(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005980
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/54 20060101AFI20250109BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20250109BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20250109BHJP
F16C 35/06 20060101ALI20250109BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16C19/54
F16C35/12
F16C19/16
F16C35/06 Z
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106464
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】関 真二
(72)【発明者】
【氏名】来原 聡
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117AA10
3J117DA01
3J117DA10
3J117DB10
3J117HA02
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA81
3J701FA02
3J701FA60
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB14
(57)【要約】
【課題】急激な負荷変動および回転変動を受けた場合でも、ボールと内輪または外輪の軌道面との間で滑りが生じにくい圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受(1)は、圧縮機の回転軸を支持する組合せアンギュラ玉軸受であって、圧縮機運転中に軸心方向に沿った第1方向(D1)への負荷を受ける1つ以上の第1軸受(2)と、圧縮機停止時に第1方向(D1)とは反対の第2方向(D2)への負荷を受ける1つ以上の第2軸受(3)とを含む。第2軸受(3)のボール径(BD2)が、前記第1軸受(1)のボール径(BD1)よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機の回転軸を支持する組合せアンギュラ玉軸受であって、
圧縮機運転中に軸心方向に沿った第1方向への負荷を受ける1つ以上の第1軸受と、圧縮機停止時に前記第1方向とは反対の第2方向への負荷を受ける1つ以上の第2軸受とを含み、
前記第2軸受のボール径が、前記第1軸受のボール径よりも小さい、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記第2軸受のボール径が、前記第1軸受のボール径よりも少なくとも25%小さい、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記第2軸受が、外輪外径面または外輪端面に、前記第2軸受であることを示すマーキングを有する、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
請求項1または2に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記第2軸受の位置を判別可能とするマーキングを有する、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
請求項1または2に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記組合せアンギュラ玉軸受が、水素ガスを圧縮する圧縮機に使用される、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項6】
請求項1または2に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記圧縮機は、スクリュー式圧縮機である、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【請求項7】
請求項1または2に記載の組合せアンギュラ玉軸受において、前記第1軸受および前記第2軸受の内径寸法および外径寸法が互いに同一である、圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスクリュー式の圧縮機に用いられる圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受に対し、ラジアル荷重に加えてアキシアル荷重が両方向に加わる用途においては、複数列のアンギュラ玉軸受が組み合わせて用いられることがある。このような用途の例としては、スクリュー圧縮機のスクリュー軸(ロータ軸)の支持がある。例えば特許文献1には、圧縮機のロータ軸固定側の軸受として、3列のアンギュラ玉軸受を配設したものが記載されている。3列組合せの場合、圧縮機の運転中にアキシアル荷重を受けるための2列の負荷側軸受と、圧縮機の駆動停止直後のロータ軸の逆回転による反対方向への荷重を受けるための1列の反負荷側軸受の配列が用いられる。一般的には、複数列の組合せ軸受は、同寸法、同種の軸受で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリュー圧縮機のスクリュー軸の支持用途を例とすると、従来の軸受構造では、スクリュー圧縮機の運転中、負荷側軸受はアキシアル荷重を支持し、反負荷側軸受は軽荷重または無負荷状態で回転する。スクリュー軸の駆動を停止すると、圧縮機の特性上、高圧の圧縮室内との差圧により、スクリュー軸が逆回転する現象が生じる。このとき、これらの軸受には、運転時とは逆方向のアキシアル荷重が作用する。つまり、装置の駆動停止直後は、反負荷側軸受にアキシアル荷重が作用することになり、運転中の軽荷重(ほぼ無負荷)の状態から負荷の変動(増大)および逆方向の回転変動を受ける状態となる。
【0005】
このように急激な負荷変動および回転変動を受けるような状態においては、ボールと内輪または外輪の軌道面との間で滑りを生じやすい。その結果、ボールと軌道面間の油膜が切れてしまい、比較的潤滑特性に優れた油を潤滑に用いた場合であっても、当該軸受の軌道面やボール転動面にスミアリングなどの表面損傷を生じるおそれがある。特に、起動と停止を頻繁に繰り返す用途においては、損傷に至ることもあり得る。このような問題は、駆動停止直後に急激な負荷の増大にさらされる反負荷側軸受において影響が大きい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決するために、急激な負荷変動および回転変動を受けた場合でも、ボールと内輪または外輪の軌道面との間で滑りが生じにくい圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受(以下では単に「組合せアンギュラ玉軸受」と呼ぶことがある。)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧縮機用組合せ転がり軸受は、
圧縮機の回転軸を支持する組合せアンギュラ玉軸受であって、
圧縮機運転中に軸心方向に沿った第1方向への負荷を受ける1つ以上の第1軸受と、圧縮機停止時に前記第1方向とは反対の第2方向への負荷を受ける1つ以上の第2軸受とを含み、
前記第2軸受のボール径が、前記第1軸受のボール径よりも小さい。
【0008】
この構成によれば、第2軸受のボール径を第1軸受のボール径よりも小さくすることにより、第2軸受のボールの慣性(質量)が小さくなるとともに、ボールと軌道面との間の接触面圧が大きくなる。これにより、第2軸受のボールが転がり易くなるので、圧縮機のような負荷の駆動停止時に発生し得るボールの滑りを抑制し、これに起因する第2軸受のスミアリングなどの表面損傷を抑制することが可能である。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記第2軸受のボール径が、前記第1軸受のボール径よりも少なくとも25%小さくてもよい。第2軸受のボールとして用いられる鋼球のボール径を例えば25%小さくした場合、軸受鋼とセラミックの比重に基づいて算出すると、当該鋼球の質量を、元のボール径を有するセラミック球の質量と同等とすることができる。これにより、鋼球の慣性モーメントも、セラミック球の慣性モーメントと同等とすることができる。このように、強度上の理由から鋼球を用いることが好ましい用途においても、ボールを軽量化し、ボールの滑りを抑制することが可能である。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記第2軸受が、外輪外径面または外輪端面に、前記第2軸受であることを示すマーキングを有していてもよい。第2軸受の外側表面にマーキングを設けることで、第1軸受と第2軸受とを容易に区別することができ、これらの軸受を取り間違えることなくスムーズに設置することが可能である。
【0011】
本発明の一実施形態において、組合せアンギュラ玉軸受が、前記第2軸受の位置を判別可能とするマーキングを有していてもよい。この構成によれば、第1軸受および第2軸受の位置や方向を間違えることなくスムーズに装置に設置することが可能である。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記組合せアンギュラ玉軸受が、水素ガスを圧縮する圧縮機に使用されてもよい。また、前記圧縮機は、スクリュー式圧縮機であってもよい。本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受を採用することにより、駆動力の大きい水素ガス圧縮機において、駆動停止直後のロータ軸の逆回転により急激な負荷変動および回転変動が生じた場合でも、ボールと内輪または外輪の軌道面との間で滑りが生じにくく、軸受の劣化を抑制することが可能である。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記第1軸受および前記第2軸受の内径寸法および外径寸法が互いに同一であってもよい。このように組合せ軸受の内径寸法および外径寸法を互いに同一とすることで、既存の圧縮機の軸受と置き換えて容易に設置することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受によれば、急激な負荷変動および回転変動を受けた場合でも、ボールと内輪または外輪の軌道面との間で生じる滑りを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る組合せアンギュラ玉軸受の概略縦断面図である。
【
図2】
図1の組合せアンギュラ玉軸受のボールの寸法関係を示す拡大縦断面図である。
【
図3】
図1の組合せアンギュラ玉軸受の外径面を示す平面図である。
【
図4】本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受をスクリュー式圧縮機に適用した第1の適用例を示す概略縦断面図である。
【
図5】本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受をスクリュー式圧縮機に適用した第2の適用例を示す概略縦断面図である。
【
図6】本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受を用いた圧縮機を含む水素ステーションを示す概略図である。
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る圧縮機用組合せアンギュラ玉軸受10を示す。本実施形態の組合せアンギュラ玉軸受10は、例えば、ガスを圧縮する圧縮機のロータ軸を支持するために用いられる。組合せアンギュラ玉軸受10の軸心Aは、圧縮機のロータ軸の軸心と一致する。組合せアンギュラ玉軸受10は、2つの第1軸受1と、1つの第2軸受2とを含む。もっとも、第1,第2軸受の列数はこの例に限定されない。第1軸受1は、圧縮機の運転中にロータ軸の軸心の方向に沿った第1方向D1への負荷を受ける負荷側軸受である。第2軸受2は、装置の駆動停止直後に起こるロータ軸の逆回転により第1方向D1とは反対の第2方向D2への負荷を受ける反負荷側軸受である。2つの第1軸受1,1は並列組合せで配置され、中央の第1軸受1とその左隣りの第2軸受2とは正面組合せで配置されている。各第1軸受1は第1方向D1への負荷を受ける方向の接触線S1を有し、第2軸受2は第2方向D2への負荷を受ける方向の接触線S2を有する。もっとも、第1軸受1と第2軸受2とは背面組合せで配置してもよい。
【0018】
第1軸受1および第2軸受2はそれぞれ、内輪4と、外輪5と、ボール6と、保持器7とを備える。本実施形態では、ボール6は鋼球である。本明細書においては、第1軸受1の構成要素について言及する場合、内輪4A、外輪5A、ボール6A、保持器7Aと呼び、第2軸受2の構成要素について言及する場合、内輪4B、外輪5B、ボール6B、保持器7Bと呼ぶことがある。
【0019】
図2に示すように、第2軸受2のボール径BD2が、第1軸受1のボール径BD1よりも小さい。より具体的には、第2軸受2のボール径BD2は、第1軸受1のボール径BD1よりも少なくとも25%小さい。本実施形態では、第2軸受2のボール径BD2が、第1軸受1のボール径BD1よりも約40%小さい。
【0020】
図3に示すように、組合せアンギュラ玉軸受10は、第2軸受2の位置を判別可能とするマーキング8を有している。本実施形態では、マーキング8は、負荷側(
図3の右側)の第1軸受1の外径面5Aaからこれに隣接する第1軸受1の外径面5Aaを経て第2軸受2の外径面5Baにかけて設けられたV字状の細い線溝である。この構成に代えて又はこの構成に加えて、第2軸受2の外輪5Bの外径面5Baまたは外輪5Bの端面5Bbに、第2軸受2であることを示すマーキング(図示せず)を設けてもよい。このマーキングは、例えば、外輪5Bの外径面5Baまたは端面5Bbに設けられた凹みや溝であってもよい。もっとも、これらのマーキングの形状はこれらの例に限定されず、任意の形状とすることができる。
【0021】
<作用効果>
軸受のボールの滑りを抑制するためには、ボールの慣性(質量)を小さくすることや、ボールと内外輪の軌道面との間の接触面圧を大きくすることが考えられる。以上説明した組合せアンギュラ玉軸受10によれば、
図2の第2軸受2のボール径BD2を第1軸受1のボール径BD1よりも小さくすることにより、第2軸受2のボール6Bの慣性(質量)が小さくなるとともに、ボール6Bと軌道面との間の接触面圧が大きくなる。
【0022】
ボールの慣性(質量)を小さくするために、鋼球に替えて例えばセラミック球を用いることで、表面損傷が起こりづらいことが考えられる。しかし、軸受の用途によっては、軸受に大きな負荷がかかることから、転動体として鋼球を用いることが望ましい場合もある。特にガス用の圧縮機に用いる軸受には、転動体として鋼球を用いることが望ましい。そこで、本発明では、第2軸受2のボール6Bとして用いられる鋼球のボール径BD2を第1軸受1のボール径BD1よりも少なくとも25%小さくした。これにより、軸受鋼とセラミックの比重に基づいて算出すると、当該鋼球の質量を、元のボール径BD1を有するセラミック球の質量と同等かそれよりも小さくすることができる。また、当該鋼球の慣性モーメントも、セラミック球の慣性モーメントと同等かそれよりも小さくすることができる。
【0023】
本実施形態では、前述のとおり、第2軸受2のボール径BD2が、第1軸受1のボール径BD1よりも約40%小さい。例えば第1軸受1のボール径BD1が13/16”(20.638mm)である場合、第2軸受2のボール径BD2を40%小さくすると、ボール径BD1のボール(鋼球)と比較して、第2軸受2のボール6Bの接触面圧を大きくしながら、質量を約1/5、慣性モーメントを約1/16に抑えることができる。このように、強度上の理由から鋼球を用いることが好ましい用途においても、ボールを軽量化することが可能である。これにより、第2軸受2のボール6Bが転がり易くなるので、圧縮機のような負荷の駆動停止時に発生し得るボールの滑りを抑制し、これに起因する第2軸受2のスミアリングなどの表面損傷を抑制することが可能である。
【0024】
また、この構成によれば、第1方向D1へのアキシアル荷重が2つの第1軸受1によって受けられるので、組合せアンギュラ玉軸受10が採用される装置の運転時において、組合せアンギュラ玉軸受10の耐荷重性能が向上し、第1方向D1にかかる、より大きなアキシアル荷重に耐え得る。ただし、第1軸受1は1つでも3つ以上設けてもよい。
【0025】
第1軸受1および第2軸受2の外径面5Aa,5Baに、第2軸受2の位置を判別可能とする
図3のマーキング8を設けた場合、第1軸受1および第2軸受2の位置や方向を間違えることなくスムーズに装置に設置することが可能である。また、第2軸受2の外側表面にマーキングを設けた場合、同一の内径寸法I、外径寸法O、幅寸法W、およびボールピッチ径PCDを有する第1軸受1と第2軸受2とを容易に区別することができ、これらの軸受を取り間違えることなくスムーズに設置することが可能である。
【0026】
<スクリュー式圧縮機への第1の適用例>
本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受は、例えば、以下のように実装される。
図4は、本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受10をスクリュー式圧縮機20に適用した場合の例を示している。もっとも、圧縮機20はスクリュー式圧縮機に限定されない。
【0027】
圧縮機20は、圧縮機構21と、圧縮機構21に連結された2つのスクリュー軸22,22と、スクリュー軸22上に固定側軸受として設けられた組合せアンギュラ玉軸受10,10と、組合せアンギュラ玉軸受10を覆うハウジング23とを有している。本適用例では、各組合せアンギュラ玉軸受10は、1つの第1軸受1と、1つの第2軸受2とからなる。もっとも、第1,第2軸受の列数は圧縮機の出力に応じて変更することができる。スクリュー軸22は入力側(右側)が駆動機であるモータMに接続され、出力側(左側)にアキュムレータ24が配置されている。圧縮機構21の雄ロータ25と雌ロータ26がモータMにより駆動されて回転することで、圧縮機構21内でガスが圧縮される。スクリュー軸22は、入力側(右側)が滑り軸受で支持され、出力側(左側)が組合せアンギュラ玉軸受10を介して回転可能にハウジング23に支持されている。
【0028】
圧縮機20のモータMを始動させると、モータMのモータ軸を介してスクリュー軸22が駆動され、圧縮機構21の雄ロータ25と雌ロータ26がスクリュー軸22の中心軸C1,C2周りに
図4の矢印R1,R2で示される方向にそれぞれ回転する。ロータ25,26の回転に伴い、圧縮機構21内に吸入されたガスがロータ25,26の噛み合いで圧縮されながら第2方向D2へと押し出され、アキュムレータ24に送られる。このとき、組合せアンギュラ玉軸受10の第1軸受1は、圧縮に伴い第1方向D1へのアキシアル荷重F1を受ける。他方、第2軸受2は軽荷重または無負荷状態で回転する。スクリュー軸22の駆動を停止すると、駆動停止直後は圧縮機構21の内部が高圧のままであるので、圧縮機構21内外での差圧によってロータ25,26が逆回転し、これによりスクリュー軸22がそれぞれ反対方向(矢印R2,R1で示される方向)へと回転することになる。このときに生じる第2方向D2へのアキシアル荷重F2は、第2軸受2によって受けられる。
【0029】
このように駆動停止直後のスクリュー軸22の逆回転による急激な負荷変動および回転変動が生じると、反負荷側軸受である第2軸受2においては軽負荷または無負荷状態から急激に負荷が増大することになる。反負荷側軸受の潤滑状態が良好でない場合、反負荷側軸受のボールと内外輪の軌道面との間で滑りや、滑りによる潤滑油膜切れが発生し、内外輪の軌道面にスミアリングなどの表面損傷を生じる可能性がある。本発明にかかる組合せアンギュラ玉軸受10を採用することにより、圧縮機20において上記のような負荷変動および回転変動が生じた場合でも、第2軸受2のボール6Bと内輪4Bまたは外輪5Bの軌道面との間で滑りが生じにくいので、ボールや軌道面等の表面損傷による軸受の劣化を抑制することが可能である。
【0030】
<スクリュー式圧縮機への第2の適用例>
図5は、本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受10をスクリュー式圧縮機30に適用した第2の適用例を示している。この例では、圧縮機30は、例えば水素ステーションにおいて貯留槽から供給された水素ガスを、車載タンクへと供給するための高圧に圧縮する圧縮機である。典型的には、貯留槽から供給される水素ガスの気圧は1MPa以下であり、自動車に供給される水素ガスの気圧は80MPa程度である。圧縮機30は、ロータを回転させて水素ガスを圧縮する圧縮機構31と、圧縮機構31に連結された入力軸32と、入力軸32上に設けられて入力軸32を回転可能に支持する組合せアンギュラ玉軸受10と、組合せアンギュラ玉軸受10を覆うハウジング33と、入力軸32を駆動するモータMとを備える。入力軸32は、組合せアンギュラ玉軸受10を介して回転可能にハウジング33に支持されている。組合せアンギュラ玉軸受10は、2つの第1軸受1と、1つの第2軸受2とからなる。もっとも、第1,第2軸受の列数は圧縮機の出力に応じて変更することができる。組合せアンギュラ玉軸受10の内輪4はスペーサ34により入力軸32上で位置決めされており、外輪5はハウジング33に固定されている。
【0031】
圧縮機30のモータMを始動させると、モータMのモータ軸35を介して入力軸32が駆動され、圧縮機構31のロータ(
図4の25,26に相当)が軸心回転する。ロータの回転に伴い、圧縮機構31内に吸入された水素ガスがロータの噛み合いで圧縮されながら第2方向D2へと押し出される。このとき、組合せアンギュラ玉軸受10の第1軸受1は、第1方向D1へのアキシアル荷重を受ける。他方、第2軸受2は軽荷重または無負荷状態で回転する。入力軸32の駆動を停止すると、駆動停止直後は圧縮機構31の内部が高圧のままであるので、圧縮機構31内外での差圧によってロータが逆回転し、これにより入力軸32が逆回転することになる。このときに生じる第2方向D2へのアキシアル荷重は、第2軸受2によって受けられる。
【0032】
第2の適用例においても、圧縮機30に上記のような負荷変動および回転変動が生じた場合でも、第2軸受2のボール6Bと内輪4Bまたは外輪5Bの軌道面との間で滑りが生じにくいので、ボールや軌道面等の表面損傷による軸受の劣化を抑制することが可能である。
【0033】
<水素ステーションの構成例>
以下では、本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受を用いた圧縮機を含む水素ステーションの一例を説明する。この水素ステーションの概要を
図6に示す。水素ステーション41は、燃料タンクを搭載した燃料電池車に、燃料である水素ガスの供給を行う設備である。水素ステーション41は、水素ガスを貯留する貯留槽42と、貯留槽42からの水素ガスを昇圧して蓄圧器44に供給する水素ガス供給ユニット43と、水素ガス供給ユニット43から供給された高圧の水素ガスを貯留する蓄圧器44と、蓄圧器44からの水素ガスを燃料電池車に補給するためのディスペンサ45とを備える。水素ステーション41は、さらに、水素ガス供給ユニット43の圧縮機40から蓄圧器44に向かって高圧の水素ガスを搬送するガス流入ライン46と、蓄圧器44からディスペンサ45に水素ガスを搬送するガス流出ライン47とを有する。
【0034】
水素ガス供給ユニット43は、貯留槽42から水素ガスを受け入れる受入部48と、水素ガスを所定の高圧に圧縮する圧縮機40とを有する。圧縮機40は、例えばスクリュー式圧縮機である。圧縮機40は、流入口から供給される水素ガスを内部で昇圧し、昇圧された水素ガスを圧縮機40の吐出口から送出する。圧縮機40の機能および動作は上記適用例の圧縮機20,30と同様であるので説明を省略する。圧縮機40は本発明に係る組合せアンギュラ玉軸受を備えており、上記適用例において得られる効果と同様の効果が得られる。
【0035】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1…第1軸受、2…第2軸受、4…内輪、5…外輪、6…ボール、7…保持器、8…マーキング、10…組合せアンギュラ玉軸受、20,30…圧縮機、BD1…第1軸受のボール径、BD2…第2軸受のボール径、D1…第1方向、D2…第2方向、I…内径寸法、O…外径寸法、PCD…ボールピッチ径、W…幅寸法