(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025059264
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/045 20160101AFI20250403BHJP
C07D 333/48 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
C08G75/045
C07D333/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169243
(22)【出願日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】鬼武 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】富永 優人
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA42
4J030BA44
4J030BB07
4J030BC33
4J030BC43
4J030BF04
4J030BF13
4J030BG06
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、揮発性有機化合物の使用量をゼロにするか又は削減することにより環境負荷を低減できる、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法を提供すること。
【解決手段】クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下でクラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を形成すると共に、ゲルを生成することを特徴とする前記ネットワークポリマーゲルの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下で、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を形成すると共に、ゲルを生成することを特徴とする前記ネットワークポリマーゲルの製造方法。
【請求項2】
ゲルの生成に使用した有機溶媒を置換することなく、前記有機溶媒により再膨潤化することを特徴とする請求項1に記載のネットワークポリマーゲルの製造方法。
【請求項3】
有機溶媒がスルホランである、請求項1又は2に記載のネットワークポリマーゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状分子が線状分子をその空孔に取り込み、貫通構造をした化合物(包接化合物、又は包接錯体ともいう)はロタキサン(Rotaxane)、又は擬似ロタキサン(pseudo-rotaxane)と呼ばれ、環状分子が線状分子に沿って移動可能であることによる特性から、環状分子と線状分子との種類や組み合わせはこれまでに数多く報告されている。
【0003】
また、ジチオールのようなスペーサー成分を用いて、ロタキサン又は疑似ロタキサン同士をつなぐことにより、ポリマー化せしめ、共有結合を伴わない化合物として特異な物性を備える架橋ポリロタキサンをネットワークポリマーゲルとして製造することが試みられており、ネットワークポリマーゲルとしては、本発明者らにより、環状分子として24員環のクラウンエーテル誘導体を用い、線状分子として二級アンモニウム塩化合物を用いた、ネットワークポリマーゲルに関する研究が鋭意進められている(特許文献1参照)。
【0004】
クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との間では、特異的な相互作用、一般的に水素結合や静電相互作用が作用することで自発的に錯体が得られる。そして、このような錯体の形成を完遂させるためには特定の有機溶媒の存在の下で錯体の形成が行われることが必要であり、特定の有機溶媒に求められる特性としては、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との相互作用(水素結合、静電相互作用)を阻害しない特性を有すること、及びクラウンエーテル誘導体や二級アンモニウム塩化合物を溶解できる特性を有することが挙げられる。一般的には、極性または比誘電率εの高い溶媒はクラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との相互作用を阻害するものが多い傾向にある。錯体の形成に用いられる有機溶媒として、特許文献1では、ジクロロメタン(比誘電率9.1、沸点40℃)やクロロホルム(比誘電率4.8、沸点61℃)が使用されており、非特許文献1では、ジクロロメタン(前出)及びアセトニトリル(比誘電率36.0、沸点82℃)が使用可能であるとされ、非特許文献2では、ジクロロメタン(前出)、アセトニトリル(前出)、ベンゼン(比誘電率2.3、沸点80℃)、クロロベンゼン(比誘電率5.7、沸点131℃)、ジオキサン(比誘電率2.1、沸点101℃)、クロロホルム(前出)、及びトルエン(比誘電率2.4、沸点111℃)が使用可能とされ、非特許文献3では、クロロホルム(前出)、クロロベンゼン(前出)、及びニトロメタン(比誘電率36.2、沸点101℃)が使用可能とされている。これに対し、錯体の形成がされないか又は形成されにくい有機溶媒としては以下の溶媒が挙げれる。発明者らは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(比誘電率37.1、沸点153℃)では、ロタキサンの錯体が形成されないことを確認し、また、非特許文献1に記載のジメチルスルホキシド(DMSO)(比誘電率46.71、沸点189℃)でも、ロタキサンの錯体が形成されないことを確認した。なお、この非特許文献1には、クロロホルムとDMSOとの混合溶媒で、クロロホルムの混合比率を変えてもロタキサンが生成しにくいことが示されている。さらに、非特許文献3には、ジメチルアセトアミド(DMAc)(比誘電率38.3、沸点165℃)も錯体が形成されないことが記載されている。
【0005】
以上のとおり、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との間で錯体を形成する際に使用されている有機溶媒は、すべて沸点が低く、揮発性有機化合物(VOC、Volatile Organic Compounds)に相当する溶媒である。揮発性有機化合物とは、揮発性であるため大気中で気体状になる有機化合物の総称であり、塗料や印刷インキの溶剤などに使用されるトルエンやドライクリーニングなどに使用されるテトラクロロエチレン、実験に使用する一般有機溶媒などが該当する。また、揮発性有機化合物は太陽の紫外線を受けて反応し、有害な光化学オキシダント(Ox)を生成したり、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM2.5)にも変化することが知られており、環境や生態系において大きな負荷を与えることになる。したがって、世界的にも、これらの揮発性有機化合物を極力排除したモノづくり(社会づくり)が求められている。なお、世界保健機関(WHO)の定義によれば、揮発性有機化合物は沸点が50-100℃~240-260℃の範囲の有機化合物が対象である。
【0006】
また、ネットワークポリマーゲルについては、揮発性有機化合物に相当する有機溶媒を使用して、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との間で錯体を形成することで、(疑似)ロタキサンを生成し、錯体が解離しない安定なポリマーを構築した後、一旦、その揮発性の高い有機溶媒をネットワークポリマーゲルから除去し、より揮発性の低い有機溶媒で溶媒置換しつつ、ゲルの再膨潤化を図っている。したがって、ネットワークポリマーゲルを生成するためには、(擬似)ロタキサンを生成しやすい揮発性が高く極性が低めの有機溶媒を使用することが一般的とされる一方で、そのポリマー化したゲルの形状を長期間保持するためにはゲルの生成に使用した溶媒よりも揮発性のより低い溶媒を使用して再膨潤する必要があった。
実際に、特許文献1においても、再膨潤化においては、錯体の形成に使用したジクロロメタンやクロロホルムとは異なる有機溶媒、例えば、プロピオンカーボネートなどが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2013/099224号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sheng-Hsien et al., Org. Lett.,2(23),3631-3634 (2000)
【非特許文献2】Toshikazu Takata et al., Macromolecules, 34, 5449-5456 (2001)
【非特許文献3】Yoshio Furusho et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, 179-185 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、揮発性有機化合物の使用量をゼロにするか又は削減することにより環境負荷を低減できる、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、揮発性有機化合物に相当しない、比誘電率が43で沸点が285℃であるスルホランが、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との相互作用を阻害しない特性を有すること、及びクラウンエーテル誘導体や二級アンモニウム塩化合物を溶解できる特性を有することを見出したことに基づき、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下で、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との間で錯体の形成が進むことを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す事項により、特定されるものである。
(1)クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下で、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を形成すると共に、ゲルを生成することを特徴とする前記ネットワークポリマーゲルの製造方法。
(2)ゲルの生成に使用した有機溶媒を置換することなく、前記有機溶媒により再膨潤化することを特徴とする(1)に記載のネットワークポリマーゲルの製造方法。
(3)有機溶媒がスルホランである、(1)又は(2)に記載のネットワークポリマーゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法においては、揮発性有機化合物に相当する有機溶媒を使用しない又は削減することができることから、環境や生態系における負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のクラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法の概略を示す。
【
図2】スルホラン又はクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルの外観を示す。
【
図3】スルホラン又はクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルをスルホランにより再膨潤化した外観の側面及び上面を示す。
【
図4】スルホラン又はクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルをスルホランにより再膨潤化する前後のそれぞれの外観の側面及び上面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法に関する。具体的には、クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物とをスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下で錯体を形成せしめ、(疑似)ロタキサンを生成し、そのままスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒中において、生成した(疑似)ロタキサンにジチオール化合物を使用した付加反応(チオール-エン反応)を供することにより、包接構造を有するネットワークポリマーゲルを製造する方法に関する関するものである。さらに、本発明は、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒を置換することなく、再度スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒を使用して再膨潤化する製造方法に関するものである。
図1に、本発明の包接構造を有するネットワークポリマーゲルを製造する方法の概念図を示す。
図1では、環状分子としては24員環のクラウンエーテル誘導体(Wheelと表記)を、二級アンモニウム塩化合物としてはビス(メタクリロイルオキシエチル)アミン誘導体(Axleと表記)を、ジチオール化合物としては3、6-ジオキサ-1、8-オクタンジチオ―ル(DODTと表記)を、有機溶媒としてはスルホラン(SLと表記)を使用している。
【0015】
本発明に使用されるクラウンエーテル誘導体としては、24員環のクラウンエーテルを含め、線状分子としての二級アンモニウム塩化合物をその空孔に取り込み、貫通構造をした化合物(包接化合物、包接錯体)であるロタキサン又は(疑似)ロタキサンを形成できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明に使用される二級アンモニウム塩化合物としては、アミン誘導体を含め、クラウンエーテル誘導体の空孔に取り込まれ、貫通構造をした化合物(包接化合物、包接錯体)であるロタキサン又は(疑似)ロタキサンを形成できるものであれば、特に限定されるものではない。なお、本発明に使用されるクラウンエーテル誘導体及び二級アンモニウム塩化合物としては、特許文献1に記載されたクラウンエーテル誘導体及び二級アンモニウム塩化合物のみならず、非特許文献1~3に記載されたクラウンエーテル誘導体及び二級アンモニウム塩化合物を参照できる。
【0017】
本発明の製造方法においては、半揮発性有機化合物(SVOC、Semi Volatile Organic Compounds)に相当するスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒(SVOC溶媒)の存在下で包接構造を形成するものであり、スルホラン誘導体としては3-メチルスルホラン(比誘電率29、沸点279℃)などを挙げることができる。スルホラン誘導体は、単独で使用することもでき、又は、スルホランとの混合物として使用することもできる。包接構造形成時にSVОC溶媒のみを使用すれば、揮発性有機化合物に相当する有機溶媒(VOC溶媒)の使用量をゼロにでき、VOCの環境への揮散もなく本発明のゲルを製造できる点で好ましい。さらに、SVOC溶媒を使用することにより、VOC溶媒を使用して生成したゲルにおける着色の問題も発生しない。スルホランとスルホラン誘導体とからなる混合溶媒におけるスルホラン誘導体の量は、特に限定されず、混合溶媒の合計質量の0.1~99.9質量%とするなど任意の量にすることができる。本発明において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒とは、スルホランからなる有機溶媒、スルホラン誘導体からなる有機溶媒、及びスルホランとスルホラン誘導体とからなる有機溶媒に加えて、本発明の効果を奏する範囲において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含むと共にその他の有機溶媒も含む有機溶媒であっても使用できる。なお、世界保健機関(WHO)の定義によれば、半揮発性有機化合物は沸点が240-260℃~380-400℃の範囲の有機化合物が対象とされている。その他の有機溶媒としては、包接して錯体形成して(疑似)ロタキサンが生成できるものであればよく、例えば、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、アセトン、アセトニトリルニトロメタンなどのVOC溶媒が挙げられる。VOC溶媒の比誘電率としては、2~36が好ましい。VOC溶媒の沸点としては、40~140℃のものが好ましく、40~100℃がより好ましい。VOC溶媒の比誘電率が36より大きく沸点が140℃より高いものはロタキサンの包接構造が生成しにくく、比誘電率が36以下で沸点140℃以下であって、なるべく両方の数値が低いものの方が生成したゲル中のVOCの含有量を低減しやすい。溶媒におけるVOC溶媒の割合は、溶媒の合計質量の0.1~50質量%でよいが、寸法安定性の観点からは、生成したゲルからVOC溶媒が揮発してもその体積の収縮が見かけ上区別できない割合にすることが好ましく、特にゲルの使用環境下、例えば、その使用温度において体積の収縮が見かけ上区別できない割合以下にすることがより好ましい。このゲルの寸法安定性の観点及び環境負荷の低減の観点からは、VOC溶媒は溶媒の合計質量の0.1~5質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。また、このように体積の収縮がほとんどみられない程度のVOC溶媒の含有割合であれば、その後のVOC溶媒の除去工程(置換工程)が簡素化されるか又は不要となる。
【0018】
また、本発明の製造方法は、半揮発性有機化合物に相当するスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下で包接構造を形成すると共にゲルを生成し、かかる有機溶媒を置換することなく、その有機溶媒を加えて再膨潤化するものである。これまでは、クロロホルムのような揮発性有機化合物に相当する有機溶媒の存在下で、包接構造を形成することで(擬)ロタキサンポリマーゲルを合成した後、かかる有機溶媒を除去して乾燥し、より揮発性の低い有機溶媒やスルホランなどの異なる有機溶媒で再膨潤していたが、本発明は、包接構造の形成に使用した有機溶媒をそのまま再膨潤化工程においても使用できるものであり、従来の再膨潤化工程における溶媒置換を省略できるものである。さらに、生成した(擬)ロタキサンポリマーゲルをスルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒に浸して再膨潤をさせると、ゲルの膨潤度が高いものが得られる。膨潤後のゲルは、気泡ができにくく形状保持性が高いものであり、従来のゲルよりも透明なゲルが得られる。なお、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体とVOC溶媒とを混合した有機溶媒を使用して(擬)ロタキサンポリマーゲルを得て、VOC溶媒を一定程度除去してから別途有機溶媒に浸して再膨潤化してもよい。再膨潤化に使用する有機溶媒は、ゲル生成の際に使用する有機溶媒と同じ溶媒を使用できるが、VOC溶媒に相当する有機溶媒の使用を極力減らすことが好ましく、VOC溶媒を使用しないでスルホラン及び/又はスルホラン誘導体のみを使用することがより好ましい。VOC溶媒を使用しないことで、環境負荷が低減できる他に、再膨潤化の際の膨潤度が大きくできる、気泡の生成が防止できる又はゲルの着色が防止できる、のいずれかに寄与するからである。なお、再膨潤後のゲルにはVOC溶媒が極力残留しないほうがよいが、ゲルの形状の変化が見かけ上みられない程度に残留しても差し支えない。VOC溶媒を再膨潤化に使用する溶媒として混合使用する場合、溶媒の合計質量に対するVOC溶媒の質量の割合は、ゲルを生成させる際の割合と同様にするとよい。
以下に、実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらにより何ら限定されるものではない。
【実施例0019】
[スルホランを溶媒として使用したロタキサンゲルの製造]
図1に示した24員環のクラウンエーテル誘導体102.4mg(0.121mmol)と2級アンモニウム塩化合物70.6mg(0.121mmol)をモル比1:1として秤量したサンプル管に加え、2級アンモニウム塩化合物又はクラウンエーテル誘導体に対して2当量の3、6-ジオキサ-1、8-オクタンジチオ―ル44.4mg(0.244mmol)とスルホラン(SLと表記)0.6858gとの混合溶液を加えて均一な反応溶液を調製した。その後、開始剤としてベンゾフェノンを4.4mg添加し、直径×高さを8mm×4mmの円柱状にくり抜いたシリコンの型に0.163 gの反応溶液を流し込みUV照射を2分間行い、スルホランを含有したロタキサンゲルを作製した(ポリマー含有量は仕込み比換算で約25wt%)。
なお、従来技術として、溶媒をスルホランに変えてクロロホルムを使用して、上記と同様の手順で、クロロホルムを含有したロタキサンゲルを調製した。
【0020】
上記製造したロタキサンゲルについて、以下のとおり、物性を検討した。
(1)製造したロタキサンゲルの外観
図2に、上記製造工程において、2分間のUV照射の後、70℃で48時間乾燥した後のスルホランを使用して製造したロタキサンゲルの外観及びクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルの外観を示す。スルホランを使用して製造したロタキサンゲルは、クロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルに比べて、透明度の高いゲルが製造できた。このことは、スルホランの揮発性が低いことから、着色成分が濃縮されていないことに起因していると考えられる。
【0021】
(2)反応前後の重量変化
スルホランを使用して製造したロタキサンゲル及びクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルについて、2分間のUV照射前後のゲルの重量変化を調べた。結果を表1に示す。
【0022】
【0023】
揮発性の低いスルホランを使用して製造したロタキサンゲルは、UV照射前後で重量変化が起きていないことから、高い寸法安定性を示すことがわかった。一方、沸点が61℃であるクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルは、UV照射前後でクロロホルムが揮発して重量が減少した。なお、揮発性の高いクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルでは、最終的に約90%のクロロホルムが蒸発した。
【0024】
(3)再膨潤時における膨潤度の変化
スルホラン又はクロロホルムを有機溶媒として使用して製造したロタキサンゲルを70℃で48時間乾燥した後、ポリマー化したロタキサンとして4mg含有した円柱状のサンプルをスルホラン1gに30℃で含浸させることで再膨潤させ、その後の膨潤度[(膨潤ゲル重量-4mg)/4mg]を算出した。その結果を表2に、外観写真を
図3に示す。また、
図4にはスルホランでの再膨潤前後のサンプルのサイズの変化の写真を示す。
【0025】
【0026】
スルホランを使用して製造したロタキサンゲルとクロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルとでは、スルホランを使用した再膨潤時における挙動に違いがみられた。表2からは、ロタキサンゲルの製造工程からスルホランを用いて製造したロタキサンゲルにおいては、再膨潤化のために追加で加えたスルホランをさらに大量に吸収し、体積換算で約4倍の変化が観察された。一方、クロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルでは約2倍の体積変化に留まったことから、溶媒(クロロホルム)の揮発により濃縮されたロタキサンゲルを再膨潤する場合、スルホランを吸収しにくいことがわかった。さらに、
図3及び
図4からは、スルホランを使用して製造したロタキサンゲルは、透明度が高く、気泡に発生のない、外観上損傷のないゲルが得られることがわかった。一方、クロロホルムを使用して製造したロタキサンゲルは、着色していると共に、気泡が含まれており、再膨潤後のロタキサンゲルの仕上がりに影響を与えることがわかった。
クラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を有するネットワークポリマーゲルの製造方法において、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体を含む有機溶媒の存在下でクラウンエーテル誘導体と二級アンモニウム塩化合物との包接構造を形成するとともにゲルを生成することができる。また、このゲルを膨潤化することにより、溶媒置換の工程が不要になると共に、揮発性有機化合物に起因する環境への負荷を低減することができ、さらに、溶媒置換の工程を必要としないスルホランを使用する一段階でのロタキサンゲルの製造方法により、透明性、寸法安定性が高く、気泡のない外観上損傷のない材料が得られる。半(準)揮発性有機溶媒は極性が高いため金属塩の溶解も可能であることから二次電池における電解液としての利用も期待される。