(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006159
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】帯状物体表面の物理量計測方法、帯状物体表面の物理量計測装置、帯状物体の形状制御方法、鋼板の製造方法、及び鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20250109BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20250109BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20250109BHJP
G01J 5/70 20220101ALI20250109BHJP
G01D 21/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01J5/00 101B
B21C51/00 E
B21C51/00 R
G01B11/24 A
G01J5/70 Z
G01D21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106789
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
(72)【発明者】
【氏名】久嶋 希望
【テーマコード(参考)】
2F065
2F076
2G066
【Fターム(参考)】
2F065AA09
2F065AA31
2F065AA53
2F065BB01
2F065BB15
2F065CC06
2F065DD03
2F065FF41
2F065GG04
2F065HH04
2F065MM02
2F076BA01
2F076BA12
2F076BA17
2F076BD05
2F076BD07
2F076BD17
2F076BE07
2F076BE08
2F076BE09
2G066AC11
2G066AC16
2G066BC11
2G066CA01
2G066CA16
(57)【要約】
【課題】帯状物体の位置や傾きが変動する場合であっても帯状物体表面の物理量を精度よく計測可能な帯状物体表面の物理量計測方法及び物理量計測装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法は、長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量を計測する帯状物体表面の物理量計測方法であって、計測点の周辺における基準面に対する帯状物体の変位量及び傾き量を測定する測定ステップと、予め構築されたモデルと測定ステップにおいて測定された変位量及び傾き量を用いて計測点における物理量の計測値を補正する補正ステップと、を含み、モデルは、計測点における基準面に対する帯状物体の変位量及び傾き量と計測点における物理量の計測値との関係を示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量を計測する帯状物体表面の物理量計測方法であって、
計測点の周辺における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定する測定ステップと、
予め構築されたモデルと前記測定ステップにおいて測定された変位量及び傾き量を用いて前記計測点における前記物理量の計測値を補正する補正ステップと、
を含み、
前記モデルは、前記計測点における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量と、前記計測点における前記物理量の計測値との関係を示す、
帯状物体表面の物理量計測方法。
【請求項2】
前記測定ステップは、二次元レーザ距離計を用いて前記帯状物体の表面の形状プロファイルを測定することにより、前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定するステップを含む、請求項1に記載の帯状物体表面の物理量計測方法。
【請求項3】
前記測定ステップは、複数のスポットレーザ距離計を用いて、前記帯状物体の幅方向に延びる直線上にあり、且つ、前記計測点を挟む2つ以上の点における前記帯状物体の変位量を測定することにより、前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定するステップを含む、請求項1に記載の帯状物体表面の物理量計測方法。
【請求項4】
前記帯状物体の幅方向に沿って前記計測点を移動させながら前記測定ステップ及び前記補正ステップを繰り返し実行することにより、前記帯状物体の幅方向における前記物理量の分布に関する情報を取得するステップを含む、請求項1に記載の帯状物体表面の物理量計測方法。
【請求項5】
長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量を計測する帯状物体表面の物理量計測装置であって、
計測点の周辺における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定する測定手段と、
モデルを備え、前記モデルと前記測定手段によって測定された変位量及び傾き量を用いて前記計測点における前記物理量の計測値を補正する補正手段と、
を備え、
前記モデルは、前記計測点における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量と、前記計測点における前記物理量の計測値との関係を示す、
帯状物体表面の物理量計測装置。
【請求項6】
請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の帯状物体表面の物理量計測方法を用いて計測された帯状物体の表面の物理量に基づいて、帯状物体の形状を制御するステップを含む、帯状物体の形状制御方法。
【請求項7】
請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の帯状物体表面の物理量計測方法を用いて計測された鋼板の表面の物理量に基づいて、鋼板の製造条件を制御するステップを含む、鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の帯状物体表面の物理量計測装置と、
前記帯状物体表面の物理量計測装置によって計測された鋼板の表面の物理量に基づいて鋼板を製造する設備と、
を備える、鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状物体表面の物理量計測方法、帯状物体表面の物理量計測装置、帯状物体の形状制御方法、鋼板の製造方法、及び鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
素材産業において、製品管理のための物理量の計測技術は、安定した製品品質を維持する上で非常に重要である。特に帯状の長尺体の素材を巻き取ることによりコイル状の製品を生産する鉄鋼、非鉄金属、製紙、樹脂等の分野では、素材の幅方向及び長手方向問わず均一な製品品質を担保する必要がある。帯状の素材の製造ラインでは、加工途中の素材を複数のロールに巻き付けて搬送しながらさらに加工し、最終的に加工した素材を巻き取ることによりコイル状の製品とすることが多い。このような製造ラインでは、素材の幅方向にセンサを設置して素材の搬送に合わせて物理量を計測することにより、素材の長手方向(搬送方向)の物理量分布を比較的安定した条件で計測することができる。
【0003】
しかしながら、素材の幅方向の計測点を多点化して長手方向の物理量分布を計測しようとすると、複数のセンサを素材の幅方向に設置する、又は、素材の幅方向にセンサを能動的に走査させる必要がある。例えば鉄鋼の製造ラインの一つである薄鋼板の焼鈍ラインでは、製品品質の管理を目的とした鋼板の温度管理が重要であり、放射温度計を用いて鋼板の幅方向中央一点の温度を常に計測することで鋼板の長手方向の温度分布の情報を取得している。一方で、製品の幅方向の温度分布の情報を取得する際には、走査型放射温度計等を用いて計測点を幅方向に能動的に走査させることにより温度を計測する必要がある。
【0004】
このような製品の幅方向の物理量分布の計測では、製品の長手方向における物理量分布の計測と比較して外乱が大きいために、均一な条件で物理量分布を計測するための工夫が必要となることが多い。例えば渦電流を用いて鋼板表面の欠陥を検出する渦流探傷装置では、センサヘッドと鋼板表面との間の距離(リフトオフ)が非常に重要である。このため、鋼板の搬送中に鋼板の幅方向の反りやバタつきによって鋼板の形状や位置が変動すると、その変動が外乱要因となって欠陥の検出性能が低下する。そこで、搬送中の鋼板に対して渦流探傷装置を適用する際は、鋼板が常にロールに巻き付いている位置に装置を設置することにより、反りやバタつきの変動を抑えてリフトオフを均一に保つ工夫が必要になる。
【0005】
ところが、設置位置の制約上、鋼板が常にロールに巻き付いている位置に設置できない計測機器も存在する。例えば、亜鉛系溶融めっき鋼板の製造ラインにおいて、溶融亜鉛ポッドで鋼板の表面に溶融亜鉛を付着させた後、鋼板を鉛直方向に搬送する過程でIHヒータ等を用いて鋼板を加熱して鋼板表面を合金化させる工程における温度計測技術が挙げられる。この工程では、溶融亜鉛と鋼板の合金化が進むまで鋼板をロールに巻き付けることができず、鋼板は50m以上も鉛直方向に搬送されるため、特に鋼板の幅方向端部に反りやバタつきが発生する。しかしながら、このように外乱の多い工程であっても、材質特性(強度、靭性)の均一化や合金化むら抑制という観点から鋼板の幅方向の温度分布を計測する必要がある。
【0006】
このような背景から、通常の放射率を固定した放射測温では合金化の進み具合によって放射率が大きく変動し測温誤差が大きくなるため、2種類の反射特性を利用して放射率を補正する技術(特許文献1参照)が提案されている。また、特許文献2には、亜鉛系溶融めっき鋼板にレーザ光を走査させて照射し、その反射光の最大輝度の位置から亜鉛系溶融めっき鋼板の傾きを算出し、算出された傾きに応じて予め定められた検量線で最大輝度を補正する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第7276515号公報(段落0026~0050,
図1~4)
【特許文献2】特許第2733416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、放射温度計と鋼板との間の位置関係が変化すると、反射輝度を精度よく計測することができなくなる。反射輝度の測定誤差は放射率の推定誤差に繋がり、最終的に測温誤差に影響するため、鋼板の搬送位置(パスライン)を安定化させて反射輝度を同一条件で計測する必要がある。しかしながら、前述の通り、溶融亜鉛の付着等の懸念からラインにロールを設置することは難しく、ロールへの鋼板の巻き付けによるパスラインの安定化は困難である。このため、特許文献1に記載の技術では、反りやバタつき等の鋼板の形状変動がある条件において鋼板の幅方向の温度分布を精度よく測定することは困難である。一方、特許文献2に記載の技術は、反射光の最大輝度を利用した計測手法にしか使用できない、レーザ光を走査するためタイムラグが発生する等のデメリットを有し、非常に限定的な場面にしか適用することができない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、帯状物体の位置や傾きが変動する場合であっても帯状物体表面の物理量を精度よく計測可能な帯状物体表面の物理量計測方法及び物理量計測装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、帯状物体の形状を精度よく制御可能な帯状物体の形状制御方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、鋼板を歩留まりよく製造可能な鋼板の製造方法及び製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法は、長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量を計測する帯状物体表面の物理量計測方法であって、計測点の周辺における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定する測定ステップと、予め構築されたモデルと前記測定ステップにおいて測定された変位量及び傾き量を用いて前記計測点における前記物理量の計測値を補正する補正ステップと、を含み、前記モデルは、前記計測点における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量と、前記計測点における前記物理量の計測値との関係を示す。
【0011】
[2]本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法は、上記[1]に記載の帯状物体表面の物理量計測方法であって、前記測定ステップは、二次元レーザ距離計を用いて前記帯状物体の表面の形状プロファイルを測定することにより、前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定するステップを含む。
【0012】
[3]本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法は、上記[1]に記載の帯状物体表面の物理量計測方法であって、前記測定ステップは、複数のスポットレーザ距離計を用いて、前記帯状物体の幅方向に延びる直線上にあり、且つ、前記計測点を挟む2つ以上の点における前記帯状物体の変位量を測定することにより、前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定するステップを含む。
【0013】
[4]本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法は、上記[1]~[3]のうち、いずれか一つに記載の帯状物体表面の物理量計測方法であって、前記帯状物体の幅方向に沿って前記計測点を移動させながら前記測定ステップ及び前記補正ステップを繰り返し実行することにより、前記帯状物体の幅方向における前記物理量の分布に関する情報を取得するステップを含む。
【0014】
[5]本発明に係る帯状物体表面の物理量計測装置は、長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量を計測する帯状物体表面の物理量計測装置であって、計測点の周辺における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量を測定する測定手段と、モデルを備え、前記モデルと前記測定手段によって測定された変位量及び傾き量を用いて前記計測点における前記物理量の計測値を補正する補正手段と、を備え、前記モデルは、前記計測点における基準面に対する前記帯状物体の変位量及び傾き量と、前記計測点における前記物理量の計測値との関係を示す。
【0015】
[6]本発明に係る帯状物体の形状制御方法は、上記[1]~[4]のうち、いずれか一つに記載の帯状物体表面の物理量計測方法を用いて計測された帯状物体の表面の物理量に基づいて、帯状物体の形状を制御するステップを含む。
【0016】
[7]本発明に係る鋼板の製造設備は、上記[1]~[4]のうち、いずれか一つに記載の帯状物体表面の物理量計測方法を用いて計測された鋼板の表面の物理量に基づいて、鋼板の製造条件を制御するステップを含む。
【0017】
[8]本発明に係る鋼板の製造設備は、上記[5]に記載の帯状物体表面の物理量計測装置と、前記帯状物体表面の物理量計測装置によって計測された鋼板の表面の物理量に基づいて鋼板を製造する設備と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る帯状物体表面の物理量計測方法及び物理量計測装置によれば、帯状物体の位置や傾きが変動する場合であっても帯状物体表面の物理量を精度よく計測することができる。また、本発明に係る帯状物体の形状制御方法によれば、帯状物体の形状を精度よく制御することができる。さらに、本発明に係る鋼板の製造方法及び製造設備によれば、鋼板を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である物理量計測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態である測定ステップに用いる装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す装置の変形例の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施形態である測定ステップに用いる装置の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例の物理量計測処理に用いた装置の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例のモデル化方法に用いた装置の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、放射率と正反射率(正反射輝度値)及び拡散反射率(拡散反射輝度値)との関係の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、正反射条件を考慮した光源の種類の選択方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である帯状物体表面の物理量計測方法、帯状物体表面の物理量計測装置、帯状物体の形状制御方法、鋼板の製造方法、及び鋼板の製造設備について詳しく説明する。
【0021】
〔モデル化方法〕
本発明の一実施形態である物理量計測処理では、実際に物理量を計測する前に以下に説明するモデル化方法を用いて、使用するモデルを予め構築しておく。本実施形態のモデル化方法では、図示しない演算装置(
図2中の演算装置3とは別)が、計測装置の計測点における帯状物体表面の基準面からの変位量及び傾き量と計測装置の計測値との関係を示すモデルを構築する。モデル化方法は、後述する補正ステップで使用する前にモデルを得ることができれば、何時でも実行することができる。具体的には、実際の計測時には、帯状物体表面の基準面からの変位量Δx及び傾き量Δθがそれぞれの基準値x0,θ0に加わるため、帯状物体表面の基準面からの変位量Δx及び傾き量Δθは計測装置の計測値に対して外乱となる。そこで、モデル化方法では、演算装置は、計測点における計測装置の物理量の計測値Tと、当該計測点における基準面に対する変位量Δx及び傾き量Δθとの関係を示すモデルを構築する。言い換えれば、モデル化方法では、演算装置は、変位量Δx及び傾き量Δθで示される関数f(Δx,Δθ)と、計測値Tとの関係を示すモデルを構築する。なお、モデルを構築する際に使用する計測装置の計測値Tと変位量Δx及び傾き量Δθは、実験室等の静的な環境下で得ることが好ましい。
【0022】
詳しくは、演算装置は、変位量及び傾き量がそれぞれ基準値x0,θ0であるときに計測装置の計測値Tが真値T0となる場合において、変位量Δx及び傾き量Δθを変化させながら計測装置の計測値Tを測定データとして取得する。そして、演算装置は、取得した測定データを用いてモデルを構築する。ここで、測定データを取得する際の変位量Δx及び傾き量Δθの範囲は、帯状物体が実際にとりうる形状変化条件の範囲を網羅的に含むことが望ましい。例えばxa<Δx<xb、θa<Δθ<θbの範囲で実際の帯状物体の形状が変化すると仮定すると、変位量Δxの範囲をn-1等分、傾き量Δθの範囲をm-1等分し、n×m通りの帯状物体の形状変化条件を作成する。そして、演算装置は、各形状変化条件において測定データを取得し、取得した測定データを用いて以下の数式(1)に示すような計測値Tと帯状物体の変位量Δx及び傾き量Δθとの関係を示す近似式をモデル式として算出する。
【0023】
【0024】
なお、数式(1)中の関数f(Δx,Δθ)は、帯状物体の変位量Δx及び傾き量Δθと計測値Tとの関係性に適合した関数であることが望ましく、多項式近似式、ガウシアン近似式、指数関数近似式、sin近似式(cos近似式)等を適用できる。最も簡単な二次曲面による近似を考えると、関数f(Δx,Δθ)は以下に示す数式(2)のように表される。この場合、数式(2)に対し測定データをフィッティングすることによって数式(2)中の係数a~fの値を算出することにより近似式を算出する。実際の操業時の計測装置の計測値とモデル作成に用いる測定データの関係は、実際の操業時において常に同一の関係となることが望ましい。実際の操業時の計測装置の計測値とモデル作成に用いる測定データの関係が操業条件等によって変化する場合、新たな外乱要因となり、計測精度が低下する可能性がある。このため、この場合には、実際の操業時の計測装置の計測値とモデル作成に用いる測定データの関係が同一とみなせる範囲に測定データを分割し、分割された各測定データを用いて複数の近似式を構築する等の対策が必要となる。
【0025】
【0026】
〔物理量計測処理〕
図1は、本発明の一実施形態である物理量計測処理の流れを示すフローチャートである。
図1に示す物理量計測処理は、計測装置(例えば放射温度計)を用いて長手方向に搬送される帯状物体の表面の物理量(例えば温度)を計測する処理である。本実施形態では、計測装置の計測値は帯状物体の変位量及び傾き量の影響を受けると仮定する。換言すれば、計測装置の計測値は、計測装置と帯状物体との間の位置関係に応じて変化し、位置関係が変化していないときに外乱の無い計測値が得られると仮定する。すなわち、帯状物体の変位量や傾き量が基準値であるときに計測値の真値が得られるものとする。
【0027】
ステップS1の処理では、演算装置が、計測装置を用いて帯状物体表面の物理量を計測すると共に、計測装置の計測点周辺における帯状物体の基準面からの変位量Δx及び傾き量Δθを測定する(測定ステップ)。この測定ステップの詳細については、
図2~
図4を参照して後述する。これにより、ステップS1の処理は完了し、物理量計測処理はステップS2の処理に進む。
【0028】
ステップS2の処理では、演算装置が、上述したモデル化方法を用いて予め構築したモデルとステップS1の処理において測定した帯状物体の基準面からの変位量Δx及び傾き量Δθを用いて、計測装置の計測値Tを補正する(補正ステップ)。具体的には、演算装置は、ステップS1の処理において測定した帯状物体の基準面からの変位量Δx及び傾き量Δθを予め構築した数式(2)に代入することにより関数f(Δx,Δθ)の値を算出する。そして、演算装置は、算出された関数f(Δx,Δθ)の値と計測装置の計測値Tを数式(1)に代入することにより、計測装置の計測値Tの真値T0を算出する。なお、帯状物体の幅方向に沿って物理量の計測点を移動させながら測定ステップ及び補正ステップを繰り返し実行することにより、帯状物体の幅方向における物理量の分布に関する情報を取得するようにしてもよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、一連の物理量計測処理は終了する。
【0029】
〔測定ステップ〕
次に、
図2~
図4を参照して、上記測定ステップの第1及び第2の実施形態について説明する。
【0030】
[第1の実施形態]
図2は、本発明の第1の実施形態である測定ステップを説明するための装置構成図である。なお、
図2において、帯状物体は紙面垂直方向に搬送されているものとする。
図2に示すように、本実施形態の測定ステップでは、計測装置(本例では放射温度計等)1を用いて帯状物体Sの表面の計測点Pの物理量(本例では温度)を計測する。また、本実施形態では、計測装置1と合わせて、二次元レーザ距離計2を帯状物体Sの前に設置する。ここで、二次元レーザ距離計とは、帯状物体Sの幅方向に沿った直線状の領域を等分割し、各分割点(計測位置)と二次元レーザ距離計との間の距離を計測する装置である。
図2中、符号Rは二次元レーザ距離計2から照射されるレーザ光を示す。
【0031】
この測定ステップでは、帯状物体Sは搬送中であり、計測点Pは帯状物体Sのロール巻き付き部等ではないため、帯状物体Sの変位量Δx及び傾き量Δθは常に変化している。このため、計測装置1をそのまま導入すると、変位量Δx及び傾き量Δθが外乱となって計測値Tが変化する。そこで、この測定ステップでは、まず、演算装置3が、計測値Tと二次元レーザ距離計2の計測データを同期して取り込む。そして、演算装置3の計算部31が、二次元レーザ距離計2の計測データを用いて計測点Pにおける帯状物体Sの変位量Δx及び傾き量Δθを算出する。以下、変位量Δx及び傾き量Δθ算出方法の一例について説明する。なお、演算装置3は、モデル化方法において用いた演算装置と同じものであってもよい。
【0032】
いま二次元レーザ距離計2のK個の計測位置k(=1~K)における計測値をxk、計測装置1の計測点Pと帯状物体Sの幅方向位置が同一となる二次元レーザ距離計2の計測位置をk0、二次元レーザ距離計2の計測位置kの間隔をΔdとすると、計測位置k0における帯状物体Sの変位量Δx及び傾き量Δθは以下に示す数式(3),(4)により算出できる。本例では、その後、算出された変位量Δx及び傾き量Δθ、計測装置1によって計測された計測点Pの温度、及び予め構築されたモデルMを用いて計測点Pの温度を補正する。なお、このモデルMは、上述のモデル化方法を用いて作成した。
【0033】
【0034】
【0035】
なお、傾き量Δθは、隣り合う2つの計測位置における二次元レーザ距離計2の計測値から算出してもよいし、二次元レーザ距離計2の計測値のプロファイルに曲線をフィッティングして微分することにより算出してもよい。また、二次元レーザ距離計2の計測値は何も処理していない状態だとノイズや欠損等によって劣化している可能性がある。このため、ローパスフィルタ等の周波数フィルタやメディアンフィルタ、多項式近似等により二次元レーザ距離計2の計測値からノイズを除去してから変位量Δx及び傾き量Δθを算出してもよい。
【0036】
また、二次元レーザ距離計2は、変位量Δx及び傾き量Δθの変動の無い帯状物体Sの表面を基準面として計測したときに各計測位置の変位量が基準値x0となるように精度よく設置することが望ましい。しかしながら、設置条件や精度等の課題により、基準面に対して傾きや位置ズレがある状態で二次元レーザ距離計2が設置される可能性がある。この場合、基準となる帯状物体Sの通過位置に面精度の高い校正板を設置して基準面とし、二次元レーザ距離計2を用いて基準面までの距離を測定し、その時の各計測位置の計測値をオフセット値として記録しておき、計測する度にオフセット値を差分することにより、基準面に対する傾きや位置ズレを補正してもよい。
【0037】
また、二次元レーザ距離計2の計測位置と計測点Pを同一にしようとすると、二次元レーザ距離計2の測定によるレーザ光の照射自体が計測点Pにおける物理量計測に影響を与え誤差要因となる可能性がある。また、計測装置1と二次元レーザ距離計2が物理的に干渉し設置できない可能性がある。そのような場合には、二次元レーザ距離計2の計測位置と計測点Pとを帯状物体Sの長手方向の異なる位置とすることにより、計測装置1と二次元レーザ距離計2の干渉を避けてもよい。
【0038】
さらに、
図3に示すように、二次元レーザ距離計2を用いず、計測点Pの両隣の計測位置の変位量を計測するスポットレーザ距離計4a,4bを用いることにより、変位量Δx及び傾き量Δθを算出してもよい。この場合、2つのスポットレーザ距離計4a,4bは計測点Pから等距離に設置することが好ましいが、必ずしも等距離でなくてもよい。計測点Pからスポットレーザ距離計4aまでの距離をa、計測点Pからスポットレーザ距離計4bまでの距離をb、各スポットレーザ距離計の出力をx
A、x
Bとすると、以下に示す数式(5),(6)により変位量Δx及び傾き量Δθを算出することができる。また、
図3に示す例では帯状物体Sの幅方向2点の変位量を計測したが、幅方向3点以上の変位量を計測して変位量Δx及び傾き量Δθを計測してもよい。
【0039】
【0040】
【0041】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態である測定ステップを説明するための装置構成図である。なお、
図4において、帯状物体Sは紙面垂直方向に搬送されているものとする。
図4に示すように、本実施形態の測定ステップでは、リニアスライダー等の駆動装置5を利用して帯状物体Sの幅方向に計測装置(本例では放射温度計等)1を走査させることにより帯状物体Sの幅方向に沿って複数点で物理量(本例では温度)を計測する。この際、二次元レーザ距離計2の測定範囲両端の間に帯状物体Sの全幅が常に存在することが望ましい。このような条件であれば、計測点Pの近傍には二次元レーザ距離計2の複数の計測位置kのうちのいずれかが存在するので、計測装置1を走査して計測する際に近傍点の変位量Δx及び傾き量Δθを第1の実施形態の測定ステップによって算出することにより、各計測点において計測値を補正することができる。
【0042】
なお、計測装置1を走査させたときの計測点Pの位置は駆動装置5にエンコーダを設置して計測装置1の変位量から導出してもよい。また、帯状物体Sの幅方向領域に関しては、二次元レーザ距離計2によって得られた形状プロファイルから帯状物体Sの幅方向端部の位置を算出し、帯状物体Sの幅方向両端部間を往復するように計測点Pを走査させる。これにより、帯状物体Sの領域のみを計測できると共に、帯状物体Sの蛇行の影響を受けずに各計測点の位置を計測できる。ここで述べる形状プロファイルとは、各計測位置で計測された距離を連結させて一次元のベクトル情報として扱ったものである。
【0043】
さらに、二次元レーザ距離計2を計測装置1に搭載して一緒に走査させてもよい。この場合、二次元レーザ距離計2の計測位置は駆動装置5のエンコーダから算出し、二次元レーザ距離計2の測定値と合わせることで帯状物体Sの幅方向端部を検出することができる。このとき、レーザ光が目的とする計測に影響しないのであれば、帯状物体S上の計測点Pと同一の位置の変位量Δx及び傾き量Δθを測定してもよい。また、本実施形態では二次元レーザ距離計2を用いたが、2点以上のスポットレーザ距離計を用いても同様に走査させることができる。
【0044】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である物理量計測処理では、演算装置が、計測点Pの周辺における基準面に対する帯状物体Sの変位量Δx及び傾き量Δθを測定し、予め構築されたモデルと測定された変位量Δx及び傾き量Δθを用いて計測点Pにおける物理量の計測値Tを補正し、モデルは、物理量の計測点Pにおける基準面に対する帯状物体Sの変位量Δx及び傾き量Δθと計測点Pにおける物理量の計測値Tとの関係を示す。これにより、帯状物体Sの位置や傾きが変動する場合であっても帯状物体表面の物理量を精度よく計測することができる。
【0045】
また、本発明の一実施形態である物理量計測処理を帯状物体の形状を制御する帯状物体の形状制御方法に適用し、本発明の一実施形態である物理量計測処理によって計測された帯状物体表面の物理量に基づいて帯状物体の形状を制御するようにしてもよい。これにより、帯状物体の形状を精度よく制御することができる。
【0046】
また、本発明の一実施形態である物理量計測処理を、鋼板を製造する鋼板の製造方法に適用し、本発明の一実施形態である物理量計測処理によって計測された鋼板の表面の物理量に基づいて鋼板の製造条件を制御してもよい。これにより、鋼板を歩留まりよく製造することができる。
【0047】
さらに、本発明を鋼板の製造設備を構成する物理量計測装置として適用し、本発明に係る物理量計測装置によって計測された鋼板の表面の物理量に基づいて、鋼板の製造設備を用いて鋼板を製造するようにしてもよい。この場合、鋼板を製造するための製造設備は、公知、未知、又は既存のいずれかを問わない。これにより、鋼板を歩留まりよく製造することができる。
【実施例0048】
特許文献1に記載の亜鉛系溶融めっき鋼板の温度計測方法は、正反射と拡散反射の2種類の反射輝度と放射輝度の関係を予めモデル化しておき、正反射光学系と拡散反射光学系を用いて合金化IH出側の鋼板から2種類の反射輝度を取得して放射率を推定することにより、放射率変動に対して精度よく鋼板の温度を計測する方法である。この方法では、正反射輝度と拡散反射輝度を精度よく計測することが重要であるが、これらの輝度の計測精度は計測点の変位量Δx及び傾き量Δθに大きく依存する。従って、鋼板の反りやバタつき等によって鋼板の形状が変動することで同一の表面状態でも反射輝度が変化する。こうした変化が反射輝度の誤差となり、推定される放射率にも誤差が生じて最終的に測温誤差となる。そこで、本実施例では、
図5(a),(b)に示す装置を用いて亜鉛系溶融めっき鋼板SA1の表面形状を測定して正反射輝度及び拡散反射輝度を補正するにより亜鉛系溶融めっき鋼板SA1の温度を計測した。なお、
図5(a),(b)に示した装置は、実施形態で説明した
図3に示す装置の計測装置1を放射温度計6としたものである。
【0049】
具体的には、まず、
図6に示すように、基準面に鋼板サンプルSA2を設置し、実際に反射輝度を計測するときと同様に光源11を設置した。鋼板サンプルSA2は、リニアスライダーやジャッキ等の上下走査機構13を用いて基準位置に対して鉛直方向に平行移動させることにより変位量Δxを調整できるようにし、ゴニオステージや回転ステージ等の回転機構14を用いて基準角度に対して回転させることにより傾き量Δθを調整できるようにした。次に、正反射条件及び拡散反射条件の光学系を再現し、カメラ12を用いて鋼板サンプルSA2の変位量Δx及び傾き量Δθを変化させたときの反射輝度を計測した。詳しくは、想定される変位量Δxの最大値を30mm、想定される傾き量Δθの最大値を4度とし、その範囲を網羅するように鋼板サンプルSA2の設置条件を変化させて各反射輝度を計測した。なお、亜鉛系溶融めっき鋼板の合金化過程では、鋼板の表面性状の変化によって反射状態が大きく変化する。詳しくは、
図7(a)に示すように未合金化状態では正反射輝度が重要であるが、
図7(b)に示すように合金化がある程度進んだ後は正反射成分がほぼ消失するため拡散反射輝度のみが重要になる。従って、正反射輝度は未合金化状態のサンプルで計測し、拡散反射輝度は合金化後のサンプルで計測した。
【0050】
-30mm<Δx<30mm、-4度<Δθ<4度の範囲内で正反射における反射光量を測定した結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1に示す反射光量は、基準面での光量が1となるように正規化することにより正反射輝度の補正係数として扱うことができる。得られた補正係数を数式(2)にフィッティングすることにより変位量Δx及び傾き量Δθと正反射輝度f(Δx,Δθ)との関係をモデル化して以下に示す数式(7)を得た。
【0053】
【0054】
次に、亜鉛系溶融めっき鋼板の計測点に特許文献1に記載の放射温度計を設置し、同時に二次元レーザ距離計を温度計測に干渉しないよう長手方向に少し離れた位置に設置した。反射輝度の計測と同タイミングで得られた出力値から変位量Δxを15mm、傾き量Δθを1度と算出した。そして、予めモデル化ステップにより算出したモデルと測定ステップにより得られた変位量Δx及び傾き量Δθを用いて正反射輝度を補正した。変位量Δx及び傾き量Δθをそれぞれ15mm、1度としてモデル式に代入すると、関数f(Δx,Δθ)の値は0.9929となり、得られた正反射輝度をこの値で除算することにより、基準面の位置で計測した値と同条件とみなすことができる。この補正によって、亜鉛系溶融めっき鋼板SA1の変位量Δx及び傾き量Δθの影響を受けず精度よく正反射輝度を算出し、亜鉛系溶融めっき鋼板SA1の形状が変化しても温度を精度よく計測できた。
【0055】
なお、正反射輝度に関しては、想定される亜鉛系溶融めっき鋼板の変位量Δx及び傾き量Δθの最大値の範囲内において、どの条件でも正反射方向に光源11の発光面があるよう光源11の種類や設置位置を工夫し、亜鉛系溶融めっき鋼板の変位量Δx及び傾き量Δθの変化に対し常に一定の反射光量が得られるようにするとよい。具体的には、
図8(a)に示すように、光源が点光源11aである場合、亜鉛系溶融めっき鋼板の傾きによっては正反射条件が成立せず、カメラ12によって計測される反射光量が低下する。これに対して、
図8(b)に示すように、光源が線光源11bである場合には、亜鉛系溶融めっき鋼板が傾いても発光面のどこかでは正反射条件が成立するので、カメラ12によって計測される反射光量が低下することはない。このように、想定される亜鉛系溶融めっき鋼板の傾きの方向に光源を長尺化し、さらに発光面の各位置における発光量や指向性を均一化することにより、亜鉛系溶融めっき鋼板の表面の位置や傾きが変化しても安定して正反射条件となる光学系を実現できる。
【0056】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。