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特開2025-5903上下動低減装置、作業船および運搬台船の上下動低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005903
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】上下動低減装置、作業船および運搬台船の上下動低減方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/08 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B63B39/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106333
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】高村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】経塚 雄策
(72)【発明者】
【氏名】梶原 宏之
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌彦
(57)【要約】
【課題】 瀬取り作業の稼働率を向上させることができる装置、作業船および方法を提供すること。
【解決手段】 作業船の上下動低減装置は、作業船の外舷の水中に配設され、作業船の上下方向に推力を発生させる1以上の鉛直方向スラスタ40と、作業船の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出するセンサ41と、作業船の所定位置における上下動を検出するセンサ42と、センサ41およびセンサ42の検出結果に基づき、1以上の鉛直方向スラスタ40の各々により発生させる上下方向の推力を制御するコントローラ43とを含む。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船の上下動低減装置であって、
前記作業船の外舷の水中に配設され、前記作業船の上下方向に推力を発生させる1以上の推力発生手段と、
前記作業船の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出する第1の検出手段と、
前記作業船の所定位置における上下動を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検出手段および前記第2の検出手段の検出結果に基づき、前記1以上の推力発生手段の各々により発生させる上下方向の推力を制御する制御手段と
を含む、上下動低減装置。
【請求項2】
前記1以上の推力発生手段は、前記作業船の外舷の一方側にのみ設置される、請求項1に記載の上下動低減装置。
【請求項3】
前記推力発生手段は、原動機と、前記原動機から出力される回転力を推力に変換するための複数の羽根を備える変換手段とを含み、
前記制御手段は、前記複数の羽根の回転方向および回転数を制御する、請求項1または2に記載の上下動低減装置。
【請求項4】
前記推力発生手段は、原動機と、前記原動機から出力される回転力を推力に変換するための複数の羽根を備える変換手段とを含み、
前記変換手段は、前記上下方向に対する前記複数の羽根の角度が変更可能とされ、
前記制御手段は、少なくとも前記複数の羽根の角度を制御する、請求項1または2に記載の上下動低減装置。
【請求項5】
前記作業船は、前記1以上の推力発生手段の各々を収容する1以上の凹部を有する、請求項1または2に記載の上下動低減装置。
【請求項6】
上下動低減装置を備える作業船であって、
前記上下動低減装置が、
前記作業船の外舷の水中に配設され、前記作業船の上下方向に推力を発生させる1以上の推力発生手段と、
前記作業船の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出する第1の検出手段と、
前記作業船の所定位置における上下動を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検出手段および前記第2の検出手段の検出結果に基づき、前記1以上の推力発生手段の各々により発生させる上下方向の推力を制御する制御手段と
を含む、作業船。
【請求項7】
前記作業船の外舷もしくは船底またはその両方に、該作業船の水平方向へ移動させるための1以上の推進手段を含み、
前記1以上の推進手段は、前記作業船の水平方向の位置を保持する、請求項6に記載の作業船。
【請求項8】
前記1以上の推力発生手段は、前記作業船の外舷の一方側にのみ設置される、請求項6または7に記載の作業船。
【請求項9】
作業船の上下動を低減する方法であって、
第1の検出手段により前記作業船の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出し、第2の検出手段により前記作業船の所定位置における上下動を検出するステップと、
前記第1の検出手段および前記第2の検出手段の検出結果に基づき、制御手段が前記作業船の外舷の水中に配設される1以上の推力発生手段の各々により発生させる上下方向の推力を制御するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業船の上下動低減装置、作業船および運搬台船の上下動低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電施設等の洋上構造物の海上施工を行う場合、作業船として、自己昇降式作業台船(SEP船)を使用し、岸壁で建設資材を積み込み、設置海域へ移動して設置作業を行う。このとき、SEP船が、設置海域に留まり、別の作業船である運搬台船等を使用して建設資材を運搬し、瀬取りによってSEP船上または現地に設置することができれば、高価なSEP船の占有時間が減り、施工費の低減に寄与する。ここで、瀬取りとは、海上で行う船舶同士の楊重作業のことである。
【0003】
ただし、海上において運搬台船から建設資材等の重量物を吊り上げる場合、SEP船が固定されていても、波浪により運搬台船が常時動揺しているため、非常に危険な作業となる。
【0004】
運搬台船は、箱型の積載能力に優れた形状を有する船舶であるが、波浪による動揺が大きい。このため、瀬取り作業で利用する場合、アンカーにより複数箇所で係留するか、船底に設けられたプロペラを制御して位置を保持する機能を有する自動船位保持装置(DPS)を利用して、運搬台船の動揺を低減させることができる。
【0005】
このような方法では、海面に平行な水平方向の変位については、アンカー係留やDPSによる推進力によって十分に低減させることができるが、海面に対して垂直な鉛直方向(上下方向)の動揺については、DPSでは低減効果がほとんどなく、アンカー係留では若干小さくなる程度である。
【0006】
そこで、上下方向の動揺を低減する技術として、船首に取り付けたフィンをアクティブに駆動する技術(非特許文献1参照)、6本の油圧シリンダからなるパラレルメカニズム装置により船体の運動を吸収する技術(非特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】金本 真美子、芳村 康男、「アクティブフィンによる減揺と推進性能への効果」、平成28年11月22日、日本船舶海洋工学会講演会論文集、第23号、p.389-392
【非特許文献2】田中 豊、“油圧モーションベースを用いた動揺吸収装置”、[online]、2018年11月、計測と制御、第57巻、第11号、[令和4年7月22日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/57/11/57_803/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
瀬取り作業の稼働率を向上させるためには、クレーンで吊り上げる吊り荷がある場所の動揺が出来るだけ小さい方が望ましい。しかしながら、非特許文献1の従来技術では、船体全体の回転運動を含めた上下動を低減することを目的としている。また、非特許文献2の従来技術では、装置の上だけを対象とした装置であり、クレーン作業の対象となる重量物の制御を実施するために非常に大きな装置を必要とする問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、作業船の上下動低減装置であって、
作業船の外舷の水中に配設され、作業船の上下方向に推力を発生させる1以上の推力発生手段と、
作業船の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出する第1の検出手段と、
作業船の所定位置における上下動を検出する第2の検出手段と、
第1の検出手段および第2の検出手段の検出結果に基づき、1以上の推力発生手段の各々により発生させる上下方向の推力を制御する制御手段と
を含む、上下動低減装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、瀬取り作業の稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】SEP船による風車部材の瀬取りの概念図。
図2】起伏式クレーン船によるジャケット基礎の瀬取りの概念図。
図3】運搬台船の一例を示した図。
図4】上下動低減装置の構成例を示した図。
図5】運搬台船の上下動を低減する制御について説明する図。
図6】運搬台船の上下動を低減する制御について説明する図。
図7】上下動低減装置の別の構成例を示した図。
図8】鉛直方向スラスタを設置した場合の数値解析を行う解析モデルの一例を示した図。
図9】没水平板を設置した場合の数値解析を行う解析モデルの一例を示した図。
図10】日本海側の平均有義波高および平均有義周期の一例を示した図。
図11】太平洋側の平均有義波高および平均有義周期の一例を示した図。
図12図9に示す解析モデルを使用して解析を行った第1の結果を示した図。
図13図9に示す解析モデルを使用して解析を行った第2の結果を示した図。
図14図8に示す解析モデルを使用して解析を行った第1の結果を示した図。
図15図8に示す解析モデルを使用して解析を行った第2の結果を示した図。
図16】上下動低減装置による上下動を低減する動作の一例を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の上下動低減装置、作業船および作業船の上下動低減方法について説明する前に、洋上構造物の海上施工について説明する。図1は、洋上構造物の一例として、洋上風力発電施設を構成する風車部材の瀬取りの概念図である。なお、洋上構造物は、洋上風力発電施設に限定されるものではない。SEP船10は、作業船の1つで、台船11と、昇降用脚12と、クレーン13とを有する。SEP船10は、昇降用脚12を海底まで降下させることにより設置海域に固定され、台船11を海面上に上昇させた後、クレーン13等を使用して風車部材の設置作業等を行う。
【0013】
SEP船10は、岸壁で数基分の風車部材等を搭載し、設置海域に移動して設置作業を行うことができる。しかしながら、SEP船10に建設資材を積み、岸壁から設置海域へ移動し、再び建設資材を積みために、岸壁に戻ることを繰り返すと、高価なSEP船10の占有時間が長くなり、施工費が高くなる。このため、SEP船10は、昇降用脚12を降ろし、台船11を海面上に上昇させた状態で維持し、建設資材は、作業船の1つである運搬台船14を使用して運搬することができる。これにより、SEP船10は、1基ずつ、小さい移動で設置することができる。すなわち、SEP船10は、昇降して1基ずつ設置し、昇降用脚12を戻して隣の基礎(風車設置位置)に移動して再度昇降して設置することを繰り返すだけで済み、SEP船10の移動時間が減少して、高価なSEP船10の占有時間が減少し、施工費の低減につなげることができる。
【0014】
風力発電設備は、図2に示すように、起伏式クレーン船20により風力発電設備の土台部分となるジャケット基礎21がクレーンで吊り上げられ、海底に設置される。起伏式クレーン船20は、クレーン作業等を行うとき、アンカーを投錨して設置海域に固定される。
【0015】
ジャケット基礎21および杭22は、起伏式クレーン船20で岸壁から設置海域へ運び、貫入および設置することができる。しかしながら、起伏式クレーン船20で運搬まで行うと、海上施工の期間が長くなり、施工費が高くなる。このため、起伏式クレーン船20も、SEP船10と同様に、アンカーを投錨して設置海域に固定した状態で維持し、運搬台船14を使用してジャケット基礎21を安価に設置することができる。
【0016】
図2に示す例では、起伏式クレーン船20は、運搬台船14が甲板上に2基のジャケット基礎21を載せてきた1基を吊り上げている(瀬取りしている)状況を示している。なお、基礎形式は、ジャケット基礎21を用いたジャケット式に限定されるものではなく、モノパイル式、トリポッド式であってもよい。
【0017】
図1に示す例では、SEP船10によりタワー15を設置し、甲板式の運搬台船14が甲板上に風車部材16を載せて運搬している。風車部材16は、風車を構成する3枚のブレードと、3枚のブレードが接続されるハブを有するロータ軸と、ロータ軸に接続され、ロータ軸の回転により発電する発電機と、ロータ軸に接続され、ロータ軸の回転を停止させるブレーキ装置と、風車の回転を発電に必要な回転数まで高める増速機と、ロータ軸の向きを風向に追従させるヨー制御装置と、風向・風速計とを含む。発電機やブレーキ装置等は、筐体としてのナセル内に収納される。ナセルは、防水・防音の役割も果たす。
【0018】
図1では、運搬台船14の甲板上に、発電機等を収納したナセルにロータ軸を介して2枚のブレードが接続された部材と、1枚のブレードとが、風車部材16として運搬されている。SEP船10は、クレーン13を使用し、風車部材16を吊り上げ、既に設置したタワー15上に風車部材16を設置する。具体的には、2枚のブレードが接続された部材を先にタワーの頂部に設置し、ハブに残りの1枚のブレードを取り付ける。このようにして、海上施工により風力発電設備を設置することができる。
【0019】
ところで、海上において運搬台船14から風車部材16等の重量物を吊り上げる場合、SEP船10が固定されているとしても、運搬台船14は、波浪等により常時動揺している。このため、重量物が水平方向および鉛直方向(上下方向)に変位し、そのまま引き上げると近隣の作業員や他の重量物への衝突等の可能性があり、非常に危険な作業となる。重量物を吊り上げる楊重作業は、作業限界波高等の海象条件が重要となり、海象条件が良好で瀬取り作業を安全・効率的に行える、瀬取り作業が実施できる時間(例えば、波が穏やかな時間)に行う必要がある。
【0020】
作業限界波高は、作業船で作業を行える限界の波高である。海象条件は、波高のほか、波向き、波長、周期等がある。ここで、全体時間をx時間とし、x時間のうちの船体の動揺が小さく瀬取り作業が実施できる時間をy時間とした場合、時間yを全体時間xで除算し、100を掛けた値を稼働率(%)として表す。稼働率は、全体時間に対する瀬取り作業を実施できる時間の割合を示し、稼働率が大きいほど、瀬取り作業を実施できる時間が長いことを示す。
【0021】
太平洋側では、年間を通じてうねりの出現頻度が高く、うねりの影響で稼働率が非常に小さくなる。クレーン作業が可能なように運搬台船14の船体の動揺を低減させることができれば、瀬取り作業の稼働率を向上させることができる。このため、運搬台船14の船体の動揺を低減させることが重要となる。
【0022】
図3を参照して、運搬台船14について説明する。図3(a)は、運搬台船14の一例を示した側面図で、図3(b)は、その平面図である。運搬台船14は、船体の前後(船首と船尾)にテーパが形成され、水平方向に面積が大きい箱型の台船であり、積載能力に優れている。運搬台船14は、甲板上に建築資材等を載せて運搬することができる。運搬台船14は、クレーン車両等の重機を載せていてもよく、岸壁等に係留する際に使用されるウィンチや、錨を引き上げる揚錨機(ウィンドラス)等を搭載していてもよい。
【0023】
運搬台船14は、水平方向に面積が大きい箱型の台船であるため、波浪による揺動が大きい。このため、瀬取り作業で利用する場合、アンカーにより複数箇所で係留するか、DPSにより船底に設置されたプロペラを制御して位置を保持し、クレーン作業が可能な限り船体の動揺を低減させる必要がある。図3に示す運搬台船14は、船底に旋回式の推進手段として水平方向スラスタ30を備えている。水平方向スラスタ30は、360°旋回可能で、船体の長手方向の前後の所定位置の船底に4つ設けられている。運搬台船14は、これら4つの水平方向スラスタ30の回転翼としてプロペラの向きや回転数等を制御し、船体を所定の方向へ移動させ、波浪による動揺を低減させることができる。なお、水平方向スラスタ30は、一隻の運搬台船14に対して4つに限定されるものではない。
【0024】
水平方向スラスタ30による運搬台船14の動揺を低減させる効果については、水平方向に対して高い効果を有するが、上下方向に対してはその効果はない。
【0025】
そこで、運搬台船14に上下動低減装置を設置し、上下動低減装置により波浪による運搬台船14の上下方向の動揺を低減させる。すなわち、運搬台船14は、DPSと、上下動低減装置とを備え、DPSにより水平方向の動揺を低減させた上で、上下動低減装置により上下方向の動揺を低減させる。
【0026】
上下動低減装置は、瀬取り作業の稼働率向上を目的とするため、運搬台船14全体の上下動を低減させることを目的とはせず、吊り荷の場所(船体の一部)に限定した上下動の低減を目的とする。このような特定の箇所に限定した上下動の低減を実現するため、上下動低減装置は、図4に示すように、運搬台船14の外舷(船体の側面)から突出するように水中に配設されたり、船形を工夫して曳船などが運搬台船14に近接しても問題ない位置に設置したり、接岸時には船底位置に移動するなど設置場所を可変できるように設置した、上下方向に推力を発生させる推力発生手段として鉛直方向スラスタ40を含む。
【0027】
鉛直方向スラスタ40は、原動機と、原動機から出力される回転力を推力に変換する複数の羽根を備える変換手段とを含む。複数の羽根を備える変換手段は、例えばプロペラである。鉛直方向スラスタ40は、上下方向に対するプロペラの羽根の角度(翼角もしくはプロペラ・ピッチ)が固定された固定ピッチプロペラを用いてもよいし、プロペラ・ピッチが変更可能な可変ピッチプロペラを用いてもよい。固定ピッチプロペラは、推力を発生させる方向を逆にする場合、通常、プロペラの回転方向を逆にする必要がある。なお、固定ピッチプロペラでは、ある一定回転数n(rpm)でプロペラを回転させ、ある一定の推力を発生させながら、α分の回転数の増減(n±α>0)だけで推力の大きさを変化させ、制御することも可能である。
【0028】
これに対し、可変ピッチプロペラは、羽根のピッチを変えるだけで、下向きから上向きまでの全範囲で、任意の大きさの推力を無段階に発生させることができる。このため、可変ピッチプロペラを使用する場合、コントローラ43は、回転方向、回転数を一定とし、羽根のピッチを制御することにより、発生させる推力の向きや大きさを制御することができる。
【0029】
運搬台船14を新造する場合、接岸時などでも邪魔にならない場所に鉛直方向スラスタ40が設置されるように、台船の形状を変更してもよい。鉛直方向スラスタ40は、限りなく船の側壁に近隣していてもよいし、少し離れていてもよい。
【0030】
船体の上下方向の動揺は、船体重心位置(中心)の上下動と、船体の回転動との相互影響により大きく変化する。船体の動揺は、船首から船尾へ向かう波向き0°の縦波時には縦揺れ(ピッチ)が卓越し、船首に向かって右側の側面である右舷からその反対側の側面である左舷、もしくは左舷から右舷へ向かう波向き90°の横波時には横揺れ(ロール)の方が大きくなる。したがって、船体の上下方向の動揺は、船体の縦揺れおよび横揺れによる船体の回転動揺を低減させることにより、低減させることができるものと考えられる。
【0031】
船体の回転動揺は、船体の船首から船尾へと延び、船体の左舷および右舷の両方から突出するように張り出したフィンを設けることで低減させることができる。これは、船体全体の上下動を低減するものである。瀬取り作業の稼働率向上を目的とする場合、吊り荷の場所に限定して上下動を低減できればよい。
【0032】
図4に示すように、運搬台船14の外舷の一方側(例えば、左舷側)の甲板上であって、運搬台船14の長手方向の略中央位置を吊り荷の場所とした場合、吊り荷の場所における回転動を低減させるため、運搬台船14の外舷に少なくとも1つの上下方向にプロペラの羽根が向いた鉛直方向スラスタ40を設けることができる。図4に示す例では、運搬台船14の船首側および船尾側であって、左弦および右舷の両側に4つの鉛直方向スラスタ40が設けられている。運搬台船14の上下動は、4つの鉛直方向スラスタ40により発生させた上下方向の推力を制御することで、船体の回転動(回転運動)を含めて制御される。
【0033】
ここで、図5および図6を参照し、運搬台船14の上下動を低減する制御について説明する。運搬台船14の長手方向(長さ方向)に沿ってX軸をとり、運搬台船14の短手方向(幅方向)に沿ってY軸をとり、X軸とY軸とが交差する点を通る鉛直方向(高さ方向もしくは海の深さ方向)に沿ってZ軸をとると、X軸を中心にした船体の回転φは、ロール(Roll)と呼ばれ、Y軸を中心にした船体の回転θは、ピッチ(Pitch)と呼ばれ、Z軸を中心にした船体の回転ψは、ヨー(Yaw)と呼ばれる。また、X軸方向への前後の動きXは、サージ(Surge)と呼ばれ、Y軸方向への左右の動きYは、スウェイ(Sway)と呼ばれ、Z軸方向への上下動Zは、ヒーブ(Heave)と呼ばれる。
【0034】
サージ(前後揺れ)およびスウェイ(左右揺れ)の水平方向の動き、並びにヨー(船首揺れ)については、水平方向スラスタ30により制御される。船体の上下動、ピッチ(縦揺れ)およびロール(横揺れ)の回転運動については、鉛直方向スラスタ40により制御される。
【0035】
具体的には、図6に示すように、船体を船首側から見た場合、船体は、略矩形であり、その中心が重心Gであり、重心Gを通り、左舷から右舷へ向かう方向がY軸方向であり、Y軸方向に対して垂直な鉛直方向がZ軸方向である。X軸方向は、重心G上の船尾側から船首側へ向かう方向である。
【0036】
例えば、X軸を中心として、船体に時計周りに回転運動が発生すると、左舷が下降し、右舷が上昇する。船体を回転運動が発生する前の水平状態に戻すには、下降した左舷を上昇させ、上昇した右舷を下降させる制御、すなわち図6に示す反時計周りにロールさせる制御が必要となる。このような制御は、例えば、左舷に設けられた鉛直方向スラスタ40aのみを作動させ、海面へ向けて上方向に推力を発生させることにより実現することができる。また、右舷に設けられた鉛直方向スラスタ40bのみを作動させ、海底へ向けて下方向に推力を発生させてもよい。さらには、鉛直方向スラスタ40aを作動させて上方向に推力を発生させ、鉛直方向スラスタ40bも作動させて下方向に推力を発生させてもよい。
【0037】
図6に示すように、左右の鉛直方向スラスタ40a、40bにより発生させる推力が逆向きの場合、船体の重心Gにおいて、X軸を中心として回転するエネルギー(ロールのエネルギー)に変換される。左右の鉛直方向スラスタ40a、40bにより発生させる推力が同じで、同じ向きである場合、上下方向へ移動するエネルギー(ヒーブのエネルギー)に変換される。左右の鉛直方向スラスタ40a、40bにより発生させる推力が異なり、同じ向きである場合、X軸を中心として回転するエネルギーと、上下方向へ移動するエネルギーとに変換される。
【0038】
ところで、左舷側に吊り荷がある場合、運搬台船14は、左舷側をSEP船10に近づけて配置することになる。このとき、左舷側に鉛直方向スラスタ40が設置されていると、クレーン作業の邪魔になったり、船体同士の接触による損傷が懸念される。このため、図4に示すように、運搬台船14の船首側および船尾側であって、左舷側および右舷側の4箇所ではなく、図7(a)に示すように、吊り荷がある左舷側とは逆の右舷側(紙面に向かって上側)の船首側および船尾側の2箇所に、鉛直方向スラスタ40を設けることができる。なお、鉛直方向スラスタ40は、右舷側に2箇所でなくてもよく、右舷側に1箇所や3箇所以上設けてもよい。
【0039】
なお、鉛直方向スラスタ40は、外舷の1箇所に設置するのみでも、船体の回転運動を抑制することができ、その結果として、船体の各位置での上下動も抑制することができる。
【0040】
既存の運搬台船14に対しては、鉛直方向スラスタ40を後から設置可能な位置であれば、外舷のいずれの位置に設置してもよいし、吊り荷の位置を考慮し、吊り荷がある側とは反対側に1以上の鉛直方向スラスタ40を設置してもよい。
【0041】
新しく運搬台船14を建造する場合は、船体を、図7(b)に示すように、鉛直方向スラスタ40が回転可能な大きさだけ、上側から見て略矩形や略半円形に凹ませるなどして凹部50を形成し、施工時の不便さを解消させる位置として凹部50内に収納された形で設置することも可能である。凹部50を形成する船体の位置は、船体のいずれの位置であってもよい。また、凹部50は、鉛直方向スラスタ40を設ける数に応じた数だけ設けることができる。
【0042】
再び図4を参照して、吊り荷の場所は、常に一定の場所とは限らない。このため、吊り荷の場所に応じて、各鉛直方向スラスタ40で発生させる推力を変更する制御することが必要となる。
【0043】
上下動低減装置は、1以上の鉛直方向スラスタ40と、船体の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出する第1の検出手段としてセンサ41と、船体の所定位置における上下動を検出する第2の検出手段としてセンサ42と、1以上の鉛直方向スラスタ40により発生させる推力を制御する制御手段としてコントローラ43とを含む。
【0044】
センサ41、42は、変位センサ、速度センサ、加速度センサ等である。センサ41、42は、GPS(Global Positioning System)などの測位機と組み合わせて利用してもよい。センサ41、42は、重心位置と吊り荷の場所に1つずつ設置してもよいし、1つのセンサを計測のたびに移動させて使用してもよい。センサ42は、吊り荷の場所に応じて1つのセンサを移動させて使用してもよいし、予め複数のセンサを設置し、吊り荷の場所に応じて検出結果を取得するセンサを切り替えてもよい。
【0045】
コントローラ43は、プロセッサおよびメモリ等を備え、センサ41、42の検出結果に基づき、鉛直方向スラスタ40により発生させる推力の大きさや向きを制御する。センサ41、42とコントローラ43とは、有線、無線のいずれで通信可能に接続されていてもよい。
【0046】
コントローラ43は、吊り荷の場所の上下動をなくすように鉛直方向スラスタ40に対してプロペラの回転方向や回転数を変えることにより、鉛直方向スラスタ40により発生させる推力の大きさや向きを制御する。鉛直方向スラスタ40は、発生させた推力により所定位置の上下動を相殺して、当該所定位置における上下動を低減させる。
【0047】
鉛直方向スラスタ40による推力は、海面付近では、推力に変換する回転のエネルギー効率が低いため、鉛直方向スラスタ40は、海面から所定の深さ位置に設置する必要がある。しかしながら、鉛直方向スラスタ40の推力を上下の両方向に制御せず、水面付近で推力が得られやすい上方向だけの制御でも、鉛直方向スラスタ40を2箇所以上の位置に設置することで、回転動を制御し、船体の各位置の上下動を抑制することができる。このことから、海面付近への鉛直方向スラスタ40の設置により必ずしも制御ができない訳ではないが、安定して制御を行うためには、鉛直方向スラスタ40は、上記の海面から所定の深さ位置に設置することが望ましい。所定の深さ位置としては、例えば鉛直方向スラスタ40が海面に露出しない位置として、海面から1m以上の深さ位置とすることができる。
【0048】
ところで、鉛直方向スラスタ40に代えて、上下方向に移動可能な所定の厚さの金属製の平板(没水平板)を用い、没水平板をアクチュエータ等により上下動させ、船体の所定位置の上下動を相殺して、当該所定位置における上下動を低減させることも可能である。
【0049】
没水平板を使用する場合の制御について簡単に説明する。船体の左舷側の略中央位置を位置Pとし、位置Pに吊り荷があり、位置Pが沈む方向に変位しようとする場合、船体の重心Gを中心として回転する。位置Pの反対側である右舷側の略中央位置を位置Sとすると、この回転に伴い、位置Sが上方へ変位しようとする。没水平板が設置されるだけで、その上方への変位が抑制されるが、その変位を抑制するべく、コントローラは、没水平板を下方に移動させ、位置Sが浮き上がろうとするのを抑制し、位置Pの沈む方向への変位を抑制する。位置Pが浮き上がる方向に変位しようとする場合は、反対に、没水平板を上方に移動させるように制御する。吊り荷の場所が、左舷側の略中央位置以外であっても、没水平板を上下動させる量や速度等を制御することで、吊り荷の場所の上下動を低減させることができる。
【0050】
没水平板の大きさと制御に必要なエネルギー(アクチュエータの性能)には相関があり、没水平板の大きさとアクチュエータの性能を変更することで、様々な形態での利用が可能である。
【0051】
上下動低減装置は、鉛直方向スラスタ40を用いるものと、没水平板を用いるものとの両方を採用することができるが、同程度の効果を有するのか、どちらが有利な効果を有するかについて検討するために、解析モデルを構築し、数値解析を行った。
【0052】
図8は、鉛直方向スラスタ40を運搬台船14の4箇所に設置した場合の数値解析を行う解析モデルの一例を示した図である。図9は、没水平板60を運搬台船14の4箇所に設置した場合の数値解析を行う解析モデルの一例を示した図である。運搬台船14は、長手方向の全長が110m、短手方向の最大幅が32m、最上部の甲板から最下部の船底までの高さが7mの箱形の船である。
【0053】
鉛直方向スラスタ40および没水平板60の設置位置は、運搬台船14の船体の船首側であって、左舷側および右舷側の2箇所(船首から鉛直方向スラスタ40および没水平板60の中心位置までの距離が、船首から20mの位置)と、船体の船尾側であって、左舷側および右舷側の2箇所(船尾から鉛直方向スラスタ40および没水平板60の中心位置までの距離が、船尾から20mの位置)との計4箇所となっている。没水平板60は、長さ10m、幅2mの平板である。
【0054】
波浪の向きは、X軸方向を0°とした場合、90°であるY軸方向であり、例えば右舷側から左舷側への向きである。制御位置は、吊り荷がある位置であり、例えば船体の左舷側の略中央位置である。
【0055】
図10に、日本海側の平均有義波高および平均有義周期の一例を示し、図11に、太平洋側の平均有義波高および平均有義周期の一例を示す。観測地点で連続する波を1つずつ観測し、波高の高い方から順に全体の1/3の個数を選び、その波高と周期を平均化した結果を有義波高ならびに有義周期と称している。
【0056】
日本海側の平均有義波高と平均有義周期は、秋田県沖、秋田港、山形県沖、酒田港の4箇所で計測された2015~2019年の5年分の波浪観測データから算出された各月で平均した有義波高と有義周期である。図10(a)に各月に対する平均有義波高を示し、図10(b)に各月に対する平均有義周期を示す。
【0057】
太平洋側の平均有義波高と平均有義周期は、岩手北部沖、久慈港、福島県沖、小名浜港の4箇所で計測された2015~2019年の5年分の波浪観測データから算出された各月で平均した有義波高と有義周期である。図11(a)に各月に対する平均有義波高を示し、図11(b)に各月に対する平均有義周期を示す。
【0058】
日本海側は、5月から9月までの5か月間だけ、月平均の有義波高が1m以下であり、波が穏やかで瀬取り作業に適した時期である。このときの月平均の有義周期は、5.5秒(s)以下である。1月から4月、10月から12月までの7か月の間は、月平均の有義波高が1mを超え、最大2.5mとなっており、月平均の有義周期は、約5.5~約7.4秒となっている。
【0059】
一方、太平洋側は、1月から12月までの1年を通して、月平均の有義波高が約1~約2mであり、月平均の有義周期は、約6.4~約9.2秒となっている。
【0060】
したがって、月平均の有義周期を、例えば6秒に設定し、数値解析を行うことで、日本海側の5月から9月までの時期の、鉛直方向スラスタ40もしくは没水平板60を用いた制御で上下動が充分に低減できているかを判断することができる。また、月平均の有義周期の最大は約9.2秒であるから、月平均の有義周期を、例えば10秒以上に設定し、数値解析を行うことで、日本海側を含め、太平洋側の全ての月で、鉛直方向スラスタ40もしくは没水平板60を用いた制御で上下動が充分に低減できているかを判断することができる。
【0061】
図12は、月平均の有義周期を6秒に設定し、没水平板60を用いた制御の数値解析を行った結果を示した図である。図12(a)は、比例微分(PD)制御を行うコントローラ43が出力した没水平板60の位置を示す出力値と目標値との偏差に対し、比例制御(P制御)で用いる比例ゲインと微分制御(D制御)で用いる微分ゲインとを用いてフィードバック制御を行った場合の経過時間t(sec)と4つの没水平板60の上下揺れ方向の振動特性δ1~δ4(m)との関係を示した図である。ここでは、比例ゲイン(Pゲイン)を30、微分ゲイン(Dゲイン)を1.5としている。
【0062】
図12(b)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの船体重心位置での上下揺れ特性を示すヒーブ(m)との関係を示した図である。波浪は、制御ありのときも制御なしのときも同じであり、没水平板60程度の制御力では運搬台船14全体の上下揺れを変動させることができないため、2つの波形は重なっている。
【0063】
図12(c)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの左舷中央位置、すなわち吊り荷がある制御位置での上下変位(m)との関係を示した図である。制御なしの場合、左舷中央位置が約-2.3~約+2.3mと上下に大きく変位している。一方、制御ありの場合、左舷中央位置が約-0.2~約+0.2mと上下の変位が縮小している。このことから、没水平板60による制御で、吊り荷がある制御位置の上下動が低減できることが分かる。
【0064】
図12(d)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの船体重心位置での横揺れ特性を示すロール(deg)との関係を示した図である。制御なしの場合、約-9~約+9°の範囲で回転し、回転運動が大きくなっている。一方、制御ありの場合、約-2.5~約+2.5°の範囲で回転し、回転運動が小さくなっている。このことから、ロールを制御して、上下動を抑制できていることが分かる。
【0065】
図13は、月平均の有義周期を10秒以上である12秒に設定し、没水平板60を用いた制御の数値解析を行った結果を示した図である。図13(a)は、経過時間t(sec)と4つの没水平板60の上下揺れ方向の振動特性δ1~δ4(m)との関係を示した図であり、図13(b)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの船体重心位置での上下揺れ特性を示すヒーブ(m)との関係を示した図である。図13(a)、(b)は、図12(a)、(b)に比較し、有義周期が2倍になったことから、偏差δも、ヒーブも大きくなっている。
【0066】
図13(c)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの左舷中央位置での上下変位(m)との関係を示した図であり、図13(d)は、経過時間t(sec)と没水平板60による制御あり、および制御なしのときの船体重心位置での横揺れ特性を示すロール(deg)との関係を示した図である。
【0067】
図13(c)では、制御なしの場合、左舷中央位置が約-1.1~約+1.1mと上下に変位し、制御ありの場合、左舷中央位置が約-0.8~約+0.8mと上下に変位し、わずかに上下動が低減されている。
【0068】
図13(d)では、制御なしの場合、約-2~約+2°の範囲で回転し、制御ありの場合、約-4~約+4°の範囲で回転し、制御ありの場合のほうが、回転動が大きくなっている。これは、上下動を抑制しようとしているためである。有義周期が12秒という長周期では、有義周期が6秒という短周期の場合とは異なり、制御しても上下動がわずかしか抑制されず、没水平板60による制御効果が小さいことが分かる。
【0069】
したがって、没水平板60による制御は、日本海側の5月から9月の波が穏やかで瀬取り作業に適した時期に限り、有効である。
【0070】
図14は、月平均の有義周期を6秒に設定し、鉛直方向スラスタ40を用いた制御の数値解析を行った結果を示した図である。図14(a)は、経過時間t(sec)と4つの鉛直方向スラスタ40の上下揺れ方向の振動特性Ft1~Ft4(kN)との関係を示した図であり、図14(b)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときの船体重心位置での上下揺れ特性を示すヒーブ(m)との関係を示した図である。
【0071】
図14(a)は、比例微分(PD)制御を行うコントローラ43が出力した鉛直方向スラスタ40による推力を示す出力値と目標値との偏差に対し、比例制御(P制御)で用いる比例ゲインと微分制御(D制御)で用いる微分ゲインとを用いてフィードバック制御を行った場合の経過時間t(sec)と4つの鉛直方向スラスタ40の上下揺れ方向の振動特性Ft1~Ft4(kN)との関係を示している。ここでは、比例ゲイン(Pゲイン)を600000、微分ゲイン(Dゲイン)を800000としている。
【0072】
図14(b)に示すヒーブは、鉛直方向スラスタ40による制御でも、図12(b)に示す没水平板60による制御の場合と同様、約-0.5~約+0.5mの上下動の範囲となっている。
【0073】
図14(c)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときの左舷中央位置の上下変位(m)との関係を示した図であり、図14(d)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときのロール(deg)との関係を示した図である。
【0074】
図14(c)では、制御なしの場合、図12(c)に示した没水平板60による制御の場合と同様、左舷中央位置が約-2.3~約+2.3mと上下に大きく変位している。一方、制御ありの場合、図12(c)に示した没水平板60による制御の場合と同様、左舷中央位置が約-0.2~約+0.2mと上下の変位が縮小している。このことから、鉛直方向スラスタ40による制御でも、吊り荷がある位置の上下動が低減できることが分かる。
【0075】
図14(d)では、制御なしの場合、図12(d)に示した没水平板60による制御の場合と同様、約-8~約+8°の範囲で回転し、回転動が大きくなっている。一方、制御ありの場合、図12(d)に示した没水平板60による制御の場合と同様、約-2~約+2°の範囲で回転し、回転動が小さくなっている。このことから、ロールを制御して、上下動を抑制できていることが分かる。
【0076】
図15は、月平均の有義周期を10秒以上である12秒に設定し、鉛直方向スラスタ40を用いた制御の数値解析を行った結果を示した図である。図14(a)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40の上下揺れ方向の振動特性Ft1~Ft4(kN)との関係を示した図であり、図14(b)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときのヒーブ(m)との関係を示した図である。図15(b)は、図14(b)に比較し、有義周期が2倍になったことから、ヒーブも大きくなっている。なお、上下揺れ方向の振動特性Ftは、Pゲインを300000、Dゲインを600000と、図14(a)に示す結果とはゲインを変えていることから、ほぼ同じ約-20~約+20kNの偏差となっている。
【0077】
図15(c)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときの左舷中央位置(m)との関係を示した図である。制御なしの場合、左舷中央位置が約-1.1~約+1.1mと上下に変位し、制御ありの場合、左舷中央位置が約-0.4~約+0.4mと上下に変位し、図12(c)に示した没水平板60による制御の場合とは異なり、上下動が大きく低減されている。
【0078】
図15(d)は、経過時間t(sec)と鉛直方向スラスタ40による制御あり、および制御なしのときのロール(deg)との関係を示した図である。制御なしの場合、約-2~約+2°の範囲で回転し、制御ありの場合、約-2.5~約+2.5°の範囲で回転し、図12(d)に示した没水平板60による制御の場合と同様、回転動を増大することにより上下動が抑制されている。このように、鉛直方向スラスタ40による制御では、有義周期が12秒という長周期でも、上下動および回転動を低減することができ、制御が有効であることが分かる。
【0079】
以上のことから、有義周期が6秒の短周期波の場合は、鉛直方向スラスタ40と没水平板60の両方で良好な制御効果を得ることができる。没水平板60では、有義周期が12秒になると、現実的には制御しきれない程度で没水平板60を上下動させても、制御効果がほとんど得られなかった。これは、没水平板60を上下動させた場合に得られる流体力(船体に作用する上下方向の推力)が、例えば振幅を同じにした場合、同様周期が長周期側になるほど、流体力のエネルギーに変換されにくいことに起因していると考えられる。
【0080】
一方で、鉛直方向スラスタ40では、有義周期が12秒の長周期波に対しても有効な制御が実施できている。したがって、鉛直方向スラスタ40による制御は、日本海側の5月から9月の波が穏やかで瀬取り作業に適した時期に限らず、日本海側の1月から4月、10月から12月においても、充分に上下動を低減させることができ、また、太平洋側の1月から12月においても、充分に上下動を低減させることができる。この結果、1年を通して日本海側でも、太平洋側でも、瀬取り作業を行うことが可能であり、稼働率を向上させることができる。
【0081】
鉛直方向スラスタ40による制御は、船体の上下動と回転動の連成によって動揺するそれぞれの船体位置による上下動を、回転動の位相差によって制御する没水平板60による制御と基本的には同じであり、上下動を含めて制御する場合、複数の場所に鉛直方向スラスタ40を設置することで、その制御が可能となる。
【0082】
図16は、上下動低減装置による上下動を低減する動作の一例を示したフローチャートである。上下動低減装置による上下動を低減する動作は、運搬台船14が目的の海域に到着し、DPSにより船底に設置されたプロペラを制御し、水平方向の位置を保持した状態で、ステップ100(S100)から開始する。
【0083】
ステップ101(S101)では、センサ41が、運搬台船14の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出する。これは、運搬台船14の船体にどのような回転運動が起きているか分からない状態で、回転を制御することは不可能だからである。また、センサ42が、吊り荷がある所定位置における上下動を検出する。
【0084】
運搬台船14の船体の吊り荷がある所定位置における上下動は、船体の重心位置における上下動、縦揺れ、横揺れを検出することにより検出(計算)することが可能である。このため、船体の重心位置における上下動、縦揺れ、横揺れを計測して、所定位置における上下動を把握してもよい。
【0085】
ステップ102(S102)では、コントローラ43が、センサ41の検出結果を第1の検出結果としてセンサ41から取得し、センサ42の検出結果を第2の検出結果としてセンサ42から取得し、第1の検出結果および第2の検出結果に基づき、鉛直方向スラスタ40のプロペラの回転方向、回転数を算出し、鉛直方向スラスタ40に対してプロペラの回転方向、回転数を通知し、制御を指令する。ステップ103(S103)で、鉛直方向スラスタ40が、コントローラ43からの指令に基づき、プロペラの回転方向、回転数を調整し、船体の上下方向に推力を発生させる。これにより、船体の上下動を低減するように制御する。
【0086】
ステップ104(S104)では、瀬取り作業が終了したかを判断し、終了していない場合、ステップ101(S101)へ戻り、上下動の制御を継続する。一方、瀬取り作業が終了した場合、ステップ105(S105)へ進み、上下動の制御を終了する。運搬台船14は、DPSによる水平方向の位置を保持する動作から次の施工場所や岸壁等へ移動する動作に切り替え、移動を開始させることができる。
【0087】
図16に示した制御は、船体の所定位置の上下動を検出し、その検出結果のみを使用したPD制御の例を示したものであるが、上下動を低減する動作における制御は、PD制御に限定されるものではない。
【0088】
吊り荷のある所定位置の上下動を検出する第2の検出手段に加え、船体の縦揺れおよび横揺れを検出する第1の検出手段を設けることで、船体の重心位置の上下動を含めて船体の上下動を低減させることができる。船体の重心位置は、船体の傾きの中心であるメタセンター位置が回転中心となるため、縦揺れおよび横揺れで上下に若干変化する。このため、船体の重心位置の上下動も制御し、低減することができることが望ましい。吊り荷のある所定位置の上下動は、上記のように、船体の重心位置の上下動、縦揺れ、横揺れを検出することで検出することができる。これを言い換えると、船体の重心位置の上下動は、吊り荷のある所定位置の上下動、船体の重心位置の縦揺れ、横揺れを検出することで検出することができる。
【0089】
したがって、第1の検出手段で吊り荷のある所定位置の上下動を検出し、第2の検出手段で船体の重心位置における縦揺れおよび横揺れを検出することで、船体の重心位置における上下動を把握することができ、把握した船体の重心位置における上下動を低減させるように制御することができる。船体の重心位置の上下動の具体的な制御としては、例えば、重心位置を挟んで左右に設置された鉛直方向スラスタ40で、重心位置の揺動と逆位相(反対側)で推力を発生させる制御が挙げられる。なお、この制御は一例であるので、この制御に限られるものではない。
【0090】
これまで本発明の上下動低減装置、作業船および上下動低減方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
10…SEP船
11…台船
12…昇降用脚
13…クレーン
14…運搬台船
15…タワー
16…風車部材
20…起伏式クレーン船
21…ジャケット基礎
22…杭
30…水平方向スラスタ
40、40a、40b…鉛直方向スラスタ
41、42…センサ
43…コントローラ
50…凹部
60…没水平板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16