて、2倍~100倍の範囲内の前記希釈倍率で前記燃焼排ガスを希釈する工程とすることができる。
【0027】
上述したように、工程(c)では、第一相関情報に基づいて、燃焼排ガスに含まれるNOx濃度の値(濃度計測値)に基づいて、におい計測値が補正され、燃焼排ガスに含まれるNOxに起因した誤差相当分を実質的に解消した、第一補正値が得られる。そして、工程(g)において、第三相関情報に基づいて、燃焼排ガスから対象ガスを得るときに希釈された希釈倍率によって、第一補正値が補正される。この補正によって得られた値(第二補正値)は、対象ガス(希釈ガス)の臭気がにおいセンサによって計測され、且つ、NOxに起因した誤差相当分が実質的に解消された第一補正値に基づいて、対象ガスの希釈前の状態である燃焼排ガスの臭気がにおいセンサによって計測され、且つ、NOxに起因した誤差相当分が実質的に解消された値に対応する。
【0028】
つまり、この補正処理によって得られた値(第二補正値)は、燃焼排ガスに含まれるNOxに起因した誤差相当分を実質的に解消したにおいセンサ計測値であり、低NOx濃度のガスに対するにおいセンサ計測値に対応する。よって、工程(d)によって、第二相関情報に基づいて、この第二補正値に対応する臭気指数を導くことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の方法によれば、燃焼排ガスに酸化性ガス等の、においセンサの計測値に対する誤差を発生する因子となるガス成分が含まれている場合であっても、においセンサを利用した簡易な方法でありながら、燃焼排ガスの臭気指数を比較的高精度に推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第一実施形態における、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法を実行する手順例を示すフローチャートである。
図2】第二実施形態における、燃焼排ガスの臭気指数の推定方法を実行する手順例を示すフローチャートである。
図3】混合ガスA1~A5において、計測されたセンサ計測値とアセトアルデヒド濃度との相関関係を示すグラフである。
図4】混合ガスA4、A6~A9において、計測されたセンサ計測値とNO濃度との相関関係を示すグラフである。
図5】混合ガスA4、A10~A13において、計測されたセンサ計測値とNO2濃度との相関関係を示すグラフである。
図6】混合ガスA4、A14~A17において、計測されたセンサ計測値とSO2濃度との相関関係を示すグラフである。
図7】混合ガスA4、A18~A21において、計測されたセンサ計測値とCO濃度との相関関係を示すグラフである。
図8】混合ガスA4、A22~A25において、計測されたセンサ計測値とNO濃度との相関関係を示すグラフであり、図4に示すグラフが併記されている。
図9】においセンサ計測値(相対比)と臭気指数(相対比)との関係を示すグラフである。
図10】高NOサンプルガスのNO濃度(相対比)と低NOサンプルガスのNO濃度(相対比)の差と、それぞれのサンプルガスに対するにおいセンサ計測値(相対比)の差との関係を示すグラフである。
図11】高NOサンプルガスのにおいセンサ計測値(相対比)の補正値と、臭気指数(相対比)との関係を示すグラフである。
図12】高NOサンプルガスのにおいセンサ計測値(相対比)の補正値と臭気指数(相対比)との関係を、図9のグラフに併記したグラフである。
図13】希釈前のサンプルガスのにおいセンサ計測値(相対比)の補正値に対する希釈後のサンプルガスのにおいセンサ計測値(相対比)の補正値の相対比と、希釈倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る燃焼排ガスの臭気指数の推定方法の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。本発明において、臭気指数の推定対象となる燃焼排ガスとしては、セメントキルンからの排ガスが例示される。ただし、本発明の推定方法は、セメントキルンからの排ガスに限られず、酸化性ガスを含む燃焼排ガスの臭気指数の推定に利用可能である。
【0032】
[第一実施形態]
本発明に係る燃焼排ガスの臭気指数の推定方法の第一実施形態について説明する。図1は、本実施形態における燃焼排ガスの臭気指数の推定方法を実行する手順例を示すフローチャートである。以下の説明では、図1に示すステップ番号が適宜参照される。
【0033】
(ステップ#1)
まず、臭気指数の推定対象となる燃焼排ガスG1が抽気される。推定対象がセメントキルン排ガスである場合には、例えばプレヒータより排気され、ボイラーや排ガス処理系統を経て煙突に向かう経路の途中から、抽気管を介して分岐抽出した燃焼排ガスG1を採用することができる。また、別の例として、煙突の途中から分岐抽出した燃焼排ガスG1を採用することができる。
【0034】
(ステップ#2)
抽気された燃焼排ガスG1に含まれるNOx濃度が計測される。燃焼排ガスG1に含まれるNOx濃度は、例えば公知の排ガス分析計を用いて計測することができる。
【0035】
このステップ#2が、工程(a)に対応する。以下では、ステップ#2で計測された、燃焼排ガスG1に含まれるNOx濃度の値を、「濃度計測値D1」と呼ぶことがある。
【0036】
(ステップ#3)
抽気された燃焼排ガスG1の臭気が、においセンサを用いて計測される。においセンサは、半導体センサを含み、半導体表面における臭気分子の吸着によって半導体の抵抗値が変化することを利用して、臭気を計測するセンサ装置である。
【0037】
ステップ#3が、工程(b)に対応する。以下では、ステップ#3で計測された、燃焼排ガスG1の臭気に対応する計測値を、「におい計測値S1」と呼ぶことがある。
【0038】
本実施形態では、においセンサによってにおい計測値S1が計測される対象ガスが、燃焼排ガスG1そのものである。
【0039】
(ステップ#4)
ステップ#2で得られた濃度計測値D1に基づいて、ステップ#3で得られたにおい計測値S1が補正される。以下では、この補正処理によって得られた値を、「第一補正値V1」と呼ぶことがある。
【0040】
実施例を参照して後述されるように、臭気原因となる化合物αと、NOxに属する化合物と、SOxに属する化合物と、COとを含むサンプルガスGvを、化合物αの濃度を固定した状態で、NOx、SOx、及びCOの濃度を異ならせて複数準備し、各サンプルガスGvの臭気をにおいセンサで計測したところ、におい計測値Svと、サンプルガスGvに含まれるNOx濃度Dvとの間には、高い相関性が存在することが確認された。
【0041】
サンプルガスGvの臭気は、本来、臭気原因となる化合物αの濃度の影響を受ける。しかしながら、実施例を参照して後述されるように、化合物αの濃度を固定した状態でNOxの濃度を異ならせた場合に、におい計測値Svが変化することが確認された。この理由としては、化合物αがにおいセンサに吸着する前にNOxにより酸化し、センサに対して非反応性の物質に変化したことで、におい計測値Svに負の誤差を生じたことによるものと考えられる。
【0042】
そこで、予め、におい計測値Svと、サンプルガスGvに含まれるNOx濃度との間に存在する相関関係を計測しておき、この相関関係に関する情報(第一相関情報)をフラッシュメモリやクラウドサーバ等の記憶領域に記録しておく。第一相関情報は、例えば、におい計測値SvとNOx濃度Dvとを含み、第一補正値V1を導出することのできる関係式F1に関する情報である。
【0043】
具体的には、演算処理装置に対して、ステップ#2で得られた濃度計測値D1と、ステップ#3で得られたにおい計測値S1の情報を入力し、記憶領域から読み出した第一相関情報に記載された関係式F1を適用することで、第一補正値V1が導出される。
【0044】
このステップ#4で導出された第一補正値V1は、ステップ#3で得られたにおい計測値S1に反映されていた、燃焼排ガスG1に含まれるNOxに起因した誤差相当分を解消した値に対応する。
【0045】
このステップ#4が、工程(c)に対応する。
【0046】
(ステップ#5)
ステップ#4で得られた第一補正値V1に基づいて、推定臭気指数E1が導出される。
【0047】
実施例を参照して後述されるように、含有NOx濃度が低いサンプルガスGvにおいては、においセンサの計測値Svと、一般的な臭気指数の計測方法として用いられる三点比較式臭袋法で計測された臭気指数Ivとの間に、高い相関性が存在することが確認された。ここでいう、「含有NOx濃度が低い」とは、サンプルガスGv中の含有NOx濃度が数ppm以下である場合を指す。なお、以下では、説明の便宜上、含有NOx濃度が低いサンプルガスGvを、「模擬ガスGv」と表記することがある。
【0048】
そこで、予め、含有NOx濃度が低い模擬ガスGvについて、においセンサで計測したにおい計測値Sv(模擬におい計測値)と、三点比較式臭袋法で計測された臭気指数Iv(模擬臭気指数)との間に存在する相関関係を計測しておき、この相関関係に関する情報(第二相関情報)をフラッシュメモリやクラウドサーバ等の記憶領域に記録しておく。第二相関情報は、例えば、におい計測値Svを含み、臭気指数Ivを導出することのできる関係式F2に関する情報である。
【0049】
上述したように、ステップ#4で得られた第一補正値V1は、ステップ#3で得られたにおい計測値S1に反映されていた、燃焼排ガスG1に含まれるNOxに起因した誤差相当分を実質的に解消した値に対応する。
【0050】
つまり、第一補正値V1は、燃焼排ガスG1の臭気をにおいセンサで計測したにおい計測値S1から、燃焼排ガスG1に含まれるNOxに起因した誤差相当分を実質的に解消した値、すなわち、燃焼排ガスG1の臭気が精度よく反映された、におい計測値に対応する。そして、この第一補正値V1は、含有NOx濃度を低く模擬した燃焼排ガスG1の臭気を、においセンサで計測したときに得られる、におい計測値でもある。よって、第二相関情報に基づいて導出される、第一補正値V1に対応する臭気指数は、燃焼排ガスG1の臭気が反映された臭気指数であるとみなせる。
【0051】
具体的には、演算処理装置に対して、ステップ#4で得られた第一補正値V1の情報を入力し、記憶領域から読み出した第二相関情報に記載された関係式F2を適用することで、におい計測値が第一補正値V1である場合における、臭気指数が導出される。このようにして、導出された臭気指数が、推定臭気指数E1である。
【0052】
このステップ#5が、工程(d)に対応する。
【0053】
(ステップ#6)
ステップ#5で得られた推定臭気指数E1に基づいて、燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1が決定される。なお、燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1としては、ステップ#5で得られた推定臭気指数E1の値をそのまま適用することもできるし、推定臭気指数E1に対して所定の演算が施されることで得られた値を適用することもできる。後者の場合には、記憶領域において予め推定臭気指数E1から推定値X1を求めるための演算式が記録されているものとして構わない。
【0054】
上述したように、ステップ#5で得られた推定臭気指数E1は、燃焼排ガスG1の臭気が反映された臭気指数とみなせるため、演算処理装置によって、推定臭気指数E1の値をそのまま燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1として出力することが可能である。しかし、補正処理による誤差の解消や、その他の目的で、推定臭気指数E1に対して何らかの演算を施したい事情が発生する場合もあり得る。そこで、推定臭気指数E1と近似する範囲内の値であることを前提に、推定臭気指数E1に対して演算を行って得られた値を、燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1として、演算処理装置が出力することが許容される。
【0055】
本実施形態の方法によれば、記憶領域に予め第一相関情報及び第二相関情報を登録しておくことにより、燃焼排ガスG1のNOx濃度を計測する工程(ステップ#2)と、燃焼排ガスG1の臭気をにおいセンサで計測する工程(ステップ#3)とを実行すれば、他は、演算処理によって燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1を導出することができる。これにより、従来の方法よりも簡易な方法で臭気指数の推定が可能である。
【0056】
[第二実施形態]
本発明に係る燃焼排ガスの臭気指数の推定方法の第二実施形態について、第一実施形態と異なる箇所を中心に説明する。図2は、本実施形態における燃焼排ガスの臭気指数の推定方法を実行する手順例を示すフローチャートである。以下の説明では、図2に示すステップ番号が適宜参照される。なお、図2において、図1と同一の工程については、図1と同じステップ番号が付されている。
【0057】
本実施形態における推定方法は、第一実施形態と比較して、ステップ#11及びステップ#12を追加的に備えている点が異なる。また、本実施形態では、ステップ#5に代えてステップ#5aが実行される。
【0058】
(ステップ#1,ステップ#2)
第一実施形態と同様に、臭気指数の推定対象となる燃焼排ガスG1が抽気され、抽気された燃焼排ガスG1に含まれるNOx濃度が計測される。
【0059】
(ステップ#11)
抽気された燃焼排ガスG1が、所定の希釈倍率d1で希釈される。この希釈により得られたガスを、以下では、「希釈排ガスG2」と呼ぶことがある。具体的な例としては、燃焼排ガスG1に対して、活性炭槽を通過して得られた無臭空気を、燃焼排ガスG1の希釈倍率がd1となるように調整された量だけ混合することで、希釈排ガスG2が得られる。
【0060】
このステップ#11が、工程(f)に対応する。
【0061】
(ステップ#3)
次に、得られた希釈排ガスG2の臭気が、においセンサを用いて計測される。第一実施形態では、においセンサを用いて臭気が計測される対象ガスが燃焼排ガスG1であったが、本実施形態では、前記対象ガスが希釈排ガスG2である点が異なる。以下では、ステップ#3で計測された、希釈排ガスG2の臭気に対応する計測値を「におい計測値S1」と呼ぶことがある。
【0062】
(ステップ#4)
第一実施形態と同様に、ステップ#2で得られた濃度計測値D1に基づいて、ステップ#3で得られたにおい計測値S1が補正され、第一補正値V1が得られる。
【0063】
(ステップ#12)
次に、ステップ#11で実行された希釈処理における希釈倍率d1の値に基づいて、ステップ#4で得られた第一補正値V1が補正される。以下では、この補正処理によって得られた値を、「第二補正値V2」と呼ぶことがある。
【0064】
実施例を参照して後述されるように、希釈する前のガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値をステップ#4の方法で補正して得られた第一補正値V1と、希釈倍率d1で希釈した後のガスの臭気をにおいセンサで計測した計測値をステップ#4の方法で補正して得られた第一補正値V1との間には、希釈倍率d1に応じた高い相関性が存在することが確認された。
【0065】
そこで、予め、含有NOx濃度が高いサンプルガスGvに対して含有NOx濃度に基づいてにおいセンサの計測値を補正した第一補正値と、異なる希釈倍率でサンプルガスGvを希釈して得られる複数の希釈サンプルガスGwに対して含有NOx濃度に基づいてにおいセンサの計測値を補正した第一補正値と、希釈倍率との相関関係を計測しておき、この相関関係に関する情報(第三相関情報)をフラッシュメモリやクラウドサーバ等の記憶領域に記録しておく。第三相関情報は、例えば、希釈後の対象ガスに基づく第一補正値V1と希釈倍率d1とを含み、第二補正値V2を導出することのできる関係式F3に関する情報である。
【0066】
具体的には、演算処理装置に対して、ステップ#4で得られた第一補正値V1、及びステップ#11で実行された希釈処理における希釈倍率d1の情報を入力し、記憶領域から読み出した第三相関情報に記載された関係式F3を適用することで、第二補正値V2が導出される。
【0067】
このステップ#12で導出された第二補正値V2は、希釈排ガスG2に基づいてステップ#4で導出された第一補正値V1を、希釈前の燃焼排ガスG1に対応する第一補正値V1に補正した値に相当する。言い換えれば、このステップ#12で得られた第二補正値V2は、第一実施形態で上述したように、希釈せずに燃焼排ガスG1に対してステップ#1~#4を実行したときに得られたであろう第一補正値V1に対応する。
【0068】
このステップ#12が、工程(g)に対応する。
【0069】
(ステップ#5a)
第一実施形態のステップ#5では、ステップ#4で得られた第一補正値V1に基づいて、推定臭気指数E1を導出した。本実施形態では、ステップ#12で得られた第二補正値V2に基づいて、推定臭気指数E1が導出される。
【0070】
ただし、上述したように、ステップ#12で得られた第二補正値V2は、希釈せずに燃焼排ガスG1に対してステップ#1~#4を実行したときに得られたであろう第一補正値V1に対応するため、処理内容としては、実質的に第一実施形態におけるステップ#5と共通する。
【0071】
すなわち、第二補正値V2は、希釈前の燃焼排ガスG1の臭気が精度よく反映された、におい計測値に対応するため、第二相関情報に基づいて導出される、第二補正値V2に対応する臭気指数は、希釈前の燃焼排ガスG1の臭気が反映された臭気指数であるとみなせる。このようにして導出された臭気指数が、推定臭気指数E1である。
【0072】
このステップ#5aは、工程(d)に対応する。
【0073】
(ステップ#6)
第一実施形態と同様に、ステップ#5aで得られた推定臭気指数E1に基づいて、燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1が決定される。
【0074】
本実施形態の方法によれば、記憶領域に予め第一相関情報、第二相関情報、及び第三相関情報を登録しておくことにより、燃焼排ガスG1のNOx濃度を計測する工程(ステップ#2)、燃焼排ガスG1を希釈して希釈排ガスG2を得る工程(ステップ#11)、希釈排ガスG2の臭気をにおいセンサで計測する工程(ステップ#3)とを実行すれば、他は、演算処理によって燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1を導出することができる。これにより、従来の方法よりも簡易な方法で臭気指数の推定が可能である。
【0075】
更に、本実施形態の場合には、第一実施形態と異なり、においセンサに対して希釈排ガスG2を接触させることで、におい計測値S1が得られる。希釈排ガスG2は、希釈前の燃焼排ガスG1よりもNOx濃度は極めて低くなるため、においセンサがNOxが接触することによる、においセンサへの被毒が抑制され、においセンサの耐久性を高めることができる。
【実施例0076】
以下、実施例を参照して本発明に係る方法の詳細を説明する。ただし、以下の実施例は、あくまで説明のための一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(検証1:酸化性ガスによるにおいセンサの計測値への影響の評価)
セメントキルン排ガスから抽出された燃焼排ガスG1には、においセンサの計測値に対して誤差を与える可能性がある、酸化性ガスとしてのNOx、SOx、及び還元性ガスとしてのCOが微量に含まれている。そこで、これらの微量成分が、燃焼排ガスG1のにおいセンサの計測値に対して与える影響を確認するために、標準ガスを用いた評価試験を行った。
【0078】
セメントキルン排ガスの臭気の主要成分の一つとして、アセトアルデヒドが確認されている。そこで、アセトアルデヒドを排ガス臭気の標準物質として、においセンサの応答を確認しながら、排ガス中に含まれる微量成分(NOx、SOx、CO)の干渉の程度を評価した。
【0079】
試験に利用されたガスは、以下の通りである。
・アセトアルデヒド標準ガス α1 :住友精化社製アセトアルデヒド:10ppm、N2ベース
・NO標準ガス β1 :大陽日酸社製NO:10,000ppm、N2ベース
・NO2標準ガスβ2 :大陽日酸社製NO2:10,000ppm、N2ベース
・SO2標準ガスβ3 :大陽日酸社製SO2:10,000ppm、N2ベース
・CO標準ガス β4 :大陽日酸社製CO:20,000ppm、N2ベース
・無臭空気 γ1 :活性炭槽に無臭空気用ポンプを利用して大気を通気して作成されたもの
【0080】
試験に利用された機器は、以下の通りである。
・においセンサ :新コスモス電機社製 XP-329m
・活性炭槽 :近江オドエアサービス社製 6方分配活性炭槽
・無臭空気用ポンプ :近江オドエアサービス社製 60L型無臭空気用ポンプ
・ガスバッグ : 近江オドエアサービス社製 3L型 ガスバッグ(におい袋)
・ガラス製注射器 : 近江オドエアサービス社製 対応体積:1mL~500mL
【0081】
試験水準として、無臭空気に対して、表1に示す濃度の各ガスを混合することで、混合ガスA1~A25が準備された。より詳細には、以下の手順によって混合ガスA1~A25が準備された。
【0082】
排ガス臭気原因用の標準ガスα1、排ガス微量成分用の標準ガスβ1~β4、及び無臭空気γ1のそれぞれを収容するためのガスバッグと、複数個の空のガスバッグを準備した。各標準ガスα1、β1~β4のそれぞれを、ガスボンベから、それぞれの標準ガス用のガスバッグに移した。次に、活性炭槽と無臭空気用ポンプを接続した後、同ポンプの電源を入れて、無臭空気γ1を、無臭空気γ1用のガスバッグに充填した。
【0083】
空のガスバッグに対して、表1に示す混合ガスA1~A25の濃度条件となるように、各標準ガスα1、β1~β4及び無臭空気γ1を、それぞれのガスバッグからガラス製注射器を用いて所定量だけ注入し、混合ガスA1~A25のそれぞれに対応する測定用の試料を準備した。
【0084】
【表1】
【0085】
なお、表1における各数値は、混合ガスA4におけるアセトアルデヒドの濃度を基準とした相対値(相対比)で表記されている。
【0086】
においセンサを用いて、混合ガスA1~A25のそれぞれの臭気を、以下の手順で計測した。
【0087】
(i)無臭空気を用いて、においセンサのゼロ・スパン調整を行う。
(ii)混合ガスA1が封入されたガスバッグを、においセンサに接続し、計測を開始する。
(iii)においセンサの指示値が安定するのを確認して、指示値を記録する。
(iv)測定対象となる混合ガスを切り替えて、上記(i)~(iii)を繰り返す。
【0088】
各混合ガスA1~A25のにおいセンサによる計測値を、各混合ガスA1~A25の成分濃度と共に表2に示す。なお、表2の各計測値は、混合ガスA1における計測値を基準とした相対値(相対比)で表記されている。
【0089】
【表2】
【0090】
図3図8は、表2で得られたにおいセンサ計測値に基づいて、各ガス成分ごとの比率との対応関係をグラフ化したものである。詳細には、以下の通りである。
【0091】
図3は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA1~A5において、計測されたセンサ計測値とアセトアルデヒド濃度との相関関係を示すグラフである。
【0092】
図4は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA4と、混合ガスA4と同濃度のアセトアルデヒド及びNOが混合された混合ガスA6~A9とにおいて、計測されたセンサ計測値とNO濃度との相関関係を示すグラフである。混合ガスA4は、NO濃度が0である。
【0093】
図5は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA4と、混合ガスA4と同濃度のアセトアルデヒド及びNO2が混合された混合ガスA10~A13とにおいて、計測されたセンサ計測値とNO2濃度との相関関係を示すグラフである。混合ガスA4は、NO2濃度が0である。
【0094】
図6は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA4と、混合ガスA4と同濃度のアセトアルデヒド及びSO2が混合された混合ガスA14~A17とにおいて、計測されたセンサ計測値とSO2濃度との相関関係を示すグラフである。混合ガスA4は、SO2濃度が0である。
【0095】
図7は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA4と、混合ガスA4と同濃度のアセトアルデヒド及びCOが混合された混合ガスA18~A21とにおいて、計測されたセンサ計測値とCO濃度との相関関係を示すグラフである。混合ガスA4は、CO濃度が0である。
【0096】
図8は、無臭空気に対してアセトアルデヒドのみが混合された混合ガスA4と、混合ガスA4と同濃度のアセトアルデヒド、NO、NO2、SO2、及びCOが混合された混合ガスA22~A25とにおいて、計測されたセンサ計測値とNO濃度との相関関係を示すグラフである。混合ガスA4は、NO濃度が0である。なお、図8には、比較のために、図4で示した、アセトアルデヒド及びNOが混合された混合ガスA6~A9における計測結果についても併記されている。
【0097】
図3の結果より、アセトアルデヒドの濃度が高まるほど、においセンサの計測値が上昇することが確認された。よって、セメントキルン排ガス中において、セメントキルン排ガスの臭気の主要成分の一つとして挙げられるアセトアルデヒドの濃度が上昇すると、においセンサの計測値も上昇することが予想される。
【0098】
図4図7によれば、セメントキルン排ガス(燃焼排ガス)に含まれる可能性のある微量成分のうち、NOxに属するNO及びNO2については、含有濃度が高まることで、においセンサの計測値に与える負の誤差が上昇することが確認された。特に、図4図5とを比較すると、NO2に比べてNOの方が、においセンサの計測値に与える負の誤差値が大きいことが確認された。一方、図6及び図7によれば、COについては、においセンサの計測値に対して弱い正の誤差を与え、SO2については、においセンサの計測値に対して弱い負の誤差を与えるものの、その影響は軽微であることが確認された。
【0099】
図8によれば、微量成分としてNO、NO2、SO2、及びCOの全てを混合させた混合ガスA22~A25におけるにおいセンサの計測値と、微量成分としてNOのみを混合させた混合ガスA6~A9におけるにおいセンサの計測値とは、ほぼ同じ傾向を示すことが確認された。混合ガスA22~A25は、異臭成分であるアセトアルデヒドに加えて、微量成分としてNO、NO2、SO2、及びCOの全てが混合されており、実際のセメントキルン排ガスを模擬した状態に近い。図8の結果によれば、混合ガスに複数種類の微量成分が含まれている場合であっても、においセンサの計測値に対して与えられる誤差は、NOに起因した誤差が支配的であることが分かる。
【0100】
このことから、燃焼排ガスG1の臭気を、においセンサを用いて計測して得られた計測値(におい計測値S1)は、燃焼排ガスG1に微量成分が含まれていることで誤差が反映されているものの、燃焼排ガスG1に含まれるNOに由来する誤差(負の誤差)を抑制する補正を行うことによって、においセンサの精度を向上できるといえる。
【0101】
(検証2:NO濃度の値を用いたにおいセンサの計測値の補正の評価)
次に、NOが含まれることによる、においセンサの計測値に反映される負の誤差を、実際の燃焼排ガスを利用して評価すると共に、その補正によるセンサの精度改善方法について検討した。
【0102】
燃焼排ガスG1に含まれるNOxは、主としてNOである。このNOは、大気中の酸素と反応してNO2に変化すること、及びNO2は水に溶解することが知られている。燃焼排ガスG1としてセメントキルン排ガスを想定した場合、このセメントキルン排ガスは、プレヒータより排気された後、ボイラーや排ガス処理系統を経て、煙突から排気されるが、煙突内を通過する時点において150℃程度の温度を示す。このため、煙突内を通過するセメントキルン排ガスを回収して大気で冷却すると、セメントキルン排ガスに含まれていた水蒸気が水に変化するため、この水(凝縮水)にセメントキルン排ガスを一定時間接触させておくことで、セメントキルン排ガスに含まれるNO2が溶解すると想定される。
【0103】
上記の現象を利用すれば、燃焼排ガスG1に含まれる、アセトアルデヒド等の臭気成分の濃度を変えずに、NOxの濃度だけを低減できると考えられる。そこで、以下の方法で、含有NO濃度の高いサンプルガス(高NOサンプルガス)と、含有NO濃度の低いサンプルガス(低NOサンプルガス)を準備した。
【0104】
異なる5箇所のセメント工場において、セメントキルン排ガスを煙突の測定口から抽気して、ガスバッグ(ここでは、便宜上「第一ガスバッグ」と呼ぶ。)に移した。セメント工場で抽気されたセメントキルン排ガスを、便宜上、試料Q1~Q5と呼ぶ。以下、試料Q1について説明するが、試料Q2~Q5についても同様の処理が行われた。
【0105】
第一ガスバッグ内に試料Q1が収容されると、外気によって直ちに試料Q1が冷却され、第一ガスバッグ内に凝縮水が生じ始める。第一ガスバッグ内において凝縮水が十分生じたのを確認した後、直ちに第一ガスバッグ内の試料Q1を別のガスバッグ(ここでは、便宜上「第二ガスバッグ」と呼ぶ。)に移した。第二ガスバッグ内に収容された試料Q1を、高NOサンプルガスとした。
【0106】
また、別の第一ガスバッグ内に試料Q1を収容し、凝縮水に接触させた状態で1日保持した。この1日の間に、試料Q1に含まれていたNO2の少なくとも一部が凝縮水に溶解したものと考えられる。その後、第一ガスバッグ内の試料Q1を別のガスバッグ(ここでは、便宜上「第三ガスバッグ」と呼ぶ。)に移した。第三ガスバッグ内に収容された試料Q1を、低NOサンプルガスとした。
【0107】
同様の方法により、5箇所のセメント工場から採取されたセメントキルン排ガスである、試料Q1~Q5のそれぞれから、高NOサンプルガスと低NOサンプルガスを生成した。以下、便宜上、試料Qi(i=1~5)から生成された高NOサンプルガスを「サンプルガスQiH」、試料Qiから生成された低NOサンプルガスを「サンプルガスQiL」と表記することがある。
【0108】
次に、それぞれのサンプルガスQiH,QiL(i=1~5)について、原サンプルガスの他に、5倍、10倍、50倍、及び100倍の希釈倍率で希釈した希釈サンプルガスを準備した。希釈サンプルガスは、以下の手順で生成した。
【0109】
活性炭槽と無臭空気用ポンプを接続した後、同ポンプの電源を入れて、無臭空気γ1を、無臭空気γ1用のガスバッグに充填した。このガスバッグは、検証1で利用されたガスバッグと同種のものである。
【0110】
それぞれの希釈倍率(5倍、10倍、50倍、100倍)の水準に応じた量で、無臭空気γ1用のガスバッグから、検証1と同種のガラス製注射器を用いて無臭空気γ1を抜き取って、封入されている無臭空気γ1の量を調整した。その後、原サンプルガスQiH,QiL(i=1~5)が封入されているガスバッグから、検証1と同種のガラス製注射器を用いて、所定量だけ原サンプルガスQiH,QiLを抜き取って、無臭空気γ1の量が調整された後の、無臭空気γ1用のガスバッグ内に注入した。
【0111】
例えば、無臭空気γ1の量を調整して、4×J1の量だけ無臭空気γ1が封入された状態としたガスバッグに対して、ガラス製注射器を用いて、J1の量だけ原サンプルガスQ1Hを注入することで、原サンプルガスQ1Hに対して希釈倍率5倍で希釈した希釈サンプルガスを生成した。
【0112】
同様の方法により、以下の表3に示す計50種類のサンプルガスが準備された。
【0113】
【表3】
【0114】
計10種類の原サンプルガスQiH,QiL(i=1~5)について、平成7年環境庁告示第63号別表に記載された三点比較式臭袋法によって、臭気指数を計測した。計測結果を表4に示す。なお、表4の計測結果は、試料Q1に基づく低NOサンプルガス(原サンプルガスQ1L)における臭気指数を基準とする相対値で表記されている。
【0115】
【表4】
【0116】
また、表3に示す50種類のサンプルガスのそれぞれについて、TESTO社製 排ガス分析計TESTO 350を用いて、NO濃度及びNO2濃度を計測した。計測結果を表5に示す。なお、表5の計測結果は、試料Q1に基づく高NOの原サンプルガスQ1HのNO濃度を基準とする相対値で表記されている。
【0117】
【表5】
【0118】
表5によれば、試料Qi(i=1~5)のいずれにおいても、高NOサンプルガスQiHと比べて、低NOサンプルガスQiLのNOx濃度が低下されていることが分かる。各サンプルガスQiH、QiLの生成方法に鑑みると、燃焼排ガスG1から生成された凝縮水によって、燃焼排ガスG1中のNOxが吸収されたものと考えられる。
【0119】
一方で、表4によれば、試料Qi(i=1~5)のいずれにおいても、高NOサンプルガスQiHと低NOサンプルガスQiLとでは、臭気指数に差異は認められなかった。このことから、凝縮水の有無は、燃焼排ガスG1の臭気指数に影響を及ぼさないと判断できる。
【0120】
これらの結果に基づけば、高NOサンプルガスQiHと低NOサンプルガスQiLのそれぞれの臭気をにおいセンサによって計測した計測結果に基づいて、燃焼排ガスG1の臭気をにおいセンサによって計測した計測値に反映されているNO由来の負の誤差値を評価できるといえる。
【0121】
ここで、表4を参照して上述したように、高NOサンプルガスQiHと低NOサンプルガスQiLとの間には、臭気指数に差異は認められなかった。このため、以下では、低NOサンプルガスQ1L~Q5Lの臭気指数をもって、試料Q1~Q5(燃焼排ガスG1)の臭気指数とした。
【0122】
次に、表3に示す50種類のサンプルガスのそれぞれについて、検証1と同様の方法で、においセンサを用いて臭気を計測した。計測結果を表6に示す。なお、表6に示すにおいセンサの計測値は、試料Q1に基づく低NOサンプルガス(原サンプルガスQ1L)のにおいセンサの計測値を基準とする相対値で表記されている。
【0123】
表6には、比較のために臭気指数の相対値も併記されている。なお、表6において、希釈倍率1に対応するサンプルガス(原サンプルガス)の臭気指数は、上述したように、表4の低NOサンプルガスQ1L~Q5Lの臭気指数をそのまま転載したものである。また、各希釈サンプルガスの臭気指数は、臭気濃度Nを用いて導出される臭気指数Iの定義式(I=10×Log N)に基づいて、同じ試料に由来する原サンプルガスの臭気指数から演算によって導かれた値を採用した。
【0124】
【表6】
【0125】
図9は、表6の結果に基づいて、においセンサ計測値(相対比)と、臭気指数(相対比)との関係をプロットしたグラフである。図9によれば、低NOサンプルガスQiLについては、においセンサ計測値(相対比)と臭気指数(相対比)との間に高い相関性が認められた。一方で、高NOサンプルガスQiHについては、においセンサ計測値(相対比)と臭気指数(相対比)との間には、相関性が認められなかった。
【0126】
図9の結果から、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値には、含有されたNOに由来する負の誤差が大きく反映されたものと推察される。一方で、低NOサンプルガスQiLについては、含有NO濃度が低いことで、においセンサ計測値(相対比)と臭気指数(相対比)との間の相関性が消滅するほどには、においセンサ計測値に、含有されたNOによる負の誤差が反映されなかったことが示唆される。
【0127】
この結果を踏まえると、高NOサンプルガスQiHに対しても、NO濃度を低NOサンプルガスQiLと同等程度にまで補正することができれば、においセンサ計測値と臭気指数との間に高い相関性が認められるものと考えられる。
【0128】
同一の試料Qi(i=1~5)に基づいて生成された、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値と、低NOサンプルガスQiLのにおいセンサ計測値との間に生じた差は、高NOサンプルガスQiHのNO濃度と、低NOサンプルガスQiLのNO濃度の差に起因したものであると考えられる。そこで、同一の試料Qi(i=1~5)に基づいて生成された、高NOサンプルガスQiHと低NOサンプルガスQiLとのNO濃度(相対比)の差と、それぞれのにおいセンサ計測値(相対比)の差を算出して、その関係性を確認した。その結果を、表7及び図10に示す。
【0129】
【表7】
【0130】
表7及び図10によれば、同一の試料Qi(i=1~5)に基づいて生成された、高NOサンプルガスQiHと低NOサンプルガスQiLにおいて、NO濃度(相対比)の差分値と、においセンサ計測値(相対比)の差分値との間には、高い相関関係が示された。この結果に基づけば、上記相関関係を利用することで、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値を補正することで、含有NOによる負の誤差を抑制できるものと考えられる。
【0131】
ここでは、図10の結果から、以下の(1)式及び(2)式で示す補正式を用いて、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値を補正し、補正後の高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)を得た。計算結果を、表8に示す。
ViH = SiH + 0.17×ln(DiH - DiL) + 0.9115 …(1)
ViH = SiH + 0.17×ln(DiH) + 0.9115 …(2)
【0132】
なお、(1)式及び(2)式内の要素は、それぞれ以下に対応する。
・ViH:補正後の高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)
・SiH:高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)
・DiH:高NOサンプルガスQiHのNO濃度(相対比)
・DiL:低NOサンプルガスQiHのNO濃度(相対比)
【0133】
【表8】
【0134】
図11は、(1)式及び(2)式を用いて、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)SiHを補正して得られた補正後の値ViHと、臭気指数(相対比)との関係をプロットしたグラフである。表8及び図11によれば、(1)式を用いた補正後の値ViHと、(2)式を用いた補正後の値ViHとには、実質的に差異がないことが分かる。これは、表7に示されるように、DiLの値、すなわち、低NOサンプルガスQiHのNO濃度(相対比)の値が極めて小さいため、(1)式内のln(DiH - DiL)と、(2)式内のln(DiH)とが、ほぼ同一の値となることによる。
【0135】
このことから、(2)式で規定されるように、高NOサンプルガスQiHのNO濃度(相対比)の値DiHを用いて、高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)SiHを補正することで得られた値ViHを、補正後の高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)とすることができる。
【0136】
図12は、(2)式を用いて高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)SiHを補正して得られた補正後の値ViHと臭気指数(相対比)との関係を、図9のグラフに併記したものである。図12によれば、(2)式により得られた補正後の値ViHは、図9で示した、低NOサンプルガスQiLのにおいセンサ計測値(相対比)と臭気指数(相対比)との相関性を示す曲線上にほぼプロットされることが確認された。
【0137】
図12の結果によれば、(2)式を用いて高NOサンプルガスQiHのにおいセンサ計測値(相対比)SiHを補正して得られた補正後の値ViHと、臭気指数との間には、高い相関性が認められる。このことから、補正後の値ViHが得られれば、上記相関性を利用して、対応する臭気指数を導出できることが分かる。図12の例によれば、以下の(3)式によって、臭気指数を高NOサンプルガスQiHの推定臭気指数Eiを導出することができる。
Ei = 0.7884 ln(ViH) + 0.9518 …(3)
【0138】
つまり、例えば(2)式のような、におい計測値とNOx濃度とを含む関係式F1に関する情報を、「第一相関情報」として記憶領域に予め記録しておき、ステップ#2で得られた燃焼排ガスG1のNOx濃度計測値D1と、ステップ#3で得られた燃焼排ガスG1のにおい計測値S1とを、関係式F1に適用することで、におい計測値S1が補正されて第一補正値V1が得られる。この第一補正値V1を得る処理が、上記のステップ#4に対応する。
【0139】
第一補正値V1は、図12を参照して上述したように、臭気指数との間で高い相関性を示す、低NOガスのにおい計測値と同等に取り扱うことができる。よって、例えば(3)式のような、低NO濃度のガスにおけるにおい計測値と臭気指数Eiとの関係式F2、言い換えれば、高NO濃度のガスにおけるにおい計測値の補正値ViHと臭気指数Eiとを含む関係式F2に関する情報を、「第二相関情報」として記憶領域に予め記録しておき、ステップ#4で得られた第一補正値V1を関係式F2に適用することで、第一補正値V1に対応する推定臭気指数E1が得られる。ここで、低NO濃度のガスが「模擬ガス」に対応し、低NO濃度のガスにおけるにおい計測値が「模擬におい計測値」に対応し、低NO濃度のガスの臭気指数が「模擬臭気指数」に対応する。
【0140】
このようにして得られた、推定臭気指数E1の値は、酸化性ガスとしてのNOx、SOx、及び還元性ガスとしてのCOを含む、セメントキルン排ガス等の燃焼排ガスG1であっても、においセンサの計測値に反映されていた、酸化性ガス等の存在に由来する誤差が実質的に解消された、補正値に基づいて導かれたものである。よって、この推定臭気指数E1に基づいて、燃焼排ガスG1の臭気指数の推定値X1を導出することができる。
【0141】
(検証3:希釈倍率の値を用いたにおいセンサの計測値の補正の評価)
次に、燃焼排ガスG1に対してにおいセンサで臭気を計測した場合の計測値に基づく補正値と、燃焼排ガスG1を希釈して得られる希釈排ガスG2に対してにおいセンサで臭気を計測した場合の計測値に基づく補正値との間の関係性を評価した。
【0142】
具体的には、表8で得られた結果に基づいて、試料Qi(i=1~5)のそれぞれにおいて、以下の(4)式で得られる相対比を算出した。結果を表9及び図13に示す。
相対比Φ =[希釈サンプルガスの(2)式に基づく補正値ViH] / [原サンプルガス(希釈倍率1)の下での(2)式に基づく補正値ViH] …(4)
【0143】
【表9】
【0144】
図13は、希釈倍率を横軸とし、上記相対比Φを縦軸として、表9の結果をプロットしたグラフである。図13によれば、原ガスをにおいセンサで計測して得られた計測値に基づく補正値を基準としたときの、希釈したガスをにおいセンサで計測して得られた計測値に基づく補正値の低下の程度は、希釈倍率に対して一定の相関性が示されることが確認できる。
【0145】
つまり、図13の結果を例に挙げれば、以下の(5)式によって、希釈したガスをにおいセンサで計測して得られた計測値に基づく補正値V1と希釈倍率d1とに基づいて、原ガスをにおいセンサで計測したときに得られたであろう計測値に基づく補正値V2を推定することができる。
【0146】
【数1】
【0147】
第二実施形態で上述したように、燃焼排ガスG1を希釈倍率d1で希釈した希釈排ガスG2の臭気を、においセンサによって計測した場合には、ステップ#4において、希釈排ガスG2のにおい計測値S1に基づいて、第一補正値V1が導かれる。ここで、例えば(5)式のような、希釈した排ガスのにおい計測値に基づく補正値(第一補正値V1)と希釈倍率d1とを含む関係式F3に関する情報を、「第三相関情報」として記憶領域に予め記録しておき、ステップ#4で得られた第一補正値V1と、ステップ#11で希釈したときの希釈倍率d1とを、関係式F3に適用することで、第二補正値V2が得られる(ステップ#12)。この第二補正値V2は、希釈前の燃焼排ガスG1を用いて第一実施形態で上述したステップ#1~#4を実行した場合に得られたであろう第一補正値に対応する。
【0148】
よって、例えば(3)式のような、低NO濃度のガスにおけるにおい計測値と臭気指数Eiとの関係式F2、言い換えれば、高NO濃度のガスにおけるにおい計測値の補正値ViHと臭気指数Eiとの関係式F2に関する情報を、「第二相関情報」として記憶領域に予め記録しておき、ステップ#12で得られた第二補正値V2を、希釈前の燃焼排ガスG1の第一補正値V1として関係式F2に適用することで、希釈前の燃焼排ガスG1の第一補正値V1に対応する、推定臭気指数E1が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13