(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005850
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】冷却用熱交換器
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H05K7/20 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106249
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】若園 幸典
(72)【発明者】
【氏名】杠 千秋
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕志
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 亮祐
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA06
5E322AA10
5E322AB06
5E322DA04
5E322FA01
(57)【要約】
【課題】合成樹脂化による重量の軽減を有効に実現しつつ、強度の確保や品質の安定化を実現することができる、新規な構造の冷却用熱交換器を提供する。
【解決手段】冷却対象36に重ね合わされる金属プレート12と、凹溝20を備えた板状の樹脂部材14とが、相互に重ね合わされて固着されており、凹溝20の開口が金属プレート12で覆われることによって金属プレート12と樹脂部材14の間に熱媒体が流動する冷却流路34が形成された冷却用熱交換器10であって、樹脂部材14で構成された冷却流路34の底面28が、流路長さ方向と直交する横断面において凹状湾曲面を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象に重ね合わされる金属プレートと、凹溝を備えた板状の樹脂部材とが、相互に重ね合わされて固着されており、該凹溝の開口が該金属プレートで覆われることによって該金属プレートと該樹脂部材の間に熱媒体が流動する冷却流路が形成された冷却用熱交換器であって、
前記樹脂部材で構成された前記冷却流路の底面が、流路長さ方向と直交する横断面において凹状湾曲面を有している冷却用熱交換器。
【請求項2】
前記金属プレートには、前記樹脂部材に向けて開口して該樹脂部材と反対側へ突出する溝状のビード部が設けられており、該ビード部が前記冷却流路の壁部を構成している請求項1に記載の冷却用熱交換器。
【請求項3】
前記冷却流路の底面が流路幅方向の全体に亘って連続する前記凹状湾曲面を含んで構成されている請求項1又は2に記載の冷却用熱交換器。
【請求項4】
前記凹状湾曲面の曲率が0.5以下とされている請求項3に記載の冷却用熱交換器。
【請求項5】
前記冷却流路の底面が流路幅方向で並列的に設けられた複数の前記凹状湾曲面を含んで構成されている請求項1又は2に記載の冷却用熱交換器。
【請求項6】
前記凹状湾曲面の曲率が2.0以下とされている請求項5に記載の冷却用熱交換器。
【請求項7】
前記金属プレートがアルミニウム合金製とステンレス鋼製との何れかであり、
前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法は、該金属プレートがアルミニウム合金製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して2.6倍未満であり、該金属プレートがステンレス鋼製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して8.8倍未満とされている請求項1又は2に記載の冷却用熱交換器。
【請求項8】
前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法は、該金属プレートがアルミニウム合金製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して1.0倍以上且つ2.5倍以下の範囲内とされており、該金属プレートがステンレス鋼製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して3.5倍以上且つ8.7倍以下の範囲内とされている請求項7に記載の冷却用熱交換器。
【請求項9】
前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法に対する前記凹溝の底壁部の最小厚さ寸法が0.3倍以上且つ1.0倍以下の範囲内とされている請求項1又は2に記載の冷却用熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の電動化車両においてバッテリーパック等の冷却対象の冷却に用いられる冷却用熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等の電動化車両において、冷却対象であるバッテリーパックや電子機器等は、小型化や高性能化によって発熱量が大きくなっており、冷却性能の重要性が増している。バッテリーパック等の冷却には、従来、相互に重ね合わされた金属製のプレート間に冷却流路が形成された構造の冷却用熱交換器が採用されていた。この冷却用熱交換器は、一方のプレートがバッテリーパック等の冷却対象に重ね合わされており、当該一方のプレートが冷却流路を流れる冷媒で冷却されることによって冷却対象が冷却されるようになっている。
【0003】
また、電動化車両では車両の軽量化への強い要求があることから、冷却用熱交換器の軽量化も検討されている。例えば、国際公開第2020/196878号(特許文献1)には、冷却対象に重ね合わされて高い熱伝導率が求められる一方のプレートを金属製とし、熱伝導性能を求められない他方のプレートを金属よりも比重が小さい合成樹脂製の樹脂部材とすることが提案されている。特許文献1において、樹脂部材は、上方へ開口する箱体とされており、箱体内には流路形成用リブが箱体と一体的に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者が検討したところ、特許文献1の構造では、樹脂部材の重量が大きくなってしまい、他方のプレートを金属製から合成樹脂製に変更する目的の1つである軽量化が十分に達成されないおそれがあることが分かった。
【0006】
すなわち、特許文献1のような内部に流路形成用リブが設けられた箱体を合成樹脂で形成しようとする場合に、品質の安定性や強度(変形剛性)を十分に確保できる肉厚を設定すると、樹脂部材の重量が大きくなって、軽量化のメリットが十分に得られなくなるおそれがある。一方、樹脂部材の軽量化のために箱体及び流路形成用リブの各部の肉厚を薄くすると、射出成形時の成形不良が発生し易くなって安定した品質で製造することが難しくなったり、冷却流路を流れる冷媒の液圧や外部からの入力に対する強度が確保できなくなったりするおそれがあった。
【0007】
本発明の解決課題は、合成樹脂化による重量の軽減を有効に実現しつつ、強度の確保や品質の安定化を実現することができる、新規な構造の冷却用熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、冷却対象に重ね合わされる金属プレートと、凹溝を備えた板状の樹脂部材とが、相互に重ね合わされて固着されており、該凹溝の開口が該金属プレートで覆われることによって該金属プレートと該樹脂部材の間に熱媒体が流動する冷却流路が形成された冷却用熱交換器であって、前記樹脂部材で構成された前記冷却流路の底面が、流路長さ方向と直交する横断面において凹状湾曲面を有しているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、樹脂部材が板状とされており、箱状の場合に比して、成形用金型のキャビティにおける屈曲部分が少なくなることから、樹脂材料がキャビティの全体に充填され易く、ヒケやボイド等の成形不良が発生し難い。また、樹脂部材が板状とされていることによって、箱状の場合に問題となり得る屈曲部分への応力集中が回避されることから、樹脂部材の薄肉化を有利に実現することができる。
【0011】
冷却流路の底面が凹状湾曲面を有していることにより、冷却流路を流れる熱媒体から凹状湾曲面に及ぼされる圧力の作用方向が、全体に亘って一定方向となることなく、各部における壁内面との直交方向となって分散する。それゆえ、冷却流路の底面に作用する圧力に基づく力の最大値が抑えられて、冷却流路の壁部において樹脂部材で構成された部分の耐圧性能の向上が図られる。その結果、冷却流路の壁部の耐圧強度を確保しながら、樹脂部材をより薄肉化することが可能となって、冷却用熱交換器の軽量化を実現することができる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記金属プレートには、前記樹脂部材に向けて開口して該樹脂部材と反対側へ突出する溝状のビード部が設けられており、該ビード部が前記冷却流路の壁部を構成しているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、冷却流路の流路断面積が、金属プレートのビード部によっても確保されることから、樹脂部材における凹溝の溝断面積をより小さくすることができて、樹脂部材をより薄肉とすることによる軽量化を実現できる。また、金属プレートにビード部を設けることによって、金属プレートの変形剛性を補強する作用も期待できることから、金属プレートの薄肉化による重量の軽減も実現可能となる。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記冷却流路の底面が流路幅方向の全体に亘って連続する前記凹状湾曲面を含んで構成されているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、凹状湾曲面が冷却流路の底面において流路幅方向の全体に亘って設けられていることから、冷却流路の底面に対する熱媒体の圧力作用方向の分散化等によって、樹脂部材の耐圧性能の向上がより効果的に実現される。
【0016】
また、冷却流路の流路幅方向の両端部において、冷却流路の底壁部を構成する樹脂部材の板厚方向の厚さ寸法が確保されて、冷却流路の流路幅方向の中間に向けて樹脂部材の厚さ寸法が小さくなることから、樹脂部材の成形用キャビティにおける冷却流路の底壁部の成形部分に樹脂材料が充填され易く、底壁部の成形不良が回避されて、品質の安定化が図られる。
【0017】
第四の態様は、第三の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記凹状湾曲面の曲率が0.5以下とされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、冷却流路の流路深さ寸法に対する流路幅寸法の比が大きくなることから、樹脂部材の板厚を薄くしても、冷却流路の流路断面積を確保することができて、樹脂部材の軽量化が図られる。
【0019】
第五の態様は、第一又は第二の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記冷却流路の底面が流路幅方向で並列的に設けられた複数の前記凹状湾曲面を含んで構成されているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、各凹状湾曲面によって熱媒体の圧力の作用方向を分散化させることで、樹脂部材の耐圧性能の向上が図られる。また、複数の凹状湾曲面の間が冷却流路の流路長さ方向に延びるリブ状となることから、樹脂部材の曲げ変形に対する変形剛性を高める効果も期待できる。
【0021】
第六の態様は、第五の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記凹状湾曲面の曲率が2.0以下とされているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、冷却流路の流路深さ寸法に対する流路幅寸法の比が大きくなることから、樹脂部材の板厚を薄くしても、冷却流路の流路断面積を確保することができて、樹脂部材の軽量化が図られる。
【0023】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された冷却用熱交換器において、前記金属プレートがアルミニウム合金製とステンレス鋼製との何れかであり、前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法は、該金属プレートがアルミニウム合金製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して2.6倍未満であり、該金属プレートがステンレス鋼製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して8.8倍未満とされているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、金属プレートに比して合成樹脂製の樹脂部材が軽量となることから、金属プレートを2枚重ね合わせた従来構造の冷却用熱交換器よりも軽量とすることができる。
【0025】
第八の態様は、第七の態様に記載された冷却用熱交換器において、前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法は、該金属プレートがアルミニウム合金製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して1.0倍以上且つ2.5倍以下の範囲内とされており、該金属プレートがステンレス鋼製の場合に該金属プレートの板厚寸法に対して3.5倍以上且つ8.7倍以下の範囲内とされているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、樹脂部材の強度を確保しながら、樹脂部材を金属プレートよりも軽量とすることができる。
【0027】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された冷却用熱交換器において、前記凹溝を外れた部分における前記樹脂部材の板厚寸法に対する前記凹溝の底壁部の最小厚さ寸法が0.3倍以上且つ1.0倍以下の範囲内とされているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた冷却用熱交換器によれば、凹溝の形成部分において樹脂部材が過剰に薄肉となるのを防いで樹脂部材の強度を確保しながら、凹溝の深さを確保することで冷却流路の流路断面積を十分に大きく設定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、冷却用熱交換器において、合成樹脂化による重量の軽減を有効に実現しつつ、強度の確保や品質の安定化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての冷却用熱交換器を示す分解斜視図
【
図3】本発明の第二の実施形態としての冷却用熱交換器を示す断面図
【
図4】本発明の第三の実施形態としての冷却用熱交換器を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1には、本発明の第一の実施形態としての冷却用熱交換器10が示されている。冷却用熱交換器10は、
図2にも示すように、金属プレート12と樹脂部材としての樹脂プレート14とが相互に重ね合わされて固着された構造を有しており、
図1では、それら金属プレート12と樹脂プレート14とが相互に分離した分解状態で示されている。以下の説明において、上下方向とは金属プレート12と樹脂プレート14との重ね合わせ方向である
図2中の上下方向を、前後方向とは
図2中の左右方向を、左右方向とは
図2中の紙面直交方向を、それぞれ言う。
【0033】
金属プレート12は、冷却対象(後述するバッテリーパック36)に重ね合わされる板状の部材であって、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の金属によって形成されている。本実施形態の金属プレート12は、アルミニウム合金製とされている。金属プレート12は、全体として矩形板状とされており、本実施形態では上下方向視で長方形とされて、前後方向が長辺方向、左右方向が短辺方向とされている。
【0034】
金属プレート12には、複数のビード部としての第一のビード部16が設けられている。第一のビード部16は、
図2に示す断面において略半円弧形状とされており、金属プレート12の下面において溝状に開口していると共に、金属プレート12の上面において先細凸状に突出している。本実施形態では、金属プレート12の長辺方向(前後方向)で直線的に延びる3つの第一のビード部16,16,16が、金属プレート12に設けられている。3つの第一のビード部16,16,16は、金属プレート12の中央部分に設けられており、金属プレート12の短辺方向で相互に離隔して並んで形成されている。
【0035】
金属プレート12には、複数の第二のビード部18が設けられている。第二のビード部18は、第一のビード部16と同様に略半円弧状の断面形状とされており、金属プレート12の下面において溝状に開口していると共に、金属プレート12の上面において先細凸状に突出している。本実施形態では、金属プレート12の左右方向(短辺方向)で直線的に延びる2つの第二のビード部18,18が、金属プレート12に設けられている。2つの第二のビード部18,18は、金属プレート12の前後方向(長辺方向)の両端部分において左右方向の中央部分に設けられている。2つの第二のビード部18,18は、3つの第一のビード部16,16,16に対して、前後方向の両外側に位置している。なお、第一,第二のビード部16,18を備える金属プレート12は、例えば、金属素板のプレス加工によって形成される。
【0036】
金属プレート12は、全体が略一定の板厚寸法t1とされている。金属プレート12の板厚寸法t1は、0.3mm以上且つ1.5mm以下の範囲内とされていることが望ましく、より好適には0.4mm以上且つ1.0mm以下の範囲内とされている。なお、金属プレート12の板厚寸法が一定であるとは、明らかな厚肉部分や薄肉部分がないことを言い、例えば、プレス加工によって形成される第一,第二のビード部16,18において僅かに薄肉となる程度の厚さの違いは無視することができ、本実施形態の金属プレート12は実質的に一定の板厚寸法であるとみなすことができる。
【0037】
樹脂プレート14は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂によって形成された板状部材とされている。樹脂プレート14は、上下方向視において金属プレート12と略対応する矩形状とされている。樹脂プレート14の下面は、大きな凹凸のない略平坦な形状とされており、上下方向と略直交して広がる平面とされている。なお、樹脂プレート14は、ガラス繊維やカーボン繊維等で補強された強化樹脂部材であってもよい。
【0038】
樹脂プレート14には、上面に開口する凹溝20が形成されている。凹溝20は、
図1に示すように、樹脂プレート14の前後方向に延びる3つの中間溝部22,22,22と、それら3つの中間溝部22,22,22の左右両外側において前後方向に延びる2つの外側溝部24,24と、2つの外側溝部24,24の間を左右方向に延びて、3つの中間溝部22,22,22を前後両端部において相互に接続する2つの接続溝部26,26とを、備えている。2つの外側溝部24,24は、前後方向の各一方の端部において2つの接続溝部26,26よりも前後方向の各一方の外側へ突出している。なお、樹脂プレート14の上面は、凹溝20を外れた部分において、下面と略平行に広がる平面とされている。
【0039】
凹溝20の底面28は、
図2に示すように、長さ方向と直交する断面において上方へ向かって凹状となる凹状湾曲面によって構成されている。本実施形態では、凹溝20の底面28が、溝幅方向の全体に亘って連続する凹状湾曲面で構成されている。凹溝20の底面28の曲率は、0.5以下とされることが望ましい。凹溝20の溝内面は、本実施形態のように底面28と側面30,30とを備えていてもよいし、全体が凹状湾曲面からなる底面28によって構成されていてもよい。本実施形態では、凹溝20の底面28が略一定の曲率を有する円弧断面形状とされているが、曲率は徐々に或いは段階的に変化していてもよい。
【0040】
樹脂プレート14は、凹溝20を外れた部分の板厚寸法t2が略一定とされており、当該板厚寸法t2が最大厚さ寸法とされている。また、樹脂プレート14は、凹溝20の形成部分において部分的に薄肉とされている。凹溝20の底面28は、溝幅方向(
図2中の左右方向)の中央が最下点とされており、樹脂プレート14は、凹溝20の形成部分における溝幅方向の中央において最も薄肉となっている。凹溝20の底壁部における樹脂プレート14の最小厚さ寸法t3は、樹脂プレート14の板厚寸法t2に対して、0.3倍以上且つ1.0倍以下の範囲内とされていることが望ましい。
【0041】
樹脂プレート14の板厚寸法t2は、金属プレート12の板厚寸法t1に対して、2.6倍未満であることが望ましい。樹脂プレート14の板厚寸法t2は、アルミニウム合金製の金属プレート12の板厚寸法t1に対して、好適には1.0倍以上且つ2.5倍以下の範囲内とされ、より好適には1.5倍以上且つ2.2倍以下の範囲内とされる。これにより、樹脂プレート14を金属プレート12よりも軽量とすることができて、重ね合わされて後述する冷却流路34を構成する上下の板状部材を何れも金属プレート12と同等の金属部材で構成する場合に比して、冷却用熱交換器10の軽量化が図られる。
【0042】
凹溝20は、溝幅寸法が最大深さ寸法よりも大きくされており、溝幅寸法が最大深さ寸法に対して2倍以上且つ10倍以下の範囲内とされていることが望ましい。また、凹溝20の最大深さ寸法は、凹溝20の最小深さ寸法に対して、好適には1.2倍以上且つ2倍以下の範囲内とされている。
【0043】
図2に示すように、金属プレート12と樹脂プレート14は、上下方向において相互に重ね合わされており、凹溝20を外れた部分での重ね合わせ面間に接着剤層32が形成されて、相互に接着されている。なお、金属プレート12と樹脂プレート14との固着手段は、接着に限定されず、例えば、溶着、リベットやねじ等による機械的な固定などであってもよい。また、
図2において、金属プレート12と樹脂プレート14と接着剤層32との厚さ寸法は、必ずしも実際の比率となっておらず、例えば、見易さのために接着剤層32の厚さ寸法が特に大きく描かれている。
【0044】
金属プレート12が樹脂プレート14の上面に重ね合わされて、凹溝20の開口が金属プレート12によって覆われることにより、金属プレート12と樹脂プレート14との重ね合わせ面間に冷却流路34が形成されている。冷却流路34は、金属プレート12の下面と凹溝20の底面28との対向面間距離である流路深さ寸法よりも、凹溝20の溝幅寸法である流路幅寸法が大きくされている。冷却流路34は、天壁部(上壁部)が金属プレート12で構成されている。冷却流路34は、底壁部(下壁部)が樹脂プレート14で構成されており、底面が凹溝20の底面28で構成されている。冷却流路34は、側壁部が凹溝20の側面30と接着剤層32とによって構成されている。
【0045】
金属プレート12の第一のビード部16,16,16は、凹溝20の中間溝部22,22,22の各1つの開口上に位置しており、冷却流路34の天壁部を構成している。そして、下面に開口する溝状とされた第一のビード部16,16,16によって、冷却流路34の流路断面積がより大きくされている。このように、中間溝部22,22,22による構成部分での冷却流路34の流路断面積が、金属プレート12の第一のビード部16,16,16を利用して大きく確保されることから、中間溝部22,22,22の各幅寸法を比較的に小さくしても、中間溝部22,22,22による構成部分での冷却流路34の流路断面積を十分に確保することができる。なお、第一のビード部16の幅寸法は、凹溝20の中間溝部22の溝幅寸法よりも小さくされており、好適には中間溝部22の溝幅寸法の半分以下とされている。
【0046】
なお、第二のビード部18,18は、凹溝20を外れた位置に設けられており、冷却流路34の壁部を構成しない。また、第二のビード部18,18の下側に形成される溝状の空所には接着剤が入り込んでおり、接着剤層32の金属プレート12に対する固着面積が、第二のビード部18,18によって大きくされている。接着剤層32は、第二のビード部18,18を外れた部分で略一定の厚さ寸法であると共に、第二のビード部18,18の形成部分において他の部分よりも厚肉となっている。
【0047】
2つの外側溝部24,24の各一方の端部によって構成された冷却流路34の両端部は、金属プレート12に設けられる図示しない入口側及び出口側の各外部ポートを通じて、図示しない外部管路に接続される。そして、入口側の外部ポートから冷却流路34へ熱媒体としての冷媒が供給されて、冷却流路34内の冷媒が出口側の外部ポートから外部へ排出されるようになっている。これにより、冷媒が冷却流路34を流れて、冷却流路34の壁部を構成する金属プレート12が冷媒によって冷却される。なお、外部ポートは、樹脂プレート14に設けられていてもよい。また、外部ポートは、金属プレート12や樹脂プレート14に一体的に設けられていてもよいし、それらプレート12,14とは別部品とされて、それらプレート12,14の少なくとも一方に取り付けられていてもよい。
【0048】
冷媒は、冷却流路34内を流動可能な流体とされている。冷媒として使用される流体の種類は、特に限定されないが、例えば、水、アンモニア、空気等の液体又は気体が好適に用いられる。なお、金属プレート12と樹脂プレート14は、重ね合わせ面間が冷却流路34の周囲で流体密に固着されており、冷却流路34内の冷媒の外部への漏れ出しが防止されている。本実施形態では、金属プレート12と樹脂プレート14の重ね合わせ面間の流体密性が、接着剤層32によって確保されているが、リベットやねじ等による機械的な固定を採用する場合などには、例えば、金属プレート12と樹脂プレート14の重ね合わせ面間にシールゴムを配する等して、冷却流路34の液密性を確保することもできる。
【0049】
冷媒は、図示しないポンプによって圧送されて冷却流路34内を流れることから、冷却流路34の壁内面には冷媒の圧力が作用する。特に、冷却流路34の壁面において面積が大きい底面28と天面とに対して、冷媒の圧力に基づく大きな力が作用する。冷却流路34の壁面における天面は、金属プレート12によって構成されることから、冷媒の圧力に基づく大きな力が作用しても、亀裂などの損傷が生じ難い。一方、冷却流路34の壁面における底面28は、合成樹脂製の樹脂プレート14で構成されることから、冷媒の圧力に基づく大きな力が作用する場合に、亀裂などの損傷が問題になり易い。ここにおいて、冷却流路34の底面28は、凹状湾曲面で構成されており、底面28に対する冷媒の圧力の作用方向が溝幅方向で一定ではなく変化していることから、底面28に作用する圧力に基づく力の最大値が抑制されている。
【0050】
すなわち、仮に冷却流路34の底面が上下方向と直交する平面であれば、底面に作用する圧力はすべて同じ下向きに作用することから、その合力は底面の面積と圧力の積となる。一方、冷却流路34の底面28が凹状湾曲面とされていれば、底面28に対する圧力の作用方向は、各部位における底面28との直交方向となって、相互に異なる方向となることから、冷媒の圧力によって底面28に作用する最大の力である下向きの力は、底面が平面の場合よりも小さくなる。従って、樹脂プレート14における凹溝20の底壁部分において、冷媒の圧力に基づいて作用する力の最大値が低減されて、他の部分よりも薄肉となる凹溝20の底壁部分における耐圧性能を確保し易くなる。
【0051】
冷却用熱交換器10は、例えば、電気自動車(BEV)やハイブリッドカー等の電動化車両におけるバッテリーパック36の冷却などに用いられる。即ち、
図2に示すように、冷却対象としてのバッテリーパック36が熱伝導層38を介して金属プレート12に重ね合わされており、冷却流路34を流れる冷媒によって冷却された金属プレート12と、発熱体であるバッテリーパック36との間で熱伝導層38を介した熱の授受が生じることにより、バッテリーパック36が冷却されるようになっている。
【0052】
熱伝導層38は、金属プレート12の上面を覆って設けられており、例えばシート状やゲル状とされている。熱伝導層38は、熱伝導率が高い材料で形成されており、例えば、合成樹脂製の基材に銅や銀などの熱伝導率が高い金属粉末等を混合した熱伝導樹脂等が採用され得る。熱伝導層38は、金属プレート12の上面とバッテリーパック36の下面との重ね合わせ面間を充填可能となるように、十分な厚みと圧縮変形性とを有していることが望ましい。本実施形態では、バッテリーパック36の下面が略平面とされていることから、熱伝導層38は、上面が平面形状に保持されながら、下面が第一,第二のビード部16,18による金属プレート12の上面の凹凸に対して追従可能となるように、厚みと圧縮変形性が設定される。なお、熱伝導層38は、上面がバッテリーパック36の下面に対応し、下面が金属プレート12の上面に対応する形状で、予め形成されていてもよく、この場合には圧縮変形性の要求レベルが低減され得る。熱伝導層38は、好適には、金属プレート12と樹脂プレート14との間で挟み込まれることにより、金属プレート12と樹脂プレート14との重ね合わせ面に対応する形状に変形する。
【0053】
図3には、本発明の第二の実施形態としての冷却用熱交換器40が示されている。冷却用熱交換器40は、金属プレート12と樹脂部材としての樹脂プレート42とが重ね合わされて、接着剤層32で相互に接着された積層構造を有している。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0054】
樹脂プレート42には、上面に開口する凹溝44が形成されている。本実施形態の凹溝44は、複数の並列溝状部46を含んで構成されている。並列溝状部46は、樹脂プレート42の上面に開口して凹溝44の長さ方向に延びており、凹溝44の溝幅方向で複数が並列的に配されている。本実施形態の凹溝44では、5つの並列溝状部46,46,46,46,46が並列的に設けられているが、凹溝44に設けられる並列溝状部46の数は、複数であればよく、特に限定されない。本実施形態では、5つの並列溝状部46,46,46,46,46が相互に略一定の間隔で配置されている。また、本実施形態において、並列溝状部46は、凹溝44の溝幅方向において相互に離隔しているが、例えば、凹溝44の溝幅方向で相互に隣接して設けられていてもよい。なお、並列溝状部46は、凹溝44の溝長さ方向の全体に亘って設けられていてもよいし、溝長さ方向で部分的に設けられていてもよい。
【0055】
並列溝状部46の底面48は、
図3に示す凹溝44の長さ方向と直交する断面において、それぞれ凹形にへこんだ凹状湾曲面とされている。従って、凹溝44の底面は、溝幅方向で並列的に並んで設けられた複数の凹状湾曲面を備えている。各並列溝状部46の深さ寸法は、幅方向の略中央において最大となっている。並列溝状部46の底面48の曲率は、2.0以下とされることが望ましい。
【0056】
本実施形態において複数の並列溝状部46は大きさや深さ、曲率半径等が互いに略同じとされているが、複数の並列溝状部46の大きさや深さ、曲率半径等の形状は、相互に異なっていてもよい。
【0057】
凹溝44の溝幅方向で隣り合う2つの並列溝状部46,46の間には、リブ状突出部50が形成されている。リブ状突出部50は、凹溝44の溝長さ方向に連続して延びており、突出先端面が上下方向と略直交して広がる平面とされている。リブ状突出部50の突出先端面の幅寸法は、好適には、並列溝状部46の幅寸法よりも小さくされる。また、リブ状突出部50の突出先端面は、樹脂プレート42における凹溝44を外れた部分の上面よりも下方に位置していることが望ましい。尤も、リブ状突出部50の突出先端面は、樹脂プレート42における凹溝44を外れた部分の上面と同一平面上に位置していてもよく、この場合には、リブ状突出部50の突出先端面が接着剤層32の厚みによって金属プレート12の下面から離隔する。なお、隣り合う2つの並列溝状部46,46が凹溝44の溝幅方向で相互に近接して設けられている場合には、リブ状突出部50の突出先端は、平面とされることなく先細の稜線状となり得る。
【0058】
本実施形態の冷却用熱交換器40によれば、凹溝44の底面が複数の並列溝状部46の底面48を含んで構成されており、それら複数の並列溝状部46の底面48がそれぞれ凹状湾曲面とされている。それゆえ、各並列溝状部46の底面48に対する冷媒の圧力の作用方向が溝幅方向の位置によって相互に異なっており、圧力の作用方向の分散化によって、凹溝44の底壁部(下壁部)に対する耐圧性能の要求レベルを下げることができる。その結果、樹脂プレート42の薄肉化が図られて、冷却用熱交換器40の軽量化が図られる。
【0059】
また、凹溝44の全体幅寸法によって制限されることなく、各並列溝状部46の底面48の曲率をより大きな自由度で調節設定することができる。それゆえ、樹脂プレート42の各部の厚さ寸法や要求強度などを考慮して、底面48の曲率を適切に設定し易くなる。
【0060】
また、凹溝44の溝幅方向で隣り合う並列溝状部46,46の間にリブ状突出部50が形成されることにより、樹脂プレート42の曲げ変形剛性の向上が図られており、外力の作用による樹脂プレート42の撓みが防止され易くなる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、冷却流路の形状及び構造は、特に限定されない。例えば、樹脂プレート14の凹溝20と対応する凹溝が金属プレート12の下面に開口して形成されて、それら凹溝が協働して冷却流路を形成するようにしてもよい。また、冷却流路の流路形状として、渦巻き状や蛇行状に延びる形状を採用することもできる。
【0062】
冷却流路34(凹溝20)の底面28を構成する凹状湾曲面の曲率は、一定である必要はなく、流路幅方向で変化していてもよいし、流路長さ方向で変化していてもよい。また、冷却流路34の底面28の全体が凹状湾曲面で構成されている必要はなく、底面28の少なくとも一部が凹状湾曲面とされていればよい。
【0063】
例えば、第一の実施形態の凹溝20の凹状湾曲面(底面28)に開口するようにして、第二の実施形態の並列溝状部46を形成することも可能であり、第一の実施形態の構造と第二の実施形態の構造を組み合わせて採用することができる。
【0064】
金属プレート12のビード部は、必須ではない。また、ビード部は、凹溝20の開口上に設けられていればよく、外側溝部24や接続溝部26の開口上に設けることもできる。従って、凹溝20の全長に亘って延びるビード部を金属プレート12に形成することも可能である。
【0065】
また、前記実施形態において第二のビード部18として示したように、金属プレート12のビード部は、凹溝20の開口上だけに形成されるものではなく、凹溝20の開口上を外れた部分に設けることもできる。更に、凹溝20の開口上にビード部が設けられた態様であっても、例えば、凹溝20の開口上で溝長さ方向に平行して延びる複数のビード部を設けることなども可能である。
【0066】
前記実施形態の金属プレート12はアルミニウム合金製とされていたが、金属プレートを形成する金属材料は特に限定されず、例えばステンレス鋼も好適に採用され得る。ステンレス鋼製の金属プレートを採用する場合には、凹溝20を外れた部分における樹脂プレート14の板厚寸法は、金属プレートの板厚寸法に対して8.8倍未満とされることが望ましく、より好適には、金属プレートの板厚寸法に対して3.5倍以上且つ8.7倍以下の範囲内とされる。これによれば、樹脂プレート14がステンレス鋼製の金属プレートよりも軽量となることから、ステンレス鋼製の金属プレートを2枚重ね合わせた冷却用熱交換器よりも軽量の冷却用熱交換器を得ることができる。
【0067】
前記実施形態では、樹脂プレート14の下面が平面とされており、凹溝20の形成部分において樹脂プレート14の厚さ寸法が小さくなっていたが、例えば、凹溝の形成部分において樹脂プレートの下面が凹溝の底面と対応する湾曲面とされていてもよい。具体的には、
図4に示す本発明の第三の実施形態としての冷却用熱交換器60のように、樹脂部材としての樹脂プレート62の下面が、凹溝20の形成部分において下方へ突出する湾曲面64とされていてもよい。湾曲面64は、凹状湾曲面とされた凹溝20の底面28と対応する断面形状を有しており、凹溝20の底壁部が下方へ向けて凸となる円弧状の湾曲断面形状とされている。これによれば、樹脂プレート62の厚さ寸法が凹溝20の形成部分で局所的に薄肉となるのを防ぐことができて、樹脂プレート62の耐圧性能や撓み剛性等を確保し易くなる。
【0068】
樹脂プレート14における凹溝20の底壁部などに金属板等の補強部材をインサート成形することによって、樹脂プレート14を部分的に補強することも考えられる。このような樹脂プレート14が補強部材によって部分的に補強された構造によれば、耐圧性や撓み剛性等が問題になり易い部分を補強部材によって補強することで、樹脂プレート14の板厚寸法を小さくして軽量化を図りつつ、必要な耐圧性や撓み剛性を実現し易くなる。
【0069】
冷却対象は、前記実施形態に例示したバッテリーパック36に限定されるものではなく、例えば、作動時の発熱が問題となり易い演算装置や記憶装置等であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 冷却用熱交換器(第一の実施形態)
12 金属プレート
14 樹脂プレート(樹脂部材)
16 第一のビード部(ビード部)
18 第二のビード部
20 凹溝
22 中間溝部
24 外側溝部
26 接続溝部
28 底面(凹状湾曲面)
30 側面
32 接着剤層
34 冷却流路
36 バッテリーパック(冷却対象)
38 熱伝導層
40 冷却用熱交換器(第二の実施形態)
42 樹脂プレート(樹脂部材)
44 凹溝
46 並列溝状部
48 底面(凹状湾曲面)
50 リブ状突出部
60 冷却用熱交換器(第二の実施形態)
62 樹脂プレート(樹脂部材)
64 湾曲面