(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006185
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ロボット作業システム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B25J13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106825
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】一藁 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】長井 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS10
3C707KS17
3C707KS20
3C707KS21
3C707KT03
3C707KT06
3C707LT06
3C707LT11
3C707LV19
(57)【要約】
【課題】高放射線等の過酷環境下において多関節ロボットの関節状態量を推定することができるロボット作業システムを提供すること。
【解決手段】複数のリンクを複数の関節で連続的に連結して構成された多関節ロボットと、多関節ロボットの先端のリンクの位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置と、多関節ロボットの駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置と、リンク計測装置の計測結果と駆動制御装置からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とを用いて、多関節ロボットの複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクを複数の関節で連続的に連結して構成された多関節ロボットと、
前記多関節ロボットの先端のリンクの位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置と、
前記多関節ロボットの駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置と、
前記リンク計測装置の計測結果と前記駆動制御装置からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とを用いて、前記多関節ロボットの複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置と
を備えたことを特徴とするロボット作業システム。
【請求項2】
請求項1記載のロボット作業システムにおいて、
前記関節状態推定装置は、
前記駆動制御装置からの関節動作指令と過去の推定関節状態とから複数の関節状態候補を生成する関節状態候補生成部と、
前記関節状態候補生成部で生成された関節状態候補に対応するリンクの位置及び姿勢を計算する順運動学計算部と、
前記順運動学計算部で計算されたリンクの位置及び姿勢と前記リンク計測装置で計測されたリンクの位置及び姿勢との誤差を用いて、前記順運動学計算部で計算されたリンクの位置及び姿勢の尤度を計算する尤度計算部と、
前記関節状態候補生成部で生成された複数の関節状態候補を前記尤度計算部で計算された尤度でそれぞれ重み付けして推定関節状態を求める重み付け部と
を備えたことを特徴とするロボット作業システム。
【請求項3】
請求項2記載のロボット作業システムにおいて、
前記関節状態候補生成部は、過去の推定関節状態に前記駆動制御装置からの関節動作指令に応じた確率的なノイズを加えることを特徴とするロボット作業システム。
【請求項4】
複数個のリンクを複数個の関節で連続的に連結された多関節ロボットと、
前記多関節ロボットのいずれかのリンクの位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置と、
前記多関節ロボットの駆動を制御する関節動作指令を出力する駆動制御装置と、
前記多関節ロボットの少なくとも一つの関節状態量を計測する関節状態計測装置と
前記リンク計測装置の計測結果と前記駆動制御装置からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値と前記関節状態計測装置の計測結果とを用いて、前記多関節ロボットの複数の関節の状態を示す関節状態量を推定する関節状態推定装置と、
を備えたことを特徴とするロボット作業システム。
【請求項5】
請求項4記載のロボット作業システムにおいて、
前記関節状態推定装置は、
前記駆動制御装置からの関節動作指令と過去の推定関節状態と前記関節状態計測装置の計測値とから複数の関節状態候補を生成する関節状態候補生成部と、
前記関節状態候補生成部で生成された関節状態候補に対応するリンクの位置及び姿勢を計算する順運動学計算部と、
前記順運動学計算部で計算されたリンクの位置及び姿勢と前記リンク計測装置で計測されたリンクの位置及び姿勢との誤差を用いて、前記順運動学計算部で計算されたリンクの位置及び姿勢の尤度を計算する尤度計算部と、
前記関節状態候補生成部で生成された複数の関節状態候補を前記尤度計算部で計算された尤度でそれぞれ重み付けして推定関節状態を求める重み付け部と
を備えたことを特徴とするロボット作業システム。
【請求項6】
請求項5記載のロボット作業システムにおいて、
前記関節状態候補生成部は、生成した複数の関節状態候補のうち前記関節状態計測装置の計測値に対応する関節状態候補をその計測値で置換することを特徴とするロボット作業システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット作業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の立入りが難しい災害現場等の過酷環境において状況を改善していくためには、遠隔地にいるオペレータが遠隔操作装置を用いながら、作業対象物の把持、切断、穿孔等の作業を安全に行う必要がある。その際、高放射線環境等の過酷環境では、電子機器を搭載したロボット状態センサでは高放射線に耐性がないため、そのほかのロボット等の状態を把握する手段が求められる。耐放射線性を有する画像センサを用いて、ロボット等の状態を把握する従来技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1には、少なくとも一つの関節を有するロボットの手先の位置・姿勢を制御するロボット制御装置において、全体座標での前記手先の位置・姿勢の目標値を受けてロボット座標空間における前記手先の位置・姿勢の目標値である変換目標値に変換する第1座標変換部と、前記第1座標変換部の出力と、フィードバック情報との差を算出する減算部と、前記減算部の出力に基づいて前記ロボットへの関節角度の制御指令を計算する逆運動学計算部と、前記ロボットからの関節角度信号に基づきロボット座標空間における前記手先の位置・姿勢を計算する順運動学計算部と、前記手先の位置・姿勢に基づいて、全体座標での前記手先の位置・姿勢に変換するための座標変換式を導出する座標変換式導出部と、逆運動学計算および順運動学計算の計算式をロボット構造データに基づき導出する逆運動学・順運動学計算式導出部と、前記ロボットに取り付けられたカメラで撮影した前記ロボットの周辺のカメラ画像に基づき前記カメラ画像をディジタル演算可能に処理するカメラ画像処理部と、前記カメラ画像処理部から出力されるカメラ画像に基づいて、前記手先の位置・姿勢を推定する位置・姿勢推定部と、前記位置・姿勢推定部で推定された前記手先の位置・姿勢をロボット座標に変換する第2座標変換部と、前記順運動学計算部の出力と前記第2座標変換部の出力に基づいて、前記フィードバック情報を作成するフィードバック情報生成部と、を備えるロボット制御装が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、カメラ画像に基づいてロボットの手先位置を推定している。しかしながら、ロボットの各関節の関節状態量を検出することはできず、検出したい場合はセンサの追設が必要となる。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、高放射線等の過酷環境下において多関節ロボットの関節状態量を推定することができるロボット作業システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、複数のリンクを複数の関節で連続的に連結して構成された多関節ロボットと、前記多関節ロボットの先端のリンクの位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置と、前記多関節ロボットの駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置と、前記リンク計測装置の計測結果と前記駆動制御装置からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とを用いて、前記多関節ロボットの複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高放射線等の過酷環境下において多関節ロボットの関節状態量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係るロボット作業システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】関節状態推定装置の処理機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態に係る関節状態推定モデルの一例を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る関節状態推定装置における関節状態推定処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施の形態に係るロボット作業システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図6】第2の実施の形態に係る関節状態推定モデルの一例を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る関節状態推定装置における関節状態推定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1~
図4を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係るロボット作業システムの全体構成を概略的に示す図である。
【0013】
図1において、本実施の形態に係るロボット作業システム1は、複数のリンク21,22,23を複数の関節24,25で連続的に連結して構成された多関節ロボット2と、多関節ロボット2の先端のリンク23の位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置3と、多関節ロボット2の駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置5と、リンク計測装置3の計測結果と駆動制御装置5からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とを用いて、多関節ロボット2の複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置4とを備えている。なお、本実施の形態においては、3つのリンク21,22,23を関節24、25で連結して構成される多関節ロボット2を例示して説明するが、リンク数(関節数)が異なる多関節ロボットにおいても本発明を適用することが可能である。
【0014】
多関節ロボット2は、複数個(例えば、3個)のリンク21,22,23が、複数個(例えば、2個)の関節24、25で連続的に連結されている。本実施の形態においては、関節24,25として回転関節を例示して説明するが、これに限られず、直動関節やパラレルリンク関節等のような他の種類の関節でも良い。多関節ロボット2は、物体のハンドリング、もしくは移動が可能であり、部品の組み立て、画像取得や搬送など所定の作業を行う。なお、多関節ロボット2の機能は、ロボットアーム単体のように物体操作や画像取得を目的とするものでもよく、クローラや車輪、脚などを備えた移動用途のものや、これら両方を備えたものでもよい。
【0015】
リンク計測装置3は、多関節ロボット2の先端のリンク23の位置及び姿勢の少なくとも一方を計測する装置である。リンク計測装置3は、詳しくは、計測器と、計測器の計測値を処理して多関節ロボット2の先端のリンク23の位置及び姿勢の少なくとも一方を算出する処理部とを含んで構成されている。なお、リンク計測装置3の計測手段は限定されず、例えば、リンク23に取り付けられた画像センサで得られた画像情報をもとに自己位置(リンク23の位置や姿勢)を推定する方法や、リンク23に取り付けたIMU(Inertial Measurement Unit)のような慣性センサの計測値から自己位置(リンク23の位置や姿勢)を推定する方法、或いは、リンク23に取り付けたARマーカ等のランドマークを作業環境に取り付けた画像センサによって撮像した画像情報をもとにリンク23の位置や姿勢を計測する方法、これらの方法を組み合わせた手法などが考えられる。
【0016】
駆動制御装置5は、多関節ロボット2に関節動作指令を送信し、関節24,25の駆動を制御する装置である。関節動作指令は、関節24,25を構成するアクチュエータの動作(動作方向、動作速度、など)を指示する信号であり、例えば、アクチュエータがモータである場合には印加する電流等を、流体圧駆動である場合には印加する圧力などを関節動作指令として送信することが考えられる。関節動作指令の生成は、駆動制御装置5に備えたキーボードやマウス、ゲームコントローラなどの入力部(図示せず)を用いてロボットの操作者の操作により行われてもよく、或いは、指令生成部を別途備えて自動で生成するように構成してもよい。
【0017】
関節状態推定装置4は、駆動制御装置5から多関節ロボット2に送信される関節動作指令と、過去の関節状態量の推定値とから関節状態量を推定する。
【0018】
図2は、関節状態推定装置の処理機能を模式的に示す機能ブロック図である。
【0019】
図2において、関節状態推定装置4はコンピュータであり、入出力部41、記憶部42、および制御部43を備えている。
【0020】
入出力部41には、例えば、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザーインターフェース機器が接続される。入出力部41では、後述する関節状態推定モデルのパラメータの入力や推定関節状態の表示などを行う。入出力部41には、通信デバイスが備えられており、関節状態推定装置4とリンク計測装置3や駆動制御装置5などの装置との間でのデータ(信号)の送受信が可能である。
【0021】
記憶部42は、例えば、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成されている。記憶部42には、関節状態推定モデル421、プログラム422などが記憶されている。プログラム422は、関節状態推定処理(後の
図4参照)の記述を含む。
【0022】
制御部43は、取得部431や関節状態推定部432などの各処理機能を実行する。
【0023】
取得部431は、入出力部41を介して得られた各種入力や、記憶部42に格納された各種の記憶データを適宜のタイミングで取り出し、必要に応じて適宜の情報加工処理を施したうえで、制御部43内の他の機能において処理遂行する上で必要な情報を入手し、その利用に供する。
【0024】
関節状態推定部432は、記憶部42に記憶された関節状態推定モデル421を用いて、駆動制御装置5が多関節ロボット2に送信する関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とから関節状態量を推定する。関節状態量の推定値は、入出力部41においてロボットの操作者に表示してもよく、駆動制御装置5が指令生成部を有する場合には指令生成部に送信して目標値制御に用いるようにしてもよい。
【0025】
【0026】
図3において、関節状態推定モデル421は、関節状態候補生成部4211と、順運動学計算部4212と、尤度計算部4213と、重み付け部4214を含んで構成される。
【0027】
関節状態候補生成部4211は、駆動制御装置5が多関節ロボット2に送信する関節動作指令と過去の推定関節状態とから推定される複数の関節状態候補を生成する。生成可能な候補の個数には限界があるが、生成される候補の個数が多いほど推定精度の向上が期待される。一方で、計算量の増加は演算負荷や速度などの観点から抑制が求められるため、精度と計算量がトレードオフであることを考慮して関節状態候補の生成個数を設定する。なお、関節状態候補生成部4211による間接状態候補の生成における最初の時刻(生成処理の開始時)には、過去の推定関節状態がないため、適当な値を初期値として用いるか、或いは、多関節ロボット2の機械端点に駆動し既知の関節状態を用いる。
【0028】
例えば、4つの関節(関節状態:θ1,θ2,θ3,θ4)から構成される多関節ロボットを考える。ここでは、関節状態θ1に対応する関節を正方向に動作させる関節動作指令を送信した場合を考える。このとき、関節状態θ1が増加することが予測されるため、正の値の摂動(すなわち、確率的なノイズ)を加えることで関節状態候補を得る。なお、他の関節状態θ2~θ3に加える摂動は0(ゼロ)としてもよく、或いは、関節状態θ1に比べて小さい値の摂動を加えてもよい。また、摂動は関節動作指令を考慮した値であればよく、例えば、平均値u、分散v(u、v>0)を持つガウス分布関数gを考えた場合、関節動作指令に応じて、正方向の動作指令の場合には(+g)を、負方向の動作指令の場合には(-g)を、動作指令のない場合には(+0)を摂動とする。この場合には、平均値u、分散vはパラメータであり、動作指令に対しその関節がどの程度動くか、ばらつきがあるかを事前に概算して設定し、記憶部42に保持しておく。また、ガウス分布関数ではなく、一定の範囲の一様分布やt分布など他の確率分布関数を用いてもよい。
【0029】
順運動学計算部4212は、関節状態候補生成部4211で生成された関節状態候補に対応するリンクの位置及び姿勢を計算する。多関節ロボット2では、全ての関節状態が決まれば、リンクの位置及び姿勢は一意に決まる。一般に、このような計算を順運動学計算と称する。この順運動学計算は、多関節ロボット2の設計時に把握可能であるリンクの長さ、関節の位置と種類に関する情報を基に実施される。
【0030】
尤度計算部4213は、順運動学計算部4212で計算されたリンクの位置及び姿勢と、リンク計測装置3で得られた先端のリンク23の位置及び姿勢の少なくとも一方との誤差を用いて、関節状態候補の尤度を計算する。尤度とは、観測値が与えられたとき、それを説明するモデルや分布などの母数(パラメータ)の値の尤もらしさの度合いのことである。尤度はパラメータの関数として表すことができるので尤度関数とも言う。尤度計算部4213で計算した尤度は、重み付け部4214における関節状態候補の重み付けに用いるため、誤差が小さいほど大きくなり、誤差が大きいほど小さくなる関数であればよく、例えば、誤差を用いたガウス関数などが考えられる。
【0031】
重み付け部4214は、関節状態候補生成部4211で生成した関節状態候補と尤度計算部で計算した尤度とを用いて関節状態候補に重み付けを行い、重み付けされた関節状態候補を推定関節状態として関節状態候補生成部4211に出力する。また、重み付け部4214で生成した推定関節状態は、関節状態推定モデル421での演算結果として出力される。
【0032】
図4は、関節状態推定装置における関節状態推定処理を示すフローチャートである。
図4に示すように、関節状態推定装置4は、関節状態推定処理(ステップS100~S150)のサイクルを繰り返すことで連続的に多関節の関節状態を推定する。
【0033】
関節状態推定処理において、関節状態推定装置4は、まず、駆動制御装置5から関節動作指令を取得する(ステップS100)。
【0034】
続いて、リンク計測装置3から計測値を取得する(ステップS110)。
【0035】
続いて、駆動制御装置5から取得した関節動作指令を参照し、過去の推定関節状態に摂動を加え、複数の関節状態候補を生成する(ステップS120)。なお、過去の推定関節状態が無い初回の演算の場合は、適宜初期値を用いて関節状態候補を生成する。
【0036】
続いて、ステップS120で生成した複数の関節状態候補にそれぞれ対応するリンク位置・姿勢を算出する(ステップS130)。
【0037】
続いて、ステップS110で取得した計測値と、ステップS130で算出した複数のリンク位置・姿勢とから、複数のリンク位置・姿勢に対応する尤度をそれぞれ計算する(ステップS140)。
【0038】
続いて、ステップS120で生成した複数の関節状態候補を、ステップS140で算出した尤度でそれぞれ重み付けし、推定関節状態として取得し、出力する(ステップS150)。なお、ステップS150で算出した推定関節状態は、次の処理サイクル以降の関節状態候補の生成(ステップS120)において、過去の推定関節状態として用いられる。
【0039】
以上のように構成した本実施の形態における作用効果を説明する。
【0040】
高放射線環境のような過酷環境下において多関節ロボットの作業システムを用いる場合、高放射線に耐性がない電子機器を搭載したロボット状態センサを用いることができないため、ロボットの状態を把握する他の手段が求められる。例えば、カメラ画像に基づいてロボットの手先位置を推定するロボット作業システムにおいては、ロボットの各関節の関節状態量を検出することはできないため、関節状態量を検出しようとする場合には高放射線に耐性のあるセンサの追設が必要となる。
【0041】
これに対して、本実施の形態においては、複数のリンクを複数の関節で連続的に連結して構成された多関節ロボットと、多関節ロボットの先端のリンクの位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置と、多関節ロボットの駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置と、リンク計測装置の計測結果と駆動制御装置からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値とを用いて、多関節ロボットの複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置とを備えて構成したので、高放射線等の過酷環境下において多関節ロボットの関節状態量を推定することができる。
【0042】
すなわち、従来のロボット作業システムでは、関節状態の把握のために、複数の関節に対し複数のセンサが必要であり、耐放射線性を担保したうえでロボットにセンサを設置することが困難であったが、本実施の形態においては、多関節ロボットの関節状態を直接計測するセンサなしに、先端のリンク位置や姿勢を計測するセンサのみによって複数の関節状態を推定することができ、単一のセンサ、例えば画像センサのみで複数の関節状態を把握することができる。
【0043】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図5~
図7を参照しつつ説明する。
【0044】
本実施の形態は、関節状態を直接的に計測するセンサを用いない構成とした第1の実施の形態に対して、一部の関節状態を直接的に計測する構成とするものである。なお、本実施の形態において、第1の実施の形態と同様の部材について同じ符号を用いて説明し、適宜説明を省略する。
【0045】
図5は、本実施の形態に係るロボット作業システムの全体構成を概略的に示す図である。
【0046】
図5において、本実施の形態に係るロボット作業システム1Aは、複数のリンク21,22,23を複数の関節24,25で連続的に連結して構成された多関節ロボット2と、多関節ロボット2の先端のリンク23の位置と姿勢の少なくとも一方を計測するリンク計測装置3と、多関節ロボット2の駆動を制御する関節動作指令を送信する駆動制御装置5と、多関節ロボット2の少なくとも一つの関節の関節状態量を計測する関節状態計測装置6と、リンク計測装置3の計測結果と駆動制御装置5からの関節動作指令と過去の関節状態量の推定値と関節状態計測装置6からの計測結果とを用いて、多関節ロボット2の複数の関節の状態を示す関節状態を推定する関節状態推定装置4Aとを備えている。
【0047】
関節状態計測装置6は、多関節ロボット2の少なくとも一つの関節の関節状態量を計測する装置である。関節状態計測装置6の計測手段は限定されず、例えば、回転関節の回転角(回転量)を計測するエンコーダや、リンク間に取り付けたランドマークを画像センサで撮像しそれぞれの相対位置・姿勢から計測する計測装置などが考えられる。
【0048】
図6は、本実施の形態に係る関節状態推定モデルの一例を示す図である。
【0049】
図6において、関節状態推定モデル421Aは、関節状態候補生成部4211Aと、順運動学計算部4212と、尤度計算部4213と、重み付け部4214を含んで構成される。
【0050】
関節状態候補生成部4211Aは、駆動制御装置5が多関節ロボット2に送信する関節動作指令と過去の推定関節状態とから推定される複数の関節状態候補を生成する。また、関節状態候補生成部4211Aは、生成した複数の関節状態候補のうち関節状態計測装置6の計測値に対応する関節状態候補をその計測値で置換する。順運動学計算部4212及び重み付け部4214では、関節状態候補生成部4211Aで生成され、一部が関節状態計測装置6の計測値で置換された関節状態候補を用いて処理を行う。
【0051】
図7は、本実施の形態に係る関節状態推定装置における関節状態推定処理を示すフローチャートである。
図7に示すように、関節状態推定装置4Aは、関節状態推定処理(ステップS100~S150)のサイクルを繰り返すことで連続的に多関節の関節状態を推定する。
【0052】
関節状態推定処理において、関節状態推定装置4Aは、まず、駆動制御装置5から関節動作指令を取得する(ステップS100)。
【0053】
続いて、関節状態計測装置6から計測値を取得する(ステップS105)。
【0054】
続いて、リンク計測装置3から計測値を取得する(ステップS110)。なお、ステップS105,S110の順番は前後しても良い。
【0055】
続いて、駆動制御装置5から取得した関節動作指令を参照し、過去の推定関節状態に摂動を加え、複数の関節状態候補を生成する(ステップS120)。なお、過去の推定関節状態が無い初回の演算の場合は、適宜初期値を用いて関節状態候補を生成する。
【0056】
続いて、生成した複数の関節状態候補のうち関節状態計測装置6の計測値に対応する関節状態候補をその計測値で置換する(ステップS125)。この処理によって、直接計測された関節状態を他の関節状態の推定に利用することができる。なお、ステップS125ではステップS120で生成した複数の関節状態候補の一部を計測値で置換する場合を例示したが、例えば、ステップS120において関節状態候補を取得する際に、一部の関節情報候補として関節状態計測装置6からの計測値を直接参照して用いるように構成してもよい。
【0057】
続いて、ステップS120,S125で生成した複数の関節状態候補にそれぞれ対応するリンク位置・姿勢を算出する(ステップS130)。
【0058】
続いて、ステップS110で取得した計測値と、ステップS130で算出した複数のリンク位置・姿勢とから、複数のリンク位置・姿勢に対応する尤度をそれぞれ計算する(ステップS140)。
【0059】
続いて、ステップS120で生成した複数の関節状態候補を、ステップS14で算出した尤度でそれぞれ重み付けし、推定関節状態として取得し、出力する(ステップS150)。なお、ステップS150で算出した推定関節状態は、次の処理サイクル以降の関節状態候補の生成(ステップS120)において、過去の推定関節状態として用いられる。
【0060】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0061】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
また、一部の関節状態を直接的に計測可能な場合には、直接計測された関節状態を他の関節状態の推定に利用することができる。すなわち、信頼性の高い直接計測された計測値を参照して用いるため、推定精度の向上が期待される。
【0063】
<付記>
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0064】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれ機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又はICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0065】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0066】
1,1A…ロボット作業システム、2…多関節ロボット、3…リンク計測装置、4,4A…関節状態推定装置、5…駆動制御装置、6…関節状態計測装置、21,22,23…リンク、24,25…関節、41…入出力部、42…記憶部、43…制御部、421,421A…関節状態推定モデル、422…プログラム、431…取得部、432…関節状態推定部、4211,4211A…関節状態候補生成部、4212…順運動学計算部、4213…尤度計算部、4214…重み付け部