(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025059988
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】3次元データ計測システムおよび3次元データ計測方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20250403BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
G01C15/00 103A
G01C15/06 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170444
(22)【出願日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椴山 誉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(72)【発明者】
【氏名】駒ヶ嶺 薫平
(57)【要約】
【課題】ポールを用いずに、効率的な3次元データの計測を可能とする3次元データ計測システムを提供する。
【解決手段】3次元データ計測システム1は、プリズム51と、光波距離計52と、姿勢情報を検出する慣性計測装置53と、通信部58と、プリズム51の位置座標および姿勢情報に基いて、自位置の位置座標を算出し、自位置の位置座標、前記照射点までの距離、および姿勢情報に基づいて、照射点の位置座標を算出する制御演算部60とを備える計測モジュール50;および、プリズム51を測距測角して、プリズム51の位置座標を取得し、通信部58に送信する測量機10を備える。計測領域のデータ上で、計測範囲が、計測モジュール50の位置を移動せずに要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲よりも大きい場合に、計測可能範囲内の大きさのメッシュに区画して、各大メッシュ間の移動距離が最短となるように、計測経路を設定した誘導データに従って測定を実行可能とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を再帰反射するプリズムと、計測範囲に測距光を送出し、前記測距光の照射点から反射される反射測距光を受光して、前記照射点までの距離を検出する光波距離計と、姿勢情報を検出する慣性計測装置と、前記プリズムの位置座標を受信する通信部と、前記プリズムの位置座標および前記姿勢情報に基いて、自位置の位置座標を算出し、前記自位置の位置座標、前記照射点までの距離および前記姿勢情報に基づいて、前記照射点の位置座標を算出するように構成された制御演算部と、を備える計測モジュール;および、
前記プリズムを測距測角して、前記プリズムの位置座標を取得し、前記通信部に送信する測量機を備え、前記計測範囲の3次元データを取得する3次元データ計測システムであって、
計測領域のデータ上で、前記計測範囲が、前記計測モジュールの位置を移動せずに要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲よりも大きい場合に、前記計測範囲を前記計測可能範囲内の大きさのメッシュに区画し、メッシュ間の前記計測モジュールの移動距離が最短となるように計測経路を設定した誘導データに従って測定を実行するように構成されたことを特徴とする3次元データ計測システム。
【請求項2】
前記移動距離が最短となる計測経路は、各メッシュの中心を通り、一筆書きで最短となる経路であり、かつ、曲がり角が最も少なくなる経路であることを特徴とする請求項1に記載の3次元データ計測システム。
【請求項3】
前記計測可能範囲は、前記要求精度に応じて設定された、前記計測モジュールの前記測距光の計測面への入射角の閾値で前記測距光が前記計測面に入射した場合の、前記計測モジュールの位置と、前記測距光の前記照射点の位置との前記計測面上の距離に応じて設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の3次元データ計測システム。
【請求項4】
前記計測可能範囲は、計測面の3次元形状に応じて設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の3次元データ計測システム。
【請求項5】
表示部をさらに備え、
前記制御演算部は、前記表示部に、前記計測モジュールを保持する作業者を、前記誘導データに設定された計測経路の進行方向へ移動するように誘導する誘導表示を表示することを特徴とする請求項1または2に記載の3次元データ計測システム。
【請求項6】
前記制御演算部は、計測中において、現在の自位置よりも計測経路の進行方向の後方に、未測定の測定予定点がある場合に、作業者に報知することを特徴とする請求項1または2に記載の3次元データ計測システム。
【請求項7】
入射した光を再帰反射するプリズムと、計測範囲に測距光を送出し、前記測距光の照射点から反射される反射測距光を受光して、前記照射点までの距離を検出する光波距離計と、姿勢情報を検出する慣性計測装置と、前記プリズムの位置座標を受信する通信部と、前記プリズムの位置座標および前記姿勢情報に基いて、自位置の位置座標を算出し、前記自位置の位置座標、前記照射点までの距離、および前記姿勢情報に基づいて、前記照射点の位置座標を算出するように構成された制御演算部と、を備える計測モジュール;および
前記プリズムを測距測角して、前記プリズムの位置座標を取得して、前記通信部に送信する測量機を備え、前記計測範囲の
3次元データを取得する3次元データ計測システムを用いる3次元データ計測方法であって、
計測領域のデータ上で、前記計測範囲が、前記計測モジュールの位置を移動せずに要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲よりも大きい場合に、前記計測範囲を前記計測可能範囲内の大きさのメッシュに区画し、メッシュ間の前記計測モジュールの移動距離が最短となるように計測経路を設定した誘導データに従って測定を実行可能とするステップを備えることを特徴とする3次元データ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元データ計測システムに係り、より詳細には、プリズムを備える計測モジュールと測量機とを用いた3次元データ計測システムおよび3次元データ計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事における現況面計測では、自動追尾機能を有するトータルステーションと、プリズムを取り付けたポールとを備える3次元データ計測システムが用いられている。このようなシステムでは、作業者がポールを測定点上に設置して、トータルステーションに自動追尾させながら測定させる。この時、作業者は、気泡管を目視で確認してプリズムの水平を確保しながら測定を行う必要があり、作業が長時間になると作業者への負担が大きかった。また、使用するポールの長さを事前に計測して、システムにその値を入力しなくてはならなかった。
【0003】
近年では、GNSS受信機、傾斜センサ、方位センサ、光波距離計を備えることで、トータルステーションおよびポールを用いずに、光波距離計の照射点の3次元位置情報を計測することが可能な、3次元データ計測システムが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の3次元データ計測システムでは、ポール不要の計測が可能であるが、衛星からの電波が受信困難な屋内の環境では計測ができない。また、衛星からの電波が受信可能な屋外の環境であっても、計測する時間帯(衛星の数、衛星の幾何学的配置)の違いにより測定精度が劣化する、という問題があった。また、ポール不要の計測において、計測領域を効率的に計測する方法については、提案され。このため、プリズム付きポールも、GNSS受信機も用いずに、3次元データ計測が可能で、かつ、計測領域を効率的に計測することができる3次元データ計測システムが求められていた。
【0006】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであり、プリズム付きポールもGNSS装置も用いずに、効率的な3次元データの計測を可能とする3次元データ計測システムおよび3次元データ観測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つの態様に係る3次元データ計測システムは、以下の構成を有する。
【0008】
1.入射した光を再帰反射するプリズムと、計測範囲に測距光を送出し、前記測距光の照射点から反射される反射測距光を受光して、前記照射点までの距離を検出する光波距離計と、姿勢情報を検出する慣性計測装置と、前記プリズムの位置座標を受信する通信部と、前記プリズムの位置座標および前記姿勢情報に基いて、自位置の位置座標を算出し、前記自位置の位置座標、前記照射点までの距離および前記姿勢情報に基づいて、前記照射点の位置座標を算出するように構成された制御演算部と、を備える計測モジュール;および、
前記プリズムを測距測角して、前記プリズムの位置座標を取得し、前記通信部に送信する測量機を備え、前記計測範囲の3次元データを取得する3次元データ計測システムであって、計測領域のデータ上で、前記計測範囲が、前記計測モジュールの位置を移動せずに要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲よりも大きい場合に、前記計測範囲を前記計測可能範囲内の大きさのメッシュに区画し、メッシュ間の前記計測モジュールの移動距離が最短となるように計測経路を設定した誘導データに従って測定を実行するように構成されている。
【0009】
2.上記1の態様において、前記移動距離が最短となる計測経路は、各メッシュの中心を通り、一筆書きで最短となる経路であり、かつ、曲がり角が最も少なくなる経路であることも好ましい。
【0010】
3.上記1および2の態様において、前記計測可能範囲は、前記要求精度に応じて設定された、前記計測モジュールの前記測距光の計測面への入射角の閾値で前記測距光が前記計測面に入射した場合の、前記計測モジュールの位置と、前記測距光の前記照射点の位置との前記計測面上の距離に応じて設定されていることも好ましい。
【0011】
4.上記1~3の態様において、前記計測可能範囲は、計測面の3次元形状に応じて設定されていることも好ましい。
【0012】
5.上記1~4の態様において、表示部をさらに備え、前記制御演算部は、前記表示部に、前記計測モジュールを保持する作業者を、前記誘導データに設定された計測経路の進行方向へ移動するように誘導する誘導表示を表示することも好ましい。
【0013】
6.上記1~5の態様において、前記制御演算部は、計測中において、現在の自位置よりも計測経路の進行方向の後方に、未測定の測定予定点がある場合に、作業者に報知することも好ましい。
【0014】
また、本発明の別の態様に係る3次元データ計測方法は、入射した光を再帰反射するプリズムと、計測範囲に測距光を送出し、前記測距光の照射点から反射される反射測距光を受光して、前記照射点までの距離を検出する光波距離計と、姿勢情報を検出する慣性計測装置と、前記プリズムの位置座標を受信する通信部と、前記プリズムの位置座標および前記姿勢情報に基いて、自位置の位置座標を算出し、前記自位置の位置座標、前記照射点までの距離、および前記姿勢情報に基づいて、前記照射点の位置座標を算出するように構成された制御演算部と、を備える計測モジュール;および、前記プリズムを測距測角して、前記プリズムの位置座標を取得して、前記通信部に送信する測量機を備え、前記計測範囲の3次元データを取得する3次元データ計測システムを用いる3次元データ計測方法であって、計測領域のデータ上で、前記計測範囲が、前記計測モジュールの位置を移動せずに要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲よりも大きい場合に、前記計測範囲を前記計測可能範囲内の大きさのメッシュに区画し、メッシュ間の前記計測モジュールの移動距離が最短となるように計測経路を設定した誘導データに従って測定を実行可能とするステップを備える。
【発明の効果】
【0015】
上記態様によれば、プリズム付きポールもGNSS装置も用いずに、効率的な3次元データの計測を可能とする3次元データ計測システムおよび3次元データ観測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る測量システムの概要を示す図である。
【
図2】同測定システムを構成する計測モジュールおよび測量機の構成ブロック図である。
【
図3】(A)~(C)は、上記計測モジュールからの測距光の出射角および測距光の計測面への入射角と、測距光のビーム形状との関係を説明する図である。
【
図4】(A)は、同計測モジュールの計測可能範囲設定のための入射角の閾値を説明する図であり、(B)は、同計測モジュールの計測可能範囲の設定方法を説明する図である。
【
図5】同測定システムを用いた3次元データ計測のための誘導データ生成の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】同測定システムで使用する測定領域データにおける測定範囲の設定を説明する図である。
【
図7】(A)~(E)は、上記誘導データ生成において、計測範囲が計測可能範囲よりも大きい場合の処理を説明する図である。
【
図8】(A)、(B)は、上記誘導データ生成において、計測範囲が計測可能範囲内である場合の処理を説明する図である。
【
図9】同システムを用いた計測モジュールの基本動作のフローチャートである。
【
図10】同システムを用いた3次元データ計測時の処理のフローチャートである。
【
図11】(A)~(C)は、同3次元データ計測時の上記計測モジュールの表示部に表示される計測画面を説明する図である。
【
図12】(A)~(C)は、同3次元データ計測時の上記計測モジュールの表示部に表示される計測画面を説明する図である。
【
図13】同測定システムを用いた3次元データ計測時の処理の変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施の形態において、同一の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0018】
I 第1の実施の形態
1. 全体構成
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る3次元データ計測システム(以下、単にシステムという。)1の概要構成を示す図である。システム1は、好適には、建設現場における現況面計測に用いられる。
図2は、システム1の構成ブロック図である。システム1は、概略として測量機10と計測モジュール50とを備える。
【0019】
図示の例において、測量機10は、自動追尾機能を有するモータドライブトータルステーションである。測量機10は、既知点に設置して、座標および方向角を既知として用いられる。なお、本明細書において、「測量機を既知点に設置する」とは、既知点に設置することだけではなく、任意の点に、測量機を設置した後、後方交会法等により既知点の座標を作ることを含む。
【0020】
図1に示すように、測量機10は、外観上、基盤部6aと、基盤部6aに対してH軸周りに水平方向に回転される托架部6bと、托架部6bの中央でV軸周りに鉛直方向に回転される望遠鏡6cとを備える。基盤部6aは、三脚2に取り付けられた整準台4に取り付けられている。
【0021】
また、計測モジュール50は、手持ちサイズの、略直方体状の筐体5を備える。筐体5の上面前方には、後述するプリズム51が固定されている。また、筐体5の上面後方には、後述する表示部57としてのディスプレイが設けられており、作業者OPが表示部を確認しながら、測距光L3を測定対象物に照射できるように構成されている。また、計測モジュール50は、後述する誘導データ90を備え、誘導データ90に従って計測が実行されるようになっている。
【0022】
2. 測量機10
図2に示すように、測量機10は、測距部11、水平角検出器12、鉛直角検出器13、水平回転駆動部14、鉛直回転駆動部15、追尾部16、入力部17、出力部18、測量機制御演算部20、記憶部23,クロック24,および測量機通信部25を備える。
【0023】
測距部11は、測距光L1としてレーザ光を発光するレーザダイオード等の発光素子を有する送光部、測距光学系、および、アバランシェフォトダイオード等の受光素子を有する受光部を備える(図示せず)。測距部11は、望遠鏡6cに格納されており、測距光の光軸が、望遠鏡6cの視準光軸となっている、測距部11は、例えば赤外レーザ光等である測距光を、測距光学系を介して後述するプリズム51に射出して、その反射光を受光部で受光し、測距光と内部参照光の位相差または時間差からプリズム51の中心までの距離を測定する。
【0024】
水平角検出器12と鉛直角検出器13は、アブソリュートエンコーダまたはインクリメタルエンコーダである。水平角検出器12は基盤部6aの水平角、すなわち望遠鏡6cの視準光軸の水平角を検出する。鉛直角検出器13は、望遠鏡6cの視準光軸の鉛直角を検出する。
【0025】
水平回転駆動部14と鉛直回転駆動部15はモータである。測量機制御演算部20に制御される。水平回転駆動部14は、基盤部6aに設けられた回転軸を駆動して托架部6bを水平回転させる。また、鉛直回転駆動部15は、托架部6bに対して望遠鏡6cを回転可能に支持する回転軸を駆動して望遠鏡6cを鉛直回転させる。両駆動部の協働により、望遠鏡6cが水平方向および鉛直方向に回転される。
【0026】
追尾部16は、レーザダイオード等の発光素子を有する追尾光送光部、追尾光学系、および、CCD(Charge-Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)等の撮像素子を有する追尾光受光部を備える(図示せず)。追尾部16は、測距光L1とは異なる波長の赤外レーザ光を追尾光L2として射出して、追尾光L2発光時および追尾光L2消灯時の視準方向の風景画像を取得し、両画像を測量機制御演算部20に出力する。測量機制御演算部20は、両画像の差分からターゲットであるプリズム51の像の中心を求め、プリズム51の位置を算出する。測量機制御演算部20は、プリズム51の位置の検出結果に基づいて、プリズム51の中心と、望遠鏡6cの視軸中心が一致するように水平回転駆動部14および鉛直回転駆動部15を駆動する。この結果、望遠鏡6cが常にプリズム51の方向を向くようになっている。
【0027】
入力部17は、ボタンキー等の入力装置であり、作業者による測定作業の指令・設定等の入力を受け付けて測量機制御演算部20に出力する。出力部18は、例えば、液晶ディスプレイ等であり、測量機制御演算部20の制御により測定条件設定画面や測定結果確認画面等を表示する。入力部17と出力部18は、タッチパネル式ディスプレイとして一体に構成されていてもよい。
【0028】
記憶部23は、例えばHDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ等のコンピュータ読取可能な記憶媒体である。記憶部23は、測量機10が測量機能、自動追尾機能等各種機能を実行するためのプログラムが格納している。また、記憶部23は、測量機10が取得する測定データ等の各種データを記憶する。
【0029】
クロック24は、システムクロックであってもよく、ハードウェアクロックであってもよいが、計測モジュール50との間で、計測のタイミングを同期させるために、送信データに時刻を付与する。
【0030】
測量機通信部25は、測量機10と計測モジュール50との間での情報の送受信を可能にする通信インターフェイスである。通信手段としては、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信等を用いてよい。通信手段はこれに制限されず、既知の有線および無線通信規格を使用してもよい。測量機10は、プリズム測定結果、すなわち、プリズムの位置情報に時刻を付与して、測量機通信部25を介して計測モジュール50に送信する。
【0031】
測量機制御演算部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の少なくとも1つのプロセッサ21と、例えばSRAM(Static Random Access Memory),DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の少なくとも1つのメモリ22とを備える制御演算ユニットである。測量機制御演算部20は、プロセッサ21が、CPU等のソフトウェア的に機能を実現するものである場合、機能を実現するためのプログラムをメモリ22に読み出して実行することにより、以下に説明する測量機10の機能を実行する。
【0032】
また、プロセッサ21の少なくとも一部が、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されてもよい。
【0033】
測量機制御演算部20は、追尾部16、水平回転駆動部14および鉛直回転駆動部15を制御してプリズム51を自動追尾し、所定のタイミングで測距部11、水平角検出器12および鉛直角検出器13により、プリズム51を測距、測角する。測量機制御演算部20は、プリズム51の測距、測角結果に基づいてプリズム51の中心位置座標を算出し、時刻を付与して測量機通信部25を介して計測モジュール50に送信する。
【0034】
3. 計測モジュール50の構成
計測モジュール50は、プリズム51と、光波距離計(EDM:Electronic Distance Meter)52と、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)53と、記憶部54と、操作部56と、表示部57と、通信部58と、クロック59と制御演算部60とを備える。その他、音声を出力するためのスピーカーを備えてもよい。
【0035】
プリズム51は、例えば、複数の三角錐状のプリズムを放射状に組み合わせて構成された、いわゆる全方位プリズムであり、全周(360°)から入射する光を再帰反射する。プリズム51は、これに限らず、測量に用いられるプリズムであればよい。
【0036】
光波距離計52は、測距光L3として可視のレーザ光を出射するレーザダイオード等の発光素子を有する送光部、測距光学系、およびアバランシェフォトダイオード等の受光素子を有する受光部を備える(図示せず)。また、送光部から出射した測距光L3を測定対象物に照射して、測定対象物からの反射光を受光して、測距光L3と内部参照光との位相差または時間差から、測距光L3の照射点までの距離を測定する。測定が開始すると、測距光L3は、常時または、所定のタイミングで出射される。
【0037】
慣性計測装置53は、3軸のジャイロと3軸の加速度センサとを備え、計測モジュール50の3軸方向(ロール・ピッチ・ヨー)の角速度と加速度を検出することにより、計測モジュール50の姿勢を検出し、姿勢情報を検出する。慣性計測装置53は、計測モジュールの器械中心O
50(
図1)に配置されている。
【0038】
プリズム51の中心と、光波距離計52の距離算出の原点と、器械中心O50とは、位置関係が予め既知となっており、プリズム51の中心の位置座標と、計測モジュール50の姿勢情報に基いて、計測モジュール50の器械中心O50の位置座標、すなわち、計測モジュール50の位置座標が求められるようになっている。
【0039】
記憶部54は、例えばHDD、フラッシュメモリ等のコンピュータ読取可能な記憶媒体である。記憶部54は、後述する計測モジュール50の機能を実行するためのプログラムを格納している。また、記憶部54は、計測モジュール50が取得する3次元情報データを記憶する。
【0040】
操作部56は、ボタンキー等の入力装置であり、作業者OPによる測定モジュール50への指令・設定等の入力を受け付ける。表示部57は、例えば、液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ等の表示装置であり、制御演算部60の制御により測定条件設定のための入力画面や計測画面70等を表示する。図示の例では、操作部56と表示部57は、タッチパネル式ディスプレイとして一体に構成されている。また、操作部56が、ボタンキー等に加えて、マイク等の音声入力装置を備えていてもよい。計測画面70は、計測領域データに重ねて、計測経路、自位置、照射点位置等の様々な情報を表示する。
【0041】
通信部58は、測量機10と計測モジュール50との間での情報の送受信を可能にする通信インターフェイスである。通信手段としては、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信等を用いてよいが、測量機通信部25と対応するものを用いる。通信部58は、プリズム51の位置座標を測量機10より受信する。
【0042】
クロック59は、システムクロックであってもよく、ハードウェアクロックであってもよいが、測量機10のクロックと同期されており、測量機10との間で、計測のタイミングを同期させるために用いられる。
【0043】
制御演算部60は、例えばCPU等の少なくとも1つのプロセッサ61と、例えばSRAM,DRAM等の少なくとも1つのメモリ62とを備える制御演算ユニットである。プロセッサ61がCPUのようにソフトウェア的に機能を実現するものである場合、機能を実現するためのプログラムをメモリ62に読み出して実行することにより、以下に説明する計測モジュール50の機能を実行する。プロセッサ61の少なくとも一部は、CPLD、FPGA等のハードウェアで構成されてもよい。
【0044】
制御演算部60は、測量機10に対する遠隔操作を可能とし、通信部58を介して測量機10に測定および自動追尾の指示を送信する。制御演算部60は、測量機10と同期したタイミングで、光波距離計52により測定された照射点までの距離と、慣性計測装置53により検出された計測モジュール50の姿勢情報を取得する。制御演算部60は、測量機10から受信したプリズム51の位置座標、計測モジュール50の姿勢情報およびプリズム51と既知である計測モジュール50の器械中心O50との位置関係に基いて、計測モジュール50の自位置の座標を算出する。また、算出した自位置の座標、計測モジュール50の姿勢情報、および光波距離計52の測距値に基いて、測距光の照射点Qの位置座標を算出する。また、照射点Qが、設定された計測予定点82から所定の距離範囲にある計測予定点範囲83内にあるかどうかを判定し、計測予定点範囲83内にあると判定したときに、測定を実行し、測定値を測定結果として記録する。
【0045】
制御演算部60は、計測領域データ72から、計測範囲80を計測可能範囲87内の大きさの区画(大メッシュ)となるように、メッシュ状に区画して、各大メッシュの測定順序を設定した誘導データ90を生成する。計測可能範囲87は、計測モジュール50を保持する作業者OPが場所を移動せずに、測定可能な範囲である。作業者OPの移動距離が最も短くなるように大メッシュの測定経路を設定した誘導データ90を生成する。誘導データ90および誘導データ90の生成については後述する。また、制御演算部60は、作業者OPが誘導データ90に設定された計測経路89に従って測定を進行できるように、表示部57に誘導表示94を表示する等して作業者OPを誘導する。また、制御演算部60は、各メッシュの区画ごとに、測定済みのメッシュと、未測定のメッシュとを識別可能に表示部57に表示する。
【0046】
4.誘導データ
ここで、誘導データ90および誘導データ90の生成方法について説明する。誘導データ90は、要求精度を満たしながら、効率よく測定を進行するために、後述する計測経路89が設定されたデータである。このためにまず、計測モジュール50を保持する作業者OPが、位置を移動することなく、要求精度を満たしながら計測をすることが可能な計測可能範囲87を検討する。
【0047】
4―1. 計測可能範囲87
計測可能範囲87は、上述の通り、計測モジュール50(を保持する作業者OP)がその位置から別の場所へ移動することなく、ステップS03で設定した要求精度を満たす測定が可能な範囲である。すなわち、計測モジュール50の位置を移動させずに測定が可能な範囲である。本形態の計測モジュール50は、光波距離計52を用いる携帯型の3次元データ計測装置であるため、作業者OPがその位置から移動しなくても、計測モジュール50の姿勢を変えたり、腕を動かして動かしたりすることで一定の範囲を計測することができるようになっている。
【0048】
計測モジュール50を用いた計測の精度に影響を与える要因は種々あるが、測距光L3のビームB
50の形状が特に影響の大きい要因である。ビームB
50の形状は、測距光L3の計測範囲80の平面(以下、計測面84という。)への入射角により変化する。
図3(A)~(C)は、測距光L3の計測面84への入射角と、測距光L3のビームB
50の形状との関係を説明する図である。
【0049】
測距光L3の鉛直下向きに対する角度を測距光L3の出射角として説明する。
図3(A)に示す様に、計測面84が水平面であれば、測距光L3を出射角0°で出射すれば、測距光L3は入射角0°で計測面84に入射する。この時、ビームB
50の形状は、ほぼ真円である。一方、
図3(B)に示す様に、同じく計測面84が水平面で、測距光L3が0°よりも大きい出射角αで出射すれば、入射角β
1は出射角αと等しくなる。ここで、出射角αが大きければ大きいほど入射角βも大きくなる。入射角βが大きければ大きいほど、ビームB
50の形状はより扁平な楕円となる。
【0050】
また、計測面84が、水平面ではなく、傾斜面であれば、その傾斜に応じて測距光L3の入射角は変動する。例えば、
図3(C)に示すように、計測面84と直交する面が計測モジュール50から離れるように傾斜する場合、測距光L3の出射角αが、
図3(B)と等しくても、計測面84への入射角β
2は、
図3(B)の場合よりも大きくなる。これに伴い、測距光L3のビームB
50の形状は、
図3(B)の場合よりも、さらに扁平になる。一方、図示しないが、計測面84が、
図3(C)の場合とは反対に傾斜している場合は、測距光L3の入射角は
図3(B)の場合よりも小さくなる。
【0051】
以上は、計測面84が水平を基準とする面であり、測距光L3が下方向に向けて出射され場合を例として説明した。しかし、計測面84が地面以外の面(鉛直面やその他の傾斜面)であっても、計測面84に直交する方向を基準として、測距光L3の出射角と、計測面84に対する入射角を算出することができる。
【0052】
ビームB50の形状が扁平になればなるほど、受光信号にばらつきが生じて、光波距離計52の測距値誤差が大きくなる。具体的には、ビーム形状が扁平になればなるほど、同じ距離であっても、測定対象物に対する照射範囲が広くなるため、距離の異なる信号が混在した信号となり、誤差が増大する。或いは、測定対象物が等方散乱体でない場合、入射角が大きくなると、受光光量が低下し、信号のシグナル-ノイズ比が低下し、測距値の誤差が大きくなる。すなわち、光波距離計52の測定精度は、計測面84への入射角に応じて変化する。また、計測面84への入射角は、計測モジュール50の姿勢情報から把握できる測距光L3の出射角と、計測面84の傾斜および計測面84に存在する凹凸等の計測面84の三次元形状とに基づいて決定される。入射角には、計測の要求精度に応じて、許容される閾値βTHが設定される。例えば、表1に示すように、計測の要求精度が10mm(レベル1)である場合βTH1、50mmである場合(レベル2)βTH2,100mmである場合(レベル3)、βTH3というように設定される。
【0053】
【0054】
図4(A)は、入射角が閾値β
THとなる場合の器械中心O
50から測距光L3の照射点Qまでの水平距離D
Hを示す。器械中心O
50から水平距離D
Hの範囲では、要求精度を満たす計測が可能であるといえる。ただし、水平距離D
Hは、器械中心O
50の高さ(計測面84からの距離)Hに応じて変わるため、器械中心O
50の高さHを決定することが必要である。例えば、器械中心O
50の高さHは、手に保持した通常の使用状態の平均的な高さに基づいて予め設定されていてもよい。あるいは、作業者OP自身の身長から算出してもよい。
【0055】
そして、計測位置が、器械中心O
50の位置であると近似し、作業者OPが移動しない(すなわち、その位置から移動しない)状態では、手(腕)で保持する計測モジュール50を、腕の可動範囲内の身体の前面で振って計測を行うと仮定すると、
図4(B)に示すような、作業者OPの位置を中心とする半径D
Hの円内の範囲が、要求精度を満たしながら、作業者が移動せずに計測できる範囲87aとなる。そこで、この半円の範囲87aに内接する正方形の範囲を計測可能範囲87とする。このように、計測可能範囲87は、計測モジュール50の測距光L3の計測面84への入射角に基づいて設定される。
【0056】
システム1では、計測を効率よく実施するために、作業者OPを、計測経路89を設定した誘導データ90に従って誘導して計測を実行する。まず、
図5~8を参照して、誘導データ90の生成方法の概要を説明する。
図5は、誘導データ90の生成方法のフローチャートである。
【0057】
処理を開始すると、まず、ステップS01で、制御演算部60が、計測領域データ7aを読み込む。計測領域データ7aは、具体的には、作業者OPが計測を行おうとする領域の地図データまたはCADデータである。計測領域データ7aの読み込みは、例えば、予め計測領域データ7aを記憶部54に格納しておき、これを読み込んでもよい。あるいは、計測領域データ7aをクラウドサーバ等に格納しておき、通信部58または通信部58とは別の通信インターフェイスにより、インターネットを介して読み込んでもよい。
【0058】
次に、ステップS02で、制御演算部60が、計測範囲80を設定する。
図6は、表示部57上での計測範囲80の設定を説明する図である。
図6において計測領域データ7aは、地図データである。計測範囲80は、計測領域7のうち、実際に3次元データの計測を行う領域である。計測範囲80の設定は、例えば、表示部57に計測領域データ7aを表示して、タッチパネル上で計測範囲80を囲う点を指先でタップすることにより、多角形に選択して設定するようになっていてもよい。あるいは、矩形の選択ツールを用いて斜めにスワイプすることで矩形状に選択して、設定できるようになっていてもよい。また、指先で囲うようになぞることで選択できる任意の形状で設定できるようになっていてもよい。
【0059】
次に、ステップS03で、制御演算部60は、作業者OPの入力に従って、要求精度を設定する。要求精度は、例えば、表1のレベルから選択して設定できるようになっていてもよい。
【0060】
次に、ステップS04で、制御演算部60は、設定された計測範囲80の大きさと、計測可能範囲87の大きさとを比較する。
【0061】
図7(A)~(E)は、ステップS04で、計測範囲80が計測可能範囲87よりも大きい場合(Yes)の処理を説明する図である。
図7(A)に示すように、設定した計測範囲80が計測可能範囲87よりも大きい場合(Yes)、ステップS05に移行して、
図7(B)に示すように、計測範囲80を、計測可能範囲87内の大きさとなるピッチPのメッシュ状に区画する。このピッチPのメッシュを大メッシュ88という。
【0062】
そして、ステップS06で、計測モジュール50(を保持する作業者OP)の移動距離が最も短くなるように、大メッシュ88間の計測順序および大メッシュ88内の計測経路89を算出する。作業者OPの移動距離が最も短くなる経路(最短経路)は、例えば、各大メッシュの中心を通り、一筆書きで最短となる経路であり、かつ、曲がり角が最も少なくなる経路である。例えば、
図7(A)の計測範囲80については、
図7(C),(D)の2通りの計測経路89が最短経路と言える。
【0063】
次に、ステップS07で、
図7(E)に示すように、制御演算部60は、各大メッシュ88を、ピッチpの小メッシュ81に区画する。ピッチpは予め制御演算部60に設定されており、例えば、建設工事の現況面観測の目的では、ピッチpは、10~50cmが好適である。ピッチpを、任意の値で設定できるようになっていてもよい。小メッシュ81の中心には、計測予定点82が設定されている。また、計測予定点82の周囲の所定の領域が、その範囲に照射点Qが入った場合に、計測モジュール50が測定を実行する計測予定点範囲83として設定されている。
【0064】
また、
図7は、ステップS04で、計測範囲80が計測可能範囲87内である場合(No)の処理を説明する図である。
図8(A)に示すように、計測範囲80が、計測可能範囲87よりも小さい場合(No)、ステップS08に移行して、
図8(B)に示すように、計測範囲80を、ステップS07と同様のピッチpの小メッシュに区画する。計測予定点82や計測予定点範囲83が設定されていることもステップS07と同様である。
【0065】
ステップS07またはステップS08の後、ステップS09で、制御演算部60は、計測経路89が設定された計測範囲80のデータを誘導データ90として、記憶部54に保存して処理を終了する。ここで、誘導データ90が複数ある時は、最初の大メッシュの中心と誘導データ90とを関連付けて保存する。
【0066】
5. 3次元データ計測
次に、システム1を用いた3次元データ計測方法を説明する。
図9は、システム1を用いた3次元データ計測における計測モジュール50の基本的な動作のフローチャートである。
【0067】
まず、現場での使用にあたっては、事前準備として、測量機10を既知点に設置し、測量機の座標および方向角を測量機10に入力する。
【0068】
また、計測モジュール50の通信部58と、測量機10の測量機通信部25との接続を確立させておく。また、計測モジュール50のキャリブレーションを行う。具体的には、例えば、測量機10と計測モジュール50を正対させて、測量機10でプリズム51を測定することにより、計測モジュール50の方向を特定し、その反対方向を慣性計測装置53のロール角φ=0,ピッチ角θ=0,ヨー角ψ=0として設定する。
【0069】
そして、基本動作として、ステップS11で、制御演算部60は、通信部58を介して、測量機10に測定開始を指示する。これにより、測量機10は、その後、プリズム51を追尾し、所定の間隔で、プリズム51を測定してプリズム51の位置座標を時刻と共に計測モジュール50へ送信する。
【0070】
次に、ステップS12で、制御演算部60は、プリズム51の位置座標の測定と同期したタイミングで、計測モジュール50の姿勢情報を検出して、自位置(計測モジュール50の器械中心O50の位置座標)を算出する。
【0071】
次に、ステップS13で、制御演算部60が、表示部57に、計測画面70を表示し、計測画面70に、自位置(計測モジュール50の器械中心O
50の位置座標)を表示する。この後、制御演算部60は、ステップS11~S13を繰り返し、プリズム51の位置座標の受信ごとに、または、所定のタイミングで、計測モジュール50の器械中心O50の位置座標を算出し、計測画面70に自位置マーク91(
図11(B))を表示し、表示を更新する。
【0072】
そして、ステップS14で、作業者OPの指示または制御演算部60の制御により、光波距離計52の測距光L3が照射された場合(Yes)、ステップS15で、制御演算部60は、プリズム51の位置座標の測定と同期したタイミングで光波距離計52により測距光Lを出射して照射点Qまでの距離を検出し、計測モジュール50の姿勢情報を用いて、照射点Qの位置座標を算出する。また、計測画面70には、照射点の位置(
図12(B)の照射点マーク92)を表示する。
【0073】
そして、ステップS16で、終了の指示があるまで制御演算部60は常時ステップS12~S15を繰り返す。
【0074】
このように計測モジュール50では、計測中は上記の基本動作を常時実行している。
次に、
図10は、システム1を用いた3次元データ計測における計測モジュール50の処理の一例を示すフローチャートである。
図11(B),11(C),12(B),12(C)は、計測画面70を示す図である。
図11(A)、
図12(A)は、
図11(B),11(C),
図12(B),12(C)の表示に対応する計測経路と作業者の位置関係を説明する図である。図中、XIB,XIC,XIIB,XIICが、それぞれ
図11(B),11(C),12(B),12(C)に対応する。
【0075】
計測画面70には、計測範囲80を含む計測領域が表示されている。計測範囲80は、適宜拡縮できるようになっていてもよい。計測画面70には、計測予定点82、計測位置を示す自位置マーク91、照射点Qの位置を示す照射点マーク92、この他、測定中、常時検出している照射点P(計測画面70上の照射点マーク92に対応)の座標の値93を数値で表示していてもよい。
【0076】
計測を開始すると、まず、ステップS21で、制御演算部60は、記憶部54に記憶された誘導データ90を読み出す。ここで、誘導データ90が複数ある場合には、1番目の大メッシュが、現在の自位置から最も近い誘導データを選択し、設定するようになっていてもよい。
【0077】
次に、ステップS22で、制御演算部60は、計測開始領域SAまで誘導を開始する。計測開始領域SAは、第1の大メッシュが、上記で説明した作業者OPの計測可能範囲87に入る領域である。具体的には、
図11(B)に示すように、制御演算部60が自位置と、計測開始領域SAとの差を算出して、自位置が、計測開始領域SAに近づく方向への誘導表示94を計測画面70に表示する。計測画面70には、他に、例えば、小メッシュ81および大メッシュ88の情報を含む計測範囲80が表示されている。計測範囲80は、計測領域データ72に重ねて表示されていてもよい。測定開始領域までの誘導は、誘導表示94のみに限定されない。計測モジュール50にスピーカーを備えるように構成し、表示に加えて、または単独で、音声により誘導してもよい。
【0078】
次に、ステップS24で、制御演算部60が、自位置が計測開始領域SAに入ったことを判定すると、ステップS25で、計測を開始する。計測を開始すると、制御演算部60は、所定の間隔で測距光L3の照射を開始する。
【0079】
例えば、
図11(A),11(C)に示すように、計測開始領域SAに入ると、測定ステータス表示95が測定開始可能となったことを表示する。作業者OPがこれをタップすることで、計測を開始する。
【0080】
計測を開始すると、ステップS24で、制御演算部60は、さらに誘導を続行する。具体的には、計測開始領域SAから、作業者OPが設定された計測経路89の進行方向へ移動するように誘導表示94を表示する(
図12(B),12(C)参照)。すなわち、現在の自位置と、計測可能範囲87から、計測可能範囲87が計測経路89に沿って進行するように誘導表示94を表示する。
【0081】
作業者OPは、
図12(A)のジグザグ矢印で示すように、手に保持する計測モジュール50を左右に振るようにして計測を実行する。光波距離計52は可視光のレーザ光を測距光L3として照射しているため、作業者OPは、計測画面70上の計測範囲80および照射点マーク92と、現場の計測面84および照射点Qを確認しながら測定することが可能である。
【0082】
計測の過程では、ステップS26で、制御演算部60は、照射点Qが、計測予定点範囲83に入ったかどうかを判定する。そして、ステップS26で、照射点Qが、計測予定点範囲83に入った場合(Yes)、ステップS27で、制御演算部60は、測定を実行して、照射点の位置座標を算出し、計測結果を記憶部54に記憶する。
【0083】
また、ステップS26で、照射点Qが、計測予定点範囲83に入っていない場合(No)、作業者OPは、照射点マーク96を確認しながら照射点Qが、進行方向の計測予定点82に近づくように、計測モジュール50を動かす。
【0084】
ステップS27で、測定を実行し、測定値を記録すると、処理は、ステップS28に移行して、制御演算部60は、測定状況を示す計測画面70の表示を更新する。
図12(B)は、測定が進行した後の、計測画面70の一例である。具体的には、測定済みエリア77と未測定エリア78とを異なる色で表す。より具体的には、未測定エリア78は無色に、測定済みエリア77は高さの値(Z座標の値)によりカラースケール化して色を重ね、測定エリアの3次元形状を把握可能に表示してもよい。本実施の形態では、このような計測面84の3次元形状を示す3次元データをリアルタイムで確認できるように表示することが可能である。
【0085】
そして、ステップS29で、測定の終了が判定されるまで、ステップS25~S28を繰り返して、作業者OPを計測経路89に沿って誘導しながら計測を続行する。
【0086】
なお、
図12(C)のように、作業者OPが、計測経路89の曲がり角まで来た場合には、作業者OPが設定された計測経路89の進行方向へ曲がる方向を示す誘導表示94を表示する。この時に、誘導表示94の強調表示94aを画面の中央に表示する等して、表示してもよい。このようにすれば、作業者OPはより直感的に、進行方向を把握することができるので好ましい。
【0087】
5.技術的効果
このように、本実施の形態では、計測モジュール50に、プリズム51、光波距離計52および慣性計測装置53を備え、プリズム51の位置座標を取得可能としたので、作業者が任意の姿勢で計測モジュール50を移動させても、測距光照射点の座標を取得することができる。そのため、プリズム付きポールを用いずに3次元データの計測が可能となる。また、システム1では、計測モジュールの自位置は、測量機10で測定し、GNSS受信機を用いないので、屋内でも屋外と同等の精度で測定することができる。また、衛星の数や、衛星の幾何学的配置などを気にする必要もない。
【0088】
また、計測モジュール50に、予め、計測領域7のデータ(計測領域データ7a)上で、計測範囲を所定のピッチpを有するメッシュ状に区画して、作業者OPが手に持つ計測モジュール50を移動させて測距光で計測範囲を走査することで、測距光の照射点が計測予定点範囲83内に入ったときに自動的に測定を実行するように構成したので、測定点ごとに立ち止まり、ポールを静止させて測定することが不要であり、作業負担を軽減し、作業時間を短縮することが可能となる。
【0089】
さらに、誘導データ90を、計測範囲80と、計測モジュール50の位置MPを移動することなく要求精度を満たす計測が可能な計測可能範囲87とを比較して、計測範囲80が、計測可能範囲87以上の大きさである場合に、計測範囲80を、計測可能範囲内の大きさを有する大メッシュ88に区画し、計測モジュール50(すなわち、計測モジュール50を保持する作業者OP)の大メッシュ88間の移動距離が最も短くなるように、計測経路89を設定したので、作業効率が向上する。また、計測中には、測定画面70に、作業者OPへ進行方向を知らせる誘導表示94を表示するように構成したので、作業者OPは、誘導表示94に従って計測を進行するだけでよく、作業者OPの負担が軽減する。
【0090】
また、計測モジュール50では、測距光を可視光としたので、作業者OPが、現物上での測距光L3の照射点Qを確認しながら、計測モジュール50を移動させることができるので、作業性が向上する。
【0091】
また、計測モジュール50において、表示部57に表示する計測画面70において、測定済みエリア77と、未測定エリア78を識別可能に表示するように構成したので、作業者OPは、作業の進捗状況を確認しながら計測を進行することが可能となる。さらに、測定済みのエリアを高さの値によりカラースケール化して表示すれば、リアルタイムで、計測範囲の3次元形状を視覚的に認識することが可能となる。
【0092】
尚、計測領域7のデータ(計測領域データ7a)が、地図データであり、計測範囲は、地面であるとして説明したが、上述の通り、計測領域データ7aは設計データでもよく、計測範囲は、地面に限らず、壁面や、構造物の表面、天井面など、地面以外のものであってもよい。計測モジュール50は、携帯できる寸法に構成されているため、様々な計測範囲を計測することができる。従って、システム1は目的に応じて、様々な測定対象物の3次元データの計測に用いることができる。
【0093】
6.変形例
図13は、システム1を用いた3次元データ計測における計測モジュール50の処理の別の例を示す。ステップS31~S38、S41は、ステップS21~S28、S29とそれぞれ対応する。本変形例に示すように、誘導されながら測定を行う過程において、進行方向の後方に未測定の小メッシュがある場合に、作業者にそれを報知するようになっている。
【0094】
すなわち、ステップS38で、表示を更新した後、ステップS39で、現在の自位置における計測可能範囲87よりも計測経路89の進行方向の後方に、未測定の小メッシュ81があるかどうかを判定する。未測定の小メッシュ81がある場合(Yes)は、ステップS40で制御演算部60は、その旨を作業者に報知する。例えば、表示部57にその旨を表示する、音声で報知する、警告音を発する等により、作業者に報知するようになっていてもよい。
このように構成することで、漏れのない計測を実行することが可能となる。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施の形態について述べたが、上記の実施の形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 :3次元データ計測システム
7 :計測領域
10 :測量機
50 :計測モジュール
51 :プリズム
52 :光波距離計
53 :慣性計測装置
57 :表示部
58 :通信部
60 :制御演算部
76 :計測位置
80 :計測範囲
81 :小メッシュ
82 :計測予定点
84 :計測面
87 :計測可能範囲
87a :範囲
88 :大メッシュ
89 :計測経路
90 :誘導データ
94 :誘導表示
L3 :測距光