(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025059018
(43)【公開日】2025-04-09
(54)【発明の名称】野菜類の変色抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/154 20060101AFI20250401BHJP
A23B 2/758 20250101ALI20250401BHJP
A23B 2/754 20250101ALI20250401BHJP
A23B 2/762 20250101ALI20250401BHJP
【FI】
A23B7/154
A23L3/3517
A23L3/3508
A23L3/3526 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024164898
(22)【出願日】2024-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2023166251
(32)【優先日】2023-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】矢木 一弘
【テーマコード(参考)】
4B021
4B169
【Fターム(参考)】
4B021LA41
4B021LP01
4B021LP03
4B021LW02
4B021MC07
4B021MK02
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4B021MP02
4B169AA01
4B169KA07
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4B169KC34
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4B169KC39
(57)【要約】
【課題】本発明は、酢酸ナトリウムを用いて野菜類を処理した場合でも、優れた静菌性を発揮しつつ、野菜類の緑色退色による変色を抑制する新たな手段を提供する。
【解決手段】
酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、
酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸及びそれらの塩(但し、酢酸ナトリウムを除く)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸又は有機酸塩
を含有する処理液に野菜類を浸漬する工程を含む、野菜類の変色抑制方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、
酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸及びそれらの塩(但し、酢酸ナトリウムを除く)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸又は有機酸塩
を含有する処理液に野菜類を浸漬する工程を含む、野菜類の変色抑制方法。
【請求項2】
前記野菜類が、加熱工程を経たものである、請求項1に記載の変色抑制方法。
【請求項3】
前記野菜類が、緑色野菜である、請求項1又は2に記載の変色抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜類の変色抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイル等の加熱加工した野菜類は、業務用の加工食品の原料に用いられるだけでなく、調理の手軽さから家庭用の需要も多い。しかし、加熱調理後の野菜類は、緑色が退色して外観が悪化しやすい。このような緑色退色による変色は、生の野菜類の酵素による褐変や単純なメイラード反応とは異なるメカニズムで進行することが知られている。緑色退色のメカニズムは完全に解明されているわけではないが、調理時の加熱や店頭に陳列されている際の光照射によってクロロフィルがフェオフィチンへ分解されることが主な原因の一つと言われている。
【0003】
これまでに、緑色退色を伴う野菜類の変色を抑制する種々の手段が知られている。例えば、特許文献1には、特定の成分を含有する培地で乳酸菌を培養することによって得られる3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を茶等に添加する手段が開示されている。特許文献2には、プリン骨格を含む核酸関連化合物を野菜類に添加する手段が開示されている。また、これらの文献にも記載されるように、アスコルビン酸が緑色退色を抑制する効果を有することが知られている。
【0004】
一方で、加熱加工後の野菜類は生菌が繁殖しやすく、保存性向上の観点から静菌作用を発揮する成分を添加することも多い。このような静菌成分としては、例えば酢酸ナトリウムが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-056309号公報
【特許文献2】特開2020-167970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、下記の試験例にも示されるように、静菌成分として有効量の酢酸ナトリウムを使用した場合に、野菜類の変色が促進されることが判明した。
【0007】
そこで、本発明は、酢酸ナトリウムを用いて野菜類を処理した場合でも、優れた静菌性を発揮しつつ、野菜類の緑色退色による変色を抑制する新たな手段の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸及びそれらの塩(但し、酢酸ナトリウムを除く)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸又は有機酸塩を含有する処理液に野菜類を浸漬することにより、優れた静菌性を発揮しつつ、野菜類の変色が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の態様を含むが、これらに限定されない。
[1]
酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、
酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸及びそれらの塩(但し、酢酸ナトリウムを除く)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸又は有機酸塩
を含有する処理液に野菜類を浸漬する工程を含む、野菜類の変色抑制方法。
[2]
前記野菜類が、加熱工程を経たものである、[1]に記載の変色抑制方法。
[3]
前記野菜類が、緑色野菜である、[1]又は[2]に記載の変色抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の野菜類の変色抑制方法は、優れた静菌性を発揮しつつ、野菜類の緑色退色による変色を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[変色抑制方法]
本発明の変色抑制方法は、より具体的には野菜類の緑色退色を伴う変色を抑制する方法であり、酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸及びそれらの塩(但し、酢酸ナトリウムを除く)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸(有機酸(A)と呼ぶ)又はその塩を含有する処理液を野菜類に浸漬する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
(処理液)
野菜類を浸漬する処理液に含まれる溶媒は、食品に使用可能なものであれば特に限定されないが、水を含むもの(例えば、水溶液)であることが好ましい。
【0013】
酢酸ナトリウム及びグリシンは、食品に使用可能なものであれば特に限定されず、天然物であっても合成品であってもよい。
【0014】
有機酸(A)である酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン及びグルコン酸は、食品に使用可能なものであれば特に限定されず、天然物であっても合成品であってもよい。酢酸は、例えば、氷酢酸、食酢等を使用することができるが、野菜類に雑味が付与されるのを抑える観点から、氷酢酸が好ましい。
【0015】
有機酸(A)の塩は、酢酸ナトリウムを除く酢酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、グルコノデルタラクトン及びグルコン酸の塩であり、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機酸(A)の塩は、食品に使用可能なものであれば特に限定されず、天然物であっても合成品であってもよい。
【0016】
ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の水酸基の少なくとも1つに脂肪酸がエステル結合したものであって、食品に使用可能なものであれば特に限定されないが、モノエステルが好ましく、ショ糖のグルコースユニットの6位の水酸基と脂肪酸のモノエステルがより好ましい。そのようなショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、第10版食品添加物公定書の成分規格の「ショ糖脂肪酸エステル」の項に記載された規格に合致するものを好適に使用することができる。ショ糖脂肪酸エステルとして、特定の化合物を1種単独で、又は異なる2種以上の化合物を組み合わせて使用することができる。
【0017】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB(Hydrophile-lipophile balance)値は、例えば1以上、2以上又は3以上とすることができるが、5以上が好ましく、9以上がより好ましく、15以上が更に好ましい。そして、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、例えば20以下、18以下又は16以下とすることができる。
【0018】
本明細書において、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、その製造者又は販売者のカタログ、品質規格書等に記載された値であり、非売品又は規格値がない製品の場合はGriffinの式により求められる値とする。
【0019】
ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は、好ましくは10~22、より好ましくは12~18である。ショ糖脂肪酸エステルの好ましい具体例は、例えば、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、併用組成物の保存中の風味への影響を抑える観点から飽和脂肪酸エステルが好ましく、中でもショ糖パルミチン酸エステル又はショ糖ステアリン酸エステルがより好ましい。
【0020】
リゾチームは細菌の細胞壁を構成するムコ多糖類を加水分解する酵素であり、食品に使用可能なものであれば特に限定されない。例えば、第10版食品添加物公定書の成分規格の「リゾチーム」の項に記載された卵白リゾチームが好適に使用される。
【0021】
処理液中の酢酸ナトリウムの含有量は、処理液全量に対して、静菌性を良好とする観点から、0.38質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、そして、その特有のエグ味の影響を抑える観点から、2.5質量%以下が好ましく、2.2質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0022】
処理液中のグリシンの含有量は、処理液全量に対して、静菌性を良好とする観点から、0.0086質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、その特有の甘味の影響を抑える観点から、3質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0023】
処理液中のリゾチームの含有量は、処理液全量に対して、静菌性を良好とする観点から、0.0021質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、その特有の収斂味の影響を抑える観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
【0024】
処理液中のショ糖脂肪酸エステルの含有量は、処理液全量に対して、静菌性を良好とする観点から、0.0021質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、処理液の濁りを抑制する観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
【0025】
処理液中の有機酸(A)又はその塩の総含有量は、処理液全量に対して、静菌性を良好とする観点から、0.022質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.04質量%以上が更に好ましく、そして、特有の酸味を抑える観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。
【0026】
処理液中の酢酸ナトリウムの含有量1質量部に対するグリシンの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏し、風味を良好とする観点から、好ましくは0.034~7.9質量部、より好ましくは0.1~3質量部、更に好ましくは0.15~2質量部、更により好ましくは0.22~1.2質量部である。
処理液中の酢酸ナトリウムの含有量1質量部に対するリゾチームの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏し、風味を良好とする観点から、好ましくは0.00085~0.27質量部、より好ましくは0.001~0.2質量部、更に好ましくは0.002~0.1質量部、更により好ましくは0.0055~0.04質量部である。
処理液中の酢酸ナトリウムの含有量1質量部に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏し、処理液の濁りを抑制する観点から、好ましくは0.00085~0.27質量部、より好ましくは0.001~0.2質量部、更に好ましくは0.002~0.1質量部、更により好ましくは0.0055~0.04質量部である。
処理液中の酢酸ナトリウムの含有量1質量部に対する有機酸(A)又はその塩の総含有量は、本発明の効果をより顕著に奏し、風味を良好とする観点から、好ましくは0.0088~1.4質量部、より好ましくは0.01~1質量部、更に好ましくは0.03~0.5質量部、更により好ましくは0.057~0.2質量部である。
【0027】
処理液中のリゾチームの含有量1質量部に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは0.02~50質量部、より好ましくは0.1~10質量部、更に好ましくは0.2~5質量部、更により好ましくは0.5~2質量部である。
【0028】
処理液中のグリシンの含有量1質量部に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは0.0001~1.2質量部、より好ましくは0.001~1質量部、更に好ましくは0.002~0.8質量部、更により好ましくは0.03~0.5質量部である。
【0029】
処理液のpHは、本発明の効果をより顕著に奏し、風味を良好とする観点から、好ましくは4以上、より好ましくは4.2以上、更に好ましくは4.5以上、更により好ましくは4.8以上、特に好ましくは5以上であり、また静菌性を良好とする観点から、好ましくは7以下、より好ましくは6.5以下である。処理液のpHは、例えば、6.4以下、6.3以下、6.2以下、6.1以下、6以下、又は6未満であってもよい。
【0030】
処理液には、上記成分及び野菜類以外に、別の食材(畜肉、水産物、キノコ類、果実類等又はそれらの加工品);各種添加剤〔溶媒(水、エタノール等)、増粘多糖類、有機酸(A)以外の有機酸又はその塩、乳化剤、キレート剤(フィチン酸、リン酸塩等)、糖類、糖アルコール、オリゴ糖、甘味料、香料、着色料、可食性金属塩類、賦形剤(デキストリン、乳糖、糖アルコール等)、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類、保存料、日持ち向上剤、抗菌剤、静菌剤、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンE等)等〕のうちの少なくとも1種が含まれていてもよい。
【0031】
一実施態様では、処理液は、煮汁、又は、だし、たれ等の調味液又は調理用水(湯)であり得る。
【0032】
上記の各種添加剤は、食品に使用されるものであり、本発明の効果を損ねないものであれば特に制限されない。例えば、増粘多糖類は、キサンタンガム、ガラクトマンナン(例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム等)、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン(例えば、カッパ型、イオタ型、ラムダ型等)、タマリンドシードガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ゼラチン、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン等)、アルギン酸、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等)、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガティガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、ファーセレラン、キチン、スクシノグリカン、セルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、発酵セルロース、結晶セルロース等)、デンプン類(例えば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、α化デンプン、リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン等)、デキストリン類(例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン等)及び大豆多糖類等を挙げることができる。
【0033】
有機酸(A)以外の有機酸又はその塩は、例えば、酒石酸、ソルビン酸、安息香酸、プロピオン酸、イタコン酸又はそれらの塩等が挙げられる。
【0034】
乳化剤は、例えば、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、蒸留モノグリセライド、反応モノグリセライド、ジ・トリグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、ステアロイル乳酸塩(例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩等)、ポリソルベート、大豆レシチン、卵黄レシチン及び酵素処理レシチン等を挙げることができる。
【0035】
保存料、日持ち向上剤、抗菌剤又は静菌剤は、例えば、ナイシン、ソルビン酸塩(ソルビン酸カリウム等)、ポリリジン、プロタミン、エタノール等が挙げられる。
【0036】
処理液は、本発明の効果をさらに高める観点から、アスコルビン酸又はその塩を含んでいてもよい。
【0037】
(野菜類)
本発明の変色抑制の対象となる野菜類としては、例えば、葉茎菜類(例えば、ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツ、レタス、水菜、春菊、セロリ、タマネギ、ニラ、ネギ、小松菜、チンゲン菜、高菜、アブラナ、野沢菜、ブロッコリー、アスパラガス、ウド、ゼンマイ、ワラビ、ジュンサイ、モロヘイヤ、ミョウガ等);豆類〔大豆(枝豆等を含む)、小豆、インゲン豆、エンドウ(グリーンピース、さやえんどう等を含む)、ササゲ、ソラマメ、ナタマメ、落花生、ヒヨコマメ等〕;果菜類(カボチャ、ナス、トマト、ピーマン、キュウリ、ズッキーニ、トウガン、ニガウリ、オクラ、トウガラシ、シシトウガラシ、アボカド、トウモロコシ等);根菜類(例えば、大根、ニンジン、ジャガイモ、ゴボウ、レンコン、サトイモ、サツマイモ、カブ、タケノコ、ビーツ、クワイ、ユリ根、チョロギ、ヤーコン、ショウガ、ワサビ、ラッキョウ等);海藻類(ワカメ、コンブ、アオノリ、アサクサノリ、カサノリ、アオサ、ヒジキ、モズク、海ぶどう等)、チャ等が挙げられる。
【0038】
中でも、野菜類としては、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、可食部にクロロフィルを有する緑色野菜が好ましい。このような緑色野菜としては、例えば、ホウレンソウ、ハクサイ、キャベツ、レタス、水菜、春菊、セロリ、タマネギ、ニラ、ネギ、小松菜、チンゲン菜、高菜、アブラナ、野沢菜、ブロッコリー、アスパラガス、ウド、ゼンマイ、ワラビ、ジュンサイ、モロヘイヤ、大豆、インゲン豆、エンドウ、ソラマメ、ナタマメ、カボチャ、ピーマン、キュウリ、ズッキーニ、ニガウリ、オクラ、シシトウガラシ、アボカド、ワサビ等が挙げられる。
【0039】
野菜類は、予め切断、皮むき、味付け、串刺し等の加工を経たものであってもよい。
【0040】
野菜類は、予め加熱工程を経たものであってもよい。下記実施例に示されるように、本発明の変色抑制方法は、加熱加工された後に処理液を適用しても変色抑制することができる。また、例えばボイル時の煮汁を処理液の組成とすること等により、処理液による処理と同時に加熱加工を行うこともできる。あるいは、野菜類を加熱加工する前に処理液を適用することもできる。処理液を長時間野菜類に残留させて作用させる観点から、野菜類は加熱加工と同時、又は加熱加工後に処理液に浸漬することが好ましい。
【0041】
上記の野菜類の加熱加工としては、例えば、ボイル加熱、スチーム加熱、マイクロ波加熱、炒め、揚げ、オーブン加熱等が挙げられる。加熱加工時の温度は、例えば50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上又は95℃以上であり、また例えば120℃以下又は100℃以下である。加熱加工時間は、例えば、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上であり、また例えば6時間以下、2時間以下又は1時間以下である。
【0042】
(処理液への浸漬)
処理液の量は、野菜類の種類及び加工状態、処理液の成分量、温度等によって適宜変更し得る。処理液の量は、野菜類1質量部に対して、例えば0.05~20質量部、0.1~10質量部、0.2~5質量部又は0.5~2質量部とすることができる。
【0043】
野菜類を処理液に浸漬する時間は、対象となる野菜類の種類及び加工状態、処理液の成分量、温度等によって適宜変更し得るが、例えば、1秒以上、10秒以上、30秒以上、1分以上、2分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上であり、また例えば6時間以下、2時間以下又は1時間以下である。十分に浸漬させる観点から、浸漬時間は、2分以上が好ましい。
【0044】
一実施態様では、野菜類を浸漬する際の処理液の温度は、例えば50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上又は95℃以上であり、また例えば120℃以下又は100℃以下である。例えば野菜類を加熱加工と同時に浸漬する場合、又は加熱加工後に浸漬する場合において、これらの温度とすることができる。
【0045】
一実施態様では、野菜類を浸漬する際の処理液の温度は、例えば、90℃以下、70℃以下、50℃以下、30℃以下、20℃以下、10℃以下又は4℃以下としてもよい。例えば野菜類を加熱加工後に処理液に浸漬する場合において、これらの温度とすることができる。
【0046】
処理液の温度は一定とする必要はなく、変温させてもよい。例えば、野菜類の加熱加工時に処理液に浸漬して、その後冷却しながら浸漬を続けてもよい。
【0047】
本発明の方法には、野菜類の種類及びその加工の態様によって、野菜類の加熱加工工程、水切り工程、その他の調理工程、殺菌工程、冷却・凍結工程、包装工程等をさらに含んでもよい。
【0048】
(効果、用途等)
本発明の変色抑制方法において、上記処理液によって野菜類の変色、特に緑色退色が抑制される。野菜類が加熱によって緑色退色しやすい場合、本発明の効果はより顕著に奏される。それに加えて、上記処理液は優れた静菌性を示し、酢酸ナトリウム特有のエグ味が抑制される。また、野菜類に適用した後に処理液を洗浄等により除去する必要がなく、雑菌の混入する工程を減らして保存性を高めることができる。
【0049】
本発明の変色抑制方法を適用した野菜類は、直接、又は処理液を洗浄等により除去して、食用に供することができる。本発明の方法による処理を経た野菜類は、例えば、冷凍食品、チルド食品、缶詰、瓶詰、レトルト食品、チューブ入り食品、ドレッシング類等の長期保存される食品、又は調理済み食品や惣菜等のように、流通・販売に際して密封性が低い食品や室温以上の温度にさらされて劣化が進みやすい食品に特に適する。本発明の変色抑制方法を適用した野菜類は、例えば、野菜の煮物、おでん、昆布煮等の煮物類;スープ、みそ汁等のスープ類;野菜類を含有するカレー、シチュー、ソース類等;佃煮類;和え物類;焼き物類;茹で物類;蒸し物類;サラダ類等に使用することができる。
【実施例0050】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。
【0051】
[試験例1.加熱加工した野菜類の変色抑制試験]
(試験製剤、処理液の調製)
加熱調理した野菜類の処理液の調製のため、まず以下の表1の製剤A~Dを常法により調製した。ショ糖脂肪酸エステルは、HLBが9~16の範囲内のものを使用した。製剤Aは2.0%、製剤Bは1.0%、製剤Cは0.5%、製剤Dは2.0%を水に溶かして水溶液としたものを野菜類の処理液に使用した(処理液の組成は表2)。
【0052】
【0053】
【0054】
(野菜類の加熱加工、保存試験及び菌数測定)
下記の3種類の野菜類を加熱加工し、5つの試験区(無添加の水に浸漬、上記表2の4種類の処理液に浸漬)に分けて処理した。なお、菌数の確認は標準寒天培地を用いて35℃で48時間培養し、コロニー計数法によりサンプル1g当たりの一般生菌数(cfu/g)を測定した。
<グリーンピース、ホウレンソウ>
(1)冷凍グリーンピース又は冷凍ホウレンソウを5倍量の沸騰水に投入し、再沸騰後30秒間加熱して調製した。
(2)ざるで湯切りしたグリーンピース又はホウレンソウを2倍量の処理液に投入し、10℃で30分間浸漬した。
(3)ざるで処理液を切ってから、野菜類を滅菌容器に入れた。
(4)初発菌数確認用サンプルを分取した後、25℃で24時間又は48時間保存した。
(5)保存後の菌数の確認を行った。
<インゲン豆の煮物>
(1)冷凍インゲン豆1質量部と、表1の各処理液製剤のうちの1種を含有する表3の処方の調味液2質量部を合わせて2分間煮込んだ。
(2)得られた煮物を滅菌容器にとった。
(3)初発菌数確認用サンプルを分取した後、25℃で24時間又は48時間保存した。
(4)保存後の菌数の確認を行った。
【0055】
【0056】
(変色抑制効果の評価)
(1)測定サンプル
保存試験前(即ち、加熱加工直後)の無添加区、上記24時間又は48時間の保存後の実施例及び比較例の野菜類に対して、以下の処理を行って測定サンプルを調製した。
グリーンピースは、60メッシュで濾し取ったもの5gを測定サンプルとした。
ホウレンソウは、まず葉の部分を同じ質量のイオン交換水を加えてミキサー粉砕した。得られた粉砕物を3000rpmで遠心し、固形分5gを測定サンプルとした。
インゲン豆の煮物は、まず煮物を同じ質量のイオン交換水を加えてミキサー粉砕した。得られた粉砕物を3000rpmで遠心し、固形分5gを測定サンプルとした。
(2)L*a*b*値の測定
上記24時間又は48時間の保存後の食品について、日本電色工業株式会社製の分光色彩計SE2000を用いて、機器マニュアルに従ってCIE Lab表色系(L*a*b*系)のL*値、a*値、b*値を求めた。保存試験前(即ち、加熱加工直後)の無添加区を基準として、24時間又は48時間の保存後の各試験区の色差(ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2)を求めた。
(3)判定基準
48時間後保存後の食品のΔEが3.2未満の場合を顕著な変色がなく良好(〇)、3.2以上の場合を顕著な変色があり不良(×)と判定した。
【0057】
(静菌性の評価)
静菌性の評価は、保存前の初発菌数が10cfu/g未満であることを確認した上で、上記菌数測定によって得られる48時間後の一般生菌数が、103cfu/g未満を強い静菌性あり(◎)、103cfu以上105cfu/g未満を静菌性あり(〇)、105cfu/g以上を静菌性なし(×)と評価した。
【0058】
(酢酸ナトリウム特有のエグ味の官能評価)
食品原料の研究開発に従事し、官能評価に熟練した10名のパネリストからなる官能評価パネルにより、予め定めた評価基準に従って、処理液で処理した後の野菜類の酢酸ナトリウム特有のエグ味の官能評価を行った。
(1)評価サンプル、サンプル喫食方法
グリーンピース、ホウレンソウは、処理液浸漬後にざるで浸漬液を切ったものを評価に使用した。インゲン豆の煮物は煮汁から取り出したものを評価に使用した。サンプルの喫食は通常の野菜類の喫食方法で行った。
(2)評価基準
別途それぞれの野菜類を、上記の処理液の代わりに0%、2%、4%、6%、8%、10%の酢酸ナトリウム水溶液で処理したものを調製した。それを官能評価パネルで喫食し、酢酸ナトリウム特有のエグ味を以下の基準で評価できるように訓練を行った。
0%酢酸ナトリウム処理 :5点
2%酢酸ナトリウム処理 :4点
4%酢酸ナトリウム処理 :3点
6%酢酸ナトリウム処理 :2点
8%酢酸ナトリウム処理 :1点
10%酢酸ナトリウム処理:0点
(3)判定基準
各パネリストの各サンプルの評点の単純平均値に基づいて評価を行った。評点が大きいほど酢酸ナトリウム特有のエグ味が少ないことを表す。事前のパネル評価に基づいて、評点の平均値が3.75点を境に風味の好ましさが顕著に変わることが判明したため、単純平均値3.75以上では味が良好(〇)、3.75未満では味が不良(×)であると判定した。
【0059】
(結果)
製剤A~Dを用いた処理液で処理して得られたグリーンピース、ホウレンソウ及びインゲン豆の煮物の変色抑制効果、静菌性及びエグ味の官能評価の結果を表4に示した。なお、官能評価のパネリスト10名の評点の標準偏差はいずれも1点未満であり、収束性が高かった。
【0060】
【0061】
製剤Aを使用した実施例1では、野菜類の種類によらず、良好な変色抑制効果が認められ、静菌性も最も良好であった。一方、比較例では変色抑制が不十分であり、静菌性も対象の野菜類によっては不十分であった。実施例1は酢酸ナトリウムを最も多く含有する処理液を使用したにもかかわらず、風味は良好であった。一方、比較例では、野菜類によっては相性が悪く、酢酸ナトリウム特有のエグ味が強く感じられた。
【0062】
[試験例2.各成分の添加量の検討]
(試験製剤、処理液の調製)
処理液が下記表5の配合になるように、製剤E~Iを調製し、野菜の処理液を調製した。pHは塩酸・水酸化ナトリウムを用いて5.7に調整した。ショ糖脂肪酸エステルは、HLBが9~16の範囲内のものを使用した。
【0063】
【0064】
各処理液を用いて、冷凍グリーンピースについて、上記(野菜類の加熱加工、保存試験及び菌数測定)に記載の方法に従って処理し、上記(変色抑制効果の評価)、(静菌性の評価)の記載に基づいて評価した。結果を表6に示した。
【0065】
【0066】
製剤F~Hを使用した実施例2~4では、良好な変色抑制効果が認められ、静菌性も良好であった。実施例3、4は、静菌性が特に良好であった。一方、比較例4では静菌性が不十分であり、比較例5では変色抑制が不十分であった。
【0067】
[試験例3.各種有機酸の検討]
(試験製剤、処理液の調製)
以下の表7の製剤A、J~Mを常法により調製した。ショ糖脂肪酸エステルは、HLBが9~16の範囲内のものを使用した。各製剤2.0%を水に溶かし、塩酸、水酸化ナトリウムを用いてpH5.7の水溶液としたものを野菜類の処理液に使用した(処理液の組成は表8)。
【0068】
【0069】
【0070】
各処理液を用いて、冷凍グリーンピースについて、上記(野菜類の加熱加工、保存試験及び菌数測定)に記載の方法に従って処理し、上記(変色抑制効果の評価)、(静菌性の評価)の記載に基づいて評価した。結果を表9に示した。
【0071】
【0072】
製剤A、J~Mを使用した実施例5~9のいずれも、良好な変色抑制効果が認められ、静菌性も良好であった。実施例5は、静菌性が特に良好であった。
【0073】
[試験例4.各種成分の検討]
(試験製剤、処理液の調製)
以下の表10の製剤A、N~Qを常法により調製した。ショ糖脂肪酸エステルは、HLBが9~16の範囲内のものを使用した。各製剤2.0%を水に溶かし、塩酸、水酸化ナトリウムを用いてpH5.7の水溶液としたものを野菜類の処理液に使用した(処理液の組成は表11)。
【0074】
【0075】
【0076】
各処理液を用いて、冷凍グリーンピースについて、上記(野菜類の加熱加工、保存試験及び菌数測定)に記載の方法に従って処理し、上記(変色抑制効果の評価)、(静菌性の評価)の記載に基づいて評価した。結果を表12に示した。
【0077】
【0078】
製剤Aから各成分を1つずつ抜いた比較例6~9のいずれも、変色抑制が不十分であった。酢酸ナトリウム、グリシン、リゾチーム、ショ糖脂肪酸エステル、並びに、有機酸が必須であることが確認された。