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  • -駆動装置、駆動方法、記憶媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058513
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動方法、記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20250402BHJP
【FI】
H02P25/064
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168495
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】沖 智浩
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【テーマコード(参考)】
5H540
【Fターム(参考)】
5H540AA01
5H540BA03
5H540BB01
5H540BB05
5H540DD07
5H540EE00
5H540EE05
5H540EE06
5H540EE20
5H540FA12
5H540FB01
5H540FC02
(57)【要約】
【課題】位置指令の変更を伴わずに被駆動物の適切な減速を実現できる駆動装置等を提供する。
【解決手段】リニア搬送システムは、位置指令によって指定される目標位置xに可動子3を駆動する駆動モジュール23と、可動子3の現在位置xと目標位置xの偏差Δxを入力として、少なくとも一つの駆動パラメータ431に基づいて、駆動モジュール23が可動子3に加えるべき推力を演算する推力演算部43と、可動子3が駆動モジュール23によって加速される加速区間において、推力演算部43によって演算された推力を取得する加速時推力取得部44と、加速時推力取得部44によって取得された推力に応じて、可動子3が駆動モジュール23によって減速される減速区間における駆動パラメータ431を調整する減速時駆動パラメータ調整部46と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、
前記被駆動物の現在位置と前記目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、前記アクチュエータが前記被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、
前記被駆動物が前記アクチュエータによって加速される加速区間において、前記推力演算部によって演算された推力を取得する加速時推力取得部と、
前記加速時推力取得部によって取得された推力に応じて、前記被駆動物が前記アクチュエータによって減速される減速区間における前記駆動パラメータを調整する減速時駆動パラメータ調整部と、
を備える駆動装置。
【請求項2】
前記減速時駆動パラメータ調整部は、前記加速時推力取得部によって取得された推力が所定の大推力閾値を上回る場合、前記減速区間において前記アクチュエータが前記被駆動物に加える推力が大きくなるように前記駆動パラメータを調整する、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記減速時駆動パラメータ調整部は、前記加速時推力取得部によって取得された推力が前記大推力閾値を下回る場合、前記減速区間における前記駆動パラメータを前記加速区間から変更しない、請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記加速時推力取得部によって取得された推力に基づいて、前記被駆動物の重量を推定する重量推定部を備え、
前記減速時駆動パラメータ調整部は、前記重量推定部によって推定された重量に応じて、前記減速区間における前記駆動パラメータを調整する、
請求項1から3のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、速度指令によって指定される目標速度で前記被駆動物を前記目標位置に駆動し、
前記加速区間は、前記被駆動物が前記アクチュエータによって前記目標速度まで加速される区間であり、
前記減速区間は、前記被駆動物が前記アクチュエータによって前記目標速度から減速される区間である、
請求項1から3のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項6】
前記減速時駆動パラメータ調整部は、前記被駆動物が前記目標位置に到達した後に、前記駆動パラメータを調整前の値に戻す、請求項1から3のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項7】
前記被駆動物は、重量が異なりうる被搬送物を搬送する搬送部である、請求項1から3のいずれかに記載の駆動装置。
【請求項8】
位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、前記被駆動物の現在位置と前記目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、前記アクチュエータが前記被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、を備える駆動装置における駆動方法であって、
前記被駆動物が前記アクチュエータによって加速される加速区間において、前記推力演算部によって演算された推力を取得することと、
前記取得された推力に応じて、前記被駆動物が前記アクチュエータによって減速される減速区間における前記駆動パラメータを調整することと、
を実行する駆動方法。
【請求項9】
位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、前記被駆動物の現在位置と前記目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、前記アクチュエータが前記被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、を備える駆動装置における駆動プログラムであって、
前記被駆動物が前記アクチュエータによって加速される加速区間において、前記推力演算部によって演算された推力を取得することと、
前記取得された推力に応じて、前記被駆動物が前記アクチュエータによって減速される減速区間における前記駆動パラメータを調整することと、
をコンピュータに実行させる駆動プログラムを記憶している記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コイル材を搬送するコイルカーをモータによって駆動する駆動装置が開示されている。この駆動装置では、コイルカーの加速時におけるモータの電流の検出を通じて、コイル材の積載重量が検出される。そして、コイルカーを所定の停止位置に停止させるための減速開始位置が、検出されたコイル材の積載重量に応じて調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-27842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、積載重量の異なるコイルカー毎に、異なる減速開始位置を指定するために位置指令を更新する必要がある。このように、特許文献1では、コイルカーの位置制御の基本パラメータである位置指令自体が、積載重量に応じて書き換えられるため、制御が複雑化または長期化する恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、位置指令の変更を伴わずに被駆動物の適切な減速を実現できる駆動装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の駆動装置は、位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、被駆動物の現在位置と目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、アクチュエータが被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、被駆動物がアクチュエータによって加速される加速区間において、推力演算部によって演算された推力を取得する加速時推力取得部と、加速時推力取得部によって取得された推力に応じて、被駆動物がアクチュエータによって減速される減速区間における駆動パラメータを調整する減速時駆動パラメータ調整部と、を備える。
【0007】
本態様では、加速区間において演算された推力に応じて、減速区間における駆動パラメータが調整されるが、目標位置または位置指令は変更されない。このように、本態様によれば、位置指令の変更を伴わずに被駆動物の適切な減速を実現できる。
【0008】
本開示の別の態様は、駆動方法である。この方法は、位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、被駆動物の現在位置と目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、アクチュエータが被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、を備える駆動装置における駆動方法であって、被駆動物がアクチュエータによって加速される加速区間において、推力演算部によって演算された推力を取得することと、取得された推力に応じて、被駆動物がアクチュエータによって減速される減速区間における駆動パラメータを調整することと、を実行する。
【0009】
本開示の更に別の態様は、記憶媒体である。この記憶媒体は、位置指令によって指定される目標位置に被駆動物を駆動するアクチュエータと、被駆動物の現在位置と目標位置の偏差を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータに基づいて、アクチュエータが被駆動物に加えるべき推力を演算する推力演算部と、を備える駆動装置における駆動プログラムであって、被駆動物がアクチュエータによって加速される加速区間において、推力演算部によって演算された推力を取得することと、取得された推力に応じて、被駆動物がアクチュエータによって減速される減速区間における駆動パラメータを調整することと、をコンピュータに実行させる駆動プログラムを記憶している。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、位置指令の変更を伴わずに被駆動物の適切な減速を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】リニア搬送システムの全体構造を示す斜視図である。
図2】リニア搬送システムの制御装置の機能ブロック図である。
図3】リニア搬送システムにおける駆動方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では、実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0014】
図1は、本開示に係る駆動装置の一態様であるリニア搬送システム1の全体構造を示す斜視図である。リニア搬送システム1は、環状のレールまたは軌道を構成する固定子2と、当該固定子2に対して駆動されてレールに沿って移動可能な複数の被駆動物または可動子3A、3B、3C、3D(以下では、総称して被駆動物3または可動子3とも表される)を備える。固定子2に設けられる電磁石またはコイルと、可動子3に設けられる永久磁石が互いに対向することで、環状のレールに沿ってアクチュエータとしてのリニアモータが構成されている。なお、固定子2が形成するレールは環状に限らない任意の形状でよい。例えば、レールは直線状でもよいし、曲線状でもよいし、一つのレールが複数のレールに分岐してもよいし、複数のレールが一つのレールに合流してもよい。また、固定子2が形成するレールの設置方向も任意である、図1の例では水平面内にレールが配設されるが、レールは鉛直面内に配設されてもよいし、任意の傾斜角の平面内や曲面内に配設されてもよい。
【0015】
固定子2は、水平方向を法線方向とするレール面21を有する。レール面21はレールの形成方向に沿って帯状に延在し、図1の例のように環状のレールを形成する場合は、仮想的な両端が連結された無端帯状となる。このように任意の形状のレールを形成可能なレール面21には、電磁石を備える複数の駆動モジュール(不図示)が、レールに沿って連続的または周期的に埋設または配置されている。駆動モジュールにおける電磁石は、可動子3の永久磁石および/または電磁石自体に対してレールに沿った推進力または推力を及ぼす磁界を発生させる。具体的には、これらの多数の電磁石に三相交流等の駆動電流を流すと、永久磁石を備える可動子3をレールに沿う所望の接線方向に直線駆動する移動磁界が発生する。なお、図1の例では環状のレールを水平面内に形成するレール面21の法線方向が水平方向であったが、レール面21の法線方向は鉛直方向その他の任意の方向でもよい。
【0016】
固定子2において、レール面21に対して垂直な上面または下面に設けられる測位部22には、可動子3に取り付けられる測位対象または測位スケールとしての磁気スケール(不図示)の位置を測定可能な複数の位置検知部としての磁気センサ(不図示)が連続的にまたは周期的に埋設されている。一定ピッチの縞状の磁気パターンまたは磁気目盛りによって形成される磁気スケールを測位対象とする磁気センサは、一般的に複数の磁気検出ヘッドを備える。磁気スケールの磁気パターンのピッチまたは周期に対して、複数の磁気検出ヘッドの間隔をずらすことによって、磁気センサは磁気スケールの位置を高精度に測定できる。二つの磁気検出ヘッドが設けられる典型的な磁気センサでは、例えば、二つの磁気検出ヘッドの間隔が磁気スケールの磁気パターンに対して1/4ピッチずれている(位相が90度ずれている)。なお、以上とは逆に、可動子3に磁気センサを設け、固定子2に磁気スケールを設けてもよい。また、測位部22によって測定された可動子3の位置を時間で微分すれば可動子3の速度を検知でき、当該速度を時間で微分すれば可動子3の加速度を検知できる。なお、以上とは逆に、可動子3に磁気センサを設け、固定子2に磁気スケールを設けてもよい。
【0017】
固定子2および/または可動子3に設けられる位置検知部および可動子3に取り付けられる測位対象または測位スケールは以上のような磁気式に限らず、光学式その他の方式でもよい。光学式の場合、可動子3(または固定子2)には一定ピッチの縞模様または目盛りによって形成される光学スケールが取り付けられ、固定子2(または可動子3)には光学スケールの縞模様を光学的に読み取り可能な光学センサが設けられる。磁気式や光学式では、位置検知部が測位対象(磁気スケールや光学スケール)を非接触で測定するため、可動子3が搬送する被搬送物が飛散して測位箇所(固定子2の上面)に入り込んだ場合の位置検知部の故障等のリスクを低減できる。但し、光学式では測位箇所に入り込んだ液体や粉体等の被搬送物によって光学スケールが覆われると測位精度が悪化してしまうため、磁性が無視できる被搬送物であれば測位箇所に入り込んでも測位精度を悪化させない磁気式とするのが好ましい。
【0018】
可動子3は、固定子2のレール面21に対向する可動子本体31と、可動子本体31の上部から水平方向に張り出して固定子2の測位部22に対向する被測位部32と、被測位部32とは反対側(固定子2から遠い側)に可動子本体31から水平方向に張り出して被搬送物が載置または固定される搬送部33を備える。可動子本体31は、レールに沿って固定子2のレール面21に埋設されている複数の電磁石と対向する一または複数の永久磁石(不図示)を備える。固定子2の電磁石が発生させる移動磁界が可動子3の永久磁石および/または電磁石自体にレールの接線方向の直線動力または推進力を加えるため、可動子3は固定子2に対してレール面21に沿って直線駆動される。
【0019】
可動子3の被測位部32には、測位対象または測位スケールとしての磁気スケールや光学スケールが、固定子2の測位部22に設けられる位置検知部(磁気センサや光学センサ)と対向するように設けられる。位置検知部が固定子2の上面に設けられる図1の例では、磁気スケール等の測位対象が可動子3の被測位部32の下面に取り付けられる。測位部22および被測位部32が磁気式の場合、レール面21の電磁石および可動子本体31の永久磁石の間の磁界が、測位部22および被測位部32の磁気測位に影響しないように、固定子2においてはレール面21と測位部22を異なる面または離れた箇所に形成し、可動子3においては可動子本体31と被測位部32を異なる面または離れた箇所に形成するのが好ましい。
【0020】
図1では四つの可動子3A、3B、3C、3Dが例示されたが、例えば多数の被搬送物を搬送するリニア搬送システム1では、1,000を超える数の可動子3が必要になることも想定される。
【0021】
図2は、本実施形態に係るリニア搬送システム1の制御装置4の機能ブロック図である。制御装置4は、指令部41と、減算器42と、推力演算部43と、加速時推力取得部44と、重量推定部45と、減速時駆動パラメータ調整部46を備える。制御装置4が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略されてもよい。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働によって実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0022】
図示の例では、飲料ボトル等の被搬送物Wが搬送部33に載置された一つの可動子3が、アクチュエータとしての固定子2の駆動モジュール23によってレール面21上の初期位置xから目標位置xまで駆動される。初期位置xは、搬入された被搬送物Wが搬送部33に載置される搬入位置でもよいし、目標位置xは、搬送部33に載置された状態で可動子3によって搬送された被搬送物Wが搬送部33から搬出される搬出位置でもよい。
【0023】
本実施形態の例では、初期位置xから駆動される直前の可動子3が静止状態に制御され、目標位置xまで駆動された直後の可動子3が静止状態に制御されるものとする。但し、このような初期位置xにおける初期速度および目標位置xにおける最終速度は任意であり、零(すなわち、静止状態)に限定されず、例えば、任意の好ましくは小さい値(すなわち、低速状態)でもよい。後述されるように、可動子3は初期位置xの近傍では初期速度から目標速度vまで加速され、目標位置xの近傍では目標速度vから最終速度まで減速される。従って、初期速度および最終速度の絶対値は、目標速度vの絶対値よりは小さい。
【0024】
指令部41は、初期位置xにある可動子3について、位置指令および/または速度指令を生成する。位置指令は、可動子3が駆動されるべき目標位置xを指定する。速度指令は、可動子3が初期位置xから目標位置xまで駆動される間の目標速度vを指定する。後述されるように、目標速度vは、等速区間において可動子3が駆動されるべき速度であり、典型的には、可動子3が初期位置xから目標位置xまで駆動される間の最大の速度である。等速区間より前の加速区間および等速区間より後の減速区間における可動子3の速度の絶対値は、目標速度vの絶対値より小さい。
【0025】
指令部41は、自身が生成する位置指令および速度指令に基づいて、初期位置xおよび目標位置xの間の区間を、加速区間、等速区間、減速区間に分けてもよい。例えば、指令部41は、加速区間と等速区間が切り替わる第1位置xと、等速区間と減速区間が切り替わる第2位置xを設定してもよい。初期位置xと第1位置xの間の加速区間は、可動子3が駆動モジュール23によって目標速度vまで加速される区間である。第1位置xと第2位置xの間の等速区間は、可動子3が駆動モジュール23によって目標速度vで等速駆動される区間である。第2位置xと目標位置xの間の減速区間は、可動子3が駆動モジュール23によって目標速度vから減速される区間である。
【0026】
以上のように指令部41によって設定される第1位置xおよび第2位置xは、可動子3の初期位置xから目標位置xまでの駆動が完了するまで維持される。すなわち、第1位置xおよび第2位置x、換言すれば、加速区間、等速区間、減速区間は、可動子3の初期位置xから目標位置xまでの駆動制御の間は固定的または不変である。加速区間の長さ(x-x)および減速区間の長さ(x-x)は、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。例えば、後述されるように、減速区間では被搬送物Wの重量等に応じた効率的な減速駆動が可能であるため、減速区間の長さ(x-x)は加速区間の長さ(x-x)より短くてもよい。
【0027】
指令部41は、加速区間および減速区間における加速度指令を生成してもよい。加速区間における加速度指令は、可動子3を初期位置xから第1位置xまで駆動する間に、速度を初期速度から目標速度vまで増加させる目標加速度aを指定する。減速区間における加速度指令は、可動子3を第2位置xから目標位置xまで駆動する間に、速度を目標速度vから最終速度まで減少させる目標加速度aを指定する。各区間におおける目標加速度aは、当該各区間を通じて一定でもよいし、変動してもよい。また、加速区間および減速区間における目標加速度aは、互いに正負が逆で等しい絶対値を有してもよいし、互いに異なる絶対値を有してもよい。
【0028】
初期位置xから目標位置xまで駆動される間の可動子3の現在位置x、現在速度v、現在加速度a等は、前述の磁気センサ等の検知部24または測位部22によって検知される。典型的には、検知部24は、可動子3の現在位置xを直接的に検知し、それを時間で微分することで可動子3の現在速度vを間接的に検知し、それを時間で微分することで可動子3の現在加速度aを間接的に検知する。
【0029】
減算器42は、可動子3の現在位置xと目標位置xの位置偏差Δx、可動子3の現在速度vと目標速度vの速度偏差Δv、可動子3の現在加速度aと目標加速度aの加速度偏差Δa等を演算する。
【0030】
推力演算部43は、減算器42によって演算される位置偏差Δx、速度偏差Δv、加速度偏差Δa等を入力として、少なくとも一つの駆動パラメータ431に基づいて、駆動モジュール23が可動子3に加えるべき推力を演算する。詳細な図示は省略されるが、推力演算部43は、位置偏差Δxを入力とする位置制御ループと、当該位置制御ループの内側に設けられて速度偏差Δvを入力とする速度制御ループと、当該速度制御ループの内側に設けられて加速度偏差Δaを入力とする加速度制御ループを備える多段ループ構成のフィードバック制御部でもよい。駆動パラメータ431は、例えば、位置制御ループ、速度制御ループ、加速度制御ループのそれぞれにおいて個別に設定可能な比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン等の各種の制御ゲインでもよい。なお、推力演算部43によって演算された推力の情報は、固定子2に設けられる電磁石またはコイル(不図示)に流されるべき電流の情報として、駆動モジュール23に提供される。
【0031】
加速時推力取得部44は、可動子3が駆動モジュール23によって加速される加速区間において、推力演算部43によって演算された推力を取得する。具体的には、推力演算部43は、減算器42から入力される加速度偏差Δa等が零になるような推力を、駆動パラメータ431群に基づいて演算する。この際に使用されるのは、予め定められた標準的な駆動パラメータ431群である。ここで、加速度偏差Δaを零にして指令部41によって指定された加速区間における目標加速度aを実現するための推力(または、目標速度vを実現するための推力)は、搬送中の被搬送物Wを含む可動子3の重量または質量に応じて変化する。例えば、運動方程式に従って、可動子3の重量が小さい場合に目標加速度aを実現するための推力は小さくなり、可動子3の重量が大きい場合に目標加速度aを実現するための推力は大きくなる。
【0032】
このように、加速時推力取得部44によって取得される加速区間における推力は、可動子3および被搬送物Wの総重量を表す。特に、典型的な場合では、複数の可動子3の重量は等しいため、加速時推力取得部44によって取得される加速区間における推力は、被搬送物Wの重量を表す。なお、加速時推力取得部44によって取得される推力が加速区間において変動する場合は、その最大値が被搬送物Wの重量を最も良く表すと考えられる。このように、重量推定部45は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力(特に、その最大値)に基づいて、被搬送物Wおよび/または可動子3の重量を推定してもよい。
【0033】
減速時駆動パラメータ調整部46は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量に応じて、可動子3が駆動モジュール23によって減速される減速区間における駆動パラメータ431を調整する。
【0034】
具体的には、減速時駆動パラメータ調整部46は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量が大きく、駆動指令に対する応答性が悪い場合、減速区間において駆動モジュール23が可動子3に加える推力が大きくなるように、制御ゲイン等の駆動パラメータ431群を調整する。一方、減速時駆動パラメータ調整部46は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量が小さく、駆動指令に対する応答性が良い場合、減速区間において駆動モジュール23が可動子3に加える推力が小さくなるように、制御ゲイン等の駆動パラメータ431群を調整してもよい。
【0035】
例えば、減速時駆動パラメータ調整部46は、所定の大推力閾値や大重量閾値に基づいて、駆動パラメータ431の調整要否を決定してもよい。具体的には、減速時駆動パラメータ調整部46は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量が大推力閾値および/または大重量閾値を上回る場合、減速区間において駆動モジュール23が可動子3に加える推力が大きくなるように、制御ゲイン等の駆動パラメータ431群を調整する。一方、減速時駆動パラメータ調整部46は、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量が大推力閾値および/または大重量閾値を下回る場合、減速区間における駆動パラメータ431群を加速区間における標準的な駆動パラメータ431群から変更しなくてもよい。
【0036】
推力演算部43は、駆動パラメータ431の具体的な値によらず、遅かれ早かれ減速区間における目標加速度aまたは最終速度を実現できる。しかし、目標加速度aが実現されるまでに要する時間または駆動指令に対する応答性は、駆動パラメータ431群の具体的な値によって異なる。上記の減速時駆動パラメータ調整部46によれば、特に、加速時推力取得部44によって取得された加速区間における推力および/または重量推定部45によって推定された被搬送物W等の重量が大きい場合に、迅速に目標加速度aを実現できるように、制御ゲイン等の駆動パラメータ431を大きくして容易に大推力を実現できる。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、被搬送物Wの重量が大きいために駆動指令に対する応答性が悪く減速駆動しづらい場合であっても、減速時駆動パラメータ調整部46によって駆動パラメータ431を調整することで、迅速かつ効率的に可動子3を減速駆動できる。なお、本実施形態では、加速区間において演算された推力や重量に応じて、減速区間における駆動パラメータ431が調整されるが、指令部41によって指定される目標位置x、目標速度v、目標加速度a、減速区間の長さ等は変更されない。このように、本実施形態によれば、指令部41による各種の指令の変更を伴わずに可動子3の適切な減速を実現できる。
【0038】
また、本実施形態によれば、被搬送物Wの重量を示す情報を、推力演算部43、加速時推力取得部44、重量推定部45等で取得できるため、被搬送物Wの重量を測定するための重量センサを例えば各搬送部33に設ける必要がない。このように、本実施形態によれば、重量が異なりうる各被搬送物Wを各搬送部33が搬送する場合であっても、追加的な重量センサを必要としない安価な構成で、各被搬送物Wの重量に応じた適切な減速駆動を実現できる。
【0039】
図3は、本実施形態に係るリニア搬送システム1における駆動方法のフローチャートである。フローチャートにおける「S」は、ステップまたは処理を意味する。
【0040】
S1では、指令部41が、初期位置xにある可動子3について、目標位置xへの駆動指令を生成する。前述のように、この駆動指令には、等速区間における目標速度vを指定する速度指令や、加速区間および/または減速区間における目標加速度aを指定する加速度指令が含まれてもよい。
【0041】
S2では、指令部41が、少なくとも減速区間を設定する。具体的には、S2では、指令部41が、S1で生成した駆動指令に応じて、図2における減速開始位置としての第2位置xを設定する。なお、S2では、指令部41が加速区間および等速区間を設定してもよい。但し、図3の例では、加速区間および等速区間の境界である第1位置xが、S2では具体的に指定されない。この場合、後述されるS6において、可動子3の速度vが目標速度vに到達したことをもって、加速区間から等速区間に切り替わる。
【0042】
S3では、駆動モジュール23が、加速区間における可動子3の加速駆動を開始する。S4では、推力演算部43が、予め定められた標準的な駆動パラメータ431群に基づいて、駆動モジュール23が加速区間における可動子3に加える推力を演算する。S5では、加速時推力取得部44が、S4で演算された加速区間における推力を取得する。S6では、可動子3の速度vが目標速度vに到達したか否かが判定される。S6で「No」と判定された場合はS4に戻り、加速区間における推力の演算および適用(S4)および推力の取得(S5)が繰り返される。
【0043】
S6で「Yes」と判定された場合はS7に進む。S7では、S5で取得された加速時の推力の最大値(最大推力)が記録される。S8では、重量推定部45が、S7で記録された最大推力に基づいて、被搬送物Wの重量を推定する。
【0044】
S9では、駆動モジュール23が、等速区間における可動子3の等速駆動を開始する。S10では、推力演算部43が、S4と同じ標準的な駆動パラメータ431群に基づいて、駆動モジュール23が等速区間における可動子3に加える推力を演算する。S11では、可動子3がS2で設定された減速開始位置xに到達したか否かが判定される。S11で「No」と判定された場合はS10に戻り、等速区間における推力の演算および適用(S10)が繰り返される。
【0045】
S11で「Yes」と判定された場合はS12に進む。S12では、減速時駆動パラメータ調整部46が、S7で記録された加速区間における最大推力および/またはS8で推定された被搬送物Wの重量が、大推力閾値および/または大重量閾値等の閾値を上回っているか否かが判定される。
【0046】
S12で「Yes」と判定された場合、換言すれば、可動子3が搬送する被搬送物Wの重量が閾値より大きい場合はS13に進む。S13では、減速時駆動パラメータ調整部46が、減速区間において駆動モジュール23が可動子3に加える推力が大きくなるように、制御ゲイン等の駆動パラメータ431群を更新する。
【0047】
なお、S12およびS13の処理は、S11において可動子3がS2で設定された減速開始位置xに到達する前(好ましくは、直前)に行われてもよい。この場合、S10で使用される駆動パラメータ431群が変化することになるが、等速期間であれば減算器42が出力する各種の偏差Δx、Δv、Δaが小さいため、可動子3の走行に与える影響は小さい。
【0048】
続くS14では、駆動モジュール23が、減速区間における可動子3の減速駆動を開始する。S15では、推力演算部43が、S13で更新された駆動パラメータ431群に基づいて、駆動モジュール23が減速区間における可動子3に加える推力を演算する。
【0049】
S16では、可動子3がS1で設定された目標位置xに到達したか否かが判定される。S16で「No」と判定された場合はS15に戻り、減速区間における推力の演算および適用(S15)が繰り返される。
【0050】
S16で「Yes」と判定された場合はS17に進む。S17では、減速時駆動パラメータ調整部46が、可動子3が目標位置xに到達した後(S16で「Yes」と判定された後)に、駆動パラメータ431群をS13における調整前の値、すなわち、S4およびS10で使用された標準的な駆動パラメータ431群の値に戻す。このため、後続の可動子3の加速駆動(S4)および等速駆動(S10)では、S17で戻された標準的な駆動パラメータ431群が使用される。
【0051】
S12で「No」と判定された場合、換言すれば、可動子3が搬送する被搬送物Wの重量が閾値より小さい場合は、S14を経てS18に進む。S18では、推力演算部43が、S4およびS10と同じ標準的な駆動パラメータ431群に基づいて、駆動モジュール23が減速区間における可動子3に加える推力を演算する。S19では、可動子3がS1で設定された目標位置xに到達したか否かが判定される。S19で「No」と判定された場合はS18に戻り、減速区間における推力の演算および適用(S18)が繰り返される。S19で「Yes」と判定された場合は処理が終了する。
【0052】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0053】
実施形態では、可動子に設けられる永久磁石と固定子に設けられる電磁石の間の磁力に基づいて可動子を駆動するリニア搬送システムを例示したが、本開示は磁気以外の任意の原理(例えば電気や流体)に基づく任意の駆動装置に適用可能である。
【0054】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 リニア搬送システム、2 固定子、3 被駆動物(可動子)、4 制御装置、23 駆動モジュール、24 検知部、33 搬送部、41 指令部、42 減算器、43 推力演算部、44 加速時推力取得部、45 重量推定部、46 減速時駆動パラメータ調整部、431 駆動パラメータ。
図1
図2
図3