(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006121
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】鋳造用アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C22C21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106717
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 昌伸
(72)【発明者】
【氏名】松村 正博
(57)【要約】
【課題】共晶部に晶出する針状組織の発生を抑制して機械的特性を向上させ、自動車部品としての機械的特性を満たす鋳造用アルミニウム合金を得る。
【解決手段】この鋳造用アルミニウム合金は、6.5~7.5重量%のSi、0.5重量%以下のFe、0.20~0.4重量%のMg、0.6重量%以下のMnを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム合金を再生塊アルミニウムとして溶解し、0.1~0.5重量%のVと、0.1~0.5重量%のNiを添加することで得られる。再生塊アルミニウムに添加するVおよびNiの添加比率を、V:Ni=1:1とすることができ、ミクロ観察断面における針状組織の数が、236個/mm
2以下であり、破断伸びの値が13.0%以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6.5~7.5重量%のSi、0.5重量%以下のFe、0.20~0.4重量%のMg、0.6重量%以下のMnを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム合金を再生塊アルミニウムとして溶解し、0.1~0.5重量%のVと、0.1~0.5重量%のNiを添加することで得られる鋳造用アルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造用アルミニウム合金であって、
前記再生塊アルミニウムに添加するVおよびNiの添加比率を、V:Ni=1:1としたことを特徴とする鋳造用アルミニウム合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋳造用アルミニウム合金であって、
ミクロ観察断面における針状組織の数が、236個/mm2以下であることを特徴とする鋳造用アルミニウム合金。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の鋳造用アルミニウム合金であって、
破断伸びの値が13.0%以上であることを特徴とする鋳造用アルミニウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用アルミニウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム-シリコン-マグネシウム系の鋳造用アルミニウム合金として、AC4CHなる材料が公知である。AC4CHは、Fe量が少ないために伸びや耐食性に優れており、自動車のアルミホイールや足回り部品などに用いられている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上掲した特許文献1等に開示されるAC4CHは、高純度合金であるため、新塊アルミニウムが使用される。新塊アルミニウムの製造には、大きなエネルギーコストがかかるとともに、多くのCO2が排出されることから、リサイクル材である再生塊アルミニウムの活用が強く求められていた。
【0005】
このような産業界の要請を解決する手法としては、再生塊アルミニウムの使用でも合金製造が可能なAC4Cなる材料をAC4CHに代用することが考えられる。しかしながら、再生塊アルミニウムのAC4Cでは、共晶部に晶出するFe,Mn化合物からなる針状組織が多数発生するため、破断伸びの著しい低下を招き、上述した自動車部品としての機械的特性を満たすことができなかった。
【0006】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであって、その目的は、再生塊アルミニウムに新たな合金成分を添加することで、共晶部に晶出する針状組織の発生を抑制して機械的特性を向上させ、自動車部品としての機械的特性を満たす鋳造用アルミニウム合金を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋳造用アルミニウム合金は、6.5~7.5重量%のSi、0.5重量%以下のFe、0.20~0.4重量%のMg、0.6重量%以下のMnを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム合金を再生塊アルミニウムとして溶解し、0.1~0.5重量%のVと、0.1~0.5重量%のNiを添加することで得られるものである。
【0008】
また、本発明に係る鋳造用アルミニウム合金では、前記再生塊アルミニウムに添加するVおよびNiの添加比率を、V:Ni=1:1とすることが好適である。
【0009】
また、本発明に係る鋳造用アルミニウム合金では、ミクロ観察断面における針状組織の数を、236個/mm2以下とすることができる。
【0010】
さらに、本発明に係る鋳造用アルミニウム合金では、破断伸びの値を13.0%以上とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再生塊アルミニウムに新たな合金成分を添加することで、共晶部に晶出する針状組織の発生を抑制して機械的特性を向上させ、自動車部品としての機械的特性を満たす鋳造用アルミニウム合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】アルミニウム合金の共晶部に晶出する針状組織の発生例を示すミクロ観察断面の図である。
【
図2】本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金と、比較例1および比較例2のミクロ観察断面に基づき、共晶部に晶出する針状組織の発生数をカウントした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、アルミニウム-シリコン-マグネシウム系の鋳造用アルミニウム合金であるAC4CHに相当する再生塊アルミニウム合金を得るべく、再生塊アルミニウムの使用でも合金製造が可能なAC4Cに種々の合金元素を添加し、AC4CHに代替できる新たな鋳造用アルミニウム合金を得る手段について検討を重ねてきた。そして、本発明者らの予備実験によると、再生塊アルミニウムであるAC4Cの機械的特性が新塊アルミニウムであるAC4CHに及ばない原因の一つとして、
図1に示すような、アルミニウム合金の共晶部に晶出する針状組織の発生が考えられた。そこで、発明者らは、鋭意研究を重ねることで、再生塊アルミニウムであるAC4Cに対して、V(バナジウム)やNi(ニッケル)などの合金元素を添加することで、自動車部品としての機械的特性を満たす鋳造用アルミニウム合金を得ることができるのではないかとの着想を得た。
【0014】
ここで、Vは共晶組織におけるAl-Si-Fe系金属間化合物の生成および成長に作用し、針状の化合物の発生を著しく低減する元素であり、AC4Cに添加することで、破断伸びを改善する効果を得ることを目的としている。
【0015】
また、Niは高温強度や耐熱性を向上させる元素と知られているが、Vと共にAC4Cに添加することで相乗効果により共晶組織における針状のAl-Si-Fe系金属間化合物の発生を著しく低減し、Vの単独添加と比べて強度、伸び共に同等以上の値が得られる。
【0016】
そして、発明者らは、上述した着想に基づき製造した鋳造用アルミニウム合金の機械的特性を調査することとした。以下に、その詳細を説明する。
【0017】
まず、発明者らは、本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金に要求される機械的特性の基準となるアルミニウム合金として、新塊アルミニウムであるAC4CHと、再生塊アルミニウムであるAC4Cの材料成分分析を行った。以下に示す表1は、新塊アルミニウムであるAC4CHの材料成分分析結果を示す表であり、以下に示す表2は、再生塊アルミニウムであるAC4Cの材料成分分析結果を示す表である。表1および表2において、一行目には含有元素が示されており、二行目には各含有元素の鋼種規格が示されており、三行目と四行目には、発明者らが行った検証実験に使用されたAC4CHおよびAC4Cにおけるサンプル数2個の測定結果が示されており、五行目にはサンプル数2個の測定結果の平均値が示されている。
【0018】
【0019】
【0020】
発明者らは、表1で示したAC4CHを比較例1、表2で示したAC4Cを比較例2とした上で、再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVを添加したものを比較例3、再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVと0.1重量%のNiを添加したものを本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金とした。そして、これら4種類のアルミニウム合金について、機械的特性を調査した。その結果のデータを表3~表6に示すとともに、表3~表6で示したデータを整理してまとめたものを表7に示す。
【0021】
なお、表3は、表1で成分分析を行った新塊アルミニウムであるAC4CHを用いて自動車部品であるステアリングナックルを10個鋳造し、10個のステアリングナックルの右位置(R)と左位置(L)から試験片を作成し、各試験片の抗張力(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、硬さ値(HRF;ロックウェル硬さ)を測定した結果データと、これら結果データの平均値、最大値(MAX)、最小値(MIN)等を集計したものである。
【0022】
また、表4は、表2で成分分析を行った再生塊アルミニウムであるAC4Cを用いて自動車部品であるステアリングナックルを10個鋳造し、10個のステアリングナックルの右位置(R)と左位置(L)から試験片を作成し、各試験片の抗張力(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、硬さ値(HRF;ロックウェル硬さ)を測定した結果データと、これら結果データの平均値、最大値(MAX)、最小値(MIN)等を集計したものである。
【0023】
また、表5は、表2で成分分析を行った再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVを添加したものを用いて自動車部品であるステアリングナックルを5個鋳造し、5個のステアリングナックルの右位置(R)と左位置(L)から試験片を作成し、各試験片の抗張力(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、硬さ値(HRF;ロックウェル硬さ)を測定した結果データと、これら結果データの平均値、最大値(MAX)、最小値(MIN)等を集計したものである。
【0024】
最後に、表6は、表2で成分分析を行った再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVと0.1重量%のNiを添加したものを用いて自動車部品であるステアリングナックルを10個鋳造し、10個のステアリングナックルの右位置(R)と左位置(L)から試験片を作成し、各試験片の抗張力(MPa;表7では引張強度と示す)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、硬さ値(HRF;ロックウェル硬さ)を測定した結果データと、これら結果データの平均値、最大値(MAX)、最小値(MIN)等を集計したものである。
【0025】
そして、表7に、表3~表6で示したデータを整理してまとめたものを示す。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
表7で示すように、比較例1として示す新塊アルミニウムのAC4CHの各機械的特性に対して、比較例2として示す再生塊アルミニウムのAC4Cは、引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)のいずれも低下しており、特に、自動車部品であるステアリングナックル等の足回り部品に用いるには、破断伸び(%)の値を比較例1の値に近づける必要がある。
【0032】
これに対して、比較例3として示す再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVを添加したものについては、破断伸び(%)の値が13.0%と改善しており、比較例1と同等の値を示している。ただし、比較例3の材料は、引張強度(MPa)と0.2%耐力(MPa)が比較例2に対して同じもしくは悪化しており、改善の余地がある。
【0033】
そして、本実施形態として示す再生塊アルミニウムであるAC4Cを溶解して0.1重量%のVと0.1重量%のNiを添加したものについては、破断伸び(%)の値が13.0%と比較例1と同等の値を示しており、かつ、引張強度(MPa)と0.2%耐力(MPa)が比較例2や比較例3に対して改善するとともに比較例1に近づく値が得られている。この本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金の機械的特性については、自動車部品であるステアリングナックル等の足回り部品に用いる場合に問題ない値を示している。
【0034】
上述したように、本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金は、引張強度(MPa)や0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)といった機械的特性の値が新塊アルミニウムのAC4CHと比べて遜色のないものであり、自動車部品として用いることが可能であることが確認できた。
【0035】
上記の知見を得た上で、さらに発明者らは、比較例1、比較例2および本実施形態の試験サンプルを用いて断面ミクロ観察を行い、ミクロ観察断面における針状組織の数を比較することとした。その観察結果を
図2に示す。
【0036】
図2に示す断面ミクロ観察では、比較例1、比較例2および本実施形態のそれぞれで5つのミクロ観察断面写真を用意し、各ミクロ観察断面写真において観察できる針状組織の数を計数した。より詳細には、各ミクロ観察断面写真に示されたスケールが100μm=7.4cmとなっており、1枚のミクロ観察断面写真の大きさが25.4cm×19.05cm=343μm×257μm=88,151μm
2=0.088mm
2であるとして実際の面積を求め、ミクロ観察断面写真に含まれる針状組織の数と実際の面積とから、単位面積(mm
2)当たりの針状組織の個数を算出した。
【0037】
その結果、比較例1についての
図2に示す5つのミクロ観察断面写真の針状組織の数は、上から12個、16個、22個、10個、18個となっており、これらの平均個数は15.6個/枚であることから、平均177個/mm
2という値を得た。
【0038】
また、比較例2についての
図2に示す5つのミクロ観察断面写真の針状組織の数は、上から308個、213個、148個、136個、174個となっており、これらの平均個数は196個/枚であることから、平均2,227個/mm
2という値を得た。
【0039】
最後に、本実施形態についての
図2に示す5つのミクロ観察断面写真の針状組織の数は、上から20個、22個、21個、21個、20個となっており、これらの平均個数は20.8個/枚であることから、平均236個/mm
2という値を得た。
【0040】
以上の結果は、共晶部に晶出する針状組織の発生を抑制することが機械的特性の向上に寄与するのではないかとの本発明者らの予想が正しいことを示すものであり、ミクロ観察断面写真の針状組織の数が、新塊アルミニウムであるAC4CHの場合で平均177個/mm2、本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金の場合で平均236個/mm2と同等の個数を示す一方で、再生塊アルミニウムであるAC4Cの場合で平均2,227個/mm2と大きな個数の違いを示しており、再生塊アルミニウムに合金成分のVとNiを0.1重量%ずつ添加することで得られる本実施形態の鋳造用アルミニウム合金が、自動車部品に適用可能な機械的特性を有することが、ミクロ観察断面による針状組織の数からも証明されたことが明らかとなった。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の鋳造用アルミニウム合金は、6.5~7.5重量%のSi、0.5重量%以下のFe、0.20~0.4重量%のMg、0.6重量%以下のMnを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物であるアルミニウム合金を再生塊アルミニウムとして溶解し、0.1~0.5重量%のVと、0.1~0.5重量%のNiを添加することで得られるものであり、再生塊アルミニウムに添加するVおよびNiの添加比率は、V:Ni=1:1とすることが好ましく、ミクロ観察断面における針状組織の数が、236個/mm2以下であって、破断伸びの値が13.0%以上であることを特徴とするものである。そして、本実施形態に係る鋳造用アルミニウム合金によれば、共晶部に晶出する針状組織の発生を抑制して機械的特性を向上させることができるので、自動車部品としての機械的特性を満たす再生塊としての鋳造用アルミニウム合金を得ることができる。このような再生塊としての鋳造用アルミニウム合金を自動車部品として用いることで、製造時のエネルギーコストやCO2の排出を大幅に削減することが可能となる。