IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -眼科装置 図1
  • -眼科装置 図2
  • -眼科装置 図3
  • -眼科装置 図4
  • -眼科装置 図5
  • -眼科装置 図6
  • -眼科装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058665
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20250402BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
A61B3/10
A61B3/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168739
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】行森 隆史
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
(72)【発明者】
【氏名】今 綾香
(72)【発明者】
【氏名】境原 学
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AA15
4C316AA16
4C316FA01
4C316FA06
4C316FA18
4C316FY02
4C316FY05
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】輻輳性調節を適切に測定することのできる眼科装置を提供する。
【解決手段】眼科装置100は、左右の被検眼Eに視標8を呈示する視標呈示部(41)と、両被検眼Eの眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系6、7と、を備える。視標呈示部は、両被検眼Eの瞳孔と共役となる位置にピンホール(50)を配置した状態で、両被検眼Eの位置から2本の視線が交わる輻輳位置Rを変化させて視標8を呈示し、他覚測定光学系6、7は、視標呈示部がピンホールを配置を配置しつつ輻輳位置Rに呈示した視標8が融像された状態において、左右の被検眼Eの他覚屈折値を取得する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の被検眼に視標を呈示する視標呈示部と、
左右の前記被検眼の眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系と、を備え、
前記視標呈示部は、左右の前記被検眼の瞳孔と共役となる位置にピンホールを配置した状態で、左右の前記被検眼の位置から2本の視線が交わる輻輳位置を変化させて前記視標を呈示し、
前記他覚測定光学系は、前記視標呈示部が前記ピンホールを配置しつつ前記輻輳位置に呈示した前記視標が融像された状態において、左右の前記被検眼の他覚屈折値を取得することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記視標呈示部は、左右の前記被検眼に視標を投影する視標投影系に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
さらに、左被検眼に対応して同一光軸上に設けられた左側視標投影系と左側他覚測定光学系とを内蔵する左測定ヘッド部と、右被検眼に対応して同一光軸上に設けられた右側視標投影系と右側他覚測定光学系とを内蔵する右測定ヘッド部と、を備え、
前記視標呈示部は、前記左側視標投影系と前記右側視標投影系とに前記ピンホールを配置した状態で、前記左測定ヘッド部と前記右測定ヘッド部とを互いに逆方向に等しい角度で回旋させることで、前記視標を呈示する前記輻輳位置を変化させることを特徴とする請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記左側他覚測定光学系と前記右側他覚測定光学系とは、前記左測定ヘッド部と前記右測定ヘッド部とを回旋させる毎に、対応する前記左被検眼および前記右被検眼の前記他覚屈折値を取得することを特徴とする請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
さらに、前記視標投影系と前記他覚測定光学系とを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記輻輳位置の変化に対する前記他覚屈折値の変化に基づいて輻輳性調節を求めることを特徴とする請求項2に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科装置は、固視標を両眼視した状態で眼情報を測定するものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この従来の眼科装置は、共通の固視標を呈示した状態で、各被検眼の眼情報を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-069201号公報
【特許文献2】特開2022-038942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被検眼は、両眼視した状態において、固視標までの距離(呈示距離)に応じてピントを合わせるように調節するだけではなく、固視標を融像させるためにその方向に合わせた輻輳に誘発される調節(輻輳性調節)が生じることが知られている。その輻輳性調節は、両眼視を前提としているので、距離に応じた調節が同時に生じてしまう。このため、従来の眼科装置は、輻輳性調節を適切に測定することが困難である。
【0005】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、輻輳性調節を適切に測定することのできる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本開示の眼科装置は、左右の被検眼に視標を呈示する視標呈示部と、左右の前記被検眼の眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系と、を備え、前記視標呈示部は、左右の前記被検眼の瞳孔と共役となる位置にピンホールを配置した状態で、左右の前記被検眼の位置から2本の視線が交わる輻輳位置を変化させて前記視標を呈示し、前記他覚測定光学系は、前記視標呈示部が前記ピンホールを配置しつつ前記輻輳位置に呈示した前記視標が融像された状態において、左右の前記被検眼の他覚屈折値を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の眼科装置によれば、輻輳性調節を適切に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の眼科装置を示す外観斜視図である。
図2】実施例1の眼科装置における左測定光学系の概略構成例を示す説明図である。
図3】実施例1の眼科装置における制御ブロック構成を示す説明図である。
図4】一例としての左眼視標と右眼視標とを示す説明図である。
図5】視標までの呈示距離と、2本の視線が交わる輻輳位置までの輻輳距離と、を説明するための説明図である。
図6】実施例1の輻輳性調節の測定する処理の流れを示すフローチャートである。
図7】複数の被検者における、輻輳距離の各段階で他覚屈折平均値を取得したときのプリズム角と他覚屈折値との関係特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る眼科装置の一実施形態について図1から図7を参照しつつ説明する。
【実施例0010】
眼科装置100は、図1に示すように、被検者が左右の被検眼を開放した状態で、眼特性を両眼同時に測定可能な両眼開放タイプの装置である。この眼科装置100は、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、眼特性を片眼ずつ測定することも可能である。また、眼科装置100は、視標呈示機能、フォロプター機能、オートレフ・ケラト測定機能を備える自覚検査機能付きの他覚測定機である。このため、検者は、眼科装置100を用いて、任意の他覚検査および自覚検査を行い、被検眼の眼特性を他覚的および自覚的に測定可能である。
【0011】
眼科装置100によって実施可能な他覚検査は、被検眼の眼特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とを含む。他覚検査は、屈折力測定(レフラクト測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(以下、OCT:「Optical Coherence Tomographyの略」という。)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測などがある。また、自覚検査では、被検者に視標などが呈示され、呈示された視標などに対する被検者の応答に基づいて被検眼に関する情報(眼特性)が測定される。自覚検査には、遠用検査、中間距離用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査などの自覚屈折測定や、視野検査などがある。
【0012】
[装置の全体構成]
眼科装置100は、支持基台110と、測定ユニット120と、検者用コントローラ130と、制御部140と、を備える。なお、この実施例では、上下方向(Y軸方向)と、前後方向(Z軸方向(図1を正面視して手前側と奥側となる方向))と、それらに直交する左右方向(X軸方向(図1を正面視して左右方向))と、を用いる。そして、上下方向の上側をY軸方向の正側とし、前後方向の被検者側(図1を正面視して右手前側)をZ軸方向の正側とし、左右方向において図1を正面視して右奥側をX軸方向の正側とする。
【0013】
支持基台110は、床面から起立した支柱111と、その支柱111によって支持された検眼用テーブル112と、を有する。検眼用テーブル112は、検者用コントローラ130などの検眼に用いる装置や用具を置いたり、被検者の姿勢を支えたりする台である。検眼用テーブル112は、Y軸方向の位置(高さ位置)が固定であってもよいし、Y軸方向の位置(高さ位置)を調節可能に支柱111に支持されていてもよい。
【0014】
測定ユニット120は、アーム121と、測定ヘッド122と、額当部123と、を有する。アーム121は、一端が支柱111の先端部に支持され、他端がZ方向に沿って支柱111から手前側(被検者側)へと伸び、先端部に測定ヘッド122が取り付けられている。これにより、測定ヘッド122は、検眼用テーブル112の上方でアーム121を介して支柱111に吊下げられる。また、アーム121は、支柱111に対してY軸方向に移動可能である。なお、アーム121は、支柱111に対してX軸方向やZ軸方向にも移動可能としてもよい。
【0015】
測定ヘッド122は、被検眼E(図2図4参照)の眼特性を測定する。測定ヘッド122は、駆動部122aと、その下側に設けられた左右一対の左測定ヘッド部122Lおよび右測定ヘッド部122Rと、額当部123と、を有する。この左測定ヘッド部122Lおよび右測定ヘッド部122Rは、被検者の左右の被検眼Eに個別に対応している。駆動部122aは、左測定ヘッド部122Lおよび右測定ヘッド部122Rを、それぞれ個別に水平方向(X軸方向)の移動駆動、鉛直方向(Y軸方向)の移動駆動、X軸を中心とする回旋駆動、Y軸を中心とする回旋駆動させることができる。
【0016】
左測定ヘッド部122Lは、左測定光学系125Lを内蔵する。左測定光学系125Lは、被検者の左側の被検眼E(以下、左被検眼ELともいう)に視標8(図4参照)を呈示するとともに、任意の球面度数(矯正度数)に設定した状態で左被検眼ELの眼特性を測定する。右測定ヘッド部122Rは、右測定光学系125Rを内蔵する。右測定光学系125Rは、被検者の右側の被検眼E(以下、右被検眼ERともいう)に視標8を呈示するとともに、任意の球面度数(矯正度数)に設定した状態で右被検眼ERの眼特性を測定する。なお、左測定光学系125Lおよび右測定光学系125Rの詳しい構成は、後述の「光学系の構成」において説明する。
【0017】
額当部123は、測定ユニット120に設けられ、左測定ヘッド部122Lおよび右測定ヘッド部122Rの間に配置されている。額当部123は、眼特性の測定中に被検者の顔の額を接触させることで被検者の顔を支持する。すなわち、被検者は、検眼用テーブル112に正対した状態で、額当部123に被検者自身の額を押し当て、顔の向きや位置が動かないように安定させる。額当部123は、アーム121を支柱111に対してY軸方向に移動することで高さ方向の位置調整が行われる。
【0018】
検者用コントローラ130は、検者による入力操作を受け付け、制御部140に制御信号を出力する情報処理装置である。検者用コントローラ130は、例えば、タブレット端末やスマートフォンなどであり、測定ユニット120から分離して携帯することができる。なお、検者用コントローラ130は、ノート型パーソナルコンピュータやデスクトップ型パーソナルコンピュータなどであってもよいし、眼科装置100に設けられた専用のコントローラであってもよい。検者用コントローラ130は、無線通信やネットワーク通信を介して制御部140と情報をやりとりする。
【0019】
検者用コントローラ130は、表示部131と、図示しない操作側制御部と、を備える。表示部131は、検者用コントローラ130の表面に設けられたタッチパネルディスプレイからなり、入力ボタン132(図3参照)等が適宜表示される。操作側制御部は、検者用コントローラ130に内蔵されたマイクロコンピュータからなる。操作側制御部は、制御部140から送信された測定結果や検知結果に基づいて表示部131に表示する画像を制御する。また、操作側制御部は、入力ボタン132等に対する操作に応じた制御信号を制御部140に出力する。
【0020】
[光学系の構成]
次に、左測定光学系125Lおよび右測定光学系125Rの詳しい構成について、図2を用いて説明する。なお、左測定光学系125Lと右測定光学系125Rは、同一の構成である。このため、以下では、左測定光学系125Lを用いて説明し、右測定光学系125Rの構成については省略する。
【0021】
左測定光学系125Lは、左被検眼ELに視標8(図4参照)を呈示して検査を行う光学系である。左測定光学系125Lは、Zアライメント系1と、XYアライメント系2と、ケラト測定系3と、視標投影系4と、前眼部観察系5と、レフ測定投影系6と、レフ測定受光系7と、を備える。なお、以下の説明では、眼底共役位置Pと瞳孔共役位置Qとを用いる。その眼底共役位置Pは、アライメントが完了した状態での左被検眼ELの眼底ELfと光学的に略共役な位置であり、光学的に共役な位置またはその近傍を意味する。また、瞳孔共役位置Qは、アライメントが完了した状態での左被検眼ELの瞳孔と光学的に略共役な位置であり、光学的に共役な位置またはその近傍を意味する。
【0022】
Zアライメント系1は、前眼部観察系5の光軸方向(前後方向)におけるアライメントを行う光(実施例1では赤外光)を左被検眼ELに投影する。Zアライメント系1は、Zアライメント光源11から光を出射し、その光を投影レンズ12で平行光束にし、ケラト板31に形成したアライメント用孔を通して左被検眼ELの角膜に投影する。制御部140または検者は、角膜に投影した輝点に基づいて、前眼部観察系5の撮像素子59上のZアライメント光源11による二個の点像の間隔と、ケラトリング像の直径と、の比が所定範囲内に収まるように駆動部122aを制御し、左測定光学系125LをZ軸方向に移動する。これにより、左測定光学系125Lは、左被検眼ELに対して光軸方向で適切な位置とされる。
【0023】
XYアライメント系2は、前眼部観察系5の光軸(Z軸)に直交するX軸方向とY軸方向のアライメントを行う光(実施例1では赤外光)を左被検眼ELに照射する。XYアライメント系2は、ハーフミラー54により前眼部観察系5から分岐した光路上に、XYアライメント光源21と、投影レンズ22と、を有する。XYアライメント系2は、XYアライメント光源21から出射した光を、投影レンズ22を通して前眼部観察系5に進行させる。XYアライメント系2は、その光をハーフミラー54により反射し、前眼部観察系5を通じて左被検眼ELに投影する。その左被検眼ELの角膜による反射光は、前眼部観察系5を通じて撮像素子59に導かれる。これにより、左測定光学系125Lは、左被検眼ELに対してX軸方向とY軸方向とで適切な位置とされる。なお、XYZの各方向でのアライメント方法は、Zアライメント系1やXYアライメント系2を用いるものに限らない。例えば、眼科装置100に設置したステレオカメラを用いる等により、被検眼Eの位置計測が行える方法でも良い。
【0024】
ここで、角膜による反射光に基づく像(輝点像)は、前眼部像に重なって形成される。制御部140は、輝点像を含む前眼部像と、アライメントマークと、を表示部131に表示する制御を行う。手動でXYアライメントを行う場合、検者は、検者用コントローラ130を用いて、駆動部122aを介して左測定光学系125LのX軸方向およびY軸方向の移動操作を行い、アライメントマーク内に輝点像を誘導するように移動させる。自動でXYアライメントを行う場合、制御部140は、アライメントマークに対する輝点像の変位をキャンセルするように駆動部122aを制御し、左測定光学系125LをX軸方向およびY軸方向に移動する。
【0025】
ケラト測定系3は、左被検眼ELの角膜の形状を測定するリング状光束(赤外光)を角膜に投影する。ケラト測定系3は、前眼部観察系5の対物レンズ52と左被検眼ELの間の位置に配置されたケラト板31と、その背面側(対物レンズ52側)に設けられたケラトリング光源32と、を有する。ケラト測定系3は、ケラトリング光源32から光でケラト板31を照明することにより、左被検眼ELの角膜にリング状光束を投影する。左被検眼ELの角膜からの反射光(ケラトリング像)は、撮像素子59により前眼部像とともに検出できる。制御部140は、ケラトリング像を基に公知の演算を行うことで、角膜の形状を表す角膜形状パラメータを算出する。
【0026】
視標投影系4は、固視標や自覚検査用視標などの各種視標を左被検眼ELに呈示する。視標投影系4は、ディスプレイ41と、ハーフミラー42と、リレーレンズ43と、反射ミラー44と、合焦レンズ45と、リレーレンズ46と、フィールドレンズ47と、バリアブルクロスシリンダレンズ(VCC)48と、反射ミラー49と、ピンホール板50と、を有する。視標投影系4は、レフ測定投影系6とダイクロイックミラー68を共用する。視標投影系4は、前眼部観察系5とダイクロイックミラー53および対物レンズ52を共用する。さらに、視標投影系4は、視標8を表示するディスプレイ41等に至る光路とは別の光路上であって光軸を取り巻く位置に、左被検眼ELにグレア光を照射する少なくとも2つのグレア光源41aを有する。
【0027】
ディスプレイ41は、視標8を呈示する視標呈示部として機能するもので、他覚検査を行う際や左被検眼ELに雲霧をかけるとき等に視線を固定する視標8としての固視標や点状視標、あるいは、左被検眼ELの眼特性(視力値、遠用度数、近用度数など)を自覚的に検査する自覚検査視標、等を表示する。ディスプレイ41は、液晶ディスプレイを用いている。なお、ディスプレイ41としては、有機ELディスプレイなどを用いることもできる。そして、左被検眼ELと右被検眼ERとに投影する視標8は、静止像や動画像の視標8として任意に作成することができ、作成した視標8をチャートページに選択可能なチャートアイコンとして登録できる。ディスプレイ41は、作成された静止像による視標8または作成された動画像による視標8を、チャートページから選択して表示することができる。ディスプレイ41は、視標投影系4の光路上において、眼底共役位置Pに設けられる。
【0028】
視標投影系4は、ディスプレイ41からの光を、ハーフミラー42で反射させ、リレーレンズ43を透過させ、反射ミラー44で反射させ、合焦レンズ45を透過させる。視標投影系4は、その光を、リレーレンズ46を透過させ、フィールドレンズ47によって進行方向を揃えてからVCC48を透過させ、反射ミラー49で反射させ、ダイクロイックミラー68を透過させて、ダイクロイックミラー53により反射する。視標投影系4は、ダイクロイックミラー53で反射した光を、対物レンズ52を通して眼底ELfに投影する。
【0029】
合焦レンズ45は、制御部140によって制御される駆動モータ(図示せず)により、光軸方向に進退駆動する。制御部140は、合焦レンズ45を左被検眼ELに近づく方向へ移動する制御を行うと、左被検眼ELの球面度数をマイナスディオプター側(-D側)に変える。また、制御部140は、合焦レンズ45を左被検眼ELから離反する方向へ移動する制御を行うと、左被検眼ELの球面度数をプラスディオプター側(+D側)に変える。さらに、制御部140は、合焦レンズ45の進退駆動を制御することにより、左被検眼ELから視標呈示位置までの呈示距離Lpを変更する。ここで、合焦レンズ45は、レフ測定投影系6のレフ測定光源61やレフ測定受光系7の合焦レンズ74と連動して移動する構成としている。
【0030】
自覚検査を行う場合、制御部140は、他覚測定の結果に基づき合焦レンズ45を光軸方向に移動し、呈示距離Lpや左被検眼ELの球面度数を制御する。そして、制御部140は、検者等により選択された所定の視標8をディスプレイ41に表示する。これにより、所定の視標8が、所定の球面度数に調整された左被検眼ELに対し、所定の呈示距離Lpで被検者に呈示される。また、被検者が視標8に対する自覚回答を行うと、回答内容の入力を受ける。例えば、制御部140は、視力測定の場合、ランドルト環などに対する被検者からの自覚回答に基づいて、検者は次の視標8を選択して呈示し、これを繰り返し行うことで視力値を決定する。このため、視標投影系4は、自覚式検査系として機能する。
【0031】
ピンホール板50は、視標投影系4において、瞳孔共役位置Qに設けられ、実施例1ではフィールドレンズ47とVCC48との間に設けられている。このピンホール板50は、板部材に貫通孔を設けて形成されている。ピンホール板50は、制御部140の制御下で視標投影系4の光路への挿入と当該光路からの離脱とが可能とされ、光路に挿入されると貫通孔が光軸上に位置される。ピンホール板50は、自覚検査モードにおいて光路に挿入されることで、左被検眼ELの眼鏡による矯正が可能であるか否かを判別するピンホールテストを行うことを可能とする。また、ピンホール板50は、後述する輻輳性調節を測定する際にも挿入される。なお、ピンホール板50は、光路上において左被検眼ELの瞳孔と略共役となる位置に設ければよく、実施例1の構成に限定されない。
【0032】
前眼部観察系5は、左被検眼ELの前眼部の観察および前眼部の撮影をする。前眼部観察系5は、前眼部照明光源51により、左被検眼ELの前眼部に照明光(実施例1では赤外光)を照射する。前眼部観察系5は、その左被検眼ELの前眼部で反射された光を、対物レンズ52を通過し、ダイクロイックミラー53およびハーフミラー54を透過させ、リレーレンズ55およびリレーレンズ56を通過させ、ダイクロイックミラー57を透過させる。前眼部観察系5は、その光を、結像レンズ58により撮像素子59の撮像面にて結像させる。その撮像素子59の撮像面は、瞳孔共役位置Qとされている。撮像素子59は、所定のレートで撮像および信号出力を行い、その映像信号を制御部140に出力する。制御部140は、撮像素子59の出力である映像信号に基づく前眼部像(動画像)を、検者用コントローラ130の表示部131に表示する。
【0033】
レフ測定投影系6およびレフ測定受光系7は、左被検眼ELの眼特性として、他覚屈折値を測定する他覚屈折測定(レフ測定)に用いる他覚測定光学系である。以下では、レフ測定投影系6およびレフ測定受光系7を、他覚測定光学系6、7ともいう。レフ測定投影系6は、レフ測定光源61からの他覚測定用のリング状光束(赤外光)を眼底ELfに投影する。レフ測定受光系7は、このリング状光束の左被検眼ELからの戻り光を受光する。
【0034】
レフ測定光源61は、実施例1では、発光径が所定のサイズ以下の高輝度光源であるSLD(Super luminescent Diode)光源としている。レフ測定光源61は、合焦レンズ45および合焦レンズ74と連動して光軸方向に移動可能とされて、眼底共役位置Pに配置されている。リング絞り65は、リング状に形成された透光部であり、瞳孔共役位置Qに配置されている。合焦レンズ74は、レフ測定光源61および合焦レンズ45と連動して光軸方向に移動可能とされる。この合焦レンズ74は、制御部140からの制御下で、焦点位置を変更可能な公知の焦点可変レンズとしてもよい。レフ測定受光系7の光学系における撮像素子59の撮像面は、眼底共役位置Pに配置されている。
【0035】
レフ測定投影系6は、レフ測定光源61から出射された光を、リレーレンズ62を通過させて、円錐プリズム63の円錐面に対し入射させる。レフ測定投影系6は、円錐面に入射した光を偏向させて、円錐プリズム63の底面から出射し、フィールドレンズ64を通過させ、リング絞り65(その透光部)を通過させる。レフ測定投影系6は、その光(リング状光束)を、孔開きプリズム66の反射面で反射させ、ロータリープリズム67を通過させ、ダイクロイックミラー68で反射させる。レフ測定投影系6は、その反射した光を、ダイクロイックミラー53で反射させ、対物レンズ52を通過させて、左被検眼ELに投影する。
【0036】
ここで、円錐プリズム63は、瞳孔共役位置Qに可能な限り近い位置に配置されることが望ましい。円錐プリズム63は、例えば、フィールドレンズ64に臨む底面にリング絞り65が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、円錐プリズム63の底面には、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。また、リング絞り65は、円錐プリズム63の円錐面の側にあってもよい。
【0037】
また、フィールドレンズ64は、例えば、左被検眼ELの側のレンズ面にリング絞り65が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、フィールドレンズ64のレンズ面には、リング状の透光部を形成するように遮光膜が蒸着される。なお、レフ測定投影系6は、フィールドレンズ64を省略した構成であってもよい。リング絞り65は、所定の測定パターンに対応した形状を有する透光部が形成した絞りであってもよく、この絞りに、レフ測定投影系6の光軸に対して偏心した位置に透光部を形成してもよい。また、絞りには、2以上の透光部が形成されていてもよい。ロータリープリズム67は、眼底ELfの血管や疾患部位に対するリング状光束の光量分布の平均化や光源に起因するスペックルノイズの低減のために用いられる。
【0038】
レフ測定受光系7は、眼底ELfに投影したリング状光束の戻り光を、対物レンズ52を通過させ、ダイクロイックミラー53およびダイクロイックミラー68で反射させる。レフ測定受光系7は、その反射させた戻り光を、ロータリープリズム67、孔開きプリズム66の孔部、リレーレンズ71を通過させ、反射ミラー72で反射させ、リレーレンズ73および合焦レンズ74を通過させる。レフ測定受光系7は、その通過させた光を、反射ミラー75で反射させ、ダイクロイックミラー57で反射させ、結像レンズ58により撮像素子59の撮像面に結像させる。
【0039】
制御部140は、撮像素子59からの出力を基に公知の演算を行うことで眼屈折力のパラメータを算出する。その眼屈折力のパラメータは、左右の被検眼EL、ERの屈折値(屈折度数)や球面度数、乱視度数および乱視軸角度を含む。制御部140は、検者用コントローラ130から送信された制御信号に基づいて、レフ測定投影系6およびレフ測定受光系7や視標投影系4等を有する左測定光学系125Lおよび右測定光学系125Rや、駆動部122aを含む測定ユニット120の各部を統括的に制御する。また、制御部140は、測定ヘッド122で測定した左被検眼ELおよび右被検眼ERの眼特性の測定結果を検者用コントローラ130に送信する。
【0040】
[制御部の構成]
次に、制御部140の構成を、図3を用いて説明する。制御部140は、図3に示すように、主制御部141と、記憶部142と、輻輳性調節測定部143と、を備える。
【0041】
主制御部141は、Zアライメント系1のZアライメント光源11、XYアライメント系2のXYアライメント光源21、ケラト測定系3のケラトリング光源32の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。また、主制御部141は、視標投影系4のディスプレイ41に表示される視標8のオン・オフ制御や視標8の切り替え制御を行う。主制御部141は、視標投影系4のピンホール板50の光路上への挿入とそこからの離脱との切り替え制御を行う。さらに、主制御部141は、前眼部観察系5の前眼部照明光源51の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。主制御部141は、前眼部観察系5の撮像素子59の露光時間変更制御や検出感度変更制御を行う。主制御部141は、レフ測定投影系6のレフ測定光源61の光量変更制御や点灯/非点灯の切り替え制御を行う。主制御部141は、レフ測定投影系6のロータリープリズム67の回転速度変更制御および回転動作のオン・オフ切り替え制御を行う。主制御部141は、前眼部観察系5のリレーレンズ56光軸方向の位置を変更する制御を行う。また、主制御部141は、視標投影系4の合焦レンズ45と、レフ測定投影系6のレフ測定光源61と、レフ測定受光系7の合焦レンズ74を、連動して光軸方向へ移動させる移動制御を行う。なお、主制御部141は、記憶部142にデータを書き込む処理や記憶部142からデータを読み出す処理を行う。
【0042】
記憶部142は、各種データを記憶する。その記憶データとしては、ケラト測定系3により得られた測定情報、他覚測定光学系6、7により得られた測定情報、撮像素子59により取得された画像データ、被検眼情報等がある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者に関する情報や、左眼/右眼の識別情報などの左右の被検眼EL、ERに関する情報を含む。ケラト測定系3により得られた測定情報は、左右の被検眼EL、ERのケラト測定が行われたときに記憶部142に保存される。他覚測定光学系6、7により得られた測定情報は、左右の被検眼EL、ERのレフラクト測定が行われたときに記憶部142に保存される。記憶部142は、左右の被検眼EL、ERの角膜形状パラメータの算出処理や屈折値の算出処理の作業メモリとして用いてもよい。また、記憶部142には、眼科装置100を動作させる各種プログラムやデータが記憶されている。
【0043】
輻輳性調節測定部143は、左右の被検眼EL、ERによる立体視の際の輻輳性調節の測定(図6参照)を行う。輻輳性調節測定部143は、輻輳位置設定部144と、他覚測定部145と、算出部146と、を有する。
【0044】
輻輳位置設定部144は、左右の被検眼EL、ERを、焦点深度を深くした状態として、左右の被検眼EL、ERから一定の呈示距離Lp(例えば、無限遠)だけ離れた視標位置に左眼視標8Lと右眼視標8R(図4参照)をそれぞれ呈示する。ここで、眼科装置100は、左被検眼ELに対応して左測定光学系125Lを内蔵する左測定ヘッド部122Lと、右被検眼ERに対応して右測定光学系125Rを内蔵する右測定ヘッド部122Rと、を有する(図1参照)。そして、左眼視標8Lと右眼視標8Rとは、左測定光学系125L、右測定光学系125Rのそれぞれの視標投影系4のディスプレイ41(視標呈示部)に設定されている。このため、輻輳位置設定部144は、左眼視標8Lを左測定光学系125Lにより左被検眼ELに投影させ、右眼視標8Rを右測定光学系125Rにより右被検眼ERに投影させることで、左眼視標8Lと右眼視標8Rとをそれぞれ呈示する。
【0045】
この左眼視標8Lと右眼視標8Rとの一例について、図4を用いて説明する。図4では、両視標8を左右に並べており、左側に左眼視標8Lを示し、右側に右眼視標8Rを示している。左眼視標8Lは、図4の左側に示すように、液晶枠等の方形状の視標フレーム81の中心位置に、アスタリスク82の図柄を表示させたものとしている。右眼視標8Rは、図4の右側に示すように、液晶枠等の方形状の視標フレーム81の中心位置に、アスタリスク82の図柄を表示させたものとしている。この左眼視標8Lと右眼視標8Rとは、視標フレーム81の中心位置に、同じ図柄、同じ大きさ、同じ線分幅によるアスタリスク82を有するものとしている。このアスタリスク82は、両眼視したときに網膜に映った像を一つにまとめて単一視する融像のとき、左右の被検眼EL、ERに対する融像刺激を適切に与えるように、図柄や大きさや線分幅を決めている。
【0046】
なお、アスタリスク82は、その大きさや放射状の線分幅を適宜設定するものとしてもよい。また、左眼視標8Lと右眼視標8Rとでは、アスタリスク82ではなく他の図柄に変更してもよい。
【0047】
これにより、輻輳位置設定部144は、左眼視標8Lと右眼視標8Rとを単一視させて融像させること可能としている。そして、輻輳位置設定部144は、左右の被検眼EL、ERから左眼視標8Lと右眼視標8Rに向かうプリズム角を変える制御により、輻輳距離Lcが変化する状態を処方している。この呈示距離Lpと輻輳距離Lcとの関係について、図5を用いて説明する。
【0048】
呈示距離Lpとは、左右の被検眼EL、ERから視標8が呈示される位置までのZ軸方向に沿った距離をいう。図5に示す例では、後述する輻輳位置R2に視標8が呈示されたものとしている。この呈示距離Lpは、視標投影系4におけるディスプレイ41までの光学的な距離(実施例1では主に合焦レンズ45の位置)を調節することにより設定される。また、呈示距離Lpは、左右の被検眼EL、ERにより視標8に焦点を合わせたときのピント調節距離ということができる。呈示距離Lpは、ここでは左右の被検眼EL、ERをつないだ直線から視標8の距離としているが、これに限らず、被検眼EL、ERそれぞれから視標8の距離としてもよい。
【0049】
輻輳距離Lcとは、左右の被検眼EL、ERの位置から2本の視線が交わる輻輳位置までのZ軸方向に沿った距離をいう。図5に示す例では、輻輳位置R1に対しては、左右の被検眼EL、ERの位置から2本の視線SL1、SR1が交わる位置までのZ軸方向に沿う距離が輻輳距離Lc1となる。また、輻輳位置R2に対しては、左右の被検眼EL、ERの位置から2本の視線SL2、SR2が交わる位置までのZ軸方向に沿う距離が輻輳距離Lc2となる。なお、輻輳距離Lcは、ここでは左右の被検眼EL、ERをつないだ直線から2本の視線が交わる輻輳位置Rまでの距離としているが、これに限らず、被検眼EL、ERそれぞれから2本の視線が交わる輻輳位置Rまでの距離としてもよい。
【0050】
ここで、輻輳距離Lcを、図5に矢印Aに示すように、輻輳距離Lc2から輻輳距離Lc1に変更したとする。このとき、輻輳角度は、輻輳距離Lc2から輻輳距離Lc1への変更に伴い、視線SL2、SR2が交わる輻輳角度θ2から、視線SL1、SR1が交わる輻輳角度θ1(>θ2)へと変化する。したがって、左右の被検眼EL、ERは、輻輳角度が、輻輳角度θ2から輻輳角度θ1に変化することに伴い左右の被検眼EL、ERが寄る方向の眼球運動を生じ、この眼球運動が、輻輳刺激になる。
【0051】
ここで、輻輳位置設定部144は、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rとの両視標投影系4において、光路上の瞳孔共役位置Qにピンホール板50を挿入した状態で左眼視標8Lと右眼視標8Rとを呈示する。すると、両視標投影系4では、左右の被検眼EL、ERの焦点深度を深くされるので、左右の被検眼EL、ERは、呈示距離Lpに応じて調節しなくても対応する左眼視標8L、右眼視標8Rに対してある程度はっきり見える状態とすることができる。したがって、左右の被検眼EL、ERは、輻輳距離Lc2から輻輳距離Lc1へと変更されても呈示距離Lpの変化に起因する調節機能は働かず、原則として、左右の被検眼EL、ERを他覚測定してもその他覚屈折値は変わらないはずである。しかし、左右の被検眼EL、ERは、実際には、輻輳刺激に誘発されて水晶体の曲率を変化させる調節機能が働くと、左右の被検眼EL、ERを他覚測定したときに他覚屈折値が変わる。このため、輻輳性調節測定部143は、ピンホール板50を挿入した状態で左眼視標8Lと右眼視標8Rとを融像させることで、左右の被検眼EL、ERに対し輻輳刺激のみを与えた状態とすることができる。
【0052】
輻輳位置設定部144は、左右の被検眼EL、ERから左眼視標8Lと右眼視標8Rに向かう視線角度を変える制御により、左右の被検眼EL、ERの位置から2本の視線が交わる輻輳位置までの輻輳距離Lcが変化する状態を処方する。そして、輻輳位置設定部144は、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rとを、左右の被検眼EL、ERを通りY軸方向に伸びる2本の回旋軸を中心として、互いに逆方向に回旋させつつその回旋角度を変化させることにより、視線角度を変える制御(回旋角度制御)を行う。その回旋角度制御は、輻輳位置設定部144からの指令を基に駆動部122aにより行われる。
【0053】
ここで、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rとは、回旋角度制御を行うと、左右の被検眼EL、ERから視標8を表示するディスプレイ41に向かう視標投影系4の光軸の角度を変化させることとなる。このため、回旋角度制御は、視標投影系4の光軸上の何れかの位置にプリズムレンズを加え、プリズムレンズにより偏角を変える制御を行う構成と等価になる。このことから、視線角度は、以下、プリズムレンズのプリズム度数をあらわす「プリズム角」という。ちなみに、プリズムレンズは、レンズを通過した光が1m先の垂直スクリーン上で1cmずれるとき、このプリズム度数を1Δ(1プリズムディオプター)といい、このときの偏角は0.57度になる。ここでは、輻輳距離Lcが被検眼に近くなる(眼を内向きに回旋させる)方向のプリズム度数をプラス、輻輳距離Lcが被検眼から遠くなる(眼を外向きに回旋させる)方向のプリズム度数をマイナスとして以下の説明を行う。輻輳位置設定部144は、左右の被検眼EL、ERから左眼視標8Lと右眼視標8Rに向かうプリズム角を段階的に変える制御により、遠い位置から近い位置までの距離範囲で輻輳距離Lcが段階的に変化する状態を作り出す。
【0054】
他覚測定部145は、輻輳位置設定部144での処理と並列に実行される。他覚測定部145は、輻輳距離Lcを変化させた際の左右の被検眼EL、ERの眼特性を他覚測定光学系6、7により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。ここで、輻輳位置設定部144での処理は、上記のように、輻輳距離Lcが段階的に変化する状態を処方する処理である。このため、他覚測定部145は、変化する輻輳距離Lcの各段階で左右の被検眼EL、ERの眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得してもよい。
【0055】
算出部146は、輻輳位置設定部144にて設定された輻輳距離Lc毎すなわちプリズム度数毎の、他覚測定部145にて取得した他覚屈折値(レフ値)に基づいて、左右の被検眼EL、ERの輻輳性調節を求める。ここで、輻輳位置設定部144は、両視標投影系4でピンホール板50を挿入して左右の被検眼EL、ERの焦点深度を深くした状態で左眼視標8Lと右眼視標8Rとを呈示することで、被検眼EL、ERに対して輻輳性調節の刺激のみを与えた状態としている。このため、他覚測定部145が取得した他覚屈折値(レフ値)の変化は、輻輳位置設定部144で設定した輻輳距離Lcすなわちプリズム度数の変化に対する輻輳性調節とみなすことができる。これらのことから、算出部146は、段階的に変化された輻輳距離Lcまたはプリズム度数の変化に対する他覚屈折値(レフ値)の変化を輻輳性調節とする。
【0056】
[輻輳性調節を測定する処理の構成および作用の流れ]
次に、輻輳性調節測定部143において実行される輻輳性調節を測定する処理の構成および作用の流れを、図6に示すフローチャートを用いて説明する。この測定処理は、眼科装置100において、輻輳性調節を測定するモードが選択されることにより開始される。
【0057】
ステップS1は、予備測定を行い、ステップS2へ進む。このステップS1では、主制御部141が、予備測定として、リング像の撮像画像などに基づいて、左右の被検眼EL、ERの屈折値を含む眼特性を取得する。なお、予備測定は、二回以上実行させ、繰り返すたびに測定条件が収束するように、各回の予備測定により、同一種別の測定条件を決定してもよいし、異なる種別の測定条件を決定してもよい。各回の予備測定は、得られたリング像に基づいて、例えば、レフ測定光源61からの光量、撮像素子59の露光時間、撮像素子59の検出感度、および合焦レンズ74に対する制御内容のうち少なくとも一つが決定される。
【0058】
ステップS2は、本測定を行い、ステップS3へ進む。このステップS2では、主制御部141が、本測定として、最後に実行された予備測定により決定された測定条件の下で、目的とする左右の被検眼EL、ERの他覚屈折値を測定する。なお、左右の被検眼EL、ERの他覚屈折値の測定は、以下の手順で行われる。先ず、主制御部141は、レフ測定投影系6によって左右の被検眼EL、ERの眼底ELf、ERfに他覚測定用のリング状光束(赤外光)を投影する。そして、主制御部141は、レフ測定受光系7によって、眼底ELf、ERfからのリング状光束の戻り光を検出(受像)し、撮像素子59からの画像信号に基づき、左右の被検眼EL、ERの他覚屈折値を周知の手法により取得する。
【0059】
ステップS3は、自覚検査の開始設定を行い、ステップS4へ進む。このステップS3では、主制御部141が、左右の被検眼EL、ERのそれぞれに対して自覚検査の開始設定を行う。この自覚検査の開始設定では、本測定(ステップS2)において得られた左右の被検眼EL、ERの屈折値またはRG検査(ステップS4)での検査結果に基づいて、左右の被検眼EL、ERの球面度数を、呈示距離Lpが遠見の位置で完全矯正状態となるように、視標投影系4における合焦レンズ45の位置を調整する。
【0060】
ステップS4は、RG検査を行って完全矯正状態か否かを判断して、YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合はステップS3へ戻る。このステップS4では、主制御部141が、RGチャートを用いるRG検査を実施し、完全矯正状態(適正)であるとYESとしてステップS5へ進み、過矯正または低矯正であるとNOとしてステップS3へ戻る。このRG検査は、RGチャートを用い、色収差と呼ばれる光の特性を使って左右の被検眼EL、ERのそれぞれの矯正状態が完全矯正状態(適正)であるか、すなわち過矯正または低矯正になっていないかを自覚的にチェックするものである。RGチャートは、例えば、大きさが異なる数字と大きさが異なる◎印および〇印とを視標8とする赤色アイコンと、赤色アイコンと同じ形状の視標8による緑色アイコンと、を左右に並べたものである。RG検査は、眼の透光体の特性上、波長の短い光ほど、屈折面でのパワーが大きいため、緑の波長の光は赤の波長の光に比べると入射側方向にずれた位置に結像する。このため、左右の被検眼EL、ERが低矯正の状態では、赤い視標8の方がはっきり見え、左右の被検眼EL、ERが過矯正の状態では、緑の視標8の方がはっきり見える。よって、被検者が、RGチャートの緑と赤の視標8が均等に見えるまでステップS3からステップS4を繰り返して、合焦レンズ45の位置を変更して左右の被検眼EL、ERの球面度数(矯正度数)を調整する操作を行う。この結果、左右の被検眼EL、ERは、RG検査での仮決定値により完全矯正値が処方された状態になる。
【0061】
このため、ステップS1からステップS4は、左右の被検眼EL、ERを、自覚検査での完全矯正値が処方された状態とする完全矯正処方ステップとなる。但し、左右の被検眼EL、ERの完全矯正値は、実施例1でのRG検査での仮決定値ではなく、例えば、別途測定した値、現在の眼鏡での処方値、自覚検眼を一通り行って決定した値、などのうち何れかの値であってもよい。また、このとき斜位、斜視検査を行って被検眼EL、ERの眼位を矯正してもよい。
【0062】
ステップS5は、焦点深度を深くして左眼視標8Lと右眼視標8Rとを呈示する視標呈示を行い、ステップS6へ進む。このステップS5では、輻輳位置設定部144が、左測定光学系125L、右測定光学系125Rのそれぞれの視標投影系4において、光路上の瞳孔共役位置Qにピンホール板50を挿入した状態で初期プリズム角を設定して、左眼視標8Lと右眼視標8Rとを呈示させる。ステップS5は、初期プリズム角とするように回旋角度制御を行う。このとき、呈示距離Lpは、初期プリズム角における輻輳距離Lcと近い値であれば、任意の位置(例えば、無限遠の位置)となるように合焦レンズ制御が行われる。
【0063】
ステップS6は、融像しているかを確認して、ステップS7へ進む。このステップS6では、輻輳位置設定部144が、左眼視標8Lと右眼視標8Rの融像に関する自覚回答を被検者から取得する。自覚回答としては、例えば、左眼視標8Lと右眼視標8Rの融像により視標8が1個に見えているかどうかの回答を取得する。ここで、1個に見えていない場合は、被検眼が適切に検査を行えているか確認のうえ、行えていなければ適切な状態になるように設定をし直し、行えているようであれば検査を中止、もしくは1個に見えるように眼位を矯正して検査を継続してもよい。
【0064】
ステップS7は、プリズム角変更処理を行い、ステップS8へ進む。このステップS7では、輻輳位置設定部144が、ピンホール板50を挿入したままで、0Δ、または、前回のプリズム角から、次のプリズム角に段階的に変化させるように駆動部122aを駆動させる。プリズム角は、例えば、0Δ、+1Δ、+2Δ、+4Δ、+6Δ、+10Δの6段階にて変更される。例えば、初期プリズム角が0Δのときは、+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δまでの6段階にて切り替え変更される。なお、この例では、所定のプリズム角から被検眼Eに近づく方向、すなわち調節する方向のみ検査を行うが、斜視等の影響があるか否かや開散方向に輻輳したときに調整が変化するか否かを見るために、所定の距離まで変更した後に所定のプリズム角に戻し、そこから遠ざかる方向に検査を行ってもよい。また、この変化の態様は適宜設定すればよく、この例のやり方に限定されない。
【0065】
ステップS8は、融像しているかを確認して、ステップS9へ進む。このステップS8では、輻輳位置設定部144が、輻輳距離Lcの段階的な変化に対し、左眼視標8Lと右眼視標8Rの融像に関する自覚回答を被検者から取得する。自覚回答としては、例えば、左眼視標8Lと右眼視標8Rの融像により視標8が1個に見えているかどうかの回答を取得する。このため、ステップS8は、左右の被検眼EL、ERの輻輳性調節を測定する際、自覚的に融像できているかどうかを確認することができる。
【0066】
ステップS9は、プリズム角変更処理が終了したか否かを判断して、YESの場合はステップS13へ進み、NOの場合はステップS7へ戻る。このステップS9では、輻輳位置設定部144が、プリズム角を最終のプリズム角(例えば、-10Δ)まで変化させたか否かを判断する。すなわち、ステップ9では、予め設定された全てのプリズム角に対して測定を行ったか否かを判断している。
【0067】
ここで、ステップS7、S9は、左右の被検眼EL、ERから左眼視標8Lと右眼視標8Rに向かうプリズム角を変える制御を行うことで、左右の被検眼EL、ERの位置から2本の視線が交わる輻輳位置までの輻輳距離Lcが変化する状態を処方する輻輳距離制御ステップとなる。そして、ステップS6、S8は、輻輳距離Lcの変化に対し左右の被検眼EL、ERにより融像を試みたとき、融像に関する自覚回答を被検者から取得する自覚回答取得ステップとなる。
【0068】
ステップS10は、レフ測定を行う。このステップS10では、他覚測定部145が、輻輳距離Lcの変化に対する左右の被検眼EL、ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。ステップS11は、所定のタイミングでのレフ値表示を行う。このステップS11では、他覚測定部145が、プリズム角が変化したタイミングで取得した複数個の他覚屈折値(レフ値)を表示する。ステップS12は、レフ値を比較する。このステップS12では、他覚測定部145が、プリズム角が変化するタイミングで取得した複数個のレフ値を比較し、平均値を算出する。このステップS10からステップS12は、輻輳距離Lcの制御と並列に実行され、輻輳距離Lcの変化に対し左右の被検眼EL、ERにより融像を試みたとき、左右の被検眼EL、ERの眼特性を他覚測定光学系により測定し、他覚測定情報として他覚屈折値を取得する。
【0069】
ステップS13は、輻輳性調節を求めて、この輻輳性調節の測定処理を終了する。このステップS13では、算出部146が、輻輳位置設定部144が変化させた輻輳距離Lcすなわちプリズム度数と他覚測定部145からの他覚屈折値(レフ平均値)とに基づいて、輻輳性調節(その値)を算出する。具体的には、輻輳性調節は、呈示距離Lp(実施例1では無限遠)から算出された屈折値と、輻輳距離Lcを変化させたときの他覚的屈折値と、の差となる。輻輳性調節は、例えば、測定したうちの1か所もしくは複数箇所のプリズム角(輻輳距離Lc)の他覚的屈折値を用いた差分として求めることができる。この輻輳性調節は、プリズム角(輻輳距離Lc)毎に求めた値を表示してもよく、各プリズム角との関係を示すグラフとして表示してもよい。
【0070】
次に、上記した輻輳性調節の測定処理(各ステップ)の作用の流れについて説明する。その測定処理は、被検者が眼科装置100と対峙して顔を所定位置にセットし、左右の被検眼EL、ERと装置の位置関係を適正に調整するアライメントが完了すると開始され、ステップS1→S2→S3→S4へと進む。このため、主制御部141が、スタート後、予備測定、本測定、自覚検査の開始設定を行った後、RGチャートを用いるRG検査での仮決定値により完全矯正値が処方された状態とする。その後、測定処理は、ステップS5→S6へと進み、輻輳位置設定部144がピンホール板50を挿入した状態で初期プリズム角とし、被検者から融像しているかの自覚回答を取得する。
【0071】
その後、測定処理は、ステップS7→S8→S9へと進み、輻輳位置設定部144がプリズム角を、初期プリズム角(例えば、0Δ)から設定されたプリズム角に切り替えることで、各プリズム角に対応するように輻輳距離Lcを段階的に変化させる。このとき、プリズム角(輻輳距離Lc)を変化させた際に、被検者から融像しているかの自覚回答を取得する。このことは、プリズム角を最終のプリズム角(例えば、-10Δ)まで変化させるまで、繰り返される。そして、このプリズム角(輻輳距離Lc)の変化と並行して、ステップS10→S11→S12へ進む流れが繰り返され、他覚測定部145による他覚測定を行い、プリズム角(輻輳距離Lc)を変化させた際の他覚屈折値(レフ値)を取得する。
【0072】
そして、設定された全てのプリズム角(輻輳距離Lc)に変化されると、ステップS9→S13へと進み、算出部146が、輻輳位置設定部144により変化されたプリズム角(輻輳距離Lc)と他覚測定部145からの他覚屈折値(レフ平均値)とに基づいて、左右の被検眼EL、ERの輻輳性調節(その値)を算出する。このように、輻輳性調節の測定処理の流れは、輻輳距離制御処理と他覚測定とを並行に実行し、輻輳距離制御処理が終了すると、ステップS13にて他覚測定と合流する流れになる。
【0073】
ここで、他覚測定部145は、それぞれの輻輳距離Lc(プリズム角)に対する他覚屈折値(レフ平均値)を測定している。このため、算出部146は、それぞれの輻輳距離Lc(プリズム角)に対する他覚屈折値(レフ平均値)に基づいて輻輳性調節を算出できるので、様々な輻輳距離Lc(プリズム角)の変化の態様に対してそれぞれ輻輳性調節を求めることができる。
[輻輳性調節算出作用]
【0074】
次に、輻輳性調節算出作用について、図7を参照して説明する。まず、他覚測定部145は、上記のように、輻輳距離Lcの各段階で左右の被検眼EL、ERの眼特性を所定回数測定し、他覚測定情報として、各段階で得られた所定回数の他覚屈折値を平均した他覚屈折平均値を取得する。これにより、他覚測定部145は、変化させたプリズム角毎の他覚屈折値を取得できる。
【0075】
図7は、複数の被検者を対象として、輻輳距離Lcの各段階で他覚屈折平均値を取得したときのプリズム角と他覚屈折値との関係特性を示している。縦軸は、他覚屈折値であり、各数値の単位はディオプター(D)である。横軸は、プリズム角であり、各数値の単位はプリズム(Δ)である。この横軸は、ディオプター(D)や輻輳距離Lcの逆数で表される輻輳角(MA)に換算してもよい。
【0076】
図7では、複数の被検者の関係特性を、第1グループG1と第2グループG2とに分けることができる。その第1グループG1は、プリズム角を0Δ→+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δまでの6段階に切り替えたとき、その切り替えに反応して他覚屈折値の数値が上昇傾向の特性を示している。具体的には、第1グループG1は、プリズム角が+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δと変化することに伴って、他覚屈折値の数値がD=3.0程度まで上昇している。
【0077】
このため、第1グループG1に属する被検者は、輻輳距離Lcの変化によって輻輳刺激が与えられることに対し、左右の被検眼EL、ERのピント調節反応が大きく誘発されていると推定される。よって、第1グループG1に属する被検者は、輻輳性調節が起きやすい眼と判定できる。
【0078】
また、第2グループG2は、プリズム角を、0Δ→+1Δ→+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δまでの6段階に切り替えたとき、その切り替えに反応せずに他覚屈折値の数値が横這い状態で推移する特性を示している。具体的には、第2グループG2は、プリズム角が+2Δ→+4Δ→+6Δ→+10Δと変化しても、他覚屈折値の数値が略1.0以下(D<1.0)に小さく抑えられている。
【0079】
このため、第2グループG2に属する被検者は、輻輳距離Lcの変化によって輻輳刺激が与えているにもかかわらず、左右の被検眼EL、ERのピント調節反応が殆ど誘発されていないと推定される。よって、第2グループG2に属する被検者は、輻輳性調節が起きにくい眼と判定できる。
【0080】
[眼科装置の効果]
本開示に係る実施例1の眼科装置100は、以下の各作用効果を得ることができる。
眼科装置100は、左右の被検眼Eに視標8を呈示する視標呈示部としてのディスプレイ41と、左右の被検眼Eの眼特性を他覚的に測定する他覚測定光学系6、7と、を備える。その視標呈示部は、左右の被検眼Eの瞳孔と共役となる位置にピンホール板50を配置した状態で、左右の被検眼Eの位置から2本の視線が交わる輻輳位置Rを変化させて視標8を呈示する。他覚測定光学系6、7は、視標呈示部がピンホール板50を配置しつつ輻輳位置Rに呈示した視標8が融像された状態において、左右の被検眼Eの他覚屈折値を取得する。このため、眼科装置100は、輻輳距離を変化させつつ左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で視標8(左眼視標8L、右眼視標8R)を呈示することができ、その状態で他覚屈折値を取得できる。これにより、眼科装置100は、被検眼EL、ERに対して輻輳性調節の刺激のみを与えた状態での他覚屈折値を取得できるので、輻輳性調節を測定することができる。加えて、眼科装置100は、輻輳性調節が起きやすい眼であるか否かの適切な判断を可能とする。
【0081】
また、眼科装置100では、視標呈示部としてのディスプレイ41が、左右の被検眼Eに視標を投影する視標投影系4に設けられている。このため、眼科装置100は、視標投影系4の光路上の瞳孔共役位置Qにピンホール板50を挿入すればよいので、簡易な構成で左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で視標8を呈示できる。
【0082】
さらに、眼科装置100は、左被検眼ELに対応して同一光軸上に設けられた左側視標投影系(視標投影系4)と左側他覚測定光学系(他覚測定光学系6、7)とを内蔵する左測定ヘッド部122Lを備える。また、眼科装置100は、右被検眼ERに対応して同一光軸上に設けられた右側視標投影系(視標投影系4)と右側他覚測定光学系(他覚測定光学系6、7)とを内蔵する右測定ヘッド部122Rを備える。そして、視標呈示部は、左側視標投影系と右側視標投影系とにピンホール板50を配置した状態で、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rとを互いに逆方向に等しい角度で回旋させることで、視標8を呈示する輻輳位置Rを変化させる。このため、眼科装置100は、簡易な構成で輻輳位置Rを変化させつつ左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で視標8を呈示できる。また、眼科装置100は、左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で輻輳位置Rを変化させて視標8を呈示することと、その左右の被検眼Eの他覚屈折値を取得することと、を同時進行による並行処理させることができ、より簡易に輻輳性調節を測定できる。さらに、眼科装置100は、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rの回旋制御により輻輳位置Rを変化させるとき、左右の被検眼EL、ERからの視軸と、左測定光学系125Lと右測定光学系125Rにおける光軸と、を一致させた状態を保つことができる。このため、眼科装置100は、視軸と光軸とが一致することで、前眼部像から左右の被検眼EL、ERにより他覚的に両眼視できているか否かを確認するための眼位や視線方向を測定できる。
【0083】
眼科装置100は、左側他覚測定光学系(他覚測定光学系6、7)と右側他覚測定光学系(他覚測定光学系6、7)とが、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rとを回旋させる毎に、対応する左被検眼ELおよび右被検眼ERの他覚屈折値を取得する。このため、眼科装置100は、簡易な構成で輻輳位置Rを変化させつつ焦点深度を深くして視標8を呈示した状態、すなわち輻輳刺激のみを与えた状態における左右の被検眼Eの他覚屈折値を容易に取得できる。
【0084】
眼科装置100は、視標投影系4と他覚測定光学系6、7とを制御する制御部140を備え、その制御部140が、輻輳位置Rの変化に対する他覚屈折値の変化に基づいて輻輳性調節を求める。このため、眼科装置100は、様々な他覚屈折値の変化に対する輻輳性調節を求めることができる。
【0085】
加えて、実施例1の眼科装置100は、輻輳距離Lcを変化させつつ左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で視標8を呈示する前に、完全矯正処方ステップ(ステップS1からS4)を行う。このため、眼科装置100は、完全矯正値が処方されて視標8をはっきりと見えた状態を基準として、輻輳距離Lcを変化させつつ左右の被検眼Eの焦点深度を深くした状態で視標8を呈示するので、より円滑にかつ適切に輻輳性調節のための測定へと移行できる。
【0086】
したがって、本開示に係る一実施例の眼科装置100では、輻輳性調節を適切に測定することができる。
【0087】
以上、本開示の眼科装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0088】
実施例1の眼科装置100は、視標呈示機能、フォロプター機能、オートレフ・ケラト測定機能を一体に備える内部視標による自覚検査機能付きの他覚測定機による例を示した。しかし、眼科装置は、実施例1の装置構成例に限定されない。眼科装置は、例えば、ピンホールを通して実視標を呈示するとともに輻輳距離が変化する状態を処方する視標投影装置と、フォロプター機能およびオートレフ測定機能を有する装置との複合装置とにより構成するものとしてもよい。
【0089】
また、実施例1の眼科装置100は、視線角度(プリズム角)を変える制御を、左測定ヘッド部122Lと右測定ヘッド部122Rを互いに逆方向に回旋させる回旋角度を変える制御により行う例を示した。眼科装置は、実施例1の視線角度制御の例に限定されない。眼科装置は、例えば、視標投影系の左右の被検眼から視標呈示部までの光軸上の位置にプリズムレンズを入れて視線角度(プリズム角)を変える制御を行うものとしてもよい。加えて、視標呈示部は、被検眼Eに視標8を呈示するものであれば、視標投影系に設けることに替えて、例えば被検者の前方に設けた実視標や表示パネルで表示したもの等であってもよい。この場合であっても、左右の被検眼から視標呈示部までの光軸上の位置にプリズムレンズを入れて視線角度(プリズム角)を変化させることで、上記と同様に輻輳性調節を測定することができる。また、視標呈示部は、3Dディスプレイ等を用いるものとして、呈示距離を一定にしつつ輻輳距離を変化させた立体画像を見せることで、上記と同様に輻輳性調節を測定してもよい。
【0090】
さらに、実施例1の眼科装置100は、他覚測定光学系6、7により他覚屈折値を測定しているときに、アライメントがずれた場合に、アライメントを自動で行うようにしてもよい。このことは、制御部140が、他覚測定光学系6、7に測定を実行させているときに、前眼部観察系5に連続的に前眼部像を取得させ、輝点像がアライメントマークの中心からずれたことや二個の点像の間隔とケラトリング像の直径との比が所定範囲外となったと判断すると、上記のようにアライメントを行うことで実現できる。
【0091】
加えて、実施例1の眼科装置100は、上記のように、変化させたプリズム角毎の他覚屈折値を用いて輻輳性調節を求めていた。しかしながら、眼科装置100は、他覚屈折値を時系列で(連続的に)取得し、輻輳位置Rが変わった瞬間とその後の変化とから輻輳性調節を求めるものとしてもよい。その場合、輻輳により調節が入り続ける場合と、瞬間的に調節が入るが戻る場合と、まったく調節が動かない(入らない)場合と、のように輻輳性調節を分類することができる。
【0092】
加えて、実施例1の眼科装置100は、上記のように、変化させたプリズム角毎の他覚屈折値を用いて輻輳性調節を求めていた。しかしながら、眼科装置100は、輻輳により近見反応の1つである縮瞳が起きるかどうかを併せて測定するものとしてもよい。このことは、他覚測定光学系6、7に測定を実行させているときに、前眼部観察系5に連続的に前眼部像を取得させ、その前眼部画像における瞳孔の大きさを判断することにより測定できる。この瞳孔の大きさの判断は、制御部140が前眼部画像を画像解析することにより行ってもよく、検者が表示部131に表示された前眼部画像を見ることにより行ってもよい。
【符号の説明】
【0093】
100 眼科装置 4 視標投影系 8 視標 41 (視標呈示部の一例としての)ディスプレイ 6、7 他覚測定光学系 50 (ピンホールの一例としての)ピンホール板 122L 左測定ヘッド部 122R 右測定ヘッド部 140 制御部 E 被検眼 R 輻輳位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7