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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025060302
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20250403BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20250403BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20250403BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 Q
B32B7/022
B32B7/025
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170965
(22)【出願日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】戸▲高▼ 昌也
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F100AA12
4F100AA12A
4F100AA20
4F100AA20A
4F100AB17
4F100AB17B
4F100AK41
4F100AK41D
4F100AK54
4F100AK54C
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00D
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH66
4F100EH66B
4F100EJ42
4F100GB32
4F100GB41
4F100JD02
4F100JD02A
4F100JD04
4F100JD08
4F100JG01
4F100JG01B
4F100JG05
4F100JG05C
4F100JK02
4F100JK04
4F100JK07
4F100JK07C
5E321AA23
5E321AA41
5E321AA44
5E321AA46
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB25
5E321BB32
5E321BB41
5E321BB53
5E321BB60
5E321CC16
5E321GG11
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
(57)【要約】
【課題】耐湿熱性及び屈曲耐久性が向上された電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、電磁波吸収体であって、
前記ガスバリア層と、前記抵抗層と、前記スペーサ層とがこの順に積層され、前記スペーサ層の厚みが1.0mm以下である、電磁波吸収体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、電磁波吸収体であって、
前記ガスバリア層と、前記抵抗層と、前記スペーサ層とがこの順に積層され、前記スペーサ層の厚みが1.0mm以下である、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記スペーサ層のヤング率が50MPa以上である、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記スペーサ層の比誘電率が5以上100未満である、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波吸収体はさらに反射層を含む、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記スペーサ層が、前記ガスバリア層及び前記抵抗層に直接接する、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記ガスバリア層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、及び酸化窒化炭化珪素から選択される少なくとも1つの層を有する、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記ガスバリア層の厚みが10~2000nmである、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記電磁波吸収体の厚みが0.05~3.0mmである、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収体を備える、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波吸収体は、各種自動運転技術の向上のために、自動運転に用いられる電磁波センサーが、例えば、周囲の電子機器等から発生する電磁波ノイズを主要因とする電波障害により誤動作等がなく機能するように、電磁波センサーに設けられることがある。
このような中、自動車等の電磁波センサーに設けられる電磁波吸収体(ミリ波吸収体等)にあっては、高温高湿の環境下においても、その影響を受けることなく電磁波を吸収し、同時に屈曲性を有することが要求される場合がある。
特許文献1では、例えば、抵抗層と、誘電体層と、導電層をこの順に備える、電磁波吸収体用誘電体シート及び電磁波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-100090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、電磁波吸収体を構成する抵抗層又は導電層における浮き(いずれかの層が局所的に基材から離れ、周囲に比べ盛り上がる状態)を抑制することが開示されているが、電磁波吸収体の屈曲耐久性、また信頼性にかかる耐湿熱性については検討されていない。
【0005】
本発明は、上記を鑑み、耐湿熱性及び屈曲耐久性が向上された電磁波吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、電磁波吸収体であって、ガスバリア性が高く薄いガスバリア層を抵抗層上に設け、且つ特定の厚みのスペーサ層を用いることにより、電磁波吸収体の耐湿熱性及び屈曲耐久性を同時に向上させ得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1]ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、電磁波吸収体であって、前記ガスバリア層と、前記抵抗層と、前記スペーサ層とがこの順に積層され、前記スペーサ層の厚みが1.0mm以下である、電磁波吸収体。
[2]前記スペーサ層のヤング率が50MPa以上である、上記[1]に記載の電磁波吸収体。
[3]前記スペーサ層の比誘電率が5以上100未満である、上記[1]又は[2]に記載の電磁波吸収体。
[4]前記電磁波吸収体はさらに反射層を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の電磁波吸収体。
[5]前記スペーサ層が、前記ガスバリア層及び前記抵抗層に直接接する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波吸収体。
[6]前記ガスバリア層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、及び酸化窒化炭化珪素から選択される少なくとも1つの層を有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の電磁波吸収体。
[7]前記ガスバリア層の厚みが10~2000nmである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の電磁波吸収体。
[8]前記電磁波吸収体の厚みが0.05~3.0mmである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の電磁波吸収体。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の電磁波吸収体を備える、電子デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐湿熱性及び屈曲耐久性が向上された電磁波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体の一例を示す断面構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体の他の一例を示す断面構成図である。
図3】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体を構成する抵抗層の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔電磁波吸収体〕
本発明の電磁波吸収体は、ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、電磁波吸収体であって、前記ガスバリア層と、前記抵抗層と、前記スペーサ層とがこの順に積層され、前記スペーサ層の厚みが1.0mm以下であることを特徴としている。
本発明の電磁波吸収体は、ガスバリア層と、抵抗層と、スペーサ層とを含む、構成とし、ガスバリア性が高く、薄いガスバリア層を抵抗層上に設け、且つ特定の厚みのスペーサ層を用いる。これにより、電磁波吸収体の高温高湿度下での耐湿熱性、及び、屈曲耐久性を向上させることができる。
【0010】
本明細書において「抵抗層パターン」とは、幾何学的な図形である単位の集合体であり、ある周波数の電磁波を選択的に透過する物体を意味する。「抵抗層パターン」はいわゆるアンテナと同様の機能を有するともいえる。
本明細書において「ミリ波領域の電磁波」とは、波長が1~10mmの電磁波を意味する。「ミリ波領域の電磁波」とは、周波数が30~300GHzである電磁波ともいえる。
【0011】
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0012】
以下、本発明の電磁波吸収体について、図を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体の一例を示す断面構成図である。
図1に示すように、本実施形態の電磁波吸収体1は、ガスバリア層2と、抵抗層3と、スペーサ層4と、反射層5と、を有する。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体の他の一例を示す断面構成図である。
図2に示すように、本実施形態の電磁波吸収体11は、ガスバリア層2と、抵抗層3と、スペーサ層4と、接着層6を介し基材(P)7上に積層された反射層5と、を有する。
【0015】
[抵抗層]
抵抗層3は周波数選択表面(FSS:Frequency Selective Surface)からなる。周波数選択表面とは、導電性部材などで波長以下の形状の連続構造を形成することにより、特定の周波数の電磁波のみを遮断又は透過することができる面のことである。
【0016】
図3は、本実施形態における抵抗層の一例を示す上面図である。図3に示すように、抵抗層3は、平板状であるスペーサ層4上に、スペーサ層4の一方の面4aに形成された抵抗層パターン22を有する。抵抗層パターン22は、第1の抵抗層パターン51、第2の抵抗層パターン52及び第3の抵抗層パターン53からなる。
【0017】
(第1の抵抗層パターン)
図3に示すように第1の抵抗層パターン51は、複数の第1の単位u1で構成されている。第1の単位u1のそれぞれは、幾何学的な図形である。
すなわち、第1の抵抗層パターン51は、幾何学的な図形である第1の単位u1の集合体であるともいえる。
第1の単位u1は、それぞれが一つのアンテナとして機能する。第1の抵抗層パターン51は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0018】
第1の抵抗層パターン51においては、複数の第1の単位u1が図3中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第1の配列R1が複数形成されている。第1の抵抗層パターン51は複数の第1の配列R1を有するともいえる。第1の抵抗層パターン51は、複数の第1の配列R1を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔でスペーサ層4上に形成することで構成できる。
複数の第1の配列R1同士の間隔は特に制限されない。第1の配列R1同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0019】
図3に示すように、第1の単位u1の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第1の単位u1は、1つの十字部分S1と、4つの端部T1とを有する。十字部分S1は、図3中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T1が接している。
【0020】
第1の単位u1のx軸方向の長さや、4つの端部T1のそれぞれのx軸方向の長さをそれぞれ調整することで、1つのアンテナとして機能する第1の単位u1による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0021】
ただし、第1の単位の形状は十字状に限定されない。第1の単位の形状は、第1の抵抗層パターン51によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、A[GHz]となる態様であれば、特に限定されない。
例えば、第1の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0022】
抵抗層3においては、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一である。ただし、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第1の単位の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0023】
第1の抵抗層パターン51は、周波数がA[GHz]である電磁波を選択的に透過する。周波数の値A[GHz]は、第1の抵抗層パターン51によって透過される電磁波の透過量が20GHz~110GHzの範囲で極大値を示すときの周波数の値である。
【0024】
本実施形態における抵抗層3においては、周波数の値Aは、20~110GHzが好ましく、60~100GHzがより好ましく、65~95GHzがさらに好ましく、70~90GHzが特に好ましい。周波数の値Aが前記数値範囲内であると、抵抗層3がミリ波領域の電磁波を透過でき、自動車用部品、道路周辺部材、建築外壁関連材、窓、通信機器、電波望遠鏡等に適用しやすく易くなる。
【0025】
第1の単位u1の材質は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
第1の単位の材質としては、例えば、金属の細線、導電性薄膜、導電性ペーストの定着物等が挙げられる。
金属の材質としては、銅、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、ニッケル、チタン、銀、金またはこれらの金属を2種以上含む合金(例えば、ステンレス鋼、炭素鋼等の鋼鉄、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、レニウムタングステン等)が挙げられる。
導電性薄膜の材質としては、金属粒子、カーボンナノ粒子、カーボンファイバー等が挙げられる。
【0026】
第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
例えば、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを設計しやすくなり、透過される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0027】
(第2の抵抗層パターン)
図3に示すように、第2の抵抗層パターン52は、複数の第2の単位u2で構成される。
第2の抵抗層パターン52は、第1の抵抗層パターン51と同様に形成されている。
【0028】
第2の抵抗層パターン52は、周波数が下記式(1)を満たすB[GHz]である電磁波を選択的に透過する。周波数の値B[GHz]は、第2の抵抗層パターン52によって透過される電磁波の透過量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値B[GHz]は、下記式(1)を満たす。
1.037×A≦B≦1.30×A・・・式(1)
【0029】
上記式(1)に示すように、第2の抵抗層パターン52は、周波数が1.037×A~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収する。第2の抵抗層パターン52は、周波数が1.17×A~1.24×A[GHz]である電磁波を吸収することが好ましい。
第2の抵抗層パターン52が1.037×A[GHz]以上の周波数の電磁波を透過するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の抵抗層パターン52による電磁波の透過量のピークと第1の抵抗層パターン51による電磁波の透過量のピークとが充分に重なりあう。その結果、第1の抵抗層パターン51を単独で有するフィルムと比較して、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯がA[GHz]より高周波数側の周波数帯に拡張される。
第2の抵抗層パターン52が1.30×A[GHz]以下の周波数の電磁波を透過するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の抵抗層パターン52による電磁波の透過量のピークと第1の抵抗層パターン51による電磁波の透過量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。
以上より、第2の抵抗層パターン52は周波数が1.037×A~1.30×A[GHz]である電磁波を透過するため、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が高周波数側の周波数帯に拡張される。
【0030】
第2の抵抗層パターン52を構成する第2の単位の材質は、B[GHz]の電磁波を透過できる態様であれば、特に限定されず、目的とする周波数に透過特性を調整できれば、特に限定されない。
第2の単位の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0031】
(第3の抵抗層パターン)
図3に示すように第3の抵抗層パターン53は、複数の第3の単位u3で構成される。
第3の抵抗層パターン53は、第1の抵抗層パターン51と同様に形成されている。
【0032】
第3の抵抗層パターン53は、周波数が下記式(2)を満たすC[GHz]である電磁波を選択的に透過する。周波数の値C[GHz]は、第3の抵抗層パターン53によって透過される電磁波の透過量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値C[GHz]は、下記式(2)を満たす。
0.60×A≦C≦0.963×A・・・式(2)
【0033】
上記式(2)に示すように、第3の抵抗層パターン53は、周波数が0.60×A~0.963×A[GHz]である電磁波を透過する。第3の抵抗層パターン53は、周波数が0.60×A~0.83×A[GHz]である電磁波を透過することが好ましい。
第3の抵抗層パターン53が0.60×A[GHz]以上の周波数の電磁波を透過するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の抵抗層パターン53による電磁波の透過量のピークと第1の抵抗層パターン51による電磁波の透過量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、抵抗層3全体で透過される電磁波の透過量が極大値となる単一のピークが形成される。
第3の抵抗層パターン53が0.963×A[GHz]以下の周波数の電磁波を透過するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の抵抗層パターン53による電磁波の透過量のピークと第1の抵抗層パターン51による電磁波の透過量のピークとが充分に重なりあう。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯が第1の抵抗層パターン51を単独で有するフィルムと比較して、A[GHz]より低周波数側の周波数帯に拡張される。
以上より、第3の抵抗層パターン53は周波数が0.60×A~0.963×A[GHz]である電磁波を透過するため、抵抗層3全体で透過される電磁波の透過量が低周波数側の周波数帯に拡張される。
【0034】
第3の抵抗層パターン53を構成する第3の単位u3の材質は、C[GHz]の電磁波を吸収できる態様であれば、特に限定されず、目的とする周波数に透過特性を調整できれば、特に限定されない。
第3の単位u3の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0035】
図3に示す抵抗層3においては、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うように両矢印Pで示す方向に沿って配列されている。このように、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うようにスペーサ層4に配置されているため、第1の抵抗層パターン51が選択的に透過する電磁波のピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、第2の抵抗層パターン52が選択的に透過する電磁波の周波数帯と、第3の抵抗層パターン53が選択的に透過する電磁波の周波数帯の両方が重なりあう。その結果、抵抗層3全体で透過される電磁波の透過域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、高周波数側と低周波数側との両方に拡張され易くなる。
【0036】
図3にそれぞれ示す、第1の単位u1と第2の単位u2との間隔d1、第2の単位u2と第3の単位u3との間隔d2、第3の単位u3と第1の単位u1との間隔d3は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
間隔d1は、例えば、0.2~4mmでもよく、0.3~2mmでもよく、0.5~1mmでもよい。
間隔d2は、例えば、0.2~4mmでもよく、0.3~2mmでもよく、0.5~1mmでもよい。
間隔d3は、例えば、0.2~4mmでもよく、0.3~2mmでもよく、0.5~1mmでもよい。
間隔d1、間隔d2、間隔d3がそれぞれ前記数値範囲内であると、抵抗層3全体で透過される電磁波の透過域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準としてさらに拡張されやすくなる。
【0037】
抵抗層3においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一である。ただし、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。すなわち、本発明の他の例においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0038】
抵抗層3の抵抗層パターン22に対応する第1の抵抗層パターン51の厚み、第2の抵抗層パターン52の厚み、及び第3の抵抗層パターン53の厚みは特に限定されない。これらの厚みは所望する特性に応じて任意に変更可能である。また、これら3つの厚みは互いに同一でもよく、異なっていてもよく、生産性を考慮すると、同一であることが好ましい。なお、第1の抵抗層パターン51、第2の抵抗層パターン52及び第3の抵抗層パターン53の厚みは、電磁波吸収性と屈曲耐久性の両立の観点から、0.01~300μmであることが好ましく、0.04~100μmであることがより好ましく、0.08~1μmであることが特に好ましい。
【0039】
本発明の実施形態の他の一態様として、抵抗層3は、スペーサ層4との間に、基材(Q)を介して設けられてもよい。基材(Q)としては、特に制限はないが、屈曲性の観点から、樹脂で構成することが好ましい。樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよく、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル-ポリエーテル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
基材(Q)の厚みは、特に制限されないが、屈曲性の観点から、好ましくは5~500μmであり、より好ましくは15~200μmであり、さらに好ましくは25~100μmである。
【0040】
抵抗層3は、例えば、下記の方法によって作製できる。
まず、スペーサ層4を準備する。次いで、スペーサ層4の一方の面4aに第1の抵抗層パターン51、第2の抵抗層パターン52および第3の抵抗層パターン53を形成する。
各抵抗層パターンを形成する際には、各抵抗層パターンによって透過される電磁波の透過量が極大値を示す周波数の値が所定の値[GHz]となるように形成する。
それぞれの抵抗層パターンを形成する順序は特に限定されない。各抵抗層パターンは、同一の工程内で形成してもよく、それぞれ別々の工程で形成してもよい。
【0041】
各抵抗層パターンの形成方法は、所定の周波数を形成できる態様であれば特に限定されない。各抵抗層パターンの形成方法の例としては、例えば、下記の方法がある。
導電性ペーストを用いてスペーサ4の一方の面4aに各抵抗層パターンを印刷する印刷方法。
スペーサ4の一方の面4aに各抵抗層パターンを現像する現像方法。
スパッタ法、真空蒸着または金属箔の積層によってスペーサ層4の一方の面4aに金属薄膜を設け、フォトリソグラフィによって金属薄膜のパターンをスペーサ層4の一方の面4aに形成する方法。
【0042】
[スペーサ層]
本実施形態の電磁波吸収体11では、スペーサ層4は2つの面を有する。スペーサ層4の一方の面4aは、抵抗層3の他方の面3bと、且つガスバリア層2の他方の面2bと、直接接しているが、直接接していなくてもよい。スペーサ層4の他方の面4bには、基材(P)7上に積層された反射層5が接着層6を介して設けられている。
スペーサ層4は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0043】
本実施形態の電磁波吸収体11では、スペーサ層4の厚みは、1.0mm以下である。
スペーサ層4の厚みは、好ましくは100~800μmであり、より好ましくは1500~600μmであり、さらに好ましくは200~450μmである。スペーサ層4の厚みが前記下限値以上であると、高い比誘電率を有するスペーサ層4を得易い。スペーサ層4の厚みが前記上限値以下であると、屈曲性が得易くなり、屈曲耐久性が向上する。
【0044】
スペーサ層4による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサ層4の厚みは、吸収対象となる電磁波の波長及びスペーサ層4の比誘電率に合わせて適宜変更される。
スペーサ層4による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサ層4の厚みは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
(スペーサ層4の厚み)=(λ)×(1/4)/(ε)1/2・・・式(3)
上記式(3)中、λは飛来する電磁波の波長であり、εはスペーサ層4の比誘電率である。スペーサ層4の厚みは、吸収特性のために適宜調整してもよい。例えば、式(3)で得られるスペーサ層4の厚みの、0.1~3.0倍の範囲で変更することができる。
【0045】
スペーサ層4の厚みと波長λとの関係が上記式(3)を満たす場合、電磁波吸収体11は、いわゆるλ/4構造となる。これにより、電磁波吸収体11による電磁波の吸収が行われる。
スペーサ層4は高誘電率の材質で構成してもよい。スペーサ層4が高誘電率の層であると、スペーサ層4の厚みを相対的に薄くできる。
【0046】
スペーサ層4の厚みは、テクロック社製定圧厚さ測定器によって測定することができる。
【0047】
本実施形態の電磁波吸収体11では、スペーサ層4の比誘電率は、好ましくは5以上100未満であり、より好ましくは7~50であり、さらに好ましくは8~30であり、特に好ましくは9~15である。
スペーサ層4の比誘電率が5以上であることにより、スペーサ層4の厚みを薄くすることができる。これにより、電磁波吸収体11が、屈曲性が優れたものとすることができる。
スペーサ層4の比誘電率が100以下であると、スペーサ層4のヤング率が高くなり過ぎるのを防止することができる。
【0048】
スペーサ層4の比誘電率は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0049】
スペーサ層4のヤング率は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは80~1000MPaであり、さらに好ましくは150~500MPaであり、特に好ましくは200~450MPaである。
スペーサ層4のヤング率が前記上限値以下であると、屈曲性が向上し易い。スペーサ層4のヤング率が下限値以上であると、形状維持性が担保され易い。
【0050】
スペーサ層4のヤング率は、JIS K7127:1999「プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件」に準拠して測定することができる。
【0051】
スペーサ層4の材料は、用途に応じて適宜選択できる。例えば、自動車の外装に使用する場合は、屈曲性を有し、かつ、耐熱性に優れた材料を選択することが好ましい。
柔軟性のある材料としては、プラスチックフィルム、不織布、ゴムシート等が挙げられる。これらの中でも、フィラーとの混錬が容易な観点から、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、例えば、上述の基材21について説明した熱可塑性樹脂の中から融点の高いものを用いることができる。
【0052】
スペーサ層4は、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、比誘電率の高いフィラーであれば特に限定されないが、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0053】
スペーサ層4におけるフィラーの含有量は、20~60体積%であることが好ましく、25~50体積%であることがより好ましく、30~45体積%であることが特に好ましい。
フィラーの含有量が前記下限値以上であると、必要とする電磁波吸収性を得るために、スペーサ層4の必要厚みが少なくでき、屈曲性が得られ易くなる。フィラーの含有量が前記上限値以下であると、脆化することがなく、スペーサ層4の製造が容易になる。
【0054】
スペーサ層4の2つの面4a、4bには、接着層(図2においては、例えば、接着層6)が設けられてもよい。これにより、2つの面4a、4bのそれぞれに、抵抗層3と反射層5を容易に貼り合わせることができる。
接着層の詳細および好ましい態様については、後述する接着層について説明する内容と同内容とすることができる。
【0055】
[反射層]
本発明の実施形態において、電磁波吸収体11はさらに反射層5を含むことが好ましい。
反射層5は2つの面を有する。反射層5の一方の面5aは、接着層6を介してスペーサ層4の他方の面4bと対向している。反射層5の他方の面5bは、基材(P)7の一方の面7aと接している。
反射層5は、電磁波吸収体11の表面に飛来し、ガスバリア層2、抵抗層3、スペーサ層4、及び接着層6を透過した電磁波を反射できる形態であれば、特に限定されない。電磁波吸収体11に飛来する電磁波のうち、一部は抵抗層3で反射されるか、抵抗層3に吸収される。一方で、抵抗層3で反射も吸収もされなかった電磁波は、抵抗層3を透過する。抵抗層3を透過した電磁波は、反射層5で抵抗層3に向けて反射される。
例えば、2つの面5a、5bいずれかの面方向において反射層5が導電性を具備する形態であれば、抵抗層3を透過した電磁波を反射できる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等の基材(P)7にアルミニウム箔や銅箔等の金属箔や、銅板等の金属板を貼り合わせたものを反射層5として使用してもよい。基材(P)7の詳細は、上述した基材(Q)と同様のものが挙げられる。金属箔や金属板の代わりに、ITO等の透明導電膜、金属ワイヤー等で形成されたメッシュシートを使用してもよい。
【0056】
本実施形態の電磁波吸収体11では、反射層5の厚みは、特に制限されないが、好ましくは0.01~300μmであり、より好ましくは0.04~100μmであり、さらに好ましくは0.08~0.9μmである。反射層5の厚みを下限値以上とすることにより、均一な膜を形成し易く、反射特性をより発揮し易くなる。上限値以下にすることにより、屈曲性が得易くなり、亀裂の発生などが抑制されやすくなり屈曲耐久性が向上する。
【0057】
スペーサ層4を金属等の導電性を具備する物体に形成する場合には、金属等の導電性を具備する物体が反射層5の役割を果たすため、反射層5は省略できる。
【0058】
[ガスバリア層]
本実施形態の電磁波吸収体11は、抵抗層3の一方の面3a(パターン間を含む)にガスバリア層を備える。
本発明の実施形態に係るガスバリア層は、ガスバリア性を有する限り、材質等は特に限定されない。
【0059】
ガスバリア層としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、酸化窒化珪素、酸化窒化炭化珪素等が好ましく挙げられ、低コストで優れたガスバリア性を得やすい観点から、酸化珪素、窒化珪素、及び酸化窒化珪素、酸化窒化炭化珪素の少なくとも1つを含有するものがより好ましい。なお、当該ガスバリア層は、主成分(例えば、60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上)が上記のものであればよく、その他の成分が含まれていてもよい。
これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ガスバリア層は、単層でもよく、多層でもよい。
【0060】
ガスバリア層の厚みは、ガスバリア性と取り扱い性の観点から、好ましくは10~2,000nm、より好ましくは20~1,000nm、より好ましくは30~500nm、更に好ましくは40~400nmの範囲である。
【0061】
ガスバリア層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理的蒸着)法や、熱CVD(化学的蒸着)法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法、塗膜を得て改質処理を行う方法が挙げられる。
【0062】
塗膜を得て改質処理を行う方法としては、有機ポリシラザン、ペルヒドロポリシラザンなどのポリシラザン系化合物を含有する溶液を塗布、乾燥し、後述の改質処理を行う方法が挙げられる。
ポリシラザン系化合物は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
前記溶液は、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0064】
本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体11では、例えば、ポリシラザン系化合物、所望により他の成分、及び溶媒等を含有する溶液を、公知の方法によって抵抗層、スペーサ層、基材等上に塗布し、得られた塗膜を乾燥して、後述の改質処理を行い、ガスバリア層を形成することができる。
なお、このようにして得られたガスバリア層は、例えば、酸化窒化珪素の層(改質された領域)と酸化珪素の層(未改質の領域、経時的に空気中の酸素や水蒸気により酸化された領域)との2層の積層構造となる。
【0065】
前記溶液の塗布は、例えば、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0066】
得られた塗膜を乾燥させたり、電磁波吸収体のガスバリア性を向上させるため、塗膜を加熱したりすることが好ましい。加熱、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃ であり、加熱時間は、通常、数十秒から数十分である。その後、改質処理が行なわれる。
【0067】
改質処理としては、イオン注入、真空紫外光照射等が挙げられる。これらの中でも、高いガスバリア性能が得られる点から、イオン注入が好ましい。イオン注入において、前記塗膜に注入されるイオンの注入量は、形成する電磁波吸収体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0068】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン; フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン等が挙げられる。
【0069】
中でも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0070】
イオンを注入する方法としては、特に限定されないが、電界により加速されたイオン(イオンビーム) を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。中でも、簡便にガスバリア性のフィルムが得られることから、後者のプラズマイオンを注入する方法が好ましい。
【0071】
プラズマイオン注入法としては、(α)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、高分子層に注入する方法、又は(β)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、高分子層に注入する方法が好ましい。
【0072】
前記(α)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01~1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一にイオンを注入することができ、目的のガスバリア層を効率よく形成することができる。
【0073】
前記(β)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで高分子層に連続的に注入することができる。更に、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、高分子層に良質のイオンを均一に注入することができる。
【0074】
前記(α)及び(β)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1~15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、より簡便にかつ効率よく、均一にイオンを注入することができる。
【0075】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは-1~-50kVである。印加電圧が-1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が十分となり、所望の性能が得られやすくなる。一方、-50kVより小さい値でイオン注入を行うと、フィルムの帯電や着色を防止しやすい。
【0076】
高分子層にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(i)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(ii)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0077】
前記(i)及び(ii)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、高分子層に連続的にプラズマ中のイオンを注入し、表面部にイオン注入により改質された部分を有する高分子層、すなわちガスバリア層が形成された電磁波吸収体を量産することができる。
【0078】
イオンが注入される部分の厚みは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、高分子層の厚み、電磁波吸収体の使用目的等に応じて決定すればよいが、通常、5~1,000nmである。
【0079】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて高分子層の表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0080】
ガスバリア層がガスバリア性を有していることは、ガスバリア層の水蒸気透過率が小さいことから確認することができる。
ガスバリア層の、40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過率は、通常1.0g・m-2・day-1以下であり、さらに好ましくは0.1g・m-2・day-1以下である。水蒸気透過率は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0081】
電磁波吸収体11を種々の物品の表面に適用することを目的として、反射層5の他方の面5bに接着層を設けてもよい。反射層5の他方の面5bに接着層を設ける場合には、接着層の、反射層5の他方の面5bと接する側とは反対側の面に剥離フィルムを設けてもよい。剥離フィルムは電磁波吸収体11の使用時には除去される。剥離フィルムが接着面を覆うことで、流通時の取扱性がよくなる。
【0082】
(接着層)
接着層を構成する接着剤としては、熱により接着するヒートシールタイプの接着剤;湿潤させて貼付性を発現させる接着剤;圧力により接着する感圧性接着剤(粘着剤)等が挙げられる。これらの中でも、簡便さの観点から、粘着剤(感圧性接着剤)が好ましい。
粘着剤の具体例としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤およびゴム系粘着剤からなる群から選ばれる少なくともいずれかが好ましく、アクリル系粘着剤がより好ましい。
【0083】
また、本実施形態の電磁波吸収体11における厚み[「総厚」ということがある。;ガスバリア層2における最表面(ガスバリア層2の一方の面2a)から、基材(P)7の他方の面7bまでの合計厚]は、屈曲耐久性と電磁波吸収性の両立の観点から、0.05~3.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがより好ましく、0.3~0.5mmであることが特に好ましい。
【0084】
本実施形態の電磁波吸収体11における初期の屈曲前の40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過率は、通常1.0g・m-2・day-1以下であり、好ましくは0.1g・m-2・day-1以下であり、より好ましくは1×10-2g・m-2・day-1以下であり、さらに好ましくは1×10-3g・m-2・day-1以下である。また、屈曲後(20℃、50RH%環境下、屈曲半径2mmにて10万回の屈曲後)の40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過率は、通常1.0g・m-2・day-1以下であり、好ましくは0.1g・m-2・day-1以下であり、より好ましくは1×10-2g・m-2・day-1以下であり、さらに好ましくは1×10-3g・m-2・day-1以下である。水蒸気透過率は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。また、屈曲前の初期の水蒸気透過率に対する屈曲試験後の水蒸気透過率の比は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
また、本実施形態の電磁波吸収体11における耐湿熱性試験後の40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過率は、通常1.0g・m-2・day-1以下であり、好ましくは0.1g・m-2・day-1以下であり、より好ましくは1×10-2g・m-2・day-1以下であり、さらに好ましくは1×10-3g・m-2・day-1以下である。
また、本実施形態の電磁波吸収体11における電磁波吸収率は、通常80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは94%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。
また、本実施形態の電磁波吸収体11における耐湿熱性試験後の電磁波吸収率は、通常80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは94%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。
【0085】
〔電子デバイス〕
本発明の一実施形態に係る電磁波吸収体は、電子デバイスに備わることが好ましい。
電子デバイスとしては、電磁波干渉抑制又はノイズ低減の観点から、自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動運転制御システムに用いるミリ波レーダーに係るデバイス等が挙げられる。また、光トランシーバ、近距離無線転送技術、次世代移動通信システム(5G、6G)等に係るデバイス等が挙げられる。さらに、電子デバイス内部における電磁波干渉によるノイズ対策が必要な家電製品に係る電子デバイスやスマートフォン等の電子デバイス等が挙げられる。
【実施例0086】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0087】
実施例及び比較例で作製した電磁波吸収体について、下記の評価を行った。
【0088】
[水蒸気透過率の測定]
実施例及び比較例で得られた電磁波吸収体を50cmの面積の円形状の試験片に裁断し、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、装置名:AQUATRAN(登録商標)2)を用いて、温度40℃、相対湿度90%、ガス流量20sccmの条件下における水蒸気透過率[WVTR(g・m-2・day-1)]を測定した。
【0089】
[電磁波吸収率の測定]
実施例及び比較例で作製した電磁波吸収体を、フリースペース法にて、76GHzにおけるS11値(反射係数)をネットワークアナライザ(キーサイト社製、型名:FS-330)を用いて、電磁波吸収体の透過特性を評価し、得られた値から下記式(4)を用いて電磁波吸収率を算出した。
電磁波吸収率(%)=100-((10)(S11)/10×100)・・・式(4)
【0090】
[屈曲耐久性の評価]
実施例及び比較例で作製した電磁波吸収体の屈曲耐久性を、伸縮試験装置(ユアサシステム社製、型名:DLDMLH-FS)を用いて、ガスバリア層側が外側となるように、23℃、50RH%の環境下、2、3、及び5mmの屈曲半径で、それぞれ10万回にわたる繰り返しの屈曲試験を行い、屈曲試験後の水蒸気透過率を上述した方法により測定した。
なお、屈曲試験においては、屈曲半径が小さいほど、より厳しい試験条件となる。
また、もともと屈曲性を有さない電磁波吸収体については、屈曲耐久性の評価は行っていない。さらに、電磁波吸収率及び水蒸気透過率の測定も行っていない(表1において「N:屈曲性が無いため未測定」と記載;ただし、耐湿熱性の評価にあっては測定を行った)。
【0091】
[耐湿熱性評価]
恒温恒湿槽(エスペック社製、型名:PHH-102)を用いて、電磁波吸収体の耐湿熱試験を行った。恒温恒湿槽の温度を60℃、相対湿度90%に設定し、恒温恒湿槽内に電磁波吸収体を1000時間投入した。恒温恒湿槽から取り出し後の電磁波吸収体のガスバリア性(水蒸気透過率)及び電磁波吸収率を測定した。
【0092】
[比誘電率の評価]
実施例及び比較例で用いたスペーサ層の比誘電率を、誘電率測定装置(AET社製、40GHz TEモード)とネッワークトアナライザー(アンリツ社製、型式名:MS46122B)とを用いて測定した。
【0093】
[ヤング率(引張弾性率)の測定]
実施例及び比較例で用いたスペーサ層を、縦15mm×横150mmの試験片に裁断し、JIS K7127:1999「プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件」に準拠して、引張弾性率Eを測定した。具体的には、上記の試験片を、引張試験機(島津製作所社製、製品名:オートグラフAG-IS 500N)を用いて、チャック間距離を100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、スペーサ層のヤング率(引張弾性率E)(MPa)を測定した。
【0094】
(実施例1)
<電磁波吸収体の作製>
(1)スペーサ層の形成
樹脂としてのポリエステル-ポリエーテル共重合体(東洋紡社製、商品名:P-55B)22質量部と、フィラーとしてのチタン酸バリウム(日本化学社製、商品名:BT-UP2、平均粒径:2μm)78質量部とを、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製、型式名:4C150)を用いて、200℃、40rpmで5分間混練し、チタン酸バリウムの含有量が40体積%の混合材料を調製した。
上記の混合材料を油圧式加熱プレス機(テスター産業社製、型式名:SA-302)を用いて、200℃、4500MPaで3分間、加熱プレスして、厚み300μmのスペーサ層を得た。
【0095】
(2)抵抗層の形成
前記スペーサ層の一方の面に、水洗インキをパターン印刷(厚み:100μm、パターンの開口部が十字架状;図3参照)し、次いで、パターン印刷上に厚み100nmの銅を蒸着して銅薄膜を形成した。その後、水洗インキを水洗浄し、開口部以外の銅薄膜を除去することにより、図3に示すような厚さ100nmの銅薄膜からなる抵抗層パターンを有する抵抗層(電磁波吸収層)を得た。
【0096】
(3)反射層の形成
粘着層の材料として、2-エチルヘキシルアクリレート70質量%、n-ブチルアクリレート29質量%、アクリル酸0.5質量%、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量%からなる重量平均分子量80万のアクリル共重合体を準備した。当該アクリル共重合体100質量部(固形分換算値)に対して、イソシアネート系架橋剤1質量部(固形分換算値)と、紫外線吸収剤(BASFジャパン社製、商品名:Tinuvin 477)を8質量部とを添加し、酢酸エチルで希釈することによりアクリル系粘着剤溶液を作製した。
次に、上記のアクリル系粘着剤溶液を剥離フィルム上に塗工し、90℃で1分間乾燥さ
せた後、常温で1週間養生することにより、厚み20μmの粘着層を得た。
次に、反射層として、片面にアルミ蒸着膜(厚み:100nm)を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)を準備し、当該フィルムのアルミ蒸着膜の面側を前記粘着層で覆うように積層した。すなわち、剥離フィルム/粘着層/アルミ蒸着膜/ポリエチレンテレフタレートフィルム、という積層体を得た。
次に、前記剥離フィルムを剥がし、露出した粘着層をスペーサ層の抵抗層側となる面とは反対側の面に積層し、電磁波吸収体の前駆体を作製した。
【0097】
(4)ガスバリア層の形成
(3)で得られた電磁波吸収体の前駆体の抵抗層パターン面(スペーサ面上のパターン間含む)に、ペルヒドロポリシラザン溶液(DNF社製、重量平均分子量:10000g/mol、分散溶媒:キシレン)を、スピンコーターを用いて塗工し、得られた塗膜を100℃で2分間、乾燥させることで、1層のポリシラザン層を形成した。ポリシラザン層の厚みは300nmとした。
次いで、プラズマイオン注入装置を用いて、上記のポリシラザン層に下記条件にてプラズマイオン注入を行い、ポリシラザン層の表面を改質することにより、ガスバリア層を形成することにより、電磁波吸収体を作製した。
用いたプラズマイオン注入装置及びプラズマイオン注入条件は以下の通りである。
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:型番号「RF」56000、日本電子社製
高電圧パルス電源:「PV-3-HSHV-0835」、栗田製作所社製
(プラズマイオン注入条件)
・プラズマ生成ガス:He
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:-8kV
・RF電源:周波 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):200秒
【0098】
(実施例2)
実施例1において、ガスバリア層の厚みを200nmとした以外は、実施例1と同様に電磁波吸収体を作製した。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、ガスバリア層の厚みを100nmとした以外は、実施例1と同様に電磁波吸収体を作製した。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、ガスバリア層の厚みを50nmとした以外は、実施例1と同様に電磁波吸収体を作製した。
【0101】
(実施例5)
基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)の一方の面に、水洗インキをパターン印刷(厚み:100μm、パターンの開口部が十字架状;図3参照)し、次いで、パターン印刷上に厚み100nmの銅を蒸着して銅薄膜を形成した。その後、水洗インキを水洗浄し、開口部以外の銅薄膜を除去することにより、図3に示すような厚さ100nmの銅薄膜からなる抵抗層パターンを有する抵抗層(電磁波吸収層)を得た。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの抵抗層側の面とは反対側の面に、実施例1と同様に作製した厚み20μmの粘着層の一方の面を貼付した。その後、粘着層上の剥離フィルムを剥離して、露出した粘着層の他方の面に、実施例1と同様に得られた厚み300μmのスペーサ層を貼付した。
次いで、実施例1と同様に、剥離フィルム/粘着層/アルミ蒸着膜/ポリエチレンテレフタレートフィルム、で構成される積層体を準備し、積層体から剥離フィルムを剥がし、露出した粘着層を前記スペーサ層の露出面側に積層することで、電磁波吸収体の前駆体を作製した。得られた電磁波吸収体の前駆体の抵抗層である抵抗層パターン面(ポリエチレンテレフタレートフィルム面上のパターン間含む)に、実施例1と同様のガスバリア層(厚み50nm)を形成することにより、電磁波吸収体を作製した。
【0102】
(比較例1)
実施例5において、スペーサ層として発泡ウレタン材(ロジャース・イノアックコーポレーション社製、商品名:ポロンHH-48、厚み2mm)を用い、ガスバリア層を抵抗層パターン面(ポリエチレンテレフタレートフィルム面上のパターン間含む)に形成しない以外は、実施例5と同様に電磁波吸収体を作製した。
【0103】
(比較例2)
実施例5において、スペーサ層を比較例1と同じもの(厚み2mm)を用い,ガスバリア層の厚みを200nmとした以外は、実施例5と同様に電磁波吸収体を作製した。
【0104】
実施例1~5及び比較例1~2で作製した電磁波吸収体の水蒸気透過率、電磁波吸収率、屈曲耐久性、耐湿熱性、また、スペーサ層の比誘電率及びヤング率の評価結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
本発明の規定を満たす特定の厚みを有するスペーサ層を含む実施例1~5の電磁波吸収体は、スペーサ層の厚みの規定を満たさない比較例1~2の電磁波吸収体と比べ、耐湿熱性及び屈曲耐久性を同時に満たすことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の電磁波吸収体によれば、例えば、自動車等の輸送機器(ミリ波レーダー搭載)の電磁波吸収体に用いることができる。特に、耐湿熱性及び屈曲耐久性を同時に有することから、高湿熱環境下での使用や、曲面形状への貼付等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
1,11:電磁波吸収体
2:ガスバリア層
2a:ガスバリア層2の一方の面
2b:ガスバリア層2の他方の面
3:抵抗層
3a:抵抗層3の一方の面
3b:抵抗層3の他方の面
4:スペーサ層
4a:スペーサ層4の一方の面
4b:スペーサ層4の他方の面
5:反射層
5a:反射層5の一方の面
5b:反射層5の他方の面
6:接着層
7:基材(P)
7a:基材(P)7の一方の面
7b:基材(P)7の他方の面
22:抵抗層パターン
51:第1の抵抗層パターン
52:第2の抵抗層パターン
53:第3の抵抗層パターン
図1
図2
図3