(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025058956
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム、フィルムロール、電解質膜補強用フィルム、電解質膜補強部材、燃料電池、水電解装置
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250401BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250401BHJP
H01M 8/1062 20160101ALI20250401BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20250401BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250401BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20250401BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20250401BHJP
C25B 1/02 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B32B27/00 A
H01M8/1062
H01M8/10 101
C25B9/00 A
C25B13/08 303
H01M8/106
C25B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160692
(22)【出願日】2024-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2023166192
(32)【優先日】2023-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4F071AA63
4F071AA81
4F071AB21
4F071AB26
4F071AE12
4F071AF16Y
4F071AF20Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH15
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
4F100AK57
4F100AK57A
4F100AL01
4F100AL01A
4F100AR00B
4F100BA02
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4F100EJ55
4F100EJ94A
4F100GB48
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4F100JK03
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4F100JK14A
4F100JL01
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4K021AA01
4K021BA02
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4K021DB31
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4K021DC03
4K021EA04
5H126AA05
5H126BB06
5H126FF05
5H126GG18
(57)【要約】
【課題】加工の寸法制御に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供する。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド(PAS)系樹脂を主たる構成成分とし、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率について、長手方向S
MDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向S
TDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)系樹脂を主たる構成成分とし、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
長手方向の引裂強度(HMD)と幅方向の引き裂き強度(HTD)が以下の式を満たす請求項1に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
1.01≦HTD/HMD≦2.00
【請求項3】
少なくとも一方の表面で測定される表面自由エネルギーが50mN/m以上である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
125℃30分の長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDが下記式を満たす請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
-0.85≦5.5SMD+12STD≦0.85
【請求項5】
125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.20%以上1.00%以下であって、幅方向STDが-0.40%以上-0.10%以下である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
長手方向および幅方向のヤング率がいずれも3.5GPa以上4.5GPa以下である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項7】
少なくとも一方の表面の表面粗さ(SRa)が20nm以上100nm以下である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項8】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.50以下である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(測定方法)
JIS K7252(2016)に従って微分分子量分布曲線を得る。具体的には、試料5mgに1-クロロナフタレン(1-CN)5mLを加え、210~220℃で20分間緩やかに攪拌し溶解することを視認する。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過を行う。以下に示す条件にて測定しGPC曲線を得る。得られたGPC曲線をポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似して作成した分子量校正曲線を用いて変換し微分分子量分布曲線を算出する。なお、分子量はポリスチレン基準の相対値であり、微分分子量分布曲線は、微分分子量とその重量分率をプロットすることによって作図し、ピーク面積が1になるように規格化する。得られた微分分子量分布曲線から対数分子量Log(M)が5.2の時の微分分子量分布値(dw/dLog(M))を読み取る。
装置: 高温GPC 装置(機器No.GPC-H-2、Polymer Laboratories 製PL-GPC220)
検出器: 示差屈折率検出器RI
データ間隔: 0.5秒毎
カラム: Shodex UT-G(ガードカラム)
PLgel 10m MIXED-B-LS(2本) (8.0mm×30cm、Polymer Laboratories製)
溶媒: 1-クロロナフタレン
流速: 0.7mL/min
カラム温度: 210℃
注入量: 0.200mL
標準試料: 東ソー製単分散ポリスチレン
【請求項9】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.40以下である請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(測定方法)
JIS K7252(2016)に従って微分分子量分布曲線を得る。具体的には、試料5mgに1-クロロナフタレン(1-CN)5mLを加え、210~220℃で20分間緩やかに攪拌し溶解することを視認する。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過を行う。以下に示す条件にて測定しGPC曲線を得る。得られたGPC曲線をポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似して作成した分子量校正曲線を用いて変換し微分分子量分布曲線を算出する。なお、分子量はポリスチレン基準の相対値であり、微分分子量分布曲線は、微分分子量とその重量分率をプロットすることによって作図し、ピーク面積が1になるように規格化する。得られた微分分子量分布曲線から対数分子量Log(M)が4.0の時の微分分子量分布値(dw/dLog(M))を読み取る。
装置: 高温GPC 装置(機器No.GPC-H-2、Polymer Laboratories 製PL-GPC220)
検出器: 示差屈折率検出器RI
データ間隔: 0.5秒毎
カラム: Shodex UT-G(ガードカラム)
PLgel 10m MIXED-B-LS(2本) (8.0mm×30cm、Polymer Laboratories製)
溶媒: 1-クロロナフタレン
流速: 0.7mL/min
カラム温度: 210℃
注入量: 0.200mL
標準試料: 東ソー製単分散ポリスチレン
【請求項10】
請求項1または2のいずれかのフィルムを巻き取ってなる電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムロール。
【請求項11】
電解質膜および/または膜電極複合体とロールToロールで貼り合わされる請求項1または2に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項12】
熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用フィルム。
【請求項13】
請求項1、2、12のいずれかに記載のフィルムを用いた電解質膜補強部材。
【請求項14】
請求項13に記載の電解質膜補強部材を有する燃料電池。
【請求項15】
請求項13に記載の電解質膜補強部材を有する水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムおよびフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルへの取り組みの流れから、水素をエネルギーとする燃料電池、また水素生成のための水電解装置の開発が進んでいる。なかでも固体高分子型燃料電池は反応温度が比較的低く、かつ、エネルギー密度が高いことから比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池に現在検討されている電解質膜は、プロトン伝導性イオン交換膜であり、特に「ナフィオン」(登録商標)に代表さるスルホン酸基を含有するパーフルオロスルホン酸からなる陽イオン交換膜が広く検討されている。
【0004】
燃料電池は1つのセルが複数層スタックされた積層構造を有しており、セルの構成部材の1つである電解質膜はコシが不足するため取り扱いが難しく、それぞれの電極との接合時、複数の単電池を積層してスタックとして組み合わせる組み立て作業時等の際に、その周縁部に皺が発生してしまうことがしばしば生じ、スタックの構成部材の中で最も機械的強度が低いことが生産性の点で問題となっている。
【0005】
そこで、特許文献1には、燃料電池セルの周縁部に、電解質膜を機械的に補強するとともに、電解質膜との境界面から燃料ガスや酸化剤ガスが漏れないように気密に接合された補強材を備えること、また補強材として、動作温度においても所要の機械的強度,耐食性等を有するものが好ましいとして、ポリエチレンナフタレートを用いたものが記載されている。
【0006】
ポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、耐加水分解性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの性質を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品などに好適に使用されている。燃料電池分野において、耐加水分解性や耐久性の高い材料が求められており、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称することがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィドフィルムは、その耐加水分解性の高さを活かし、電解質膜補強部材への適用が進められている。
【0007】
これまで、PPS樹脂の金属元素含有成分を低減した固体電解質膜の補強部材の技術が開示されている(特許文献2)。また、フッ素樹脂との積層によって柔軟性を付与した電解質膜の補強材の技術が開示されている(特許文献3)。ほかにも、寸法安定性の観点からPPSフィルムの低熱収縮化の技術が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-103170号公報
【特許文献2】特開2016-219136号公報
【特許文献3】特開2013-110048号公報
【特許文献4】国際公開第2021/045076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、燃料電池の普及に伴い、電解質膜補強部材と電解質膜を含む膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の貼り合わせは、ロールToロール加工による長尺帯状での加工によって高速化や効率化の開発が進められている。ロールToロール加工となることで搬送時の張力や温度による変形を含めた制御をすることが重要である。しかしながら、上記の特許文献に記載された技術であっても、搬送時の張力や熱による変形が加わることにより貼り合わせ加工の寸法制御が充分ではないという課題があることが分かった。
【0010】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、加工寸法制御に優れた電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい一態様は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンスルフィド(PAS)系樹脂を主たる構成成分とし、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(2)長手方向の引裂強度(HMD)と幅方向の引き裂き強度(HTD)が以下の式を満たす(1)に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
1.01≦HTD/HMD≦2.00
(3)少なくとも一方の表面で測定される表面自由エネルギーが50mN/m以上である(1)または(2)に記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(4)125℃30分の長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDが下記式を満たす(1)~(3)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
-0.85≦5.5SMD+12STD≦0.85
(5)125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.20%以上1.00%以下であって、幅方向STDが-0.40%以上-0.10%以下である(1)~(4)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(6)長手方向および幅方向のヤング率がいずれも3.5GPa以上4.5GPa以下である(1)~(5)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(7)少なくとも一方の表面の表面粗さ(SRa)が20nm以上100nm以下である(1)~(6)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(8)ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(以下GPC法)により測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.50以下である(1)~(7)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(測定方法)
JIS K7252(2016)に従って微分分子量分布曲線を得る。具体的には、試料5mgに1-クロロナフタレン(1-CN)5mLを加え、210~220℃で20分間緩やかに攪拌し溶解することを視認する。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過を行う。以下に示す条件にて測定しGPC曲線を得る。得られたGPC曲線をポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似して作成した分子量校正曲線を用いて変換し微分分子量分布曲線を算出する。なお、分子量はポリスチレン基準の相対値であり、微分分子量分布曲線は、微分分子量とその重量分率をプロットすることによって作図し、ピーク面積が1になるように規格化する。得られた微分分子量分布曲線から対数分子量Log(M)が5.2の時の微分分子量分布値(dw/dLog(M))を読み取る。
装置: 高温GPC 装置(機器No.GPC-H-2、Polymer Laboratories 製PL-GPC220)
検出器: 示差屈折率検出器RI
データ間隔: 0.5秒毎
カラム: Shodex UT-G(ガードカラム)
PLgel 10m MIXED-B-LS(2本) (8.0mm×30cm、Polymer Laboratories製)
溶媒: 1-クロロナフタレン
流速: 0.7mL/min
カラム温度: 210℃
注入量: 0.200mL
標準試料: 東ソー製単分散ポリスチレン
(9)GPC法により測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.40以下である(1)~(8)のいずれかに記載の電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(測定方法)
JIS K7252(2016)に従って微分分子量分布曲線を得る。具体的には、試料5mgに1-クロロナフタレン(1-CN)5mLを加え、210~220℃で20分間緩やかに攪拌し溶解することを視認する。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過を行う。以下に示す条件にて測定しGPC曲線を得る。得られたGPC曲線をポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似して作成した分子量校正曲線を用いて変換し微分分子量分布曲線を算出する。なお、分子量はポリスチレン基準の相対値であり、微分分子量分布曲線は、微分分子量とその重量分率をプロットすることによって作図し、ピーク面積が1になるように規格化する。得られた微分分子量分布曲線から対数分子量Log(M)が4.0の時の微分分子量分布値(dw/dLog(M))を読み取る。
装置: 高温GPC 装置(機器No.GPC-H-2、Polymer Laboratories 製PL-GPC220)
検出器: 示差屈折率検出器RI
データ間隔: 0.5秒毎
カラム: Shodex UT-G(ガードカラム)
PLgel 10m MIXED-B-LS(2本) (8.0mm×30cm、Polymer Laboratories製)
溶媒: 1-クロロナフタレン
流速: 0.7mL/min
カラム温度: 210℃
注入量: 0.200mL
標準試料: 東ソー製単分散ポリスチレン
(10)(1)~(9)のいずれかのフィルムを巻き取ってなる電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムロール。
(11)電解質膜および/または膜電極複合体とロールToロールで貼り合わされる(1)~(9)のいずれかの電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(12)熱可塑性樹脂からなるフィルムであって、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用フィルム。
(13)(1)~(9)、(12)のいずれかに記載のフィルムを用いた電解質膜補強部材。
(14)(13)に記載の電解質膜補強部材を有する燃料電池。
(15)(13)に記載の電解質膜補強部材を有する水電解装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明により加工寸法制御に優れた電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することができ、高度な寸法制御、平面性を必要とする燃料電池や水電解装置の電解質膜補強部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】開口部を有する電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムロールの一例に係る模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
本発明の好ましい一態様は、ポリアリーレンスルフィド(以下、PAS)系樹脂を主たる構成成分とし、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルム、である。本態様とすることにより加工寸法制御に優れた電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムとすることができる。
【0015】
本発明において、PAS系樹脂を主たる構成成分とするとは、PAS系樹脂を90質量%以上含むことをいう。また、95質量%以上含むことがより好ましい。PAS系樹脂の含有量が90質量%未満では、PAS系フィルムの特徴である、耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性、電気特性、機械的特性を損なう場合がある。
【0016】
本発明の効果を阻害しない範囲の10質量%未満あれば、PAS系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有することが可能であり、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニルスルホン、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。
【0017】
本発明で用いるPAS系樹脂とは、-(Ar-S)-の繰り返し単位を有するコポリマーである。Arとしては下記の式(A)~式(K)などであらわされる単位などがあげられる。
【0018】
【0019】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
【0020】
繰り返し単位としては、上記の式(A)で表されるp-アリーレンスルフィド単位が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンなどが挙げられ、特に好ましいp-アリーレンスルフィド単位としては、フィルム物性と経済性の観点から、p-フェニレンスルフィド単位が好ましく例示される。
【0021】
本発明に用いるPAS系樹脂は、主要構成単位として下記構造式で示されるp-フェニレンスルフィド単位を全繰り返し単位の80モル%以上99.9モル%以下で構成されていることが好ましい。上記の組成とすることで、優れた耐熱性、耐薬品性を発現せしめることができる。
【0022】
【0023】
また、繰り返し単位の0.01モル%以上20モル%以下の範囲で共重合単位と共重合することもできる。
好ましい共重合単位は、下記のものが挙げられる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO2単位を示す。)
【0028】
【0029】
【0030】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)
【0031】
共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0032】
本発明のフィルムにおいて、電解質膜補強用とは、枠状または額縁形状に打ち抜き加工され開口部を有し、開口部が電解質膜と貼り合わせて使用される電解質膜補強部材に用いられることを示す。開口部を有する枠状の電解質膜補強部材は、電極を積層する中心部が電極形状に切り取られ、周縁部のみに電解質膜補強部材が存在する。電解質膜補強部材は、少なくとも1枚の電解質膜補強部材を電解質膜の周縁部に貼り合わせて使用することができる。また、電解質膜補強部材を2枚重ね合せて用いることも好ましい態様である。具体的には、電解質膜の周縁部を挟み、電解質膜の両面にそれぞれ1枚ずつ電解質膜補強部材を使用する態様が挙げられる。さらに、電解質膜の周縁部を介した両面に、それぞれ2枚以上の電解質膜補強部材を重ね合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明のフィルムの好ましい一態様は、125℃の温度で30分間加熱処理したときの熱収縮率(長手方向SMD、幅方向STD)について、長手方向SMDが0.10%以上1.20%以下であって、幅方向STDが-0.50%以上-0.01%以下である。熱ラミネートなどの貼り合わせ加工においてフィルム搬送時に長手方向は温度と搬送張力によって伸長されることに対し、幅方向はポアソン比によって収縮する。電解質膜補強部材は電極部が打ち抜かれた枠状であるため、電解質膜やMEAと貼り合わせの際の温度や搬送張力による変形やずれが起こる場合がある。本発明のフィルムは、電解質膜やMEAとを貼り合わせる際、特にロールToロールでの加工において、熱収縮率を上記範囲とするとことで、熱と張力による変形を抑制することができ加工寸法制御を容易とし、貼り合わせ後のサイズのずれを低減できる。熱収縮率が、上記範囲を外れると貼り合わせ加工の寸法制御が困難となる場合がある。長手方向の熱収縮SMDは、より好ましくは0.25%以上、さらに好ましくは0.40%以上であり、特に好ましくは0.52%以上である。また長手方向の熱収縮率SMDは、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.90%以下であり、特に好ましくは0.80%以下である。幅方向の熱収縮率STDはより好ましくは-0.40%以上であり、さらに好ましくは-0.35%以上、幅方向の熱収縮率STDはより好ましくは-0.10%以下であり、さらに好ましくは-0.19%以下であり、特に好ましくは-0.24%以下である。本発明の熱収縮率を上述した範囲とするには、後述する製膜条件によって制御することができる。
【0034】
本発明において長手方向とは、フィルムロールの帯状方向をいい、フィルム幅方向とは長手方向に垂直な方向すなわちフィルムロールの両端方向をいう。一方、フィルムがカットされたシート状で長手方向が判断できない場合は、いずれかの方向を0°とし、フィルム面内に-90℃から90℃まで10°毎に方向を変えて125℃の温度の熱収縮を測定し、最も熱収縮が大きい方向をフィルム長手方向とする。
【0035】
本発明のフィルムは、125℃30分の長手方向の熱収縮率SMDと幅方向の熱収縮率STDが下記式(i)を満たすことが好ましい。
式(i) -0.85≦5.5SMD+12STD≦0.85
【0036】
熱収縮率が上記式の範囲内であると、本発明のフィルムを電解質膜やMEAと貼り合わせた後の寸法変化をさらに小さくできる。上記式の範囲を外れると、寸法変化のバランスが崩れるため加工寸法制御が悪化する場合がある。上記式の範囲とするには後述の製膜条件によって制御することができる。
【0037】
本発明のフィルムは、長手方向の引裂強度(HMD)と幅方向の引き裂き強度(HTD)が以下の式(ii)を満たすことが好ましい。
式(ii) 1.01≦HTD/HMD≦2.00
【0038】
引き裂き強度の比が上記式の範囲内であると、特にロールToロールでの加工において搬送張力の長手方向に分子鎖が配向しており幅方向の引裂き強度が高くなることを示す。電解質膜やMEAとの貼り合わせ加工において、電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムは
図1に示すように打ち抜かれ開口部を有するフィルムが搬送される場合があり、打ち抜き端部にかかる引裂きを抑制し、加工性を良化できるため好ましい。引裂き強度の比が1.01未満であると、幅方向に分子鎖が配列するため、搬送張力で避けやすく加工性が悪化する場合がある。引裂き強度の比が2.00を超えると、長手方向に極度に分子鎖が整列し高配向化が進みすぎるため、フィルム製膜工程での製膜安定性が悪化する場合がある。引裂き強度の比は、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.40以上であり、引裂き強度の比は、より好ましくは1.90以下である。本発明の引裂き強度の比を上述した範囲とするには、後述する製膜条件によって制御することができる。
【0039】
本発明のフィルムは、少なくとも一方の表面で測定される表面自由エネルギーが50mN/m以上であることが好ましい。表面自由エネルギーが上記範囲内であると、本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムに接着層を設けた電解質膜補強部材として使用した場合に接着力を向上させることができる。また、表面自由エネルギーの値が50mN/m未満の場合、フィルムの濡れ性が低いことを示し、フィルムと接着層とが剥離する問題を生じる場合がある。また、長時間使用した場合に、接着力が弱く耐久性に劣る場合がある。表面自由エネルギーはより好ましくは52mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面自由エネルギーは後述する条件によって測定することができる。本発明においては、表面自由エネルギーの値を所望の範囲とする方法としては、フィルムの片面あるいは両面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理を施すことが挙げられる。該放電処理を行う方法としては、フィルムの製造工程中に行う方法であっても、フィルムを製造した後の段階で行ってもよい。ただし、放電処理を施したのち、アニール処理などの加熱処理を実施すると、放電処理の効果が失活する場合がある。ここであげられた放電処理は単独あるいは複数回施してもよい。
【0040】
本発明のフィルムは、長手方向および幅方向のヤング率がいずれも3.5GPa以上4.5GPa以下であることが好ましい。なお、ここではヤング率のことを弾性率ということがある。弾性率が上記範囲内であると、剛性を維持できていることを示し、加工の搬送張力においてもフィルム全体としてシワやうねりの発生を抑制することができ加工時の熱、張力による平面性の悪化を抑制できるため好ましい。弾性率が3.5GPa未満であると、剛性が低く加工の寸法制御が悪化する場合や加工による平面性が悪化するがある。弾性率が4.5GPaを超えると、極度に分子鎖が整列し高配向化が進みすぎるため、フィルム製膜工程での製膜安定性が悪化する場合がある。弾性率は好ましくは3.7GPa以上であり、弾性率は好ましくは4.2GPa以下である。弾性率は後述する製膜条件の中でも延伸倍率によって制御することができる。
【0041】
本発明のフィルムは、少なくとも一方の表面の表面粗さ(SRa)が20nm以上100nm以下であることが好ましい。SRaとは3次元表面粗さのパラメーターで、表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面における平均粗さを意味し、中心面平均粗さと定義する。中心面平均粗さは、JIS-B0601-1994に記載されている2次元粗さパラメーターの中心線平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したもので、表面形状曲面と中心面で囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。中心面をXY面、縦方向をZ軸とし、測定された表面形状曲線をf(x、y)とする時、下記式(iii)によって定義される。ここで、LxはX方向測定長、LyはY方向測定長である。
【0042】
【0043】
SRaを上記範囲とすることで上記範囲とすることで走行性に優れるとともに、貼り合わせ加工時の搬送ずれを抑制でき、加工時の寸法変化に優れたフィルムが得られる。フィルム表面の表面粗さ(SRa)が20nm未満であると表面が平滑であるため、搬送時の摩擦が大きくなり、搬送性が低下や搬送時の傷などによる欠点が多くなる場合がある。フィルム表面の表面粗さ(SRa)が100nmを超えると表面の凹凸が大きく、フィルムロールとした際に滑りやすく巻きずれが起こる場合がある。また、貼り合わせ加工時に位置ずれを起こしやすく、加工寸法制御が劣る場合がある。フィルム表面の表面粗さ(SRa)は、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。フィルム表面の表面粗さ(SRa)は、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下である。フィルム表面の表面粗さ(SRa)を上記範囲とするには後述するフィルム中に含有する粒子や他の樹脂によって制御することができる。フィルム表面の表面粗さ(SRa)は後述する手法によって評価することができる。
【0044】
フィルムの表面粗さを制御するには、本発明の効果を阻害しない範囲で不活性粒子を添加させる方法がある。ここで言う不活性粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化亜鉛などの無機フィラーおよび300℃で溶融しない有機の高分子化合物(例えば、架橋ポリスチレン等)の粒子等を挙げることができる。不活性粒子を添加することで、フィルムの延伸工程でフィルムの滑り性を向上することができ、フィルムのロール間走行時の皺の発生の抑制や、横延伸に続く熱固定の温度を上げてもフィルムの表面凹凸を保持できるため表面のキズの抑制と走行性を向上することができる。
【0045】
本発明のフィルムは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)4.0~6.0の範囲においてピークを有することが好ましい。また、対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.50以下であることが好ましい。上記範囲であると、分子量の高い分子鎖が多く含有されていることを示し、分子鎖の絡み合いが多くなり電解質膜やMEAの貼合加工時において張力による破断を抑制することができる。対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値が0.10未満である場合、分子鎖の絡み合いが少なく貼合加工時の加工性が悪化する場合がある。また、延伸時に絡み合いが少なくなり、応力伝搬が起こらず、分子鎖が配向しにくくなる場合がある。対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値が0.50より大きくなると、高分子量成分が多くの溶融押出時の粘度が高くなり、電解質膜補強部材へと成形時の厚み変動が大きく電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みムラが大きくなる場合がある。上記観点から、対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値は0.15以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.20以上である。対数分子量Log(M)が5.2のときの微分分子量分布値は、0.45以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.40以下である。
【0046】
本発明における電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値(dw/dLog(M))が0.10以上0.40以下であることが好ましい。当該微分分子量分布値は低分子量成分の含有量を示し、微分分子量分布値が上記範囲であると、低分子量成分を減らしつつも、一定量の低分子量成分残存していることを表し、低分子量成分が分子鎖間の滑剤として機能し柔軟成分となるため打ち抜き加工時のバリや割れを抑制し加工性に優れる。0.10未満である場合、低分子量成分が少なくなりすぎるため、打ち抜き加工時のバリや割れが発生し加工性が悪化する場合がある。対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値が0.40より大きくなると、低分子量成分が多くなり、使用環境下の温度や圧力で耐久性が劣る場合がある。上記観点から、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値は0.10以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分子量分布値は、0.35以下であることがより好ましく、より好ましくは0.30以下である。
【0047】
本発明のフィルムは、PAS系樹脂を主たる構成成分とする樹脂組成物を、溶融成形してシート状とした未延伸フィルム、または二軸延伸、熱処理してなる二軸延伸フィルムのいずれでもよく、生産性の観点から二軸配向フィルムが好ましい。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、フィルムの寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0048】
本発明の好ましい態様として、ポリアリーレンスルフィドフィルムを巻き取ってなる電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムロールを挙げることができる。本発明のフィルムロールは、フィルム幅が200mm以上であることが好ましい。フィルムを製造した直後に巻き取ってなる中間製品ロールであってもよく、中間製品ロールをスリットしてなる製品ロールとしてもよい。
【0049】
本発明のフィルムは、単膜であっても、複合フィルムであってもよい。
【0050】
本発明のフィルムの厚みは特に制限はないが、製膜性の観点からフィルム厚みが0.5μm以上300μm以下であることが好ましい。ハンドリング性の観点から10~150μmがより好ましく、20~125μmがさらに好ましい。なお、フィルム厚みは公知のマイクロメーターで測定することができ、詳細は後述する。
【0051】
本発明のフィルムを製造する方法についてポリアリーレンスルフィド系樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略記する場合がある)を用いた場合のフィルムの製造方法を例にとって説明するが、本発明は、この例に限定されない。
【0052】
硫化ナトリウムとp-ジクロロベンゼンを配合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、m-ジクロロベンゼンやトリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230~290℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、湿潤状態の粒状ポリマーを得る。この粒状ポリマーにアミド系極性溶媒を加えて30~100℃の温度で攪拌処理して洗浄し、イオン交換水にて30~80℃で数回洗浄し、酢酸カルシウム水溶液などの金属塩水溶液で数回洗浄した後、乾燥してポリフェニレンスルフィドの粒状ポリマー(PPS顆粒)を得る。この粒状ポリマーをベント付き押出機に投入してストランド状に溶融押出し、温度25℃の水で冷却した後、カッティングしてチップを作製しPPSペレットとする。
【0053】
ポリアリーレンスルフィド樹脂として上記で得られたPPS顆粒と無機粒子および/または他の熱可塑性樹脂などを任意の割合で混合しマスターバッチを作製する。マスターバッチ中の無機粒子および/または他の熱可塑性樹脂の濃度は1質量%~25質量%が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。25質量%より多いと分散性が悪化し分散径が大きくなる場合がある。1質量%未満だと希釈して使用時にマスターバッチの使用量が増える場合がありコストの観点から好ましくない場合がある。本発明においてマスターバッチを作製する方法は、二軸押出機などの剪断応力のかかる装置を用いてマスターバッチ化する方法などが好ましい。この場合、混練部では(PAS系樹脂の融点+5℃)以上(PAS系樹脂の融点+80℃)以下の樹脂温度範囲となる様に混練することが好ましく、より好ましくは(PAS系樹脂の融点+10℃)以上(PAS系樹脂の融点+80℃)以下であり、さらに好ましくは(PAS系樹脂の融点+15℃)以上(PAS系樹脂の融点+70℃)℃以下の温度範囲である。また、スクリュー回転数を100rpm以上1500rpm以下の範囲とすることが好ましい。樹脂温度やスクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、分散相の分散径をコントロールできる。
【0054】
本発明では、まず必要に応じて180℃で3時間減圧乾燥したPPSチップとマスターバッチとを所定の割合で混合して、溶融部が300~350℃に設定されたフルフライトの単軸押出機に供給し、フィルターに通過させた後、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度20~70℃の冷却ドラム上に静電荷を印加させながら密着させて急冷固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得ることが好ましい。
【0055】
次いで、上記で得られた未延伸フィルムを、ポリアリーレンスルフィド系樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度範囲で、逐次二軸延伸機または同時二軸延伸機により二軸延伸した後、150~280℃の範囲の温度で1段もしくは多段熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を例示する。
【0056】
未延伸フィルムを加熱ロール群で加熱し、長手(MD)方向に3.0以上、より好ましくは3.3倍以上、さらに好ましくは3.5倍以上、特に好ましくは3.8倍以上に1段もしくは2段以上の多段で延伸する延伸する(MD延伸)。MD延伸を上記範囲とし、長手方向に分子鎖を配列させること本発明の熱収縮を制御することができる。MD延伸倍率は特に制限は無いが、5.0倍以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは4.8倍以下、さらに好ましくは4.5倍以下である。この範囲を超えるとMD延伸で一方向に配向がつきすぎるため、横方向の延伸時の製膜性が悪化する場合がある。延伸温度は、Tg~Tcc(昇温結晶化ピーク温度)、好ましくは(Tg+5)~(Tcc-5)℃の範囲である。その後20~50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0057】
MD方向の延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸は、例えば、テンターを用いる方法が
一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の
延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg(ポリアリーレンスルフィドのガラス転移温度
)~(Tg+40)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+2)~(Tg+30)℃の範
囲である。PPSの場合、95℃~135℃であり、より好ましくは、97℃~125℃
である。延伸倍率は平面性の良好なフィルムを得る観点から3.0~4.2倍、好ましく
は3.1~4.1倍、さらに好ましくは、3.2~4.0倍の範囲である。
【0058】
このとき、フィルムの延伸倍率についてTD倍率に対するMD倍率の比(延伸倍率比=MD倍率/TD倍率)は1.0を超えることが好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上であることが分子鎖を長手方向に配列させ、搬送時に幅方向の破断を抑制できる観点から好ましい。延伸倍率比が1.0以下であると、分子鎖が幅方向に配列し、搬送時の張力で破断し加工性が悪化する場合がある。
【0059】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する操作(熱固定処理)を行う。熱固定処理の温度は熱処理ゾーンの始終で、同一温度で加熱処理を行うか、1段熱固定または熱処理ゾーンの前半と後半で異なる温度で加熱処理を行う多段熱固定の何れかで処理を行う。熱固定温度は200℃~融点(Tm)が好ましく、250~(Tm-10)℃であることが、フィルムとしての熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0060】
次に、熱固定処理をした二軸配向フィルムをクリップで保持した状態で長手方向および/または幅方向に弛緩処理を行うことが好ましい。本願発明においては、幅方向の弛緩処理を温度の異なる2段以上で実施することが好ましい。温度の異なる2段以上で弛緩処理を行うことで、各温度における配向ひずみを緩和することが可能となり、TD方向の熱収縮率を良好に制御できるため好ましい態様である。弛緩率とは処理前のクリップ間の幅を基準にして、処理後の幅との差に対する割合の値であり、例えば、弛緩率2%は、処理前が100mmの場合、2%の2mmを弛緩して処理後は98mmになることを示す。前段の弛緩処理(以下、Rx1と略すことがある)は、弛緩率は1.0~10.0%であることが好ましく、より好ましくは3.0~7.0%である。また、弛緩処理(Rx1)する際の温度は(熱固定温度-20)℃以上(熱固定温度+10℃)以下であることが好ましい。後段の弛緩処理(以下、Rx2と略すことがある)は、弛緩率は0.1~10%であることが好ましく、より好ましくは3~8%である。後段の弛緩処理(Rx2)する際の温度は(熱固定温度-80)℃以上(熱固定温度-10)℃以下であることが好ましい。
【0061】
その後、好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃以下の温度で冷却後、フィルムエッジを除去しコア上に巻き取る。さらに、巻き取られたPPSフィルムは、熱寸法安定性を向上させる観点からは、一定の温度条件下で張力をかけて搬送されアニール処理を行ってもよい。アニール処理温度は、130℃以上190℃以下がより好ましい態様である。190℃以上であると、アニール処理時に過度に収縮ひずみを除去し分子鎖が多く緩和した状態となる。その後の工程において再度温度と張力がフィルムに加わった際に加工の寸法変化に繋がり加工寸法制御が悪化する場合がある。130℃未満であると、アニール処理による分子構造の歪み除去が不完全となり、加工寸法制御が悪化する場合がある。アニール処理温度は好ましくは140℃以上180℃以下が好ましい。アニール時の搬送張力は0.5MPa~3.0MPaが好ましく、より好ましくは0.8MPa~2.0MPaである。アニール処理時間は、1~200秒が好ましく、より好ましくは10~100秒であり、さらに好ましくは10~50秒である。速度1~100m/minで搬送しながらアニール処理し、本発明のフィルムを得ることができる。
【0062】
本発明においては、ポリアリーレンスルフィドフィルムやそのフィルムロールに、必要に応じて、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0063】
本発明のフィルムは、電解質膜補強部材として好適に用いられる。電解質膜補強部材は電解質膜と接着層を介して接合される場合があり、本発明のフィルムに公知の方法(例えば、特開2015-2029、特開2022-69952)を適用することが可能である。
【0064】
燃料電池や水電解装置に使用されるセルは、本発明のフィルムを補強材とした電解質膜の両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造である。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち、触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と称されている。
【0065】
CCMの製造方法としては、電解質膜表面に、触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物を塗布及び乾燥させるという塗布方式や触媒層のみを基材上に作製し、この触媒層を転写することにより、触媒層を電解質膜上に積層させる方法(転写法)が一般的に行われる。このCCMやMEAにおける電解質膜の端部と枠状に切り抜かれた接着層を付与した本願フィルムの開口の周縁部に重ねられ熱プレスによりCCMと電解質膜補強部材が取り付けられる。
【0066】
プレスにより、MEAを作製する場合は、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, p.269.記載の化学メッキ法、電気化学協会編(J. Electrochem. Soc.)、エレクトロケミカル サイエンス アンド テクノロジー (Electrochemical Science and Technology),1988, 135, 9, p.2209.記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。プレス時の温度や張力、圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。具体的なプレス方法としては圧力やクリアランスを規定したロールプレス(例えば特開2007-180031)や、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から室温~200℃の範囲で行うことが好ましい。本発明の電解質膜補強用フィルムは電解質膜および/または膜電極複合体とロールToロールで貼り合わされる用途に好適に用いることができる。ここで、貼り合わされる際の温度が80℃以上であることが好ましい。また、電解質膜補強用フィルムは特にロールプレスを行うことに対して加工寸法制御を向上できるため、当該用途に用いられることがより好ましい。
【0067】
電解質膜補強部材とMEAとをロールプレスにより貼り合わせる場合、加工時の搬送張力の影響を必ず受けるため、熱収縮を上記した範囲とすることは、ポリアリーレンスルフィドフィルムだけでなく、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリフェニルスルホンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム等でも同様に効果を奏すると考える。
【0068】
以下、本発明の燃料電池、水電解装置について説明する。
本発明の燃料電池は、本発明のフィルムを使用したMEAを有する。燃料電池に本発明のフィルムを用いることで、加工寸法安定性に優れておりスタック組み立ての歩留まり低減に繋がる。
本発明の水電解装置は、本発明のフィルムを使用したMEAを有する。水電解装置に本発明のフィルムを用いることで、加工寸法安定性に優れておりスタック組み立ての歩留まり低減に繋がる。
【実施例0069】
[特性の測定方法]
(1)125℃熱収縮率
フィルムを10mm×150mmの短冊状に試長の方向が主配軸方向および主配向軸と直交する方向に切り出し、中央100mmの部分に標線を付け、下記装置を用いて標線間の距離を測定した(熱処理前の標線間距離)。次いで、フィルムに3gの重りを吊るし125℃に昇温した状態の熱風オーブンで30分間熱処理し、上記と同様にして標線間の距離を測定した(熱処理後の標線間距離)。得られた標線間距離を下記式から、125℃熱収縮率を算出した。なお、主配向軸方向および主配向軸に直交する方向共に5サンプルずつ測定を実施し、その平均を求めた。
測長装置 :万能投影機
試料サイズ :試長150mm×幅10mm
熱処理装置 :ギアオーブン
熱処理条件 :125℃、30分
荷重 :3g
算出方法:
125℃熱収縮率(%)={(熱処理前の標線間距離)-(熱処理後の標線間距離)}/熱処理前の標線間距離×100。
【0070】
(2)引裂き
JIS K7128(1998)に準じ、軽荷重引裂試験機(東洋精機社製、Type-D)を用いて測定した。試料の長手方向および幅方向の2方向について、それぞれ20回ずつ測定して平均値を求め、その各方向の値を平均して求めた。試験片は長さ63.5mm、幅50mmの長方形として切り出し、短辺側の中央の端部に長辺と平行な長さ12.7mmの切り込みを入れて引裂の起点とした。各方向の値から下記式より、長手方向と幅方向の引裂き強度の比を算出した。
引裂き強度の比=HTD/HMD 。
【0071】
(3)表面自由エネルギー
測定液として、水、エチレングリコ-ル、ホルムアミド、及びヨウ化メチレンの4種類の液体を用い、協和界面化学(株)製接触角計CA-D型を用いて、各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求めた。なお、静的接触角は、各液体をフィルム表面に滴下後、30秒後に測定した。各々の液体について得られた接触角と測定液の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し以下の式からなる連立方程式をγS
d,γS
p,γS
hについて解いた。
(γS
d・γL
d)1/2+(γS
p・γL
p)1/2+(γS
h・γL
h)1/2=(1+cosθ)/2
【0072】
γS、γS
d、γS
p、γS
hはそれぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を、またγL、γL
d、γL
p、γL
hは用いた測定液のそれぞれ表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を表わすものとする。ここで、用いた各液体の表面張力は、Panzer(J.Panzer,J.Colloid Interface Sci.,44,142(1973)によって提案された値を用いた。本発明においては、求められた分散力、極性力、水素結合力の各成分の値の和を表面自由エネルギーの値とした。
【0073】
(4)表面粗さ(SRa)
小坂研究所製Surfcorder ET30HKを用い、下記条件にて平均中心線粗さ(SRa)を求めた。
触針曲率半径 : 2μm
カットオフ : 0.25mm
測定長 : 0.5mm
測定間隔 : 5μm
測定回数 : 40回。
【0074】
(5)ヤング率
JIS K7127(1999)に従って、引張試験機(A&D Company,Limited製/RTG-1210)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃の温度で引張速度300mm/minで引張試験を行った。
【0075】
ヤング率は、変位の開始点を0mm、終了点を10mmとし、変位0mmから10mmの測定範囲内で、演算ピッチ0.2mmにて荷重差を求め、最大値から2,3,4番目の各座標を元データとして、最小二乗法により直線化し、その傾きを弾性率とした。試長の方向が長手方向、幅方向になるように切り出しそれぞれ5試料測定を行い、その平均を求めた。
測定装置:A&D Company,Limited製/RTG-1210
試料サイズ:試長150mm×幅10mm
チャック間長さ:50mm
引張り速度:300mm/min
測定環境:25℃55%RH、または130℃
解析条件:変位モード 開始点:0mm 終了点:10mm ピッチ:0.2mm。
【0076】
(6)微分分子量分布値(dw/dLog(M))
JIS K7252(2016)に従って微分分子量分布曲線を得る。具体的には、試料5mgに1-クロロナフタレン(1-CN)5mLを加え、210~220℃で20分間緩やかに攪拌した(溶解を視認)。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過を行った。以下に示す条件にて測定しGPC曲線を得る。得られたGPC曲線をポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似して作成した分子量校正曲線を用いて変換し微分分子量分布曲線を算出した。なお、分子量はポリスチレン基準の相対値であり、微分分子量分布曲線は、微分分子量とその重量分率をプロットすることによって作図することができ、ピーク面積が1になるように規格化する。得られた微分分子量分布曲線から対数分子量Log(M)が4.0および5.2の時の微分分子量分布値(dw/dLog(M))を読み取った。
【0077】
装置: 高温GPC 装置(機器No.GPC-H-2、Polymer Laboratories 製PL-GPC220)
検出器: 示差屈折率検出器RI
データ間隔: 0.5秒毎
カラム: Shodex UT-G(ガードカラム)
PLgel 10m MIXED-B-LS(2本) (8.0mm×30cm、Polymer Laboratories製)
溶媒: 1-クロロナフタレン
流速: 0.7mL/min
カラム温度: 210℃
注入量: 0.200mL
標準試料: 東ソー製単分散ポリスチレン。
【0078】
(7)フィルム厚み
電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムの任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの算術平均値を電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムのフィルム厚み(単位:μm)とした。
【0079】
(8)加工寸法制御
フィルムを長手方向110mm×幅方向30mmのサイズに切り出した後、切り出したフィルムの中央に20mm×20mmの正方形に標線を記載する。この時、フィルム端部と標線の各辺が平行となるようにする。
【0080】
高精度画像寸法測定器(KEYENCE製 IM-700)を用いて20mm×20mmの標線について、長手方向、幅方向ともに20点を計測し、各々の方向の平均値を各方向の処理前の寸法とする。
【0081】
次いで、フィルム長手方向に5MPaの荷重がかかるように短辺の中央から重りを吊るし125℃に昇温した状態の熱風オーブンで10分間熱処理し、上記と同様にして20mm×20mmの対辺(長手方向、幅方向)の距離を測定し処理後の寸法とした。以下の式より加工寸法変化を算出し得られた値から以下の基準で判定した。
加工寸法変化(%)={(熱処理前の寸法)-(熱処理後の寸法)}/熱処理前の寸法×100
AA:長手方向、幅方向等ともに寸法変化が-0.2%以上0.2%以下。
A:長手方向、幅方向等ともに寸法変化が-0.3%以上0.3%以下。
B:長手方向、幅方向等ともに寸法変化が-0.4%以上0.4%以下。
C:長手方向、幅方向等いずれかの寸法変化が-0.4%以上0.4%以下。
D:長手方向、幅方向等ともに寸法変化が-0.4%未満、0.4%を超える。
【0082】
(9)平面性
加工寸法制御の評価を実施した後のサンプルについて、フィルムのシワ、うねり、ゆがみ、といった変形箇所を目視にて確認を行う。
A:フィルムの変形はほとんど見られない。
B:フィルムにシワ、うねりが見られるが、実用できる。
C:フィルムに大きなゆがみが観察される。
【0083】
(10)加工性(I)
フィルムを長手方向110mm×幅方向30mmのサイズに切り出した後、電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムの上下に軟質塩化ビニールシート(厚さ0.5mm、硬度♯450)を重ね、切り出したフィルムの中央にトムソン刃で20mm×20mmのサイズに軟質塩化ビニールシートごと打ち抜きを実施した。この時、フィルム端部と打ち抜きの各辺が平行となるようにする。次いで、フィルムに打ち抜き前の断面積換算でフィルム長手方向に1.5MPaの荷重がかかるように短辺の中央から重りを吊るし125℃に昇温した状態の熱風オーブンで10分間熱処理し、フィルム開口部周辺を観察し下記の基準で判定した。
AA:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムは無く、クラックや割れは観察されない。
A:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムは無いが、クラックや割れが観察されたものが2個以下。
B:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムは無いが、クラックや割れが観察されたものが4個以下。
C:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムは無いが、クラックや割れが観察されたものが6個以下。
D:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムが2個以下。
E:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムが4個以下。
F:100サンプルテストした中でクラックまたは割れで破断したフィルムが5個以上。
【0084】
(11)加工性(II)
加工性(I)と同様にフィルムを長手方向110mm×幅方向30mmのサイズに切り出した後、電解質膜補強用ポリアリーレンスルフィドフィルムの上下に軟質塩化ビニールシート(厚さ0.5mm、硬度♯450)を重ね、切り出したフィルムの中央にトムソン刃で20mm×20mmのサイズに軟質塩化ビニールシートごと打ち抜きを実施した。その後、打ち抜かれ枠状になった端面をレーザー顕微鏡で4辺各20mmの打ち抜き端面の状態を観察した。
A:10サンプルを観察し、クラックまたはバリの合計個数が0~3個以下である
B:10サンプルを観察し、クラックまたはバリの合計個数が4個以上である。
【0085】
(参考例1)ポリフェニレンスルフィド系樹脂顆粒(PPS顆粒)の作製
撹拌機付きの1キロリットルSUS製容器に、47%水硫化ナトリウム1キロモル、47%水酸化ナトリウム1.02キロモル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.6キロモル、酢酸ナトリウム0.3キロモル、及びイオン交換水100キログラムを仕込み、240rpmで撹拌しながら常圧で窒素を通じながら235℃まで約180分かけて徐々に加熱し、水209キログラムおよびNMP0.4キログラムを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。また、硫化水素の飛散量は0.02キロモルであった。残留混合物に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.02キロモル、NMP2.40キロモルを加えた。続いて反応容器を窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら160℃から270℃まで180分かけて昇温し、270℃で反応を140分間行った。その後、15分かけて270℃から250℃まで冷却した。この段階で、仕込みスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの系内水分量は1.1モルであった。次いで250℃から220℃まで平均冷却速度0.4℃/分で冷却した。220℃に到達後、そのまま室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、0.4リットルのNMPで希釈後、85℃で30分撹拌した後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた固形物に、1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別する操作を3回繰り返した。得られた固形物に酢酸カルシウム一水和物0.3キログラムと水溶液1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別した。得られた固形物に、1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別する操作を3回繰り返した。これを、120℃5時間で減圧乾燥を行い、PPS顆粒を得た。
【0086】
(参考例2)ポリフェニレンスルフィド樹脂顆粒(PPS顆粒2)の作製
撹拌機付きの1キロリットルSUS製容器に、47%水硫化ナトリウム1キロモル、47%水酸化ナトリウム1.02キロモル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.6キロモル、酢酸ナトリウム0.3キロモル、及びイオン交換水100キログラムを仕込み、240rpmで撹拌しながら常圧で窒素を通じながら235℃まで約180分かけて徐々に加熱し、水209キログラムおよびNMP0.4キログラムを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。また、硫化水素の飛散量は0.02キロモルであった。残留混合物に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.02キロモル、NMP2.40キロモルを加えた。続いて反応容器を窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら160℃から220℃まで100分かけて昇温し、220℃で反応を240分間行った。次いで220℃から255℃に60分かけて昇温し、0.8キロモルの水を10分かけて系内に注水し、400分間反応を継続した。その後、255℃から200℃まで100分かけて冷却した。150℃に到達後、送風機を用い室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、1キロリットルのNMPを加えて85℃で30分撹拌した後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた固形物に、1キロリットルのNMPを加えて85℃で30分撹拌し、濾別した。得られた固形物に、1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別する操作を3回繰り返した。得られた固形物に酢酸カルシウム一水和物4.5キログラムと水溶液1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別した。得られた固形物に、1キロリットルの温水を加えて70℃で30分撹拌し、濾別する操作を2回繰り返した。これを、120℃5時間で減圧乾燥を行い、PPS顆粒2を得た。
【0087】
(参考例3)ポリフェニレンスルフィド系樹脂顆粒(PPS顆粒3)の作製
参考例1を160℃から270℃まで120分かけて昇温し、270℃での反応を100分間とし、低分子量成分を増やした以外は、参考例1と同様の操作を行い、PPS顆粒3を得た。
【0088】
(参考例4)PPSペレット(PPS)の製造方法
参考例1~3で作製したPPS顆粒を、310℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数160回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製し、融点280℃のPPSペレット1~3を得た。
【0089】
(参考例5)PPS粒子ペレット(PPS粒子1)の製造方法
平均粒径1.0μmの炭酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に50質量%分散させたスラリーを調製した。このスラリーをフィルターで濾過した後、ヘンシェルミキサーを用いて、参考例1で作成したPPS顆粒に炭酸カルシウムの含有量が8質量%となるよう混合した。得られた混合物を参考例4と同様に溶融押出し、粒子含有量10質量%のPPS粒子ペレット(PPS粒子1)を得た。
【0090】
(参考例6)PPS粒子ペレット(PPS粒子2)の製造方法
平均粒径0.5μmのシリカ球状微粒子(日本触媒社製“シーホスター”KE P50)8質量%と参考例1で作成したPPS顆粒90質量%を混合した。得られた混合物を参考例4と同様に溶融押出し、粒子含有量10質量%のPPS粒子ペレット(PPS粒子2)を得た。
【0091】
(実施例1)
参考例4で作製したPPSペレット1(PPS1)95質量部と参考例5で作製したPPS粒子1を5質量部をドライブレンドした後に、180℃で3時間減圧乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、310℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、該溶融単層シートを、4.2m/minで回転している、表面温度25℃に保たれたキャストドラム上に静電印加法で密着冷却固化させながらキャストし、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度105℃でフィルムの長手方向に4.3倍の倍率で延伸(MD延伸)した。その後、フィルムの両端部をクリップで担持して、テンターに導き延伸温度103℃でフィルムの幅方向に3.7倍の倍率で延伸(TD延伸)し、266℃に加熱されたテンターで熱処理を10秒実施した。次いで、265℃のテンターで1回目の弛緩処理(Rx1)を弛緩率5%で実施し、引き続いて、235℃のテンターで2回目の弛緩処理(Rx2)を弛緩率3%で行い、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み50μmの二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。次いで、得られたフィルムを151℃に昇温されたオーブン内にフィルムを張力が1.1MPaとなるように搬送しながら25秒間アニール処理を施し再度フィルムを巻き取った。その後、大気中(酸素濃度が21体積%)で処理強度E値=20W・min/m2でコロナ放電処理し、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0092】
(実施例2~22)
原料および/または製膜条件を表に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表に示す。
【0093】
(比較例1~7)
製膜条件を表に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】