(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005898
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】製膜装置、製膜方法、容器の製造方法、および、容器
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20250109BHJP
C23C 16/503 20060101ALI20250109BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20250109BHJP
B65D 23/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/503
H05H1/46 A
B65D23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106325
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尚規
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 悟
(72)【発明者】
【氏名】大岸 厚文
【テーマコード(参考)】
2G084
3E062
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA04
2G084CC33
2G084DD37
3E062AA09
3E062AB01
3E062AC02
3E062JA01
3E062JA07
3E062JB22
3E062JC01
3E062JD01
4K030AA09
4K030BA28
4K030BA29
4K030BA35
4K030BA40
4K030BA43
4K030BA44
4K030CA07
4K030CA15
4K030EA04
4K030EA11
4K030FA01
4K030KA19
4K030LA02
4K030LA24
(57)【要約】
【課題】容器の熱変質を抑制する製膜装置を提供する。
【解決手段】製膜装置1は、プラズマ方式により、容器5の内面にバリア膜5Aを製膜する製膜装置であって、容器5を配置する真空チャンバ10と、真空チャンバ10に配置されたアノード電極21およびカソード電極22であって、アノード電極21とカソード電極22の間の空間Rに容器5が配置される、アノード電極21およびカソード電極22と、真空チャンバ10におけるアノード電極21とカソード電極22との間の空間Rであって、容器5の外部の空間Rに、バリア膜5Aの原料ガスを供給する原料ガス供給機構30と、真空チャンバ10の排気を行う排気機構40とを備える。排気機構40は、容器5の内部まで延在しており、容器5の内部の排気を行う管状部材41を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ方式により、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜装置であって、
前記容器を配置する真空チャンバと、
前記真空チャンバに配置されたアノード電極およびカソード電極であって、前記アノード電極と前記カソード電極の間の空間に前記容器が配置される、前記アノード電極および前記カソード電極と、
前記真空チャンバにおける前記アノード電極と前記カソード電極との間の前記空間であって、前記容器の外部の前記空間に、前記バリア膜の原料ガスを供給する原料ガス供給機構と、
前記真空チャンバの排気を行う排気機構と、
を備え、
前記排気機構は、前記容器の内部まで延在しており、前記容器の内部の排気を行う管状部材を有する、
製膜装置。
【請求項2】
前記アノード電極は、前記容器の架台として機能する、請求項1に記載の製膜装置。
【請求項3】
前記アノード電極は、グランド電位に接続されている、請求項1に記載の製膜装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製膜装置を用いて、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜方法であって、
前記排気機構によって、前記真空チャンバの排気を行い、
前記原料ガス供給機構によって、前記真空チャンバにおける前記アノード電極と前記カソード電極との間の空間であって、前記容器の外部の前記空間に、前記バリア膜の原料ガスを供給し、
前記アノード電極および前記カソード電極によって、前記容器の外部の前記空間に、プラズマを生成して、前記原料ガスの活性種を生成し、
前記排気機構による排気によって、前記容器の内部を排気し、前記容器の外部の前記空間で生成された前記原料ガスの活性種を前記容器の内部に引き込み、前記容器の内部に前記バリア膜を製膜し、
前記プラズマ中の電子は、前記容器に衝突することなく、前記アノード電極に向かう、
製膜方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製膜方法を用いて、内面にバリア膜を製膜した容器を製造する容器の製造方法。
【請求項6】
前記容器が生分解性樹脂を含む、請求項5に記載の容器の製造方法。
【請求項7】
前記生分解性樹脂がポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含む、請求項6に記載の容器の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製膜装置を用いて、内面にバリア膜を製膜した容器。
【請求項9】
生分解性樹脂からなる、請求項8に記載の容器。
【請求項10】
ポリヒドロキシアルカノエート樹脂からなる、請求項9に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜装置、その製膜装置を用いた製膜方法、その製膜方法を用いた容器の製造方法、および、内面にバリア膜を製膜した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
水分、ガスまたは光等の容器外環境から、容器内に収容された収容物を保護するために、または、容器内に収容された液体、ガス等の収容物から、容器を保護するために、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜技術が知られている。例えば特許文献1には、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の製膜装置は、容器の外部を囲う第1電極(アノード電極)と、容器の内部に挿入され、バリア膜の原料ガスの供給管を兼ねる第2電極(カソード電極)とを備え、容器の内部でプラズマを生成し、容器の内部にバリア膜を製膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の製膜装置では、容器の内部でプラズマを生成するため、プラズマ中の電子が容器に衝突し、容器が発熱してしまうことが考えられる。そのため、容器が熱に弱い材料で形成される場合、容器が熱変質してしまうことが考えられる。
【0006】
本発明は、容器の熱変質を抑制する製膜装置、製膜方法、容器の製造方法、および、容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る製膜装置は、プラズマ方式により、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜装置であって、前記容器を配置する真空チャンバと、前記真空チャンバに配置されたアノード電極およびカソード電極であって、前記アノード電極と前記カソード電極の間の空間に前記容器が配置される、前記アノード電極および前記カソード電極と、前記真空チャンバにおける前記アノード電極と前記カソード電極との間の前記空間であって、前記容器の外部の前記空間に、前記バリア膜の原料ガスを供給する原料ガス供給機構と、前記真空チャンバの排気を行う排気機構とを備える。前記排気機構は、前記容器の内部まで延在しており、前記容器の内部の排気を行う管状部材を有する。
【0008】
本発明に係る製膜方法は、上記の製膜装置を用いて、容器の内面にバリア膜を製膜する製膜方法であって、(1)前記排気機構によって、前記真空チャンバの排気を行い、(2)前記原料ガス供給機構によって、前記真空チャンバにおける前記アノード電極と前記カソード電極との間の空間であって、前記容器の外部の前記空間に、前記バリア膜の原料ガスを供給し、(3)前記アノード電極および前記カソード電極によって、前記容器の外部の前記空間に、プラズマを生成して、前記原料ガスの活性種を生成し、(4)前記排気機構による排気によって、前記容器の内部を排気し、前記容器の外部の前記空間で生成された前記原料ガスの活性種を前記容器の内部に引き込み、前記容器の内部に前記バリア膜を製膜し、(5)前記プラズマ中の電子は、前記容器に衝突することなく、前記アノード電極に向かう。
【0009】
本発明に係る容器の製造方法は、上記の製膜方法を用いて、内面にバリア膜を製膜した容器を製造する。
【0010】
本発明に係る容器は、上記の製膜装置を用いて、内面にバリア膜を製膜した容器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱に弱い材料で形成された容器であっても、容器の熱変質を抑制しつつ、容器の内面にバリア膜を製膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る製膜装置および容器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0014】
(製膜装置)
図1は、本実施形態に係る製膜装置および容器を示す概略図である。
図1に示す製膜装置1は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等のプラズマ方式により、容器5の内面にバリア膜5Aを製膜する装置である。製膜装置1は、真空チャンバ10と、アノード電極21と、カソード電極22と、原料ガス供給機構30と、排気機構40とを備える。
【0015】
真空チャンバ10は、容器5の製膜を行う真空環境を提供するチャンバである。真空チャンバ10は、金属材料で構成され、例えばグランド電位に接続されていてもよい。真空チャンバ10の内部に、容器5が配置される。
【0016】
アノード電極21およびカソード電極22は、真空チャンバ10に配置されている。具体的には、アノード電極21およびカソード電極22は、平板形状の電極であり、容器5を挟み込むように互いに対向して配置されている。アノード電極21は、容器5の架台(ステージ)として機能してもよい。
【0017】
アノード電極21は、例えばグランド電位に接続されている。一方、カソード電極22は、例えば電源7に接続されており、カソード電極22には例えばAC電力が供給される。カソード電極22にAC電力が供給されると、アノード電極21とカソード電極22との間の空間R(プラズマ生成領域)であって、容器5の外部の空間Rに、プラズマが生成され、原料ガスの活性種が生成される。
【0018】
原料ガス供給機構30は、真空チャンバ10に、バリア膜5Aの原料ガスを供給する。例えば、原料ガス供給機構30は、真空チャンバ10におけるアノード電極21とカソード電極22との間の空間Rであって、容器5の外部の空間Rに、バリア膜5Aの原料ガスを供給する。
【0019】
排気機構40は、真空ポンプ(図示省略)に接続されており、真空チャンバ10の排気を行う。具体的には、排気機構40は、容器5の内部まで延在する管状部材41を有しており、容器5の内部の排気を行う。これにより、容器5の外部の空間Rで生成された原料ガスの活性種が容器の内部に引き込まれ、容器5の内面にバリア膜5Aが製膜される。
【0020】
なお、製膜装置1は、容器5の外面の製膜を行ってもよいし、容器5の外面の製膜を行わなくてもよい。容器5の外面の製膜を行わない場合、例えば容器5の外面がマスキングされればよい。
【0021】
(製膜方法および容器の製造方法)
次に、本実施形態に係る製膜方法および容器の製造方法について説明する。
【0022】
まず、排気機構40によって、真空チャンバ10の排気を行う。また、原料ガス供給機構30によって、真空チャンバ10におけるアノード電極21とカソード電極22との間の空間Rであって、容器5の外部の空間Rに、バリア膜5Aの原料ガスを供給する。
【0023】
次に、例えばカソード電極22にAC電力を供給する。これにより、アノード電極21およびカソード電極22によって、容器5の外部の空間Rに、プラズマを生成して、原料ガスの活性種を生成する。
【0024】
このとき、排気機構40による排気によって、容器5の内部を排気し、容器5の外部の空間Rで生成された原料ガスの活性種を容器5の内部に引き込む。これにより、容器5の内部にバリア膜5Aを製膜する。
【0025】
このとき、プラズマ中の電子は、容器5に衝突することなく、または衝突が抑えられ、グランド電位を有するアノード電極21に向かう。また、プラズマ中の電子は、グランド電位を有する真空チャンバ10の壁面に引き寄せられる。
【0026】
ここで、特許文献1に開示の製膜装置では、容器の外部を囲う第1電極(アノード電極)と、容器の内部に挿入され、バリア膜の原料ガスの供給管を兼ねる第2電極(カソード電極)とを備え、容器の内部でプラズマを生成する。そのため、プラズマ中の電子、すなわち原料ガスのプラズマ化に寄与する電子、が容器に衝突し、容器が発熱してしまうことが考えられる。そのため、容器が熱に弱い材料で形成される場合、容器が熱変質してしまうことが考えられる。
【0027】
この点に関し、本実施形態の製膜装置1、製膜方法、および容器の製造方法によれば、アノード電極21およびカソード電極22が容器5を挟み込むように、すなわち容器5の外部に配置されているので、容器5の外部の空間Rに、プラズマを生成し、原料ガスの活性種を生成する。また、排気機構40が、容器5の内部まで延在しているので、容器5の内部を排気し、容器5の外部の空間Rで生成された原料ガスの活性種を容器5の内部に引き込む。これにより、引き込まれた原料ガスの活性種によって容器5の内部にバリア膜5Aが製膜される。
【0028】
一方、容器5の内部でプラズマを生成しないため、プラズマ中の電子、すなわち原料ガスのプラズマ化に寄与する電子、が容器5に衝突することを抑制することができる。具体的には、容器5の外部の空間Rにおいて、プラズマ中の電子は、アノード電極21または真空チャンバ10の壁面に引き寄せられ、容器5に衝突することが抑制される。そのため、容器5が発熱することが抑制され、熱に弱い材料で形成された容器であっても、容器5の熱変質を抑制することができる。
【0029】
このように、本実施形態の製膜装置1、製膜方法、および容器の製造方法によれば、熱に弱い材料で形成された容器であっても、容器の熱変質を抑制しつつ、容器5の内面にバリア膜5Aを製膜することができる。
【0030】
(容器)
この製膜装置1の製膜対象の容器の形状としては、特に限定されず、立体的に成形され、内部に液体、ガス等の収容物を収容する容器であればよい。
容器の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンテレフタレート系共重合樹脂(ポリエステルのアルコール成分にエチレングリコールの代わりに、シクロヘキサンジメタノール等を使用した共重合樹脂等)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸(PLA)等の脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC)等のシクロオレフィン系樹脂、アイオノマ樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスルホン樹脂、フッ化エチレン樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、生分解性樹脂等が挙げられる。本発明は、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリ塩化ビニル樹脂、生分解性樹脂の比較的に熱に弱い材料で形成された容器に対して効果があり、特に生分解性樹脂に適用される場合に効果を奏する。
【0031】
(生分解性樹脂)
本発明で用いられる生分解性樹脂は、生分解性を有していれば、特に限定されない。本実施形態における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
前記生分解性樹脂は、好ましくは、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリカプロラクトン、変性デンプン、変性セルロースからなる群から選択される1種以上である。
本製造方法において、生分解性樹脂は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
(バリア膜)
この製膜装置1が製膜するバリア膜の材料としては、特に限定されず、水分、ガスまたは光等の容器外環境から、容器内に収容された収容物を保護する性能、または、容器内に収容された液体、ガス等の収容物から、容器を保護する性能を有する材料であればよい。バリア膜の材料としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、SiOx、SiOxNy、SiNx、SiOxCy、SiOxNyCz、Si含有ダイヤモンドカーボン、アルミナ等が挙げられる。x,y,zは各元素の構成比率を示し、特に限定しない。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。上述した実施形態では、アノード電極21が容器5の架台(ステージ)として機能する製膜装置1について例示した。しかし、本発明の製膜装置はこれに限定されず、アノード電極とは別に、容器の架台(ステージ)が設けられた形態であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 製膜装置
5 容器
5A バリア膜
7 電源
10 真空チャンバ
21 アノード電極
22 カソード電極
30 原料ガス供給機構
40 排気機構
41 管状部材
R 空間(プラズマ生成領域)