(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025006212
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】水電解装置の制御方法、ならびに、水電解システム、および、給湯システム
(51)【国際特許分類】
C25B 1/13 20060101AFI20250109BHJP
C25B 15/027 20210101ALI20250109BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20250109BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20250109BHJP
C25B 1/30 20060101ALI20250109BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250109BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20250109BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20250109BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20250109BHJP
F24H 1/14 20220101ALI20250109BHJP
F24H 15/124 20220101ALI20250109BHJP
F24H 15/219 20220101ALI20250109BHJP
F24H 15/30 20220101ALI20250109BHJP
F24H 15/31 20220101ALI20250109BHJP
F24H 15/36 20220101ALI20250109BHJP
【FI】
C25B1/13
C25B15/027
C25B15/02
C25B1/04
C25B1/30
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B15/021
C02F1/461 A
F24H1/14 B
F24H15/124
F24H15/219
F24H15/30
F24H15/31
F24H15/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106872
(22)【出願日】2023-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】弘中 睦己
(72)【発明者】
【氏名】中島 章孝
【テーマコード(参考)】
3L034
4D061
4K021
【Fターム(参考)】
3L034BA22
3L034BB02
4D061DA03
4D061DB07
4D061EA02
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB17
4D061EB19
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4D061EB39
4D061GA02
4D061GA09
4D061GC05
4D061GC12
4D061GC14
4K021AA01
4K021AA09
4K021AB15
4K021BA02
4K021BB05
4K021BC05
4K021CA06
4K021CA12
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC15
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】水電解装置によって生成される機能水の濃度を安定化する。
【解決手段】水電解装置50は、対向配置される板状の陰極52および陽極53と高分子電解膜55との間の領域61,62を電極と平行に通流する湯水を、陰極52および陽極53の間に印加される電圧Vzによって生じる通電電流Izによって電気分解することで機能水を生成する。通電電流Izは、流入口51に導入される湯水の検出温度に応じて、検出温度が高いほど大きい電流値に制御される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される板状の陽極および陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配設される電解質膜とを有するとともに、前記陽極および前記陰極と前記電解質膜との間に前記陽極および前記陰極と平行に形成される流路での湯水の電気分解によって機能水を生成するように構成された水電解装置の制御方法であって、
前記流路に導入される前記湯水の温度を検出するステップと、
検出するステップでの検出温度に応じて、前記水電解装置の通電時における前記陽極および前記陰極の間の通電電流を制御するステップとを備え、
前記通電電流は、前記検出温度が高いほど大きい電流値に制御される、水電解装置の制御方法。
【請求項2】
前記制御するステップは、
前記検出温度に基づいて、前記通電電流が大きい電流値になるように電流基準値を設定するステップと、
前記通電電流を前記電流基準値に制御するために前記陽極および前記陰極の間の印加電圧を設定するステップとを含む、請求項1記載の水電解装置の制御方法。
【請求項3】
前記制御するステップは、
前記印加電圧の設定値を上限電圧と比較して、前記設定値が前記上限電圧よりも高いときに前記上限電圧を前記陽極および前記陰極の間に印加するステップをさらに含む、請求項2記載の水電解装置の制御方法。
【請求項4】
前記上限電圧は、前記検出温度が高いほど大きい電圧値に設定される、請求項3記載の水電解装置の制御方法。
【請求項5】
対向して配置される板状の陽極および陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配設される電解質膜とを有するとともに、前記陽極および前記陰極と前記電解質膜との間に前記陽極および前記陰極と平行に形成される流路での湯水の電気分解によって機能水を生成するように構成された水電解装置と、
前記水電解装置の通電時における前記陽極および前記陰極の間の通電電流を制御するための制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記流路に導入される湯水の検出温度に基づいて、前記検出温度が高いほど前記通電電流が大きい電流値になるように前記通電電流を制御する、水電解システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記陽極および前記陰極の間に可変の出力電圧を印加するように構成された直流電源と、
前記直流電源の前記出力電圧を制御するコントローラとを含み、
前記コントローラは、前記流路に導入される前記湯水の検出温度に基づいて、前記検出温度が高いほど大きい電流値となるように電流基準値を設定するとともに、前記通電電流を設定された前記電流基準値に制御するために前記出力電圧を設定する、請求項5記載の水電解システム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記出力電圧の設定値を上限電圧と比較して、前記設定値が前記上限電圧よりも高いときに前記出力電圧を前記上限電圧に設定する、請求項6記載の水電解システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記検出温度に応じて前記上限電圧を可変に設定し、
前記上限電圧は、前記検出温度が高いほど大きい電圧値に設定される、請求項7記載の水電解システム。
【請求項9】
入水を加熱して出湯経路へ出力する加熱部および前記加熱部による加熱のオンオフを制御する制御部を有する給湯回路と、
請求項5~8のいずれか1項に記載の水電解システムと、
前記出湯経路と前記水電解装置の前記流路の流入口との間に接続された開閉弁とを備え、
前記給湯回路は、
前記制御部は、前記水電解システムによって前記機能水を生成する運転時において、前記開閉弁を開放するとともに、加熱を停止するように前記加熱部を制御し、
前記水電解システムにおいて、前記制御装置は、前記出湯経路から前記水電解装置へ導入される前記湯水の検出温度に基づいて前記通電電流を制御する、給湯システム。
【請求項10】
前記給湯回路は、
前記出湯経路に設けられる第1水温センサと、
前記加熱部の入力側に設けられた第2水温センサとをさらに有し、
前記水電解システムにおいて、前記制御装置は、前記第1水温センサおよび前記第2水温センサの検出温度のうちの最低温度に従って、前記通電電流の制御に用いられる前記検出温度を決定する、請求項9記載の給湯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解装置の制御方法、ならびに、水電解システム、および、給湯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解によって除菌効果を有するオゾン水等の機能水を発生して、洗浄等に利用することが行われている。例えば、特許第7010529号公報(特許文献1)には、小型の装置ながら大容量の機能水を生成することが可能な水電解装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水電解装置は流入した湯水を電気分解して、電解水としてオゾン水等の機能水を得るように構成される。このため、電気分解の条件パラメータが不適切であると、オゾン水中のオゾン濃度に代表される、機能水中の除菌効果を有する物質の濃度(以下、単に、機能水の濃度とも称する)を安定化できないことが懸念される。
【0005】
これにより、機能水の濃度が目標値よりも低下すると想定する除菌効果が得られないことが懸念される。反対に、機能水の濃度が目標値よりも上昇すると、機能水を配管洗浄に利用するケース等において、機能水の供給先となる部材の腐食リスクが高まることが懸念される。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、水電解装置によって生成される機能水の濃度を安定化することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面では、水電解装置の制御方法が提供される。水電解装置は、対向して配置される板状の陽極および陰極と、陽極および陰極の間に配設される電解質膜とを有するとともに陽極および陰極と電解質膜との間に陽極および陰極と平行に形成される流路での湯水の電気分解によって機能水を生成するように構成される。制御方法は、流路に導入される湯水の温度を検出するステップと、検出するステップでの検出温度に応じて、水電解装置の通電時における陽極および陰極の間の通電電流を制御するステップとを備える。通電電流は、検出温度が高いほど大きい電流値に制御される。
【0008】
本発明の他のある局面では、水電解システムが提供される。水電解システムは、水電解装置と制御装置とを備える。水電解装置は、対向して配置される板状の陽極および陰極と、陽極および陰極の間に配設される電解質膜とを有するとともに、陽極および陰極と電解質膜との間に陽極および陰極と平行に形成される流路での湯水の電気分解によって機能水を生成するように構成される。制御装置は、水電解装置の通電時における陽極および陰極の間の通電電流を制御するように構成される。制御装置は、流路に導入される湯水の検出温度に基づいて、検出温度が高いほど通電電流が大きい電流値になるように通電電流を制御する。
【0009】
本発明の更に他のある局面では、給湯システムが提供される。給湯システムは、給湯回路と、上記水電解システムと、開閉弁とを備える。給湯回路は、入水を加熱して出湯経路へ出力する加熱部と、加熱部による加熱のオンオフを制御する制御部とを有する。開閉弁は、出湯経路と水電解装置の流路の流入口との間に接続される。給湯回路は、出湯経路に設けられる第1水温センサと、加熱部の入力側に設けられた第2水温センサとをさらに有する。給湯回路の制御部は、水電解システムによって機能水を生成する運転時において、開閉弁を開放するとともに、加熱を停止するように加熱部を制御する。水電解システムにおいて、制御装置は、出湯経路から水電解装置へ導入される湯水の検出温度に基づいて通電電流を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の目的は、電気分解される湯水の温度に応じて電気分解に用いられる電流を制御することで、水電解装置によって生成される機能水の濃度を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る水電解装置を用いた機能水生成システムの概略構成を説明するブロック図である。
【
図2】
図1に示された水電解ユニットの構成の模式図である。
【
図3】水電解装置の入水温とオゾン濃度との関係を特性を示す概念図である。
【
図4】水電解装置を定電流運転したときのオゾン濃度の挙動を示す概念図である。
【
図5】本実施の形態に係る水電解装置の運転制御処理を説明するフローチャートである。
【
図6】水電解装置の電流基準値の設定を説明する概念図である。
【
図7】
図5の制御処理によって水電解装置を運転したときのオゾン濃度の挙動を示す概念図である。
【
図8】給湯システムによって機能水生成システムを構成したときの概略構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下では、図中の同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る水電解システムを備えた機能水生成システム100aの概略構成を説明するブロック図である。
【0014】
図1に示されるように、機能水生成システム100aは、電気分解される湯水の供給回路10と、温度センサ15と、開閉弁20と、流量センサ30と、水電解システム40とを備える。
【0015】
供給回路10は、水電解装置50へ導入されて電気分解の対象となる湯水を供給する。温度センサ15は、水電解装置50へ導入される湯水の温度(以下、入水温Twとも称する)を検出する。
【0016】
温度センサ15は、例えば、供給回路10から水電解装置50へ供給される湯水の出力経路に配置される。なお、温度センサ15は、水電解装置50へ流入する湯水の温度を測定可能であれば任意の場所に配置できるが、
図1のように供給回路10に内蔵されるように配置することで、当該供給回路10に配置された温度センサを流用して、後述する水電解装置50の運転制御のために、新たな温度センサを配置することが不要となる。
【0017】
開閉弁20は、供給回路10と、水電解装置50の入力側との間に配置される。例えば、開閉弁20の開閉は、機能水生成システム100aのコントローラ(図示せず)によって、水電解装置50の運転オンオフと連動して制御される。
【0018】
流量センサ30は、水電解装置50の流入する湯水の流量を検出する。流量センサ30は、例えば、羽根車式の流量計によって構成されて、単位時間当たりの流量(例えば、リットル/分)を検出する。
【0019】
水電解システム40は、水電解装置50と、電源基板70と、コントローラ80とを有する。コントローラ80は、上位コントローラ(例えば、機能水生成システム100aのコントローラ(図示せず))からの指令に従って、電源基板70による水電解装置50の通電を制御する。電源基板70は、コントローラ80からの指令に従って、水電解装置50に電気分解のための電圧および電流を供給する。
【0020】
水電解装置50は、通電オン時には、電源基板70から供給された電圧および電流によって、供給回路10から導入された湯水を電気分解して、除菌効果を有する物質を含む機能水を流出させる。以下、本実施の形態では、水電解装置50によって、機能水としてオゾン水が生成される際のオゾン濃度の制御を、代表例として説明する。
【0021】
水電解装置50には、通流量を調整するための流量調整機構60が設けられてもよい。流量調整機構60は、例えば、一定の上限流量以上の通流を制限する定流量弁によって構成することができる。あるいは、上限流量を可変調整できるように、サーボ弁等を流量調整機構60として配置することも可能である。水電解装置50の電気分解能力に対してオゾン濃度を確保可能な流量(水電解装置50の通流量)には限界があるため、流量調整機構60の配置により、オゾン濃度の確保を確実化することができる。
【0022】
図2には、
図1に示された水電解装置50の構成の模式図が示される。例えば、水電解装置50には、特許文献1に記載された各態様の水電解装置を適用することができる。
【0023】
図2に示されるように、水電解装置50は、流入口51と、陰極52および陽極53と、流出口54と、高分子電解質膜55と、ダイヤモンド電極56と、陰極側メッシュ電極57と、陽極側メッシュ電極58とを有する。陰極52および陽極53は、例えば、板状に形成される。
【0024】
流入口51に入力された湯水は、陰極52および陽極53の電極面に沿った方向(電極と平行な方向)に流路を形成するように導入される。例えば、特許文献1に記載されるように、当該通流は、円筒構造の外周側から内周側へ向かう方向に発生させることができる。
【0025】
高分子電解質膜55は、ナフィオン(登録商標)等によって構成されて、陰極52および陽極53の間に配置される。ダイヤモンド電極56は、高分子電解質膜55と一体的に触媒電極として設けられる。なお、高分子電解質膜55には、種々の固体電解質膜を任意に用いることができる。
【0026】
陽極側メッシュ電極58は、高分子電解質膜55およびダイヤモンド電極56と、陽極53の間の陽極側電界領域61に配置される。陽極側メッシュ電極58は、その一端側(
図2では下面)の面が陽極53と接触し、他端側の面(
図2では上面)がダイヤモンド電極56(高分子電解質膜55)と接触するように配置される。
【0027】
陰極側メッシュ電極57は、高分子電解質膜55およびダイヤモンド電極56と、陰極52の間の陰極側電界領域62に形成される。陰極側メッシュ電極57は、その一端側(
図2では上面)の面が陰極52と接触し、他端側の面(
図2では下面)が高分子電解質膜55と接触するように配置される。なお、陰極側メッシュ電極57および陽極側メッシュ電極58の各々は、2以上のメッシュ電極が、電極厚み方向に互いに接触するように構成されてもよい。
【0028】
陰極側メッシュ電極57および陽極側メッシュ電極58の材料は、特許文献1に記載されるように、発生する機能水の種類に応じて選定することができる。
【0029】
陰極52および陽極53の間には、電源基板70上の直流電源71の出力電圧Vzが印加される。直流電源71は、出力電圧Vzを可変制御可能であり、例えば、任意の回路構成のスイッチングレギュレータによって構成される。
【0030】
陰極52および陽極53の電位差によって通電電流Izが陰極52および陽極53の間に生じることにより、陰極52および陽極53の間の陽極側電界領域61および陰極側電界領域62に通流する湯水が電気分解される。電源基板70には、通電電流Izを検出するための電流センサ72が配置される。
【0031】
通電に伴い、陽極側電界領域61では、水素イオン(H+)の脱落を伴う水電解により発生したオゾン(O3)、酸素等のガスおよび過酸化水素(HO)が、通流する湯水に溶解されることで陽極側電解水が生成される。陽極側メッシュ電極58でオゾン、酸素等のガスおよび過酸化水素が微泡化されることにより、陽極側電解水が生成される。
【0032】
陰極側電界領域62では、高分子電解質膜55を通過した水素イオンによって水素ガスが発生して、通流する湯水に溶解されることで陰極側電解水が生成される。陰極側メッシュ電極57で水素ガスが微泡化されることにより、陰極側電解水が生成される。
【0033】
陽極側電界領域61で生成された陽極側電解水と、陰極側電界領域62で生成された陰極側電解水とは、流出口54へ導かれる。流出口54からは、両者が混合された機能水(オゾン水)が、機能水の供給先150(
図1)へ向けて出力される。
【0034】
水電解によって発生されるオゾン量は、通電電流Izに応じて増減する。したがって、通電電流Izを調整することで、機能水(オゾン水)の濃度(オゾン濃度)を調整することができる。通電電流Izは、電源基板70によって、直流電源71の出力電圧Vzを調整することによって制御される。
【0035】
以下では、発明者らによって得られた水電解装置50で生成されたオゾン水のオゾン濃度に係る特性を説明する。
【0036】
図3には、水電解装置50の入水温Twとオゾン濃度との関係を示す概念図である。即ち、
図3の横軸は入水温Twを示す一方で、縦軸はオゾン濃度を示す。
【0037】
図3は、水電解装置50が、通電電流Izを一定にするように直流電源71の出力電圧Vzをフィードバック調整する定電流運転で動作する下で、入水温Twに対するオゾン濃度を測定した実機試験の結果を概略的に示したものである。
図3では、当該定電流運転を異なる通電電流Izで実行することで、複数の通電電流Izの水準毎に、入水温Twに対するオゾン濃度の変化が求められている。
【0038】
図3に示されるように、オゾン濃度は、通電電流Izが同一の下では、入水温Twが低いほどオゾン濃度が高くなる、温度依存性を有する。また、同一の入水温Twの下では、通電電流Izが大きいほど、オゾン濃度は高くなる。
【0039】
水電解装置50に水道水が導入されるケースを想定すると、入水温Twは季節によって変動し、また、供給回路10の配置場所によっても変動する可能性がある。このため、水電解装置50の通電電流Izの設定を固定すると、オゾン濃度が季節毎または配置場所に依存して変化することで、想定したオゾン濃度が得られなくなってしまい、この結果、除菌効果の不足、または、供給先部材の腐食リスク増大等の問題が発生することが懸念される。
【0040】
図4には、水電解装置50を定電流運転したときのオゾン濃度の過渡的な挙動が示される。
図4の横軸は時間軸であり、縦軸には、通電電流Izを一定とするために調整された出力電圧Vz(実線でプロット)と、オゾン濃度(点線でプロット)とが示される。
図4では、通電開始直後からのオゾン濃度の過渡的な挙動が示される。
【0041】
図4に示されるように、時刻t0から通電を開始すると、通電開始後の初期期間には、所定の通電電流Izを得るために必要な出力電圧Vzは、出力電圧Vzが安定する定常状態(例えば、時刻tx以降)よりも高くなる。オゾン濃度についても、出力電圧Vzの挙動と同様に、初期期間(t0~tx)では定常状態(時刻tx)よりも高くなる。
【0042】
水電解装置50では、
図2に概略的に示すように、水素イオンが陽極側電界領域61から高分子電解質膜55を通過して、陰極側電界領域62に達することで通電電流Izが生じる。したがって、通電開始後に、高分子電解質膜55に水素イオンが充填されるのに応じて、通電電流Izが流れる陰極52および陽極53の間の電気抵抗が等価的に低下する。
【0043】
言い換えると、通電開始直後(時刻t0~tx)での、高分子電解質膜55に水素イオンが充填されるまでの状態では、陰極52および陽極53の間の電気抵抗が高い状態が形成されるため、同じ通電電流Izを生じさせるために必要な出力電圧Vzが、高分子電解質膜55に水素イオンが充填された定常状態(時刻tx)以降も大きくなっていると考えられる。
【0044】
このため、通電開始後に、単純な定電流運転のみで水電解装置50を動作させると、一時的に、オゾン濃度が想定よりも高くなることが懸念される。
【0045】
このように、
図3および
図4に示される、発明者らが実機試験によって得た特性に基づいて、本実施の形態では、水電解装置50の運転が以下に説明するように制御される。
【0046】
図5は、本実施の形態に係る水電解装置の運転制御処理を説明するフローチャートである。以下では、
図5に示される制御処理は、コントローラ80(
図2)によって主に実行されるものとして説明するが、以下で説明するコントローラ80による処理の一部が、電源基板70で実行されてもよい。
【0047】
図5を参照して、コントローラ80は、ステップ(以下、単に「S」と表記する)110により、上位コントローラから水電解装置50の運転開始指令が入力されたか否かを判断し、運転開始指令が入力されると(S110のYES判定時)、S120以降の処理を開始する。運転開始指令が入力されるまでは、S110がNO判定とされて、S120以降の処理は開始されない。
【0048】
この際に、上位コントローラからは、運転開始指令とともに、水電解装置50によってオゾン水を発生する運転時間Tzが併せて入力されてもよい。あるいは、上位コントローラからは、運転開始指令と運転終了指令とが別々に入力されてもよい。
【0049】
運転開始指令の発生後に、上位コントローラは、開閉弁20を開放する。コントローラ80は、上位コントローラからの信号によって開閉弁20の開放を検知すると、S125により、流量Qおよび入水温Twが、予め定められた運転可能範囲内であるか否かを確認する初期設定処理を実行する。当該初期設定処理では、取得された入水温Twに従って、通電電流Izの目標値である電流基準値Irefの初期値が設定される。
【0050】
図6は、水電解装置の電流基準値Irefの設定を説明する概念図である。
【0051】
図6に示されるように、電流基準値Irefは、入水温Twに応じて設定される。
図3で示した様に、入水温Twが低いほど、また、通電電流Izが大きいほど、オゾン濃度は高くなるので、所望のオゾン濃度を得るための、各入水温Twでの通電電流Izを求めることで、入水温Twに対応する電流基準値Irefを定めることができる。
図3から理解されるように、入水温Twが高いほど、電流基準値Irefは大きい電流値に設定される。
【0052】
図6に例示されるように、電流基準値Irefは、入水温Twを変数とする一次関数によって定めることが可能である。ただし、電流基準値Irefは、入水温Twの変化に対する任意の関数式、または、テーブル値およびその補間によって設定することも可能である。
【0053】
再び
図5を参照して、コントローラ80は、S130により、電源基板70に対して通電オンを指示する。電源基板70では、S125で設定された電流基準値Irefに対応して、直流電源71からの出力電圧Vzの初期値が定められる。
【0054】
通電が開始されると、コントローラ80は、S140により、入水温Twを検出するとともに、S150により、検出された入水温Tw(S130)に応じて電流基準値Irefを設定する処理を実行する。電源基板70では、電流センサ72で検出される通電電流Izを、コントローラ80で設定された電流基準値Irefに制御するように、直流電源71の出力電圧Vzを設定する電流フィードバック制御(S160)が実行される。
【0055】
電源基板70では、電流フィードバック制御によって設定される出力電圧Vzが、予め設定された上限電圧Vmaxを超えていないかが判定される(S170)。出力電圧Vzが上限電圧Vmaxより低いときには(S170のYES判定時)、S160で設定された出力電圧Vzがそのまま設定されて、水電解装置50の陰極52および陽極53の間に印加される(S180)。即ち、Iz=Irefとするための定電流運転が行われる。
【0056】
これに対して、出力電圧Vzが上限電圧Vmax以上のときには(S170のNO判定時)、Vz=Vmaxに制限される(S190)。したがって、水電解装置50の陰極52および陽極53の間には上限電圧Vmaxが印加される。即ち、Vz>Vmaxのときには、Vz=Vmaxに維持される定電圧運転が実行されることになる。
【0057】
コントローラ80は、S200では、運転終了条件が成立しているか否かを判定する。S110において、運転時間Tzが入力されている場合には、通電開始(S120)からの経過時間がTzに達するとS200がYES判定とされて、S210により、電源基板70に対して通電オフが指示される。これにより、直流電源71の出力電圧Vz=0とされて、Iz=0となる。これにより、水電解装置50によるオゾン水の生成が停止される。
【0058】
運転終了条件が成立するまでは(S200のNO判定時)、通電が維持された下で、S140~S190の処理が繰り返されて、電源基板70によって定電流運転(S180)または定電圧運転(S190)が実行される。
【0059】
図7には、
図5に示された制御処理による水電解装置を運転したときのオゾン濃度の挙動が示される。
図7の横軸および縦軸は、
図4と同様であり、
図7においても、
図4と同様に、通電開始直後からのオゾン濃度の過渡的な挙動が示される。
【0060】
図7では、通電開始直後の陰極52および陽極53の間の電気抵抗が等価的に高い期間では、Vz=Vmaxに維持された定電圧運転が実行される(時刻t0~ty)。時刻ty以降では、定電流運転によって、入水温Twに基づいて設定された電流基準値Irefに通電電流Izを維持するように、出力電圧Vzが調整される。
【0061】
これに対して、
図4の波形は、
図5からS170,S180の処理を省略して、通電開始から定電流運転のみを実行したケースに相当する。上述の様に、
図4(定電流運転のみ)では、通電開始直後の期間では出力電圧Vzが上昇することで、オゾン濃度がオーバーシュートした後に、定常値に収束する。
【0062】
これに対して、
図7では、時刻t0~tyの間において、定電圧運転によって出力電圧Vzが上限電圧Vmax以下に抑制されることで、
図4での時刻t0~tx間のようなオゾン濃度のオーバーシュートが生じないことが理解される。また、時刻tx以降での定常状態でのオゾン濃度については、入水温Twに基づいて定電流制御での電流基準値Irefが設定されることで、所望の濃度とすることができる。
【0063】
このように本実施の形態に係る水電解装置の制御によれば、入水温Twに応じて電流基準値Irefを設定することで、異なる入水温Twに対してオゾン濃度を安定的に維持できる。あるいは、入水温Twが経時的に変化してもオゾン濃度を安定的に維持することができる。
【0064】
さらに、電流基準値Irefに従う定電流運転をベースに、出力電圧Vzが一定の上限電圧Vmaxを超えないように制限するための定電圧運転を組み合わせることで、特に、通電開始直後での陰極52および陽極53の間の電気抵抗が等価的に高い期間でのオゾン濃度の一時的な上昇を抑制することができる。これにより、過渡状態でのオゾン濃度についても安定化することができる。
【0065】
なお、定電圧運転での上限電圧Vmaxについても、入水温Twの検出値と連動して可変に設定することも可能である。具体的には、電流基準値Irefと同様に、入水温Twが高いほど、上限電圧Vmaxについて高くなるように設定することができる。このようにすると、定電圧運転中におけるオゾン濃度の入水温Twに対する依存性を抑制することによる、オゾン濃度の安定化がさらに可能となる。
【0066】
さらに、陰極52および陽極53の間に印加される電圧最大値を制限することで、陰極52でのミネラルの析出を抑制することで、水電解装置50の耐久性を高める効果も得ることができる。
【0067】
図8には、給湯システム100bによって機能水生成システムを構成したときの概略構成を説明するブロック図が示される。
【0068】
図8を参照して、給湯システム100bは、
図1の機能水生成システム100aにおいて、給湯器内の給湯回路11を供給回路10として用いることによって構成される。また、給湯システム100bでは、機能水の供給先150は、図示しない浴槽へ至る配管、図示しない浴室のミストシャワー、または、機能水による洗浄対象とされる、洗面所、キッチン、トイレ等の住宅設備とすることができる。
【0069】
給湯回路11は、ガス等の燃料を燃焼するバーナ12と、熱交換器13と、コントローラ14とを備える。熱交換器13は、バーナ12からの受熱によって、通流する湯水を加熱して、図示しない給湯栓等へ至る出湯経路19へ出力する。
【0070】
コントローラ14は、バーナ12の燃焼オンオフ、および、燃焼時の加熱量(例えば、燃料としてのガス流量等)を制御する。例えば、給湯回路11を含む給湯器の運転スイッチのオン時に、熱交換器13に最小作動流量(MOQ)を超える流量が生じると、コントローラ14は、バーナ12の燃焼をオンするとともに、出湯経路19に配置された温度センサ15による検出温度が給湯設定温度となるように、バーナ12による加熱量を制御する。給湯回路11には、一般的に、熱交換器13による加熱前の水温を検出するための温度センサ16が、出湯温度を検出するための上述の温度センサ15とともに配置される。
【0071】
開閉弁20は、出湯経路19から分岐された、水電解装置50へ湯水を供給する経路に設けられる。例えば、浴槽に対して給湯回路11からの湯水を供給するための注湯経路に、開閉弁20は設けられる。さらに、当該注湯経路には、水電解装置50を通過する経路P1と、水電解装置50をバイパスする経路P2とを選択するための三方弁120を設けることができる。
【0072】
このようにすると、機能水の供給先150が浴槽へ注湯するための配管である場合に、三方弁120が経路P1を選択することで、水電解装置50によって生成されたオゾン水(機能水)による配管洗浄運転を実行することができる。一方で、三方弁120が経路P2を選択することで、水電解装置50および流量調整機構60をバイパスした高流量の経路によって、浴槽に対してお湯張り等のための湯水を供給することができる。
【0073】
同様に、機能水の供給先150が、上述したミストシャワー、または、洗浄対象となる住宅設備である場合にも、三方弁120を配置して経路P1およびP2を切替可能とすると、機能水の使用/不使用をユーザが選択可能となることで、商品性の向上を図ることができる。
【0074】
コントローラ14は、上述した、水電解システム40のコントローラ80の上位コントローラとして動作することができる。例えば、浴槽に設けられた図示しない水位センサの検出値等に基づいて浴槽からの排水が検知されたときに、水電解装置50の運転による配管洗浄運転を実行するように、水電解システム40を動作させることができる。
【0075】
この場合には、開閉弁20の開放、および、三方弁120による経路P1の選択によって、給湯回路11(出湯経路19)から水電解装置50に湯水が供給される状態で、水電解装置50の通電をオンすることによって、水電解装置50によって生成されたオゾン水(機能水)を用いた配管洗浄が可能となる。この際に、
図8の給湯システム100bにおいても、出湯経路19の温度センサ15による検出温度を、水電解装置50への入水温Twとして用いることで、
図5~
図7で説明した水電解装置の制御を適用することができる。
【0076】
図3から理解されるように、入水温Twが低いほどオゾン濃度は高くなるので、当該配管洗浄運転において、給湯回路11ではバーナ12の燃焼はオフされる。即ち、給湯回路11への入水が、加熱されることなく水電解装置50へ供給される。したがって、水電解装置50での入水温Twは、出湯経路19の温度センサ15の他に、温度センサ16によっても検出することができる。すなわち、温度センサ15は「第1水温センサ」の一実施例に対応し、温度センサ16は「第2温度センサ」の一実施例に対応する。
【0077】
このため、給湯システム100bにおける水電解装置の制御では、温度センサ15および16の両方を用いて、入水温Twを検出することができる。したがって、例えば、温度センサ15および16のそれぞれの検出温度のうちの最小値(最低温度)を用いて、電流基準値Irefを設定することで、温度センサ16の検出温度が異常となったときにも、実際の入水温に対して通電電流Izが過大となることを回避できる。
【0078】
これにより、温度センサ16の検出温度のみを用いて電流基準値Irefを設定する場合と比較して、オゾン濃度を安定化すること、特に、温度センサ16の異常に起因したオゾン濃度の上昇を抑制することができる。
【0079】
なお、本実施の形態では、水電解装置50による湯水の電気分解によって、オゾン水が機能水として生成される例を説明したが、特許文献1にも記載されるように、陰極側メッシュ電極57および陽極側メッシュ電極58の材料を適宜変更することで、オゾン水以外にも、除菌効果を有する機能水を、水電解装置50によって生成することが可能である。この際にも、
図5で説明した、定電流運転および定電圧運転通電電流を組み合わせた出力電圧Vzの制御を適用して、安定的な濃度の機能水を生成することが可能である。
【0080】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
10 供給回路、11 給湯回路、12 バーナ、13 熱交換器、14,80 コントローラ、15,16 温度センサ、19 出湯経路、20 開閉弁、30 流量センサ、40 水電解システム、50 水電解装置、51 流入口、52 陰極、53 陽極、54 流出口、55 高分子電解質膜、56 ダイヤモンド電極、57 陰極側メッシュ電極、58 陽極側メッシュ電極、60 流量調整機構、61 陽極側電界領域、62 陰極側電界領域、70 電源基板、71 直流電源、72 電流センサ、100a 機能水生成システム、100b 給湯システム、120 三方弁、150 機能水供給先、Iref 電流基準値、Iz 通電電流、P1,P2 経路、Q 流量、Tw 入水温、Tz 運転時間、Vmax 上限電圧、Vz 出力電圧(直流電源)。