(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006181
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ、及び固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H01G9/028 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106818
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小嵐 元気
(72)【発明者】
【氏名】石嶋 正弥
(72)【発明者】
【氏名】朝見 忠昌
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康久
(57)【要約】
【課題】固体電解コンデンサの静電容量出現率を向上させること。
【解決手段】本開示の一態様にかかる固体電解コンデンサ1は、弁金属からなる陽極体11と、陽極体11の上に形成された誘電体層12と、誘電体層12の上に形成された固体電解質層13と、を備える。固体電解質層13は、誘電体層12の上に形成された第1の電解質層21と、第1の電解質層21の上に形成された第2の電解質層22と、を有し、第1の電解質層21はイオン伝導の電解質層であり、第2の電解質層22は電子伝導の電解質層である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁金属からなる陽極体と、
前記陽極体の上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の上に形成された固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、
前記誘電体層の上に形成された第1の電解質層と、
前記第1の電解質層の上に形成された第2の電解質層と、を有し、
前記第1の電解質層はイオン伝導の電解質層であり、前記第2の電解質層は電子伝導の電解質層である、
固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1の電解質層が下記式(1)で表される材料を含む、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【化1】
ただし、上記式(1)中、Mは弁金属原子を表す。
R
1+はイミダゾリウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、ピペリジニウム誘導体、ピリジニウム誘導体、モルホリニウム誘導体、アンモニウム誘導体、ホスホニウム誘導体、スルホニウム誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンの官能基を表し、前記カチオンの官能基とSi分子との間に炭素数1~20の炭素鎖を有していてもよく、前記炭素鎖は鎖間にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、炭素-炭素不飽和結合、炭素環、複素環を有していてもよい。
上記式(1)中、R
2は、水素原子、炭素数1~4の炭素鎖、弁金属原子、又は式(1)同士が縮重合し-Si-O-Si-で繋がった多量体のうちいずれかを表す。
上記式(1)中、X
-は、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸、デカン酸、硫酸、乳酸、硝酸、安息香酸、ハイドロオキサイド、メチル硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、アリルスルホン酸、1,1,2,2‐テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸、アミノ酢酸、トリフルオロ酢酸、2‐ヒドロキシ‐2‐フェニル酢酸、2‐アミノプロパン酸、チオサリチル酸、チオシアン酸、ジシアナミド、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸、ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスホン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラクロロアルミン酸、テトラクロロフェラート(III)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドから選択される少なくとも一種のアニオンを表す。
【請求項3】
前記第1の電解質層において、上記式(1)中のMは前記誘電体層の表面に存在する弁金属原子であり、前記第1の電解質層は、前記誘電体層の表面においてSi-O-Mで示すように共有結合しており、更に、前記第1の電解質層が前記第2の電解質層と接触している、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第2の電解質層の導電率が前記第1の電解質層の導電率よりも高い、請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第2の電解質層が導電性高分子を含む、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
弁金属からなる陽極体の上に誘電体層を形成する第1工程と、
前記誘電体層の上に固体電解質層を形成する第2工程と、を備え、
前記第2工程は、
前記誘電体層の上に第1の電解質層を形成する第3工程と、
前記第1の電解質層の上に第2の電解質層を形成する第4工程と、を有し、
前記第3工程は、下記式(1)で表される材料を含む層を前記誘電体層の上に形成する工程を含む、
固体電解コンデンサの製造方法。
【化2】
ただし、上記式(1)中、Mは弁金属原子を表す。
R
1+はイミダゾリウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、ピペリジニウム誘導体、ピリジニウム誘導体、モルホリニウム誘導体、アンモニウム誘導体、ホスホニウム誘導体、スルホニウム誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンの官能基を表し、前記カチオンの官能基とSi分子との間に炭素数1~20の炭素鎖を有していてもよく、前記炭素鎖は鎖間にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、炭素-炭素不飽和結合、炭素環、複素環を有していてもよい。
上記式(1)中、R
2は、水素原子、炭素数1~4の炭素鎖、弁金属原子、又は式(1)同士が縮重合し-Si-O-Si-で繋がった多量体のうちいずれかを表す。
上記式(1)中、X
-は、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸、デカン酸、硫酸、乳酸、硝酸、安息香酸、ハイドロオキサイド、メチル硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、アリルスルホン酸、1,1,2,2‐テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸、アミノ酢酸、トリフルオロ酢酸、2‐ヒドロキシ‐2‐フェニル酢酸、2‐アミノプロパン酸、チオサリチル酸、チオシアン酸、ジシアナミド、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸、ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスホン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラクロロアルミン酸、テトラクロロフェラート(III)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドから選択される少なくとも一種のアニオンを表す。
【請求項7】
前記第3工程は、下記式(2)で表されるイオン液体のアルコキシル基OR
3を加水分解させ、シラノール基を有する下記式(3)とした後、前記誘電体層の表面に結合しているOH基と下記式(3)のシラノール基とを脱水縮合させて上記式(1)の材料を前記誘電体層の表面に固定する工程Aを含む、請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化3】
ただし、上記式(2)中、R
3は、炭素数1~4の炭素鎖を表す。
【請求項8】
前記第3工程は、
アミノ系シランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するアミノ系シランカップリング剤とした後、前記誘電体層の表面に結合したOH基とアミノ系シランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて前記誘電体層の表面上にアミノ系シランカップリング剤を固定する工程Bと、
前記工程Bの後に、アミノ系シランカップリング剤とリン酸との塩を形成し、アニオンX-と接触させイオン交換させることでアミノ基とアニオンX-との電気的相互作用により結合させ、上記式(1)で表される材料を形成する工程Cと、を含む、
請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記第3工程は、
アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、チオール系シランカップリング剤から選択される少なくとも1つのシランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するシランカップリング剤とした後、前記誘電体層の表面に結合したOH基とシランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて前記誘電体層の表面上にシランカップリング剤を固定する工程Dと、
前記工程Dの後に、下記式(4)で表されるエポキシ基を有するイオン液体を、前記工程Dで前記誘電体層の表面上に形成したシランカップリング剤へ接触させた後に加熱し、下記式(4)のエポキシ基と、シランカップリング剤のアミノ基、エポキシ基、又はチオール基とを結合させ、上記式(1)で表される材料を形成する工程Eと、を含む、
請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【化4】
【請求項10】
前記第4工程は、化学重合、又は、導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いて、前記第1の電解質層の上に導電性高分子を形成する工程を含む、請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記第2の電解質層の上に第3の電解質層を形成する第5工程を更に備え、
前記第5工程は、化学重合、電解重合、又は導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いた方法のうち、前記第4工程で用いた方法と異なる方法の中から選択された方法を用いて、導電性高分子を含む前記第3の電解質層を前記第2の電解質層の上に形成する工程を含む、
請求項10に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサ、及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器等の様々な分野において固体電解コンデンサが広く用いられている。特許文献1には、固体電解質として導電性高分子を用いた固体電解コンデンサに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、固体電解コンデンサは電子機器等の様々な分野において広く用いられている。近年の電子機器の小型化に伴い、固体電解コンデンサの小型化が求められている。このため、固体電解コンデンサの静電容量を維持しながら小型化する必要があり、固体電解コンデンサの単位体積当たりの静電容量出現率を向上させる必要がある。
【0005】
上記課題に鑑み本開示の目的は、固体電解コンデンサの静電容量出現率を向上させることが可能な固体電解コンデンサ、及び固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様にかかる固体電解コンデンサは、弁金属からなる陽極体と、前記陽極体の上に形成された誘電体層と、前記誘電体層の上に形成された固体電解質層と、を備える。前記固体電解質層は、前記誘電体層の上に形成された第1の電解質層と、前記第1の電解質層の上に形成された第2の電解質層と、を有し、前記第1の電解質層はイオン伝導の電解質層であり、前記第2の電解質層は電子伝導の電解質層である。
【0007】
本開示の一態様にかかる固体電解コンデンサの製造方法は、弁金属からなる陽極体の上に誘電体層を形成する第1工程と、前記誘電体層の上に固体電解質層を形成する第2工程と、を備える。前記第2工程は、前記誘電体層の上に第1の電解質層を形成する第3工程と、前記第1の電解質層の上に第2の電解質層を形成する第4工程と、を有し、前記第3工程は、下記式(1)で表される材料を含む層を前記誘電体層の上に形成する工程を含む。
【化1】
ただし、上記式(1)中、Mは弁金属原子を表す。
R
1+はイミダゾリウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、ピペリジニウム誘導体、ピリジニウム誘導体、モルホリニウム誘導体、アンモニウム誘導体、ホスホニウム誘導体、スルホニウム誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンの官能基を表し、前記カチオンの官能基とSi分子との間に炭素数1~20の炭素鎖を有していてもよく、前記炭素鎖は鎖間にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、炭素-炭素不飽和結合、炭素環、複素環を有していてもよい。
上記式(1)中、R
2は、水素原子、炭素数1~4の炭素鎖、弁金属原子、又は式(1)同士が縮重合し-Si-O-Si-で繋がった多量体のうちいずれかを表す。
上記式(1)中、X
-は、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸、デカン酸、硫酸、乳酸、硝酸、安息香酸、ハイドロオキサイド、メチル硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、アリルスルホン酸、1,1,2,2‐テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸、アミノ酢酸、トリフルオロ酢酸、2‐ヒドロキシ‐2‐フェニル酢酸、2‐アミノプロパン酸、チオサリチル酸、チオシアン酸、ジシアナミド、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸、ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスホン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラクロロアルミン酸、テトラクロロフェラート(III)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドから選択される少なくとも一種のアニオンを表す。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、固体電解コンデンサの静電容量出現率を向上させることが可能な固体電解コンデンサ、及び固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態にかかる固体電解コンデンサの断面図である。
【
図2】実施の形態にかかる固体電解コンデンサが備える固体電解質層の一例を示す断面図である。
【
図3】実施の形態にかかる固体電解コンデンサの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】第1の電解質層の製造方法(製造方法A)を説明するための模式図である。
【
図5】第1の電解質層の製造方法(製造方法B)を説明するための模式図である。
【
図6】第1の電解質層の製造方法(製造方法C)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<固体電解コンデンサ>
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかる固体電解コンデンサの断面図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサ1は、陽極体11、誘電体層12、固体電解質層13、陰極層16、導電性接着剤17、陽極リード18、外装樹脂19、及びリードフレーム20a、20bを備える。
【0011】
陽極体11は多孔質の弁金属を用いて構成されている。陽極体11は、例えば、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種、またはこれらの金属同士の合金を用いることができる。特に、陽極体11は、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、及びニオブ(Nb)から選択される少なくとも1種、またはこれらの金属同士の合金を用いることが好ましい。陽極体11は、例えば、板状、箔状、または線状の弁金属、弁金属の微粒子を含む焼結体、エッチングによって拡面処理された多孔質の弁金属などを用いて形成される。
【0012】
誘電体層12は、陽極体11の表面に形成されている。例えば、誘電体層12は、陽極体11の表面を陽極酸化することで形成することができる。例えば、陽極体11の表面は多孔質であり、誘電体層12はこの多孔質の孔部にも形成される。例えば、陽極体11にタンタルを用いた場合は、陽極体11を陽極酸化することで、陽極体11の表面に酸化タンタル被膜(誘電体層12)を形成することができる。例えば、誘電体層12の厚みは、陽極酸化の電圧によって適宜調整することができる。
【0013】
固体電解質層13は、誘電体層12の上に形成されている。固体電解質層13は、誘電体層12の表面全体と接するように形成されている。固体電解質層13の詳細については後述する。
【0014】
陰極層16は、固体電解質層13の上に形成されている。陰極層16は、例えば、カーボン層と銀層とを積層することで形成することができる。なお、カーボン層および銀層は一例であり、陰極層16を構成する材料は導電性を示す材料であれば特に限定されることはない。
【0015】
上述のように、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサ1は、陽極体11の上に、誘電体層12、固体電解質層13、陰極層16が順番に積層されている。陽極体11は陽極リード18を備えており、陽極リード18はリードフレーム20aに接続されている。例えば、陽極リード18は溶接によってリードフレーム20aに接続されている。また、陰極層16は導電性接着剤17を介してリードフレーム20bに接続されている。本実施の形態にかかる固体電解コンデンサ1は、2つのリードフレーム20a、20bの一部が外部に露出された状態で外装樹脂19により覆われている。
【0016】
<固体電解質層の構成>
次に、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサ1が備える固体電解質層13の詳細について説明する。
図2は、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサが備える固体電解質層の一例を示す断面図であり、
図1に示した固体電解コンデンサ1の誘電体層12および固体電解質層13付近の拡大断面図である。
【0017】
図2に示すように、固体電解質層13は、第1の電解質層21、及び第2の電解質層22を備える。第1の電解質層21は、誘電体層12の上に形成されている。第1の電解質層21はイオン伝導の電解質層であり、第2の電解質層22は電子伝導の電解質層である。
【0018】
本実施の形態において、第1の電解質層21は、例えば下記式(1)で表される材料を含む。
【化2】
【0019】
ただし、上記式(1)中、Mは弁金属原子を表す。つまり、Mは陽極体11を構成している弁金属原子、具体的には誘電体層12に含まれる弁金属原子である。例えば、陽極体11がタンタル(Ta)で構成されている場合、誘電体層12は酸化タンタル(Ta2O5)であり、Mはタンタル原子となる。
【0020】
上記式(1)中、R1+はイミダゾリウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、ピペリジニウム誘導体、ピリジニウム誘導体、モルホリニウム誘導体、アンモニウム誘導体、ホスホニウム誘導体、スルホニウム誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンの官能基を表し、当該カチオンの官能基とSi分子との間に炭素数1~20の炭素鎖を有していてもよく、当該炭素鎖は鎖間にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、炭素-炭素不飽和結合、炭素環、複素環を有していてもよい。
【0021】
上記式(1)中、R2は、水素原子、炭素数1~4の炭素鎖、弁金属原子、又は式(1)同士が縮重合し-Si-O-Si-で繋がった多量体のうちいずれかを表す。ここで、「-Si-O-Si-」で繋がった多量体とは、隣接する式(1)の「-O-R2」同士が互いに縮重合し、隣接する式(1)同士が「-Si-O-Si-」で繋がった多量体である。
【0022】
上記式(1)中、X-は、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸、デカン酸、硫酸、乳酸、硝酸、安息香酸、ハイドロオキサイド、メチル硫酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、アリルスルホン酸、1,1,2,2‐テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸、アミノ酢酸、トリフルオロ酢酸、2‐ヒドロキシ‐2‐フェニル酢酸、2‐アミノプロパン酸、チオサリチル酸、チオシアン酸、ジシアナミド、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸、ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスホン酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラクロロアルミン酸、テトラクロロフェラート(III)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドから選択される少なくとも一種のアニオンを表す。
【0023】
また、第1の電解質層21において、上記式(1)中のMは誘電体層12の表面に存在する弁金属原子であり、第1の電解質層21は、誘電体層12の表面においてSi-O-Mで示すように共有結合しており(
図4~
図6参照)、更に、第1の電解質層21は第2の電解質層22と接触している。
【0024】
また、本実施の形態において、第2の電解質層22の導電率は、第1の電解質層21の導電率よりも高いことが好ましい。
【0025】
第2の電解質層22は電子伝導の電解質層であり、例えば導電性高分子を用いて構成されている。第2の電解質層22には、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の導電性高分子を用いることができる。第2の電解質層22は、化学重合、電解重合、又は導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いた方法等を用いて形成できる。
【0026】
本実施の形態では、第2の電解質層22の上に第3の電解質層(不図示)を更に形成してもよい。第3の電解質層は、例えば導電性高分子を用いて構成できる。第3の電解質層には、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の導電性高分子を用いることができる。第3の電解質層は、化学重合、電解重合、又は導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いた方法等を用いて形成できる。第3の電解質層を形成する際は、第2の電解質層22を形成した方法と異なる方法を用いて形成するのが好ましい。
【0027】
<固体電解コンデンサの製造方法>
次に、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
図3は、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサの製造方法を説明するためのフローチャートである。以下では、
図1、
図2を参照しつつ、固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0028】
本実施の形態にかかる固体電解コンデンサを製造する際は、まず、陽極体11を形成する(ステップS1)。陽極体11には弁金属を用いることができる。弁金属としては、上述の材料を用いることができる。
【0029】
次に、陽極体(弁金属)11を陽極酸化して、陽極体11の表面に誘電体層12を形成する(ステップS2)。その後、誘電体層12の上に、第1の電解質層21を形成する(ステップS3)。第1の電解質層21には、上記式(1)で表される材料を用いることができる。なお、第1の電解質層21の形成方法の詳細については後述する。
【0030】
次に、第1の電解質層21の上に第2の電解質層22を形成する(ステップS4)。第2の電解質層22は、例えば導電性高分子を用いて形成できる。例えば、第2の電解質層22は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の導電性高分子を用いて形成できる。第2の電解質層22は、化学重合、電解重合、又は導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いた方法を用いて形成できる。
【0031】
第2の電解質層22を形成した後、陰極層16を形成する(ステップS5)。陰極層16は、例えば、カーボン層と銀層とを積層することで形成することができる。
【0032】
次に、リードフレーム(電極)20a、20bを形成する(ステップS6)。具体的には、溶接によって、陽極リード18にリードフレーム20aを接続する。また、導電性接着剤17を用いて、陰極層16にリードフレーム20bを接続する。
【0033】
その後、外装樹脂19を形成する(ステップS7)。このとき、2つのリードフレーム20a、20bの一部が外部に露出するように外装樹脂19を形成する。外装樹脂19に使用する樹脂は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂や、液状樹脂を硬化させる方法などを用いることができる。
【0034】
以上で説明した固体電解コンデンサの製造方法を用いることで、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサを製造することができる。
【0035】
<第1の電解質層21の製造方法>
次に、第1の電解質層21の製造方法について説明する。以下では、第1の電解質層21の製造方法として、3つの製造方法A~Cについて説明する。
【0036】
(製造方法A)
まず、第1の電解質層21の製造方法Aについて説明する。製造方法Aでは、まず、下記式(2)で表されるイオン液体(以降、RTIL(Room Temperature Ionic Liquid)とも記載する)のアルコキシル基OR
3を加水分解させ、シラノール基を有する下記式(3)とする。その後、誘電体層12の表面に結合しているOH基と下記式(3)のシラノール基とを脱水縮合させて上記式(1)の材料を誘電体層12の表面に固定する。ただし、下記式(2)中、R
3は、炭素数1~4の炭素鎖を表す。以下、模式図を用いて具体的に説明する。
【化3】
【0037】
図4は、第1の電解質層の製造方法(製造方法A)を説明するための模式図である。
図4に示すように、製造方法Aでは、シランカップリング剤部位31とアニオンとカチオンからなる塩部位32とを備えるRTIL材料30を用いて、第1の電解質層21を形成している。塩部位32は、カチオン官能基33とアニオン34とを備える。なお、カチオン官能基33は上記式(2)、式(3)の「R
1+」に対応しており、アニオン34は上記式(2)、式(3)の「X
-」に対応している。
【0038】
製造方法Aでは、シランカップリング剤部位31と塩部位32とが一体となったRTIL材料30を用いて、第1の電解質層21を形成している。具体的には、
図4の下図に示すように、RTIL材料30のシランカップリング剤部位31と誘電体層12の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応をさせて、シランカップリング剤部位31を誘電体層12の表面に固定している。これにより、シランカップリング剤部位31を用いて塩部位32を誘電体層12の表面に固定することができる。
図4の下図に示す構成では、塩部位32ではアニオンとカチオンとが静電的に結合しており、アニオンは正電荷に沿って(つまり、図面の左右方向に)移動可能となる。
【0039】
(製造方法B)
次に、第1の電解質層21の製造方法Bについて説明する。製造方法Bでは、まず、アミノ系シランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するアミノ系シランカップリング剤とする。その後、誘電体層12の表面に結合したOH基とアミノ系シランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて、誘電体層12の表面上にアミノ系シランカップリング剤を共有結合で固定する。その後、アニオンX-を含む酸、及び/又は、塩を接触させることで、アミノ基とアニオンX-との電気的相互作用により結合させ、上記式(1)で表される材料を形成する。以下、模式図を用いて具体的に説明する。
【0040】
図5は、第1の電解質層の製造方法(製造方法B)を説明するための模式図である。
図5に示すように、製造方法Bでは、まず、アミノ系シランカップリング剤を準備する。そして、アミノ系シランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するアミノ系シランカップリング剤とする。その後、
図5の上図に示すように、誘電体層12の表面に結合したOH基とアミノ系シランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて、誘電体層12の表面上にアミノ系シランカップリング剤40を共有結合で固定する。
【0041】
その後、
図5の中央図に示すように、アミノ系シランカップリング剤40とリン酸41(H
2PO
4
-)との塩を形成する。次に、
図5の下図に示すように、リン酸41とRTILアニオン42とをイオン交換する。このときの残渣(リン酸など)は、アルコール洗浄により洗い流す。これにより、RTILアニオン42を誘電体層12の表面に固定することができる。
図5の下図に示す構成では、アミノ系シランカップリング剤40とRTILアニオン42とが静電的に結合しており、RTILアニオン42は正電荷に沿って(つまり、図面の左右方向に)移動可能となる。リン酸41とイオン交換を行うRTILアニオン42は、RTILになりうるアニオンであればよい。アミノ系シランカップリング剤40とリン酸41(H
2PO
4
-)との塩と接触させイオン交換する際は、RTILでもよく、RTILになりうるアニオンを含む塩(例えば、カチオンがLiやK、Naイオンである室温で固体の塩)の溶液などを用いてもよい。
【0042】
(製造方法C)
次に、第1の電解質層21の製造方法Cについて説明する。製造方法Cでは、まず、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、チオール系シランカップリング剤から選択される少なくとも1つのシランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するシランカップリング剤とする。その後、誘電体層12の表面に結合したOH基とシランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて、誘電体層12の表面上にシランカップリング剤を共有結合で固定する。
【0043】
その後、下記式(4)で表されるエポキシ基を有するRTILを、誘電体層12の表面上に固定したシランカップリング剤へ接触させた後に加熱し、下記式(4)のエポキシ基と、シランカップリング剤のアミノ基、エポキシ基、又はチオール基とを結合させ、上記式(1)で表される材料を形成する。以下、模式図を用いて具体的に説明する。
【化4】
【0044】
図6は、第1の電解質層の製造方法(製造方法C)を説明するための模式図である。
図6の上図に示すように、製造方法Cでは、シランカップリング剤部位51と有機反応部位52とを有する材料50を用いている。ここで、有機反応部位52は、アミノ基、エポキシ基、又はチオール基である。製造方法Cでは、材料50のシランカップリング剤部位51と誘電体層12の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応(脱水縮合)させて、シランカップリング剤部位51を誘電体層12の表面に固定する。
【0045】
その後、
図6の下図に示すように、エポキシ基54を有するRTIL53を、誘電体層12の表面上に固定したシランカップリング剤50へ接触させた後に加熱し、エポキシ基54と、シランカップリング剤の有機反応部位52とを結合させる。これにより、RTIL53を誘電体層12の表面に固定することができる。
図6の下図に示す構成では、アニオンとカチオンとが静電的に結合しており、アニオンは正電荷に沿って(つまり、図面の左右方向に)移動可能となる。
【0046】
以上で説明した製造方法A~Cを用いることで、誘電体層12の表面に第1の電解質層21を形成することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、上述したように第2の電解質層22の上に第3の電解質層を更に形成してもよい。第3の電解質層は、例えば導電性高分子を用いて構成できる。第3の電解質層には、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の導電性高分子を用いることができる。第3の電解質層は、化学重合、電解重合、又は導電性高分子を含む分散液若しくは導電性高分子を含む液体を用いた方法等を用いて形成できる。第3の電解質層を形成する際は、第2の電解質層22を形成した方法と異なる方法を用いて形成するのが好ましい。
【0048】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる固体電解コンデンサは、固体電解質層13として第1の電解質層21と第2の電解質層22とを備える。第1の電解質層21はイオン伝導の電解質層であり、第2の電解質層22は電子伝導の電解質層である。つまり、誘電体層12上に緻密にイオン伝導の第1の電解質層21を形成し、その上に、良好な伝導特性を示す電子伝導の第2の電解質層22を形成しているので、固体電解コンデンサの静電容量出現率を向上させることができる。
【0049】
また、上述したように、本実施の形態では、RTIL由来のアニオンとカチオンからなる塩部位を含む第1の電解質層21を誘電体層12の表面に固定している。よって、RTILが固体電解質層13から流れ出ることを抑制できるので、RTILの流出に起因した特性の劣化を抑制することができる。
【0050】
すなわち、固体電解質にイオン液体を用いた場合は、イオン液体が固体電解質層13から流れ出てしまう恐れがあった。例えばイオン液体が固体電解質層13からリードフレームに流れ出た場合は、この流れ出たイオン液体に起因して固体電解コンデンサの特性が劣化(漏れ電流(LC)増加など)する場合があった。これに対して本実施の形態では、シランカップリング剤等を用いて、イオン液体を含む第1の電解質層21を誘電体層12の表面に固定している。よって、イオン液体が固体電解質層13から流れ出ることを抑制できるので、イオン液体の流出に起因した特性の劣化を抑制することができる。
【実施例0051】
以下、本開示を実施例に基づき更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
実施例1にかかるサンプルとして、上述の製造方法A(
図4参照)を用いて第1の電解質層21を形成したサンプルを作製した。
【0053】
具体的には、まず、弁金属としてのタンタル微粉末の焼結体を、リン酸水溶液中において50Vで陽極酸化し、タンタル微粉末の焼結体の表面全体に酸化タンタルからなる誘電体層12を形成してコンデンサ素子を形成した。
【0054】
次に、誘電体層12の上に、上述の製造方法A(
図4参照)を用いて第1の電解質層21を形成した。実施例1では、シランカップリング剤部位31と塩部位32とが一体となったRTIL材料30として、メトキシシリル基導入アルキルアミン-TFSIを用いた。
【0055】
次に、化学重合を用いて第2の電解質層22を形成した。具体的には、第1の電解質層21上で、酸化剤と、導電性高分子を構成するための単量体3,4‐エチレンジオキシチオフェンとを反応させる。その後、未反応の酸化剤と単量体を水やアルコールを用いた洗浄を行った。それを複数回繰り返して第1の電解質層21上に導電性高分子層(第2の電解質層)を形成した。
【0056】
第2の電解質層22を形成した後、カーボンペーストにペレットを浸漬し、引き上げ、120℃で1時間乾燥を行い、カーボン層を形成した。カーボン層を形成した後、銀ペーストにペレットを浸漬し、引き上げ、120℃で1時間乾燥を行い、銀層を形成した。続いて、弁金属リードと電極とを溶接して接続した。また、導電性接着剤を用いて銀層と電極とを接続した。その後、外装樹脂を形成して固体電解コンデンサを作製した。
【0057】
<実施例2~5>
実施例2~5にかかるサンプルとして、上述の製造方法B(
図5参照)を用いて第1の電解質層21を形成したサンプルを作製した。なお、製造方法Bを用いて第1の電解質層21を形成した点以外は、実施例1と同様である。
【0058】
実施例2では、
図5に示すアミノ系シランカップリング剤40としてKBM-903(アミノ系、親水型、信越化学工業株式会社社製)を準備した。そして、アミノ系シランカップリング剤のアルコキシル基を加水分解させ、シラノール基を有するアミノ系シランカップリング剤とした。その後、誘電体層12の表面に結合したOH基とアミノ系シランカップリング剤のシラノール基とを脱水縮合させて、誘電体層12の表面上にアミノ系シランカップリング剤40を共有結合で固定した。
【0059】
その後、
図5の中央図に示すように、アミノ系シランカップリング剤40とリン酸41(H
2PO
4
-)との塩を形成した。次に、
図5の下図に示すように、RTILである1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI-TFSI)を接触させ、リン酸41とRTILアニオン42とをイオン交換した。このときのRTILアニオン42は、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)である。また、このときの残渣(リン酸など)は、アルコール洗浄により洗い流した。このような方法により、第1の電解質層21を形成した。以降の製造方法は、実施例1と同様である。
【0060】
なお、実施例3では、アミノ系シランカップリング剤40としてKBM-573(アミノ系、疎水型、信越化学工業株式会社社製)を使用した。実施例4では、アミノ系シランカップリング剤40としてKBM-603(アミノ系、親水型、信越化学工業株式会社社製)を使用し、RTILには、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム-エチルスルホナート(EMI-ES)を使用した。このときのRTILアニオン42は、エチルスルホナート(ES)である。実施例5では、アミノ系シランカップリング剤40としてKBM-6803(アミノ系、疎水型、信越化学工業株式会社社製)を使用し、RTILには、1‐ブチル‐3‐メチルピリジニウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド(BMP-FSI)を使用した。このときのRTILアニオン42は、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)である。これ以外は、実施例2と同様の方法を用いて実施例3~5にかかるサンプルを作製した。
【0061】
<実施例6~10>
実施例6~10にかかるサンプルとして、上述の製造方法C(
図6参照)を用いて第1の電解質層21を形成したサンプルを作製した。なお、製造方法Cを用いて第1の電解質層21を形成した点以外は、実施例1と同様である。
【0062】
実施例6では、
図6に示すシランカップリング剤部位51と有機反応部位52とを有する材料50として、KBM-403(グリシジル系、信越化学工業株式会社社製)を準備した。KBM-403は、有機反応部位52としてエポキシ基を有する。実施例6では、KBM-403のシランカップリング剤部位51と誘電体層12の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応(脱水縮合)させて、シランカップリング剤部位51を誘電体層12の表面に固定した。
【0063】
その後、
図6の下図に示すように、エポキシ基54を有するイオン液体53(エポキシ基導入アルキルアミン-TFSI)を、誘電体層12の表面上に固定したKBM-403へ接触させた後に加熱し、エポキシ基54と、シランカップリング剤の有機反応部位52(エポキシ基)とを結合させた。このような方法により、第1の電解質層21を形成した。以降の製造方法は、実施例1と同様である。
【0064】
なお、実施例7では、材料50として、KBM-903(アミノ系、親水型、信越化学工業株式会社社製)を使用した。実施例8では、材料50としてKBM-573(アミノ系、疎水型、信越化学工業株式会社社製)を使用した。実施例9では、材料50としてKBM-603(アミノ系、親水型、信越化学工業株式会社社製)を使用した。実施例10では、材料50としてKBM-6803(アミノ系、疎水型、信越化学工業株式会社社製)を使用した。これ以外は、実施例6と同様の方法を用いて実施例7~10にかかるサンプルを作製した。
【0065】
<比較例1>
比較例1にかかるサンプルとして、KBM-403(グリシジル系、信越化学工業株式会社社製)を用いて、第1の電解質層を形成したサンプルを作製した。具体的には、KBM-403のシランカップリング剤部位と誘電体層の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応(脱水縮合)させて、シランカップリング剤部位を誘電体層の表面に固定して、シランカップリング剤層を形成した。これ以外の製造方法は、実施例1の製造方法と同様である。
【0066】
<比較例2>
比較例2にかかるサンプルとして、KBM-403(グリシジル系、信越化学工業株式会社社製)とEMI-TFSIを用いて、第1の電解質層を形成したサンプルを作製した。具体的には、KBM-403のシランカップリング剤部位と誘電体層の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応(脱水縮合)させて、シランカップリング剤部位を誘電体層の表面に固定した。その後、誘電体層12の表面上に固定したKBM-403とEMI-TFSIとを接触させて、第1の電解質層21を形成した。以降の製造方法は、実施例1と同様である。
【0067】
<比較例3>
比較例3にかかるサンプルとして、KBM-403とEMI-TFSIを用いて、サンプルを作製した。具体的には、KBM-403のシランカップリング剤部位と誘電体層の表面に存在しているOH基とをシランカップリング反応(脱水縮合)させて、シランカップリング剤部位を誘電体層の表面に固定して、シランカップリング剤層を形成した。次に、酸化剤と、導電性高分子を構成するための単量体3,4‐エチレンジオキシチオフェンとを反応させた。その後、未反応の酸化剤と単量体を水やアルコールを用いた洗浄を行った。それを複数回繰り返して第1の電解質層21上に導電性高分子層を形成した。その後、このコンデンサ素子をイオン液体である1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI-TFSI)へ10分間浸漬し、室温で30分間保持し、アルコールで洗浄を行った。この工程を経て、導電性高分子層と、イオン液体である1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドとからなる電解質層を形成した。以降の製造方法は、実施例1と同様である。
【0068】
<サンプルの評価>
上述のようにして作製した固体電解コンデンサをリフローはんだ工程を実施して評価基板に実装し、その後、コンデンサ特性の評価(静電容量出現率(Cap出現率)、特性不良発生率)を行った。Cap出現率の評価は、電解酸化により誘電体酸化皮膜を形成した後に40%硫酸液中で測定した静電容量C0と、電解コンデンサを評価基板に実装した後に測定した静電容量C1とを用いて算出した。すなわち、次の式を用いてCap出現率(%)を求めた。
Cap出現率(%)=C1/C0×100
【0069】
特性不良発生率の評価は、電解コンデンサを評価基盤に実装し、85℃85%RH条件下で500時間電圧印加時の評価数20pとその評価数のうち特性不良が発生した製品数から算出した。
【0070】
各サンプルの評価結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~実施例10ではCap出現率が83%以上となり良好な結果となった。また、実施例1~実施例10では特性不良発生率が0%となり、良好な結果となった。
【0071】
一方、比較例1ではCap出現率が80%と低い値となった。この理由は、比較例1では、第1の電解質層にイオン液体が含まれていなかったからであると考えられる。
【0072】
また、比較例2ではCap出現率が80%と比較例1と同様に低い値となった。この理由は、比較例2では、誘電体層へイオン液体を固定していないため、以降の洗浄により流れ出し、第1の電解質層にイオン液体が含まれていなかったからであると考えられる。
【0073】
また、比較例3ではCap出現率が93%以上となり良好な結果となった。しかし、比較例3では特性不良発生率が10%となり、高い値となった。この理由は、比較例3では、シランカップリング剤であるKBM-403とRTILであるEMI-TFSIとが静電的にも化学的にも結合していないため、RTILが評価中に第1の電解質層から流れ出たためであると考えられる。
【0074】
【0075】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。