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特開2025-5979コケモモを含んでなるオートファジー誘導剤
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  • 特開-コケモモを含んでなるオートファジー誘導剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005979
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】コケモモを含んでなるオートファジー誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20250109BHJP
   A61K 36/45 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20250109BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/45
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106463
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】金 辰也
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
4C088AB44
4C088AC04
4C088BA07
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】オートファジー誘導剤を提供する。
【解決手段】コケモモを含んでなる、オートファジー誘導剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コケモモを含んでなる、オートファジー誘導剤。
【請求項2】
オートファジーが表皮角化細胞において行われる、請求項1に記載のオートファジー誘導剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオートファジー誘導剤を含んでなる、食品組成物。
【請求項4】
コケモモを含んでなる、LC3IIタンパク質の産生促進剤。
【請求項5】
LC3IIタンパク質の産生促進が表皮角化細胞において行われる、請求項4に記載のLC3IIタンパク質の産生促進剤。
【請求項6】
請求項4または5に記載のLC3IIタンパク質の産生促進剤を含んでなる、食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コケモモを含んでなるオートファジー誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内のタンパク質や細胞内小器官(オルガネラ)は、不要となったら、あるいは必要に応じ、オートファジーによって分解され、その成分は細胞内で再利用される。オートファジーの活動は、通常状態の細胞では低レベルであるが、細胞が飢餓や低酸素等のストレス環境にさらされると、活発化する。オートファジーは、細胞質の一部が隔離膜によって取り囲まれてオートファゴソームとよばれる小胞を形成し、このオートファゴソームがリソソームと融合してオートリソソームとなって、包み込んだ内容物(老廃物や不要な蛋白質等)を分解するプロセスで進行する。
【0003】
オートファジーは、その活性の低下がさまざまな疾患や病状が生じる一因となることが知られており、例えば、神経変性疾患、感染症、炎症性疾患、免疫疾患、腎疾患、呼吸器疾患、眼疾患、筋疾患、ミトコンドリア病、生活習慣病、皮膚老化、その他の各種疾患等に関与していることが報告されている。
【0004】
かかる観点から、オートファジーを誘導する成分の探索が行なわれ、例えば、梅肉エキス中和処理物(特許文献1)、アマチャ、イチョウ、コガネバナ、テンニンカ、サクラ、ラン等の植物抽出物(特許文献2)、霊芝抽出物(特許文献3)、センダン抽出物(特許文献4)等にオートファジー誘導作用があることが報告されている。
【0005】
このように、オートファジー誘導剤としては様々なものが見出されているが、その効果は必ずしも十分ではなく、より優れた効果を有するオートファジー誘導剤が現在でも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-143452号公報
【特許文献2】特開2013-99305号公報
【特許文献3】特表2016-501861号公報
【特許文献4】特開2018-188480号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、オートファジー誘導剤を提供する。
【0008】
本発明者らは、コケモモがオートファジーのマーカーとして知られるLC3IIタンパク質の産生促進に有用であることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)コケモモを含んでなる、オートファジー誘導剤。
(2)オートファジーが表皮角化細胞において行われる、(1)に記載のオートファジー誘導剤。
(3)(1)または(2)に記載のオートファジー誘導剤を含んでなる、食品組成物。
(4)コケモモを含んでなる、LC3IIタンパク質の産生促進剤。
(5)LC3IIタンパク質の産生促進が表皮角化細胞において行われる、(4)に記載のLC3IIタンパク質の産生促進剤。
(6)(4)または(5)に記載のLC3IIタンパク質の産生促進剤を含んでなる、食品組成物。
(7)オートファジーの誘導を目的とする薬剤の製造のための、コケモモの使用。
(8)表皮角化細胞におけるオートファジーの誘導を目的とする薬剤の製造のための、(7)に記載の使用。
(9)LC3IIタンパク質の産生を促進することを目的とする薬剤の製造のための、コケモモの使用。
(10)表皮角化細胞におけるLC3IIタンパク質の産生を促進することを目的とする薬剤の製造のための、(9)に記載の使用。
(11)コケモモを含んでなる組成物の、オートファジーを誘導するための使用。
(12)表皮角化細胞におけるオートファジーを誘導するための、(11)に記載の使用。
(13)コケモモを含んでなる組成物の、LC3IIタンパク質の産生を促進するための使用。
(14)表皮角化細胞におけるLC3IIタンパク質の産生を促進するための、(13)に記載の使用。
(15)オートファジーを誘導するための、コケモモ。
(16)表皮角化細胞におけるオートファジーを誘導するための、コケモモ。
(17)LC3IIタンパク質の産生を促進するための、コケモモ。
(18)表皮角化細胞におけるLC3IIタンパク質の産生を促進するための、コケモモ。
(19)被験体において、オートファジーを誘導する方法であって、コケモモの有効量を投与することを含む、方法。
(20)表皮角化細胞におけるオートファジーを誘導する方法であって、コケモモの有効量を投与することを含む、(19)に記載の方法。
(21)被験体において、LC3IIタンパク質の産生を促進する方法であって、コケモモの有効量を投与することを含む、方法。
(22)表皮角化細胞におけるLC3IIタンパク質の産生を促進する方法であって、コケモモの有効量を投与することを含む、(21)に記載の方法。
【0010】
本発明によれば、オートファジー誘導剤が提供される。また、本発明によれば、LC3IIタンパク質の産生促進剤を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、アスコルビン酸またはコケモモを添加した培養液を用いた培養の開始3週間後の皮膚モデルにおけるメラニンの量を評価した結果を示した図である。
図2図2は、アスコルビン酸またはコケモモを添加した培養液を用いた培養の開始3週間後の皮膚モデルにおけるLC3IIタンパク質の量を評価した結果を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明の一つの態様によれば、オートファジー誘導剤が提供され、該オートファジー誘導剤は、コケモモを含んでなる。このようなオートファジー誘導剤は、オートファジーを誘導するための組成物であってもよい。
【0013】
本発明の別の一つの態様によれば、LC3IIタンパク質の産生促進剤が提供され、該LC3IIタンパク質の産生促進剤は、コケモモを含んでなる。このようなLC3IIタンパク質の産生促進剤は、LC3IIタンパク質の産生を促進するための組成物であってもよい。
【0014】
コケモモ(Vaccinium vitis-idaea(中国名称:越桔)またはVaccinium myrtillus L.(中国名称:越橘))は、リンゴンベリーとも呼ばれ、北欧の北極圏やカナダに数多く自生し、ビタミンCやクエン酸を豊富に含むことが知られている。果実は、生食されるとともに、ジュース、ジャムなどの加工食品に常用されている。
【0015】
本発明に用いられるコケモモの部位として、例えば、果実(未熟果実、完熟果実、乾燥果実)、葉、塊根、花、種子等が用いられ、好ましくは果実が用いられる。
【0016】
本発明に用いるコケモモは生のままでも乾燥したものでも使用することができる。本発明の一つの態様によれば「コケモモ」は、コケモモ果汁であり、これは果実を搾汁することにより得てもよい。また、本発明の別の一つの態様によれば「コケモモ」は、コケモモの全体またはその一部を使用して製造したコケモモエキスである。
【0017】
本発明におけるコケモモエキスの製造方法は、特に制限されず、当該技術分野において通常使用される方法に応じて製造することができ、例えば、エキスの原料を抽出することにより行ってもよい。前記抽出方法としては、限定されるわけではないが、例えば、熱水抽出法、超音波抽出法、ろ過法、還流抽出法、溶媒(例えばエタノール)抽出法等が挙げられる。これらは単独で実行、または2種以上の方法を併用して行ってもよい。また、高純度の抽出物を得るために抽出物を同様の方法で一回以上ずつさらに抽出してもよい。また、抽出を経ないエキスの製造方法としては、限定されるわけではないが、例えば、果実の搾汁と濃縮が挙げられ、当該技術分野において通常使用される任意の方法で行うことが可能である。
【0018】
本発明におけるコケモモエキスの製造のために使用される溶媒の種類は特に制限されず、本発明の目的効果を有するエキスが得られるものであれば、当該技術分野において公知となっている任意の溶媒を使用してもよい。そのような溶媒の例としては、限定されるわけではないが、例えば、水、炭素数1~4のアルコール、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム等が挙げられ、これらは2つ以上組み合わせて使用してもよい。
【0019】
コケモモ(果汁、乾燥粉末、エキス等を含む)が市販されている場合、本発明の目的効果を有するものが得られるのであれば、それを使用してもよい。
【0020】
本発明における「オートファジー」とは、タンパク質を含む細胞質成分やミトコンドリア等の細胞内オルガネラなどの細胞質内の一部を分解するシステムを意味し、このようなシステムは飢餓条件下でタンパク質を分解してアミノ酸を供給する機能、細胞内の老廃物を分解する機能等を有していることが知られている。オートファジーのシステムは正常な生体機能を維持する上で重要な役割を担っており、オートファジーのシステムの異常により老化が引き起こされ、細胞内の老廃物の蓄積に起因する症状、例えば器官や組織の機能不全等が生じ得る。オートファジーの機能を促進は、皮膚等の老化防止や健康寿命の延伸につながることが期待され、よって、本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、老化防止や健康寿命の延伸のためのものとされる。
【0021】
また、オートファジーのシステムの異常により、様々な疾患が引き起こされることも知られている。このような疾患としては、例えば、神経変性疾患、代謝異常、免疫異常、感染症、がん、その他の疾患等が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病、認知症等が挙げられる。代謝異常としては、例えば、II型糖尿病、腎症、メタボリックシンドローム、脂肪肝等が挙げられる。免疫異常としては、例えば、クローン病、自己免疫疾患等が挙げられる。感染症としては、例えば、日和見感染等が挙げられる。その他の疾患としては、例えば、動脈硬化、筋委縮症、ミオパチー、貧血等が挙げられる。オートファジーの機能を促進は、これらの疾患の予防や改善につながることが期待され、よって、本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、これらの疾患の予防や改善のためのものとされる。
【0022】
オートファジーの活性化は、負に制御する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin;mTOR)を細胞内エネルギーセンサーであるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase;AMPK)が抑制することによりunc-51 like kinase(ULK)複合体が活性化されることで誘導される。ULK複合体は様々なオートファジー関連遺伝子群(autophagy related gene;Atg)を活性化させる。例えば、Atg7は、ユビキチン様酵素活性により、LC3タンパク質(Microtubule-associated protein light chain 3)にホスファチジルエタノールアミンを結合させLC3IIタンパク質に変化させる。LC3IIタンパク質は隔離膜の伸長および閉鎖を行うことでオートファジーを誘導する。本発明におけるLC3IIタンパク質はこのようなLC3IIタンパク質と同義である。
【0023】
本発明の好ましい一つの実施態様によれば、本発明におけるオートファジーまたはLC3IIタンパク質の産生促進は表皮角化細胞において行われる。本発明における表皮角化細胞としては、限定されるわけではないが、例えば、生体から取得された細胞、その継代された細胞、または株化された細胞等を使用してもよく、必要に応じてこれらの細胞を分化させて使用してもよい。本発明における表皮角化細胞は、いかなる動植物に由来する細胞であってもよく、好ましくは動物細胞であり、好ましくはヒト細胞である。本発明における表皮角化細胞としては、具体的には、正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)や正常ヒト表皮メラノサイト(NHEM)等が挙げられる。
【0024】
本発明における表皮角化細胞は表皮モデルを構成している細胞であってもよい。本発明における表皮モデルとして、例えば、正常皮膚メラニン細胞共培養モデルを使用することができる。
【0025】
本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、生体内(in vivo)および生体外(in vitro)のいずれにおいて適用してもよい。本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤を対象に適用する場合、適用される対象としては、限定されるわけではないが、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物等が挙げられる。
【0026】
本発明のオートファジー誘導剤またはLC3IIタンパク質の産生促進剤におけるコケモモの使用量は、用途に応じて適宜決定できるが、好ましくは、本発明のオートファジー誘導剤またはLC3IIタンパク質の産生促進剤100gに対してコケモモの搾汁の重量が1mg~10gとされ、より好ましくは10mg~1gとされ、より好ましくは50mg~500mgとされる。なお、本発明においてコケモモの搾汁とは、果実(種や皮等の他の部位を含んでいてもよい)を搾汁して得られる、希釈も濃縮もされていない果汁を意味する。
【0027】
本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、経口用組成物または局所用組成物であってもよい。本発明におけるコケモモは、好ましくは、経口摂取により消化管より吸収されて、その有効成分が体内で作用すると考えられる。したがって、本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、経口用組成物である。
【0028】
本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤を経口用組成物とする場合、経口用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、防腐剤、ビタミン、アミノ酸、栄養剤、鉱物(電解質)、合成風味剤および天然風味剤等の風味剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、pH調節剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤等が挙げられる。
【0029】
本発明における経口用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよい。
【0030】
本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤を局所用組成物とする場合、局所用組成物に配合される公知の成分(添加剤)をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、乳化剤、水和剤、溶媒、エモリエント、安定剤、増粘剤、保存剤、滑沢剤、キレート剤、充填剤、賦形剤、粉末、芳香剤、香料、吸収剤、染料、乳白剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸等が挙げられる。
【0031】
本発明における局所用組成物は、液体、半固体、固体のいずれであってもよい。
【0032】
本発明のオートファジー誘導剤およびLC3IIタンパク質の産生促進剤は、医薬組成物、化粧用組成物、食品組成物のいずれであってもよく、好ましくは食品組成物である。
【実施例0033】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0034】
皮膚モデルに適用する薬剤の調製
被験物質として、コケモモ(リンゴンベリー)の果実を搾汁した搾汁液(紫色の液体)(オリザ油化社製)を培養液中で300μg/mL、100μg/mL、または30μg/mLとなるようにそれぞれ調製した。また、対照物質として、L-(―)アスコルビン酸(関東化学社製)を培養液中で100μg/mLとなるように調製した。
【0035】
皮膚モデルの培養
メラニン細胞含有三次元皮膚モデル(MEL-300、クラボウ株式会社製)を購入し、定法に従って37℃、5%COインキュベーターで培養した。各条件につき4ウェル(n=4)を設計した。培養液としてはEPI-100NMM113を用い、メラニン刺激因子としてbFGF、α-MSH、KGFをそれぞれ適量添加した。培養液の交換は隔日で行い、薬剤(被験物質または対照物質)は、培養液の交換の都度、所定の濃度になるように溶解させた。培養は、各薬剤が皮膚モデルの底面側から適用されるように行った。培養は培養開始後3週間行った。
【0036】
コケモモが皮膚モデルに与える影響の評価
【0037】
皮膚モデルの培養終了後、PBS(―)で洗浄後に2等分し、片方を用いて皮膚モデルにおけるメラニンの量の測定を行い、もう片方を用いて皮膚モデルにおける、LC3IIの量の測定を行った。
【0038】
皮膚モデル中のメラニンの量の測定は以下の手順により行った。回収した皮膚モデルを0.1NのNaOHを用いて60℃で一晩浸潤抽出した後、遠沈して皮膚モデルのフィルムや不溶物画分を沈殿として除去し、溶液画分の405nmの吸光度を測定し、測定結果をもとにメラニンの量を算出した。各群のメラニンの抑制率を、コントロール群のメラニンの量を100%として、以下の式により算出した。
【数1】
【0039】
皮膚モデル中のLC3IIの量の測定は以下の手順により行った。回収した皮膚モデルをT-PER(商標)Tissue Protein Extraction Reagent buffer(Thermo Scientific社製)250μLを用いて4℃で粉砕抽出し、Lysateを調製した。粉砕抽出は、ポリプロピレン製チューブに皮膚モデル、ジルコニアボール1個、およびT-PER Bufferを加え、粉砕抽出器(ビーズ式細胞破砕装置 Micro Smash MS-100R(トミー精工社製))を用いて、4℃、2000rpm、5分の条件で行った。Lysateの1部(20μL)を用いて、BCA protein assayの定法(OD562nmで計測)によりBSA(ウシ血清アルブミン)との相対比較により全タンパク質の濃度を算出した。100μLのLysateに含まれるLC3IIタンパク質量をELISAキット/Human Microtubule-associated proteins 1A/1B light chain 3B(MAP1LC3B)ELISA kit CSB-EL013403HU(Cusabi社社製)を用いて、OD450nmの値をもとに測定した。測定結果は単位タンパク質量当たりの値に補正した。
【0040】
統計処理は、多重比較検定としてDunnett testを採用し、vsコントロール群において有意な改善を示すか否かを判断することにより行った。p<0.05の場合を*、p<0.01の場合を**とした。また0.05≦p<0.1においては有意傾向があると判断し、p値を表記した。
【0041】
皮膚モデル中のメラニンの抑制率の評価結果を図1に示す。アスコルビン酸およびコケモモの、メラニンの抑制効果が確認された。
【0042】
皮膚モデル中のLC3IIの量の評価結果を図2に示す。300μg/mLおよび100μg/mLのコケモモを添加した群においてLC3IIタンパク量の有意な増加が示された。よって、コケモモによるオートファジー活性化の可能性が示唆された。一方、100μg/mLのアスコルビン酸を添加した群においてはLC3IIタンパク量の有意な増加は見られなかった。
図1
図2