(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006072
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】転がり軸受の異常検出装置及び異常検出方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/045 20190101AFI20250109BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01M13/045
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106632
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊美
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】早坂 靖
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克彦
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、転がり軸受の異常診断の精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】
本発明の異常検出装置10は、回転機械30の転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データを取得するデータ取得部11と、データ取得部11が取得した振動波形データから回転機械30の回転速度または加速度を算出する回転速度算出部12と、回転速度算出部12の算出結果から回転機械30の定速時における時間領域の振動波形データを抽出する定速波形抽出部13と、定速波形抽出部13が抽出した振動波形データから所定の閾値より高い特定範囲における時間領域の特定振動波形データを抽出する特定範囲抽出部14と、特定範囲抽出部14で抽出された特定振動波形データと、回転機械30の定速時における時間領域の振動波形データとに基づいて転がり軸受20の異常を特定する異常特定部15を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械に用いる転がり軸受の異常を検出する転がり軸受の異常検出装置において、
前記転がり軸受の振動の時間領域の振動波形データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した振動波形データから前記回転機械の回転速度または加速度を算出する回転速度算出部と、
前記回転速度算出部の算出結果から前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データを抽出する定速波形抽出部と、
前記定速波形抽出部が抽出した振動波形データから所定の閾値より高い特定範囲における時間領域の特定振動波形データを抽出する特定範囲抽出部と、
前記特定範囲抽出部で抽出された特定振動波形データと、前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データとに基づいて前記転がり軸受の異常を特定する異常特定部を備えたことを特徴とする転がり軸受の異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受の異常検出装置において、
前記特定範囲抽出部は、前記特定振動波形データを除去することを特徴とする転がり軸受の異常検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の転がり軸受の異常検出装置において、
前記回転機械は、鉄道用主電動機であり、
前記特定振動波形データは、鉄道車両がレールの継ぎ目を通過した際に検出される衝撃振動データであることを特徴とする転がり軸受の異常検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の転がり軸受の異常検出装置において、
前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データは、前記鉄道車両の慣性走行時の振動波形データであることを特徴とする転がり軸受の異常検出装置。
【請求項5】
回転機械に用いる転がり軸受の異常を検出する転がり軸受の異常検出方法において、
前記転がり軸受の振動の時間領域の振動波形データを取得し、
取得した振動波形データから前記回転機械の回転速度または加速度を算出し、
算出した前記回転機械の回転速度または加速度から前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データを抽出し、
抽出した前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データから所定の閾値より高い特定範囲における時間領域の特定振動波形データを抽出し、
前記特定振動波形データと、前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データとに基づいて前記転がり軸受の異常を特定することを特徴とする転がり軸受の異常検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の転がり軸受の異常検出方法において、
前記特定振動波形データを除去することを特徴とする転がり軸受の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機等に用いられる転がり軸受の異常検出装置及び異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント等における主要機器の音響振動を監視する技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。
【0003】
特許文献1では、運転条件比較判定部からの運転条件変化の完了信号により、スペクトル分析部でスペクトル分析し、機器の正常時の音響成分をバンド・カット・フィルタに出力している。バンド・カット・フィルタは、正常時の支配的な音響成分だけを除去する。フィルタリング後の出力信号は、時定数の異なる第1RMS変換器および第2RMS変換器に入力される。第2RMS変換器の出力信号は、閾値設定部に入力する。第1RMS変換器および閾値設定部からの各出力信号は、衝撃異常比較判定部に入力し、衝撃異常を監視する。特異振動比較判定部および振動モード比較判定部では、スペクトル分析出力されたデータに基づき、音響振動を監視する。
【0004】
特許文献1では、機器の運転条件情報として、例えばポンプ回転数、弁開度を運転条件比較判定部に入力するようにしているが、電動機の転がり軸受の異常検出については考慮されていなかった。また、例えば、電動機を鉄道車両に用いた場合、鉄道車両はレール上を走行するため、レールの継ぎ目において衝撃振動が発生する。特許文献1では、レールの継ぎ目の衝撃振動を抽出する点については考慮されていなかった。これらの課題を解決する技術として、例えば特許文献2に記載の技術が提案されている。
【0005】
特許文献2では、車両の振動を検出する振動センサと、振動センサが出力する波形信号に基づいて、RMSを求めるパラメータ値検出回路と、波形信号のピーク値を求めるピーク検出回路と、パラメータ値検出回路から出力されたパラメータ値の一定倍の値とピーク検出回路23から出力されたピーク値とを比較し、その比較結果に応じて、パラメータ値が一定の基準を超えたことを示す第1の電圧の信号またはパラメータ値が一定の基準以下であることを示す第2の電圧の信号を出力する比較回路とを備えている。そして、比較回路の出力に基づいて、衝撃振動を考慮し、車両の軸受の剥離、車輪のフラット等の異常を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-87620号公報
【特許文献2】特開2006-194629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄道車両等に用いられる電動機では、走行状態に応じて加速、定速、減速を行うため、振動センサが出力する波形信号は、加速、定速、減速の各状態において変化する。したがって、電動機の転がり軸受の異常を精度良く検出するにあたっては、振動センサが出力する波形信号が、加速状態のものか、定速状態のものか、減速状態のものか考慮する必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術においては、振動センサが出力する波形信号が、加速状態のものか、定速状態のものか、減速状態のものか考慮されておらず、転がり軸受の異常検出の精度が低下するという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、前記課題を解決し、転がり軸受の異常診断の精度を向上させる転がり軸受の異常検出装置及び異常検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、回転機械に用いる転がり軸受の異常を検出する転がり軸受の異常検出装置において、前記転がり軸受の振動の時間領域の振動波形データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得した振動波形データから前記回転機械の回転速度または加速度を算出する回転速度算出部と、前記回転速度算出部の算出結果から前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データを抽出する定速波形抽出部と、前記定速波形抽出部が抽出した振動波形データから所定の閾値より高い特定範囲における時間領域の特定振動波形データを抽出する特定範囲抽出部と、前記特定範囲抽出部で抽出された特定振動波形データと、前記回転機械の定速時における時間領域の振動波形データとに基づいて前記転がり軸受の異常を特定する異常特定部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転がり軸受の異常診断の精度を向上させた転がり軸受の異常検出装置及び異常検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る転がり軸受の異常検出装置を示す模式図である。
【
図2】転がり軸受を回転機械の軸に平行な方向から見た模式図である。
【
図3】転がり軸受を回転機械の軸に直交する方向から見た断面の模式図である。
【
図4】本発明の実施例に係る異常検出装置が行う、転がり軸受の異常部品を特定する処理の例を示すフローチャートである。
【
図5】ステップS2で取得した、転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データの一例を示す図である。
【
図6】ステップS3(FFT処理)で求めた周波数領域の強度分布の一例を示す図である。
【
図7】ステップS9で求めた、転がり軸受の振動の時間領域の包絡線波形の一例を示す図である。
【
図8】ステップS9で求めた、転がり軸受の振動の時間領域の包絡線波形にFFT処理を実行した後の周波数(強度)分析の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。なお、以下に説明する構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明に係る実施様態が、以下の具体的様態に限定されることを意図する趣旨ではない。
【0014】
以下の実施例では、鉄道用の主電動機に適用した例で説明する。
【0015】
転がり軸受の異常(例えば、損傷や欠陥など)は、回転速度と振動に基づいて検出することができる。しかし、鉄道用主電動機の振動は、走行条件や環境要因に依存して変化する。特に、鉄道車両がレール継ぎ目通過時には衝撃により振動が大きくなる。そのため、転がり軸受の異常の検出に際して、計測した振動データを精度よく分析するためには、鉄道車両がレール継ぎ目通過時に受ける電動機への衝撃振動を特定する必要がある。
【0016】
さらに、鉄道用主電動機では、鉄道車両の力走、惰性走行、制動といった車両の走行状態に応じて回転速度が変化(加速、定速、減速)し、これに伴い検出される振動データも変化するが、惰性走行時における電動機が定速(一定回転速度)状態の振動データを抽出することで、回転速度に依存した転がり軸受の特徴周波数を精度よく検出することができる。しかし、鉄道車両がレール継ぎ目通過した状態を判断したり、鉄道車両が慣性走行(定速の回転速度)かを判定するためには、位置情報取得のための装置を設置したり、制御装置から運転駆動制御信号を取り入れたりする必要があるため、コスト増や作業効率および診断精度の低下という課題がある。本実施例では、前述の課題を解決しつつ、鉄道用主電動機において定速の振動波形データを抽出し、衝撃振動を抽出または除去して転がり軸受の異常診断を行うことにより、異常診断の精度の向上を図る。
【0017】
本発明の一実施例に係る、転がり軸受の異常検出装置、異常検出方法は、転がり軸受で支持された鉄道用主電動機において、振動波形データから定速時の振動波形データを抽出し、さらにRMS(Root Mean Square)などの統計値を用いて衝撃振動などの特定振動を判定し、特定範囲の時間領域を抽出または除いた振動波形データを用いて転がり軸受の異常部品を特定することで、転がり軸受の異常を検出する。
【0018】
以下、本発明の実施例による、転がり軸受の異常検出装置と異常検出方法について、図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る転がり軸受の異常検出装置10を示す模式図である。
図1には、異常検出装置10が異常を検出する転がり軸受20と、転がり軸受20が支持する回転機械30についても示している。
【0020】
回転機械30は、回転する軸31を備え、軸31の両側が転がり軸受20で支持されている。回転機械30は、運転中に回転速度(すなわち、軸31の回転速度)が変化する。転がり軸受20には、振動を検出する振動検出部17が備えられている。本実施例の回転機械30は、鉄道用主電動機を対象とする。
【0021】
異常検出装置10は、データ取得部11と、回転速度算出部12と、定速波形抽出部13と、特定範囲抽出部14と、異常特定部15と、出力部16を備えており、データロガー18に接続される。異常検出装置10は、データロガー18を介して振動検出部17と接続されている。
【0022】
データ取得部11は、振動検出部17が検出した転がり軸受20の振動波形データを取得する。回転速度算出部12は、データ取得部11が取得した振動波形データから回転機械30の回転速度を求める。定速波形抽出部13は、データ取得部11が取得した振動波形データについて、回転速度算出部12で求めた回転速度をもとに速度変化のない時間帯の振動波形データを抽出する。特定範囲抽出部14は、定速波形抽出部13が取得した振動波形データから衝撃振動などの特定振動と判定した時間帯の振動波形データを抽出または排除する。異常特定部15は、回転速度算出部12が求めた回転速度と特定範囲抽出部14の判定を用いて、転がり軸受20の異常部品を特定する。出力部16は、表示画面や、外部装置へのインターフェースで構成することができ、異常検出の結果を出力する。
【0023】
異常検出装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)などのコンピュータ19で操作することができる装置である。また、異常検出装置10をコンピュータ19で構成するようにしてもよい。
【0024】
振動検出部17は、例えば加速度センサで構成されており、転がり軸受20の振動を検出する。
【0025】
データロガー18は、振動検出部17が検出した転がり軸受20の振動のデータ、すなわち、転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データを保存する保存装置である。本実施例では2つ(複数)の転がり軸受20のそれぞれに対し、振動検出部17を設けるようにしており、振動検出部17で検出した2つ(複数)の転がり軸受20の振動波形データは、データロガー18の保存領域において別々に保存される。
【0026】
異常検出装置10のデータ取得部11は、データロガー18から、転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データを取得する。
【0027】
本発明による、転がり軸受の異常検出装置と異常検出方法では、転がり軸受の異常検出に用いる一定回転速度データは次のようにして判定する。すなわち、転がり軸受の振動波形データに包絡線処理を行った後で高速フーリエ変換(以下、「FFT(Fast Fourier Transform)」とも記す)処理を行った周波数領域の強度分布データにおいて、回転機械の回転周波数1次または高次の周波数を求め、求めた1次または高次の回転周波数における振動の強度を求める。そして、1次または高次の回転周波数が一定の時間帯の振動波形データを抽出する。そして、この一定回転速度における振動波形データの統計値を求め、統計値が閾値以上の時間帯の振動波形データを排除する。
【0028】
図2は、転がり軸受20を回転機械30の軸31に平行な方向から見た模式図である。
図3は、転がり軸受20を回転機械30の軸31に直交する方向から見た断面の模式図である。
【0029】
転がり軸受20は、内輪21と、外輪22と、複数の転動体23と、保持器24を備える。内輪21は、回転機械30の軸31に固定されている環状部材であり、軸31と共に回転する。外輪22は、転がり軸受20のハウジングに固定されている環状部材であり、内輪21と同心円状に配置されている。複数の転動体23は、内輪21と外輪22との間の空間に配置された部材であり、自転しながら内輪21と同じ周方向に回転(公転)する。保持器24は、複数の転動体23を、互いの周方向の相対位置を保つように保持する部材である。
【0030】
図2には、転動体2の径dと、ピッチ円径D(転動体23の中心を通る円の直径)も示している。
【0031】
図3には、転がり軸受20の接触角αを示している。接触角αは、転動体23の転走面(転動体23と接する内輪21と外輪22の面)と転動体23との間にかかる荷重の方向25と、転がり軸受20の径方向26(軸31に直交する方向)との間の角度である。
【0032】
図4は、本発明の実施例に係る異常検出装置10が行う、転がり軸受20の異常部品を特定する処理の例を示すフローチャートである。
【0033】
ステップS1において、異常検出装置10が起動し、処理を開始する。
【0034】
ステップS2において、異常検出装置10のデータ取得部11は、データロガー18から、転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データに関するデータを取得する。データロガー18には、振動検出部17で検出した振動波形データに関するデータが保存されている。ここで、データ取得部11が取得する振動波形データについて、
図5を用いて説明する。
【0035】
図5は、ステップS2で取得した、転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データの一例を示す図である。
図5では、横軸に時間t、縦軸に振幅Aを示している。
図5に示すように、転がり軸受20には、回転機械30の回転(転がり軸受20の内輪21の回転)に応じて、周期的な振動(加速度の変化)が発生している。また、振動波形データは、電動機が加速状態、定速状態、減速状態によっても振幅が変化する。
図5において、データ取得部11は、取得した振動波形データを所定の時間領域に分割する。本実施例では、振動波形データを、例えば区間1、区間2、区間3、区間4のように分割する。
【0036】
ステップS3において、異常検出装置10の回転速度算出部12は、ステップS2で取得した時間領域(区間1~区間4)の振動波形データについてFFT処理を実行し、周波数領域の強度分布データに変換する。
【0037】
図6は、ステップS3(FFT処理)で求めた周波数領域の強度分布の一例を示す図である。
図6に示すように、いくつかの周波数において、振動の強度が大きくなっている(すなわち、ピークが発生している)ことがわかる。回転速度算出部12は、FFT処理を実行し時間領域(区間1~区間4)毎における周波数領域の強度分布データを算出する。
【0038】
ステップS4において、異常検出装置10の回転速度算出部12は、ステップS3で算出した周波数領域の強度分布データについて、予め定めた探索範囲内の周波数ピークを探索し、回転周波数f
sが予め定めた探索範囲内に入っているか否かを推定する。本実施例では、
図6に示す網掛け部分に周波数の探索範囲を設定している。
図6では、区間1~区間3においては回転周波数f
sが探索範囲内となっており、区間4においては回転数周波数fsが探索範囲外となっている。探索範囲内に周波数ピークが入っている場合(区間1~区間3)、鉄道車両は惰性走行をしており、電動機の回転数が定速の状態となっている。このようにして、回転速度算出部12は、予め定めた探索範囲内に電動機の回転周波数f
sが入っていることを推定し、電動機の回転数が定速であることを算出する。また回転数周波数fsが探索範囲外である区間4は電動機が加速の状態である。すなわち、本実施例の回転速度算出部12は、振動波形データから回転機械の回転速度または加速度を算出している。
【0039】
ステップS5において、異常検出装置10の定速波形抽出部13は、ステップS4で推定した回転周波数fsが探索範囲内に入っている時間領域の振動波形データを抽出する。すなわち、定速波形抽出部13は、回転速度算出部12の算出結果から回転機械の定速時における時間領域の振動波形データを抽出する。例えば本実施例では、区間1~区間3が該当し、鉄道車両の場合、慣性走行時の振動波形データがこれに該当する。
【0040】
ステップS6において、異常検出装置10の特定範囲抽出部14は、ステップS5で抽出した時間領域の振動波形データの実効値(RMS)などの統計値を算出する。すなわち、本実施例では、
図5に示す転がり軸受20の振動の時間領域の振動波形データ(
図5に示した振動の生波形データ)から区間1~区間3の統計値(実効値)を算出する。統計値としては、実効値(RMS)の他、分散、歪度、尖度等の散布度を利用するとよい。
【0041】
振動波形データには、鉄道車両がレールの継ぎ目を通過した際に検出される衝撃振動データが含まれるため、転がり軸受20の異常検出にあたってはこの衝撃振動波形データを抽出し、把握する必要がある。そこで本実施例では、異常検出装置10に特定範囲抽出部14を備えている。
【0042】
ステップS7において、異常検出装置10の特定範囲抽出部14は、ステップS6で算出した実効値(RMS)などの統計値と予め定めた閾値(
図5参照)を比較し、実効値(RMS)などの統計値の範囲を特定する。ステップS7において、実効値(RMS)などの統計値が閾値よりも大きい場合(ステップS7のYES)、特定範囲抽出部14はステップS8の処理を実行する。ステップS7において、実効値(RMS)などの統計値が閾値よりも小さい場合(ステップS7のNO)、特定範囲抽出部14はステップS9の処理を実行する。
図5に示す例では、区間2の統計値が閾値よりも大きくなっている。
【0043】
ステップS8において、異常検出装置10の特定範囲抽出部14は、ステップS7での実効値(RMS)などの統計値と予め定めた閾値との比較結果、実効値(RMS)などの統計値が閾値よりも大きいと判定された時間領域の振動波形データを抽出する。実効値(RMS)などの統計値が閾値よりも大きいと判定された場合、鉄道車両がレールの継ぎ目を通過した際に検出される衝撃振動データが含まれるため、例えば、本実施例の特定範囲抽出部14は、統計値が閾値よりも大きい区間2の時間領域の振動波形データ(特定振動波形データ)を除去する。本実施例では、区間2を除く区間1、区間3の振動波形データを用いてステップS9の処理を実行する。
【0044】
ステップS9において、異常検出装置10の特定範囲抽出部14は、ステップS8で取得した振動の波形データ(区間2を除く区間1,3のデータ)に包絡線処理を行い、振動の時間領域の波形の包絡線を求める。すなわち、異常検出装置10は、振動の時間領域の波形の輪郭をなぞる曲線(包絡線)を求め、求めた時間領域の包絡線波形に高速フーリエ変換処理(FFT処理)を行い、時間領域の包絡線波形を周波数領域の強度分布データに変換する。
【0045】
図7は、ステップS9で求めた、転がり軸受20の振動の時間領域の包絡線波形の一例を示す図である。
図7は、転がり軸受20に発生した周期的な振動(加速度の変化)の波形の包絡線を示している。
【0046】
図8は、ステップS9で求めた、転がり軸受20の振動の時間領域の包絡線波形にFFT処理を実行した後の周波数(強度)分析の一例を示す図である。
図8に示すように、振動の時間領域の包絡線波形の周波数(強度)分析では、いくつかの周波数において、振動の強度が大きくなっている(すなわち、ピークが発生している)ことがわかる。
【0047】
ステップS10で、異常検出装置10の異常特定部15は、ステップS4で算出した回転機械30の回転周波数fsと、転がり軸受20の特徴周波数を用いて、転がり軸受20の異常部品を特定する。
【0048】
ステップS11で、異常検出装置10は、転がり軸受20の異常検出を終了して停止する。
【0049】
転がり軸受20の特徴周波数とは、転がり軸受20の幾何学的寸法と回転機械30の回転速度(回転周波数)から決まる値であり、転がり軸受20の異常な振動の要因を示す周波数である。特徴周波数は、例えば、転動体23の公転周波数(保持器24の回転周波数)FTF、転動体23の自転周波数BSF、外輪転動体通過周波数BPFO、及び内輪転動体通過周波数BPFIである。これらの特徴周波数は、以下の式で計算することができる。
【0050】
転動体23の公転周波数(保持器24の回転周波数)FTF
・FTF=1/2*(1-d/D*cosα)*fs・・・(1)
転動体23の自転周波数BSF
・BSF=D/(2d)*[1-(d/D*cosα)2]*fs・・・(2)
外輪転動体通過周波数(外輪22の一地点を転動体23が通過していく周波数)BPFO
・BPFO=z/2*(1-d/D*cosα)*fs・・・(3)
内輪転動体通過周波数(内輪21の一地点を転動体23が通過していく周波数)BPFI
・BPFI=z/2*(1+d/D*cosα)*fs・・・(4)
但し、式(1)~(4)において、dは転動体23の径(mm)、Dはピッチ円径(mm)、αは転がり軸受20の接触角(ラジアン)、zは転動体23の数、fsは回転機械30の回転周波数(Hz)である。
【0051】
転がり軸受20に損傷や欠陥などの異常があると、転がり軸受20の振動の周波数領域の波形には、異常の部位に関連した特徴周波数とその高調波の周波数にピークが発生する。すなわち、保持器24に異常がある場合は、式(1)で表される周波数とその高調波の周波数にピークが発生する。転動体23に異常がある場合は、式(2)の2倍の周波数とその高調波の周波数にピークが発生する。外輪22に異常がある場合は、式(3)の周波数とその高調波の周波数にピークが発生する。内輪21に異常がある場合は、式(4)の周波数とその高調波の周波数にピークが発生する。
【0052】
本実施例による異常検出装置10は、以上に説明したように、回転機械において、転がり軸受20の振動データを利用して、衝撃振動を特定することが可能となる。さらに、鉄道車両において慣性走行である電動機の回転速度が定速(一定回転速度)での振動データを抽出することで、転がり軸受の異常診断の精度も向上させることができる。また、制御装置から運転制御信号を取り入れたりしなくても、異常検出装置10で回転機械30が受ける衝撃振動を特定し、転がり軸受20の診断を行うことができるため、コストダウンや作業効率と診断精度の向上を図ることができる。また、装置の後付けによる診断も可能となる。
【0053】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10…異常検出装置、11…データ取得部、12…回転速度算出部、13…定速波形抽出部、14…特定範囲抽出部、15…異常特定部、16…出力部、17…振動検出部、18…データロガー、19…コンピュータ、20…転がり軸受、21…内輪、22…外輪、23…転動体、24…保持器、25…荷重の方向、26…径方向、30…回転機械、31…軸