(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025059785
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
H04R 7/04 20060101AFI20250403BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20250403BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
H04R7/04
H04R7/12 A
H04R7/12 K
H04R7/12 Z
H04R7/02 D
H04R7/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170087
(22)【出願日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下(村瀬) 真央
(72)【発明者】
【氏名】粟野 利宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
【テーマコード(参考)】
5D016
【Fターム(参考)】
5D016AA08
5D016AA09
5D016CA05
5D016EA05
5D016EC02
5D016EC03
(57)【要約】
【課題】炭素繊維を含む繊維強化樹脂を用いた振動板を含む音響装置であって、発せられる音の周波数によって音圧が変動しにくい音響装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、炭素繊維とを含む、繊維強化樹脂を含む振動板と、前記振動板と接して配置されたアクチュエータと、を含む、音響装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、炭素繊維とを含む、繊維強化樹脂を含む振動板と、
前記振動板と接して配置されたアクチュエータと、
を含む、音響装置。
【請求項2】
前記炭素繊維の重量平均繊維長は、1.0mm以上である、
請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂である、
請求項1または2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂である、
請求項3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記炭素繊維の含有量は、前記繊維強化樹脂の全質量に対して5質量%以上75質量%以下である、
請求項1または2に記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂組成物に強化繊維(炭素繊維など)を含有させた繊維強化樹脂は、軽量かつ高強度な成形体を成形できることから各種用途に使用されている。例えば、繊維強化樹脂は、スピーカーなどの音響装置に含まれる振動板に用いられてもよい。
【0003】
例えば、特許文献1には、平板状の振動板と、上記振動板を板厚方向に加振するアクチュエータと、上記振動板と上記アクチュエータとの間に配置された接続板とを備える平面スピーカーが開示されている。特許文献1では、上記振動板の材料として、樹脂およびカーボンファイバーなどを組み合わせた材料が用いられ得るとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、熱可塑性樹脂炭素繊維複合材料からなるスピーカー振動板を有し、平均繊維長が0.01~0.5mmである炭素繊維の割合が、全炭素繊維中60重量%以上である、スマートスピーカーが開示されている。特許文献2によれば、上記スマートスピーカーは、明瞭な音声を発することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-038185号公報
【特許文献2】特開2020-053925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2のように、炭素繊維を含む繊維強化樹脂を用いた振動板を備える音響装置が知られている。
【0007】
ところで、音響装置では、例えば、高音と低音とで聞こえ方が異なるなどの現象の発生を抑制する観点から、発せられる音の周波数によって音圧が変動しないことが望ましい。そのため、発せられる音の周波数によって音圧が変動しない音響装置の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、炭素繊維を含む繊維強化樹脂を用いた振動板を含む音響装置であって、発せられる音の周波数によって音圧が変動しにくい音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[1]~[5]の音響装置に関する。
[1]熱可塑性樹脂と、炭素繊維とを含む、繊維強化樹脂を含む振動板と、
前記振動板と接して配置されたアクチュエータと、
を含む、音響装置。
[2]前記炭素繊維の重量平均繊維長は、1.0mm以上である、
[1]に記載の音響装置。
[3]前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂である、[1]または[2]に記載の音響装置。
[4]前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の音響装置。
[5]前記炭素繊維の含有量は、前記繊維強化樹脂の全質量に対して5質量%以上75質量%以下である、
[1]~[4]のいずれかに記載の音響装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明は、炭素繊維を含む繊維強化樹脂を用いた振動板を含む音響装置であって、発せられる音の周波数によって音圧が変動しにくい音響装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、本実施形態における音響装置の外観を表した模式図である。
図1Bは、音響装置の使用時の例示的な態様を表した模式図である。
【
図2】
図2は、アクチュエータの例示的な構成を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は本発明の変形例1に係る音響装置の例示的な構成を模式的に表した模式断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例において作製した、評価用成形体の外観を表す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例において、評価用成形体の壁面にアクチュエータを貼り付けた様子を表した模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例において、音圧変動性を評価するときの様子を表した模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例において評価した、音圧に対する周波数の影響を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0013】
1.音響装置の構成
図1Aは、本実施形態における音響装置100の外観を表した模式図であり、
図1Bは、音響装置100の使用時の例示的な態様を表した模式図である。本実施形態における音響装置100は、熱可塑性樹脂と、炭素繊維とを含む、繊維強化樹脂を含む振動板110と、上記振動板110と接して配置されたアクチュエータ120と、を含む。音響装置100は、例えば、スピーカーである。
【0014】
音響装置100では、炭素繊維を含む、繊維強化樹脂を含む振動板110とアクチュエータ120とが接して配置されており、アクチュエータ120の振動が振動板110に伝わり、振動板110から音が発せられる。本発明者らは、炭素繊維を含む繊維強化樹脂を含む振動板110とアクチュエータ120とが接して配置されていることにより、振動板110の振動から発せられる音の周波数ごとの音圧の差を低減できることを見出した。これについて、以下のような理由が考えられる。
【0015】
繊維強化樹脂に炭素繊維が含まれることで、振動板110の弾性率を高めることができる。振動板110の弾性率を高めることで、振動板110内における、アクチュエータ120から伝わる弾性波の伝搬速度を速くすることができる。これにより、共振現象の影響を受けにくくなり、特定の周波数において音圧が顕著に高くなることを抑制できる。
【0016】
ここで、アクチュエータ120が振動板110に接して配置されていることで、上記弾性波が減衰しにくくなる。これにより、特定の周波数(特に、減衰が生じやすい高周波域)における音圧が低くなることを抑制できる。
【0017】
これらの理由により、音響装置100から発せされる音は、周波数ごとの音圧の差が少ないため、周波数によって音圧が変動しにくくなると考えられる。
【0018】
以下、上記知見に基づいて、音響装置100の構成を説明する。
【0019】
1-1.振動板
振動板110は、繊維強化樹脂を含む。本明細書において、「振動板」は、アクチュエータ120と接しており、アクチュエータ120から振動が伝えられることで振動し、音を発することができる部材のことをいう。振動板110の形状は、平板状または一定の厚みを有する壁部で構成される立体形状であればよい。たとえば、振動板110の形状は、コーン状、ドーム状、および箱型状などであってもよい。本実施形態では、振動板110の形状は、
図1に示されるように、箱型状である。また、振動板110の平面視形状は、特に限定されず、例えば、長方形、円形、楕円形などである。
【0020】
本実施形態において、箱型の振動板110は、底面に対抗する位置に形成された開口部110aと、複数の壁部110bを有し、開口部110aから箱型の振動板110の壁部110bにアクチュエータを配置させることができる。また、
図1Bに示されるように、本実施形態では、底面が上面となるように、振動板110を配置させて音響装置100を使用する。開口部110aの形状は、特に限定されないが、例えば、長方形、円形、楕円形などである。
【0021】
上記複数の壁部110bの厚さ(
図1Aの矢印aおよび矢印bの長さ)は、それぞれ異なっていても良いし、同じであってもよい。上記複数の壁部110bの厚さは、特に限定されないが、箱型の振動板110の、上記厚さの方向の長さ(例えば、
図1Aにおいて、矢印aについては矢印Aの長さである)に対して、0.2%以上3%以下の長さであることが好ましい。特に、アクチュエータ120と接している壁部110bの厚さ(
図1Aにおける矢印bの長さ)については、箱型の振動板110の、上記厚さの方向の長さ(
図1Aにおける矢印Bの長さ)に対して、0.3%以上4%以下の長さであることがより好ましい。上記厚さが上記範囲にあることで、周波数ごとの音圧の変動をより抑制できる。
【0022】
1-1-1.繊維強化樹脂
繊維強化樹脂は、熱可塑性樹脂と、炭素繊維とを含む
【0023】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0024】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。これらのうち、音響装置100から発せされる音の周波数ごとの音圧の変動をより抑制する観点からポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0025】
上記ポリオレフィン樹脂の例には、α-オレフィン、環状オレフィン、非共役ジエン、および芳香族オレフィンなどの重合体が含まれる。これらのうち、α-オレフィンを主成分とする重合体が好ましい。α-オレフィンの炭素数は、2以上20以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、2以上8以下であることがさらに好ましい。このようなα-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、3-メチル-1-ブテン、および4-メチル-1-ペンテンなどが含まれる。これらのうち、音響装置100から発せされる音の周波数ごとの音圧の変動をより抑制する観点から、プロピレンが好ましい。すなわち、上記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。上記ポリプロピレン樹脂は、プロピレン単独重合体であることが好ましい。
【0026】
上記ポリオレフィン樹脂は、未変性ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性してなる樹脂(変性ポリオレフィン樹脂)であってもよい。上記変性ポリオレフィン樹脂は、変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0027】
変性に用いる不飽和カルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、およびアンゲリカ酸などの不飽和モノカルボン酸、ならびに、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、テトラヒドロフタル酸、ノルボルネンジカルボン酸、およびビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和ジカルボン酸などが含まれる。
【0028】
変性に用いる不飽和カルボン酸誘導体の例には、上記した不飽和カルボン酸の酸無水物、酸ハライド化物、エステル化物、アミド化物、イミド化物、および金属塩などが含まれる。上記不飽和カルボン酸誘導体の具体例には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、およびビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物、塩化マレニルなどの不飽和ジカルボン酸ハライド化物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸グリシジルなどのメタクリル酸エステル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジメチル、およびマレイン酸ジエチルなどのマレイン酸エステル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジメチル、およびビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチルなどのその他のエステル化物、アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド、アクリル酸ナトリウム、ならびにメタクリル酸ナトリウムなどが含まれる。
【0029】
これらのうち、不飽和ジカルボン酸またはその誘導体が好ましく、不飽和ジカルボン酸
またはその無水物がより好ましく、マレイン酸または無水マレイン酸がさらに好ましい。
【0030】
なお、熱可塑性樹脂は、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、およびスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)などのスチレン系熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0031】
本実施形態において、熱可塑性樹脂は、繊維強化樹脂中に1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上が組み合わされて含まれていてもよい。繊維強化樹脂が2種類以上の熱可塑性樹脂を含むとき、熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン樹脂(好ましくはポリプロピレン樹脂)と、変性ポリオレフィン樹脂(好ましくは変性ポリプロピレン樹脂)と、ポリアミド樹脂との混合物、ポリオレフィン樹脂(好ましくは変性ポリプロピレン樹脂)との混合物などであってもよい。
【0032】
上記ポリアミド樹脂の例には、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド6/14、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド10/10、ポリアミド10/12、ポリアミド10/Tなどが含まれる。
【0033】
繊維強化樹脂が2種類以上の熱可塑性樹脂を含むとき、音響装置100から発せされる音の、周波数毎の音圧の変動をより抑制する観点から、熱可塑性樹脂の全質量に対する、ポリオレフィン樹脂(変性ポリオレフィン樹脂を含む)の含有量は、60質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂のうち、変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。変性ポリオレフィン樹脂の含有量が上記範囲にあることで、炭素繊維への樹脂成分の含浸性が良好となり、樹脂成分が含浸されていない炭素繊維(ドライファイバー)による成形体の割れを抑制できる。
【0035】
熱可塑性樹脂の全質量に対する、ポリアミド樹脂の含有量は、0質量%以上50質量%以下であることが好ましく0質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂の含有量が0質量%以上であることで、成形体の機械特性が高まりやすくかつ成形体の引張クリープ歪をより小さくしやすい。また、ポリアミド樹脂の含有量が50質量%以下であることで、炭素繊維への樹脂成分の含浸性が良好となり、樹脂成分が含浸されていない炭素繊維(ドライファイバー)による成形体の割れを抑制できる。
【0036】
熱可塑性樹脂は、炭素繊維への含浸性を高める観点から、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/minで測定される融点が、130℃以上180℃以下であることが好ましく、140℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂は、炭素繊維への含浸性を高める観点から、JIS K 7210(2014)に準拠して2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR)が0.01g/10min以上300g/10min以下であることが好ましく、1g/10min以上300g/10min以下であることがより好ましい。
【0038】
繊維強化樹脂の全質量に対する、熱可塑性樹脂の含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が50質量%以上であることで、繊維強化樹脂の成形性が高まり、振動板110が所望の形状に成形されやすい。また、上記含有量が95質量%以下であることで、炭素繊維をより多く繊維強化樹脂中に含ませやすくして、振動板110の強度を高めることができる。
【0039】
(炭素繊維)
本実施形態では、炭素繊維は、マトリクス樹脂である熱可塑性樹脂中にランダムに分散されている。
【0040】
炭素繊維は、ポリアクリルニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース系、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系などのいずれの炭素繊維であってもよい。炭素繊維は汎用繊維でよく、高強度繊維でもよい。また、炭素繊維は、リサイクル繊維であってもよい。
【0041】
上述のように、炭素繊維により、音響装置から発せされる音の、発せられる音の周波数によって音圧が変動しにくくなる。また、繊維強化樹脂に炭素繊維が含まれることで、振動板110の機械強度(特に、曲げ強度および曲げ弾性率)を高めることができる。
【0042】
炭素繊維の重量平均繊維長(Lw)は、1.0mm以上であることが好ましく、1.0mm以上5mm以下であることがより好ましく、1.2mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。上記重量平均繊維長が1.0mm以上であることで、振動板110の弾性率をより高めることができる。これにより、振動板110内の弾性波の伝搬速度がより速くなるため、音響装置100から発せされる音は、周波数によって音圧がより変動しにくくなる。ここで、重量平均繊維長は、値の増減と、振動板110の弾性率の増減との相関性が高い。そのため、本実施形態における炭素繊維の繊維長については、重量平均繊維長を採用することが好ましい。
【0043】
上記重量平均繊維長は、以下の式(1)により求めることができる。
Lw=ΣNi・Li2/(ΣNi・Li) (1)
Li:繊維長[μm]
Ni:繊維長がLiである炭素繊維の本数[-]
【0044】
式(1)における繊維長Liは、例えば、振動板110の一部を切り取って得られる、試験片に含まれる樹脂組成物を熱分解または溶媒への溶解などで除去して観察用の試験片を作製し、光学顕微鏡で上記試験片を撮影して画像解析を行って、測定することができる。
【0045】
炭素繊維の平均繊維径(Da)は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。上記平均繊維径が0.1μm以上であると、炭素繊維を集束するときなどに、より少量の炭素繊維のみを束ねればよいため、樹脂組成物の生産性を高めることができる。また、上記平均繊維径が0.1μm以上であると、炭素繊維が破損しにくいため、振動板110の弾性率をより高めることができる。これにより、振動板110内の弾性波の伝搬速度をより速くして、音響装置100から発せされる音の、周波数ごとの音圧の変動をより生じにくくすることができる。上記平均繊維径が50μm以下であると、炭素繊維のアスペクト比をより高めやすくして、振動板110の強度低下を抑制することができる。
【0046】
上記平均繊維径は、例えば、振動板110の一部を切り取って得られる、試験片に含まれる樹脂組成物を熱分解または溶媒への溶解などで除去して観察用の試験片を作製し、光学顕微鏡で上記試験片を撮影して画像解析を行って、測定することができる。
【0047】
炭素繊維は集束剤により集束されていてもよい。集束剤は、アクリル系集束剤、ウレタン系集束剤、酸共重合物系集束剤などのいずれの集束剤であってもよい。これらのうち、炭素が平均繊維長1.0mm以上の長繊維であるときは、樹脂成分の含浸性が良好となることから、アクリル系集束剤および酸共重合物系集束剤が好ましく、酸共重合物系集束剤がより好ましい。
【0048】
炭素繊維は、その表面が、酸化エッチングや被覆などの表面処理を施されていてもよい。酸化エッチング処理の例には、空気酸化処理、酸素処理、酸化性ガスによる処理、オゾンによる処理、コロナ処理、火炎処理、(大気圧)プラズマ処理、ならびに酸化性液体(硝酸、次亜塩素酸アルカリ金属塩の水溶液、重クロム酸カリウム-硫酸、および過マンガン酸カリウム-硫酸)による処理などが含まれる。炭素繊維を被覆する物質の例には、炭素、炭化珪素、二酸化珪素、珪素、プラズマモノマー、フェロセン、および三塩化鉄等などが含まれる。
【0049】
炭素繊維の含有量は、繊維強化樹脂の全質量に対して、5質量%以上75質量%以下であることが好ましく、5質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が、5質量%以上であることで、振動板110の弾性率をより高めて、振動板110内の音の伝搬速度をより速くすることができる。これにより、音響装置100から発せされる音の、周波数ごとの音圧の変動をより生じにくくすることができる。
【0050】
(その他の成分)
繊維強化樹脂は、上述した成分以外の成分を含んでもよい。その他の成分の例には、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、および帯電防止剤などが含まれる。これらの成分は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
難燃剤の例には、ハロゲン化芳香族化合物などのハロゲン系難燃剤、窒素含有リン酸塩化合物およびリン酸エステルなどのリン系難燃剤、グアニジン、トリアジンおよびメラミンならびにこれらの誘導体などの窒素系難燃剤、金属水酸化物などの無機系難燃剤、ホウ素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、硫黄系難燃剤、ならびに赤リン系難燃剤などが含まれる。
【0052】
難燃助剤の例には、アンチモン化合物、亜鉛を含む金属化合物、ビスマスを含む金属化合物、水酸化マグネシウム、および粘土質珪酸塩などが含まれる。
【0053】
充填剤の例には、ガラスビーズおよびガラスフレークなどのガラス成分、シリカ、黒鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルクおよびクレーなどの珪酸化合物、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、およびアルミナなどの金属酸化物、カルシウム、マグネシウム、ならびに、金属の炭酸塩または硫酸塩などが含まれる。
【0054】
着色剤の例には、顔料および染料が含まれる。
【0055】
1-1-2.振動板の作製方法
上述した熱可塑性樹脂、炭素繊維およびその他の成分を含む繊維強化樹脂を用いて、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形などの公知の成形方法を採用することにより、振動板110を作製できる。
【0056】
振動板の材料となる繊維強化樹脂は、上述の各成分を溶融混錬して作製できる。
【0057】
上記溶融混練する方法は、特に限定されない。例えば、上述の各成分を、ロールミル、バンバリーミキサー、およびニーダーなどの溶融混練機で溶融混練してもよいし、タンブラー式ブレンダー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサーなどの混練機でドライブレンドした後に、一軸押出機および二軸押出機などの押出機で溶融混練して押出してもよい。また、溶融混練された溶融状態の繊維強化樹脂は、そのまま成形機に射出されて成形されてもよいし、押出されて所定の形状(例えば、ペレット状など)に加工して固体状態の繊維強化樹脂組成物とした後に、成形されてもよい。
【0058】
射出成形法を用いて振動板110を作製するとき、用いる繊維強化樹脂は、ペレット状の繊維強化樹脂であってもよい。このとき、ペレット状の繊維強化樹脂は、炭素繊維が一方向に配向して配列された樹脂組成物であってもよいし、炭素繊維がランダムに配向して配置された樹脂組成物であってもよい。なお、炭素繊維は、切れ込み(スリット)を入れられることにより部分的に切断されていてもよい。
【0059】
炭素繊維が一方向に配向して配列された樹脂組成物は、例えば、炭素繊維の重量平均繊維長が0.5μm以上10μm以下のペレット状樹脂組成物とすることができる。樹脂組成物において、炭素繊維の重量平均繊維長は、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。
【0060】
炭素繊維が一方向に配向して配列された樹脂組成物は、一方向に配向させて配列させた炭素繊維に樹脂成分およびその他の成分を含浸させて作製できる。例えば、一方向に配向させて配列させた炭素繊維を走行させて含浸ロールや含浸ダイスに導き、当該含浸ロールや含浸ダイスにおいて溶融した樹脂成分およびその他の成分に接触させることで、これらを含浸させることができる。含浸後は、樹脂成分を冷却固化させた後、ペレット状に加工して固体状態の繊維強化樹脂組成物とすることができる。
【0061】
1-2.アクチュエータ
アクチュエータ120は、振動を発生させるための部材である。
図2は、アクチュエータ120の例示的な構成を示す模式断面図である。
図2に示されるように、本実施形態において、アクチュエータ120は、ベース部121と、振動部122とを有する。ただし、アクチュエータ120の構成はこれに限定されない。
【0062】
ベース部121は、振動部122の一部を収容し、振動部122を支持する。ベース部121の形状は、特に限定されないが、例えば、角柱状、円柱状および楕円柱状である。ベース部121の材料は、特に限定されない。
【0063】
振動部122は、音響信号に対応する電力(電圧)が供給されることで振動する。振動部122の形状は、特に限定されないが、例えば、角柱状、円柱状および楕円柱状である。振動部122の材料は、例えば、銅、アルミなどの導電性材料である。本実施形態において、振動部122は、一部がベース部121に収容され、残部がベース部121から突出しており、軸方向に沿って往復振動する。なお、振動部122は、配線を通して電圧を振動部122に供給するための電極(不図示)を有していてもよい。
【0064】
本実施形態に関する音響装置100では、アクチュエータ120の振動部122は、振動板110に接して配置されている。
【0065】
なお、本明細書において、アクチュエータ120が振動板110と「接して」配置されているとは、これらの部材が単に分離可能に接触している態様のほか、接着剤その他の方法により接着または接合されている態様も含む。本明細書において、「接着」とは、2つの部材の表面が、化学的相互作用(化学的結合)、分子間力または機械的結合によって結合されている状態をいう。また、本明細書において、「接合」とは、2つの部材のうち少なくとも一方(たとえばアクチュエータ120のベース部121)を加熱して、2つの部材が融着されている状態をいう。上記その他の方法の例には、アクチュエータ120および振動板110をテープで貼り付けて接着する方法、両面粘着シートを用いてこれらの部材を接着する方法、ネジ等で直接固定、アクチュエータをインサートして射出成形やプレス成形により接合する方法などが含まれる。
【0066】
すなわち、アクチュエータ120および振動板110の振動部122の間には、接着剤に由来する接着層、およびテープ、両面粘着シートなどの接着部材が含まれていてもよい。ただし、アクチュエータ120(振動部122)および振動板110の間には、上記接着層および上記接着部材以外の層および部材は含まれない。そして、アクチュエータ120(振動部122)と振動板110とは、直接接触して、あるいは接着層または接着部材を介して、密着している。
【0067】
上記接着剤の例には、エポキシ樹脂を含むエポキシ系接着剤や、シリコーン樹脂を含むシリコーン接着剤などが含まれる。なお、上記接着層は、シランカップリング剤などのカップリング剤を含んでもよい。
【0068】
音響装置100から発せられる音の、周波数ごとの音圧の変動をより抑制する観点からは、アクチュエータ120と振動板110とは、接着層および上記接着部材を介さずに、直接接触して密着されていることが好ましい。また、アクチュエータ120は、振動板110の平面部分と接していることが好ましい。
【0069】
音響装置100に配置されるアクチュエータ120の数は、特に限定されないが、1つの振動板110に対し、アクチュエータ120が1つ配置されることがより好ましい。
【0070】
また、振動板110の、振動板110とアクチュエータ120との接触面を含む同一平面における、単位面積あたりのアクチュエータ120の数(個/m2)は、1以上5以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましい。上記単位面積あたりのアクチュエータ120の数(個/m2)が5以下であると、弾性波の干渉や位相のずれなどが生じにくくなり、音響装置100から発せされる音の、周波数ごとの音圧の変動がより起きにくくなる。
【0071】
また、本実施形態において、アクチュエータ120(1枚の振動板110に対してアクチュエータ120が複数あるときは、少なくとも1つのアクチュエータ120)は、振動板110の平面部に接して配置されてもよいし、振動板110の縁や端面部に接して配置されてもよい。音響特性を向上させる観点からは、アクチュエータ120は、振動板110の平面部に接して配置されることが好ましい。
【0072】
本実施形態では、アクチュエータ120(1枚の振動板110に対してアクチュエータ120が複数あるときは、少なくとも1つのアクチュエータ120)は、振動板110の、振動板110とアクチュエータ120との接触面を含む同一平面において、上記平面の中央に配置されることが好ましい。これにより、音響装置100から発せされる音は、周波数によって音圧がより変動しにくくなる。なお、本明細書において、「中央に配置される」とは、振動板110(上記平面)の中心(重心)が、アクチュエータ120(振動部122)と振動板110との接触面に含まれるように、アクチュエータ120が配置されることをいう。
【0073】
振動板110の、振動板110とアクチュエータ120との接触面を含む同一平面の面積に対する、アクチュエータ120と振動板110との接触面積(アクチュエータ1個あたりの接触面積)の割合は、0.2%以上5%以下であることが好ましく、0.3%以上3%以下であることがより好ましい。上記割合が上記範囲にあることで、音響装置100から発せされる音の、周波数ごとの音圧の変動をより生じにくくすることができる。
【0074】
1-3.その他の部材
音響装置100は、振動板110およびアクチュエータ120以外の部材を有していてもよい。たとえば、音響装置100は、アクチュエータ120を収容するための筐体をさらに有していてもよいし、振動板110およびアクチュエータ120を載置するための基板をさらに有していてもよい。
【0075】
音響装置100は、上述の各部材を組み立て、振動板110とアクチュエータ120とを接触させるように配置させることで製造できる。なお、振動板110およびアクチュエータ120のみからなる音響装置100を、持ち運び可能な構成としてもよい。
【0076】
2.変形例
(変形例1)
図3は、本発明の変形例1に係る音響装置100の例示的な構成を表す模式断面図である。変形例1に係る音響装置100では、振動板110の形状は平板状である。そのため、変形例1に係る音響装置100は、平面スピーカーとして使用できる。
【0077】
変形例1では、振動板110の厚さは、アクチュエータ120の厚さに対して、6%以上70%以下の厚さであることが好ましく、10%以上40%以下の厚さであることがより好ましい。上記厚さが上記範囲にあることで、音響装置100から発せられる周波数ごとの音圧の差をより低減できる。
【0078】
3.その他
音響装置100は、上記以外の形状を有するスピーカーであってもよく、例えば、コーン型スピーカー、ドーム型スピーカー、ホーン型スピーカーなどであってもよい。また、音響装置100は、振動板110およびアクチュエータ120によって音が発せられる装置であれば、上記のスピーカー以外の装置であってもよい。音響装置100は、例えば、壁に配置したり、ドアに配置したり、車室内等に配置されて用いられてもよい。
【実施例0079】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0080】
1.材料の用意
以下の材料を用意した。
【0081】
1-1.熱可塑性樹脂
・ポリプロピレン樹脂(PP-1)
株式会社プライムポリマー製 プライムポリプロJ13B、MFR(JIS K7210(2014)準拠、230℃、2.16kg加重):220g/10min
・ガラス繊維複合ポリプロピレン樹脂(PP-2)
株式会社プライムポリマー製 モストロンL-4070PL、ガラス繊維含有量:40質量%
・ポリプロピレン樹脂(PP-3)
株式会社プライムポリマー製 プライムポリプロJ137G、MFR(JIS K7210(2014)準拠、230℃、2.16kg加重):30g/10min
・マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(PP-4)
・ポリアミド樹脂(PA)
ポリアミド12、UBE株式会社製 UBESTA 3012U
【0082】
上記マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(PP-4)は、以下のように作製した。
【0083】
100質量部のポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製 J106G)に対して、1質量部のジアルキルパーオキサイド(日油株式会社製 パーヘキサ25B)と、3質量部の粉末化した無水マレイン酸(日油株式会社製 CRYSTAL MAN)を添加して予備混合した。この混合物を190℃に温度調節された二軸溶融混練押出機(JSW製 TEX30α、L/D=53、D=30mm)に供給して、200rpmの条件で溶融混練した。そして、溶融混練によって得られたストランドを水槽で冷却して、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを得た。その後、未変性の残留無水マレイン酸を除去するために、得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を40℃で2時間真空乾燥させた。これらの操作により、得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂のマレイン酸含有量は2.5質量%、MFR(JIS K7210(2014)準拠、230℃、2.16kg加重)は800g/10分であった。
【0084】
1-2.炭素繊維
・炭素繊維
東レ株式会社製 連続繊維(ロービング)
【0085】
2.繊維強化樹脂の作製
(繊維強化樹脂組成物1)
ポリプロピレン樹脂(PP-1)と、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(PP-4)と、ポリアミド樹脂(PA)とを表1に示した配合量で、250℃に温度調節されたスクリュー式押出機(JSW製 TEX30α)のホッパーに投入した。また、炭素繊維を、得られる繊維強化樹脂組成物1中の炭素繊維の割合が9質量%になるように、速度を調整して拡張開繊した。そして、開繊した炭素繊維を上記押出機のダイヘッドに導入し、ストランド化、および冷却固化し、ストランドカッターを用いてペレット化して、ペレット状の繊維強化樹脂(ペレット長:9mm)1を得た。
【0086】
(繊維強化樹脂組成物2)
長繊維複合ポリプロピレン樹脂(PP-2)と、ポリプロピレン樹脂(PP-3)とを、表1で示した割合で配合し、得られる繊維強化樹脂組成物2中のガラス繊維の割合が10質量%になるように混合し、繊維強化樹脂組成物2を得た。
【0087】
(繊維強化樹脂組成物3)
長繊維複合ポリプロピレン樹脂(PP-2)と、ポリプロピレン樹脂(PP-3)とを、表1で示した割合で配合し、得られる繊維強化樹脂組成物3中のガラス繊維の割合が30質量%になるように混合し、繊維強化樹脂組成物3を得た。
【0088】
3.評価用成形体の作製
繊維強化樹脂組成物1を、型締め力1300トンの射出成形機に投入し、
図4に示される、325mm×465mm×155mmの箱形成形体(評価用成形体)1(箱型の振動板)を、以下の条件を中心に、適宜条件を変更しながら射出成形した。上記評価用成形体は、2つの325mm×465mmの面のうちの一つが、面の内部に開口部110aを有し、上記開口部110aは、上記面の外縁から2mm離れた位置に形成されている。つまり、上記成形体の壁部の厚みは2mmである。なお、本実施例では、上記評価用成形体の内面のうち、開口部1aに対向する面を内底面とし、その外側の表面を底面とする。また、開口部110aと底面とを接続する4つの内面を内側面とする。
バレル温度 :250℃
金型温度 :60℃
【0089】
繊維強化樹脂組成物1の代わりに、繊維強化樹脂組成物2および繊維強化樹脂組成物3を用いて、上述の方法と同様にして、それぞれ箱形成形体(評価用成形体)2および箱形成形体(評価用成形体)3を射出成形した。評価用成形体2および評価用成形体3の寸法は、評価用成形体1と同様である。
【0090】
4.評価および測定
(平均繊維長)
評価用成形体1~3から一部を切り出して測定片1~3を作製した。そして、電気炉に上記測定片を投入し、下記温度条件で3時間放置し、測定片中のポリプロピレン樹脂を熱分解させた。その後、電気炉から炭素繊維またはガラス繊維のみを取り出し、光学顕微鏡を用いて炭素繊維またはガラス繊維の顕微鏡像を得た。得られた顕微鏡像の中から、無作為に500~2000本の炭素繊維またはガラス繊維を選択し、繊維長を測定した。測定した各繊維長を用いて、下記式(1)に基づき、重量平均繊維長を得た。
Lw=ΣNi・Li2/(ΣNi・Li) (1)
Li:繊維長[μm]
Ni:繊維長がLiである炭素繊維の本数[-]
【0091】
(曲げ弾性率および曲げ強度)
評価用成形体1~3から一部を切り出して、JIS K 7162(1994)に準拠した試験片1~3を作製した。試験片1~3について、ISO 178(2019)に準拠して、曲げ速度2mm/sで曲げ試験を行い、応力-歪み曲線に基づいて曲げ弾性率(GPa)および曲げ強度(MPa)を求めた。
【0092】
(成形体の比重)
JIS K 7112に準拠して、測定した。
【0093】
(音圧変動性)
図5は、評価用成形体の壁面にアクチュエータが直接接している状態で、アクチュエータの上からテープで貼り付けた様子を示した模式図であり、
図6は、音圧の変動性を評価する様子を模式的に示した模式図である。半無響室内で、評価用成形体1の461mm×153mmの内側面うち1つの内側面の中央(
図4に示す位置)に、アクチュエータ120(株式会社アクーヴ・ラボ製、バイブロトランスデューサ Vp408)を直接接している状態で、アクチュエータの上からテープを用いて取り付け、評価用成形体1を床に敷いたポリウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーション製、カームフレックスF2)の上に設置した。
【0094】
アクチュエータ120とパワーアンプ11(フォスター電機株式会社製、Fostex AP20d)とを接続した後、評価用成形体1を、底面(465mm×325mm)が上面になるように上下反転させ、パワーアンプの出力レベルを50%に設定した。FFTアナライザー13(PULSE、スペクトリス社製)のジェネレーター機能で、出力レベル1Vサインスイープ信号を出力し、パワーアンプを通してアクチュエータを振動させた。これにより、評価用成形体1を加振し、評価用成形体1からの放射音を、評価用成形体1の底面からの距離50mmの位置でマイクロホン12を用いて収録した。収録した放射音に基づき、FFTアナライザー13を用いて、周波[Hz]数ごとの音圧レベル[dB]の変化を求めた。結果を
図7に示した。求めた結果に基づき、以下の評価基準に従って、音圧の変動性を評価した。
○:周波数3000Hz~10000Hzの間で、音圧レベルの最大値と最小値との差が20dB未満である
×:周波数3000Hz~10000Hzの間で、音圧レベルの最大値と最小値との差が20dB以上である
【0095】
表1に各樹脂組成物の組成および評価結果を示した。表1における組成の数値の単位は質量部である。
【0096】
【0097】
表1および
図7に示されるように、熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含む、繊維強化樹脂を含む振動板と、アクチュエータが接して配置されていることで、周波数ごとの音圧の変動が抑制されていることがわかった。