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特開2025-5858光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボット
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  • 特開-光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボット 図1
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  • 特開-光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボット 図3A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005858
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボット
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G02B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106261
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(74)【代理人】
【識別番号】100135714
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 一生
(74)【代理人】
【識別番号】100167612
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅之
(57)【要約】
【課題】マイクロレンズアレイ113の光線追跡法での面交差判定の計算量を削減する。
【解決手段】光拡散用のマイクロレンズアレイを設計などのために光線追跡法でシミュレーションするにあたって、入射判定ステップにおいて、光源112から一の角度θで出射された光線31を追跡すべき光線に設定する。さらに入射判定ステップにおいて、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメントの関係から、光線31がどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する。最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズ(ナンバー9243)に対して、面交差判定ステップにおいて、光線追跡法による面交差判定を行う。角度θを変更しながら、入射判定ステップおよび面交差判定ステップを繰返す。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光拡散用のマイクロレンズアレイの光線追跡方法であって、
光源が出射する光線の内、前記光源の光軸に対して、一の角度で出射された光線を追跡すべき光線として設定し、前記光源とマイクロレンズアレイとのアライメントの関係から、前記追跡すべき光線が前記マイクロレンズアレイにおけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する入射判定ステップと、
前記最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズに対して、光線追跡法による面交差判定を行う面交差判定ステップとを含み、
前記追跡すべき光線を前記光源が他の角度で出射する光線へ変更しながら、前記入射判定ステップおよび前記面交差判定ステップを繰返してゆく、光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項2】
前記最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズに隣接する第2のマイクロレンズに対しても、前記面交差判定ステップにおいて、前記光線追跡法による面交差判定を行う、請求項1記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項3】
前記第2のマイクロレンズは、前記第1のマイクロレンズよりも前記光軸に近い側で前記第1のマイクロレンズに隣接している、請求項2記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項4】
前記入射判定ステップは、前記光軸と光線との成す角度が、予め定める角度以上の場合に、前記第2のマイクロレンズを抽出する、請求項2または3記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項5】
前記入射判定ステップは、前記光源とマイクロレンズアレイとのアライメントの関係から、前記追跡すべき光線が最初に入射すると判定した前記第1のマイクロレンズにおいて、入射部位が第1のマイクロレンズの頂部領域か、側部領域かをさらに判定し、前記側部領域の場合に、前記第2のマイクロレンズを抽出する、請求項2または3記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項6】
前記光源は複数設けられ、前記入射判定ステップおよび面交差判定ステップの繰返しは、光源毎に行われる、請求項1~3の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項7】
前記入射判定ステップは、前記マイクロレンズアレイにおけるマイクロレンズの配置間隔と、前記光源の光軸に対する光線の角度と、前記光源とマイクロレンズアレイとの距離とから、前記最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズの配列ナンバーを算出し、
かつ、その配列ナンバーの前後のマイクロレンズを前記第2のマイクロレンズに設定する、請求項2または3記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法。
【請求項8】
光拡散用のマイクロレンズアレイを光線追跡法でシミュレーションするシミュレータであって、
光源と前記マイクロレンズアレイとのアライメントの関係を設定する第1の設定部と、
前記光源が出射する光線の内、前記光源の光軸に対して、一の角度で出射された光線を追跡すべき光線として設定する第2の設定部と、
前記第1の設定部で設定されたアライメントの関係から、前記第2の設定部で設定された前記追跡すべき光線が、前記マイクロレンズアレイにおけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する第1の判定部と、
前記第1の判定部で入射が判定された第1のマイクロレンズに対して、光線追跡法による面交差判定を行う第2の判定部と、
前記第2の設定部に、前記追跡すべき光線を、前記光源が他の角度で出射する光線へ設定変更させて、前記第1および第2の判定部での判定を行わせる動作を繰返えさせる制御部と、
を含む、光拡散用マイクロレンズアレイのシミュレータ。
【請求項9】
前記光源と、
前記請求項1~3の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法を用いて設計されたマイクロレンズアレイとを備える、
光モジュール。
【請求項10】
発光部と、受光部と、演算部とを備え、
前記発光部は、前記請求項9記載の光モジュールを備え、前記光源から発生した光線を前記マイクロレンズアレイで拡散させて目標物に照射し、
前記受光部はイメージセンサを備え、前記イメージセンサは、前記光線の前記目標物による反射光線を検出し、
前記演算部は、前記光線が前記反射光線となって戻り、前記イメージセンサの各センサ素子で検出されることで得られた飛行時間から空間認識を行う、空間認識装置。
【請求項11】
前記光源は、垂直共振器面発光レーザである、請求項10記載の空間認識装置。
【請求項12】
前記請求項10または11記載の空間認識装置を備える顔認証装置。
【請求項13】
前記請求項10または11記載の空間認識装置を備えるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、光線追跡法を用いて、3次元物体の2次元画像を生成する画像生成装置を開示している。特許文献1は、光線が、3次元物体を内包するバウンディングボックスの6面の何れかの面と交差するかを判定し、交差するバウンディングボックス内の物体に対してのみ交点計算する。さらに特許文献1は、前記バウンディングボックス内に視点が内包されるかを判定し、内方される場合は面交差判定を省略することで、交点計算を減らしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-263649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、汎用の光線追跡法をコンピュータグラフィックスに用いた例である。この光線追跡法は、光拡散用マイクロレンズアレイのシミュレーションにも適用可能である。そこで、本願発明者は、光拡散用マイクロレンズアレイのシミュレーションに光線追跡法を適用した場合に、より面交差判定の計算量を削減可能な手法を見出した。
【0005】
本開示の目的は、光線追跡法における面交差判定の計算量を削減することができる光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様は、光拡散用のマイクロレンズアレイの光線追跡方法であって、光源が出射する光線の内、光線の光軸に対して、一の角度で出射された光線を追跡すべき光線として設定し、光源とマイクロレンズアレイとのアライメントの関係から、追跡すべき光線がマイクロレンズアレイにおけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する入射判定ステップと、最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズに対して、光線追跡法による面交差判定を行う面交差判定ステップとを含み、追跡すべき光線を光源が他の角度で出射する光線へ変更しながら、入射判定ステップおよび面交差判定ステップを繰返してゆくものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、光線追跡法における面交差判定の計算量を削減することができる光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法ならびにそれを用いるシミュレータ、光モジュール、空間認識装置、顔認証装置およびロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る空間認識装置の発光部として用いられる光モジュールの概略的構成を示す断面図である。
図2図2は、光モジュールにおける光線追跡のシミュレーションの様子を模式的に示す断面図である。
図3A図3Aは、図2のシミュレーションの結果の一例を示す模式図である。
図3B図3Bは、図2のシミュレーションの結果の他の例を示す模式図である。
図3C図3Cは、図2のシミュレーションの結果の他の例を示す模式図である。
図3D図3Dは、図2のシミュレーションの結果の他の例を示す模式図である。
図4図4は、実施形態に係るシミュレータの一構成例を示す機能ブロック図である。
図5図5は、図4のシミュレータによる光線追跡のシミュレーションの様子を示す模式図である。
図6図6は、図5のシミュレーションにおける隣接判定の様子を模式的に示すマイクロレンズアレイの正面図である。
図7図7は、図6の隣接判定の様子をさらに詳しく説明するための一部分を拡大して示す模式図である。
図8図8は、実施形態に係る空間認識装置の概略的構成を示すブロック図である。
図9図9は、図8の空間認識装置の一使用例を示す図である。
図10図10は、図8の空間認識装置の他の使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本実施形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚および寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係および比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置、方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。本実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
図1は、後述の図8で示す空間認識装置1において、発光部11として用いられる光モジュールの概略的構成を示す断面図である。発光部11は、光源112を搭載した基板114と、マイクロレンズアレイ113と、筐体115とを有する。発光部11は、光源112から出射された光線31を、マイクロレンズアレイ113で拡散して、図1では、図示できない充分遠い地点に位置する目標物2に照射するものである。目標物2は、空間認識装置1が空間認識する際の目標物である。
【0012】
マイクロレンズアレイ113は、平板の基板1131の表面に、極めて多数のマイクロレンズ1132を、面方向に配列したものである。マイクロレンズ1132は、正面視で、基板1131の中央を中心にして、たとえば、1.5mm×1.5mmの範囲に形成されている。マイクロレンズ1132は、たとえば砲弾形の形状を有し、その直径は10μmである。マイクロレンズ1132は、たとえばマトリクス状に配列されている。この場合、マイクロレンズ1132は、150個×150個が形成されることになる。
【0013】
光源112は、複数あり、基板114上に、たとえばマトリクス状に配列されている。光源112を搭載した基板114と、マイクロレンズアレイ113とは、所定の間隔を開けて、かつ相互に平行となるように、筐体115によって保持されて、光モジュールを構成する。
【0014】
発光部11が搭載される空間認識装置1の用途及び仕様などに応じて、光源112の大きさ(パワー)、数等が変わり、拡散度合いなどに応じてマイクロレンズアレイ113の構造、光源112とのアライメント、すなわち位置関係等も異なる。そのため、マイクロレンズアレイ113の設計にあたって、マイクロレンズアレイ113による光線31の拡散度合いをシミュレーションする必要が生じる。
【0015】
図2は、シミュレーションの様子を模式的に示す断面図である。シミュレーションは、光源112が、追跡すべき光線として、一の角度で光線31を出射すると、光線追跡法で、先ず、光線31が、どのマイクロレンズに入射するのかを面交差判定する。次に、その面交差判定で実際に入射すると判定された第1のマイクロレンズ(図2ではナンバー9243に入射している)について、表面1133での屈折から、第1のマイクロレンズ内の透過、裏面1134での屈折から出射を、光線追跡法で追跡する。続いて、出射された光線が、図2においては図示できない充分遠い地点にある仮想スクリーン上の、どの地点に、どれだけの照度(光束)で到達するのかを、光線追跡法で計算する。
【0016】
シミュレーションは、以上の処理を、追跡すべき光線としての光線31を他の角度、たとえば何千万本、何億本に変化させ(振り)つつ、繰返し行う。そうして、光線31の総てについて追跡した結果、仮想スクリーン上の単位面積の各部分に入射する積算の照度(光束量)を、シミュレーションすることができる。つまり、仮想スクリーン上の各部分には、光源112からの1または複数の光線31が到達することになり、その光線31の各部分における足合わせの照度lx(ルクス)を求めることになる。
【0017】
こうしたシミュレーションで求められた照度(lx、光束量)が、仮想スクリーン上でバラつかないように、発光素子112とマイクロレンズアレイ113とのアライメント、マイクロレンズ1132の構造(数、形状を含む)などが調整、すなわち設計される。図2の例では、150個×150個のマイクロレンズ1132を1次元に展開して、分かり易く、適宜間引いて、ナンバー1~10000で示している。
【0018】
光線追跡法は、総ての物体について交点を求める、つまり面交差判定を行うものである。図2の例では、光線31が入射したナンバー9243の第1のマイクロレンズについては、その後、前述の通り、表面1133および裏面1134でも面交差判定が行われる。正確には、表面1133での反射、マイクロレンズ1132内での反射、基板1131内および裏面1134での反射なども考慮すべきであるが、光拡散用のマイクロレンズアレイ113においては、それらの反射の影響は、比較的小さい。そのため、本実施形態では、追跡(シミュレーション)しないことにしている。
【0019】
したがって、光線追跡法による面交差判定では、光線31が、どのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定することが主となる。従来では、たとえば図2のようなナンバー1~10000のレンズに対して、一の角度の光線31を設定すると、図3Aから図3Bで示すように、ナンバー1、2、・・・のマイクロレンズから順に面交差判定を行う。判定の結果、解無し、すなわち、その光線31はどこまで追跡しても交点を持たないと言う判定結果を得ることを繰返してしまう。その後、図3Cで示すように、ナンバー9243のマイクロレンズで解有り、すなわち光線31がナンバー9243の第1のマイクロレンズと交点を持つと判定することになる。また、光線31がマイクロレンズ1132の領域から出たり、基板1131の領域に入ったり、離間したレンズ間に到達したりして、図3Dで示すように、基板1131に入射しても、解有りとなる。しかしながら、この図3Dで示すようなケースでは、基板1131の手前で、光線31は、何れかのマイクロレンズに入射していることが多い。このように従来の光線追跡法による面交差判定では、光源112からの各光線31と総てのマイクロレンズ1132との組合せでシミュレーションするので、計算量が非常に多く、また計算結果は、解無しばかりとなっている。
【0020】
そこで本実施形態では、入射判定ステップは、光線31を設定すると、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメント(位置、距離を含む)の関係から、光線31が、どのマイクロレンズに最初に入射するのかを、予め計算(推定)しておく。その後、計算(推定)された第1のマイクロレンズに関してのみ、面交差判定ステップが、実際の精緻な面交差判定を行う。したがって、面交差判定(シミュレーション)の結果は、図3Cのような解有が多くなり、図3Aおよび図3Bのような解無しは少なくなる。
【0021】
図4は、上述のような面交差判定(シミュレーション)を実現するシミュレータ4の一構成例を示すブロック図である。図5は、シミュレータ4による光線追跡のシミュレーションの様子を模式的に示す断面図である。シミュレータ4は、第1の設定部41と、第2の設定部42と、第1の判定部43と、第2の判定部44と、制御部45と、継続追跡部46と、照度分布演算部47と、を備える。また、このシミュレータ4に関連して、CAD(Computer Aided Design)装置48、入力装置49および表示装置40が設けられている。シミュレータ4は、汎用のコンピュータに、図4に示す演算処理部(41~47)を機能させるためのコンピュータプログラムをインストールして実行する事により、実現可能である。
【0022】
CAD装置48は、コンピュータ支援で、発光部11およびマイクロレンズアレイ113などの設計を行う。そのため、CAD装置48は、複数の光源112の位置データ、発光強度、拡がり角などのデータ、ならびにマイクロレンズアレイ113におけるマイクロレンズ1132の位置および形状のデータなどを記憶している。
【0023】
CAD装置48に多数種類記憶されている発光部11のCADデータの内、入力装置49から、シミュレーションすべき発光部11のデータが指定されると、第1の設定部41および第2の設定部42は、必要なデータを取得する。
【0024】
第1の設定部41は、既知である光源112およびマイクロレンズアレイ113のアライメントの関係データを取得し、後述する各種判定のために、各部43、44、46に設定する。具体的には、取得されるデータは、光源112および各マイクロレンズ1132のx、y座標データ、相互間距離データz、各マイクロレンズ1132の形状データなどである。
【0025】
第2の設定部42は、光源112の発光点1121のx、y座標データを取得し、制御部45で設定された放射方向の角度θのデータと共に、後述する各種判定のために、各部43、44、46に設定する。角度θは、図5で示すように、発光点1121における光軸311に対する光線31の交差角であり、すなわちシミュレーションすべき光線31を、前記の何千万本、何億本に変化させるためのパラメータとなる。光源112の表面1122(図7参照)は平面であり、光軸311は表面1122に垂直となる。なお、光源112を点光源と考える場合は、光線31は、所定の拡がり角を持って各角度θに均等な強度で放射される。しかしながら、光線31の強度が均等でない場合、第2の設定部42は、CAD装置48から、光源112の放射特性(発光強度分布)のデータを取得することが望ましい。
【0026】
第1の判定部43は、第1の設定部41で設定されたアライメント関係のデータから、第2の設定部42で設定された追跡すべき光線31が、マイクロレンズアレイ113におけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを計算(推定)する。図5では、図2と同様に、光線31は、ナンバー9243の第1のマイクロレンズに入射している。ここで、同じ放射方向の角度θの光線31であっても、マイクロレンズが光源112に近くなる、すなわち距離zが小さくなる場合は、光線31は、ナンバー9243よりも光軸311に近い側のナンバー9242、9241、・・・のマイクロレンズに入射する。逆に、マイクロレンズアレイ113が光源112から遠くなる、すなわち距離zが大きくなる場合は、光線31は、ナンバー9243よりも光軸311から遠い側のナンバー9244、9245、・・・のマイクロレンズに入射する。第1の判定部43は、こうして、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメントの関係から、光線31が、マイクロレンズアレイ113におけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する入射判定ステップを実現する。
【0027】
第2の判定部44は、第1の判定部43で入射が判定された第1のマイクロレンズに対して、光線追跡法により、実際に光線31が入射するか否かの精緻な面交差判定ステップを行う。第2の判定部44において実際に光線31が入射すると判定された第1のマイクロレンズに対しては、継続追跡部46が、光線追跡法により、マイクロレンズ1132の表面1133での屈折から、マイクロレンズ1132内の透過、裏面1134での屈折から出射を、追跡する。追跡された光線は、裏面1134の、どの位置から、どの方向に、幾らの強度で出射されるのかが計算されている。このような各部41~46による光線追跡処理を、制御部45が、第2の設定部42における角度θを他の角度に設定変更させながら繰返し、追跡結果が、照度分布演算部47に入力されて纏められることで、前述の仮想スクリーン上での照度分布が求められる。求められた照度分布は、表示装置40に表示され、また適宜、CAD装置48にフィードバックされて、設計に反映されることで、適切なマイクロレンズアレイ113および発光部11の設計が可能になる。
【0028】
したがって、本実施形態の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法およびそれを用いるシミュレータ4は、第2の判定部44で精緻な面交差判定を行うにあたって、第1の判定部43で粗い入射判定を事前に行うようにする。そのため、本実施形態の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法およびそれを用いるシミュレータ4は、実際に光線31が最初に入射する可能性のある第1のマイクロレンズにだけ面交差判定を行うことになる。このように本実施形態の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法およびそれを用いるシミュレータ4は、面交差判定で解無しとなる可能性の有る判定を無くし、解有りとなる可能性の有る判定だけを行う。そうすることで、本実施形態の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法およびそれを用いるシミュレータ4は、精緻な面交差判定の回数を減らし、光線追跡法による計算量を削減することができる。
【0029】
上述のように、第2の判定部44において精緻な面交差判定を行うにあたって、第1の判定部43は、入射判定ステップにおいて粗い入射判定を事前に行い、実際に光線31が最初に入射する可能性のある第1のマイクロレンズだけ面交差判定に抽出している。しかしながら、光線31の角度θとマイクロレンズ1132の形状、間隔W(図5参照)とによっては、光線31が、最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズの前に、他のマイクロレンズに入射してしまうこともある。そこで、第1の判定部43は、入射判定ステップにおいて、入射判定部431が上述のように第1のマイクロレンズを判定するとともに、隣接判定部432が、隣接する第2のマイクロレンズを判定し、精緻な面交差判定に加えてもよい。
【0030】
図6は、その隣接判定の様子を模式的に示すマイクロレンズアレイ113の正面図である。図6の例では、マイクロレンズ1132の配列は、説明を理解し易いように正方格子(行列状)で説明しているが、三角格子や六角格子などであってもよい。図6の例では、簡略化して、(x、y)座標で、(1、1、)(1、2)、・・・、(2、1)、・・・、(5、5)の計25個のマイクロレンズ1132を示している。その内、実際に光線31が最初に入射する可能性のある第1のマイクロレンズは、座標(3、3)に位置している。この場合、第1の判定部43は、入射判定ステップで、隣接する座標(2、2)、(2、3)、(2、4)、(3、2)、(3、4)、(4、2)、(4、3)、(4、4)の計8個のマイクロレンズ1132を、第2のマイクロレンズとして、面交差判定に加える。
【0031】
図7に、図6の一部の断面を切出している。マイクロレンズアレイ113は、前述のように、平板の基板1131に、多数のマイクロレンズ1132を、面方向に配列したものである。第2の判定部44における精緻な面交差判定は、マイクロレンズ1132の形状(本実施形態では砲弾型)を考慮して行われる。しかしながら、第1の判定部43における入射判定ステップでは、入射判定部431は、マイクロレンズ1132の形状は考慮せず、基板1131の入射面、すなわちマイクロレンズ1132の基底面の高さを基準にして行うことで、判定が容易になる。図7では、この入射面および基底面を参照符号1135の仮想線で示し、以後、基底面1135と言う。なお、基板1131をエッチングなどで彫り込んでマイクロレンズ1132が形成される場合、マイクロレンズ1132の天頂部分が、ほぼ基板1131の表面と同じ高さになる。
【0032】
したがって、入射判定部431が、図7の例のように基底面1135で判断すれば、図6のように座標(3、3)のレンズに入射判定を行ってしまうのに対して、光線31は光軸311に近い座標(2、3)のマイクロレンズに先に入射してしまう可能性がある。図7では、座標(3、3)のマイクロレンズに交点P1で接するよりも前に、座標(2、3)のマイクロレンズに交点P2で接している。そのため、本実施形態では、第1の判定部43には、入射判定部431に加えて、隣接判定部432を設けている。隣接判定部432は、第2の判定部44に、第1のマイクロレンズに隣接する第2のマイクロレンズについても、面交差判定で実際の入射判定を行わせる。そうすることで、本実施形態のシミュレータ4は、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメント、すなわち配置の誤差、マイクロレンズ1132の形成(特に高さ)の誤差などがあっても、より正確に、シミュレーションを行うことができる。
【0033】
ここで、単純に、第1のマイクロレンズ(図6の例では座標(3、3)に隣接する総てのマイクロレンズ(座標(2、2)~(4、4))を第2のマイクロレンズと判定するのであれば、隣接判定部432のアルゴリズムの作成は比較的容易である。たとえば、各マイクロレンズ1132が図6のように行列状に配列されている場合、隣接判定部432は、入射判定部431で判定された第1のマイクロレンズに隣接する第2のマイクロレンズを8個判定すればよい。
【0034】
しかしながら、第1および第2のマイクロレンズが合わせて9個の内、実際に光線31が入射する可能性が有るマイクロレンズは、図6のように光線31をマイクロレンズアレイ113上に投影したとき、光線31と交差するマイクロレンズである。図6および図7では、第1のマイクロレンズを、座標(3、3)のレンズとしているので、第2のマイクロレンズは、座標(2、3)のレンズとなる。つまり、光源112から第1のマイクロレンズ(座標(3、3))までの直線(31)が光軸311と成す角度を、たとえばθとすると、角度θが、小さい側に隣接するマイクロレンズ(座標(2、3))に、実際に光線31が入射する可能性がある。換言すれば、隣接するマイクロレンズ(座標(2、3))は、第1のマイクロレンズ(座標(3、3))よりも光源112に近い側にあり、第1のマイクロレンズ(座標(3、3))よりも先に光線が入射する可能性が高い。
【0035】
そこで、本実施形態の第1の判定部43は、隣接除外判定部433をさらに備える。隣接除外判定部433は、角度θが小さい側に隣接するマイクロレンズ(図6の座標(2、3)のレンズ)を、隣接判定部432に、第2のマイクロレンズとして第2の判定部44での面交差判定に加えさせる。一方、隣接除外判定部433は、第1のマイクロレンズ(座標(3、3)のレンズ)よりも光源112に近い側ではない、単に隣接しているだけのマイクロレンズは、隣接判定部432が、第2の判定部44での面交差判定に加えることを許容しない。図6の例では、単に隣接しているだけと判定されるマイクロレンズは、座標(2、2)、(2、4)、(3、2)、(3、4)、(4、2)、(4、3)、(4、4)のレンズである。
【0036】
このようして、シミュレータ4の第1の判定部43において、隣接除外判定部433が除外させる分だけ、第2のマイクロレンズを判定するアルゴリズムが増加するが、第2の判定部44において実際に面交差判定を行うべきマイクロレンズを少なくできる。図6の例では、隣接判定部432において単に隣接判定されるレンズは、前記の8個である。これに対して、隣接除外判定部433を設けることで、隣接判定されるレンズを、多くても3個程度、少なくて1個まで削減することができる。したがって、第2の判定部44における不要な面交差判定を、より少なくすることができる。
【0037】
また、隣接判定部432が第2のマイクロレンズであるか否かの隣接判定を行うにあたって、光軸311と光線31との成す角度θが予め定める角度以上の場合は、第1のマイクロレンズの手前に、第2のマイクロレンズの存在する可能性がある。つまり、角度θが予め定める角度より小さい、すなわち浅い角度の場合は、たとえば図7において、座標(1、3)のレンズに示すように、光線31は、マイクロレンズ1132の頂部領域Tから入射する可能性が高い。そのため、光線31が隣接するマイクロレンズに入射してしまう可能性は低い。一方、角度θが予め定める角度以上、すなわち深い角度の場合は、光線31は、マイクロレンズ1132の側部領域Sから入射する可能性が高い。そのため、光線31が隣接するマイクロレンズに入射してしまう可能性が高い。
【0038】
そこで、本実施形態の第1の判定部43は、角度判定部434をさらに備える。角度判定部434は、隣接判定部432に、光軸311と光線31との成す角度θが大きい(深い)場合にだけ、隣接する第2のマイクロレンズの抽出判定を行わせ、小さい(浅い)角度では抽出判定は行わせない。そうすることで、隣接判定部432での第2のマイクロレンズの抽出回数をさらに削減し、第2の判定部44での面交差判定の回数をより削減することができる。
【0039】
また、第1の判定部43での入射判定ステップにおいて、前述のように、入射判定部431は、基底面1135を基準として、光線31が最初に入射するマイクロレンズであるか否かを判定している。したがって、光線31が最初に入射すると判定される第1のマイクロレンズについて、実際は、光線31の入射部位が、第1のマイクロレンズの中央寄りか、辺縁寄りかは、シミュレーションすべき光線31によって異なる。たとえば、今回シミュレーションする光線の角度をθ(i)するとき、前回の光線θ(i-1)も、次回の光線θ(i+1)も、同じマイクロレンズに入射することもある。その場合、入射判定部431は、光線θ(i-1)、θ(i)、θ(i+1)が、同じ第1のマイクロレンズに入射すると判定することになる。
【0040】
しかしながら、たとえば今回の光線θ(i)が第1のマイクロレンズの中央寄りに入射するとき、前回の光線θ(i-1)および次回の光線θ(i+1)は、第1のマイクロレンズの辺縁寄りに入射する可能性がある。前述の図7において、座標(1、3)のレンズに当てはめると、中央寄りは頂部領域Tであり、辺縁寄りは側部領域Sである。そして光線31が頂部領域Tに入射する場合、第1のマイクロレンズは光線31上で光源112に最も近い可能性が高い。したがって、光線31が、座標(1、3)のマイクロレンズに隣接する座標(2、3)のマイクロレンズに入射する可能性は低く、隣接判定部432が第2のマイクロレンズを抽出する必要性は低い。一方、光線31が側部領域Sに入射する場合、光線31が隣接する座標(2、3)のマイクロレンズに入射してしまう可能性があり、隣接判定部432が第2のマイクロレンズを抽出する必要性は高くなる。
【0041】
そこで本実施形態の第1の判定部43は、入射部位判定部435をさらに備える。入射部位判定部435は、隣接判定部432に、光線31が第1のマイクロレンズの辺縁寄り(側部領域S)に入射する場合にだけ隣接判定を行わせ、中央寄り(頂部領域T)に入射する場合は隣接判定を行わせない。そうすることで、隣接判定部432による第2のマイクロレンズの抽出数を減らし、第2の判定部44での面交差判定の回数をより削減することができる。
【0042】
ここで、入射判定部431および隣接判定部432での入射判定ステップにおけるアライメント計算について述べる。CAD装置48は、マイクロレンズアレイ113の詳細な形状のデータを格納しているが、マイクロレンズアレイ113に関しては、多くの場合、マイクロレンズ1132は、基板1131の一部または全部に、同じ形状のマイクロレンズが、規則的に配列されている。
【0043】
したがって、光線31の角度θおよび光源112とマイクロレンズアレイ113との距離Zが分かると、光線31の照射位置が、マイクロレンズアレイ113の表面(基底面1135)上で、光軸311からどれだけの距離を離れているのか、計算可能である。そして、マイクロレンズ1132が、間隔Wで等間隔に配置されているのであれば、光軸311上のレンズから、何番(幾つ)離れたレンズに光線31が入射するのかを判定することができる。したがって、シミュレータ4において、入射判定部431は、多数が配列されるマイクロレンズ1132の内、第1のマイクロレンズとして、追跡すべき光線が最初に何番目のマイクロレンズに入射するのかを判定すればよい。隣接判定部432も、そのナンバーの前後(周辺)のマイクロレンズを第2のマイクロレンズと判定すればよい。
【0044】
これによって、マイクロレンズ1132を、図5のようにナンバー管理できるので、シミュレータ4による設計および工作機械での加工などが容易になる。特に、多数のマイクロレンズ1132の一部にでも、規則性の無い配列が行われている場合、隣接判定部432は、単純に、入射判定部431での第1のマイクロレンズの前後のナンバーのマイクロレンズを指定するだけでよくなる。
【0045】
図8は、実施形態に係る空間認識装置1の概略的構成を示すブロック図である。空間認識装置1は、目標物2に光線31を照射して、目標物2による反射光線32を検出し、得られた飛行時間から空間認識を行うものである。空間認識装置1は、発光部11と、受光部12と、演算部13とを備える。光モジュールに構成される発光部11は、受光部12および演算部13と共に、図示しないマザー基板上に実装され、その際、筐体115の底面または底付近の周縁部に露出した電極1151が、マザー基板に半田付けされる。
【0046】
受光部12は、反射光32を受光するレンズ121と、イメージセンサ122とを備える。空間認識装置1は、図8の例では、目標物2として、人物の全身を捉え、ジェスチャなどを検出する例を示している。他にも、空間認識装置1は、図9で示すスマートフォン51等の顔認証装置、および図10で示す無人搬送装置(ロボット)52の空間認識装置などとして使用される。そのような用途に応じて、イメージセンサ122のチップサイズ、解像度(画素数)、レンズ121の画角(焦点距離)などが適宜設定される。なお、イメージのような精細なものでなく、単純なセンサで反射光を検出することで、測距装置も実現でき、本願の明細書では、そのような測距装置も空間認識装置の範疇とする。
【0047】
そして、演算部13は、図示しないスイッチング素子を介して、光源112を極短パルス、たとえば10nsec以内で発光させ、光線31を発生させる。光線31の目標物2による反射光線32はイメージセンサ122で検出され、演算部13は、発光から受光迄の光線31,32の飛行時間から、3次元で空間認識を行う。スイッチング素子は、マザー基板上に搭載され、或いは光モジュールを構成する発光部11に内蔵されてもよい。演算部13は、例えば、マイクロコントローラが備えるCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)を用いて実現可能である。
【0048】
このような空間認識装置1において、目標物2は、たとえば図9のスマートフォン51における顔認証装置では比較的近距離に存在し、図8のジェスチャの検出、図10の無人搬送装置(ロボット)52に用いられる空間認識装置では比較的遠距離に存在する。そうすると、図9の顔認証装置よりも、図8および図10の空間認識装置の方が、光線31の照射範囲が広くなり、発光部11には、より大きな光量が要求される。つまり、光源112を構成する発光素子の面積を大きくしたり、密度を増やしたり、電流値を高めたりする必要がある。また、スマートフォン51における顔認証装置においても、イメージセンサ122のチップサイズおよび各素子の感度が一定のまま、より高精度な認証を行うために画素数を高めた場合にも、同様により大きな光量が要求される。
【0049】
そのため、スマートフォン51、無人搬送装置(ロボット)52など、光モジュールである発光部11の組込み用途及び仕様に応じて、発光部11を設計する必要がある。発光部11において、光源112の面積、密度は、必要な光量を主な要素として、適宜選択される。また、光源112の素子構造及び特性は、極短パルスの発光時間などに応じて、適宜選択される。素子構造及び特性の比較例としては、発光ダイオードより半導体レーザの方が、短パルス発光に好適である。また、半導体レーザとしては、ファブリペロー型レーザダイオード、VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER(垂直共振器面発光レーザ)、フォトニック結晶レーザダイオードが挙げられる。これらの半導体レーザは、端面出射型の半導体レーザのようなほぼ平行な光線ではなく、所定の拡がり角を持った光線を出射する。また上記した順で、高出力(大光量)になる一方、光線31が狭ビーム化する。狭ビーム化すると、マイクロレンズアレイ113には、より高い拡散性が要求される。こうして、前述のように、発光部11の組込み用途及び仕様に応じて、都度、マイクロレンズアレイ113を設計しなければならず、その設計にあたっては、シミュレータ4で、シミュレーションしなければならない。
【0050】
本開示から把握できる技術的思想を以下に記載する。なお、限定する意図ではなく理解の補助のために、付記に記載される構成要素には、実施形態中の対応する構成要素の参照符号が付されている。参照符号は、理解の補助のために例として示すものであり、各付記に記載された構成要素は、参照符号で示される構成要素に限定されるべきではない。
【0051】
<付記1>
光拡散用マイクロレンズアレイの作成および作成のための設計などに際し、光線追跡法で拡散具合などをシミュレーションするにあたって、先ず、入射判定ステップは、光源112から一の角度θで出射された光線31を追跡すべき光線に設定する。次に、入射判定ステップは、既知のアライメントの関係から、光線31がマイクロレンズアレイ113のアレイ面(1135)に到達した時点で、どのマイクロレンズに最初に入射することになるか(ナンバー9243)を計算(推定)する。続いて、入射判定ステップで、最初に光線31が入射すると推定されたマイクロレンズ(ナンバー9243)に対して、面交差判定ステップは、光線追跡法による面交差判定を行う。交差(入射)すると判定された光線31については、さらに、マイクロレンズ1132を透過して、スクリーンに投影されるまでの追跡を行ってもよい。そして、光源112から出射される光線31は、所定の拡がりを持って出射されるので、その拡がりの範囲内で、逐次角度θを変えて、入射判定ステップおよび面交差判定ステップを繰返してゆく。
【0052】
したがって、面交差判定ステップにおいて精緻な面交差判定を行うにあたって、入射判定ステップで粗い入射判定を事前に行い、実際に光線31が最初に入射する可能性のあるマイクロレンズ(ナンバー9243)にだけ面交差判定を行うことになる。このようにして、面交差判定で、解無となる可能性の有る判定を無くし、解有りとなる可能性の有る判定だけを行うことで、精緻な面交差判定の回数を減らし、光線追跡法による計算量を削減することができる。
【0053】
<付記2>
付記1に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法において、入射判定ステップでは、面交差判定ステップによる精緻な面交差判定を行うにあたって、粗い入射判定を事前に行う。そして、入射判定ステップは、光線31が最初に入射する可能性のある第1のマイクロレンズ(座標(3、3))だけ面交差判定に抽出する。しかしながら、光線31の角度θとマイクロレンズ1132の形状および間隔などによっては、光線31が、最初に入射すると判定された第1のマイクロレンズ(座標(3、3))の前に、他のマイクロレンズ(座標(2、3))に入射してしまうこともある。そこで、入射判定ステップは、隣接する第2のマイクロレンズ(座標(2、2)(2、3)(2、4)(3、2)(3、4)(4、2)(4、3)(4、4)も精緻な面交差判定に加える。
【0054】
これによって、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメント(配置)誤差およびマイクロレンズの形成(特に高さ)の誤差などがあっても、より正確に、シミュレーションを行うことができる。
【0055】
<付記3>
付記2に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法において、たとえば、各マイクロレンズ1132が行列状に配列されている場合、入射判定ステップは、隣接する第2のマイクロレンズを、上記のような8個判定すればよい。しかしながら、第1および第2のマイクロレンズを合わせて9個の内、実際に光線31が入射する可能性が有るマイクロレンズは、光線31をマイクロレンズアレイ上に投影したとき、光線31と交差する座標(3、3)(2、3)のマイクロレンズである。つまり、光源112から第1のマイクロレンズ(座標(3、3))までの直線(31)が光軸311と成す角度を、たとえばθとすると、角度θが、小さい側に隣接するマイクロレンズ(座標(2、3))が、実際に光線31が入射する可能性がある。そこで、入射判定ステップは、角度θが、小さい側に隣接するマイクロレンズ(座標(2、3))を第2のマイクロレンズとして、面交差判定ステップでの面交差判定に加える。これに対して、入射判定ステップは、第1のマイクロレンズ(座標(3、3))よりも光源112に近い側とはならない、単に隣接しているだけのマイクロレンズは、第2のマイクロレンズとは判定しない。
【0056】
これによって、第2のマイクロレンズ(座標(2、3))を判定するアルゴリズムは多少複雑になるが、実際に面交差判定を行うべきマイクロレンズを、少なくすることができる。たとえば、各マイクロレンズ1132が行列状に配列されているとき、第2のマイクロレンズ(座標(2、3))と判定されるレンズは、8個から、多くても3個程度、少なくて1個まで削減することができる。したがって、不要な面交差判定を、より少なくすることができる。
【0057】
<付記4>
付記2または3記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法では、入射判定ステップは、第1のマイクロレンズ(座標(3、3))に加えて、第2のマイクロレンズを抽出する。その際、入射判定ステップは、第2のマイクロレンズの抽出を、光軸311と光線31との成す角度θが予め定める角度以上の場合にだけ、つまり角度θが深い場合にだけ行う。これによって、第2のマイクロレンズの抽出数を減らし、面交差判定の回数をより削減することができる。
【0058】
<付記5>
付記2~4の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法では、入射判定ステップは、第1のマイクロレンズ(座標(3、3))に加えて、第2のマイクロレンズを抽出する。その際、入射判定ステップは、追跡すべき光線が最初に入射すると判定した第1のマイクロレンズ(座標(3、3))において、入射部位が第1のマイクロレンズの頂部領域Tか、側部領域Sか、をさらに判定する。側部領域Sの場合に、入射判定ステップは、第2のマイクロレンズを抽出する。これによって、第2のマイクロレンズの抽出数を減らし、面交差判定の回数をより削減することができる。
【0059】
<付記6>
付記1~5の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法において、光源112が複数設けられる場合は、入射判定ステップおよび面交差判定ステップの繰返しを、光源112毎に行う。したがって、より計算量を削減することができる。
【0060】
<付記7>
付記2~5の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法において、入射判定ステップは、光源からの光線が最初に入射することになる第1のマイクロレンズを判定する。その際、入射判定ステップは、マイクロレンズの配置間隔と、光線の角度と、光源とマイクロレンズアレイとの距離とから、第1のマイクロレンズを配列ナンバーで算出し、隣接する第2のマイクロレンズを、前後のナンバーのマイクロレンズとする。これによって、マイクロレンズをナンバー管理でき、設計および加工などが容易である。
【0061】
<付記8>
光拡散用のマイクロレンズアレイ113を光線追跡法でシミュレーションするシミュレータ4であって、第1の設定部41と、第2の設定部42と、第1の判定部43と、第2の判定部44と、制御部45と、を含む。第1の設定部41は、光源112とマイクロレンズアレイ113とのアライメントの関係を設定する。第2の設定部42は、光源112が出射する光線31の内、光源31の光軸311に対して、一の角度θで出射された光線31を追跡すべき光線として設定する。第1の判定部43は、第1の設定部41で設定されたアライメントの関係から、第2の設定部42で設定された光線31が、マイクロレンズアレイ113におけるどのマイクロレンズに最初に入射するのかを判定する。第2の判定部44は、第1の判定部43で入射が判定された第1のマイクロレンズに対して、光線追跡法による面交差判定を行う。制御部45は、第2の設定部42に、追跡すべき光線31を、光源112が他の角度で出射する光線へ設定変更させて、第1および第2の判定部43、44での判定を行わせる動作を繰返えさせる。したがって、精緻な面交差判定の回数を減らし、光線追跡法による計算量を削減することができる。
【0062】
<付記9>
光モジュール(11)は、光源112と、付記1~8の何れか1項に記載の光拡散用マイクロレンズアレイの光線追跡方法を用いて設計されたマイクロレンズアレイ113とを備える。
【0063】
<付記10>
空間認識装置1は、発光部11と、受光部12と、演算部13とを備える。発光部11は、付記9記載の光モジュールを備え、光源112から発生した光線31をマイクロレンズアレイ113で拡散させて目標物2に照射する。受光部12は、イメージセンサ122を備え、イメージセンサ122は、光線31の目標物2による反射光線32を検出する。演算部13は、光線31が反射光線32となって戻り、イメージセンサ122の各センサ素子で検出されることで得られた飛行時間から空間認識を行う。
【0064】
顔認証装置(51)又は産業用ロボット(52)などで広く使用される空間認識装置1では、被照射対象物である目標物2に照射する光線31の光量が、多く、均一になる程、高精度なセンシングが可能になる。そこで、上述のような光線追跡方法を用いて設計された光拡散用マイクロレンズアレイ113を有する光モジュールを発光部11に備えることで、高精度なセンシングが可能になる空間認識装置1を、短時間で設計することができる。
【0065】
<付記11>
付記10の空間認識装置において、光源112は、垂直共振器面発光レーザである。垂直共振器面発光レーザは、ビームが狭く、より高出力にでき、また短パルスの発光に好適であるので、光源112として用いることで、高精度なセンシングが可能な空間認識装置1を実現することができる。
【0066】
<付記12>
顔認証装置(51)は、付記10または11記載の空間認識装置1を備える。したがって、高精度なセンシングが可能な顔認証装置(51)を実現することができる。
【0067】
<付記13>
ロボット(52)は、付記10または11記載の空間認識装置1を備える。したがって、高精度なセンシングが可能なロボット(51)を実現することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 空間認識装置
11 発光部(光モジュール)
112 光源
1121 発光点
1122 表面
113 マイクロレンズアレイ
1131 基板
1132 マイクロレンズ
1133 表面
1134 裏面
1135 基底面
114 基板
115 筐体
1151 電極
12 受光部
121 レンズ
122 イメージセンサ
13 演算部
2 目標物
31 光線
311 光軸
32 反射光線
4 シミュレータ
40 表示装置
41 第1の設定部
42 第2の設定部
43 第1の判定部
431 入射判定部
432 隣接判定部
433 隣接除外判定部
434 角度判定部
435 入射部位判定部
44 第2の判定部
45 制御部
46 継続追跡部
47 照度分布演算部
48 CAD装置
49 入力装置
51 スマートフォン
52 無人搬送装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10