(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025060437
(43)【公開日】2025-04-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびシートモールディングコンパウンド、ならび樹脂組成物に使用されるアルミナ粒子
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250403BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250403BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250403BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024155264
(22)【出願日】2024-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2023170788
(32)【優先日】2023-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】関口 泰広
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 真義
(72)【発明者】
【氏名】松浦 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】大門(上原) みちる
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002CD001
4J002CD011
4J002CD031
4J002DE146
4J002FD011
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】アルミナ粒子と樹脂とを含む樹脂組成物であって、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制可能な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】表面にOH基を有し、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子と、樹脂と、を含む樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にOH基を有し、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子と、
樹脂と、を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルミナ粒子は、孤立OH基数が3.1個/nm2未満である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子は、比表面積が0.20m2/g以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルミナ粒子は、外縁の長さL1に対する内部の粒界の合計長さL2の比(L2/L1)が139.1%未満である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなり、
厚みが1000μm以下である、シートモールディングコンパウンド。
【請求項6】
水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物およびシートモールディングコンパウンド、ならび樹脂組成物に使用されるアルミナ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品に通電することにより発生する熱は、電子部品の性能に悪影響を及ぼしやすいことから、速やかに放熱されることが望まれる。よって、例えばICチップを囲む半導体封止部材を構成する部材には、放熱のために高い熱伝導性を示すことが望ましい。当該封止部材は、一般的に、特許文献1に記載のように、アルミナ粒子および樹脂を含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、半導体装置の小型化および配線ピッチの狭小化に伴い、当該封止部材には、熱による寸法変化について厳しい要件が求められるようになった。特に、半導体装置は通電等により繰り返し高温状態になり得るところ、封止部材の寸法が繰り返し加熱された場合に大きく変化することも問題視されるようになった。
特許文献1に記載のような従来技術において、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制することは検討されていなかった。
【0005】
このような状況に鑑みて、本発明の一実施形態は、アルミナ粒子と樹脂とを含む樹脂組成物であって、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明の別の実施形態は、そのような樹脂組成物からなるシート状組成物(シートモールディングコンパウンド)を提供することを目的とする。
本発明のさらに別の実施形態は、樹脂組成物に使用されるアルミナ粒子を提供すること を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
表面にOH基を有し、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子と、
樹脂と、を含む樹脂組成物である。
【0007】
本発明の態様2は、
前記アルミナ粒子は、孤立OH基数が3.1個/nm2未満である、態様1に記載の樹脂組成物である。
【0008】
本発明の態様3は、
前記アルミナ粒子は、比表面積が0.20m2/g以上である、態様1または2に記載の樹脂組成物である。
【0009】
本発明の態様4は、
前記アルミナ粒子は、外縁の長さL1に対する内部の粒界の合計長さL2の比(L2/L1)が139.1%未満である、態様1~3のいずれか1つに記載の樹脂組成物である。
【0010】
本発明の態様5は、
態様1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなり、
厚みが1000μm以下である、シートモールディングコンパウンドである。
【0011】
本発明の態様6は、
水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、アルミナ粒子と樹脂とを含む樹脂組成物であって、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制可能な樹脂組成物を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、そのような樹脂組成物からなるシートモールディングコンパウンドを提供することができる。
本発明のさらに別の実施形態によれば、樹脂組成物に使用されるアルミナ粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、アルミナ粒子と樹脂とを含む樹脂組成物であって、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制可能な樹脂組成物を実現するために鋭意検討を行った。その結果、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が所定値を下回るアルミナ粒子を含むことにより、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制できることを見出した。これは、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が小さいほど、アルミナ粒子同士の結合力が低下し得、アルミナ粒子同士の凝集が抑制されるとともに、アルミナ粒子-樹脂間に適度な相互作用が働きやすくなり、結果として熱等の外部エネルギーに対する寸法安定性も向上したためであると考えられる。
【0014】
以下に、本実施形態に係る樹脂組成物、樹脂組成物に用いられるアルミナ粒子、および当該樹脂組成物からなるシートモールディングコンパウンド(SMC)について説明する。
なお、本明細書において「樹脂組成物」の用語は、樹脂組成物中の樹脂を硬化させる前の液体状態、樹脂を半硬化させた半硬化状態(Bステージ)、および樹脂を完全に硬化させた硬化状態(Cステージ)の全ての状態の樹脂組成物を含むことを意図している。ここで「液体状態」には、樹脂組成物が流動性を有する状態の組成物も含まれ、例えば後述する溶剤を含む樹脂組成物なども含まれる。「半硬化状態」とは、固体として取り扱うことができる程度に硬化しているが、完全に硬化していないため樹脂組成物の表面が粘着性を有する状態をいう。「硬化状態」とは、固体として取り扱え、かつ樹脂組成物の表面が粘着性をほとんど有していない状態をいう。
【0015】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満であるアルミナ粒子と、樹脂と、を含む。これにより、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制できる。
【0016】
樹脂組成物のα線量は0.022cph/cm2未満であることが好ましい。これは、半導体装置がα線の影響を受けやすく、α線による誤動作(ソフトエラー)が問題となりやすいためである。また、α線量が少ないと半導体素子へのダメージ小さく、樹脂組成物と素子の界面の接着性が維持されやすくなり、熱履歴による変形を抑制しやすくなる。樹脂組成物のα線量は、好ましくは0.020cph/cm2以下であり、より好ましくは0.015cph/cm2以下、さらに好ましくは0.005cph/cm2以下、特に好ましくは0.002cph/cm2以下である。特に、硬化後の樹脂組成物のα線量が0.022cph/cm2未満、0.020cph/cm2以下、0.015cph/cm2以下、0.005cph/cm2以下又は0.002cph/cm2以下であることが順に好ましい。樹脂組成物のα線量は低いほど好ましく、好ましい下限は0.000cph/cm2である。なお。樹脂組成物のα線量は、半硬化状態または硬化状態の樹脂組成物で測定され、α線測定装置(例えば、Alpha sciens社製のmodel 1950等)を用いて測定できる。試料の測定面積は1000cm2、測定時間は99時間とし、計数ガスはPR-10ガス(Ar90%、CH410%)を用いる。
【0017】
樹脂組成物は、弾性率(引張弾性率)が2.0GPa以上であることが好ましい。樹脂組成物の前記弾性率は、3.0GPa以上であることがより好ましく、4.0GPa以上であることが更に好ましく、5.0GPa以上であることが更により好ましく、6.0GPa以上であることが特に好ましく、7.0GPa以上であることが最も好ましい。前記弾性率は、半硬化状態または硬化状態の樹脂組成物で測定される。特に、硬化後の樹脂組成物の弾性率が2.0GPa以上であることが好ましく、一般的な使用状態における変形等に耐えうる封止部材を形成することができる。樹脂組成物の弾性率はJIS K7161(2014)に準拠した、引張試験において得られる、応力-歪曲線から算出することができる。半硬化状態及び硬化状態の樹脂組成物の弾性率は、アルミナ粒子の含有量や硬化条件を調整することで高めることができる。通常、弾性率は、半硬化状態よりも硬化状態の樹脂組成物のほうが高い値を示す。
【0018】
樹脂組成物の破断応力は、41.2MPa超であることが好ましく、50.0MPa以上であることがより好ましく、60.0MPa以上であることがさらに好ましく、65.0MPa以上であることが特に好ましい。前記樹脂組成物の破断応力は、半硬化状態または硬化状態の樹脂組成物で測定される。特に、硬化後の樹脂組成物の破断応力が41.2MPa超、50.0MPa以上、60.0MPa以上または65.0MPa以上であることが順に好ましい。これにより、封止部材としたときの強度が向上すると共に、熱等の外部エネルギーに対する寸法安定性も向上し得る。なお、樹脂組成物の破断応力は、JIS K7161(2014)に準拠した、引張試験において得られる、応力-歪曲線から算出することができる。半硬化状態及び硬化状態の樹脂組成物の破断応力は、アルミナ粒子の含有量や硬化条件を調整することで高めることができる。通常、破断応力は、半硬化状態よりも硬化状態の樹脂組成物のほうが高い値を示す。
【0019】
アルミナ粒子の配合比率は、樹脂組成物の全体に対する割合で、樹脂5~75体積%、アルミナ粒子95~25体積%、または樹脂8~50体積%、アルミナ粒子92~50体積%、または樹脂10~40体積%、アルミナ粒子90~60体積%、または樹脂12~40体積%、アルミナ粒子88~60体積%の順に好ましい。これにより、樹脂組成物の破断応力および破断までの吸収エネルギーを所望の値に制御しやすくなる。また、半硬化状態及び硬化状態の樹脂組成物においては、樹脂組成物の全体に対して、樹脂及びアルミナ粒子の合計割合が、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上である。さらに、半硬化状態及び硬化状態の樹脂組成物において、樹脂組成物の全体に対して、固形分の割合は好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上、さらに好ましくは95体積%以上である。樹脂組成物の固形分とは、該樹脂組成物を加熱した際に固形分として残るものであり、例えば、前記溶剤等、加熱により揮発する成分を除外したものである。一方で、25℃において液状の成分であっても、加熱した際に樹脂組成物の固形分に取り込まれるものは固形分に含まれる。固形分の割合は、例えば、樹脂組成物中の溶剤量を求め、全体から除することで求めることができる。樹脂組成物中の溶剤量は、例えば、次の方法で測定することができる。樹脂組成物の質量W1(g)を測定後、全排気オーブンを用いて、試料を150℃で10分間加熱して、試料に含まれる溶剤を全て蒸発させた後、室温にて5分間放置して室温に戻し、加熱後の試料の質量W2(g)を測定する。W1(g)からW2(g)を差し引くことで、樹脂組成物の溶剤量を求めることができる。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、繰り返し加熱された場合の寸法変化が小さく、寸法安定性に優れる。本発明において、寸法安定性は、CTEを2回測定した後、以下の式(1)から算出されるCTE変化率で評価できる。該CTE変化率は、好ましくは8.5未満、より好ましくは8.4以下、さらに好ましくは8.0以下、さらにより好ましくは7.0以下、特に好ましくは6.0以下である。
CTE変化率(%)=(測定1回目のCTE-測定2回目のCTE)/(測定1回目のCTE)×100・・・(1)
【0021】
次に、樹脂組成物を構成するアルミナ粒子と樹脂について詳述する。
【0022】
[アルミナ粒子]
本実施形態に係るアルミナ粒子は、水素結合OH基数に対する孤立OH基数の比が0.39未満である。これにより、樹脂組成物において、アルミナ粒子同士の凝集が抑制されるとともに、アルミナ粒子-樹脂間に適度な相互作用が働きやすくなる。当該比は、0.35以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。当該比の下限値は特に制限されないが、例えば0.01以上であり得る。粒子-樹脂間により相互作用が働きやすくなる観点では、当該比は0.03以上であることが好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。なお、アルミナ粒子は、大気中の水分と反応等することにより、表面にOH基を有し得る。
【0023】
本実施形態に係るアルミナ粒子は、孤立OH基数が3.1個/nm2未満であることが好ましい。これにより、樹脂組成物において、粒子同士の凝集等をより抑制し得、結果として熱等の外部エネルギーに対する寸法安定性及び破断応力を高め得る。孤立OH基数は2.8個/nm2以下であることがより好ましく、孤立OH基数が2.5個/nm2以下であることがさらに好ましく、孤立OH基数が2.0個/nm2以下であることが一層好ましく、孤立OH基数が1.5個/nm2未満であることが特に好ましい。一方で、孤立OH基数は0.1個/nm2以上であることが好ましい。これにより、粒子-樹脂間に適度な相互作用がより働きやすくなる。孤立OH基数は0.2個/nm2以上であることがより好ましく、0.3個/nm2以上であることがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態において、アルミナ粒子の孤立OH基数と水素結合OH基数の定量は、JIS K 0068:2001「化学製品の水分測定方法」の記載に準拠したカールフィッシャー法(水分気化-滴定法)による測定結果を用いて行うことができる。カールフィッシャー測定において検出される水分は、アルミナ粒子のOH基由来とみなすことができ、温度550℃で検出される水分を水素結合OH基由来とし、温度900℃で検出される水分を孤立OH基由来の水分とすることができる。
なお、カールフィッシャー測定において検出される水分は、OH基2個が縮合して1 個の水分子になると考えられ、OH基数は下記式(2)により求めることができる。
OH基数[個/nm2] =0.0662×(水分量[ppm])/(アルミナ粒子の比表面積[m2/g])・・・(2)
【0025】
樹脂組成物中のアルミナ粒子の孤立OH基数と水素結合OH基数の定量に際しては、まず、樹脂組成物に含まれる樹脂を、例えば有機溶剤等で溶解する等により除去して、アルミナ粒子のみを分離する。分離したアルミナ粒子を用いて、上記と同様に孤立OH基数と水素結合OH基数の定量を行うことができる。
【0026】
本実施形態に係るアルミナ粒子は、比表面積が0.20m2/g以上であることが好ましい。これにより、粒子-樹脂間に適度な相互作用が働きやすくなる。比表面積は0.36m2/g超であることがより好ましく、比表面積が0.40m2/g以上であることがさらに好ましく、比表面積が0.45m2/g以上であることがさらにより好ましく、比表面積が0.55m2/g以上であることが特に好ましい。通常、比表面積は3.00m2/g以下、好ましくは2.50m2/g以下である。なお本実施形態において、アルミナ粒子の比表面積は、窒素吸着BET比表面積であり、JIS-Z8830(2013)に準拠して測定される。なお、アルミナ粒子が樹脂組成物中に含まれる場合は、樹脂組成物に含まれる樹脂を、例えば有機溶剤等で溶解する、500℃以上の温度に加熱して樹脂を熱分解する等により除去して、アルミナ粒子のみを分離し、そのアルミナ粒子を用いて比表面積を測定できる。
【0027】
アルミナ粒子内の粒界の含有量を低減することにより、アルミナ粒子内のウランおよびトリウムから発生したα線に対する遮蔽効果を向上して、アルミナ粒子から放出されるα線量を低減し得る。
本実施形態では、アルミナ粒子内部の粒界の含有量の指標として、外縁の長さL1に対する粒界の合計長さL2の比(L2/L1)を導入する。L1およびL2は、アルミナ粒子の断面観察から求める。
【0028】
1つのアルミナ粒子の外縁の長さをL1、そのアルミナ粒子が有する粒界の合計長さをL2としたとき、L2/L1の値が小さいアルミナ粒子は、粒界の含有量が少なく、放出するα線量の低いアルミナ粒子であるといえる。特に、(L2/L1)(%)が139.1%未満とすることが好ましく、これにより、樹脂組成物用フィラーとして使用したときに、放出するα線量をより低減させ得る。アルミナ粒子から放出されるα線量を低減することにより、アルミナ粒子を含む樹脂組成物から放出されるα線量も低減できる。
【0029】
(L2/L1)は、好ましくは120.0%以下であり、より好ましくは100.0%以下であり、更に好ましくは80.0%以下であり、更により好ましくは60.0%以下、特に好ましくは52.0%以下、最も好ましくは50.0%以下である。(L2/L1)の下限は特に限定されないが、10.0%以上であってもよく、例えば20.0%以上、30.0%以上、40.0%以上又は43.0%以上である。L2/L1の下限が上記範囲内であると、粒子-樹脂間により相互作用が働きやすくなり、樹脂組成物の破断応力などの機械的強度を高めやすい。
このL2/L1は、造粒した原料粒子又は多結晶である原料粒子を用いて火炎溶融法でアルミナ粒子を製造した場合に特に値が大きくなってしまい、再加熱等の後工程を行っても大きく低減することはできない。
【0030】
なお、「粒界の合計長さL2」は、アルミナ粒子の内部に含まれる粒界の総和であり、アルミナ粒子の外縁を含まない。粒界の合計長さL2は、アルミナ粒子内部の粒界の合計長さL3と、(アルミナ粒子の内部に空洞がある場合は)その空洞の内壁の合計長さL4とを加算したものとする(つまり、L2=L3+L4)。
なお、アルミナ粒子が樹脂組成物中に含まれる場合は、樹脂組成物に含まれる樹脂を、例えば有機溶剤等で溶解する、500℃以上の温度に加熱して樹脂を熱分解する等により除去して、アルミナ粒子のみを分離し、そのアルミナ粒子を用いてL2/L1を測定できる。
【0031】
粒度分布がシャープなアルミナ粒子は、粒子-樹脂間に適度な相互作用が働きやすくなり、好ましい。例えば、累積粒度分布の微粒側から個数の累積90%の粒径D90(以下単に「D90」と記載することがある)と、累積粒度分布の微粒側から個数の累積50%の粒径D50(以下単に「D50」と記載することがある)との比D90/D50が5.0以下であることが好ましい。D90/D50は、より好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0032】
一方で、アルミナ粒子の粒度分布がある程度ブロードである方が大粒子間の隙間に小粒子が入り込む等により充填性が向上し、アルミナ粒子を樹脂により多く混錬させることができ、熱等の外部エネルギーに対する寸法安定性及び破断応力を高め得る。そのため、D90/D50は1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることが更に好ましい。
【0033】
アルミナ粒子のD50は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、5μm以下であることが特に好ましく、3μm以下であることが最も好ましい。。D50が前記の範囲内にあることにより、半導体装置の小型化および配線ピッチの狭小化に好適な樹脂組成物を形成し得る。
【0034】
なお本実施形態において、アルミナ粒子のD90およびD50は、例えば、レーザー粒度分布測定装置としてマイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラック MT3300EXII」を用いて、レーザー回折法によってアルミナ粒子の粒度分布を測定することで求めることができる。
なお、樹脂組成物中のアルミナ粒子の粒子径測定は、樹脂組成物に含まれる樹脂を、例えば有機溶剤等で溶解する、500℃以上の温度に加熱して樹脂を熱分解する等により除去して、アルミナ粒子のみを分離し、そのアルミナ粒子を用いて行うことができる。
【0035】
アルミナ粒子のD90およびD50を求めるその他の方法としては、画像解析を用いる方法がある。樹脂組成物について、SEMでの断面観察を行い、所定の観察領域(例えば200μm×200μm)に含まれるすべてのアルミナ粒子を画像解析して、それらの粒子径(円相当径)の測定結果に基づいて、D90相当の粒子径、およびD50相当の粒子径を算出してもよい。
【0036】
本実施形態に係るアルミナ粒子は、ウラン含有量が550ppb未満、トリウム含有量が10ppb未満であることが好ましい。アルミナ粒子のウラン含有量とトリウム含有量が上記の通りごく微量に抑制されていることによって、アルミナ粒子から放出されるα線量を低減でき、結果として樹脂組成物から放出されるα線量を抑制できる。これにより、半導体装置の封止材料として用いたときに、α線による半導体装置の誤動作を抑制することができる。また、アルミナ粒子は、αアルミナ粒子を含むことが好ましい。αアルミナは、アルミナ粒子から放出されるα線量を低減する効果が期待され、アルミナ粒子中にαアルミナ粒子が存在することにより、結果として樹脂組成物から放出されるα線量の抑制効果を向上し得る。
【0037】
ウラン含有量は、好ましくは300ppb以下、より好ましくは100ppb以下、より一層好ましくは50ppb以下、特に好ましくは30ppb以下で、例えば10ppb以下、または5ppb以下である。ウラン含有量の下限は特に限定されないが、0.1ppb以上であってよい。
トリウム含有量は、好ましくは8ppb以下、より好ましくは5ppb以下、特に好ましくは2ppb以下である。トリウム含有量下限は特に限定されないが、0.1ppb以上であってよい。
ウラン含有量とトリウム含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP―MS法)で測定するこができる。
なお、アルミナ粒子が樹脂組成物中に含まれる場合は、樹脂組成物に含まれる樹脂を、例えば有機溶剤等で溶解する、500℃以上の温度に加熱して樹脂を熱分解する等により除去して、アルミナ粒子のみを分離し、そのアルミナ粒子を用いてウラン含有量およびトリウム含有量を測定できる。
【0038】
[アルミナ粒子の製造方法]
本実施形態に係るアルミナ粒子は、例えば、下記に示す方法で製造することができる。
【0039】
(原料アルミナ)
原料アルミナを、公知の方法で製造する。例えばバイヤー法、アンモニウムミョウバン法、アンモニウム・アルミニウム・カーボネイト・ハイドロオキサイド法(AACH法)、溶媒抽出法、有機アルミニウム加水分解法(アルミニウムアルコキシド法)、CZ法、ベルヌーイ法、カイロポーラス法、ブリッジマン法、EFG法等の融液成長法等が挙げられる。
【0040】
バイヤー法の場合、ボーキサイトから得た水酸化アルミニウムを焼成して原料アルミナを製造することができる。また、アンモニウムミョウバン法、AACH法、溶媒抽出法、アルミニウムアルコキシド法によれば、ウラン含有量とトリウム含有量の少ない高純度の原料アルミナを製造できるため好ましい。これらの方法で製造された、ウラン含有量が例えば550ppb未満、トリウム含有量が例えば10質量ppb未満にそれぞれ抑えられた原料アルミナを、アルミナ粒子の製造に用いれば、ウラン含有量とトリウム含有量の抑えられたアルミナ粒子が得られるため好ましい。
【0041】
(原料アルミナの粉砕)
火炎溶融して所望のサイズのアルミナ粒子を容易に得るため、原料アルミナを粉砕して、火炎溶融に供するアルミナ原料粉末を得る。原料アルミナの粉砕は、例えば振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル等の公知の方法で行うことができ、乾式状態、湿式状態のいずれで粉砕してもよい。
【0042】
上記粉砕では、表面保護剤を用いてもよい。表面保護剤は、粉砕後のアルミナ原料粉末の表面を保護するだけでなく、アルミナ原料粉末の表面を不活性化する機能も有し得る。表面保護剤は、表面を不活性化する機能により、アルミナ原料粉末同士の凝集を低減できるため、凝集しやすいBET比表面積が高い原料アルミナを用いて、火炎溶融後に狙いとする粒子径のアルミナ粒子を得るのに好適である。好適な表面保護剤として、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの1価アルコール類;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;トリエタノールアミンなどのアミン類;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類などが挙げられる。これらの表面保護剤のうち、1種類を単独で用いるか、または2種類以上を組み合わせて用いればよい。これらのうち、グリコール類が好ましく、特には、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールのうちの1種以上が好適である。
【0043】
表面保護剤として好ましく使用される、例えばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールは、その分子量に特に制約はないが、添加の容易性から平均分子量が200~600程度の液体質のものが好ましい。
【0044】
表面保護剤の添加量は、原料アルミナを100質量部としたとき、表面保護剤の効果を十分に発揮させるため、0.01質量部以上とすることが好ましく、また表面保護剤の添加量が多すぎても表面保護剤の効果が飽和するため、10質量部以下とすることが好ましい。表面保護剤の添加量は、より好ましくは0.05~8質量部、更に好ましくは0.1~5質量部である。
【0045】
(火炎溶融)
火炎溶融法とは、原料アルミナを火炎中に噴霧し、液滴化した後に冷却固化する方法である。火炎溶融法によれば、原料アルミナの粒子径をほぼ維持して、アルミナ粒子を得ることができる。火炎溶融法において、火炎溶融炉の温度は、1000℃以上とすることが好ましい。特に、火炎溶融法において、原料供給速度を50kg/h以下、好ましくは10kg/h以下に設定することにより、アルミナ粒子に加わる熱エネルギー量を所定の範囲内に制御できるため、上述の所定の要件を満たすアルミナ粒子が得やすくなる。
【0046】
上記火炎溶融後は、サイクロン及び/又はバグフィルターによってアルミナ粒子を捕集し、分級して所望の特性を有するアルミナ粒子を得ることができる。
【0047】
アルミナ粒子の孤立OH基数と水素結合OH基数は、原料アルミナの製造方法や、粉砕方法、火炎溶融法の条件により制御できるが、得られたアルミナ粒子を塩酸などの酸性溶液に浸漬させることでも制御できる。浸漬時の酸性溶液の種類は、濃度調整の容易性から、塩酸が好ましい。酸性溶液の濃度は1M~12Mに調整することが好ましく、1M~10Mに調整することがより好ましく、2M~5Mに調整することが特に好ましい。浸漬時の質量比としては、アルミナ粒子:酸性溶液が1:2~1:10となるようにすることが好ましい。浸漬時間としては、5時間以上が好ましい。浸漬時には浸漬時間を短縮できるよう適宜加熱してもよく、例えば50~90℃に加熱してもよい。浸漬後は、洗浄及び乾燥することが好ましい。
【0048】
[樹脂]
樹脂組成物に使用する樹脂としては、エポキシ樹脂、および、熱可塑性ポリイミドからなる群から選択される1種類以上を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。好ましいエポキシ樹脂としては、メソゲン系エポキシ樹脂、フェニルシクロヘキシル系エポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、フェノール系エポキシ樹脂、ビフェニル系エポキシ樹脂、ブタジエン系エポキシ樹脂、およびビスフェノールA系エポキシ樹脂が挙げられる。メソゲン系エポキシ樹脂は、メソゲン基を有するエポキシ樹脂であり、封止される100℃以上200℃以下の温度範囲に相転移温度を示し、液晶性を発現する樹脂であることが好ましい。なお、樹脂組成物に含まれる樹脂として、1種以上のエポキシ樹脂を含んでもよい。つまり、樹脂組成物に含まれる樹脂として、メソゲン系エポキシ樹脂、フェニルシクロヘキシル系エポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂、フェノール系エポキシ樹脂、ビフェニル系エポキシ樹脂、ブタジエン系エポキシ樹脂、およびビスフェノールA系エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上のエポキシ樹脂を含んでもよく、さらに熱可塑性ポリイミドを含んでもよい。これらの樹脂は、アルミナ粒子から放出され得るα線を遮蔽する効果が期待される。また、これらの樹脂を用いることにより熱等の外部エネルギーに対する寸法安定性が高い樹脂組成物が得られやすくなる。
【0049】
さらに、これらの樹脂組成物には、必要に応じて、発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、充填剤、顔料、難燃剤、酸化防止剤、界面活性剤、相溶化剤、耐候剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、レベリング剤、離型剤などの公知の添加剤を、単独または二種以上を適宜配合しても良い。また、本願の一実施形態として、樹脂組成物(特に、液体状態、半硬化状態の樹脂組成物)は溶剤を含んでいてもよく、樹脂組成物が溶剤を含む場合、流動しやすく、ICチップおよび基板の微細な構造に合わせて容易に変形でき、緻密な構造を隙間なく封止できる。溶剤としては、公知のものを使用でき、前記樹脂が溶解できる溶剤であれば限定されないが、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アミン系溶剤、アミド系溶剤、ハロゲン系溶剤、炭化水素系溶剤、ニトリル系溶剤等が挙げられる。エポキシ樹脂に対して良溶媒であり、得られる樹脂組成物の塗布性に優れるという観点から、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤が好ましい。
【0050】
本発明の好適な実施形態において、樹脂組成物はアルミナ粒子、エポキシ樹脂、溶剤及び硬化剤を含む。硬化剤としては、例えば4,4-ジアミノジフェニルメタンなどのアミン系硬化剤などが挙げられる。
【0051】
[樹脂組成物の製造方法]
樹脂組成物の製造方法について説明する。
一般的に用いられる公知の方法を使用して、本実施形態に係るアルミナ粒子と樹脂を混合することにより、樹脂組成物を得ることができる。例えば、樹脂が液状の場合(例えば液状エポキシ樹脂など)は、液状樹脂とアルミナ粒子と硬化剤とを混合した後、熱または紫外線などで硬化させることにより樹脂組成物を得ることができる。硬化剤、混合方法および硬化方法として、公知のものおよび公知の方法を採用できる。一方、樹脂が固体状の場合(例えばエポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂やアクリル樹脂など)、アルミナ粒子と樹脂を混合した後、溶融混練など公知の方法により混練したり、溶剤中に樹脂、アルミナ粒子及び硬化剤とを溶解、混合させることで目的の樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物は溶剤を含んでいても良い。
【0052】
本実施形態に係る樹脂組成物の態様は、樹脂組成物中の樹脂を硬化させる前の液体状態、樹脂を半硬化させた半硬化状態(Bステージ)、および樹脂を完全に硬化させた硬化状態(Cステージ)の全ての状態の樹脂組成物を含む。
液体状態の樹脂組成物は、アルミナ粉末と樹脂とを所定の配合比率で配合した配合物、該配合物を混合した混合物、該混合物を成形した成形物を含む。
半硬化状態の樹脂組成物は、混合物または成形物に含まれる樹脂を半硬化させて得た樹脂組成物を含む。
硬化状態の樹脂組成物は、混合物、成形物または半硬化物に含まれる樹脂を完全に硬化させて得た樹脂組成物を含む。
【0053】
[シートモールディングコンパウンド(SMC)]
実施形態に係る樹脂組成物を用いて、シートモールディングコンパウンド(SMC)を提供することができる。SMCは、シート状に成型した樹脂組成物のことである。SMCは、加熱加圧した際に流動性を有するものが好ましく、半硬化状態であっても良い。
SMCは、厚みが1000μm以下とすることが好ましく、半導体装置に組み込んだ際に、半導体装置を小型・軽量化することができ、また、ICチップを封止する際に、封止性を高めることができる。厚みは、より好ましくは800μm以下、更に好ましくは600μm、更により好ましくは500μm以下、特に好ましくは400μm以下、特により好ましくは300μm以下である。厚みの下限は特に限定されないが、一般的に使用されるSMCの寸法やICチップの封止性を高める観点から、例えば10μm以上であってもよく、50μm以上であってもよく、さらには100μm以上又は150μm以上であってもよい。
【0054】
SMCは、公知の方法で作製することができる。一例としては、基材上に未硬化の樹脂組成物を塗布し、その上に保護フィルムを配置して樹脂組成物を半硬化させることで得られる。また、別の一例としては、基材上に溶剤を含む未硬化の樹脂組成物を塗布し、該樹脂組成物から溶剤を乾燥等により除去した後、保護フィルムを配置することで得られる。SMCの使用時には、保護フィルムを剥離して、ウエハ等に圧着させた後、基材を除去し、後硬化させる。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物およびSMCは、繰り返し加熱された場合の寸法変化を抑制できるため、半導体素子の封止部材として好適である。
【実施例0056】
[アルミナ粒子の作製]
試料No.1~6の樹脂組成物に使用したアルミナ粒子(A~D)は、以下のように用意した。
【0057】
(試料No.1~4に使用したアルミナ粒子AおよびB)
下記に記載のアルミナ粒子A(試料No.2および4に使用)とアルミナ粒子B(試料No.1および3に使用)を用意した。
【0058】
原料アルミナとして、アンモニウムミョウバン法によって得られたγアルミナ(下記BET比表面積の値から算出した一次粒子の平均粒子径は13nm)を使用した。このγアルミナの窒素吸着法によるBET比表面積は120m2/gであった。粉砕前に、原料アルミナに、表面保護剤としてプロピレングリコールを4質量%添加し混合した。
【0059】
次いで、ジェットミル粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製 水平型ジェットミル粉砕機 PJM-280SP)を用い、原料アルミナの供給速度:30kg/h、粉砕時のエアー供給口のゲージ圧力:0.5MPaの条件で処理し、二次粒子の平均粒子径が2μm程度のアルミナ原料粉末を得た。
【0060】
得られたアルミナ原料粉末を火炎溶融炉中に投入し、溶融させて球状化したアルミナ粒子を得た。火炎溶融炉内の雰囲気温度は1250℃、原料供給速度は5kg/hに設定した。得られたアルミナ粒子をサイクロンにより回収し、サイクロン分級による分級処理を行い、20μm以上の粒子を取り除いて、アルミナ粒子A(D50=5.1μm、試料No.2および4に使用)を得た。さらに、10μm以上の粒子を取り除いてアルミナ粒子B(D50=2.3μm、試料No.1および3に使用)を得た。
【0061】
(試料No.5に使用したアルミナ粒子C)
試料No.5には、以下の手順で調製したアルミナ粒子Cを用いた。
D50が3.5μmの単結晶アルミナからなるアルミナ原料粒子を準備し、原料供給速度は50kg/h以下に設定して、火炎溶融炉中に投入し、溶融させて球状化したアルミナ粒子を得た。得られたアルミナ粒子をサイクロン分級による分級処理を行い、20μm以上の粒子を取り除いて、アルミナ粒子Cを得た。
【0062】
(試料No.6に使用したアルミナ粒子D)
試料No.6には、デンカ製DAW05のアルミナ粒子(アルミナ粒子D)を用いた。
【0063】
各試料に用いたアルミナ粒子について、以下の測定を行った。
【0064】
〔アルミナ粒子の孤立OH基数と水素結合OH基数〕
アルミナ粒子の孤立OH基数と水素結合OH基数の定量は、JIS K 0068:2001「化学製品の水分測定方法」の記載に準拠したカールフィッシャー法(水分気化-滴定法)による測定結果を用いて行った。カールフィッシャー測定において検出される水分は、アルミナ粒子のOH基由来とみなし、温度550℃で検出される水分を水素結合OH基由来とし、温度900℃で検出される水分を孤立OH基由来の水分とした。
なお、カールフィッシャー測定において検出される水分は、OH基2個が縮合して1 個の水分子になると考えられ、OH基数は下記式(2)により求めた。
OH基数[個/nm2] =0.0662×(水分量[ppm])/(アルミナ粒子の比表面積[m2/g])・・・(2)
【0065】
〔アルミナ粒子の粒度分布〕
アルミナ粒子のD50とD90は、レーザー粒度分布測定装置としてマイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラック MT3300EXII」を用いて、レーザー回折法により、アルミナ粒子の粒度分布を測定した。粒度分布の測定結果から、D50及びD90を求めた。測定用の試料として、0.2質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、測定対象となるアルミナ粒子を、レーザー散乱強度が適切になるように添加し、装置内蔵超音波40Wで5分間分散処理したアルミナ粒子分散液を用いた。アルミナの屈折率は1.76とした。
【0066】
〔アルミナ粒子のBET比表面積〕
比表面積測定装置として、島津製作所製の「フローソーブIII 2310」を使用し、JIS-Z8830(2013)に規定された方法に従って、窒素吸着法一点法により、窒素吸着BET比表面積を求めた。各測定条件は以下の通りとした。
キャリアガス:窒素/ヘリウム混合ガス
充填試料量:0.1g
試料の前処理条件:200℃で20分処理
窒素吸着温度:液体窒素温度(-196℃以下)
窒素脱着温度:室温(約20℃)
【0067】
〔アルミナ粒子の外縁の長さL1と粒子内部の粒界の合計長さL2の測定〕
試料No.1~6のアルミナ粒子を用いて断面観察用試料を作製した。断面観察用試料の作製では、アルミナ粒子を断面観察用樹脂で包埋後、当該樹脂とアルミナ粒子をダイヤモンドカッターにて切断した。その後、断面に保護膜としてPtを蒸着し、Arイオンミリングにて断面調製を行い、SEM試料台にCu両面テープにて固定し、無蒸着にてSEM-EBSD測定を行った。観察領域内に2つ以上のアルミナ粒子が完全に入るように(つまり、2つ以上のアルミナ粒子が、観察領域の枠と接触しないように)、観察位置を決定した。測定したアルミナ粒子は、いずれもαアルミナ粒子であった。
【0068】
サンプルの前処理およびEBSD測定には、以下の機器を使用した。
・使用機器
イオンミリング装置:IM-4000(株式会社日立製作所製)
イオンスパッタ装置:E-1030(株式会社日立製作所製)
超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡:JSM-7800F Prime(日本電子株式会社製)
後方散乱電子回折装置:Digiview V (TSL製)
【0069】
EBSD測定の条件は以下の通りとした。
・測定領域:500.0μm×400.0μm
・加速電圧:20.0kV
・倍率:×500
・真空度:30Pa
【0070】
得られたEBSD像において、観察領域の枠と接触していないアルミナ粒子を2つ以上選択して、各アルミナ粒子の外縁の長さL1を、画像処理ソフトImage J(National Institute of Health製)の平均を算出した。「粒界の合計長さL2」は、アルミナ粒子の内部に含まれる粒界の総和であり、アルミナ粒子の外縁を含まないものとした。粒界の合計長さL2は、アルミナ粒子内部の粒界の合計長さと、(アルミナ粒子の内部に空洞がある場合は)その空洞の内壁の合計長さとを加算して求めた。
【0071】
外縁の長さL1に対する粒界の合計長さL2の比(L2/L1)を百分率(%)で表した。アルミナ粒子内部の粒界および空洞が多いほど、L2/L1(%)の値が大きくなる。
【0072】
〔アルミナ粒子のウランおよびトリウムの含有量〕
アルミナ粒子に含まれるウラン含有量(U量)とトリウム含有量(Th量)を次のようにして測定した。まず、アルミナ粒子を硫酸とリン酸の混合水溶液中に投入し、加熱してアルミナ粒子を溶解し、水溶液を調製した。その後、該水溶液と、ウランの抽出剤として汎用されるリン酸トリブチルのシクロヘキサン溶液とを接触させ、該水溶液中に含まれるウランを抽出した。その後、再度純水と接触させる逆抽出により水相に移したウランを、ICP-MSを用いてU238amu、Th232amuの強度により測定した。なお、検量線の作成には、SPEX社製標準溶液を用いた。
【0073】
〔アルミナ粒子から放出されるα線量〕
アルミナ粒子から放出されるα線量を、測定装置model 1950(Alpha sciens社製)を用いて測定した。試料の測定面積は1000cm2、測定時間は99時間とし、計数ガスはPR-10ガス(Ar90%、CH410%)を用いた。
【0074】
〔樹脂組成物の作製〕
アルミナ粒子、樹脂等を混錬して、樹脂組成物を作成した(試料No.1~6)。使用した樹脂の種類は表1に、アルミナ粒子の配合量は表3に記載した。また、アルミナ粒子を含まない状態の樹脂を硬化した時の弾性率を測定し、表3の「樹脂」の「弾性率」の欄に記載した。
試料No.1~6の樹脂組成物は、具体的には次の作製方法に従い作製した。表3に記載の「樹脂組成物」は硬化状態の樹脂組成物を示す。
【0075】
(1)ワニスの調製
表1に示す樹脂を、表1に示す溶剤に溶解させ、30質量%混合溶液を調製した。さらに、硬化剤(4,4-ジアミノジフェニルメタン(TCI製))を、混合溶液100質量%に対して0.074質量%添加して、ワニスを調製した。
【0076】
(2)アルミナ/ワニス混合物の調製
得られたワニスにアルミナ粒子を添加し、自転公転ミキサー(シンキー社製)を用いて混錬し、アルミナ/ワニス混合物を調製した。
【0077】
(3)製膜
得られたアルミナ/ワニス混合物をPET基材上に塗布し、アプリケーターを用いて、熱硬化後の膜厚が150~200μmになるように製膜し、硬化前の樹脂組成物を得た。
【0078】
(4)熱硬化
得られた硬化前の樹脂組成物を、常温1時間で静置した後、140℃で15分間加熱し、更に、プレス成型機を用いて、圧力0.5MPaにて、140℃20分間真空プレス成型を行った後、常圧にて180℃で120分間加熱し、熱硬化させた。これにより、硬化状態の樹脂組成物(試料No.1~6)を得た。試料No.1~5の樹脂組成物においては、樹脂組成物の全体に対して、固形分の割合は95体積%以上であった。
【0079】
【0080】
表1に記載した樹脂の種類の詳細は以下の通りである。
【0081】
・メソゲンエポキシ樹脂(A)
Trans-4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4―(2,3―エポキシプロポキシ)ベンゾエート(下記の構造式で表されるエポキシ樹脂)を6―ヒドロキシ―2-ナフトエ酸と反応させたプレポリマーである。
【0082】
【0083】
・JP-100とHP6000との混合物
エポキシ化ポリブタジエンのJP-100(日本曹達製)と、ナフタレン系エポキシ樹脂のHP―6000(DIC製)とを、質量比1:9で混合して作製した。
【0084】
〔樹脂組成物の弾性率および破断応力〕
樹脂組成物の弾性率および破断応力は、JIS K7161(2014)に準拠して測定を行った。具体的には、以下の条件にて引張試験を行い、得られた応力-歪曲線を解析して算出した。
・試験装置;オートグラフAGS-X(島津製作所製)
・ロードセル:1kN
・試験片寸法:100mm×10mm
・試験環境:22℃/59%RH
・解析ソフト:TRAPEZIUMX
【0085】
〔樹脂組成物から放出されるα線量〕
樹脂組成物から放出されるα線量を、測定装置model 1950(Alpha sciens社製)を用いて測定した。試料の測定面積は1000cm2、測定時間は99時間とし、計数ガスはPR-10ガス(Ar90%、CH410%)を用いた。
【0086】
〔樹脂組成物の繰り返し加熱された場合の寸法変化〕
樹脂組成物の繰り返し加熱された場合の寸法変化は、以下のように評価した。
まず、JIS K7197に準拠し、熱機械分析により、温度範囲27℃から150℃における熱膨張率(CTE)を求めた。分析条件を下記に示す。
・装置:TMA7100(日立ハイテクサイエンス製)
・測定モード:引張モード
・試験片幅:5mm
・チャック間:20mm
・昇降温工程:20℃から200℃を速度5℃/minで昇温後、200℃から20℃まで速度5℃/min冷却した
・CTE算出温度範囲:昇温工程の27℃から150℃
・測定荷重:0.05N
上記CTE測定を2回行い、以下の式から算出されるCTE変化率が小さいものを、繰り返し加熱された場合の寸法変化が小さいものとして評価した。
CTE変化率(%)=(測定1回目のCTE-測定2回目のCTE)/(測定1回目のCTE)×100
【0087】
アルミナ粒子の各種測定結果を表2に、使用した樹脂の種類(および弾性率)と、樹脂組成物の各種測定結果を表3に、それぞれ示す。なお、表中の「-」は、測定を行わなかったことを示す。
【0088】
【0089】
【0090】
測定結果について、以下に検討する。
本実施形態の要件を満たす試料No.1~5の樹脂組成物は、繰り返し加熱された場合の寸法変化を十分に(すなわちCTE変化率を8.4%以下に)抑制できた。一方、本実施形態の要件を満たさなかった試料No.6の樹脂組成物は、CTE変化率が8.5%であり、繰り返し加熱された場合の寸法変化を十分に抑制できなかった。