(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058487
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】ダンプトラックの走行装置
(51)【国際特許分類】
B60B 35/14 20060101AFI20250402BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20250402BHJP
F16H 1/46 20060101ALI20250402BHJP
B60B 35/16 20060101ALN20250402BHJP
【FI】
B60B35/14 Q
B60K7/00
F16H1/46
B60B35/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168451
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 理央
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】内野 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】竹下 大翼
(72)【発明者】
【氏名】宮原 瑶子
【テーマコード(参考)】
3D235
3J027
【Fターム(参考)】
3D235AA19
3D235BB18
3D235BB25
3D235CC42
3D235FF35
3D235GA04
3D235GA13
3D235GA32
3D235GB04
3D235GB32
3D235GB35
3D235HH05
3D235HH06
3J027FA36
3J027FA37
3J027FB06
3J027GA01
3J027GB02
3J027GC13
3J027GC23
3J027GC26
(57)【要約】
【課題】シャフトベアリングの周辺部品の配置スペースを確保しながら、スピンドルに対するシャフトベアリングの確実な固定構造を容易に実現可能とすることを目的とする。
【解決手段】ダンプトラック1の走行装置11において、スピンドル12の内周面側に設けられるベアリングリテーナ42は、スピンドル12の内周面に嵌合して設けられ、スピンドル12の雌スプライン部12G及び第2キャリア39のそれぞれから軸方向の一方側に間隔Gを空けて配置される。ベアリングリテーナ42は、支持部材50によってスピンドル12の内周面に支持される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一方側が車体に取り付けられると共に前記軸方向の他方側の内周面にスプライン部が形成された円筒状のスピンドルと、
前記スピンドルの前記他方側に位置して前記スピンドルの外周面側に設けられ、タイヤが装着されるホイールと、
前記スピンドルと前記ホイールとの間に設けられ、前記スピンドルに対して前記ホイールを回転可能に支持するホイールベアリングと、
前記スピンドルの前記一方側に設けられ、出力軸が前記スピンドルの前記内周面側に挿入された回転源と、
一端が前記スピンドルの内周面側に位置して前記回転源の前記出力軸に連結され、他端が前記スピンドルの前記他方側から突出したシャフトと、
前記スピンドルの前記他方側に位置して前記シャフトと前記ホイールとの間に設けられ、前記スピンドルの前記スプライン部にスプライン結合されたキャリアによって回転可能に支持された複数の遊星歯車を有する遊星歯車減速装置と、
前記キャリアよりも前記一方側に位置して前記スピンドルの前記内周面側に設けられ、前記スピンドルに対して前記シャフトを回転可能に支持するシャフトベアリングと、を備えるダンプトラックの走行装置であって、
前記スピンドルの前記内周面側には、前記スピンドルとは別部材から成り前記シャフトベアリングを保持するベアリングリテーナが設けられ、
前記ベアリングリテーナは、前記スピンドルの前記内周面に嵌合して設けられ、前記スピンドルの前記スプライン部及び前記キャリアのそれぞれから前記一方側に間隔を空けて配置され、支持部材によって前記スピンドルの前記内周面に支持される
ことを特徴とするダンプトラックの走行装置。
【請求項2】
前記ベアリングリテーナは、前記支持部材によって前記スピンドルの前記内周面に支持される第1部材と、前記シャフトベアリングを保持する第2部材と、を有し、
前記第1部材は、前記第2部材とは別部材から成り、連結部材によって前記第2部材に連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載されたダンプトラックの走行装置。
【請求項3】
前記第1部材は、前記第2部材の前記一方側の面に連結されている
ことを特徴とする請求項2に記載されたダンプトラックの走行装置。
【請求項4】
前記スピンドルの前記内周面側には、前記シャフトベアリングの温度及び振動の少なくとも1つを監視するセンサが設けられ、
前記センサは、前記ベアリングリテーナと前記キャリアとの間に位置する前記間隔に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載されたダンプトラックの走行装置。
【請求項5】
前記スピンドルの前記内周面側には、前記スピンドルの前記スプライン部に潤滑油を供給する供給口を有する給油配管が設けられ、
前記給油配管の前記供給口は、前記ベアリングリテーナと前記キャリアとの間に位置する前記間隔に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載されたダンプトラックの走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンプトラックの走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型運搬車両、例えばダンプトラックの走行装置において、回転支軸となるスピンドルと電動モータとは、車体フレームに固定される。電動モータの出力軸は、シャフトを介して減速機に接続される。減速機は、ベアリングを介してスピンドルに支持されたホイールを回転させ、動力をタイヤに伝達する。シャフトの軸方向の中間部位は、スピンドルの内周面側に設けられたシャフトベアリングによって支持されている。スピンドルは、鋳鋼にて製造され、シャフトベアリングの外輪を支持するベアリングリテーナは、スピンドルと一体的に鋳造されることが多い。
【0003】
主に鉱山等において使用される車重100tを超えるようなダンプトラックでは、掘削された鉱石等の積載物を運搬するためのベッセルも大きい。このベッセルの積載物及び車体の重量が地面に対して各タイヤにより支えられるので、タイヤを支持するホイール及びスピンドル等に大きな負荷が作用する。この大きな負荷を支えるために、鋳造製のスピンドルよりも強度向上を図ることができる鍛造製のスピンドルを使用することが望ましい。
【0004】
更に、スピンドルを鍛造製とする背景には、使用できるタイヤサイズの制限もある。市場で流通しているダンプトラック用タイヤはタイヤ径に上限があるので、車重の大きな機種ではタイヤ幅を大きくすることで対応している。したがって、スピンドル径も大きくすることができない上に、スピンドルの軸方向の長さが伸びるので、スピンドルに作用する曲げ荷重は、特に大きくなる。よって車重が大きい機種ほど高強度のスピンドルの必要性も高くなる。
【0005】
ダンプトラックは、走行装置が出力する牽引力により、積載物を含めた車体を加速させ車速を与える。よって、車体重量の負荷を支える部品の一つであるスピンドルが高強度となれば、同じ牽引力と要求車速に対して積載量を増加させられる見込みがある。つまり、鋳造製のスピンドルよりも高強度の鍛造製のスピンドルは、積載量の増加による作業効率の向上にも繋がり、顧客のニーズに応える手段でもある。
【0006】
ところで、ダンプトラックに使用される大型のスピンドルを鍛造する際、型打ち鍛造の場合は更に大型の鍛造金型とハンマが必要となり現実的ではない。芯金で内径穴を確保する自由鍛造の場合には製造可能ではあるが、自由鍛造では細かい凹凸を作ることが不可能なので、凸部を作るためには、必要な凸部以外を全て切削することとなる。この方法では、大型のスピンドルを鍛造する際には歩留まりが著しく低下すると共に、膨大な加工工数を要することになる。よって大型のスピンドルは、極力凹凸の少ない構造で鍛造する必要がある。したがって、スピンドルの内周面側にシャフトを支持するシャフトベアリングを保持するベアリングリテーナを凸形状に張り出させて作ることは、製造上非常に難しい。
【0007】
一方、シャフトベアリングがスピンドルの内周面に固定されない状態であると、支持するシャフトの振動を抑えることができず、シャフトの破損に繋がり、またシャフトベアリング自体も振動するため破損に繋がる。
【0008】
このような事情を考慮して、スピンドルの内周面にシャフトベアリングを確実に固定する構造の1つとして、減速機の構成部品を固定するためにスピンドルの内周面に形成されたスプライン部を利用する構造が提案されている。例えば、特許文献1には、このスプライン部をスピンドルの軸方向に延長し、シャフトベアリングを保持するベアリングリテーナをスプライン結合により固定し、軸方向はスナップリングで固定する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された構造では、スピンドルの内周面に形成されるスプライン部をシャフトベアリング付近まで延長する必要があるので、スピンドルの内周面に深く長いスプライン加工を施す必要があり、スプライン加工に係る工数が増大する。
【0011】
更に、スプライン部の耐久性向上のために熱処理を施す場合、熱処理により生じた歪みによってスプライン部が変形するので、走行装置における組立精度の維持が困難となる可能性が高い。
【0012】
更に、ベアリングリテーナをスピンドルにスプライン結合することから、ベアリングリテーナの外周面にも十分な幅のスプライン部が必要となるので、ベアリングリテーナ自体の体積及び重量が増加する。したがって、ベアリングリテーナの周辺、すなわちシャフトベアリングの周辺において、故障検知機能又は潤滑機能を提供する部品のような周辺部品を配置するための十分なスペースを確保することが困難となる可能性が高い。
【0013】
上記事情に鑑みて、本発明は、シャフトベアリングの周辺部品の配置スペースを確保しながら、スピンドルに対するシャフトベアリングの確実な固定構造を容易に実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のダンプトラックの走行装置は、軸方向の一方側が車体に取り付けられると共に前記軸方向の他方側の内周面にスプライン部が形成された円筒状のスピンドルと、前記スピンドルの前記他方側に位置して前記スピンドルの外周面側に設けられ、タイヤが装着されるホイールと、前記スピンドルと前記ホイールとの間に設けられ、前記スピンドルに対して前記ホイールを回転可能に支持するホイールベアリングと、前記スピンドルの前記一方側に設けられ、出力軸が前記スピンドルの前記内周面側に挿入された回転源と、一端が前記スピンドルの内周面側に位置して前記回転源の前記出力軸に連結され、他端が前記スピンドルの前記他方側から突出したシャフトと、前記スピンドルの前記他方側に位置して前記シャフトと前記ホイールとの間に設けられ、前記スピンドルの前記スプライン部にスプライン結合されたキャリアによって回転可能に支持された複数の遊星歯車を有する遊星歯車減速装置と、前記キャリアよりも前記一方側に位置して前記スピンドルの前記内周面側に設けられ、前記スピンドルに対して前記シャフトを回転可能に支持するシャフトベアリングと、を備えるダンプトラックの走行装置であって、前記スピンドルの前記内周面側には、前記スピンドルとは別部材から成り前記シャフトベアリングを保持するベアリングリテーナが設けられ、前記ベアリングリテーナは、前記スピンドルの前記内周面に嵌合して設けられ、前記スピンドルの前記スプライン部及び前記キャリアのそれぞれから前記一方側に間隔を空けて配置され、支持部材によって前記スピンドルの前記内周面に支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シャフトベアリングの周辺部品の配置スペースを確保しながら、高強度なスピンドルに対するシャフトベアリングの確実な固定構造を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】
図3に示す走行装置における湿式ブレーキ装置付近の詳細図。
【
図5】
図3に示す走行装置におけるベアリングリテーナ付近の詳細図。
【
図6】第2実施形態の走行装置におけるベアリングリテーナ付近の詳細図。
【
図7】第3実施形態の走行装置におけるベアリングリテーナ付近の詳細図。
【
図8】第4実施形態の走行装置におけるベアリングリテーナ付近の詳細図。
【
図10】
図9に示す給油配管への潤滑油の供給源を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成要素については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の構成要素を有し、その説明を省略する。
【0018】
[第1実施形態]
図1~
図5を用いて、第1実施形態のダンプトラック1の走行装置11について説明する。
図1は、ダンプトラック1の側面図である。
図2は、
図1に示すダンプトラック1の後面図である。
【0019】
本実施形態では、ダンプトラック1として、鉱山等において使用されるマイニング用のダンプトラックを例に挙げて説明する。ダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造を成す車体2を有している。車体2の前部には左右の前輪3が回転可能に設けられ、車体2の後部には左右の後輪4が回転可能に設けられている(
図1では左の前輪3及び左の後輪4のみ図示)。左右の前輪3は、ダンプトラック1の運転者によって操舵(ステアリング操作)される操舵輪を構成している。車体2と左右の前輪3との間には、油圧緩衝器等からなる前輪側サスペンション3Aが設けられていれる。
【0020】
左右の後輪4は、ダンプトラック1の駆動輪を構成している。左右の後輪4は、後述の走行装置11によって回転駆動される。
図2に示すように、後輪4は、複輪式タイヤから成り、軸方向内側及び外側のタイヤ4Aと、各タイヤ4Aが装着されるホイール15とを含んで構成される。車体2と左右の後輪4との間には、油圧緩衝器等からなる後輪側サスペンション4Bが設けられている。
【0021】
ベッセル(荷台)5は、車体2上に起伏可能に搭載されている。ベッセル5は、例えば砕石物等の重い荷物を多量に積載するため全長が10~13m(メートル)にも及ぶ大型の容器として形成されている。ベッセル5の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン6等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル5の前側上部には、後述のキャブ7を上側から覆う庇部5Aが一体に設けられている。
【0022】
キャブ7は、ベッセル5に設けられた庇部5Aの下側に位置して車体2の前部に設けられている。キャブ7は、ダンプトラック1の運転者が乗降する運転室を構成している。キャブ7の内部には、運転席、起動スイッチ、アクセルペダル、ブレーキペダル、操舵用のハンドル及び複数の操作レバー(いずれも図示せず)等が設けられている。ベッセル5の庇部5Aは、キャブ7を上側から全体を覆うことにより、例えば岩石等の飛び石からキャブ7を保護する。ベッセル5の庇部5Aは、ダンプトラック1の転倒時等にキャブ7内の運転者を保護する。
【0023】
エンジン8は、キャブ7の下側に位置して車体の前側に設けられている。エンジン8は、例えば、大型のディーゼルエンジン等により構成され、車載の発電機、油圧源となる油圧ポンプ(いずれも図示せず)等を回転駆動する。油圧ポンプから吐出される圧油は、ホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0024】
ホイストシリンダ9は、車体2とベッセル5との間に上下方向に伸縮可能に設けられている。ホイストシリンダ9は、前輪3と後輪4との間に位置して車体2の左右両側(左側のみ図示)に配置されている。ホイストシリンダ9は、油圧ポンプからの圧油が供給又は排出されることにより、上下方向に伸縮し、連結ピン6を中心にしてベッセル5を起伏させる。
【0025】
後輪4用のアクスルハウジング10は、車体2の後部下側に設けられ、車体2の一部を構成している。アクスルハウジング10は、左右の後輪4の間を左右方向に延びる筒状体として形成されている。アクスルハウジング10は、後輪側サスペンション4Bを介して車体2の後部側に取り付けられている。アクスルハウジング10の左右方向の両端側には、スピンドル12が固定されている。
【0026】
図3は、
図2に示す後輪4側の走行装置11の断面図である。
【0027】
走行装置11は、ダンプトラック1の左右の後輪4にそれぞれ設けられている。
図3に示すように、走行装置11は、スピンドル12と、ホイール15と、ホイールベアリング17,18と、電動モータ21と、シャフト22と、遊星歯車減速装置25と、ベアリングリテーナ42と、シャフトベアリング46と、を含んで構成されている。
【0028】
走行装置11は、電動モータ21の回転を遊星歯車減速装置25により減速し、ダンプトラック1の駆動輪である後輪4を大きな回転トルクで駆動する。なお、左右の後輪4に設けられる走行装置11は同一の構成を有しているので、以下、左側の後輪4に設けられた走行装置11について説明する。
【0029】
なお、本実施形態では、互いに同軸上に配置されたスピンドル12、電動モータ21及びシャフト22の軸方向を、単に「軸方向」とも称する。本実施形態では、軸方向の一方側とは、左右方向において車体2の内方に向かう側(電動モータ21側)であり、
図3の右方に対応する。本実施形態では、軸方向の他方側とは、左右方向において車体2の外方に向かう側(電動モータ21の反対側、すなわち遊星歯車減速装置25側)であり、
図3の左方に対応する。
【0030】
スピンドル12は、軸方向の一方側が車体2に取り付けられると共に、軸方向の他方側の内周面にスプライン部(雌スプライン部12G)が形成された円筒状に形成されている。具体的には、スピンドル12は、アクスルハウジング10の軸方向の他方側に設けられている。スピンドル12は、ホイール15内を軸方向に延びる段付円筒状に形成されている。スピンドル12は、軸方向の一方側に位置する大径筒部12Aと、軸方向の中間部に位置する中間筒部12Bと、軸方向の他方側に位置する小径筒部12Cと、により構成されている。大径筒部12Aは、中間筒部12Bに向けて徐々に縮径するカップ状に形成されている。大径筒部12Aの軸方向の一端は、複数のボルト13を用いてアクスルハウジング10の端縁部に固定されている。小径筒部12Cは、中間筒部12Bよりも小径な円筒状に形成されている。小径筒部12Cは、後述する車輪取付筒16の内周面側に配置されている。小径筒部12Cは、ホイールベアリング17,18を介して車輪取付筒16を回転可能に支持している。
【0031】
ここで、スピンドル12は、例えば芯金を用いた自由鍛造によって製造され、鋳造によって製造されたスピンドルと比較して大きな強度を有している。スピンドル12の外周面側には、大径筒部12Aと中間筒部12Bとの境界部に位置するブレーキ取付部12Dと、中間筒部12Bと小径筒部12Cとの境界部に位置する環状の段差部12Eとが一体に形成されている。ブレーキ取付部12Dには、後述するブレーキハウジング41Aが固定されている。大径筒部12Aの軸方向の一方側の端部には、モータ取付座12Fが形成されている。このモータ取付座12Fには、電動モータ21が取り付けられている。
【0032】
小径筒部12Cの軸方向の他方側の端部(先端)は、開口端である。小径筒部12Cの軸方向の他方側の内周面には、雌スプライン部12Gが形成されている。この雌スプライン部12Gには、後述する第2キャリア39の雄スプライン部39Bがスプライン結合される。
【0033】
雌スプライン部12Gに隣接する小径筒部12Cの内周面には、リテーナ嵌合部12Hが設けられている。このリテーナ嵌合部12Hには、ベアリングリテーナ42の円筒状外周面42D(
図5を参照)が、例えば、隙間嵌めの状態で嵌合している。また、スピンドル12のリテーナ嵌合部12Hと、ベアリングリテーナ42の円筒状外周面42Dとには、後述の嵌合穴51と嵌合穴52とが同位相(周方向位置が同一)に設けられている。これらの嵌合穴51,52には、嵌合穴51と嵌合穴52とが連通するように支持部材50が取り付けられている。
【0034】
ホイール15は、スピンドル12の軸方向の他方側に位置してスピンドル12の外周面側に設けられている。ホイール15には、後輪4のタイヤ4Aが装着されている。ホイール15は、左右方向に延びる円筒状のリム15Aと、リム15Aの内周面側に固定して設けられた車輪取付筒16とによって概ね構成されている。リム15Aの外周面側には、2本のタイヤ4Aが並列に装着されている。
【0035】
車輪取付筒16は、スピンドル12の外周面側に回転可能に設けられている。車輪取付筒16の外周面側には、ホイール15のリム15Aが圧入等の手段を用いて着脱可能に取り付けられている。車輪取付筒16は、中空筒部16Aと延設筒部16Bとを有する段付筒状体として形成されている。中空筒部16Aは、ホイールベアリング17,18を介してスピンドル12(小径筒部12C)に回転可能に支持されている。延設筒部16Bは、中空筒部16Aの外周面側の端部から後述する内歯車36に向けて軸方向に延びている。
【0036】
ホイールベアリング17,18は、スピンドル12とホイール15との間に設けられ、スピンドル12に対してホイール15を回転可能に支持する。具体的には、ホイールベアリング17,18は、スピンドル12の小径筒部12Cとホイール15の車輪取付筒16(中空筒部16A)との間に設けられている。ホイールベアリング17,18は、例えば同一の円錐ころ軸受等を用いて構成され、スピンドル12の外周面側でホイール15を回転可能に支持している。ここで、一方のホイールベアリング17の外輪は、車輪取付筒16の中空筒部16Aによって軸方向に位置決めされている。一方のホイールベアリング17の内輪は、スピンドル12の段差部12Eに当接した環状のベアリングリテーナ19によって軸方向に位置決めされている。他方のホイールベアリング18の外輪は、車輪取付筒16の中空筒部16Aによって軸方向に位置決めされている。他方のホイールベアリング18の内輪は、スピンドル12の小径筒部12Cの開口端に固定された環状のベアリングリテーナ20によって軸方向に位置決めされている。
【0037】
回転源としての電動モータ21は、アクスルハウジング10内に位置してスピンドル12の軸方向の一方側に設けられている。電動モータ21の出力軸21Bは、スピンドル12の内周面側に挿入されている。電動モータ21のケーシングには、複数の取付フランジ21Aが設けられている。これらの取付フランジ21Aは、スピンドル12のモータ取付座12Fにボルト等を用いて着脱可能に取り付けられている。電動モータ21は、車体2に搭載された発電機(図示せず)から供給される電力によってロータ(図示せず)が正方向又は逆方向に回転する。このロータの回転が出力軸21Bによって出力される。出力軸21Bの基端は、電動モータ21のロータに一体に接続される。出力軸21Bの先端は、電動モータ21のケーシングから外部に突出している。出力軸21Bの先端には、シャフト22が同軸に連結されている。
【0038】
シャフト22は、電動モータ21の出力軸21Bに連結されている。シャフト22は、スピンドル12(小径筒部12C)の内周面側に軸方向に挿入された1本の棒状体により形成されている。シャフト22は、電動モータ21の出力軸21Bの回転を、遊星歯車減速装置25に入力する。シャフト22の軸方向の一方側(基端側)は、スピンドル12の内周面側に位置し、電動モータ21の出力軸21Bに連結(スプライン結合)されている。シャフト22の軸方向の他方側(先端側)は、スピンドル12の軸方向の他端(小径筒部12Cの開口端)から遊星歯車減速装置25に向けて突出し、その先端には後述の太陽歯車27が取り付けられている。また、シャフト22の軸方向の中間部位には、軸方向に段差が形成されたベアリング取付部22Aが設けられている(
図5を参照)。ベアリング取付部22Aには、シャフトベアリング46が取り付けられている。シャフト22の軸方向の中間部位は、シャフトベアリング46によってスピンドル12(小径筒部12C)に回転可能に支持されている。
【0039】
外側ドラム23は、内歯車36と共に車輪取付筒16の一部を構成している。外側ドラム23は、環状のフランジ部23Aを有する段付円筒状に形成されている。外側ドラム23は、車輪取付筒16を構成する延設筒部16Bの端縁部との間において内歯車36を挟み込んでいる。外側ドラム23のフランジ部23Aと内歯車36とに挿入された複数の長尺ボルト24は、延設筒部16Bの端縁部にねじ込まれている。これにより、車輪取付筒16の延設筒部16Bと外側ドラム23との間に内歯車36が固定されている。
【0040】
遊星歯車減速装置25は、スピンドル12の軸方向の他方側に位置してホイール15の車輪取付筒16とシャフト22との間に設けられている。遊星歯車減速装置25は、後述するように、スピンドル12の雌スプライン部12Gにスプライン結合された第2キャリア39によって回転可能に支持された複数の遊星歯車37を有する。
【0041】
遊星歯車減速装置25は、1段目の第1遊星歯車減速機構26と、2段目の第2遊星歯車減速機構34と、により構成されている。遊星歯車減速装置25は、シャフト22を介して電動モータ21(出力軸21B)の回転が伝達されることにより、電動モータ21の回転を2段減速して車輪取付筒16に伝達する。これにより、ホイール15は、後輪4のタイヤ4Aと一緒に大きな回転力(トルク)をもって回転駆動される。
【0042】
第1遊星歯車減速機構26は、シャフト22の先端にスプライン結合された太陽歯車27と、太陽歯車27とリング状の内歯車28とに噛合する複数(1個のみ図示)の遊星歯車29と、複数の遊星歯車29を、支持ピン30を介して回転可能に支持するキャリア31と、により構成されている。
【0043】
キャリア31の外周面側は、車輪取付筒16に一体化された外側ドラム23の軸方向の他方側の端面に、複数のボルト31Aを介して着脱可能に固定されている。キャリア31の内周面側には、円板状の蓋板32がボルト等を用いて着脱可能に取り付けられている。蓋板32は、例えば太陽歯車27と遊星歯車29の噛合部をメンテナンスする際に、キャリア31から取り外されるものである。
【0044】
リング状の内歯車28は、太陽歯車27及び複数の遊星歯車29を径方向外側から取り囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車28は、外側ドラム23の内周面との間に径方向の隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車28の内周面には、全周に亘って内歯が形成されている。この内歯には、複数の遊星歯車29が常に噛合している。内歯車28の回転は、カップリング33を介して2段目の第2遊星歯車減速機構34に伝達される。
【0045】
第1遊星歯車減速機構26は、電動モータ21によってシャフト22と一体に太陽歯車27が回転すると、この太陽歯車27の回転を遊星歯車29の自転運動と公転運動とに変換する。遊星歯車29の自転(回転)は内歯車28に伝達される。内歯車28の回転は、カップリング33を介して2段目の第2遊星歯車減速機構34に伝達される。一方、遊星歯車29の公転は、キャリア31の回転となって外側ドラム23に伝達される。この場合、外側ドラム23は、車輪取付筒16及び内歯車36と一体化している。これにより、遊星歯車29の公転は、内歯車36に同期した回転に抑えられる。
【0046】
カップリング33は、第1遊星歯車減速機構26と第2遊星歯車減速機構34との間に設けられ、1段目の内歯車28と一体に回転する。カップリング33の外周面側は1段目の内歯車28にスプライン結合されている。カップリング33の内周面側は後述する2段目の太陽歯車35にスプライン結合されている。カップリング33は、1段目の内歯車28の回転を2段目の太陽歯車35に伝達し、この太陽歯車35を1段目の内歯車28と一体に回転させる。
【0047】
第2遊星歯車減速機構34は、シャフト22の外周面側に配置された円筒状の太陽歯車35と、太陽歯車35とリング状の内歯車36とに噛合する複数の遊星歯車37(1個のみ図示)と、複数の遊星歯車37を、支持ピン38を介して回転可能に支持する筒状の第2キャリア39と、により構成されている。
【0048】
2段目の内歯車36は、太陽歯車35及び複数の遊星歯車37を径方向外側から取り囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車36は、車輪取付筒16(延設筒部16B)と外側ドラム23との間に長尺ボルト24を用いて一体的に固定されている。内歯車36の内周面には全周に亘って内歯が形成されている。この内歯には、複数の遊星歯車37が噛合している。
【0049】
第2キャリア39の中心部には、スピンドル12に向けて突出する円筒状突出部39Aが一体に形成されている。円筒状突出部39Aの軸方向の一方側(スピンドル12側)の外周面には、雄スプライン部39Bが形成されている。第2キャリア39の雄スプライン部39Bは、スピンドル12(小径筒部12C)の雌スプライン部12Gにスプライン結合されている。したがって、第2キャリア39は、スピンドル12に対して回転不能となっている。
【0050】
第2遊星歯車減速機構34は、第2キャリア39の円筒状突出部39Aがスピンドル12の小径筒部12Cにスプライン結合されることにより、遊星歯車37の公転(第2キャリア39の回転)が拘束される。第2遊星歯車減速機構34は、太陽歯車35がカップリング33と一体に回転すると、この太陽歯車35の回転を遊星歯車37の自転に変換する。遊星歯車37の自転は、内歯車36に伝達される。内歯車36は、減速されて回転する。これにより、内歯車36が固定された車輪取付筒16に対し、第1遊星歯車減速機構26と第2遊星歯車減速機構34とによって2段減速された大出力の回転トルクが伝達され、後輪4が回転駆動される。
【0051】
図4は、
図3に示す走行装置11における湿式ブレーキ装置41付近の詳細図である。
【0052】
ブレーキハブ40は、車輪取付筒16に取り付けられている。ブレーキハブ40は、車輪取付筒16と湿式ブレーキ装置41との間を軸方向に延びる筒状体として形成されている。ブレーキハブ40の軸方向の他方側(車輪取付筒16側)は、ボルト40Aを用いて車輪取付筒16の中空筒部16Aに固定されている。ブレーキハブ40の軸方向の一方側は、スピンドル12の中間筒部12Bの外周面と径方向において対面している。
【0053】
湿式ブレーキ装置41は、ブレーキハブ40を介してスピンドル12と車輪取付筒16との間に設けられている。湿式ブレーキ装置41は、湿式多板型の油圧ブレーキにより構成されている。湿式ブレーキ装置41は、車輪取付筒16に対して制動力を付与する。湿式ブレーキ装置41は、ブレーキハウジング41Aを有する。ブレーキハウジング41Aは、スピンドル12のブレーキ取付部12Dに取り付けられている。ブレーキハウジング41A内には、複数の非回転側ブレーキ板41Bと複数の回転側ブレーキ板41Cとが設けられている。複数の非回転側ブレーキ板41Bと複数の回転側ブレーキ板41Cとは、軸方向に交互に重ね合わせて配置されている。非回転側ブレーキ板41Bは、外周面側が、ブレーキハウジング41Aに係合している。回転側ブレーキ板41Cは、内周面側がブレーキハブ40に係合している。ブレーキハウジング41A内には、ブレーキ液圧によって軸方向に移動することにより、非回転側ブレーキ板41Bと回転側ブレーキ板41Cとを摩擦接触させるブレーキ可動体41Dが設けられている。
【0054】
湿式ブレーキ装置41は、ブレーキペダル(図示せず)の踏込み操作に応じてブレーキハウジング41Aの油室にブレーキ液圧が供給されることにより、ブレーキ可動体41Dを軸方向に移動させる。ブレーキ可動体41Dは、複数の非回転側ブレーキ板41Bと回転側ブレーキ板41Cとを摩擦接触させる。これにより、ブレーキハブ40が固定された車輪取付筒16に対し、制動力が付与される。
【0055】
図5は、
図3に示す走行装置11におけるベアリングリテーナ42付近の詳細図である。
【0056】
ベアリングリテーナ42は、スピンドル12を構成する小径筒部12Cの内周面側に設けられている。ベアリングリテーナ42は、シャフトベアリング46を、スピンドル12を構成する小径筒部12C内に保持する。ベアリングリテーナ42は、スピンドル12とは別部材(別体)から成る。ベアリングリテーナ42は、全体として段付円筒状に形成されている。ベアリングリテーナ42は、スピンドル12を構成する小径筒部12Cの内周面に嵌合する形状を有する。ベアリングリテーナ42は、支持部材50によってスピンドル12を構成する小径筒部12Cの内周面に支持される。
【0057】
具体的には、ベアリングリテーナ42の内周面側には、ベアリング嵌合穴42Bが形成されている。ベアリング嵌合穴42Bは、有底穴から成り、シャフトベアリング46が取り付けられている。ベアリングリテーナ42の円筒状外周面42Dは、スピンドル12のリテーナ嵌合部12Hに、例えば、隙間嵌めによって嵌合しており、径方向に位置決め及び固定される。
【0058】
スピンドル12を構成する小径筒部12Cのリテーナ嵌合部12Hには、径方向に空けられた複数の嵌合穴51が設けられている。同様に、ベアリングリテーナ42の円筒状外周面42Dには、径方向に空けられた複数の嵌合穴52が設けられている。嵌合穴51と嵌合穴52とは、同位相(周方向位置が同一)に設けられている。
【0059】
支持部材50は、嵌合穴51と嵌合穴52とを連通させるように、嵌合穴51及び嵌合穴52に対して挿入及び固定されている。支持部材50は、ピン又はボルトによって構成される。支持部材50は、嵌合穴51及び嵌合穴52に対して、例えば圧入又はねじ止めによって取り付けられている。ベアリングリテーナ42は、支持部材50によって、スピンドル12に対して軸方向に位置決め及び固定され、且つ、周方向に位置決め及び固定される。
【0060】
スリーブ45は、シャフト22のベアリング取付部22Aに設けられている。スリーブ45は、円筒状のベアリング嵌合部45Aと、ベアリング嵌合部45Aよりも大径な円板状のツバ部45Bと、ベアリング嵌合部45Aを挟んでツバ部45Bとは反対側に位置する雄ねじ部45Cと、を有している。スリーブ45は、その内周面側がシャフト22に圧入され、ベアリング取付部22Aに当接した位置でシャフト22に一体化されている。
【0061】
シャフトベアリング46は、遊星歯車減速装置25の第2キャリア39よりも軸方向の一方側に位置して、スピンドル12の内周面側に設けられている。シャフトベアリング46は、スピンドル12(小径筒部12C)の内周面側に取り付けられたベアリングリテーナ42とスリーブ45との間に保持される。シャフトベアリング46は、スピンドル12に対してシャフト22を回転可能に支持している。シャフトベアリング46は、シャフト22の軸方向の中間部位を、スピンドル12の小径筒部12Cに対して回転可能に支持している。
【0062】
シャフトベアリング46は、スリーブ45のベアリング嵌合部45Aに嵌合する内輪46Aと、ベアリングリテーナ42のベアリング嵌合穴42Bに嵌合する外輪46Bと、内輪46Aと外輪46Bとの間に設けられた多数の転動体46Cと、により構成されている。
【0063】
シャフトベアリング46の外輪46Bは、ベアリングリテーナ42のベアリング嵌合穴42Bに嵌合され、止め輪47によって軸方向に位置決め及び固定されている。シャフトベアリング46の内輪46Aは、スリーブ45のベアリング嵌合部45Aに嵌合された状態で、スリーブ45に焼き嵌めされたスペーサ48によって軸方向に位置決め及び固定されている。これにより、走行装置11は、シャフト22の軸方向の中間部位をシャフトベアリング46によって回転可能に支持することができるので、長尺なシャフト22の軸方向の中間部位での芯振れを抑制することができる。
【0064】
本実施形態のダンプトラック1及びその走行装置11は、上記のような構成を有するものであり、以下に、これらの動作について説明する。
【0065】
まず、ダンプトラック1のキャブ7に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧源となる油圧ポンプが回転駆動されると共に、発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行時には、発電機から電動モータ21に電力が供給されることにより、電動モータ21が作動して出力軸21Bが回転し、この出力軸21Bに連結されたシャフト22が回転する。
【0066】
シャフト22の回転は、1段目の第1遊星歯車減速機構26の太陽歯車27から複数の遊星歯車29に伝達される。複数の遊星歯車29の回転は、内歯車28及びカップリング33を介して、2段目の第2遊星歯車減速機構34の太陽歯車35に伝達される。太陽歯車35の回転は、複数の遊星歯車37に伝達される。この際、遊星歯車37を支持する第2キャリア39の雄スプライン部39Bは、スピンドル12(小径筒部12C)の雌スプライン部12Gにスプライン結合されている。したがって、第2キャリア39の回転(遊星歯車37の公転)は拘束される。
【0067】
これにより、遊星歯車37は、太陽歯車35の周囲で自転のみを行い、車輪取付筒16に固定された内歯車36には、遊星歯車37の自転により減速された回転が伝達される。したがって、車輪取付筒16は、第1遊星歯車減速機構26と第2遊星歯車減速機構34とによって2段階に減速された大きな回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪である左右の後輪4は、車輪取付筒16と一体に回転し、ダンプトラック1を走行させることができる。
【0068】
そして、ダンプトラック1は、鉱山で採掘した砕石物等の積載物をベッセル5に積み込む積込作業エリアと、ベッセル5に積載された積載物を放出する放土作業エリアとの間を走行する。
【0069】
ところで、鉱山等で使用されるダンプトラック1は、車体2の重量が大きいだけでなく、ベッセル5に積載した積載物の重量も大きくなる。したがって、ホイール15を介して後輪4を支持するスピンドル12には、車体2の重量と積載物の重量とにより大きな負荷が作用する。この場合、スピンドル12を鍛造によって製造することにより、鋳造によって製造されたスピンドル12と比較して、スピンドル12の強度を高めることができる。しかし、スピンドル12を鍛造によって製造した場合には、スピンドル12の内周面側にベアリングリテーナ42を取り付けるための取付フランジ等を形成することが困難である。
【0070】
これに対し、第1実施形態の走行装置11では、スピンドル12の内周面側に設けられるベアリングリテーナ42は、スピンドル12の内周面に嵌合して設けられ、スピンドル12の雌スプライン部12G及び第2キャリア39のそれぞれから軸方向の一方側に間隔Gを空けて配置される。そして、ベアリングリテーナ42は、支持部材50によってスピンドル12の内周面に対して位置決め及び固定される。
【0071】
これにより、第1実施形態の走行装置11は、鍛造によって強度の高いスピンドル12を製造した場合でも、スピンドル12に対してベアリングリテーナ42を確実に固定することができる。そして、走行装置11は、ベアリングリテーナ42に保持されたシャフトベアリング46によって、シャフト22の軸方向の中間部位を回転可能に支持することができる。したがって、走行装置11は、長尺なシャフト22の軸方向の中間部位での芯振れを抑制することができる。走行装置11は、電動モータ21(出力軸21B)の回転を、シャフト22を介して円滑に遊星歯車減速装置25に伝達することができる。
【0072】
この結果、走行装置11は、ダンプトラック1を安定して走行させることができる。そして、走行装置11は、鍛造によって製造された高強度なスピンドル12を使用することができるので、ダンプトラック1が大型化した場合でも、走行装置11の耐久性を向上させることができる。加えて、走行装置11は、積載量を増大させることができ、積載物を運搬するときの作業性を高めることができる。
【0073】
しかも、走行装置11は、ベアリングリテーナ42と第2キャリア39との間に間隔Gが形成される。これにより、走行装置11は、ベアリングリテーナ42の周辺、すなわちシャフトベアリング46の周辺において、故障検知機能又は潤滑機能を提供する部品のような周辺部品の配置スペースを確保することができる。
【0074】
このように、第1実施形態の走行装置11は、シャフトベアリング46の周辺部品の配置スペースを確保しながら、高強度なスピンドル12に対するシャフトベアリング46の確実な固定構造を容易に実現することができる。
【0075】
なお、上記の実施形態では、鍛造製のスピンドル12を使用した場合を例示している。しかしながら、走行装置11は、例えば、鋳造製のスピンドル12を使用し、このスピンドル12の内周面にベアリングリテーナ42を取り付ける構造としてもよい。この場合、スピンドル12の内周面に取付フランジ等を設ける必要がないので、鋳造金型の形状を簡素化し、鋳造金型を安価に製造することができる。
【0076】
すなわち、本実施形態のベアリングリテーナ42は、スピンドル12とは別部材として製造され、且つ、スピンドル12の内周面に取り付けられる。これにより、本実施形態のスピンドル12は、その内周面に対して、取付フランジのようなベアリングリテーナ42を取り付け及び支持する突起物を設ける必要がない。したがって、本実施形態の走行装置11は、スピンドル12の製造を容易にしつつ、故障検知機能又は潤滑機能等のダンプトラック1の要求に応じてベアリングリテーナ42を個別に用意することが可能となる。
【0077】
また、上記の実施形態では、ダンプトラック1として後輪駆動式のダンプトラックを例に挙げて説明した。しかしながら、ダンプトラック1は、例えば、前輪駆動式のダンプトラックであってもよいし、前輪及び後輪の両方を駆動する4輪駆動式のダンプトラックであってもよい。
【0078】
[第2実施形態]
図6を用いて、第2実施形態のダンプトラック1の走行装置11について説明する。第2実施形態の走行装置11において、第1実施形態と同様の構成要素については、説明を省略する。
【0079】
図6は、第2実施形態の走行装置11におけるベアリングリテーナ42付近の詳細図である。
図6は、
図5に対応する図である。
【0080】
実施形態2の走行装置11は、ベアリングリテーナ42が複数の部品に分割されてシャフトベアリング46を保持していてもよい。
【0081】
具体的には、ベアリングリテーナ42は、スピンドル12に対して位置決め及び固定される第1部材42Xと、シャフトベアリング46を保持する第2部材42Yとに分割される。第1部材42Xは、例えば、隙間嵌めによってスピンドル12の内周面に嵌合され、スピンドル12の内周面に対して径方向に位置決め及び固定される。また、第1部材42Xは、スピンドル12の嵌合穴51と同位相(周方向位置が同一)の嵌合穴52を有しており、支持部材50によって、スピンドル12に対して軸方向に位置決め及び固定され、且つ、周方向に位置決め及び固定される。
【0082】
第2部材42Yは、例えば、隙間嵌めによってスピンドル12の内周面に嵌合され、スピンドル12の内周面に対して径方向に位置決め及び固定される。第2部材42Yは、その内周面にシャフトベアリング46を保持する構造を有する。第2部材42Yは、ボルト等の連結部材53によって第1部材42Xに連結される。この際、第1部材42Xが、第2部材42Yにおける軸方向の一方側の面に連結されることが好ましい。第1部材42Xと第2部材42Yとは連結されることで、シャフトベアリング46を保持し、且つ、シャフト22の軸方向の中間部位を回転可能に支持することができる。
【0083】
このように、第2実施形態の走行装置11は、ベアリングリテーナ42が、支持部材50によってスピンドル12の内周面に支持される第1部材42Xと、シャフトベアリング46を保持する第2部材42Yと、を有する。第1部材42Xは、第2部材42Yとは別部材から成り、連結部材53によって第2部材42Yに連結されている。
【0084】
これにより、第2実施形態の走行装置11は、ベアリングリテーナ42の第1部材42Xをスピンドル12に固定したまま、第2部材42Yと共に結合されているシャフト22及びシャフトベアリング46のみを分解し、再組立てすることができる。これにより、走行装置11は、メンテナンス時の部品交換を容易に行うことができる。鉱山等で使用されるダンプトラック1の走行装置11は、部品の重量が大きくコストが高い傾向にあり、消耗部品の効率的な交換が求められるので、部品交換の容易さは利点となる。
【0085】
更に、第2実施形態の走行装置11は、ベアリングリテーナ42の第1部材42Xが第2部材42Yにおける軸方向の一方側の面に連結される。これにより、走行装置11では、第1部材42Xをスピンドル12に固定したまま第2部材42Yを分解及び再組立てする際、第2部材42Yが第1部材42Xと干渉しなくて済む。したがって、走行装置11は、メンテナンス時の部品交換を更に容易に行うことができる。
【0086】
[第3実施形態]
図7を用いて、第3実施形態のダンプトラック1の走行装置11について説明する。第3実施形態の走行装置11において、第1及び第2実施形態と同様の構成要素については、説明を省略する。
【0087】
図7は、第3実施形態の走行装置11におけるベアリングリテーナ42付近の詳細図である。
図7は、
図5に対応する図である。
【0088】
第3実施形態の走行装置11は、ベアリングリテーナ42と第2キャリア39との間に位置する間隔Gに、シャフトベアリング46の温度及び振動の少なくとも1つを監視するセンサ70が設けられてもよい。
【0089】
センサ70は、ベアリングリテーナ42の第2キャリア39側(軸方向の他方側)の面に締結されている。センサ70は、シャフトベアリング46の温度及び振動の少なくとも1つを直接測定することができる。或いは、センサ70は、シャフトベアリング46と相関性を有するシャフトベアリング46付近の部位における温度及び振動の少なくとも1つを間接的に測定することができる。センサ70に付随するセンサ配線71は、ベアリングリテーナ42の外周面に設けられた切欠溝42Eを通り、スピンドル12の内周面に沿って電動モータ21側(軸方向の一方側)に向かって配索され、走行装置11の外部からの測定操作を可能とする。
【0090】
切欠溝42Eは、ベアリングリテーナ42をスピンドル12に位置決め及び固定する支持部材50とは異なる位相(周方向位置が異なる)に設けられる。したがって、切欠溝42Eを設けることによって、支持部材50の位置決め及び固定機能が損われることはない。
【0091】
このように、第3実施形態の走行装置11では、スピンドル12の内周面側に、シャフトベアリング46の温度及び振動の少なくとも1つを監視するセンサ70が設けられている。センサ70は、ベアリングリテーナ42と第2キャリア39との間に位置する間隔Gに配置されている。
【0092】
これにより、第3実施形態の走行装置11は、シャフトベアリング46の異常又は故障を早期に検知することができる。走行装置11は、部品交換又はメンテナンスを早期に実施することができ、ダンプトラック1の稼働停止時間を短縮することができる。
【0093】
[第4実施形態]
図8~
図10を用いて、第4実施形態のダンプトラック1の走行装置11について説明する。第4実施形態の走行装置11において、第1~第3実施形態と同様の構成要素については、説明を省略する。
【0094】
図8は、第4実施形態の走行装置11におけるベアリングリテーナ42付近の詳細図である。
図8は、
図5に対応する図である。
図9は、
図8に示す給油配管61の配索構造を示す図である。
図10は、
図9に示す給油配管80への潤滑油の供給源を示す図である。
【0095】
第4実施形態の走行装置11は、ベアリングリテーナ42と第2キャリア39との間に位置する間隔Gに、スピンドル12の雌スプライン部12Gに潤滑油を供給する給油配管60の供給口60Aが設けられてもよい。
【0096】
ベアリングリテーナ42には、潤滑油を導くために、軸方向に延びる油路穴62が設けられている。供給口60Aを有する給油配管60は、ベアリングリテーナ42の第2キャリア39側(軸方向の他方側)の面に締結され、油路穴62に連通する。油路穴62は、ベアリングリテーナ42の電動モータ21側(軸方向の一方側)の面に締結された給油配管61に連通する。
【0097】
給油配管61は、
図9に示すように、スピンドル12の内周面を沿って電動モータ21側(軸方向の一方側)に向かって配索され、スピンドル12のモータ取付座12Fに設けられた油路穴12Iを介して、給油配管80に連通する。
【0098】
給油配管80は、アクスルハウジング10内に配置される。給油配管80は、
図10に示すように、スピンドル12のモータ取付座12Fに設けられた油路穴12Jを介して、給油配管83に連通する。給油配管80の途中には、ポンプ84及びフィルタ85が設けられており、ポンプ84の動力によって潤滑油を吸い上げている。給油配管83は、スピンドル12の内周面を沿ってベアリングリテーナ42側(軸方向の他方側)に向かって配索される。給油配管83は、ベアリングリテーナ42の電動モータ21側(軸方向の一方側)の面に締結され、ベアリングリテーナ42に設けられた油路穴86に連通する。油路穴86は、ベアリングリテーナ42の第2キャリア39側(軸方向の他方側)の面に締結されたサクション配管82に連通する。
【0099】
サクション配管82は、走行装置11内の潤滑油溜まり81から潤滑油を吸い込むための配管である。潤滑油溜まり81の液面高さは、電動モータ21によってシャフト22が回転駆動される際の攪拌抵抗、及び、遊星歯車減速装置25を構成する各種歯車の回転抵抗を低減するために、スピンドル12の小径筒部12Cよりも下方に設定されている。例えば、潤滑油溜まり81の液面高さは、スピンドル12の小径筒部12Cの外周面と、ホイール15の車輪取付筒16の中空筒部16Aの内周面との間に当該液面が位置する高さに設定されている。ホイールベアリング17,18の少なくとも一部は、潤滑油溜まり81に浸漬している。サクション配管82は、スピンドル12の小径筒部12Cを貫通して、潤滑油溜まり81に向かって延びる。サクション配管82は、潤滑油溜まり81から潤滑油を吸い込む吸込口82Aを有する。吸込口82Aは、潤滑油溜まり81に浸漬している。
【0100】
ポンプ84の動力によって潤滑油溜まり81から吸込口82Aに吸い込まれた潤滑油は、サクション配管82、油路穴86、給油配管83、油路穴12J及び給油配管80をこの順に経由して、ポンプ84に吸い上げられる。ポンプ84に吸い上げられた潤滑油は、フィルタ85、給油配管80、油路穴12I、給油配管61、油路穴62及び給油配管60をこの順に経由して、供給口60Aからスピンドル12の雌スプライン部12Gに供給される。
【0101】
なお、
図9に示した給油配管60,61,80と、
図10に示した給油配管80,83及びサクション配管82とは、互いに異なる位相に設けられており、干渉しない。
【0102】
このように、第4実施形態の走行装置11は、スピンドル12の内周面側に、スピンドル12の雌スプライン部12Gに潤滑油を供給する供給口60Aを有する給油配管60が設けられている。給油配管60の供給口60Aは、ベアリングリテーナ42と第2キャリア39との間に位置する間隔Gに配置されている。
【0103】
これにより、第4実施形態の走行装置11は、潤滑油溜まり81の液面高さよりも上方に位置して潤滑油が不足し易いスピンドル12の雌スプライン部12Gに潤滑油を供給することができる。更に、走行装置11は、雌スプライン部12Gのベアリングリテーナ42側(軸方向の一方側)から潤滑油を供給するので、ベアリングリテーナ42付近のシャフトベアリング46に対しても潤滑油を供給し易くすることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、各実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素に追加したり、或る実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置換したり、或る実施形態の構成要素の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0105】
1…ダンプトラック、2…車体、3…前輪、3A…前輪側サスペンション、4…後輪、4A…タイヤ、4B…後輪側サスペンション、5…ベッセル、5A…庇部、6…連結ピン、7…キャブ、8…エンジン、9…ホイストシリンダ、10…アクスルハウジング、11…走行装置、12…スピンドル、12A…大径筒部、12B…中間筒部、12C…小径筒部、12D…ブレーキ取付部、12E…段差部、12F…モータ取付座、12G…雌スプライン部(スプライン部)、12H…リテーナ嵌合部、12I…油路穴、12J…油路穴、13…ボルト、15…ホイール、15A…リム、16…車輪取付筒、16A…中空筒部、16B…延設筒部、17,18…ホイールベアリング、19,20…ベアリングリテーナ、21…電動モータ(回転源)、21A…取付フランジ、21B…出力軸、22…シャフト、22A…ベアリング取付部、23…外側ドラム、23A…フランジ部、24…長尺ボルト、25…遊星歯車減速装置、26…第1遊星歯車減速機構、27…太陽歯車、28…内歯車、29…遊星歯車、30…支持ピン、31…キャリア、31A…ボルト、32…蓋板、33…カップリング、34…第2遊星歯車減速機構、35…太陽歯車、36…内歯車、37…遊星歯車、38…支持ピン、39…第2キャリア(キャリア)、39A…円筒状突出部、39B…雄スプライン部、40…ブレーキハブ、41…湿式ブレーキ装置、41A…ブレーキハウジング、41B…非回転側ブレーキ板、41C…回転側ブレーキ板、41D…ブレーキ可動体、42…ベアリングリテーナ、42B…ベアリング嵌合穴、42D…円筒状外周面、42E…切欠溝、42X…第1部材、42Y…第2部材、45…スリーブ、45A…ベアリング嵌合部、45B…ツバ部、45C…雄ねじ部、46…シャフトベアリング、46A…内輪、46B…外輪、46C…転動体、47…止め輪、48…スペーサ、50…支持部材、51…嵌合穴、52…嵌合穴、53…連結部材、60…給油配管、60A…供給口、61…給油配管、62…油路穴、70…センサ、71…センサ配線、80…給油配管、81…潤滑油溜まり、82…サクション配管、82A…吸込口、83…給油配管、84…ポンプ、85…フィルタ