(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006199
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20250109BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250109BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20250109BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250109BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20250109BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20250109BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20250109BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20250109BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
H01F41/02 D
B22F1/00 Y
B22F1/16 100
B22F3/00 B
B22F1/00 V
B22F1/14 650
B22F1/14 500
B22F1/14 100
H01F1/24
H01F1/33
H01F27/255
C22C38/00 303S
C22C38/00 303T
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106846
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】石井 洪平
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC33
4K018BD01
4K018KA44
5E041AA02
5E041AA04
5E041BC01
5E041BD12
5E041BD13
5E041CA02
5E041HB15
(57)【要約】
【課題】絶縁処理によって軟磁性粉末間の絶縁性を確保しつつ、絶縁処理に起因するコストの増加を抑制した圧粉磁心の製造方法を提供すること。
【解決手段】圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末の表面に絶縁被膜を被覆した第1粉末及び軟磁性粉末の表面に絶縁被膜を被覆していない第2粉末を混合して混合体を調製する混合工程と、混合体を圧縮して成形する成形工程と、を有し、混合体の全体を100質量%としたときに、第2粉末の含有量が40質量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末の表面に絶縁被膜を被覆した第1粉末及び前記軟磁性粉末の表面に前記絶縁被膜を被覆していない第2粉末を混合して混合体を調製する混合工程と、
前記混合体を圧縮して成形する成形工程と、
を有し、
前記混合体の全体を100質量%としたときに、前記第2粉末の含有量が40質量%以下である圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換用のリアクトル等に使用される圧粉磁心は、軟磁性粉末を圧縮成形することにより製造される。このような圧粉磁心は、交番磁界中において高い磁気特性を発揮するだけでなく、交番磁界中で使用する際に鉄損が低いことが求められる。
【0003】
特許文献1には、SiおよびAlを含む鉄合金からなり、鉄合金は全体を100質量%としたときに、Si:4.5~7.5%と、Al:2.5~5.5%と、SiとAlの合計:10%以下と、残部:Feと、からなることを特徴とする軟磁性粉末、圧粉磁心および軟磁性合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特定範囲内の合金組成からなる軟磁性粉末は、例えば、飽和磁化が高く、保磁力が低く、最大磁束密度が大きく鉄損(ヒステリシス損失および渦電流損)が小さい圧粉磁心が得られ易いことが、特許文献1に記載されている。
【0006】
鉄損として、渦電流損失、ヒステリシス損失、及び残留損失等が挙げられるが、特に交番磁界の周波数と共に高くなる渦電流損失の低減が重要である。そこで、圧粉磁心の製造には、表面を絶縁被膜で被覆した軟磁性粉末が好適に用いられる。絶縁被膜の存在によって隣接する軟磁性粉末間の絶縁性を高め、鉄損を低減することにより磁気特性を向上した圧粉磁心を得ることができる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、絶縁性を高めるために全ての軟磁性粉末の表面を絶縁被膜で被覆することを想定しているため、絶縁被膜量が多くなり、絶縁被膜を形成する絶縁処理がコストを押し上げるという問題があった。
【0007】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、絶縁処理によって軟磁性粉末間の絶縁性を確保しつつ、絶縁処理に起因するコストの増加を抑制した圧粉磁心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末の表面に絶縁被膜を被覆した第1粉末及び軟磁性粉末の表面に絶縁被膜を被覆していない第2粉末を混合して混合体を調製する混合工程と、混合体を圧縮して成形する成形工程と、を有し、混合体の全体を100質量%としたときに、第2粉末の含有量が40質量%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、絶縁処理によって軟磁性粉末間の絶縁性を確保しつつ、絶縁処理に起因するコストの増加を抑制した圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる圧粉磁心の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】圧粉磁心を模式的に示した部分断面図である。
【
図3】実施例における第2粉末の含有量と鉄損との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、本開示が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0012】
図1は、実施の形態1にかかる圧粉磁心の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法は、ステップS1~S2の工程を有する。ステップS1は、軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆した第1粉末21及び軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆していない第2粉末22を混合して混合体を調製する混合工程である。ステップS2は、混合体を圧縮して成形する成形工程である。そして、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法において、混合体の全体(又は圧粉磁心1の全体)を100質量%としたときに、第2粉末22の含有量が40質量%以下である。
【0013】
ここで、
図2は、圧粉磁心を模式的に示した部分断面図である。
図2に示すように、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法により製造された圧粉磁心1は、軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆した第1粉末21及び軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆していない第2粉末22を有し、圧粉磁心1の全体を100質量%としたときに、第2粉末22の含有量が40質量%以下である。
図2に示す圧粉磁心1は、第1粉末21同士の間、第2粉末22同士の間、及び第1粉末21-第2粉末22の粉末間に低融点ガラス被膜30が介在している。
【0014】
上記した各工程について詳細を説明する。混合工程(ステップS1)では、まず、第1粉末21及び第2粉末22を準備する。第1粉末21は、軟磁性粉末10の表面が絶縁被膜11で被覆されている。軟磁性粉末10の表面を絶縁被膜11で被覆することによって、圧粉磁心1において軟磁性粉末10間の絶縁性が向上する。第1粉末21の含有量は、混合体の全体(又は圧粉磁心1の全体)を100質量%としたときに、60~90質量%以下であることが好ましい。
【0015】
第2粉末22は、軟磁性粉末10の表面が絶縁被膜11で被覆されていない。軟磁性粉末10の表面を絶縁被膜11で被覆していないと、それぞれの軟磁性粉末10の透磁率が高くなり、圧粉磁心1の磁気特性が向上する。したがって、圧粉磁心1における第2粉末22の含有量を40質量%以下の範囲内で調整することにより、圧粉磁心1の鉄損(渦電流損)を低減させつつ、磁気特性を調整することができる。
【0016】
第1粉末21及び第2粉末22に用いられる軟磁性粉末10は、Fe、Co、Ni等の強磁性元素を主成分として含有する。取り扱い性、入手性、及びコスト等の観点から、軟磁性粉末10としては、純鉄粉又は鉄基合金粉末が好ましい。鉄基合金粉末である軟磁性粉末10の組成は、特に制限されるものではないが、圧粉磁心1の磁気特性、混合体の成形性、絶縁被膜11の形成性等を考慮して、適宜調整することができる。
【0017】
軟磁性粉末10は、圧粉磁心1の磁気特性や比抵抗、混合体の成形性、絶縁被膜11の形成性等を改善し得る改質元素を1種以上含有し得る。このような改質元素として、例えばMn、Cr、Mo、Ti、Ni等が考えられる。通常、改質元素量の合計量は10%以下であると好ましい。なお、軟磁性粉末10は、不可避不純物を含有し得る。
【0018】
第1粉末21を構成する軟磁性粉末10は、特に限定されないが、Feを主成分として含み、さらにAlを含む鉄基合金粉末であることが好ましい。Alを含む鉄基合金粉末であると、軟磁性粉末10の表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を含む絶縁被膜11を形成することができる。絶縁被膜11は、後述する低融点ガラスとの相性がよいAl2O3からなる絶縁被膜11であることが好ましいが、Al2O3以外の化合物(例えば、酸化ケイ素、酸化鉄等の酸化物、窒化アルミニウム(AlN)等)を含む絶縁被膜11であってもよく、Al2O3以外の化合物からなる絶縁被膜11であってもよい。
【0019】
さらに、第1粉末21を構成する軟磁性粉末10は、Al以外にSiを含む鉄基合金粉末(Fe-Si-Al系合金粉末)であることが好ましい。Siは、軟磁性粉末10の電気抵抗率の向上、圧粉磁心1の比抵抗の向上(渦電流損失の低減)又は強度の向上等に寄与し得る。また、Alと共にSiを含む鉄基合金粉末であると、Al2O3からなる絶縁被膜11を容易に形成することができる。
【0020】
軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を形成する方法は、絶縁被膜11の種類等に応じて適宜選択され得る。例えば、Fe-Si-Al系合金粉末の表面にAl2O3の絶縁被膜11を形成する場合、Fe-Si-Al系合金粉末を酸化雰囲気で加熱する酸化処理を行なう方法が挙げられる。具体的には、大気中で、Fe-Si-Al系合金粉末を650~1000℃の温度で加熱することにより、第1粉末21を得ることができる。
【0021】
絶縁被膜11は、軟磁性粒子の外表面に均一又は均質に存在していると好ましいが、一部に被覆されていない部分や不均一又は不均質な部分が存在してもよい。絶縁被膜11の膜厚は、例えば0.01~1μmであり、好ましくは0.1~0.5μmである。膜厚が厚すぎると、透磁率が低くなる場合があるため好ましくない。膜厚が薄すぎると、十分な絶縁効果が得られない場合があるため好ましくない。
【0022】
第2粉末22を構成する軟磁性粉末10は、特に限定されないが、Feを主成分として含み、Siを含む鉄基合金粉末(Fe-Si系合金粉末)であることが好ましい。Siを含む鉄基合金粉末であると、上記したように軟磁性粉末10の電気抵抗率の向上、圧粉磁心1の比抵抗の向上(渦電流損失の低減)又は強度の向上等を図ることができる。
【0023】
軟磁性粉末10の製法は、特に限定されるものではない。軟磁性粉末10は、例えば、球状粒子からなるアトマイズ粉末であるとよい。球状粒子からなるアトマイズ粉末を用いると、粒子相互間の攻撃性が低くなり、絶縁被膜11の破壊等による比抵抗値の低下等を抑制し得る。アトマイズ粉末は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中へ溶解させた原料を噴霧して得られるガスアトマイズ粉末でもよく、溶解させた原料の噴霧後に水冷して得られるガス水アトマイズ粉末でもよい。
【0024】
軟磁性粉末10の粒径(メディアン径D50)は、特に限定されないが、例えば1~500μmであり、好ましくは10~360μmである。粒径が大きすぎると、比抵抗の低下または渦電流損失の増加を招くため好ましくない。粒径が小さすぎると、ヒステリシス損失の増加等を招くため好ましくない。なお、この粒径は、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分法で定まる粒度である。
【0025】
軟磁性粉末10の比表面積は、特に限定されないが、0.001~0.04m2/gであることが好ましい。比表面積は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法で測定される窒素ガス吸着法による粒子のBET比表面積を採用することができる。そして、混合体(又は圧粉磁心1)中の第2粉末22を構成する軟磁性粉末10の合計の比表面積は、混合体(又は圧粉磁心1)中の第1粉末21を構成する軟磁性粉末10の合計の比表面積よりも小さいことが好ましい。第1粉末21を構成する軟磁性粉末10よりも粒径が小さい軟磁性粉末10を第2粉末22として用いて、上記した合計の比表面積が小さくなるように第2粉末22の含有量を調整することで、第1粉末21の間に第2粉末22が配置され、高い絶縁性を確保できる。
【0026】
混合体を調製する際、高比抵抗で高強度な圧粉磁心1を得るために、低融点ガラスを添加してもよい。その場合、混合工程では、第1粉末21及び第2粉末22に低融点ガラスを添加して、第1粉末21、第2粉末22、及び低融点ガラスを混合した混合体を調製するとよい。これにより、
図2に示すように、第1粉末21及び第2粉末22の少なくとも一方の表面の少なくとも一部を被覆するように低融点ガラスからなる低融点ガラス被膜30を形成することができる。
【0027】
低融点ガラスは、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、ビスマス珪酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、酸化バナジウム系ガラス、または、リン酸系ガラス等などを挙げることができる。低融点ガラスは、圧粉磁心1を焼鈍する際の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する。
【0028】
低融点ガラスの含有量は、混合体の全体(又は圧粉磁心1の全体)を100質量%としたときに、0.05~5.0質量%であることが好ましい。低融点ガラスの含有量が0.05質量%以上である場合、十分な低融点ガラス被膜30を形成し易くなり、高比抵抗で高強度な圧粉磁心1を容易に得ることができる。低融点ガラスの含有量が5.0質量%以下である場合、圧粉磁心1の磁気特性の低下を効果的に抑制することができる。
【0029】
ここで、低融点ガラス被膜30は、軟磁性粉末10よりも粒径の小さい微粒子として第1粉末21及び第2粉末22の少なくとも一方の表面に付着した層であってもよい。このような低融点ガラスの微粒子の粒径は、軟磁性粉末10の粒径にも依るが、例えば0.1~100μmであり、0.5~50μmであることが好ましい。低融点ガラスの微粒子は、粒径が小さすぎると、その製造や取扱性が困難となり、粒径が大きすぎると、均一な低融点ガラス被膜30の形成が困難となる。なお、低融点ガラスの微粒子の粒径の特定方法には、湿式法、乾式法、照射したレーザ光の散乱パターンから求める方法、沈降速度の相違から求める方法、画像解析により求める方法等が挙げられる。低融点ガラス被膜30は、第1粉末21及び第2粉末22の少なくとも一方の表面に連続的に付着した層であってもよい。
【0030】
例えば、低融点ガラス被膜30を形成する際には、低融点ガラスからなる微粒子の粉末、第1粉末21、及び第2粉末22を分散媒中で混合してこれを乾燥してもよく、加熱により軟化した低融点ガラスを第1粉末21及び第2粉末22の少なくとも一方に付着させてもよい。低融点ガラス被膜30が、軟磁性粉末10よりも粒径の小さい微粒子として第1粉末21及び第2粉末22の少なくとも一方の表面に付着した層からなる場合、後工程の圧縮成形及び焼鈍を経て、連続的な被膜となり得る。
【0031】
混合体を調製する際、軟磁性粉末10の表面に低融点ガラスを均一に分布させるために、潤滑剤を添加してもよい。その場合、混合工程では、第1粉末21及び第2粉末22に低融点ガラス及び潤滑剤を添加して、第1粉末21、第2粉末22、低融点ガラス、及び潤滑剤を混合した混合体を調製するとよい。第1粉末21、第2粉末22、低融点ガラス、及び潤滑剤を混合する際には、潤滑剤の融点以上の温度(例えば、100~150℃)で加熱しながら混合するとよい。加熱により潤滑剤が溶融するため、軟磁性粉末10の表面に低融点ガラスおよび潤滑剤を均一に付着させることができ、これにより圧粉磁心1の成形性を向上させることができる。
【0032】
また、潤滑剤を添加することにより、圧縮成形時における粉末の摩耗や塑性歪を低減できるため、圧粉磁心1の保磁力及びヒステリシス損失の低減を図ることができる。また、潤滑剤を添加することより、粉末同士の摩擦、粉末と金型との摩擦が低減されるため、絶縁被膜11が軟磁性粉末10から剥がれることが抑制される。また、潤滑剤は、成形体を金型から取り出し易くする。
【0033】
潤滑剤として、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸の金属塩粉末、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、脂肪酸アミド、パラフィン、ワックス、天然又は合成樹脂誘導体等が挙げられる。潤滑剤の含有量は、混合体の全体(又は圧粉磁心1の全体)を100質量%としたときに、0.05~3.0質量%であることが好ましい。潤滑剤の含有量が多すぎると、圧粉磁心1の密度が低下して強度が低下し得るため好ましくない。
【0034】
圧粉磁心1の磁束密度等の磁気特性を損なうことのない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を混合体に配合することもできる。また、第1粉末21と第2粉末22と、又はこれらの粉末と低融点ガラスからなる微粒子の粉末とを、適宜の結着剤(バインダー)により結着してもよい。
【0035】
成形工程(ステップS2)では、例えば、圧粉磁心1の形状に対応するキャビティ形状を有する金型に混合体を充填した後、金型に充填された混合体に所定の圧力を印加する。これにより、混合体が成形された成形体を得ることができる。圧縮成形時に印加する圧力は、特に限定されないが、圧力が高いほど高強度で高磁束密度を有する圧粉磁心1が得られる。このような観点から、印加する圧力は、例えば面圧で4~12t/cm2であることが好ましい。圧縮成形時の金型温度は、特に限定されないが、例えば、常温(例えば、5~35℃)であってもよく、温間(例えば、70~200℃)であってもよい。
【0036】
成形工程で得られた成形体を圧粉磁心1とすることもできるが、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法は、成形工程の後、成形体を焼鈍する焼鈍工程を有することが好ましい。成形体を焼鈍する焼鈍温度は、軟磁性粒子や低融点ガラスの種類に応じて適宜選択されるが、例えば600~900℃であることが好ましい。600℃以上で焼鈍することにより、圧縮成形時に軟磁性粉末10に導入された残留ひずみおよび残留応力を除去し、圧粉磁心1の保磁力及びヒステリシス損失を低減することができる。また、900℃以下で焼鈍することにより、絶縁被膜11の薄膜化を抑制することができる。この焼鈍は、例えば、不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0037】
低融点ガラスを含有する混合体を圧縮成形後に焼鈍する場合、成形体を焼鈍する焼鈍温度は、低融点ガラスの軟化点より高く設定される。これにより、焼鈍時に低融点ガラスが軟化するため、第1粉末21同士の間、第2粉末22同士の間、及び第1粉末21-第2粉末22の粉末間に低融点ガラス被膜30を介在させた、高い強度の圧粉磁心1を得ることができる。
【0038】
以上の工程により、圧粉磁心1を製造することができる。本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法により製造される圧粉磁心1の用途は、特に限定されないが、圧粉磁心1は、例えばリアクトル用コアとして好適に用いることができる。リアクトルは、圧粉磁心1であるリング状のコアに、当該コアの少なくとも一部を覆うように銅線などの巻き線を巻くことにより形成することができる。
【0039】
次に、実施例に基づいて本開示のさらに詳細を説明する。なお、実施例は、本開示を限定するものではない。本実施例では、第2粉末22の含有量が異なる6種類の圧粉磁心を製造し、各圧粉磁心について鉄損を評価した。
【0040】
(実施例)
[圧粉磁心の製造]
まず、第1粉末21に用いる軟磁性粉末10としてFe-Si-Al系合金粉末(ガス水アトマイズ粉末)を用意した。大気中で、Fe-Si-Al系合金粉末を900℃で120分間加熱することにより、表面全体にAl2O3の絶縁被膜11を被覆したFe-Si-Al系合金粉末として第1粉末21を得た。Fe-Si-Al系合金粉末は、Siを3.0質量%、Alを3.5質量%、残部として主にFeを含み、粒径が100μmであり、比表面積が0.002~0.009m2/gであった。また、第2粉末22に用いる軟磁性粉末10としてFe-Si系合金粉末(ガス水アトマイズ粉末)を用意した。Fe-Si系合金粉末は、Siを3.0質量%、残部として主にFeを含み、粒径が80μmであり、比表面積が0.003~0.01m2/gであった。
【0041】
そして、容器であるビーカーに、第1粉末21及び第2粉末22を投入し、さらに、低融点ガラス及び潤滑剤を投入した。低融点ガラスには、硼珪酸系ガラスからなるガラス粉末(軟化点550℃)を用いた。潤滑剤には、ステアリン酸モノアミド(日油株式会社製アルフローS-10)を用いた。
【0042】
そして、混合体の全体を100質量%としたときに、第2粉末22の含有量が0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、又は50質量%、低融点ガラスの含有量が2質量%、潤滑剤の含有量が0.5質量%、残部が第1粉末21となる割合で、第1粉末21、第2粉末22、低融点ガラス、及び潤滑剤を100~150℃に加熱しながら混合した。このようにして15分間の混合を行った後、40~70℃まで冷却することにより、混合体を調製した。
【0043】
次に、得られた混合体をリング形状の金型に投入し、金型温度が20℃、面圧が4~12t/cm2の条件で圧縮成形することにより、外径39mm、内径30mm、厚さ5mmのリング形状の成形体を得た。その後、成形体を加熱炉に入れ、窒素雰囲気中、600~900℃の焼鈍温度で30分間の焼鈍を行なうことにより、リング試験片としての圧粉磁心を製造した。このような要領で、第2粉末22の含有量が異なる6種類の圧粉磁心を製造した。製造された各圧粉磁心は、軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆した第1粉末21と、軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆していない第2粉末22と、粉末間に介在する低融点ガラス被膜30と、を有する。
【0044】
[鉄損の測定]
製造された6種類の圧粉磁心について、以下の方法により、鉄損を測定した。各圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を用いて、励磁用90ターンおよび検出用90ターンの巻き線を巻いた。交流磁気測定装置を用いて、0.1T、20kHzの鉄損を測定した。その結果を
図3に示した。
【0045】
図3は、実施例における第2粉末の含有量と鉄損との関係を示すグラフである。
図3に示すグラフの横軸は、第2粉末22の含有量(質量%)を示している。
図3に示すグラフの縦軸は、鉄損の増減を示している。鉄損の値が低いほど絶縁性が高いといえる。
図3の結果からわかるように、第2粉末22の含有量が40質量%以下である場合に、絶縁性を損なわず鉄損の増加を良好に抑制できることが確認された。
【0046】
ここで、例えば、第2粉末22を含有しない混合体を用いて圧粉磁心を製造した場合、絶縁被膜11の存在によって軟磁性粉末10間の絶縁性が確保されるため、過電流損を低減することはできるが、高い磁気特性を有する圧粉磁心が得られないという問題がある。これは、各々の軟磁性粉末10が絶縁被膜11で被覆されているため、軟磁性粉末10毎の透磁率が低下することが原因となり得る。
【0047】
これに対し、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法は、軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆した第1粉末21を含有するとともに、軟磁性粉末10間の絶縁性を損なわない割合で軟磁性粉末10の表面に絶縁被膜11を被覆していない第2粉末22を含有する圧粉磁心1を得ることができる。
【0048】
このような構成により、第1粉末21の絶縁被膜11が軟磁性粉末10間の絶縁性を高めるとともに、絶縁性を高めるために全ての軟磁性粉末10の表面を絶縁被膜11で被覆する必要がないため、絶縁被膜11を形成する絶縁処理に必要な材料等を低減することができる。したがって、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法によれば、絶縁処理によって軟磁性粉末10間の絶縁性を確保しつつ、絶縁処理に起因するコストの増加を抑制することができる。
【0049】
また、軟磁性粉末10の表面を絶縁被膜で被覆すると、絶縁被膜の材質(例えば樹脂)によっては絶縁被膜量が増加することに伴って圧粉磁心の強度が低下する場合がある。これに対し、本実施形態にかかる圧粉磁心1の製造方法では、粉末間に低融点ガラス被膜30を介在させることによって圧粉磁心1の強度を高めることができる。
【0050】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、混合工程において潤滑剤を添加する代わりに、成形工程において金型の内壁面に潤滑剤を塗布した後、混合体を金型に充填して圧縮成形してもよい。この際、金型を加熱しながら圧縮成形するとよい。
【符号の説明】
【0051】
1 圧粉磁心
10 軟磁性粉末
11 絶縁被膜
21 第1粉末
22 第2粉末
30 低融点ガラス被膜