(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025062115
(43)【公開日】2025-04-11
(54)【発明の名称】通信装置及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/1263 20230101AFI20250404BHJP
H04W 72/0446 20230101ALI20250404BHJP
H04W 72/0457 20230101ALI20250404BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20250404BHJP
【FI】
H04W72/1263
H04W72/0446
H04W72/0457 110
H04W84/12
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025018040
(22)【出願日】2025-02-06
(62)【分割の表示】P 2022516870の分割
【原出願日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020075743
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】弁理士法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠介
(72)【発明者】
【氏名】迫田 和之
(57)【要約】
【課題】同期伝送によるマルチリンクオペレーションを行う通信装置を提供する。
【解決手段】通信装置は、第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信部と、前記通信部による通信動作を制御する制御部を具備し、前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制情報に基づいて前記第2のリンクの占有期間を設定する。前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が第1の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクでデータフレームを送信するように制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信部と、
前記通信部による通信動作を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間と第1の閾値に基づいて、前記第2のリンクの占有期間を設定する、
通信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間に基づいて、第2のリンクにおける送信動作を制御する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクでデータフレームを送信するように制御する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記第1の閾値は、前記第2のリンクで送信すべきデータ量に基づいて決まる値である、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値以下で第2の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクで第1の信号を送信するように制御する、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第2の閾値は、前記第1の信号の信号長に基づいて決まる値である、
請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記第1の信号はRTSフレーム又はCTS-to-selfフレームである、
請求項5に記載の通信装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第2の閾値以下のときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクで第2の信号を送信するように制御する、
請求項5に記載の通信装置。
【請求項9】
前記第2の信号はヌルパケットである、
請求項8に記載の通信装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1のリンクに送信抑制期間を設定する信号の送信元又は送信先のリンク間の同時送受信の可否に基づいて、前記第2のリンクでのフレームの送信先を決定する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間よりも長い前記第2のリンクの占有期間を設定する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が第1の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクでデータフレームを送信するように制御する、
請求項11に記載の通信装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値以下で第2の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクで第1の信号を送信するように制御する、
請求項12に記載の通信装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第2の閾値以下のときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクで第2の信号を送信するように制御する、
請求項13に記載の通信装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了したとき、第1の時間だけ前記第1のリンクで送信可能かどうかを確認して、送信可能と判断された場合に前記第1のリンクと前記第2のリンクを用いてデータフレームを送信するように制御する、
請求項11に記載の通信装置。
【請求項16】
第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信装置の通信方法であって、
前記第1のリンクで受信した信号に基づいて前記第1のリンクの送信抑制期間を設定するステップと、
前記第1の送信抑制期間と第1の閾値に基づいて、前記第2のリンクの占有期間を設定するステップと、
を有する通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術(以下、「本開示」とする)は、複数のリンクを束ねて無線通信を行う通信装置及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、VR(Virtual Reality)や8Kのビデオ伝送など、無線通信におけるデータトラフィックが増加している。このようなトラフィックを収容するため、無線LAN(Local Area Network)ではスループットの向上が求められている。現在、スループットを向上させるために有用な技術として、複数のリンクを束ねて通信するマルチリンクオペレーション(Multi-link operation)の規格化が進められている。マルチリンクオペレーションは、各リンクが独立して通信動作する非同期伝送方式と、リンク間で完全に送信タイミングを揃える同期伝送(Synchronous transmission)方式の2つに大別することができる。マルチリンクオペレーションにおいてリンク間のチャネルが近くて漏洩が生じるために、一方のリンクで送信をしながら他のリンクで受信することが難しくなることがある。この場合、複数のリンクで送信タイミングを揃える同期伝送方式によれば、リンク間での同時送受信が発生せず、マルチリンクオペレーションによる効果が得られるようになる。
【0003】
同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実施する際、使用するすべてのリンクが同時に送信可能であること、言い換えれば、各リンクが同時にアイドル(idle)状態になることが求められる。ところが、レガシー端末などのマルチリンクオペレーションに対応していない端末は、1つのリンクのみを使って、他のリンクとは独立して送信動作を行う。このため、複数のリンクがすべてアイドル状態で同期伝送が実施可能となる時間は限られ、マルチリンクオペレーションによるスループット向上の効果を期待できなくなる。
【0004】
例えば、マルチリンクオペレーションに使用する1つのリンクで第1の通信システム(legacy AP)の通信終了時刻を検出すると、そのリンクにおいてその通信終了時刻まで送信を抑制するとともに、マルチリンクオペレーションに使用する他のリンクにおいてその通信終了時刻に終了するメディア占有期間を記載した占有信号を送信して他の通信システムの送信を抑制して、マルチリンクオペレーションに使用するすべてのリンクがアイドルとなる時間を確保する通信機について提案がなされている(特許文献1を参照のこと)。
【0005】
しかしながら、この提案に係る通信機は、一方のリンクで第1の通信システムの通信終了まで送信を抑制した後に、同期伝送によってデータフレームを送信することが想定される。このため、通信機は、第1の通信システムの通信終了までに、送信したいデータが存在していても、送信を待機してしまう。また、メディア占有期間を示す信号を送信して他の通信システムの送信を抑制する場合、占有信号の受信に失敗した通信システムは送信を抑制する送信抑制期間(NAV:Network Allocation Vector:NAV)を設定できず送信を開始してしまうため、通信機は、マルチリンクオペレーションに使用するすべてのリンクがアイドルになる時間を確保することが難しい。また、この提案に係る通信機は、他の端末と衝突することなくデータフレームを送信するために、占有信号を送信したことによる他の通信システムのNAVが満了したときに直ちに占有信号を送信するが、NAVの満了時に同様に占有信号を送信する他の通信機が存在する場合には、占有信号同士の衝突が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを行う通信装置及び通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、
第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信部と、
前記通信部による通信動作を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制情報に基づいて前記第2のリンクの占有期間を設定する、
通信装置である。
【0009】
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が第1の閾値よりも長いときには前記第2のリンクでデータフレームを送信し、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値以下で第2の閾値よりも長いときには前記第2のリンクで第1の信号を送信し、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第2の閾値以下のときには前記第2のリンクで第2の信号を送信するように制御する。
【0010】
また、前記制御部は、前記第1のリンクに送信抑制期間を設定する信号の送信元又は送信先のリンク間の同時送受信の可否に基づいて、前記第2のリンクでのフレームの送信先を決定する。
【0011】
また、本開示の第2の側面は、
第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信装置の通信方法であって、
前記第1のリンクで受信した信号に基づいて前期第1のリンクの送信抑制期間を設定するステップと、
前記第1の送信抑制情報に基づいて前記第2の占有期間を設定するステップと、
を有する通信方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを行う通信装置及び通信方法を提供することができる。
【0013】
なお、本明細書に記載された効果は、あくまでも例示であり、本開示によりもたらされる効果はこれに限定されるものではない。また、本開示が、上記の効果以外に、さらに付加的な効果を奏する場合もある。
【0014】
本開示のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、通信システム100の構成例を示した図である。
【
図2】
図2は、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)のチャネル選択の例を示した図である。
【
図3】
図3は、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)のチャネル選択の例を示した図である。
【
図4】
図4は、通信装置200の構成例を示した図である。
【
図5】
図5は、第1のリンクと第2のリンクを用いてマルチリンクオペレーションを行う通信シーケンス例(データフレームを使って各リンクがアイドルとなる時間を揃える例)を示した図である。
【
図6】
図6は、第1のリンクと第2のリンクを用いてマルチリンクオペレーションを行う通信シーケンス例(ヌルパケットを使って各リンクがアイドルとなる時間を揃える例)を示した図である。
【
図7】
図7は、マルチリンクオペレーション可能な通信装置がデータフレームを送信するための処理手順を示したフローチャートである。
【
図8】
図8は、マルチリンクオペレーション可能な通信装置がデータフレームを送信するための処理手順を示したフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1のリンクと第2のリンクを用いてマルチリンクオペレーションを行う通信シーケンス例を示した図である。
【
図10】
図10は、マルチリンクオペレーション可能な通信装置がデータフレームを送信するための処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本開示について、以下の順に従って説明する。
A.概要
B.システム構成
C.装置構成
D.動作例1
E.動作例2
F.効果
【0017】
A.概要
本開示を適用した通信装置は、第1のリンクと第2のリンクで送信タイミングを揃えた同期伝送によるマルチリンクオペレーションを行う。本開示を適用した通信装置は、第1のリンクで設定されたNAVの長さやすぐに送信すべきデータの有無に応じて、NAVが終了するまで第2のリンクでデータ又は信号長の短い信号の送信を実施する。本開示を適用した通信装置は、NAVの長さが十分長い場合には、第2のリンクでデータフレームを送信することで、他の通信装置がNAVを設定できなかった場合でも送信を抑制させて、第1のリンク及び第2のリンクがすべてアイドル状態となる時間を確保することができる。また、NAVが満了した後には、各通信装置が優先的なランダム待ち時間を設定することで、本開示を適用した通信装置は、マルチリンクオペレーションを行う通信同士間で通信の衝突を回避しながら、マルチリンクオペレーションに対応していない通信装置に対して優先的な送信を行う。
【0018】
また、本開示を適用した通信装置は、他の通信装置の通信終了までよりも長いNAVを設定するようにしてもよい。この場合、本開示を適用した通信装置は、他の通信装置の通信終了後にさらに他の通信装置が送信を試行することを抑制して、同期伝送によるマルチリンクオペレーションのための送信権を獲得し易くなる。例えば、本開示を適用した通信装置は、第1のリンクで自分宛てでないフレームを受信したことによりNAVを設定している期間中に第2のリンクで送信権を確保すると、第1のリンクのNAVの長さと、送信すべきデータの有無及びデータ量や利用するMCS(Modulation and Coding Scheme)などの通信方式に応じて、第1のリンクのNAVが終了する時間までチャネル占有期間(Transmission Opportunity:TXOP)を設定するフレームを送信する。このフレームは、データフレーム、RTS(Request To Send)フレーム、CTS(Clear To Send)-to-selfフレーム、NDP(Null Data Packet)などでよい。また、本開示を適用した通信装置は、第1のリンクのNAV終了後に優先的に送信できるように、第2のリンクのTXOPを第1のリンクのNAVの終了よりも長く設定して、第1のリンクのNAV終了後一定期間のチャネル確認で第1のリンク及び第2のリンクを用いて送信できるようにしてもよい。
【0019】
B.システム構成
図1には、本開示が適用される通信システム100の構成例を模式的に示している。図示の通信システム100は、アクセスポイント(AP)110と、端末(STA)120で構成される。端末120は、アクセスポイントでない(すなわち、non-AP)である。通信システム100では、第1のリンクと第2のリンクを使用可能であり、アクセスポイント110と端末120は第1のリンクと第2のリンクを介して接続されている。
【0020】
アクセスポイント110と端末120はいずれも、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)を使用してマルチリンクオペレーションを行う通信装置(Multi-link Device:MLD)、すなわちそれぞれAP MLD及びnon-AP MLDである。なお、以下では、単に「マルチリンクオペレーション」と言うとき、特に言及しない限り、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを示すものとする。
【0021】
図1に示す例では、アクセスポイント110内には、第1のリンク上で動作するAP1-1と、第2のリンク上で動作するAP1-2という2つのアクセスポイントが含まれている。また。端末120内には、第1のリンク上で動作するnon-AP STA1-1と、第2のリンク上で動作するnon-AP STA1-2という2つの端末が含まれている。但し、アンセスポイント110及び端末120にそれぞれ含まれるアクセスポイント及び端末の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。すなわち、アクセスポイント110と端末120を接続するリンクの数は2つに限定されず、3つ以上のリンクを通して接続されていてもよい。また、
図1では、図面の簡素化のため、通信システム100内にアクセスポイントと端末をそれぞれ1台しか描いていないが、複数台のアクセスポイント及び端末が接続されていてもよい。また、1つの通信装置の中に1以上のアクセスポイント(AP MLD)と1以上の端末(non-AP MLD)が含まれていてもよい。
【0022】
MLD management entityは、それぞれMLDであるアクセスポイント110と端末120内の動作を管理するエンティティである。また、MAC-SAP to LLCは、MAC(Media Access Control)レイヤの上位レイヤであるLLC(Logical Link Control)レイヤに対して、MACレイヤのサービスを提供するポイント(Serivice Access Point)である。
【0023】
本明細書で言う「リンク」とは、2つの通信装置間でデータの伝送を行うことができる無線伝送路である。個々のリンクは、例えば周波数領域で分割された、互いに独立した複数の無線伝送路(チャネル)の中から選択される。
図2及び
図3には、通信システム100で使用される第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)のチャネル選択に関する2つの例を示している。各図において、帯域A及び帯域Bはそれぞれ、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯、920GHz帯などの帯域のうちいずれかの帯域である。帯域A及び帯域Bは、例えば無線局免許を必要としないアンライセンスバンドであってもよく、SAS(Spectrum Access System)などのデータベースアクセスにより使用が許可される。
【0024】
帯域A及び帯域Bは、それぞれ複数のチャネルを含んでいる。
図2及び
図3に示す例では、帯域Aは6つのチャネルからなり、帯域Bは5つのチャネルからなる。通信システム100で動作するアクセスポイント110及び端末120などのMLDは、帯域A及び帯域Bの中から第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)に使用するチャネルを選択する。
図2に示す例では、帯域Aの中から第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)に使用するチャネルを選択している。また、
図3に示す例では、帯域Aの中から第1のリンク(link1)に使用するチャネルを選択するとともに、帯域Bの中から第2のリンク(link2)に使用するチャネルを選択している。
【0025】
C.装置構成
図4には、アクセスポイント110及び端末120として動作することが可能な通信装置200の構成例を示している。通信装置200は、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)を使用してマルチリンクオペレーションを行うデバイスすなわちMLDである。
【0026】
図示の通信装置200は、制御部210と、電源部220と、複数(図示の例では2個)の通信部230-1と、通信部230-2と、通信部230-1に対応するアンテナ部240-1と、通信部230-2に対応するアンテナ部240-2で構成される。
【0027】
通信部230-1とアンテナ部240-1の組み合わせ、並びに通信部230-2とアンテナ部240-2の組み合わせは、通信装置200が使用する帯域毎に装備される。
図4に示す例では、通信部230-1とアンテナ部240-1の組み合わせにより第1のリンク(link1)を用いたデータ通信を実施し、通信部230-2とアンテナ部240-2の組み合わせにより第2のリンク(link2)を用いたデータ通信を実施する。したがって、通信装置200が3つ以上の帯域を使用する場合には、図示しない通信部及びアンテナ部の組み合わせがさらに追加して装備されることになる。通信部230-1と通信部230-2は、互いに制御及び情報の交換を行ってよい。
【0028】
なお、通信部230-1と通信部230-2、並びにアンテナ部240-1とアンテナ部240-2は同一の構成なので、以下では、簡素化のため、通信部230-1と通信部230-2を通信部230に統一するとともに、アンテナ部240-1とアンテナ部240-2をアンテナ部240に統一して参照することにする。
【0029】
通信部230は、例えばマイクロプロセッサなどのプロセッサや回路で構成され、メモリ部238と、無線制御部231と、データ処理部232と、変復調部233と、信号処理部234と、チャネル推定部235と、並列的に配置された複数の無線インターフェース(IF)部236-1、…、236-Nと、各無線インターフェース部236-1、…、236-Nに直列的に接続されたアンプ部237-1、…、237-Nを備えている(但し、Nは2以上の整数とする)。そして、各アンプ部237-1、…、237-Nには、当該通信部230に対応するアンテナ部240を構成する各アンテナ素子が接続されている。
【0030】
直列接続された無線インターフェース部236、アンプ部237、及びアンテナ部240中のアンテナ素子を1組として、1つ以上の組が通信部230の構成要素となっていてもよい。また、各無線インターフェース部236-1、…、236-Nに、各々に対応するアンプ部237-1、…、237-Nの機能が内包されていてもよい。
【0031】
メモリ部238は、通信プロトコルの上位レイヤから入力されたデータ(例えば、送信データ)を一時的に格納して、データ処理部232に提供する。また、メモリ部239は、データ処理部232から受け渡されたデータ(例えば、受信データ)を一時的に格納して、通信プロトコルの上位レイヤに提供する。すなわち、メモリ部238は、送信キューや受信キューとして利用される。
【0032】
なお、メモリ部238の一部又は全部は、通信部230外に配置されていてもよい。また、1つの通信部230-1に配置されたメモリ部238-1を他の通信部230-2と共用してもよいし、通信部230外の配置されたメモリ部238を複数の通信部230-1、230-2、…で共用してもよい。
【0033】
データ処理部232では、自身の通信プロトコルの上位レイヤからデータが入力される送信時において、そのデータから無線送信のためのパケットを生成し、さらにメディアアクセス制御(MAC)のためのヘッダの付加や誤り検出符号の付加などの処理を実施して、処理後のデータを変復調部233へ提供する。また、データ処理部232は、変復調部233からの入力がある受信時においては、MACヘッダの解析、パケット誤りの検出、パケットのリオーダー処理などを実施し、処理後のデータを自身のプロトコル上位レイヤへ提供する。
【0034】
無線制御部231は、当該通信装置200内の各部間の情報の受け渡しを制御する。また、無線制御部231は、変復調部233及び信号処理部234におけるパラメータ設定や、データ処理部232におけるパケットのスケジューリング、無線インターフェース部236及びアンプ部237のパラメータ設定及び送信電力制御を行なう。
【0035】
変復調部233は、送信時には、データ処理部232からの入力データに対し、無線制御部231によって設定された符号化方式及び変調方式に基づいて、符号化、インターリーブ及び変調処理を行い、データシンボルストリームを生成して、信号処理部234に提供する。また、変復調部233は、受信時には、信号処理部234からの入力シンボルストリームに対して、送信時とは反対の復調処理、デインターリーブ、及び復号化処理を行い、データ処理部232若しくは無線制御部231にデータを提供する。
【0036】
信号処理部234は、送信時には、必要に応じ変復調部233からの入力に対して空間分離に供される信号処理を行い、得られた1つ以上の送信シンボルストリームをそれぞれの無線インターフェース部236-1、…に提供する。また、信号処理部234は、受信時には、それぞれの無線インターフェース部236-1、…から入力された受信シンボルストリームに対して信号処理を行い、必要に応じてストリームの空間分解を行って、変復調部233に提供する。
【0037】
チャネル推定部235は、それぞれの無線インターフェース部236-1、…からの入力信号のうち、プリアンブル部分及びトレーニング信号部分から伝搬路の複素チャネル利得情報を算出する。算出された複素チャネル利得情報は、無線制御部231を介して変復調部233での復調処理及び信号処理部234での空間処理に利用される。
【0038】
無線インターフェース部236は、送信時には、信号処理部234からの入力をアナログ信号へ変換し、フィルタリング、及び搬送波周波数へのアップコンバート、位相制御を実施し、対応するアンプ部237又はアンテナ部240へ送出する。また、無線インターフェース部236は、受信時には、対応するアンプ部237又はアンテナ部240からの入力に対して、送信時とは反対のダウンコンバートやフィルタリング、デジタル信号への変換などの処理を実施し、信号処理部234及びチャネル推定部235へデータを提供する。
【0039】
アンプ部237は、送信時には、無線インターフェース部236から入力されたアナログ信号を所定の電力まで増幅し、アンテナ部240内の対応するアンテナ素子へと送出する。また、アンプ部237は、受信時には、アンテナ部240内の対応するアンテナ素子から入力された信号を所定の電力まで低雑音増幅して、無線インターフェース部236に出力する。
【0040】
なお、アンプ部237は、送信時の機能と受信時の機能のうち少なくとも一方が無線インターフェース部236に内包されていてもよい。また、アンプ部237は、送信時の機能と受信時の機能のうち少なくとも一方が通信部230以外の構成要素となっていてもよい。
【0041】
一組の無線インターフェース部236及びアンプ部237で、1つのRF(Radio Frequency)ブランチを構成している。1本のRFブランチで1バンドの送受信を行えるものとする。
図4に示す装置構成例では、通信部230はN本のRFブランチを備えていることになる。
【0042】
制御部210は、例えばマイクロプロセッサなどのプロセッサや回路で構成され、無線制御部231及び電源部220の制御を行なう。また、制御部210は、無線制御部231の上述した動作の少なくとも一部を、無線制御部231の代わりに実施してもよい。特に本実施形態においては、制御部210及び無線制御部231が、後述する各実施例に係る動作を実現するために、各部の動作を制御する。
【0043】
電源部220は、バッテリ電源又は固定電源で構成され、当該通信装置200に対して駆動用の電力を供給する。
【0044】
なお、制御部210と通信部230を併せて、1つ又は複数のLSI(Large Scale Integration)で構成することができる。
【0045】
また、通信装置200が待機中は、通信部230がスタンバイ状態やスリープ状態(若しくは、少なくとも一部の機能を停止させた状態)に遷移して、低消費電力化を図るように構成してもよい。
図4に示す装置構成例では、通信部230は、N本のRFブランチを備えているが、RFブランチ毎にスタンバイ状態やスリープ状態に遷移できるように構成してもよい。
【0046】
D.動作例1
この項では、第1のリンクと第2のリンクを用いてマルチリンクオペレーションを行う通信装置(MLD)の第1の動作例について説明する。具体的には、通信装置(MLD)が、第1のリンクのNAV情報に基づいて第2のリンクのTXOPを設定して、第1のリンク及び第2のリンクをともにアイドル状態にして同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実施し易くする動作について説明する。
【0047】
図5には、この動作を示す通信シーケンス例を示している。但し、
図5では、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)が使用可能で、1台のアクセスポイント(AP MLD1)の配下で3台の端末(STA MLD1、STA MLD2、STA MLD3)が動作する通信システムを想定している。AP MLD1は、第1のリンクで動作するAP1-1及び第2のリンクで動作するAP1-2を含む。また、STA MLD1は第1のリンクで動作するSTA1-1及び第2のリンクで動作するSTA1-2を含み、STA MLD2は第1のリンクで動作するSTA2-1及び第2のリンクで動作するSTA2-2を含み、STA MLD3は第1のリンクで動作するSTA3-1及び第2のリンクで動作するSTA3-2を含む。
【0048】
なお、
図5中の横軸は時間軸であり、アクセスポイント及び各端末の第1のリンク及び第2のリンク上の時間毎の通信動作を示している。実線で描いた四角いブロックは送信フレームを示し、縦方向の実線の矢印は宛て先へのフレーム送信を示し、縦方向の点線の矢印は宛て先以外へのフレームの到来を示している。また、実線で描いた平行四辺形のブロックはバックオフ動作を示し、点線で描いた四角いブロックはNAVを設定した期間を示している。
【0049】
まず、AP MLD1のAP1-1が、ランダムな待ち時間を待機するバックオフを満了して、時刻T1に第1のリンク(link1)においてチャネルを占有する期間(例えば、TXOP)を獲得して、STA MLD3-1宛てにデータフレーム(Data)を送信する。
【0050】
STA1-1とSTA2-1は、AP1-1から自分宛てではないデータフレームを受信すると、そのデータフレームのヘッダのDuration/IDフィールドに記載されている時間に基づいて、STA3-1からAP3-1へ受信確認(ACK)の返送が完了する時刻T3まで送信抑制期間(NAV)を設定して、第1のリンク(link1)でフレームの送信抑制を行う。送信抑制期間の設定に使用する時間情報は、length fieldやEHT(Extreme High Throughput)-SIG(SIGNAL)のTXOP_DURATIONであってもよい。
【0051】
その後、STA1-2は、時刻T2に、第2のリンク(link2)においてバックオフを満了する。STA1-2は、STA1-1が自分宛てではないデータフレームを受信してから送信権獲得を試みてもよいが、
図5に示す例では、STA1-1が自分宛てではないデータフレームを受信する前からバックオフを開始している。STA1-2は、STA1-1のNAV終了までの時間と、STA1-1のNAV終了までに送信すべきデータの有無及びデータ量や利用する変調符号化方式(MCS)に応じて、第2のリンク(link2)においてTXOPを設定する。
【0052】
図5に示す例では、STA1-2は、STA1-1のNAV終了までに送信すべきデータがあるので、TXOPをSTA1-1のNAV終了時刻に相当する時刻T3までに設定して、バックオフが満了した時刻T2にAP1-2宛てにデータフレーム(Data)を送信する。
【0053】
ここで、STA1-1のNAVが終了する時刻T3までの時間が第1の閾値よりも長い場合には、STA1-2は、
図5に示すように、TXOPをSTA1-1のNAVの終了時刻T3までに設定して、データフレームを送信する。ここで言う第1の閾値は、STA1-2が送信すべきデータフレームのデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0054】
また、STA1-1のNAVが終了する時刻T3までの時間が第1の閾値よりも短く、第2の閾値よりも長い場合には、STA1-2は、TXOPをSTA1-1のNAVの終了時刻T3までに設定して、データフレームの代わりに信号長の短い信号を送信する。ここで言う信号長の短い信号は、RTSフレームやCTS-to-selfフレームである。また、第2の閾値は、STA1-2が送信するRTSフレーム又はCTS-to-selfフレームのフレーム長と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0055】
また、STA1-1のNAVが終了する時刻T3までの時間が第2の閾値よりも短い場合には、STA1-2は、TXOPをSTA1-1のNAVの終了時刻T3までに設定して、データフレームの代わりにヌルパケットを送信する。
図6には、
図5に示した通信シーケンスの変形例として、STA1-2がヌルパケットを使って第1のリンクと第2のリンクがアイドルとなる時間を揃える通信シーケンス例を示している。ヌルパケットは、例えばVHT(Very High Throughput) NDPやHE(High Efficiency) NDPでもよい。また、L-STF(Legacy Short Training Field)やL-LTF(Long Training Field)といったレガシープリアンブルのみを含むパケットや、レガシープリアンブルのみを含みNAVの終了時間までのパディングを施したパケットであってもよい。STA1-1のNAVの終了時刻T3までの時間がヌルパケットの送信に係る時間よりも短い場合には、STA1-2がヌルパケットの送信を行わずに、STA1-1のNAVの終了時刻T3までNAVを設定するようにしてもよい。
【0056】
再び
図5を参照して、通信シーケンス例について説明する。STA2-2とSTA3-2は、STA1-2から自分宛てではないデータフレームを受信すると、そのデータフレームのヘッダのDuration/IDフィールドに記載されている時間に基づいて、送信抑制期間(NAV)を設定して、時刻T3まで第2のリンク(link2)でフレームの送信抑制を行う。
【0057】
このようにして、STA MLD1は、時刻T3において、第1のリンクと第2のリンクがアイドルとなる時間を揃えることができる。STA1-1とSTA1-2は、時刻T3において、同じランダムな待ち時間を設定してバックオフを開始してもよい。そして、時刻T4においてバックオフが満了すると、STA1-1とSTA1-2は、それぞれ第1のリンクと第2のリンクを使ってデータフレーム(Data)を送信し、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実現することができる(
図6に示す通信シーケンスにおいても同様)。
【0058】
図5に示す通信シーケンスにおいて、STA1-2は、時刻T2でデータフレームを送信する際、NAVを設定するフレームの送信元(Transmitter Address)と送信先(Receiver Address)がリンク間での同時送受信に対応しているかどうかの情報を用いて、link2で送信するデータフレームの宛て先を決定してもよい。
図5に示す通信シーケンス例では、AP MLD1がリンク間で同時送受信に対応していない場合、STA1-2がAP1-2にデータフレームを送信すると、AP MLD1は、AP1-1でのデータ送信からのリンク間干渉により、AP1-2でのデータの受信に失敗する。また、STA1-1が他のSTA(例えばSTA3-1)がAP(例えばAP1-1)に送信するデータフレームによりNAVを設定している場合、STA1-2がAP1-2にデータを送信しても、AP1-1からSTA3-1へのACK送信による干渉を受けて、AP1-2はデータの受信に失敗する。そのため、STA1-2は、同時受信に対応していないAP1-2ではなく他のSTAにデータフレームを送信するか、又はCTS-to-selfフレームの送信のみを実施する。
【0059】
要するに、第1のリンクと第2のリンクを使用してマルチリンクオペレーションを行う通信装置(MLD)は、一方のリンクでNAVを設定している期間中に他方のリンクで送信権を獲得したときには、NAVの終了時刻までの時間に応じて、他方のリンクでデータフレーム、信号長の短い信号、又はヌルパケットを送信することによって、第1のリンクと第2のリンクがアイドルとなる時間を揃えて、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実現することができる。
【0060】
以下の条件(1)~(3)をすべて満たしたEHT STAは、AP MLD又はnon AP MLDが送信権を獲得した(又は、TXOP holderとなった)一方のリンクにおいて、そのAP MLD又はnon APMLDが他のリンクで設定したNAVが終了する時刻と同一時刻まで、一方のリンクの送信権を獲得し続ける。
【0061】
(1)EHT Capability Information fieldのMulti-link support subfieldを1に設定し、EHT Capability Information fieldのMulti-link simultaneously transmit and receive support subfieldを0に設定している。
(2)TXOP holderとなったリンクでないリンクにおいて、RA fieldのアドレスが自身のMACアドレスと一致しないフレームのlength field、Duration/ID field、EHT-SIGのTXOP_DURATIONに基づきNAVを設定している。
(3)優先度に基づいてフレームを送信するEDCA(Enhanced Distributed Channel Access)に基づきTXOP holderとなったAC(Access Category)に対応するQueueにフレームを保持している。
【0062】
図7及び
図8には、第1のリンクと第2のリンクを使用してマルチリンクオペレーションを行うことが可能な通信装置(MLD)がデータフレームを送信するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
図7及び
図8は、通信装置(MLD)が、第1のリンク(link1)でNAVを設定している期間中に第2のリンク(link2)で送信権(TXOP)を獲得して、第1のリンクと第2のリンクがアイドルとなる時間を揃えるための処理手順を示すものである。
【0063】
MLDは、link1でNAVを設定している期間中に(ステップS701)、link2でバックオフが終了すると(ステップS702)、MLDは、link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値より長いかどうかをチェックする(ステップS703)。第1の閾値は、このMLDが送信すべきデータフレームのデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0064】
link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値以下の場合には(ステップS703のNo)、MLDは、link1のNAVが終了するまでの時間が第2の閾値より長いかどうかをさらにチェックする(ステップS704)。第2の閾値は、RTSフレーム又はCTS-to-selfフレームなどの信号長の短い信号のデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0065】
link1のNAVが終了するまでの時間が第2の閾値以下の場合には(ステップS704のNo)、MLDは、link1で設定したNAVが終了する時間まで、link2において送信権(TXOP)を獲得して、link2でヌルパケット(NDP)を送信する(ステップS705)。
【0066】
link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値より長い場合には(ステップS703のYes)、MLDは、続いて、link1のNAVが終了するまでに送信するデータがあるかどうかをチェックする(ステップS706)。
【0067】
link1のNAVが終了するまでに送信するデータがある場合には(ステップS706のYes)、MLDは、link1でNAVを設定した元となるフレームの送信元及び送信先が接続先のアクセスポイント(AP MLD)であるかどうかをさらにチェックする(ステップS708)。
【0068】
link1でNAVを設定した元となるフレームの送信元及び送信先が接続先のアクセスポイント(AP MLD)である場合には(ステップS708のYes)、MLDは、その接続先のAP MLDはlink1及びlink2で同時送受信可能かどうかをさらにチェックする(ステップS710)。
【0069】
link1のNAVが終了するまでに送信するデータがない場合(ステップS706のNo)、link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値以下であるが第2の閾値より長い場合(ステップS704のYes)、並びに、接続先のAP MLDはlink1及びlink2で同時送受信できない場合には(ステップS710のNo)、MLDは、link1で設定したNAVが終了する時間まで、link2において送信権(TXOP)を獲得して、link2で第1の信号を送信する(ステップS707)。第1の信号は、RTSフレームやCTS-to-selfフレームなどの信号長の短い信号である。
【0070】
また、link1でNAVを設定した元となるフレームの送信元及び送信先が接続先のAP MLDでない場合(ステップS708のYes)、又は、接続先のAP MLDはlink1及びlink2で同時送受信可能である場合には(ステップS710のYes)、MLDは、link1で設定したNAVが終了する時間まで、link2において送信権(TXOP)を獲得して、link2でデータフレームを送信する(ステップS709)。
【0071】
上記のような処理手順によれば、MLDがlink1で設定したNAVが終了した時点でlink1とlink2がともにアイドルになるので、MLDは、link1とlink2を使って同期伝送によるマルチリンクオペレーションを行うことができる。
【0072】
例えば
図5及び
図6に示した通信シーケンス中のSTA MLD1は、
図7及び
図8に示す処理手順に従って動作する。
【0073】
E.動作例2
続いて、第1のリンクと第2のリンクを用いてマルチリンクオペレーションを行う通信装置(MLD)の第2の動作例について説明する。第2の動作例でも、通信装置(MLD)は、第1のリンクのNAV情報に基づいて第2のリンクのTXOPを設定して、第1のリンク及び第2のリンクをともにアイドル状態にして同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実施し易くする。
【0074】
図9には、この動作を示す通信シーケンス例を示している。
図9でも、第1のリンク(link1)と第2のリンク(link2)が使用可能で、1台のアクセスポイント(AP MLD1)の配下で3台の端末(STA MLD1、STA MLD2、STA MLD3)が動作する通信システムを想定している。AP MLD1は、第1のリンクで動作するAP1-1及び第2のリンクで動作するAP1-2を含む。また、STA MLD1は第1のリンクで動作するSTA1-1及び第2のリンクで動作するSTA1-2を含み、STA MLD2は第1のリンクで動作するSTA2-1及び第2のリンクで動作するSTA2-2を含み、STA MLD3は第1のリンクで動作するSTA3-1及び第2のリンクで動作するSTA3-2を含む。
【0075】
また、
図9中の横軸は時間軸であり、アクセスポイント及び各端末の第1のリンク及び第2のリンク上の時間毎の通信動作を示している。なお、実線で描いた四角いブロックは送信フレームを示し、縦方向の実線の矢印は宛て先へのフレーム送信を示し、縦方向の点線の矢印は宛て先以外へのフレームの到来を示している。実線で描いた平行四辺形のブロックはバックオフ動作を示し、点線で描いた四角いブロックはNAVを設定した期間を示している。
【0076】
まず、AP MLD1のAP1-1が、ランダムな待ち時間を待機するバックオフを満了して、時刻T1に第1のリンク(link1)においてチャネルを占有する期間(例えば、TXOP)を獲得して、STA MLD3-1宛てにデータフレーム(Data)を送信する。
【0077】
STA1-1とSTA2-1は、AP1-1から自分宛てではないデータフレームを受信すると、そのデータフレームのヘッダのDuration/IDフィールドに記載されている時間に基づいて、STA3-1からAP3-1へ受信確認(ACK)の返送が完了する時刻T3まで送信抑制期間(NAV)を設定して、第1のリンク(link1)でフレームの送信抑制を行う。送信抑制期間の設定に使用する時間情報は、length fieldやEHT(Extreme High Throughput)-SIG(SIGNAL)のTXOP_DURATIONであってもよい。
【0078】
その後、STA1-2は、時刻T2に、第2のリンク(link2)においてバックオフを満了する。STA1-2は、STA1-1が自分宛てではないデータフレームを受信する前からバックオフを開始してもよいが、
図9に示す例では、STA1-1が自分宛てではないデータフレームを受信してから送信権獲得を試みている。STA1-2は、STA1-1のNAVが終了する時刻T3よりも長いTXOPをlink2で設定して、link1のNAV終了時間まで、最初のデータフレームを送信する。
図9に示す例では、STA1-2が2番目に送信するデータフレームに対する送信先からのACKの受信が完了する時刻T5までの期間をTXOPとしてlink2で設定する。
【0079】
STA2-2とSTA3-2は、STA1-2が最初に送信した自分宛てではないデータフレームを受信すると、そのデータフレームのヘッダのDuration/IDフィールドに記載されている時間に基づいて、送信抑制期間(NAV)を設定して、時刻T5まで第2のリンク(link2)でフレームの送信抑制を行う。
【0080】
STA1-2は、時刻T2でTXOPを獲得した後最初のデータフレームの送信、又はそのデータフレームに対する送信先からのACKの受信がlink1で設定したNAVの終了時刻T3に終了するように、データ長を調整してデータフレームを送信するようにしてもよい。最初のデータフレームの送信、又はそのデータフレームに対する送信先からのACKの受信をlink1で設定したNAVの終了時刻T3までに終了できない場合には、STA1-2は、次のデータフレームの送信完了までの時間をDuration/ID fieldに記載したヌルパケットを送信してもよい。
【0081】
そして、時刻T3でSTA1-1がlink1で設定したNAVが終了した後、STA1-1とSTA1-2は、それぞれlink1及びlink2がアイドルであるかどうかを第1の時間だけ確認する。
【0082】
ここで言う第1の時間は、例えば、SIFS(Short InterFrame Space)やPIFS(Point coordination function IFS)、又はSIFS+Random()×SlotTimeなどである。Random()は、ある一定の範囲から一様にランダムに決定される整数である。第1の時間は、link1とlink2で共通の時間でもよく、各linkでの送信状況などに応じて異なる時間を設定してもよい。STA MLD1以外にも、AP1-1がSTA3-1に送信しているデータフレームによりlink1でNAVを設定し、このNAVが終了した後にlink1とlink2を用いてマルチリンクオペレーションを行おうとしている端末がいることを想定して、端末間の衝突を回避するために、第1の時間をランダムな待ち時間としてもよい。
図9に示す例では、link1とlink2ともにPIFSが第1の時間に使用されている。
【0083】
このようにして、STA MLD1は、時刻T3において、第1のリンクと第2のリンクがアイドルとなる時間を揃えることができる。そして、時刻T3から第1の時間が経過した時刻T4において、STA1-1とSTA1-2は、それぞれlink1とlink2を使ってデータフレーム(Data)を送信し、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実現することができる。
図9に示す例では、STA1-1とSTA1-2は、それぞれlink1とlink2を使ってAP1-1とAP1-2宛てにデータフレームを送信している。そして、AP1-1とAP1-2は、データフレームを受信完了した後、それぞれlink1とlink2を使ってACKを返送している。
【0084】
図10には、第1のリンクと第2のリンクを使用してマルチリンクオペレーションを行うことが可能な通信装置(MLD)がデータフレームを送信するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0085】
MLDは、link1でNAVを設定している期間中に(ステップS1001)、link2でバックオフが終了すると(ステップS1002)、link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値より長いかどうかをチェックする(ステップS1003)。第1の閾値は、このMLDが送信すべきデータフレームのデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0086】
link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値より長い場合には(ステップS1003のYes)、MLDは、link2でTXOPを設定して、link1のNAV終了時間までlink2でデータフレームを送信する(ステップS1004)。第1の閾値は、このMLDが最初に送信するデータフレームのデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。また、S1004では、MLDは、link2のTXOPをlink1のNAV終了よりも長く設定する。
【0087】
また、link1のNAVが終了するまでの時間が第1の閾値以下である場合には(ステップS1003のNo)、MLDは、link1のNAVが終了するまでの時間が第2の閾値より長いかどうかをさらにチェックする(ステップS1005)。第2の閾値は、RTSフレーム又はCTS-to-selfフレームなどの信号長の短い信号のデータ量と利用するMCSに応じて決まる時間長である。
【0088】
link1のNAVが終了するまでの時間が第2の閾値より長い場合には(ステップS1005のYes)、MLDは、link2でTXOPを設定して、link1のNAV終了時間までlink2で第1の信号を送信する(ステップS1006)。第1の信号は、RTSフレームやCTS-to-selfフレームなどの信号長の短い信号である。また、S1006では、MLDは、link2のTXOPをlink1のNAV終了よりも長く設定する。
【0089】
また、link1のNAVが終了するまでの時間が第2の閾値以下の場合には(ステップS1005のNo)、MLDは、link2でTXOPを設定して、link1のNAV終了時間までlink2でヌルパケット(NDP)を送信する(ステップS1007)。S1007では、MLDは、link2のTXOPをlink1のNAV終了よりも長く設定する。
【0090】
その後、MLDは、link1で設定したNAVが終了するまで待機する(ステップS1008のNo)。そして、link1で設定したNAVが終了するまで待機する(ステップS1008のYes)、MLDは、link2で上記ステップS1004、S1006、又はS1007の送信を終了すると(ステップS1009)、link1がアイドルであるかどうかを第1の時間だけ確認する(ステップS1010)。
【0091】
link1が第1の時間だけアイドルであることが確認できた場合には(ステップS1010のYes)、MLDは、link1とlink2でデータ送信を開始して、マルチリンクオペレーションを行う(ステップS1011)。これによって、link1とlink2を用いてマルチリンクオペレーションを実施できる確率を上げることができる。
【0092】
また、link1が第1の時間だけアイドルであることが確認できなかった場合には(ステップS1010のNo)、MLDは、link2のみでデータ送信を開始して(ステップS1012)、マルチリンクオペレーションを行わない。
【0093】
F.効果
本開示によりもたらされる効果についてまとめておく。
【0094】
(1)通信装置(MLD)は、1つのリンクで設定したNAV情報に基づいて他のリンクのTXOPを設定するようにすることで、各リンクがアイドルになる時間を揃えることができるので、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを実施し易くなる。
【0095】
(2)通信装置(MLD)は、周囲の端末のリンク間での同時送受信の能力に応じてデータの送信先を決定する。例えば、通信装置(MLD)は、1つのリンクで設定したNAVが終了するまでの間に他の端末で送信権を獲得したとき、同時送受信に対応する端末をデータの送信先に決定する。これによって、同時送受信に対応していない端末においてリンク間干渉によるデータの受信失敗を回避することができる。
【0096】
(3)通信装置(MLD)は、1つのリンクで設定したNAVが終了した後、一定の期間チャネル確認を行った後に各リンクで同時にデータ送信を開始する。これによって、各リンクを用いたマルチリンクオペレーションを実施できる確率を上げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本開示について詳細に説明してきた。しかしながら、本開示の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0098】
例えば、IEEE802.11規格に則った無線LANシステムに本開示を適用することによって、マルチリンク機能を実装する通信装置(MLD)は、同期伝送によるマルチリンクオペレーションを容易に実行することが可能となり、高スループット化を実現することができる。
【0099】
要するに、例示という形態により本開示について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本開示の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【0100】
なお、本開示は、以下のような構成をとることも可能である。
【0101】
(1)第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信部と、
前記通信部による通信動作を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制情報に基づいて前記第2のリンクの占有期間を設定する、
通信装置。
【0102】
(2)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間に基づいて、第2のリンクにおける送信動作を制御する、
上記(1)に記載の通信装置。
【0103】
(3)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が第1の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクでデータフレームを送信するように制御する、
上記(1)又は(2)のいずれかに記載の通信装置。
【0104】
(4)前記第1の閾値は、前記第2のリンクで送信すべきデータ量に基づいて決まる値である、
上記(3)に記載の通信装置。
【0105】
(5)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値以下で第2の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクで第1の信号を送信するように制御する、
上記(3)又は(4)のいずれかに記載の通信装置。
【0106】
(6)前記第2の閾値は、前記第1の信号の信号長に基づいて決まる値である、
上記(5)に記載の通信装置。
【0107】
(7)前記第1の信号はRTSフレーム又はCTS-to-selfフレームである、
上記(5)又は(6)のいずれかに記載の通信装置。
【0108】
(8)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第2の閾値以下のときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクの占有期間を設定して、前記第2のリンクで第2の信号を送信するように制御する、
上記(5)乃至(7)のいずれかに記載の通信装置。
【0109】
(9)前記第2の信号はヌルパケットである、
上記(8)に記載の通信装置。
【0110】
(10)前記制御部は、前記第1のリンクに送信抑制期間を設定する信号の送信元又は送信先のリンク間の同時送受信の可否に基づいて、前記第2のリンクでのフレームの送信先を決定する、
上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の通信装置。
【0111】
(11)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間よりも長い前記第の2の占有期間を設定する、
上記(1)又は(2)のいずれかに記載の通信装置。
【0112】
(12)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が第1の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクでデータフレームを送信するように制御する、
上記(11)に記載の通信装置。
【0113】
(13)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第1の閾値以下で第2の閾値よりも長いときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクで第1の信号を送信するように制御する、
上記(12)に記載の通信装置。
【0114】
(14)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間の残り時間が前記第2の閾値以下のときには、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了するまで前記第2のリンクで第2の信号を送信するように制御する、
上記(13)に記載の通信装置。
【0115】
(15)前記制御部は、前記第1のリンクの送信抑制期間が終了したとき、第1の時間だけ前記第1のリンクで送信可能かどうかを確認して、送信可能と判断された場合に前記第1のリンクと前記第2のリンクを用いてデータフレームを送信するように制御する、
上記(11)乃至(14)のいずれかに記載の通信装置。
【0116】
(16)第1のリンク及び第2のリンクで通信を行う通信装置の通信方法であって、
前記第1のリンクで受信した信号に基づいて前記第1のリンクの送信抑制期間を設定するステップと、
前記第1の送信抑制情報に基づいて前記第2の占有期間を設定するステップと、
を有する通信方法。
【符号の説明】
【0117】
100…通信システム、110…アクセスポイント、120…端末
200…通信装置、210…制御部、220…電源部
230…通信部、231…無線制御部、232…データ処理部
233…変復調部、234…信号処理部、235…チャネル推定部
236…無線インターフェース部、237…アンプ部
238…メモリ部、240…アンテナ部