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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006049
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】給紙用ロール
(51)【国際特許分類】
   B65H 3/06 20060101AFI20250109BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B65H3/06 330A
B65H5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106601
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】宮川 新平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【テーマコード(参考)】
3F049
3F343
【Fターム(参考)】
3F049AA01
3F049CA02
3F049CA04
3F049LA01
3F049LB01
3F343FA02
3F343FB02
3F343FC04
3F343FC23
3F343GA01
3F343GB01
3F343GD01
3F343JA05
(57)【要約】
【課題】ロール表面の摩耗を抑えて耐久性を確保するとともに、ロール表面に付着する紙紛を除去して紙詰まりを抑えることが可能な給紙用ロールを提供する。
【解決手段】軸体12aと、軸体12aの外周面上に形成された弾性体層12bと、を備え、弾性体層12bの外周面上に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面13aを有する凸部13を備え、順目の斜面13aの角度θ1が、25°以上55°以下であり、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合が、0.2以上0.6以下である、給紙用ロール12とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備え、
前記弾性体層の外周面上に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面を有する凸部を備え、
前記順目の斜面の角度が、25°以上55°以下であり、
荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合が、0.2以上0.6以下である、給紙用ロール。
【請求項2】
前記凸部の頂部には、前記凸部の順目の斜面よりも角度の小さい頂面を有する、請求項1に記載の給紙用ロール。
【請求項3】
前記凸部の底面の周方向長さに対する前記頂面の周方向長さの割合が、0.05以上0.3以下である、請求項2に記載の給紙用ロール。
【請求項4】
前記凸部は、通紙方向の反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面を有し、前記逆目の斜面の角度が、前記順目の斜面の角度よりも大きく構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給紙用ロール。
【請求項5】
前記逆目の斜面の角度が、60°以上90°以下である、請求項4に記載の給紙用ロール。
【請求項6】
前記凸部の高さが、40μm以上200μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給紙用ロール。
【請求項7】
前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が、35°以上75°以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の給紙用ロール。
【請求項8】
前記凸部の頂部には、前記凸部の順目の斜面よりも角度の小さい頂面を有し、
前記凸部の底面の周方向長さに対する前記頂面の周方向長さの割合が、0.05以上0.3以下であり、
前記凸部は、通紙方向の反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面を有し、前記逆目の斜面の角度が、前記順目の斜面の角度よりも大きく構成され、
前記逆目の斜面の角度が、60°以上90°以下であり、
前記凸部の高さが、40μm以上200μm以下であり、
前記弾性体層の表面のJIS-A硬度が、35°以上75°以下である、請求項1に記載の給紙用ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる給紙用ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器は、給紙装置を備える。給紙装置は、給紙カセット内の用紙を送り出す引込ロール(ピックアップロール)、送り出された用紙を搬送する紙送りロール(フィードロール)および分離ロール(リタードロール)を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2000-281223号公報
【特許文献2】特開平2022-164161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら給紙用ロールは、ゴム由来のタック性により用紙との摩擦を維持し、用紙を搬送している。給紙用ロールは、要求される使用寿命の間、用紙の搬送機能を維持し続ける必要がある。しかしながら、搬送される用紙からは、炭酸カルシウムに代表されるような紙紛が都度脱落し、ロール表面に付着する。ロール表面に紙紛が付着することで、ゴムと用紙の接触が阻害され、搬送機能が低下する。これにより、紙詰まりが起きる。
【0005】
特許文献1では、円筒状の回転体の外周面に、回転軸と平行する方向に突起条を設け、その突起条の山の形状を従来よりも鋭角状とすることで、用紙への食いつきがよくなり、用紙の給送を確実安定に行うこととしている。また、特許文献2では、フィードローラの凸条が軸方向に延び、リタードローラの凸条が周方向に延びることで、フィードローラの凸条間の溝部およびリタードローラの凸条間の溝部に紙紛等の微細粉を逃し、フィードローラの凸条とリタードローラの凸条の間のニップ部に紙紛が滞留するのを抑制することとしている。
【0006】
しかしながら、これまでは、ロール表面に付着する紙紛をいかにスムーズに除去できるか、という点に注目されておらず、紙紛による紙詰まりの抑制については改良の余地があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ロール表面の摩耗を抑えて耐久性を確保するとともに、ロール表面に付着する紙紛を除去して紙詰まりを抑えることが可能な給紙用ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る給紙用ロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備え、前記弾性体層の外周面上に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面を有する凸部を備え、前記順目の斜面の角度が、25°以上55°以下であり、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合が、0.2以上0.6以下である。
【0009】
前記凸部の頂部には、前記凸部の順目の斜面よりも角度の小さい頂面を有するとよい。この際、前記凸部の底面の周方向長さに対する前記頂面の周方向長さの割合は、0.05以上0.3以下であるとよい。そして、前記凸部は、通紙方向の反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面を有しているとよい。この際、前記逆目の斜面の角度は、前記順目の斜面の角度よりも大きく構成されているとよい。そして、前記逆目の斜面の角度は、60°以上90°以下であるとよい。そして、前記凸部の高さは、40μm以上200μm以下であるとよい。そして、前記弾性体層の表面のJIS-A硬度は、35°以上75°以下であるとよい。
【0010】
(1)本発明に係る給紙用ロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、を備え、前記弾性体層の外周面上に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面を有する凸部を備え、前記順目の斜面の角度が、25°以上55°以下であり、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合が、0.2以上0.6以下である。
【0011】
(2)上記(1)において、前記凸部の頂部には、前記凸部の順目の斜面よりも角度の小さい頂面を有するとよい。
【0012】
(3)上記(2)において、前記凸部の底面の周方向長さに対する前記頂面の周方向長さの割合は、0.05以上0.3以下であるとよい。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1において、前記凸部は、通紙方向の反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面を有し、前記逆目の斜面の角度が、前記順目の斜面の角度よりも大きく構成されているとよい。
【0014】
(5)上記(4)において、前記逆目の斜面の角度は、60°以上90°以下であるとよい。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1において、前記凸部の高さは、40μm以上200μm以下であるとよい。
【0016】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1において、前記弾性体層の表面のJIS-A硬度は、35°以上75°以下であるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る給紙用ロールによれば、弾性体層の表面に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面を有する凸部を備えることで、紙紛を逃がすスポットを形成することができる。そして、順目の斜面の角度を25°以上とすることで、凸部および紙紛に強いせん断力がかかり、スポットに紙紛を排出することができる。また、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合を0.6以下とすることで、凸部および紙紛に強いせん断力がかかり、スポットに紙紛を排出することができる。これにより、ロール表面に付着する紙紛を除去して、摩擦力低下による紙詰まりを抑えることができる。そして、順目の斜面の角度を55°以下とすることで、凸部にせん断力がかかりすぎず、摩耗による摩擦係数の低下が抑えられる。そして、上記ニップ面積の割合を0.2以上とすることで、凸部にせん断力がかかりすぎず、摩耗による摩擦係数の低下が抑えられる。これにより、紙詰まりを抑えることができる。
【0018】
そして、凸部の頂部に、凸部の順目の斜面よりも角度の小さい頂面を有することで、凸部の頂部の摩耗が抑えられ、耐久性の低下が抑えられる。このとき、凸部の底面の周方向長さに対する頂面の周方向長さの割合が0.05以上であると、凸部の頂部の摩耗が抑えられやすい。そして、上記割合が0.3以下であると、凸部の頂部に紙紛が堆積しにくく、スポットに紙紛を排出しやすい。
【0019】
そして、凸部は、通紙方向の反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面を有しているとよい。この際、逆目の斜面の角度が順目の斜面の角度よりも大きく構成されていると、凸部の頂部に紙紛が堆積しにくく、スポットに紙紛を排出しやすい。そして、逆目の斜面の角度が60°以上であると、逆目の斜面の角度が緩すぎないため、スポットに紙紛を排出しやすい。そして、逆目の斜面の角度が90°以下であると、凸部の強度が確保されるため、凸部にせん断力がかかりやすく、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットに紙紛を排出しやすい。
【0020】
そして、凸部の高さが40μm以上であると、摩耗による耐久性の低下が抑えられやすい。また、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットに紙紛を排出しやすい。そして、凸部の高さが200μm以下であると、凸部の強度が確保されるため、凸部にせん断力がかかりやすく、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットに紙紛を排出しやすい。また、凸部にせん断力がかかりすぎず、摩耗による耐久性の低下が抑えられる。
【0021】
そして、弾性体層の表面のJIS-A硬度が35°以上であると、摩耗による耐久性の低下が抑えられやすい。そして、弾性体層の表面のJIS-A硬度が75°以下であると、凸部にせん断力がかかりすぎず、摩耗による耐久性の低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】給紙装置の模式図である。
図2図1に示す給紙装置の紙送り動作の図である。図2(a)は、1枚の用紙がロール間に到着する前の状態を示したものであり、図2(b)は、1枚の用紙がロール間に到着したときの動作を示したものである。
図3図1に示す給紙装置の紙送り動作の図である。図3(a)は、2枚の用紙がロール間に到着する前の状態を示したものであり、図3(b)は、2枚の用紙がロール間に到着したときの動作を示したものである。
図4】本発明の一実施形態に係る給紙用ロールの外観模式図である。
図5】凸部の形状を説明する模式図である。
図6】凸部の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る給紙用ロールについて詳細に説明する。図1は、給紙装置の模式図である。図2、3は、図1に示す給紙装置の紙送り動作の図である。図4は、本発明の一実施形態に係る給紙用ロールの外観模式図である。図5は、凸部の形状を説明する模式図である。
【0024】
図1に示すように、給紙装置10は、紙送りロール12(フィードロール)と、分離ロール14(リタードロール)と、を備える。紙送りロール12は、軸体12aと、軸体12aの外周に形成された弾性体層12bと、を有する。分離ロール14は、軸体14aと、軸体14aの外周に形成された弾性体層12bbと、を有する。紙送りロール12は、図示しない駆動源(モータ)からの動力を受けて回転駆動され、用紙Pを搬送する機能を有する。分離ロール14は、図示しない付勢部材(ばねなど)により所定の圧力で紙送りロール12に圧接される。また、分離ロール14は、図示しないトルクリミッターが内蔵され、用紙Pが搬送される回転方向(矢印の方向)と反対の方向にブレーキトルクが付与されるように構成されている。
【0025】
搬送される用紙Pは、給紙カセット16内に積載されている。積載された用紙Pの上面には、引込ロール18(ピックアップロール)の表面が摩擦接触しており、引込ロール18によって、給紙カセット16から紙送りロール12に向けて用紙Pを順に繰り出すように構成されている。引込ロール18は、軸体18aと、軸体18aの外周に形成された弾性体層18bと、を有する。引込ロール18は、図示しない連結部材(ギアやタイミングベルトなど)によって紙送りロール12の駆動に連動して回転するように構成されている。
【0026】
紙送りロール12の回転駆動に伴い、引込ロール18が回転し、給紙カセット16から紙送りロール12に向けて用紙Pが1枚ずつ繰り出される。図2(a)に示すように、紙送りロール12は、用紙Pが到着する前から回転駆動している。紙送りロール12に圧接される分離ロール14は、紙送りロール12の回転に伴い、紙送りロール12と分離ロール14の間(ロール間)の摩擦力により、ブレーキトルクに逆らって従動回転する。繰り出された1枚の用紙Pがロール間に到着すると、図2(b)に示すように、ロール間を通って用紙Pが通紙方向Yの方向に搬出される。
【0027】
給紙カセット16から紙送りロール12に向けて用紙Pが2枚繰り出されたときには、図3(a)に示すように、用紙P1、P2が到着する前においては、紙送りロール12は回転駆動し、分離ロール14は、紙送りロール12の回転に伴い、ブレーキトルクに逆らって従動回転する。繰り出された2枚の用紙P1、P2がロール間に到着すると、図3(b)に示すように、分離ロール14は2枚の用紙P1、P2を介して紙送りロール12に接触する状態となる。2枚の用紙P1、P2の間に働く摩擦力は小さいため、ブレーキトルクによって分離ロール14は紙送りロール12の回転には従動せず、停止する。これにより、紙送りロール12に接触する用紙P1は紙送りロール12の回転に伴い、ロール間を通って通紙方向Yの方向に搬出される一方で、分離ロール14に接触する用紙P2は搬出されない。これにより、用紙Pの重送が抑えられる。
【0028】
本発明に係る給紙用ロールは、給紙装置10における紙送りロール12(フィードロール)、分離ロール14(リタードロール)、引込ロール18(ピックアップロール)などとして、好適に用いることができるものである。
【0029】
以下、紙送りロール12を一例として、本発明に係る給紙用ロールの構成について説明する。他の給紙用ロール(分離ロール、引込ロール)においても、同様の構成である。なお、図4図5の給紙用ロールにおいて、X方向は軸方向であり、Y方向は通紙方向である。
【0030】
本発明の一実施形態に係る給紙用ロール12は、軸体12aと、軸体12aの外周面上に形成された弾性体層12bと、を備える。弾性体層12bは、給紙用ロール10のベースとなる層(基層)である。弾性体層12bは給紙用ロール12の表面に現れる層となっている。
【0031】
軸体12aは、金属製または樹脂製の中実体、中空体(円筒体)のものなどが挙げられる。金属材料としては、鉄、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。弾性体層12bは、接着剤層(プライマー層)を介して軸体12aに接着されていてもよい。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行っても良い。
【0032】
弾性体層12bは、弾性材料によって軸体12aの外周面上にロール状に形成されている。弾性体層12bは、外周面上に複数の凸部13を備えている。凸部13は、通紙方向Yに沿って傾斜が大きくなる順目の斜面13aを有している。また、凸部13は、通紙方向Yの反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面13bを有している。さらに、凸部13の頂部には、凸部13の底面13dと平行な頂面13cを有している。頂面13cは、凸部13の順目の斜面13aよりも角度の小さい面となっている。凸部13は、周方向の断面でみると、台形の形をしている。
【0033】
複数の凸部13は、それぞれ、弾性体層12bの周方向および軸方向Xのいずれの方向にも独立した島状に形成されている。複数の凸部13は、弾性体層12bの外周表面に千鳥状に規則正しく配置されている。一列目の凸部13は、弾性体層12bの軸方向Xに沿って並んでいる。同様に、二列目の凸部13、三列目の凸部13も、弾性体層12bの軸方向Xに沿って並んでいる。弾性体層12bの周方向に見ると、二列目の凸部13は、一列目の凸部13および三列目の凸部13とは軸方向にずれた位置に配置している。一列目の凸部13および三列目の凸部13は、軸方向の同じ位置に配置している。したがって、周方向には、例えば一列目の凸部13と三列目の凸部13の間にはスポットSが形成されており、そのスポットSが、凸部13から排出された紙紛を溜める部分となる。
【0034】
ここで、順目の斜面13aの角度θ1は、25°以上55°以下としている。順目の斜面13aの角度θ1が25°未満であると、凸部13および紙紛にせん断力がかかりにくく、スポットSへの紙紛の排出性が悪く、耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなる。一方、順目の斜面13aの角度θ1が55°超であると、凸部13にせん断力がかかりすぎて凸部13の摩耗量が大きくなり、斜面の消失によって耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなる。また、凸部13の順目の斜面13aが急すぎるため、凸部13および紙紛にせん断力がかかっても紙紛をスポットSまで排出しにくくなる。そして、順目の斜面13aの角度θ1は、スポットSに紙紛を排出しやすいなどの観点から、好ましくは30°以上、より好ましくは35°以上である。一方、順目の斜面13aの角度θ1は、凸部13の摩耗量が抑えられやすいなどの観点から、好ましくは50°以下、より好ましくは45°以下である。
【0035】
逆目の斜面13bの角度θ2は、特に限定されるものではないが、順目の斜面13aの角度θ1よりも大きく構成されているとよい。これにより、凸部13の頂面13cに紙紛が堆積しにくく、スポットSに紙紛を排出しやすい。逆目の斜面13bの角度θ2は、好ましくは60°以上90°以下である。逆目の斜面13bの角度θ2が60°以上であると、逆目の斜面13bの角度θ2が緩すぎないため、スポットSに紙紛を排出しやすい。逆目の斜面13bの角度θ2が90°以下であると、凸部13の強度が確保されるため、凸部13および紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットSに紙紛を排出しやすい。そして、逆目の斜面13bの角度θ2は、上記観点から、より好ましくは65°以上90°以下、さらに好ましくは70°以上90°以下である。
【0036】
頂面13cの角度は、凸部13の底面13dと平行な面に対し、0°以上20°以下が好ましい。より好ましくは0°以上15°以下、さらに好ましくは0°以上10°以下である。頂面13cの角度が凸部13の順目の斜面13aよりも小さいことで、凸部13の頂部の摩耗が抑えられ、耐久性の低下が抑えられる。また、頂面13cの角度がより小さいことで、ニップ面積を大きくしやすい。そして、頂面13cの角度がより大きいことで、紙紛にせん断力がかかりやすく、頂面13cに紙紛が堆積しにくく、スポットSに紙紛を排出しやすい。
【0037】
凸部13の底面13dの周方向長さBに対する頂面13cの周方向長さAの割合(A/B)は、0.05以上0.3以下が好ましい。上記割合が0.05以上であると、凸部13の頂部の摩耗が抑えられやすい。また、上記割合が0.3以下であると、凸部13の頂部に紙紛が堆積しにくく、スポットSに紙紛を排出しやすい。上記割合は、より好ましくは0.10以上0.3以下、さらに好ましくは0.10以上0.25以下である。
【0038】
凸部13の高さCは、40μm以上200μm以下が好ましい。凸部13の高さCが40μm以上であると、摩耗による耐久性の低下が抑えられやすい。また、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットSに紙紛を排出しやすい。そして、凸部13の高さCが200μm以下であると、凸部13の強度が確保されるため、凸部13にせん断力がかかりやすく、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットSに紙紛を排出しやすい。また、凸部13にせん断力がかかりすぎず、摩耗による耐久性の低下が抑えられる。凸部13の高さCは、より好ましくは50μm以上150μm以下、さらに好ましくは、60μm以上100μm以下である。
【0039】
弾性体層12bの表面のJIS-A硬度は、35°以上75°以下であるとよい。上記硬度が35°以上であると、摩耗による耐久性の低下が抑えられやすい。また、上記硬度が75°以下であると、凸部13にせん断力がかかりすぎず、摩耗による耐久性の低下が抑えられる。上記硬度は、より好ましくは35°以上70°以下、さらに好ましくは、40°以上65°以下である。
【0040】
本発明に係る給紙用ロールにおいては、ニップ面積が重要である。荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合は、0.2以上0.6以下としている。ニップ幅は、周方向におけるニップの長さであり、ロール面長は、ロール軸方向におけるロール長さ(弾性体層12bの長さ)である。上記ニップ面積の割合を0.2以上とすることで、凸部13にせん断力がかかりすぎず、摩耗による摩擦係数の低下が抑えられる。これにより、紙詰まりを抑えることができる。また、上記ニップ面積の割合を0.6以下とすることで、紙紛に強いせん断力がかかり、スポットSに紙紛を排出することができる。これにより、ロール表面に付着する紙紛を除去して、摩擦力低下による紙詰まりを抑えることができる。上記ニップ面積の割合は、好ましくは0.25以上0.55以下、より好ましくは0.3以上0.5以下である。ニップ面積は、給紙用ロール10の弾性体層12aの外周面に500gf荷重でガラス板を押し込んだときの接地面積から求めることができる。
【0041】
弾性体層12bは、ゴム、エラストマー、樹脂などの弾性材料で構成されている。ゴム状の弾性材料であればその材料は特に限定されるものではない。例えば、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、EPDMなどの公知の材料を用いることができる。
【0042】
弾性体層12bには、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0043】
弾性体層12bの厚さは、特に限定されるものではなく、2~25mmの範囲内などで適宜設定すればよい。
【0044】
弾性体層12bは、成形金型による成形などによって形成することができる。例えば、芯材をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋のゴム組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するなどにより、チューブ状の弾性体層12bを形成することができる。成形金型は、その内周面に凸部13に対応する形状の凹部が形成されたものを用いることができる。給紙用ロール10は、筒状に形成された弾性体層12bに軸体12aを挿入して形成することができる。なお、弾性体層12bの外周面上に形状を付与する方法としては、金型による転写に限られず、研磨等で形状を付与するものであってもよい。
【0045】
以上の構成の給紙用ロール10によれば、弾性体層12bの表面に、通紙方向Yに沿って傾斜が大きくなる順目の斜面13aを有する凸部13を備えることで、紙紛を逃がすスポットSを形成することができる。そして、順目の斜面13aの角度θ1を25°以上とすることで、凸部13および紙紛に強いせん断力がかかり、スポットSに紙紛を排出することができる。また、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合を0.6以下とすることで、凸部13および紙紛に強いせん断力がかかり、スポットSに紙紛を排出することができる。これにより、ロール表面に付着する紙紛を除去して、摩擦力低下による紙詰まりを抑えることができる。そして、順目の斜面13aの角度θ1を55°以下とすることで、凸部13にせん断力がかかりすぎず、摩耗による摩擦係数の低下が抑えられる。そして、上記ニップ面積の割合を0.2以上とすることで、凸部13にせん断力がかかりすぎず、摩耗による摩擦係数の低下が抑えられる。これにより、紙詰まりを抑えることができる。
【0046】
そして、凸部13の頂部に、凸部13の順目の斜面13aよりも角度の小さい頂面13cを有することで、凸部13の頂部の摩耗が抑えられ、耐久性の低下が抑えられる。このとき、凸部13の底面13dの周方向長さBに対する頂面13cの周方向長さAの割合(A/B)が0.05以上であると、凸部13の頂部の摩耗が抑えられやすい。そして、上記割合が0.3以下であると、凸部13の頂部に紙紛が堆積しにくく、スポットSに紙紛を排出しやすい。
【0047】
そして、凸部13は、通紙方向Yの反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面13bを有している。この際、逆目の斜面13bの角度θ2が順目の斜面13aの角度θ1よりも大きく構成されていることで、凸部13の頂部に紙紛が堆積しにくく、スポットSに紙紛を排出しやすい。そして、逆目の斜面13bの角度θ2が60°以上であると、逆目の斜面13bの角度θ2が緩すぎないため、スポットSに紙紛を排出しやすい。そして、逆目の斜面13bの角度θ2が90°以下であると、凸部13の強度が確保されるため、凸部13にせん断力がかかりやすく、紙紛にせん断力がかかりやすくなって、スポットSに紙紛を排出しやすい。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0049】
例えば、図5の凸部13は、凸部13の頂部に凸部13の順目の斜面13aよりも角度の小さい頂面13cを有するものであるが、本発明の給紙用ロールにおいては、凸部の頂部に図5に示すような頂面を有していなくてもよい。また、図5の凸部13の頂面13cは、凸部13の底面13dと平行な面となっているが、凸部13の頂面13cは、凸部13の底面13dと平行な面となっていなくてもよい。
【0050】
図6に、凸部の他の実施形態を示す。
【0051】
図6(a)に示すように、凸部131は、通紙方向Yに沿って傾斜が大きくなる順目の斜面131aと、通紙方向Yの反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面131bを有している。凸部131は、凸部131の頂部に図5に示すような頂面を有していない。凸部131は、周方向の断面でみると、三角形の形をしている。
【0052】
図6(b)に示すように、凸部132は、通紙方向Yに沿って傾斜が大きくなる順目の斜面132aと、通紙方向Yの反対方向に沿って傾斜が大きくなる逆目の斜面132bを有している。また、凸部132の頂部には、凸部132の順目の斜面132aの角度θ12よりも角度(θ32)の小さい頂面132cを有する。凸部132の頂面132cは、凸部132の底面と平行な面となっていない。
【0053】
また、図5の凸部13の頂面13cは平坦面であるが、曲面であってもよい。また、凸部の形状は、図5に示す形状に限られるものではない。
【0054】
また、複数の凸部は、弾性体層12bの周面に、均一に分布・配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。また、配列するように配置されていてもよい。
【実施例0055】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0056】
内周面に複数の凹部を有する筒状成形金型を用い、芯材(φ6、SUS304製)の外周にウレタンゴム組成物の弾性体層を形成した。これにより、弾性体層の外周面に、図4,5に示すような形状の複数の凸部を有する給紙用ロールを得た。作製した給紙用ロールの弾性体層の径方向断面を観察することで、順目の斜面角度θ1、逆目の斜面角度θ2、頂面の周方向長さA、底面の周方向長さB、凸部の高さCを計測した。また、作製した給紙用ロールの弾性体層の外周面におけるJIS-A硬度を測定した。
【0057】
(ニップ面積割合)
ニップ面積は、給紙用ロールの弾性体層の外周面に500gf荷重でガラス板を押し込んだときの接地面積から求めた。測定には、keyence製レーザー顕微鏡を用いた。そして、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合を算出した。
【0058】
(摩擦測定)
摩擦係数測定器に回転方向を合わせて給紙用ロールをセットし、荷重2.94N(300gf)(W)、引張速度180mm/sに設定した。次いで、用紙(リコー製6200 A4)を給紙用ロールと押上板の間にセットし、用紙の端部を荷重測定器(ロードセル)に接続した。次いで、給紙用ロールを10秒以上回転させ、その時の引張力(W)を計測した。引張力は、測定チャートの安定領域の平均値とした。摩擦係数は、W/Wの値により算出した。摩擦係数は、試験前の初期と、2万枚通紙後の耐久時で測定した。
【0059】
(耐久試験)
作製した給紙用ロールを用い、紙詰まりが発生するまで印刷を繰り返し行い、紙詰まりが発生するまでの通紙枚数を計測した。また、2万枚通紙後に、弾性体層の外周面の摩擦係数と、凸部の摩耗量(耐久前後の凸部の高さの差から算出)の計測も行った。評価機はリコー製「MP C2503」であり、10℃×10%RH環境下にて、リコー マイペーパーA4を用いて評価した。紙詰まりが発生するまでの通紙枚数が、10万枚以上であった場合を「◎」、5万枚以上10万枚未満であった場合を「○」、5万枚未満であった場合を「×」とした。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例1は、凸部の順目の斜面角度θ1が小さすぎる。比較例1では、凸部および紙紛にせん断力がかかりにくく、スポットへの紙紛の排出性が悪く、耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなっている。比較例2は、凸部の順目の斜面角度θ1が大きすぎる。比較例2では、凸部にせん断力がかかりすぎて凸部の摩耗量が大きくなり、斜面の消失によって耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなっている。
【0062】
比較例3は、ニップ面積割合が大きすぎる。比較例3では、凸部および紙紛にせん断力がかかりにくく、スポットへの紙紛の排出性が悪く、耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなっている。比較例4は、ニップ面積割合が小さすぎる。比較例4では、凸部にせん断力がかかりすぎて凸部の摩耗量が大きくなり、斜面の消失によって耐久後のロール表面の摩擦係数が低下し、紙詰まりが生じやすくなっている。
【0063】
一方、実施例は、凸部の順目の斜面角度θ1が25°以上55°以下となっている。また、ニップ面積割合が0.2以上0.6以下となっている。そして、実施例では、凸部および紙紛に適度なせん断力がかかることで、スポットへの紙紛の排出性が良好となり、摩擦力の低下および紙詰まりが抑えられている。また、凸部にせん断力がかかりすぎていないことで、凸部の摩耗量が抑えられ、これによる紙詰まりが抑えられている。
【0064】
以上より、実施例、比較例によれば、弾性体層の外周面上に、通紙方向に沿って傾斜が大きくなる順目の斜面を有する凸部を備え、順目の斜面の角度が25°以上55°以下であり、荷重500gにおける、ニップ幅とロール面長の積に対するニップ面積の割合が0.2以上0.6以下であることで、ロール表面の摩耗を抑えて耐久性を確保するとともに、ロール表面に付着する紙紛を除去して紙詰まりを抑えられることがわかる。
【0065】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 給紙装置
12 紙送りロール(給紙用ロール)
12a 軸体
12b 弾性体層
14 分離ロール
14a 軸体
14b 弾性体層
16 給紙カセット
18 引込ロール
18a 軸体
18b 弾性体層
P,P1,P2 用紙
X (給紙用ロールの)軸方向
Y 通紙方向
13 凸部
13a (凸部の)順目の斜面
13b (凸部の)逆目の斜面
13c (凸部の)頂面
13d (凸部の)底面
θ1 (凸部の)順目の斜面の角度
θ2 (凸部の)逆目の斜面の角度
A (凸部の)頂面の周方向長さ
B (凸部の)底面の周方向長さ
C 凸部の高さ
S スポット
図1
図2
図3
図4
図5
図6