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特開2025-5873窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005873
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/596 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C04B35/596
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106282
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】俣野 泰司
(72)【発明者】
【氏名】中村 希一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優太
(72)【発明者】
【氏名】大野 享
(57)【要約】
【課題】シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備すると共に高剛性をも具備することのできる窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供する。
【解決手段】Siを55質量%以上85質量%以下、MgSiOを15質量%以上45質量%以下、粉末X線回折によるαSiの(210)面ピーク強度をIα、βSiの(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.2以下、相対密度が95%以上である、窒化珪素複合材料、並びにこの窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、本体部に、プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを55質量%以上85質量%以下、
MgSiOを15質量%以上45質量%以下含み、
粉末X線回折によるαSiの(210)面ピーク強度をIα、βSiの(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.20以下であり、
相対密度が95%以上である、窒化珪素複合材料。
【請求項2】
プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、
請求項1に記載の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、
前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップやLSIチップは1枚のシリコンウエハに多数のチップを作製し、これをチップ毎に切断して使用している。そして、個々のチップが不良品であるか否かのチェックはチップ毎に切断される前にプローブカードを用いて行っている。プローブカードの構造は例えば特許文献1に開示されているように、プローブの一端が取り付けられた基板と、プローブを摺動自在に案内するガイド板(プローブ案内部品)とを備えており、ガイド板のガイド孔にプローブを挿通することで、プローブの先端がシリコンウエハに形成されているICチップやLSIチップのパッド(電極)に正確に当接するようにしている。そして、この当接した状態で電気的信号を印加し、チップから出力される電気信号を解析し、チップの不良の有無を判定する。このチェックは、例えば室温又は高温環境下(例えば80~150℃)で行われることが多い。そのため、この種のプローブカード用ガイド板(プローブ案内部品)には、室温から200℃程度までの温度範囲においてシリコンウエハと似た熱膨張係数を有することが求められる。
【0003】
従来のプローブ案内部品は、例えば特許文献2に開示されているように快削性のセラミックスが主流であるため、強度は高くない。一方、プローブ案内部品には、プローブ荷重に耐えられる機械的強度(曲げ強度)を有することも求められ、近年、高強度化の要求が高まっている。このような状況下、本発明者らは、特許文献3にて、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を有し、かつ高強度のセラミックスを得るために、高強度セラミックスのSiに、高膨張セラミックスのZrOを複合することが有効であることを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-215163号公報
【特許文献2】特開2005-226031号公報
【特許文献3】特許第7068539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献3の窒化珪素複合材料の改良、特に高剛性化を可能とするという観点から、新規な窒化珪素複合材料を探求することとした。プローブ案内部品が大形化するに従い、高強度のみならず高剛性が求められるからである。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備すると共に高剛性をも具備することのできる窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らが試験及び研究を重ねた結果、高強度のSiに、特許文献3で複合していたZrOよりも大きな熱膨張率を有するMgSiOを複合することが有効であることを知見した。さらに本発明者らは、SiにMgSiOを複合した窒化珪素複合材料において、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備させると共に高剛性化をも可能とするには、Si、MgSiOといった各成分の含有率だけでなく、窒化珪素複合材料の微細構造を制御することが重要であることを見出した。そして窒化珪素複合材料の微細構造の制御にあたっては、詳細は後述するが、粉末X線回折によるαSiの(210)面ピーク強度をIα、βSiの(210)面ピーク強度をIβとしたときのピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)を所定の範囲内とすることが重要であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の窒化珪素複合材料が提供される。
Siを55質量%以上85質量%以下、
MgSiOを15質量%以上45質量%以下含み、
粉末X線回折によるαSiの(210)面ピーク強度をIα、βSiの(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)が0.20以下であり、
相対密度が95%以上である、窒化珪素複合材料。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、前記本発明の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備える、プローブ案内部品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備すると共に高剛性をも具備することのできる窒化珪素複合材料及びプローブ案内部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例(表1中実施例4)に係る窒化珪素複合材料の粉末X線回折強度データ。
図2】本発明の一実施例(表1中実施例4)に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真。
図3】本発明の比較例(表1中比較例4)に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真。
図4】本発明の比較例(表1中比較例6)に係る窒化珪素複合材料の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の窒化珪素複合材料は、高強度のSiに、特許文献3で複合していたZrOよりも大きな熱膨張率を有するMgSiOを複合したものである。このように、SiにMgSiOを複合することで、ZrOを複合する場合に比べ、以下のような利点がある。
すなわち、第1の利点は、密度が3.1~3.2g/cmと軽量なことである。これは、Siに複合させるMgSiOの理論密度が3.1g/cmであり、ZrOの6g/cmに比べて低いことに起因する。
第2の利点は製造安定性である。これは、Siの理論密度が3.2g/cmであることから両者の密度がほぼ同等レベルのため原料どうしの均一混合が容易であることに起因する。
第3の利点は、高剛性のものが得られることである。所定の熱膨張を得るために、MgSiOを複合する場合の添加量はZrOに少なくて済む。高剛性のSiに低剛性のMgSiOやZrOを添加すると、弾性率は添加量に従い直線的に減少する。これらの理由からMgSiOを複合することで、高剛性を得ることが可能となる。
【0013】
本発明の窒化珪素複合材料は、Siを55質量%以上85質量%以下、MgSiOを15質量%以上45質量%以下含む。Siの含有率が55質量%未満であると高強度及び高剛性を得ることが困難となる。一方、Siの含有率が85質量%超であると、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。Siの含有率は64質量%以上82質量%以下であることが好ましい。
また、MgSiOが15質量%未満であると、高い熱膨張係数を得ることができず、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。MgSiOの含有率が45質量%超であると、熱膨張係数が高くなりすぎてシリコンウエハと同程度の熱膨張係数を得ることが困難となる。MgSiOの含有率は18質量%以上36質量%以下であることが好ましい。
なお、相対密度は95%以上であることが必須である。95%未満であれば内部組織に気孔が残り、高強度にはならない。
【0014】
本発明の窒化珪素複合材料は、粉末X線回折によるαSiの(210)面ピーク強度をIα、βSiの(210)面ピーク強度をIβとしたとき、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)(以下、単に「ピーク強度比」という。)が0.20以下であることを特徴の一つとする。ピーク強度比が0.2超の場合、機械的強度が低下してしまう。その理由を以下に説明する。
【0015】
窒化珪素複合材料において熱膨張特性の制御は、Si、MgSiOといった各成分の含有率だけでなく、微細構造を制御することで可能となる。また、窒化珪素に具備されている元来の高強度も同様に微細構造に依存する。本発明者らは、それを正確に制御するためには、窒化珪素の粉末X線回折によるピーク強度比が重要であることを見出した。
【0016】
特許文献3の場合、窒化珪素複合材料の出発原料として、基本的に窒化珪素はαSi原料、ジルコニアはY等で安定化されたZrO原料を用い、通常のセラミックス製造と同様に混合した成形体を焼結する。その焼結過程でセラミックスの粒子は粒成長していく。窒化珪素もジルコニアもその点では同様である。またその際、窒化珪素は結晶構造がαSiからβSiへ転移していく。そのβSiは、アスペクト比の高い針状の結晶となる。これが特許文献3の場合の高強度化のメカニズムである。
【0017】
しかし、MgSiOを複合させる本発明の場合、アスペクト比の高い針状のβSi結晶が多く生成する焼結温度では製造不可能である。これは、MgSiOの構成酸化物がMgO-SiO系であってその共晶温度が1550℃であり、この系ではアスペクト比の高い針状のβSi結晶が多く生成する焼結温度(例えば1600℃以上)では、過剰の液相が出現して均一な焼結体にはならないからである。そこで本発明者らは、特許文献3とは全く異なる考え方で高強度を実現させた。
【0018】
すなわち、本発明では、βSiをできる限り生成させることなく高強度を具備する窒化珪素複合材料を提供する。その具体的な手段としては、αSi結晶粒子が最密充填している隙間に、MgSiOが埋められた構造とすることによって高強度を実現させた。さらに詳細に説明すれば、球形の粒子を最密充填したときの充填率は、体心立方格子構造の場合で計算上は67%であり、残りの33%は隙間(空間)となる。そこで、本発明では、最密充填されたαSi結晶粒子の間をほぼ完全にMgSiOで埋めることにより緻密なセラミックスとして高強度を実現させることとした。
以上の通り、本発明では、αSi結晶粒子(窒化珪素粒子)同士の焼結は起こさせず、MgSiO(フォルステライト)を窒化珪素粒子間の結合材として機能させることで、緻密質の高強度な窒化珪素複合材料(窒化珪素-フォルステライト複合材料)を提供する。
【0019】
本発明の窒化珪素複合材料は上述の通り、出発原料として基本的に窒化珪素はαSi原料、フォルステライトは予め合成されたMgSiO原料を用いる。窒化珪素は気相合成法で生成された高純度の原料を用いるのが好ましいが、他の製法でも問題ない。この場合、Feやアルカリ、アルカリ土類等の不純物が含まれることがあるが、これらの不純物は合量で1質量%以下であれば問題ない。MgSiO原料としても、高純度な原料が好ましいが、工業的に製造される原料には、混合、粉砕メディアからの摩耗したAl、ZrO等の不純物が混入している場合もある。その場合、不純物の合量が5質量%以下であれば問題ない。なお、本発明の窒化珪素複合材料において上述した各成分の含有率は、基本的にICP発光分光分析法、並びにN及びOの分析により特定することができる。
【0020】
本発明の窒化珪素複合材料は、通常のセラミックス製造と同様に出発原料を混合し成形した成形体を焼結することで得られるが、相対密度を95%以上とするため、焼結としては、ホットプレス処理又は常圧焼結した後のHIP処理を実施することが好ましい。
また、本発明の窒化珪素複合材料は上述の通り、ピーク強度比が0.20以下であることを特徴の一つとするが、このピーク強度比は焼結温度によって制御することができる。具体的には後述する実施例に示しているように焼結温度を1500℃以下とすることで、ピーク強度比を0.20以下とすることができる。また、焼結温度を、MgO-SiO系の共晶温度(1550℃)より低い1500℃以下とすることで、焼結時に過剰の液相が出現することを抑えることができる。なお、焼結温度の下限値は特に限定されないが、後述する実施例では1400℃が下限値である。
【0021】
以上のように各成分の含有率及びピーク強度比が所定の範囲内となるようにすることで、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料を得ることができる。具体的には後述する実施例に示しているように、室温から200℃における熱膨張係数が3×10-6/℃以上6×10-6/℃以下であるという熱膨張特性、及び曲げ強度が400MPa以上という強度特性を安定して得ることができる。
【0022】
本発明の窒化珪素複合材料は、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品の本体部として好適に用いられる。すなわち、本発明のプローブ案内部品は、本発明の窒化珪素複合材料を用いた板状の本体部と、この本体部に、プローブを挿通する複数の貫通孔及び/又はスリットとを備えるものである。
【0023】
プローブカード案内部品の形状は、一般的に□25mmからφ300mmのものまで存在するが、その形状が大きくなりプローブの数が増加するほど、その面に作用する曲げモーメントは増加する。案内部品がその曲げモーメントでの撓みを少なくして正確にプローブを案内するためには、その素材の弾性率も重要な因子となる。Si(窒化珪素)は、もともと弾性率は300GPa以上を有するが、熱膨張制御のためZrO(ジルコニア)やMgSiO(フォルステライト)を添加すると弾性率は低下する。この点、本発明で添加するフォルステライトはジルコニアより大きな熱膨張を有するため、制御したい熱膨張率を得るためには、その添加量は少なくて済む。よって本発明においては、後述する実施例に示しているように、300GPa以上の弾性率を有するものも得ることができる。
【0024】
なお、本発明の窒化珪素複合材料は、プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品と同様の性能が求められる用途として、パッケージ検査用ソケットなどの検査用ソケットに用いることもできる。
【実施例0025】
本発明の効果を確認するべく、配合比を変化させたα-Si粉末と、MgSiO粉末とを、水、分散剤、成形助剤及びセラミックス製のボールと共にボールミル中で混合し、得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して顆粒状にした。顆粒は□40×t30mmの成形体に140MPaの圧力でプレス成形後、成形助剤等を脱脂処理した。その後、同脱脂体を黒鉛製のダイス(型)にセットし、窒素雰囲気中30MPaの圧力を加えながら1400℃~1600℃で2時間ホットプレス焼結を行って、縦40×横40×厚さ15mmの試験材を得た。そして、得られた試験材から試験片を採取し、相対密度、ピーク強度比、熱膨張係数、曲げ強度及び弾性率の評価を行い、これらの評価結果より総合評価を行った。なお、α-Si粉末及びMgSiO粉末としては、不純物を実質的に含まない高純度のものを使用した。
表1に、本発明の実施例及び比較例に係る窒化珪素複合材料の組成と評価結果を示している。
【0026】
【表1】
【0027】
相対密度、ピーク強度比、熱膨張係数、曲げ強度及び弾性率の評価、並びに総合評価は以下の要領で行った。
<相対密度>
各例の試験片について、アルキメデス法でかさ比重を測定した。次に試験片をWC製の乳鉢、乳棒で微粉砕したものをピクノメーター法で真比重を測定した。相対密度は、かさ比重÷真比重で算出した。
【0028】
<ピーク強度比>
図1に、粉末X線回折の一例として、実施例4の粉末X線回折強度データを示している。このような粉末X線回折強度データに基づき、αSiの(210)面ピーク強度:Iα、及びβSiの(210)面ピーク強度:Iβを得、ピーク強度比:Iβ/(Iα+Iβ)を求めた。なお、実施例4の粉末X線回折強度データ(図1)において、βSiの(210)面ピーク強度は0である。
【0029】
<熱膨張係数>
各例の試験片について、室温から200℃における熱膨張係数をJIS R1618に従って求めた。熱膨張係数(単位:10-6/℃)の評価は、3.5以上5以下である場合を◎(優良)、3以上3.5未満又は5超6未満である場合を〇(良好)、3未満の場合を×(低)(不良)、6超の場合を×(高)(不良)とした。
【0030】
<曲げ強度>
各例の試験片について、四点曲げ強度をJIS R1601に従って求めた。曲げ強度(単位:MPa)の評価は、600以上の場合を◎(優良)、400以上600未満の場合を〇(良)、400未満の場合を×(不良)とした。
【0031】
<弾性率>
各例の試験片について、弾性率をJIS R1602に従って求めた。弾性率(単位:GPa)の評価は、300以上の場合を◎(優良)、250以上300未満の場合を〇(良)、250未満の場合を×(不良)とした。
【0032】
<総合評価>
熱膨張係数及び曲げ強度の評価が両方とも◎(優良)でかつ弾性率の評価が◎(優良)又は〇(良)の場合を◎(優良)、熱膨張係数及び曲げ強度の評価のうち少なくとも一方の評価が〇(良好)でかつ熱膨張係数、曲げ強度及び弾性率の評価に×(不良)の評価がない場合を〇(良)、熱膨張係数、曲げ強度及び弾性率の評価の少なくとも一つの評価に×(不良)の評価がある場合を×(不良)とした。
【0033】
表1中、実施例1から実施例6は、組成(各成分の含有率)及びピーク強度比がいずれも本発明の範囲内にあり、総合評価は◎(優良)又は〇(良好)となり、良好な結果が得られた。なかでも組成及びピーク強度比がいずれも好ましい範囲内にある実施例2から実施例4は総合評価が◎(優良)となり、特に良好な結果が得られた。
なお、図2には実施例4に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真を示している。微細結晶のαSiの間をほぼ完全にMgSiOが埋めている形態を呈している。
【0034】
表1中、比較例1はMgSiOの含有率が低すぎる例である。焼結性が悪く相対密度が本発明の規定値(95%)を下回った。そのため曲げ強度の評価が「×(不良)」となった。またMgSiOの含有率が相対的に低いこともあり、熱膨張係数の評価が「×(低)」となった。弾性率も密度に影響されるため「×(不良)」となった。
比較例2、3はMgSiOの含有率が高すぎる例である。熱膨張係数の評価が「×(高)」となった。なお、比較例2、3では、ピーク強度比の評価は行わなかった。
比較例4、5は、ピーク強度比が高すぎる例である。曲げ強度の評価が×(不良)となった。なお、図3には比較例5に係る窒化珪素複合材料の断面SEM写真を示している。βSiの生成により、微細な結晶粒の構造が乱れ、小さな隙間が出現して強度が低下する原因となっている。
比較例6は、MgO-SiO系の共晶温度(1550℃)より高い1600℃で焼結した例である。焼結時に液相が生成して不均一な焼結体になった(図4参照)。また、ピーク強度比も0.5と高くなった。なお、比較例6は不均一な焼結体になったため、ピーク強度比以外の評価は行わなかった。
【0035】
以上の通り本発明によれば、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備する窒化珪素複合材料を得ることができる。また、実施例2に示しているように、弾性率が300GPa以上、具体的には304GPaの高弾性を具備する窒化珪素複合材料を得ることもできる。一方、本発明者らが特許文献3の窒化珪素複合材料について弾性率を評価したところ283GPaが最大値であった。すなわち、本発明によれば、シリコンウエハと同等の熱膨張係数と高強度とを安定して具備すると共に高剛性をも具備する窒化珪素複合材料を得ることができる。
図1
図2
図3
図4