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▶ 株式会社日清製粉デリカフロンティアの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005996
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20250109BHJP
   A23B 2/80 20250101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L7/10 B
A23L3/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106494
(22)【出願日】2023-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】523247854
【氏名又は名称】株式会社日清製粉デリカフロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
【テーマコード(参考)】
4B022
4B023
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LB02
4B022LB05
4B022LJ01
4B022LJ06
4B022LJ08
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE11
4B023LE13
4B023LE18
4B023LE21
4B023LG01
4B023LG04
4B023LP05
4B023LP08
4B023LP15
4B023LP19
4B023LQ01
(57)【要約】
【課題】解凍及びその後のチルド保存による品質低下が生じにくい冷凍米飯を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】原料となる米を10~35℃の水に浸漬させ、吸水させる浸漬工程と、
前記浸漬工程後の米を、130~200kPaの加圧下において、飽和水蒸気によって蒸す加熱加圧工程と、
前記加熱加圧工程後の米に水温60℃を超えない水を加水し、吸収させる吸水工程と、
前記吸水工程後の米を凍結する冷凍工程と、を含む、米飯の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる米を10~35℃の水に浸漬させ、吸水させる浸漬工程と、
前記浸漬工程後の米を、130~200kPaの加圧下において、飽和水蒸気によって蒸す加熱加圧工程と、
前記加熱加圧工程後の米に水温60℃を超えない水を加水し、吸収させる吸水工程と、
前記吸水工程後の米を凍結する冷凍工程と、を含む、米飯の製造方法。
【請求項2】
前記浸漬工程において、水分含量が36~45質量%となるまで米を浸漬させる、請求項1に記載の米飯の製造方法。
【請求項3】
前記吸水工程において、水分含量が57~75質量%となるように米に吸水させる、請求項1又は2に記載の米飯の製造方法。
【請求項4】
前記吸水工程後の原料米を、水分含量が43~60質量%となるように、常圧下で蒸す加熱処理を施す第2加熱工程と、
前記第2加熱工程後の原料米に水温60℃を超えない水を加水し、水分含量が57~75質量%となるように原料米に吸水させる第2吸水工程とを含む、請求項1または2に記載の米飯の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法で製造された米飯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍工程を有する米飯の製造方法に関する。
【0002】
近年、食シーンの多様化、個食化、簡便化指向の高まりに伴い、外食産業や、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、デパート地下向け若しくは配達等による中食産業向け商材として、冷凍状態及び/又はチルド状態で流通する米飯類の需要が拡大している。例えば、冷凍状態で小売店や弁当業者等に配達されて解凍状態で販売する等、冷凍、解凍及びチルド保存される流通形態が存在する。この場合、冷凍後に解凍してチルド保管された米飯を食することになる。
【0003】
米飯類は、低温保存、特に冷凍、解凍及びチルド保存するという処理を行うと、顕著に老化が進むことが知られている。一般に、米飯類は、低温保存下では、粘りが低下して硬くなるため、食感が著しく低下する。冷凍及び解凍する場合においては、いずれも-5℃から-1℃までの最大氷結晶生成温度帯を通過する際に、氷結晶の成長および昇華により組織内に保持された水分を奪ってしまうため、老化が進行しやすくなる。また、老化が進行しやすいとされるチルド温度帯(0~10℃)を通過することにより、老化が進行し、粘りの低下及び硬化が起こりやすくなる。特にチルド温度帯又は常温で放置する自然解凍は、最大氷結晶生成温度帯及びチルド温度域における通過時間が長いため、老化が起こりやすい。老化した米飯は、喫食時に再加熱することである程度粘り及び柔らかさが復元する。しかし、再加熱を行わずに喫食できる商品へのニーズが存在し、この場合は老化抑制が一層重要な課題となる。
低温保存用米飯の劣化抑制に関し、特許文献1では、ゲル化剤の使用と、炊飯用加水の量の組み合わせにより解決する方法を提案している。
【0004】
冷凍保存に言及していない文献として、特許文献2及び3には、吸水や加熱を組み合わせた米飯の製造方法が記載されている。
特許文献4には、浸漬、蒸煮、冷却、吸水、冷凍という手順で行う米飯の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-118760号公報
【特許文献2】特開2008-000086号公報
【特許文献3】特開2006-174780号公報
【特許文献4】特開平11-155505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、老化は米に水分を多く含有させることで防止しやすくなる。一方で、米に水分を多く含有させるためには加熱させることが必要であるが、水分を多く加え加熱すると、澱粉が米粒から溶出しやすくなることにより米粒の形状が崩れやすく、外観に劣るものとなる。これらのことから、老化しやすい低温保存条件であると、粒形状と老化抑制との両立は特に困難なものとなる。
特許文献1には、同文献記載の方法により得られる低温保存用米飯は、老化耐性に優れていると記載されている。
しかし、低温保存、特に冷凍、解凍及びチルド保存するという保存過程を経る米飯に関し、近年、需要が多様化しており、新たな老化抑制技術が求められている。
また、特許文献2~4に記載の方法は、低温保存に伴う品質低下を抑制する点から十分なものではないことを発明者は知見した。
本発明の目的は、上記課題を解決することにあり、解凍及びその後のチルド保存による品質低下が生じにくい冷凍米飯を製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定温度での浸漬工程、所定の圧力での加熱加圧工程及び所定温度での吸水工程をこの順で行い冷凍米飯を製造することで、解凍及びチルド保存を経ることによる品質低下を、粒形状の劣化を防止しながら抑制できることを見出した。
【0008】
本発明は、前記知見に基づくものであり、原料となる米を10~35℃の水に浸漬させ、吸水させる浸漬工程と、
前記浸漬工程後の米を、130~200kPaの加圧下において、飽和水蒸気によって蒸す加熱加圧工程と、
前記加熱加圧工程後の米に水温60℃を超えない水を加水し、吸収させる吸水工程と、
前記吸水工程後の米を凍結する冷凍工程と、を含む、米飯の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記方法で製造された米飯を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、解凍及びその後のチルド保存による品質低下が生じにくい冷凍米飯を製造可能な方法並びにそれを用いて得られる米飯が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0012】
本発明は、米飯及び米飯の製造方法に関する。
本発明は、浸漬工程と、加熱加圧工程と、吸水工程と、冷凍工程とを含む。
まず、本発明の好適な第1態様について説明する。
【0013】
<浸漬工程>
前記浸漬工程では、原料米を10~35℃の水に浸漬させ、米粒に吸水させる。
原料米としては、糯米であってもよく、うるち米であってもよく、又はこれらの組合せであってもよい。うるち米である場合には、低アミロース米であることが老化しにくさの点で好ましい。低アミロース米とは、アミロース含量の低い米をいい、アミロース含量が17%未満のものを指す。本発明における低アミロース米の範疇に含まれる米の具体例としては、“はなぶさ”、“彩”、“たきたて”、“シルキーパール”、“スノーパール”、“ミルキークイーン”、“北陸180号”、“ソフト158”、“柔小町”、“朝つゆ”、“ねばり勝ち”、“いわた15号”、“奥羽344”、“西海215”、“ミルキーサマー”、“ゆめぴりか”等、多くの品種が知られている。原料米としては、生米として、これら、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、生米の精米の程度には特に制限はなく、玄米、分搗き米、白米の何れであってもよい。生米としては、例えば60℃以上、30秒以上の加熱を行っていない米が挙げられる。
【0014】
前記浸漬処理に供した後の米の水分含量は36~45質量%が好ましい。36質量%以上の水分含量となるまで浸漬させることにより、後述する加熱加圧工程時に米を中心部分まで糊化させることが可能となりやすく、冷凍、解凍及びチルド工程を経ても粘りのある食感を得やすく、硬化を抑制しやすい。また45質量%以下とすることで、粒形状を良好なものとしやすい。これらの観点から前記浸漬処理に供した後の米の水分含量は36~44質量%が更に一層好ましい。
特に、米が糯米である場合には、浸漬処理後の米の水分含量は39~45質量%が好ましく、40~44質量%がより好ましい。
また、米がうるち米である場合には、浸漬処理後の米の水分含量は36~45質量%が好ましく、37~44質量%がより好ましい。
なお、原料米が糯米である場合とは、使用する原料米中、糯米の割合が50質量%超、より好ましくは、60質量%以上である場合が含まれるものとし、原料米がうるち米である場合とは、使用する原料米中、うるち米の割合が50質量%超、より好ましくは、60質量%以上である場合が含まれるものとする。
ここで、本発明において、米又は米飯の「水分含量(%)」とは、秤量缶(口の内径55mm、底の内径50mm、深さ25mmのもので、恒量を求めたもの)に、米又は米飯を約3g秤量し、これを135℃で3時間乾燥し、これにより蒸発した水分量(g/100g)を測定したものをいう。
【0015】
浸漬工程の浸漬処理は、米を水に浸漬することにより行われる。米粒に水を十分に吸水させるためには、米を水に浸漬する際の温度や時間を調整する必要がある。その具体的な条件は当業者が設定することが可能であるが、水温が低温であると米粒への浸透速度が遅くなるため、前記浸漬処理は水温が10~35℃の条件下で行うことが好ましく、15~30℃の条件下で行うことがより好ましい。米粒に水を十分に吸水させる点から、米は、前記範囲の温度の水に、10~300分間程度浸漬させることが好ましく、30~180分間程度浸漬させることがより好ましい。
【0016】
<加熱加圧工程>
次の加熱加圧工程では、前記浸漬工程後の米を、130~200kPaの加圧下において、飽和水蒸気によって蒸す。本工程は、蒸し工程である。蒸しとは、蒸気を直接被加熱物に接触させて加熱する方法であり、この点で、米を水に浸漬させた状態で加熱する、煮る又は炊く工程とは異なる。例えば炊く工程であると、得られる米は全体に柔らかく、表面の粘りの多いものとなり、特に高水分の場合には粘りが多い。一方、蒸し工程では、内部を柔らかくしても、表面の粘りをある程度抑制することができる。上記の通り、本工程は蒸し工程であるため、浸漬工程後に米の周囲に水が多く残存した浸漬状態である場合には、水切りをして浸漬に用いた水を除去して加熱加圧工程に供する。
【0017】
本工程では、前記米粒の中心部分まで糊化させやすくするために加圧工程であることが重要である。これに対し、特許文献2及び3では、浸漬後の加熱工程にて米粒を糊化しないことが望ましいと記載しており(特許文献2の請求項1、特許文献3の段落〔0023〕)、これらの記載は加熱加圧工程を採用することを遠ざけるものである。本発明では加圧条件は、130~200kPaであることが重要である。圧力が130kPa未満であると、米粒の中心部まで糊化が進まず、冷凍、解凍及びチルド工程を経ると、芯が残った硬い食感と感じさせてしまう恐れがある。また、圧力が200kPaを超えると、米粒の粒立ち感が失われ、食感が柔らかくなりすぎる恐れがある。これらの観点から、加熱加圧工程の圧力は140~190kPaがより好ましい。
【0018】
前記加熱加圧工程における水蒸気の温度としては、101℃~125℃未満が好ましく、101℃~123℃がより好ましく、101~120℃が更に一層好ましく、105~115℃が特に好ましい。水蒸気の温度が101℃以上であることで、糊化が進みやすく、冷凍、解凍及びチルド工程を経ても、米が硬くなることを防止しやすい。水蒸気の温度を125℃未満とすることで、加熱温度が高すぎるために、米の形状を損なう可能性や米の過加熱を招く可能性を防止でき、粒立ちを良好としやすい。
【0019】
加熱加圧工程後の米の水分含量は、粒立ちと適度な粘り、パサつき、ベタツキ抑制及び硬さ制御等の観点から、38~50質量%が好ましく、39~48質量%がより好ましい。
特に、米が糯米である場合には、加熱加圧工程後の米の水分含量は40~50質量%が好ましく、43~48質量%がより好ましい。
また、米がうるち米である場合には加熱加圧工程後の米の水分含量は38~49質量%が好ましく、39~48質量%がより好ましい。
更に同様の観点から、前記加熱加圧時間としては、1~180分が好ましく、5~120分間がより好ましく、10~60分間が更に一層好ましい。ここで、加熱加圧時間とは、前記130~200kPaの範囲内の加圧力にて加熱している時間をいう。
【0020】
<吸水工程>
本吸水工程では、前記加熱加圧工程後の米に水温60℃を超えない水を加水し、吸収させる。
【0021】
吸水工程では、米の水分含量を57~75質量%に調整することが好ましい。
米の水分含量が57質量%以上であると、冷凍及び解凍後、チルド保存した際の老化耐性を高めやすいため好ましい。75質量%以下であると、多い水分含量のために炊飯米の食感がべたつきの多い好ましくないものとなることを防止できるため好ましい。これらの観点から、米の水分含量は、より好ましくは60~70質量%に調整する。なお、後述する第2態様のように、本発明の米飯の製造方法が冷凍工程前に複数回の吸水工程を経る場合、「吸水工程では、米の水分含量を57~75質量%に調整する」とは、複数回の吸水工程のうち、最後に行う吸水工程(例えば後述する第2吸水工程)にて57~75質量%の水分含量に調整することを包含するものとする。この場合、例えば1回目の吸水工程で調整する好ましい水分含量としては、後述する量が挙げられる。
【0022】
吸水工程で米に吸水させる水の温度は、60℃以下であることで、炊飯とは異なり、米が膨張して粒形状が崩れることを抑制しつつ加水をおこなうことができる利点がある。前記の水の温度は、5℃以上であることが、吸水工程後の米の水分含量を前記の範囲に調整しやすいため好ましく、10~35℃がより好ましい。
【0023】
吸水工程の水分含量は、加水量や吸水時間により制御できる。加水時間で制御する場合は、例えば、加熱加圧工程後の米を多量の水に一定時間浸漬させる。浸漬後、米を多量の水に浸漬させ、その表面に水が多く付着している場合には、次工程の冷凍工程の前に、その付着している水を除去するのがよい。水の除去は、例えば、浸漬水から引き上げた米を篩の上に載せて放置するか、又は篩を振るなどして水切りすればよい。加水量で制御する場合においても、浸漬等の方法にて水と加熱加圧工程後の米を接触させることで吸水させることができる。
【0024】
吸水工程では、前記水分含量の米を首尾よく得る点から、前記加熱加圧工程後の米100質量部に対し、10~300質量部の水を加水することが好ましく、20~200質量部の水を加水することがより好ましい。また前記水分含量の米を首尾よく得る点から、水と米とを接触させて吸水させる時間としては、1~600秒が好ましく、30~300秒がより好ましい。
【0025】
前記吸水工程において、本発明の効果を損なわない範囲で、食品素材や食品添加物等の添加剤を米粒中に含有させてもよい。前記添加剤としては、例えば、食塩等の塩;ブドウ糖等の単糖類、ショ糖、トレハロース等の二糖類、三糖以上のオリゴ糖、糖アルコールといった糖類;甘味料;酢、醤油、味噌、だし、コンソメ、グルタミン酸ナトリウム、ケチャップ、カレー粉、サフラン等の調味料; アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の酵素; サラダ油、大豆油、菜種油、コ-ン油、ごま油、バター等の油脂; ビタミンE等の酸化防止剤;着色料、香料、保存料、日持ち向上剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような添加剤を水と混合させて吸水させることで、米粒中に含有させることができる。
【0026】
第1態様において、前記加熱加圧工程と、前記吸水工程とは、連続的に行うことが好ましい。連続的とは、前記加熱加圧工程において加熱器から取り出した米が高温の状態で、水温60℃を超えない水と接触させることをいう。例えば米が60℃以上の状態で前記の水と接触させることが好ましい。
【0027】
<冷凍工程>
本工程では、前記吸水工程で得た米飯を冷凍する。冷凍する方法は特に限定されず、機械式の冷凍装置やドライアイス等を使用した冷凍装置を使用して実施できる。例えば、ほぐしながら撹拌する冷凍工程を行うことにより、炒め飯をバラ状に凍結させることもできる。
冷凍工程は、急速凍結であることが好ましい。急速凍結とは、凍結させる米飯の最大氷結晶生成温度帯である-1℃から-5℃までを通過するのにかかる時間(T-1℃~-5℃)が30分間以下である凍結を指す。
前記吸水工程後、米飯を包装して冷凍すると、冷凍後に包装する場合に比して、包装工程に伴う解凍及びそれによる老化進行を回避できるため好ましい。
【0028】
本発明の米飯の製造方法は、前記の吸水工程後、前記冷凍工程前に、得られた米飯の冷却工程を有していてもよい。前記冷却工程において米飯の冷却方法は特に制限されず、例えば、しゃもじを用いて炊飯米をほぐすことによる放冷、差圧冷却、真空冷却、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
【0029】
次いで、本発明の好適な第2態様について説明する。第2態様は、第1態様において、前記吸水工程後、米を加熱せずに冷凍していたことに換えて、前記吸水工程後の原料米を蒸す加熱処理を施す第2加熱工程と、
前記第2加熱工程後の原料米に水温60℃を超えない水を加水し、原料米に吸水させる第2吸水工程とを含み、第2吸水工程で得られた米飯を前記冷凍工程に供する。本第2態様の場合、2回目の蒸し工程及びその後の吸水工程を経ることで、得られる米飯は、米粒内部が特に十分に糊化されたものとなり、冷凍及び解凍後、チルド保存した際の適度な粘りと適度な硬さが特に優れたものとなる。
以下では第1態様と異なる点について主に言及する。本態様において、下記以外の点については、上記第1態様での説明が適宜適用される。
【0030】
本第2態様の場合、前記加熱加圧工程後の米の水分含量を38~50質量%に調整することが好ましく、39~48質量%に調整することがより好ましい。
特に、米が糯米である場合には、加熱加圧工程後の米の水分含量は40~50質量%に調整することが好ましく、42~48質量%に調整することがより好ましい。
また、米がうるち米である場合には、加熱加圧工程後の米の水分含量は38~50質量%に調整することが好ましく、39~48質量%に調整することがより好ましい。
米の水分含量がこの範囲であると、次の吸水工程(第1吸水工程)並びに第2加熱工程及び第2吸水工程後の米の水分含量を適度なものとしやすく、解凍及びチルド保存した際の老化耐性を一層高めやすいほか、米の形状を良好なものとしやすい。この場合の加熱加圧時間としては、1~180分が好ましく、5~120分がより好ましく、10~60分が更に一層好ましい。
【0031】
また、本態様の場合、吸水工程後、米の水分含量は40質量%以上であることが好ましく、42質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に一層好ましい。また、吸水工程後、米の水分含量は57質量%以下であることが好ましく、56質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることが更に一層好ましい。吸水工程における米の水分含量が上記上限以下、及び/又は上記下限以上であると、次の第2加熱工程及び第2吸水工程後の水分量を適度なものとしやすく、解凍後、チルド保存した際の老化耐性を一層高めやすいほか、米の形状を良好なものとしやすい。各上限下限は限定なく組み合わせて採用できる(以下同様)。
【0032】
<第2加熱工程>
第2加熱工程では、前記吸水工程後の米を蒸すことにより、さらに糊化させる加熱処理を施す。本加熱工程は加圧工程であってもよいが、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。1回目の加熱工程を加熱加圧工程とし、且つ、2回目の加熱工程を常圧下での工程とすることで、適度な粘りと、適度な硬さを有しつつ、粒形状の良好な米粒とする効果に優れたものとなる。
【0033】
前記第2加熱工程における水蒸気の温度としては、80~120℃が好ましい。水蒸気の温度が80℃以上であると、糊化が十分に進み、米飯への吸水が十分となり、冷解凍後の米飯の食感が一層好ましくなる。120℃以下であると、米の表面の乾燥や米の過加熱を招く可能性を防止できる。これらの観点から、水蒸気の温度は、85~110℃がより好ましい。第2加熱工程における水蒸気は飽和水蒸気であることが好ましい。
【0034】
前記第2加熱工程後の米の水分含量は、43質量%以上であることが好ましく、46質量%以上であることがより好ましく、48質量%以上であることが更に一層好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、吸水工程後、米の水分含量は60質量%以下であることが好ましく、58質量%以下であることがより好ましく、57質量%以下であることが更に一層好ましい。上記下限以上であることで、米に芯が残りにくく、適度な硬い炊飯米となり、炊飯米の食感がパサつきを防止できる。上記下限以下であることで、得られる米飯の食感がべたつきにくく好ましいものとすることができる。
【0035】
上記と同様の理由から、前記第2加熱工程における加熱時間としては、5~120分間が好ましく、10~60分間がより好ましい。
【0036】
<第2吸水工程>
第2吸水工程では、第2加熱工程の後の米に吸水処理を施して更に吸水させる。この第2吸水工程では、米飯(米)の水分含量を57~75質量%に調整することが好ましく、60~70質量%に調整することがより好ましく、62~68質量%に調整することが更に一層好ましい。第2吸水工程後、冷凍工程前において、米の水分含量が上記下限以上であると、冷凍及び解凍後、チルド保存した際の老化耐性をより一層優れたものとしやすいため好ましい。前記の米の水分含量が上記上限以下であると、得られる米飯の食感のべたつき防止を一層優れたものとする点で好ましい。
【0037】
第2吸水工程で用いる水の温度は、60℃以下であることで、炊飯とは異なり、米が膨張して粒形状が崩れることを抑制しつつ加水をおこなうことができる利点がある。前記の水の温度は、5℃以上であることが、第2吸水工程後の米の水分含量を前記の範囲に調整しやすいため好ましく、10~35℃がより好ましい。
【0038】
第2吸水工程では、前記水分含量の米を首尾よく得る点から、前記第2加熱工程後の米100質量部に対し10~40質量部の水を加水することが好ましく、15~35質量部の水を加水することが好ましい。また前記水分含量の米を首尾よく得る点から、水との接触時間としては、1~600秒が好ましく、30~300秒がより好ましい。
【0039】
その他の第2吸水工程及びその後の工程の説明としては、前記の第1態様の吸水工程の説明を特に制限なく採用することができる。
【0040】
以上の工程により、本発明の米飯が得られる。本発明は、上記製造方法で得られる米飯をも提供するものである。本発明の米飯は、低温保存用米飯であることが好ましい。低温保存用とは、低温保存された状態で流通および販売され、再加熱することなく食することが可能な米飯を指す。低温保存とは、10℃以下の温度帯での保存を指し、チルド保存および冷凍保存が含まれ、冷凍食品の場合は凍結および解凍の過程も含まれる。チルド保存とはチルド温度帯での保存であり、冷凍保存とは冷凍温度帯での保存である。
【0041】
低温保存用米飯としては、例えば、冷凍温度帯で保存される冷凍米飯、およびチルド温度帯で保存されるチルド米飯が挙げられ、冷凍米飯が好ましい。冷凍米飯は、冷凍温度帯で保存された後、チルド温度域で保存されるフローズンチルド米飯を含む。前記冷凍温度帯とは、凍結開始温度以下の温度帯を指し、例えば-18℃以下が挙げられる。前記チルド温度帯とは、10℃以下凍結開始までの温度帯を指す。低温保存用米飯は、冷凍米飯を自然解凍、すなわち常温あるいはチルド温度帯で解凍してそのまま食することができ、製造から流通、末端消費までの間チルド保存されたチルド米飯をそのまま食することができる。ここで、自然解凍とは、冷凍品を解凍する際、レンジ加熱等の加熱操作を行わず、常温または冷蔵庫など解凍可能な温度環境に放置して解凍する方法を指す。
【0042】
本発明は、白米に限らず、炊き込みご飯、おこわ、ちまき、おはぎ、雑炊、赤飯、ドライカレー、リゾットなどの種々の米飯に適用することができる。その場合に味付けに必要な調味成分は、上記の通り、吸水工程や第2吸水工程等で適宜添加することができる。また、これらの工程の他に、味付けを施す工程を付加してもよい。また、最初の工程として、洗米工程を付加しても良く、付加しなくてもよく、無洗米を用いても良い。
【0043】
本発明は上記製造方法を採用することで、品質低下が生じにくいものとなる。品質低下が生じにくい例としては、米粒の良好な形状及び良好な食感が両立していることが挙げられる。米粒の良好な形状とは、米飯の粒形状に潰れや欠け、形状の崩れが少なく、米粒の形状が揃っていること、つまり所謂“粒立ち”がよいことが挙げられる。良好な食感とは、適度な粘り及び硬さがあることが挙げられる。品質低下が生じにくい例としては、別製法を用いた場合に比して老化抑制効果が高い場合が挙げられる。
本発明は、上記製法で得られた米飯も提供するものである。この米飯において、従来技術の製造方法で得られた米飯と規定できる物としての構成を特定することは、非常に膨大な時間がかかり、先願主義における早期審査の要請下で実質的に不可能又は非実際的な事情が存在する。このため本願では製造方法によって物としての米飯を規定している。
【実施例0044】
以下、特に断らない限り、部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0045】
1.冷凍米飯の製造1(糯米)
(実施例1)
(1)浸漬工程
原料米として精米した糯米(品種:はくちょうもち)を用いた。糯米100部に対し、常温(25℃)の水300部に2時間浸漬させた。その後、篩の上に置いて水切りした。米の水分含量は43%となった。
【0046】
(2)加熱加圧工程
浸漬工程後の原料米を加熱加圧装置に入れ、圧力170kPaにて115℃で15分間、飽和水蒸気にて加圧加熱した。
【0047】
(3)吸水工程
加熱加圧工程後、90℃の米100部へ25℃の水26部を加え、1分間よく混合させて吸水させた。米の水分含量は表1に示す値となった。
【0048】
(4)第2加熱工程
吸水工程後の米100部を蒸し器に入れ、常圧で100℃の飽和水蒸気で10分間加熱した。
【0049】
(5)第2吸水工程
第2加熱工程後の90℃の米100部へ25℃の水20部を加え、1分間よく混合させて吸水させた。米の水分含量は表1に示す値となった。
【0050】
(6)得られた米は、製造直後に20℃まで真空冷却機(三浦工業社)にて冷却した後、容器に入れて密封包装し、急速凍結機(ホシザキ社)にて-40℃の冷風で凍結させ、実施例1の冷凍米飯とした。
【0051】
(実施例2~3、比較例1)
実施例1において、加熱加圧工程における圧力を表1に示す値に変更した。その点以外は実施例1と同様として、冷凍米飯を得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1の第2加熱工程において、常圧で米を蒸す代わりに、加熱加圧装置を用い、170kPaにて115℃で10分間の加熱加圧を行った。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍米飯を得た。
【0053】
(比較例2)
実施例1の加熱加圧工程において、吸水工程後の米100部を加圧しながら加熱する代わりに、蒸し器に入れ、常圧で100℃の飽和水蒸気で15分間加熱した。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍米飯を得た。
【0054】
(実施例5)
加熱加圧工程後、90℃の米100部へ25℃の水56部を加え、1分間よく混合させて吸水させた。米の水分含量は表1に示す値となった。加熱加圧工程から水への浸漬は連続的に行われた。その後、第2加熱工程及び2回目の吸水工程を行わずに、実施例1の(6)と同様にして、米を冷却、包装及び冷凍し、冷凍米飯を得た。
【0055】
(実施例6)
加熱加圧工程の時間を20分とした。その点以外は実施例5と同様にして冷凍米飯を得た。
【0056】
(比較例3)
本比較例は、特許文献2(特開2008-000086号公報)に記載された発明に相当する比較例である。本例の(4)蒸し工程は特許文献2でいう「米のまわりに水相が存在しない」状態で米を加熱する「炊飯工程」に相当する(比較例5も同様)。
(1)浸漬工程
原料米として精米した糯米(品種:はくちょうもち)を5℃の水に15分間浸漬し、その後、篩の上に置いて水切りして、水分含量が25%の米を得た。
(2)加熱工程
浸漬工程後の米に対し、飽和水蒸気を用いて100℃、2分間の条件で常圧にて加熱処理を施した。
(3)吸水工程
加熱工程後の米に対し、この米の水分含量が59%となる量の水(25℃)を加えて60分間保持して吸水させ、水分含量が59%の米を得た。
(4)蒸し工程
第2吸水工程後の米を容器に入れ、常圧で10分蒸した。得られた米について、実施例1(6)と同様にして、冷却、包装及び冷凍を行い、冷凍米飯を得た。
【0057】
(比較例4)
比較例3において、(4)蒸し工程における常圧加熱の代わりに、加圧加熱装置に入れて、加圧(170kPa)下に115℃の飽和水蒸気にて加熱した。その点以外は比較例3と同様にして冷凍米飯を得た。
【0058】
(比較例5)
本比較例は、特許文献3(特開2006-174780号公報)に記載された発明に相当する比較例である。
(1)第1吸水工程
原料米として精米した糯米(品種:はくちょうもち)を25℃の水に120分間浸漬し、その後、篩の上に置いて水切りして、水分含量が39%の米を得た。
【0059】
(2)加熱工程
第1吸水工程後の米に対し、飽和水蒸気を用いて100℃、60分間の条件にて常圧で加熱処理を施した。
【0060】
(3)吸水工程
加熱工程後の米に対し、この糯米の水分含量が60%となる量の水(25℃)を加えて60分間保持して吸水させ、水分含量が60%の米を得た。
【0061】
(4)蒸し工程
第2吸水工程後の米を容器に入れ、常圧で10分蒸した。得られた米について、実施例1の(6)と同様に、冷却、包装及び冷凍を行った。
【0062】
(比較例6)
比較例5において、(4)蒸し工程において、常圧加熱の代わりに、加圧加熱装置に入れて、加圧(170kPa)下に115℃の飽和水蒸気にて加熱した。その点以外は比較例5と同様にして冷凍米飯を得た。
【0063】
2.冷凍米飯の解凍および解凍後の評価1
各実施例及び比較例で製造された冷凍炊飯米を、2週間冷凍(-18℃)で保管した後、7℃の冷蔵庫に移して10℃で72時間保管した。その後、室温(25℃)で10分間静置させた。
【0064】
静置後のサンプルを専門パネラー8名に食してもらい、外観(粒立ち)、食感(粘り及び硬さ)を下記評価基準に従って評価してもらった。
【0065】
・外観(粒立ち)
A:米の形状が粒の様に一つ一つ独立しており、良好。
B:米の形状が粒の様に見えるが一部輪郭が見えにくいため、やや良好。
C:米の形状が粒の様に一つ一つ独立せず、かたまって見えるため、不良。
【0066】
・食感(粘り及び硬さ)
A:適度な粘り及び適度な硬さがあり、良好。
B:やや粘りがあり、一部硬いため、やや良好。
C:硬くなっており粘りもないため、不良。
【0067】
・総合評価
A:粒立ちも良く、軟らかく、適度な粘りがあるため、良好。
B:粒立ちがやや分かりにいが、軟らかく、適度な粘りがあるか、又は、食感に違和感があるが、粒立ちが良いため、やや良好。
C:粒立ちがやや分かりにくく、且つ、食感に違和感があるため、やや不良。
D:粒立ちが無い、又は、食感が悪いため、不良。
【0068】
【表1】
【0069】
前記の通り、本発明の製造方法によれば、得られる米飯は、冷凍及び解凍並びにその後のチルド工程を経ても、適度な粘り及び適度な硬さのある食感及び粒立ちのよい形状に優れていた。
これに対し、加熱加圧工程の圧力が本発明の上限超である比較例1の冷凍米飯には、粒感のある形状が失われ、食感が軟らかくなりすぎていた。また2回の加熱工程をいずれも常圧で行う比較例2の米飯は充分に糊化されていなかった。
【0070】
また、特許文献2に対応する比較例3は、加熱加圧工程において、中心部分を糊化させないために、得られる米飯は充分に糊化されていなかった。当該比較例3において、蒸し工程を加圧加熱とした比較例4は、水分が多く、加圧すると見た目や食感が悪くなってしまった。
同様に、特許文献3に対応する比較例5の米飯は、加熱加圧工程において、充分に糊化されておらず、当該比較例5において蒸し工程を加圧加熱とした比較例6は、水分が多く、加圧すると見た目や食感が悪くなってしまった。
【0071】
3.冷凍米飯の製造2(うるち米)
(実施例7)
実施例1において、糯米の代わりに、うるち米(低アミロース米、品種ミルキークイーン)を用いた。その点以外は、実施例1と同様にして冷凍米飯を得た。
【0072】
(比較例7)
実施例7において、加熱加圧工程の代わりに常圧で100℃、15分間の蒸し加熱を行ったほか、第2吸水工程を行わなかった。その点以外は、実施例1と同様にして冷凍米飯を得た。
【0073】
4.冷凍米飯の解凍時および解凍後の評価2
各実施例及び比較例で製造された冷凍炊飯米を、2週間冷凍(-18℃)で保管した後、7℃の冷蔵庫に移して10℃で6時間保管した。その後、室温(25℃)に10分間静置させた。
【0074】
静置後のサンプルについて、前記「2.冷凍米飯の解凍および解凍後の評価1」と同様にして、評価した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示す通り、うるち米を原料米とした場合においても、本発明の製造方法により、解凍およびチルド保存による品質低下が効果的に抑制されることが判る。
【0077】
評価3:実施例1、4、比較例2、実施例5、6で得られた米飯について、以下の方法で物性を測定した。
有限会社タケモト電機のテンシプレッサーを用いて、以下の様に行った:
(1)冷凍米飯を7℃の冷蔵庫に入れ、冷蔵庫に移動後72時間保管して解凍した。米飯粒1粒を、パンクチャープロープ(Φ30mm)、速度1mm/sにて、歪率が90%になるまで、米飯粒を潰した。
(2)このときの最大応力(A)を米粒全体の硬さの値として評価した。
(3)その後、パンクチャープロープ(Φ30mm)、速度1mm/sにて、歪率を0%の位置に戻すときの継続した付着力の和(B)を米粒全体の粘りの値として評価した。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3の結果からも、特定の加熱加圧工程を用いることで硬さの低下及び粘りの向上効果が得られることが判る。