(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006101
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】無菌成形装置および無菌成形方法
(51)【国際特許分類】
B65B 55/08 20060101AFI20250109BHJP
B65B 55/10 20060101ALI20250109BHJP
B65B 55/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B65B55/08 A
B65B55/10 A
B65B55/10 E
B65B55/06 B
B65B55/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106690
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 健
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 天章
(72)【発明者】
【氏名】大頭 貢
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で、効率的な殺菌を実現する無菌成形装置および無菌成形方法を提供すること。
【解決手段】殺菌処理機構50は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階での殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させるように構成され、殺菌処理機構50は、昇温エリアA2aよりも下流側においてプリフォームPに殺菌を施す下流側殺菌手段52を備え、下流側殺菌手段52は、少なくともプリフォームPの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されている無菌成形装置20。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形する無菌成形装置であって、
ブロー成形ターレットと、前記ブロー成形ターレットの上流側に設定された昇温エリアにおいてプリフォームを成形温度まで昇温させるオーブン機構と、殺菌処理機構とを備え、
前記殺菌処理機構は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階での殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させるように構成され、
前記殺菌処理機構は、前記昇温エリアよりも下流側において前記プリフォームに殺菌を施す下流側殺菌手段を備え、
前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていることを特徴とする無菌成形装置。
【請求項2】
前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの外表面に対しても、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無菌成形装置。
【請求項3】
前記殺菌処理機構は、前記昇温エリアよりも上流側において前記プリフォームに殺菌を施す上流側殺菌手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の無菌成形装置。
【請求項4】
前記上流側殺菌手段によるカビに対する殺菌能力は、前記下流側殺菌手段によるカビに対する殺菌能力よりも高く設定されるとともに、前記上流側殺菌手段による殺菌と前記下流側殺菌手段による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項5】
前記下流側殺菌手段による芽胞菌に対する殺菌能力は、前記上流側殺菌手段による芽胞菌に対する殺菌能力以上に設定されるとともに、前記上流側殺菌手段による殺菌と前記下流側殺菌手段による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項6】
前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームに対して、過酸化水素または過酢酸を含む殺菌流体を供給するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項7】
前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームに対して温水または水蒸気を供給する、または、前記プリフォームに対して水を供給した後に加熱処理を施すように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項8】
前記上流側殺菌手段は、殺菌流体を供給された前記プリフォームの殺菌対象箇所の表面温度が55℃以上になるように、前記殺菌対象箇所の表面温度よりも高い温度の殺菌流体を供給する、または、前記殺菌対象箇所に対して殺菌流体を供給した後に加熱処理を施すように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項9】
前記上流側殺菌手段は、その噴出口の中心軸線が前記プリフォームの軸線に対して斜めになるように配置された噴出ノズルから、前記プリフォームの口部内表面に対して殺菌流体を噴出するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項10】
前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームの少なくとも胴部内表面に対して殺菌剤を供給するように構成され、
前記下流側殺菌手段は、前記殺菌剤を分解可能な積算光量以上の殺菌光を、前記プリフォームの少なくとも胴部内表面に対して照射するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の無菌成形装置。
【請求項11】
前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームの胴部内表面に対して過酸化水素を含む殺菌流体を供給するように構成され、
前記下流側殺菌手段による前記殺菌光の照射開始時における、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記過酸化水素の付着量をA(mg/cm2)と規定し、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量をB(mJ/cm2)と規定した場合、
前記下流側殺菌手段は、B/Aが380以上になるように、前記殺菌光を照射するように構成されていることを特徴とする請求項10に記載の無菌成形装置。
【請求項12】
前記昇温エリアには、前記プリフォームに昇温処理を施す昇温ヒーターが設置され、
前記昇温ヒーターは、前記昇温処理時に、前記プリフォームの口部の側方位置に位置せず、前記プリフォームの胴部の側方位置に位置するように設置され、
前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの口部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量が、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量よりも高くなるように、前記殺菌光を照射するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無菌成形装置。
【請求項13】
前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの口部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量が、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量の2倍以上になるように、前記殺菌光を照射するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の無菌成形装置。
【請求項14】
前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することで殺菌を施す第1殺菌部と、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、殺菌流体を供給することで殺菌を施す第2殺菌部とを備え、
前記第2殺菌部によるカビに対する殺菌能力は、前記第1殺菌部によるカビに対する殺菌能力よりも高く設定されるとともに、前記第2殺菌部による殺菌と前記第1殺菌部による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の無菌成形装置。
【請求項15】
前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することで殺菌を施す第1殺菌部と、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、殺菌流体を供給することで殺菌を施す第2殺菌部とを備え、
前記第1殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力は、前記第2殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力以上に設定されるとともに、前記第2殺菌部による殺菌と前記第1殺菌部による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の無菌成形装置。
【請求項16】
殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形する無菌成形方法であって、
前記殺菌処理は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階でのプリフォーム殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させ、
前記プリフォーム殺菌処理は、前記昇温エリアよりも下流側において前記プリフォームに殺菌を施す下流側殺菌処理を含み、
前記下流側殺菌処理では、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することを特徴とする無菌成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形する無菌成形装置および無菌成形方法に関し、特に、容器成形から内容物の充填・密封までを一貫して行うインラインブロー式の無菌充填システムに組み込まれる無菌成形装置および無菌成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同一工場内において、ブロー成形による容器成形から、内容物の充填・密封までを一貫して行うインラインブロー式の充填システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このような充填システムでは、無菌環境に維持された充填装置に容器を搬送する前に、容器を充分に殺菌する必要があり、特許文献1に記載される充填システムでは、ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階での殺菌処理に加えて、ブロー成形後における容器段階における殺菌処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、容器段階における殺菌処理を行う場合、殺菌処理機構が大型化するという問題や、プリフォームと比較して容器はその表面積が大きいことから必要とされる殺菌剤の量等が多くなるといった問題や、殺菌時間についても長くなるといった問題があることから、本出願人は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階での殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させる無菌成形装置を開発しようとしており、そのために、殺菌効率に関する更なる改良が要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、効率的な殺菌を実現する無菌成形装置および無菌成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無菌成形装置は、殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形する無菌成形装置であって、ブロー成形ターレットと、前記ブロー成形ターレットの上流側に設定された昇温エリアにおいてプリフォームを成形温度まで昇温させるオーブン機構と、殺菌処理機構とを備え、前記殺菌処理機構は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階での殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させるように構成され、前記殺菌処理機構は、前記昇温エリアよりも下流側において前記プリフォームに殺菌を施す下流側殺菌手段を備え、前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
本発明の無菌成形方法は、殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形する無菌成形方法であって、前記殺菌処理は、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階でのプリフォーム殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させ、前記プリフォーム殺菌処理は、前記昇温エリアよりも下流側において前記プリフォームに殺菌を施す下流側殺菌処理を含み、前記下流側殺菌処理では、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することにより、前記課題を解決するものである。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの外表面に対しても、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記殺菌処理機構は、前記昇温エリアよりも上流側において前記プリフォームに殺菌を施す上流側殺菌手段を更に備えていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段によるカビに対する殺菌能力は、前記下流側殺菌手段によるカビに対する殺菌能力よりも高く設定されるとともに、前記上流側殺菌手段による殺菌と前記下流側殺菌手段による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させるように設定されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記下流側殺菌手段による芽胞菌に対する殺菌能力は、前記上流側殺菌手段による芽胞菌に対する殺菌能力以上に設定されるとともに、前記上流側殺菌手段による殺菌と前記下流側殺菌手段による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させるように設定されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームに対して、過酸化水素または過酢酸を含む殺菌流体を供給するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームに対して温水または水蒸気を供給する、または、前記プリフォームに対して水を供給した後に加熱処理を施すように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、殺菌流体を供給された前記プリフォームの殺菌対象箇所の表面温度が55℃以上になるように、前記殺菌対象箇所の表面温度よりも高い温度の殺菌流体を供給する、または、前記殺菌対象箇所に対して殺菌流体を供給した後に加熱処理を施すように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、その噴出口の中心軸線が前記プリフォームの軸線に対して斜めになるように配置された噴出ノズルから、前記プリフォームの口部内表面に対して殺菌流体を噴出するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームの少なくとも胴部内表面に対して殺菌剤を供給するように構成され、前記下流側殺菌手段は、前記殺菌剤を分解可能な積算光量以上の殺菌光を、前記プリフォームの少なくとも胴部内表面に対して照射するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記上流側殺菌手段は、前記プリフォームの胴部内表面に対して過酸化水素を含む殺菌流体を供給するように構成され、前記下流側殺菌手段による前記殺菌光の照射開始時における、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記過酸化水素の付着量をA(mg/cm2)と規定し、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量をB(mJ/cm2)と規定した場合、前記下流側殺菌手段は、B/Aが380以上になるように、前記殺菌光を照射するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記昇温エリアには、前記プリフォームに昇温処理を施す昇温ヒーターが設置され、前記昇温ヒーターは、前記昇温処理時に、前記プリフォームの口部の側方位置に位置せず、前記プリフォームの胴部の側方位置に位置するように設置され、前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの口部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量が、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量よりも高くなるように、前記殺菌光を照射するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記下流側殺菌手段は、前記プリフォームの口部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量が、前記プリフォームの胴部内表面のプリフォーム高さ方向中央位置における前記殺菌光の積算光量の2倍以上になるように、前記殺菌光を照射するように構成されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することで殺菌を施す第1殺菌部と、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、殺菌流体を供給することで殺菌を施す第2殺菌部とを備え、前記第2殺菌部によるカビに対する殺菌能力は、前記第1殺菌部によるカビに対する殺菌能力よりも高く設定されるとともに、前記第2殺菌部による殺菌と前記第1殺菌部による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させるように設定されていてもよい。
上記いずれかの無菌成形装置または無菌成形方法では、前記下流側殺菌手段は、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することで殺菌を施す第1殺菌部と、少なくとも前記プリフォームの内表面に対して、殺菌流体を供給することで殺菌を施す第2殺菌部とを備え、前記第1殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力は、前記第2殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力以上に設定されるとともに、前記第2殺菌部による殺菌と前記第1殺菌部による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させるように設定されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡素な構成で、効率的な殺菌を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無菌成形装置を備えた無菌充填システムを示す説明図。
【
図2】昇温ヒーターの設置態様の一例を示す説明図。
【
図3】上流側殺菌手段の設置態様の一例を示す説明図。
【
図4】下流側殺菌手段の設置態様の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態に係る無菌充填システム10について、図面に基づいて説明する。
なお、本明細書で使用する「上流」「下流」の用語は、プリフォームPまたは容器の搬送方向における上流または下流を意味する。
【0011】
まず、無菌充填システム10は、殺菌済みの容器に殺菌された内容物(特に内容液)を無菌充填する所謂インラインブロー式の充填システムとして構成されたものであり、
図1に示すように、容器を無菌成形する無菌成形装置20と、容器内に内容物を無菌充填する充填装置60とを備えている。
【0012】
以下に、無菌充填システム10の各構成要素について、図面に基づいて説明する。
【0013】
まず、無菌成形装置20は、殺菌処理を施した殺菌済みの容器を無菌成形するものであり、
図1に示すように、プリフォームPを投入する入口部21と、ブロー成形ターレット22と、オーブンエリアA2においてプリフォームPに昇温処理を施すオーブン機構30と、プリフォームPを搬送するプリフォーム搬送機構40と、プリフォームPを殺菌する殺菌処理機構50とを備えている。
【0014】
入口部21は、
図1に示すように、無菌成形装置20(無菌充填システム10)に対してプリフォームPを投入するための部位であり、具体的には、オーブンエリアA2よりも上流側のオーブン前エリアA1にプリフォームPを投入するための部位である。
【0015】
ブロー成形ターレット22は、
図1に示すように、オーブンエリアA2の下流側に配置され、プリフォームPに無菌ブロー成形を施すものである。
具体的には、ブロー成形ターレット22は、無菌ブロー成形時の成形温度にまで昇温されたプリフォームP内に無菌エアーを吹き込むことで、PET(ポリエチレンテレフタラート)から成るPETボトル等の容器を二軸延伸ブロー成形するブロー機(図示しない)を備えたターレットとして構成されている。
【0016】
ブロー成形ターレット22が設置される成形エリアA4は、チャンバーによって覆われ、HEPAフィルタを通した無菌エアーをFFU(Fan Filter Unit)により上部から吹き込むことで無菌雰囲気かつ陽圧に保たれている。
また、成形エリアA4に設置されるブロー成形ターレット22やブロー機等の各設備は、ブロー配管末端まで滅菌されている。
成形エリアA4に、プリフォーム段階での殺菌処理のみで容器の殺菌を完了したプリフォームPが搬送され、無菌ブロー成形される。
これにより、成形エリアA4では、無菌状態でブロー成形を行う無菌ブロー成形が行われる。よって、成形エリアA4内でのプリフォームPやブロー成形後のボトルの搬送において搬送経路近傍を局所的に無菌エアーや殺菌ガス雰囲気化することが不要となり、また、ブロー成形後のボトルに対しての殺菌は不要となる。
【0017】
オーブン機構30は、ブロー成形ターレット22における無菌ブロー成形時の成形温度にまでプリフォームPの温度を昇温させる昇温処理を施すものであり、オーブンエリアA2をその内側に有したオーブンチャンバー31と、プリフォームP(の主に胴部P1)を昇温させる赤外線ヒーターとして構成された複数の昇温ヒーター32とを有している。
なお、オーブン機構30は、オーブンチャンバー31の代わりにオーブンの周囲を囲う簡易的なカバーを設けてもよく、また、オーブンチャンバー31を設けなくともよい。
【0018】
また、オーブンエリアA2には、昇温ヒーター32による加熱によってプリフォームPの口部P2の温度が上昇し過ぎることを抑制し、プリフォームPの口部P2に熱による変形が生じることを防止するように、無菌化されていないエアーを導入してプリフォームPの口部P2に向けて複数の噴出するエアー噴出器(図示しない)、または、昇温ヒータ32の熱を遮蔽して口部P2の加熱を防ぐ遮蔽板が設置されている。
エアー噴出器(図示しない)は、無菌化されていないエアーを導入して噴出するものであることから、オーブンエリアA2は、エアー噴出器(図示しない)によって導入される外部の菌等によってその雰囲気が汚染されるエリアとなり、オーブンエリアA2内の雰囲気は、オーブンエリアA2の下流側の移送エリアA3内の雰囲気と比較して汚染度合いが高い。また、エアー噴出器が設置されていない場合であっても、生産前の環境殺菌行われないため、オーブンエリアA2は汚染されたエリアとなる。
また、昇温ヒーター32は、プリフォームPの口部P2の昇温を避けつつ、プリフォームPの胴部P1を昇温させるように、
図2に示すように、昇温処理時に、プリフォームPの口部2の側方位置に位置せず、プリフォームPの胴部P1の側方位置に位置するように設置される。この昇温ヒーター32によるプリフォームPの加熱時には、プリフォームPは、後述する搬送機42によって、その軸線を中心として回転しながら搬送されるようになっている。
【0019】
なお、プリフォームPの胴部P1は、無菌ブロー成形時に金型内に配置され金型内で膨張させる部位であり、プリフォームPの口部P2は、無菌ブロー成形時に金型外に配置され膨張させない部位である。
【0020】
また、移送エリアA3は、
図1に示すように、オーブンエリアA2の下流側かつ成形エリアA4の上流側のエリアであり、成形エリアA4よりは汚染度が高いが、オーブンエリアA2よりは汚染度が低いエリアである。
【0021】
プリフォーム搬送機構40は、入口部21から投入されたプリフォームPをブロー成形ターレット22に搬送するものであり、
図1に示すように、入口部21から投入されたプリフォームPをオーブン前エリアA1において搬送する複数のターレット41と、主にオーブンエリアA2においてプリフォームPを搬送する搬送機42と、オーブンエリアA2から搬出されたプリフォームPをブロー成形ターレット22に向けて搬送する複数のターレット43とを備えている。
【0022】
ターレット41、43は、プリフォームPを搬送するものであり、これらターレット41、43は、プリフォームPを外周側から把持する複数のグリッパーを有している。前記グリッパーは、UV照射あるいは殺菌剤にて把持部を殺菌しておくことが望ましい。
【0023】
なお、プリフォーム搬送機構40によるプリフォームPの搬送姿勢については、正立状態や、倒立状態(すなわち、プリフォームPの口部P2側を下方に向けた下向き状態)や、横向き状態(すなわち、プリフォームPの口部P2側を側方に向けた横向き状態)等、如何なるものでもよい。
【0024】
無菌成形装置20は、充填装置60における内容物の充填時において、容器が商業的無菌状態(すなわち、通常の非冷蔵貯蔵・流通条件下で当該飲料に発育しうる公衆衛生上有害なすべての微生物を死滅させた状態)となるように、殺菌処理機構50等による殺菌処理を施すように構成されている。
【0025】
本実施形態では、殺菌処理機構50等による殺菌処理は、無菌ブロー成形後における容器段階での殺菌処理を施すことなく(容器段階での殺菌処理を必要とすることなく)、無菌ブロー成形によって容器を成形する前のプリフォーム段階でのプリフォーム殺菌処理のみで容器の殺菌を完了させる(更に具体的には、本実施形態では、移送エリアA3までに殺菌を完了させ、殺菌が完了したプリフォームPを成形エリアA4に搬入する)ように構成され、言い換えると、プリフォーム段階でのプリフォーム殺菌処理のみで容器が商業的無菌状態になるように構成され、更に言い換えると、プリフォーム段階でのプリフォーム殺菌処理のみで、(プリフォームPの内表面および外表面を含む全外面について、)殺菌対象となる菌(容器内に充填する内容物内で増殖し得る菌であり、カビ、一般細菌、芽胞菌、等)について殺菌効果5D以上を得るように構成されている。
なお、殺菌効果(D)は、殺菌効果(D)=LOG((初発菌数)/(生残菌数))の式で表されるものであり、例えば、100個の菌数が10個に減少した場合、LOG(100/10)=1Dとなる。
また、充填する内容物が低酸性飲料である場合には、カビ、一般細菌、芽胞菌に対して5~6D以上の殺菌効果が必要であり、充填する内容物がミネラルウォーターや緑茶等である場合には、カビに対して5~6D以上の殺菌効果が必要となる。
【0026】
本実施形態における殺菌処理機構50による殺菌能力(D)について更に具体的に説明すると、少なくともプリフォームPの内表面の殺菌について(本実施形態では、プリフォームPの内表面および外表面を含む全外面の殺菌について)、後述する上流側殺菌手段51によるカビに対する殺菌能力(D)は、後述する下流側殺菌手段52によるカビに対する殺菌能力(D)よりも高く設定され、上流側殺菌手段51による殺菌と下流側殺菌手段52による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させる(上述したように、容器が商業的無菌状態になる、言い換えると、カビについて殺菌効果5~6D以上を得る)ように設定するのが好ましい。
【0027】
また、少なくともプリフォームPの内表面の殺菌について(本実施形態では、プリフォームPの内表面および外表面を含む全外面の殺菌について)、下流側殺菌手段52による芽胞菌に対する殺菌能力(D)は、上流側殺菌手段51による芽胞菌に対する殺菌能力(D)以上に設定され、上流側殺菌手段51による殺菌と下流側殺菌手段52による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させる(上述したように、容器が商業的無菌状態になる、言い換えると、芽胞菌について殺菌効果5D~6D以上を得る)ように設定するのが好ましい。
【0028】
殺菌処理機構50は、
図1に示すように、昇温ヒーター32が設置された昇温エリアA2aよりも上流側(本実施形態では、オーブン前エリアA1)においてプリフォームPに殺菌を施す上流側殺菌処理を行うための上流側殺菌手段51と、昇温エリアA2aよりも下流側(本実施形態では、移送エリアA3)においてプリフォームPに殺菌を施す下流側殺菌処理を行うための下流側殺菌手段52とを備えている。
【0029】
下流側殺菌手段52は、移送エリアA3においてターレット43によって搬送される途中のプリフォームPの少なくとも内表面に対して紫外線光を含む殺菌光を照射するものであり、本実施形態では、
図1に示すように、プリフォームPの内表面に殺菌光を照射する光照射器52aと、プリフォームPの外表面に殺菌光を照射する光照射器52bとを有している。
これら光照射器52a、52bは、その光源としてUV光を照射するものであれば種類は問わず、UVランプ(UV-LED含む)やキセノンランプ(キセノンアークランプ)などを備え、プリフォームPに対して光照射による殺菌処理を施すように構成されている。
【0030】
また、下流側殺菌手段52の光照射器52aは、プリフォームPの口部P2の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光の積算光量が、プリフォームPの胴部P1の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光の積算光量よりも高くなるように、殺菌光を照射するように構成するのが好ましい。
すなわち、上述したように、昇温エリアA2aに設置される昇温ヒーター32が胴部P1の側方位置に設置されることから、胴部P1については昇温ヒーター32の加熱による殺菌効果が得られるのに対して、口部P2については昇温ヒーター32の加熱による殺菌効果が得られない(または殺菌効果が低い)。そのため、このような昇温ヒーター32による殺菌効果に関する胴部P1と口部P2との間の差を考慮して、胴部P1よりも口部P2での積算光量を高くすることで、下流側殺菌手段52での光の照射量を低く抑えつつ、胴部P1および口部P2の両方に対して適切な殺菌を行うことができる。
【0031】
また、下流側殺菌手段52の光照射器52aは、プリフォームPの口部P2の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光の積算光量が、プリフォームPの胴部P1の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光の積算光量の2倍以上になるように、殺菌光を照射するように構成するのが好ましい。
この点について具体的に説明すると、まず、本出願人が昇温ヒーター32の殺菌能力(D)を試験(試験1)したところ、
図5に示すように、プリフォームPの内面温度が90~117℃程度になるように昇温処理を施した場合、3D以上の殺菌効果が得られることが分かった。なお、上記試験で使用した試験体(プリフォーム)は、2800cfu/本のA.niger(クロコウジカビ)をその表面に付着させたものである。
【0032】
次に、殺菌光照射による殺菌能力(D)の試験(試験2)を行った。試験の内容は次のとおりである。
照射装置:紫外線LED9個配置(日機装製,波長265nm標準(最小260nm、最大270nm、半値全幅13nm)
照射距離:5mm
照射時間:8秒
積算光量測定方法:UVスケール法での平均光量計測(菌付着面上での計測)(後述の殺菌剤の分解効果を確認するための試験(後述の手順4)と同じ方法)
殺菌方法:A.niger(クロコウジカビ)分生子を液中に懸濁させ、本懸濁液を用いて、PET片上(10mm×10mm角)に3.7×10^2cfu/10μlをスポット植菌させた。この菌付着PET片上に上記条件で紫外線光を照射させ、殺菌処理(n=5)した。殺菌処理後のPET片を培地に浸漬させ、PET片上の菌の生残を培地中で確認した。
試験の結果、
図6に示すように、A.niger(クロコウジカビ)の殺菌に必要な殺菌光の積算光量は、1Dあたり81mJ/cm
2であることが分かった。
そして、A.niger(クロコウジカビ)についての殺菌能力(D)が6D必要であるとした場合、胴部P1の内表面については、昇温ヒーター32による殺菌効果3D以外に、光照射器52aによる殺菌光照射によって殺菌効果3Dを得る必要があり、この場合、光照射器52aによって243mJ/cm
2(81mJ/cm
2×3)の積算光量の殺菌光照射が必要になることになることが分かった。また、口部P2の内表面については、光照射器52aによる殺菌光照射によって殺菌効果6Dを得る必要があり、この場合、486mJ/cm
2(81mJ/cm
2×6)の積算光量の殺菌光照射が必要になることが分かった。
以上から、昇温ヒーター32の殺菌効果を得ることができない、口部P2における殺菌光の積算光量が、昇温ヒーター32の殺菌効果3Dを得ることができる胴部P1における殺菌光の積算光量の2倍以上になるように、光照射器52aを構成することが好ましいことが分かる。
また、光照射器52aは、殺菌効果6Dを得るためには、プリフォームPの口部P2の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光の積算光量が486mJ/cm
2以上になるように、殺菌光を照射するように構成するのが好ましい。
【0033】
なお、本実施形態では、プリフォームPの内表面を殺菌する光照射器52aが、プリフォームPの外表面を殺菌する光照射器52bの下流側に設置されているが、反対に、光照射器52bを光照射器52aの下流側に設置してもよく、また、光照射器52aと光照射器52bを同じターレットに配置して、光照射器52aによる処理と光照射器52bによる処理とが同じタイミングで行われるようにしてもよく、また、同じ光照射器によってプリフォームPの内表面および外表面の両方に対して光照射を実施するようにしてもよい。
【0034】
上流側殺菌手段51は、オーブン前エリアA1においてターレット41によって搬送される途中のプリフォームPの内表面に対して殺菌流体を供給することで、プリフォームPに殺菌を施すものであり、本実施形態では、
図1に示すように、プリフォームPの内表面に殺菌流体としての温水(ミスト状等の温水)または水蒸気を供給する殺菌処理器51aと、プリフォームPの外表面に殺菌流体としての温水(ミスト状等の温水)または水蒸気を供給する殺菌処理器51bと有している。
【0035】
なお、本実施形態では、上流側殺菌手段51によって供給される殺菌流体が、温水(ミスト状等の温水)または水蒸気であるが、殺菌流体の具体的態様はこれに限定されず、殺菌流体は(過酸化水素水溶液や過酢酸水溶液等の)過酸化水素または過酢酸を含む液体状またはガス状の殺菌流体であってもよい。なお、殺菌対象がカビのみの場合には、殺菌流体として、温水(ミスト状等の温水)または水蒸気を用いることで、成形される容器に殺菌剤が残留してしまうリスクを排除できるため、より好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、上流側殺菌手段51が、プリフォームPの内表面および外表面のいずれについても殺菌を施すように構成されているが、上流側殺菌手段51の具体的態様は、上記に限定されず、少なくともプリフォームPの内表面(更に具体的には、胴部P1または口部P2の内表面)に対して殺菌流体を供給することで殺菌を施すものであれば、如何なるものでもよい。
【0037】
また、本実施形態では、殺菌処理器51bが、殺菌処理器51aの上流側に設置されているが、反対に、殺菌処理器51bを殺菌処理器51aの下流側に設置してもよく、また、殺菌処理器51aと殺菌処理器51bを同じターレットに配置して、殺菌処理器51aによる処理と殺菌処理器51bによる処理とが同じタイミングで行われるようにしてもよい。
【0038】
また、上流側殺菌手段51を構成する殺菌処理器の具体的態様は、プリフォームPに対して殺菌流体を供給可能なものであれば如何なるものでもよいが、プリフォームPの口部P2の内表面に対して殺菌流体を供給する場合、
図3に示すように、その噴出口の中心軸線LがプリフォームPの軸線Xに対して斜めになるように配置された噴出ノズルから、プリフォームPの口部P2の内表面に対して殺菌流体を噴出するように構成してもよい。
【0039】
また、殺菌流体(過酸化水素、過酢酸、温水、水蒸気)の種類に限らず、殺菌流体を供給されたプリフォームPの殺菌対象箇所の表面温度が55℃以上、より好ましくは65℃以上になるように、殺菌対象箇所の表面温度よりも高い温度の殺菌流体を供給する。または、殺菌対象箇所に対して殺菌流体(水を含む)を供給した後に加熱処理(例えばホットエアの吹き付けやヒーター加熱等の加熱処理)を施してプリフォームPの殺菌対象箇所の表面温度が55℃以上、より好ましくは65℃以上になるようにしてもよい。前記の表面温度とはプリフォームPの表面に熱電対を張り付けて測定した温度である。このように殺菌流体の温度を設定することで、高い殺菌効果を得ることができる。
【0040】
また、殺菌流体の噴出量は、10μl以上かつ1000μl以下に設定するのが好ましく、また、50μl以上かつ225μl以下に設定するのが更に好ましい。
【0041】
また、殺菌流体として過酢酸水溶液等の過酢酸を含むものを用いる場合、過酢酸の濃度が0.25wt%(言い換えると、殺菌流体内に含まれる過酢酸の濃度が0.25wt%)以上、かつ、殺菌流体の温度(プリフォームPの表面に付着した後の温度)が55℃以上、より好ましくは65℃以上(かつ90℃以下)であるのが好ましい。
【0042】
下流側殺菌手段52は、殺菌剤を分解可能な積算光量(積算照度)以上の殺菌光を、光照射器52aによってプリフォームPの少なくとも胴部P1の内表面に対して照射するように構成され、すなわち、光照射器52aによって少なくとも胴部P1の内表面に対して照射される殺菌光の照射量は、プリフォームPの表面を殺菌することに加えて、上流側殺菌手段51による殺菌流体の供給によってプリフォームPの表面に付着した(特に、プリフォームPの表面に吸着した)殺菌剤(殺菌流体に含まれる過酸化水素、過酢酸)を分解することが可能であるように設定されている。
なお、殺菌光(紫外線光)によって過酢酸水溶液中の過酸化水素を分解することができる。過酢酸水溶液中の過酸化水素量は、過酸化水素水溶液より少ないため、容器残留の観点から、上流側殺菌手段51によってプリフォームPに供給する殺菌流体として過酢酸水溶液を含む殺菌流体を使用することが好ましい。
【0043】
ここで、本出願人は、紫外線光を含む殺菌光の照射による、プリフォームPの表面に付着した殺菌剤の分解効果を確認するための試験(試験3)を行った。
【0044】
まず、本試験の手順は以下の通りである。
(手順1)PET片上に、過酸化水素および過酢酸を含む殺菌流体(具体的には、過酸化水素20wt%および過酢酸10wt%を含む過酢酸水溶液)を噴霧して付着させる。
(手順2)殺菌流体が付着したPET片の重量を測ることで、(殺菌流体を付着させる前のPET片の重量と比較して)付着した殺菌流体の量(mg/cm2)を測定し、殺菌流体中の過酸化水素濃度(20wt%)から過酸化水素の量(mg/cm2)を計算する。
(手順3)殺菌流体が付着したPET片をトースター(130℃設定)で15s加熱する。
(手順4)加熱後のPET片をアルミ板の上に置き、PET片から5mm離れた位置に設置された光源から、PET片に対して紫外線光を照射する。この手順4においては、紫外線光の照射時間を調整することで、照射するPET片に対する紫外線光の積算光量(mJ/cm2)を、0(すなわち、紫外線光を照射しない)、202(mJ/cm2)、441(mJ/cm2)、905(mJ/cm2)、1256(mJ/cm2)、6185(mJ/cm2)、30149(mJ/cm2)になるようにした。
(手順5)PET片の一部(先端)を切り取り、水2.5mlの入ったチューブに入れて1時間置く。
(手順6)上記チューブ内の水溶液内の過酸化水素の濃度を測定し、その濃度を基に、PET片に残留した過酸化水素の量(mg/cm2)を算出する。
【0045】
なお、本試験で用いた機器や試験条件は、以下の通りである。
手順1におけるPET片上への殺菌流体の噴霧:ノズルネットワーク社製 MF008Dサイフォン式空気噴霧ノズル(連続式)、空気圧力200kPa、噴霧時間1秒 噴霧粒子径3.7~9.3μm
手順4における紫外線照射器:紫外線LED 9個配置(日機装社製、ピーク波長265nm標準(最小260nm、最大270nm、半値全幅13nm))
手順4における光量(積算光量)の測定:UVスケール(富士フィルム製)
【0046】
また、手順4におけるUVスケールを用いた紫外線光の光量の算出方法は、以下の通りである。
(使用したUVスケール)
フィルムメーカー:富士フィルム
フィルムタイプ:UVスケールL
適用ランプ種:低圧水銀ランプ モードで測定
測定光量範囲:20-3000mJ/cm2
対応波長:200nm-420nm
(紫外線光の光量の算出方法)
上記のUVスケール(フィルム)を貼り付けたPET片に対して、本試験で使用した紫外線照射器によって紫外線光を照射し、当該紫外線光を照射されたUVスケールの発色を基に、紫外線光の光量を測定した。なお、計測ポイントでの測定光量は、計測ポイントを中心にUVスケール10mm四方内の平均積算光量値(単位面積に対して0.125mm四方に区分して計測した光量の平均値)を算出して割り出した。
【0047】
図7に示すように、上記の試験の結果から、手順2で確認された、PET片に付着した単位面積あたりの過酸化水素の量が1.16(mg/cm
2)である時に、手順4におけるPET片に対する紫外線光の積算光量が、441(mJ/cm
2)以上である場合(すなわち、441(mJ/cm
2)、905(mJ/cm
2)、1256(mJ/cm
2)、6185(mJ/cm
2)、30149(mJ/cm
2)である場合)に、紫外線光を照射しない場合(手順4におけるPET片に対する紫外線光の積算光量が0である場合)と比較して、手順6で確認された紫外線照射後のPET片に付着した過酸化水素の量(mg/cm
2)を半減させる(過酸化水素の量を1/2以下にする)ことができることが確認された。
言い換えると、手順4における紫外線光の積算光量が441(mJ/cm
2)以上である場合における、手順6で確認された過酸化水素の量(mg/cm
2)が、手順4において紫外線光を照射しない場合における、手順6で確認された過酸化水素の量(mg/cm
2)の1/2以下になることが確認された。
なお、
図7に示す過酸化水素の濃度は、手順5、6で得られた試験結果である。
【0048】
なお、上記のPET片に付着した過酸化水素の量:1.16(mg/cm2)は、複数回実施した本試験における手順2で測定された各数値(過酸化水素の量)の平均値である。
【0049】
この試験結果から、下流側殺菌手段52による殺菌光の照射開始時における、プリフォームPの胴部P1の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における過酸化水素(上流側殺菌手段51によってプリフォームPに供給され付着した過酸化水素)の単位面積あたりの付着量をA(mg/cm2)と規定し、プリフォームPの胴部P1の内表面のプリフォームPの高さ方向中央位置における殺菌光(紫外線光)の積算光量をB(mJ/cm2)と規定した場合、下流側殺菌手段52は、B/Aが380以上になるように、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成するのが好ましいことが分かった。
【0050】
また、上述した昇温ヒーター32の設置態様に起因して、昇温ヒーター32による処理後に、プリフォームPの口部P2の内表面には、胴部P1の内表面よりも、液滴状態の殺菌流体(殺菌剤)が残り易く、言い換えると、単位面積辺りの殺菌流体の残留量(mg/cm
2)が多くなる。そのため、このような胴部P1の内表面と口部P2の内表面との間の殺菌流体の残留量(mg/cm
2)の差を考慮して、上述したように光照射器52aを構成するのが好ましく、すなわち、胴部P1よりも口部P2の方が、殺菌光による殺菌流体の分解効果をより高く得ることができるようにするのが好ましい。
なお、上流側殺菌手段51によって供給されて胴部P1の内表面に付着した殺菌流体は、昇温ヒーター32による昇温処理によって少なくともその一部が蒸発し、昇温処理後には、プリフォームPの表面に吸着した状態で残留する。
また、上述した試験の手順3の後でPET片に残留している殺菌流体(過酸化水素)は、上記と同様に、手順3による加熱処理によって少なくともその一部が蒸発し、加熱処理後にPET片の表面に吸着した状態で残留したものである。
また、上記を実現する光照射器52aの配置構成の一例としては、
図4に示すように、殺菌光の照射時に、プリフォームPの外側かつプリフォームPの口部P2から(プリフォームPが正立状態の場合の上方側に)離れた位置に光照射器52aを配置することが考えられる。
【0051】
充填装置60は、無菌成形装置20の下流側に設置され、
図1に示すように、容器内に内容物を充填する充填部61と、充填部61の下流側に配置され容器の口部に殺菌済みのキャップを装着するキャッピング部62とを備えている。
【0052】
充填装置60における各工程は、その内部が無菌状態に維持されたチャンバー内で行われる。
また、無菌成形装置20と充填装置60との間で容器を搬送する区間においても、容器の無菌状態が維持され、言い換えると、ブロー成形ターレット22によって容器を無菌ブロー成形した後から充填部61において容器内に内容物を無菌充填するまでの全区間において容器の無菌状態が維持され、本実施形態では、上記全区間をチャンバーによって覆うことによって、当該区間において容器の無菌状態を維持している。
【0053】
このようにして得られた本実施形態の無菌充填システム10では、下流側殺菌手段52が、少なくともプリフォームPの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていることにより、光照射によって芽胞菌を殺菌することが可能であるため、無菌成形装置20の使用範囲を緑茶や水以外の内容物にも広げることができるばかりでなく、光照射によって、カビや酵母菌についても殺菌することが可能であり、従来よりプリフォーム内表面全面あるいは外表面全面に照射する積算光量を抑えることができる。
【0054】
また、殺菌処理機構50が、上流側殺菌手段51を備えている場合、上流側殺菌手段51によってカビ等について殺菌することで、必要とされる下流側殺菌手段52による光照射量を低減することができる(例えば、口部P2の内表面の殺菌に必要とされていた486mJ/cm2程度の積算光量について、上流側殺菌手段51によって少なくとも口部P2の内表面のカビ等を殺菌効果3Dで殺菌すれば、口部P2の内表面の殺菌に必要な殺菌光の積算光量を243mJ/cm2程度に低減することができるので、プリフォームPの内面全面(口部および胴部)に対して243mJ/cm2を照射することにより芽胞菌のみならずカビも殺菌効果6Dが得られる。)。上流側殺菌手段51では口部P2の内表面のみを殺菌してもよいし、プリフォームP全体の内表面を殺菌してもよい。また、口部P2の内表面および外表面のみを殺菌してもよいし、プリフォームP全体の内表面および外表面を殺菌してもよい。
【0055】
また、上流側殺菌手段51によって供給される殺菌流体に過酸化水素や過酢酸等の殺菌剤が含まれる場合、下流側殺菌手段52が紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成されていることにより、特にプリフォームPの胴部P1の内表面に付着(吸着)した殺菌剤を、下流側殺菌手段52(の光照射器52a)による殺菌光の照射によって分解することも可能であり、プリフォームPの内表面に過酸化水素や過酢酸等の殺菌剤が残留してしまうことを抑制できる。
【0056】
また、本実施形態では、(上流側殺菌手段51による)カビについての殺菌効果が高い殺菌流体を用いた殺菌処理を昇温エリアA2aの上流側で実施するとともに、(下流側殺菌手段52による)芽胞菌についての殺菌効果が高い紫外線光を用いた殺菌処理を昇温エリアA2aの下流側で実施することにより、オーブンエリアA2内をクリーンな環境に維持しなくても、オーブンエリアA2での再汚染を防ぎつつ、カビおよび芽胞菌の両方について適切に殺菌することができる。すなわち、カビは熱に弱く、芽胞菌は熱に強い。そこで、オーブンエリアA2内で汚染される可能性のある芽胞菌についての殺菌をオーブンエリアA2(昇温エリアA2a)の下流側で実施するとともに、オーブンエリアA2内で汚染される可能性の低いカビについての殺菌をオーブンエリアA2(昇温エリアA2a)の上流側で実施することで、オーブンエリアA2内をクリーンな環境に維持しなくても、オーブンエリアA2での再汚染を防ぎ、カビおよび芽胞菌の両方について適切に殺菌されたプリフォームPをブロー成形ターレット22に送ることができる。
また、オーブンエリアA2(昇温エリアA2a)の上流側で実施する殺菌方法については、温水ミストまたは水蒸気を口部P2内表面に噴射し、カビを対象に殺菌する手法を選択することによって、プリフォームPに薬剤(過酸化水素)を残留することなく、無菌ブロー成形前に芽胞菌のみならず、カビも殺菌することができ、ミネラルウォーター含めたあらゆる飲料を生産することが可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。また、上述した実施形態や後述する変形例の各構成を、任意に組み合わせて無菌充填システム10(無菌成形装置20)を構成しても何ら構わない。
【0058】
例えば、殺菌処理機構50(による殺菌処理)の具体的態様については、上記に限定されず、少なくともプリフォームPの内表面に対して紫外線光を含む殺菌光を照射するように構成された下流側殺菌手段52を備えるものであれば、如何なるものでもよく、例えば、上流側殺菌手段51を設けなくてもよく、また、塵埃を除去する除塵器や電子線照射器等の各種処理器を任意の場所に追加で設置してもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、上流側殺菌手段51が、殺菌流体の供給によってプリフォームPに殺菌を施すものとして説明したが、上流側殺菌手段51を、殺菌流体の供給以外の手段によってプリフォームPに殺菌を施すものとして構成してもよい。
【0060】
また、
図4においては光照射器52aの配置構成の一例を示したが、殺菌光の照射時における光照射器52aの配置は
図4に示すものに限定されず、例えば、プリフォームP内に光源を挿入してプリフォームPの内側から殺菌光を照射するもの等、如何なるものでもよい。
また、光照射器52bの配置についても同様に、プリフォームPの外表面に殺菌光を照射可能なものであれば、その具体的配置は如何なるものでもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では、殺菌流体の供給による殺菌手段(上流側殺菌手段51)を昇温エリアA2aよりも上流側に配置し、殺菌光の照射による殺菌手段(下流側殺菌手段52)を昇温エリアA2aよりも下流側に配置するものとして説明したが、これら殺菌流体の供給による殺菌手段および殺菌光の照射による殺菌手段の両方を昇温エリアA2aよりも下流側に配置してもよい。
言い替えると、下流側殺菌手段52が、少なくともプリフォームPの内表面に対して、紫外線光を含む殺菌光を照射することで殺菌を施す(上述した実施形態において説明した下流側殺菌手段52と同様に構成された)第1殺菌部と、少なくともプリフォームPの内表面に対して、殺菌流体を供給することで殺菌を施す(上述した実施形態において説明した上流側殺菌手段51と設置場所以外について同様に構成された)第2殺菌部とを備えるようにしてもよい。
本変形例における殺菌処理機構50による殺菌能力(D)については、少なくともプリフォームPの内表面の殺菌について(本実施形態では、プリフォームPの内表面および外表面を含む全外面の殺菌について)、第2殺菌部によるカビに対する殺菌能力(D)は、第1殺菌部によるカビに対する殺菌能力(D)よりも高く設定され、第2殺菌部による殺菌と第1殺菌部による殺菌とで、カビについて容器の殺菌を完了させるように設定するのが好ましく、また、第1殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力(D)は、第2殺菌部による芽胞菌に対する殺菌能力(D)以上に設定され、第2殺菌部による殺菌と第1殺菌部による殺菌とで、芽胞菌について容器の殺菌を完了させるように設定するのが好ましい。
また、本変形例における、第1殺菌部の各照射器および第2殺菌部の各殺菌処理器の配置関係については、如何なるものでもよく、例えば、上流側から順に、第2殺菌部のプリフォームPの外表面に殺菌を施す殺菌処理器(上述した実施形態の殺菌処理器51bと同様に構成された殺菌処理器)、第2殺菌部のプリフォームPの内表面に殺菌を施す殺菌処理器(上述した実施形態の殺菌処理器51aと同様に構成された殺菌処理器)、第1殺菌部のプリフォームPの外表面に殺菌を施す光照射器(上述した実施形態の光照射器52bと同様に構成された殺菌処理器)、第1殺菌部のプリフォームPの内表面に殺菌を施す光照射器(上述した実施形態の光照射器52aと同様に構成された殺菌処理器)の順番で配置してもよく、また、上流側から順に、第2殺菌部のプリフォームPの外表面に殺菌を施す殺菌処理器(上述した実施形態の殺菌処理器51bと同様に構成された殺菌処理器)、第1殺菌部のプリフォームPの外表面に殺菌を施す光照射器(上述した実施形態の光照射器52bと同様に構成された殺菌処理器)、第2殺菌部のプリフォームPの内表面に殺菌を施す殺菌処理器(上述した実施形態の殺菌処理器51aと同様に構成された殺菌処理器)、第1殺菌部のプリフォームPの内表面に殺菌を施す光照射器(上述した実施形態の光照射器52aと同様に構成された殺菌処理器)の順番で配置してもよい。
なお、本変形例における第1殺菌部の構成については、上述した実施形態において説明した下流側殺菌手段52と同様であるため、その具体的説明を省略し、また、本変形例における第2殺菌部の構成については、上述した実施形態において説明した上流側殺菌手段51と同様であるため、その具体的説明を省略する。
【符号の説明】
【0062】
10 ・・・ 無菌充填システム
20 ・・・ 無菌成形装置
21 ・・・ 入口部
22 ・・・ ブロー成形ターレット
30 ・・・ オーブン機構
31 ・・・ オーブンチャンバー
32 ・・・ 昇温ヒーター
40 ・・・ プリフォーム搬送機構
41 ・・・ ターレット
42 ・・・ 搬送機
43 ・・・ ターレット
50 ・・・ 殺菌処理機構
51 ・・・ 上流側殺菌手段
51a ・・・ 殺菌処理器
51b ・・・ 殺菌処理器
52 ・・・ 下流側殺菌手段
52a ・・・ 光照射器
52b ・・・ 光照射器
60 ・・・ 充填装置
61 ・・・ 充填部
62 ・・・ キャッピング部
P ・・・ プリフォーム
P1 ・・・ プリフォームの胴部
P2 ・・・ プリフォームの口部
A1 ・・・ オーブン前エリア
A2 ・・・ オーブンエリア
A2a ・・・ 昇温エリア
A3 ・・・ 移送エリア
A4 ・・・ 成形エリア