(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058905
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】エチレンビニルアセテート共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 218/00 20060101AFI20250401BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20250401BHJP
C08F 2/06 20060101ALI20250401BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20250401BHJP
C08F 4/34 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08F218/00 510
C08F210/02
C08F2/06
C08F4/04
C08F4/34
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024121381
(22)【出願日】2024-07-26
(31)【優先権主張番号】10-2023-0130543
(32)【優先日】2023-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】522318173
【氏名又は名称】ハンファ トータルエナジーズ ペトロケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANWHA TOTALENERGIES PETROCHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】103,Dokgot-2-ro, Daesan-eup, Seosan-si, Chungcheongnam-do 31900, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】クァンイン キム
(72)【発明者】
【氏名】インファ ホン
(72)【発明者】
【氏名】ソクキュー ソ
(72)【発明者】
【氏名】ワングン キム
【テーマコード(参考)】
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011HA03
4J011HB14
4J015AA03
4J015BA06
4J100AA02Q
4J100AG04P
4J100CA04
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA01
4J100JA58
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エチレンビニルアセテート重合工程において連鎖移動定数が低く、モノマーとの分離が容易なアルキルアセテートを溶媒として用いたエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法を提供する。また、エチレンビニルアセテート共重合体の分子量の調節を容易にし、超高分子量を有するエチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用が可能なエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、反応器に、エチレン及びビニルアセテートを含む単量体、及びアルキルアセテートを含む溶媒を投入し、重合する段階を含む、エチレンビニルアセテート共重合体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器に、エチレン及びビニルアセテートを含む単量体、及びアルキルアセテートを含む溶媒を投入し、重合する段階を含む、エチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルキルアセテートは、57℃~126℃の沸点を有する、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記アルキルアセテートは、エチルアセテート、メチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、及びジメチルアセテートから選ばれるいずれか一つ以上である、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、前記単量体及び前記溶媒の総量に対して2.5重量%~50重量%で投入される、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合する段階は、アゾビス系化合物、ベンゾイルペルオキシド(BPO)又はこれらの組合せを含む開始剤をさらに投入し、
前記アゾビス系化合物は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチルバレロニトリル(ADVN)又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記エチレンビニルアセテート共重合体の重量平均分子量(Mw)は、150,000g/mol~500,000g/molである、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記エチレンビニルアセテート共重合体は、40モル%~80モル%のビニルアセテートを含む、請求項1に記載のエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンビニルアセテート共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンビニルアセテート共重合体は、エチレンとビニルアセテートとがランダムに共重合している高分子共重合体で、優れた柔軟性及び弾力性によってゴムと類似の特性を示す高分子として知られている。このようなエチレンビニルアセテート共重合体は、分子量又はビニルアセテート含有量によって異なる物性を示し、一般に、透明度と接着力に優れていることから、太陽電池用の封止材、靴の底、コーティング紙、及び農業用フィルムなど、様々な用途に使用されている。また、高分子量のビニルアセテートは、海底ケーブルなどの特殊用途に活用可能であり、ビニルアセテート含有量の高いエチレンビニルアセテート共重合体は、追加の鹸化反応によってガス遮断特性に優れたエチレンビニルアルコールに転換され得る。このように転換されたエチレンビニルアルコールは、優れたガス遮断特性、耐化学性などの特性から、フィルム、容器及び繊維などの広い分野に活用可能であり、特に、新鮮食品の包装及び自動車のガソリンタンクなど、ガス遮断特性が要求される分野に重要な要素として活用されている。
【0003】
一般に、エチレンビニルアセテート共重合体の工業的製造は、ビニルアセテートモノマー、エチレン、及び開始剤を原料とし、高温高圧の気相重合又は低温低圧の溶液重合の方法で製造される。特に、ビニルアセテート含有量の高いエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法は、低温低圧の溶液重合方法が一般的であり、このとき、溶媒は、C1~C4のアルコールが追加溶媒として使用される。
【0004】
溶液重合方法において追加溶媒の使用は、重合反応器内の粘度を下げ、エチレンビニルアセテート重合過程で発生する重合熱の効果的な除去が目的であり、一般に、全体反応媒質の2~20wt%で使用される。使用されるアルコールの種類によって重合反応の活性点がアルコールに移動する連鎖移動(chain transfer)反応が発生し、このような連鎖移動反応は高分子成長の終了又は分枝化につながって線形高分子の分子量の上昇を妨害してしまう。
【0005】
このような現象を予防するために、tert-ブチルアルコール(tert-Butanol)のような、連鎖移動定数(chain transfer coefficient)の低いアルコールを単独又は混合して使用する方法が提示されたこともあるが、相対的に高い価格、高い沸点、及びモノマーとの共沸混合物の形成などの理由で、後段工程、特に未反応モノマー回収工程において分離効率が低下し、適用に困難があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、エチレンビニルアセテート重合工程において連鎖移動定数が低く、モノマーとの分離が容易なアルキルアセテートを溶媒として用いたエチレンビニルアセテート共重合体の製造方法を提供しようとする。
【0007】
また、本発明は、エチレンビニルアセテート共重合体の分子量の調節を容易にし、超高分子量を有するエチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用が可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一具現例は、反応器に、エチレン及びビニルアセテートを含む単量体、並びにアルキルアセテートを含む溶媒を投入し、重合する段階を含む、エチレンビニルアセテート共重合体の製造方法を提供する。
【0009】
前記アルキルアセテートは、57℃~126℃の沸点を有してよい。
【0010】
前記アルキルアセテートは、エチルアセテート、メチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、及びジメチルアセテートから選ばれるいずれか一つ以上であってよい。
【0011】
前記溶媒は、前記単量体及び前記溶媒の総量に対して2.5重量%~50重量%で投入されてよい。
【0012】
前記重合する段階は、アゾビス系化合物、ベンゾイルペルオキシド(BPO)又はこれらの組合せを含む開始剤をさらに投入してよく、前記アゾビス系化合物は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチルバレロニトリル(ADVN)又はこれらの組合せを含んでよい。
【0013】
前記エチレンビニルアセテート共重合体の重量平均分子量(Mw)は、150,000g/mol~500,000g/molであってよい。
【0014】
前記エチレンビニルアセテート共重合体は、40モル%~80モル%のビニルアセテートを含んでよい。
【発明の効果】
【0015】
一具現例によれば、高い分子量を有するエチレンビニルアセテート共重合体を得ることにより、製品の物性を向上させることができ、超高分子量のエチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用可能である。また、前記方法を用いれば、未反応ビニルアセテートと溶媒であるアルキルアセテートとが共沸混合物を形成しないので、後段分離工程が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、具現例について、技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。ただし、具現例は様々な異なる形態で具現されてよく、ここで説明する具現例に限定されない。
【0017】
一具現例に係るエチレンビニルアセテート共重合体は、反応器に単量体及び溶媒を投入し、重合(polymerization)する段階を含んで製造されてよい。このとき、前記単量体はエチレン及びビニルアセテートを含み、前記溶媒はアルキルアセテートを含む。
【0018】
従来ではエチレンビニルアセテート共重合体を製造するための重合段階において溶媒としてメタノールのようなC1~C4アルコールを使用したが、この場合、エチレンビニルアセテート(EVA)共重合体の分子量の調節に限界があり、高分子量の樹脂が得難く、後で未反応ビニルアセテートとアルコールとが共沸混合物を形成する場合が多いため分離し難い。
【0019】
前記「共沸混合物」とは、当業界で通常の意味で使われるもので、すなわち、特別な成分比の液体において、純粋液体のように一定の温度で成分比が変わらずに沸騰する際に溶液と蒸気の成分比が同一になった溶液を意味する。共沸混合物の沸点である平衡温度を共沸点といい、溶液と蒸気の成分比が一致している共沸状態は圧力によって変化し、共沸点は、成分比と沸点との関係を表す沸点曲線上で最小値又は最大値を示す。
【0020】
一方、一具現例によれば、溶媒として連鎖移動定数(chain transfer constant)の低いアルキルアセテートを使って重合することにより、分子量の高いエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を得ることができ、よって、製品の物性を向上させることができ、未反応ビニルアセテートとアルキルアセテートとが共沸混合物を形成しないので分離がし易い。
【0021】
前記溶媒として使用されるアルキルアセテートは、57℃~126℃の沸点を有してよく、例えば、57℃~102℃、57℃~80℃の沸点を有してよい。前記範囲内の沸点を有するアルキルアセテートを溶媒として使用することで、分子量の高いエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を得ることができる。
【0022】
前記溶媒として使用されるアルキルアセテートは、例えば、エチルアセテート、メチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、及びジメチルアセテートから選ばれるいずれか一つ以上であってよい。具体的には、エチルアセテート又はメチルアセテートであってよい。
【0023】
前記溶媒は、前記単量体及び前記溶媒の総量に対して2.5重量%~50重量%で投入されてよく、例えば、5重量%~30重量%、9重量%~30重量%、又は9重量%~15重量%で投入されてよい。溶媒が前記含有量の範囲内で投入されると、重合時に、分子量の高いエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を得ることができる。
【0024】
前記重合は、開始剤をさらに投入して行われてよい。
【0025】
前記開始剤は、アゾビス系化合物、ベンゾイルペルオキシド(BPO)又はこれらの組合せを含んでよく、前記アゾビス系化合物は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチルバレロニトリル(ADVN)又はこれらの組合せを含んでよい。
【0026】
前記重合によって得られたエチレンビニルアセテート共重合体は、150,000g/mol~500,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有してよく、例えば、150,000g/mol~400,000g/mol、250,000g/mol~400,000g/mol、又は350,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有してよい。前記範囲内の重量平均分子量(Mw)を有するエチレンビニルアセテート共重合体は、物性が向上し、超高分子量のエチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用が可能である。
【0027】
前記重合によって得られたエチレンビニルアセテート共重合体は、40モル%~80モル%のビニルアセテートを含んでよく、例えば、56モル%~72モル%のビニルアセテートを含んでよい。前記範囲内のビニルアセテートを含むエチレンビニルアセテート共重合体は、物性が向上し、超高分子量のエチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用が可能である。
【0028】
以下では、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、下記の実施例は、本発明を具体的に例示又は説明するためのものに過ぎず、これらの実施例によって本発明が限定されてはならない。また、ここに記載されない内容は、この技術の分野における熟練した者であれば十分に技術的に類推できるものであり、その説明を省略する。
【0029】
(エチレンビニルアセテート共重合体の製造)
実施例1
反応器に、エチレン21.5重量%、ビニルアセテート69.3重量%、及び溶媒として沸点77℃のエチルアセテート9.2重量%を投入した後、60℃及びエチレン圧力40kg/cm2の条件下で重合反応を行い、71.3モル%のビニルアセテートを含有するエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を製造した。
【0030】
実施例2
実施例1において溶媒として用いたエチルアセテートの代わりに沸点57℃のメチルアセテートを使用した以外は、実施例1と同じ方法でエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を製造した。
【0031】
比較例1
実施例1において溶媒として用いたエチルアセテートの代わりにエタノールを使用した以外は、実施例1と同じ方法でエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を製造した。
【0032】
比較例2
実施例1において溶媒として用いたエチルアセテートの代わりにメタノールを使用した以外は、実施例1と同じ方法でエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体を製造した。
【0033】
評価1:エチレンビニルアセテート(EVA)共重合体の分子量の測定
上記の実施例1及び2と比較例1及び2で製造されたエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体の分子量を確認するために、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)装備で重量平均分子量(Mw)を測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0034】
【0035】
上記の表1から、実施例1及び2によって製造されたエチレンビニルアセテート(EVA)共重合体の分子量が、比較例1及び2に比べて高いことが分かる。したがって、一具現例によれば、エチレンビニルアセテート共重合体のゴムにも適用可能な高い分子量を有し、製品の物性を向上させ得ることが分かる。
【0036】
評価2:ビニルアセテートと溶媒との共沸混合物形成の有無
上記の実施例1及び2と比較例1及び2で使用された溶媒がビニルアセテートと共沸混合物を形成せず、単純蒸留によって分離が可能であるか、それとも、共沸混合物を形成し、抽出剤などを用いて分離すべきかを、下記の表2に示した。
【0037】
【0038】
これにより、実施例1及び2は、共沸混合物を形成せず、単純蒸留によって分離が可能であるが、比較例はいずれも共沸混合物を形成し、別の分離過程が必要であることが確認できる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明は、それに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明、及び添付の図面の範囲内で様々に変形して実施可能であり、それらも本発明の範囲に属することは当然である。