(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006191
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】プラズマ照射下の対象物の温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20250109BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N24/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106835
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正澄
(72)【発明者】
【氏名】押味 佳裕
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA01
2G043HA09
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA09
2G043LA03
(57)【要約】
【課題】プラズマ照射下の対象物の温度を測定できる技術を提供すること。
【解決手段】対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴に基づいて測定する方法であって、(a)プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する工程、(b)各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する工程、(c)得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する工程を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴に基づいて測定する方法であって、
(a)プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する工程、
(b)各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する工程、
(c)得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程(c)が、
(cx)光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて蛍光強度を補正する工程、及び
(cy)得られた補正値に基づいて、対象物の温度を算出する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無機蛍光粒子がNVセンター含有ダイヤモンドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無機蛍光粒子の粒子径が40nm以上1000nm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)において、対象物への励起光の照射及び対象物からの蛍光の収集を顕微鏡対物レンズを介して行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記顕微鏡対物レンズの開口数が0.3以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象物が無機物又は有機物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記対象物がシリコン層を含むシートである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記対象物が半導体素子製造における中間品である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象物の温度の経時変化を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法を含む、半導体素子又はその中間品の製造方法。
【請求項12】
前記プラズマ照射がレジスト除去のためのプラズマ照射であり、請求項9に記載の方法によりレジストの表面温度の経時変化を測定しながらレジスト除去を行う、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
(A)マイクロ波照射装置、(B)光子数カウンタ、及び(D)温度を算出する演算部を備える、請求項1~10のいずれかに記載の方法に使用する温度測定装置。
【請求項14】
請求項13に記載の温度測定装置を備える、半導体素子又はその中間品の製造装置。
【請求項15】
前記プラズマ照射がレジスト除去のためのプラズマ照射であり、請求項9に記載の方法によりレジストの表面温度の経時変化を測定しながらレジスト除去を行う、請求項14に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ照射下の対象物の温度測定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造においては、温度制御が、その品質や生産効率に大きな影響を与えており、エッチング工程において加熱、冷却などの温度制御技術が使用されている。この温度制御の基礎となるのが温度測定技術である。エッチング工程においては、プラズマを用いたドライエッチングが多く採用されており、このためプラズマ照射下でも対象物の温度を測定できる技術が必要である。
【0003】
特許文献1には、光ファイバ温度センサを用いたプラズマガス温度測定装置が開示されている。しかしながら、光ファイバ温度計は、数十~数百ナノメートルのレジスト薄膜そのものの温度を測ることができない。
【0004】
また、温度測定技術としては、他に蛍光色素温度計が知られている。しかし、この技術で使用する色素分子は、プラズマにより分解されてしまうので、プラズマ照射下での対象物の温度の測定に使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-039094号公報
【特許文献2】国際公開第2014/165505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラズマ照射下の対象物の温度を測定できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴に基づいて測定する方法であって、(a)プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する工程、(b)各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する工程、(c)得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する工程を含む、方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴に基づいて測定する方法であって、
(a)プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する工程、
(b)各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する工程、
(c)得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する工程
を含む、方法。
【0009】
項2. 前記工程(c)が、
(cx)光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて蛍光強度を補正する工程、及び
(cy)得られた補正値に基づいて、対象物の温度を算出する工程
を含む、項1に記載の方法。
【0010】
項3. 前記無機蛍光粒子がNVセンター含有ダイヤモンドである、項1に記載の方法。
【0011】
項4. 前記無機蛍光粒子の粒子径が40nm以上1000nm未満である、項1に記載の方法。
【0012】
項5. 前記工程(b)において、対象物への励起光の照射及び対象物からの蛍光の収集を顕微鏡対物レンズを介して行う、項1に記載の方法。
【0013】
項6. 前記顕微鏡対物レンズの開口数が0.3以上である、項5に記載の方法。
【0014】
項7. 前記対象物が無機物又は有機物である、項1に記載の方法。
【0015】
項8. 前記対象物がシリコン層を含むシートである、項1に記載の方法。
【0016】
項9. 前記対象物が半導体素子製造における中間品である、項1に記載の方法。
【0017】
項10. 前記対象物の温度の経時変化を測定する、項1に記載の方法。
【0018】
項11. 項9に記載の方法を含む、半導体素子又はその中間品の製造方法。
【0019】
項12. 前記プラズマ照射がレジスト除去のためのプラズマ照射であり、項9に記載の方法によりレジストの表面温度の経時変化を測定しながらレジスト除去を行う、項11に記載の製造方法。
【0020】
項13. (A)マイクロ波照射装置、(B)光子数カウンタ、及び(D)温度を算出する演算部を備える、項1~10のいずれかに記載の方法に使用する温度測定装置。
【0021】
項14. 項13に記載の温度測定装置を備える、半導体素子又はその中間品の製造装置。
【0022】
項15. 前記プラズマ照射がレジスト除去のためのプラズマ照射であり、項9に記載の方法によりレジストの表面温度の経時変化を測定しながらレジスト除去を行う、項14に記載の製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、プラズマ照射下の対象物の温度を測定できる技術を提供することができる。具体的には、温度測定方法、温度測定装置、さらにはこれらを備える半導体素子の製造方法、半導体素子製造装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)はODMRスペクトルの一例を示すグラフである。(b)は、ODMRスペクトルのピーク値の温度依存性の一例を示すグラフである。
【
図3】実施例におけるODMR温度測定で使用した装置における光学配置とマイクロ波回路の概略図を示す。NDF:NDフィルター。LLF:レーザーラインフィルター。 HWP:半波長板。L:レンズ。DBS:二色性ビームスプリッタ。LPF:ロングパスフィルター。CCD:電荷結合素子カメラ。BS:ビームスプリッタ。APD:アバランシェフォトダイオード。SPA:スペクトラムアナライザ。MW:マイクロ波源。DAQ:データ収集ボード。SpinCore:ビットパターンジェネレータ。
【
図4】実施例におけるプラズマ照射およびODMR測定実験の模式図を示す。
【
図5】プラズマによる背景光を調べた結果を示す。(a) 緑励起によるナノダイヤモンド蛍光画像。(b) 緑励起とプラズマ照射時の蛍光画像。 (c) ナノダイヤモンドの蛍光スペクトル(上:赤色)とプラズマの蛍光スペクトル(下:青色)。(d) 緑励起とプラズマ照射を同時に行ったとき(
図2(b))の蛍光スペクトル。
【
図6】プラズマ照射下における温度測定結果を示す。(a) ナノダイヤモンドの蛍光画像。(b)
図3(a)で、黄色矢印で示したナノダイヤモンドのODMRスペクトル。(c) プラズマ照射と遮断を繰り返したときに示す温度変化(ΔT
NV)のタイムプロファイル。 4秒ごとの移動平均の値をプロットしている。
【
図7】開口数ごとのプラズマの影響を示す。(a)-(d) 対物レンズの各開口数( (a) 0.25、(b) 0.4、(c) 0.7、(d) 0.9 )に対する、プラズマ照射下での蛍光スペクトル。(e) 開口数に対する、プラズマピーク強度(769 nmの輝線)とナノダイヤモンドの蛍光ピーク強度(681 nm)の比の依存性。当該比が0になるほど、温度測定に対するプラズマの影響が小さくなる。横軸(NA)は開口数を示す。
【
図8】異なるナノダイヤモンドを用いた温度変化(ΔT
NV)のタイムプロファイル((a) 50 nm、(b) 70 nm、(c) 140 nm、(d) 600 nm)を示す。 4秒ごとの移動平均の値をプロットしている。
【
図9】(a) プラズマ照射時のアルゴン風量速度ごとの温度変化プロファイル(風量速度:(i)0.65 L/min、(ii)0.45 L/min、(iii)0.65 L/min、(iv)0.45 L/min、(v)0.79 L/min、(vi)1.0 L/min、(vii)0.30 L/min)。プラズマ遮断中にアルゴン風量を(i)-(vii)の各速度に変更しプラズマの照射を実施。(b) 温度変化のアルゴン風量依存性。
【
図10】プラズマ照射スポットをナノダイヤに対してXYZ方向でスキャンした時の、温度分布を示す。XYZ方向は、図左方に示される通りである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
本発明は、その一態様において、対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴に基づいて測定する方法であって、(a)プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する工程、(b)各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する工程、(c)得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する工程を含む、方法(本明細書において、「本発明の測定方法」と示すこともある。)に関する。以下にこれについて説明する。
【0027】
本発明の測定方法は、対象物の温度を無機蛍光粒子の光検出磁気共鳴(以下、「ODMR」と示すこともある。)に基づいて測定する方法である。ODMRについては以下のとおりである。
【0028】
無機蛍光粒子は共鳴周波数のマイクロ波を吸収して電子スピン共鳴を示す。なお、電子スピン共鳴時には、電子励起状態において無輻射のエネルギー失活が増大するという特性を有する。そのため、マイクロ波照射時には、マイクロ波非照射時と比較して蛍光量が減少する。ダイヤモンドのNVセンターについて、外部磁場がゼロ磁場の場合には、電子スピン共鳴は周波数Fが2.87GHzにおいて発生する。
【0029】
図1(a)ODMRスペクトルの一例を示すグラフである。
図1(b)は、ODMRスペクトルのピーク値の温度依存性の一例を示すグラフである。
図1(a)のグラフG1に示すように、周波数Fが2.87GHz近傍のマイクロ波を照射した場合に、蛍光量が0.03程度減衰することが判る。ピーク(極小値)が2つに分かれているのは、結晶歪みによる効果である。第1周波数F1及び第2周波数F2の各々は、蛍光量が極小値となる周波数を示す。第2周波数F2は、第1周波数F1より大きい。
図1(b)に示すグラフの横軸は、温度Tを示し、縦軸は、ODMRスペクトルピークの周波数を示す。温度Tは、無機蛍光粒子の周囲温度を示す。グラフG2は、温度Tの変化に対する第2周波数F2の変化を示す。グラフG3は、温度Tの変化に対する第1周波数F1の変化を示す。グラフG2及びG3のとおり、周囲の温度変化によってODMRスペクトルピークがシフトすることが判る。そこで、このピークシフトに基づいて、温度を測定することができる。
【0030】
工程(a)では、プラズマ照射下の対象物の近傍に配置された無機蛍光粒子及び/又は前記対象物が保持する無機蛍光粒子に互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波を照射する。
【0031】
無機蛍光粒子は、電子スピン活性を有するものである限り、特に制限されない。具体的には、例えばダイヤモンド、炭化ケイ素、酸化亜鉛、2次元物質(例えば、六方晶系窒化ホウ素等)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはダイヤモンド(中でも、ナノサイズ(平均粒子径が1000nm未満)のダイヤモンド(ナノダイヤモンド))が挙げられる。
【0032】
ダイヤモンドは、単結晶又は多結晶のいずれでもよい。合成ダイヤモンドとしては、CVD法、高温高圧法、爆発法等で合成されたダイヤモンドが挙げられる。また、ダイヤモンドとしては、I型、II型(IIa型、Iib型など)等のダイヤモンドが挙げられる。
【0033】
ダイヤモンドの形状は、特に限定されない。形状としては、例えば、粒子、薄膜、シート等が挙げられる。
【0034】
ダイヤモンドは、好ましくはNVセンター(不純物として含まれる窒素原子と、炭素原子が欠落した空孔とを適切な位置関係で結合させることによって形成される発光センター)を含むダイヤモンド(NVセンター含有ダイヤモンド)である。NVセンターは、天然に含まれるものであってもよいし、人工的に導入されたものであってもよい。NVセンターを人工的に導入する方法は、特に制限されず、例えば窒素原子を注入後にアニール処理する方法や、ダイヤモンドの化学気相合成(CVD)時に窒素原子を導入する方法等が挙げられる。
【0035】
ダイヤモンドは、表面修飾されたものであることもできる。表面修飾の方法は特に制限されないが、例えば必要に応じてダイヤモンドを強い酸化条件で処理して表面の炭素をカルボキシ基に変換し、或いはダイヤモンドを還元してヒドロキシ基を導入し、或いは公知の方法に従って又は準じて他の官能基(アルキル基などの炭化水素基、アミノ基、チオール基等)を導入し、これを介して各種分子や物質を連結して表面修飾することができる。アルキル基等の疎水性官能基で表面修飾することにより、レジスト等の疎水性の対象物に対して好適に使用することができる。表面修飾分子としては、特に制限されず、例えばポリグリセロールやポリエチレングリセロール等の水溶性高分子、および、それらのアルキル基処理などによる疎水性高分子、タンパク質、ペプチド、核酸、医薬化合物等の各種低分子化合物等が挙げられる。
【0036】
無機蛍光粒子のサイズは、形状に応じて異なるが、例えば粒子である場合は、粒子径は好ましくは40nm以上1000nm未満である。このような粒子径の粒子は、プラズマに対する安定性に特に優れつつ、空間分解能の高い測定を可能にする。当該粒子径は、好ましくは40nm以上800nm以下、より好ましくは40nm以上600nm以下、さらに好ましくは40nm以上400nm以下、とりわけ好ましくは40nm以上200nm以下、とりわけより好ましくは45nm以上100nm以下、特に好ましくは45nm以上70nm以下である。
【0037】
無機蛍光粒子は、1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。
【0038】
対象物は、温度測定の対象であり、特に制限されず、無機物及び有機物のいずれであってもよく、また無機・有機複合物であってもよい。対象物としては、プラズマ照射に対する安定性の観点から、無機物が好ましい。対象物は、当該安定性の観点に加えて、プラズマ照射及び温度測定の必要性の観点から、シリコン層を含むシート、半導体素子製造における中間品が好ましい。これらのより具体的な例としては、例えばシリコン層からなるシート(例えばシリコンウェーハ)、シリコン層及び酸化膜を含む積層シート、シリコン層及びレジスト層を含む積層シート等が挙げられる。これらの中でも、プラズマ照射及び温度測定の必要性の観点から、シリコン層及びレジスト層を含む積層シートが特に好ましい。
【0039】
対象物に照射されるプラズマの種類は特に制限されない。プラズマを担持する気体の温度は、例えば-100~700℃、好ましくは-50~300℃、より好ましくは0~100℃、さらに好ましくは20~40℃である。プラズマを生成させる気体としては、例えばアルゴン等の希ガス、窒素、酸素、水素、ヘリウム、ハロゲンガス、炭化水素ガス等が挙げられる。また、プラズマは、大気圧プラズマ及び真空プラズマのいずれであってもよいが、好ましくは大気圧プラズマである。
【0040】
無機蛍光粒子は、プラズマ照射下の対象物の近傍に配置されているか、及び/又は対象物が保持する。「近傍」とは、プラズマ照射下の対象物の温度を反映可能な距離であれば特に制限されず、後述の実施例5のXY軸方向にプラズマ照射ペン先を移動させた結果に基づいて適宜設定することができる。当該距離は、例えば0mm超4mm以下、好ましくは0mm超3mm以下、より好ましくは0mm超2mm以下、さらに好ましくは0mm超1.5mm以下、よりさらに好ましくは0mm超1mm以下、とりわけ好ましくは好ましくは0mm超0.7mm以下、特に好ましくは0mm超0.5mm以下である。「保持」とは、無機蛍光粒子が対象物内部に存在する場合又は外部に付着している場合のいずれも包含する。本発明の一態様において、無機蛍光粒子は、ウェーハである対象物上に配置される、或いはウェーハである対象物のレジスト膜上又はレジスト膜中に配置される。
【0041】
対象物における無機蛍光粒子の量は、対象物の種類、無機蛍光粒子の種類等に応じて、適宜決定することができる。
【0042】
対象物は、本発明の温度測定が可能な様に、励起光照射、マイクロ光照射、及び蛍光収集が可能な様に配置される。具体的には、例えば
図3に示されるような装置における、対物レンズ上の試料台上に配置される。
【0043】
本発明の測定方法において、照射するマイクロ波は、互いに異なる周波数の複数種のマイクロ波である。
【0044】
マイクロ波の周波数は、通常、9GHz以下であり、想定されるODMRスペクトルのピーク両側の線形近似を示す周波数範囲から選択される(
図2参照)。該周波数範囲は、無機蛍光粒子、及び対象物それぞれの種類に応じて、測定前に予め決定しておくことが望ましい。マイクロ波の(周波数)の種類は、通常偶数種であり、測定精度、測定効率等の観点から、好ましくは2~10種、より好ましくは4~10種、さらに好ましくは4~8種、特に好ましくは4~6種である。ODMRスペクトルピークの片側における各マイクロ波の周波数は、測定される蛍光量が、該ピークの反対側における対応する各マイクロ波の周波数において測定される蛍光量と同程度になるように、設定されることが望ましい(
図2参照)。すなわち、
図2において、周波数f1は、測定される蛍光強度(I1)が、対応する周波数(f4)において測定される蛍光強度(l4)と同程度になるように、設計されることが望ましい。ODMRスペクトルピークの片側における、各マイクロ波間の周波数の差(例えば
図2のX)は、好ましくは1~5MHzである。
【0045】
各周波数のマイクロ波それぞれの1回当たりの照射時間は、特に制限されないが、測定精度、測定効率等の観点から、例えば10μs~1000μs、好ましくは30~300μs、より好ましくは50~200μsである。各マイクロ波の照射時間は、同程度であることが好ましく、例えば最も短い照射時間に対する最も長い照射時間は、例えば200%以下、150%以下、120%以下、110%以下であることが好ましい。
【0046】
各周波数のマイクロ波は、通常、繰返し照射する。例えば、
図2の例であれば、周波数f1、周波数f2、周波数f3、周波数f4の順にマイクロ波を照射した後、続けて周波数f1、周波数f2、周波数f3、周波数f4の順にマイクロ波を照射し、このサイクルを繰り返す。また、この繰返しを一定時間(例えば1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上、60分以上、2時間以上、5時間以上、8時間以上)継続することにより、対象物の温度の経時変化を測定することができる。
【0047】
マイクロ波の照射は、適当なマイクロ波源を使用して行われる。各周波数のマイクロ波の繰返し照射は、例えば各周波数の複数のマイクロ波源を用意し、これらを切替装置に連結し、所定時間でマイクロ波源が順次切り替わるように作動させることにより、実行することができる。また、マイクロ波源から発生したマイクロ波は、通常、増幅器を通して増幅されてから、対象物に照射される。
【0048】
工程(b)では、各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度それぞれ別々の光子数カウンタで測定する。
【0049】
マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度は、通常、無機蛍光粒子に該粒子の励起光を照射し続けている状況下でマイクロ波を照射し、該マイクロ波(周波数f1、f2・・・)の照射時点の蛍光(蛍光L1、L2・・・)について、その強度(I1、I2・・・)を測定することにより行われる。励起光の波長は、無機蛍光粒子の種類に応じて異なり、適宜設定することが可能である。例えば、NVセンター含有ダイヤモンドを使用する場合であれば、励起光の波長は、例えば490~580nm、好ましくは520~560nmである。また、蛍光の波長も、無機蛍光粒子の種類に応じて異なる。例えば、NVセンター含有ダイヤモンドを使用する場合であれば、蛍光の波長は、例えば637~800nmである。励起光の照射及び蛍光の検出は、例えば次のようにして行われる:励起には、典型的な励起強度の連続波レーザーを使用し、顕微鏡対物レンズを励起および蛍光収集の両方に使用し、蛍光を(例えばダイクロイックビームスプリッタ等のスプリッタやロングパスフィルタ等のフィルタ等によって)抽出し、必要に応じて、蛍光をピンホールとして機能する光ファイバーに結合して、或いはピンホールを使用して、蛍光をアバランシェフォトダイオード等のフォトダイオード又はその他の光検出器で検出する。
【0050】
本発明の測定方法においては、対象物への励起光の照射及び対象物からの蛍光の収集を顕微鏡対物レンズを介して行うことが好ましい。この場合において、顕微鏡対物レンズの開口数を調整することにより、プラズマの影響を抑制することができる。当該開口数は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、よりさらに好ましくは0.5以上、とりわけ好ましくは0.6以上、とりわけより好ましくは0.7以上、とりわけさらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。当該開口数の上限は特に制限されず、例えば1.8、1.6、1.4、又は1.2である。
【0051】
各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度はそれぞれ別々の光子数カウンタで測定される。すなわち、各種マイクロ波(周波数f1、f2・・・)の照射時点の蛍光(蛍光L1、L2・・・)について、その強度を、別々の光子数カウンタ(蛍光L1の強度はカウンタ1、蛍光L2の強度はカウンタ2・・・)で測定する。光子数カウンタとしては、特に制限されず、各種カウンタを使用することが可能である。光子数カウンタとしては、1つの独立した測定器内に1つのみ存在するカウンタを利用してもよいし、測定器内に複数存在する各カウンタを利用してもよい。また、複数の測定器を併用して必要数(=マイクロ波の種類数)のカウンタを準備することもできる。別々の光子数カウンタ(蛍光L1の強度はカウンタ1、蛍光L2の強度はカウンタ2・・・)で測定することによって、各種マイクロ波照射時の無機蛍光粒子の蛍光強度(I1、I2・・・)が得られる。
【0052】
蛍光強度は、絶対値であってもよいし、相対値であってもよい。
【0053】
測定対象の無機蛍光粒子は、通常は1個の粒子であるが、複数の粒子について平行して測定することも可能である。測定中、無機蛍光粒子が移動する場合は、適宜、無機蛍光粒子をトラッキングすることにより、測定対象の粒子を追跡し続けることができ、これにより温度の経時変化をより高い精度で測定することができる。トラッキングの方法は、特に制限されず、公知のトラッキング技術を利用して粒子をトラッキングすることができる。
【0054】
工程(c)では、得られた蛍光強度又は前記蛍光強度に基づく値に基づいて、対象物の温度を算出する。「蛍光強度に基づく値」とは、蛍光強度から算出される補正値・修正値であれば特に制限されない。工程(c)はODMR法の公知の方法に従って行うことができる。
【0055】
本発明の測定方法においては、プラズマ照射下の対象物の温度の測定精度等の観点から、工程(c)が、
(cx)光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて蛍光強度を補正する工程、及び
(cy)得られた補正値に基づいて、対象物の温度を算出する工程
を含む、ことが好ましい。
【0056】
工程(cx)では、光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて蛍光強度を補正する。
【0057】
光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差は、予め測定しておくことが望ましい。誤差の測定は、特に制限されるものではないが、例えば次のように行うことができる。温度測定で採用する周波数の複数種のマイクロ波を、段階的に増加させる複数(例えば3~20、4~15、6~12)のレーザー強度それぞれで、無機蛍光粒子単体に照射し、各マイクロ波(周波数f1、f2・・・)の照射時点の蛍光(蛍光L1、L2・・・)について、その光子数(p1、p2・・・)を、別々の光子数カウンタ(蛍光L1の光子数はカウンタ1、蛍光L2の光子数はカウンタ2・・・)で測定する。測定値に基づいて、対応する2つの光子数カウンタ間の、測定値の誤差(同条件で計測された光子数の差)を算出する。なお、「対応する2つの光子数カウンタ」とは、温度測定の際に想定されるODMRスペクトルのピーク両側の対応する周波数(
図2参照。f1とf4が対応し、f2とf3が対応する。)について測定する2つのカウンタ(カウンタ1とカウンタ4が対応し、カウンタ2とカウンタ3が対応する。)を意味する。
【0058】
上記誤差に基づいて、工程(b)で得られた蛍光強度を補正する。補正の方法は、特に制限されないが、例えば、2つの対応する蛍光強度(
図2参照。I1とI4が対応し、I2とI3が対応する。)のいずれか一方の蛍光強度の測定値から誤差分を減じる、或いはいずれか一方の蛍光強度の測定値から誤差分を加えることにより、補正値(補正値c1、c2・・・)を得ることができる。
【0059】
工程(cx)は、具体的には、例えば、光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差の予め測定された値を、2つの対応する蛍光強度のいずれか一方の蛍光強度の測定値から減じる、或いはいずれか一方の蛍光強度の測定値に加える工程を含む。
【0060】
工程(cy)では、得られた補正値に基づいて、対象物の温度を算出する。
【0061】
対象物の温度の算出は、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。4種のマイクロ波を使用した場合であれば、例えば特許文献2に記載の方法に従って、温度を算出することができる。また、例えば6種のマイクロ波を使用した場合であれば、6種の各周波数に対応する6種の補正値から、値が同程度である対応する2つの補正値(c1-c6、c2-c5、c3-c4)を一組とした場合の二組の組合せ(c1-c6とc2-c5の組合せ、c2-c5とc3-c4の組合せ、及びc1-c6とc3-c4の組合せ)それぞれについて、例えば特許文献2に記載の方法に従って温度を算出し、その平均値を最終的な測定値とすることができる。具体的には、たとえば後述の参考例に記載の方法及び式に従って、算出することができる。
【0062】
4種のマイクロ波を使用した場合、工程(cy)は、具体的には、例えば、工程(cx)で得られた補正値を下記式:
【0063】
【0064】
に代入して発光センターにおける温度変化(δTNV)を算出する工程を含む。
【0065】
6種のマイクロ波を使用した場合、工程(cy)は、具体的には、例えば、工程(cx)で得られた補正値を下記式:
【0066】
【0067】
[式中:αは発光センター(NV)の温度依存性を示す。δωはマイクロ波の低周波数側から1番目と3番目、または、4番目と6番目の間の周波数差を示す。I1~I6は6種のマイクロ波照射それぞれで得られた補正値を示す。]
に代入して発光センターにおける温度変化(δTNV)を算出する工程を含む。
【0068】
また、温度については、一定時間の平均値をとることにより、より高い精度で計測することが可能である。各周波数のマイクロ波は、通常は繰返し照射される(例えば、
図2の例であれば、周波数f1、周波数f2、周波数f3、周波数f4の順にマイクロ波を照射した後、続けて周波数f1、周波数f2、周波数f3、周波数f4の順にマイクロ波を照射し、このサイクルを繰り返す。)ところ、例えば、一定時間(例えば0.1~180秒、0.3~120秒、1~100秒、3~100秒、10~80秒、20~50秒)内の各サイクルから算出された温度の平均(例えば隣接平均、移動平均等)を温度測定値とすることができる。
【0069】
上記した技術を活用することにより、プラズマ照射下での温度変化をリアルタイムに測定することができる。また、プラズマ非照射下とプラズマ照射下の対象物について連続的に温度測定することにより、プラズマ照射による温度上昇、プラズマ照射による温度低下、それらの速度を測定することができる。
【0070】
さらに、本発明の測定方法の一態様においては、本発明の測定方法を半導体素子の製造工程における半導体素子中間品の温度を測定することができる。この観点から、本発明は、その一態様において、本発明の測定方法を含む、半導体素子又はその中間品の製造方法、に関する。当該製造方法は、シリコンウェーハから半導体素子を得るまでの各工程の内プラズマ照射を行う工程を含む限り特に制限されず、その好ましい一態様においては、プラズマ照射がレジスト除去のためのプラズマ照射であり、本発明の測定方法によりレジストの表面温度の経時変化を測定しながらレジスト除去を行う。
【0071】
本発明の測定方法は、(A)マイクロ波照射装置、(B)光子数カウンタ、及び(D)温度を算出する演算部を備える、温度測定装置(本明細書において、「本発明の測定装置」と示すこともある。)を利用して実行することができる。
【0072】
本発明の測定装置は、好ましくはさらに(C)蛍光強度を補正する演算部を備える。
【0073】
本発明の測定装置は、好ましくはさらに(E)プラズマ照射装置を備える。
【0074】
マイクロ波照射装置及び光子数カウンタについては、上述の通りである。
【0075】
蛍光強度を補正する演算部及び温度を算出する演算部は、1つの演算部であってもよいし、別々の演算部であってもよい。
【0076】
蛍光強度を補正する演算部は、光子数カウンタで計測された蛍光強度に関する情報を取得し、光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて補正する。温度を算出する演算部は、得られた補正値に関する情報を取得し、温度を算出する。これらの演算部における処理内容については、上述の通りであり、予め記憶されているコンピュータプログラムによって実行される。
【0077】
本発明の測定装置は、粒子トラッキングシステムを備えることができる。該システムとしては、公知の粒子トラッキング技術を利用したもの(例えばピエゾステージ等)を、使用することができる。
【0078】
本発明の測定装置は、さらに、無機蛍光粒子を含む対象物を配置する試料台、顕微鏡対物レンズ、蛍光照射装置、算出された温度情報を表示する表示部等を備え、これのみで本発明の測定方法を実行できるオールインワン型装置であることもできる。
【0079】
また、上記した半導体素子の製造方法は、本発明の測定装置を備える、半導体素子又はその中間品の製造装置を利用して実行することができる。当該製造装置は、シリコンウェーハから半導体素子を得るまでの各工程の内プラズマ照射を行う工程を実行する手段を含む限り特に制限されず、その好ましい一態様においては、レジスト除去のためのプラズマ照射手段を含む。
【実施例0080】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
参考例1.温度測定方法
実施例におけるODMR温度測定法について説明する。装置の概略図を
図3に示す。励起には、典型的な励起強度ca. 5 kW・cm
-2の連続波532nmレーザーを使用した。顕微鏡対物レンズ(乾燥系)を励起および蛍光収集の両方に使用した。NV蛍光を、ダイクロイックビームスプリッタ(Semrock、FF560-FDi01)およびロングパスフィルタ(Semrock、BLP01-561R、またはBLP01-635R-25を用いて)によって濾過して、残留緑色レーザ散乱を除去した。次に、蛍光をピンホールとして機能する光ファイバー(Thorlabs、1550HP、コア直径約10μm)に結合した。ファイバ結合蛍光は、アバランシェフォトダイオード(APD、Perkin Elmer SPCM AQRH-14)によって最終的に検出された。試料は、ラスタースキャニングおよび粒子追跡を可能にするピエゾステージ上に載せた。APD出力は、それぞれ4つのパルスカウンタ(DAQ-1 BNC、National Instruments)と2つのパルスカウンタ(DAQ-2 BNC、National Instruments)を持つデータ収集ボードに供給された。実施例では4点計測(MW1~MW4を使用)であるので、DAQ-1 BNCのみを使用した。4点測定以外のすべてのフォトンカウンティング測定は、DAQボード(USB-6343 BNC)によって行われた。蛍光スペクトル測定のために、液体窒素冷却電荷結合素子カメラを装備した分光計(Princeton、LNCCD)を使用した。ファイバピッグテールビーム分割システムを光ファイバラインに挿入することによって、スペクトル測定と粒子追跡を同時に実行して、粒子の動きに起因する色収差を防止した。
【0082】
マルチポイントODMR測定を実行するために、250nsのスイッチング時間を有するSP6Tスイッチ(General Microwave、F9160)に1つの独立型マイクロ波源(Rohde&Schwarz、SMB100A)および5つのUSB駆動マイクロ波源(USG-LF44、Texio)を接続した。次にそれを増幅し(ミニサーキット、ZHL-16W-43 +)、カバースリップ(25μmの細い銅線)の上に置かれたマイクロ波リニアアンテナに送り、中央に穴をあけた細胞培養皿で密封した。一般的なマイクロ波励起電力は、アンテナの入力電力と送信電力、および有限要素法(COMSOL)による電磁界シミュレーションを考慮すると、磁界強度にして5 [A/m]と推定される。なお、実施例では外部磁場は印加されていない。マルチポイントODMR測定では、APD検出は、4つのゲートすべてに共通のゲート幅が100μsで、その後に5μsの間隔が続くそれぞれのマイクロ波周波数に対してゲートされた。得られた4つの周波数での光子数を次の式に入力してNV中心の温度推定値(TNV)を算出した。
【0083】
【0084】
[式中、αはNV中心の温度依存性、-74kHz・℃-1である。]
各パルスカウンタのフォトンカウント応答性を校正することにより、本発明の方法の測定精度を向上させることができる。各カウンタは、非常に小さい光応答性の差を有する。特許文献2に記載の方法に従って、光子数カウンタ間のパルス計測数の誤差に基づいて蛍光強度を補正した。
【0085】
実施例1.プラズマ照射下の対象物の温度測定1
実施例におけるプラズマ照射及びODMR測定実験の模式図を
図4に示す。アンテナ上にあるナノダイヤモンドのODMR測定を行いながら、アルゴンプラズマを同時に照射している。左図はODMR測定においてプラズマ下、右図はプラズマをカードで遮断した状況を表しており、これらを交互に切り替えて実験を行なっている。
【0086】
ODMR測定や温度測定は、参考例1のとおりである。カバーガラス上にナノダイヤモンド試料を塗布し、観察した。上側から、大気圧ジェットプラズマを照射した。プラズマ装置は、ペン型プラズマジェット装置、オーク製作所社製である。プラズマヘッドとサンプルの距離は、14 mmとした。プラズマはアルゴンガスを用い、プラズマ照射時のアルゴン風量速度は0.5 L/minとした。カード(遮蔽板)は光学ロッドで固定して、回転できるようにし、手動で開閉した。本実施例で使用したナノダイヤモンドの粒子径は140nmであり、顕微鏡対物レンズの開口数は0.7であった。
【0087】
プラズマによる背景光を調べた結果を
図5に示す。プラズマ照射によって、背景が明るくなっており、ナノダイヤモンドの蛍光スペクトルにプラズマ由来の鋭いピークが見られた。プラズマ照射下であってもナノダイヤモンドの蛍光画像を取得可能であること、またナノダイヤモンドとプラズマの蛍光スペクトルを同時に検出できることが分かった。
【0088】
プラズマ照射下における温度測定結果を
図6に示す。プラズマ下では急速に温度が上昇し定常状態となる。プラズマを遮断すると急速に速やかに低下することが観察できた。
【0089】
実施例2.プラズマ照射下の対象物の温度測定2
開口数が0.25、0.4、0.7、又は0.9の対物レンズを用いる以外は、実施例1と同様にして試験した。
【0090】
開口数ごとのプラズマの影響を
図7に示す。開口数が大きい程、プラズマの影響を低減できることが分かった。
【0091】
実施例3.プラズマ照射下の対象物の温度測定3
粒子径が50nm、70nm、140nm、又は600nmのナノダイヤモンドを用い、且つプラズマヘッドとサンプルの距離を34 mmとする以外は、実施例1と同様にして試験した。
【0092】
粒径を変えた場合の温度測定結果を
図8に示す。図に見られる急激なピークは、プラズマ照射の風圧によって発生する一時的な焦点ずれに由来するアーティファクトである。いずれの粒子径であっても、プラズマ下では急速に温度が上昇し定常状態となる。プラズマを遮断すると急速に速やかに低下することが観察できた。
【0093】
実施例4.プラズマ照射下の対象物の温度測定4
プラズマ照射時のアルゴン風量速度を変化させ、プラズマヘッドとサンプルの距離を34 mmとし、且つナノダイヤモンドの粒子径を600nmとする以外は、実施例1と同様にして試験した。
【0094】
結果を
図9に示す。風量が大きくなるほど温度変化( ΔT
NV )が小さくなることが分かった。
【0095】
実施例5.プラズマ照射下の対象物の温度測定5
プラズマ照射時のアルゴン風量速度を0.45 L/minとし、且つナノダイヤモンドの粒子径を140nmとする以外は、実施例1と同様にして試験した。本実施例では、プラズマ照射スポットをナノダイヤに対してXYZ方向でスキャンした時の、温度分布。スポットの位置は、プラズマヘッドをXYZステージに搭載し、ステージを手動で移動させることで測定した。結果を
図10に示す。