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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058786
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】エスカレータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 29/04 20060101AFI20250402BHJP
   B66B 23/22 20060101ALI20250402BHJP
【FI】
B66B29/04 A
B66B23/22 G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168930
(22)【出願日】2023-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大脇 裕之
(72)【発明者】
【氏名】玉置 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321CE21
3F321GA21
(57)【要約】
【課題】欄干の下部の通路側の表面と踏段の側縁との間の隙間に物が挟まれるのを好適に抑制することができるエスカレータを提供する。
【解決手段】エスカレータは、欄干の下部53の通路側の表面に、踏段41の側縁と接触しないように突出しかつ下記(A)及び(B)の条件を満たす凸条部530を移動方向Pに所定のピッチで複数備える。(A)凸条部530が水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度R1よりも大きい傾斜角度R2で傾斜する、(B)凸条部530の下側が線Z1と交わるとともに、凸条部530の上側が線Z2と交わる
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて通路に沿って循環移動する複数の踏段からなる無端搬送体により乗客を斜め上方に搬送する搬送部と、無端搬送体の側方に通路に沿って配置され、ハンドレールを循環移動可能に支持する欄干とを備える上りのエスカレータであって、
欄干の下部の通路側の表面に、踏段の側縁と接触しないように突出しかつ下記(A)及び(B)の条件を満たす凸条部を移動方向に所定のピッチで複数備える
エスカレータ。
(A)凸条部が水平方向に対する移動方向の傾斜角度よりも大きい傾斜角度で傾斜する
(B)凸条部の下側が線Z1と交わるとともに、凸条部の上側が線Z2と交わる
線Z1:前記表面における線Y1との交点を通り移動方向と平行な線
(線Y1:1つの踏段の移動方向側の隣の踏段の先縁を通る鉛直面と当該1つの踏段の上面との交線)
線Z2:前記表面における線Y2との交点を通り移動方向と平行な線
(線Y2:当該1つの踏段の移動方向と反対側の隣の踏段の基縁を通る鉛直面と当該1つの踏段の上面との交線)
【請求項2】
凸条部は、さらに下記(C)の条件を満たす
請求項1に記載のエスカレータ。
(C)移動方向における凸条部のピッチが移動方向における踏段のピッチの33%以上である
【請求項3】
凸条部は、さらに下記(D)の条件を満たす
請求項1又は請求項2に記載のエスカレータ。
(D)移動方向における凸条部のピッチが移動方向における踏段のピッチの100%又は100%以下である
【請求項4】
凸条部は、さらに下記(E)の条件を満たす
請求項1又は請求項2に記載のエスカレータ。
(E)水平方向における凸条部間の距離が25cm以下である
【請求項5】
凸条部は、さらに下記(F)の条件を満たす
請求項1又は請求項2に記載のエスカレータ。
(F)凸条部の傾斜角度と移動方向の傾斜角度との差が30°±10°の範囲内である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環移動する無端搬送体により乗客を階上に搬送する上りのエスカレータに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータは、無端状に連結されて通路に沿って循環移動する複数の踏段(ステップ)からなる無端搬送体により乗客を搬送する搬送部と、無端搬送体の側方に通路に沿って配置され、ハンドレールを循環移動可能に支持する欄干とを備える。乗客は、乗り口から無端搬送体の始端部(乗客受け入れ部)まで移動し、無端搬送体に乗り込むと、無端搬送体により搬送され、しかる後、無端搬送体の終端部(乗客送り出し部)に到達すると、降り口まで移動し、そのまま移動してエスカレータを後にする。
【0003】
ところで、欄干の下部の通路側の表面(スカートガードの表面)と踏段の側縁との間には、数ミリという僅かではあるが隙間が生じている。このため、乗客を階上に搬送する上りのエスカレータにおいては、無端搬送体への乗り込み時や無端搬送体による搬送中において、この隙間に衣服、靴、サンダル等の履物又は小物(以下、これらをまとめて「物」という)が挟まれるといった事例が発生し得る。これは、踏段の側縁に対して欄干の下部の通路側の表面が斜め下方に相対移動することで、物が欄干の下部の通路側の表面に引きずられ、隙間に引き込まれることが原因だと考えられる。
【0004】
この対策として、特許文献1には、スカートガードの表面に潤滑剤を塗布することが記載されている。また、別の対策として、特許文献2には、スカートガードの表面に複数の凹凸を形成することが記載されている。さらに別の対策として、特許文献3には、スカートガードの表面に、移動方向に沿って延伸する突条を移動方向と直交する方向に複数配列して形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-168561号公報
【特許文献2】特開2000-118938号公報
【特許文献3】特開2010-189099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの対策は、隙間に挟まれた物又は挟まれそうになる物を積極的に排除する構成となっておらず、挟まれ抑制構造としては十分でないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、欄干の下部の通路側の表面と踏段の側縁との間の隙間に物が挟まれるのを好適に抑制することができるエスカレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエスカレータは、
無端状に連結されて通路に沿って循環移動する複数の踏段からなる無端搬送体により乗客を斜め上方に搬送する搬送部と、無端搬送体の側方に通路に沿って配置され、ハンドレールを循環移動可能に支持する欄干とを備える上りのエスカレータであって、
欄干の下部の通路側の表面に、踏段の側縁と接触しないように突出しかつ下記(A)及び(B)の条件を満たす凸条部を移動方向に所定のピッチで複数備える
エスカレータである。
(A)凸条部が水平方向に対する移動方向の傾斜角度よりも大きい傾斜角度で傾斜する
(B)凸条部の下側が線Z1と交わるとともに、凸条部の上側が線Z2と交わる
線Z1:前記表面における線Y1との交点を通り移動方向と平行な線
(線Y1:1つの踏段の移動方向側の隣の踏段の先縁を通る鉛直面と当該1つの踏段の上面との交線)
線Z2:前記表面における線Y2との交点を通り移動方向と平行な線
(線Y2:当該1つの踏段の移動方向と反対側の隣の踏段の基縁を通る鉛直面と当該1つの踏段の上面との交線)
【0009】
ここで、本発明に係るエスカレータの一態様として、
凸条部は、さらに下記(C)の条件を満たす
(C)移動方向における凸条部のピッチが移動方向における踏段のピッチの33%以上である
との構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明に係るエスカレータの他態様として、
凸条部は、さらに下記(D)の条件を満たす
(D)移動方向における凸条部のピッチが移動方向における踏段のピッチの100%又は100%以下である
との構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明に係るエスカレータの別の態様として、
凸条部は、さらに下記(E)の条件を満たす
(E)水平方向における凸条部間の距離が25cm以下である
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係るエスカレータのさらに別の態様として、
凸条部は、さらに下記(F)の条件を満たす
(F)凸条部の傾斜角度と移動方向の傾斜角度との差が30°±10°の範囲内である
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凸条部は、物に対し、欄干の下部の通路側の表面と踏段の側縁との間の隙間から上方に押し出そうとする力を与える。このため、本発明によれば、凸条部が設けられる範囲において隙間に物が挟まれるのを好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、上りのエスカレータの乗り口側の一部断面側面図である。
図2図2(a)は、踏段の斜視図である。図2(b)は、別例に係る踏段の斜視図である。
図3図3は、ハンドレール部の縦断面図である。
図4図4(a)は、搬送部の傾斜部の要部概略側面図である。図4(b)は、凸条部を長手方向に切断した断面図である。図4(c)は、凸条部を幅方向に切断した断面図である。図4(d)は、別例1に係る凸条部を幅方向に切断した断面図である。図4(e)は、別例2に係る凸条部を幅方向に切断した断面図である。
図5図5は、凸条部の作用の説明図である。
図6図6(a)は、別例3に係る凸条部を備えるエスカレータの搬送部の傾斜部の要部概略側面図である。図6(b)は、別例4に係る凸条部を備えるエスカレータの搬送部の傾斜部の要部概略側面図である。
図7図7(a)は、別例5に係る凸条部を備えるエスカレータの搬送部の傾斜部の要部概略側面図である。図7(b)は、別例6に係る凸条部を備えるエスカレータの搬送部の傾斜部の要部概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係るエスカレータについて説明する。
【0016】
図1に示すように、エスカレータ1は、トラス(図示しない)と、乗降口3と、搬送部4と、ハンドレール部5とを備える。トラスは、エスカレータ1の自重及び積載荷重を支える構造体である。乗降口3は、トラスの両端部の上部に設けられ、通路の端部(始端部、終端部)に位置する。搬送部4は、トラスに支持され、踏面が通路に沿って移動することにより、乗客をその位置に立たせたまま歩かせることなく搬送する。ハンドレール部5も、トラスに支持され、通路の両側に通路に沿って設けられる。
【0017】
エスカレータ1は、乗客を左から右(階下から階上)に搬送する上りのエスカレータである。この場合、エスカレータ1は、左から右に、乗り口、搬送部4、降り口を備える。エスカレータ1の上り、下りは、設定の切替えにより、切り替え可能である。
【0018】
乗降口3は、トラスの水平端部の上部に設けられる。乗降口3は、フロアプレート30を備える。フロアプレート30は、乗降口3の床を構成し、通路の端部(始端部、終端部)に設置される。フロアプレート30の先端は、乗降口3と搬送部4との境界を画する。
【0019】
搬送部4は、無端搬送体40を備える。無端搬送体40は、複数の踏段(ステップ)41,…が踏段チェーン43を介して無端状に連結されたものである。無端搬送体40は、トラス内にトラスの長手方向に沿って循環移動可能に配置される。無端搬送体40は、トラス内に配置される駆動モータ(図示しない)の駆動に伴って踏段チェーン43が循環移動することにより、一方向又は反対方向に循環移動する。
【0020】
図2(a)に示すように、踏段41は、踏板部410と、ライザ部(縦板部)411と、ヨーク部412とを備える。踏板部410は、水平面に沿った板状であり、上面(厳密には、後述する境界表示部413を除く踏板部410の本体部の上面)が踏面となる。往路上の踏段41の上面は、搬送部4のうち、乗降口3に接する水平部4A、往路の主部である傾斜部4C、水平部4A及び傾斜部4C間の移行部4Bのいずれにおいても、水平姿勢に保たれる。ライザ部411は、踏板部410の先端から垂下する板状であり、円弧面状に湾曲しつつ下方に延びる。ヨーク部412は、踏板部410の側縁とライザ部411の側縁とを連結する補強材である。ヨーク部412は、左右に一対設けられる。
【0021】
踏板部410は、境界表示部413を備える。境界表示部413は、踏板部410の左右の側縁部と基縁部の3辺に沿って設けられ、踏板部410の本体部の色と異なる色(たとえば黄色)に着色され、デマケーションラインともいう。踏板部410の側縁部の境界表示部413aは、踏板部410の側縁(外縁)410aを長辺とする所定幅の長方形領域に設けられ、後述する欄干51のスカートガード53との境界を表示する。踏板部410の基縁部の境界表示部413bは、踏板部410の基縁(外縁)410b(境界表示部413aの部分を除く)を長辺とする所定幅の長方形領域に設けられ、移動方向側の隣の踏段41との境界を表示する。図2(b)に示すように、境界表示部413は、踏板部410の左右の側縁部と基縁部と先端部の4辺に沿って枠状に設けられる場合もある。この場合、踏板部410の先端部の境界表示部413cは、踏板部410の先縁(外縁)410c(境界表示部413aの部分を除く)を長辺とする所定幅の長方形領域に設けられ、移動方向と反対側の隣の踏段41との境界を表示する。
【0022】
一例として、踏板部410の本体部は、鉄、ステンレス又はアルミニウムを素材とする金属製であり、境界表示部413は、硬質樹脂製である。また、一例として、踏段41の奥行寸法(先縁410c及び基縁410b間の距離)は40cmであり、境界表示部413bの幅は3.42cmであり、境界表示部413cの幅は3.13cmである。
【0023】
図3に示すように、ハンドレール部5は、ハンドレール50と、欄干51とを備える。ハンドレール50は、移動手摺とも呼ばれ、可撓性を有する無端状である。ハンドレール50は、無端搬送体40と連動して循環移動する。欄干51は、無端搬送体40の側方に無端搬送体40の長手方向に沿って配置される。欄干51は、下辺部がトラス2に支持され、ハンドレール50を循環移動可能に支持する。ハンドレール50及び欄干51は、通路の両側に通路に沿って一対設けられる。
【0024】
欄干51は、欄干パネル52と、スカートガード53と、外装材54と、デッキカバー55とを備える。欄干パネル52は、ハンドレール50の上辺部である往路部分50A及び下辺部である復路部分50B間に縦に配置され、通路に面する。スカートガード53は、欄干パネル52よりも内側に欄干パネル52の下辺部の高さ位置から下方に縦に配置され、通路に面する。外装材54は、欄干パネル52よりも外側に欄干パネル52の下辺部の高さ位置から下方に縦に配置され、スカートガード53と所定の間隔を有して縦に配置される。デッキカバー55は、スカートガード53及び外装材54間の上部開放部を閉鎖するように脱着自在に取り付けられる。このように、欄干51は、スカートガード53、外装材54及びデッキカバー55に囲まれる内部空間を有する。ハンドレール50の復路部分50Bは、内部空間に収容され、外部から遮蔽される。すなわち、スカートガード53、外装材54及びデッキカバー55は、ハンドレール50の復路部分50Bを遮蔽する遮蔽部を構成する。
【0025】
図1に戻り、スカートガード53は、凸条部530を備える。凸条部530は、直線状に形成される。あるいは、凸条部530は、緩やかに湾曲する曲線状に形成されるものであってもよい。凸条部530は、スカートガード53の表面に、搬送部4(無端搬送体40(踏段41))の移動方向(進行方向)に所定の間隔を有して所定のピッチで複数設けられる。より詳しくは、凸条部530は、搬送部4の乗り口側の水平部4A、移行部4B、傾斜部4C(の少なくとも乗り口側の一部又は全部)のそれぞれに設けられ、全体的に移動方向に所定の間隔を有して所定のピッチで複数設けられる。搬送部4の水平部4A、移行部4B、傾斜部4Cのいずれにおいても、凸条部530は、移動方向(水平部4Aであれば、水平方向、移行部4B、傾斜部4Cであれば、斜め上方)に対して同じ傾斜角度で傾斜する。
【0026】
図4(a)に示すように、凸条部530は、水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度R1よりも大きい傾斜角度R2で傾斜する。凸条部530は、上端が下端を通る鉛直線よりも移動方向P側に位置するように傾斜する。一例として、傾斜角度R1は30°であり、傾斜角度R2は60°であり、傾斜角度の差R2-R1は30°である。
【0027】
凸条部530は、下側が線Z1と交わるとともに、上側が線Z2と交わるように設けられる。すなわち、凸条部530は、少なくとも線Z1及び線Z2間に亘って設けられる。一例として、凸条部530は、(幅方向の中心線の)下端が線Z1上に位置するとともに、(幅方向の中心線の)上端が線Z2上に位置するように設けられる。線Z1、Z2は、以下のように定義される線である。
Z1:スカートガード53の表面における線Y1との交点を通り移動方向Pと平行な線
(Y1:鉛直面X1と1つの踏段41の上面との交線、
X1:当該1つの踏段41の移動方向P側の隣の踏段41の先縁410cを通る鉛直面)
Z2:スカートガード53の表面における線Y2との交点を通り移動方向Pと平行な線
(Y2:鉛直面X2と当該1つの踏段41の上面との交線、
X2:当該1つの踏段41の移動方向Pと反対側の隣の踏段41の基縁410bを通る鉛直面)
【0028】
あるいは、凸条部530は、下側が線Z1’と交わるとともに、上側が線Z2’と交わるように設けられるものであってもよい。すなわち、凸条部530は、少なくとも線Z1’及び線Z2’間に亘って設けられるものであってもよい。一例として、凸条部530は、(幅方向の中心線の)下端が線Z1’上に位置するとともに、(幅方向の中心線の)上端が線Z2’上に位置するように設けられるものであってもよい。線Z1’、Z2’は、以下のように定義される線である。
Z1’:スカートガード53の表面における線Y1’との交点を通り移動方向Pと平行な線
(Y1’:1つの踏段41の上面における境界表示部413bの内縁線)
Z2’:スカートガード53の表面における線Y2’との交点を通り移動方向Pと平行な線
(Y2’:当該1つの踏段41の上面における境界表示部413cの内縁線)
【0029】
凸条部530は、移動方向Pにおけるピッチが移動方向Pにおける踏段41のピッチQの100%となるように設けられる。すなわち、凸条部530は、移動方向Pにおけるピッチが移動方向Pにおける踏段41のピッチQと同じとなるように設けられる。
【0030】
凸条部530は、水平方向における凸条部530,530間の距離Sが25cm以下であるように設けられる。25cmというのは、成人男性の足の大きさ(平均)25.5cm(経済産業省が平成19年10月1日に報告した『「size-JPN 2004-2006」 調査結果について』の別紙など)を根拠とする。水平方向における凸条部530,530間の距離Sを25cm以下と設定することにより、履物は、常に前後2つの凸条部530,530に跨る恰好となる。
【0031】
図4(b)及び(c)に示すように、凸条部530は、スカートガード53を構成する鉄、ステンレス等の金属板をプレス加工して形成したものである。凸条部530は、スカートガード53の表面から踏段41に向かって突出高さTで突出する。突出高さTは、凸条部530が踏段41と干渉して無端搬送体40の循環移動に支障が生じないよう、踏段41の側縁と接触しない程度のものである。一例として、スカートガード53の表面と踏段41の側縁との間の隙間は4mmであり、凸条部530の突出高さ(突出量)Tは3mmであり、凸条部530と踏段41の側縁との間の隙間は1mmである。この隙間は、2mm以下であるのが好ましく、1.5mm以下であるのがより好ましい。
【0032】
図4(c)に示すように、凸条部530は、上下の側面部を有する。上側の側面部(鉛直上方を向く側面部)の角度U1は、60°以上175°以下である。一例として、上側の側面部の角度U1は90°である。下側の側面部(鉛直下方を向く側面部)の角度U2は、上側の側面部の角度U1と同じ角度である。
【0033】
あるいは、図4(d)に示すように、下側の側面部の角度U2は、上側の側面部の角度U1よりも大きい角度であってもよい。あるいは、図4(e)に示すように、下側の側面部が無く、上側の側面部の端縁からスカートガード53の表面に向かって斜めに傾斜する傾斜面部を有するものであってもよい。図4(d)及び図4(e)の場合、凸条部530よりも下方から凸条部530にアプローチする際(エスカレータ1を上りから下りに設定変更する場合に発生する事象)の引掛り度(その反力として下向きの力)は、凸条部530よりも上方から凸条部530の上側の側面部にアプローチする際の引掛り度(その反力として上向きの力)よりも小さくなる。
【0034】
本実施形態に係るエスカレータ1の構成は、以上のとおりである。次に、凸条部530の作用について説明する。
【0035】
図5に示すように、踏段41と凸条部530の相対位置関係に着目すると、凸条部530は、踏段41の移動に伴い、踏段41の上面において基端から先端に向かって移動する。このとき、乗客が踏段41の左右いずれかの端に立ち、履物の外側部がスカートガード53の表面に接する又は近接した状態にあると、凸条部530は、履物の先から踵側に向かって連続的に接触点を移動させつつ履物の外側部に接触する。そして、凸条部530は、斜めに傾斜する上側の側面部により、接触点において履物の外側部に斜め上方の法線方向に沿う上向きの力を与える。このため、履物は、凸条部530と接触している間は上向きの力、すなわち、スカートガード53の表面と踏段41の側縁との間の隙間から上方に押し出そうとする力を受ける。
【0036】
そして、1つの凸条部530が履物を通り抜けようとしても、次の凸条部530が到来して履物の外側部に接触し、同じ作用が繰り返される。このため、履物は、スカートガード53の表面に接する又は近接した状態にある限り、力を受け続ける。
【0037】
以上のとおり、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530は、水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度R1よりも大きい傾斜角度R2で傾斜する。これにより、凸条部530は、履物に対し、スカートガード53の表面と踏段41の側縁との間の隙間から上方に押し出そうとする力を与える。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530が設けられる範囲において隙間に履物が挟まれるのを好適に抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530は、水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度R1よりも30°大きい傾斜角度R2で傾斜する。この30°というのは、スカートガード53の表面と踏段41の側縁との間の隙間に履物を引き込もうとする力が半減される好適な値である。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、高い挟まれ抑制効果を得ることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、履物に力が作用すると、乗客は、これを気にして忌避しようと足をスカートガード53から離し、スカートガード53から離れて踏段41の中心側に寄る立ち位置を取ろうとする。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、隙間に履物が挟まれるリスクを回避することができる。
【0040】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530は、少なくとも線Z1及び線Z2間(あるいは、少なくとも線Z1’及び線Z2’間)に亘って設けられる。これは、凸条部530が実質的に踏板41の基端から先端までの全範囲をカバーする長さとなることを意味する。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、高い挟まれ抑制効果を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530は、移動方向Pにおける踏段41のピッチQの100%のピッチ(同じピッチ)で移動方向Pに沿って設けられる。これは、凸条部530が少なくとも線Z1及び線Z2間(あるいは、少なくとも線Z1’及び線Z2’間)に亘って設けられることと相まって、凸条部530が設けられる範囲において凸条部530が実質的に継ぎ目なく連続することを意味する。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、高い挟まれ抑制効果を得ることができる。
【0042】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、凸条部530は、水平方向における凸条部530,530間の距離Sが成人男性の足の大きさ(平均)25.5cmよりも小さくなるように移動方向Pに沿って設けられる。これは、履物が常に前後2つの凸条部530,530に跨る恰好となることで、凸条部530が設けられる範囲において凸条部530が実質的に継ぎ目なく連続することを意味する。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、高い挟まれ抑制効果を得ることができる。
【0043】
そして、これらの効果は、履物に対してのみ限らず、スカート、ズボン等の衣服、小物といった様々な物に対しても同様に得られるものである。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
上記実施形態においては、凸条部530は、水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度R1(30°)よりも30°大きい傾斜角度R2(60°)で傾斜する。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。凸条部530の上端が凸条部530の下端を通る鉛直線よりも移動方向P側に位置し、かつ、傾斜角度R2が傾斜角度R1よりも大きいことを条件として、傾斜角度R2はどのような値であってもよい。
【0046】
ただし、スカートガード53の表面と踏段41の側縁との間の隙間に履物を引き込もうとする力が半減される好適な値が傾斜角度の差R2-R1=30°なので、傾斜角度の差R2-R1は、30°を中心として、下限値を20°(図6(a))、上限値を40°(図6(b))、すなわち、30°±10°の範囲内に設定され得る。なお、これらの場合も、水平方向における凸条部530,530間の距離Sが25cm以下に設定されるのがより好ましい。
【0047】
また、上記実施形態においては、凸条部530は、下端が線Z1(あるいは線Z1’)上に位置するとともに、上端が線Z2(あるいは線Z2’)上に位置するように設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。図7(a)に示すように、凸条部530の下端が線Z1(あるいは線Z1’)を超えて延伸されるものや、凸条部530の上端が線Z2(あるいは線Z2’)を超えて延伸されるものであってもよい。
【0048】
また、上記実施形態においては、凸条部530は、移動方向Pにおける踏段41のピッチQと同じピッチで移動方向Pに沿って設けられる。すなわち、凸条部530は、踏段41の1ピッチに対し、1つ設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。凸条部530は、踏段41の1ピッチに対し、2つ(図7(b))又は3つ設けられるものであってもよい。すなわち、移動方向Pにおける凸条部530のピッチは、移動方向Pにおける踏段41のピッチの33%以上100%以下であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…エスカレータ、2…トラス、3…乗降口、30…フロアプレート、4…搬送部、4A…水平部、4B…移行部、4C…傾斜部、40…無端搬送体、41…踏段、410…踏板部、410a…側縁、410b…基縁、410c…先縁、411…ライザ部、412…ヨーク部、413,413a,413b,413c…境界表示部、43…踏段チェーン、5…ハンドレール部、50…ハンドレール、50A…往路部分、50B…復路部分、51…欄干、52…欄干パネル、53…スカートガード、530…凸条部、54…外装材、55…デッキカバー、
P…搬送部4、無端搬送体40、踏段41の移動方向(進行方向)、
Q…移動方向Pにおける踏段41のピッチ、
R1…水平方向に対する移動方向Pの傾斜角度、R2…水平方向に対する凸条部530の傾斜角度、
S…水平方向における凸条部530,530間の距離、
T…凸条部530の突出高さ、
U1…凸条部530の上側の側面部の角度、U2…凸条部530の下側の側面部の角度、
X1…1つの踏段41の移動方向P側の隣の踏段41の先縁410cを通る鉛直面、
Y1…鉛直面X1と当該1つの踏段41の上面との交線、
Y1’…当該1つの踏段41の上面における境界表示部413bの内縁線、
Z1…スカートガード53の表面における線Y1との交点を通り移動方向Pと平行な線、
Z1’…スカートガード53の表面における線Y1’との交点を通り移動方向Pと平行な線、
X2…当該1つの踏段41の移動方向Pと反対側の隣の踏段41の基縁410bを通る鉛直面、
Y2…鉛直面X2と当該1つの踏段41の上面との交線、
Y2’…当該1つの踏段41の上面における境界表示部413cの内縁線、
Z2…スカートガード53の表面における線Y2との交点を通り移動方向Pと平行な線、
Z2’…スカートガード53の表面における線Y2’との交点を通り移動方向Pと平行な線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7