(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006097
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】プロジェクタ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20250109BHJP
G03H 1/08 20060101ALI20250109BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20250109BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G02B27/01
G03H1/08
G03B21/14 B
G03H1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106674
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴之
【テーマコード(参考)】
2H199
2K008
2K203
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA15
2H199DA26
2H199DA35
2H199DA44
2K008AA14
2K008CC03
2K008FF27
2K008HH03
2K008HH26
2K203FA24
2K203FA32
2K203FA54
2K203GA12
2K203HA97
2K203MA23
(57)【要約】
【課題】 解像度を変えることなく、波長の違いによる画像のずれを抑制できるプロジェクタを提供する。
【解決手段】 波長が異なる光を出力する複数の光源11R、11G、11Bと、複数の光源11R、11G、11Bから出力された光を回折し、計算機生成ホログラムに基づく干渉縞を含む物体画像をスクリーンSに投影する空間光位相変調器13と、複数の光源11R、11G、11B及び空間光位相変調器13を制御する制御部3と、を備えるプロジェクタであって、複数の光源11R、11G、11Bが出力する光を空間光位相変調器13に対して斜めに入射させる斜入射光学系を構成し、複数の光源11R、11G、11Bが出力する光の空間光位相変調器13に対する入射角度θは、2次元方向において互いに相違し、出力する光の波長に基づいて設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が異なる光を出力する複数の光源と、
複数の前記光源から出力された光を回折し、計算機生成ホログラムに基づく干渉縞を含む物体画像をスクリーンに投影する空間光位相変調器と、
複数の前記光源及び前記空間光位相変調器を制御する制御部と、を備えるプロジェクタであって、
複数の前記光源が出力する光を前記空間光位相変調器に対して斜めに入射させる斜入射光学系を構成し、
複数の前記光源が出力する光の前記空間光位相変調器に対する入射角度は、2次元方向において互いに相違し、出力する光の波長に基づいて設定されている、プロジェクタ。
【請求項2】
前記制御部は、物体のCGHパターンと、レンズのCGHパターンと、を合成して得られる制御用CGHパターンに基づいて前記空間光位相変調器を制御し、
前記レンズのCGHパターンは、前記入射角度に応じて変更される、請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項3】
複数の前記光源は、波長が異なる3色の光を出力する3つの光源を含み、
前記制御部は、3色分の前記制御用CGHパターンに基づいて前記空間光位相変調器を時分割で制御し、
前記3色分の前記制御用CGHパターンのうち、少なくとも2色分の前記制御用CGHパターンには、色毎の描画中心角のずれを補正するための中心角補正用CGHパターンが合成される、請求項2に記載のプロジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
空間光位相変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いて、計算機生成ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram)に基づく干渉縞を含む画像を投影するプロジェクタが公知となっている。例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
計算機生成ホログラムの画角θは、下記の式によって決まり、光源から出力される光の波長λと、空間光位相変調器の画素ピッチpとの関数となっている。したがって、波長が異なる複数色の光を同じ空間光位相変調器を用いて回折すると、波長の違いによって画角θが変わり、各色の画像θがずれるという現象が発生する。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この現象の最も簡単な解決手法は、各色の元の画像の大きさを変えることである。しかしながら、このような解決手段を実行すると、色によって解像度(画素数)が変わってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本開示は、解像度を変えることなく、波長の違いによる画像のずれを抑制できるプロジェクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの側面では、以下のような解決手段を提供する。
波長が異なる光を出力する複数の光源と、
複数の前記光源から出力された光を回折し、計算機生成ホログラムに基づく干渉縞を含む物体画像をスクリーンに投影する空間光位相変調器と、
複数の前記光源及び前記空間光位相変調器を制御する制御部と、を備えるプロジェクタであって、
複数の前記光源が出力する光を前記空間光位相変調器に対して斜めに入射させる斜入射光学系を構成し、
複数の前記光源が出力する光の前記空間光位相変調器に対する入射角度は、2次元方向において互いに相違し、出力する光の波長に基づいて設定されている、ことを特徴とするプロジェクタが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、解像度を変えることなく、波長の違いによる画像のずれを抑制できるプロジェクタの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施例によるヘッドアップディスプレイ装置が搭載された車両の側面視による概略図である。
【
図2】本実施例によるヘッドアップディスプレイ装置の概略的な断面図である。
【
図4】空間光位相変調器の見かけ上の画素ピッチを示す図であり、(a)は入射角度θが0degの場合を示し、(b)は入射角度θが25degの場合を示す。
【
図5】目標画角と各色の入射角度θとの関係を示す図である。
【
図6】目標画角を8degとした場合の各色の入射角度θを示す図である。
【
図7】制御用CGHパターンの基本的な作成方法を示す図である。
【
図8】本実施例による制御用CGHパターンの作成方法を示す図である。
【
図9】中心角のずれを補正するための処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら実施例について詳細に説明する。なお、図面では、見やすさのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0012】
[ヘッドアップディスプレイ装置の構成]
図1は、本実施例によるヘッドアップディスプレイ装置Hが搭載された車両10の側面視による概略図である。
図2は、本実施例によるヘッドアップディスプレイ装置Hの概略的な断面図である。
図1及び
図2には、右手座標系で直交する3軸(X軸、Y軸、及びZ軸)が定義されている。ここでは、X軸は、車両10の左右方向(幅方向)に対応し、Z軸は、車両10の前後方向に対応し、Y軸は、車両10の上下方向に対応する。
【0013】
ヘッドアップディスプレイ装置Hは、
図1に示すように、車両10のインストルメントパネル7の内部に配設される。ヘッドアップディスプレイ装置Hは、投射する表示光PLを車両10のウインドシールドWSで車両10の搭乗者P(例えば運転者)の方向に反射させ、虚像Vの表示を行う。すなわち、ヘッドアップディスプレイ装置Hは、後述する表示器1から発せられる表示光PLをウインドシールドWS(投影部材)に出射(投射)し、この出射によって得られた表示像(虚像)Vを搭乗者Pに視認させるプロジェクション方式の表示装置(プロジェクタ)である。これにより、搭乗者Pは、虚像Vを風景と重畳させて視認できる。
【0014】
ヘッドアップディスプレイ装置Hは、ケース4内に、表示器1、反射鏡2、制御部3等が収容される。ケース4は、インストルメントパネル7の上面側に出射口41を有し、出射口41を介して表示光PLがケース4内からウインドシールドWSに向けて出射される。なお、出射口41は、透明性の防塵カバーでカバーされてよい。
【0015】
表示器1は、表示光PLを出射する。本実施例では、表示器1は、後述するように、計算機生成ホログラムを構成する干渉縞を含む表示光PLを出射する。この場合、表示光PLが搭乗者Pの網膜(スクリーンS:
図3参照)で結像して、虚像VがウインドシールドWSの前方に見える。表示器1の詳細は、
図3以降を参照して後述する。
【0016】
反射鏡2は、例えば凹面鏡の形態であり、表示器1からの表示光PLを拡大しつつ表示光PLを反射して表示光PLをウインドシールドWSに向かうように方向付ける。すなわち、反射鏡2は、表示光PLを折り返しつつ拡大する。
【0017】
制御部3は、例えば制御回路基板の形態であり、表示器1を制御する。例えば、制御部3は、搭乗者Pに各種車両情報が虚像Vを介して伝達されるように、各種車両情報に応じた表示光PLを適切なタイミングで生成する。虚像Vを介して伝達される車両情報の種類や表示器1の制御方法は任意であってよい。
【0018】
なお、
図1及び
図2に示す例では、ヘッドアップディスプレイ装置Hは、反射鏡2を有するが、反射鏡2は省略されてもよい。また、ケース4内には、他の光学系が追加的に配置されてもよい。例えば、表示光PLは、スクリーンSを介してウインドシールドWSに投影されてもよい。
【0019】
[表示器の構成]
図3は、表示器1の構成を示す概略図である。
【0020】
表示器1は、光源11と、コリメート部12と、空間光位相変調器13と、を備える。
【0021】
光源11は、異なる波長の光を出力する複数の光源11R、11G、11B(
図6参照)を含み、上述した制御部3による制御下で動作する。光源11Rは、例えば、波長630nmの赤色レーザ光を出射する赤色LDを含む。光源11Gは、例えば、波長532nmの緑色レーザ光を出射する緑色LDを含む。光源11Bは、例えば、波長450nmの青色レーザ光を出射する青色LDを含む。なお、光源11は、LDに限定されない。例えば、LED、波長フィルタ、偏光フィルタ及びピンホールを組合せれば、LDに置き換えることができる。
【0022】
コリメート部12は、光源11の光を平行光にし、空間光位相変調器13に向けて出射する。コリメート部12は、光源11の光を実質的に平面波の形態で空間光位相変調器13に入射させてよい。
【0023】
空間光位相変調器13は、入射される光を回折し、計算機生成ホログラムに基づく干渉縞を含む物体画像をスクリーンSに投影する反射型の変調器(空間光変調器)である。空間光位相変調器13は、上述した制御部3による制御下で動作する。空間光位相変調器13は、例えば、LCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon-Spatial Light Modulator)が用いられる。なお、空間光位相変調器13は、LCOS-SLMに限定されない。例えば、MEMSミラーアレイを用いてもよい。
【0024】
表示器1では、光源11が出力する光を空間光位相変調器13に対して斜めに入射させる。つまり、光源11が出力する光を空間光位相変調器13の中心軸CLと同じ方向から入射する同軸光学系ではなく、光源11が出力する光を空間光位相変調器13の中心軸CLに対して所定の入射角度θ(θ≠0)で斜めに入射させる斜入射光学系を用いる。
【0025】
複数の光源11R、11G、11Bが出力する各色の光の入射角度θは、計算機生成ホログラムにおける各色の画角FOVが一致するように、各色の光の波長に基づいて設定される。以下、斜入射光学系を用いた画角合わせの原理について、
図4~
図6を参照して説明する。
【0026】
図4は、空間光位相変調器13の見かけ上の画素ピッチp′を示す図であり、(a)は入射角度θが0degの場合を示し、(b)は入射角度θが25degの場合を示す。
【0027】
図4に示すように、空間光位相変調器13を投影する像側(スクリーンS側)から見た見かけ上の画素ピッチp′は、入射角度θに応じて変化する。例えば、空間光位相変調器13の実際のH方向(水平方向)の画素ピッチpが6.4μmの場合、
図4の(a)に示すように、入射角度θが0degのときの見かけ上のH方向の画素ピッチp′は、6.4μmである。一方、
図4の(b)に示すように、入射角度θが25degのときの見かけ上のH方向の画素ピッチp′は、下記の式から5.8μmとなる。
p′=6.4×cos(25deg)=5.8
【0028】
計算機生成ホログラムの画角FOVは、下記の式で表される。ただし、λは、光源11が出力する光の波長、pは、空間光位相変調器13のH方向の画素ピッチである。
【0029】
【0030】
また、斜入射光学系におけるH方向の見かけ上の画素ピッチp′は、下記の式で表される。
【0031】
【0032】
[数2]で示した画角FOVの導出式の画素ピッチpを見かけ上の画素ピッチp′に置き換えると、下記の式になる。
【0033】
【0034】
したがって、複数の光源11R、11G、11Bが出力する各色の光の入射角度θを波長に応じて設定すれば、計算機生成ホログラムにおける各色の画角FOVを一致させることが可能になる。なお、上記の説明や図面では、説明や図示を簡便にするために、空間光位相変調器13に対するH方向の入射角度θについて示しているが、波長による画角FOVのずれは2次元方向に発生するため、V方向(垂直方向)の入射角度θについてもH方向と同様に設定する必要がある。
【0035】
図5は、目標画角と各色の入射角度θとの関係を示す図である。
図6は、目標画角を8degとした場合の各色の入射角度θを示す図である。
【0036】
図5は、空間光位相変調器13の画素ピッチpが6.4μmのとき、各目標画角(6~12deg)の達成可能な各色の入射角度θを示している。例えば、
図6に示すように、目標画角が8degの場合の入射角度θは、赤色光が45deg、緑色光が53deg、青色光が60degとなる。
【0037】
以上のように、斜入射光学系を用い、各色の入射角度θが波長に応じて設定される表示器1によれば、解像度を変えることなく、波長の違いによる画像のずれを抑制できる。また、斜入射光学系によれば、同軸光学系に比べて光学系を簡素化できるだけでなく、光の損失も低減できるという利点がある。
【0038】
つぎに、制御部3による計算機生成ホログラムの表示制御について、
図7以降を参照して説明する。
【0039】
図7は、制御用CGHパターンの基本的な作成方法を示す図である。
図8は、本実施例による制御用CGHパターンの作成方法を示す図である。
【0040】
図7に示すように、制御部3は、物体のCGHパターンと、レンズのCGHパターンと、を合成して得られる制御用CGHパターンに基づいて空間光位相変調器13を制御し、スクリーンS上に計算機生成ホログラムを投影させる。また、制御部3は、スクリーンS上にカラーの計算機生成ホログラムを投影させる場合、
図8に示すように、3色分の制御用CGHパターンに基づいて空間光位相変調器13を時分割で制御する。つまり、赤色表示期間では、赤色の光源11Rを点灯しつつ、赤色の制御用CGHパターンに基づいて空間光位相変調器13を制御する。また、緑色表示期間では、緑色の光源11Gを点灯しつつ、緑色の制御用CGHパターンに基づいて空間光位相変調器13を制御する。また、青色表示期間では、青色の光源11Bを点灯しつつ、青色の制御用CGHパターンに基づいて空間光位相変調器13を制御する。
【0041】
制御部3は、前述した入射角度θに応じて、各色のレンズのCGHパターンを変更する。つまり、入射角度θに応じて変化する見かけ上の画素ピッチp′に合わせて各色の制御用CGHパターンを適正化するために、各色のレンズのCGHパターンを変更する。例えば、下記の式で導出される見かけ上の画素ピッチp′でスクリーンS上に画像を投影するように各色のレンズのCGHパターンを変更する。ただし、空間光位相変調器13の画素ピッチpを6.4μm、赤色光の入射角度θを45deg、緑色光の入射角度θを53deg、青色光の入射角度θを60degとする。
赤色光の見かけ上の画素ピッチp′=6.4×cos(45deg)=4.52
緑色光の見かけ上の画素ピッチp′=6.4×cos(53deg)=3.81
青色光の見かけ上の画素ピッチp′=6.4×cos(60deg)=3.23
【0042】
図9は、中心角のずれを補正するための処理を示す図である。
【0043】
以上のように、斜入射光学系を用い、各色の入射角度θを波長に応じて変えた場合、各色の画角FOV(画像の大きさ)を合わせることは可能であるが、色毎の描画中心角(画像の中心位置)がずれるという現象が発生する。制御部3は、このような色毎の描画中心角のずれを補正するために、少なくとも2色分の制御用CGHパターンに中心角補正用CGHパターンを合成する。例えば、
図9に示す例では、赤色光の描画中心角を基準とし、緑色光の描画中心角を赤色光の描画中心角に合わせるための中心角補正用CGHパターンを緑色光の制御用CGHパターンに合成する。また、青色光の描画中心角を赤色光の描画中心角に合わせるための中心角補正用CGHパターンを青色光の制御用CGHパターンに合成する。なお、中心角補正用CGHパターンは、ウェッジプリズムと呼ばれる光学部品と同じ働きを持つように作成されるCGHパターンである。
【0044】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
H ヘッドアップディスプレイ装置(プロジェクタ)
1 表示器
2 反射鏡
3 制御部
4 ケース
41 出射口
11(11R、11G、11B) 光源
12 コリメート部
13 空間光位相変調器
S スクリーン