IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ビー・ケミカル株式会社の特許一覧

特開2025-61924水性塗料組成物セット及びそれを用いた複層塗膜の形成方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025061924
(43)【公開日】2025-04-11
(54)【発明の名称】水性塗料組成物セット及びそれを用いた複層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20250404BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250404BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20250404BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20250404BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20250404BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/61
B05D1/36 Z
B32B27/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025012870
(22)【出願日】2025-01-29
(62)【分割の表示】P 2021567491の分割
【原出願日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019232918
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】迫山 和哲
(72)【発明者】
【氏名】永田 浩隆
(57)【要約】
【課題】高い意匠性を有する金属調塗膜を形成でき、その上、良好な塗膜物性を示す塗膜を形成できる水性塗料組成物の提供。
【解決手段】第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料組成物と、第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料組成物とを含み、前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上であり、前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤と、を含み、前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物を含む、複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を有する複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであって、
前記水性塗料組成物セットは、前記第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料組成物と、前記第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料組成物とを含み、
前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、
前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含み、
前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含む、
複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項2】
前記第2光輝材は、表面処理された光輝材を含む、請求項1記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項3】
前記第2光輝材は、鱗片状の形状を有し、アスペクト比が5~2000である光輝材を含む、請求項1又は2に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項4】
前記第2ベース塗料組成物は、前記第2無機系粘性剤を、前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下で含み、
前記第2疎水会合型粘性剤を、前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下で含む、請求項1から3のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項5】
前記第2ベース塗料組成物は、更に第2無機光沢剤を含み、
前記第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、前記第1ベース塗料組成物に含まれる前記第1無機光沢剤の量をAm1とし、
前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、前記第2ベース塗料組成物に含まれる前記第2無機光沢剤の量をAm2とした場合、
前記Am1と前記Am2との比(Am1)/(Am2)が2.0以上である、請求項1から4のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項6】
前記第1ベース塗料組成物における不揮発分含量NV1は、10%以上45%以下である、請求項1から5のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項7】
前記第2ベース塗料組成物における不揮発分含量NV2は、3%以上18%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項8】
前記第1ベース塗料組成物は、更に、第1光輝材及び第1無機系粘性剤の少なくとも1つを含む、請求項1から7のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項9】
前記第2塗膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から8のいずれかに記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項10】
前記第2無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項11】
前記第1疎水会合型粘性剤及び前記第2疎水会合型粘性剤の少なくとも1つは、ウレタン系疎水会合型粘性剤を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項12】
前記第1ベース塗料組成物は、第1分散剤を更に含み、
前記第1分散剤及び前記第2分散剤の少なくとも1つは、アニオン性基、カチオン性基及びノニオン性基から選択される少なくとも1種を有するポリマー型分散剤を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項13】
前記第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項14】
前記第2無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む、請求項5に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項15】
前記第1無機系粘性剤の厚さが100nm以下である、請求項8に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項16】
前記第2無機系粘性剤の厚さが100nm以下である、請求項1から15のいずれか1項に記載の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セット。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載の、複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットを用いる複層塗膜の形成方法であって、
前記複層塗膜の形成方法は、
被塗物上に、前記第1ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第1ベース塗膜を形成する工程、
前記未硬化の第1ベース塗膜上に、前記第2ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第2ベース塗膜を形成する工程、
前記未硬化の第2ベース塗膜上に、クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、並びに、
前記未硬化の第1ベース塗膜と、前記未硬化の第2ベース塗膜と、前記未硬化のクリヤー塗膜とを、同時に焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含み、
前記第1ベース塗料組成物から形成される、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚t1は1μm以上35μm以下であり、
前記第2ベース塗料組成物から形成される、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚t2は1μm以上20μm以下である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項18】
前記加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚t1と、前記加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚t2とは、(t1)≧(t2)の関係を有する、請求項17に記載の複層塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性塗料組成物セット及びそれを用いた複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車塗装の塗膜外観において、金属調光沢を有する塗膜が注目されている。このような塗膜には、高いフリップフロップ性(いわゆる、FF性)が要求されている。フリップフロップ性をより高くするには、顔料が一定の配向を持って塗料中に存在する必要がある。また、金属調光沢を有する塗膜は、粒子感(ぎらつき)を示さず、緻密感を満たすことが好ましい。
【0003】
特開2006-95522(特許文献1)は、金属調であり、高意匠性の塗膜を形成することを目的とし、塗料中の固形分が20~40重量%になるように調整された水性ベースコート塗料(A1)を乾燥膜厚で1~15μmとなるように被塗物に塗装した後、未硬化の塗膜の上に、塗料中の固形分が2~15重量%になるように調整された水性ベースコート塗料(A2)を、乾燥膜厚で0.1~5μmとなるように塗装する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-95522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示される水性ベースコート塗料(A1)と水性ベースコート塗料(A2)とを用いると、光輝性顔料の配向が不十分となる傾向があり、塗膜外観にムラが生じるおそれがある。更に、光輝性顔料の配向が不十分になると、光の乱反射が生じやすくなるため、意匠性が低下するおそれがある。
【0006】
最近、自動車などの工業製品には、曲面を多く取り入れたデザインが採用されている。そのため、複雑な形状の被塗物であっても容易に塗装でき、美しい金属調光沢を有する塗膜が必要とされている。
【0007】
また、自動車用塗料組成物には、塗膜の耐チッピング性、耐水性等の物理的特性を向上できることが、要求されている。
【0008】
自動車外板の塗装ラインにおいて、焼付硬化した下地塗膜にゴミブツや塗膜欠陥などの不具合がある場合、当該箇所を研磨して修正した後に、上塗り塗料(ベース塗料およびクリヤー塗料)を塗装する工程を行うことがある。その際、当該研磨の研ぎ跡(サンドペーパー等で研いだ個所にできる筋目)が上塗りの塗装後の塗膜に浮き上がってくる現象(下地転写)が起こる場合がある。この下地転写は、特に上塗り塗料に光輝材が含有される場合に生じやすい。そのため、特にメタリックやマイカ系の塗色では、塗装作業性の課題として、当該下地転写が生じにくい塗膜であること(下地転写性)が求められている。
【0009】
しかし、特許文献1に示される金属調塗膜を形成する塗料組成物においては、意匠性の向上のみが着目されており、上述したような塗膜物性の担保は、別の塗膜に委ねられている。このため、例えば、塗膜物性を確保する塗膜と、金属調の意匠性を示す塗膜との関係を考慮して、塗料組成物を調製しなければならない。その結果、優れた金属調塗膜を得られない場合がある。また、複層塗膜の形成工程も複雑化する。
このような問題を解決するために、高い意匠性を有する金属調塗膜を形成でき、その上、良好な塗膜物性を示す塗膜を形成できる塗料組成物が必要である。
【0010】
上記現状に鑑み、本開示は、意匠性に優れた、金属調光沢を有する塗膜を形成でき、その上、耐チッピング性等が向上した塗膜物性、下地転写性を備える、複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットを提供する。また、本開示の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットは、優れた耐水性を有する複層塗膜を形成できる。
更に、本開示は、水性塗料組成物セットを用いる複層塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本開示は下記態様を提供する。
[1]本開示は、
第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を有する複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであって、
前記水性塗料組成物セットは、第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料組成物と、第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料組成物とを含み、
前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、
前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含み、
前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含む。
[2]一実施態様において、第2光輝材は、表面処理された光輝材を含む。
[3]一実施態様において、第2光輝材は、鱗片状の形状を有し、アスペクト比が5~2000である光輝材を含む。
[4]一実施態様において、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下で含み、
第2疎水会合型粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下で含む。
[5]一実施態様において、第2ベース塗料組成物は、更に第2無機光沢剤を含み、
第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、第1ベース塗料組成物に含まれる第1無機光沢剤の量を(Am1)とし、
第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して第2ベース塗料組成物に含まれる第2無機光沢剤の量を(Am2)とした場合、
(Am1)と(Am2)との比(Am1)/(Am2)が2.0以上であってよい。
[6]一実施態様において、第1ベース塗料組成物における不揮発分含量(NV1)は、10%以上45%以下である。
[7]一実施態様において、第2ベース塗料組成物における不揮発分含量(NV2)は、3%以上18%以下である。
[8]一実施態様において、第1ベース塗料組成物は、更に、第1光輝材及び第1無機系粘性剤の少なくとも1つを含む。
[9]一実施態様において、第2塗膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つを含む。
[10]一実施態様において、第2無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物である。
[11]一実施態様において、第1疎水会合型粘性剤及び第2疎水会合型粘性剤の少なくとも1つは、ウレタン系疎水会合型粘性剤を含む。
[12]一実施態様において、第1ベース塗料組成物は、第1分散剤を更に含み、
第1分散剤及び第2分散剤の少なくとも1つは、アニオン性基、カチオン性基及びノニオン性基から選択される少なくとも1種を有するポリマー型分散剤を含む。
[13]一実施態様において、第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む。
[14]一実施態様において、第2無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む。
[15]一実施態様において、第1無機系粘性剤の厚さが100nm以下である。
[16]一実施態様において、第2無機系粘性剤の厚さが100nm以下である。
[17]別の実施態様において、本開示は、複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットを用いる複層塗膜の形成方法であって、
複層塗膜の形成方法は、
被塗物上に、第1ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第1ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第2ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第2ベース塗膜上に、クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、並びに、
未硬化の第1ベース塗膜と、未硬化の第2ベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを、同時に焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含み、
第1ベース塗料組成物から形成される、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚(t1)は1μm以上35μm以下であり、
第2ベース塗料組成物から形成される、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚(t2)は1μm以上20μm以下である。
[18]一実施態様において、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚(t1)と、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚(t2)とは、(t1)≧(t2)の関係を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットは、金属調の意匠性に優れた塗膜を形成でき、その上、耐チッピング性及び耐水性等の良好な塗膜物性を有する塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本開示に至る過程を説明する。
一般に、金属調光沢を有する単層塗膜を形成する水性塗料組成物において、塗料組成物の固形分(不揮発分(NonVolatile=NV)含量ともいう)は高く設定されている(例えば、NV量=25%)。NV量を高くすると、塗料粘度を高くできるため、塗料組成物の流動を防ぐことができ、その上、光輝材の沈降を防ぐこともできる。
【0014】
しかし、NV量が高い水性塗料組成物は、粘度も高いので、光輝材が均等に配向しにくいといった問題が生じている。例えば、NV量が25%程度の水性塗料組成物を用いて塗膜を形成すると、光輝材の配向は一定にならず、塗膜には粒子感(ぎらつき)が生じ、さらに、下地の隠蔽力も低下してしまうおそれがある。
【0015】
このような問題を解決するために、NV量が高い水性塗料組成物から形成される薄膜を、複数層重ねることが提案されている。これにより、光輝材の配向性が向上することが期待される。しかし、上述のように、依然として、光輝材の配向性は向上しておらず、良好な金属調塗膜は得られていない。
【0016】
また、水性塗料組成物を用いて、例えば、ウェットオンウェット塗装により複層塗膜を形成すると、層の界面付近で混相が生じ得る。しかし、混相の抑制を試みると、意匠性の低下、塗膜物性の低下が生じるおそれがあった。このため、本開示者等は、高い意匠性と塗膜物性とをバランスよく有する塗膜を形成できる塗料組成物について鋭意検討し、本開示を完成させた。
【0017】
このような課題を全て解決する本開示の水性塗料組成物セットは、
第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を有する複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであって、
前記水性塗料組成物セットは、前記第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料組成物と、前記第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料組成物とを含み、
前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、
前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含み、
前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物を含む。
【0018】
本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、光輝材(光輝性顔料)の配向性が向上する。そのため、光の乱反射を抑制でき、かつ、十分なハイライト明度を有する、優れた金属調塗膜を形成できる。さらに、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットによれば、複雑な形状の被塗物であっても容易に塗装でき、美しい金属調光沢を有する塗膜を形成できる。
その上、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、良好な耐チッピング性、耐候性、耐水性及び高温耐水性等、優れた塗膜物性を有する塗膜が形成される。さらに、塗膜は、優れた下地転写性を備えるとともに、下地隠ぺい性にも優れている。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本開示においては、特定の第1ベース塗料組成物と、特定の第2塗料ベース組成物との組み合わせにより、光線透過が制御される。このことが、複層塗膜の優れた耐候性に寄与しているものと推測される。
【0019】
更に、特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットは、各塗料組成物が所定の構成を有することにより、本開示に係る所定の第1ベース塗料組成物と、所定の第2ベース塗料組成物との層間で生じ得る混相を大きく抑制できる。そのため、例えば、ウェットオンウェット塗装を用いて複層塗膜を形成できる。よって、塗膜形成のための工程数を低減できるため、環境負荷が低減される。
その上、第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含むので、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、第2光輝材と、第2無機系粘性剤との相互作用による構造化(凝集力)が生じて、第2ベース塗膜における第2光輝材の配向乱れが防止されて、優れた金属調塗膜が形成される。更に、得られる塗膜は、耐水性に優れる。
一実施態様において、第2ベース塗料組成物に含まれる第2光輝材の濃度(PWC:Pigment weight concentration)が高い場合であっても、本開示に係る第2無機系粘性剤を、本明細書に記載の範囲内で含むことにより、第2ベース塗料組成物の安定性を容易に保持できる。更に、第2ベース塗膜の凝集力がさらに向上し、優れた意匠性、塗膜物性及び耐水性を有する塗膜を容易に形成できる。
【0020】
以下、本開示に係る水性塗料組成物セット及びそれを用いた複層塗膜の形成方法について、詳細に説明する。
【0021】
<第1ベース塗料組成物>
本開示における第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含む。第1ベース塗料組成物がこのような組成を有し、更に後述する所定の第2ベース塗料組成物を含む、本開示に係る水性塗料組成物セットであれば、優れた下地隠ぺい性、耐チッピング性などに加えて、美しい金属感を有する複層塗膜(光輝性の複層塗膜)を形成できる。
【0022】
ある態様において、第1ベース塗料組成物は、更に、第1光輝材及び第1無機系粘性剤の少なくとも1つを含む。例えば、第1ベース塗料組成物は、第1光輝材を含むことにより、下地隠ぺい性を更に向上できる。その上、第2ベース塗膜と共に、更に奥行きのある金属感を呈する複層塗膜を形成できる。
第1ベース塗料組成物は、第1光輝材を含む態様において、第1無機系粘性剤を含み得る。第1ベース塗料組成物において、第1光輝材と第1無機系粘性剤とを併用することで、塗膜の形成中に第1光輝材が沈降すること、及び塗膜に濁りが生じることを回避できる。また、第1光輝材がより均一に配向するため、さらに優れた意匠性を有する第1ベース塗膜および、この第1ベース塗膜を有する複層塗膜が得られる。
【0023】
ある態様において、第1ベース塗料組成物における不揮発分含量(NV1)は、10%以上45%以下であり、例えば、(NV1)は、10%以上35%以下である。ある態様において、(NV1)は、10%以上30%以下であり、例えば、15%以上25%以下である。
【0024】
不揮発分含量(NV1)は、[(乾燥後の第1ベース塗料組成物質量)/(乾燥前の第1ベース塗料組成物質量)]×100(%)により算出される値である。不揮発分含量は、塗料組成物中の溶剤の量を調節することにより制御できる。
不揮発分含量(NV1)が上記範囲内であることにより、本開示に係る第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の体積収縮率を十分な範囲に保持でき、良好な金属調光沢を有する複層塗膜を形成できる。
また、良好な塗膜性状を得ることができ、例えば、第1ベース塗料組成物のタレ性を良好にでき、更に、塗装作業性を良好にできる。
なお、不揮発分は、JISK5601-1-2(加熱残分)の手法にて測定できる。
【0025】
形成される第1ベース塗膜の乾燥膜厚(t1)は、1μm以上35μm以下であり、例えば、1μm以上30μm以下である。別の態様において、第1ベース塗膜の膜厚は、1μm以上16μm以下である。また、本開示に係る第1ベース塗料組成物は、塗料組成物が垂れる現象、及び必要に応じて添加される第1光輝材の沈降を防ぐことができる。その上、曲面を多く取り入れた複雑な形状の被塗物であっても、ムラのない美しい金属調光沢を有する塗膜を形成できる。
【0026】
(第1塗膜形成樹脂)
本開示における第1塗膜形成樹脂は、ある態様において、数平均分子量が5000以上30000以下、例えば、7000以上25000以下の樹脂である。数平均分子量がこのような範囲内であることにより、良好な作業性を有することができ、さらに、本開示に係る複層塗膜に適した硬化性を有することができる。
なお、本明細書では、分子量はスチレンポリマーを標準とするGPC法により決定される。
【0027】
ある態様において、第1塗膜形成樹脂は、20以上180以下の水酸基価を有し、例えば、30以上160以下の水酸基価を有する。第1塗膜形成樹脂の水酸基価がこのような範囲内であることにより、第1ベース塗膜は、十分な耐水性、例えば優れた高温耐水性(80℃)を有し得る。また、良好な塗膜硬化性を有する。
【0028】
ある態様において、第1塗膜形成樹脂は、10mgKOH/g以上80mgKOH/g以下の酸価を有し、例えば、15mgKOH/g以上70mgKOH/g以下の酸価を有する。第1塗膜形成樹脂の酸価がこのような範囲内であることにより、第1ベース塗膜は、十分な耐水性、例えば優れた高温耐水性(80℃)を有し得る。また、良好な塗膜硬化性を有する。
【0029】
第1塗膜形成樹脂として、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂及びメラミン系樹脂等の塗膜形成樹脂を例示できる。これらの樹脂を単独で含んでもよく、2種以上を組合せて含んでもよい。
例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂及びこれらの混合物から選択される第1塗膜形成樹脂を用いることが、塗膜強度、耐候性及び耐水性等の観点において好ましい。例えば、第1塗膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つを含む。
一態様において、アクリル系樹脂とウレタン系樹脂とを併用してもよい。この場合、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、アクリル系樹脂を固形分量で40質量部以上60質量部以下で含み、ウレタン系樹脂を固形分量で1質量部以上20質量部以下の範囲で含み得る。
複数種のアクリル系樹脂を用いる場合、各アクリル系樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれ、同様に複数種のウレタン系樹脂を用いる場合、各ウレタン系樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれるように、適宜調整できる。
本開示においては、第1塗膜形成樹脂と、第1塗膜硬化剤とを合わせて「第1メイン樹脂」と称する場合がある。また、「第1メイン樹脂の樹脂固形分質量」は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤との固形分総量を意味する。例えば、「第1メイン樹脂」の樹脂固形分100質量部は、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に相当する。
【0030】
(第1硬化剤)
本開示に係る第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂の有する硬化性官能基の種類に適宜対応した、第1硬化剤を含む。
第1硬化剤は、公知のものを使用でき、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を含む。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂及び/又はブロックイソシアネート樹脂が好ましい。
【0031】
第1硬化剤に含むアミノ樹脂は、特に限定されず、水溶性メラミン樹脂及び/又は非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。
【0032】
ブロックイソシアネート樹脂は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。このようなブロックイソシアネート樹脂は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記樹脂成分中の官能基と反応して硬化する。
【0033】
第1硬化剤の配合量は、例えば、第1メイン樹脂(第1塗膜形成樹脂および第1硬化剤)の樹脂固形分100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下であり、例えば、5質量部以上40質量部以下である。第1硬化剤の配合量がこのような範囲内であることにより、十分な塗膜硬化性が得られる。
【0034】
(第1無機光沢剤)
第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上である。第1ベース塗料組成物は、第1無機光沢剤を含むことにより、複層塗膜全体の光沢を向上させることができ、優れた意匠性、例えば、金属感に優れた複層塗膜を形成できる。
【0035】
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、第1ベース塗料組成物によって形成される塗膜(第1ベース塗膜)上に、第2ベース塗料組成物が塗装されると、第1無機光沢剤は、第2ベース塗料組成物に含まれる溶剤を吸着しようとする。この溶剤の移動に伴って、第2光輝材が動くため、その配向性が高まる。さらに、第2ベース塗料組成物の粘度が上昇するため、第2光輝材の配向は維持され易くなる。その結果、第2ベース塗膜における第2光輝材の配向性が向上する。光輝性顔料の配向性が向上することにより、光の乱反射が抑制された、優れた金属調塗膜を形成できる。
【0036】
更に、第1無機光沢剤は、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との間の混相の抑制に寄与できる。混相が抑制されると、塗膜の外観低下が抑制されて、耐チッピング性などの塗膜物性をより良好に保つことができる。
【0037】
ある態様において、第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む。これにより、例えば、上記効果に加えて、第1ベース塗料組成物に含まれる第1光輝材の配向性をさらに向上させることができる。
【0038】
さらに、第1無機光沢剤は、第1ベース塗料組成物が第1光輝材を含む態様において、第1光輝材が均一に分散することを促進し、第1光輝材の局在化を抑制できる。更に、第1無機光沢剤は、第1ベース塗膜のムラを抑制できる。
また、第1無機光沢剤は、本開示に係る第1ベース塗膜に対して、衝撃応力の分散能を付与し得る。このため、例えば、所定の組成を有する第1ベース塗料組成物から形成される第1ベース塗膜は、良好な耐チッピング性を有することができる。
【0039】
ある態様において、第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含み、例えば、第1無機光沢剤は、硫酸バリウムを含む。
例えば、第1無機光沢剤が硫酸バリウムを含むことにより、第2ベース塗料組成物との混相をより効果的に抑制できる。また、混相を抑制された第2ベース塗料組成物は、本開示に係る特定の第2無機系粘性剤を含むので、第2ベース塗膜に凝集力(構造化)が生じて、第2光輝材の配向乱れが更に効果的に防止される。
このように、一実施態様において、第1無機光沢剤が硫酸バリウムを含むことにより、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との混相防止効果がより高まって、第2ベース塗膜における第2光輝材の配向乱れがより効果的に防止される。
【0040】
ある態様において、第1無機光沢剤の平均一次粒子径は、1μm以下であり、例えば、0.01μm以上0.8μm以下であり、例えば、0.05μm以上0.5μm以下である。平均一次粒子径の測定は、既知の方法に従い測定できる。
【0041】
第1無機光沢剤の量は、例えば、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であり、例えば、5質量部以上40質量部以下である。ある態様において、第1無機光沢剤の量は、上記樹脂固形分100質量部に対して、7質量部以上35質量部以下である。第1無機光沢剤の量がこのような範囲内であることにより、混相がさらに抑制され易くなって、良好な光沢を有する塗膜を容易に形成できる。
【0042】
(第1疎水会合型粘性剤)
本開示に係る第1疎水会合型粘性剤は、第1ベース塗料組成物に含まれる、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤からなる群から構成される少なくとも1種が有する疎水性基のうち、少なくとも1つとの間で生じる疎水性相互作用により、第1ベース塗料組成物の粘度を上昇させることができる。第1ベース塗料組成物は、第1疎水会合型粘性剤を含むことにより、第1ベース塗膜のハジキ、ヘコミなどの塗装欠陥を抑制でき、第1ベース塗膜の第2ベース塗膜との界面の平滑性を高めることができる。
また、上記界面近傍における第1光輝材の配向乱れを抑制でき、優れた金属感を有する光輝性の複層塗膜を形成できる。
【0043】
第1疎水会合型粘性剤として、例えば、疎水性モノマーを共重合したポリアクリル酸系粘性剤、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性アミド鎖であるアミド-ウレア系粘性剤および他の粘性剤などを挙げることができる。
【0044】
ある態様において、第1疎水会合型粘性剤は、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤を含む。このような疎水会合型粘性剤を含むことにより、上記効果に加えて、第1ベース塗料組成物など、水系材料を含む系において、優れた沈降防止性及びタレ性をより効果的に示すことができる。
例えば、ポリウレタン系粘性剤、ウレタン-ウレア系粘性剤などの、ウレタン系疎水会合型粘性剤は、低シェア時には粘度が発現しやすく、高シェア時には、粘度が発現し難いという特性を有しており、チキソ性に優れている。このような特性により、本開示の第1ベース塗料組成物は、例えば、スプレー塗装などに好適に使用できる。さらに、このような疎水会合型粘性剤を含む第1ベース塗料組成物から形成される第1ベース塗膜は、優れた耐水性、及び高温耐水性を有し得る。
【0045】
第1疎水会合型粘性剤の市販品の例には、BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-420(ウレタン-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-430(アミド-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、PU 1250(ポリウレタンポリマー、BASF社製)、 SNシックナー-660T、SNシックナー-665T(ウレタン系:サンノプコ社製)、RHEOLATE216(ウレタン-ウレア化合物:ELEMENTIS社製)、プライマルRM-12W,プライマルRM-895(ウレタン系:ダウケミカル社製)、ディスパロンAQ-021(楠本化成)などが挙げられる。
【0046】
本開示の第1ベース塗料組成物は、第1疎水会合型粘性剤を、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下で含み、例えば、0.1質量部以上4.0質量部以下で含む。
好ましくは、第1疎水会合型粘性剤を、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、0.2質量部以上3.5質量部以下、例えば、0.2質量部以上3.0質量部以下の量で含む。
【0047】
このような範囲で第1疎水会合型粘性剤を含むことにより、第1ベース塗膜の形成中に第1無機光沢剤、及び所望により添加される第1光輝材が沈降すること、並びに第1ベース塗膜に濁りが生じることを回避し易くなる。
また、所望により添加される第1光輝材をより均一に配向できるので、優れた意匠性、特に優れた金属調を有する第1ベース塗膜および複層塗膜が得られ易い。その上、第1ベース塗膜は、優れた耐水性、さらには優れた高温耐水付着性を有し得るので、複層塗膜全体の耐水性及び高温耐水性をさらに向上できる。
【0048】
(第1分散剤)
本開示の第1ベース塗料組成物は、第1分散剤を含んでもよい。第1分散剤を含むことにより、第1ベース塗料組成物に含まれる種々の成分の分散安定性が向上する。
【0049】
ある態様において、第1分散剤は、金属または金属酸化物に分散安定性をもたらす置換基を有する。第1分散剤がこのような置換基を有することにより、第1分散剤は、例えば、第1無機光沢剤、所望により添加され得る第1光輝材を効果的に被覆でき、さらに、第1分散剤の分子量の大きさに応じて、第1無機光沢剤、第1光輝材の立体障害を大きくすることができるので、これらの凝集を抑制できる。また、このような第1分散剤は、第1無機光沢剤、第1光輝材の分散性を高めることができる。
【0050】
ある態様において、第1分散剤は、疎水性の高い側鎖を有し得る。この場合、第1分散剤を、例えば、水に対する溶解度が0.01質量%以上5.0質量%以下である有機溶剤、例えばアルコール系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤など、に溶解させることができる。
【0051】
第1分散剤は、ポリマー型分散剤、低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。例えば、第1光輝材の凝集を妨げる観点において、ポリマー型分散剤が好ましい。ポリマー型分散剤は、好ましくは、アニオン性基、カチオン性基またはノニオン性基から選択される少なくとも1種を有するポリマー型分散剤であり、より好ましくは、疎水性の高い側鎖を有し、アニオン性基を有するポリマー型分散剤、ノニオン性基を有するポリマー型分散剤及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種である。アニオン性基の例として、リン酸基、カルボン酸基などが挙げられる。ノニオン性基の例としてポリオキシアルキレン基を挙げることができる。ただし、これらの基に限定されない。
【0052】
上述の通り、ポリマー型分散剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のアクリル共重合体、ブロック共重合体など、公知の分散剤を用いることが出来る。一態様において、分散安定性の観点から、アニオン性又はノニオン性を有するポリマーが好ましく、アクリル共重合体又はブロック共重合体が好ましい。
【0053】
ポリマー型分散剤としては、公知の分散剤を用いることができ、市販品を使用してもよい。例えば、BYK-Chemie社製、DISPERBYKシリーズ、例えば、DISPERBYK、DISPERBYK-194、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-192;ルーブリゾール社製、Solsperse41000、Solsperse43000、Solsperse44000、Solsperse47000などが挙げられる。DISPERBYK-192、DISPERBYK-194N、DISPERBYKを好ましく用いることができる。
【0054】
第1分散剤の量は、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であり得る。このような範囲であることにより、第1ベース塗料組成物に含まれる種々の成分の分散安定性がさらに高まり、第1ベース塗膜の形成工程において、各成分の凝集を効果的に抑制できる。ある態様において、効果的に、第1光輝材の凝集を妨げ、第1光輝材の分散性を高めることができる。
【0055】
(第1光輝材)
ある態様において、第1ベース塗料組成物は、第1光輝材及び第1無機系粘性剤の少なくとも1つを含む。要求される金属感に応じて、第1ベース塗料組成物は、第1光輝材を含んでもよい。
本開示における第1光輝材は、塗膜に金属調の光沢をもたらす顔料である。第1ベース塗料組成物は、1種類の第1光輝材を単独で用いてもよく、複数種の第1光輝材を組合せて用いてもよい。
【0056】
第1ベース塗料組成物における、第1光輝材の質量濃度(PWC)(%)は下記式:
PWC=(第1光輝材の合計質量)/[(第1塗膜形成樹脂の樹脂固形分と第1硬化剤の樹脂固形分との合計質量)+(第1光輝材の合計質量)]×100
で示される。
この場合、PWCの範囲は、0%以上30%以下であってよく、例えば、1%以上30%以下であり、ある態様において、5%以上20%以下であり、例えば、5%以上15%以下である。第1光輝材の質量濃度が上記範囲であることによって、塗膜形成後に、第1光輝材がより均一に配向するので、優れた光輝性を有し、意匠性に優れる塗膜を容易に形成できる。更に、得られる塗膜は、良好な下地隠ぺい性を有することができる。
【0057】
第1光輝材は、後述の第2光輝材と同一の光輝材であってもよい。この態様において、第1光輝材の特性などの詳細な説明は、後述する第2光輝材に関する記載を援用できる。
また、第1光輝材は、表面処理された光輝材であってもよく、例えば、水性塗料組成物用に表面処理された光輝材であってもよい。
一態様において、アルミ光輝材に対する表面処理により、水性塗料組成物でのガッシング(アルミ表面の水による酸化で水素ガス発生)を抑止できる利点がある。表面処理としては、例えば、シリカ処理(シランカップリング剤コート)、モリブデン処理(モリブデン酸コート)、有機処理(樹脂コート)、などが挙げられる。
【0058】
第1光輝材及び表面処理された第1光輝材として市販の光輝材を使用してもよく、例えば、エカルト社製のMETALURE(登録商標)シリーズ、SILVERSHINE(登録商標)シリーズ、HYDROSHINE(登録商標)シリーズ、Liquid Black(登録商標)、PLISMATIC(登録商標)シリーズ、旭化成ケミカルズ社製のFDシリーズ、GXシリーズBSシリーズ及びWAシリーズ、東洋アルミニウム社製の46シリーズ、63シリーズ、WLシリーズ、WMシリーズ、EMERALシリーズなどが挙げられる。
【0059】
(第1無機系粘性剤)
本開示に係る第1無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物であることが好ましい。このように層状構造を有する第1無機系粘性剤は、第1ベース塗料組成物中で膨潤し、カードハウス構造を形成するので、第1ベース塗料組成物に適度な粘度をもたらし、優れた塗膜強度をもたらす。
【0060】
第1無機系粘性剤の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状及び無定形等が挙げられ、円盤状又は板状のものが好ましい。
【0061】
第1無機系粘性剤の厚さは、100nm以下が好ましい。これにより、第1ベース塗料組成物の粘度が適切な範囲に制御され易い。第1無機系粘性剤の厚さは、50nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、5nm以下が特に好ましい。第1無機系粘性剤の厚さは、例えば、0.1nm以上であってよく、0.3nm以上であってよい。
【0062】
円盤状又は板状以外の第1無機系粘性剤の厚さは、一次粒子の平均径と同義である。平均径は、レーザ回折・散乱法により得られた体積基準の粒度分布における50%平均粒子径(D50)である。円盤状又は板状の第1無機系粘性剤の厚さは、その主面と垂直な方向における第1無機系粘性剤の長さである。第2無機系粘性剤の厚さも同様である。
【0063】
本開示に係る無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物(ケイ酸塩鉱物)、ハロゲン化鉱物、酸化鉱物、炭酸塩鉱物、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、ヒ酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物等が含まれる。このような無機系粘性剤は、第1ベース塗料組成物に適度な粘度及び優れた塗膜強度をもたらす。
例えば、無機系粘性剤と第1疎水会合型粘性剤との併用で、第1ベース塗膜に優れた耐水性、高温耐水性をもたらすことができ、複層塗膜全体の耐水性、高温耐水性を良好に保持できる。
ある態様において、第1無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物を含む。
【0064】
珪酸塩層状化合物の具体例には、天然又は合成の、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト等のスメクタイト属粘土鉱物、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母属粘土鉱物、及びバーミキュラライトやカオリナイト、又はこれらの混合物が含まれる。
【0065】
無機系粘性剤の市販品の例には、ラポナイトXLG(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRD(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトEP(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRDS(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、オプティゲルWX(BYK社製Na置換型ベントナイト)、サーマビス(ヘンケル社製合成ヘクトライト類似物質)、スメクトンSA-1(クニミネ工業(株)製サポナイト類似物質)、ベンゲル(ホージュン(株)販売の天然ベントナイト)、クニビアF(クニミネ工業(株)販売の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダービルト社製の天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製の合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製の合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル(株)製の合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル(株)製の合成スメクタイト)等が含まれる。
【0066】
ある態様において、本開示の第1ベース塗料組成物は、第1無機系粘性剤を、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して(第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との樹脂固形分の合計100質量部に対して)、0質量部以上10質量部以下の量で含み、例えば、0.5質量部以上10質量部以下で含む。ある態様において、本開示の第1ベース塗料組成物は、第1無機系粘性剤を、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との樹脂固形分の合計100質量部に対して、0質量部以上10質量部以下で含む。
このような量で含むことにより、良好な耐水性を有する塗膜を形成できる。
【0067】
このような範囲で第1無機系粘性剤を含むことにより、第1ベース塗膜の形成中に、必要に応じて添加される第1光輝材が沈降することが回避され易くなって、優れた意匠性、特に優れた金属調を有する塗膜が容易に得られる。
【0068】
<第2ベース塗料組成物>
本開示における第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含む。
更に、第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含む。なお、本明細書において、「第2無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物を含む」という記載は、「第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含む」と同義である。
このような所定の組成を有する第2ベース塗料組成物と、上述した所定の第1ベース塗料組成物とを含む、本開示に係る水性塗料組成物セットであれば、光輝材の配向性が向上し、光の乱反射が抑制された、優れた金属調塗膜を形成できる。さらに、複雑な形状の被塗物であっても容易に塗装でき、美しい金属調光沢を有する塗膜を形成できる。その上、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、良好な耐チッピング性、耐水性、高温耐水性等の物理的特性を有する塗膜を形成できる。さらに、優れた下地転写性を備える利点がある。
したがって、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットは、優れた意匠性を有すると共に、良好な塗膜物性を有する、金属調の複層塗膜(光輝性の複層塗膜)を形成できる。
【0069】
ある態様において、第2ベース塗料組成物における不揮発分含量(NV2)は、3%以上18%以下であり、例えば、(NV2)は、4%以上17%以下である。ある態様において、(NV2)は、5%以上15%以下である。
【0070】
不揮発分含量(NV2)は、[(乾燥後の第2ベース塗料組成物質量)/(乾燥前の第2ベース塗料組成物質量)]×100(%)により算出される値である。不揮発分含量は、第2ベース塗料組成物中の溶剤の量を調節することにより制御できる。
【0071】
不揮発分含量(NV2)が上記範囲内であることにより、本開示に係る第2ベース塗膜の体積収縮率を十分な範囲に保持でき、良好な金属調光沢を有する複層塗膜を容易に形成できる。
また、良好な塗膜性状を得ることができ、例えば、第2ベース塗料組成物のタレ性を良好にでき、更に、塗装作業性を良好にできる。
不揮発分は、JISK5601-1-2(加熱残分)の手法にて測定できる。
【0072】
本開示に係る第2ベース塗料組成物は、不揮発分含量(NV2)が低いにもかかわらず、第2光輝材の沈降及び塗料組成物の流動を防ぐことができる。また、本開示の第2ベース塗料組成物は、薄膜を形成できるので、第2光輝材をより均一に配向できる。よって、優れた金属調塗膜が容易に得られる。
さらに、本開示に係る第2ベース塗料組成物は、被塗物の形状が複雑であっても、タレを生じることなく塗装できる。その上、本開示に係る第2ベース塗料組成物は水性であるので、環境及び作業者への負荷が少ない。
【0073】
本開示に係る第2ベース塗料組成物は、上述のように、低い不揮発分含量(NV2)を示すので、塗膜の膜厚を薄く均一にできる。ある態様において、第2ベース塗膜の膜厚(t2)は、1μm以上20μm以下であり、例えば、2μm以上15μm未満である。別の態様において、第2ベース塗膜の膜厚は、3μm以上7μm以下である。また、低NV量の第2ベース塗料組成物から塗膜を形成すると、塗装後の第2ベース塗料組成物の体積収縮により、第2光輝材をより均一に配向でき、高いフリップフロップ性を有することができる。
すなわち、本開示に係る第2ベース塗料組成物は、NV量が高い(例えば、NV量=25%)従来の水性塗料組成物とは異なり、均一な膜厚を有する薄膜を自在に形成でき、高いフリップフロップ性を有する塗膜を形成できる。
【0074】
その上、本開示の水性塗料組成物セットであれば、本開示に係る所定の第1ベース塗料組成物と第2ベース塗料組成物との組合せにより奏される相互作用と、第2ベース塗料組成物が有する低い不揮発分含量(NV2)によって、第2光輝材をより均一に配向でき、より高いフリップフロップ性、より低いG値(粒子感)を有することができる。
【0075】
また、本開示に係る第2ベース塗料組成物は、このような低いNV量を有しているにもかかわらず、第2ベース塗料組成物が垂れる現象、及び第2光輝材の沈降を防ぐことができる。その上、曲面を多く取り入れた複雑な形状の被塗物であっても、ムラのない美しい金属調光沢を有する第2ベース塗膜及び複層塗膜を形成できる。
【0076】
(第2塗膜形成樹脂)
本開示における第2塗膜形成樹脂は、上述した第1塗膜形成樹脂と同一種の樹脂を含んでよく、異なる種類の樹脂を含んでよく、これらの混合物であってもよい。例えば、第2塗膜形成樹脂は、第1塗膜形成樹脂と同一種の樹脂を含む。
【0077】
ある態様において、第2塗膜形成樹脂は、数平均分子量は5000以上30000以下、例えば、7000以上25000以下の樹脂である。数平均分子量がこのような範囲内であることにより、良好な作業性を有することができ、さらに、本開示に係る複層塗膜に適した硬化性を有することができる。
【0078】
ある態様において、第2塗膜形成樹脂は、20以上180以下の水酸基価を有し、例えば、30以上160以下の水酸基価を有する。
ある態様において、第2塗膜形成樹脂は、10mgKOH/g以上80mgKOH/g以下の酸価を有し、例えば、15mgKOH/g以上70mgKOH/g以下の酸価を有する。
第2塗膜形成樹脂の水酸基価及び/または酸価がこのような範囲内であることにより、第2ベース塗膜は、十分な耐水性、例えば優れた高温耐水性(80℃)を有し得る。また、第2ベース塗膜は、良好な塗膜硬化性を有する。
【0079】
第2塗膜形成樹脂として、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂及びメラミン系樹脂等の塗膜形成樹脂を例示できる。これらの樹脂を単独で含んでもよく、2種以上を組合せて含んでもよい。
例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂及びこれらの混合物から選択される第1塗膜形成樹脂を用いることが、塗膜強度、耐候性及び耐水性等の観点において好ましい。例えば、第2塗膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つを含む。
ある態様において、アクリル系樹脂とウレタン系樹脂とを併用してもよい。この場合、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、アクリル系樹脂を、固形分量で40質量部以上60質量部以下の量で含み、ウレタン系樹脂を固形分量で1質量部以上20質量部以下の範囲で含み得る。
複数種のアクリル系樹脂を用いる場合、各アクリル系樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれ、同様に複数種のウレタン系樹脂を用いる場合、各ウレタン系樹脂の質量部の合計が上記範囲内に含まれるように、適宜調整できる。
例えば、「第2メイン樹脂の樹脂固形分質量」は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との固形分総量を意味する。例えば、「第2メイン樹脂」の樹脂固形分100質量部は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に相当する。
【0080】
(第2硬化剤)
本開示に係る第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂の有する硬化性官能基の種類に適宜対応した、硬化剤を含む。第2ベース塗料組成物は、上述した第1硬化剤と同一種の樹脂を含んでよく、異なる種類の硬化剤を含んでよく、これらの混合物であってもよい。例えば、第2ベース塗料組成物は、第1硬化剤と同一種の硬化剤を含む。
第2硬化剤の種類、配合量等は、上述した第1硬化剤に関する記載を援用でき、その化合物、配合量等を適宜選択できる。
【0081】
(第2光輝材)
本開示に係る第2ベース塗料組成物は、第2光輝材を含む。本開示における第2光輝材は、塗膜に金属調の光沢をもたらす顔料である。本開示に係る第2ベース塗料組成物は、1種類の第2光輝材を単独で用いてもよく、複数種の第2光輝材を組合せて用いてもよい。
【0082】
本開示に係る第2ベース塗料組成物においては、第2ベース塗料組成物中の、前記第2光輝材の質量濃度(PWC)(%)は、下記式:
PWC=(第2光輝材の合計質量)/[(第2塗膜形成樹脂の樹脂固形分と第2硬化剤の樹脂固形分の合計質量)+(第2光輝材の合計質量)]×100
で示される。
この場合、前記PWCの範囲は5%以上40%以下、例えば、PWCの範囲は10%以上40%以下である。ある態様において、PWCの範囲は、15%以上40%以下であり、例えば、20%以上40%以下である。
第2光輝材の質量濃度が上記範囲であることによって、光輝性顔料の配向性が向上し易くなって、優れた金属調塗膜を容易に形成できる。特に、本開示は、本開示に係る所定の第1ベース塗料組成物と所定の第2ベース塗料組成物とを含む水性塗料組成物セットであるので、所定の第1ベース塗料組成物と所定の第2ベース塗料組成物とが相互作用し得て、第2光輝材がより均一に配向し易くなる。これにより、光の乱反射が抑制された、優れた金属調塗膜を形成できる。
【0083】
本開示における第2光輝材は、例えば、平均粒径(D50)が3μm以上25μm以下である。別の態様において、平均粒径は3μm以上20μm以下、例えば、5μm以上18μm以下であってよい。平均粒径は、通常、湿式フロー式粒子径形状分析装置を用いて測定でき、例えば、FPIA-3000S(SYSMEX社製)を用いて測定できる。
【0084】
本開示における第2光輝材は、平均厚さが3μm以下であってよく、例えば、1μm以下である。ある態様において、第2光輝材は、厚さが500nm以下であり、例えば、250nm以下であり、ある態様において100nm以下である。
好ましくは、第2光輝材は、平均厚さが10nm以上であり、例えば、20nm以上である。ここで、光輝材の平均厚さは、JIS K5906の水面拡散(被覆)面積から算出できる。
【0085】
第2光輝材は、厚さがこのような範囲内であり、かつ、本開示に係る第2ベース塗料組成物に含まれることにより、第2光輝材は、塗装後の第2ベース塗料組成物の体積収縮に伴い、さらに均一に配向しやすくなる。そのため、金属調光沢に優れる、高いフリップフロップ性を示す塗膜を容易に形成することが可能である。
また、第2光輝材は、厚さが上記範囲内であることにより、光輝材の重なり部の光輝材端面による可視光領域における光の散乱が起きにくいため、粒子感が低く緻密な意匠(スムースな意匠)を実現できるとともに、高い金属感を得ることができる。
よって、第2ベース塗膜及び複層塗膜は、低いgraininess値を示し、粒子感が低く緻密な意匠を有する。
【0086】
ある態様において、第2光輝材は、鱗片状の形状を有する。例えば、第2光輝材のアスペクト比は、5以上2000以下であり、10以上2000以下であってよい。
別の態様において、第2光輝材のアスペクト比は、10以上1000以下、例えば、10以上800以下である。
このような形状を有する第2光輝材を含むことにより、第2光輝材は、塗装後の第2ベース塗料組成物の体積収縮に伴い均一に配向しやすくなる。よって、金属調光沢に優れ、高いフリップフロップ性を示す塗膜を容易に形成することが可能である。また、被塗物と塗膜との付着性に悪影響が生じ難い。
特に、本開示は、所定の第1ベース塗料組成物と所定の第2ベース塗料組成物とを含む水性塗料組成物セットであるので、所定の第1ベース塗料組成物と所定の第2ベース塗料組成物との相互作用により、第2光輝材の配向をより均一にすることができる。よって、光の乱反射が抑制された、優れた金属調光沢を有する塗膜を容易に形成できる。
なお、第2光輝材として市販品を用いる場合、アスペクト比は平均アスペクト比で示される場合がある。第2光輝材の平均アスペクト比が上記範囲に含まれればよい。
【0087】
ある態様において、第2光輝材は、厚さ10nm以上250nm以下であり、かつ、アスペクト比が10以上1000以下である。別の態様において、第2光輝材は、厚さ10nm以上150nm以下であり、かつ、アスペクト比が10以上1000以下である。
更に別の態様において、第2光輝材は、厚さ10nm以上150nm未満であり、かつ、アスペクト比が10以上800以下である。
第2光輝材がこのような形状を有することにより、金属調光沢に優れ、高いフリップフロップ性を示す第2ベース塗膜及び複層塗膜を容易に形成することが可能である。更に、可視光の散乱を抑制でき、第2ベース塗膜及び複層塗膜の高い金属感を得ることができる。また、低いgraininess値を示し、粒子感が低く緻密な意匠(スムースな意匠)を有する第2ベース塗膜及び複層塗膜を容易に形成できる。
【0088】
第2光輝材は、例えば、金属片、金属酸化物片、パール顔料及びこれらの混合物から選択される顔料を含むことができる。金属片としては、例えば、アルミニウム、クロム、金、銀、銅、真鍮、チタン、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等が挙げられる。また、金属酸化物片としては、上記金属片の酸化物、例えば、アルミナ、酸化クロム、マイカ等が挙げられる。
【0089】
ある態様において、第2光輝材は、表面処理された光輝材を含む。
例えば、金属片、金属酸化物片及びパール顔料等と水とが反応しガスが発生することを防ぐことを目的として、金属片、金属酸化物片及びパール顔料に金属被膜、例えば、モリブデン酸、クロム酸、イットリウム及び希土類金属などの金属化合物の被膜、又は有機高分子被膜、例えば、重合性モノマーなどを用いて調製される有機高分子の被膜を形成してもよい。
例えば、金属片、金属酸化物片及びパール等の光輝材は、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化クロム、重合化合成樹脂、酸化バナジウム、酸化モリブデン及び/もしくは過酸化モリブデン、ホスフェート、ホスファイト、ボレート、クロメート、又はそれらの混合物もしくは組合せを含む被膜を有してもよい。
なお、例えば、酸化クロム等を用いる場合、化学的に不活性化させたものを用いることにより、毒性を除去できる。
【0090】
第2光輝材は、蒸着金属顔料を含んでもよい。このような第2光輝材は、一般にベースフィルム上に金属薄膜(金属酸化物薄膜)を蒸着させ、ベースフィルムを剥離した後、蒸着金属膜を粉砕して金属片(金属酸化物片)とすることにより得られる。
【0091】
蒸着する金属材料としては、特に限定されないが、例えば、上記金属片、金属酸化物片について記載した材料を用いることができる。好ましくは、第2光輝材は、蒸着アルミニウム顔料、蒸着クロム顔料、蒸着アルミナ顔料、蒸着酸化クロム顔料を含む。蒸着金属顔料についても、所望により、その表面に上述したような被膜を有することができる。
【0092】
また、第2光輝材は、例えば、水性塗料組成物用に表面処理された光輝材であってもよい。
一態様において、アルミ光輝材に対する表面処理により、水性塗料組成物でのガッシング(アルミ表面の水による酸化で水素ガス発生)を抑止できる。例えば、シリカ処理(シランカップリング剤コート)、モリブデン処理(モリブデン酸コート)、有機処理(樹脂コート)、などが挙げられる。
【0093】
第2光輝材及び表面処理された第2光輝材として市販の光輝材を使用してもよく、例えば、エカルト社製のMETALURE(登録商標)シリーズ、SILVERSHINE(登録商標)シリーズ、HYDROSHINE(登録商標)シリーズ、Liquid Black(登録商標)、PLISMATIC(登録商標)シリーズ、旭化成ケミカルズ社製のFDシリーズ、GXシリーズBSシリーズ及びWAシリーズ、東洋アルミニウム社製の46シリーズ、63シリーズ、WLシリーズ、WMシリーズ、EMERALシリーズなどが挙げられる。
【0094】
(第2無機系粘性剤)
本開示における第2無機系粘性剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物を含む。このような層状構造を有する第2無機系粘性剤は、第2ベース塗料組成物中で膨潤し、カードハウス構造を形成するので、第2ベース塗料組成物に適度な粘度をもたらし、優れた塗膜強度をもたらす。
【0095】
さらに、第2無機系粘性剤は、第2光輝材の配向を良好に維持する。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、第2無機系粘性剤は、第2ベース塗料組成物にチクソトロピー性を付与する。上記の通り、第1ベース塗膜上に第2ベース塗料組成物が塗装される際、溶剤の移動が生じ得る。しかし、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤によってチクソトロピー性が付与されているため、低シェア領域における粘度は小さく、第2光輝材の配向はよく維持される。その結果、光の乱反射が抑制された、優れた金属調塗膜を形成できる。
【0096】
加えて、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、第2ベース塗料組成物が第2無機系粘性剤を含むことにより、光輝材(例えばアルミ)と第2無機系粘性剤との間で相互作用による構造化が生じ、第2ベース塗料組成物の凝集力(構造化)による配向乱れも防止されるものと考えられる。その上、光輝材のPWCが高い第2ベースの塗料組成物の安定性を、高めることができる。
【0097】
また、第2無機系粘性剤は、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との間の混相の抑制に寄与できる。混相が抑制されると、塗膜の外観低下が抑制されて、耐チッピング性などの塗膜物性をより良好に保つことができる。
【0098】
第2無機系粘性剤の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状及び無定形等が挙げられ、円盤状又は板状のものが好ましい。
【0099】
第2無機系粘性剤の厚さは、100nm以下が好ましい。これにより、光輝材の配向の乱れはより防止され易い。第2無機系粘性剤の厚さは、50nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、5nm以下が特に好ましい。第2無機系粘性剤の厚さは、例えば、0.1nm以上であってよく、0.3nm以上であってよい。
【0100】
本開示における第2無機系粘性剤として、珪酸塩層状化合物(ケイ酸塩鉱物)、ハロゲン化鉱物、酸化鉱物、炭酸塩鉱物、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、ヒ酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物等が含まれる。
【0101】
ある態様において、第2無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物を含む。珪酸塩層状化合物を含むことにより、第2ベース塗料組成物に適度な粘度及び優れた塗膜強度をもたらすことができる。また、第2ベース塗料組成物から形成される第2ベース塗膜は、第2無機系粘性剤と後述する第2疎水会合型粘性剤とを併用することで、優れた耐水性を有し、その上、優れた高温耐水性(80℃)も有し得る。
【0102】
珪酸塩層状化合物の具体例には、天然又は合成の、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト等のスメクタイト属粘土鉱物や、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母属粘土鉱物及びバーミキュラライトやカオリナイト、又はこれらの混合物が含まれる。
【0103】
ある態様において、珪酸塩層状化合物は、天然又は合成の、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト及びベントナイトからなる群から選択される、少なくとも1種のスメクタイト属粘土鉱物を含む。
別の態様にておいて、珪酸塩層状化合物は、ヘクトライト、サポナイト、モンモリロナイト及びベントナイトからなる群から選択される、少なくとも1種のスメクタイト属粘土鉱物を含む。
珪酸塩層状化合物が、このような鉱物を含むことにより、特定の理論に限定して解釈すべきではないが、例えば、上述した第1無機光沢剤等の第1ベース塗料組成物に含まれる所定の成分との相乗効果によって、第2ベース塗膜における第2光輝材の配向を良好にでき、その上、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との間に生じ得る混相を、更に効果的に抑制できると考えられる。
その結果、光輝性顔料の配向性が向上し、光の乱反射が抑制された、優れた金属調塗膜を形成できる。また、混相による塗膜の外観低下を抑制でき、更に、耐チッピング性などの塗膜物性を良好に保つことができる。
【0104】
第2無機系粘性剤の市販品の例には、ラポナイトXLG(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRD(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRDS(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトEP(BYK社製合成ヘクトライト類似物質)、オプティゲルWX(BYK社製Na置換型ベントナイト)、サーマビス(ヘンケル社製合成ヘクトライト類似物質)、スメクトンSA-1(クニミネ工業(株)製サポナイト類似物質)、ベンゲル(ホージュン(株)販売の天然ベントナイト)、クニビアF(クニミネ工業(株)販売の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダービルト社製の天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製の合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製の合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル(株)製の合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル(株)製の合成スメクタイト)等が含まれる。
【0105】
ある態様において、本開示に係る第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤を、塗膜形成樹脂と硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して1質量部以上7質量部の量で含む。
ある態様において、本開示に係る第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤を、塗膜形成樹脂と硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して1質量部以上7質量部以下で含むのが好ましく、例えば、2質量部以上7質量部以下で含むのがより好ましく、2質量部以上5質量部以下の量で含むのがさらに好ましい。
このような範囲で第2無機系粘性剤を含むことにより、第2ベース塗膜の形成中に第2光輝材が沈降すること、及び第2ベース塗膜に濁りが生じることが回避され易くなる。その上、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との間に生じ得る混相を、更に効果的に抑制できる。
また、第2光輝材を均一に配向できるので、優れた意匠性、特に優れた金属調を有する第2ベース塗膜が得られる。
【0106】
例えば、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤と第2疎水会合型粘性剤とを、所定の関係で含む。
ある態様において、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下で含む。更に、第2ベース塗料組成物は、後述する第2疎水会合型粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下で含み、例えば、1質量部以上15質量部未満含む。
なお、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤を、2質量部以上7質量部以下で含んでよく、例えば、2質量部以上5質量部以下の量で含んでよい。
【0107】
本開示の第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤及び第2疎水会合型粘性剤を、上述のように、塗膜形成樹脂と硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対してそれぞれ所定の質量部で含むことにより、塗膜の形成中に第2光輝材が沈降すること、及び第2ベース塗膜に濁りが生じることを効果的に回避できる。また、第2光輝材の配向を均一にできるので、優れた意匠性を有する塗膜が得られ易い。その上、第2ベース塗膜は優れた耐水性を有し、その上、優れた高温耐水性(80℃)も有し得る。
【0108】
本開示の第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤と第2疎水会合型粘性剤とを併用する限り、第2無機系粘性剤と第2疎水会合型粘性剤との含有量比(質量比)は特に限定されない。例えば、第2無機系粘性剤と第2疎水会合型粘性剤との含有量比(質量比)は、第2無機系粘性剤/第2疎水会合型粘性剤=1/1~5/1であってもよく、別の態様においては、第2無機系粘性剤/第2疎水会合型粘性剤=1/1~1/5であってもよい。
【0109】
ある態様において、本開示に係る水性塗料組成物セットにおける、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対する第1無機光沢剤の量は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対する第2無機系粘性剤の量よりも少ない。
本開示に係る水性塗料組成物セットが、第2無機系粘性剤と第1無機光沢剤とをこのような関係で含むことにより、更に意匠性に優れた、金属調光沢を有する塗膜を形成でき、その上、更に耐チッピング性、耐水性及び高温耐水性等が向上した塗膜物性、および優れた下地転写性を備える、複層塗膜を得ることができる。
【0110】
(第2疎水会合型粘性剤)
本開示に係る第2疎水会合型粘性剤は、第2ベース塗料組成物に含まれる、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2分散剤とからなる群から構成される少なくとも1種が有する疎水性基のうち、少なくとも1つとの間で生じる疎水性相互作用により、第2ベース塗料組成物の粘度を上昇させることができる。
第2疎水会合型粘性剤を含むことにより、第2ベース塗膜のハジキ、ヘコミなどの塗装欠陥を抑制でき、第2ベース塗膜と第1ベース塗膜との間に高い平滑性を有することができる。
また、第2ベース塗料組成物は、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤とを含むので、塗膜の形成中に第2光輝材が沈降すること、及び第2ベース塗膜に濁りが生じることを、より効果的に回避できる。さらに、第2光輝材を均一に配向できるので、優れた意匠性を有する塗膜が得られる。その上、第2ベース塗膜は優れた耐水性を有し、優れた高温耐水性(80℃)も有し得る。
【0111】
第2疎水会合型粘性剤として特に好ましいのは、疎水性モノマーを共重合したポリアクリル酸系粘性剤、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性アミド鎖であるアミド-ウレア系粘性剤および他の粘性剤などを挙げることができる。
【0112】
ある態様において、第2疎水会合型粘性剤は、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤を含む。このような第2疎水会合型粘性剤を含むことにより、上記効果に加えて、第2ベース塗料組成物など、水系材料を含む系において、優れた沈降防止性及びタレ性をより効果的に示すことができる。
例えば、ポリウレタン系粘性剤、ウレタン-ウレア系粘性剤などの、ウレタン系疎水会合型粘性剤は、低シェア時には粘度が発現しやすく、高シェア時には、粘度が発現し難いという特性を有しており、チキソ性に優れている。このような特性により、本開示の第2ベース塗料組成物は、例えば、スプレー塗装などに好適に使用できる。さらに、このような疎水会合型粘性剤を含む第2ベース塗料組成物から形成される第2ベース塗膜は、優れた耐水性、及び高温耐水性を有し得る。
【0113】
第2疎水会合型粘性剤の市販品の例には、BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-420(ウレタン-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、BYK-430(アミド-ウレア化合物:BYK-Chemie社製)、PU 1250(ポリウレタンポリマー、BASF社製)、 SNシックナー-660T、SNシックナー-665T(ウレタン系:サンノプコ社製)、RHEOLATE216(ウレタン-ウレア化合物:ELEMENTIS社製)、プライマルRM-12W,プライマルRM-895(ウレタン系:ダウケミカル社製)、ディスパロンAQ-021(楠本化成)などが挙げられる。
【0114】
本開示の水性塗料組成物は、第2疎水会合型粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下の量で含み、例えば、1質量部以上15質量部未満含む。ある態様において、第2疎水会合型粘性剤を、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、2質量部以上15質量部以下の量、例えば、2質量部以上15質量部未満、ある態様では、2質量部以上10質量部以下、別の態様では2質量部以上5質量部以下の量で含む。
このような範囲で第2疎水会合型粘性剤を含むことにより、第2ベース塗膜の形成中に第2光輝材が沈降すること、及び第2ベース塗膜に濁りが生じることをより効果的に回避できる。また、第2光輝材を均一に配向できるので、優れた意匠性、特に優れた金属調を有する塗膜が得られ易い。その上、所定の第2疎水会合型粘性剤を所定量で配合することで、第2ベース塗膜及び複層塗膜は、優れた耐水性、さらに、優れた高温耐水付着性を有し得る。
【0115】
(第2無機光沢剤)
第2ベース塗料組成物は、必要に応じて、第2無機光沢剤を含み得る。第2無機光沢剤は、上記第1無機光沢剤と同一種であってよく、異なってもよい。
例えば、第2無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上である。
ある態様において、第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含み、例えば、硫酸バリウムを含む。第2無機光沢剤は、上記第1無機光沢剤に記載のものを援用できる。第2無機光沢剤を含むことにより、第2ベース塗膜の光沢を所望の範囲に調整できる。
【0116】
ある態様において、第2ベース塗料組成物は、第1無機光沢剤と同種の第2無機光沢剤を含んでもよい。特定の理論に限定して解釈すべきではないが、第1無機光沢剤と第2無機光沢剤が同種であることにより、第2ベース塗膜と、第1ベース塗膜との間に生じ得る屈折率差に基づく干渉ムラを、より低減できる。
【0117】
第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、第2無機光沢剤を、0.01質量部以上10質量部未満で含んでよく、例えば、0.01質量部以上5質量部以下で含んでよい。ある態様において、第2無機光沢剤を、上記樹脂固形分100質量部に対して、0.1質量部未満で含み、例えば、0.01質量部以上0.1質量部未満で含んでよい。このような範囲で第2無機光沢剤を含むことにより、優れた金属調塗膜を形成できる。
ここで、本開示においては、第2ベース塗料組成物に含まれる光輝材の種類(例えば、大きさ、厚さ)に応じて、第2無機光沢剤の配合量を選択でき、意匠性を更に向上させることができる。
【0118】
一実施態様において、第2ベース塗料組成物は、第2無機光沢剤を含み得る。
第2ベース塗料組成物が、第2無機光沢剤を含む態様においては、例えば、第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、第1ベース塗料組成物に含まれる第1無機光沢剤の量を(Am1)とし、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、第2ベース塗料組成物に含まれる第2無機光沢剤の量を(Am2)とした場合、(Am1)の量と(Am2)の量との比(Am1)/(Am2)が、2.0以上であるのが好ましい。
このような関係を有することにより、第2ベース塗膜と、第1ベース塗膜との間に生じ得る屈折率差に基づく干渉ムラを、より低減できる。
【0119】
(第2分散剤)
本開示の第2ベース塗料組成物は、第2分散剤を含む。
第2分散剤を含むことにより、第2ベース塗料組成物に含まれる種々の成分の分散安定性が向上する。
【0120】
ある態様において、第2分散剤は、金属または金属酸化物に分散安定性をもたらす置換基を有する。第2分散剤がこのような置換基を有することにより、第2分散剤は、第2光輝材を効果的に被覆でき、さらに、第2分散剤の分子量の大きさに応じて、第2光輝材の立体障害を大きくすることができるので、第2光輝材の凝集を抑制できる。また、このような第2分散剤は、第2光輝材の分散性を高めることができる。
【0121】
ある態様において、第2分散剤は、疎水性の高い側鎖を有し得る。第2分散剤が、疎水性の高い側鎖を有することにより、第2分散剤は、例えば、2-エチルヘキシルアルコール(2EHOH)、モノエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(EHG)などの溶剤にも溶解できる。
【0122】
第2分散剤は、ポリマー型分散剤、低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。例えば、第2光輝材の凝集を妨げる観点において、ポリマー型分散剤が好ましい。ポリマー型分散剤は、好ましくは、アニオン性基、カチオン性基またはノニオン性基から選択される少なくとも1種を有するポリマー型分散剤であり、より好ましくは、疎水性の高い側鎖を有し、アニオン性基を有するポリマー型分散剤、ノニオン性基を有するポリマー型分散剤及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種である。アニオン性基の例として、リン酸基、カルボン酸基などが挙げられる。ノニオン性基の例としてポリオキシアルキレン基を挙げることができる。ただし、これらの基に限定されない。
【0123】
上述の通り、ポリマー型分散剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のアクリル共重合体、ブロック共重合体など、公知の分散剤を用いることが出来る。一態様において、分散安定性の観点から、アニオン性又はノニオン性を有するポリマーが好ましく、アクリル共重合体又はブロック共重合体が好ましい。
【0124】
ポリマー型分散剤としては、公知の分散剤を用いることができ、例えば、第1分散剤で記載した市販品を含んでよい。
【0125】
第2分散剤の量は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下であり得る。ある態様において、第2分散剤の量は、第2塗膜形成樹脂と第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上12質量部以下であり、例えば、3質量部以上12質量部以下である。
第2分散剤の量がこのような範囲であることにより、第2ベース塗料組成物に含まれる種々の成分の分散安定性が高まり、第2ベース塗膜の形成工程において、各成分の凝集を抑制できる。また、より効果的に、第2光輝材の凝集を妨げ、第2光輝材の分散性を高めることができる。
【0126】
<有機溶剤>
本開示に係る第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物の少なくとも一方は、有機溶剤を含んでもよい。例えば、水に対する溶解度が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、沸点が160℃以上200℃以下であるアルコール系有機溶剤、必要に応じて、さらに、水に対する溶解度が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、沸点が205℃以上240℃以下であるグリコールエーテル系有機溶剤を含んでもよい。また、公知の溶剤を組み合わせて用いてもよく、単独で用いてもよい。なお、上記溶解度とは、20℃において水100質量部に溶解する有機溶剤の質量を百分率で示したものである。
更に、第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物は、同種類の有機溶剤を含んでもよい。
【0127】
アルコール系有機溶剤の水に対する溶解度が上記範囲内であることによって、塗料粘度および塗装作業性をより良好に調整することができるなどの利点がある。アルコール系有機溶剤の水に対する溶解度は、好ましくは0.05質量%以上3.0質量%以下である。
【0128】
アルコール系有機溶剤の沸点が上記範囲内であることによって、塗装作業性、特に、ワキ性、タレ性などを、より良好な範囲で確保することができる利点がある。アルコール系有機溶剤の沸点は、好ましくは170℃以上190℃以下である。
【0129】
上記アルコール系有機溶剤(溶解度、沸点)は、ヘプタノール(0.5質量%、168℃)、2-エチルヘキシルアルコール(0.1質量%、184℃)及びシクロヘキサノール(4.0質量%、161℃)からなる群から選択され、樹脂水分散体の安定性(粒径)の観点から、2-エチルヘキシルアルコール(2EHOH)が好ましい。
【0130】
水性塗料組成物におけるアルコール系有機溶剤の含有量は、塗膜形成樹脂と硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、例えば10質量部以上150質量部以下であり、好ましくは50質量部以上100質量部以下である。上記の含有量がこのような範囲であると、鱗片状顔料が凝集することを防止する効果が高まり易くなるとともに、ワキ性等の塗装作業性が向上し易い。
なお、複数種の有機溶剤を用いる場合、各有機溶剤の合計量が上記範囲内となるように調整できる。
【0131】
上記アルコール系有機溶剤を水性塗料組成物に添加すると、塗装時の微粒化が向上するので、鱗片状顔料が凝集することを有意に防止できる。
【0132】
必要に応じて、本開示の水性塗料組成物に、水に対する溶解度が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、沸点が205℃以上240℃以下であるグリコールエーテル系有機溶剤を添加してもよい。
【0133】
グリコールエーテル系有機溶剤の水に対する溶解度が0.01質量%以上5.0質量%以下であると、水性塗料組成物を塗装に適した粘度に調整し易い。グリコールエーテル系有機溶剤の水に対する溶解度は、好ましくは0.05質量%以上3.0質量%以下である。
【0134】
グリコールエーテル系有機溶剤の沸点が205℃以上240℃以下であると、塗装作業性、特に、ワキ性およびタレ性が向上し易い。グリコールエーテル系有機溶剤の沸点は、好ましくは210℃以上230℃以下である。
【0135】
上記グリコールエーテル系有機溶剤(溶解度、沸点)は、エチレングリコール モノヘキシルエーテル(ヘキシルグリコール、1.0質量%、208℃)、エチレングリコール モノ2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルグリコール(EHG)、0.2質量%、225℃)及びジプロピレングリコール モノブチルエーテル(5.0質量%、215℃)からなる群から選択され、アクリルエマルション樹脂、疎水性メラミン樹脂水分散体の安定性(粒径)の観点から、エチレングリコール モノ2-エチルヘキシルエーテル(EHG)が好ましい。
【0136】
水性塗料組成物におけるグリコールエーテル系有機溶剤の含有量は、塗膜形成樹脂と硬化剤の合計の樹脂固形分100質量部に対して、例えば10質量部以上150質量部以下であり、好ましくは50質量部以上100質量部以下である。上記の含有量がこのような範囲であると、鱗片状顔料が凝集することを防止する効果が高まり易くなるとともに、ワキ性等の塗装作業性が向上し易い。
なお、複数種の有機溶剤を用いる場合、各有機溶剤の合計量が上記範囲内となるように調整できる。
【0137】
本開示の水性塗料組成物がアルコール系有機溶剤及びグリコールエーテル系有機溶剤を含む場合、アルコール系有機溶剤/グリコールエーテル系有機溶剤の質量比は、1/1から3/1が好ましい。質量比がこの範囲であると、塗料粘性の過度な低下が抑制されて、塗装作業性が向上するとともに、経時での塗料組成物の安定性も向上し易い。
【0138】
また、水性塗料組成物にグリコールエーテル系有機溶剤を単独で添加してもよい。
【0139】
<他の成分>
本開示に係る第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物の少なくとも一方は、上記成分に加えて、水、消泡剤、着色顔料、体質顔料、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤、造膜助剤、防錆顔料、防錆剤等を含んでもよい。
【0140】
<ベース塗料組成物の製造方法>
第1及び第2ベース塗料組成物の製造方法は、上記成分を均一に分散できれば特に限定されない。第1及び第2ベース塗料組成物は、当業者に公知の方法、例えば、ニーダー、ミル又はロールミル等を用いて調製できる。
【0141】
<第1塗膜及び第2塗膜>
本開示に係る第1ベース塗料組成物から第1塗膜を形成でき、本開示に係る第2ベース塗料組成物から第2ベース塗膜を形成できる。このような第1ベース塗膜と第2ベース塗膜とを有する複層塗膜は、光輝材の配向性が高いため、光の乱反射が抑制された、優れた金属感を有する。その上、複層塗膜は、優れた耐チッピング性、耐水性及び高温耐水性等の物理的特性、および作業性を有する。
したがって、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットから形成される複層塗膜は、優れた金属感を有すると共に、良好な塗膜物性を有する。
【0142】
ある態様において、第1ベース塗膜の膜厚(t1)は、1μm以上35μm以下であり、例えば、1μm以上30μm以下であってよく、1μm以上16μm以下であってもよい。また、2μm以上15μm以下であってもよい。別の態様において、第1ベース塗膜の膜厚は、2.5μm以上11μm以下である。
第1ベース塗膜の膜厚がこのような範囲内であることにより、特に、耐チッピング性、下地転写性に優れ、意匠性に優れた複層塗膜を形成できる。なお、上記膜厚は、加熱硬化した膜厚である。
【0143】
ある態様において、第2ベース塗膜の膜厚(t2)は、1μm以上20μm以下であり、例えば、2μm以上15μm未満である。別の態様において、第2ベース塗膜の膜厚は、3μm以上7μm以下である。
第2ベース塗膜の膜厚がこのような範囲内であることにより、タレ防止性に優れ、意匠性に優れた複層塗膜を形成できる。なお、上記膜厚は、加熱硬化した膜厚である。
【0144】
例えば、第1ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚(t1)と、第2ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚(t2)とは、(t1)≧(t2)の関係を有する。このような関係を有することにより、より優れた金属感を有する複層塗膜を形成でき、その上、優れた金属感を損なうことなく、耐チッピング性等の物理的特性、および塗装作業性としての下地転写性に優れる複層塗膜を形成できる。さらに、耐水性及び高温耐水性にも優れた複層塗膜を形成できる。
【0145】
<複層塗膜の形成方法>
本開示は、さらに、本開示に係る第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物を含む水性塗料組成物セット用いる複層塗膜の形成方法であって、
被塗物上に、第1ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第1ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第2ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第2ベース塗膜上に、クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、並びに、
未硬化の第1ベース塗膜と、未硬化の第2ベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを、同時に焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含む、
複層塗膜の形成方法であり、
第1ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚は1μm以上35μm以下であり、
第2ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚は1μm以上20μm以下である、複層塗膜の形成方法を提供する。
【0146】
別の態様において、本開示は、
被塗物上に、水性中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
未硬化の中塗り塗膜上に、第1ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第1ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第2ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第2ベース塗膜上に、クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、並びに、
未硬化の中塗り塗膜と、未硬化の第1ベース塗膜と、未硬化の第2ベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを、同時に焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含む、
複層塗膜の形成方法であり、
第1ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚は1μm以上35μm以下であり、
第2ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚は1μm以上20μmである、複層塗膜の形成方法を提供する。
【0147】
被塗物上に、本開示に係る水性塗料組成物を塗装する前に、中塗り塗膜を形成してもよい。中塗り塗膜は、被塗物の表面の隠蔽性、被塗物との付着性、さらに耐チッピング性を、より向上させるために形成され得る。
中塗り塗膜の膜厚は、例えば、乾燥膜厚で10μm以上50μm以下である。中塗り塗膜を形成するために用いられる中塗り塗料組成物は、塗膜形成成分を含んでおり、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂及び/又は水酸基含有アクリル樹脂と、メラミン樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネートとを含んだもの等、既知のものを使用できる。
これらは、用いる中塗り塗料組成物の形態に応じて、塗装された後、常温又は加熱することによって、乾燥又は硬化される。なお、中塗り塗膜を硬化させずに、いわゆるウェットオンウェット塗装によって、本開示に係る第1ベース塗料組成物を塗装できる。
【0148】
本開示に係る被塗物は、特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛及びこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキ又は蒸着製品、プラスチック、発泡体などを挙げることができる。被塗物は、表面に硬化電着塗膜が形成されていてもよい。硬化電着塗膜は、被塗物に対して電着塗料を電着塗装し、加熱硬化することによって形成される。電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料又はアニオン電着塗料を使用することができる。また、電着塗装方法及び電着塗装された塗膜の加熱硬化は、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法及び条件で行うことができる。
本開示に係る複層塗膜(光輝性の複層塗膜)の形成方法は、例えば、これらの金属により構成される成型物、例えば、自動車車体の外板等に好ましく適用される。
【0149】
本開示で用いるクリヤー塗料組成物として、自動車車体用クリヤー塗料組成物として既知の塗料組成物を用いることができる。このようなクリヤー塗料組成物として、例えば、媒体中に分散又は溶解された状態で、クリヤー塗膜形成樹脂、そして必要に応じた硬化剤及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。クリヤー塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いることができる。透明性又は耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂及び/もしくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/もしくはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。例えば、クリヤー塗料組成物が、上記樹脂成分とともに、紫外線吸収剤及び光安定剤を所定量含むことにより、防食塗膜との付着性が良好となる。また、このようなクリヤー塗料組成物を用いることは、塩害を受けやすい地域での使用においても、腐食を防ぐことができる点で好ましい。
【0150】
第1ベース塗膜の膜厚(t1)は、1μm以上35μm以下であり、例えば、1μm以上30μm以下であってよく、1μm以上16μm以下であってもよい。また、第1ベース塗膜の膜厚(t1)は、2μm以上15μm以下であってもよい。別の態様において、第1ベース塗膜の膜厚は、2.5μm以上11μm以下である。
第1ベース塗膜の膜厚がこのような範囲内であることにより、特に、耐チッピング性、下地転写性に優れ、意匠性に優れた複層塗膜を形成できる。なお、上記膜厚は、加熱硬化した膜厚である。
【0151】
第2ベース塗膜の膜厚は、1μm以上20μm以下であり、例えば、2μm以上15μm未満である。別の態様において、第2ベース塗膜の膜厚は、3μm以上7μm以下である。
第2ベース塗膜の膜厚がこのような範囲内であることにより、タレ防止性に優れ、意匠性に優れた複層塗膜を形成できる。なお、上記膜厚は、加熱硬化した膜厚である。
【0152】
例えば、第1ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚(t1)と、第2ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚(t2)とは、(t1)≧(t2)の関係を有する。このような関係を有することにより、より優れた金属感を有する複層塗膜を形成でき、その上、耐チッピング性等の物理的特性、および塗装作業性としての下地転写性に優れる複層塗膜を形成できる。さらに、耐水性及び高温耐水性にも優れた複層塗膜を形成できる。
得られた薄膜は、優れた光沢及び高いフリップフロップ性(いわゆる、FF性)を有し、粒子感(ぎらつき)を示さない緻密感を満たす金属調の塗膜であり、その上、良好な隠蔽力も有している。
【0153】
本開示のベース塗料組成物を塗装する手段は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは被塗物に応じて適宜選択することができる。例えば、水性塗料組成物の塗装を、静電塗装機により行ってもよい。また、塗膜の吐出量などの条件は、必要とされる塗膜の膜厚などに応じて適宜設定できる。
【0154】
ベース塗料組成物の塗装後に40℃以上100℃以下で1分以上10分以下、水分を揮散させる工程を行うことが好ましい。クリヤー塗装後の硬化温度を、80℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上160℃以下に設定することで、高い架橋度の硬化塗膜が得られる。硬化温度がこの範囲であると、得られる塗膜は十分に硬化される一方、過度な効果が抑制される。硬化時間は硬化温度により変化するが、120℃以上160℃以下で10分以上30分以下が適当である。
【実施例0155】
以下の実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0156】
(実施例1~37、比較例1~3)
<樹脂組成物1の調製>
第1及び第2ベース塗料組成物に含まれる、樹脂組成物1(主成分)を調製した。具体的には、以下のものを用いた。
(1)日本ペイント社製アクリルエマルション樹脂(平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g) 236部
(2)ジメチルエタノールアミン10質量%水溶液 10部
(3)日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(不揮発分30%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g) 28.3部
(4)三洋化成工業社製「プライムポールPX-1000」(2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278mgKOH/g、1級/2級水酸基価比=63/37、不揮発分100%) 8.6部
(5)三井化学社製「サイメル204」(混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%) 21.5部
(6)アビシア社製「ネオレッツR-9603」(ポリカーボネート系ウレタンエマルション樹脂、不揮発分33%) 26部
(7)ラウリルアシッドフォスフェート 0.2部
(8)2-エチルヘキサノール 60部
(9)モノ2-エチルヘキシルエーテル 30部
樹脂組成物における、塗膜形成樹脂の固形分質量と硬化剤の固形分質量との合計(メイン樹脂の固形分量)は100質量部であった。
【0157】
<第1ベース塗料組成物の調製>
上記樹脂組成物1に対し、以下に示す各成分を表1に示すように配合し、水で希釈して、第1ベース水性塗料組成物を得た。
【0158】
表中、不揮発分含量(NV1)、第1光輝材のPWC及び第1無機光沢剤のPWCは、以下の式により算出した。
不揮発分含量(NV1)=[(乾燥後の第1ベース塗料組成物質量)/(乾燥前の第1ベース塗料組成物質量)]×100(%)
【0159】
第1光輝材の質量濃度(PWC)=(第1光輝材の合計質量)/[(第1塗膜形成樹脂の樹脂固形分と第1硬化剤の樹脂固形分の合計質量)+(第1光輝材の合計質量)]×100(%)
第1無機光沢剤の質量濃度(PWC)も、上記第1光輝材の(PWC)算出式における第1光輝材を、第1無機光沢剤に置換え、算出した。
【0160】
(第1光輝材)
CP-315(旭化成ケミカルズ社製 アルミニウム顔料 厚み0.17μm、アスペクト比88)
【0161】
(第1無機光沢剤)
硫酸バリウム(堺化学工業社製 平均粒径:30nm)
【0162】
(第1疎水会合型粘性剤)
BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製、メイン樹脂の固形分量100質量部に対し1質量部)
【0163】
<第2ベース塗料組成物の調製>
上記樹脂組成物1に対し、以下に示す各成分を表1に示すように配合し、水で希釈して、第2ベース水性塗料組成物を得た。
【0164】
表中、不揮発分含量(NV2)、第2光輝材のPWC及び第2無機光沢剤のPWCは、上記第1ベース塗料組成物の調製の記載と同様にして算出した。
【0165】
(第2光輝材)
SB10(旭化成ケミカルズ社製、アルミニウム顔料、厚み0.06μm、平均アスペクト比170)
FD-508H(旭化成ケミカルズ社製、アルミニウム顔料、厚み0.08μm、平均アスペクト比96)
FD-5090(旭化成ケミカルズ社製、アルミニウム顔料、厚み0.11μm、平均アスペクト比80)
WM2068(東洋アルミニウム社製、アルミニウム顔料、厚み0.15μm、平均アスペクト比110)
WA3180(旭化成ケミカルズ社製、アルミニウム顔料、厚み0.25μm、平均アスペクト比55)
WS-3001(エカルト社製、アルミニウム顔料、厚み0.03μm、平均アスペクト比500)
【0166】
(第2無機光沢剤)
硫酸バリウム:バリファインBF-20(堺化学工業社製 平均粒径30nm)
【0167】
(第2無機系粘性剤)
ラポナイトRD(BYK社製合成ヘクトライト類似物質、厚さ:0.9nmから1.0nm)
ラポナイトEP(BYK社製合成ヘクトライト類似物質、厚さ:0.9nmから1.0nm)
オプティゲルWX(BYK社製Na置換型ベントナイト)
表中「ラポ」は、ラポナイトを意味し、「オプテ」はオプティゲルを意味する。
【0168】
(第2疎水会合型粘性剤)
BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製)
アデカノールUH550(ウレタン化合物:アデカ社製)
ディスパロンAQ021(ウレタン化合物:楠本化成工業社製)
表中、「425」は、BYK-425を意味し、「UH550」は、アデカノールUH550を意味し、「AQ021」は、ディスパロンAQ021を意味する。
【0169】
(第2分散剤)
DISPERBYK-192(BYK-Chemie社製)
SURFYNOL-465(EVONIK社製)
SURFYNOL-440(EVONIK社製)
表中「192」はDISPERBYK-192を意味し、「465」はSURFYNOL-465を意味し、「440」はSURFYNOL-440を意味する。
DISPERBYK-192は、アニオン系の分散剤であり、SURFYNOLはノニオン系(アセチレンジオール系化合物のポリエーテル付加物)である。
【0170】
<塗膜の製造例>
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、70×150mmサイズのSPCC-SD鋼板(ダル鋼板)に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント社製)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。更にその塗板に、粘度が25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)となるように予め希釈された、グレー中塗り塗料「オルガP-30」(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン系塗料)を、乾燥膜厚が35μmとなるように静電塗装し、140℃で30分間焼き付け、基材を作成した。
【0171】
得られた基材上に、各実施例および比較例における第1ベース塗料組成物を、表1に示す乾燥膜厚になるように、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により塗装した。
次いで、80℃で3分間プレヒートした後、第2ベース塗料組成物を、表1に示す乾燥膜厚になるように、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により塗装した。
次いで、80℃で3分間プレヒートし、ウェットオンウェットでクリヤー塗料「マックフローO-1820クリヤー」(日本ペイント社製、エポキシ硬化型アクリル樹脂系塗料)を、乾燥膜厚が35μmとなるように、回転霧化型静電塗装機により塗装した。
塗装後、140℃で30分間焼き付けることで、各実施例及び比較例に係る複層塗膜を得た。
【0172】
<評価>
複層塗膜、第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物に関する物性を、以下の基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
【0173】
(沈降性)
第2ベース塗料組成物を50mLのサンプル缶に入れ、室温で10日間静置した時の沈降具合を、以下の基準に基づいて評価した。
○:顔料などが沈降しておらず、全く分離が見られない
△:顔料などが若干沈降し、上澄み液が濁っている
×:顔料などが沈降し、上澄み液が透明になっている
【0174】
(分散安定性)
500mLのビーカーに、得られた第2ベース塗料組成物を250mL入れ、30℃で7日間撹拌後、200メッシュのフィルターでろ過し、第2光輝材の凝集具合を評価した。
○:第2光輝材が凝集していない
×:第2光輝材が凝集している
【0175】
(タレ性)
直径5mmの穴を開けた、電着塗膜及び中塗り塗膜(オルガP-30から形成)を有する塗板に対して、得られた第1ベース塗料組成物及び第2ベース塗料組成物を以下の表に示す乾燥膜厚になるようにカートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により塗装し、80℃で3分プレヒートした後、140℃で30分加熱硬化を行い、穴下部のタレ長さを測定した。
これらの数値は小さい程タレ性が良好である事を示し、5mm以下のものをタレ性良好(○)とし、5mmより長いものをタレ性NG(×)とした。
なお、(△)は、同じ塗料組成物を用いても、タレ性が良好の場合と、タレ性がNGの場合が生じた場合を意味する。
【0176】
(第2ベース塗料組成物の隠蔽性)
白黒隠蔽試験紙上に、得られた第2ベース塗料組成物を以下の表に示す乾燥膜厚になるようにカートリッジベル(ABB社製、回転霧化塗装機)により塗装した。80℃で3分プレヒートした後、140℃で30分加熱硬化を行った。得られたサンプルの隠蔽具合を目視で評価した。
完全に隠蔽できているものを(○)とし、下地が透けているものを(×)とした。
なお、隠蔽性が(◎)は、更に高い隠蔽性を示すことを意味する。
また、隠蔽性が(△)は、同じ塗料組成物を用いても、隠蔽性が(○)の場合と、ごく一部の箇所で(×)場合が生じた場合を意味する。
【0177】
(下地転写性)
基材上に、中塗り塗膜を形成し(オルガP-30から形成した)、得られた塗板の中塗り塗膜を、#800の水研用サンドペーパーで60度の光沢が50%になるまで水研ぎした。次いで、上記した塗膜の製造例と同様の手順に基づき、第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成し、複合塗膜を形成した。その後、研ぎ跡の転写の有無を目視で確認した。
評価基準は、以下のとおりである。
○:研ぎ跡なし
△:僅かに研ぎ跡が観察された
×:全面に研ぎ跡が観察された
【0178】
(金属感)
基材上に、電着塗膜、中塗り塗膜を形成した。更にその上に、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜及びクリヤー塗膜とを有する複層塗膜を作成した。得られた複層塗膜について、「BYK-mac」(BYK-Gardner社製)により、FI値(フリップフロップ性)、G値(粒子感)を測定し、意匠性の評価とした。フリップフロップ性が高く、粒子感が緻密であるほど金属感が良好であるとした。
◎:FI値が20以上 かつ G値が3.0以下
○:FI値が20以上 かつ G値が3.5以下
△:FI値が15以上 かつ G値が4.0以下
×:FI値が15未満 又は G値が4.0以上
【0179】
(耐水付着性)
基材上に、電着塗膜、中塗り塗膜を形成した。更にその上に、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜及びクリヤー塗膜とを有する複層塗膜を作成した。得られた試験片を、40℃の水中に240時間浸漬した後、塗膜の外観を目視で観察し、後述の付着性試験を実施した。評価基準は以下のとおりである。
【0180】
(高温耐水付着性)
基材上に、電着塗膜、中塗り塗膜を形成した。更にその上に、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜及びクリヤー塗膜とを有する複層塗膜を作成した。得られた試験片を、80℃の水中に120時間浸漬した後、塗膜の外観を目視で観察し、後述の付着性試験を実施した。評価基準は以下のとおりである。
【0181】
(付着性試験)
試験片の塗膜に、カッターにより1mmの間隔で縦横10本ずつの切れ目を入れ、その上にセロテープ(登録商標)(ニチバン社製)を貼付した後、はがして、100個のマス目のうち、剥離したマス目の数をカウントした(碁盤目試験とも称される)。この試験により、塗膜の剥離の有無を確認した。
なお、例えば、碁盤目試験の結果が100/100である場合、塗膜の剥離面積は100%であることを意味し、塗膜が剥離したことになる。
【0182】
(耐チッピング性評価)
基材上に、電着塗膜、中塗り塗膜を形成した。更にその上に、各実施例および比較例のベース塗料組成物から形成した第1ベース塗膜と第2ベース塗膜、クリヤー塗膜とを有する複層塗膜を作成した。得られた試験板に対し、グラロベ試験機KSS-1(スガ試験機社製)を用い、以下の条件下で飛石試験を行った(自動車のフード想定した)。
<試験方法>
石の種類:玄武岩7号
石の大きさ:3~4mm
石の量:100g
距離:35cm
ショット圧:0.3MPa
ショット角度:30°
試験温度:-20℃
飛石試験後の試験板を、下記基準により評価した。
○:最大ハガレ部直径が1.0mm以下
△:最大ハガレ部直径が1.0mm超3.0mm以下
×:最大ハガレ部直径が3.0mm超過
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、光輝性顔料の配向性が向上する。そのため、光の乱反射を抑制でき、かつ、十分なハイライト明度を有する、優れた金属調塗膜を形成できる。
また、本開示の組成物セットから形成した複層塗膜は耐候性にも優れる。
その上、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、良好な耐チッピング性、耐水性及び高温耐水性等の物理的特性、および塗装作業性としての下地転写性に優れる塗膜を形成できる。
したがって、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットは、優れた意匠性、特に優れた金属感を有すると共に、良好な塗膜物性を有する、金属調の複層塗膜を形成できる。
更に、ウェットオンウェット塗装を用いて複層塗膜を形成できるので、塗膜形成工程の工程数を低減でき、環境負荷を低減できる。
【0188】
一方、比較例1は、本開示に係る第2無機系粘性剤を含まないため、第2塗料組成物の沈降性に劣り、分散安定性も低下している。その上、得られた塗膜の耐水性(40℃)及び高温耐水性(80℃)は共に不十分であった。
比較例2は、本開示に係る第2疎水会合型粘性剤を含まないため、第2塗料組成物の沈降性に劣り、分散安定性も低下している。更に、金属感は、FI値及びG値共に基準値を満たさなかった。
比較例3は、第1無機光沢剤を含まないため、G値が基準値を満たさず、金属感に乏しい複層塗膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、光輝性顔料の配向性が向上する。そのため、光の乱反射を抑制でき、かつ、十分なハイライト明度を有する、優れた金属調塗膜を形成できる。その上、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、良好な耐チッピング性等の物理的特性、および塗装作業性としての下地転写性に優れる塗膜を形成できる。
【0190】
本願は、2019年12月24日付けで日本国にて出願された特願2019-232918に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【手続補正書】
【提出日】2025-01-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に第1ベース塗料組成物により形成された第1ベース塗膜と、前記第1ベース塗膜上に第2ベース塗料組成物により形成された第2ベース塗膜と、前記第2ベース塗膜上に形成されたクリヤー塗膜と、を有し、
前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、
前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含み、
前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含み、
前記第1ベース塗料組成物における不揮発分含量NV1は、10%以上45%以下であり、
前記第2ベース塗料組成物における不揮発分含量NV2は、3%以上18%以下であり、
前記不揮発分含量NV1と前記不揮発分含量NV2とは、NV1>NV2の関係を満たす、複層塗膜
【請求項2】
前記第2光輝材は、表面処理された光輝材を含む、請求項1記載の複層塗膜
【請求項3】
前記第2光輝材は、鱗片状の形状を有し、アスペクト比が5~2000である光輝材を含む、請求項1又は2に記載の複層塗膜
【請求項4】
前記第2ベース塗料組成物は、前記第2無機系粘性剤を、前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上7質量部以下で含み、
前記第2疎水会合型粘性剤を、前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下で含む、請求項1から3のいずれかに記載の複層塗膜
【請求項5】
前記第2ベース塗料組成物は、更に第2無機光沢剤を含み、
前記第1塗膜形成樹脂と第1硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、前記第1ベース塗料組成物に含まれる前記第1無機光沢剤の量をAm1とし、
前記第2塗膜形成樹脂と前記第2硬化剤との合計の樹脂固形分100質量部に対して、前記第2ベース塗料組成物に含まれる前記第2無機光沢剤の量をAm2とした場合、
前記Am1と前記Am2との比(Am1)/(Am2)が2.0以上である、請求項1から4のいずれかに記載の複層塗膜
【請求項6】
前記第1ベース塗料組成物は、更に、第1光輝材及び第1無機系粘性剤の少なくとも1つを含む、請求項1から5のいずれかに記載の複層塗膜
【請求項7】
前記第2塗膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から6のいずれかに記載の複層塗膜
【請求項8】
前記第2無機系粘性剤は、珪酸塩層状化合物を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の複層塗膜
【請求項9】
前記第1疎水会合型粘性剤及び前記第2疎水会合型粘性剤の少なくとも1つは、ウレタン系疎水会合型粘性剤を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の複層塗膜
【請求項10】
前記第1ベース塗料組成物は、第1分散剤を更に含み、
前記第1分散剤及び前記第2分散剤の少なくとも1つは、アニオン性基、カチオン性基及びノニオン性基から選択される少なくとも1種を有するポリマー型分散剤を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の複層塗膜
【請求項11】
前記第1無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の複層塗膜
【請求項12】
前記第2無機光沢剤は、表面が正に帯電した無機光沢剤を含む、請求項5に記載の複層塗膜
【請求項13】
前記第1無機系粘性剤の厚さが100nm以下である、請求項6に記載の複層塗膜
【請求項14】
前記第2無機系粘性剤の厚さが100nm以下である、請求項1から13のいずれか1項に記載の複層塗膜
【請求項15】
第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を有する複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットの使用方法であって、
前記水性塗料組成物セットは、前記第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料組成物と、前記第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料組成物とを含み、
前記第1ベース塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂と、第1硬化剤と、第1無機光沢剤と、第1疎水会合型粘性剤とを含み、
前記第1無機光沢剤は、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム及び珪藻土からなる群から選択される1種又はそれ以上を含み、
前記第2ベース塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂と、第2硬化剤と、第2光輝材と、第2無機系粘性剤と、第2疎水会合型粘性剤と、第2分散剤とを含み、
前記第2無機系粘性剤は、無機結晶層の積層構造を有する層状物を含み、
前記第1ベース塗料組成物における不揮発分含量NV1は、10%以上45%以下であり、
前記第2ベース塗料組成物における不揮発分含量NV2は、3%以上18%以下であり、
前記不揮発分含量NV1と前記不揮発分含量NV2とは、NV1>NV2の関係を満たし、
前記第2ベース塗料組成物は、前記第1ベース塗料組成物の後に塗装される、水性塗料組成物セットの使用方法。
【請求項16】
前記第1ベース塗膜の膜厚t1と、前記第2ベース塗膜の膜厚t2とは、(t1)≧(t2)の関係を有する、請求項15に記載の水性塗料組成物セットの使用方法
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、光輝材(光輝性顔料)の配向性が向上する。そのため、光の乱反射を抑制でき、かつ、十分なハイライト明度を有する、優れた金属調塗膜を形成できる。さらに、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットによれば、複雑な形状の被塗物であっても容易に塗装でき、美しい金属調光沢を有する塗膜を形成できる。
その上、本開示に係る複層塗膜形成用の水性塗料組成物セットであれば、良好な耐チッピング性、耐候性、耐水性及び高温耐水性等、優れた塗膜物性を有する塗膜が形成される。さらに、塗膜は、優れた下地転写性を備えるとともに、下地隠ぺい性にも優れている。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本開示においては、特定の第1ベース塗料組成物と、特定の第2ベース塗料組成物との組み合わせにより、光線透過が制御される。このことが、複層塗膜の優れた耐候性に寄与しているものと推測される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
第1光輝材及び表面処理された第1光輝材として市販の光輝材を使用してもよく、例えば、エカルト社製のMETALURE(登録商標)シリーズ、SILVERSHINE(登録商標)シリーズ、HYDROSHINE(登録商標)シリーズ、Liquid Black、PLISMATIC(登録商標)シリーズ、旭化成ケミカルズ社製のFDシリーズ、GXシリーズBSシリーズ及びWAシリーズ、東洋アルミニウム社製の46シリーズ、63シリーズ、WLシリーズ、WMシリーズ、EMERALシリーズなどが挙げられる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0135
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0135】
上記グリコールエーテル系有機溶剤(溶解度、沸点)は、エチレングリコール モノヘキシルエーテル(ヘキシルグリコール、1.0質量%、208℃)、エチレングリコール モノ2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルグリコール(EHG)、0.2質量%、225℃)及びジプロピレングリコール モノブチルエーテル(5.0質量%、215℃)からなる群から選択され、アクリルエマルション、疎水性メラミン樹脂水分散体の安定性(粒径)の観点から、エチレングリコール モノ2-エチルヘキシルエーテル(EHG)が好ましい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0146
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0146】
別の態様において、本開示は、
被塗物上に、水性中塗り塗料組成物を塗装し、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
未硬化の中塗り塗膜上に、第1ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第1ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第1ベース塗膜上に、第2ベース塗料組成物を塗装し、未硬化の第2ベース塗膜を形成する工程、
未硬化の第2ベース塗膜上に、クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、並びに、
未硬化の中塗り塗膜と、未硬化の第1ベース塗膜と、未硬化の第2ベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを、同時に焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含む、
複層塗膜の形成方法であり、
第1ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第1ベース塗膜の膜厚は1μm以上35μm以下であり、
第2ベース塗料組成物から形成され、加熱硬化した第2ベース塗膜の膜厚は1μm以上20μm以下である、複層塗膜の形成方法を提供する。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0154
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0154】
ベース塗料組成物の塗装後に40℃以上100℃以下で1分以上10分以下、水分を揮散させる工程を行うことが好ましい。クリヤー塗装後の硬化温度を、80℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上160℃以下に設定することで、高い架橋度の硬化塗膜が得られる。硬化温度がこの範囲であると、得られる塗膜は十分に硬化される一方、過度な硬化が抑制される。硬化時間は硬化温度により変化するが、120℃以上160℃以下で10分以上30分以下が適当である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0156
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0156】
(実施例1~37、比較例1~4)
<樹脂組成物1の調製>
第1及び第2ベース塗料組成物に含まれる、樹脂組成物1(主成分)を調製した。具体的には、以下のものを用いた。
(1)日本ペイント社製アクリルエマルション(平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g) 236部
(2)ジメチルエタノールアミン10質量%水溶液 10部
(3)日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(不揮発分30%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g) 28.3部
(4)三洋化成工業社製「プライムポールPX-1000」(2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278mgKOH/g、1級/2級水酸基価比=63/37、不揮発分100%) 8.6部
(5)三井化学社製「サイメル204」(混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%) 21.5部
(6)アビシア社製「ネオレッツR-9603」(ポリカーボネート系ウレタンエマルション、不揮発分33%) 26部
(7)ラウリルアシッドフォスフェート 0.2部
(8)2-エチルヘキサノール 60部
(9)モノ2-エチルヘキシルエーテル 30部
樹脂組成物における、塗膜形成樹脂の固形分質量と硬化剤の固形分質量との合計(メイン樹脂の固形分量)は100質量部であった。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0168
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0168】
(第2疎水会合型粘性剤)
BYK-425(ウレア変性ウレタン化合物:BYK-Chemie社製)
アデカノールUH550(ウレタン化合物:アデカ社製)
ディスパロンAQ021(ウレタン化合物:楠本化成社製)
表中、「425」は、BYK-425を意味し、「UH550」は、アデカノールUH550を意味し、「AQ021」は、ディスパロンAQ021を意味する。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0178
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0178】
(金属感)
基材上に、電着塗膜、中塗り塗膜を形成した。更にその上に、第1ベース塗膜と第2ベース塗膜及びクリヤー塗膜とを有する複層塗膜を作成した。得られた複層塗膜について、「BYK-mac」(BYK-Gardner社製)により、FI値(フリップフロップ性)、G値(粒子感)を測定し、意匠性の評価とした。フリップフロップ性が高く、粒子感が緻密であるほど金属感が良好であるとした。
◎:FI値が20以上 かつ G値が3.0以下
○:FI値が20以上 かつ G値が3.5以下
△:FI値が15以上 かつ G値が4.0以下
×:FI値が15未満 又は G値が4.0以上